説明

四輪駆動車の動力伝達装置及び動力伝達方法

【課題】四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能を有する四輪駆動車に対し、構成の簡素化及び小型化を図ることができる四輪駆動車の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】遊星歯車機構30のキャリアCAをモータジェネレータ2の出力軸26に、リングギヤRをリヤプロペラシャフト51に、サンギヤSをフロントプロペラシャフト41にそれぞれ接続する。サンギヤSを車体側に固定可能とするスリーブ機構と、フロントディファレンシャルギヤ44と右側車輪4Rとの間のトルク伝達を遮断可能とするディスコネクト機構46とを備えさせる。スリーブ機構を解放状態とし且つディスコネクト機構46を係合状態とすることで4WD−Loモードを成立させる。スリーブ機構を係合状態とし且つディスコネクト機構46を解放状態とすることで2WD−Hiモードを成立させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り換え可能に構成された四輪駆動車の動力伝達装置及び動力伝達方法に係る。特に、本発明は、二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り換えるための機構及び高速レンジと低速レンジとを切り換えるための機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車の中には、悪路走行等に適した四輪駆動状態(以下、四輪駆動モードと呼ぶ場合もある)と、エネルギ消費率(内燃機関の場合には燃料消費率)の改善が図れる二輪駆動状態(以下、二輪駆動モードと呼ぶ場合もある)とが切り換え可能な動力分配機構(モード切り換え機構)を備えたものがある。また、駆動源からの回転出力を減速させることなく出力する高速レンジ(Hi)と減速させて出力する低速レンジ(Lo)とが切り換え可能な副変速機(レンジ切り換え機構)を備えたものもある。
【0003】
例えば、下記の特許文献1及び特許文献2には、これら動力分配機構及び副変速機の両方を備えた車両が開示されている。
【0004】
具体的に、上記動力分配機構としては、駆動源から入力される回転動力を例えば後輪側出力軸(リヤプロペラシャフト)のみに出力する二輪駆動モードと、駆動源から入力される回転動力を上記後輪側出力軸及び前輪側出力軸(フロントプロペラシャフト)の両方に出力する四輪駆動モードとが切り換え可能となっている。そして、これらモードを切り換えるための具体構成としては、各特許文献にも開示されているように、後輪側出力軸への動力伝達経路と前輪側出力軸への動力伝達経路との間にクラッチ機構を介在させている。つまり、このクラッチ機構を係合状態にすることで四輪駆動モードとなり、また、クラッチ機構を解放状態にすることで二輪駆動モードとなる構成である。
【0005】
また、副変速機としては、遊星歯車機構が備えられ、この遊星歯車機構からカップリングスリーブ(以下、単にスリーブと呼ぶ)を介して回転動力が出力されるようになっている。つまり、駆動源からの回転動力が、遊星歯車機構、スリーブを経て駆動輪(二輪駆動モードでは例えば後輪のみ、四輪駆動モードでは前輪及び後輪の両方)に向けて、回転数調整されて出力される構成となっている。上記スリーブは、アクチュエータ等の作動力を受けることで軸心に沿ってスライド移動可能となっている。例えば、特許文献1に開示されているものでは、上記遊星歯車機構のキャリアに回転一体の高速レンジ用ピースに噛み合うスライド位置と、リングギヤに隣接して回転可能に配設された低速レンジ用ピースに噛み合うスライド位置との間でスリーブがスライド移動可能となっている。そして、このスリーブが、高速レンジ用ピース及びリングギヤに噛み合うスライド位置まで移動すると、リングギヤ、キャリア及びサンギヤが回転一体となる高速レンジ(遊星歯車機構の入力回転数と出力回転数とが一致する高速レンジ)が成立する。また、スリーブが、低速レンジ用ピース及びリングギヤに噛み合うスライド位置まで移動すると、リングギヤとサンギヤとが相対回転可能な状態となる低速レンジ(遊星歯車機構の入力回転数に対して出力回転数が低くなる低速レンジ)が成立するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−126457号公報
【特許文献2】特開平10−250395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した如く、動力分配機構及び副変速機の両方を備えた車両にあっては、これら動力分配機構及び副変速機がそれぞれ個別の機構として配設されている。このため、これら機構を組み込んだ駆動力伝達切換機構(トランスファ)にあっては、その構成の複雑化や大型化を招いており、これらを改善すること(構成の簡素化や小型化を図ること)が難しかった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能を有する四輪駆動車に対し、構成の簡素化及び小型化を図ることができる四輪駆動車の動力伝達装置及び動力伝達方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、駆動源からの回転駆動力を受ける遊星歯車機構の各回転要素(三要素)の回転を許容して前後輪へのトルク伝達を行う四輪駆動状態と、特定の回転要素の回転を禁止して前後輪のうちの一方のみへのトルク伝達を行う二輪駆動状態とを切り換え可能とし、この二輪駆動状態にあっては、トルク伝達が行われない副駆動輪のうちの一方を差動装置から切り離すことで、上記特定の回転要素の回転を禁止した状態でありながらも、この回転要素に繋がる各副駆動輪の回転を可能にしている。これにより、四輪駆動状態での低速モードと二輪駆動状態での高速モード(駆動源の回転数に対して遊星歯車機構からの出力回転数を増速させるモード)とを一つの機構で成立可能にしている。
【0010】
−解決手段−
具体的に、本発明は、駆動源からの駆動力を主駆動輪と副駆動輪とに分配可能であり、駆動源からの駆動力を副駆動輪に伝達せず主駆動輪のみに伝達する二輪駆動状態と、駆動源からの駆動力を主駆動輪及び副駆動輪の両方に伝達する四輪駆動状態とが切り換え可能に構成された四輪駆動車の動力伝達装置を前提とする。この四輪駆動車の動力伝達装置に対し、駆動源からの駆動力を伝達する駆動力伝達経路上に配設された遊星歯車機構に、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素の3つの回転要素を備えさせ、上記第2回転要素に上記駆動源を接続し、第1回転要素及び第3回転要素のうち一方の回転要素に主駆動輪を接続し、他方の回転要素に副駆動輪を接続する。また、この他方の回転要素を回転停止状態とする係合状態とこの他方の回転要素の回転を許容する解放状態との間で切り換え可能とされた回転停止手段を配設する。また、上記他方の回転要素と副駆動輪との間に、トルク伝達を行う係合状態と、トルク伝達を遮断する解放状態との間で切り換え可能とされた係合手段を配設する。そして、上記回転停止手段を解放状態とし且つ上記係合手段を係合状態として上記四輪駆動状態とする一方、上記回転停止手段を係合状態とし且つ上記係合手段を解放状態として上記主駆動輪が接続された上記一方の回転要素が上記第2回転要素に対して回転速度が増速される二輪駆動状態とする構成としている。
【0011】
この特定事項により、上記回転停止手段及び係合手段の各状態の組み合わせによって、回転速度を増速させない四輪駆動状態(低速四輪駆動状態)と、回転速度を増速させる二輪駆動状態(高速二輪駆動状態)とを成立させることができる。その結果、センタディファレンシャル機能を発揮する四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、エネルギ消費率の改善が図れる高速レンジと悪路走行や発進等に適した低速レンジとの切り換え機能とを、構成の簡素化や小型化を図りながら実現することが可能になる。
【0012】
上記遊星歯車機構の具体構成としては以下のものが挙げられる。先ず、遊星歯車機構をシングルピニオン型遊星歯車機構とする。そして、上記第1回転要素をリングギヤとし、上記第2回転要素をプラネタリキャリアとし、上記第3回転要素をサンギヤとする。
【0013】
また、遊星歯車機構を、ダブルピニオン型遊星歯車機構とする場合には、上記第1回転要素をプラネタリキャリアとし、上記第2回転要素をリングギヤとし、上記第3回転要素をサンギヤとする。
【0014】
上記シングルピニオン型遊星歯車機構は、ギヤ比ρが、「リングギヤ歯数/(サンギヤ歯数+リングギヤ歯数)」となり、ギヤ比ρを「0.5」付近に設定することが困難であるため、前輪側及び後輪側への各トルクを不等配分する場合に適した構成となる。一方、ダブルピニオン型遊星歯車機構は、ギヤ比ρが、「サンギヤ歯数/リングギヤ歯数」となるため、前輪側及び後輪側への各トルクを等配分する場合に適した構成となる。
【0015】
上記係合手段の配設位置として具体的には、左右の副駆動輪の差動を許容する差動機構と、一方の副駆動輪との間に設けられている。
【0016】
この構成によれば、差動機構の回転を停止した状態での走行が可能となり、この差動機構の回転による動力損失を削減できる。その結果、エネルギ消費率の改善を図ることができる。
【0017】
上記回転停止手段及び上記係合手段の具体構成としては、これらのうち少なくとも一方を、多板クラッチで構成することが挙げられる。
【0018】
この構成によれば、四輪駆動状態と二輪駆動状態との間での切り換え時に、多板クラッチの係合動作または半係合動作を実行することにより、駆動輪に対する駆動力の抜け(駆動力が伝わらない状態)を防止することが可能となり、この切り換え時における走行性能を良好に確保することが可能になる。
【0019】
また、四輪駆動状態と二輪駆動状態との間で駆動力伝達状態を切り換えるための構成としては、上記四輪駆動状態において、上記係合手段を完全解放した後、上記回転停止手段を完全係合させることによって二輪駆動状態に切り換え、二輪駆動状態において、上記回転停止手段を完全解放した後、上記係合手段を完全係合させることによって四輪駆動状態に切り換える駆動モード切り換え手段を備えさせている。
【0020】
この四輪駆動状態と二輪駆動状態との間で駆動力伝達状態を切り換えるための方法としては、上記四輪駆動状態での走行状態から二輪駆動状態での走行状態に切り換える際、上記係合手段を完全解放した後、上記回転停止手段を完全係合させる一方、上記二輪駆動状態での走行状態から四輪駆動状態での走行状態に切り換える際、上記回転停止手段を完全解放した後、上記係合手段を完全係合させるようにする。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、駆動源からの回転駆動力を受ける遊星歯車機構の各回転要素(三要素)の回転を許容して前後輪へのトルク伝達を行う四輪駆動状態と、特定の回転要素の回転を禁止して前後輪のうちの一方のみへのトルク伝達を行う二輪駆動状態とを切り換え可能とすることで、四輪駆動状態での低速モードと二輪駆動状態での高速モードとを一つの機構で成立可能にしている。このため、四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能とを、構成の簡素化や小型化を図りながら実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を模式的に示す図であって、4WD−Loモードでの走行状態を示す図である。
【図2】モータジェネレータの駆動制御回路を含む制御系の概略構成を示す図である。
【図3】第1実施形態の4WD−Loモードでの走行状態における共線図である。
【図4】第1実施形態の4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図5】第1実施形態の4WD−2WD切換モードでの共線図である。
【図6】第1実施形態の2WD−Hiモードでの走行状態における動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図7】第1実施形態の2WD−Hiモードでの走行状態における共線図である。
【図8】第1実施形態において、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャート図である。
【図9】第1実施形態において、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャート図である。
【図10】第2実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を模式的に示す図であって、4WD−Loモードでの走行状態を示す図である。
【図11】第2実施形態の4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図12】第2実施形態の2WD−Hiモードでの走行状態における動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図13】第3実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を模式的に示す図であって、4WD−Loモードでの走行状態を示す図である。
【図14】第3実施形態の4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図15】第3実施形態の2WD−Hiモードでの走行状態における動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図16】第3実施形態の4WD−2WD切換モードでの共線図である。
【図17】第3実施形態において、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャート図である。
【図18】第3実施形態において、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャート図である。
