説明

成膜方法、成膜装置及び記憶媒体

【課題】有機不純物層の形成や銅膜の異常成長が少なく、下地膜との密着性のよい銅膜の成膜方法等を提供する。
【解決手段】基板が載置された処理容器内に水蒸気が存在する状態で、銅の有機化合物(例えばCu(hfac)TMVS)からなる原料ガスを供給して基板上に銅の密着層を形成する。次いで、処理容器内の水蒸気と原料ガスとを排出して、その後、処理容器内に再び原料ガスを供給することにより密着層の表面に銅膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の有機化合物を原料として半導体ウエハ等の基板上に銅膜を成膜する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の性能向上の要請から近年ではアルミニウム線に代わり銅配線を用いる配線技術が実施されている。このような半導体装置を製造する工程においては、半導体ウエハ(以下ウエハという)の表面に銅膜を成膜する技術が重要となる。ウエハ上に銅膜を形成する技術のひとつとして、銅の有機化合物を原料とした化学蒸着法(以下、CVDという)が知られている。
【0003】
CVDによりウエハ上に銅膜を成膜する場合には、例えば原料ガスであるトリメチルビニルシリル・ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅(以下、Cu(hfac)TMVSと記す)等の銅の有機化合物を真空状態の処理容器に供給し、加熱したウエハ上でこの物質を熱分解させてその表面に銅膜を形成させる手法がある。ところが銅原子はウエハ内に拡散してしまう性質を持っているため銅膜がウエハ上に直接成膜されることは少なく、基板上に予め形成されたバリアメタルと呼ばれる拡散防止膜(下地膜)の上に成膜される場合が多い。この下地膜にはチタンやタンタル、それらの窒化物等が用いられるが、下地膜のバリアメタルが銅の有機化合物に由来する有機物と反応して、銅膜とバリアメタルとの界面に有機不純物が残ることが知られている。
【0004】
間に有機不純物層が形成された下地膜と銅膜とは密着性が悪くなり、このため上層側の銅配線と下層側の銅配線との抵抗値が大きくなって電気特性が悪化したり、またウエハを加工する際に銅膜が剥がれたりして、その結果歩留まりが低下する。また、有機不純物層は下地膜と比較して濡れ性が悪いため、銅の凝集が起こりやすく、アスペクト比の高いトレンチへの銅の埋め込み性が悪くなって銅配線の形成不良が生じるという問題もある。
【0005】
これらの問題のうち、有機不純物層の形成により銅膜と下地膜との密着性が悪くなるという問題に対して、特許文献1には水蒸気を利用する技術が紹介されている。特許文献1に記載された技術によれば、ウエハを収めた処理容器内に予め水蒸気を供給しておき、例えば0.5秒間水蒸気とCu(hfac)TMVSとを同時供給した後、水蒸気の供給だけを停止することにより有機不純物層の生成を抑えて下地膜との密着性を向上させている。
【0006】
しかしながら、Cu(hfac)TMVSを原料とするCVDにおける水蒸気の存在は、有機不純物層の形成を抑える一方で、銅膜を針状に異常成長させてしまうという欠点を有していることが知られている。この点、特許文献1の技術では、これらのガスの供給を停止しても処理容器内には依然水蒸気が滞留しているので銅膜の異常成長を直ちに止めることは困難である。このような場合には、下地膜と銅膜との間に隙間ができてしまうので密着性を向上させることは難しい。
【特許文献1】特開2002−60942号公報:第5頁0037段落〜0038段落、第6頁0057段落
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、有機不純物層の形成や銅膜の異常成長が少なく、下地膜との密着性のよい銅膜の成膜方法、成膜装置及び前記成膜方法を実行するようにステップ群の組まれたコンピュータプログラムを格納した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る成膜方法は、気密な処理容器内に基板を載置する工程と、
前記処理容器に水蒸気を供給する工程と、
前記処理容器に水蒸気が存在する状態で、前記処理容器内に銅の有機化合物からなる原料ガスを供給して前記基板上に銅の密着層を形成する工程と、
前記処理容器内の水蒸気と原料ガスとを排出する工程と、
前記処理容器内に再び原料ガスを供給して前記密着層の上に銅膜を成膜する工程と、を含むことを特徴とする。
ここで、前記水蒸気を供給する工程の水蒸気は、前記密着層を形成する原料ガスの供給と同時に処理容器内に供給してもよく、また、原料ガスの供給を開始する前までに予め処理容器内に供給するように構成してもよい。また、前記銅膜を成膜する工程は、前記水蒸気を供給する工程よりも少ない量の水蒸気を処理容器内に供給しながら行ってもよい。ここで前記基板は、100℃〜150℃の範囲内の温度に加熱されていることが好ましい。
