説明

単結晶シリコン粒子の製造方法

【課題】不純物の含有量を大幅に低減した球状に近似した形状の単結晶シリコン粒子を、多数個を一括的に製造できる単結晶シリコン粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】単結晶シリコン粒子3の製造方法は、不純物が偏析した突起部12を有するとともに表面に酸窒化膜11が形成された単結晶シリコン粒子3の突起部12を、単結晶シリコン粒子3の表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する。研磨加工はバレル研磨加工により行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等の光電変換装置に好適に用いられる単結晶シリコン粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換装置は、光電変換効率等の性能の向上、シリコン等の半導体資源の有限性への配慮、製造コストの低減化等の市場ニーズに沿った開発が進められている。今後の市場において有望な光電変換装置の一つとして、太陽電池として使用される、結晶シリコン粒子等の結晶半導体粒子を用いた光電変換装置がある。
【0003】
結晶シリコン粒子を製造するための原料としては、単結晶シリコンを粉砕した結果として発生するシリコンの微小粒子、または流動床法で気相合成された高純度シリコン等が用いられる。これらの原料から結晶シリコン粒子を製造するには、それらの原料をサイズまたは重量によって分別した後に、赤外線または高周波を用いて容器内で溶融し、その後に自由落下させる方法(例えば、特許文献1,2を参照)、または高周波プラズマを用いて容器内で溶融し、その後に自由落下させる方法(例えば、特許文献3を参照)によって、行うことができる。
【特許文献1】国際公開第99/22048号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4188177号明細書
【特許文献3】特開平5−78115号公報
【特許文献4】米国特許第4430150号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法で製造された結晶シリコン粒子は、そのほとんどが多結晶シリコン粒子である。多結晶シリコン粒子は、微小な単結晶の集合体であるため、微小な単結晶間に粒界が存在する。この粒界は、多結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置の光電変換効率等の電気的特性を劣化させる。その理由は、粒界にはキャリアの再結合中心が集まっており、それによってキャリアの再結合が生ずることによって少数キャリアのライフタイムが大幅に低減するというものである。
【0005】
光電変換装置のように電気的特性が少数キャリアの寿命の増大とともに大幅に向上するものの場合、それに用いられる結晶シリコン粒子中の粒界の存在は、電気的特性を劣化させる。従って、結晶シリコン粒子を単結晶シリコン粒子として使用することができれば、光電変換装置の電気的特性を大幅に改善することができる。
【0006】
また、多結晶シリコン粒子中の粒界は多結晶シリコン粒子の機械的強度を低下させることから、光電変換装置を製造する各工程の熱履歴、熱歪み、機械的な圧力等によって多結晶シリコン粒子が破壊され易いという問題点もあった。
【0007】
従って、結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を製造する場合、粒界等が存在しない、結晶性に優れた単結晶シリコン粒子を製造することがきわめて重要になる。
【0008】
単結晶シリコン粒子を得る方法として、多結晶シリコン粒子または無定形シリコン粒子の表面にシリコンの酸化膜等の珪素化合物被膜を形成し、その珪素化合物被膜の内側のシリコンを溶融した後に冷却して固化させて、結晶性に優れた多結晶体または単結晶体から成る結晶シリコン粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0009】
しかしながら、多結晶シリコン粒子を加熱してその表面に形成された珪素化合物被膜、具体的には酸化珪素被膜の内側のシリコンを溶融させ、その後に凝固させた場合、シリコンの溶融の際に隣接した多結晶シリコン粒子同士が合体してしまうという問題点があった。また、この場合、チョクラルスキー法(CZ法)、フローティングゾーン法(FZ法)等の一般的なバルクのシリコン単結晶を製造する方法において使用される種結晶のような凝固起点がないため、一方向に凝固が起こらず、多数の核の発生による多結晶化が起こるという問題点がある。また、多結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置は、特性劣化を引き起こすという問題点がある。
【0010】
また、結晶シリコン粒子を製造する際に、流動床法により気相合成された高純度の多結晶シリコン粒子を原料に用いた場合、多結晶リシコン粒子の出発原料に含まれる鉄、ニッケル等の金属不純物、また製造工程中に外部から混入する同様の金属不純物による汚染が問題となる。金属不純物は、シリコン中では化学的な結合手を持たない格子間拡散をすることから、シリコン格子の隙間を縫って不純物原子が拡散する。そして、拡散した金属不純物はシリコン内で深い準位を形成してキャリアの再結合中心として作用し、リーク電流の増加、光電変換によって生じたキャリアのライフタイムの低下の原因となって光劣化を引き起こす。
【0011】
即ち、従来の結晶シリコン粒子の製造方法では、所望の高品質な単結晶シリコン粒子を製造することは困難であり、それによって得られた結晶シリコン粒子を用いて電気的特性に優れた光電変換装置を製造することは困難であった。
【0012】
従って、本発明は、上記従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、不純物の含有量を大幅に低減した球状に近似した形状の単結晶シリコン粒子を、多数個を一括的に製造できる結果、簡易的にまた低コストに単結晶シリコン粒子を製造することができる単結晶シリコン粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は、不純物が偏析した突起部を有するとともに表面に酸窒化膜が形成された単結晶シリコン粒子の前記突起部を、前記表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去するものである。
【0014】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記研磨加工はバレル研磨加工である。
【0015】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記バレル研磨加工は、直径が前記単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いる。
【0016】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記研磨材は、材質がアルミナ,窒化珪素,炭化珪素,ムライト,シリカ及びジルコニアのうち少なくとも1種を含むものである。
【0017】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記バレル研磨加工は、バレルの回転速度が50乃至500rpmである。
【0018】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して凝固させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造する工程と、前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去する工程と、前記結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜を形成する工程と、前記結晶シリコン粒子を加熱して酸窒化膜の内側を再溶融させ凝固させることによって、不純物が偏析した突起部を有するとともに表面に酸窒化膜が形成された単結晶シリコン粒子を製造する工程と、前記単結晶シリコン粒子の前記突起部を、前記表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する工程と、を具備するものである。
