説明

形態及びナノ構造が制御されたナノ構造化薄層を堆積させるための方法及び装置

プラズマを用いた、特には階層的に組織化された種類の、ナノ構造化薄層を製造するための方法、及び該方法を実施するための装置(30;40)について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形態及びナノ構造が制御されたナノ構造化薄層を堆積させるための方法及び該方法を実施するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
支持体上に堆積され、最大厚みが数十マイクロメートル程度の薄層は、通常、「フィルム」の語として知られており、残りの文章において使用される。
【0003】
薄いフィルムは、多くの方法によって製造でき、例えば、化学蒸着(CVD)又は物理蒸着(PVD、スパッタリングとして知られる技術等)として知られる技術及びそれらの多くの変形によって製造できる。それら技術によって良好な生産性が達成されるものの、製造したフィルムの形態及び多孔性の微調整は不可能である。
【0004】
最近、ナノ構造化した薄いフィルムは、かなりの関心を得ている。これらフィルムは、ナノメートル粒子、即ち、およそ数ナノメートルから数百ナノメートルの間の寸法の粒子からなる。
【0005】
その関心は、それらフィルムが、ナノ構造化していないフィルムと比較して、新しい又は優れた質の機能特性を示すという事実によるものである;例えば、ナノ構造化フィルムは、放射エネルギーから電気エネルギーへの変換(ソーラーパネルの製造に特に有用な性質)における、光ルミネセンス源として、又は気体センサーとしてより効率的である。
【0006】
これらフィルムを作るために広く研究されている可能性のある第1の方法は、2つの工程(ここで、第1の工程は、各種方法によるナノメートルサイズの粉末の製造及びそれらの回収であり、第2の工程は、例えばペースト又は懸濁液の形態での該粉末の堆積であり、該粉末は、シルクスクリーン印刷等の方法によって支持体上に堆積される)において行われるプロセスを用いる。このアプローチは、多数の特許文献において記載されている。例えば、特許出願US2005/0258149A1は、高温にて維持されたプラズマ(その領域では「プラズマトーチ」として知られている)中でナノ粒子を生成し、槽内の油中に直接回収し、次いで堆積物を作るのに使用される懸濁液を形成する方法を記載する。特許出願US2006/0159596A1及び特許US7,052,667B2(後者は、特にカーボンナノチューブの製造を目的としている)は、高圧プラズマトーチシステム中でナノ粒子を生成し、例えば焼結金属又は紙のトラップ中に又はフィルター上に集め、次いで、そこから該粒子を回収し、その後、既知の方法により支持体上に堆積させる方法を記載する。最後に、特許出願US2009/0056628A1は、無線周波数プラズマを用いてナノ粒子を作る方法を記載しており、この場合も、次に粒子を回収し、その後、フィルムを作るために使用する;或いは、この文献によると、生成反応器から出る粒子を支持体上に直接集めることができ、それらは静電気引力(又は単純に重力)によって該支持体に付着されている。
【0007】
論文(非特許文献1)は、非熱的プラズマ中におけるナノサイズのケイ素粉末の生成を記載する。この論文のシステムでは、ケイ素の前駆体(例えばシラン)が、比較的高い気体圧力が保たれている石英管の一端にて導入される;プラズマは、管全体に発生し、ケイ素前駆体を分解し、ケイ素ナノ粒子の生成を引き起こす;該管の反対端は、壁によって閉じられており、ここには、オリフィスがある;該壁は、低い圧力で保たれているチャンバーから石英管の容積を分離する;その2つの区域における圧力差が、石英管内に存在する気体とケイ素ナノ粒子の混合物の噴流抽出を引き起こす;次いで、ナノ粒子を例えばTEM格子上に集める。この文献の方法では、図4を参照しながらここで具体的に説明されているように、ケイ素ナノ粒子は、オリフィスからかなり離れた位置にて既に形成し始めている;これら粒子は、最初、非晶質で多孔質であり、直径が比較的大きい(約200〜400nm);石英管の全容積を電極によりプラズマ状態に保ったまま、最初の粒子は、オリフィスへ向かう移動中、反応し続け、それらがオリフィスに近づく程、より濃く(そして、より小さく)なる;それら粒子が低圧チャンバーに入るとすぐ、オリフィスの下流で、それらは最終的な形状及び寸法(約40〜70nm)に既に達しており、そのようなものとして集められる。
【0008】
