説明

基板処理方法及び基板処理装置

【課題】有機溶剤を使用することなく、目視不可能な程度に薄い液膜や微小な液滴を含めて、濡れた基板表面から液体を残留させることなく迅速かつ完全に除去して、ウォーターマークの生成を最小限に抑えることができるようにする。
【解決手段】液体で濡れた基板表面を乾燥させる基板処理方法であって、基板表面に対向させて配置した気液吸引ノズル28と基板Wとを互いに平行に相対移動させながら、基板表面の液体40を該表面から剥離させつつ近傍の気体と共に気液吸引ノズル28で吸引し、基板表面に対向させて配置した乾燥ガス供給ノズル44と基板Wとを互いに平行に相対移動させながら、基板表面の液体40を剥離させた領域に向けて乾燥ガス供給ノズル44から乾燥ガスを吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハや液晶、プラズマ表示用基板、光ディスク基板などの基板の表面を洗浄して乾燥させる基板処理方法及び基板処理装置に関する。基板としては、例えば直径が200mm以上、例えば200mm、300mmまたは450mmで、厚みが例えば0.6〜1.2mmのディスク状シリコン基板が用いられる。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程において半導体デバイスの更なる高集積化が進む中で、高集積化の要求とともに半導体デバイスの高い歩留まりが要求されている。特に、半導体デバイスの高い歩留まりを実現するためには基板表面の高い清浄度が必要とされ、基板表面の清浄化への要求は益々高いものとなってきている。このような背景のもとで、半導体デバイス製造工程においては、様々な工程により基板表面の洗浄が行われている。近年、絶縁膜の電気容量を低下させるため、絶縁膜としてLow−k膜(低誘電率膜)を使用するようになってきている。このLow−k膜の表面は疎水性を有し、このため、疎水性表面を含む基板表面を洗浄する工程が増えつつある。
【0003】
絶縁膜としてLow−k膜を有する半導体ウェーハ等の基板表面を洗浄して乾燥させる際、次のような問題が生じている。すなわち、疎水性表面を含む基板表面に薬液処理やリンス処理などのウェット処理を施すと、基板表面に連続した液膜が形成し難くなって、基板表面の一部が液膜にカーバされずに外部雰囲気に露出する確率が高くなる。このような状況の下で基板表面にウェット処理を施すと、処理液の一部が外部雰囲気に露出した基板表面に液滴として残留し易くなる。そして、基板表面に残留した液滴が蒸発すると、基板表面に固体状の反応生成物が残ってウォーターマークが形成される。このような基板表面に形成されたウォーターマークは、製品の歩留まり低下を引き起こす原因となる。
【0004】
半導体デバイスの製造工程においては、半導体ウェーハの大口径化に伴い、ウェット処理においても枚葉処理装置を使用する工程が増加している。従来、半導体ウェーハのウェット枚葉処理装置または処理ユニットとしては、スピンドライ方式を採用したものが広く知られている(特許文献1,2参照)。
【0005】
スピンドライ方式を採用したウェット枚葉処理装置または処理ユニットは、スピンチャックなどの基板保持部により基板を保持し高速で回転させながら基板表面に薬液を供給して基板表面を薬液で洗浄した後、基板表面の薬液を超純水のような洗浄液で洗い流し、その後、基板を更に高速で回転させ基板表面の洗浄液を吹き飛ばして基板をスピン乾燥させるようにしている。しかし、基板を高速回転させて乾燥させるスピンドライ方式では、基板の高速回転に伴って飛散した多量のミスト(微小液滴)が基板表面に再付着して、ウォーターマークが発生し易くなる。
【0006】
特に、スピンドライ方式でLow−k膜を有する疎水性の基板表面を乾燥させようとすると、乾燥の過程で基板表面の液膜が連続的に維持され難くなって液糸状または液滴に分裂し、その結果、基板表面の一部が外部雰囲気に露出して、基板表面に半乾き状態の領域が形成されてしまう。そして、基板表面の半乾き状態の領域に分裂した液滴が移動すると、移動した跡に更に小さな液滴が残留し、この残留した液滴が乾燥した後にウォーターマークが形成されてしまう。
【0007】
近年、基板表面にウォーターマークを生成させない基板表面の乾燥方式として、IPA(イソプロピルアルコール)蒸気中で基板表面の水とIPAを置換させるIPA蒸気乾燥法、水中からIPA蒸気中へ基板を引き上げるマランゴニ乾燥法(特許文献3〜5参照)、基板を低速回転させながら気液界面にIPA蒸気を吹き付けるロタゴニ乾燥法(特許公報6〜8参照)などが知られている。しかし、いずれの方法でも、基板表面に有機物が残留する問題や、可燃性溶剤の使用による安全性や環境問題が懸念され、IPAを代替する乾燥法の開発や、IPAの使用量を可能な限り削減できるようにした乾燥法の開発が求められている。
【0008】
IPAなどの有機溶剤を使用しない乾燥方式として、エアブロー方式や吸引方式などの機械的な乾燥方式が提案されている。エアブロー方式(特許文献9参照)を採用した場合、エアブローに伴って基板表面から飛散した液滴が基板表面へ再付着してしまうばかりでなく、エアブローによる力を受けて基板表面に沿って移動する液膜や液滴が移動中に分裂し更に小さい液滴となって基板表面に残ってしまうといった問題がある。一方、基板表面の液体に吸引ノズルの先端を直接接触させ、基板表面の液体を吸引ノズルから連続的に吸引して除去する方法も知られている(特許文献10,11参照)。しかし、このように、基板表面の液体に吸引ノズルの先端を直接接触させて液体を吸引除去する場合、ある程度の厚みのある連続した液膜の大部分を吸引ノズルで吸引して除去するのには有効であるものの、基板表面に残留する薄い液膜または微小液滴を吸引ノズルで吸引して除去することは困難である。
【0009】
以上のように、IPAなどの有機溶剤を使用しない乾燥方式は、目視レベルの液膜や液滴、例えば膜厚が約数mm以上の液膜や、直径が約数mm以上程度の液滴を有効に除去できるものの、ウォーターマークの発生因子となる微小液滴を除去するのは困難であるのが現状であった。
【0010】
また、基板表面と該表面に近接して対向配置させたプレートの対向面との空間に純水等の液体を供給して該液体を液密に保持し、基板表面にIPAやHFE(ハイドロフルオロエーテル)等の有機溶剤を供給し前記液体を該有機溶剤によって物理的な置換または相溶により基板表面を乾燥させるようにしたものが提案されている(特許文献12参照)。しかし、このような乾燥法にあっては、基板表面とプレートの対向面との空間に液密に保持した液体を有機溶剤に置換するため、有機溶剤の使用量がかなり多くなってしまうと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2922754号公報
【特許文献2】特開2003−31545号公報
【特許文献3】米国特許第6746544号明細書
【特許文献4】米国特許第7252098号明細書
【特許文献5】米国特許第6926590号明細書
【特許文献6】米国特許第6491764号明細書
【特許文献7】米国特許第6568408号明細書
【特許文献8】米国特許第6754980号明細書
【特許文献9】特開2004−146414号公報
【特許文献10】特開平6−342782号公報
【特許文献11】特開2007−12653号公報
【特許文献12】特開2008−78329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、有機溶剤を使用することなく、または有機溶剤の使用量を可能な限り減少させながら、例えば目視不可能な程度に薄い液膜や微小な液滴を含めて、濡れた基板表面から液体を残留させることなく迅速かつ完全に除去して、ウォーターマークの生成を最小限に抑えることができるようにした基板処理方法及び基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の基板処理方法は、液体で濡れた基板表面を乾燥させる基板処理方法であって、基板表面に対向させて配置した気液吸引ノズルと基板とを互いに平行に相対移動させながら、基板表面の液体を該表面から剥離させつつ近傍の気体と共に前記気液吸引ノズルで吸引し、基板表面に対向させて配置した乾燥ガス供給ノズルと基板とを互いに平行に相対移動させながら、基板表面の前記液体を剥離させた領域に向けて前記乾燥ガス供給ノズルから乾燥ガスを吹き付ける。
【0014】
この方法では、基板表面の気液吸引ノズルの吸引口近傍で高速気流が形成され、基板表面の液滴や液膜と高速気流との界面に該気流による剪断応力が作用し、その液滴または液膜から分裂した液滴が高速気流に乗って気液吸引ノズルから吸引される。この方法によれば、気液界面の剪断応力を利用して液体を基板表面から剥離させるので、気液吸引ノズルの吸引口を液体に直接に接触させる必要がなく、目視レベルである、例えば厚さが約500μmよりも厚い液膜や、例えば直径が約500μmよりも大きい液滴を基板表面から完全に除去することができる。また、前記液滴よりも直径が小さい液滴であって、目視できない程度の微小の液滴が基板表面に残っても、乾燥ガス供給ノズルから基板表面に導入される乾燥ガスの気流により蒸発速度が促進され、液滴が瞬間的に蒸発し、目視レベルよりも薄い液膜は、比表面積が大きいので、同様に瞬間的に蒸発する。これによって、基板表面に液体が残ってウォーターマークが形成されることが防止される。
