説明

回転中心算出方法およびこの方法を用いたワーク位置決め装置

【課題】 ステージの回転中心の座標を簡易な方法で精度良く求めることにより、ワークの位置決めの精度を向上する。
【解決手段】 回転機構を具備するステージ上にモデルのワークを搬入し、2台のカメラの視野R1,R2に、それぞれワークの対角関係にある位置決めマークが入るようにワークの位置を調整する。この状態下で1回目の撮像を行った後、各マークが視野R1,R2から出ない範囲でステージを回転させ、2回目の撮像を実行する。つぎに、2回の撮像で得た各画像から各マークの位置を示す点a1,a2,b1,b2の座標を計測し、これらの座標から求めた各マークの移動量とあらかじめ入力されたマーク間の距離Lとを用いてステージの回転角度dTを算出する。さらに、回転角度dTと点a1,a2,b1,b2の座標とを用いてステージの回転中心Cの座標(cx,cy)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転機構を具備するステージ上にガラス基板などのワークを支持し、このワークに設けられた位置決めマークを指標として前記ステージの動作を制御することにより、ワークの位置合わせを行う技術に関する。特に、この発明は、前記ワーク位置合わせ処理において、ワークの回転ずれを補正するのに必要なステージの回転中心の座標を求める方法、およびこの方法が適用されたワーク位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のワーク位置決め装置で使用されるステージには、一般に、水平方向(X軸方向)および垂直方向(Y軸方向)への移動機構と回転機構とが含まれる。ステージ上に設置されたワークは、各移動機構により所定の位置まで移送された後、回転機構により適切な姿勢になるように調整される。
【0003】
また、代表的なワークである基板には、上記の位置合わせのために、角部などに位置決めマーク(以下、単に「マーク」という場合もある。)が設けられている。従来の位置決め装置では、各マークがそれぞれあらかじめ定めた規準位置付近に位置するようにワークを移動させた後、カメラによりワークを撮像し、得られた画像を用いて各マークの位置と前記基準位置とのずれ量を算出し、そのずれが解消するように前記移動機構や回転機構を制御するようにしている。
【0004】
また、液晶基板やプラズマディスプレイなど、微細構造を有する複数の基板が重ね合わせられた構造物を製造する場合には、各層を構成する基板を精度良く位置合わせする必要がある。このような場合には、対角関係にある2個以上のマークの基準位置に向けてそれぞれ個別にカメラを設置し、これらのカメラの視野内にそれぞれ対応するマークが入るまでワークを移動させた後、各カメラにより得た画像を用いて各マークの微小なずれ量を抽出するようにしている。
【0005】
下記の特許文献1には、2台のカメラにより、基板に形成された2個の位置合わせマークを同時に観測することにより、ワークの回転ずれ量を調整することが記載されている(段落[0005]参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−199139号公報
【0007】
2台のカメラを用いてワークの回転ずれを調整する場合の従来の方法では、各マーク毎に基準位置に対するずれ量(x方向およびy方向におけるずれ量)を抽出し、これらのずれ量を用いてワークの回転角度を算出する。そして、この回転角度に応じてステージを回転させる。
【0008】
ワークの回転角度を求めるには、ステージの回転中心の座標が必要である。従来の方法では、あらかじめ、ステージの回転軸など中心とみなされる位置の座標を計測し、これを回転中心の座標として使用するようにしている。
【0009】
また、モデルのワークを用いて、演算により回転中心の座標を求める場合もある。この方法では、各カメラによりマークを撮像した後、定められた角度だけステージを回転させ、マークを再度撮像する。そして、回転前の各画像から計測したマークの座標と、回転後の各画像から計測したマークの座標と、前記ステージの回転角度とを用いて、回転中心の座標を算出する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
回転中心の座標をあらかじめ計測する方法では、計測した座標が実際の回転中心に相当するとは限らないため、算出されたワークの回転角度は不正確になる。また、回転中心を演算で求める方法でも、実際のステージの回転角度には誤差が生じるため、回転中心の算出結果が不正確になり、その不正確な回転中心を使用することによりワークの回転角度も不正確になる。