それら方法は、一般的に、ナノ粒子から形成されるフィルムの凝集程度の制御が可能ではなく、本質的に無秩序で、多くの場合、再現困難なフィルムを生じさせる;それらフィルムの場合、ナノ構造化フィルムの可能性を十分に利用できず、それらを制御できない。
【0009】
この点においては、ナノメートルサイズの粒子から作られるフィルムの機能特性の観点から、例えば論文(非特許文献2及び3)において記載され、当該領域では「階層的に組織化される」ものとして知られている成長スキームに従い、それらが凝集してより大きなサイズの構造を形成する場合に最良の結果が得られることが観察された。
【0010】
述べられた論文において用いた技術は、「パルスレーザー堆積」(PLD)であり、ここでは、堆積されるべき材料の源を一連のレーザー放射パルスによって蒸発させる;蒸発した材料は、凝集し、原子又は分子の束(当該領域ではクラスターとして知られる)を形成し、支持体上での堆積時に、処理パラメータに従って、高密度圧縮円柱状、開放円柱状又は樹枝状構造への自己組織化を受ける。産業レベルでの応用を防ぐこの技術の限界は、レーザーが最大数平方センチメートルの表面積を照射できるという事実によって、生産性が低いことであり、蒸発速度(そして、結果として生じる支持体上の堆積)は、その密度に基づいた堆積フィルムの厚さに関して数十ng/s又はnm/s程度である。
【0011】
国際特許出願WO2009/032654A1は、階層的に組織化されたナノ構造化フィルムを製造するための代替方法を記載し、それは、上述の論文のものと同様な結果をもたらす。この方法は、金属を含有する化合物の蒸気流、燃料蒸気流及び酸化剤蒸気流を反応区域中に導入することからなり、該反応区域内で燃焼を起こさせる;該燃焼は、金属酸化物ナノ粒子の煙霧の形成をもたらし、次いで、制御された温度にて維持された支持体上に堆積させる。この技術は、相対的に汚れているといった欠点を示し、燃料を燃焼させる必要があり、それ故に、堆積フィルムの化学の最適な制御が可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許出願US2005/0258149A1
【特許文献2】特許出願US2006/0159596A1
【特許文献3】特許US7,052,667B2
【特許文献4】特許出願US2009/0056628A1
【特許文献5】国際特許出願WO2009/032654A1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Plasma synthesis of semiconductor nanocrystals for nanoelectronics and luminescence applications”, U. Kortshagen et al., Journal of Nanoparticle Research, (2007) vol. 9, no. 1, pages 39-52
【非特許文献2】“Hierarchically organized nanostructured TiO2 for photocatalysis applications”, F. Di Fonzo et al., Nanotechnology 20 (2009) 015604
【非特許文献3】“Hierarchical TiO2 Photoanode for Dye-Sensitized Solar Cells”, F. Sauvage et al., Nano Letters 10 (2010)
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、形態が制御され、特には階層的に組織化された種類のナノ構造化フィルムを製造するための方法であって、既知の技術の課題を克服する方法を提供することにあり、また、該方法を実施するための装置を提供することにある。
【0015】
それら目的は、本発明によって達成されるが、本発明は、第一の態様において、以下の工程を含むナノ構造化フィルムの製造方法に関する:
・少なくとも1つの第1チャンバーと第2チャンバーとが壁によって分けられているものであるが、1つ以上の開口部を介して互いに流体連通しているものを提供する工程;
・該第1チャンバーにおいて、局在プラズマの生成のための平面アンテナを提供する工程であって、前記平面アンテナは、前記壁からより遠い該アンテナの表面が前記壁から5cm以下の距離「d」であるように、前記第1及び第2チャンバーを分ける壁の近くに又は隣に設置され、前記壁における前記1つ以上の開口部に対応する位置に1つ以上の穴部を有する工程;
・前記第1及び第2チャンバーを分ける壁からより遠い前記アンテナの表面に面する区域において平面的な非熱的プラズマを生成する工程;
