説明

回転角度検出装置及び内燃機関の運転制御装置

【課題】 回転体の機械的誤差による影響を低減可能な回転角度検出装置及び内燃機関の運転制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明の回転角度検出装置20は、内燃機関1のクランクシャフト8に取り付けられ、かつ複数の歯部21aが回転方向Dに沿って設けられた回転体21と、各歯部21aの前側エッジEf及び後側エッジEbのそれぞれを検出可能な電磁ピックアップ22及び波形整形器23と、を備え、検出された前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれか一方を基準にしてクランクシャフト8の回転角度を検出する。そして、隣接する歯部21a間の角度で、前側エッジEfを基準とした角度θfと、後側エッジEbを基準とした角度θbとを算出し、これらの誤差Δθf,Δθbを比較して、前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれか一方を回転角度の検出の基準として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフト等の被検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置及び内燃機関の運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転角度検出装置として、凹凸を有する磁性体の回転体と、磁気強度に応じた電気信号を出力する磁電変換素子と、磁界を発生する永久磁石とを備えるとともに、回転体の凹凸の位置を矩形波の電気信号として生成し、矩形波の立上り又は立下り信号に基づいて回転体の回転角度を検出するものが知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献2が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開平10−103145号公報
【特許文献2】特開平7−174773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の回転角度検出装置では、回転体の凹凸等の機械的誤差を考慮していないため、立上り信号に基づいて検出する回転角度と立下り信号に基づいて検出する回転角度との間で精度の差が生じる場合がある。しかしながら、この装置では、そのような精度の差に対する対策がなされていないため、立上り信号又は立下り信号のうち精度が悪い方を回転角度の検出の基準とした場合に、機械的誤差による影響が大きくなるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、回転体の機械的誤差による影響を低減可能な回転角度検出装置及び内燃機関の運転制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の回転角度検出装置は、被検出対象に取り付けられ、かつ複数の被検出部が回転方向に沿って設けられた回転体と、各被検出部の前記回転体の回転方向前方の前側エッジ及び回転方向後方の後側エッジのそれぞれを検出可能なエッジ検出手段と、を備え、前記エッジ検出手段が検出した前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方を基準にして前記被検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、前記複数の被検出部のうち、互いに隣接する被検出部間の角度を、前記前側エッジ及び前記後側エッジのそれぞれに基づいて算出可能な角度算出手段と、前記角度算出手段が算出した前記角度の所定の基準値に対する誤差を算出する誤差算出手段と、前記前側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差と、前記後側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差とを比較し、その比較結果に基づいて前記前側エッジ又は前記後側エッジのうちのいずれか一方を、前記被検出対象の回転角度の検出の基準として設定する基準設定手段と、を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
第1の回転角度検出装置によれば、前側エッジに基づいて算出された被検出部間の角度、及び後側エッジに基づいて算出された被検出部間の角度のそれぞれの誤差が算出され、これらの誤差を比較した結果に基づいて前側エッジ又は後側エッジのいずれか一方が被検出対象の回転角度の検出の基準として設定される。従って、前側エッジ及び後側エッジのうち、より精度の高いエッジを回転角度の検出の基準として選択することが可能となるので、被検出対象の回転角度の検出するにあたり、回転体の機械的誤差の影響を低減することが可能となる。
【0008】