【0009】
更に、前記基板上には、チタン及びタンタルから選択された金属からなる下地膜、または前記金属と窒素、炭素または酸素のいずれか1つ若しくは2つの元素との化合物からなる下地膜、あるいはルテニウムまたはその酸化物からなる下地膜が形成されており、この下地膜の上に銅膜を成膜するように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水蒸気の存在下で密着層を形成するので、密着層の形成される下地膜がチタン等のように酸化傾向の大きな金属であっても、有機不純物層の形成を抑えることが可能となり、下地膜と密着層との密着性を向上させることができる。更に、密着層の形成後に処理容器内を一旦排気してから再度原料ガスを供給して銅膜を成膜するので、水蒸気の存在による銅膜の異常成長を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る銅膜の成膜方法を利用した、半導体装置の製造方法について図1を参照しながら説明する。図1は、ウエハW表面部に形成される半導体装置の製造工程途中の断面図を示しており、図1(a)は、層間絶縁膜にトレンチを開ける前の状態である。なお、説明を簡略化するために、銅の埋め込みはシングルダマシンで行っているものとする。80、81は層間絶縁膜としてのSiOC膜(炭素含有シリコン酸化膜)、82はSiN膜(窒化シリコン膜)である。
【0012】
ここでSiOC膜80、81及びSiN膜82を成膜する手法の一例について説明すると、これらの膜はいずれもプラズマ成膜処理、具体的にはウエハWを真空排気された真空容器内に置いて、この真空容器内に供給された所定の成膜ガスをプラズマ化することにより成膜されている。
【0013】
このようなウエハWに対し、先ず、例えばCFガスやCガス等をエッチングガスとして用いることにより、SiOC膜81が所定のパターン状にエッチングされる。このときSiOC膜81の下地膜となっているSiN膜82はエッチングストッパとして作用する。これにより、例えば図1(b)に示すように、SiOC膜81に配線用の銅を埋め込むための例えば線幅が120nm以下、好ましくは80nm以下のトレンチ800が形成される。
【0014】
続いて、例えば図1(c)に示すように、このトレンチ800を含めたSiOC膜81の表面上を例えばチタンやタンタル等のバリアメタル層(下地膜)83で被覆する。更に続いて、トレンチ800内に銅が埋め込まれるように銅膜を成膜した後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨を行うことにより、例えば図1(d)に示すように、トレンチ800以外の銅及びバリアメタル層83が除去されてトレンチ800内に銅配線84が形成される。
【0015】
次に、本実施の形態である銅膜の成膜方法について説明する。本成膜方法では、原料ガスとなる銅の有機化合物、例えばCu(hfac)TMVSガスをCVD装置の処理容器内に供給して銅膜を成膜する。このとき、所定のタイミングでCu(hfac)TMVSガスと水蒸気とを供給することにより有機不純物の少ない密着層を形成してから、これらのガスの供給を停止し、一旦処理容器内に残存しているガスを排気することにより銅膜の異常成長を防止する点に特徴を有している。そして、再度これらのガスを供給することにより銅膜の成膜を比較的低温で進行させる点にも特徴を有している。
【0016】
先ず、当該成膜方法を実施する装置について説明しておく。図2は、本成膜方法に係るCVD装置1の一例を示した断面図である。CVD装置1において10は例えばアルミニウムからなる処理容器(真空チャンバ)である。この処理容器10は、上側の大径円筒部10aと、その下側の小径円筒部10bとが連設されたいわばキノコ形状に形成されており、その内壁を加熱するための図示しない加熱機構が設けられている。処理容器10内には、ウエハWを水平に載置するためのステージ11が設けられており、このステージ11は小径円筒部10bの底部に支持部材12を介して支持されている。
【0017】
ステージ11内にはウエハWの温調手段をなすヒータ11aが設けられている。更にステージ11には、ウエハWを昇降させて外部の搬送装置と受け渡しを行うための例えば3本の支持ピン13がステージ11の表面に対して突没自在に設けられている。この支持ピン13は、支持部材14を介して処理容器10外の昇降機構15に接続されている。処理容器10の底部には排気管16の一端側が接続され、この排気管16の他端側には真空ポンプ17が接続されている。また処理容器10の大径円筒部10aの側壁には、ゲートバルブ18により開閉される搬送口19が形成されている。