【0015】
前記気液吸引ノズル及び前記乾燥ガス供給ノズルを、前記気液吸引ノズルが基板に対する移動方向前方に、前記乾燥ガス供給ノズルが基板に対する移動方向後方にそれぞれ位置するようにして、一体的に基板と相対移動させることが好ましい。
これにより、気液吸引ノズルと乾燥ガス供給ノズルの相対位置を常に一定に保って、安定した条件で基板表面を乾燥させることができる。
【0016】
前記気液吸引ノズル及び前記乾燥ガス供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることが好ましい。
気液吸引ノズル及び乾燥ガス供給ノズルと基板との相対移動速度が小さいと、気流による液体の同伴や蒸発により液体の除去を効果的に行うことができるが、相対移動速度が極端に小さいと、処理時間が長くなるばかりでなく、吸引口付近の液膜は基板表面から剥離される前に分断され、液除去効果が逆に低下する場合がある。一方、相対移動速度が速すぎると、液膜が完全に除去されず、基板上に残留してしまうことがある。液除去効果と基板乾燥の処理時間を考慮すると、気液吸引ノズル及び乾燥ガス供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることが好ましく、0.02〜0.05m/sであることが更に好ましい。
【0017】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方、かつ前記乾燥ガス供給ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に向けて液体供給ノズルから液体を供給することが好ましい。
このように、基板表面に向けて液体供給ノズルから液体を供給し、液体供給ノズルから供給される液体を気液吸引ノズルで吸引して除去することで、液体供給ノズルと気液吸引ノズルとで挟まれた領域に液滴が残って、基板表面に再付着することをより確実に防止することができる。
【0018】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記液体供給ノズルを、前記気液吸引ノズルが基板に対する移動方向前方に、前記乾燥ガス供給ノズルが基板に対する移動方向後方に、前記液体供給ノズルが前記気液吸引ノズルと前記乾燥ガス供給ノズルとの中間にそれぞれ位置するようにして、一体的に基板と相対移動させることが好ましい。
【0019】
これにより、気液吸引ノズル、乾燥ガス供給ノズル及び液体供給ノズルの相対位置を常に一定に保って、液体供給ノズルと気液吸引ノズルとで挟まれた領域に液滴が残ってしまうことをより確実に防止しつつ、安定した条件で基板表面を乾燥させることができる。
【0020】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記液体供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることが好ましく、0.02〜0.05m/sであることが更に好ましい。
【0021】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方で、基板表面に向けて有機溶剤供給ノズルから水溶性有機溶剤を供給するようにしてもよい。
このように、基板表面に向けて有機溶剤供給ノズルから水溶性有機溶剤を供給することで、たとえ基板表面に微小液滴が残っても、基板表面に残った微小液滴に水溶性有機溶剤を溶解させ微小液滴の蒸発速度を促進させて、ウォーターマークが形成されることを防止しつつ、基板を乾燥させることができる。しかも水溶性有機溶剤は、基板表面に残った微小水滴に溶解させるだけの量で充分なため、水溶性有機溶剤の使用量を大幅に削減することができる。
【0022】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルを、前記気液吸引ノズルが基板に対する移動方向前方に、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルの一方が前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方に、他方が更に後方にそれぞれ位置するように、一体的に基板と相対移動させることが好ましい。
【0023】
これにより、気液吸引ノズル、乾燥ガス供給ノズル及び有機溶剤供給ノズルの相対位置を常に一定に保って、基板表面に液滴が残ってしまうことをより確実に防止しつつ、安定した条件で基板表面を乾燥させることができる。
【0024】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることが好ましく、0.02〜0.05m/sであることが更に好ましい。
【0025】
前記水溶性有機溶剤はIPA(イソプロピルアルコール)で、IPAの蒸気濃度は2.2%未満であることが好ましい。
イソプロピルアルコール(IPA)の下部引火点は約12℃であり、このときの飽和蒸気圧濃度は飽和蒸気圧と温度の関係式より、約2.2%と求まる。従って、安全上の理由から、水溶性有機溶剤としてIPAを使用する場合は2.2%未満の蒸気濃度で使用することが好ましい。
【0026】
前記気液吸引ノズルの吸引口と基板表面との隙間距離は、1〜4mmであることが好ましい。
気液吸引ノズルの吸引口と基板表面との隙間距離が小さければ小さい程、基板表面の液膜または液滴と気流との界面に作用する剪断応力が増す。しかし、基板の変形及び位置調整機構の精度を考慮すると、気液吸引ノズルの吸引口と基板表面との隙間距離は1mm以上であることが好ましい。また、液膜を液滴に分断できる最低剪断応力を考慮すると、気液吸引ノズルの吸引口と基板表面との隙間距離は4mm以下であることが好ましい。なお気液吸引ノズルの吸引口と基板表面との隙間距離は、1.5〜2.5mmであることが更に好ましい。
【0027】
気体が平均流速60〜140m/sで基板表面に沿って流れて、前記気液吸引ノズルに吸引されるように吸引流量を調整することが好ましい。
【0028】
このように、気体が平均流速60〜140m/sで基板表面に沿って流れて気液吸引ノズルに吸引されるようにすることで、基板表面の液膜を剥がし、液滴に分裂させて該液滴を気液吸引ノズルに吸引するために十分な剪断力を得ることができる。気体が平均流速65〜95m/sで基板表面に沿って流れて気液吸引ノズルに吸引されるようにすることが更に好ましい。
【0029】
前記乾燥ガスは不活性ガスであり、該乾燥ガスの相対湿度は外部雰囲気の相対湿度以下であることが好ましい。
このように、外部雰囲気の相対湿度以下の相対湿度を有する乾燥ガスを使用することで、基板表面に残留した微小液滴や液膜をより効率的に蒸発させることができる。相対湿度の低い不活性ガスの生産コストと蒸発促進効果の両側面から、乾燥ガスとして、乾燥ガスの供給口近傍雰囲気の相対湿度が、1〜40%、好ましくは5〜10%となる相対湿度を有するものを使用することが好ましい。
【0030】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に基板表面の液体と同質の液体を補充することが好ましい。
【0031】
これにより、基板表面に補充した液体で膜状に連続した液体(液膜)を形成し、液膜が気流による剪断応力を受けて剥離し易くして、基板表面から液体(液膜)をより効果的に除去することができる。ここで同質の液は、例えば、基板表面の液体が薬液ならば補充する液体も実質的に同一成分の薬液であり、基板表面の液体がリンス用の超純水であれば、補充する液体もそれと実質的に同レベルの純度の超純水であることを意味している。
【0032】
本発明の基板処理装置は、液体で濡れた基板表面を乾燥させる基板処理装置であって、基板表面に対向する位置に配置され基板表面の液体を該表面から剥離させつつ近傍の気体と共に吸引する気液吸引ノズルと、前記基板表面の液体を剥離させた領域に向けて乾燥ガスを吹き付ける乾燥ガス供給ノズルと、気液吸引ノズルと基板、及び前記乾燥ガス供給ノズルと基板を互いに平行に相対移動させる移動機構を有する。
【0033】
このように装置を構成することで、気液吸引ノズルの吸引口近傍に高速気流を形成し、基板表面の目視可能な大きさの液膜または液滴を高速気流で基板表面から剥離させて気液吸引ノズルで吸引するとともに、基板表面の液体を剥離させた領域に向けて乾燥ガス供給ノズルから乾燥ガスを吹き付けて、該領域に残存する液滴を蒸発させて基板表面を乾燥させることができる。
【0034】
前記気液吸引ノズル及び前記乾燥ガス供給ノズルは、ノズルユニットの内部に設けられ、前記移動機構は、前記ノズルユニットを基板と平行に移動させるように構成されていることが好ましい。
これにより、気液吸引ノズルと乾燥ガス供給ノズルの相対位置を常に一定に保って、安定した条件で基板表面を乾燥させることができる。