このように、いずれの方法を用いても、ワークの回転角度を精度良く求めるのは困難である。
【0011】
この発明は上記の問題に着目し、ステージの回転中心の座標を簡易な方法で精度良く求めることにより、ワークの位置決めを高精度で行うことができるようにすることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、表面に複数の位置決めマークが設けられたワークを回転機構を具備するステージ上に設置するとともに、少なくとも対角関係にある2個の位置決めマークの基準位置に向けてそれぞれ撮像手段を設置し、各撮像手段により得た画像を用いて各位置決めマークがそれぞれ前記基準位置に合うように前記ステージの動作を制御するワーク位置決め処理に適用される。なお、この明細書で言うところの「対角関係にあるマーク」は、ワークの対角線で結ばれる角部にそれぞれ設けられた一対のマークのほか、ワークの中心点を挟んで対向する関係にある一対のマークを含むものとする。
【0013】
上記のワーク位置決め処理において、各撮像手段は、それぞれ対応する位置決めマークの基準位置に向けて固定設置されるのが望ましい。ただし、複数種のワークを処理対象とする場合には、ワークに合わせて撮像手段の位置を変更できるようにするのが望ましい。またこれらのカメラについては、あらかじめキャリブレーションを行って、画像上の座標からステージ上の実座標(ステージの上面が含まれる仮想平面に設定された座標)を求められるようにしておくのが望ましい。
【0014】
各撮像手段の視野は、前記基準位置を中心とする極小領域に設定されるのが望ましい。この場合、各撮像手段からの画像から抽出したマークの中心位置の座標を、前記キャリブレーションにより求めたパラメータを用いて実座標系の座標に変換し、その変換後の座標の基準位置に対するずれ量を求めることができる。また、マークの座標と基準位置の座標と回転中心の座標とを用いて、回転ずれ量(ワークの回転角度)を求めることができる。
【0015】
この発明では、前記ワーク上の位置決めマーク間の距離を特定するデータを入力するステップAと、モデルのワークを前記ステージ上に設置して、各撮像手段にそれぞれ対応する位置決めマークを撮像させるステップBと、前記各位置決めマークが対応する撮像手段の視野から出ない範囲で前記ステージを回転させ、各撮像手段に位置決めマークを再度撮像させるステップCとを実行した後、前記ステップB,Cで得た画像と前記位置決めマーク間の距離とを用いて、前記ステージの回転中心の座標を算出するようにしている。
【0016】
図1は、この発明の回転中心の座標の算出方法の原理を示すものである。
この例では、対角関係にある2つのマーク(以下、「マークM1,M2」とする。)の基準位置に向けてそれぞれ撮像手段を設置した状態を想定している。図中のR1は、マークM1に対応する撮像手段の視野であり、R2は、マークM2に対応する撮像手段の視野である。また、ステージを反時計回りに回転させることにより、マークM1は、視野R1内の点a1から点b1に移動し、マークM2は、視野R2内の点a2から点b2に移動するものとする。この場合、点a1から点a2に向かうベクトル(以下、「ベクトルA」とする。)と点b1から点b2に向かうベクトル(以下、「ベクトルB」とする。)との交点Cが回転中心に相当し、各ベクトルA,Bのなす角度dTがステージの回転角度に相当すると考えることができる。
【0017】
この発明では、ステージの回転角度dTを任意の角度にしているので、回転中心の座標を算出する際には、まず前記回転角度dTを求める必要がある。ここで、各マークM1,M2間の距離をLとすると、回転角度dTは、前記ベクトルA,Bおよび距離Lを用いた下記の(1)式により求めることができる。
【0018】
【数1】

【0019】
つぎに、各マークM1,M2につき、x,yの各軸方向毎の移動量を(dx1,dy1)、(dx2,dy2)として、ベクトルA=(x,y)、ベクトルB=(x+(dx2−dx1),y+(dy2−dy1))とすると、内積A・Bは、(2)式のようになる。
A・B=x+y+x(dx2−dy1)+y(dy2−dy1)・・・(2)
【0020】
また|A|=|B|=Lより、
+y=(x+dx2−dy1)+(y+dy2−dy1) =Lとなるから、上記の(2)式を(3)式のように変形することができる。
