説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】可燃性有機溶剤を基板に供給して所定の表面処理を施す基板処理装置および方法において、X線照射を用いた除電を効率的に行う。
【解決手段】基板処理装置が行う一連の処理のうち可燃性雰囲気が形成される処理はIPA液を用いた置換処理に限定されることから、X線照射を用いた除電処理を置換処理に限定して用いる。すなわち、X線照射の開始および停止をIPA液(可燃性有機溶剤)の供給タイミングに対応して設定している。したがって、X線照射が必要最小限に止められ、X線照射を用いた除電を効率的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可燃性有機溶剤を基板に供給して所定の表面処理を施す基板処理装置および基板処理方法に関するものである。なお、表面処理対象となる基板には、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶ディスプレイ等の製造工程では、半導体ウエハ、ガラス基板等の基板に対して洗浄、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、イオン注入、レジスト剥離、層間絶縁膜の形成、熱処理等の各種処理が行われる。これらの処理の過程において基板が静電気により帯電すると、放電現象により基板表面の回路パターンが損傷を受けたり、また、塵埃等のパーティクルが基板に付着しやすくなったりする。そのため、基板の静電気を除去する除電装置を基板処理装置に装備することが提案されている。ただし、一連の処理中にIPA(イソプロピルアルコール:isopropyl alcohol)、エタノール(Ethanol)、メタノール(methanol)などの可燃性有機溶剤を、基板保持手段に保持された基板に供給して所定の表面処理を行う場合には、基板や基板保持手段の周囲に可燃性雰囲気が形成されるため、発火などを考慮する必要がある。そこで、例えば特許文献1の記載の発明では、軟X線を用いた除電装置が基板処理装置に装備されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−72559号公報(段落0082、図2、図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載の発明では、基板が基板処理装置に搬送されてくると、当該基板に対して洗浄処理、リンス処理および乾燥処理がこの順序で実行される。つまり、洗浄処理ではエッチング液などの薬液や純水が処理液として基板に供給されてアッシング処理後の残渣除去が行われている。この洗浄処理後にIPA等の可燃性有機溶剤が基板に供給されて基板に対してリンス処理が実行され、さらにスピン乾燥により基板が乾燥される。そして、IPAを用いてリンス処理を行っているため、基板搬送直後から除電装置(特許文献1中のイオナイザ5)を作動させて基板の帯電を防止している。
【0005】
ところで、特許文献1に記載の発明で使用するX線のエネルギー強度は3〜9.5eV程度と微弱であるものの、X線の人体に及ぼす影響の危険性を考慮すると、X線の照射時間を極力短縮するのが望ましい。また、このことはランニングコスト面でも同じである。つまり、除電装置内ではX線を発生させるためにX線発生部を装備しているが、X線発生部の交換頻度が増大すると、高ランニングコストの主要因のひとつとなってしまう。そのため、X線発生部の作動時間を必要最小限に抑制するのが望ましい。
【0006】
しかしながら、従来技術では、上記したように基板が装置内に搬送されてくると同時にX線照射を開始しており、可燃性雰囲気が形成されない期間、例えば基板が基板保持手段に保持されてから洗浄処理が行われるまでの待機期間や洗浄処理が行われている洗浄処理期間などにおいても、X線を一律に照射している。そのため、従来技術はX線照射を用いた除電が必ずしも効率的に行われているとは言えなかった。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、可燃性有機溶剤を基板に供給して所定の表面処理を施す基板処理装置および方法において、X線照射を用いた除電を効率的に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる基板処理装置は、上記目的を達成するため、基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段に保持された基板に可燃性有機溶剤を供給して可燃性雰囲気で所定の表面処理を実行する有機溶剤供給手段と、X線発生部を有し、X線発生部からのX線照射により発生させたイオンを用いて基板保持手段および基板を除電する除電手段と、可燃性有機溶剤の供給タイミングに対応してX線発生部の作動および停止を制御する制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