【0019】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記研磨加工はバレル研磨加工である。
【0020】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記バレル研磨加工は、直径が前記単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いる。
【0021】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記研磨材は、材質がアルミナ,窒化珪素,炭化珪素,ムライト,シリカ及びジルコニアのうち少なくとも1種を含むものである。
【0022】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記バレル研磨加工は、バレルの回転速度が50乃至500rpmである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は、不純物が偏析した突起部を有するとともに表面に酸窒化膜が形成された単結晶シリコン粒子の前記突起部を、前記表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去することから、原料に含まれていた鉄,ニッケル等の金属不純物及び製造工程で入り込んだ炭素等の不純物を、突起部を除去することによって除去することができるとともに、酸窒化膜によって表面が保護された単結晶シリコン粒子から表面を実質的に加工変質させずに突起部を除去することができる。その結果、後に酸窒化膜をエッチング等によって除去した際に、単結晶シリコン粒子の表面に先端部が丸みを帯びた凸部を有する微細な凹凸を形成することができる。従って、単結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を作製する際に、単結晶シリコン粒子を導電性基板に押圧して接合するときに押圧に用いられる治具と接することによって生じる、単結晶シリコン粒子の表層部の第2導電型の半導体部の削れの発生を低減でき、優れた光電変換効率を有する光電変換装置を得ることができる。
【0024】
また、突起部が除去されることによって、単結晶シリコン粒子は真球状に近い形状となり、光電変換装置を製造する際に導電性基板上に多数の単結晶シリコン粒子を位置精度を高めて配列できる。その結果、光電変換装置の光電変換効率等の電気的特性が向上する。
【0025】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記研磨加工はバレル研磨加工であることから、多数の単結晶シリコン粒子を回転するバレル内において互いに擦れ合わせることにより、効率的に突起部を除去することができる。
【0026】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、バレル研磨加工は、直径が単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いることから、単結晶シリコン粒子の表面に、擦れ合うことによって発生する加工変質層が実質的に形成されないようにすることができる。即ち、直径が単結晶シリコン粒子よりも大きい球状の研磨材は、直径が単結晶シリコン粒子よりも小さい球状の研磨材と比べて、単結晶シリコン粒子と擦れ合っても単結晶シリコン粒子の表面を傷付けて加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。さらに、直径が単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いることによって、単結晶シリコン粒子と擦れ合っても単結晶シリコン粒子の表面を傷付けて加工変質層が形成されるのをより効果的に抑制できる。
【0027】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、研磨材は、材質がアルミナ,窒化珪素,炭化珪素,ムライト,シリカ及びジルコニアのうち少なくとも1種を含むものであることから、これらの材質から成る研磨材は、単結晶シリコン粒子よりも硬度が低く、単結晶シリコン粒子の表面に加工変質層を形成せずに突起部を除去できる。
【0028】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、バレル研磨加工は、バレルの回転速度が50乃至500rpmであることから、単結晶シリコン粒子の表面から効率的に突起部を除去できるとともに、単結晶シリコン粒子の表面に加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。
【0029】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して凝固させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造する工程と、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する工程と、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜を形成する工程と、結晶シリコン粒子を加熱して酸窒化膜の内側を再溶融させ凝固させることによって、不純物が偏析した突起部を有するとともに表面に酸窒化膜が形成された単結晶シリコン粒子を製造する工程と、単結晶シリコン粒子の突起部を、表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する工程と、を具備することから、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子から尖頭部を除去し、さらに不純物が偏析した突起部を有する単結晶シリコン粒子から突起部を除去するため、不純物濃度が大幅に低減された良好な結晶性を有する単結晶シリコン粒子が得られる。
【0030】
また、後に酸窒化膜をエッチング等によって除去した際に、単結晶シリコン粒子の表面に先端部が丸みを帯びた凸部を有する微細な凹凸を形成することができる。従って、単結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を作製する際に、単結晶シリコン粒子を導電性基板に押圧して接合するときに押圧に用いられる治具と接することによって生じる、単結晶シリコン粒子の表層部の第2導電型の半導体部の削れの発生を低減でき、優れた光電変換効率を有する光電変換装置を得ることができる。
【0031】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記研磨加工はバレル研磨加工であることから、多数の単結晶シリコン粒子を回転するバレル内において互いに擦れ合わせることにより、効率的に突起部を除去することができる。
【0032】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、バレル研磨加工は、直径が単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いることから、単結晶シリコン粒子の表面に、擦れ合うことによって発生する加工変質層が実質的に形成されないようにすることができる。即ち、直径が単結晶シリコン粒子よりも大きい球状の研磨材は、直径が単結晶シリコン粒子よりも小さい球状の研磨材と比べて、単結晶シリコン粒子と擦れ合っても単結晶シリコン粒子の表面を傷付けて加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。従って、直径が単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いることによって、単結晶シリコン粒子と擦れ合っても単結晶シリコン粒子の表面を傷付けて加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。
【0033】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、研磨材は、材質がアルミナ,窒化珪素,炭化珪素,ムライト,シリカ及びジルコニアのうち少なくとも1種を含むものであることから、これらの材質から成る研磨材は、単結晶シリコン粒子よりも硬度が低く、単結晶シリコン粒子の表面に加工変質層を形成せずに突起部を除去できる。