第1の回転角度検出装置においては、前側エッジ又は後側エッジのうち、回転体の機械的誤差の影響がより小さくなるエッジが選ばれるように、誤差を比較すればよい。例えばその一態様として、前記基準設定手段は、前記誤差算出手段が算出した互いに隣接する被検出部間のそれぞれの前記誤差のうち、前記前側エッジに基づいて算出された前記角度における最大誤差と前記後側エッジに基づいて算出された前記角度における最大誤差とをそれぞれ特定し、前記前側エッジ又は前記後側エッジのうち、特定された前記最大誤差が小さい方を前記基準として設定してもよい(請求項2)。
【0009】
また、本発明の第2の回転角度検出装置は、被検出対象に取り付けられ、かつ複数の被検出部が回転方向に沿って設けられた回転体と、各被検出部の前記回転体の回転方向前方の前側エッジ及び回転方向後方の後側エッジのそれぞれを検出可能なエッジ検出手段と、を備え、前記エッジ検出手段が検出した前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方を基準にして前記被検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、前記複数の被検出部のうち、互いに隣接する被検出部間の角度を、前記前側エッジ及び前記後側エッジのそれぞれに基づいて算出可能な角度算出手段と、前記角度算出手段が算出した前記角度の所定の基準値に対する誤差を算出する誤差算出手段と、前記誤差算出手段が算出した前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方についての前記誤差が許容範囲を超える場合には、前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか他方を前記被検出対象の回転角度の検出の基準として設定する基準設定手段と、を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項3)。
【0010】
第2の回転角度検出装置によれば、前側エッジ又は後側エッジのうちのいずれか一方を基準とした場合の誤差が許容範囲を超えたときに、いずれか他方が基準として設定される。従って、前側エッジ又は後側エッジのいずれか一方をいずれか他方のバックアップとして機能させることができる。これにより、例えば回転体の経年劣化等によって一方のエッジの精度が悪化した場合には他方のエッジに切り替えることができるので、後発的に生じた回転体の機械的誤差の影響を可能な限り少なくすることができる。
【0011】
また、本発明の内燃機関の運転制御装置は、内燃機関のクランクシャフトに取り付けられ、かつ複数の被検出部が回転方向に沿って設けられた回転体と、各被検出部の前記回転体の回転方向前方の前側エッジ及び回転方向後方の後側エッジのそれぞれを検出可能なエッジ検出手段と、前記エッジ検出手段の検出結果に基づいて前記クランクシャフトの回転角度を検出し、その検出結果に応じて所定の処理を実行する処理実行手段と、を備えた内燃機関の運転制御装置であって、前記複数の被検出部のうち、互いに隣接する被検出部間の角度を、前記前側エッジ及び前記後側エッジのそれぞれに基づいて算出可能な角度算出手段と、前記角度算出手段が算出した前記角度の所定の基準値に対する誤差を算出する誤差算出手段と、を更に備え、前記処理実行手段は、前記前側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差と、前記後側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差とを比較するとともに、その比較結果に基づいて前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方を基準として前記クランクシャフトの回転角度を検出することにより、上述した課題を解決する(請求項4)。
【0012】
この運転制御装置によれば、被検出部の前側エッジ及び後側エッジのそれぞれに関して算出された誤差を比較し、その比較結果に基づいて前側エッジ又は後側エッジのいずれか一方を基準としてクランクシャフトの回転角度が検出される。そして、その検出結果に応じて所定の処理が処理実行手段にて実行されるので、所定の処理、例えば内燃機関の失火検出処理等の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、隣接する被検出部間の角度が前側エッジ及び後側エッジのそれぞれについて算出されるとともに、当該角度に関する誤差が前側エッジと後側エッジに関して比較されて、前側エッジ又は後側エッジのいずれか一方が回転角度の検出の基準として設定される。又は、前側エッジ又は後側エッジのいずれか一方に関する誤差が許容範囲を超えた場合に、いずれか他方のエッジが回転角度の検出の基準として設定される。このため、被検出対象の回転角度を検出する際に、回転体の機械的誤差による影響を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の回転角度検出装置及び運転制御装置を内燃機関に適用した実施形態の要部を示している。