また、この発明にかかる基板処理方法は、基板保持手段に保持された基板に可燃性有機溶剤を供給して可燃性雰囲気で所定の表面処理を実行する基板処理方法であって、上記目的を達成するため、X線発生部からのX線照射により発生させたイオンを用いて基板保持手段および基板を除電する除電処理を備え、X線発生部の作動および停止が可燃性有機溶剤の供給タイミングに対応して設定されていることを特徴としている。
【0010】
このように構成された発明(基板処理装置および方法)では、基板保持手段に保持された基板に対して可燃性有機溶剤が供給されて所定の表面処理が実行される。このとき、可燃性有機溶剤の供給により基板および該基板を保持している基板保持手段の周囲に可燃性雰囲気が形成される。そこで、X線照射により発生させたイオンを用いて基板保持手段および基板を除電する、除電処理を実行しており、可燃性雰囲気中において基板を確実に除電している。また、本発明では、特にX線発生部からのX線照射の開始および停止が可燃性有機溶剤の供給タイミングに対応して設定されており、X線照射を用いた除電処理が表面処理を行う際に専用的に実行される。したがって、X線照射が必要最小限に止められる。
【0011】
ところで、基板処理装置では、表面処理を行う前に非可燃性雰囲気で基板保持手段に保持された基板に対して表面処理と異なる前処理を行う場合があるが、この場合、前処理の途中でX線発生部の作動を開始して基板保持手段および基板を除電するとともに、前処理に続く表面処理中においてもX線発生部の作動を継続させるのが望ましい。このように可燃性有機溶剤の供給開始タイミング(表面処理の開始タイミング)に対応して前処理の途中から除電処理を開始することにより、表面処理を開始した時点で基板および基板保持手段にイオンが付着して表面処理中の除電を確実に行うことができる。
【0012】
また、X線発生部の停止については、可燃性有機溶剤の供給停止タイミング(表面処理の終了タイミング)に対応して設定する。より具体的には可燃性雰囲気が非可燃性雰囲気に置換された後にX線発生部の作動を停止するのが望ましい。例えば基板保持手段を取り囲むように空間規定部が設けられた基板処理装置では、空間規定部により表面処理を行う処理空間が規定されるとともに、排気手段により排気されている。このような装置では、排気手段により処理空間内が非可燃性雰囲気に置換されるが、その置換完了前においては可燃性雰囲気が処理空間に残っているため、その間はX線発生部の作動を継続させるのが望ましい。一方、可燃性雰囲気から非可燃性雰囲気に完全に置換されるのを待って直ちにX線発生部の作動を停止させるのが望ましい。
【0013】
さらに、可燃性有機溶剤で濡れた基板を乾燥させるための乾燥処理を実行する場合には、排気手段を作動させた状態で乾燥処理は実行されるが、乾燥処理中においては可燃性雰囲気が残っている可能性がある。したがって、乾燥処理が完了して可燃性雰囲気がなくなった後でX線発生部を停止させるのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、可燃性有機溶剤の供給タイミングに対応してX線照射の開始および停止を制御しているので、X線発生部からのX線照射時間を必要最小限にすることができ、X線照射を用いた除電を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1はこの発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。また、図2は図1の基板処理装置の主要な制御構成を示すブロック図である。この基板処理装置は半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfに付着した汚染物質を除去するための洗浄処理に用いられる枚葉式の基板処理装置である。より具体的には、poly−Siの微細パターンが表面Wfに形成された基板Wの表面Wfに対してフッ酸などの薬液による薬液処理および純水やDIWなどのリンス液によるリンス処理を施した後、リンス液で濡れた基板Wに対してIPAを用いた置換処理を施してから基板Wに対して乾燥処理を行う装置である。
【0016】
この基板処理装置は、図1に示すように、処理チャンバー20に囲まれた構造を有する。この処理チャンバー20の搬送領域側(同図の右側)の側面には基板搬入出口70が設けられている。また基板搬入出口70には、シャッタSHがシャッタ駆動機構401により開閉自在に設けられており、装置全体を制御する制御ユニット400からの動作指令によりシャッタ駆動機構401がシャッタSHを開成駆動させることで、基板搬送ロボット(図示省略)により基板Wが基板搬入出口70から搬送される。
【0017】
