説明

半導体装置

【課題】本発明は、外部ノイズ等の過大電流に起因するHEMTの損傷、破壊若しくは発火を防止することができる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置1は、第1の半導体層31と、第2の半導体層32と、二次元キャリアガス層33と、ソース電極41と、ドレイン電極42と、ゲート電極5と、二次元キャリアガス層33上においてゲート電極5とドレイン電極42との間に配設された補助電極6と、を備え、二次元キャリアガス層33のゲート電極5とソース電極6との間のチャネル抵抗R1に比べて、二次元キャリアガス層33のゲート電極5と補助電極6との間のチャネル抵抗R2が高く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に高電子移動度トランジスタ(HEMT:high electron mobility transistor)を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガリウムナイトライド(GaN)系化合物半導体を用いたHEMTが知られている。HEMTは、低い抵抗値を有しかつ高い降伏電圧を有するので、例えば電力用途に使用されている。
【0003】
下記特許文献1には、非絶縁型DC(direct current)/DCコンバータの電力変換効率を向上することができ、電力変換効率の高効率化を実現することができる電源システム(同期整流回路)が開示されている。この電源システムにはハイサイドスイッチとロウサイドスイッチとの直列回路が直流電源端子と接地端子との間に配設されている。ハイサイドスイッチは横型構造を有するHEMTにより構成され、ロウサイドスイッチは縦型構造を有するパワーMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)により構成されている。直列回路の各々のスイッチ素子においてはドライバIC(integrated circuit)を用いて交互にオン及びオフの制御が行われ、この電源システムは入力電力を所定の直流電力に変換する。電源システムにおいては、ハイサイドスイッチにHEMTを使用することによって、スイッチング損失及び導通損失を減少することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−223016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1に開示された電源システムにおいては、以下の点について配慮がなされていなかった。電源システムにおいて、外来ノイズ等に起因し、直流電源端子や接地端子に供給される電源に揺れが発生した場合、又はドライバICに誤動作が発生した場合、2つのスイッチング素子が同時にオン状態になり、直流電源端子と接地端子との間に大電流(貫通電流)が流れる。また、負荷短絡時において、スイッチング素子に大電流が流れる。大電流が流れると、スイッチング素子、特にハイサイドスイッチに用いられるHEMTに損傷、破壊若しくは発火が生じる恐れがある。すなわち、電源システムにおいては、過電流破壊に対して電流制限に関する手法が開示されていない。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものである。従って、本発明は、外部ノイズ等の過大電流に起因するスイッチング素子の損傷、破壊若しくは発火を防止することができる半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の実施例に係る特徴は、半導体装置において、第1の半導体層と、第1の半導体層上にヘテロ接合面を介在し配設された第2の半導体層と、第1の半導体層のヘテロ接合面近傍に配設された二次元キャリアガス層と、二次元キャリアガス層の一端に電気的に接続されたソース電極と、二次元キャリアガス層の他端に電気的に接続されたドレイン電極と、二次元キャリアガス層上においてソース電極とドレイン電極との間に配設されたゲート電極と、二次元キャリアガス層上においてゲート電極とドレイン電極との間に配設された補助電極と、を備え、二次元キャリアガス層のゲート電極とソース電極との間のチャネル抵抗に比べて、二次元キャリアガス層のゲート電極と補助電極との間のチャネル抵抗が高く設定されていることである。
【0008】
実施例の特徴に係る半導体装置において、補助電極には固定電位が供給され、補助電極はその直下において二次元キャリアガス層にチャネルが生成されるノーマリオン構造を有することが好ましい。
【0009】
実施例の特徴に係る半導体装置において、補助電極はソース電極に電気的に接続されていることが好ましい。
【0010】
実施例の特徴に係る半導体装置において、二次元キャリアガス層のゲート電極とソース電極との間のチャネル長に対して、二次元キャリアガス層のゲート電極と補助電極との間のチャネル長が長く設定されていることが好ましい。
【0011】