内燃機関1は、直列4気筒のレシプロ式のガソリンエンジンであり、4つ(図1では1つのみ示す。)の気筒2,..,2を有するシリンダブロック3と、吸気ポート4a及び排気ポート4bを有するシリンダヘッド4と、クランクケース5と、を備えている。各気筒2にはピストン6が収容される。ピストン6はコネクティングロッド7を介してクランクシャフト8に連結される。吸気ポート4aは吸気管9に、排気ポート4bは排気管10にそれぞれ接続される。吸気管9には、エアフィルタ(不図示)を通過した空気の流量を調整するスロットルバルブ11が設けられる。シリンダヘッド4には、吸気ポート4aを開閉する吸気バルブ12と、排気ポート4bを開閉する排気バルブ13と、がそれぞれ設けられている。内燃機関1の運転状態は、各種センサの出力信号に基づいて内燃機関1の各部を制御するエンジンコントロールユニット(ECU)14にて制御される。ECU14は、CPU、ROM、及びRAM等の機器で構成されている。
【0015】
内燃機関1には、被検出対象としてのクランクシャフト8の回転角度(位置)を検出するため、回転角度検出装置20が設けられている。回転角度検出装置20は、クランクシャフト8と同軸に取り付けられ、かつ複数の歯部(被検出部)21aが外周に設けられた金属製のタイミングロータ(回転体)21と、歯部21aと対向するようにして配置された電磁ピックアップ22と、電磁ピックアップ22から出力された電気信号の波形を整形する波形整形器23と、を有している。
【0016】
図2は、回転角度検出装置20の詳細を示している。タイミングロータ21は、回転方向Dへクランクシャフト8と一体に回転する。複数の歯部21a,..,21aは、上死点(TDC)判別用の歯欠け部21bを除き、隣接する歯部21a間の角度が10°となるように設計されてタイミングロータ21の回転方向Dに沿って設けられている。歯欠け部21bは歯部21aの2個分に相当する。各歯部21aは、回転方向Dの前方の前側エッジEfと後方の後側エッジEbとを有している。電磁ピップアップ22は、タイミングロータ21との間に所定のエアギャップGを形成するようにして配置されている。これにより、クランクシャフト8の回転に伴ってタイミングロータ21が回転すると、各歯部21aの接近と離間とに応じてエアギャップGの大きさが変化する。このため、電磁ピックアップ22のコイル部(不図示)を通過する磁束が増減してコイル部に起電力が発生する。この起電力の電圧は、各歯部21aの接近と離間とで互いに逆向きとなるので、電磁ピップアップ22からは交流電圧形式のピックアップ信号Pが出力される。波形整形器23は、入力信号を矩形波や台形波等の所定波形に整形する波形整形回路を有している。これにより、波形整形器23に入力されたピックアップ信号Pは所定波形の出力信号Neに整形されてECU14に入力される。ECU14に入力された出力信号Neは、ECU14に設けられたA/D変換器(不図示)にてデジタル信号に変換される。
【0017】
図3は、(a)タイミングロータ21の歯部21aの形状、(b)電磁ピックアップ22から出力されるピックアップ信号P、及び(c)波形整形器23から出力される出力信号Neをそれぞれ模式的に示した説明図である。図3(a)〜(c)に示したように、ピックアップ信号Pが波形整形器23にて整形されることにより、各歯部21aの前側エッジEfが出力信号Neの立上り部Neuとして、後側エッジEbが出力信号Neの立下り部Nedとしてそれぞれ検出される。これにより、電磁ピップアップ22及び波形整形器23によって本発明のエッジ検出手段が構成される。ECU14は、波形整形器23の出力信号Neの立上り部Neu又は立下り部Nedのいずれか一方を基準として、言い換えると、前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれか一方を基準として、クランクシャフト8の回転角度を検出できる。また、ECU14は、互いに隣接する歯部21a間の時間、即ち、ある歯部21aの前側エッジEfから隣の歯部21aの前側エッジEfまでの回転に要した時間、又はある歯部21aの後側エッジEbから隣の歯部21aの後側エッジEbまでの回転に要した時間を出力信号Neに基づいて測定する手段を有している。当該手段にて測定された時間と互いに隣接する歯部21a間の角度とからクランクシャフト8の角速度(rad/s)や内燃機関1の機関回転数(rpm)を検出できる。
【0018】
もっとも、タイミングロータ21には製造誤差等の機械的誤差があるため、各歯部21aの間隔や大きさ等の各種寸法が設計値と正確に一致しない。そのため、歯部21aの前側エッジEfを基準として検出したクランクシャフト8の回転角度と、後側エッジEbを基準として検出したクランクシャフト8の回転角度との間で精度の差が生じ得る。そこで、回転角度検出装置20では、このような機械的誤差の影響を可能な限り小さくできるように、図4に示した誤差学習ルーチンを実行し、前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれか一方を回転角度の検出の基準として設定する。