・気体又は蒸気相の試薬に非熱的プラズマの地域を横断させるため、該試薬を前記壁からより遠い前記アンテナの表面から5cm以下の距離「h」の一点にて前記第1チャンバー中に注入し、それ故に、試薬の流れが前記プラズマを横断する反応区域が規定され、ここで、所望の材料の分子種が生成される工程;
・前記1つ以上の開口部を介して、該反応区域から前記分子種を抽出し、それらを前記第2チャンバー内に規定された堆積区域に向ける工程であって、該堆積区域には、ナノ構造化フィルム用の支持体が配置されている工程;
・該反応区域を10〜100,000Paの間に含まれる圧力Pにて維持し、該堆積区域を0.01〜10,000Paの間に含まれる圧力Pにて維持し、P/P比を3に等しいか又はそれより大きな値にて維持し、それ故に、該反応区域から該堆積区域に向けられている前記分子種を含有する超音速気体噴流を決定する工程;
・前記支持体を該超音速噴流の軸に沿って前記1つ以上の開口部から0.5〜10cmの間に含まれる距離にて配置させる工程。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】試薬間の反応が起こり、該反応において形成される分子種が第1チャンバーから第2チャンバーに向かって抽出される地域の概略図である。
【図2】反応区域の軸に沿う温度の傾向を表すグラフである。
【図3】本発明の方法を実施するための装置を形成する基本ユニットの概略断面図である。
【図4】本発明に従う装置であって、図1に示されるタイプの幾つかのユニットを一緒に合わせることによって形成されたものの概略断面図である。
【図5】本発明に従って得られた圧縮ナノ構造化フィルムの断面のマイクロ写真である。
【図6】本発明に従って得られた多孔質ナノ構造化フィルムの断面のマイクロ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、プラズマが形成される地域における試薬間の反応が起こる区域を概略的に示す。図1の図面は、試薬種が移動する軸が垂直且つ下向きになるように方向づけられているが、要素間での相互の幾何学的関係が維持されるならば、他のあらゆる方向に位置し得る(なお、同じことが図3及び4についても適用できる);加えて、図1の要素は、規模が再現されておらず、そして、一部の寸法は、反応区域の一部の詳細を目立たせるために増大させている場合がある。
【0019】
本発明の方法において、第1チャンバー10は、小さな開口部13が存在する壁12によって第2チャンバー11と分けられている。第1チャンバー内に位置する注入器14は、少なくとも第1試薬気体又は蒸気を区域15に送る;第2試薬は、注入器14から来る流れに混ぜることができ、又は、例えば図3に示されるように、異なる入口からチャンバー10に送ることができる。チャンバー10には、壁12に隣接して、平面アンテナ16が存在しており、該アンテナは、プラズマを作るために使用される;図面中、アンテナ16は、壁12から離されて示されているが、それらは接触していてもよい;加えて、この図面中には、その機能性に関与するアンテナの内部構造の説明がない。注入器14の出口と該注入器に面するアンテナの表面間の距離は、図1において「h」と示され、それは、本発明の重要なパラメータであり、不要な反応がチャンバー10の望ましくない区域で既に起こることを避けるため、5cm以下の値にて保たれる。
【0020】
アンテナ16は、いわゆるイオン化領域と再結合又は拡散領域とを備えるプラズマ領域17を作る。該アンテナに近接近したイオン化領域では、RF電力が、電子・イオン対生成に変換される。そのように作られたエネルギー電子は、拡散領域において、試薬間の化学反応の誘因となる。拡散領域の境界は、主として運転電力及び圧力によって管理される。高真空状態では、それは、自由に膨張してチャンバー全体を満たすことができるが、高圧管理体制では、気体拡散及び再結合/失活プロセスによって制限される。
【0021】
領域17の厚みは、運転パラメータを変更することによって制御できる;前述の厚みは、アンテナ16にかかる電力が増大すると増加し、チャンバー10内の気体の圧力が増大すると減少する。
【0022】
上記考察から、プラズマ領域17は周辺地域と境界が明瞭ではなく、大部分は点線によって概略的に示される領域17に局在していることが明確である。この領域では、電子、イオン及び励起種の密度が、試薬間での化学反応を引き起こすのに十分である;この領域の外側では、前述の密度が、本発明の目的には非効率となる値まで徐々に低くなる。同様の考察が、区域15に当てはまり、ここで、注入器14から来る試薬流れは、高い濃度であるが、前述の区域の外側では、低い濃度の試薬流れが存在する。試薬区域15とプラズマ領域17間の交差部分は、反応区域を規定しており、ここで、試薬は、分解又は反応し、上記方法の標的である分子種を形成する。