【図19】第4実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を模式的に示す図であって、4WD−Loモードでの走行状態を示す図である。
【図20】第4実施形態の4WD−Loモードでの走行状態における共線図である。
【図21】第4実施形態の4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図22】第4実施形態の4WD−2WD切換モードでの共線図である。
【図23】第4実施形態の2WD−Hiモードでの走行状態における動力伝達装置を模式的に示す図である。
【図24】第4実施形態の2WD−Hiモードでの走行状態における共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、本発明を電気自動車(Electric Vehicle)に適用した場合について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。本実施形態では、後輪駆動ベースの四輪駆動車に対して本発明に係る動力伝達装置を適用した場合について説明する。つまり、二輪駆動モードでは後輪(主駆動輪)のみに駆動力が伝達され、四輪駆動モードでは前輪(副駆動輪)及び後輪の両方に駆動力が伝達される四輪駆動車に本発明を適用した場合について説明する。
【0025】
−動力伝達装置の全体構成−
図1は、本実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置1を模式的に示す図である。この図1に示すように、動力伝達装置1は、駆動源であるモータジェネレータ(M/G)2の回転駆動力をトランスファ(動力分配機構)3によって前輪4L,4R側及び後輪5L,5R側へ分配可能な構成となっている。つまり、二輪駆動モードでは、モータジェネレータ(駆動源)2の回転駆動力をトランスファ3によってリヤプロペラシャフト(後輪側動力伝達軸)51へ伝達し、後輪5L,5Rのみを駆動輪とする走行状態にする。一方、四輪駆動モードでは、モータジェネレータ2の回転駆動力をトランスファ3によってフロントプロペラシャフト(前輪側動力伝達軸)41及びリヤプロペラシャフト51へそれぞれ伝達し、前輪4L,4R及び後輪5L,5Rを共に駆動輪とする走行状態にする。以下、動力伝達装置1の各部について説明する。
【0026】
−モータジェネレータ2及びその駆動回路−
上記モータジェネレータ2は交流同期電動機で構成され、車両の駆動源(電動機)として機能すると共に、車両減速時などの回生時には発電機としても機能する。
【0027】
このモータジェネレータ2の駆動を制御するための構成の概略について図2を用いて説明する。この図2に示すように、モータジェネレータ2の駆動回路は、モータジェネレータ2を駆動するためのインバータ21、充放電可能なバッテリ22、このバッテリ22からの電力を変換してインバータ21に供給する昇圧コンバータ23を備えている。また、昇圧コンバータ23のバッテリ22側には平滑用コンデンサ24が接続され、昇圧コンバータ23のインバータ21側にも平滑用コンデンサ25が接続されている。
【0028】
また、上記各平滑用コンデンサ24,25それぞれの端子間には、これら端子間の電圧を検出する電圧センサ61,62が設けられている。更に、モータジェネレータ2の近傍には、このモータジェネレータ2の温度を検出するための温度センサ63が配設されている。これらセンサ61〜63から出力された検出信号は電気自動車の運転状態を制御するECU7に入力される。このECU7には、上記各センサ61,62,63の他に、車両の運転者によって操作されるシフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ64、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ65、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ66、車速を検出する車速センサ67、大気圧を検出する大気圧センサ68、モータジェネレータ2の回転数を検出するモータ回転数センサ69等の各検出信号が入力されるようになっている。その他のセンサについては後述する。
【0029】
そして、上記ECU7は、上記各センサ61〜69からの検出信号に応じて上記インバータ21や昇圧コンバータ23の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御してモータジェネレータ2の出力を制御する。具体的なモータジェネレータ2の制御としては、先ず、アクセル開度センサ65からのアクセル開度信号と車速センサ67からの車速信号とに応じて運転者がモータジェネレータ2に要求している要求トルクを決定する。続いて、この要求トルクと上記モータ回転数センサ69によって検出されたモータジェネレータ2の回転数とに基づき、要求トルクやモータジェネレータ2の回転数が高いほどインバータ21に作用させるべき制御用電圧を大きく設定し、この制御用電圧に対してモータジェネレータ2を保護するための制限電圧による制限を課してインバータ21に作用させる目標電圧を決定する。そして、インバータ21に作用する電圧が目標電圧となるよう昇圧コンバータ23のスイッチング素子をスイッチング制御すると共に上記電圧センサ62により検出される電圧に対してモータジェネレータ2から出力可能なトルクの範囲内でモータジェネレータ2から要求トルクが出力されるようインバータ21のスイッチング素子をスイッチング制御する。
【0030】
このようなモータジェネレータ2の制御により、モータジェネレータ2の出力軸26から出力される回転駆動力はトランスファ3に伝達され、このトランスファ3によって、二輪駆動モードでは回転駆動力がリヤプロペラシャフト51へ伝達され、四輪駆動モードでは回転駆動力がフロントプロペラシャフト41及びリヤプロペラシャフト51それぞれへ伝達されることになる。これにより、モータジェネレータ2を保護できる範囲内で要求トルクを出力して車両が走行するようになっている。尚、上述したモータジェネレータ2の駆動回路及び制御動作はこれに限定されるものではない。
【0031】
また、上記バッテリ22は、ニッケル水素、リチウムイオン等の二次電池や燃料電池などが適用される。また、バッテリ22に代わる蓄電装置として、電気二重層コンデンサ等の大容量キャパシタなどを用いることも可能である。
【0032】
尚、上述した二輪駆動モード(以下、2WDモードと呼ぶ場合もある)及び四輪駆動モード(以下、4WDモードと呼ぶ場合もある)それぞれにおけるトランスファ3の動作については後述する。
【0033】
−トランスファ3−
次に、本実施形態の特徴とする構成であるトランスファ3について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るトランスファ3は、駆動力伝達経路(モータジェネレータ2から駆動輪に亘る駆動力伝達経路)上に配設され、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構30を備えている。この遊星歯車機構30は、外歯歯車で成るサンギヤSと、このサンギヤSと同心円上に配置された内歯歯車で成るリングギヤRと、上記サンギヤSに噛み合うとともにリングギヤRに噛み合う複数のピニオンギヤPと、この複数のピニオンギヤPを自転且つ公転自在に保持するキャリアCAとを備え、これらサンギヤS、リングギヤR及びキャリアCAを回転要素(第1〜第3の回転要素)として差動作用を行う構成とされている。本実施形態では、リングギヤRが本発明でいう第1回転要素となり、キャリアCAが本発明でいう第2回転要素となり、サンギヤSが本発明でいう第3回転要素となっている。
【0034】
この遊星歯車機構30のキャリア(第2回転要素)CAには、上記モータジェネレータ2の出力軸26が回転一体に連結されている。また、遊星歯車機構30のサンギヤ(第3回転要素)Sには、上記モータジェネレータ2の出力軸26が挿通される筒状のスリーブ部材(筒状部材)31が、回転一体に連結されている。そして、遊星歯車機構30のリングギヤ(第1回転要素)Rには、上記リヤプロペラシャフト51が回転一体に連結されている。
【0035】
上記リヤプロペラシャフト51は、トランスファ3から車体後方に向かって延び、リヤディファレンシャルギヤ(差動機構)52及び左右のリヤドライブシャフト53L,53Rを介して各後輪5L,5Rに連結されている。
【0036】
リヤディファレンシャルギヤ52は、デフケース52aにリングギヤ52bが一体的に設けられている。このリングギヤ52bは、リヤプロペラシャフト51の後端部に一体的に設けられたドライブピニオンギヤ51aと噛合されている。リヤディファレンシャルギヤ52は、左右のリヤドライブシャフト53L,53Rへのトルクの差動配分を行う差動動作が可能なものであれば、いかなる構成のものであってもよい。図1に示す例では、リヤディファレンシャルギヤ52として、互いに噛み合いながら回転する一対のピニオンギヤ52c,52c及び一対のサイドギヤ52d,52dを備えたものが用いられている。ピニオンギヤ52c,52c及びサイドギヤ52d,52dは、デフケース52a内に収容されている。リヤディファレンシャルギヤ52のデフケース52aの内部には、潤滑油(オイル)が貯留されており、リヤディファレンシャルギヤ52の構成部材などがオイルによって潤滑されるようになっている。
【0037】
一方、上記スリーブ部材31の外周面にはドライブスプロケット32が回転一体に取り付けられている。また、上記フロントプロペラシャフト41には、ドリブンスプロケット42が回転一体に取り付けられている。そして、これらドライブスプロケット32とドリブンスプロケット42との間にはチェーン43が架け渡されており、ドライブスプロケット32の回転力がチェーン43及びドリブンスプロケット42を介してフロントプロペラシャフト41に伝達されるようになっている。
【0038】
上記フロントプロペラシャフト41は、トランスファ3から車体前方に向かって延び、フロントディファレンシャルギヤ(差動機構)44及び左右のフロントドライブシャフト45L,45Rを介して各前輪4L,4Rに連結されている。フロントディファレンシャルギヤ44の構成及び機能は上述したリヤディファレンシャルギヤ52と同様である。つまり、デフケース44a、フロントプロペラシャフト41のドライブピニオンギヤ41aと噛み合うリングギヤ44b、ピニオンギヤ44c,44c、サイドギヤ44d,44dを備えた構成となっている。
【0039】
更に、上記スリーブ部材31の外周面における上記ドライブスプロケット32の前方側には、このドライブスプロケット32よりも小径の二輪駆動用ピース33が回転一体に取り付けられている。この二輪駆動用ピース33の外周面にはスプラインが形成されている。一方、車体側には、上記二輪駆動用ピース33と略同径のロック用ピース34が固定されている。このロック用ピース34は上記二輪駆動用ピース33に対向して配設されており、その外周面にスプラインが形成されている。そして、これら二輪駆動用ピース33及びロック用ピース34の外周側にはロック用スリーブ(回転停止手段)35が配設されている。このロック用スリーブ35は、モータジェネレータ2の出力軸26の延長方向(車体前後方向)に沿ってスライド移動自在となっていると共に、その内周面には、上記二輪駆動用ピース33及びロック用ピース34の各外周面に形成されたスプラインに係合可能なスプラインが形成されている。
【0040】
上記ロック用スリーブ35は、その外周面に凹部35aが形成されており、この凹部35aに係止された図示しないシフトフォークがアクチュエータ(ロック用スリーブアクチュエータ36:例えば電動式のソレノイドやモータ等を利用したアクチュエータ(図2を参照))の作動に伴って移動することに伴い、ロック用ピース34のみに係合するスライド位置(図1に示すスライド位置)と、ロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合するスライド位置(図6に示すスライド位置)との間でスライド移動可能となっている。このロック用スリーブ35がロック用ピース34のみに係合するスライド位置にある場合には、二輪駆動用ピース33は回転自在とされる。つまり、スリーブ部材31及びサンギヤSは回転自在とされる。これに対し、ロック用スリーブ35がロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合するスライド位置にある場合には、二輪駆動用ピース33は車体側に固定され回転不能とされる。つまり、スリーブ部材31及びサンギヤSは車体側に固定され回転不能とされる。これら各状態における回転駆動力の伝達状態及び車両走行状態については後述する。
【0041】
尚、上記二輪駆動用ピース33を車体側に固定可能とするための構成は上述のものには限られない。また、ロック用スリーブ35をスライド移動させるロック用スリーブアクチュエータ36は、電動式のものに限らず油圧式のものであってもよい。
【0042】
また、上記左右のフロントドライブシャフト45L,45Rのうち、右側のフロントドライブシャフト45Rには、右側の前輪4Rに対するトルクの伝達/非伝達を切り換えるクラッチ機構46(以下、ディスコネクト機構と呼ぶ場合もある:係合手段)が設けられている。このディスコネクト機構46は、フロントディファレンシャルギヤ44と右側の前輪4Rとの間でトルク伝達を行う伝達状態と、トルク伝達を行わない非伝達状態(遮断状態)とを切り換えるように構成されている。
【0043】
具体的に、右側のフロントドライブシャフト45Rは、フロントディファレンシャルギヤ44側に位置する内側フロントドライブシャフト45Raと、右側の前輪4R側に位置する外側フロントドライブシャフト45Rbとに分割されている。ディスコネクト機構46は、上記内側フロントドライブシャフト45Raの車幅方向外側端に取り付けられた内側係合プレート45aと、上記外側フロントドライブシャフト45Rbの車幅方向内側端に取り付けられた外側係合プレート45bと、これら係合プレート45a,45bの係合及び非係合を切り換えるスリーブ47(以下、ディスコネクトスリーブと呼ぶ場合もある)とを備えている。
【0044】