実施例の特徴に係る半導体装置において、二次元キャリアガス層のゲート電極とソース電極との間のシート抵抗に比べて、二次元キャリアガス層のゲート電極と補助電極との間のシート抵抗が高く設定されていることが好ましい。
【0012】
実施例の特徴に係る半導体装置において、第2の半導体層のゲート電極とドレイン電極との間に表面からヘテロ接合面に向かって掘り下げられたリセスを備え、補助電極はリセス内に配設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部ノイズ等の過大電流に起因するスイッチング素子の損傷、破壊若しくは発火を防止することができる半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1に係る半導体装置のHEMTの構成を示す要部概略断面図である。
【図2】図1に示すHEMTの要部概略平面図である。
【図3】実施例1に係る半導体装置のHEMTの等価回路図である。
【図4】図1に示すHEMTの電流−電圧特性図である。
【図5】実施例1の変形例1に係るHEMTの要部概略平面図である。
【図6】図5に示すHEMTの要部概略断面図である。
【図7】実施例1の変形例2に係るHEMTの要部概略断面図である。
【図8】本発明の実施例2に係る半導体装置のHEMTの構成を示す要部概略断面図である。
【図9】実施例2に係るHEMTの製造方法を説明する一工程断面図である。
【図10】本発明の実施例3に係る半導体装置のHEMTの構成を示す要部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0016】
また、以下に示す実施例はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例1は、例えば電源回路システムに組み込まれる、HEMTを備えた半導体装置に本発明を適用した例を説明するものである。
【0018】
[半導体装置のHEMTの等価回路図]
図3に示すように、実施例1に係る半導体装置1はHEMTを備えている。このHEMTは、チャネル領域の一端に電気的に接続された第1の主電極であるソース電極S1と、チャネル領域の他端に電気的に接続された第2の主電極であるドレイン電極D1と、ソース電極S1とドレイン電極D1との間においてチャネル領域上に配設されたゲート電極G1と、このゲート電極G1とドレイン電極D1との間においてチャネル領域上に配設された補助電極G2とを備え構成されている。
【0019】
このHEMTは、横型構造を有するスイッチング素子として、回路構成は図示しないが、例えば電源回路システムのハイサイドスイッチとして組み込まれる。電源回路システムのロウサイドスイッチには、例えば縦型構造を有するスイッチング素子としてパワーMISFET(metal insulator semiconductor field effect transistor)10が使用される。パワーMISFET10は、HEMTのソース電極S1と共用される(電気的に接続された)ドレイン電極D2と、ソース電極S2と、ドレイン電極D2とソース電極S2との間に配設されたゲート電極G3とを備え構成されている。つまり、HEMT(半導体装置1)とパワーMISFET10とは直列回路を構築する。ここで、MISFETとはMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)を含む意味において使用されている。また、実施例1において、パワーMISFET10は、半導体装置1に対して、別のパッケージングされた半導体装置として構成されているが、半導体装置1と同一のパッケージング内に備えてもよい。
【0020】
前述の電源回路システムに組み込まれるハイサイドスイッチとして使用される場合、HEMTのドレイン電極D1は、直流電源のハイレベル(固定電源)に接続される。ゲート電極G1は、例えば同期整流回路のドライバICに接続され、このドライバICからの制御信号に従ってHEMTのオン、オフ制御を行う。
【0021】
一方、ロウサイドスイッチとして使用されるパワーMISFET10のソース電極S2は、直流電源のロウレベル(固定電源、例えば接地電位)に接続される。ゲート電極G3は、例えば同期整流回路のドライバICに接続され、このドライバICからの制御信号に従ってHEMTのオン、オフ制御とは逆にパワーMISFET10のオフ、オン制御を行う。
【0022】
HEMTのソース電極S1及びパワーMISFET10のドレイン電極D2は、図示しない配線による寄生インダクタ、出力コンデンサ等を介して電源回路システムの次段回路に接続されている。このソース電極S1及びドレイン電極D2は、ドライバICからの制御信号(入力電圧)に対して、所定レベルに変換された直流電圧を出力する。
【0023】