【0021】
【数2】

【0022】
よって、各マークM1,M2の移動量(dx1,dy1)、(dx2,dy2)および各マーク間の距離Lを(3)式にあてはめることにより、内積A・Bを求め、さらにこの内積A・Bと前記距離Lとを(1)式にあてはめることにより、回転角度dTを求めることができる。ここで、距離Lは、モデルのワークから計測することができ、各移動量は、ステージの回転前の各マークの位置(点a1,a2の座標)と回転後の各マークの位置(点b2,b2の座標)により求めることができる。したがって、各マークM1,M2が視野R1,R2から出ることがない範囲で任意の角度だけステージを回転させるとともに、その回転前および回転後に各マークを撮像してその位置を計測することにより、これらの位置とあらかじめ計測した距離Lとから回転角度dTを求めることができる。
【0023】
このようにして回転角度dTを求めた後は、各マークM1,M2の回転前および回転後の位置と回転角度dTとを用いて、回転中心Cの座標(cx,cy)を求めることができる。
すなわち、マークM(i=1,2)の回転前の位置を(sx,sy)、回転後の位置を(x,y)、θ=−dTとすると、
=cosθ(sx−cx)−sinθ(sy−cy)+cx
=sinθ(sx−cx)+cosθ(sy−cy)+cy となる。
この2式により、cx,cyの算出式として、それぞれ(4)(5)式を導き出すことができる。
【0024】
【数3】

【0025】
【数4】

【0026】
なお、上記の(4)(5)式は、マークM1,M2毎に実行することができるが、少なくとも1つのマークについて実行すればよい。より好ましくは、マークM1,M2毎に(4)(5)式を実行し、マーク毎に求めたcx,cyの平均値を回転中心の座標とするのがよい。
【0027】
このように、この発明では、ステージの回転前および回転後に得た各画像とマーク間の距離とを用いてステージの回転中心を算出することができる。しかも、ステージの回転角度は、各マークが対応するカメラの視野から出ない範囲で任意に設定することができるので、回転機構の精度に左右されることなく、実際のステージの回転角度に基づき精度の良い算出処理を行うことができる。よって、ワークの位置決め処理では、前記撮像手段により得た画像から求めた各マークの位置と、各マークの基準位置と、前記回転中心の座標とを用いて、ワークの回転角度を精度良く求めた後、前記回転機構を駆動することにより、ワークの姿勢を調整することができる。
【0028】
なお、前記マーク間の距離Lを特定するデータとして入力されるデータは、Lの値そのものであるのが望ましいが、これに限らず、各マークのワーク上の位置を示すデータなど、距離Lを算出可能なデータを入力してもよい。
【0029】
この発明にかかる回転中心算出方法の好ましい態様では、前記ステージの回転中心の座標を算出する処理において、対角関係にある2個の位置決めマークについて、それぞれ前記ステップB,Cで得た画像を用いてステージ回転前の座標とステージ回転後の座標とを求める第1ステップと、第1ステップで算出された各座標から前記ステージの回転による各位置決めマークの移動量を求める第2ステップと、前記位置決めマーク間の距離と前記第2ステップで求めた各位置決めマークの移動量とを用いて、前記ステージの回転角度を求める第3ステップと、前記第3ステップで求めた回転角度と少なくとも1つの位置決めマークのステージ回転前および回転後の座標とを用いて、前記回転中心の座標を算出する第4ステップとを実行する。この場合の第3ステップでは、ステージ回転前の各位置決めマークを結ぶベクトルとステージ回転後の前記ベクトルとの内積を用いて前記回転角度を算出する処理が実行されていると考えることができる。
【0030】
なお、回転中心の算出に使用するマークは2個に限らず、3個以上のマークを使用することもできる。この場合には、対角関係にあるワークの組を順に選択しながら、組毎に上記した手順で回転角度dTおよび回転中心Cを求め、各組の算出結果を平均化した値を回転中心とすることができる。
【0031】