各係合プレート45a,45bは互いに同一径であって、その外周面にはスプラインがそれぞれ形成されている。一方、上記ディスコネクトスリーブ47の内周面には、上記各係合プレート45a,45bの各外周面に形成されているスプラインに係合可能なスプラインが形成されている。上記ディスコネクトスリーブ47は、その外周面に凹部47aが形成されており、この凹部47aに係止された図示しないシフトフォークがアクチュエータ(ディスコネクトスリーブアクチュエータ48:例えば電動式のソレノイドやモータ等を利用したアクチュエータ(図2を参照))の作動に伴って移動することにより、内側係合プレート45a(または外側係合プレート45b)のみに係合するスライド位置(図6に示すスライド位置)と、各係合プレート45a,45bの両方に係合するスライド位置(図1に示すスライド位置)との間でスライド移動可能となっている。このディスコネクトスリーブ47が一方の係合プレート45a(または45b)のみに係合するスライド位置にある場合には、右側の前輪4Rにはトルクが伝達されない状態となる(非伝達状態となる)。これに対し、ディスコネクトスリーブ47が各係合プレート45a,45bの両方に係合するスライド位置にある場合には、右側の前輪4Rにトルクが伝達可能な状態となる。これら各状態における回転駆動力の伝達状態及び車両走行状態については後述する。
【0045】
尚、上記ディスコネクト機構46は、フロントディファレンシャルギヤ44側と、前輪4R側との間でトルクの伝達/非伝達を切り換えることが可能なものであれば、いかなる構成のものであってもよいし、配置箇所も特に限定されない。また、このディスコネクト機構46は、上記フロントプロペラシャフト41上に配設されていてもよい。また、ディスコネクトスリーブアクチュエータ48は、電動式のものに限らず油圧式のもの(例えば油圧式の多板クラッチ等)であってもよい。
【0046】
また、上記ECU7に接続されるセンサ類としては、図2に示すように、上述した各センサ61〜69に加えて、操舵角センサ81、ロック用スリーブ位置検出センサ82、ディスコネクトスリーブ位置検出センサ83、スリーブ回転数検出センサ84、フロントドライブシャフト回転数センサ85、車輪回転数センサ86が設けられている。
【0047】
上記操舵角センサ81は、運転者によって操作される図示しないステアリングホイールの操舵角を検出する。この操舵角の検出信号に基づき、現在の車両の走行状態が直進走行状態であるか、旋回走行状態であるかが判断される。
【0048】
ロック用スリーブ位置検出センサ82は、上記ロック用スリーブ35のスライド移動位置を検出する。つまり、このロック用スリーブ35が、ロック用ピース34のみに係合するスライド位置(図1に示すスライド位置)にあるのか、ロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合するスライド位置(図6に示すスライド位置)にあるのかを検出する。位置検出のための手法としてはポテンショメータやエンコーダ等の周知のものが利用される(ディスコネクトスリーブ位置検出センサ83も同様)。
【0049】
ディスコネクトスリーブ位置検出センサ83は、上記ディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置を検出する。つまり、ディスコネクトスリーブ47が、上記内側係合プレート45aのみに係合するスライド位置(図6に示すスライド位置)にあるのか、内側係合プレート45a及び外側係合プレート45bの両方に係合するスライド位置(図1に示すスライド位置)にあるのかを検出する。
【0050】
スリーブ回転数検出センサ84は、上記スリーブ部材31の回転数(サンギヤSの回転数に一致)を検出する。つまり、このスリーブ部材31の回転数を検出することにより、サンギヤSの回転数を検出する。
【0051】
フロントドライブシャフト回転数センサ85は、上記内側フロントドライブシャフト45Raの回転数を検出する。車輪回転数センサ86は、上記外側フロントドライブシャフト45Rbの回転数を検出する。これらセンサの検出信号は、内側フロントドライブシャフト45Raの回転数が外側フロントドライブシャフト45Rbの回転数に一致しているか否か(回転が同期しているか否か)の判定に使用される。
【0052】
上記ECU7は、例えば、マイクロコンピュータを主体に構成された電子回路から成り、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。ROMには、各種制御プログラム、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサ61〜69、81〜86から入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。
【0053】
そして、ECU7は、上記各種センサ61〜69、81〜86からの検出信号及び各種スイッチ(例えば運転者により操作される2WD/4WD切換スイッチ等)の設定に基づいて、モータジェネレータ2の制御、ロック用スリーブ35をスライド移動させるためのロック用スリーブアクチュエータ36の制御、ディスコネクトスリーブ47をスライド移動させるためのディスコネクトスリーブアクチュエータ48の制御等の各種制御を行う。
【0054】
−車両走行モード−
次に、上述の如く構成された車両(四輪駆動車)の走行モードについて説明する。
【0055】
本実施形態に係る四輪駆動車は、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、四輪駆動状態で且つ低速レンジ(以下、4WD−Loモードと呼ぶ場合もある)での走行状態と、二輪駆動状態で且つ高速レンジ(以下、2WD−Hiモードと呼ぶ場合もある)での走行状態とが切り換え可能となっている。以下、具体的に説明する。
【0056】
<4WD−Loモード>
図1は、4WD−Loモードでの走行状態を示している。この4WD−Loモードでは、ロック用スリーブ35が解放状態(ロック用ピース34のみに係合した状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が係合状態(各係合プレート45a,45bの両方に係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSがキャリアCAに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤR及びサンギヤSに分配される。このため、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤR、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。また、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、サンギヤS、スリーブ部材31、ドライブスプロケット32、チェーン43、ドリブンスプロケット42、フロントプロペラシャフト41、フロントディファレンシャルギヤ44、各フロントドライブシャフト45L,45Rを経て各前輪4L,4Rに伝達される。これにより、4WD−Loモードでの走行が行われる。
【0057】
図3は、この4WD−Loモードでの走行状態における共線図である。この共線図では縦軸が回転数を現しており、各矢印の長さがトルクの大きさを現している。また、図中左側から順にリングギヤRの回転数(リヤプロペラシャフト51の回転数に一致:リヤ出力)、キャリアCAの回転数(モータジェネレータ2の出力軸26の回転数に一致:入力)、右側の前輪4Rの回転数(右フロント出力)、サンギヤSの回転数(フロントプロペラシャフト41の回転数に一致:フロント出力)、左側の前輪4Lの回転数(左フロント出力)となっている。尚、図中のρはサンギヤSとリングギヤRとのギヤ比であり、モータジェネレータ2の出力トルクTINに対して、リングギヤR(リヤ出力)には「ρTIN」のトルクが、サンギヤS(フロント出力)には「(1−ρ)TIN」のトルクが与えられることになる。また、図中に破線で示す矢印は、サンギヤS(フロント出力)に与えられたトルク「(1−ρ)TIN」が振り分けられて左右の前輪4L,4Rに与えられるトルクを示し、図中に一点鎖線で示す矢印は、サンギヤS(フロント出力)に作用する反力を示している。
【0058】
このように、モータジェネレータ2の回転数(NIN)に略一致した回転数でリヤプロペラシャフト51(リヤ出力)及びフロントプロペラシャフト41(フロント出力)が回転し、前後輪4L,4R,5L,5Rの全てが駆動輪となる四輪駆動状態で、且つ低速モード(モータジェネレータ2の回転数を増速することなく出力するモード)での走行状態となる。
【0059】
また、図3に示す状態では、各前輪4L,4R及び各後輪5L,5Rにスリップが発生しておらず、回転数が略一致した走行状態を示している。仮に後輪5L,5Rにスリップが発生した場合には、図3に仮想線で示す状態となり、キャリアCAの回転数(モータジェネレータ2の回転数に一致)の上昇によって上記各前輪4L,4Rと各後輪5L,5Rとの回転差が吸収されることになる。つまり、トランスファ3がセンタディファレンシャルとして機能することになる。これは、各前輪4L,4Rにスリップが発生した場合も同様である。尚、左右の後輪5L,5R同士の間で回転差が生じた場合には、リヤディファレンシャルギヤ52の差動動作により回転差が吸収され、左右の前輪4L,4R同士の間で回転差が生じた場合には、フロントディファレンシャルギヤ44の差動動作により回転差が吸収されることになる。
【0060】
<2WD−Hiモード>
図6は、2WD−Hiモードでの走行状態を示している。この2WD−Hiモードでは、ロック用スリーブ35が係合状態(ロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合した状態)であり、ディスコネクト機構46のディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート45aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSが車体側に固定されて回転不能となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤRに伝達される。この際、サンギヤSが車体側に固定されていることでキャリアCAの回転に対する反力が得られ、リングギヤRに対して効果的に回転駆動力が伝達される。このため、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤR、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。また、サンギヤSは固定されているため、フロントプロペラシャフト41側への回転駆動力の伝達は行われず、各前輪4L,4Rは駆動輪とはならない。また、この場合、ディスコネクトスリーブ47が解放状態となっており、フロントディファレンシャルギヤ44と右側の前輪4Rとは切り離されている。このため、各前輪4L,4Rは、車両の走行に伴って走行方向(順方向)に回転している。また、サンギヤSが固定され、フロントプロペラシャフト41の回転が停止していることに伴い、フロントディファレンシャルギヤ44のデフケース44aの回転も停止している。この場合、フロントディファレンシャルギヤ44では、各サイドギヤ44d,44dが互いに逆方向に回転することになる。つまり、フロントドライブシャフト45Rのうち内側フロントドライブシャフト45Raは各前輪4L,4Rの回転方向とは逆方向に回転している。これにより、2WD−Hiモードでの走行が行われる。
【0061】
図7は、この2WD−Hiモードでの走行状態における共線図である。この2WD−Hiモードでは、サンギヤSが固定されているため、フロント出力の回転数は「0」となっている。これに対し、リングギヤR(リヤ出力)の回転数NRはキャリアCA(入力)の回転数NINに対して高くなっている。つまり、モータジェネレータ2の回転数(入力回転数)に対しリングギヤRの回転数(リヤ出力回転数)が高くなる増速機能が発揮されることになる。このように、モータジェネレータ2の回転数NINに対してリングギヤRの回転数NRを高くしながら(増速しながら)リヤプロペラシャフト51が回転し、後輪5L,5Rを駆動輪とする二輪駆動状態で、且つ高速モードでの走行状態となる。
【0062】
尚、図7におけるNFLは左側フロントドライブシャフト45Lの回転数であり、NFRは右側フロントドライブシャフト45Rにおける内側フロントドライブシャフト45Raの回転数(逆回転)である。
【0063】
また、図7に示す状態では、各後輪5L,5Rにスリップが発生していない走行状態を示している。仮に後輪5L,5Rにスリップが発生した場合には、図7に仮想線で示す状態となる。尚、左右の後輪5L,5R同士の間で回転差が生じた場合には、リヤディファレンシャルギヤ52の差動動作により回転差が吸収されることになる。
【0064】
−車両走行状態の切り換え動作−
次に、上述した4WD−Loモードと2WD−Hiモードとの切り換え動作について説明する。この切り換え動作の概略について説明すると、例えば車両の発進時や加速時等のように、駆動輪に高いトルクが要求される場合や、運転者により操作される2WD/4WD切換スイッチによって4WDモードに設定された場合には4WD−Loモードとなる。また、車両が一定車速走行状態にある場合や、2WD/4WD切換スイッチによって2WDモードに設定された場合には2WD−Hiモードとなる。これらの切り換え動作が上述した如く、ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47の動作(ロック用スリーブアクチュエータ36の動作及びディスコネクトスリーブアクチュエータ48の動作)により切り換えられる。この場合、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え時には、先ず、ディスコネクトスリーブ47が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、ロック用スリーブ35が解放状態から係合状態に切り換えられることになる。逆に、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え時には、先ず、ロック用スリーブ35が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、ディスコネクトスリーブ47が解放状態から係合状態に切り換えられることになる(本発明における駆動モード切り換え手段によるモード切り換え動作)。以下、具体的に説明する。