実施例1に係るHEMT(半導体装置1)において、ゲート電極G1とドレイン電極D1との間に配設された補助電極G2には固定電位が接続されている。ここでは、補助電極G2はソース電極S1に電気的に接続され、この補助電極G2にはソース電極S1と同一の固定電位が供給されるようになっている。補助電極G2は、HEMTのゲート電極G1のドレイン電極D1側の端部における電界緩和を主目的とするのではなく、負荷短絡等のアブノーマル時に生じた過大なドレイン電流によって、例えば直列回路のHEMT及びパワーMISFET10の同時オン動作によって誘発される素子の損傷、破壊、発火等を防止する機能を主目的として備えている。特に、パワーMISFET10に比べて、HEMTは過大なドレイン電流によって損傷や破壊を生じやすいので、補助電極G2は少なくともHEMTに配設される。
【0024】
図3中、HEMTのソース電極S1とゲート電極G1との間にはチャネル抵抗R1が存在する。ゲート電極G1と補助電極G2との間にはチャネル抵抗R2が存在する。更に、補助電極G2とドレイン電極D1との間にはチャネル抵抗R3が存在する。
【0025】
[半導体装置のデバイス構造]
図1及び図2に示すように、前述の実施例1に係る半導体装置1に搭載されたHEMTは、基板2と、この基板2上の第1の半導体層31と、第1の半導体層31上にヘテロ接合面を介在し配設された第2の半導体層32と、第1の半導体層32のヘテロ接合面近傍に配設された二次元キャリアガス層33と、二次元キャリアガス層33の一端に電気的に接続されたソース電極(S1)41と、二次元キャリアガス層33の他端に電気的に接続されたドレイン電極(D1)42と、二次元キャリアガス層33上においてソース電極41とドレイン電極42との間に配設されたゲート電極(G1)5と、二次元キャリアガス層33上においてゲート電極5とドレイン電極42との間に配設された補助電極(G2)6と、を備え、二次元キャリアガス層33のゲート電極5とソース電極41との間のチャネル抵抗R1に比べて、二次元キャリアガス層33のゲート電極5と補助電極6との間のチャネル抵抗R2が高く設定されている。このHEMTは、実施例1において、nチャネル導電型を有し、ノーマリオフ構造により構成されている。
【0026】
基板2には実施例1においてシリコン単結晶半導体基板(Si基板)が使用される。なお、基板2はこの例に限定されるものではなく、例えば基板2にはサファイア基板、炭化シリコン基板(SiC基板)、GaN基板等を使用することができる。
【0027】
また、基板2と第1の半導体層31との間にバッファ層3を配設することができる。バッファ層は基板2と第1の半導体層31との格子不整合を緩和する機能を有する。バッファ層はIII族窒化物系半導体材料により構成されている。代表的なIII族窒化物系半導体はAlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)により表される。この構造に限定されるものではないが、実施例1において、バッファ層にはGaN層とAlN層とを交互に複数層積層した複合膜を使用することができる。
【0028】
第1の半導体層31及び第2の半導体層32は実際にHEMTを搭載する半導体機能層3を構築する。半導体機能層4の第1の半導体層31は、窒化物系半導体層、具体的にはGaN層により構成されている。この第1の半導体層31はキャリア走行層として機能する。実施例1に係るHEMTにおいて、キャリアは電子であり、第1の半導体層31は電子走行層として機能する。第2の半導体層32は、窒化物系半導体層、具体的には第1の半導体層31の格子定数よりも小さい格子定数を有し、かつ第1の半導体層31のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有するAlGaN層により構成されている。第2の半導体層32は、キャリア供給層として機能し、実施例1においては電子供給層として機能する。
【0029】
二次元キャリアガス層33は具体的には二次元電子ガス(2DEG:two-dimensional electron gas)層である。二次元キャリアガス層33は、図1中、左側から右側にX方向に向かって延伸されている。二次元キャリアガス層33は、X方向に向かって又はそれとは逆方向に向かって電流(又は電子若しくは正孔)が流れるチャネル領域として機能する。ヘテロ接合面と平行な平面において、二次元キャリアガス層33の延伸方向(X方向)と交差する方向は、Y方向である。
【0030】
ここで、必ずしもこの数値に限定されるものではないが、実施例1において、半導体装置1に使用される第1の半導体層31の膜厚は例えば0.5μm−10.0μmの範囲内に設定され、ここではGaN層を使用しているので、このGaN層の膜厚は例えば5.0μm−6.0μmに設定される。第2の半導体層32のAlGaN層の膜厚は、例えば5.0nm−100.0nmの範囲内において設定され、ここでは例えば30nmに設定されている。
【0031】