【0023】
反応区域は、非熱的プラズマが発生する空間に位置する。この種類のプラズマは、存在する様々な粒子群に対して独立した熱力学的平衡状態を示し、電子(発生器からエネルギーを直接吸収する)の平均エネルギーとイオン(ベース気体とほぼ平衡状態にある)のものとの間に大きな差異をもたらす;言い換えれば、電子は、非常に高い温度になり、およそeV単位程度であり、一方、気体及びイオンは、プラズマ誘導部による実質的な加熱を受けない。これは、周囲に近い巨視的な反応器温度を維持しながら、高エネルギー電子によって「触媒される」化学反応を得ることができるようにする。所望の材料の分子種は、反応区域内で生じる。
【0024】
図2は、図1の軸に沿う温度の傾向を示す。図2のグラフにおいて、横座標の値は、平面アンテナの上部表面に対応する平面から上方への距離を表す;図1のグラフに示される温度は、反応区域に熱電温度計を挿入し、同じものの軸に沿って移動させることによって測定された。分かるように、反応区域内の温度は、アンテナの上部表面のレベルから前述の表面から0.5cm離れた位置にある高さまで通過すると、約70℃鋭く上昇する;それは、前述の表面から0.5〜2.5cmの間の「スラブ」内で本質的に一定である;次いで、前述の表面からより高い距離では、滑らかであるが一定に下降する。この温度プロファイルを考慮すると、試薬間での本質的に全ての反応は、アンテナの上部表面の平面ほとんどと前述の表面から約5cm未満離れた平行面との間に位置する平面区域において行われる。
【0025】
アンテナの上部表面の平面と開口部13の間で高さ「d」の区域では、試薬間の反応が起こるには温度が低すぎる。高さ「d」は、反応区域内で形成される分子種の核生成が、前述の種が開口部13から抽出されるより先に、チャンバーのこの部分ですでに起こることを回避するため、5cm未満、好ましくは約2cm未満に維持される;それは、考えられる最小値にて保たれることが好ましく、一般的に、アンテナの構造的ニーズによってのみ制限されるが、該アンテナは、通常、最大厚さが約1〜1.5cmの範囲である。
【0026】
上記図面の結果として、本発明の方法においては、注入器14と開口部13の間の最大距離が、約10cm未満の値に限定され、約5cm未満であることが好ましい。この限定された距離と、関連地域(反応区域及び後者と開口部13の間)における種の速度を考慮すると、反応区域内で形成された分子種のチャンバー10内での滞留時間は、チャンバー10内で生成した分子の核形成と、それらで構成される粒子の寸法成長とが本質的に起こり得ないほど短い。反応生成物の核形成とその後の粒子の成長は、開口部13の下流でのみ起こる。
【0027】
反応区域内で生成された分子種は、反応区域の圧力と堆積区域の圧力間の違いのため、それら圧力がその関係P/P≧3と証明されるようなものである場合に発生する超音速噴流によって、反応区域から開口部13を通って抽出される。本発明の目的に有用なP値は、10〜100,000Paの間、好ましくは10〜10,000Paの間に含まれ、一方、P値は、0.01〜10,000Paの間、好ましくは1〜3000Paの間に含まれる。
【0028】
2つのチャンバー内の圧力、開口部13の寸法及び後者と成長粒子が衝突する支持体間の距離を適宜選択することによって、得られるフィルムの形態を制御することが可能である。これは、先に記載したKortshagenの論文の方法の結果と完全に異なる。該論文において、粒子の発生は、約20cmの長さの反応区域において縮小を受け、多孔質で非晶質の出発形態から完全に濃密な構造に移行する;それ故に、これら粒子の発生は、反応区域内で完了する;そして、形成された粒子は、低圧チャンバー内において、単体粒子又は緩く密着した堆積物の形態として、即ち、実際の安定した薄いフィルムではなく、より重要なことには制御できない形態として、集められる。
【0029】
それらの第2の形態において、本発明は、上述の方法を実施するための装置に関するものである。
【0030】