【0034】
また、本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、バレル研磨加工は、バレルの回転速度が50乃至500rpmであることから、単結晶シリコン粒子の表面から効率的に突起部を除去できるとともに、単結晶シリコン粒子の表面に加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0036】
図1は、本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法の1例を示し、単結晶シリコン粒子の製造方法に用いるバレル研磨装置の断面図である。図2は、単結晶シリコン粒子3の断面図である。
【0037】
本実施の形態(第1の実施の形態)の単結晶シリコン粒子の製造方法は、不純物が偏析した突起部12を有するとともに表面に酸窒化膜11が形成された単結晶シリコン粒子3の突起部12を、単結晶シリコン粒子3の表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する。
【0038】
上記の構成により、原料に含まれていた鉄,ニッケル等の金属不純物及び製造工程で入り込んだ炭素等の不純物を、突起部12を除去することによって除去することができるとともに、酸窒化膜11によって表面が保護された単結晶シリコン粒子3から表面を実質的に加工変質させずに突起部12を除去することができる。その結果、後に酸窒化膜11をエッチング等によって除去した際に、単結晶シリコン粒子3の表面に先端部が丸みを帯びた凸部を有する微細な凹凸を形成することができる。従って、単結晶シリコン粒子3を用いて光電変換装置を作製する際に、単結晶シリコン粒子3を導電性基板に押圧して接合するときに押圧に用いられる治具と接することによって生じる、単結晶シリコン粒子3の表層部の第2導電型の半導体部の削れの発生を低減でき、優れた光電変換効率を有する光電変換装置を得ることができる。また、突起部12が除去されることによって、単結晶シリコン粒子3は真球状に近い形状となり、光電変換装置を製造する際に導電性基板上に多数の単結晶シリコン粒子3を位置精度を高めて配列できる。その結果、光電変換装置の光電変換効率等の電気的特性が向上する。
【0039】
酸窒化膜11をエッチングによって除去するためのエッチング処理に用いられるエッチング処理溶液は、水酸化ナトリウムと、イソプロピルアルコール、ラウリル酸及びn−オクタン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含むことが好ましい。これにより、エッチング処理溶液のエッチングの異方性が低くなるため、得られる凸部の先端を緩やかな曲面状に制御することができる。
【0040】
さらに、本実施の形態(第2の実施の形態)の単結晶シリコン粒子の製造方法は、坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して凝固させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造する工程と、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する工程と、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜11を形成する工程と、結晶シリコン粒子を加熱して酸窒化膜11の内側を再溶融させ凝固させることによって、不純物が偏析した突起部12を有するとともに表面に酸窒化膜11が形成された単結晶シリコン粒子3を製造する工程と、単結晶シリコン粒子3の突起部12を、表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する工程と、を具備する。
【0041】
この場合、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜11を形成する工程において、窒素ガスおよび酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、結晶シリコン粒子をシリコンの融点以下の温度に加熱して、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜11を形成する。次に、窒素ガスおよび酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、結晶シリコン粒子を加熱して酸窒化膜11の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化し、次に、単結晶シリコン粒子3の突起部12を研磨加工により除去する。
【0042】
単結晶シリコン粒子3の突起部12は、結晶シリコン粒子を加熱して酸窒化膜11の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させた際に、酸窒化膜11の内側のシリコンが体積膨張を起こすことによって形成される。
【0043】
まず、結晶シリコン粒子の材料として、半導体集積回路等に用いられる半導体の品質である半導体グレード、またはソーラーグレードの結晶シリコンを用い、これを赤外線や高周波誘導コイルまたは抵抗加熱等によって容器内で溶融し、しかる後に溶融したシリコンを粒状のシリコン融液として自由落下させる溶融落下法(ジェット法)等によって多結晶の結晶シリコン粒子を得る。
【0044】
溶融落下法に用いる結晶シリコン粒子の製造装置(ジェット装置)において、溶融シリコンを収容する坩堝は、シリコンの融点より高い融点を有する材料から成る。また坩堝は、シリコン融液との反応性が小さい材料からなることが好ましく、シリコン融液との反応が大きい場合、坩堝の材料が不純物として結晶シリコン粒子中へ多量に混入することとなるため好ましくない。
【0045】
例えば、坩堝の材料としては、炭素,炭化珪素質焼結体,炭化珪素結晶体,窒化ホウ素質焼結体,酸窒化珪素質焼結体,石英,水晶,窒化珪素質焼結体,酸化アルミニウム質焼結体,サファイア,酸化マグネシウム質焼結体等が好ましい。また、これらの材料の複合体、混合体または化合物体であってもよい。また、上記材料から成る基体の表面に炭化珪素膜,窒化珪素膜,酸化珪素膜をコーティングしたものでもよい。また、坩堝内において原料を融点以上に加熱する加熱方法としては、電磁誘導加熱法や抵抗加熱法等が、原料に直接接することなく急速に加熱できる方法であることから好適である。
【0046】
ノズル部は、炭化珪素(炭化珪素結晶体または炭化珪素質焼結体),窒化珪素(窒化珪素質焼結体)等から成る。
【0047】
溶融落下法で作製された多結晶の結晶シリコン粒子には、所望の導電型及び抵抗値にするために、通常は不純物(ドーパント)がドーピングされる。シリコンに対するドーパントとしては、ホウ素,アルミニウム,ガリウム,インジウム,リン,ヒ素,アンチモン等があるが、シリコンに対する偏析係数が大きい点、及びシリコン溶融時の蒸発係数が小さい点から、ホウ素あるいはリンを用いることが好ましい。また、ドーパント濃度としては、シリコンの結晶材料に1×1014〜1×1018atoms/cm3程度添加される。
【0048】
この溶融落下法によって結晶シリコン粒子を得た時点では、結晶シリコン粒子の形状は、ほぼ球形状の他に、涙滴型、流線形型、あるいは複数個の粒子が連結した連結型等である。溶融落下法によって得られたままの多結晶の結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を作製した場合、良好な光電変換特性は得られにくい。その原因は、多結晶の結晶シリコン粒子中に通常含有されているFe,Cr,Ni,Mo等の金属不純物、及び多結晶の結晶シリコン粒子の結晶粒界におけるキャリアの再結合効果によるものである。
【0049】
これを改善するために、窒素ガス及び酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、温度制御した加熱炉の中で多結晶の結晶シリコン粒子をシリコンの融点(1414℃)以下の温度(500〜1400℃)に加熱して、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜11を形成し、その後、窒素ガス及び酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、結晶シリコン粒子を加熱して、酸窒化膜11の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化する。結晶性を向上させるためにはこの工程を複数回繰り返す。