ソース電極41は、二次元キャリアガス層33の一端にオーミック接触によって電気的に接続されている。ソース電極41は、ここでは、第2の半導体層32の表面からヘテロ接合面を通過し第1の半導体層31の二次元キャリアガス層33に少なくとも達するまで掘り下げられたトレンチ内に一部を埋設して配設されている。このソース電極41のオーミック接触をなす電極材料には、例えば10nm−50nmの膜厚を有するTi層と、このTi層上に積層され例えば100nm−1000nmの膜厚を有するAl層との積層膜を使用することができる。図1に示すように、ソース電極41の断面形状はX方向の幅寸法に対してZ方向の厚さ寸法にあまり差がない方形状により構成され、図2に示すように、ソース電極41の平面形状は幅寸法に対してY方向の長さが長いストライプ形状により構成されている。なお、ソース電極41は、トレンチ内に埋設される構造に限定されるものではなく、第2の半導体層32の表面上において二次元キャリアガス層33に電気的に接続されるように配設してもよい。
【0032】
ドレイン電極42は、二次元キャリアガス層33の他端にオーミック接触によって電気的に接続されている。ソース電極41と同様に、ドレイン電極42は、第2の半導体層32の表面からヘテロ接合面を通過し第1の半導体層31の二次元キャリアガス層33に少なくとも達するまで掘り下げられたトレンチ内に一部を埋設して配設されている。このドレイン電極42の電極材料はここではソース電極41の電極材料と同一である。また、ドレイン電極42の断面形状並びに平面形状はここではソース電極41の断面形状並びに平面形状と同一である。同様に、ドレイン電極42は、トレンチ内に埋設される構造に限定されるものではなく、第2の半導体層32の表面上において二次元キャリアガス層33に電気的に接続されるように配設してもよい。
【0033】
ゲート電極5は、ソース電極41とドレイン電極42との間において、二次元キャリアガス層33上であって、第2の半導体層32の表面にショットキー接触をなして配設されている。この構造に必ずしも限定されるものではないが、実施例1において、ゲート電極5は、第2の半導体層32の表面からその深さ方向に向かって第2の半導体層32を掘り下げたリセス(窪み又は凹部)321の底面上に配設されている。第2の半導体層32の厚さが例えば30nmに設定される場合、リセス321の深さは例えば23nm−27nm、好ましくは25nmに設定されている。
【0034】
ゲート電極5は、ショットキー障壁を生成可能な電極材料、ここではショットキー電極層51とこのショットキー電極層51上に積層された金属層52との複合膜により構成されている。ショットキー電極層51には、例えばp型半導体層、NiO等の金属酸化物層、Co層、Fe層、MgがドープされたGa層若しくはMgがドープされたAlGaN層のいずれかを使用することができる。金属層52には例えばAu層を使用することができる。このような構造並びに材料を用いて構成されるHEMTはノーマリオフ特性を有し、このHEMTの閾値電圧Vthは例えば1Vに設定される。
【0035】
補助電極6は、ゲート電極5とドレイン電極42との間において、二次元キャリアガス層33上であって、第2の半導体層32の表面にショットキー接触をなして配設されている。この補助電極6は、実施例1において、ゲート電極5と同様に、ショットキー障壁を生成可能な電極材料、ここではショットキー電極層61とこのショットキー電極層61上に積層された金属層62との複合膜により構成されている。ショットキー電極層61には、ゲート電極5のショットキー電極層61と同様の材料が使用されている。また、金属層62には、ゲート電極5の金属層51と同様の材料が使用されている。補助電極6には前述のようにソース電極41に電気的に接続され固定電位が供給されており、補助電極6は、その直下に二次元キャリアガス層33が生成されるノーマリオン特性を有する。
【0036】
更に、実施例1に係るHEMTは、図1に示すように、ゲート電極5と補助電極6との間において、第2の半導体層32の表面からその深さ方向に向かって第2の半導体層32を掘り下げたリセス(窪み又は凹部)322を備えている。また、リセス322は、図2に示すように、ソース電極41、ドレイン電極42、ゲート電極5、補助電極6のそれぞれの平面形状と同様に、X方向の幅寸法に対してY方向の長さ寸法が長いストライプ形状を有し、二次元キャリアガス層33の電流が流れる方向に対して交差(ここでは直交)する方向の全域に渡って、二次元キャリアガス層33を横切るように配設されている。リセス322は、第2の半導体層32の厚さを部分的に薄くすることによって、第2の半導体層32から二次元キャリアガス層33へのキャリアの供給量を減少し、二次元キャリアガス層33のリセス322直下の抵抗値すなわちチャネル抵抗R2を高くする機能を有する。
【0037】
