説明

多層被覆油粒子、その水分散液、及びそれらの製造方法

【課題】油粒子を安定的に内包し、使用時には、容易に内包油分を解放できる多層被覆油粒子、その水分散液、それらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多層被覆油粒子は、油粒子(A)と、該油粒子(A)の外側に平均粒径1μm以下の水難溶性無機微粒子が付着されてなる微粒子被覆層(B)と、該微粒子被覆層(B)の外側に高分子化合物が付着されてなる高分子被覆層(C)とを有してなる。高分子被覆層(C)は、好ましくは、前記微粒子被覆層(B)の外側に形成されている第1の高分子被覆層(C1)と、該第1の高分子被覆層(C1)の外側に形成されている第2の高分子被覆層(C2)とから構成され、前記第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物が前記微粒子被覆層(B)を構成する微粒子の荷電と反対の荷電を有し、前記第2の高分子層(C2)を構成する第2の高分子化合物が前記第1の高分子化合物の荷電と反対の荷電を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層被覆油粒子、その水分散液、及びそれらの製造方法に関し、詳しくは、油粒子の外側に無機微粒子が付着されて微粒子被覆層が形成され、さらに該微粒子被覆層の外側に高分子被覆層が形成されることにより油分を安定に内包した多層被覆油粒子、この多層被覆油粒子が水分中に分散されてなる水分散液、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、薬効成分、化粧成分、殺菌成分、殺虫成分、香料成分等には油分が含まれているものが多数存在する。
【0003】
しかしながら、上記成分中に含まれる油分は、光、酸素、熱、圧力等から影響を受けやすく、経時安定性が良くないものが多い。また、油分の中には、苦味や独特な異臭を有するものが多数存在する。
【0004】
上記油分の経時安定性の不良や苦味や独特な異臭を有することにより、目的とする用途における効果が保存中に低減したり、商品価値が落ちたりするという問題があった。
【0005】
そこで、上記問題点を解決するために油分を被覆することが行なわれている。かかる油分を被覆する技術として、具体的には、油粒子を水難溶性無機カルシウム塩の粒子で被覆して被覆油粒子とする方法が開示されている。
【0006】
かかる従来技術として、例えば、固着剤を用いてカルシウム粒子を油状生理活性物質に固着させることによって生理活性物質を封入した大粒径のカルシウム被覆油粒子が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、油分とカルシウム粒子とを水に添加し、高速撹拌することによりO/W(Oil in Water:水中油)型エマルジョンを形成し、油粒子と水滴の摩擦によって生じる静電気により油粒子の表面にカルシウム粒子を形成固化させる工程を含む製造法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、油状生理活性物質粒子に多孔質物質を吸着させ、更にその隙間を上記多孔質物質よりも微粒な物質で塞いだ生理活性物質封入粒子も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
さらに、薬物を封入した無機微粒子も提案されている(例えば、特許文献4参照)。この無機微粒子は、薬物の存在する水溶液中でカルシウムイオンと無機イオンとの水難溶性塩形成反応を行ない、カルシウム含有水難溶性無機粒子を形成することにより、薬物を被覆したものである。
【0010】
ところが、上記特許文献1および2で公開されている微粒子は、高速ホモジナイザーによる撹拌下で調製するため、被覆するカルシウム粒子は微細化されず、生理活性物質表面に吸着させても隙間が大きくなり、その結果、生理活性物質が漏れてしまうという問題があった。また、カルシウム粒子の生理活性物質表面への結合が弱く、固着剤や固着成分を用いてカルシウム粒子をバインドさせる必要があった。上記特許文献1の方法では、固着成分として、具体的には、被覆に用いるミルクカルシウム原料中に含まれている乳蛋白を必要とする。
【0011】
被覆油粒子の粒径は、微小部分への浸透性、および滞留性向上の観点から、具体的には5μm以下が望まれている。しかしながら、上記特許文献1および2で公開されている方法では、上述したように固着剤または固着成分を用いるため、被覆油粒子の層が厚くなり、必然的に粒径が大きくなり、5μm以下の被覆油粒子を製造することは困難であった。
【0012】
また、特許文献3に示される微粒子の製造においては、生理活性物質の漏れを防ぐために、粒径の異なる複数の粒子で多重に被覆して隙間を埋めている。すなわち、粒径の異なる複数の粒子で多重被覆するため、膜厚が厚くなり、その結果、粒径が大きくなって5μm以下の被覆油粒子を製造することは困難であった。
【0013】
また、上記特許文献4に示される薬物封入微粒子は、封入される薬剤の量がカルシウム含有水難溶性無機粒子に対して0.0001〜10重量%に制限され、カルシウム含有水難溶性無機粒子に対して薬効成分を大量には封入できないという問題があった。また、この薬物封入微粒子は、無機粒子が反応により生成して凝集する際に偶発的に薬剤をとり囲むというものである。すなわち、薬物が無機粒子によって封入されるか否かについては確率的な問題であって、粒子によっては薬物を内包しないものも存在することになり、封入粒子の均一性に欠けるという問題があった。従って、薬物が封入される確率を上げるためには、封入される薬物(生物学的活性物質)がカルシウム結合性のある物質であるか、カルシウム結合性の高い結合物を薬物に共有結合させなければならなかった。さらに、この微粒子同士が凝集して粗大粒子になってしまうという問題もあった。
【0014】
上記特許文献1〜4に開示の技術における問題点に対し、本出願人は、本願に先立って、固着剤等を用いることなく、油粒子を水難溶性無機カルシウム塩の微粒子により被覆した平均粒径5μm以下の微細な被覆油粒子を得る技術を提供した(特許文献5)。
【0015】
この特許文献5に開示の被覆油粒子は、油粒子の外側に形成されている微粒子被覆層が平均粒径1μm以下の水難溶性無機カルシウム塩の微粒子から構成されているため、層厚が薄く、かつ被覆密度が高く、良好な被覆性を有している。
【0016】
【特許文献1】特開平7−328416号公報
【特許文献2】特開平10−5577号公報
【特許文献3】特開2003−63952号公報
【特許文献4】特開2002−348234号公報
【特許文献5】特開2006−43689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述のように、特許文献5に開示の被覆油粒子は、油粒子の外側に形成されている微粒子被覆層が平均粒径1μm以下の水難溶性無機カルシウム塩の微粒子から構成されているため、層厚が薄く、かつ被覆密度が高く、良好な被覆性を有している。
本発明者らは、この特許文献5に開示の優れた特性を有する被覆油粒子をさらに改良するために、種々検討を重ねたところ、無機微粒子を平均粒径1μm以下に調整することにより改善した被覆性をさらに向上させる必要があることを知見するに到った。
【0018】
特許文献5に開示の被覆油粒子では、油粒子を保護する被覆層を形成する無機微粒子は平均粒径1μm以下とされているので、良好な被覆性能を有しているが、それでも、各粒子間には、極狭いながらも間隙が存在する。そのため、被覆油粒子の製造後、長期に亘って保存した場合には、微粒子被覆層内部の油成分が被覆層の外部に浸出したり、逆に外気との接触により内部の油成分の酸化が進行するという被覆特性の長期信頼性が問題となる。
【0019】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その課題は、内部に収納する油分の保護および密封性をさらに向上させた多層被覆油粒子、該多層被覆油粒子を水分中に分散させてなる水分散液、および、それらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明にかかる多層被覆油粒子は、油粒子(A)と、該油粒子(A)の外側に平均粒径1μm以下の水難溶性無機微粒子が付着されてなる微粒子被覆層(B)と、該微粒子被覆層(B)の外側に高分子化合物が付着されてなる高分子被覆層(C)とを有することを特徴とする。
【0021】
上記構成の多層被覆油粒子において、前記高分子被覆層(C)は、一層構造であっても、多層構造であっても良いが、2層構造であることが好ましい。また、一層構造である場合でも、2層以上の構造であっても、前記微粒子被覆層(B)に接する第1の層が前記微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有することが好ましい。
【0022】
前記高分子被覆層(C)が、2層構造である場合、前記微粒子被覆層(B)の外側に形成されている第1の高分子被覆層(C1)と、該第1の高分子被覆層(C1)の外側に形成されている第2の高分子被覆層(C2)とから構成され、前記第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物が前記微粒子被覆層(B)を構成する微粒子の荷電と反対の荷電を有し、前記第2の高分子層(C2)を構成する第2の高分子化合物が前記第1の高分子化合物の荷電と反対の荷電を有することが好ましい。
【0023】
前記高分子被覆層(C)が、3層以上の高分子被覆層から構成される場合では、前記微粒子被覆層(B)に接する第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物が前記微粒子被覆層(B)を構成する微粒子の荷電と反対の荷電を有し、この第1の高分子被覆層(C1)の外側に順次に被覆される残りの高分子被覆層を構成する高分子化合物の荷電が順次に反対の荷電を有することが好ましい。
【0024】
前記高分子被覆層(C)が2層以上の多層構造である場合、多層の各高分子被覆層を形成している、積層順に相互に反対の荷電を有する各高分子化合物が隣接間でイオンコンプレックスを形成していることが好ましい。
【0025】
本発明の多層被覆油粒子の水分散液は、前記いずれかの多層被覆油粒子が水分中に分散されてなることを特徴とする。
【0026】