【0019】
図4は、誤差学習ルーチンの内容を示したフローチャートである。このルーチンのプログラムはECU14のROMに格納されており、所定のタイミングで開始され、ECU14によって所定間隔で繰り返し実行される。図4の処理において、ECU14は、ステップS1において、前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれか一方が、クランクシャフト8の回転角度の検出の基準(基準エッジ)として、設定済みであるか否かを判定する。この判定は、後述の管理フラグを参照して行う。基準エッジが設定済みである場合には、処理をステップS2に進め、学習開始条件の成否を判定する。学習開始条件は、設定済みの基準エッジを見直す必要性を判断する条件であり、例えば、内燃機関1を搭載した車両の走行距離、内燃機関1の累積運転時間等の各種パラメータが所定の閾値を超えたか否かを成立要件として含むものである。学習開始条件が成立した場合には、ステップS3〜ステップS8の処理が実行され、学習開始条件が成立しない場合には、これらの処理を行わず今回のルーチンを終える。
【0020】
ステップS1において否定判定、又はステップS2において肯定判定された場合には、ステップS3において、前側エッジEfを基準として互いに隣接する歯部21a間の角度θfを算出するとともに、後側エッジEbを基準として互いに隣接する歯部21a間の角度θbを算出する。角度θf,θbはそれぞれタイミングロータ21の少なくとも一周分算出される。ステップS3の処理を実行することにより、ECU14が角度検出手段として機能する。角度θf,θbの算出は適宜の手法で行ってよい。例えば、クランクシャフト8の回転変動が可能な限り少ない期間、例えば内燃機関1がフューエルカット状態にあり、かつ、クランクシャフト8が等速回転とみなし得る期間を利用して、次の式(1)、(2)に基づいて算出してもよい。
【0021】
θf=θref×Tf/Tref (1)
θb=θref×Tb/Tref (2)
【0022】
ここで、θrefは隣接する歯部21a間の角度の設計値であり、本実施形態では、θref=10°である。Tfは、前側エッジEfを基準とした歯部21a間の測定時間、即ち、ある歯部21aの前側エッジEfから隣の歯部21aの前側エッジEfまでの回転に要した測定時間である。Tbは、Tfと同様に後側エッジEbを基準とした歯部21a間の測定時間である。
【0023】
また、Trefは、クランクシャフト8やタイミングロータ21の製造上の誤差がなく、かつ、これらが回転する際の振動の影響を受けない、とした場合における歯部21a間の回転に要する推定時間である。この推定時間は、例えば、出力信号の検出時にECU14が認識している機関回転数NEに基づいて、次の式(3)にて算出できる。機関回転数NEは1分当たりの機関回転数(rpm)である。
【0024】
Tref=(60/NE)×(θref/360) (3)
【0025】
次に、ECU14は、ステップS3で算出した前側エッジEfに基づく角度θfの設計値(所定の基準値)θrefに対する誤差Δθfを求める(ステップS4)。誤差Δθfは、Δθf=|θref−θf|である。続いて、ステップS3で算出した後側エッジEbに基づく角度θbの設計値θrefに対する誤差Δθbを求める(ステップS5)。誤差Δθbは、Δθb=|θref−θb|である。図5(a)に、角度θfと誤差Δθfとの関係を、図5(b)に、角度θbと誤差Δθbとの関係をそれぞれ示す。ステップS4及びステップS5を実行することにより、ECU14が誤差算出手段として機能する。
【0026】
次に、ECU14は、ステップS6において、ステップS4及びステップS5にて算出した誤差Δθf、Δθbを比較する。本実施形態では、誤差Δθfの中から最も大きいものを最大誤差Δθfmaxとして、誤差Δθbのなかから最も大きいものを最大誤差Δθbmaxとしてそれぞれ特定し、ΔθfmaxとΔθbmaxとを比較する。次いで、ECU14は、ステップS7において、ステップS6の比較結果に基づいて前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれか一方を基準エッジとして選択し、その選択結果をECU14のRAMの所定領域に割り当てられた管理フラグに記憶させる。この形態では、最大誤差Δθfmax、Δθbmaxのうち小さい方を基準エッジとして選択する。つまり、最大誤差Δθfmaxが最大誤差Δθbmaxよりも小さい場合には、基準エッジとして前側エッジEfを、最大誤差Δθbmaxが最大誤差Δθfmaxよりも小さい場合には、基準エッジとして後側エッジEbを選択する。
【0027】