【0035】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方、かつ前記乾燥ガス供給ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に液体を供給する液体供給ノズルを更に有することが好ましい。
【0036】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記液体供給ノズルは、ノズルユニットの内部に設けられ、前記移動機構は、前記ノズルユニットを基板と平行に移動させるように構成されていることが好ましい。
【0037】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方で基板表面に水溶性有機溶剤を供給する有機溶剤供給ノズルを更に有するようにしてもよく、この場合、前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルは、ノズルユニットの内部に設けられ、前記移動機構は、前記ノズルユニットを基板と平行に移動させるように構成されていることが好ましい。
【0038】
前記有機溶剤供給ノズルは、基板表面に対して45〜90°傾斜していることが好ましい。
このように、有機溶剤供給ノズルを基板表面に対して45〜90°傾斜させることにより、液滴の蒸発速度が速まることが確かめられている。
【0039】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に基板表面の液体と同質の液体を補充する液体補充ノズルを更に有することが好ましい。
【0040】
前記気液吸引ノズルは、細長いスリット形状に形成されていることが好ましい。
これにより、基板表面の液体を連続した線状に区画しながら吸引して除去し、この線状に区画された液体除去範囲に残留する液滴を乾燥ガスで乾燥させることで、基板表面の全域から液体を除去することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、有機溶剤を使用することなく、または有機溶剤の使用量を可能な限り削減させつつ、例えば目視不可能な程度に薄い液膜や微小な液滴を含めて、濡れた基板表面から液体を残留させることなく迅速かつ完全に除去して、ウォーターマークの生成を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置の概要を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置の概要を示す縦断正面図である。
【図3】図1に示す乾燥ユニットの表面側ノズルユニットの概要を基板と共に示す断面図である。
【図4】評価値と吸引流速の関係を示すグラフである。
【図5】評価値とNガス供給流量の関係を示すグラフである。
【図6】図5の一部を拡大した評価値とNガス供給流量の関係を示すグラフである。
【図7】評価値と供給口近傍ガス雰囲気の相対湿度の関係を示すグラフである。
【図8】評価値と相対速度の関係を示すグラフである。
【図9】評価値と隙間距離の関係を示すグラフである。
【図10】本発明の他の実施形態の研磨ユニットにおける表面側ノズルユニットの使用例を示す図3相当図である。
【図11】本発明の他の実施形態の研磨ユニットにおける表面側ノズルユニットの他の使用例を示す図3相当図である。
【図12】本発明の更に他の実施形態の研磨ユニットにおける表面側ノズルユニットを示す図3相当図である。
【図13】有機溶剤蒸気の噴射方向と基板表面との成す角度と、蒸発速度との関係を示すグラフである。
【図14】本発明の更に他の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置における表面側ノズルの移動開始直後の状態の概要を示す平面図である。
【図15】本発明の更に他の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置における表面側ノズルの移動終了直前の状態の概要を示す平面図である。
【図16】本発明の実施形態の研磨ユニット(基板処理装置)を備えた研磨装置を示す全体平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同一または相当する部材には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0044】
図1乃至図3は、本発明の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置を示す。この乾燥ユニット(基板処理装置)10は、互いに対向する位置に近離自在に配置され、表面(被処理面)を上向きにして半導体ウェーハ等の基板Wを着脱自在に保持する一対のクランパ12からなる基板ホルダ14と、基板ホルダ14で保持した基板Wの表面(上面)の上方に配置されて該表面と平行に水平移動する表面側ノズルユニット16と、基板ホルダ14で保持した基板Wの裏面(下面)の下方に配置されて該裏面と平行に水平移動する裏面側ノズルユニット18を備えている。
【0045】
図2に示すように、クランパ12のクランプ部12aの肉厚は、基板Wをクランプ部12aで保持した時、基板Wの表面とクランプ部12aの上面、及び基板Wの裏面とクランプ部12aの下面が共に面一となって、クランパ部12aが処理の邪魔とならないよう、基板Wの肉厚とほぼ等しくなるように設定されている。この例の基板ホルダ14は、一対のクランパ12を備えているが、3以上のクランパ、例えば円周方向に沿って90°間隔で配置された計4個のクランプを備えるようにしてもよい。
【0046】
表面側ノズルユニット16は、基板Wの直径の全長に亘って直線状に延びる本体部20と、この本体部20の両端に連結された棒状の支持部22を有している。この各支持部22は、走行自在な無端チェーンや無端ベルト等の走行体24を備え、基板ホルダ14で保持した基板Wの両側に位置するように配置された移動機構26の該走行体24にそれぞれ連結されている。これによって、表面側ノズルユニット16は、移動機構26の走行体24の同期した走行に伴って、基板ホルダ14で保持した基板Wの表面と平行に一方向、つまり図1乃至図3に示すX方向に水平移動しつつ処理を行い、処理終了後に元の待避位置に復帰するようになっている。この移動機構26には、走行体24を上下方向に移動させる上下動機構(図示せず)が備えられている。
【0047】
図3に示すように、表面側ノズルユニット16の本体部20の下面には、基板ホルダ14で保持した基板Wの表面と平行となる平坦な基板対向面20aが備えられ、本体部20の内部には、上下に貫通して基板対向面20aで開口する気液吸引ノズル28が設けられている。この気液吸引ノズル28は、少なくとも基板Wの表面に対して垂直な速度成分を持つよう、基板対向面20aから移動方向(X方向)前方に向かって上方に傾斜して延びる傾斜部28aと該傾斜部28aに連通して鉛直方向に延びる鉛直部28bを有し、吸引ライン30を介して、吸引部としてのブロア32に接続されている。吸引ライン30には、気液分離器34と吸引流量調整バルブ36が介装されている。
【0048】
これにより、表面側ノズルユニット16を移動方向(X方向)に水平移動させながらブロア32を稼働すると、基板Wの表面に対向する気液吸引ノズル28の吸引口近傍で高速気流が形成され、基板Wの表面の特に膜状に連続する液体(液膜)40との界面に該気流による剪断応力が作用して該液膜40が液滴42に分離し、その液膜40から分裂した液滴42が高速気流に乗って気液吸引ノズル28から吸引され、基板Wの表面の比較的大きな液滴も同様に、高速気流に乗って気液吸引ノズル28から吸引されるようになっている。そして、気液吸引ノズル28から吸引された気液2相流は、気液分離器34により気体と液体と分離されて排出される。この時の吸引流量は、ブロア32及び吸引流量調整バルブ36によって調整される。
【0049】
このように、気液界面の剪断応力を利用して、液体、特に液膜40を基板Wの表面から剥離させることにより、気液吸引ノズル28の吸引口を液体、特に液膜40に直接に接触させる必要がなく、目視レベルである、例えば厚さが約500μmよりも厚い液膜40を基板Wの表面から完全に除去し、更に、例えば直径が約500μmよりも大きい液滴も基板Wの表面から完全に除去することができる。
【0050】
本体部20の内部には、表面側ノズルユニット16の移動方向(X方向)に沿った気液吸引ノズル28の後方に位置して、上下に貫通して基板対向面20aで開口する乾燥ガス供給ノズル44が設けられている。この乾燥ガス供給ノズル44は、基板対向面20aから移動方向(X方向)後方に向かって上方に傾斜して延びる傾斜部44aと該傾斜部44aに連通して鉛直方向に延びる鉛直部44bを有し、ガス供給ライン46を介してガス供給ユニット48に接続されている。ガス供給ライン46には、ガス供給流量調整バルブ50が介装されている。
【0051】