【0065】
<4WD−2WD切換モード>
図4は、モード切り換え途中である4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。この図4に示すように、4WD−2WD切換モードでは、ロック用スリーブ35が解放状態(ロック用ピース34のみに係合した状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート45aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSがキャリアCAに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤR及びサンギヤSに分配される。
【0066】
図5は、この4WD−2WD切換モードでの共線図である。この4WD−2WD切換モードにあっては、2WD−Hiモードへの切り換え時には、モータジェネレータ2の回転数(キャリアCAの回転数)を低下させる制御を実行し、キャリアCAの回転数(入力回転数)を低下させることでサンギヤSの回転数(フロント出力回転数)を「0」に向けて低下させていく。つまり、リングギヤR(リヤ出力)の回転数や左フロント出力回転数を低下させることなく(実際には、路面の走行抵抗により徐々に低下している)、サンギヤSの回転数(フロント出力回転数)を低下させていく。このようにサンギヤSの回転数を低下させることにより、解放状態にあるロック用スリーブ35が二輪駆動用ピース33のスプラインに嵌合可能な状態にする。一方、4WD−Loモードへの切り換え時には、モータジェネレータ2の回転数(キャリアCAの回転数)を上昇させる制御を実行し、キャリアCAの回転数(入力回転数)を上昇させることでサンギヤSの回転数(フロント出力回転数)を上昇させ、右フロント出力回転数(内側フロントドライブシャフト45Raの回転数NFR)を左フロント出力回転数NFL(外側フロントドライブシャフト45Rbの回転数に一致)に近付けていく。このように右フロント出力回転数を上昇させることにより、解放状態にあるディスコネクトスリーブ47が外側係合プレート45bのスプラインに係合可能な状態にする。
【0067】
<4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作>
次に、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作について具体的に説明する。図8は、この4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャートである。
【0068】
先ず、ステップST1において、現在の車両の走行状態が、発進時や加速時等であって4WD−Loモードで走行している状態から車両が一定車速走行状態に移行する等して2WD−Hiモードへの切り換え要求がなされた否かを判定する。現在の車両走行状態が4WD−Loモードではない場合や2WD−Hiモードへの切り換え要求がなされていない場合にはステップST1でNO判定されてリターンされる。
【0069】
4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え要求がなされ、ステップST1でYES判定されると、ステップST2に移り、現在の車両の走行状態は直進走行状態であるか否かを判定する。この判定は、上記車速センサ67からの車速検出信号、及び、上記操舵角センサ81からのステアリングホイールの操舵角検出信号に基づいて行われる。つまり、車両が走行中であり且つステアリングホイールの操舵角が略「0」である場合に直進走行状態であると判定される。
【0070】
車両の走行状態が直進走行状態ではなくステップST2でNO判定された場合には、車両は停車中または旋回走行中であるとしてモード切り換え動作を禁止してリターンする。
【0071】
一方、車両の走行状態が直進走行状態でありステップST2でYES判定された場合には、ステップST3に移り、モータジェネレータ2のトルクダウン制御を実行する。このトルクダウン制御は、4WD−Loモードから4WD−2WD切換モードへ移行させるための制御であって、4WD−Loモードにおいて係合状態であったディスコネクトスリーブ47の解放動作を可能とするために行われる。つまり、フロントドライブシャフト45Rへ伝達されるトルクを減少させることでディスコネクトスリーブ47の解放動作を容易にするために行われる。
【0072】
ステップST4では、モータジェネレータ2のトルク(モータトルク)が所定値以下に低下したか否かを判定する。未だ所定値以下に低下していない場合にはステップST4でNO判定され、このモータジェネレータ2のトルクが所定値以下に低下するまでトルクダウン制御を継続する(ステップST3)。この所定値は予め実験またはシミュレーションにより設定されており、上記ディスコネクトスリーブ47の解放動作を容易に行うことが可能な値として設定されている。
【0073】
モータジェネレータ2のトルクが所定値以下に低下し、ステップST4でYES判定された場合には、ステップST5に移り、上記ディスコネクトスリーブアクチュエータ48に対してディスコネクトスリーブ47の解放指令信号を発信する。これにより、ディスコネクトスリーブアクチュエータ48が作動し、ディスコネクトスリーブ47は係合状態から解放状態に向かってスライド移動することになる。
【0074】
ステップST6では、ディスコネクトスリーブ47が解放状態となったか否かを判定する。つまり、ディスコネクトスリーブ47のスライド移動量が、外側係合プレート45bから離脱する量に達したか否かを判定する。この判定は、上記ディスコネクトスリーブ位置検出センサ83の検出信号に基づいて行われる。
【0075】
ディスコネクトスリーブ47が未だ解放状態となっておらず、ステップST6でNO判定された場合には、上記ディスコネクトスリーブアクチュエータ48に対する解放指令信号を継続して発信する(ステップST5)。
【0076】
ディスコネクトスリーブ47が解放状態となり、ステップST6でYES判定された場合、つまり、上記4WD−2WD切換モードが成立した場合には、ステップST7に移り、モータジェネレータ2の同期制御を実行する。この同期制御は、4WD−2WD切換モードから2WD−Hiモードへ移行させるための制御であって、4WD−Loモード及び4WD−2WD切換モードにおいて解放状態であったロック用スリーブ35の係合動作を可能とするために行われる。つまり、サンギヤSの回転数を低下させることで(回転数を「0」とすることで)ロック用スリーブ35の係合動作を容易にするために行われる。具体的には、モータジェネレータ2の回転数を次第に低くしていき、図5及び図7の共線図に示すようにサンギヤS(フロント出力)の回転数を低くしていく。
【0077】
ステップST8では、上記モータジェネレータ2の同期制御により、サンギヤSの回転数が、二輪駆動用ピース33とロック用ピース34との同期回転数(ロック用スリーブ35が係合可能となる同期回転数)に達したか否かを判定する。具体的には、ロック用ピース34は車体側に固定されているため、この同期回転数は略「0」として設定される。つまり、二輪駆動用ピース33の回転数(上記スリーブ部材31及びサンギヤSの回転数に一致)が上記スリーブ回転数検出センサ84によって検出され、この検出される回転数が略「0」に達した時点で、二輪駆動用ピース33が同期回転数に達したと判定される。
【0078】
二輪駆動用ピース33が同期回転数に達しておらず、ステップST8でNO判定された場合には上記モータジェネレータ2の同期制御を継続する(ステップST7)。
【0079】
二輪駆動用ピース33が同期回転数に達し、ステップST8でYES判定された場合には、ステップST9に移り、上記ロック用スリーブアクチュエータ36に対してロック用スリーブ35の係合指令信号を発信する。これにより、ロック用スリーブアクチュエータ36が作動し、ロック用スリーブ35は解放状態から係合状態に向かってスライド移動することになる。
【0080】
ステップST10では、ロック用スリーブ35が係合状態となったか否かを判定する。つまり、ロック用スリーブ35のスライド移動量が、二輪駆動用ピース33に係合する量に達したか否かを判定する。この判定は、上記ロック用スリーブ位置検出センサ82の検出信号に基づいて行われる。
【0081】
ロック用スリーブ35が未だ係合状態となっておらず、ステップST10でNO判定された場合には、上記ロック用スリーブアクチュエータ36に対する係合指令信号を継続して発信する(ステップST9)。
【0082】
ロック用スリーブ35が係合状態となり、ステップST10でYES判定された場合には、ステップST11に移り、モータジェネレータ2の走行トルク制御を実行する。この走行トルク制御は、上記アクセル開度センサ65により検出されるアクセル開度や、車速センサ67により検出される車速に応じて決定される要求トルクが出力されるようにモータジェネレータ2を制御する。
【0083】
以上の動作により、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作が完了する。
【0084】
<2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作>
次に、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作について具体的に説明する。図9は、この2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャートである。
【0085】
先ず、ステップST21において、現在の車両の走行状態が、一定車速走行状態等にあって2WD−Hiモードで走行している状態から加速要求などによって4WD−Loモードへの切り換え要求がなされた否かを判定する。現在の車両走行状態が2WD−Hiモードではない場合や4WD−Loモードへの切り換え要求がなされていない場合にはステップST21でNO判定されてリターンされる。
【0086】
2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え要求がなされ、ステップST21でYES判定されると、ステップST22以降の動作に移る。この図9で示したフローチャートにおけるステップST22〜ステップST24の動作は、上述した4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作において図8で示したフローチャートのステップST2〜ステップST4と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0087】
モータジェネレータ2のトルクが所定値以下に低下し、ステップST24でYES判定された場合には、ステップST25に移り、上記ロック用スリーブアクチュエータ36に対してロック用スリーブ35の解放指令信号を発信する。これにより、ロック用スリーブアクチュエータ36が作動し、ロック用スリーブ35は係合状態から解放状態に向かってスライド移動することになる。
【0088】
ステップST26では、ロック用スリーブ35が解放状態となったか否かを判定する。つまり、ロック用スリーブ35のスライド移動量が、二輪駆動用ピース33から離脱する量に達したか否かを判定する。この判定は、上記ロック用スリーブ位置検出センサ82の検出信号に基づいて行われる。
【0089】
ロック用スリーブ35が未だ解放状態となっておらず、ステップST26でNO判定された場合には、上記ロック用スリーブアクチュエータ36に対する解放指令信号を継続して発信する(ステップST25)。
【0090】
ロック用スリーブ35が解放状態となり、ステップST26でYES判定された場合、つまり、上記4WD−2WD切換モードが成立した場合には、ステップST27に移り、モータジェネレータ2の同期制御を実行する。この同期制御は、4WD−2WD切換モードから4WD−Loモードへ移行させるための制御であって、2WD−Hiモード及び4WD−2WD切換モードにおいて解放状態であったディスコネクトスリーブ47の係合動作を可能とするために行われる。つまり、モータジェネレータ2の回転数を高くし、サンギヤS、フロントプロペラシャフト41、フロントディファレンシャルギヤ44を介し、上記内側フロントドライブシャフト45Raを正転側に回転させる。これにより、この内側フロントドライブシャフト45Raの回転数を外側フロントドライブシャフト45Rbの回転数に近付けていく。具体的には、モータジェネレータ2の回転数を次第に高くしていき、図7及び図5の共線図に示すようにサンギヤS(フロント出力)の回転数を高くしていって、右フロント出力回転数(内側フロントドライブシャフト45Raの回転数(NFR))を高くしていく。
【0091】
ステップST28では、上記モータジェネレータ2の同期制御により、内側フロントドライブシャフト45Raの回転数が、外側フロントドライブシャフト45Rbの回転数と同期したか否かを判定する。つまり、ディスコネクトスリーブ47が係合可能となる同期回転数に達したか否かを判定する。
【0092】
内側フロントドライブシャフト45Raが同期回転数に達しておらず、ステップST28でNO判定された場合には上記モータジェネレータ2の同期制御を継続する(ステップST27)。
【0093】
内側フロントドライブシャフト45Raが同期回転数に達し、ステップST28でYES判定された場合には、ステップST29に移り、上記ディスコネクトスリーブアクチュエータ48に対してディスコネクトスリーブ47の係合指令信号を発信する。これにより、ディスコネクトスリーブアクチュエータ48が作動し、ディスコネクトスリーブ47は解放状態から係合状態に向かってスライド移動することになる。
【0094】