【0050】
この時点では、まだ単結晶シリコン粒子3は大小様々な突起部を有するものが多数存在し、このままでは取り扱いが非常に困難であるため、突起部12を有する単結晶シリコン粒子3を選別し取り除くか、突起部12を研磨加工等によって除去する必要がある。
【0051】
さて、第2の実施の形態において、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜11を形成する工程の前に、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造する工程と、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する工程とを付与する。擬似単結晶化された結晶シリコン粒子は、形状が涙滴型であり、粒界が数個程度しかない単結晶に近い結晶品質を有するものである。
【0052】
形状が涙滴型で擬似単結晶化された結晶シリコン粒子は、以下のようにして製造歩留りを高くして製造できる。
【0053】
従来、溶融落下装置(ジェット装置)の上部に位置する坩堝のノズル部から排出された粒状のシリコン融液は、表面温度が急激に低下する過冷却状態(1214℃以下の温度状態)となり、その後粒状のシリコン融液の内部温度の影響で一旦シリコンの融点(1414℃)付近まで表面温度が高くなり、その後徐々に温度が低下し固化する。この際、過冷却状態の過冷却度(シリコンの融点(1414℃)−過冷却温度)が300℃程度以上と大きいために、粒状のシリコン融液の表面に多数の結晶核が発生し、多結晶の結晶シリコン粒子となる。また、殆どの結晶シリコン粒子の表面には、固化時の内部の体積膨張によって突起部が形成される。
【0054】
第2の実施の形態においては、過冷却度を40℃〜200℃程度と小さくすることにより、突起部の形成を抑制し、尖頭部を有する涙滴型の結晶シリコン粒子を製造する。涙滴型の結晶シリコン粒子には、最終固化部に尖頭部(尖った部分)が形成される。また、涙滴型の結晶シリコン粒子は、粒界が数個しかない単結晶に近い結晶品質を有する擬似単結晶粒子である。
【0055】
過冷却度を小さくする手段としては、粒状のシリコン融液が落下する落下経路に過冷却度を制御するヒーターを設ける構成、坩堝から排出された直後の落下中の粒状のシリコン融液に酸化シリコン等の微粒子から成る結晶核を衝突させる方法等がある。
【0056】
また、尖頭部は、結晶シリコン粒子の尖頭部の先端点を含む領域であって、結晶シリコン粒子の体積の0.01〜16体積%程度の領域である。
【0057】
なお、尖頭部あるいは突起部に含まれる炭素や窒素の不純物の濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:2次イオン質量分析)で結晶シリコン粒子の断面分析を行うことによって、確認することができる。
【0058】
Fe,Ni,Cu等の金属不純物については、SIMSの検出下限以下の濃度であるためSIMSでは分析はできないが、偏析係数が炭素,窒素に比べ二桁以上小さいため、炭素,窒素のSIMS分析の結果から予想は可能である。それらの不純物の偏析状態については、結晶シリコン粒子の研磨断面をJIS規格Bエッチング液(HF:HNO:CHCOOH:HO=1:12.7:3:5.7(容積比))によりエッチングして、表面のエッチピットを観察することにより確認することができる。
【0059】
また、結晶シリコン粒子の尖頭部を除去する際に、尖頭部の表面から深さ20μm以上の部位を除去することがよい。尖頭部の表面から深さ20μm未満の部位を除去した場合、不純物の偏析部が残存する傾向がある。尖頭部の表面から深さ50μm以上の部位を除去した場合、尖頭部以外の結晶シリコン粒子の表面に損傷が生じる傾向がある。従って、尖頭部の表面から深さ20μm〜50μmの部位を除去することがよく、その場合、不純物を除去するとともに結晶欠陥の発生、金属不純物等の汚染を有効に低減することができる。
【0060】
尖頭部を除去する方法としては、機械的な研磨法によって除去する方法、エッチング液を用いたエッチング法によって除去する方法、ドライエッチング法等がある。
【0061】
さて、第1及び第2の実施の形態において好ましくは、表面に酸窒化膜11が形成された単結晶シリコン粒子3の突起部を、単結晶シリコン粒子3の表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去するための研磨加工はバレル研磨加工である。これにより、多数の単結晶シリコン粒子3を回転するバレル内において互いに擦れ合わせることにより、効率的に突起部を除去することができる。
【0062】
バレル研磨加工による突起部12の除去について以下に説明する。図1は、本実施の形態の結晶シリコン粒子の製造方法に用いるバレル研磨装置の断面図である。図1において、1はバレルポット、2は研磨材、3は単結晶シリコン粒子、4はバレルポットの回転の中心軸(回転軸)、5はバレルポットの蓋である。バレルポット1の中に結晶シリコン粒子3、研磨材2及び水が投入され、バレルポット1が中心軸4を中心として回転する。
【0063】
さらに、バレルポット1は中心軸4を中心に回転するとともに、水平方向への往復直線運動、垂直方向への往復直線運動、水平方向及び垂直方向以外の方向への往復直線運動、公転軸周りの回転運動などの他の運動を伴ってもよい。バレルポット1は、単結晶シリコン粒子3及び研磨材2の欠け、クラック及び変質を防ぐために、硬質のゴム等のような弾性材料から成ることが好ましく、さらに研磨加工による摩擦により温度が上昇するため、100℃以上の融点を有する耐熱性のものが良い。また、バレルポット1の形状は円筒状、角筒状でもよく、バレルポット1の内容物が外に漏れ出ないように蓋5を設けてもよい。蓋5は、バレルポット1と同様の材料から成るが、変形防止のために蓋5の上面及び側面にステンレススチール等から成る硬質の保護層(保護板)を設けてもよい。
【0064】
また、単結晶シリコン粒子3の突起部12を研磨加工によって除去するには、例えば、平均粒径約3mmの窒化珪素から成る研磨材2をバレルポット1内に容積の半分ほど収容し、単結晶シリコン粒子3を体積割合で研磨材2の10分の1乃至100分の1程度投入し、蓋5をセットしたバレルポット1を50乃至500rpmの好適な回転速度で回転させ、10乃至60分研磨加工を行う。これにより、単結晶シリコン粒子3の突起部12が、単結晶シリコン粒子3の表面を実質的に加工変質させずに除去される。
【0065】
単結晶シリコン粒子3の表面を実質的に加工変質させないとは、単結晶シリコン粒子3の表面に深さ1μm程度以下のわずかな傷が付いていてもよいという意味である。また、加工変質層は、一般に、表面側から非晶質層、多結晶層、モザイク層、クラック層、歪層等が存在する構成のものであり、これらの5つの層を合わせて加工変質層と呼ぶ。本実施の形態においては、酸窒化膜により単結晶シリコン粒子3の表面の加工変質を防ぎ、最表面の非晶質層のみが形成される程度の研磨加工を行う。従って、単結晶シリコン粒子3の表面を実質的に加工変質させないとは、単結晶シリコン粒子3の表面に深さ1μm程度以下のわずかな傷が付いていてもよく、その結果、単結晶シリコン粒子3の表面に非晶質層のみが形成される状態をいう。勿論、単結晶シリコン粒子3の表面に傷も形成されておらず、非晶質層も形成されていない場合も含む。
【0066】
加工変質層は、一般に、表面側から非晶質層、多結晶層、モザイク層、クラック層、歪層等が存在する構成のものであり、これらの5つの層を合わせて加工変質層と呼ぶ。本実施の形態におけるバレル研磨加工では、酸窒化膜により単結晶シリコン粒子3の表面の加工変質を防ぎ、最表面の非晶質層のみが形成される程度の研磨加工を行う。最終的には酸窒化膜11を化学エッチングにより除去することによって非晶質層は取り除かれ、結晶品質の高い単結晶シリコン粒子3が得られる。加工変質層の存在は、ラマン分光法等により、ラマンスペクトルの半値幅の広がり等を確認することによって特定することができる。
【0067】