これにより、例えば直径が500μmより小さい液滴であって、目視できない程度の微小の残留液滴52が基板Wの表面に残っても、乾燥ガス供給ノズル44から基板Wの表面に導入される乾燥ガスの気流により残留液滴52の蒸発速度が促進されて残留液滴52が瞬間的に蒸発する。また、基板Wの表面の目視レベルよりも薄い液膜も、比表面積が大きいので、残留液滴52と同様に瞬間的に蒸発する。これによって、基板Wの表面に液体が残ってウォーターマークが形成されることが防止される。
【0052】
この例では、図1に示すように、本体部20の内部に、細長いスリット状に形成された複数の気液吸引ノズル28と複数の乾燥ガス供給ノズル44が、互いに対向する位置に位置して、直線状に並んで設けられている。これにより、基板Wの表面の液体を連続した線状に区画しながら気液吸引ノズル28で吸引して除去し、この線状に区画された液体除去範囲に残留する液体を乾燥ガス供給ノズル44から導入される乾燥ガスで乾燥させることで、基板Wの表面の全域から液体を除去できるようになっている。
【0053】
更に、この例では、最適な条件で基板Wの表面の液体除去を行うことができるよう、各気液吸引ノズル28毎に吸引ライン30がそれぞれ接続され、各乾燥ガス供給ノズル44毎にガス供給ライン46がそれぞれ接続されている。
【0054】
表面側ノズルユニット16の移動方向(X方向)前方の基板ホルダ14で保持された基板Wの周縁部上方には、表面側ノズルユニット16と互いに干渉しない位置に位置して、液体を下方に向けて噴射して基板Wの表面に補充する多数の液補充ノズル54が配置されている。これらの液補充ノズル54は液補充管56に連通している。この各液補充ノズル54から基板Wの表面に向けて基板Wの表面の液体と同種の液体、例えば基板Wの表面の液体が薬液ならば実質的に同一成分の薬液、基板Wの表面の液体がリンス用の超純水であればそれと実質的に同レベルの純度の超純水を噴射することで、基板Wの表面に液体が補充される。これにより、基板Wの表面に膜状に連続した液体(液膜)40を形成し、液膜40が気流による剪断応力を受けて剥離し易くして、基板Wの表面から液体(液膜)をより効果的に除去することができる。
【0055】
この液補充ノズル54から基板Wの表面に補充される液体の流量は、表面側ノズルユニット16の長手方向の長さを基準に、例えば2〜15L/min/mであり、このように、液補充ノズル54から基板Wの表面に液体を補充することで、基板Wの表面に形成される膜状に連続する液膜40の膜厚は、例えば0.5〜3.5mmに調整される。
【0056】
裏面側ノズルユニット18は、表面側ノズルユニット16とほぼ同様な構成で、内部に複数の気液吸引ノズル及び乾燥ガス供給ノズル(図示せず)を設けた本体部60と、該本体部60の両側に接続した支持体(図示せず)を有しており、この支持体は、移動機構62の走行体64に連結されている。裏面側ノズルユニット18の内部に設けられた複数の気液吸引ノズル及び乾燥ガス供給ノズルは、表面側ノズルユニット16と同様に、吸引ライン及びガス供給ライン(図示せず)にそれぞれ接続されている。
【0057】
裏面側ノズルユニット18には、該裏面側ノズルユニット18の移動方向(X方向)前方に突出する支持板66が取付けられ、この支持板66の上面に、基板Wの裏面に向けて基板Wの表面の液体と同質の液体を噴射して補充する液補充ノズル68が取付けられている。
【0058】
この例では、基板Wを基板ホルダ14で保持して固定し、表面側ノズルユニッ16を移動方向(X方向)に水平移動させながら、気液吸引ノズル28で基板Wの表面の液体、特に液膜40を吸引し、同時に乾燥ガス供給ノズル44から乾燥ガスを供給して、基板Wの表面を乾燥させるようにしている。この基板Wの表面の乾燥と同時に、裏面側ノズルユニット18も表面側ノズルユニッ16と同期して移動方向(X方向)に水平移動させ、液補充ノズル68から基板Wの裏面に液体を補充しながら、気液吸引ノズルで基板Wの裏面の液体を吸引し、同時に乾燥ガス供給ノズルから乾燥ガスを供給して、基板の裏面も乾燥させるようにしている。
【0059】
このように、表面側ノズルユニット16と裏面側ノズルユニット18を移動方向(X方向)に同期して水平移動させて基板Wの表裏両面の乾燥を同時に行うことで、乾燥処理の際に基板Wの表面側及び裏面側にほぼ等しい大きさの吸引力を作用させて基板Wが撓んでしまうことを防止することができる。
【0060】
なお、裏面側ノズルユニット18は必ずしも必要ではなく、裏面側ノズルユニット18を省略してもよい。
【0061】
次に、乾燥ユニット(基板処理装置)10の操作例について説明する。
先ず、半導体ウェーハ等の基板Wを基板ホルダ14のクランパ12で保持して固定する。この時、表面側ノズルユニット16及び裏面側ノズルユニット18は、移動方向(X方向)後方の待避位置に位置している。そして、液補充ノズル54から基板Wの表面に向けて液体を噴射して、基板Wの表面に、例えば膜厚が0.5〜3.5mmの膜状に連続した液体(液膜)40を形成した後、移動方向(X方向)後方の待避位置に位置していた表面側ノズルユニット16を、表面側ノズルユニット16の本体部20の基板対向面20aと基板Wとの隙間距離を一定に保持しながら、基板Wの表面と平行に移動方向(X方向)に平行移動させる。
【0062】
この表面側ノズルユニット16の移動開始と同時に、ブロア32を稼働させ、気液吸引ノズル28の吸引口近傍に高速の気流を形成し、これによって、気液界面の剪断力により、液膜40を分断させながら基板Wの表面から剥離させ、分断した液滴42を高速気流に載せて気液吸引ノズル28で吸引する。基板Wの表面の液膜40から分離して比較的大きな液滴も同時に吸引する。この高速気流は、少なくとも基板Wの表面に対して垂直な速度成分を持っている。気液吸引ノズル28で吸引された気液2相流は、気液分離器34により気体と液体と分離され排出される。同時に、乾燥ガス供給ノズル44から基板Wの表面に向けて、湿度の低い乾燥ガス、例えばNガスを吹き付ける。これによって、気液吸引ノズル28の移動方向(X方向)後方の基板Wの表面、即ち、気液吸引ノズル28が通過した後の部分に相当する基板Wの表面領域に、例えば、直径約500μm以下程度の目視できない程度に微細な残留液滴52が残留しても、この残留液滴52の蒸発速度を促進させて、残留液滴52を瞬間的に蒸発させ、更には目視レベルよりも薄い液膜も残留液滴52と同様に瞬間的に蒸発させ、これによって、基板表面に液体が残留してウォーターマークが発生することを防止する。
【0063】
この表面側ノズルユニット16の移動と同期して、裏面側ノズルユニット18を基板Wの表面と平行に移動方向(X方向)に移動させる。この裏面側ノズルユニット18の移動開始と同時に、液補充ノズル68から基板Wの裏面に向けて液体を噴射して補充しながら、前述の表面側ノズルユニット16とほぼ同様に、ブロアを稼働させて気液吸引ノズルの吸引口近傍に高速の気流を形成し、同時に乾燥ガス供給ノズルから基板Wの裏面に向けて湿度の低い乾燥ガス、例えばNガスを吹き付けることで、基板Wの裏面の乾燥を行う。
【0064】
そして、表面側ノズルユニット16及び裏面側ノズルユニット18が基板Wの全域に亘って移動方向(X方向)に移動して、基板Wの一方のエッジ部から他方のエッジ部まで達したときに、気液吸引ノズルによる吸引、及び乾燥ガス供給ノズルからの乾燥ガスの供給を停止して、乾燥処理を終了し、表面側ノズルユニット16及び裏面側ノズルユニット18を元の待避位置に復帰させる。
【0065】
この例では、基板Wを固定し、表面側ノズルユニッ16をX方向に水平移動させながら、気液吸引ノズル28で基板Wの表面の液体、特に液膜40を吸引し、同時に乾燥ガス供給ノズル44から乾燥ガスを供給して、基板Wの表面を乾燥させるようにしている。この表面側ノズルユニッ16の移動速度が小さいと、気流による液体の同伴や蒸発により液体の除去を効果的に行うことができるが、表面側ノズルユニッ16の移動速度が極端に小さいと、処理時間が長くなるばかりでなく、吸引口付近の液膜は基板表面から剥離される前に分断され、液除去効果が逆に低下する場合がある。一方、表面側ノズルユニッ16の移動速度が速すぎると、液膜が完全に除去されず、基板上に残留してしまうことがある。液除去効果と基板Wの処理時間を考慮すると、表面側ノズルユニッ16の移動速度は、0.01〜0.07m/sであることが好ましく、0.02〜0.05m/sであることが更に好ましい。このことは、裏面側ノズルユニット18においても同様である。
【0066】
基板ホルダ14で保持された基板Wと表面側ノズルユニット16の本体部20の基板対向面20aとの隙間距離Hは、好ましくは1〜4mmで、基板Wの表面に形成される、例えば膜厚が0.5〜3.5mmの液膜40の上面(表面)との間に、例えば高さが0.5mm程度乃至0.5mm以上の空間が形成されるように設定される。この隙間距離Hが小さければ小さい程、基板Wの表面の液膜または液滴と気流との界面に作用する剪断応力が増す。しかし、基板の変形及び位置調整機構の精度を考慮すると、この隙間距離Hは1mm以上であることが好ましい。また、液膜を液滴に分断できる最低剪断応力を考慮すると、この隙間距離Hは4mm以下であることが好ましい。この隙間距離Hは、1.5〜2.5mmであることが更に好ましい。裏面側ノズルユニット18においてもほぼ同様に、基板ホルダ14で保持された基板Wとの隙間距離は1〜4mmであることが好ましく、1.5〜2.5mmであることが更に好ましい。