ステップST30では、ディスコネクトスリーブ47が係合状態となったか否かを判定する。つまり、ディスコネクトスリーブ47のスライド移動量が、外側係合プレート45bに係合する量に達したか否かを判定する。この判定は、上記ディスコネクトスリーブ位置検出センサ83の検出信号に基づいて行われる。
【0095】
ディスコネクトスリーブ47が未だ係合状態となっておらず、ステップST30でNO判定された場合には、上記ディスコネクトスリーブアクチュエータ48に対する係合指令信号を継続して発信する(ステップST29)。
【0096】
ディスコネクトスリーブ47が係合状態となり、ステップST30でYES判定された場合には、ステップST31に移り、モータジェネレータ2の走行トルク制御を実行する。この走行トルク制御は、上記アクセル開度センサ65により検出されるアクセル開度や、車速センサ67により検出される車速に応じて決定される要求トルクが出力されるようにモータジェネレータ2を制御する。
【0097】
以上の動作により、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作が完了する。
【0098】
以上説明してきたように、本実施形態では、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードと2WD−Hiモードとが切り換え可能となっている。つまり、四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能を一つの機構によって両立させ、4WD−Loモードではトランスファ3をセンタディファレンシャルとして機能させ、2WD−Hiモードではトランスファ3を増速装置として機能させることができる。このため、例えば4WD−Loモードでの高い発進性能の確保と、2WD−Hiモードでのエネルギ消費率の改善とを一つの機構によって達成することができる。従来技術では、四輪駆動状態と二輪駆動状態とを切り換えるための動力分配機構、及び、高速レンジと低速レンジとを切り換えるための副変速機がそれぞれ個別の機構として配設されていたため、構成の複雑化や大型化を招いていた。これに対し、本実施形態によれば、動力分配機構と副変速機とを個別の機構として配設する必要がなくなり、その結果、構成の簡素化や小型化を図ることが可能である。また、構成の簡素化に伴う製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0099】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、前輪駆動ベースの四輪駆動車に対して本発明に係る動力伝達装置を適用した場合について説明する。つまり、二輪駆動モードでは前輪(主駆動輪)のみに駆動力が伝達され、四輪駆動モードでは前輪及び後輪(副駆動輪)の両方に駆動力が伝達される四輪駆動車に本発明を適用した場合について説明する。
【0100】
−動力伝達装置の全体構成−
図10は、本実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置1を模式的に示す図である。この図10に示すように、本実施形態に係る動力伝達装置1も、駆動源であるモータジェネレータ(M/G)2の回転駆動力をトランスファ(動力分配機構)3によって前輪4L,4R側及び後輪5L,5R側へ分配可能な構成となっている。そして、二輪駆動モードでは、モータジェネレータ2の回転駆動力をトランスファ3によってフロントドライブシャフト45L,45Rへ伝達し、前輪4L,4Rのみを駆動輪とする走行状態にする。一方、四輪駆動モードでは、モータジェネレータ2の回転駆動力をトランスファ3によってフロントドライブシャフト45L,45R及びリヤプロペラシャフト51へそれぞれ伝達し、前輪4L,4R及び後輪5L,5Rを共に駆動輪とする走行状態にする。以下、動力伝達装置1の各部について説明する。尚、以下の説明では、上述した第1実施形態と同一の構成部分については図10において同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0101】
モータジェネレータ2の構成及びその駆動回路については第1実施形態のものと同一である。尚、本実施形態におけるモータジェネレータ2は、出力軸26が車幅方向に延びる横置き配置となっており、この出力軸26の先端には、後述するトランスファ3のキャリアCAに対して回転駆動力を伝達するためのドライブギヤ27が回転一体に設けられている。
【0102】
−トランスファ3−
本実施形態に係る動力伝達装置におけるトランスファ3について説明する。図10に示すように、本実施形態に係るトランスファ3は、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構30を備えている。この遊星歯車機構30の構成は上記第1実施形態のものと略同一である。
【0103】
遊星歯車機構30のキャリア(第2回転要素)CAにはドリブンギヤ37が回転一体に設けられており、このドリブンギヤ37が、上記モータジェネレータ2の出力軸26に設けられたドライブギヤ27に噛み合っている。つまり、モータジェネレータ2の回転駆動力が、これらドライブギヤ27及びドリブンギヤ37を介してキャリアCAに伝達されるようになっている。
【0104】
また、遊星歯車機構30のサンギヤ(第3回転要素)Sには、右側のフロントドライブシャフト45R(右前輪4Rに連結するフロントドライブシャフト45R)が挿通される筒状のスリーブ部材(筒状部材)31が、回転一体に連結されている。そして、遊星歯車機構30のリングギヤ(第1回転要素)Rにはフロントディファレンシャルギヤ44のデフケース44aが回転一体に連結されている。
【0105】
上記フロントドライブシャフト45L,45Rは、車幅方向に延びている。左側のフロントドライブシャフト45Lはフロントディファレンシャルギヤ44における左側のサイドギヤ44dに回転一体に連結され、右側のフロントドライブシャフト45Rはフロントディファレンシャルギヤ44における右側のサイドギヤ44dに回転一体に連結されている。つまり、これらフロントドライブシャフト45L,45Rは、フロントディファレンシャルギヤ44を介してトランスファ3のリングギヤRに連繋されている。フロントディファレンシャルギヤ44の内部構成は第1実施形態のものと略同一である。
【0106】
一方、上記スリーブ部材31の外周面にはドライブギヤ38が回転一体に取り付けられている。また、上記リヤプロペラシャフト51の前端には、ドリブンギヤ54が回転一体に取り付けられている。そして、これらドライブギヤ38とドリブンギヤ54とが噛み合わされていることにより、ドライブギヤ38の回転力がドリブンギヤ54を介してリヤプロペラシャフト51に伝達されるようになっている。
【0107】
上記リヤプロペラシャフト51は、車体後方に向かって延び、リヤディファレンシャルギヤ52及び左右のリヤドライブシャフト53L,53Rを介して各後輪5L,5Rに連結されている。リヤディファレンシャルギヤ52の構成及び機能は第1実施形態のものと略同一である。
【0108】
更に、上記スリーブ部材31の外周面における上記ドライブギヤ38の外側(右側)には、このドライブギヤ38よりも小径の二輪駆動用ピース33が回転一体に取り付けられている。この二輪駆動用ピース33の外周面にはスプラインが形成されている。一方、車体側には、上記二輪駆動用ピース33と略同径のロック用ピース34が固定されている。このロック用ピース34も、その外周面にスプラインが形成されている。そして、これら二輪駆動用ピース33及びロック用ピース34の外周側にはロック用スリーブ35が配設されている。このロック用スリーブ35は、フロントドライブシャフト45Rの延長方向(車幅方向)に沿ってスライド移動自在となっていると共に、その内周面には、上記二輪駆動用ピース33及びロック用ピース34の各外周面に形成されたスプラインに係合可能なスプラインが形成されている。
【0109】
上記ロック用スリーブ35は、その外周面に凹部35aが形成されており、この凹部35aに係止された図示しないシフトフォークがロック用スリーブアクチュエータ36(例えば電動式のアクチュエータ)の作動に伴って移動することに伴い、ロック用ピース34のみに係合するスライド位置(図10に示すスライド位置)と、ロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合するスライド位置(図12に示すスライド位置)との間でスライド移動可能となっている。このロック用スリーブ35がロック用ピース34のみに係合するスライド位置にある場合には、二輪駆動用ピース33は回転自在とされる。つまり、スリーブ部材31及びサンギヤSは回転自在とされる。これに対し、ロック用スリーブ35がロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合するスライド位置にある場合には、二輪駆動用ピース33は車体側に固定され回転不能とされる。つまり、スリーブ部材31及びサンギヤSは車体側に固定され回転不能とされる。これら各状態における回転駆動力の伝達状態及び車両走行状態については後述する。
【0110】
尚、上記二輪駆動用ピース33を車体側に固定可能とするための構成は上述のものには限られない。また、ロック用スリーブ35をスライド移動させるロック用スリーブアクチュエータ36は、電動式のものに限らず油圧式のものであってもよい。
【0111】
また、上記左右のリヤドライブシャフト53L,53Rのうち、左側のリヤドライブシャフト53Lには、左側の後輪5Lに対するトルクの伝達/非伝達を切り換えるディスコネクト機構46が設けられている。このディスコネクト機構46は、リヤディファレンシャルギヤ52と左側の後輪5Lとの間でトルク伝達を行う伝達状態と、トルク伝達を行わない非伝達状態(遮断状態)とを切り換えるように構成されている。
【0112】
具体的に、左側のリヤドライブシャフト53Lは、リヤディファレンシャルギヤ52側に位置する内側リヤドライブシャフト53Laと、左側の後輪5L側に位置する外側リヤドライブシャフト53Lbとに分割されている。ディスコネクト機構46は、上記内側リヤドライブシャフト53Laの車幅方向外側端に取り付けられた内側係合プレート53aと、上記外側リヤドライブシャフト53Lbの車幅方向内側端に取り付けられた外側係合プレート53bと、これら係合プレート53a,53bの係合及び非係合を切り換えるディスコネクトスリーブ47とを備えている。
【0113】
各係合プレート53a,53bは互いに同一径であって、その外周面にはスプラインがそれぞれ形成されている。一方、上記ディスコネクトスリーブ47の内周面には、上記各係合プレート53a,53bの各外周面に形成されているスプラインに係合可能なスプラインが形成されている。上記ディスコネクトスリーブ47は、その外周面に凹部47aが形成されており、この凹部47aに係止された図示しないシフトフォークがディスコネクトスリーブアクチュエータ48(例えば電動式のアクチュエータ)の作動に伴って移動することにより、内側係合プレート53a(または外側係合プレート53b)のみに係合するスライド位置(図12に示すスライド位置)と、各係合プレート53a,53bの両方に係合するスライド位置(図10に示すスライド位置)との間でスライド移動可能となっている。このディスコネクトスリーブ47が一方の係合プレート53a(または53b)のみに係合するスライド位置にある場合には、左側の後輪5Lにはトルクが伝達されない状態となる(非伝達状態となる)。これに対し、ディスコネクトスリーブ47が各係合プレート53a,53bの両方に係合するスライド位置にある場合には、左側の後輪5Lにトルクが伝達可能な状態となる。これら各状態における回転駆動力の伝達状態及び車両走行状態については後述する。
【0114】
尚、上記ディスコネクト機構46は、リヤディファレンシャルギヤ52側と、後輪5L側との間でトルクの伝達/非伝達を切り換えることが可能なものであれば、いかなる構成のものであってもよいし、配置箇所も特に限定されない。また、このディスコネクト機構46は、上記リヤプロペラシャフト51上に配設されていてもよい。また、ディスコネクトスリーブアクチュエータ48は、電動式のものに限らず油圧式のもの(例えば油圧式の多板クラッチ等)であってもよい。
【0115】
その他の構成は、上述した第1実施形態のものと略同一である。
【0116】
−車両走行モード−
次に、上述の如く構成された車両(四輪駆動車)の走行モードについて説明する。
【0117】
本実施形態に係る四輪駆動車は、第1実施形態の場合と同様に、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードでの走行状態と、2WD−Hiモードでの走行状態とが切り換え可能となっている。以下、具体的に説明する。
【0118】
<4WD−Loモード>
図10は、4WD−Loモードでの走行状態を示している。この4WD−Loモードでは、ロック用スリーブ35が解放状態(ロック用ピース34のみに係合した状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が係合状態(各係合プレート53a,53bの両方に係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSがキャリアCAに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、ドライブギヤ27、ドリブンギヤ37を介し、キャリアCAからリングギヤR及びサンギヤSに分配される。このため、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤR、フロントディファレンシャルギヤ44、各フロントドライブシャフト45L,45Rを経て各前輪4L,4Rに伝達される。また、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、サンギヤS、スリーブ部材31、ドライブギヤ38、ドリブンギヤ54、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。これにより、4WD−Loモードでの走行が行われる。この4WD−Loモードでの走行状態における共線図は、上記第1実施形態における図3でのフロントとリヤが入れ代わるのみであるので、ここでの説明は省略する。つまり、リングギヤRがフロント出力となり、サンギヤSがリヤ出力となるものである。