この発明にかかるワーク位置決め装置は、回転機構を具備するステージと、前記ステージ上のワークの位置決めマークを撮像するための複数の撮像手段と、各撮像手段により得た画像を用いて各位置決めマークがそれぞれ前記基準位置に合うように前記ステージの動作を制御する制御装置とを具備するもので、前記複数の撮像手段は、少なくとも対角関係にある2個の位置決めマークの基準位置に向けてそれぞれ配備される。前記制御装置は、前記対角関係にある位置決めマーク間の距離を特定するデータを入力するための入力手段を具備し、前記ステージにモデルのワークが設置されたとき、各撮像手段にそれぞれ対応する位置決めマークを撮像させた後、ステージを所定量だけ回転させて各撮像手段に各位置決めマークを再度撮像させ、前記ステージの回転前および回転後に得た各画像と前記入力手段から入力された位置決めマーク間の距離とを用いて、前記ステージの回転中心の座標を算出する。
【0032】
前記制御装置は、コンピュータを制御主体とするのが望ましい。入力手段は、キーボードやマウスなどの入力用デバイスにより構成することができるが、これに限定されるものではない。たとえば、外部装置からマーク間の距離を特定するデータの伝送を受け付ける通信回路を入力手段として機能させることもできる。
【0033】
前記制御装置には、前記した回転中心算出方法を実行するためのプログラムを組み込むことができる。なお、1回目の撮像後にステージを回転させる処理においては、各マークが対応する撮像手段の視野から出ることがないように、あらかじめ回転機構の動作量を設定しておくのが望ましい。ただし、ステージの回転は自動制御に限らず、ユーザーの操作に応じて制御することもできる。
また、この制御装置が算出した回転中心の座標は、以後の処理対象のワークの回転角度を算出するために、内部のメモリに格納しておくのが望ましい。
【0034】
好ましい態様にかかるワーク位置決め装置では、制御装置は、前記対角関係にある2個の位置決めマークについて、それぞれ前記撮像手段から得た画像を用いてステージ回転前の座標とステージ回転後の座標とを求める座標算出手段;前記座標算出手段が算出した各座標から前記ステージの回転による各位置決めマークの移動量を求める移動量算出手段;前記位置決めマーク間の距離と前記移動量算出手段が算出した各位置決めマークの移動量とを用いて、前記ステージの回転角度を求める回転角度算出手段の各手段を含み、前記回転角度算出手段が算出した回転角度と少なくとも1つの位置決めマークにかかるステージ回転前およびステージ回転後の座標とを用いて、前記回転中心の座標を算出するように構成される。
【発明の効果】
【0035】
この発明によれば、ステージの回転前および回転後に得た各画像とマーク間の距離とを用いてステージの回転中心の座標を算出することができる。しかも、ステージの回転角度は、各マークが対応するカメラの視野から出ない範囲で任意に設定することができるので、回転機構の精度に左右されることなく、精度の良い算出処理を行うことができる。よって、簡単かつ精度良くステージの回転中心を算出することができるので、その算出結果を用いることにより、ワークの位置決めの精度を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図2は、この発明が適用されたワーク位置決め装置の構成例を示す。このワーク位置決め装置は、液晶基板のような多層基板の製造工程において、各層を構成する基板の位置合わせに使用されるもので、ワーク支持用のステージ1、2台のCCDカメラ21,22(以下、単に「カメラ21,22」という。)、コントローラ3などにより構成される。
【0037】
前記ステージ1は、ワーク4を支持するテーブル部10を本体とする。また、ここには図示していないが、このステージ1には、前記テーブル部10をx,yの各軸方向に移動させる移動機構や、テーブル部10を回転させるための回転機構などが含められる。各カメラ21,22は、移動可能なアーム部(図示せず。)により、前記テーブル部10の上方の所定位置に光軸を鉛直方向に向けた状態で支持される。
【0038】
この実施例の位置決め対象のワーク4(基板)の上面には、対角関係にある2個の角部41,42にそれぞれ位置決めマークM1,M2が設けられている。各カメラ21,22は、このマークM1,M2の基準位置に対応する位置に配備される。
【0039】
前記コントローラ3は、パーソナルコンピュータにより構成されるもので、図3に示すように、CPU34を制御主体として、メモリ35、画像メモリ33、各カメラ21,22に対応する画像入力部31,32、ステージ制御部36、入力部37、出力部38などを具備する。
【0040】
画像入力部31,32は、カメラ用のインターフェース回路やA/D変換回路などにより構成される。画像メモリ33は、各画像入力部31,32でディジタル変換された画像データを記憶するためのもので、カメラ毎に複数枚の画像を蓄積できるだけの容量を具備する。前記メモリ35には、CPU34の動作に必要なプログラムや設定データが格納されるほか、作業用のデータ格納領域が設定される。