次に、ECU14はステップS8において、ステップS7で選択された基準エッジに基づいてクランクシャフト8の回転角度が検出されるように、絶対角度を設定して今回のルーチンを終了する。例えば、ステップS8の選択の結果、基準エッジを前側エッジEfから後側エッジEbに変更する必要がある場合には、絶対角度が歯部21aの歯幅分、つまり前側エッジEfー後側エッジEb間の角度α(図3(c)参照)分変更される。ステップS8を実行することにより、ECU14が基準設定手段として機能する。
【0028】
図4の処理によれば、前側エッジEf又は後側エッジEbのうち、最大誤差が小さい方が基準エッジとして選択されるので、クランクシャフト8の回転角度の検出における機械的誤差の影響をできる限り小さくできる。また、図4の処理のうち、ステップS3〜ステップS8については、所定の学習開始条件が成立するたびに実行され、基準エッジの見直しが行われる。従って、例えば歯欠け等により一方のエッジを基準とした回転角度の検出精度が悪化した場合でも、より精度の高いエッジが基準エッジとして設定される。
【0029】
次に、クランクシャフト8の回転角度の検出結果に応じてECU14が実行する処理の一例として、失火検出処理について説明する。図6は、失火検出ルーチンの内容を示すフローチャートである。この失火検出ルーチンは、図4の誤差学習ルーチンと並行し、所定間隔で繰り返し実行される。このルーチンを実行することによりECU14が本発明の処理実行手段として機能する。ECU14は、まずステップS11で、クランクシャフト8の回転角度が失火判定区間にあるか否かを判定する。失火判定区間は、各気筒2の圧縮TDC付近の所定区間に設定される。失火判定区間でないときは、今回のルーチンを終了し、一方失火判定区間のときは、ステップS12に進む。ステップS12において、ECU14は、現在のクランクシャフト8の角速度ωを算出する。次に、ECU14は、ステップS13において、ステップS12で算出した角速度ωと、正常時の基準角速度ω0とを比較する。基準角速度ω0は内燃機関1の運転状態に応じて予め定められた値であり、ECU14のROMにマップとして保持されている。失火が発生した場合には、クランクシャフト8の回転が正常時よりも遅くなる。そのため、ECU14は、ステップS14において、角速度ωが基準角速度ω0未満か否かを判定し、角速度ωが基準角速度ω0未満のときはステップS15で失火と判定して今回のルーチンを終える。一方、基準角速度以上のときは失火と判定せずに今回のルーチンを終える。
【0030】
図6の処理によれば、ステップS11において使用されるクランクシャフト8の回転角度、及びステップS12において算出される角速度ωのそれぞれに、図4の誤差学習ルーチンの学習結果が反映されるので、回転角度及び角速度の検出ないし算出の精度が高まり、その結果、失火検出処理の精度が向上する。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この形態は、第1の実施形態と比べ誤差学習ルーチンのみ相違する。従って、以下の説明では第1の実施形態と共通する構成についての説明を省略する。図7は、第2実施形態の誤差学習ルーチンの内容を示したフローチャートである。この形態は、回転角度検出装置10の基準エッジの初期設定として、前側エッジEfが設定される形態に適用される。図7の処理において、ECU14はステップS21で、学習開始条件の成否を判定する。この処理は図4のステップS2と同一処理である。学習開始条件が成立している場合には、ステップS22に進み、一方、学習開始条件が成立していない場合には、以後の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。
【0032】
ステップS22では、前側エッジEfを基準とした角度θf、及び後側エッジEbを基準とした角度θbをそれぞれ算出する。この処理は図4のステップS3と同一である。次に、ECU14は、ステップS23で誤差Δθfを、ステップS24で誤差Δθbを、それぞれ算出し、続いて、ステップS25で、最大誤差Δθfmaxが最大誤差Δθbmaxよりも大きいか否かを判定する。Δθf、Δθb、Δθfmax、及びΔθbmaxはそれぞれ上述したものと同一である。ステップS25で肯定判定された場合には、後側エッジEbを基準エッジとした方がより精度の高い回転角度の検出が可能となるので、ステップS26において、基準エッジの設定が前側エッジEfから後側エッジEbへ変更されるように絶対角度を設定して今回のルーチンを終了する。一方、ステップS25で否定判定された場合には、ステップS26をスキップし、基準エッジの設定を前側エッジEfに維持して今回のルーチンを終える。これにより、図7の処理においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、基準エッジの初期設定として後側エッジEbが設定された場合には、図7に準じた処理を実行すればよい。具体的には、図7のステップS25の不等号の向きを反対にしたルーチンを用いればよい。