ゲート電極5と補助電極6との間において、二次元キャリアガス層33のチャネル抵抗R2は二次元キャリアガス層33のチャネル長L2に比例し、チャネル長L2が長くなればチャネル抵抗R2が高くなる。二次元キャリアガス層33の幅(チャネル幅)がHEMTにおいて一定であれば(断面積が一定であれば)、二次元キャリアガス層33のチャネル長L2が二次元キャリアガス層33のソース電極41とゲート電極5との間のチャネル長L1に比べて長ければ、チャネル抵抗R2は二次元キャリアガス層33のソース電極41とゲート電極5との間のチャネル抵抗R1に比べて高くなる。実施例1に係るHEMTは、ゲート電極5と補助電極6との間にリセス322を配設することによって、二次元キャリアガス層33のチャネル長L2におけるシート抵抗をチャネル長L1におけるシート抵抗に対して高く設定することで、特にX方向の素子面積を減少しつつ、チャネル抵抗R2を高く設定している。必ずしもこの数値に限定されるものではないが、実施例1において、チャネル長L1は例えば2.0μm−2.1μmに設定され、チャネル長L2は2.4μm−2.6μmに設定される。
【0038】
半導体装置1の製造プロセスはここでは特に説明しないが、実施例1において、リセス322は、ゲート電極5を配設するリセス331を形成する工程と同一製造工程により形成される。つまり、リセス321を形成する工程と同一製造工程によりリセス322を形成すれば、製造用マスクのパターンは変更になるものの、リセス322を形成するための工程を特に設ける必要がない(リセス321を形成する工程で代用できる)ので、結果的に製造工程数を削減することができる。
【0039】
[半導体装置の動作メカニズム]
前述の図1乃至図3に示す半導体装置1は以下の動作メカニズムを備えている。負荷短絡時等において、HEMTのソース電極(S1)41とドレイン電極(D1)42との間に過電流が流れる。HEMTにおいては、二次元キャリアガス層33のチャネル抵抗R2がチャネル長L2の増加又はリセス322の配設によって高く設定されているので、二次元キャリアガス層33の補助電極(G2)6直下の電位が上昇する。この補助電極6直下の電位が補助電極6部分の閾値電圧(Vthz)を越えると、ピンチオフによって電流制限がかかる。
【0040】
図4は実施例1に係るHEMTの電流−電圧特性を示す。図4中、縦軸はドレイン−ソース間電流を示し、横軸はドレイン−ソース間電圧を示す。実施例1に係る補助電極6並びにチャネル抵抗R2の設定がない場合、HEMTにおいては、ドレイン−ソース間電圧の上昇に従い、素子の損傷、破壊又は発火を生じるまでドレイン−ソース間電流の上昇が生じる。これに対し、実施例1に係る補助電極6並びにチャネル抵抗R2の設定がある場合、HEMTにおいては、ドレイン−ソース間電圧が補助電極6部分における閾値電圧Vthzに上昇するまでドレイン−ソース間電流の上昇が生じるものの、閾値電圧Vthzを越えると、ピンチオフによって電流制限がかかり、ドレイン−ソース間電流の上昇が生じない。つまり、実施例1に係るHEMTにおいては、閾値電圧Vthzを越える過電流がドレイン−ソース間に流れないので、素子の損傷、破壊又は発火を生じることがない。
【0041】
[半導体装置の特徴]
以上説明したように、実施例1に係る半導体装置1においては、外部ノイズ等の過大電流に起因するHEMTの損傷、破壊若しくは発火を防止することができる。
【0042】
[変形例1]
実施例1の変形例1に係る半導体装置1は、前述の図1及び図2に示す半導体装置1のHEMTにおいて、ゲート電極(G1)5と補助電極(G2)6との間のリセス322の平面形状及び断面形状を変えた例を説明するものである。
【0043】
図5に示すように、変形例1に係る半導体装置1は、リセス322の平面形状をX方向の寸法とY方向の寸法とが同一か大差のない方形状に設定し、このリセス322をY方向に複数個ここでは一列に配列している。リセス322の配列は、必ずしも一列ではなく、Y方向に二列以上配列してもよく、Y方向にジグザグに配列してもよい。つまり、実施例1に係る半導体装置1のリセス322の平面形状はストライプ形状であったが、変形例1に係る半導体装置1のリセス322の平面形状はドット形状である。
【0044】
図6(図5に示すF6−F6線で切った断面図)に示すように、リセス322の断面形状は、実施例1に係る半導体装置1のリセス322と同様に、第2の半導体層32の表面からこの第2の半導体層32の内部に向かって掘り下げた方形状により構成されている。二次元キャリアガス層33のチャネル抵抗R2は、リセス322の深さの制御、リセス322の配列個数の制御、リセス322の平面サイズの制御、リセス322の間隔制御の少なくとも1以上の制御を行うことにより値を調節する。チャネル抵抗Rを大きくすれば、HEMTの素子面積を減少することができる。
【0045】
[変形例2]
実施例1の変形例2に係る半導体装置1は、前述の図5及び図6に示す半導体装置1のHEMTにおいて、ゲート電極(G1)5と補助電極(G2)6との間のリセス322の断面形状を変えた例を説明するものである。
【0046】