また、処理チャンバー20の基板搬入出口70と反対側の側面には透過窓60が設けられている。そして、透過窓60側の外部にX線照射ユニット50が本発明の「除電手段」として設けられている。このX線照射ユニット50はX線発生部51を有しており、このX線発生部51から除電作用のある電磁波である軟X線が射出される。なお、X線発生部51からの軟X線の射出タイミングについては後で詳述する。また、この明細書中の「X線」とは0.001nm〜1nm程度の波長を有する電磁波であり、そのX線の中で波長が比較的長い(0.1nm〜1nm)電磁波を「軟X線」と称している。
【0018】
また、透過窓60は、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂等からなる。ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂はX線を通しやすい性質を有する。それにより、X線照射ユニット50から発生する軟X線は透過窓60を透過する。なお、透過窓60の材料として、X線を通しやすい他の種々の樹脂を用いても良い。
【0019】
この処理チャンバー20の内部には、基板Wをその表面Wfを上方に向けた状態で略水平姿勢に保持して回転させるスピンチャック1と、薬液供給部411から圧送されてくる薬液をスピンチャック1に保持された基板Wに供給する薬液ノズル3が設けられている。
【0020】
スピンチャック1は、回転支柱11がモータを含むチャック回転駆動機構402の回転軸に連結されており、チャック回転駆動機構402の駆動により鉛直軸回りに回転可能となっている。これら回転支柱11およびチャック回転駆動機構402は、円筒状のケーシング2内に収容されている。また、回転支柱11の上端部には、円盤状のスピンベース15が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。したがって、装置全体を制御する制御ユニット400からの動作指令に応じてチャック回転駆動機構402を駆動させることによりスピンベース15が鉛直軸回りに回転する。
【0021】
スピンベース15の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン17が立設されている。チャックピン17は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、この実施形態では後の図4に示すように6個のチャックピン17がスピンベース15の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。チャックピン17のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。各チャックピン17は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0022】
スピンベース15に対して基板Wが基板搬送ロボットとの間で受渡しされる際(図1(a))には、複数個のチャックピン17を解放状態とし、基板Wに対して洗浄処理を行う際には、複数個のチャックピン17を押圧状態とする。押圧状態とすることによって、複数個のチャックピン17は基板Wの周縁部を把持してその基板Wをスピンベース15から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持することができる。これにより、基板Wはその表面(パターン形成面)Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態で保持される。このように、この実施形態では、スピンベース15とチャックピン17が本発明の「基板保持手段」として機能する。
【0023】
さらに、ケーシング2の周囲には、受け部材21が固定的に取り付けられている。受け部材21には、円筒状の仕切り部材23a,23b,23cが立設されている。ケーシング2の外壁と仕切り部材23aの内壁との間の空間が第1排液槽25aを形成し、仕切り部材23aの外壁と仕切り部材23bの内壁との間の空間が第2排液槽25bを形成し、仕切り部材23bの外壁と仕切り部材23cの内壁との間の空間が第3排液槽25cを形成している。
【0024】
第1排液槽25a、第2排液槽25bおよび第3排液槽25cの底部にはそれぞれ、排出口27a,27b,27cが形成されており、各排出口は相互に異なるドレインに接続されている。例えばこの実施形態では、第1排液槽25aは使用済みの薬液を回収するための槽であり、薬液を回収して再利用するための回収ドレインに連通されている。また、第2排液槽25bは使用済みのリンス液を排液するための槽であり、廃棄処理のための廃棄ドレインに連通されている。さらに、第3排液槽25cはIPAを排液するとともに、IPA雰囲気を排気するための槽であり、分離回収ボックス(図示省略)に連通されている。この分離回収ボックスには、図2の排気部421が接続されており、分離回収ボックスを介して第3排液槽25cに負圧が与えられており、次の説明するスプラッシュガードにより囲まれる処理空間内からIPA雰囲気を確実に取り除いて処理空間を非可燃性雰囲気に置換可能となっている。