【0018】
更に処理容器10の天井部には開口部21が形成され、この開口部21を塞ぐように、かつステージ11に対向するようにガスシャワーヘッド22が設けられている。ガスシャワーヘッド22は、2つのガス室25a、25bと、2種類のガス供給孔27a、27bとを備え、一方のガス室25aに供給されたガスは一方のガス供給孔27aから処理容器10内に供給され、また他方のガス室25bに供給されたガスは他方のガス供給孔27bから処理容器10内に供給されるように構成されている。
【0019】
そして、下部ガス室25aには、原料ガス供給路31が接続され、この原料ガス供給路31の上流側には原料タンク32が接続されている。原料タンク32には銅膜の原料(前駆体)となる銅の有機化合物(錯体)であるCu(hfac)TMVSが液体の状態で貯留されている。原料タンク32は、加圧部33と接続されており、この加圧部33から供給されたアルゴンガス等によって原料タンク32内を加圧することにより、Cu(hfac)TMVSを原料ガス供給路31へ向けて押し出すことができるようになっている。また、原料ガス供給路31には、液体マスフローコントローラ(以下LMFCという)34及び、Cu(hfac)TMVSを気化するためのベーパライザ35が上流側からこの順に介設されている。ベーパライザ35はキャリアガス供給源36から供給されたキャリアガス(水素ガス)と接触混合させてCu(hfac)TMVSを気化させ、下部ガス室25aに供給する役割を果たす。なお、図2中、37は、キャリアガスの流量を調整するマスフローコントローラ(MFC)、V1〜V5はバルブである。
【0020】
次に、水蒸気側のガス供給系について説明すると、上部ガス室25bには水蒸気供給路41が接続され、この水蒸気供給路41の上流側にはMFC43を介して水蒸気供給源42が接続されている。V6、V7はバルブである。
【0021】
また、Cu(hfac)TMVS及び水蒸気のガス供給系に設けられているガス供給制御系(点線部分)、排気管16に設けられた図示しない圧力調整部、ヒータ11a及び昇降機構15等は、CVD装置1全体の動作を制御する制御部50により制御されるようになっている。制御部50は、例えば図示しないプログラム格納部を有しているコンピュータからなり、プログラム格納部にはウエハWを処理容器10に搬入出する動作や処理についてのステップ(命令)群を備えたコンピュータプログラムが格納されている。そして、当該コンピュータプログラムが制御部50に読み出されることにより、制御部50はCVD装置1全体の動作を制御する。なお、このコンピュータプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶手段に収納された状態でプログラム格納部に格納される。
【0022】
図3は、実施の形態に係る成膜方法を実行するためのプロセスシーケンスの一例である。図3(ア)は処理の施されるウエハWの温度シーケンスであり、実線はウエハWの温度(℃)を示している。また、図3(イ)は処理容器10内の圧力シーケンスであり、実線は処理容器10内の絶対圧を示している。図3(ウ)はCu(hfac)TMVSガス供給量のシーケンスであって、実線はCu(hfac)TMVSの質量換算の供給量(g/min)を示している。また図3(エ)は水蒸気供給量のシーケンス、図3(オ)はCu(hfac)TMVSガスを搬送するキャリアガス(水素)の流量シーケンスであって、夫々の実線は水蒸気やキャリアガスの流量(sccm)を示している。
【0023】
本プロセスシーケンスによれば、表面部が図1(c)の状態である(SiOC膜81にバリアメタル層83が形成されている)基板であるウエハWが載置され、例えば133Pa(1Torr)程度の圧力となっている処理容器10内に、時刻Tにおいて例えば200sccmでキャリアガスが供給され、処理容器10内の圧力が例えば5Torrまで上げられる。次に、Cu(hfac)TMVSガスの供給が開始される前の時刻Tにおいて例えば5sccmで水蒸気の供給が開始される。
【0024】
次いで時刻Tにおいて図示しない圧力調整部を調整して処理容器10内の圧力が2Torrに調整された後、水蒸気の供給が継続されたまま、時刻Tにおいて例えば0.5g/minでCu(hfac)TMVSガスが供給されバリアメタル層83の表面に銅からなる密着層が形成される。そして、例えば5〜60秒後、例えば30秒後の時刻Tにおいて、Cu(hfac)TMVSガスと水蒸気との供給が停止される。
【0025】