本発明の装置の好ましい配置は、図3の断面図において、その最も単純で全体的な配置として示される;図3の図面では、数字10〜17が、図1の場合と同一の意味を持つ。図3の好適な実施態様において、アンテナは、誘導結合(ICP)種類のものであるが、以下に詳述されるように、他の源タイプも可能である。装置30は、第2チャンバー11中に挿入された第1チャンバー10から形成されており、それぞれは壁12によって分けられている。第1チャンバーは、少なくとも試薬気体又は蒸気の注入器14と、プラズマが形成されることになる気体をチャンバー内に供給するための手段31、31’とを備えている;注入器14の出口は、壁12からより離れたアンテナの表面の平面から5cm以下の距離にあり、一方、前述の表面から前述の開口部までの距離は、5cm以下であり、好ましくは2cm以下であり、更に好ましくは1.5cm未満である。試薬は、一般に、金属、半金属又は周囲温度及び圧力にて気体状でない他の要素とすることのできる要素の少なくとも1種の前駆体化合物と、前述の前駆体と反応する必要がある少なくとも1種の気体である。典型的に、試薬は、不活性気体中で希釈される(該不活性気体の主な機能は、プラズマの発生及び維持を容易にすることである)。先に定義したような前駆体は、注入器14を通してチャンバー中に供給されるが、反応性気体は、同様に注入器14を通してチャンバー中に供給されてもよいし、手段31、31’によって供給される不活性気体中に希釈されていてもよい。上記装置は、プラズマ生成用のエネルギー源32を備える;エネルギー源(例えば銅コイル)は、誘電材料の本体33、通常はアルミナ等のセラミック中に沈められる。壁12は、小さい寸法の開口部13を有し、該開口部は、壁のオリフィス又はそれに接続されたノズルになることができる。上記方法の作業中、開口部13から超音速噴流34が放出される。該超音速噴流は、反応区域で形成された粒子を含有するプラズマ気体によって形成されており、このため、当該技術分野において「播種噴流」と定義される。
【0031】
第2チャンバーには、支持体35が存在し、該支持体上にナノ構造化フィルムが形成されることになる;噴流34に打たれる区域は、支持体を配置しており、堆積区域と定義される。ポンプシステム(図示せず)が、このチャンバーに接続され、2つのチャンバー間で、特には反応区域と堆積区域の間で必要な圧力差を維持できるようにする。
【0032】
反応区域及び堆積区域は、分かれているが、開口部13を通じて互いに流体連通している。2つの区域は、異なる圧力P及びPにて、特にはP/P比が少なくとも3に等しいように、維持されている。
【0033】
流体力学の専門家によく知られているように、開口部でつながっている2つの区域間の圧力比は、開口部の所定のコンダクタンス値に対して、システム内の総気体流量と、2つの区域の内の一方におけるポンプ流量を制御することによって、決定される。詳細には、本発明の場合において、それらの量に関する数学的関係は、以下のものである:
/P=1+Q/CRD・P
ここで:
・P及びPは、上述の意味を有し;
・Qは、システムの容積測定スループットであり、(m・Pa/s)で測定され;
・CRDは、開口部でつながっている2つの区域間の気体コンダクタンスであり、(m/s)で測定され;該コンダクタンスは、開口部の寸法によって決定される。
【0034】
及びPの所望の値並びにQ値を考慮すると、開口部13の寸法は、それらの目的で販売された目盛り付き開口部の技術データシートによっても容易に決定される。
【0035】
本発明に従い製造できるフィルムは、金属、半導体(元素又は化合物)、酸化物、又は窒化物、炭化物若しくはホウ化物等の他のセラミック化合物、又は導体化合物で構成できる。金属又は元素半導体(ケイ素又はゲルマニウム)の生成の場合、使用されるべき試薬は、該金属又は半導体元素の揮発性化合物と、一般反応:
MX+H→M+HX (I)
を得るための還元剤、例えば水素とすることができる。
【0036】
この種類の反応の例としては、ケイ素形成のものがある:
SiCl+2H→Si+4HCl (II)
【0037】
半導体化合物は、同様な方法で、反応区域中に、水素に加えて、2つの(又はそれよりも多い)材料の構成元素の前駆体を、例えばIII−V化合物GaAsを得るためにヒ素の前駆体とガリウムの前駆体とを、注入することによって得ることができる。窒化物、炭化物又はホウ化物等の材料の単離は、同様に得ることができる。
【0038】
酸化物を得るため、酸化物が形成されることになる金属(又は複数金属)の前駆体(又は複数前駆体)と酸素とを、一般反応:
MX+O→MO+nX (III)
に従って反応区域中に注入する。
【0039】
この種類の反応の例には、金属テトラエトキシドから二酸化チタンを形成するものがある:
Ti(OC+12O→TiO+8CO+10HO (IV)
【0040】
適当な前駆体混合物を用いることによって、幾つかの元素の化合物(例えば2種以上の金属の混合酸化物)、又はドープした材料のフィルムを生成できる。
【0041】