【0119】
<2WD−Hiモード>
図12は、2WD−Hiモードでの走行状態を示している。この2WD−Hiモードでは、ロック用スリーブ35が係合状態(ロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合した状態)であり、ディスコネクト機構46のディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート53aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSが車体側に固定されて回転不能となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤRに伝達される。この際、サンギヤSが車体側に固定されていることでキャリアCAの回転に対する反力が得られ、リングギヤRに対して効果的に回転駆動力が伝達される。このため、ドライブギヤ27、ドリブンギヤ37を介してキャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤR、フロントディファレンシャルギヤ44、各フロントドライブシャフト45L,45Rを経て各前輪4L,4Rに伝達される。また、サンギヤSは固定されているため、リヤプロペラシャフト51側への回転駆動力の伝達は行われず、各後輪5L,5Rは駆動輪とはならない。また、この場合、ディスコネクトスリーブ47が解放状態となっており、リヤディファレンシャルギヤ52と左側の後輪5Lとは切り離されている。このため、各後輪5L,5Rは、車両の走行に伴って走行方向(順方向)に回転している。また、サンギヤSが固定され、リヤプロペラシャフト51の回転が停止していることに伴い、リヤディファレンシャルギヤ52のデフケース52aの回転も停止している。この場合、リヤディファレンシャルギヤ52では、各サイドギヤ52d,52dが互いに逆方向に回転することになる。つまり、リヤドライブシャフト53Lのうち内側リヤドライブシャフト53Laは各後輪5L,5Rの回転方向とは逆方向に回転している。これにより、2WD−Hiモードでの走行が行われる。この2WD−Hiモードでの走行状態における共線図は、上記第1実施形態における図7でのフロントとリヤが入れ代わるのみであるので、ここでの説明は省略する。つまり、リングギヤRがフロント出力となり、サンギヤSがリヤ出力となるものである。
【0120】
−車両走行状態の切り換え動作−
次に、上述した4WD−Loモードと2WD−Hiモードとの切り換え動作について説明する。本実施形態における切り換え動作も、ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47の動作(ロック用スリーブアクチュエータ36の動作及びディスコネクトスリーブアクチュエータ48の動作)により切り換えられる。この場合、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え時には、先ず、ディスコネクトスリーブ47が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、ロック用スリーブ35が解放状態から係合状態に切り換えられることになる。逆に、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え時には、先ず、ロック用スリーブ35が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、ディスコネクトスリーブ47が解放状態から係合状態に切り換えられることになる。(本発明における駆動モード切り換え手段によるモード切り換え動作)以下、具体的に説明する。
【0121】
<4WD−2WD切換モード>
図11は、モード切り換え途中である4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。この図11に示すように、4WD−2WD切換モードでは、ロック用スリーブ35が解放状態(ロック用ピース34のみに係合した状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート53aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSがキャリアCAに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤR及びサンギヤSに分配される。
【0122】
4WD−2WD切換モードにあっては、2WD−Hiモードへの切り換え時には、モータジェネレータ2の回転数(キャリアCAの回転数)を低下させる制御を実行し、キャリアCAの回転数(入力回転数)を低下させることでサンギヤSの回転数を「0」に向けて低下させていく。つまり、リングギヤR(フロント出力)の回転数を低下させることなく(実際には、路面の走行抵抗により徐々に低下している)、サンギヤSの回転数を低下させていく。このようにサンギヤSの回転数を低下させることにより、解放状態にあるロック用スリーブ35が二輪駆動用ピース33のスプラインに嵌合可能な状態にする。一方、4WD−Loモードへの切り換え時には、モータジェネレータ2の回転数(キャリアCAの回転数)を上昇させる制御を実行し、キャリアCAの回転数(入力回転数)を上昇させることでサンギヤSの回転数(リヤ出力回転数)を上昇させ、左リヤ出力回転数(内側リヤドライブシャフト53Laの回転数)を外側リヤドライブシャフト53Lbの回転数に近付けていく。このように左リヤ出力回転数を上昇させることにより、解放状態にあるディスコネクトスリーブ47が外側係合プレート53bのスプラインに係合可能な状態にする。
【0123】
尚、これら切り換え動作の手順は上述した第1実施形態において、図8及び図9のフローチャートを用いて説明した場合と略同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0124】
本実施形態にあっても、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードと2WD−Hiモードとが切り換え可能となっている。つまり、四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能を一つの機構によって両立させることが可能となっている。このため、動力分配機構と副変速機とを個別の機構として配設する必要がなくなり、その結果、構成の簡素化や小型化を図ることが可能である。また、構成の簡素化に伴う製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0125】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態では、後輪駆動ベースの四輪駆動車に対して本発明に係る動力伝達装置を適用した場合について説明する。また、本実施形態における動力伝達装置は、トランスファ3の構成が上述した第1実施形態のものと異なっている。従って、本実施形態では、上記第1実施形態との相違点について主に説明する。
【0126】
図13は、本実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置1を模式的に示す図である。この図10に示すように、本実施形態に係る動力伝達装置1にあっては、上記サンギヤSに回転一体に連結されたスリーブ部材31に、多板式のクラッチ機構39が設けられている。つまり、上述した第1実施形態における二輪駆動用ピース33、ロック用ピース34及びロック用スリーブ35に代えてクラッチ機構39が設けられた構成となっている。このクラッチ機構39は、係合力の調整が可能なものであれば電磁式のものであってもよいし油圧式のものであってもよい。その他の構成は、上述した第1実施形態のものと略同一であるため、上述した第1実施形態と同一の構成部分については図13において同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0127】
−車両走行モード
次に、本実施形態における車両(四輪駆動車)の走行モードについて説明する。
【0128】
本実施形態に係る四輪駆動車は、上記クラッチ機構39の係合状態及び上記ディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードと2WD−Hiモードとが切り換え可能となっている。以下、具体的に説明する。
【0129】
<4WD−Loモード>
図13は、4WD−Loモードでの走行状態を示している。この4WD−Loモードでは、クラッチ機構39が解放状態(サンギヤSの回転を許容する状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が係合状態(各係合プレート45a,45bの両方に係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSがキャリアCAに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤR及びサンギヤSに分配される。このため、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤR、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。また、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、サンギヤS、スリーブ部材31、ドライブスプロケット32、チェーン43、ドリブンスプロケット42、フロントプロペラシャフト41、フロントディファレンシャルギヤ44、各フロントドライブシャフト45L,45Rを経て各前輪4L,4Rに伝達される。これにより、4WD−Loモードでの走行が行われる。この4WD−Loモードでの走行状態における共線図は、上記第1実施形態における図3のものと同一であるため、ここでの説明は省略する。
【0130】
<2WD−Hiモード>
図15は、2WD−Hiモードでの走行状態を示している。この2WD−Hiモードでは、クラッチ機構39が係合状態(サンギヤSの回転を禁止する状態)であり、ディスコネクト機構46のディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート45aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSが車体側に固定されて回転不能となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCAからリングギヤRに伝達される。この際、サンギヤSが車体側に固定されていることでキャリアCAの回転に対する反力が得られ、リングギヤRに対して効果的に回転駆動力が伝達される。このため、キャリアCAに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤR、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。また、サンギヤSは固定されているため、フロントプロペラシャフト41側への回転駆動力の伝達は行われず、各前輪4L,4Rは駆動輪とはならない。また、この場合、ディスコネクトスリーブ47が解放状態となっており、フロントディファレンシャルギヤ44と右側の前輪4Rとは切り離されている。このため、各前輪4L,4Rは、車両の走行に伴って走行方向(順方向)に回転している。また、サンギヤSが固定され、フロントプロペラシャフト41の回転が停止していることに伴い、フロントディファレンシャルギヤ44のデフケース44aの回転も停止している。この場合、フロントディファレンシャルギヤ44では、各サイドギヤ44d,44dが互いに逆方向に回転することになる。つまり、フロントドライブシャフト45Rのうち内側フロントドライブシャフト45Raは各前輪4L,4Rの回転方向とは逆方向に回転している。これにより、2WD−Hiモードでの走行が行われる。この2WD−Hiモードでの走行状態における共線図は、上記第1実施形態における図7のものと同一であるため、ここでの説明は省略する。
【0131】
−車両走行状態の切り換え動作−
次に、本実施形態における4WD−Loモードと2WD−Hiモードとの切り換え動作について説明する。この切り換え動作は、上記クラッチ機構39及びディスコネクトスリーブ47の動作により切り換えられる。この場合、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え時には、先ず、ディスコネクトスリーブ47が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、クラッチ機構39が係合状態に切り換えられることになる。逆に、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え時には、先ず、クラッチ機構39が解放状態に切り換えられた後に、ディスコネクトスリーブ47が解放状態から係合状態に切り換えられることになる。(本発明における駆動モード切り換え手段によるモード切り換え動作)以下、具体的に説明する。
【0132】
<4WD−2WD切換モード>
図14は、モード切り換え途中である4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。この図14に示すように、4WD−2WD切換モードでは、クラッチ機構39が半係合状態(スリップ状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート45aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、サンギヤSの回転をある程度制限することでキャリアCAの回転に対する反力が得られるようにしてリングギヤRに対して回転駆動力が伝達されるようにしている。つまり、4WD−2WD切換モードでの駆動力の抜け(後輪5L,5R側へ駆動力が伝わらない状態)を防止している。