【0025】
各排液槽25a〜25cの上方にはスプラッシュガード6が設けられている。このスプラッシュガード6は本発明の「空間規定部」に相当しており、スピンチャック1に水平姿勢で保持されている基板Wの周囲を包囲するようにスピンチャック1の回転軸(鉛直軸)に対して昇降自在に設けられている。このスプラッシュガード6はスピンチャック1の回転軸に対して略回転対称な形状を有しており、スピンチャック1と同心円状に径方向内側から外側に向かって配置された3つのガード61,62,63を備えている。3つのガード61,62,63は、最外部のガード63から最内部のガード61に向かって、順に高さが低くなるように設けられるとともに、各ガード61,62,63の上端部が鉛直方向に延びる面内に収まるように配置されている。
【0026】
スプラッシュガード6は、ガード昇降駆動機構403と接続され、制御ユニット400からの動作指令に応じてガード昇降駆動機構403の昇降駆動用アクチェータ(例えばエアシリンダーなど)を作動させることで、スプラッシュガード6をスピンチャック1に対して昇降させることが可能となっている。この実施形態では、ガード昇降駆動機構403の駆動によりスプラッシュガード6を段階的に昇降させることで、回転する基板Wから飛散する処理液を第1〜第3排液槽25a〜25cに分別して排液させることが可能となっている。
【0027】
ガード61の上部には、断面「く」の字形で内方に開いた溝状の第1案内部が形成されている。そして、薬液処理時にスプラッシュガード6を最も高い位置(以下「第1高さ位置」という)に位置させることで、回転する基板Wから飛散する薬液が第1案内部で受け止められ、第1排液槽25aに案内される。具体的には、第1高さ位置として、第1案内部がスピンチャック1に保持された基板Wの周囲を取り囲むようにスプラッシュガード6を配置させることで、回転する基板Wから飛散する薬液がガード61を介して第1排液槽25aに案内される。
【0028】
また、ガード62の上部には、径方向外側から内側に向かって斜め上方に傾斜した傾斜部62aが形成されている。そして、リンス処理時にスプラッシュガード6を第1高さ位置よりも低い位置(以下「第2高さ位置」という)に位置させることで、回転する基板Wから飛散するリンス液が傾斜部で受け止められ、第2排液槽25bに案内される。具体的には、第2高さ位置として、傾斜部62aがスピンチャック1に保持された基板Wの周囲を取り囲むようにスプラッシュガード6を配置させることで、回転する基板Wから飛散するリンス液がガード61の上端部とガード62の上端部との間を通り抜けて第2排液槽25bに案内される。
【0029】
同様にして、ガード63の上部には、径方向外側から内側に向かって斜め上方に傾斜した傾斜部が形成されている。そして、置換処理時にスプラッシュガード6を第2高さ位置よりも低い位置(以下「第3高さ位置」という)に位置させることで、回転する基板Wから飛散するIPA液が傾斜部で受け止められ、第2排液槽25cに案内される。具体的には、第3高さ位置として、傾斜部がスピンチャック1に保持された基板Wの周囲を取り囲むようにスプラッシュガード6を配置させることで、回転する基板Wから飛散するIPA液がガード62の上端部とガード63の上端部との間を通り抜けて第3排液槽25cに案内される。
【0030】
さらに、図1(a)に示すように、第3高さ位置よりも低い位置(以下「退避位置」という)に位置させて、スピンチャック1をスプラッシュガード6の上端部から突出させることで、基板搬送手段(図示せず)が未処理の基板Wをスピンチャック1に載置したり、処理済の基板Wをスピンチャック1から受け取ることが可能となっている。
【0031】
スピンチャック1の上方位置には、遮断板9が設けられている。この遮断板9は中心部に開口部を有する円盤状の部材であって、スピンチャック1の上方位置に配置されている。この遮断板9は、その下面(底面)が基板表面Wfと略平行に対向する対向面となっており、その平面サイズは基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。遮断板9は略円筒形状を有する回転支柱91の下端部に略水平に取り付けられ、回転支柱91は水平方向に延びるアーム92により基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転可能に保持されている。アーム92には、遮断板回転駆動機構404と遮断板昇降駆動機構405が接続されている。
【0032】