次に、酸窒化膜11の形成工程(単結晶化の前工程)における窒素ガス及び酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガスの圧力は、0.01〜0.2MPa程度がよい。0.01〜0.2MPa程度とすることによって、酸窒化膜11からの窒素、酸素の蒸発による酸窒化膜11の膜厚の低減及び膜質の劣化が生じにくくなり、また酸窒化膜11の厚みのバラツキが生じにくくなる。
【0068】
単結晶シリコン粒子3の表面に形成される酸窒化膜11の厚みは100nm〜10μm程度であればよく、100nm〜10μm程度とすることにより、単結晶シリコン粒子3内部のシリコンの溶融時に酸窒化膜11が破れるのを抑制し、また、単結晶シリコン粒子3内部のシリコンの溶融時に表面張力で球形化するのを容易にする。
【0069】
後工程(単結晶化のための再溶融(リメルト)工程)における窒素ガス及び酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガスの圧力は、0.01〜0.2MPa程度がよい。0.01〜0.2MPa程度とすることにより、酸窒化膜11からの窒素及び酸素の蒸発により酸窒化膜11の膜厚の低減及び膜質の劣化が生じにくくなり、また単結晶シリコン粒子3内部のシリコンの溶融時に形状を安定に保つことが容易になる。
【0070】
後工程において酸素ガス及び不活性ガスを使用する場合、酸素ガスを20体積%以上含み、アルゴンガス等の不活性ガスを80体積%以下含むものであればよい。
【0071】
再溶融(リメルト)法によって単結晶シリコン粒子3を作製するには、まず多数個(例えば、数100乃至数1000個程度)の多結晶の結晶シリコン粒子を台板の上面に載置する。台板上への多数個の結晶シリコン粒子の載置は、一層で載置してもかまわないが、重層的に載置した方がよい。重層的に載置することにより、結晶シリコン粒子を高密度に配置することができ、多数個の結晶シリコン粒子を一度に単結晶化することができ、安価に量産性よく単結晶シリコン粒子3を製造することが可能となる。従って、光電変換装置等に使用する単結晶シリコン粒子3を効率的に製造できる。
【0072】
多数個の結晶シリコン粒子を台板上に重層的に載置する場合、その層数は特に限定するものではないが、例えば2〜150層程度とすればよい。
【0073】
台板上に載置された多数個の結晶シリコン粒子は、それら同士が接触していても構わない。台板は、上蓋がない箱状か板状のものが望ましく、板状の場合には複数段に積み上げて使用してもよい。台板の材質は、結晶シリコン粒子との反応を抑えるために、石英ガラス,ムライト,酸化アルミニウム,炭化珪素,単結晶酸化アルミニウム(サファイヤ)等が適するが、耐熱性,耐久性,耐薬品性に優れコストも安く、かつ扱い易いという点からは、石英ガラスが好適である。
【0074】
次に、結晶シリコン粒子を載置した台板を加熱炉(図示せず)内に導入し、結晶シリコン粒子を加熱していく。加熱炉としては、半導体材料の種類に応じて種々のものが使用できるが、半導体材料としてシリコンを用いるので、セラミックスの焼成等に用いられる抵抗加熱型や誘導加熱型の雰囲気焼成炉、あるいは半導体素子の製造工程で一般的に用いられる横型酸化炉等が適している。セラミックスの焼成等に用いられる抵抗加熱型の雰囲気焼成炉は、1500℃以上の昇温も比較的容易であり、単結晶シリコン粒子の量産が可能な大型のものも比較的安価に入手できるので望ましい。
【0075】
雰囲気焼成炉による加熱を行う前に、結晶シリコン粒子の表面に付着した金属や異物等を除去するために、RCA法(RCA社による洗浄方法)、弗酸による洗浄法などによって、予め溶液洗浄をしておくことが望ましい。RCA法とは、シリコンウェハの標準的洗浄工程として半導体素子の製造工程で一般的に用いられている洗浄方法であり、3段の工程のうち1段目の工程において水酸化アンモニウムと過酸化水素との水溶液により、シリコンウェハ表面の酸化膜とシリコン表層部とを除去し、2段目の工程においてフッ化水素水溶液により前段の工程で付いた酸化膜を除去し、3段目の工程において塩化水素と過酸化水素との水溶液により重金属等を除去して自然酸化膜を形成するというものである。
【0076】
また、加熱炉内における炉材や発熱体等からの汚染を防止するためには台板上に載置した結晶シリコン粒子を覆うようなベルジャーを加熱炉内に設置することが望ましい。ベルジャーの材質は、石英ガラス,ムライト,酸化アルミニウム,炭化珪素,サファイヤ等が適するが、耐熱性,耐久性,耐薬品性に優れコストも安く扱い易いという点からは、石英ガラスが好適である。
【0077】
加熱炉内で結晶シリコン粒子を窒素ガス及び酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で加熱して、シリコンの融点(1414℃)より低い温度へ昇温していく過程で、結晶シリコン粒子の表面には酸窒化膜が形成される。酸窒化膜の形成温度は500℃乃至1400℃が好ましい。500℃乃至1400℃とすることにより、酸窒化膜の成長速度を十分なものとして所望の厚みとするのに時間がかからないようにでき、また酸窒化膜の厚みを均一にし、さらに結晶シリコン粒子に一部溶融が生じたり形状が崩れるのを抑制することができる。
【0078】
結晶シリコン粒子の表面に形成される酸窒化膜11は、酸化膜等と比べて、被膜の密度が高くて単位膜厚当りの強度が高いため、汚染物及び不純物等が単結晶シリコン粒子3の内部へ拡散するのを阻止する拡散阻止力が大きいという効果を有する。
【0079】
また、酸窒化膜11の酸素含有量は、10モル%程度以下がよい。10モル%以下とすることにより、酸窒化膜11中の結晶構造の変化及び結晶欠陥の増加によって膜質が劣化するのを抑制できる。また、酸窒化膜11は酸素を含んでいることにより膜の柔軟性が向上する。
【0080】
また、結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜11を形成する際の加熱炉内の雰囲気ガスは、窒素ガス分圧が70%以上であることが好ましい。窒素ガス分圧が70%以上であることにより、後の単結晶化工程において、結晶シリコン粒子同士の合体が発生するのを抑制し、また酸窒化膜11の強度を向上させて、多数の結晶シリコン粒子を重層的に載置した状態で上側の結晶シリコン粒子の重さにより下側の結晶シリコン粒子が溶融時につぶれるのを抑制することができる。
【0081】
なお、加熱炉内の雰囲気ガス中の各ガス分圧は、全ガス流量に対する各ガス流量で調整できる。雰囲気ガスは、例えばガス流量計やマスフロー計等のガス供給手段からガスフィルタを通してベルジャー内に供給されるが、このガス供給手段にガスを供給する装置がガス圧力とガス濃度とを調整可能な機構を持つものであればよい。
【0082】
次に、窒素ガス及び酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、結晶シリコン粒子をシリコンの融点(1414℃)より高い温度(1414℃を超え1480℃以下)へ昇温していく。この工程は、別に行っても連続して行ってもかまわない。
【0083】
台板は、結晶シリコン粒子を溶融後に冷却し固化させて単結晶化させるときの固化起点を生じさせるものとしても機能する。このように台板の上面に多数個の結晶シリコン粒子を載置することにより、それぞれの結晶シリコン粒子と台板との接触部分に固化起点を設定することができるため、固化起点を一方の極としてこの一方の極から上方の対向する極に向けて固化(単結晶化)方向を設定することができる。その結果、種結晶を用いることなく一方向に凝固させることが可能となり、サブグレイン等の発生を抑制して単結晶シリコン粒子3の結晶性を大幅に向上させることができる。
【0084】
また、多数個の結晶シリコン粒子を重層的に載置させた状態であるので、先に単結晶化した台板上の単結晶シリコン粒子3との接触部分を固化起点にして、その上に隣接する結晶シリコン粒子が固化することが可能となり、重層的に載置されたことにより上部の方へ固化が連鎖反応的に広がるので、多数個の単結晶シリコン粒子3の結晶性を大幅に向上させることができる。
【0085】
結晶シリコン粒子の大きさは、通常は形状がほぼ球状であることから、その平均粒径は1500μm以下が良く、その形状が球により近いことが好ましい。ただし、結晶シリコン粒子の形状は球状に限られるものではなく、立方体状、直方体状、その他の不定形の形状であってもよい。
【0086】