【0067】
表面側ノズルユニット16において、基板Wと本体部20基板対向面20aとの間の隙間を、気体が平均流速(吸引流速)60〜140m/sで基板Wの表面に沿って流れて、気液吸引ノズル28に吸引されるように、ブロア32及び吸引流量調整バルブ36を介して吸引流量を調整することが好ましい。このように、気体が平均流速60〜140m/sで基板表面に沿って流れて気液吸引ノズル28に吸引されるようにすることで、基板Wの表面の液膜40を剥がし、液滴に分裂させて該液滴を気液吸引ノズル28に吸引するために十分な剪断力を得ることができる。気体が平均流速(吸引流速)65〜95m/sで基板Wの表面に沿って流れて気液吸引ノズル28に吸引されるように、吸引流量を調整することが更に好ましい。このことは、裏面側ノズルユニット18においても同様である。
【0068】
前記乾燥ガスは、例えばNガス等の不活性ガスであり、該乾燥ガスの相対湿度は、外部雰囲気の相対湿度以下であることが好ましい。このように、外部雰囲気の相対湿度以下の相対湿度を有する乾燥ガスを使用することで、基板Wの表面に残留したの残留液滴52や液膜をより効率的に蒸発させることができる。相対湿度の低い不活性ガスの生産コストと蒸発促進効果の両側面から、乾燥ガスとして、乾燥ガスの供給口近傍雰囲気の相対湿度が、1〜40%、好ましくは5〜10%となる相対湿度を有するものを使用することが好ましい。
【0069】
次に、図1及び図3に示す乾燥ユニット10の表面側ノズルユニット16(以下、単にノズルユニットという)を使用して、液体で濡れた300mmウェーハの表面を実際に乾燥させて評価した時の結果を以下に説明する。この評価に際して、表面にSiOC:H系の誘電率が2.8近傍のLow−k膜をCVDで形成したブランケットウェーハを、液体として超純水をそれぞれ使用した。ウェーハ表面は、超純水液滴の接触角が50〜100°の疎水性を持つ。評価は、雰囲気の温度が20℃、相対湿度が50%に制御されたクリーンルームの環境で行った。
【0070】
評価方法は、処理前のウェーハ表面をデフェクト検査装置KLA-Tencor社のSurfscan SP1で測定し、ウェーハ表面のノズルユニットが通過する予定の領域(以下、通過領域という)に存在する、大きさが160nm以上のデフェクト数を記録し、ウェーハを濡らして乾燥させた後、同じ測定方法で同領域のデフェクト数を再記録した。そして、処理後と処理前のデフェクト数(以下アッダという)をウォーターマークの評価指標とした。集積回路の微細化の進展とともに、アッダ密度(単位面積のアッダ)に対する要求は益々厳しくなり、現時点では、0.05〜0.5個/cm程度のスペックが一般に要求される。本評価は、この要求に見合うことを目標とするもので、このスペックを参照して基準値を決め、基準値にアッダ密度を無次元して、ウォーターマーク評価値(以下、評価値という)とした。例えば、特定の製品に対してスペック値が0.1個/cmの場合、測定したアッダ密度を0.1で割った値を評価値とした。評価値が1以下であれば、スペックを満足することになる。
【0071】
評価値に影響するパラメータには、吸引流速、乾燥ガスの供給流量、乾燥ガスの相対湿度、ノズルユニットの基板対向面と基板の隙間距離、ノズルユニットの移動速度がある。
【0072】
先ず、ノズルユニットの基板対向面とウェーハで挟まれた領域の平均流速(吸引流速)が60〜140m/sになるように吸引流量を調整して、吸引流速の評価値に及ぼす影響を調べた。ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの隙間距離を2mmに設定した。また、乾燥ガスとして、乾燥ガスの供給口近傍雰囲気の相対湿度が約40%となる相対湿度を有するNガスを使用し、Nガスの供給流量をノズルユニットの長手方向の長さを基準に100L/min/m、ノズルユニットの移動速度を0.03m/sにそれぞれ設定した。図4に評価値と吸引流速の関係を示す。なお、以下の説明において、Nガス等の乾燥ガスの供給流量は、ノズルユニットの長手方向の長さを基準する。
【0073】
図4から、吸引流速が60m/sでは、評価値が1.5と高い値であるが、吸引流速を68m/sに上げると、評価値が最も低く、0になることが判る。これは、その条件では、ウォーターマークの発生が完全に抑制できたことを意味する。そして、吸引流速を更に上げると、評価値が次第に増加する。評価値が1以下の領域がプロセス許容範囲とすれば、吸引流速を63〜95m/sの範囲内に設定する必要があり、68m/s近辺が最適な吸引流速領域であることが判る。
【0074】
乾燥ガスとして、乾燥ガスの供給口近傍雰囲気の相対湿度が約40%となる相対湿度を有するNガスを使用し、Nガス供給流量を0〜2000L/min/mの範囲に調整して、Nガス(乾燥ガス)供給流量が評価値に及ぼす影響を調べた。吸引流速を68m/s、ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの隙間距離を2mm、ノズルユニットの移動速度を0.03m/sにそれぞれ設定した。図5に評価値とNガス供給流量の関係を示す。
【0075】
図5から、Nガス供給流量が500L/min/m以下では、評価値が1以下になっており、許容できるNガス供給流量範囲であり、Nガス供給流量を上げると、評価値は急激に大きくなって、ウォーターマークが発生しやすくなることが判る。これは、乾燥ガス供給ノズルの供給口近傍での乾燥ガス(Nガス)の流速が吸引流速と同程度の大きさになると、乾燥ガス(Nガス)の流れがノズルユニットの基板対向面とウェーハとの間の気体の流れに大きく影響を与え、ウェーハ表面の液膜先端と高速気流との気液界面が乱されて、ウォーターマークの発生を促進してしまうからであると考えられる。
【0076】
ガス供給流量が低い領域での評価値とNガス供給流量の関係を図6に示す。図6から、Nガス供給流量が350L/min/m以下の低流量領域では、評価値が1以下になっているが、Nガスを供給しない0流量に比べて、乾燥ガス供給ノズルの供給口からNガスを吹き付けた方が、ウォーターマークの発生を更に抑制する効果が見られることが判る。これは、ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの間の気体の流れに影響を与えない程度にNガスを供給することで、ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの間の隙間における雰囲気の湿度を調整して、ウェーハ表面に残留した微細な液滴の蒸発促進できるためであると考えられる。
【0077】
乾燥ガスとしてドライエアを使用し、供給口近傍ガス雰囲気の相対湿度範囲を5〜50%に調整して、その相対湿度が評価値に及ぼす影響を調べた。ドライエア供給流量を100L/min/m、吸引流速を60m/s、ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの隙間距離を2mm、ノズルユニットの移動速度を0.03m/sにそれぞれ設定した。図7に評価値と供給口近傍ガス雰囲気の相対湿度の関係を示す。
【0078】
図7から、供給口近傍ガス雰囲気の相対湿度が約34%を超えると、評価値が1以上となって許容範囲を超えるが、供給口近傍ガス雰囲気の相対湿度を約34%以下に下げると、評価値は1以下となって、ウォーターマークの発生が抑制されることが判る。これは、ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの間の隙間に供給されるドライエアと吸引による高速気流が混合し、前記隙間の雰囲気の相対湿度が下げられ、ウェーハの表面に残留した微細な液滴の蒸発が促進されたことによると考えられる。
【0079】
ウェーハを固定し、ノズルユニットの移動速度を0.01〜0.05m/sに調整して、ノズルユニットとウェーハの相対速度が評価値に及ぼす影響を調べた。乾燥ガスとして、乾燥ガスの供給口近傍雰囲気の相対湿度が約40%となる相対湿度を有するNガスを使用し、Nガス供給流量を100L/min/mに設定した。また、吸引流速を60m/s、ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの隙間距離を2mmにそれぞれ設定した。図8に評価値と相対速度の関係を示す。
【0080】
図8から、ノズルユニットとウェーハとの相対速度が0.02m/s以上では、評価値が1以下の許容範囲になっており、特に、ノズルユニットとウェーハとの相対速度が0.03m/s近傍では評価値が最も低いことが判る。この程度の相対速度で300mmウェーハを乾燥処理すると、1枚のウェーハの乾燥に要する時間は僅か10秒である。
【0081】