このとき、キャリアガスの供給と真空ポンプによる真空排気とは継続されているので、残存しているCu(hfac)TMVSガスと水蒸気とは処理容器10から排気されることになる。次いで、処理容器10内に残存しているガスが十分に排気された後の時刻Tにおいて、Cu(hfac)TMVSガスの供給が再開される。このときCVDのプロセス温度(ウエハの温度)を低下させるのに十分であり、かつ銅膜の異常成長による悪影響が顕著に現れない程度の少ない量、例えば0.1sccm以下の量の水蒸気が供給される。そして、目標とする厚みの銅膜が成膜された時刻TにおいてCu(hfac)TMVSガスと水蒸気との供給が停止され、当該シーケンスが終了する。こうしてCVD装置1を上述のプロセスシーケンスに基づいて作動させることにより、図1で説明したように予めトレンチ800が形成され、チタン等のバリアメタル層83が被覆されたウエハWに所望の厚みを有する銅膜を成膜することができる。
【0026】
図3に示したシーケンスにおいて、水蒸気の供給されている処理容器10内にCu(hfac)TMVSガスを供給した時刻Tからの工程では、図1(c)に示したバリアメタル層83の上に銅の密着層が形成される反応が進行している。また、Cu(hfac)TMVSガスの供給を開始する前の時刻Tより予め処理容器10内への水蒸気の供給を開始しておくことにより、ウエハWの表面に十分に水分子が吸着される。これにより、有機不純物層の形成を抑えながら密着層を形成する反応が進行しやすくなっている。
【0027】
次いで、水蒸気とCu(hfac)TMVSガスとの供給を停止した後、処理容器10内に残留しているガスを排気することにより密着層の形成を停止することで銅の異常成長が最小限に抑えられている。なお、密着層を形成する工程においては、水蒸気が存在しているため銅の異常成長が生じる可能性がある。しかし、水蒸気の存在する処理容器10内にCu(hfac)TMVSガスの供給を開始してからの時間が十分に短く、且つ処理容器10内が排気されることにより異常成長が直ちに停止されるので、銅膜が針状に成長してしまう余裕もないと考えられる。従って、バリアメタル層83と密着層との密着性に与える影響も殆どないものと考えられる。
【0028】
次いで、排気の完了後の時刻Tより、処理容器10内にCu(hfac)TMVSガスを供給することにより、密着層の表面に銅膜が成長する。
【0029】
また、図3に示したプロセスシーケンスの時刻TからTの期間において、銅膜に異常成長による悪影響が顕著に現れない程度の少ない水蒸気を供給することにより、水分子が触媒となって100℃〜150℃の間の例えば130℃という低いプロセス温度(ウエハの温度)で銅膜を成長させることが可能となる。これは、水分子が触媒の役割を果たしているためであると考えられる。
【0030】
上述の実施の形態によれば次のような効果がある。水蒸気の存在下で密着層を形成するので、密着層の形成されるバリアメタル層83(下地膜)がチタン等のように酸化傾向の大きな金属であっても、有機不純物層の形成を抑えることが可能となり、下地膜と密着層との密着性を向上させることができる。更に、密着層の形成後に処理容器10内を一旦排気してから再度Cu(hfac)TMVSガスを供給して銅膜を成膜するので、水蒸気の存在による銅膜の異常成長を抑制することができる。更に、これらの工程を連続して行うことにより、水蒸気を供給することによるデメリット(異常成長)を最小限に抑えつつ、そのメリット(有機不純物層形成の抑制)を活かすことができる。この結果、バリアメタル層83との密着性のよい銅膜を成膜することができるので、半導体装置として加工する際に銅配線84の剥がれ等のトラブルを防止することが可能となり歩留まりの向上に寄与する。
【0031】
また密着層の形成時に処理容器10内に水蒸気を供給することにより、銅膜を形成するプロセス温度(ウエハの温度)を例えば100℃〜150℃まで低下させることができる。この結果、銅膜表面のモホロジーを改善することが可能となり、銅配線84中にボイドが形成されにくくなって製品の歩留まりが向上する。更に、プロセス温度を低下させることにより省エネルギーにも貢献できる。
【0032】
また、この密着層の表面に銅膜を成膜する工程においても、例えば0.001sccm〜0.1sccm程度の銅膜の異常成長による悪影響が顕著に現れない程度の、時刻Tから時刻Tの間に供給した水蒸気よりも少ない水蒸気を供給することによりプロセス温度を100℃〜150℃とすることが可能となるので、この工程においてもモホロジーの改善や省エネルギーへの貢献が可能となる。
【0033】
なお、本銅膜の成膜方法に係るプロセスシーケンスは図3に例示したものに限定されない。例えば図4(a)に示すように密着層の表面に銅膜を成膜する工程においてプロセス温度を低下させるための水蒸気の供給を行わなくてもよい。更に図4(b)に示すように、予め水蒸気の供給を行わずに、Cu(hfac)TMVSガスと同じタイミングで水蒸気も短時間だけ供給するようにしてもよい。