【0033】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。この形態は、第1の実施形態と比べ誤差学習ルーチンのみ相違する。従って、以下の説明では第1の実施形態と共通する構成についての説明を省略する。図8は、第3の実施形態の誤差学習ルーチンの内容を示したフローチャートである。この形態は、第2の実施形態と同様に、回転角度検出装置10の基準エッジの初期設定として、前側エッジEfが設定された場合に適用される。
【0034】
図8の処理において、ECU14は、まずステップS31で学習開始条件の成否を判定する。この処理は図4のステップS2と同一処理である。学習開始条件が成立している場合には、ステップS32に進み、一方、学習開始条件が成立していない場合には、以後の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。
【0035】
ステップS32では、前側エッジEfを基準とした角度θfを算出する。角度θfの算出は、図4のステップS3の場合と同様でよい。次に、ECU14は、ステップS33で誤差Δθfを算出し、続くステップS34で誤差Δθfが許容範囲を超えているか否かを判定する。誤差Δθfの算出は第1の実施形態と同様でよい。許容範囲は、回転角度検出装置20の検出結果を利用形態に応じて適宜に設定すればよい。本実施形態では、失火検出の精度が実用に支障がない程度となる限度で、許容範囲が設定される。ステップS34の処理では、隣接する歯部21a間のそれぞれに対して求められた全ての誤差Δθfが許容範囲内に収まっていないときに、誤差Δθfが許容範囲を超えたものと判定される。
【0036】
ステップS34で誤差Δθfが許容範囲を超えていると判定した場合には、ステップS35で、基準エッジの設定が前側エッジEfから後側エッジEbへ変更されるように絶対角度を設定して今回のルーチンを終了する。一方、ステップS25で否定判定された場合には、ステップS26をスキップし、基準エッジの設定を前側エッジEfに維持して今回のルーチンを終える。これにより、図8の処理においても、第1の実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。更に、許容範囲を適宜に設定することにより、前側エッジEf及び後側エッジEbのいずれか一方を、他方のバックアップとして機能させることができるので、回転角度検出装置20の信頼性を高めることができる。なお、基準エッジの初期設定として後側エッジEbが設定される形態の場合には、図8に準じた処理を実行すればよい。具体的には、ステップS32の角度θfを角度θbに、ステップS33及びステップS34の誤差Δθfを誤差Δθbに、それぞれ変更したルーチンを用いればよい。
【0037】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態で実施してもよい。被検出対象としては、内燃機関のクランクシャフトに限らず、例えばカムシャフト等の内燃機関に設けられた回転部材でもよいし、その他内燃機関以外の回転部材を検出対象としてもよい。
【0038】
回転体及びエッジ検出手段の形態は特に限定されない。例えば、本発明の回転体を、複数のスリット(被検出部)が回転方向に沿って設けられた形態とし、かつ、エッジ検出装置を、スリットに向けて光を照射する発光手段と、回転体を挟んで発光手段の反対側に設けられ、発光手段が照射した光を受光して光強度に応じた電気信号を出力する受光手段と、が設けられた形態として実現してもよい。
【0039】
第1及び第2の実施形態では、最大誤差Δθfmax及びΔθbmaxのそれぞれの大きさを比較したが、誤差Δθfの平均値と誤差Δθbの平均値とを比較してもよい。要するに、前側エッジEf又は後側エッジEbのいずれを基準とすれば回転角度の検出精度が向上するかという観点で、各種統計処理を用いて誤差が評価できるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の回転角度検出装置を内燃機関に適用した実施形態の要部を示した図。
【図2】図1の回転角度検出装置の詳細を示した図。
【図3】タイミングロータの歯部の形状、電磁ピックアップから出力されるピックアップ信号、及び波形整形器から出力される波形整形後の信号をそれぞれ模式的に示した説明図。
【図4】誤差学習ルーチンの内容を示したフローチャート。
【図5】隣接する歯部間の角度と誤差との関係を示した説明図。
【図6】失火検出ルーチンの内容を示すフローチャート。
【図7】第2の実施形態に係る誤差学習ルーチンの内容を示したフローチャート。
【図8】第3の実施形態に係る誤差学習ルーチンの内容を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関
8 クランクシャフト(被検出対象)
14 ECU(角度検出手段、誤差検出手段、基準設定手段、処理実行手段)
20 回転角度検出装置
21 タイミングロータ(回転体)
21a 歯部(被検出部)