また、本発明にかかる多層被覆油粒子の製造方法は、水難溶性無機化合物を平均粒径1μm以下に微粒化して得られた水難溶性無機微粒子を油粒子(A)の外側に付着させて微粒子被覆層(B)を形成する微粒子被覆層形成工程と、前記微粒子被覆層(B)の外側に該微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物を被覆して高分子被覆層(C1)を形成する高分子被覆層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
前記多層被覆油粒子の製造方法において、前記高分子被覆層(C1)の外側に該高分子被覆層(C1)の荷電と反対の荷電を有する第2の高分子化合物を被覆して第2の高分子被覆層(C2)を形成する第2の高分子被覆層形成工程を、さらに有することが好ましい。
【0028】
前記多層被覆油粒子の製造方法は、前記油粒子を水分中に分散させてなる乳化物中において実施することが好ましい。
【0029】
また、本発明にかかる多層被覆油粒子の水分散液の製造方法は、油分を水分中に分散して油粒子(A)の水分散液を得る乳化工程と、水難溶性無機化合物の微粒子凝集体を水に分散させた後、前記微粒子凝集体を平均粒径1μm以下の微粒子に粉砕して無機微粒子水分散液を得る無機微粒子水分散液調製工程と、前記油粒子(A)の水分散液と前記無機微粒子水分散液とを混合することにより、前記油粒子(A)を前記水難溶性無機微粒子で被覆して前記油粒子(A)の表面に微粒子被覆層(B)を形成する微粒子被覆層形成工程と、前記微粒子被覆層(B)を有する油粒子(A)が水分中に分散されてなる水分散液中に、前記微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物を添加、撹拌して前記微粒子被覆層(B)の外側に高分子被覆層(C1)を形成する高分子被覆層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0030】
前記多層被覆油粒子の水分散液の製造方法において、前記高分子被覆層(C1)と微粒子被覆層(B)とを有する油粒子(A)が水分中に分散されてなる水分散液中に、前記高分子被覆層(C1)の荷電と反対の荷電を有する第2の高分子化合物を添加、撹拌して前記高分子被覆層(C1)の外側に第2の高分子被覆層(C2)を形成する第2の高分子被覆層形成工程を、さらに含むことが好ましい。
【0031】
前記各製造方法において、高分子被覆層(C)を3層あるいはそれ以上の多層とする場合は、第1の高分子被覆層(C1)、あるいは第1の高分子被覆層(C1)および第2の高分子被覆層(C2)の積層工程を繰り返すことにより多層構造を実現する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の被覆油粒子は、油粒子を水難溶性無機微粒子で被覆し、さらにその外側を高分子化合物により被覆した多層被覆構造を有する一種の油分封入カプセルであり、ナノから数十ミクロンの大きさの被覆油粒子が得られる。また、本発明の被覆油粒子は以下に示される効果を発揮する。
【0033】
本発明の多層被覆油粒子は、多層被覆構造により油分を安定に内包し、油分の経時安定性がよい。すなわち、本発明の多層被覆油粒子では、油分が、水難性無機微粒子層によって安定に、かつ高分子化合物によって隙間なく、内包されている。その結果、保存中に、油分が外部に漏れ出ることがなく、また、内部の油分への外部の光、酸素、熱、圧力等からの悪影響が防止される。
【0034】
本発明の多層被覆油粒子は、被膜厚が薄くできるので、油分(薬効成分等)を大量に内包することができる。
【0035】
本発明の多層被覆油粒子は、多層被覆油粒子自体の安定性もよい。本発明の多層被覆油粒子は、水難溶性無機微粒子で被覆しているため壊れにくく、被覆厚が薄くても安定であり、さらに被覆第2層として高分子化合物による被覆層を設けているので、部分の密封性にも優れている。また、本発明の多層被覆油粒子を水分散液、油分散液、乳化物の油性成分として用いても安定である。
【0036】
本発明の多層被覆油粒子は、油分を水難性無機微粒子により安定的に被覆した後、高分子化合物により密に被覆しているので、油分の味、匂い等を確実にマスクすることができる。
【0037】
本発明の多層被覆油粒子において、高分子被覆層を第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層の2層構成として、各層を構成する第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを逆荷電を有するように構成することにより、高分子被覆層をポリイオンコンプレックスとすることができる。本発明の多層被覆油粒子は、このポリイオンコンプレックスによる被覆構造により油分の被覆安定性をより高めることができる。さらに、ポリイオンコンプレックスは、pH応答性を有しており、生体内に投与された後は、生体内のpHにより解体して生体水分中に溶解する。したがって、本発明の多層被覆油粒子は、生体に投与するまでは油分を安定に保持でき、生体に投与した後は、外層のイオンコンプレックス構造の高分子被覆層が速やかに解体し、水難性無機微粒子被覆層を露出した状態にして、微粒子被覆層の微細孔から内包する油分を徐放させることができる。また、生体以外の環境下に用いる場合であっても、同様に使用環境のpHを適宜に設定することにより同様の徐放性を発揮させることができる。
【0038】
本発明の被覆油粒子は、被覆内層として生体に安全な水難溶性無機微粒子を用いており、被覆外層として生体に安全な高分子化合物を用いているため、生体に用いた場合でも、安全性が高い。
【0039】
本発明の乳化物の製造方法は、被覆厚の制御が可能である。具体的には、油分の量と、水難溶性無機微粒子の量および高分子化合物を適宜調整することにより、最終的に得られる水難溶性無機微粒子と高分子化合物とで多層に被覆した被覆油粒子の被覆厚を制御することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明にかかる多層被覆油粒子の概略構成図である。図1に示すように、本発明の多層被覆油粒子(I)は、油粒子(A)と、該油粒子(A)の外側に平均粒径1μm以下の水難溶性無機微粒子2が多数付着されてなる微粒子被覆層(B)と、該微粒子被覆層(B)の外側に高分子化合物3が付着されてなる高分子被覆層(C)とを有してなる。
【0041】
前記油粒子(A)は、好ましくは、水中油型乳化油粒子とされた油分1aであり、乳化に際して、無機微粒子吸引性を有する界面活性剤(無機微粒子吸引性官能基を有する化合物)1bにより安定な微粒子状の油として水分(X)中に分散されて得られる。
【0042】
前記水難溶性無機微粒子2は、粒径1μm以下であり、表面エネルギーが大きいため、油粒子(A)の表面に吸引されて付着し、油粒子(A)を被覆する。この時、油粒子(A)に無機微粒子吸引性を有する界面活性剤1bが含まれていることにより、さらに前記吸引、付着力が高まる。従って、本発明における微粒子被覆層(B)は、固着剤を用いることなく形成することができる。
【0043】
なお、前記無機微粒子吸引性を有する界面活性剤1bとは、静電的相互作用またはキレート効果によって無機微粒子を吸引する界面活性剤であり、吸引力が静電的相互作用に起因する場合、該界面活性剤のイオン性の選択、すなわちカチオン性界面活性剤を使用するか、またはアニオン性界面活性剤を使用するかの選択は、使用する水難溶性無機微粒子2が有する荷電により決定される。
【0044】
前記高分子被覆層(C)は、一層構造でも良いし、2層構造でも良いが、好ましくは2層構造である。一層構造である場合、高分子被覆層(C)を構成する高分子化合物3は、前記無機微粒子2の荷電と反対の荷電を有するものが使用される。このように微粒子被覆層(B)を構成する無機微粒子2の荷電と、高分子被覆層(C)を構成する高分子化合物3との荷電を反対に設定することにより、微粒子被覆層(B)の外側の高分子被覆層(C)の付着力を高めることができる。
【0045】
前記高分子被覆層(C)が2層構造である場合は、図2に示すように、前記高分子化合物3から構成される高分子被覆層を第1の高分子被覆層(C1)とし、この第1の高分子被覆層(C1)の外側に第2の高分子化合物4からなる第2の高分子被覆層(C2)を形成する。前記第2の高分子化合物4は前記第1の高分子化合物3の荷電と反対の荷電を有するものが使用される。このように第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物3の荷電と、第2の高分子被覆層(C2)を構成する第2の高分子化合物4との荷電を逆に設定することにより、第1の高分子被覆層(C1)の外側の第2の高分子被覆層(C2)の付着力を高めることができる。このように高分子被覆層(C)を互いに逆荷電を有する第1の高分子被覆層(C1)と第2の高分子被覆層(C2)の2層から構成することにより、高分子被覆層(C)がより安定化し、かつ内部の油粒子(A)の密封性が向上する。
【0046】
さらに、前述のように、第1の高分子化合物3と第2の高分子化合物4とを反対の荷電に設定することにより、第1の高分子化合物3と第2の高分子化合物4とがポリイオンコンプレックスを構成することになる。ポリイオンコンプレックスは、所定のpH値の範囲内では、極めて安定であり、この所定の範囲外のpH値の環境内に置くことにより、速やかに解体し、内部に包含していた物質を放散するという優れたpH応答性を有する。したがって、前記微粒子被覆層(B)の外側に形成する高分子被覆層を2層構造とし、第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物3の荷電と、第2の高分子被覆層(C2)を構成する第2の高分子化合物4との荷電を反対に設定することにより、本発明の多層被覆油粒子は、生体に投与するまでは油粒子(A)を安定に保持でき、生体に投与した後は、外層のイオンコンプレックス構造の高分子被覆層((C)=(C1)+(C2)が速やかに解体し、水難性微粒子被覆層(B)を露出した状態にして、微粒子被覆層(B)を構成する微粒子1間の微細孔から内包する油分を徐放させることができる。また、生体以外の環境下に用いる場合であっても、同様に使用環境のpHを適宜に設定することにより同様の徐放性を発揮させることができる。
【0047】
本発明において、高分子被覆層(C)を3層あるいはそれ以上の多層とする場合は、第1の高分子被覆層(C1)、あるいは第1の高分子被覆層(C1)および第2の高分子被覆層(C2)の積層工程を繰り返すことにより多層構造を実現する。この多層構造においても、各高分子被覆層を構成する各高分子化合物は、積層順に相互に反対の荷電となるように選択される。したがって、高分子被覆層(C)が3層以上であっても、静電相互作用により高分子被覆層(C)全体が安定となり、かつ無機微粒子被覆層(B)への付着力も強まることになる。