【0034】
また、密着層を形成する工程においてはCu(hfac)TMVSガスと水蒸気とを同時に処理容器10内に供給する場合に限定されず、予め水蒸気が供給されて停止された後の処理容器10内にCu(hfac)TMVSガスを供給して密着層を形成するように構成してもよい。この場合には、水蒸気が排気されてしまわないように、Cu(hfac)TMVSガスが供給されて停止されるまでの間、一時的に真空ポンプ17を停止するようにしてもよい。
【0035】
また、密着層が形成されるバリアメタル層83(下地膜)もチタンの他にタンタルによって構成してもよいし、チタンやタンタルと、窒素、炭素または酸素のいずれか1つ若しくは2つの元素との化合物からなるバリアメタル層83としてもよい。また、このバリアメタル層83を、ルテニウムまたはその酸化物によって構成してもよい。
【実施例】
【0036】
(実験1)
チタンからなる下地膜上に、本実施の形態に係る成膜方法により密着層の形成と銅膜の成膜とを行い、それらの断面を観察した。
(実施例1−1)
ウエハW上に被覆されたチタンからなるバリアメタルの表面に、図3に示したプロセスシーケンスによって銅膜を形成した。なお、プロセス温度は130℃で、時刻T〜Tの間における水蒸気の供給は行わなかった。これら銅膜と下地膜との断面をSEMで撮影した結果を図5(a)に示す。
(比較例1−1)
同じくチタン製のバリアメタルの表面に、図3に示したプロセスシーケンスの一部を変更して銅膜を形成した。本比較例におけるプロセスシーケンスでは、時刻T〜時刻Tの期間中に水蒸気の供給を行わなかった点が(実施例1−1)と異なっている。なお、プロセス温度は130℃の条件で成膜を行った。これら銅膜と下地膜との断面をSEMで撮影した結果を図5(b)に示す。
【0037】
(実験1の考察)
図5(a)に示すように、水蒸気を供給して銅膜を成膜した(実施例1−1)では、有機不純物層の厚さが1.5nmとなっており、有機不純物層は殆ど形成されなかった。これに対して、水蒸気を供給しなかった(比較例1−1)では、図5(b)に示すように、有機不純物層の厚さが6nmと水蒸気を導入した場合の4倍にもなっている。このような厚い有機物層の形成により、下地膜と銅膜との密着性が悪化しているものと考えられる。
【0038】
(実験2)
本実施の形態に係る成膜方法により銅膜を成膜し、その表面の凹凸を観察した。
(実施例2−1)
(実施例1−1)と同様の条件で銅膜を成膜した。この銅膜表面をSEMで撮影した結果を図6(a)に示す。
(比較例2−1)
(比較例1−1)と同様の条件で銅膜を成膜した。この銅膜表面をSEMで撮影した結果を図6(b)に示す。
【0039】
(実験2の考察)
(実施例2−1)の結果によれば、図6(a)に示すように銅膜表面の凹凸が小さく、モホロジーの良好な銅膜が成膜されている。一方で、処理容器10内に水蒸気を供給しない(比較例2−1)の結果によれば、図6(b)に示すように銅膜表面の凹凸が大きく、モホロジーの悪い銅膜が成膜されている。これらの結果から、Cu(hfac)TMVSガスを原料とするCVDにおいて水蒸気を供給してプロセス温度を低下させた結果、銅膜表面のモホロジーを改善できることが分かる。
【0040】
(実験3)
表面にトレンチを形成したウエハWに、本実施の形態に係る成膜方法により銅膜を成膜し、トレンチの埋め込み性を確認した。
(実施例3−1)
図3に示したプロセスシーケンスによって銅膜を形成し、幅120nm、深さ500nm(アスペクト比4.2)のトレンチに銅を埋め込んだ。このトレンチの表面には、予めイオン化PVDにより厚さ15nmのチタンからなる下地膜が形成されている。このトレンチの断面をSEMで撮影した結果を図7(a)に示す。
(実施例3−2)
同様の手法で銅膜を形成し、幅80nm、深さ500nm(アスペクト比6.3)のトレンチに銅を埋め込んだ。トレンチの表面には、(実施例3−1)と同様にチタンからなる下地膜が形成されている。このトレンチの断面をSEMで撮影した結果を図7(b)に示す。
【0041】
(実験3の考察)
図7(a)、図7(b)に示すように、(実施例3−1)、(実施例3−2)いずれの場合にも有機不純物層は殆ど形成されず、トレンチ表面の濡れ性が低下しなかった結果、どちらの場合にもトレンチへの埋め込み性は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態に係る銅膜の成膜方法が適用される半導体装置の製造プロセスの説明図である。
【図2】上記銅膜の成膜方法を実施するためのCVD装置の断面図である。
【図3】実施の形態に係る銅膜の成膜方法を実施するためのプロセスシーケンスの一例である。