結晶シリコン粒子の平均粒径が1500μm以下であることにより、結晶シリコン粒子の表面に形成される酸窒化膜11の厚みが結晶シリコン粒子本体に対して相対的に薄くなることがなく、結晶シリコン粒子の内側のシリコンの溶融時における結晶シリコン粒子の形状を安定に保つことができる。また、結晶シリコン粒子の内側のシリコンを完全に溶融させることができ、サブグレインが生じることを効果的に抑制できる。
【0087】
結晶シリコン粒子の平均粒径は30μm以上がよく、この場合、結晶シリコン粒子の内側のシリコンの溶融時に結晶シリコン粒子の形状を安定に維持することができる。
【0088】
従って、単結晶シリコン粒子3の平均粒径(平均直径)は30μm乃至1500μmであることが好ましく、これによって結晶シリコン粒子の形状を安定に維持して、サブグレインの発生がない球形状で良質な結晶性を有する単結晶シリコン粒子3を安定して作製することができる。
【0089】
結晶シリコン粒子をシリコンの融点(1414℃)より高い温度へ昇温していく単結晶化工程(後工程)での加熱炉内の雰囲気ガスは、酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガスとする。不活性ガスとしては、アルゴンガス,窒素ガス,ヘリウムガス,水素ガスが適するが、コストが低いという点及び扱い易いという点からは、アルゴンガスあるいは窒素ガスが好適である。加熱炉内の雰囲気ガス中の各ガス分圧は、全ガス流量に対する各ガス流量で調整できる。雰囲気ガスは例えばガス供給手段からガスフィルタを通してベルジャー内に供給されるが、このガス供給手段にガスを供給する装置がガス圧力とガス濃度とを調整可能な機構を持つものであればよい。
【0090】
後工程での加熱炉内の雰囲気ガスが酸素ガス及び不活性ガスから成る場合、酸素ガス分圧が20%以上であることが好ましい。この場合、酸窒化膜11からの酸素の蒸発が抑制され、また結晶シリコン粒子内部のシリコンの溶融時に形状を安定に保つことができる。
【0091】
結晶シリコン粒子はシリコンの融点(1414℃)以上で、好ましくは1480℃以下の温度まで加熱される。この間に結晶シリコン粒子において表面の酸窒化膜11の内側のシリコンが溶融する。このとき、結晶シリコン粒子の表面に形成された酸窒化膜11によって、内側のシリコンを溶融させながらも結晶シリコン粒子の形状を維持することが可能である。ただし、結晶シリコン粒子の形状を安定に維持するのが困難となるような温度、例えば1480℃を超える温度まで昇温させた場合、結晶シリコン粒子の内部のシリコンの溶融時に結晶シリコン粒子の形状を安定に保つことが難しくなり、隣接する結晶シリコン粒子同士の合体が生じやすくなり、また結晶シリコン粒子が台板と融着し易くなる。
【0092】
なお、結晶シリコン粒子の表面に形成される酸窒化膜11の厚みは、結晶シリコン粒子の上記平均粒径の範囲において、100nm以上であることが好ましい。この場合、結晶シリコン粒子内部のシリコンの溶融時に、結晶シリコン粒子表面の酸窒化膜11が破れにくくなる。また、結晶シリコン粒子内部のシリコンがその溶融時には表面張力で球形化しようとするのに対し、上記の温度領域であれば酸窒化膜11は充分に変形可能であるため、内部を単結晶化して得られる単結晶シリコン粒子3を真球に近い形状とすることができる。
【0093】
一方、酸窒化膜11の厚みは10μm以下が好ましい。この場合、酸窒化膜11が上記の温度領域で変形し易くなり、得られる単結晶シリコン粒子3の形状が真球に近い形状となる。
【0094】
従って、結晶シリコン粒子の表面の酸窒化膜11の厚みは、上記の平均粒径の範囲(30μm乃至1500μm)に対して、100nm乃至10μmであることが好ましい。これにより、真球に近い良好な形状の単結晶シリコン粒子3を安定して得ることができる。また、この単結晶シリコン粒子3を光電変換装置に用いることによって光電変換効率に優れた光電変換装置を得ることができる。
【0095】
次に、結晶シリコン粒子における酸窒化膜11の内側の溶融したシリコンを固化させるために、シリコンの融点以下の約1400℃以下の温度まで降温させて固化させる。この際、シリコンの融点以下の比較的高温の温度(1360℃程度)に維持して固化させるが、この場合結晶シリコン粒子と台板との接触部分を固化起点(一方の極)として上方の対向する極へ向けて一方向に固化が進行するので、すでに固化した単結晶シリコン粒子3との接触点を固化の起点として一方向性の固化が発生する。そして、そのまま多数個の結晶シリコン粒子の全体に一方向性の固化が継承されて、多数個の単結晶シリコン粒子3が一括的に得られる。
【0096】
また、内部が溶融した結晶シリコン粒子を固化させる途中で単結晶シリコン粒子3に対して熱アニール処理、例えば1000℃以上の一定温度で30分間以上の熱アニール処理を行うことが好ましい。この熱アニール処理を行うことによって、固化時に発生した単結晶シリコン粒子3の結晶中の歪み、単結晶シリコン粒子3の表面の酸窒化膜11と内側の単結晶シリコンとの界面に発生した界面歪み等を緩和除去して、良好な結晶性の単結晶シリコン粒子3とすることができる。
【0097】
しかしながら、以上のようにして得られた単結晶シリコン粒子3は炭素及び金属不純物が偏析した大小さまざまな突起部12を有している。次に、これらの突起部12を研磨加工によって除去する。この場合、研磨材2の平均粒径(平均直径)は単結晶シリコン粒子3の平均粒径(平均直径)の3倍乃至30倍である球状のものが好ましい。この場合、単結晶シリコン粒子3の表面に、擦れ合うことによって発生する加工変質層が実質的に形成されないようにすることができる。即ち、直径が単結晶シリコン粒子3よりも大きい球状の研磨材は、直径が単結晶シリコン粒子3よりも小さい球状の研磨材と比べて、単結晶シリコン粒子3と擦れ合っても単結晶シリコン粒子3の表面を傷付けて加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。従って、直径が単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いることによって、単結晶シリコン粒子3と擦れ合っても単結晶シリコン粒子3の表面を傷付けて加工変質層が形成されるのを効果的に抑制できる。なお、3倍より小さい場合は突起部12を除去することが難しいうえに単結晶シリコン粒子3の表面を傷付け易く、30倍より大きい場合でも単結晶シリコン粒子3の表面に加工変質層及び傷を形成し易くなる。
【0098】
バレルポット1の回転速度は50rpm乃至500rpmが好ましい。50rpm乃至500rpmとすることによって、研磨材2と単結晶シリコン粒子3がバレルポット1内で分離せずに効率的に衝突して突起部12を除去でき、また、研磨材2の運動エネルギーが非常に大きくなって単結晶シリコン粒子3の表面を傷つけ、加工変質層を形成することを抑制できる。
【0099】
また、本実施の形態の単結晶シリコン粒子3の製造方法においては、単結晶シリコン粒子3から突起部12を除去した後に酸窒化膜11を除去することが好ましい。これにより、単結晶シリコン粒子3の表層部に偏析した、Fe,Cr,Ni,Mo等の金属不純物含有部を除去することができ、本発明の製造方法によって得られた単結晶シリコン粒子3を光電変換装置に用いた場合、良好な光電変換特性を得ることができる。
【0100】
次に、図3に本実施の形態の光電変換装置の一例を示す。図3において、16は第1導電型(例えばp型)の単結晶シリコン粒子、17は導電性基板、18は単結晶シリコン粒子16と導電性基板17との接合層、19は絶縁物質、20は第2導電型(例えばn型)の半導体層(半導体部)、21は透光性導体層、22は電極である。
【0101】
本実施の形態の単結晶シリコン粒子16を用いた光電変換装置においては、導電性基板17の一主面、この例では上面に、第1の導電型(例えばp型)の単結晶シリコン粒子16が多数個、その下部を例えば接合層18によって導電性基板17に接合され、単結晶シリコン粒子16の隣接するもの同士の間に絶縁物質19を介在させるとともにそれら単結晶シリコン粒子16の上部を絶縁物質19から露出させて配置されて、これら単結晶シリコン粒子16に第2の導電型の半導体層20及び透光性導体層21が順次設けられた構成となっている。
【0102】
なお、電極22は、この光電変換装置を太陽電池として使用する際に、透光性導体層21の上に所定のパターン形状に被着形成されるものであり、例えばフィンガー電極及びバスバー電極である。