ノズルユニットの基板対向面とウェーハとの隙間距離を1〜4mmに調整して、該隙間距離が評価値に及ぼす影響を調べた。乾燥ガスとして、乾燥ガスの供給口近傍雰囲気の相対湿度が約40%となる相対湿度を有するNガスを使用し、Nガス供給流量を100L/min/mに設定した。また、吸引流速を60m/s、ノズルユニットの移動速度を0.03m/sにそれぞれ設定した。図9に評価値と隙間距離の関係を示す。
【0082】
この吸引流量(最適流量ではない)では、隙間距離2.5mm以下での評価値が1以上となることが判る。なお、隙間距離5mmでは、液膜が完全に吸引されず、目視レベルの液膜が残って測定不能となった。
【0083】
図10は、本発明の他の実施形態の研磨ユニットにおける表面側ノズルユニット16aを示す。この表面側ノズルユニット16aの図1乃至図3に示す表面側ノズルユニット16と異なる点は、本体部20の内部の気液吸引ノズル28と乾燥ガス供給ノズル44で挟まれた位置、つまり表面側ノズルユニット16aの搬送方向(X方向)に沿って、気液吸引ノズル28の後方で、乾燥ガス供給ノズル44の前方位置に、上下に貫通して延びて本体部20の基板対向面20aで開口する液体供給ノズル70を設け、この液体供給ノズル70と液体供給ユニット72とを液体供給ライン74で結び、この液体供給ライン74に液体流量調整バルブ76を介装した点にある。この液体供給ノズル70から基板Wの表面に向けて超純水等の液体が供給され、この供給される液体の流量は、液体供給ユニット72及び液体流量調整バルブ76で調整される。
【0084】
この例によれば、表面側ノズルユニッ16aをX方向に水平移動させながら、気液吸引ノズル28で基板Wの表面の液体、特に液膜40を吸引し、同時に乾燥ガス供給ノズル44から乾燥ガスを供給して、基板Wの表面を乾燥させる時、図10に示すように、本体部20の基板対向面20aの液体供給ノズル70の供給口と気液吸引ノズル28の吸引口で挟まれた領域を供給液体78aが流れるように、液体供給ノズル70から基板Wに向けて液体を供給する。これにより、本体部20の基板対向面20aの液体供給ノズル70の供給口と気液吸引ノズル28の吸引口で挟まれた領域に跳ね返って残留する液体を、液体供給ノズル70から供給される供給液体78aで洗い流して除去し、前記領域に残存する液体が基板Wの表面に再付着してしまうことを防止することができる。
【0085】
基板Wと表面側ノズルユニット16aの基板対向面20aとの隙間の吸引流速を16m/s、乾燥ガス供給流量を100L/min/m、基板Wと表面側ノズルユニット16a0の基板対向面20aとの隙間距離を1mm、表面側ノズルユニット16aの移動速度を0.01m/sにそれそれぞれ設定し、液体供給ノズル70から12L/min/mの流量で液体を供給しながら基板Wの表面を乾燥させた時、基板Wの表面に目視による残留液体が観察されなかったことが確かめられている。
【0086】
なお、図11に示すように、液体供給ノズル70から基板Wに向けて供給される供給液体78bが基板Wの表面に達しながら、本体部20の基板対向面20aの液体供給ノズル70の供給口と気液吸引ノズル28の吸引口で挟まれた領域を流れるようにしてもよい。これにより、本体部20の基板対向面20aの液体供給ノズル70の供給口と気液吸引ノズル28の吸引口で挟まれた領域に跳ね返って残留する液体や、該領域に対向する基板Wの表面の領域に残留する液滴を液体供給ノズル70から供給される供給液体78bで洗い流して除去することができる。
【0087】
基板Wと表面側ノズルユニット16aの基板対向面20aとの隙間の吸引流速を90m/s、乾燥ガス供給流量を100L/min/m、基板Wと表面側ノズルユニット16aの基板対向面20aとの隙間距離を2mm、表面側ノズルユニット16aの移動速度を0.03m/sにそれそれぞれ設定し、液体供給ノズル70から6L/min/mの流量で液体を供給しながら基板Wの表面を乾燥させた時、液体供給ノズル70から液体を供給することなく基板Wの表面を乾燥させた時に比べて、前述のデフェクト数を約36%に減少できることが確かめられている。
【0088】
図12は、本発明の更に他の実施形態の研磨ユニットにおける表面側ノズルユニット16bを示す。この表面側ノズルユニット16bの図1乃至図3に示す表面側ノズルユニット16と異なる点は、本体部20の内部の、表面側ノズルユニット16bの搬送方向(X方向)に沿った乾燥ガス供給ノズル44の後方位置に、上下に貫通して延びて本体部20の基板対向面20aで開口する有機溶剤供給ノズル80を設け、この有機溶剤供給ノズル80と有機溶剤供給ユニット82とを有機溶剤供給ライン84で結び、この有機溶剤供給ライン84に有機溶剤流量調整バルブ86を介装した点にある。この有機溶剤供給ノズル80から、基板Wの表面に向けて、蒸気または液体の水溶性有機溶剤が供給され、この供給される水溶性有機溶剤の流量は、有機溶剤供給ユニット82及び有機溶剤流量調整バルブ86で調整される。
【0089】
なお、この例では、表面側ノズルユニット16bの搬送方向(X方向)に沿った乾燥ガス供給ノズル44の後方位置に有機溶剤供給ノズル80を設けているが、表面側ノズルユニット16bの搬送方向(X方向)に沿った、気液吸引ノズル28と乾燥ガス供給ノズル44との中間位置に有機溶剤供給ノズル80を設けるようにしてもよい。
【0090】
有機溶剤供給ノズル80は、基板対向面20aから移動方向(X方向)後方に向かって上方に傾斜して延びる傾斜部80aと該傾斜部80aに連通して鉛直方向に延びる鉛直部80bを有しており、有機溶剤供給ノズル80の傾斜部80aの基板Wの表面に対する傾斜角αは、例えば45〜90°に設定されている。
【0091】
このように、乾燥ガス供給ノズル44の基板Wに対する移動方向(X方向)後方で、基板Wの表面に向けて、有機溶剤供給ノズル80から、蒸気または液体の水溶性有機溶剤を供給することで、たとえ基板Wの表面に微小液滴が残っても、基板Wの表面に残った微小液滴に水溶性有機溶剤を溶解させ微小液滴の蒸発速度を促進させて、ウォーターマークが形成されることを防止しつつ、基板Wを乾燥させることができる。しかも水溶性有機溶剤は、基板Wの表面に残った微小水滴に溶解させるだけの量で充分なため、水溶性有機溶剤の使用量を大幅に削減することができる。
【0092】
また、有機溶剤供給ノズル80の傾斜部80aの基板Wの表面に対する傾斜角αを、例えば45〜90°に設定することにより、基板Wの表面に残った液滴の蒸発速度が速まることが確かめられている。
【0093】
有機溶供給ユニット82や有機溶剤供給ライン84等には、例えばステンレス、硬質ガラスまたはフッ素樹脂等、有機溶剤に対して不活性な材料製の容器や管等が用いられる。有機溶剤供給ユニット82を構成する容器内に、先端を容器内の有機溶剤内に浸漬させて、外部に通じる管を導入し、この管に不活性ガスを通じさせることで、有機溶剤の蒸気を発生させることができる。このように、有機溶剤の蒸気を発生させる際、微細孔を有するバブラーなどの気泡発生装置を管の先端に取り付けることで、より多くの有機溶剤蒸気を発生させることができる。有機溶剤供給ユニット82内で発生した有機溶剤蒸気は、容器や管中を流れる不活性ガスにより基板の表面まで輸送される。
【0094】
有機溶剤の状態は液状でも蒸気であっても良い。また、有機溶剤の蒸気圧は温度上昇とともに指数関数的に増加するため、蒸気濃度を制御したいときは容器や管を恒温装置などで恒温制御することが望ましい。
基板上の液滴を速やかに蒸発乾燥させる水溶性有機溶剤としては、純水等の液体と混合しやすく且つ液体よりも蒸発速度が速いものが使用される。純水等の液体との混合が容易であること、および蒸発速度が速いことの指標としては、有機溶剤の物性値として、溶解度パラメータ(以下SP値)及び蒸気圧または沸点を利用することができる。ここで溶解度パラメータとは、2種以上の溶液同士の溶解度の目安となる値で、溶液成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られている。
【0095】
水溶性に関して、水の溶解度パラメータが23.43(cal/cm1/2なので、この値に近いほど水に溶解(水と相溶)することとなる。例えば1価アルコール類の中で水溶性を示すアルコールのSP値を例示すると、炭素数の少ない順に、メタノール(13.77)、エタノール(12.57)、1−プロパノール(11.84)、2−プロパノール(11.58)、1−ブタノール(11.32)がある。1価アルコールの場合は保有する炭素数が増えるほど、換言すれば疎水性であるアルキル基が増えるほど、水に対する溶解性も劣ることが知られており、例えば非水溶性のn−ヘキサノールは炭素数が6個でSP値は10.7であり、結果的には水のSP値23.43との差も大きい。このように有機溶剤のSP値を知ることで、使用に適当な水溶性有機溶剤を選択できる。このような水溶性有機溶剤としては、前述のアルコールのような酸素含有化合物以外にも窒素含有化合物、硫黄含有化合物、及び酸素含有化合物が挙げられる。
【0096】