上述の前駆体化合物は、周囲温度及び圧力にて、気体、液体又は固体とすることができる。気体前駆体の場合、それらは、そのようなものとして反応区域中に注入できる;液体前駆体の場合、それらは、蒸気相で使用でき、例えば不活性気体又は反応が起こる同一気体(例えば水素又は酸素)の流れによって反応区域中に移送できる;最後に、固体前駆体の場合、元素種の反応区域中への注入を、例えば、当該技術分野の専門家によく知られているように、固体源と装置の他の要素の間に適切な電位差をかけることによる、該前駆体源のスパッタ浸食によって、行うことができる。より複雑であるにもかかわらず、この解決策は、生成される材料のより高い純度を確保する。
【0042】
ナノ構造化フィルムが成長することになる支持体35は、播種超音速噴流の軸に沿った可変の距離で、堆積区域に位置している。上記支持体は、固定されてもよく、移動可能であってもよい。薄い壁において円形又は長方形スリット形態での開口部を選択することによって、上記噴流は、ノズルから引き出され、特徴的な「プルーム」形状を取るように、膨張する。膨張軸に沿って、反応区域内で形成される種は、まず核を形成してクラスターに変化し、次いでナノ粒子に成長する。プルームの前進前面は、マッハディスクとして知られる衝撃区域によって制限され(図3では、開口部13からより離れた半月形部分によって特定される)、それによって、ナノ粒子は、突然の減速を受ける。噴流軸に沿う開口部からマッハディスクの距離は、開口部の形状によって決まり、反応区域と堆積区域内の圧力間の比によって決定される。円形開口部の場合、前述の距離は、関係:
=d・0.67(P/P1/2
[ここで、xは、開口部とマッハディスク間の距離であり、dは、開口部の直径である]によって定義される;一方、長方形開口部の場合、その関係は
=h・(w/h)0.47・0.67(P/P1/2
[ここで、w及びhはそれぞれがスリット幅及び高さであり、w/h量は、「アスペクト比」として知られている]である。
【0043】
ノズル−支持体距離を制御することによって、異なる寸法及びエネルギーの種を途中で捕まえることができる;短い距離では、幾つかの非常にエナジェティックな原子と、距離が増加すると、特には衝撃区域を越えると、運動エネルギーが減少したナノ粒子である。このように、成長すべきフィルムの基本元素のエネルギー及び寸法を選択ですることができる。例えば、非常に低いノズル−支持体距離で、指標としては0.5cm〜数cmの間で動作させることによって、反応区域内で発生する種は、ナノ粒子を形成する時間がなく、(図5のマイクロ写真に示されるような)最小表面粗さの圧縮フィルムの形態で堆積し、一方で、前述の距離を増加させると、得られるフィルムは、(図6のマイクロ写真に示されるように)ますます多孔質となり、ナノ構造化される。また、フィルム形態は、P値によって制御され、低い圧力では、圧縮フィルム形成を好む傾向があり、比較的高い圧力では、高多孔性の階層的ナノ構造の形成を好む。
【0044】
プラズマを発生させるため、誘導結合源(ICP)、容量結合源(CCP)、マイクロ波源(MW)、電子サイクロトロン共鳴源(ECR)又は誘電体障壁型の源(DBD)を使用できる。電磁力は、広範な周波数でプラズマに結合でき、本発明の目的を満たすことになる放電を起こす;これら放電タイプについての維持電圧の可能な周波数範囲は、非常に広く、回線周波数(50Hz)から、低周波数(数kHz)、ラジオ周波数(1〜100MHz)に及び、技術的に好適な周波数は、13.56MHzと27.12MHzであり、最高でマイクロ波にまで及ぶ(後者の場合、最も使用される周波数は2.45GHzである)。結合スキームは、持続波又はパルスモードを含むことができる。第1のタイプは、ICP源が、低い不純物レベルで(電極/アンテナが反応区域から物理的に分けられている)、また、電極と放電区域間での直接的接触を必要とする類似のCCP解決策と比較して大きな電子密度で(実に3桁大きい)、プラズマを発生する利点があるため、好ましい。低エネルギー領域でのより大きな電子密度は、より多くの非弾性衝突をもたらし、該非弾性衝突は、励起電子状態のラジカル/原子の生成をもたらす。ICPのエネルギー結合機構(EM波は、アンテナによって生じ、誘電スクリーンを通して送られ、プラズマ電流と結合する)は、スパッタリングを引き起こすのに十分に高い指向性エネルギーを持つイオン集団を不可避的に発生する過剰なエネルギーシース(プラズマと高電位の表面間の接触領域)の生成を起こさない。ICP源の場合、好適なアンテナ形状は、大きな表面に渡って一様なプラズマを得る能力のため、平面である。
【0045】