【0048】
前述のような多層被覆構造により油粒子(A)が確実に内包されていることを確認する方法としては、本発明の多層被覆油粒子をガラス板で挟みこみ圧力をかけるという簡易な方法が可能である。この方法によると、粒子がつぶれて油分が浮き出してくるので、前記構造を確認することができる。
【0049】
さらに正確には、本発明の多層被覆油粒子をスライスし、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察することによっても確認することができる。
【0050】
その他、水難溶性無機微粒子として、酸やアルカリで溶解する水難溶性無機カルシウム塩を用いた場合には、外層の高分子被覆層を周囲のpH値を変えることにより溶解除去した後、微粒子被覆層を構成する水難溶性無機カルシウム塩を酸やアルカリで溶解させれば、油分が浮き出てくるので、それを観察することによっても確認することができる。
【0051】
(多層被覆油粒子の水分散液)
本発明の多層被覆油粒子の水分散液は、前記図1に示す高分子被覆層が1層構造の多層被覆油粒子(I)または図2に示す高分子被覆層が2層構造の多層被覆油粒子(I)あるいは高分子被覆層が3層以上の多層被覆油粒子(不図示)が水分(X)中に分散されてなるものである。
【0052】
以下、本発明の多層被覆油粒子を構成する各組成分についてさらに詳細に説明する。
【0053】
(油粒子(A))
本発明の油粒子(A)を構成する油分は、食品、飼料、化粧品、医薬品、工業等の分野で利用される公知の油溶性物質で、後述の水難溶性無機微粒子と反応しない油分であれば特に限定されない。該油分としては、通常液体状態のものを用いるが、常温で液体状態のものでも良く、また、加温により溶解するものでも良い。該油分としては炭化水素類、エステル類、動植物性油脂類、ワックス類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類、ステロール類、樹脂類等、これらを酵素的処理(加水分解、エステル交換等)や化学的処理(エステル交換、水素添加等)したもの、染料、香料、各分野の各種有効成分等を使用できる。
【0054】
前記油分の具体例としては、例えば、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、流動パラフィン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、スチレン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等の炭化水素類、パルミチル酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等のエステル類、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール類、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等の高級脂肪酸類、サラダ油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、大豆油、アマニ油、コーン油、パーム油、鯨ロウ、コレステロール、シリコーン油、ミネラルオイル、ラード、ミツロウ、綿実油、スクワラン、ラノリン、ワセリン、油脂、ロウ等の天然及び合成の油、メントール、シトラール、オレンジ油、レモングラス油、ローレル葉油、カシア油、シナモン油、コショウ油、カラムス油、セージ油、ハッカ油、ペパーミント油、ローズマリー油、ラベンダー油、カルダモン油、ショウガ油、アニス油、ウイキョウ油、パセリ油、セロリ油、クミン油、コリアンダー油、キラウェー油、ローズ油、シプレス油、ビャクダン油、グレープフルーツ油、レモン油、ライム油、ベルガモット油、オニオン油、ガーリック油、ゼラニウム油、ジャスミン油、キンモクセイ油等の香料油、スクワラン、セラミド、コラーゲン、パンテノール、パントテン酸等の化粧品用油成分、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、ブフェキサマク、トルフェナム酸、メフェナム酸、フルフェナム酸、サリチル酸、アスピリン、サザピリン、アルクロフェナク、スプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、アセメタシン、ピサボロール、チモール、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ヒノキチオール、カテキン等の薬効油成分、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類、β−カロチン、パプリカ色素、アナトー色素、サフロールイエロー、リボフラビン、ラック色素、クルクミン、クロロフィル、ウコン色素等の色素類、アスコルビン酸エステル、dl−α−トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エンジュ抽出物、γ−オリザノール、クローブ抽出物、ゲンチジン油、ゴシペチン、米糠油不ケン化物、セザモリン、セザモノール、天然ビタミンE、ピメンタ抽出物、抗酸化剤として用いられる没食子酸誘導体等が挙げられる。
これらの油分は1種単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
(油粒子(A)の他の成分)
また、上記油分に該当しない油分であっても、上記油分に溶解して本発明の油粒子とすることができる。さらに、上記油分に溶解しない成分であっても、水難溶性無機微粒子と反応しない物質であれば、上記油分中に分散させて用いることもできる。このようにして用いることができるものとしては、例えば、アミノ酸、タンパク質、酵素、核酸、糖類などが挙げられる。
【0056】
前述のように、被覆したい物質が油分そのものではなく、その他の成分であって、油分に可溶でも不溶でも、前述の通り、水難溶性無機微粒子と反応しない物質であれば、上記油分中に溶解もしくは分散させることによって包含させ、水難溶性無機微粒子および反対荷電を有する高分子化合物によって被覆することができる。このような構成も本発明の多層被覆油粒子であり、内部の油粒子中に多種多様な有効成分を封入することが可能となる。
【0057】
油粒子(A)を構成する他の成分として、油分の酸化を抑制する目的から、上記油分に固化剤を混合してもよい。該固化剤としては、HLB値が1以下の乳化剤が好ましく、具体的にはショ糖脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類が挙げられる。
なお、本発明において示されるHLB値とは、Griffinの方法により求められた値である(例えば、吉田、進藤、大垣、山中共編、「新版界面活性剤ハンドブック」、工業図書株式会社、1991年、第234頁参照)。
【0058】
前記固化剤として用いる乳化剤のより具体的な例としては、ショ糖ステアリン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルS−070」、「リョートーシュガーエステルS−170」)、ショ糖オレイン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルO−070」)、ショ糖ラウリン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルL−195」)、ショ糖パルミチン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、「リョートーシュガーエステルP−170」)、ショ糖エルカ酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルER−190」)、ショ糖混合脂肪酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルPOS−135」)、グリセリン混合脂肪酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーポリグリエステルLOOP−120DP」)等が挙げられる。これらの乳化剤の中でも、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステルが好ましく、より好ましくはHLB値が1以下のショ糖ステアリン酸エステルである。
【0059】
前記固化剤の配合量としては、油分の酸化を抑制する観点から、重量比として、好ましくは油分/固化剤=100/25〜100/100、より好ましくは油分/固化剤=100/30〜100/80である。固化剤の配合量が油分/固化剤=100/25よりも少ないと十分な効果が得られず、また油分/固化剤=100/100よりも多い場合には多層被覆油粒子中に内包される油分の内包率が低下し、多層被覆油粒子の有効性が低下する恐れがある。
【0060】
(無機微粒子吸引性を有する界面活性剤)
本発明の無機微粒子吸引性を有する界面活性剤としては、油分と反応せず、且つ、油分を水中油型乳化することが可能であれば、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。これらの無機微粒子吸引性を有する界面活性剤を用いて油分を水中油型乳化することで、乳化物中の油粒子表面に水難溶性無機微粒子を吸引し、集積させることが可能となる。なお、この際に、水難溶性無機微粒子を吸引する力をより大きくするためには、水難溶性無機微粒子が有する荷電と反対の荷電(イオン性)を有する界面活性剤を用いて静電的相互作用で無機微粒子を集積するか、無機微粒子が無機カルシウム塩である場合には、カルシウム粒子分散能の高いノニオン性界面活性剤を用いてキレート効果で無機カルシウム塩を集積すればよい。
【0061】