遮断板回転駆動機構404は、制御ユニット400からの動作指令に応じて回転支柱91を基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転させる。また、遮断板回転駆動機構404は、スピンチャック1に保持された基板Wの回転に応じて基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で遮断板9を回転させるように構成されている。
【0033】
また、遮断板昇降駆動機構405は、制御ユニット400からの動作指令に応じて、遮断板9をスピンベース15に近接して対向させたり、逆に離間させることが可能となっている。具体的には、制御ユニット400は遮断板昇降駆動機構405を作動させることで、基板処理装置に対して基板Wを搬入出させる際には、スピンチャック1の上方の離間位置に遮断板9を上昇させる。その一方で、基板Wに対して所定の処理を施す際には、スピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された所定の対向位置(図1(b)に示す位置)まで遮断板9を下降させる。この実施形態では、基板Wに対してリンス処理が開始されてから乾燥処理が終了するまで、遮断板9を対向位置に位置させる。
【0034】
また、遮断板9の中央部には純水ノズル95とIPAノズル98が設けられている。回転支柱91は中空に仕上げられ、内部に純水供給管96およびIPA供給管99が挿通されている。そして、純水供給管96の下端に純水ノズル95が結合され、IPA供給管99の下端にIPAノズル98が結合されている。純水供給管96は純水供給部412に接続されており、IPA供給管99はIPA供給部413に接続されている。制御ユニット400の動作指令に応じて純水供給部412が作動すると、DIW(deionized water:脱イオン水)などのリンス液が純水ノズル95から吐出される。また、制御ユニット400の動作指令に応じてIPA供給部413が作動すると、IPA液がIPAノズル98から吐出される。なお、このIPA供給部413が本発明の「有機溶剤供給手段」に相当する。また、IPA液としては、100%IPAを用いてもよいし、IPAとDIWを所定の混合比で混合させた混合物を用いてもよい。
【0035】
また、回転支柱91の内壁面と純水供給管96とIPA供給管の周囲との間に設けられた隙間は、円筒状のガス供給路97を形成している。このガス供給路97は開閉バルブ98を介してガス供給部414と接続されており、遮断板9と基板表面Wfとの間に形成される空間に窒素ガスを供給することができる。なお、この実施形態では、ガス供給部414から窒素ガスを供給しているが、空気や他の不活性ガスなどを吐出するように構成してもよい。
【0036】
なお、図1への図示を省略しているが、回転支柱11は中空形状を有しており、その中空部は回転支柱91と同一構造を有しており、リンス液と窒素ガスを基板裏面に向けて吐出可能となっている。
【0037】
上記のように構成された基板処理装置では、基板Wは次のようにして洗浄処理される。すなわち、薬液ノズル3から薬液が基板表面Wfに供給され、基板Wに対して薬液処理が実行される。続いて、遮断板9が離間位置から対向位置に位置決めされ、基板Wの回転とともに遮断板9が回転される。そして、ガス供給路97から窒素ガスを供給することで、遮断板9と基板表面Wfとの間に挟まれた空間が窒素ガス雰囲気とされる。また、ノズル95からリンス液(DIW)を吐出させて基板Wに対してリンス処理を施す(リンス工程)。リンス処理後、ノズル95からIPA液を吐出させて基板表面Wfに残留付着するリンス液をIPA液により置換する(置換処理)。その後で、制御ユニット400はチャック回転機構13および遮断板回転駆動機構404のモータの回転速度を高めて基板Wおよび遮断板9を高速回転させる。これにより、基板表面WfからIPA液が振り切られ、基板Wの乾燥処理(スピンドライ)が実行される(乾燥工程)。この乾燥処理においては、遮断板9と基板表面Wfとの間に挟まれた空間が窒素ガス雰囲気とされることにより、基板Wの乾燥が促進され、乾燥時間を短縮することができる。
【0038】
また、この実施形態では、IPA液を基板Wに供給した際に処理空間にIPA雰囲気(可燃性雰囲気)が形成される。そこで、基板WへのIPA液の供給タイミングに対応してX線照射ユニット50を作動させて基板W、スピンベース15、スプラッシュガード6などを除電している。この点について、図3を参照しつつ詳述する。
【0039】