更に、図3に示される反応チャンバー形状の場合、貫流反応器に比べて、形成する分子種がチャンバー壁から離れた容積内で閉じ込められたまま滞在するという利点があり、それ故に、堆積による材料損失を回避する。加えて、注入器−プラズマ距離を変更することによって、反応時間、従って初期核形成段階が制御でき、これは、(開口部−支持体距離及び堆積チャンバー内の圧力に加えて)最終フィルムの形態を制御するのに使用可能な更なるパラメータを作る。
【0046】
第1チャンバーに存在する要素についての形状及び相互幾何学的配置の説明は、装置を一次元(線線源)又は二次元(面線源)に引き伸ばすことができるようにし、それ故に、産業上の利用におけるその使用を考慮した全体の拡張性を提供する;一連の源は、並べて提供でき、それぞれは、図3の第1チャンバー10に対応し、同一図のチャンバー11に類似している単一の堆積チャンバーの内側にある。
【0047】
この種類の状態を図4に示しており、図4は、一連の「頭部」41、41’、41’’・・・を備える装置40を示し、それぞれが図3のチャンバー10に相当し、単一の堆積チャンバー11の内側に配置される。この配置の場合、支持体35を適切な速度で各頭部41、41’、41’’・・・の軸と該頭部が配置された線の両方と垂直な方向に移動させることによって、原理上、不確定長さの支持体(例えば、金属シート)を覆い、次いで、該支持体を個別要素に分けることが可能であり、それ故に、高い生産性が達成される。
【0048】
41、41’、41’’・・・型の複数の頭部は、並べて置かれ、配列を形成でき、各頭部は、例えば長方形又は正方形マトリックスの節に置かれ、例えばソーラーパネルを作るのに必要とされるような大きい表面を単一堆積動作において覆う。
【符号の説明】
【0049】
10 チャンバー
11 チャンバー
12 壁
13 開口部
14 注入器
15 区域
16 アンテナ
17 領域
30 装置
31、31’ 手段
32 エネルギー源
33 本体
34 噴流
35 支持体
40 装置
41、41’、41’’ 頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形態が制御されたナノ構造化フィルムの製造方法であって
・少なくとも1つの第1チャンバー(10)と第2チャンバー(11)とが壁(12)によって分けられているものであるが、1つ以上の開口部(13)を介して互いに流体連通しているものを提供する作業と;
・該第1チャンバーにおいて、局在プラズマの生成のための平面アンテナ(16)を提供する作業であって、前記平面アンテナは、前記壁からより遠い該アンテナの表面が前記壁から5cm以下の距離「d」であるように、前記第1及び第2チャンバーを分ける壁の近くに又は隣に設置され、前記壁における前記1つ以上の開口部に対応する位置に1つ以上の穴部を有する作業と;
・前記第1及び第2チャンバーを分ける壁からより遠い前記アンテナの表面に面する区域において平面的な非熱的プラズマを生成する作業と;
・気体又は蒸気相の試薬に非熱的プラズマの地域を横断させるため、該試薬を前記壁からより遠い前記アンテナの表面から5cm以下の距離「h」の一点にて前記第1チャンバー中に注入し、それ故に、試薬の流れが前記プラズマを横断する反応区域が規定され、ここで、所望の材料の分子種が生成される作業と;
・前記1つ以上の開口部を介して、該反応区域から前記分子種を抽出し、それらを前記第2チャンバー内に規定された堆積区域に向ける作業であって、該堆積区域には、ナノ構造化フィルム用の支持体(35)が配置されている作業と;
・該反応区域を10〜100,000Paの間に含まれる圧力Pにて維持し、該堆積区域を0.01〜10,000Paの間に含まれる圧力Pにて維持し、P/P比を3に等しいか又はそれより大きな値にて維持し、それ故に、該反応区域から該堆積区域に向けられている前記分子種を含有する超音速気体噴流(34)を決定する作業と;
・前記支持体を該超音速噴流の軸に沿って前記1つ以上の開口部から0.5〜10cmの間に含まれる距離にて配置させる作業と
を含む、方法。
【請求項2】