前記アニオン性界面活性剤としては、油分と反応せず、且つ、油分を水中油型乳化することが可能であれば特に限定されない。かかるアニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば炭素数10〜20の高級脂肪酸塩(セッケン)、炭素数10〜20のアルカンスルホン酸塩、炭素数10〜20のアルキル(又はアルケニル)硫酸塩、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドのいずれか、又はエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)(モル比EO/PO=0.1/9.9〜9.9/0.1)を、平均0.5〜10モル付加した炭素数10〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル(又はアルケニル)基を有するアルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸塩、炭素数10〜20のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数8〜18のアルキル基を有する直鎖又は分岐鎖のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドのいずれか、又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(モル比EO/PO=0.1/9.9〜9.9/0.1)を、平均3〜30モル付加した炭素数10〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル(又はアルケニル)基を有するアルキル(又はアルケニル)フェニルエーテル硫酸塩、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドのいずれか、又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(モル比PO/EO=0.1/9.9〜9.9/0.1)を、平均0.5〜10モル付加した炭素数10〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル(又はアルケニル)基を有するアルキル(又はアルケニル)エーテルカルボン酸塩、炭素数10〜20のアルキルグリセリンエーテルスルホン酸等のアルキル多価アルコールエーテル硫酸塩、炭素数8〜20の飽和又は不飽和α−スルホ脂肪酸塩又はそのメチル、エチルもしくはプロピルエステル、長鎖モノアルキル、ジアルキル又はセスキアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンモノアルキル、ジアルキル又はセスキアルキルリン酸塩等が挙げられる。
【0062】
上記アニオン性界面活性剤は、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩や、アミン塩、アンモニウム塩等として用いることができる。また、これらのアニオン性界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
上記アニオン性界面活性剤の中でも、無機微粒子吸引性の観点から、好ましくはカルボキシル基や硫酸基、スルホン酸基を有する化合物であり、より好ましくは脂肪族モノカルボン酸塩、炭素数10〜20のアルキル(又はアルケニル)硫酸塩であり、特に好ましくはオレイン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0064】
前記カチオン性界面活性剤としては、油分と反応せず、且つ、油分を水中油型乳化することが可能であれば、特に限定されない。カチオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ジ長鎖アルキルジ短鎖アルキル型4級アンモニウム塩、モノ長鎖アルキルトリ短鎖アルキル型4級アンモニウム塩、トリ長鎖アルキルモノ短鎖アルキル型4級アンモニウム塩、ヤシ油脂肪酸L−アルギニン−DL−ピロリドンカルボン酸、4−グアニジノブチルラウリルアミド酢酸等のアミノ酸系カチオン性界面活性剤、ジステアリルメチルアミン塩酸塩等の第3級アミン塩、1−オクタデカノイルアミノエチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン塩酸塩等のイミダゾリン塩、メチル−1−牛脂アミドエチル−2−牛脂アルキルイミダゾリニウムメチルサルフェート等のイミダゾリニウム塩等が挙げられる。
これらカチオン性界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
上記カチオン性界面活性剤の中でも、第4級アンモニウム塩が好ましい。かかる第4級アンモニウム塩の長鎖アルキルは、炭素数12〜26が好ましく、より好ましくは14〜18のアルキル基である。また、短鎖アルキルは、炭素数1〜4、より好ましくは1〜2のアルキル基又はベンジル基、炭素数2〜4(より好ましくは2〜3)のヒドロキシアルキル基又はポリオキシアルキレン基である。
【0066】
前記カルシウム粒子分散能の高いノニオン性界面活性剤とは、このノニオン性界面活性剤を用いて水難溶性無機カルシウム塩粒子を水に分散させると、長時間にわたって水難溶性無機カルシウム塩粒子の比重差による沈降を抑制させることができる性能を持つもののことである。
【0067】
前記カルシウム粒子分散能は、次に示す方法で簡易的に測定することができる。すなわち、水にノニオン性界面活性剤を溶解し、この溶液に例えば炭酸カルシウム粒子の粉体を超音波分散機等を用いて分散した後、その分散液を静置することにより、炭酸カルシウム粒子の沈降性を観察する。カルシウム粒子分散能の高いものにおいては、炭酸カルシウム粒子が沈降しにくいため、分散液は白濁状態を長時間に亘って維持するが、カルシウム粒子分散能の低いものでは、炭酸カルシウム粒子が容易に沈降し、上層から透明になっていく。この状況を観察あるいは光透過率を測定することによって判断することができる。
【0068】
カルシウム粒子分散能の高いノニオン性界面活性剤としては、例えばショ糖脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤の構造によっては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油も適している。
【0069】
前記ノニオン性界面活性剤のより具体的な例としては、ショ糖ステアリン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製の商品名「リョートーシュガーエステルS−1570、S−1670」)、ショ糖パルミチン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製の商品名「リョートーシュガーエステルP−1570、P−1670」)、ショ糖ミリスチン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製の商品名「リョートーシュガーエステルM−1695」)、ショ糖オレイン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製の商品名「リョートーシュガーエステルO−1570」)、ショ糖ラウリン酸エステル(例えば、三菱化学フーズ(株)製の商品名「リョートーシュガーエステルL−1695」)、モノミリスチン酸デカグリセリル(例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「Decaglyn 1−M」)、モノステアリン酸デカグリセリル(例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「Decaglyn 1−S」)、モノイソステアリン酸デカグリセリル(例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「Decaglyn 1−IS」)、ポリオキシエチレン(15)ラウリルエーテル(例えば、日本エマルジョン社製の商品名「EMALEX715」)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「HCO−60」)が挙げられる。
【0070】
前記無機微粒子吸引性を有する界面活性剤の配合量は、重量比として油分/無機微粒子吸引性を有する界面活性剤=100/0.1〜100/50が好ましく、より好ましくは油分/無機微粒子吸引性を有する界面活性剤=100/1〜100/40、特に好ましくは油分/無機微粒子吸引性を有する界面活性剤=100/5〜100/30である。無機微粒子吸引性を有する界面活性剤の配合量が油分/無機微粒子吸引性を有する界面活性剤=100/50よりも多い場合には、該無機微粒子吸引性を有する界面活性剤が一部ミセルを形成し、このミセルを水難溶性無機微粒子が被覆する可能性が高くなり、油分を内包する多層被覆油粒子の存在率が低下する恐れがある。配合量の下限値は、油粒子(A)自体の物性によって若干の差が生じる。
【0071】
(水中油型乳化油粒子(A)の乳化工程)
前記無機微粒子吸引性を有する界面活性剤を用いて油分を乳化して水分中に油粒子を得る乳化工程においては、上記油分を上記無機微粒子吸引性を有する界面活性剤によって水に乳化させて水中油型乳化物を形成する。乳化に用いる装置としては、ホモジナイザー、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサー、ホモミックラインミル、マイルダー、クレアミックス等の高速剪断型の乳化機、マイクロフルイダイザー、ゴーリン、アルディマイザー、ナノマイザー等の高圧乳化機、超音波分散機、超音波ホモジナイザー等の超音波乳化機等が挙げられる。
【0072】
(油粒子(A)の平均粒子径)
水中油型の乳化工程で得られる油粒子の平均粒子径は、10nm〜20nm程度であり、好ましくは10nm〜5μm、より好ましくは50nm〜1μmの範囲である。後に述べる微粒子被覆工程において、予め乳化工程にて調製した油粒子は更に微粒化される場合がある。
【0073】
(乳化工程における油分の配合量)
上記水中油型乳化物における油分は、水分に対して、重量比として好ましくは1/1000〜7/10、より好ましくは1/200〜1/2、特に好ましくは1/100〜3/10とすることが望ましい。1/1000よりも小さい場合には、後述の水難溶性無機微粒子の分散液と混合した際、被覆油粒子を形成する速度が遅くなり、水難溶性無機微粒子が単独で凝集し、油分を被覆した被覆油粒子の存在率が下がってしまう恐れがある。また、7/10よりも大きい場合には、製造過程において粘度が著しく上昇し、後述する水難溶性無機微粒子の分散液と混合した際に無機微粒子による均一被覆が困難になったり、凝集固化が起こったりする恐れがある。
【0074】
(水難溶性無機微粒子)