【0133】
図16は、この4WD−2WD切換モードでの共線図である。この4WD−2WD切換モードでは、モータジェネレータ2の回転数(キャリアCAの回転数)を制御すると共に、クラッチ機構39を半係合状態とすることによる反力を得ることによって後輪5L,5R側への駆動力を確保している。
【0134】
<4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作>
次に、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作について具体的に説明する。図17は、この4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャートである。この図17に示すフローチャートにおけるステップST41〜ステップST46の動作は、上記第1実施形態において図8で示したフローチャートのステップST1〜ステップST6と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0135】
ディスコネクトスリーブ47が解放状態となり、ステップST46でYES判定された場合には、ステップST47に移り、モータジェネレータ2の走行トルク制御及びクラッチ機構39の同期制御を実行する。この制御は、モータジェネレータ2からの出力トルクとクラッチ機構39の係合力とを調整することにより、駆動輪へのトルクの急激な変化を抑制ながらも上述した後輪5L,5R側への駆動力を確保するための制御である。特に、この場合、クラッチ機構39の係合力制御を主として行うことになる。尚、この場合のモータジェネレータ2からの出力トルク及びクラッチ機構39の係合力は、予め実験やシミュレーションによって車速等に適したモータジェネレータ2からの出力トルク及びクラッチ機構39の係合力がマップ化されて上記ECU7のROMに記憶されており、このマップを参照することにより決定される。また、モータジェネレータ2からの出力トルクは、クラッチ機構39の差回転に応じたフィードバック制御により決定するようにしてもよい。
【0136】
そして、クラッチ機構回転差(クラッチ機構39の係合力に応じて変化するサンギヤSの回転数とリングギヤRの回転数との差)が所定値以下に達するまで、上記ステップST47の制御を継続し、このクラッチ機構回転差が所定値以下に達してステップST48でYES判定されると、ステップST49に移る。このステップST49では、モータジェネレータ2による走行トルク制御及びクラッチ機構39の同期制御と、クラッチ機構39による走行トルク釣り合い制御を実行する。これら制御も、モータジェネレータ2からの出力トルクとクラッチ機構39の係合力とを調整することにより、駆動輪へのトルクの急激な変化を抑制ながらも上述した後輪5L,5R側への駆動力を確保するための制御である。特に、この場合、モータジェネレータ2の制御を主として行うことになる。尚、この場合のモータジェネレータ2からの出力トルクは、クラッチ機構39の差回転に応じたフィードバック制御により決定される。
【0137】
これら制御が、クラッチ機構39の同期回転数(クラッチ機構39を完全係合可能とする回転数)に達するまで継続し、クラッチ機構39の同期回転数に達してステップST50でYES判定されると、ステップST51に移る。このステップST51では、クラッチ機構39に対して係合指令信号を発信する。これにより、クラッチ機構39は完全係合状態に向かって作動することになる。
【0138】
ステップST52では、クラッチ機構39が係合状態(完全係合状態)となったか否かを判定する。クラッチ機構39が未だ係合状態となっておらず、ステップST52でNO判定された場合には、上記クラッチ機構39に対する係合指令信号を継続して発信する(ステップST51)。
【0139】
クラッチ機構39が係合状態となり、ステップST52でYES判定された場合には、ステップST53に移り、モータジェネレータ2の走行トルク制御を実行する。この走行トルク制御は、上記アクセル開度センサ65により検出されるアクセル開度や、車速センサ67により検出される車速に応じて決定される要求トルクが出力されるようにモータジェネレータ2を制御する。
【0140】
以上の動作により、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え動作が完了する。
【0141】
<2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作>
次に、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作について具体的に説明する。図18は、この2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作の手順を示すフローチャートである。この図18に示すフローチャートにおけるステップST61の動作は、上記第1実施形態において図9で示したフローチャートのステップST21と同様であり、ステップST62の動作は、上記第1実施形態において図8で示したフローチャートのステップST2と同様であり、ステップST63の動作は、上記図17で示したフローチャートのステップST47と同様である。このため、ここでの説明は省略する。
【0142】
ステップST64では、前輪4L,4Rの左右回転差が所定値以下であるか否かが判定される。これら回転差が所定値を越えている場合には、ステップST63のモータジェネレータ2及びクラッチ機構39の制御を継続する。
【0143】
上記回転差が所定値以下となっており、ステップST64でYES判定された場合には、ステップST65に移る。このステップST65では、モータジェネレータ2による走行トルク制御及びクラッチ機構39の同期制御と、クラッチ機構39による走行トルク釣り合い制御を実行する。これら制御は、図17で示したフローチャートのステップST49と同様にして行われる。
【0144】
その後、ステップST66では、前輪4L,4Rの左右回転数が同期しているか(略一致しているか)否かが判定される。これら回転数が同期していない場合には、ステップST65のモータジェネレータ2及びクラッチ機構39の制御を継続する。
【0145】
上記回転数が同期しており、ステップST66でYES判定された場合には、ステップST67に移る。このステップST67では、モータジェネレータ2のトルクダウン制御を実行する。このトルクダウン制御は、図8で示したフローチャートのステップST3と同様にして行われる。
【0146】
ステップST68では、モータジェネレータ2のトルク(モータトルク)が所定値以下に低下したか否かを判定する。未だ所定値以下に低下していない場合にはステップST68でNO判定され、このモータジェネレータ2のトルクが所定値以下に低下するまでトルクダウン制御を継続する(ステップST67)。この所定値は予め実験またはシミュレーションにより設定されており、上記ディスコネクトスリーブ47の係合動作を容易に行うことが可能な値として設定されている。
【0147】
モータジェネレータ2のトルクが所定値以下に低下し、ステップST68でYES判定された場合には、ステップST69に移り、上記ディスコネクトスリーブアクチュエータ48に対してディスコネクトスリーブ47の係合指令信号を発信する。これにより、ディスコネクトスリーブアクチュエータ48が作動し、ディスコネクトスリーブ47は解放状態から係合状態に向かってスライド移動することになる。
【0148】
ステップST70では、ディスコネクトスリーブ47が係合状態となったか否かを判定する。つまり、ディスコネクトスリーブ47のスライド移動量が、外側係合プレート45bに係合する量に達したか否かを判定する。
【0149】
ディスコネクトスリーブ47が未だ係合状態となっておらず、ステップST70でNO判定された場合には、上記ディスコネクトスリーブアクチュエータ48に対する係合指令信号を継続して発信する(ステップST69)。
【0150】
ディスコネクトスリーブ47が係合状態となり、ステップST70でYES判定された場合には、ステップST71に移り、モータジェネレータ2の走行トルク制御を実行する。この走行トルク制御は、上記アクセル開度センサ65により検出されるアクセル開度や、車速センサ67により検出される車速に応じて決定される要求トルクが出力されるようにモータジェネレータ2を制御する。
【0151】
以上の動作により、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え動作が完了する。
【0152】
本実施形態にあっても、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードと2WD−Hiモードとが切り換え可能となっている。つまり、四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能を一つの機構によって両立させることが可能となっている。このため、動力分配機構と副変速機とを個別の機構として配設する必要がなくなり、その結果、構成の簡素化や小型化を図ることが可能である。また、構成の簡素化に伴う製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0153】
また、本実施形態では、4WD−2WD切換モードにおいて、クラッチ機構39によりサンギヤSの回転を制限することでキャリアCAの回転に対する反力が得られるようにしてリングギヤRに対して回転駆動力が伝達されるようにしている。つまり、駆動力の抜け(後輪5L,5R側へ駆動力が伝わらない状態)を防止することができる。このため、4WD−2WD切換モードにおいても良好な走行性能を確保することが可能である。
【0154】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態も、後輪駆動ベースの四輪駆動車に対して本発明に係る動力伝達装置を適用した場合について説明する。また、本実施形態における動力伝達装置は、トランスファ3の構成が上述した第1実施形態のものと異なっている。従って、本実施形態でも、上記第1実施形態との相違点について主に説明する。
【0155】
図19は、本実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置1を模式的に示す図である。この図19に示すように、本実施形態に係る動力伝達装置1のトランスファ3は、ダブルピニオンタイプの遊星歯車機構30を備えている。
【0156】
本実施形態に係る動力伝達装置1のトランスファ3の遊星歯車機構30は、外歯歯車で成るサンギヤSと、このサンギヤSと同心円上に配置された内歯歯車で成るリングギヤRと、上記サンギヤSに噛み合う複数のインナピニオンギヤP1と、このインナピニオンギヤP1及びリングギヤRに噛み合う複数のアウタピニオンギヤP2と、これら複数のピニオンギヤP1,P2を自転且つ公転自在に保持するキャリアCAとを備え、これらサンギヤS、リングギヤR及びキャリアCAを回転要素(第1〜第3の回転要素)として差動作用を行う構成とされている。本実施形態では、リングギヤRが本発明でいう第2回転要素となり、キャリアCAが本発明でいう第1回転要素となり、サンギヤSが本発明でいう第3回転要素となっている。
【0157】
この遊星歯車機構30のリングギヤ(第2回転要素)Rには上記モータジェネレータ2の出力軸26が回転一体に連結されている。また、遊星歯車機構30のキャリア(第1回転要素)CAには、リヤプロペラシャフト51が挿通される筒状のスリーブ部材(筒状部材)31が、回転一体に連結されている。そして、遊星歯車機構30のサンギヤ(第3回転要素)Sには上記リヤプロペラシャフト51が回転一体に連結されている。
【0158】
その他の構成は、上述した第1実施形態のものと略同一である。尚、本実施形態では、上記二輪駆動用ピース33、ロック用ピース34、ロック用スリーブ35は遊星歯車機構30に対して車体後方側に配設されている。
【0159】
−車両走行モード−
次に、本実施形態における車両(四輪駆動車)の走行モードについて説明する。
【0160】
本実施形態に係る四輪駆動車は、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードでの走行状態と、2WD−Hiモードでの走行状態とが切り換え可能となっている。以下、具体的に説明する。
【0161】
<4WD−Loモード>
図19は、4WD−Loモードでの走行状態を示している。この4WD−Loモードでは、ロック用スリーブ35が解放状態(ロック用ピース34のみに係合した状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が係合状態(各係合プレート45a,45bの両方に係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、キャリアCAがリングギヤRに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤRからキャリアCA及びサンギヤSに分配される。このため、リングギヤRに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、サンギヤS、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。また、リングギヤRに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、キャリアCA、スリーブ部材31、ドライブスプロケット32、チェーン43、ドリブンスプロケット42、フロントプロペラシャフト41、フロントディファレンシャルギヤ44、各フロントドライブシャフト45L,45Rを経て各前輪4L,4Rに伝達される。これにより、4WD−Loモードでの走行が行われる。
【0162】