【0103】
そして、上記構成の光電変換装置における単結晶シリコン粒子16は、上記の本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法によって製造されたものである。単結晶シリコン粒子16が本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法によって製造されたものであることから、不純物濃度が極めて低い高品質の単結晶シリコン粒子16を得ることができるので、高い光電変換効率を得るために重要な因子となる少数キャリアの寿命を向上させることができる。従って、光電変換装置の構成部品として好ましい単結晶シリコン粒子16を得ることができる。
【0104】
本実施の形態の光電変換装置における単結晶シリコン粒子16の製造方法は、上述した単結晶シリコン粒子の製造方法と同様である。単結晶シリコン粒子16の出発材料である単結晶シリコン粒子は、所望の抵抗値になるように第1の導電型のドーパントとしてp型の半導体不純物がドーピングされていることが好ましい。p型ドーパントとしては、ホウ素,アルミニウム,ガリウム等が好ましく、その添加量は1×1014〜1×1018atoms/cm2が好ましい。以上の本発明の単結晶シリコン粒子の製造方法によって製造された単結晶シリコン粒子16は、光電変換装置を作製するために使用される。そして、この光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段からの発電電力を負荷に供給するように成した光発電装置とすることができる。
【0105】
図3に示した例は、以上のようにして得られた単結晶シリコン粒子16を用いて作製された光電変換装置である。この光電変換装置を得るには、まず、単結晶シリコン粒子16の表面に形成された窒化珪素膜をフッ酸でエッチング除去する。さらに、窒化珪素膜と単結晶シリコン粒子16との界面歪み、及び単結晶シリコン粒子16の表面に偏析されたp型ドーパントや酸素,炭素や金属等の不純物を除去するために、単結晶シリコン粒子16の表面をフッ硝酸等でエッチング除去しても構わない。その際に除去される単結晶シリコン粒子16の表面層の厚みは、径方向で100μm以下であることが好ましい。
【0106】
次に、アルミニウム等から成る導電性基板17の上に単結晶シリコン粒子16を多数個配置する。そして、これを還元雰囲気中にて全体的に加熱して生じた接合層18を介して、単結晶シリコン粒子16を導電性基板17に接合させる。なお、接合層18は、例えばアルミニウムとシリコンとの合金である。
【0107】
このとき、導電性基板17を、アルミニウム基板とするか、または表面にアルミニウムを少なくとも含む金属基板にすることにより、低温で単結晶シリコン粒子16を接合することができ、軽量かつ低価格の光電変換装置を提供することができる。また、導電性基板17の表面を粗面にすることにより、導電性基板17の表面の非受光領域に到達する入射光の反射をランダムにすることができ、非受光領域で入射光を斜めに反射させて、光電変換装置の表面側へ再反射させることができ、これを単結晶シリコン粒子16の光電変換部でさらに光電変換することにより、入射光を有効に利用することができる。
【0108】
次に、接合された単結晶シリコン粒子16の隣接するもの同士の間に介在するように、導電性基板17上に絶縁物質19を、これら単結晶シリコン粒子16の上部、少なくとも天頂部を絶縁物質19から露出させて配置する。
【0109】
ここで、隣接する単結晶シリコン粒子16同士の間の絶縁物質19の表面形状を、単結晶シリコン粒子16側が高くなっている凹形状をしているものとすることにより、絶縁物質19とこの上を被って形成される透明封止樹脂との屈折率の差により、単結晶シリコン粒子16の無い非受光領域における、単結晶シリコン粒子16への入射光の乱反射を促進することができる。
【0110】
次に、これら単結晶シリコン粒子16の露出した上部に第2の導電型(例えばn型)の半導体層20及び透光性導体層21を設ける。半導体層20は、アモルファスまたは多結晶の半導体層20を成膜することにより、あるいは熱拡散法等により半導体層20を形成することにより設けられる。このとき、単結晶シリコン粒子16はp型であるので、半導体層20であるシリコン層はn型の半導体層20とする。さらに、その半導体層20上に透光性導体層21を形成する。そして、太陽電池として所望の電力を取り出すために所定のパターン形状に銀ペースト等を塗布して、グリッド電極あるいはフィンガー電極及びバスバー電極等の電極22を形成する。このようにして、導電性基板17を一方の電極にし、電極22を他方の電極とすることにより、太陽電池としての光電変換装置が得られる。
【0111】
なお、第2の導電型の半導体層20を形成するには、単結晶シリコン粒子16の導電性基板17への接合に先立って、単結晶シリコン粒子16の表面に工程コストの低い熱拡散法により形成してもよい。この場合、例えば、第2の導電型のドーパントとして、V族のP,As,SbやIII族のB,Al,Ga等を用い、石英からなる拡散炉に単結晶シリコン粒子16を収容し、ドーパントを導入しながら加熱して単結晶シリコン粒子16の表面に第2の導電型の半導体層20を形成する。
【実施例】
【0112】
以下に単結晶シリコン粒子の製造方法の実施例について説明する。
【0113】
[涙滴型の結晶シリコン粒子の製造工程]
Arガスから成る不活性雰囲気ガス中で、坩堝にシリコン原料を充填して昇温し溶解したシリコンの融液を、坩堝の下端部に形成されたノズル部のノズル孔より噴出させて固化させる方法、いわゆる溶融落下法(ジェット法)により、涙滴型の擬似単結晶から成るp型の結晶シリコン粒子を作製した。なお、p型のドーパントとして、結晶シリコン粒子にホウ素を含有させた。また、結晶シリコン粒子の平均粒径は約500μmとした。
【0114】
涙滴型の擬似単結晶から成る結晶シリコン粒子を形成するために、粒状のシリコン融液が落下する石英製の落下管の途中に抵抗加熱式のヒーターを設けて、坩堝から排出された直後の粒状のシリコン融液の過冷却度が64℃程度(粒状のシリコン融液の温度が1350℃程度)となるように制御した。これにより、粒状のシリコン融液に結晶核が数個のみ発生し、粒界が数個しかない擬似単結晶粒子が得られた。
【0115】
[尖頭部の除去工程]
次に、不純物が偏析した尖頭部を有する涙滴型の擬似単結晶化された結晶シリコン粒子とムライトメディアとしての研磨石と純水とを、円筒状の容器内に収容して、回転数200rpmで60分間回転させることにより、結晶シリコン粒子の尖頭部の表面から深さ20μmまでの部位を研磨除去した。
【0116】
この後、結晶シリコン粒子の表面に付着した異物、金属イオン、及び結晶シリコン粒子の表面に形成された微小なクラック、酸化膜等を除去するために、結晶シリコン粒子の表面をフッ酸及びフッ硝酸により洗浄しエッチング処理を行った。エッチング処理による除去は、結晶シリコン粒子の表面から約5μm深さの部分まで行った。
【0117】
[酸窒化膜の形成工程]
次に、結晶シリコン粒子を単結晶化させるために、再溶融工程(リメルト工程)を実施した。まず、石英ガラス製の箱状の台板上に、ホウ素濃度が0.6×1016atoms/cm3であり、平均粒径が500μmの多数(1000個)の結晶シリコン粒子を重層的に載置し、加熱炉である雰囲気焼成炉の内部に設置した石英ガラス製のベルジャー内に収容した。そして、窒素ガス及び酸素ガスをガス供給装置から導入しながら加熱し、ガス圧力0.1MPaでシリコンの融点以下の1300℃まで加熱し60分間保持して、結晶シリコン粒子の表面に厚み0.5μmの酸窒化膜を形成した。1300℃で60分間の加熱を行った後、室温まで降温させた。
【0118】
[単結晶化工程及び突起部の形成工程]
次に、窒素ガス及び酸素ガスまたは混合ガス(窒素ガスと酸素ガスとアルゴンガス)をガス供給装置から導入しながら、ガス圧力0.02MPaでシリコンの融点以上の1440℃まで単結晶シリコン粒子を加熱し5分間保持して、単結晶シリコン粒子表面の酸窒化膜の内側のシリコンを溶融させた後、降温速度を毎分2℃として冷却しながら単結晶シリコン粒子を固化させた。その後、さらに1250℃まで降温させてから、120分間の熱アニール処理を行った。この熱アニール処理後に室温付近まで降温させた。このとき、単結晶シリコン粒子には、1/4程度の個数割合(表1)で、長さ10μm程度の突起部が形成された。