本発明の多層被覆油粒子に用いる水難溶性無機微粒子は、油分と反応しない水難溶性無機微粒子であれば特に限定されない。かかる水難溶性無機微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、珪酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化アパタイト等の無機カルシウム塩、二酸化珪素、二酸化チタン等の酸化物セラミック粒子、磁気粒子、磁気光学的粒子、窒化物セラミック粒子、金属粒子などが上げられる。好ましくは無機カルシウム塩や酸化物セラミック粒子であり、より好ましくは炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、二酸化珪素である。
【0075】
(水難溶性無機微粒子の荷電状態)
本発明の多層被覆油粒子の特徴は、油粒子を1μm以下の平均粒径の水難溶性無機微粒子からなる無機微粒子被覆層により内包し、その外側にさらに高分子被覆層を形成して、多層に被覆を施した構造にあり、この多層被覆構造において、各被覆層間が静電力により強固に結び付いている点にある。この静電力は、各被覆層を構成する材料の荷電を隣接間で反対とすることにより実現されている。この隣接間で荷電を反対とする荷電順の設定は、使用する水難溶性無機微粒子の荷電を基準として決定される。例えば、上記具体例において、アニオン性の無機微粒子は、二酸化珪素、二酸化チタン等の酸化物セラミック粒子、カチオン性の無機微粒子は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、珪酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化アパタイト等の無機カルシウム塩である。
【0076】
(水難溶性無機微粒子の平均粒子径)
本発明に用いられる水難溶性無機微粒子の平均粒子径は、1μm以下である。好ましくは1nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nm、特に好ましくは10nm〜100nmの範囲である。平均粒子径が小さくなれば、粒子の表面エネルギーが高くなり、粒子同士の凝集力が高くなる為、前記油粒子表面を被覆し易くなると考えられる。特に、平均粒子径が100nm未満になると、飛躍的に凝集力が高くなる。
【0077】
(水難溶性無機微粒子の平均粒子径の測定方法)
本発明における水難性無機微粒子の平均粒子径は、水難溶性無機微粒子の粒度分布をマイクロトラック(日機装(株)製、商品名「動的光散乱式マイクロトラックUPA150」)を用いて測定し、得られた粒度分布より求めることができる。
【0078】
(水難溶性無機微粒子の微粒化工程)
水難溶性無機微粒子水分散液を得る微粒化工程においては、水難溶性無機微粒子は、水に分散させた後、平均粒子径1μm以下に微粒化される。その微粒化に用いる装置としては、平均粒子径1μm以下に微粒化できれば特に限定されないが、例えば、慣用の微粒化装置を用いて粉砕することにより調製することができる。このような微粒化装置を具体的に挙げると、ビーズミルやボールミル、各種メディアレスミル、超音波分散機等と用いることが出来る。
【0079】
本発明に用いることができる微粒化装置としては、例えば、「ウルトラアペックスミル」(商品名、寿工業(株)製)、「スターミル」(商品名、アシザワ・ファインテック(株)製)、「フィルミックス」(商品名、特殊機化工業(株)製)、「ディスコプレックス」(商品名、ホソカワアルピネ社製)、「ACM−Aパルペライザ」(商品名、ホソカワミクロン(株)製)、「ナノカット」(商品名、(株)マツボー製)、「CLEAR SS−5」、「クレアミックス」(商品名、エムテクニック(株)製)、「超音波分散機UH−600SR」(商品名、(株)エスエムテー製)、「超音波ホモジナイザー」(商品名、Dr.Hielscher社製)等が挙げられる。
【0080】
(水難溶性無機微粒子の配合量)
上記水難溶性無機微粒子水分散液中の水難溶性無機微粒子濃度は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、特に好ましくは1〜10重量%の範囲である。0.1重量%よりも比率が小さい場合には、水難溶性無機微粒子の濃度が小さい為、前記油粒子への被覆効率が低下する恐れがある。50重量%よりも大きい場合には、無機微粒子水分散液の粘度が上昇し、凝集固化する恐れがあり、更には製造効率の低下に繋がる可能性がある。
【0081】
なお、前記油粒子(A)を形成する乳化工程と、水難溶性無機微粒子を形成するための微粒化(無機微粒子調製)工程はどちらを先に行っても構わないし、別々の乳化装置及び微粒化装置により同時進行的に処理しても良い。
【0082】
(高分子被覆層(C))
本発明の多層被覆油粒子(I)は、油粒子(A)の表面を水難溶性無機微粒子からなる無機微粒子被覆層(B)により被覆し、さらにその外側を高分子化合物からなる高分子被覆層(C)により被覆してなる。この高分子被覆層(C)は、前述のように、一層構造でも良いし、2層構造でも良いし、3層以上の多層構造でも良いが、好ましくは2層構造である。一層構造である場合、高分子被覆層(C)を構成する高分子化合物は、前記無機微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有するものが使用される。このように微粒子被覆層(B)の荷電と、高分子被覆層(C)を構成する高分子化合物との荷電を逆に設定することにより、微粒子被覆層(B)の外側の高分子被覆層(C)の付着力を高めることができる。
【0083】
前記高分子被覆層(C)が2層構造である場合は、前記一層構造の高分子被覆層を第1の高分子被覆層(C1)とし、この第1の高分子被覆層(C1)の外側に第2の高分子被覆層(C2)を形成する。前記第2の高分子被覆層(C2)を構成する高分子化合物は前記第1の高分子被覆層を形成する高分子化合物の荷電と反対の荷電を有するものが使用される。このように第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物の荷電と、第2の高分子被覆層(C2)を構成する第2の高分子化合物との荷電を逆に設定することにより、第1の高分子被覆層(C1)の外側の第2の高分子被覆層(C2)の付着力を高めることができる。このように高分子被覆層(C)を互いに反対の荷電を有する第1の高分子被覆層(C1)と第2の高分子被覆層(C2)の2層から構成することにより、高分子被覆層(C)がより安定化し、かつ内部の油粒子(A)の密封性が向上する。
【0084】
さらに、前述のように、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを互いに反対の荷電を有するように選択することにより、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とが静電的相互作用によってポリイオンコンプレックスを構成することになる。ポリイオンコンプレックスは、所定のpH値の範囲内では、極めて安定であり、それにより多層被覆油粒子の被覆性がさらに向上し、油分の経時安定性が向上する効果が得られる。また、ポリイオンコンプレックスは、pH応答性に優れるので、多層被覆油粒子を前記所定の範囲外のpH値の環境内に置くことにより、ポリイオンコンプレックスは、速やかに解体し、内部に包含していた物質を放散する。
【0085】
(アニオン性高分子化合物)
前記高分子被覆層(C)に用いることのできるアニオン性高分子化合物とは、官能基としてアニオン性を発揮する官能基を有する高分子化合物であり、アニオン性を発揮する官能基は上記アニオン性高分子化合物の重合度に合わせて多数存在する。
【0086】
上記アニオン性高分子化合物を構成するモノマー単位当たりに含まれる、アニオン性を発揮する官能基の数、すなわち置換度は0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。この置換度が0.1より小さいと水に溶解しない場合がある。一方、上記官能基の数の上限は特に限定されないが、モノマー単位当たり3程度で十分効果を発揮する。
【0087】
上記アニオン性高分子化合物の平均分子量は、1万〜500万が好ましく、より好ましくは5万〜300万、特に好ましくは10万〜300万である。平均分子量が1万より小さいと、カチオン性高分子化合物と混合した時に、後述のポリイオンコンプレックスを形成しない場合がある。また、500万より大きいと、上記の無機微粒子で被覆した被覆油粒子の水分散液と混合した時に、被覆油粒子を激しく凝集させる恐れがある。
【0088】
前記高分子被覆層(C)に用いるアニオン性高分子化合物としては、天然、合成いずれのものも用いることができ、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の官能基を有するものが挙げられる。より具体的には、アラビヤゴム、アルギン酸、ベクチン、カルボキシメチルセルロース、フタル化ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、無水マレイン酸系(加水分解物を含む)共重合体、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、ポリスルホン酸、硫酸化デンプン、硫酸化セルロース、リグニンスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸系重合体及び共重合体、ポリリン酸等やその塩化合物が挙げられる。上記塩化合物としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
上記具体例のなかでも、カチオン性無機微粒子との結合力の観点から、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、アルギン酸やその塩化合物が好ましく、より好ましくはポリアクリル酸、ポリグルタミン酸とその塩化合物であり、特に好ましくはポリアクリル酸とその塩化合物である。上記アニオン性高分子は0.01〜10重量%の水溶液として用いられる。
【0089】
上記アニオン性高分子化合物の配合量は、油分/アニオン性高分子=100/5〜100/50の重量比が好ましく、油分/アニオン性高分子=100/10〜50の重量比がより好ましく、油分/アニオン性高分子=100/20〜100/40の重量比が特に好ましい。アニオン性高分子化合物の配合量が油分/アニオン性高分子化合物=100/5よりも少ないと油分の乳化安定性が低下する恐れがある。また、アニオン性高分子化合物の配合量が油分/アニオン性高分子化合物=100/50よりも多いと多層被覆油粒子が激しく凝集し、大粒子を形成してしまう。