前記圧力Pが10〜10,000Paの間に含まれ、前記圧力Pが1〜3,000Paの間に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記距離「d」が2cm未満である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記距離「d」が1.5cm未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記距離「h」が2cm未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記距離「h」が1.5cm未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記試薬が、金属、半金属又は周囲温度及び圧力にて気体でない他の要素とすることができる要素の少なくとも1種の前駆体化合物と、前記前駆体と反応する少なくとも1種の気体である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記試薬が不活性気体中に希釈される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ナノ構造化フィルムが、金属、半導体、酸化物、セラミック化合物、電気絶縁特性を持つ化合物、又は導体化合物からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記前駆体が、周囲温度及び圧力にて気体であり、それ自体が反応区域中に注入される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記前駆体が、周囲温度及び圧力にて液体であり、蒸気の形態として反応区域中に注入される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記蒸気が、不活性輸送気体又は試薬気体によって希釈され、反応区域中に注入される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体が、周囲温度及び圧力にて固体であり、該固体のスパッタリングにより得られる蒸気の形態として反応区域中に注入される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法を実施するための装置(30;40)であって、
・少なくとも試薬気体の注入器(14)、不活性気体供給手段(31、31’)、及び第1チャンバー内でプラズマを生成するためのアンテナ(16)が存在する少なくとも1つの第1チャンバー(10)と;
・前記第1チャンバーを囲み、ポンプシステムが接続され、ナノ構造化フィルムが生成される支持体(35)用のハウジングを含有する第2チャンバー(11)と;
・前記第1チャンバーを前記第2チャンバーから分離し、少なくとも1つの開口部(13)を有する壁(12)と;
を備えてなり、
ここで、前記注入器とエネルギー源とは、前記注入器の出口間の距離が前記壁からより遠い前記アンテナの表面の平面から5cm以下の距離で、前記表面が前記開口部から5cm以下の距離になるような配置で、該第1チャンバー中に配置される、装置。
【請求項15】
前記エネルギー源が、誘導結合、容量結合又は誘電障壁タイプである、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記エネルギー源が、平面アンテナ形状の誘導結合源(32)である、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
単一の第2チャンバー(11)の内側に一連の第1チャンバー(10)を備え、各第1チャンバーが開口部(13)に面する、請求項14に記載の装置(40)。
【請求項18】
前記第1チャンバー(41、41’、41’’・・・)が、直線に沿って配置されている、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1チャンバーが、長方形又は正方形マトリックスに従う配列で配置されている、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
該支持体を移動させるための手段を更に備える、請求項14〜19のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−512344(P2013−512344A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541464(P2012−541464)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068539
【国際公開番号】WO2011/064392
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(508104086)ユニヴァーシタ デグリ ストゥディ ディ ミラノ−ビコッカ (2)
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】