酸素含有化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びフルフリルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、クロロプロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール及びヘキシレングリコール等の多価アルコール類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル及びエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールの誘導体、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロピラン及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセタール類、アセトン、ジアセトンアルコール及びメチルエチルケトン等のケトン類、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、及びブチロラクトン等のエステル類等が挙げられる。
【0097】
窒素含有化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、アリルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、アミルアミン、シクロヘキシルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、プロパノールアミン、N‐エチルエタノールアミン、N‐ブチルエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン及びN,N,N’,N’‐テトラメチルエチレンジアミン等のジアミン類、及びテトラメチルアンモニウムオキサイド等が挙げられる。
【0098】
硫黄含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド及びスルホラン等が挙げられる。
【0099】
有機溶剤は、前述のように水溶性であることと同時に、純水等の液体の蒸発を促進する揮発性を有している必要がある。従って、その指標としては、有機溶剤の蒸気圧を用いることが適当であり、水の蒸気圧2.3kPa(20℃)よりも大きければ水の蒸発を促進することができる。例えばこの20℃での蒸気圧を1価アルコール類の一部を例に示すと、メタノール(12.3kPa)、エタノール(5.9kPa)及び2−プロパノール(4.4kPa)であり、これらはいずれも水の蒸発を促進することが可能である。
【0100】
以上のように、溶解度パラメータおよび蒸気圧の2つの条件を満たす有機溶剤としては、例えば1価アルコール類であるメタノール、エタノール及び2−プロパノールが挙げられる。
【0101】
有機溶剤は、単独に限らず複数種を混合して用いても良い。複数種を混合して用いる場合は、種類のみを水溶性有機溶剤にすれば良く、その他の有機溶剤は水には溶解しなくとも水溶性有機溶剤には溶解することが好ましい。この場合の有機溶剤として、例えばハイドロフルオロエーテル(HFE)などの蒸気圧の高い有機溶剤を用いることが好ましい。
【0102】
水溶性有機溶剤として、引火性を有するものを使用した場合には、その蒸気濃度を制御することは非常に重要である。例えば水溶性有機溶剤として、イソプロピルアルコール(IPA)が好ましく用いられるが、このように、水溶性有機溶剤として、IPAを用いた場合、IPAの下部引火点が約12℃であり、このときの飽和蒸気圧濃度は、飽和蒸気圧と温度の関係式より約2.2%と求まる。従って、安全上の理由から、IPAを使用する場合は2.2%未満の濃度で使用することが好ましい。
【0103】
また、液滴が基板表面から蒸発する場合に蒸発潜熱により基板が冷却されて基板上に水蒸気が結露する恐れがある。このため、このような結露の恐れがある場合には、予め暖めた不活性ガスを使用したり、基板を直接暖めたりするなどの手段を別途設けて、基板が露点以下にならないようにすることが好ましい。
【0104】
ここで、有機溶剤蒸気で基板表面の液滴を速やかに蒸発させて基板を乾燥させるためには、有機溶剤蒸気を効率的に基板上の液滴に供給する必要がある。基板上の液滴の全面に有機溶剤蒸気が接触すれば、有機溶剤の溶解速度も上昇し、続く液滴の蒸発も速やかに起きる。そこで、有機溶剤供給口から供給される有機溶剤蒸気の噴射方向と基板表面とのなす角度、換言すれば、図12に示す有機溶剤供給ノズル80の傾斜部80aの基板表面に対する傾斜角αが10〜90°になるように変更させて、基板上に水滴を乾燥させたときの該角度と蒸発速度の関係を調べた。
【0105】
つまり、表面にLow−k材(BD1:膜厚10,000Å)を成膜したSi基板(試料)を用意し、精密天秤上に載せた試料(Si基板)上に純水よりなる水滴をピペットで0.02ml滴下し、その水滴に向けてIPA蒸気を噴射して、試料の重量変化により水滴の乾燥速度を求めた。IPA蒸気として、SUS容器中に満たしたIPA原液中に、PFAチューブの先端に設けたガラス多孔質体を通して、窒素ガスをバブリングさせて発生させたものを使用して試料まで輸送した。この時、窒素ガスの流量が2L/min、SUS容器中のIPA蒸気が約23℃になるように調整した。供給口付近のIPA濃度は、ガス検知管で測定した結果、IPA下部引火点の飽和蒸気圧濃度未満の2.1%になっていた。
【0106】
この時の結果を図13に示す。この図13から、乾燥装置の有機溶剤供給口から供給されるIPA蒸気の噴射方向と基板の成す角度、換言すれば、図12に示す有機溶剤供給ノズル80の傾斜部80aの基板表面に対する傾斜角αを45°以上とすることで、水滴の蒸発速度が急増することが判り、IPAの蒸発速度促進の効果が見られた。この時、ウォーターマークは確認されなかった。
【0107】
図14及び図15は、本発明の更に他の実施形態の乾燥ユニットに適用した基板処理装置10aを示す。この例の乾燥ユニット(基板処理装置)10aの図1乃至図3に示す乾燥ユニット10と異なる点は、以下の通りである。すなわち、内部に気液吸引ノズル28及び乾燥ガス供給ノズル44をそれぞれ設けた一対の本体部90a,90bを直線状に連結して表面側ノズルユニット16cを構成している。更に、本体部90a,90bの連結部側の一端に連結した水平方向に伸縮自在な中央伸縮体92と本体部90a,90bの他端にそれぞれ連結した水平方向に伸縮自在な側部伸縮体94で、表面側ノズルユニット16cを移動方向(X方向)に平行移動させる移動機構96を構成している。この中央伸縮体92の移動速度(伸縮速度)は、側部伸縮体94の移動速度(伸縮速度)よりも速く設定されている。なお、この例では、裏面側ノズルユニットは備えられていない。
【0108】
この例にあっては、移動機構96の中央伸縮体92及び側部伸縮体94を伸展させて表面側ノズルユニッ16cをX方向に水平移動させながら、気液吸引ノズル28で基板Wの表面の液体を吸引し、同時に乾燥ガス供給ノズル44から乾燥ガスを供給して、基板Wの表面を乾燥させるのであり、この時、中央伸縮体92の移動速度(伸展速度)を側部伸縮体94の移動速度(伸展速度)よりも速くすることで、基板Wの全表面をより均等な速度で乾燥させることができる。
【0109】
図16は、本発明の乾燥ユニット(基板処理装置)を備えた研磨装置を示す。図16に示すように、この研磨装置は、基板を搬入・搬出するロード・アンロード部100、基板表面を研磨して平坦化する研磨部102、研磨後の基板を洗浄する洗浄部104及び基板を搬送する基板搬送部106を備えている。ロード・アンロード部100は、半導体ウェーハ等の基板をストックする複数(図示では3個)の基板カセットを載置するフロントロード部108と、第1搬送ロボット110を備えている。
【0110】
研磨部102には、この例では、4つの研磨ユニット112が備えられ、基板搬送部106は、互いに隣接した2つの研磨ユニット108間で基板の搬送を行う第1リニアトランスポータ114a及び第2トランスポータ114bから構成されている。洗浄部104は、例えばロールブラシ方式を採用して粗洗浄を行う2つの洗浄ユニット116a,116b、スピンドライ方式を採用して仕上げ洗浄を行う洗浄ユニット118及び乾燥ユニット120を有している。更に、第1リニアトランスポータ114a、第2トランスポータ114b及び洗浄部104の間に位置して第2搬送ロボット122が配置されている。
【0111】
この例では、乾燥ユニット120として、前述の図1乃至図3に示す乾燥ユニット10が使用され、研磨し洗浄した後の基板を、乾燥ユニット120(10)で乾燥させるようにしている。なお、図1乃至図3に示す乾燥ユニット10の代りに、図14及び図15に示す乾燥ユニット10aを使用しても良い。
【0112】