【0090】
(カチオン性高分子化合物)
前記高分子被覆層(C)に用いるカチオン性高分子化合物とは、官能基としてカチオン性を発揮する官能基を有する高分子化合物であり、カチオン性を発揮する官能基は上記カチオン性高分子化合物の重合度に合わせて多数存在する。
【0091】
上記カチオン性高分子化合物を構成するモノマー単位当たりに含まれる、カチオン性を発揮する官能基の数、すなわち置換度は0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。置換度が0.1より小さいと、水に溶解しない場合がある。一方、上記官能基の上限は特に限定されないが、モノマー単位当たり3程度で十分効果を発揮する。
【0092】
上記カチオン性高分子化合物の平均分子量は、1万〜500万が好ましく、より好ましくは5万〜300万、特に好ましくは10万〜300万である。平均分子量が1万より小さいと、アニオン性高分子化合物と混合した時に、ポリイオンコンプレックスを形成しない場合がある。また、500万より大きいと、上記の無機微粒子で被覆した被覆油粒子の水分散液と混合した時に、被覆油粒子を激しく凝集させる恐れがある。
【0093】
前記高分子被覆層(C)に用いるカチオン性高分子化合物の具体例としては、例えば、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサン、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウム、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル等のカチオン化セルロース、デンプン糖ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル等のカチオン化デンプン、N−グリシジルトリメチルアンモニウムキトサン等の4級化キトサン等やその塩化合物が挙げられる。
上記塩化合物としては、塩酸塩等が挙げられる。アニオン性高分子化合物とポリイオンコンプレックスを形成しやすい観点から、好ましくはカチオン化セルロース、キトサン、ポリリジンとその塩化合物であり、より好ましくはカチオン化セルロースとその塩化合物であり、特に好ましくはヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムとその塩化合物である。
上記カチオン性高分子化合物は0.01〜10重量%の水溶液として用いられる。
【0094】
上記カチオン性高分子化合物の配合量は、油分/カチオン性高分子=100/5〜100/50の重量比が好ましく、油分/カチオン性高分子=100/5〜100/40の重量比がより好ましく、油分/カチオン性高分子=100/5〜100/30の重量比が特に好ましい。カチオン性高分子の配合量が油分/カチオン性高分子=100/5よりも少ないと被覆性向上の効果が十分に得られない恐れがある。また、カチオン性高分子の配合量が油分/アニオン性高分子=100/50よりも多いと油分の乳化安定性が低下する恐れがある。
【0095】
上記アニオン性高分子化合物とカチオン性高分子化合物の重量平均分子量は、標準物質としてポリエチレンオキサイドを用い、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法によって測定することができる。
【0096】
(多層被覆工程)
水難溶性無機微粒子で被覆した被覆油粒子に、無機微粒子の荷電に対して被覆順に交互に反対となる荷電を有する高分子化合物を順次に被覆する多層被覆工程においては、まず、前記無機微粒子被覆層を有する油粒子の水分散液に無機微粒子の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物の水溶液を添加し、攪拌・混合して無機微粒子被覆層の外側に高分子被覆層を形成する。
【0097】
高分子被覆層を2層とする場合には、さらに最初の高分子被覆層の荷電と反対の荷電の高分子化合物の水溶液を添加し、撹拌・混合して第2の高分子被覆層を形成する。3層以上とする場合には、順次、その前の高分子化合物の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物の水溶液を添加し、撹拌・混合する工程を繰り返す。
【0098】
例えば、無機微粒子が無機カルシウム塩等のカチオン性である場合には、アニオン性高分子化合物の水溶液を混合した後にカチオン性高分子化合物の水溶液を混合し、無機微粒子がシリカ等のアニオン性である場合には、カチオン性高分子化合物の水溶液を混合した後に、アニオン性高分子化合物の水溶液を混合する。
【0099】
上記アニオン性高分子化合物及びカチオン性高分子化合物の配合比としては、好ましくは、重量比で、アニオン性高分子化合物/カチオン性高分子化合物=10/1〜1/10、より好ましくはアニオン性高分子化合物/カチオン性高分子化合物=10/2〜3/10、特に好ましくはアニオン性高分子化合物/カチオン性高分子化合物=10/3〜5/10である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。以下に説明する実施例は、本発明を好適に説明する例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではない。
【0101】
(実施例1)
主たる油分として魚油(日本化学飼料(株)製、商品名「DHA−70G」:DHA70%、EPA3%を含む、室温で液体)3.0g、ショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルS-070」)0.90g、dl−α−トコフェロール(エーザイ(株)製)0.09g、レモン油(長谷川香料(株)製、商品名「Limonene white」)0.09gを混合し、70℃、5分間攪拌して油分を調製した。この油分の調製においては、主たる油分(魚油):レモン油:α−トコフェロール:ショ糖ステアリン酸エステル(固化剤)=73.5部:2.2部:2.2部:22.0部の配合割合となっている。この主たる油分と他の油分成分との配合比は、以下の各実施例および比較例においても、主たる主成分の種類が異なっていても、同様である。
【0102】
一方、オレイン酸ナトリウム(純正化学(株)製、試薬一級)0.90gとアスコルビン酸ナトリウム(関東化学(株)製)0.18gを純水55gに溶解させ水相とした。
【0103】
この水相に前記の油分をホモジナイザー(IKA−WERKE社製、商品名「ULTRA−TURRAX T25BASIC」)を用いて乳化し、魚油粒子を含有したO/W乳化物を60g調製した。
【0104】
一方、水難溶性無機粒子の材料としてリン酸カルシウム(大洋化学工業(株)製、商品名「メカールP」:カチオン性)を用いた。
このリン酸カルシウム15gを純水585gに分散させた。これをビーズミル(寿工業(株)製、商品名「ウルトラアペックスミルUAM−015」)の原液タンクに仕込み、分散させながらミル内に供給して、ZrO2製のφ0.1mmビーズを用いて室温で粉砕して、平均粒子径が約0.04μmのリン酸カルシウム微粒子を得る。
【0105】
上記リン酸カルシウムの粉砕を30分間行い、リン酸カルシウムの平均粒径が1μm以下(約0.04μm)になったことを確認した後、原料タンクに上記油分のO/W乳化物を全量混合し、更に10分間粉砕・混合することにより、魚油粒子をリン酸カルシウム微粒子で被覆した被覆油粒子の水分散液を660g得た。
【0106】
前記被覆油粒子の水分散液9.5gに、第1の高分子化合物(アニオン性)として、ポリアクリル酸(日本純薬(株)製、商品名「ジュリマーAC−10SHP」:10%濃度40000〜100000cps)の1重量%水溶液を1.0g添加し、室温で10分間攪拌した。その後、第2の高分子化合物(カチオン性)として、カチオン化セルロース(ライオン(株)製、商品名「レオカードMTY」)の1重量%水溶液を1.0g添加してさらに室温で20分間攪拌した。
以上の操作により、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0107】
(実施例2)
主たる油分に大豆油(大豆油YM、日清オイリオ(株)、室温で液体)を用い、油分を乳化する活性剤としてオレイン酸ナトリウムの代わりにショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルS-1670」)を用いたこと以外は前記実施例1と同様にして、大豆油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0108】
(実施例3)
主たる油分にβ-カロテン(ライオン(株)製、商品名「ハイアルファSF」:パーム油カロテン植物油30%懸濁液)を用い、無機微粒子を得るために前記と同様のリン酸カルシウム9gを純水591gに分散させたこと以外は前記実施例1と同様にして、β−カロテンを主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0109】
(実施例4)
主たる油分にビタミンE(エーザイ(株)製、商品名「ビタミン−E」:室温で液体)を用いたこと以外は前記実施例1と同様にして、ビタミンEを主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0110】
(実施例5)
水難溶性無機微粒子の材料として炭酸カルシウム(カチオン性)を用い、水難溶性微粒子を得るために、この炭酸カルシウム30gを純水570gに分散させたこと以外は前記実施例2と同様にして、大豆油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。前記炭酸カルシウムは、太陽化学工業(株)製の商品名「ポアカル−N」を用い、ビーズミルにて粉砕し、平均粒子径を約0.12μmに調製した。
【0111】
(実施例6)
水難溶性無機微粒子の材料として前記同様の炭酸カルシウム(カチオン性)を用い、水難溶性微粒子を得るために、この炭酸カルシウム15gを純水585gに分散させたこと以外は前記実施例3と同様にして、大豆油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0112】
(実施例7)