【0119】
[突起部の除去工程]
次に、1000個の平均粒径500μmの単結晶シリコン粒子と、2000個の平均粒径10mmのムライトから成る研磨材を、長さ200mm、直径200mmの円筒状の硬質ゴムから成るバレルポットの内部に収容した。水を単結晶シリコン粒子と研磨材がすべて浸るようにバレルポット内に入れ、硬質ゴムから成る蓋5を閉じた。
【0120】
次に、バレルポットを回転軸(円筒の中心軸)周りに200rpmで回転させ、さらにバレルポットを水平方向(横方向)に直線往復運動させ、10分間単結晶シリコン粒子の研磨処理をした。研磨処理された単結晶シリコン粒子は、突起部が除去されており、さらに加工変質層が形成されていないことが、ラマン分光法によって特定できた。
【0121】
さらに、回収した単結晶シリコン粒子の表面に形成された酸窒化膜をフッ酸によって除去し、フッ硝酸で単結晶シリコン粒子の表面を深さ方向に20μmの厚み分をエッチング除去した。
【0122】
[光電変換装置の製造工程]
次に、1000個の単結晶シリコン粒子を石英製ボート上に載せて、900℃に制御された石英管の中に導入し、POClガスを窒素でバブリングさせて石英管に送り込み、熱拡散法によって30分で単結晶シリコン粒子の表層に約1μmの厚さのn型の半導体層(半導体部)を形成した。その後、フッ酸によって単結晶シリコン粒子の表面の酸窒化膜を除去した。
【0123】
次に、導電性基板として縦50mm×横50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム基板を用い、この上面に1000個の単結晶シリコン粒子を最密充填して配置した。その後、アルミニウムとシリコンとの共晶温度である577℃を超える600℃で、5体積%の水素ガスを含む窒素ガスの還元雰囲気炉中で加熱して、単結晶シリコン粒子の下部を導電性基板に接合させた。このとき、単結晶シリコン粒子が導電性基板と接触している部分には、アルミニウムとシリコンとの共晶から成る接合層が形成されており、強い接着強度を呈していた。
【0124】
さらに、この上から単結晶シリコン粒子同士の間に、それらの上部を露出させてポリイミド樹脂から成る絶縁物質を塗布し乾燥させて、下部電極となる導電性基板と、上部電極となる透光性導体層とを電気的に絶縁分離するようにした。この上に上部電極としてのITOから成る透光性導体層を、スパッタリング法によって全面に約100nmの厚みで形成した。
【0125】
最後に、銀ペーストをディスペンサーでグリッド状にパターン形成して、フィンガー電極及びバスバー電極からなる電極を形成した。なお、この銀ペーストのパターンは、大気中500℃で焼成を行った。これにより、光電変換装置を作製した。
【0126】
そして、上記のように光電変換装置を製造するに際して、単結晶シリコン粒子にバレル研磨加工を施して突起部を除去した場合と、バレル研磨加工を実施しなかった場合について、突起部の残留割合と光電変換効率を測定した結果を表1に示す。光電変換装置の光電変換効率は、AM1.5のソーラーシミュレーターによって測定した。
【0127】
【表1】

表1に示す通り、全ての単結晶シリコン粒子の突起部は、バレル研磨加工により除去された。また、光電変換効率もバレル研磨加工をしたものが高く良好な結果であった。これは、1)シリコン原料に含まれていた鉄,ニッケル等の金属不純物及び製造工程で入り込んだ炭素等の不純物を、突起部を除去することによって除去することができたこと、2)酸窒化膜によって表面が保護された単結晶シリコン粒子から表面を実質的に加工変質させずに突起部を除去することができたこと、3)突起部が除去されることによって、単結晶シリコン粒子は真球状に近い形状となり、光電変換装置を製造する際に導電性基板上に多数の単結晶シリコン粒子を位置精度を高めて配列できたこと、が原因していると考えられる。
【0128】
なお、本発明は以上の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、リメルト工程において単結晶シリコン粒子を加熱して溶融させるのに、加熱炉ではなく、台板の上面に載置した単結晶シリコン粒子の上方から光エネルギーを照射することによって溶融させる方法を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法について一例を示し、単結晶シリコン粒子と研磨材がバレルポット内に収容された様子を示す概略的断面図である。
【図2】本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法における突起部を有する単結晶シリコン粒子の断面図である。
【図3】本実施の形態の単結晶シリコン粒子の製造方法によって得られた単結晶シリコン粒子を用いて作製される光電変換装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0130】
1:バレルポット
2:研磨材
3:単結晶シリコン粒子
4:バレルポットの回転の中心軸(回転軸)
5:バレルポットの蓋
11:酸窒化膜
12:突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物が偏析した突起部を有するとともに表面に酸窒化膜が形成された単結晶シリコン粒子の前記突起部を、前記表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記研磨加工はバレル研磨加工である請求項1記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記バレル研磨加工は、直径が前記単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いる請求項2記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記研磨材は、材質がアルミナ,窒化珪素,炭化珪素,ムライト,シリカ及びジルコニアのうち少なくとも1種を含むものである請求項3記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項5】
前記バレル研磨加工は、バレルの回転速度が50乃至500rpmである請求項2乃至4のいずれか記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項6】
坩堝のノズル部からシリコン融液を粒状に排出し、この粒状のシリコン融液を冷却して凝固させることによって、不純物が偏析した尖頭部を有する擬似単結晶化された結晶シリコン粒子を製造する工程と、前記結晶シリコン粒子の前記尖頭部を除去する工程と、前記結晶シリコン粒子の表面に酸窒化膜を形成する工程と、前記結晶シリコン粒子を加熱して酸窒化膜の内側を再溶融させ凝固させることによって、不純物が偏析した突起部を有するとともに表面に酸窒化膜が形成された単結晶シリコン粒子を製造する工程と、前記単結晶シリコン粒子の前記突起部を、前記表面を実質的に加工変質させずに研磨加工によって除去する工程と、を具備する単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項7】
前記研磨加工はバレル研磨加工である請求項6記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項8】
前記バレル研磨加工は、直径が前記単結晶シリコン粒子の3倍乃至30倍の球状である研磨材を用いる請求項7記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項9】
前記研磨材は、材質がアルミナ,窒化珪素,炭化珪素,ムライト,シリカ及びジルコニアのうち少なくとも1種を含むものである請求項8記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項10】
前記バレル研磨加工は、バレルの回転速度が50乃至500rpmである請求項7乃至9のいずれか記載の単結晶シリコン粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167052(P2009−167052A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6502(P2008−6502)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】