図3は図1に示す基板処理装置の動作を示すタイミングチャートである。ここでは、本発明の「表面処理」に相当する置換処理、および置換処理に対応して実行される除電処理を中心に説明する。この実施形態では、置換処理の前処理となるリンス処理の後半のあるタイミングT0でX線発生部51が制御ユニット400から動作指令に応じて作動し、図1(b)に示すように、基板W、スピンベース15、スプラッシュガード6への軟X線照射を開始する。つまり、図3に示すように、IPA液の吐出タイミングT1よりも時間TAだけ早いタイミングT0で軟X線照射が照射される。この軟X線照射により基板W、スピンベース15、スプラッシュガード6の近傍に存在している気体分子がイオン化され、基板Wなどを除電する。この軟X線照射はIPA液の吐出中(つまり置換処理の間)も継続されて除電処理が連続的に実行され、さらにIPA液の吐出終了(置換処理の完了)タイミングT2後も時間TBだけ継続される。そして、タイミングT3で制御ユニット400からの停止指令に応じてX線発生部51が停止して除電処理が終了する。このように、この実施形態では、乾燥処理に移行した後も、しばらくの間(時間TB)、軟X線照射が継続されて除電処理が続けられている。
【0040】
以上のように、この実施形態では、基板処理装置が行う一連の処理のうち可燃性雰囲気が形成される処理はIPA液を用いた置換処理に限定されることから、X線照射を用いた除電処理を置換処理に限定して用いている。すなわち、X線照射の開始および停止をIPA液(可燃性有機溶剤)の供給タイミングに対応して設定している。したがって、X線照射が必要最小限に止められ、X線照射を用いた除電を効率的に行うことができる。
【0041】
また、置換処理の前に行うリンス処理(本発明の「前処理」に相当)は純水やDIWなどのリンス液を基板Wに供給する処理であり、可燃性雰囲気は形成されないが、本実施形態ではリンス処理中にX線発生部51の作動を開始している。これは置換処理を開始した時点でスプラッシュガード6、スピンベース15、基板Wなどを除電するためであり、これによってスプラッシュガード6等にイオンが付着して表面処理中、特に処理開始段階の除電を確実に行うことができる。このことを実験結果に基づいて説明する。
【0042】
図4はX線照射による除電効果を検討するための実験内容を示す模式図である。ここでは、基板Wを保持しない状態でスピンベース15およびスプラッシュガード6をベンコットンで擦って強制的に帯電させている。そして、図1のX線照射ユニット50を作動させた後、作動直後、10秒経過、20秒経過および30秒経過後におけるスピンベース15およびスプラッシュガード6の各部での帯電量をIon Systems製のSFM775により計測した。なお、計測部位は同図中の符号A〜Eで示す通りである。また、X線照射ユニット50は中心波長0.2nmで、9.5keVの軟X線をスピンベース15およびスプラッシュガード6に照射している。
【0043】
図5は図4に示す実験で計測された帯電量を示しており、それらの計測データをまとめたものが図6のグラフである。これらの実験結果からわかるように、X線照射を開始しても直ちに除電効果が発現するのではなく、所定時間、例えば10〜15秒程度の時間経過を経てX線照射による除電が開始される。つまり、除電に寄与するイオンはX線照射からわずかながらも遅れて生成されると推測される。したがって、上記実施形態で行ったように、IPA液による置換処理の開始よりも時間TAだけ先立ってX線照射を開始することでIPA液の吐出によりIPA雰囲気が形成された時点では既に除電に寄与するイオンが形成されており、基板W、スピンベース15およびスプラッシュガード6が確実に除電される。
【0044】
また、上記実施形態では、除電開始タイミングのみならず、除電停止タイミングについても特段の配慮を払っている。すなわち、IPA液による置換処理を乾燥処理に切り替えた後、時間TBが経過することを条件に、X線発生部51の作動が停止されて除電処理が終了している。これは以下の理由からである。IPA液の供給を停止したとしても、処理空間内に形成されるIPA雰囲気中のIPA濃度が瞬間的に低下することはなく、IPA雰囲気が処理空間に残っている。また処理空間を排気部421による排気を行っているものの、処理空間内を非可燃性雰囲気に置換するためにはある程度の時間が必要である。そこで、上記実施形態では、このような事情から置換処理から乾燥処理に移行した後も、所定時間TBだけX線発生部51の作動を継続させて処理空間をIPA雰囲気から非可燃性雰囲気に完全に置換されるのを待てX線発生部51の作動を停止させている。また、乾燥処理を行っている間、X線発生部51の作動を継続させてもよい。
【0045】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、IPA液を用いて置換処理を行う基板処理装置に本発明を適用しているが、IPA液以外の可燃性有機溶剤を用いて置換処理を行う基板処理装置や本発明の「表面処理」として置換処理以外の処理を行う基板処理装置に対しても本発明を適用することができる。これらの基板処理装置において使用する可燃性有機溶剤としては、IPA以外に、エタノール(Ethanol)、メタノール(methanol)などのアルコール系有機溶剤などが含まれる。
【0046】