この研磨装置にあっては、フロントロード部108に搭載された基板カセットから第1搬送ロボット110で取り出された基板は、第1リニアトランスポータ114a、または第1リニアトランスポータ114a及び第2リニアトランスポータ114bを介して、研磨部102の少なくとも1つの研磨ユニット112に搬送される。そして、研磨ユニット112で研磨された基板は、第2搬送ロボット122で洗浄部104に搬送され、洗浄部104の洗浄ユニット116a,116b及び洗浄ユニット118で順次洗浄され、乾燥ユニット120で乾燥された後、第1搬送ロボット110でフロントロード部108に搭載された基板カセットに戻される。
【0113】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0114】
10,10a 乾燥ユニット(基板処理装置)
12 クランパ
14 基板ホルダ
16,16a、16b,16c 表面側ノズルユニット
18 裏面側ノズルユニット
20,60,90a,90b 本体部
20a 基板対向面
24,64 走行体
26,62,96 移動機構
28 気液吸引ノズル
30 吸引ライン
32 ブロア
34 気液分離器
36 吸引流量調整バルブ
40 液膜
42 液滴
44 乾燥ガス供給ノズル
46 ガス供給ライン
48 ガス供給ユニット
50 ガス供給流量調整バルブ
52 残留液滴
54,68 液補充ノズル
70 液体供給ノズル
72 液体供給ユニット
74 液体供給ライン
76 液体流量調整バルブ
78a,78b 供給流体
80 有機溶剤供給ノズル
82 有機溶剤供給ユニット
84 有機溶剤供給ライン
86 有機溶剤流量調整バルブ
92 中央伸縮体
94 側部伸縮体
H 隙間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体で濡れた基板表面を乾燥させる基板処理方法であって、
基板表面に対向させて配置した気液吸引ノズルと基板とを互いに平行に相対移動させながら、基板表面の液体を該表面から剥離させつつ近傍の気体と共に前記気液吸引ノズルで吸引し、
基板表面に対向させて配置した乾燥ガス供給ノズルと基板とを互いに平行に相対移動させながら、基板表面の前記液体を剥離させた領域に向けて前記乾燥ガス供給ノズルから乾燥ガスを吹き付けることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記気液吸引ノズル及び前記乾燥ガス供給ノズルを、前記気液吸引ノズルが基板に対する移動方向前方に、前記乾燥ガス供給ノズルが基板に対する移動方向後方にそれぞれ位置するようにして、一体的に基板と相対移動させることを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記気液吸引ノズル及び前記乾燥ガス供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることを特徴とする請求項2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方、かつ前記乾燥ガス供給ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に向けて液体供給ノズルから液体を供給することを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記液体供給ノズルを、前記気液吸引ノズルが基板に対する移動方向前方に、前記乾燥ガス供給ノズルが基板に対する移動方向後方に、前記液体供給ノズルが前記気液吸引ノズルと前記乾燥ガス供給ノズルとの中間にそれぞれ位置するように、一体的に基板と相対移動させることを特徴とする請求項4記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記液体供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることを特徴とする請求項5記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方で、基板表面に向けて有機溶剤供給ノズルから水溶性有機溶剤を供給することを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルを、前記気液吸引ノズルが基板に対する移動方向前方に、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルの一方が前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方に、他方が更に後方にそれぞれ位置するように、一体的に基板と相対移動させることを特徴とする請求項7記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルと基板との相対移動速度は、0.01〜0.07m/sであることを特徴とする請求項8記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記水溶性有機溶剤はイソプロピルアルコールであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記イソプロピルアルコールの蒸気濃度は2.2%未満であることを特徴とする請求項10記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記気液吸引ノズルの吸引口と基板表面との隙間距離は、1〜4mmであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項13】
気体が平均流速60〜140m/sで基板表面に沿って流れて、前記気液吸引ノズルに吸引されるように吸引流量を調整すること特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記乾燥ガスは不活性ガスであり、該乾燥ガスの相対湿度は外部雰囲気の相対湿度以下であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に基板表面の液体と同質の液体を補充することを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項16】
液体で濡れた基板表面を乾燥させる基板処理装置であって、
基板表面に対向する位置に配置され基板表面の液体を該表面から剥離させつつ近傍の気体と共に吸引する気液吸引ノズルと、
前記基板表面の液体を剥離させた領域に向けて乾燥ガスを吹き付ける乾燥ガス供給ノズルと、
気液吸引ノズルと基板、及び前記乾燥ガス供給ノズルと基板を互いに平行に相対移動させる移動機構を有することを特徴とする基板処理装置。
【請求項17】
前記気液吸引ノズル及び前記乾燥ガス供給ノズルは、ノズルユニットの内部に設けられ、前記移動機構は、前記ノズルユニットを基板と平行に移動させるように構成されていることを特徴とする請求項16記載の基板処理装置。
【請求項18】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方、かつ前記乾燥ガス供給ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に液体を供給する液体供給ノズルを更に有することを特徴とする請求項16記載の基板処理装置。
【請求項19】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記液体供給ノズルは、ノズルユニットの内部に設けられ、前記移動機構は、前記ノズルユニットを基板と平行に移動させるように構成されていることを特徴とする請求項18記載の基板処理装置。
【請求項20】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向後方で基板表面に水溶性有機溶剤を供給する有機溶剤供給ノズルを更に有することを特徴とする請求項16記載の基板処理装置。
【請求項21】
前記気液吸引ノズル、前記乾燥ガス供給ノズル及び前記有機溶剤供給ノズルは、ノズルユニットの内部に設けられ、前記移動機構は、前記ノズルユニットを基板と平行に移動させるように構成されていることを特徴とする請求項20記載の基板処理装置。
【請求項22】
前記有機溶剤供給ノズルは、基板表面に対して45〜90°傾斜していることを特徴とする請求項20または21記載の基板処理装置。
【請求項23】
前記気液吸引ノズルの基板に対する移動方向前方で、基板表面に基板表面の液体と同質の液体を補充する液体補充ノズルを更に有することを特徴とする請求項16乃至22のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項24】
前記気液吸引ノズルは、細長いスリット形状に形成されていることを特徴とする請求項16乃至23のいずれかに記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−9599(P2011−9599A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153289(P2009−153289)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】