【0041】
ステージ制御部36は、前記ステージ1の各移動機構や回転機構に、CPU34により計算された動作量に応じた制御信号を出力する。これにより各移動機構は、前記動作量に応じた距離だけテーブル部10を移動させ、回転機構は、動作量に応じた角度だけテーブル部10を回転させる。
【0042】
入力部37は、マークM1,M2間の距離Lなどの設定データを入力するためのもので、図2のキーボード371やマウス372などにより構成される。出力部38は、位置合わせ処理が完了した旨や後記する設定処理における計測結果(回転角度や中心位置の座標など)などを出力するためのもので、図2のモニタ30などにより構成される。
【0043】
上記構成において、コントローラ3は、各カメラ21,22により得たマークM1,M2の画像を用いて、ワーク4のx軸方向におけるずれ量dx、y軸方向におけるずれ量dy、およびワーク4の回転角度dθを算出する(以下では、dx,dy,dθをまとめて「ずれ量」という。)。そして、これらのずれ量に基づき前記ステージ1の各移動機構や回転機構を動作させることにより、前記ワーク4の各マークM1,M2を前記基準位置に位置合わせする。
【0044】
また、コントローラ3は、上記の位置合わせ処理を行うのに先立ち、カメラ21,22毎にキャリブレーションを行って、そのカメラからの画像に含まれる各点を実座標に置き換えるのに必要なパラメータを算出する。さらに、この実施例のコントローラ3では、前記ワークのずれ量のうちの回転角度dθを算出するために、ステージ1の回転中心の座標を求める処理を実行する。
なお、前記した実座標とは、テーブル部10の上面を含む仮想平面上での位置を表すもので、たとえばテーブル部10の可動領域の左上端点に原点が設定される。
【0045】
図4は、前記コントローラ3による設定処理時の手順を示す。
まず、最初のST1(STはステップの略である。以下も同じ。)では、前記したカメラ21,22のキャリブレーションを実行する。このキャリブレーションで求められた各変換用パラメータは、前記メモリ35に格納される。
【0046】
つぎに、ST2では、前記マークM1,M2の基準位置およびこれらマークM1,M2間の距離Lの入力を受け付けて、これらを登録する。なお、ユーザーは、実物のワーク4を用いた計測またはワーク4の設計データから、ワーク4の所定位置(たとえば左上端点)から見た各マークM1,M2の位置を求め、これらの位置データに基づき、各マークM1,M2の位置すべき実座標を特定することができる。ここで特定された実座標が基準位置として入力される。同様に、各マークM1,M2の位置データからマーク間の距離Lを求め、入力することができる。
【0047】
ST3では、モデルのワークをステージ1上に設置し、前記マークM1,M2がそれぞれ対応するカメラ21,22の視野に含まれるまでステージ1を移動させる。つぎのST4では、各カメラ21,22を駆動して前記各マークM1,M2の画像を生成する。
なお、ST3,4におけるステージ1の移動は、あらかじめ設定された動作量に基づき自動的に行うことができるが、これに限らず、ユーザーの操作に応じて移動させてもよい。これは、図5中のST21においても同様である。
【0048】
続くST5では、各カメラ21,22により得た画像を用いて各マークM1,M2の位置を計測する。この計測処理では、まず、画像上のマークの中心点を抽出し、その中心点の座標を前記ST1で設定されたパラメータを用いて実座標に変換する。このST5で得た各マークM1、M2の実座標は、前記図1の点a1,a2に対応する。
【0049】
つぎのST6では、各マークM1,M2が対応するカメラ21,22の視野を出ない範囲でステージ1を回転させる。ST7では、各カメラ21,22を再駆動して2回目の撮像処理を実行する。またST8では、この2回目の撮像処理で得た画像を用いて各マークM1,M2の位置を再度計測する。このST8で得た各マークM1,M2の実座標は、前記図1の点b1,b2に対応する。
【0050】
つぎのST9では、ステージ1の回転角度dTを求める処理を実行する。このステップでは、まず前記ST5で求めた点a1,a2の座標と、ST8で求めた点b1,b2の座標とを用いて、各マークM1,M2の移動量(dx1、dy1)(dx2,dy2)を算出する。つぎに、これらの移動量と前記マーク間の距離Lとを前述した(3)式にあてはめることにより、ベクトルA,Bの内積を求める。そして、この内積と前記距離Lとを(1)式にあてはめることにより、回転角度dTを算出する。