図20は、この4WD−Loモードでの走行状態における共線図である。この共線図では縦軸が回転数を現しており、各矢印の長さがトルクの大きさを現している。また、図中左側から順にサンギヤSの回転数(リヤプロペラシャフト51の回転数に一致:リヤ出力)、リングギヤRの回転数(モータジェネレータ2の出力軸26の回転数に一致:入力)、右側の前輪4Rの回転数(右フロント出力)、キャリアCAの回転数(フロントプロペラシャフト41の回転数に一致:フロント出力)、左側の前輪4Lの回転数(左フロント出力)となっている。尚、図中のρはサンギヤSとリングギヤRとのギヤ比であり、モータジェネレータ2の出力トルクTINに対して、サンギヤS(リヤ出力)には「ρTIN」のトルクが、キャリアCA(フロント出力)には「(1−ρ)TIN」のトルクが与えられることになる。また、図中に破線で示す矢印は、キャリアCA(フロント出力)に与えられたトルク「(1−ρ)TIN」が振り分けられて左右の前輪4L,4Rに与えられるトルクを示し、図中に一点鎖線で示す矢印は、キャリアCA(フロント出力)に作用する反力を示している。
【0163】
このように、モータジェネレータ2の回転数(NIN)に略一致した回転数でリヤプロペラシャフト51(リヤ出力)及びフロントプロペラシャフト41(フロント出力)が回転し、前後輪4L,4R,5L,5Rの全てが駆動輪となる四輪駆動状態で、且つ低速モード(モータジェネレータ2の回転数を増速することなく出力するモード)での走行状態となる。
【0164】
<2WD−Hiモード>
図23は、2WD−Hiモードでの走行状態を示している。この2WD−Hiモードでは、ロック用スリーブ35が係合状態(ロック用ピース34及び二輪駆動用ピース33の両方に係合した状態)であり、ディスコネクト機構46のディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート45aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、キャリアCAが車体側に固定されて回転不能となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤRからサンギヤSに伝達される。この際、キャリアCAが車体側に固定されていることでサンギヤSの回転に対する反力が得られ、サンギヤSに対して効果的に回転駆動力が伝達される。このため、リングギヤRに入力されたモータジェネレータ2からの回転駆動力は、サンギヤS、リヤプロペラシャフト51、リヤディファレンシャルギヤ52、各リヤドライブシャフト53L,53Rを経て各後輪5L,5Rに伝達される。また、キャリアCAは固定されているため、フロントプロペラシャフト41側への回転駆動力の伝達は行われず、各前輪4L,4Rは駆動輪とはならない。また、この場合、ディスコネクトスリーブ47が解放状態となっており、フロントディファレンシャルギヤ44と右側の前輪4Rとは切り離されている。このため、各前輪4L,4Rは、車両の走行に伴って走行方向(順方向)に回転している。また、キャリアCAが固定され、フロントプロペラシャフト41の回転が停止していることに伴い、フロントディファレンシャルギヤ44のデフケース44aの回転も停止している。この場合、フロントディファレンシャルギヤ44では、各サイドギヤ44d,44dが互いに逆方向に回転することになる。つまり、フロントドライブシャフト45Rのうち内側フロントドライブシャフト45Raは各前輪4L,4Rの回転方向とは逆方向に回転している。これにより、2WD−Hiモードでの走行が行われる。
【0165】
図24は、この2WD−Hiモードでの走行状態における共線図である。この2WD−Hiモードでは、キャリアCAが固定されているため、フロント出力の回転数は「0」となっている。これに対し、サンギヤS(リヤ出力)の回転数NRはリングギヤR(入力)の回転数NINに対して高くなっている。つまり、モータジェネレータ2の回転数(入力回転数)に対しサンギヤSの回転数(リヤ出力回転数)が高くなる増速機能が発揮されることになる。このように、モータジェネレータ2の回転数NINに対してサンギヤSの回転数NRを高くしながら(増速しながら)リヤプロペラシャフト51が回転し、後輪5L,5Rを駆動輪とする二輪駆動状態で、且つ高速モードでの走行状態となる。
【0166】
−車両走行状態の切り換え動作−
次に、上述した4WD−Loモードと2WD−Hiモードとの切り換え動作について説明する。この切り換え動作は、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47の動作(ロック用スリーブアクチュエータ36の動作及びディスコネクトスリーブアクチュエータ48の動作)により行われる。この場合、4WD−Loモードから2WD−Hiモードへの切り換え時には、先ず、ディスコネクトスリーブ47が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、ロック用スリーブ35が解放状態から係合状態に切り換えられることになる。逆に、2WD−Hiモードから4WD−Loモードへの切り換え時には、先ず、ロック用スリーブ35が係合状態から解放状態に切り換えられた後に、ディスコネクトスリーブ47が解放状態から係合状態に切り換えられることになる(本発明における駆動モード切り換え手段によるモード切り換え動作)。以下、具体的に説明する。
【0167】
<4WD−2WD切換モード>
図21は、モード切り換え途中である4WD−2WD切換モードでの動力伝達装置を模式的に示す図である。この図21に示すように、4WD−2WD切換モードでは、ロック用スリーブ35が解放状態(ロック用ピース34のみに係合した状態)であり、ディスコネクトスリーブ47が解放状態(内側係合プレート45aのみに係合した状態)となっている。つまり、トランスファ3にあっては、キャリアCAがリングギヤRに対して相対回転可能な状態となり、モータジェネレータ2からの回転駆動力は、リングギヤRからサンギヤS及びキャリアCAに分配される。
【0168】
図22は、この4WD−2WD切換モードでの共線図である。この4WD−2WD切換モードにあっては、2WD−Hiモードへの切り換え時には、モータジェネレータ2の回転数を低下させる制御を実行し、リングギヤRの回転数(入力回転数)を低下させることでキャリアCAの回転数(フロント出力回転数)を「0」に向けて低下させていく。つまり、サンギヤS(リヤ出力)の回転数や左フロント出力回転数を低下させることなく(実際には、路面の走行抵抗により徐々に低下している)、キャリアCAの回転数(フロント出力回転数)を低下させていく。このようにキャリアCAの回転数を低下させることにより、解放状態にあるロック用スリーブ35が二輪駆動用ピース33のスプラインに嵌合可能な状態にする。一方、4WD−Loモードへの切り換え時には、モータジェネレータ2の回転数を上昇させる制御を実行し、リングギヤRの回転数(入力回転数)を上昇させることでキャリアCAの回転数(フロント出力回転数)を上昇させ、右フロント出力回転数(内側フロントドライブシャフト45Raの回転数NFR)を左フロント出力回転数NFL(外側フロントドライブシャフト45Rbの回転数に一致)に近付けていく。このように右フロント出力回転数を上昇させることにより、解放状態にあるディスコネクトスリーブ47が外側係合プレート45bのスプラインに係合可能な状態にする。
【0169】
尚、これら切り換え動作の手順は上述した第1実施形態において、図8及び図9のフローチャートを用いて説明した場合と略同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0170】
本実施形態の場合にも、上記ロック用スリーブ35及びディスコネクトスリーブ47のスライド移動位置に応じて、4WD−Loモードと2WD−Hiモードとが切り換え可能となっている。つまり、四輪駆動状態と二輪駆動状態との切り換え機能、及び、高速レンジと低速レンジとの切り換え機能を一つの機構によって両立させることが可能となっている。このため、動力分配機構と副変速機とを個別の機構として配設する必要がなくなり、その結果、構成の簡素化や小型化を図ることが可能である。また、構成の簡素化に伴う製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0171】
−他の実施形態−
以上説明した各実施形態は駆動源としてモータジェネレータ2を採用していた。本発明はこれに限らず、内燃機関(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等)を駆動源とする四輪駆動車や、内燃機関とモータジェネレータとを併用して駆動源とするハイブリッド四輪駆動車に対しても適用可能である。
【0172】
また、上述した各実施形態のうち、第1〜第3実施形態ではシングルピニオンタイプの遊星歯車機構30を採用し、第4実施形態ではダブルピニオンタイプの遊星歯車機構30を採用していた。これらの使い分けとしては、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構は、ギヤ比ρが、「リングギヤ歯数/(サンギヤ歯数+リングギヤ歯数)」となり、ギヤ比ρを「0.5」付近に設定することが困難であるため、前輪側及び後輪側への各トルクを不等配分する場合に適用される。一方、ダブルピニオンタイプの遊星歯車機構は、ギヤ比ρが、「サンギヤ歯数/リングギヤ歯数」となるため、前輪側及び後輪側への各トルクを等配分する場合に適用される。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、2WD−Hiモードと4WD−Loモードとを切り換え可能とする四輪駆動車において、構成の簡素化及び小型化を図るための構成に適用可能である。
【符号の説明】
【0174】
1 動力伝達装置
2 モータジェネレータ(駆動源)
3 トランスファ
30 遊星歯車機構
4L,4R 前輪(主駆動輪、副駆動輪)
5L,5R 後輪(主駆動輪、副駆動輪)
R リングギヤ(第1回転要素、第2回転要素)
CA キャリア(第2回転要素、第1回転要素)
S サンギヤ(第3回転要素)
33 二輪駆動用ピース
34 ロック用ピース
35 ロック用スリーブ(回転停止手段)
44 フロントディファレンシャルギヤ(差動機構)
45a,45b 係合プレート
46 ディスコネクト機構(係合手段)
47 ディスコネクトスリーブ
52 リヤディファレンシャルギヤ(差動機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力を主駆動輪と副駆動輪とに分配可能であり、駆動源からの駆動力を副駆動輪に伝達せず主駆動輪のみに伝達する二輪駆動状態と、駆動源からの駆動力を主駆動輪及び副駆動輪の両方に伝達する四輪駆動状態とが切り換え可能に構成された四輪駆動車の動力伝達装置において、
駆動源からの駆動力を伝達する駆動力伝達経路上に配設された遊星歯車機構には、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素の3つの回転要素が備えられており、
上記第2回転要素には上記駆動源が接続され、第1回転要素及び第3回転要素のうち一方の回転要素には主駆動輪が接続され、他方の回転要素には副駆動輪が接続されていると共に、この他方の回転要素を回転停止状態とする係合状態とこの他方の回転要素の回転を許容する解放状態との間で切り換え可能とされた回転停止手段が配設され、
上記他方の回転要素と副駆動輪との間には、トルク伝達を行う係合状態と、トルク伝達を遮断する解放状態との間で切り換え可能とされた係合手段が配設されており、
上記回転停止手段が解放状態で且つ上記係合手段が係合状態である場合には上記四輪駆動状態となる一方、上記回転停止手段が係合状態で且つ上記係合手段が解放状態である場合には、上記主駆動輪が接続された上記一方の回転要素が上記第2回転要素に対して回転速度が増速される二輪駆動状態となる構成とされていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
上記遊星歯車機構は、シングルピニオン型遊星歯車機構であり、
上記第1回転要素はリングギヤであり、上記第2回転要素はプラネタリキャリアであり、上記第3回転要素はサンギヤであることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
上記遊星歯車機構は、ダブルピニオン型遊星歯車機構であり、
上記第1回転要素はプラネタリキャリアであり、上記第2回転要素はリングギヤであり、上記第3回転要素はサンギヤであることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
上記係合手段は、左右の副駆動輪の差動を許容する差動機構と、一方の副駆動輪との間に設けられていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
上記回転停止手段及び上記係合手段の少なくとも一方は、多板クラッチで構成されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5のうち何れか一つに記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
上記四輪駆動状態において、上記係合手段を完全解放した後、上記回転停止手段を完全係合させることによって二輪駆動状態に切り換え、二輪駆動状態において、上記回転停止手段を完全解放した後、上記係合手段を完全係合させることによって四輪駆動状態に切り換える駆動モード切り換え手段を備えていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、四輪駆動状態と二輪駆動状態とを切り換え可能とする四輪駆動車の動力伝達方法であって、
上記四輪駆動状態での走行状態から二輪駆動状態での走行状態に切り換える際、上記係合手段を完全解放した後、上記回転停止手段を完全係合させる一方、
上記二輪駆動状態での走行状態から四輪駆動状態での走行状態に切り換える際、上記回転停止手段を完全解放した後、上記係合手段を完全係合させることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−111394(P2012−111394A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263119(P2010−263119)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】