純水43.5gにセチルピリジニウムクロライド(東京化成工業(株)製)1.5gを溶解させた水溶液に、主たる油分として前記と同様のビタミンE5.0gとその他の油分成分を添加してホモジナイザーを用いて乳化し、ビタミンEを主成分とした油粒子を含有したO/W乳化物を50g調製した。
【0113】
一方、無機微粒子の材料として二酸化珪素(富士シリシア化学(株)製、商品名「サイリシア350」:アニオン性)を用いた。この二酸化珪素をビーズミルにて粉砕し、平均粒子径が約0.12μmの微粒子に調製した。この微粒子調製では、前記二酸化珪素25gを純水475gに分散させ、これを実施例1と同様にビーズミルを用いて粉砕した。それにより無機微粒子(二酸化珪素微粒子)分散水溶液を得た。
【0114】
この二酸化珪素微粒子分散水溶液に前記ビタミンEを主成分とした油粒子を含有したO/W乳化物を全量混合して、油粒子を二酸化珪素微粒子で被覆した被覆油粒子の水分散液を得た。
【0115】
前記被覆油粒子の水分散液9.5gに、第1の高分子化合物(カチオン性)として前記同様のカチオン化セルロースの1重量%水溶液を1.0g添加し、室温で10分間攪拌した。その後、第2の高分子化合物(アニオン性)として前記同様のポリアクリル酸の1重量%水溶液を1.0g添加して更に室温で20分間攪拌した。
以上の操作により、ビタミンE粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0116】
(実施例8)
主たる油分にスクワラン(アルドリッチ社製:室温で液体)を用いるとともに、無機微粒子の材料として前記同様の二酸化珪素(アニオン性)を用い、無機微粒子を得るために、前記二酸化珪素15gを純水485gに分散させたこと以外は前記実施例7と同様にして、スクワランを主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0117】
(実施例9)
実施例1と同様にしてリン酸カルシウム微粒子(カチオン性)で魚油を主成分とした油粒子を被覆した被覆油粒子の水分散液を得た後、その被覆油粒子の水分散液9.5gに、前記同様のポリアクリル酸(アニオン性)の1重量%水溶液を1.0g添加し、室温で10分間攪拌して、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子(カチオン性)被覆層と一層構造の高分子(アニオン性)被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0118】
(比較例1)
実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子(リン酸カルシウム微粒子)で被覆した被覆油粒子の水分散液を得た後、高分子被覆層を形成せずに終えて、リン酸カルシウム微粒子からなる無機微粒子被覆層のみにより被覆した被覆油粒子を得た。
【0119】
(比較例2)
実施例1と同様にしてリン酸カルシウム微粒子(カチオン性)で魚油を主成分とした油粒子を被覆した被覆油粒子の水分散液を得た後、その被覆油粒子の水分散液9.5gに、カチオン化セルロース(カチオン性高分子化合物)の1重量%水溶液を1.0g添加して室温で20分間攪拌して多層被覆油粒子を得た。
【0120】
(比較例3)
実施例1と同様にして魚油を主成分とした油粒子を含有したO/W乳化物を調製した。このO/W乳化物9.5gに、第1の高分子化合物としてポリアクリル酸(アニオン性)の1重量%水溶液を1.0g添加し、室温で10分間攪拌した。その後、第2の高分子化合物としてカチオン化セルロース1重量%水溶液を1.0g添加してさらに室温で20分間攪拌した。
これらの操作により、魚油を主成分とした油粒子を第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した被覆油粒子を得た。
【0121】
(比較例4)
主たる油分にビタミンEを用いたこと以外は実施例1と同様にしてリン酸カルシウム微粒子(カチオン性)で油粒子を被覆した被覆油粒子の水分散液を得た後、その被覆油粒子の水分散液9.5gに、第1の高分子化合物としてカチオン化セルロースの1重量%水溶液を1.0g添加し、室温で10分間攪拌した。その後、第2の高分子化合物としてポリアクリル酸(アニオン性)の1重量%水溶液を1.0g添加してさらに室温で20分間攪拌して多層被覆油粒子を得た。
【0122】
(比較例5)
主たる油分にβ−カロテンを用い、水難溶性無機微粒子の材料として前記同様の炭酸カルシウムを用いた。炭酸カルシウムの水分散液の粉砕を高速ホモジナイザーを用いて8000rpmで10分間高速攪拌し、平均粒子径が約2.2μmの炭酸カルシウム微粒子の水分散液を得た。これら以外は、上記実施例1と同様にして油粒子を炭酸カルシウム微粒子被覆層と2層の高分子被覆層とで被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0123】
上記実施例1〜9および比較例1〜5で得られた各多層被覆油粒子もしくは被覆油粒子の被覆性(油分内包性)を下記(評価方法1)により評価した。
(評価方法1)
得られた各多層被覆油粒子もしくは被覆油粒子の水分散液約11gをサンプルとして20mLバイヤル瓶に充填して、室温で2ヶ月放置し、位相差顕微鏡を用いて各(多層)被覆油粒子分散液を観察し、油分の分離状況を観察することで油分内包性を評価した。
◎:油分の分離は全く起こらず、5μm以上の乳化油滴は観察されない
○:油分の分離はほとんど起こらず、5μm以上の乳化油滴が1滴のみ観察される
×:油分が分離し、5μm以上の粗大乳化油滴粒子が2滴以上観察される
かかる評価方法による実施例の評価結果を下記(表1)に併記し、比較例の評価結果を下記(表2)に併記した。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
(表1)に見るように、実施例1〜8の多層被覆油粒子は、油粒子(A)の表面に無機微粒子による無機微粒子被覆層(B)が形成され、この無機微粒子被覆層の外側に無機微粒子の荷電と反対の荷電を有する第1の高分子化合物からなる第1の高分子被覆層(C1)が形成され、さらにこの第1の高分子被覆層(C1)の外側に前記第1の高分子化合物の荷電と反対の荷電を有する第2の高分子化合物からなる第2の高分子被覆層(C2)が形成された構造を有している。また、実施例9の多層被覆油粒子は、油粒子(A)の表面に無機微粒子による無機微粒子被覆層(B)が形成され、この無機微粒子被覆層の外側に無機微粒子の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物からなる高分子被覆層(C1)が形成された構造を有している。かかる構成を有する実施例の多層被覆油粒子は、優れた油分内包性を発揮することが確認された。
【0127】
これに対して、(表2)に見るように、比較例1は、油粒子(A)が無機粒子被覆層(B)のみによって被覆された構造であり、比較例2は、無機微粒子被覆層(B)の外側に高分子化合物による被覆がなされているが、この高分子化合物の荷電は、無機微粒子被覆層(B)を構成している無機微粒子と同一荷電である。また、比較例3は、油粒子(A)の被覆を高分子化合物のみによって行っている。さらに、比較例4では油粒子(A)の表面に無機微粒子被覆層(B)を形成した後、2種類の高分子化合物により2重に被覆しているが、無機微粒子被覆層(B)に接する側の高分子化合物の荷電が無機微粒子と同一荷電となっている。さらにまた、比較例5では油粒子(A)の表面に無機微粒子被覆層(B)を形成した後、順次荷電が反対の2種類の高分子化合物により2重に被覆しているが、無機微粒子として平均粒径が2.2μmの無機微粒子が使用されている。このように、比較例の被覆粒子においては、無機微粒子被覆層(B)、高分子被覆層(C)のいずれかが欠けていたり、それらの荷電が積層順に反対の荷電になっていなかったり、あるいは使用した無機微粒子の平均粒子径が1μmを超えていたりする。そのため、油分内包性が実用に不十分となっていることが分かる。
【0128】
以下の実施例10〜17は、油分として前出の魚油を主成分とした油分を用い、無機微粒子として前出のリン酸カルシウム微粒子(カチオン性、平均粒径0.04μm)を用い、2層の高分子被覆層を構成する各高分子化合物の組み合わせを種々に変えて行った実施例である。各実施例の成分比率を後出の(表3)に示した。なお、以下に記載の各項分子化合物の1%粘度の値は、B型回転粘度計を用いて、20℃で測定した値である。
【0129】
(実施例10)
アニオン性高分子化合物に前出のポリアクリル酸、カチオン性高分子化合物にキトサン(試薬、東京化成工業(株)製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆油粒子を得た。
【0130】
(実施例11)
アニオン性高分子化合物にポリグルタミン酸(明治フードマテリア(株)製、商品名「バイオPGA」:平均分子量=70000)、カチオン性高分子化合物にポリアリルアミン(日東紡(株)製、商品名「PAA−HCL−3L」:平均分子量=15000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0131】
(実施例12)
アニオン性高分子化合物にアルギン酸ナトリウム(紀文フードケミファ(株)製、商品名「ダックアルギンNSPH」:1%粘度=140mPa・s)、カチオン性高分子化合物にリゾチーム(試薬、和光純薬(株)製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0132】
(実施例13)
アニオン性高分子化合物にカルボキシメチルセルロースナトリウム(五徳薬品(株)製、商品名「T.P.T−JP〈400〉:1%粘度=350〜450cps)、カチオン性高分子化合物に前出のカチオン化セルロースを用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0133】
(実施例14)
アニオン性高分子化合物に前出のポリグルタミン酸、カチオン性高分子化合物に前出のカチオン化セルロースを用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0134】
(実施例15)
アニオン性高分子化合物に前出のカルボキシメチルセルロースナトリウム、カチオン性高分子化合物に前出のリゾチームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0135】
(実施例16)
アニオン性高分子化合物に前出のアルギン酸ナトリウム、カチオン性高分子化合物に前出のポリアリルアミンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0136】