変形例2に係る半導体装置1のリセス322の平面形状は、前述の図5に示す変形例1に係る半導体装置1のリセス322の平面形状と同一に設定されている。リセス322の断面形状は、図7(図5に示すF7−F7線で切った断面図)に示すように、変形例1に係る半導体装置1のリセス322と若干異なり、第2の半導体層32の表面からヘテロ接合面(第1の半導体層31と第2の半導体層32との界面)に達するか、又は第1の半導体層31の表面近傍の二次元キャリアガス層33に達するか、又は二次元キャリアガス層33を越えて第1の半導体層31の内部に向かって掘り下げた方形状により構成されている。つまり、単純に、変形例1に係るリセス322の深さに比べて、変形例2に係るリセス322の深さは深く設定されている。
【0047】
このリセス322が配設された領域においては第2の半導体層32が存在しないことから、リセス322直下には二次元キャリアガス層33が生成されない。従って、ゲート電極5と補助電極6との間において、二次元キャリアガス層33は、X方向に延伸されY方向に一定間隔(リセス322のY方向の配列ピッチに相当する間隔)に平行に細分化されたストライプ形状に構成されている。変形例2に係るリセス322は、変形例1に係るリセス322に比べて、チャネル抵抗R2を高く設定し易く、かつHEMTの素子面積を減少し易い。
【0048】
(実施例2)
本発明の実施例2は、前述の実施例1に係る半導体装置1のHEMTのゲート電極(G1)5と補助電極(G2)6との間のリセス322に代えて、二次元キャリアガス層33のチャネル抵抗R2の別の制御方法を説明するものである。
【0049】
[半導体装置のデバイス構造]
図8に示すように、実施例2に係る半導体装置1は、HEMTのゲート電極(G1)5と補助電極(G2)6との間において第2の半導体層32にその表面からこの第2の半導体層32内に配設された高抵抗生成層325を備えている。
【0050】
高抵抗生成層325は電気陰性度の高いイオンを第2の半導体層32に導入することにより形成される。電気陰極度の高いイオンは第2の半導体層32内に固定負電荷を生成し、この固定負電荷はその直下に生成される二次元キャリアガス層33のキャリア(ここでは電子)を排除するようになっている。つまり、高抵抗生成層325は、その直下に生成される二次元キャリアガス層33のキャリア濃度を減少するか若しくは二次元キャリアガス層33自体の生成を排除し、チャネル抵抗R2(シート抵抗)を高く制御するようになっている。
【0051】
また、高抵抗生成層325は、前述の実施例1の変形例2に係る半導体装置1のリセス322と同様に、ヘテロ接合面に達するか、又は二次元キャリアガス層33に達して第1の半導体層31まで配設するか、又は二次元キャリアガス層33を越えて第1の半導体層31まで配設してもよい。
【0052】
高抵抗生成層325の生成には、電気陰極度の高い、フッ素(F)イオン、鉄(Fe)イオン等を実用的に使用することができる。
【0053】
[半導体装置の製造方法]
次に、前述の実施例2に係る半導体装置1に関し、全体的な製造方法の説明は省略するが、特徴的な高抵抗生成層325の製造方法は以下の通りである。
【0054】
半導体機能層3の第2の半導体層32の表面上に、高抵抗生成層325を形成する領域が開口されたマスク7が形成される(図9参照。)マスク7には、例えばフォトリソグラフィ技術を用いて形成されたレジストマスクが使用される。
【0055】
引き続き、マスク7を用い、図9に示すように、このマスク7の開口を通して第2の半導体層32の内部に電気陰極度の高いイオンが導入され、高抵抗生成層325が形成される。このイオンには例えばフッ素イオンを用い、このフッ素イオンの導入には例えばプラズマ イマージョン イオン インプラテーション(PIII:plasma immersion ion implantation)技術が使用される。このPIII技術において、使用ガスにはCF4ガスが使用され、高周波パワーは150Wに設定し、時間は150秒に設定される。
【0056】
高抵抗生成層325が形成された後、マスク7は除去される。
【0057】
[半導体装置の特徴]
以上説明したように、実施例2に係る半導体装置1においては、HEMTに補助電極(G2)6を備え、ゲート電極(G1)5と補助電極6との間において二次元キャリアガス層33のチャネル抵抗R2を高抵抗生成層325により高く設定することができるので、実施例1に係る半導体装置1と同様に、外部ノイズ等の過大電流に起因するHEMTの損傷、破壊若しくは発火を防止することができる。
【0058】
(実施例3)
本発明の実施例3は、前述の実施例1に係る半導体装置1のHEMTの補助電極(G2)6の構造を変えた例を説明するものである。
【0059】
[半導体装置のデバイス構造]
図10に示すように、実施例3に係る半導体装置1は、HEMTの補助電極(G2)6下に第2の半導体層32の表面からこの第2の半導体層32内に掘り下げたリセス323を備え、補助電極6をこのリセス323内であってリセス323の底面上に配設している。
【0060】