【図4】上記プロセスシーケンスの変形例である。
【図5】有機不純物層が形成されている状態を確認するためのウエハ断面の拡大写真である。
【図6】銅膜表面のモホロジーを確認するための拡大写真である。
【図7】ウエハ表面に形成したトレンチへの銅の埋め込み性を確認するためのウエハ断面の拡大写真である。
【符号の説明】
【0043】
W ウエハ
1 CVD装置
10 処理容器
10a 大径円筒部
10b 小径円筒部
11 ステージ
11a ヒータ
12 支持部材
13 支持ピン
14 支持部材
15 昇降機構
16 排気管
17 真空ポンプ
18 ゲートバルブ
19 搬送口
21 開口部
22 ガスシャワーヘッド
25a 下部ガス室
25b 上部ガス室
27 ガス供給孔
27a 原料ガス供給孔
27b 水蒸気供給孔
31 原料ガス供給路
32 原料タンク
33 加圧部
34 LMFC
35 ベーパライザ
36 キャリアガス供給源
37 MFC
41 水蒸気供給路
42 水蒸気供給源
43 MFC
50 制御部
80、81 SiOC膜
82 SiN膜
83 バリアメタル層
84 銅配線
800 トレンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密な処理容器内に基板を載置する工程と、
前記処理容器に水蒸気を供給する工程と、
前記処理容器に水蒸気が存在する状態で、前記処理容器内に銅の有機化合物からなる原料ガスを供給して前記基板上に銅の密着層を形成する工程と、
前記処理容器内の水蒸気と原料ガスとを排出する工程と、
前記処理容器内に再び原料ガスを供給して前記密着層の上に銅膜を成膜する工程と、を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記水蒸気を供給する工程の水蒸気は、前記密着層を形成する工程の原料ガスの供給と同時に処理容器内に供給することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記水蒸気を供給する工程の水蒸気は、前記密着層を形成する工程の原料ガスの供給を開始する前までに予め処理容器内に供給することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記銅膜を成膜する工程は、前記水蒸気を供給する工程よりも少ない量の水蒸気を処理容器内に供給しながら行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記基板は、100℃〜150℃の範囲内の温度に加熱されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項6】
前記基板上には、チタン及びタンタルから選択された金属からなる下地膜、または前記金属と窒素、炭素または酸素のいずれか1つ若しくは2つの元素との化合物からなる下地膜、あるいはルテニウムまたはその酸化物からなる下地膜が形成されており、この下地膜の上に銅膜を成膜することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項7】
基板を載置する載置台が内部に設けられた気密な処理容器と、
この処理容器内に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、
前記処理容器内に銅の有機化合物からなる原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、
前記処理容器内を排気する排気手段と、
前記処理容器に水蒸気を供給するステップと、前記処理容器内に水蒸気が存在する状態で、前記基板上に銅の密着層を形成するために前記処理容器内に前記原料ガスを供給するステップと、前記処理容器内の水蒸気と原料ガスとを排出するステップと、前記密着層の上に銅膜を成膜するために前記処理容器内に再び前記原料ガスを供給するするステップと、を実行するように各手段を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
銅膜を成膜する成膜装置に用いられるコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
請求項1ないし6のいずれか一つに記載の成膜方法を実行するようにステップ群が組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−24978(P2008−24978A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197667(P2006−197667)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】