(実施例17)
アニオン性高分子化合物に前出のポリアクリル酸、カチオン性高分子化合物に前出のキトサンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0137】
上記実施例10〜17で得られた各多層被覆油粒子の被覆性(魚臭抑制効果)を下記評価方法により評価した。
(評価方法2)
得られた各多層被覆油粒子の水分散液約11gをサンプルとして20mLバイヤル瓶に充填して、室温で2ヶ月放置し、魚臭の発生を官能で評価した。
評価基準は以下の5段階とし、段階毎に得点数をつけた。したがって、点数の高いもの程、被覆性が良好であることを表す。
5点:魚臭は全く感じられない
4点:魚臭がかなり弱く感じられる
3点:魚臭が弱く感じられる
2点:魚臭が感じられる
1点:魚臭が強く感じられる
かかる評価方法による各実施例の評価結果を下記(表3)に併記した。
【0138】
【表3】

【0139】
(表3)に見るように、高分子化合物として種々のものを使用しても、第1の高分子被覆層(C1)を形成する高分子化合物として無機微粒子被覆層(B)を形成する無機微粒子の荷電と反対の荷電を有するものを使用し、第2の高分子被覆層(C2)を形成する高分子化合物として前記第1の高分子被覆層(C1)を形成する高分子化合物の荷電と反対の荷電を有するものを使用すれば、良好な被覆性を実現できることが分かる。
【0140】
以下の実施例は、油分として前出の魚油を主成分とした油分を用い、無機微粒子として前出のリン酸カルシウム微粒子(カチオン性、平均粒径0.04μm)を用い、第1の高分子化合物として前出のポリアクリル酸(アニオン性)を用い、第2の高分子化合物(カチオン性)として前出のカチオン化セルロースを用い、各高分子化合物の配合割合を種々に変えて行った実施例である。各実施例における成分配合比率を後出の(表4)に示した。
【0141】
(実施例18)
ポリアクリル酸の添加量を0.5gにしたこと以外は上記実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0142】
(実施例19)
カチオン化セルロースの添加量を0.5gにしたこと以外は上記実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0143】
(実施例20)
ポリアクリル酸の添加量を1.5g、カチオン化セルロースの添加量を0.5gにしたこと以外は上記実施例1と同様にして、魚油を主成分とした粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0144】
(実施例21)
ポリアクリル酸の添加量を2.0g、カチオン化セルロースの添加量を2.0gにしたこと以外は上記実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0145】
(実施例22)
ポリアクリル酸の添加量を0.5g、カチオン化セルロースの添加量を0.5gにしたこと以外は上記実施例1と同様にして、魚油を主成分とした油粒子を無機微粒子被覆層と第1の高分子被覆層と第2の高分子被覆層とにより被覆した多層被覆微粒子を得た。
【0146】
上記実施例18〜22で得られた各多層被覆油粒子を前記(評価方法2)により評価した。その評価結果を下記(表4)に併記した。
【0147】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0148】
以上のように、本発明にかかる多層被覆油粒子は、油分として薬効成分、化粧成分、殺菌成分、食用油、香料、色素、その他農薬、殺虫成分、抗菌、抗カビ成分等を安定に水難溶性無機微粒子で被覆し、さらに前記無機微粒子の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物により被覆した多層被覆油粒子であるため、内包した油分の被覆性に優れ、油分を長期に亘って安定に保持でき、しかも、被覆層である無機微粒子被覆層および高分子被覆層は、pH応答性に優れているために、生体内に投与した場合に、容易に被覆層を解体し、内部の有効油分を放出することができる。したがって、本発明にかかる多層被覆油粒子は、特に、医薬品、食品、化粧品、歯磨きや洗口剤などの口腔用製品などへの用途に用いるのに好適である。
【0149】
また、本発明の多層被覆油粒子は、前述のようにpH応答性に優れているため、特定条件下における被覆層の溶解等が可能であり、内包油分を放出する機能を持つ素材、または徐放性製剤として、パーソナルケア製品やドラッグデリバリーシステムにおける薬物キャリアへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】油粒子を水難溶性無機微粒子で被覆した後に、この無機微粒子の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物により被覆した構造の多層被覆油粒子の模式図である。
【図2】油粒子を水難溶性無機微粒子で被覆した後に、この無機微粒子の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物により被覆し、さらに先の高分子化合物の荷電と異なる高分子化合物によって2重に被覆した構造の多層被覆油粒子の模式図である。
【符号の説明】
【0151】
1a 油分
1b 無機微粒子吸引性を有する界面活性剤
2 無機微粒子
3 (第1の)高分子化合物
4 第2の高分子化合物
(A) 油粒子
(B) 無機微粒子被覆層
(C) 高分子被覆層
(C1) 第1の高分子被覆層
(C2) 第2の高分子被覆層
(X) 水分
(I) 多層被覆油粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油粒子(A)と、該油粒子(A)の外側に平均粒径1μm以下の水難溶性無機微粒子が付着されてなる微粒子被覆層(B)と、該微粒子被覆層(B)の外側に高分子化合物が付着されてなる高分子被覆層(C)とを有してなる多層被覆油粒子。
【請求項2】
前記高分子被覆層(C)が、前記微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物からなる単層の高分子被覆層(C1)であることを特徴とする請求項1に記載の多層被覆油粒子。
【請求項3】
前記高分子被覆層(C)が、前記微粒子被覆層(B)の外側に形成されている第1の高分子被覆層(C1)と、該第1の高分子被覆層(C1)の外側に形成されている第2の高分子被覆層(C2)とから構成され、前記第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物が前記微粒子被覆層(B)を構成する微粒子の荷電と反対の荷電を有し、前記第2の高分子層(C2)を構成する第2の高分子化合物が前記第1の高分子化合物の荷電と反対の荷電を有することを特徴とする請求項1に記載の多層被覆油粒子。
【請求項4】
前記高分子被覆層(C)が、3層以上の高分子被覆層から構成され、前記微粒子被覆層(B)に接する第1の高分子被覆層(C1)を構成する第1の高分子化合物が前記微粒子被覆層(B)を構成する微粒子の荷電と反対の荷電を有し、この第1の高分子被覆層(C1)の外側に順次に被覆される残りの高分子被覆層を構成する高分子化合物の荷電が順次に反対の荷電を有することを特徴とする請求項1に記載の多層被覆油粒子。
【請求項5】
前記高分子被覆層(C)を構成する多層の各高分子被覆層を形成している、積層順に相互に反対の荷電を有する各高分子化合物が隣接間でイオンコンプレックスを形成していることを特徴とする請求項3又は4に記載の多層被覆油粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の多層被覆油粒子が水分中に分散されてなる多層被覆油粒子の水分散液。
【請求項7】
水難溶性無機化合物を平均粒径1μm以下に微粒化して得られた水難溶性無機微粒子を油粒子(A)の外側に付着させて微粒子被覆層(B)を形成する微粒子被覆層形成工程と、
前記微粒子被覆層(B)の外側に該微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物を被覆して高分子被覆層(C1)を形成する高分子被覆層形成工程と、
を有することを特徴とする多層被覆油粒子の製造方法。
【請求項8】
前記高分子被覆層(C1)の外側に該高分子被覆層(C1)の荷電と反対の荷電を有する第2の高分子化合物を被覆して第2の高分子被覆層(C2)を形成する第2の高分子被覆層形成工程を、さらに有することを特徴とする請求項7に記載の多層被覆油粒子の製造方法。
【請求項9】
前記油粒子を水分中に分散させてなる乳化物中において実施することを特徴とする請求項7または8に記載の多層被覆油粒子の製造方法。
【請求項10】
油分を水分中に分散して油粒子(A)の水分散液を得る乳化工程と、
水難溶性無機化合物の微粒子凝集体を水に分散させた後、前記微粒子凝集体を平均粒径1μm以下の微粒子に粉砕して無機微粒子水分散液を得る無機微粒子水分散液調製工程と、
前記油粒子(A)の水分散液と前記無機微粒子水分散液とを混合することにより、前記油粒子(A)を前記水難溶性無機微粒子で被覆して前記油粒子(A)の表面に微粒子被覆層(B)を形成する微粒子被覆層形成工程と、
前記微粒子被覆層(B)を有する油粒子(A)が水分中に分散されてなる水分散液中に、前記微粒子被覆層(B)の荷電と反対の荷電を有する高分子化合物を添加、撹拌して前記微粒子被覆層(B)の外側に高分子被覆層(C1)を形成する高分子被覆層形成工程と、
を含むことを特徴とする多層被覆油粒子の水分散液の製造方法。
【請求項11】
前記高分子被覆層(C1)と微粒子被覆層(B)とを有する油粒子(A)が水分中に分散されてなる水分散液中に、前記高分子被覆層(C1)の荷電と反対の荷電を有する第2の高分子化合物を添加、撹拌して前記高分子被覆層(C1)の外側に第2の高分子被覆層(C2)を形成する第2の高分子被覆層形成工程を、さらに含むことを特徴とする請求項10に記載の多層被覆油粒子の水分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−273881(P2008−273881A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119795(P2007−119795)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】