22 電磁ピックアップ(エッジ検出手段)
23 波形整形器(エッジ検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出対象に取り付けられ、かつ複数の被検出部が回転方向に沿って設けられた回転体と、各被検出部の前記回転体の回転方向前方の前側エッジ及び回転方向後方の後側エッジのそれぞれを検出可能なエッジ検出手段と、を備え、前記エッジ検出手段が検出した前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方を基準にして前記被検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、
前記複数の被検出部のうち、互いに隣接する被検出部間の角度を、前記前側エッジ及び前記後側エッジのそれぞれに基づいて算出可能な角度算出手段と、前記角度算出手段が算出した前記角度の所定の基準値に対する誤差を算出する誤差算出手段と、前記前側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差と、前記後側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差とを比較し、その比較結果に基づいて前記前側エッジ又は前記後側エッジのうちのいずれか一方を、前記被検出対象の回転角度の検出の基準として設定する基準設定手段と、を備えることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項2】
前記基準設定手段は、前記誤差算出手段が算出した互いに隣接する被検出部間のそれぞれの前記誤差のうち、前記前側エッジに基づいて算出された前記角度における最大誤差と前記後側エッジに基づいて算出された前記角度における最大誤差とをそれぞれ特定し、前記前側エッジ又は前記後側エッジのうち、特定された前記最大誤差が小さい方を前記基準として設定することを特徴とする請求項1に記載の回転角度検出装置。
【請求項3】
被検出対象に取り付けられ、かつ複数の被検出部が回転方向に沿って設けられた回転体と、各被検出部の前記回転体の回転方向前方の前側エッジ及び回転方向後方の後側エッジのそれぞれを検出可能なエッジ検出手段と、を備え、前記エッジ検出手段が検出した前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方を基準にして前記被検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置であって、
前記複数の被検出部のうち、互いに隣接する被検出部間の角度を、前記前側エッジ及び前記後側エッジのそれぞれに基づいて算出可能な角度算出手段と、前記角度算出手段が算出した前記角度の所定の基準値に対する誤差を算出する誤差算出手段と、前記誤差算出手段が算出した前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方についての前記誤差が許容範囲を超える場合には、前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか他方を前記被検出対象の回転角度の検出の基準として設定する基準設定手段と、を備えることを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項4】
内燃機関のクランクシャフトに取り付けられ、かつ複数の被検出部が回転方向に沿って設けられた回転体と、各被検出部の前記回転体の回転方向前方の前側エッジ及び回転方向後方の後側エッジのそれぞれを検出可能なエッジ検出手段と、前記エッジ検出手段の検出結果に基づいて前記クランクシャフトの回転角度を検出し、その検出結果に応じて所定の処理を実行する処理実行手段と、を備えた内燃機関の運転制御装置であって、
前記複数の被検出部のうち、互いに隣接する被検出部間の角度を、前記前側エッジ及び前記後側エッジのそれぞれに基づいて算出可能な角度算出手段と、前記角度算出手段が算出した前記角度の所定の基準値に対する誤差を算出する誤差算出手段と、を更に備え、
前記処理実行手段は、前記前側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差と、前記後側エッジに基づいて算出された前記角度における前記誤差とを比較するとともに、その比較結果に基づいて前記前側エッジ又は前記後側エッジのいずれか一方を基準として前記クランクシャフトの回転角度を検出する、ことを特徴とする内燃機関の運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−275514(P2006−275514A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90153(P2005−90153)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】