また、本発明の「表面処理」に相当する処理の種類や当該処理で使用する可燃性有機溶剤の種類や量などによって時間TA、TBを適正に設定する必要がある。例えば、処理内容、使用する可燃性有機溶剤の種類や量などのプロセス条件をプロセスレシピとして制御ユニット400のメモリ(図示省略)に予め記憶させておくことができる。そして、オペレータが基板Wのプロセスレシピを選択すると、その選択値に対応する時間TA、TBを含めたプロセス条件をメモリから読み出し、自動設定するように構成してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、処理チャンバー20の外部からX線照射を行って基板W、スピンベース15およびスプラッシュガード6の近傍に存在する気体分子をイオン化して除電効果を発揮させているが、X線照射ユニット50の構成はこれに限定されるものではない。例えばX線発生部51を筐体内に内蔵し、同筐体内の気体分子をイオン化して得られるイオン分子を筐体から基板W、スピンベース15等に照射するX線照射ユニットを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板全般の表面に対して可燃性有機溶剤を供給して表面処理を施す基板処理装置および基板処理方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の基板処理装置の主要な制御構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す基板処理装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】X線照射による除電効果を検討するための実験内容を示す模式図である。
【図5】図4に示す実験で計測された帯電量を示す図である。
【図6】図4に示す実験で計測された帯電量と軟X線照射量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
6…スプラッシュガード(空間規定部)
15…スピンベース(基板保持手段)
17…チャックピン(基板保持手段)
50…X線照射ユニット(除電手段)
51…X線発生部
61,62,63…ガード(空間規定部)
400…制御ユニット(制御手段)
413…IPA供給部(有機溶剤供給手段)
421…排気部(排気手段)
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された基板に可燃性有機溶剤を供給して可燃性雰囲気で所定の表面処理を実行する有機溶剤供給手段と、
X線発生部を有し、前記X線発生部からのX線照射により発生させたイオンを用いて前記基板保持手段および前記基板を除電する除電手段と、
前記可燃性有機溶剤の供給タイミングに対応して前記X線発生部の作動および停止を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記表面処理を行う前に非可燃性雰囲気で前記基板保持手段に保持された前記基板に対して前記表面処理と異なる前処理を行う請求項1記載の基板処理装置であって、
前記制御手段は前記前処理の途中で前記X線発生部の作動を開始して前記基板保持手段および前記基板を除電するとともに、前記前処理に続く前記表面処理中においても前記X線発生部の作動を継続させる基板処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の基板処理装置であって、
前記基板保持手段を取り囲むように設けられて前記表面処理を行う処理空間を規定する空間規定部と、
前記処理空間を排気する排気手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記表面処理が完了し、かつ前記排気手段を作動させて前記処理空間内に形成される前記可燃性雰囲気を非可燃性雰囲気に置換した後に、前記X線発生部を停止させる基板処理装置。
【請求項4】
前記表面処理の後に、前記可燃性有機溶剤で濡れた基板を乾燥させるための乾燥処理を実行する請求項3記載の基板処理装置であって、
前記制御手段は、前記排気手段を作動させた状態で前記乾燥処理を実行した後に、前記X線発生部を停止させる基板処理装置。
【請求項5】
基板保持手段に保持された基板に可燃性有機溶剤を供給して可燃性雰囲気で所定の表面処理を実行する基板処理方法において、
X線発生部からのX線照射により発生させたイオンを用いて前記基板保持手段および前記基板を除電する除電処理を備え、
前記X線発生部の作動および停止が前記可燃性有機溶剤の供給タイミングに対応して設定されていることを特徴とする基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−117597(P2009−117597A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288615(P2007−288615)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】