【0051】
このようにして回転角度dTが求められると、ST10では、各マークM1,M2の移動前の座標(点a1,a2の座標)、移動後の座標(点b1,b2の座標)、および前記回転角度dTを用いて、(4)(5)式を実行し、マーク毎に回転中心Cの座標を算出する。そして、これらの座標の平均値をもって、回転中心の座標とする。ST11では、この最終の回転中心の座標をメモリ35に登録し、しかる後に処理を終了する。
【0052】
なお、上記の設定処理において、回転中心の算出精度をさらに向上したい場合には、ST4〜10の処理を複数サイクル繰り返して実行し、サイクル毎に得た回転中心の座標の平均値をもって、最終的な回転中心とすればよい。この場合、サイクル毎にステージ1の回転角度が異なっても支障はない。
【0053】
図5は、前記コントローラ3による位置合わせ処理の手順を示す。
まず最初のステップであるST21では、処理対象のワーク4が設置されたステージ1を、前記マークM1,M2がカメラ21,22の視野に含まれる位置まで移動させる。つぎのST22では、各カメラ21,22を駆動してマークM1,M2の画像を生成する。
【0054】
ST23では、各カメラ21,22からの画像を用いて各マークM1,M2の位置を計測する。なお、このステップでも図4のST5やST8と同様に、画像中のマークの中心位置を抽出した後、この中心位置の座標を実座標に変換する処理を実行する。
【0055】
ST24では、前記ST23で得た各マークM1,M2の計測位置を用いて、ワークのずれ量dx,dy,dθを算出する。なお、dx,dyについては、マーク毎に計測位置と基準位置からの座標の差を求めた後、これらの差の平均値を算出する。一方、dθについては、マーク毎に、計測位置および基準位置と、前記設定処理で求めた回転中心の座標とを用いて回転角度を求めた後、各回転角度の平均値を算出する。
【0056】
ST25では、ST24で求めたずれ量dx,dy,dθに基づき、各移動機構および回転機構の動作量を決定する。そして、各機構をそれぞれ決定した動作量により順に制御することにより、x,yの各軸方向における位置ずれおよび回転ずれを補正し、しかる後に処理を終了する。
【0057】
ところで、ステージの回転中心の座標を演算により求める従来の方法でも、対角関係にある2個のマークを撮像してからステージを回転させ、回転後に各マークを再度撮像し、2回の撮像で得た画像を用いた演算を実行する。すなわち、この実施例における回転中心の算出方法にかかる手順は、一見すると、従来の方法と何ら変わりがないように思われる。
【0058】
しかしながら、この実施例では、ステージの回転角度を特に規定していないのに対し、従来の方法では、ステージの回転角度を定めてから回転させるようにしている。
ステージの実際の回転角度には回転機構の性能に起因する誤差が生じるから、従来のようにステージが正確に回転していることを前提にした演算を行うと、不正確な回転中心が導出されることになる。この不正確な回転中心により、回転ずれ補正では、ワークの回転角度を精度良く求められない上、回転補正のためにステージを回転させた際にも誤差が生じる。つまり従来の方法では、誤差が重畳されて、回転ずれ補正の精度が著しく悪くなる可能性がある。
【0059】
これに対し、この実施例では、ステージ1の回転前および回転後の各マークの計測位置と、マーク間の距離Lとを用いることにより、ステージ1の実際の回転角度を精度良く求めることができるので、回転中心の座標を的確に求めることができる。よって、回転ずれ補正の際にも、ワーク4の回転角度を精度良く求めることができ、補正時に生じる誤差を大幅に削減して位置合わせの精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明にかかる回転中心の算出処理の原理を説明する図である。
【図2】ワーク位置決め装置の構成例を示す説明図である。
【図3】ワーク位置決め装置の電気構成を示すブロック図である。
【図4】設定処理時の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】ワークの位置合わせ処理時の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1 ステージ