リセス323は、補助電極6部分においてノーマリオン特性を有するように、ゲート電極5下のリセス321の深さに対して浅い深さを有する。また、補助電極6の電極材料を調整すれば、リセス323の深さはリセス321(又はリセス322)の深さと同一であってもよい。
【0061】
補助電極6の直下にリセス323を配設することによって補助電極6の直下の第2の半導体層32の厚さが薄くなり、第2の半導体層32から二次元キャリアガス層33を生成するキャリアの供給量を減少することができる。つまり、補助電極6部分の閾値電圧を調節することができる。
【0062】
実施例3に係る半導体装置1においては、前述の実施例1に係る半導体装置1により得られる効果と同様の効果を奏することができる。なお、実施例3に係る半導体装置1は前述の実施例2に係る半導体装置1と組み合わせることができる。
【0063】
(その他の実施例)
上記のように、本発明は複数の実施例によって記載されているが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものでない。本発明は様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術に適用することができる。
【0064】
例えば、前述の半導体装置1の補助電極(G2)6はショットキー電極材料により構成されているが、本発明は、補助電極6をMIS(metal insulator semiconductor)型構造としてもよい。また、本発明は、補助電極6をソース電極41と電気的に接続せず、ソース電極41とは別の固定電位に接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、外部ノイズ等の過大電流に起因するHEMTの損傷、破壊若しくは発火を防止することができる半導体装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…半導体装置
2…基板
3…半導体機能層
31…第1の半導体層
32…第2の半導体層
41…ソース電極
42…ドレイン電極
5、G1…ゲート電極
6、G2…補助電極
321、322、323…リセス
325…高抵抗生成層
R1、R2、R3…チャネル抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上にヘテロ接合面を介在し配設された第2の半導体層と、
前記第1の半導体層の前記ヘテロ接合面近傍に配設された二次元キャリアガス層と、
前記二次元キャリアガス層の一端に電気的に接続されたソース電極と、
前記二次元キャリアガス層の他端に電気的に接続されたドレイン電極と、
前記二次元キャリアガス層上において前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配設されたゲート電極と、
前記二次元キャリアガス層上において前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に配設された補助電極と、を備え、
前記二次元キャリアガス層の前記ゲート電極と前記ソース電極との間のチャネル抵抗に比べて、前記二次元キャリアガス層の前記ゲート電極と前記補助電極との間のチャネル抵抗が高く設定されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記補助電極には固定電位が供給され、前記補助電極はその直下において前記二次元キャリアガス層にチャネルが生成されるノーマリオン構造を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記補助電極は前記ソース電極に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記二次元キャリアガス層の前記ゲート電極と前記ソース電極との間のチャネル長に対して、前記二次元キャリアガス層の前記ゲート電極と前記補助電極との間のチャネル長が長く設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記二次元キャリアガス層の前記ゲート電極と前記ソース電極との間のシート抵抗に比べて、前記二次元キャリアガス層の前記ゲート電極と前記補助電極との間のシート抵抗が高く設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2の半導体層の前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に表面から前記ヘテロ接合面に向かって掘り下げられたリセスを備え、前記補助電極は前記リセス内に配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−44078(P2012−44078A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185780(P2010−185780)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】