3 制御装置
4 ワーク
10 テーブル部
21,22 カメラ
34 CPU
35 メモリ
37 入力部
M1,M2 マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の位置決めマークが設けられたワークを回転機構を具備するステージ上に設置するとともに、少なくとも対角関係にある2個の位置決めマークの基準位置に向けてそれぞれ撮像手段を設置し、各撮像手段により得た画像を用いて各位置決めマークがそれぞれ前記基準位置に合うように前記ステージの動作を制御するワーク位置決め処理において、前記ワークの回転ずれの補正に必要なステージの回転中心の座標を求める方法であって、
前記ワーク上の位置決めマーク間の距離を特定するデータを入力するステップAと、モデルのワークを前記ステージ上に設置して、各撮像手段にそれぞれ対応する位置決めマークを撮像させるステップBと、前記各位置決めマークが対応する撮像手段の視野から出ない範囲で前記ステージを回転させ、各撮像手段に位置決めマークを再度撮像させるステップCとを実行した後、前記ステップB,Cで得た画像と前記位置決めマーク間の距離とを用いて、前記ステージの回転中心の座標を算出することを特徴とする回転中心算出方法。
【請求項2】
請求項1に記載された方法において、
前記ステージの回転中心の座標を算出する処理では、前記対角関係にある2個の位置決めマークについて、それぞれ前記ステップB,Cで得た画像を用いてステージ回転前の座標とステージ回転後の座標とを求める第1ステップと、第1ステップで算出された各座標から前記ステージの回転による各位置決めマークの移動量を求める第2ステップと、前記位置決めマーク間の距離と前記第2ステップで求めた各位置決めマークの移動量とを用いて、前記ステージの回転角度を求める第3ステップと、前記第3ステップで求めた回転角度と少なくとも1つの位置決めマークの回転前および回転後の座標とを用いて、前記ステージの回転中心の座標を算出する第4ステップとを実行する回転中心算出方法。
【請求項3】
請求項2に記載された方法において、
前記第3ステップでは、ステージ回転前の各位置決めマークを結ぶベクトルとステージ回転後の前記ベクトルとの内積を用いて前記回転角度を算出する回転中心算出方法。
【請求項4】
回転機構を具備するステージと、前記ステージ上のワークの位置決めマークを撮像するための複数の撮像手段と、各撮像手段により得た画像を用いて各位置決めマークがそれぞれ前記基準位置に合うように前記ステージの動作を制御する制御装置とを具備するワーク位置決め装置において、
前記複数の撮像手段は、少なくとも対角関係にある2個の位置決めマークの基準位置に向けてそれぞれ配備されており、
前記制御装置は、前記対角関係にある位置決めマーク間の距離を特定するデータを入力するための入力手段を具備し、前記ステージにモデルのワークが設置されたとき、各撮像手段にそれぞれ対応する位置決めマークを撮像させた後、ステージを所定量だけ回転させて各撮像手段に各位置決めマークを再度撮像させ、前記ステージの回転前および回転後に得た各画像と前記入力手段から入力された位置決めマーク間の距離とを用いて、前記ステージの回転中心の座標を算出するワーク位置決め装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記対角関係にある2個の位置決めマークについて、それぞれ前記撮像手段から得た画像を用いてステージ回転前の座標と回転後の座標とを求める座標算出手段と、前記座標算出手段が算出した各座標から前記ステージの回転による各位置決めマークの移動量を求める移動量算出手段と、前記位置決めマーク間の距離と前記移動量算出手段が算出した各位置決めマークの移動量とを用いて、前記ステージの回転角度を求める回転角度算出手段とを含み、前記回転角度算出手段が算出した回転角度と少なくとも1つの位置決めマークにかかるステージ回転前およびステージ回転後の座標とを用いて、前記ステージの回転中心の座標を算出する請求項4に記載されたワーク位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−49755(P2006−49755A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232059(P2004−232059)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】