説明

振動基板の製造方法

【課題】パッケージ側に設けた素子搭載用パッド上に導電性接着剤を介して圧電振動素子の一端寄りの下面を接着して片持ち支持構造とした場合に、接着時の加圧力によって導電性接着剤が圧電振動素子の振動領域側にはみ出してその共振周波数を変動させたり、はみ出した導電性接着剤が素子搭載用パッドとその近傍に位置する金属部材とを短絡させることを防止する。
【解決手段】振動領域11aと、該振動領域と連設一体化された被接続領域11bと、を備えた圧電基板であって、被接続領域の一面には、凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部20を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面実装用のパッケージ上に配置した素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって片持ち状態で電気的機械的に接続される圧電基板、圧電振動素子、この圧電振動素子を備えた圧電振動子、圧電基板の製造方法、及びこの圧電振動子を備えた圧電発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
図11(a)(b)及び(c)は特許文献1に開示された従来の表面実装型の水晶振動子等の縦断面図、要部平面図、及び要部縦断面図である。この水晶振動子101は、セラミック等の絶縁材料から成るパッケージ102の上面に形成されたキャビティ103の内底面に配置した内部端子(電極パッド)104上に導電性接着剤105を用いて水晶振動素子110を片持ち状態で支持し、キャビティ103の開口を金属蓋115により気密封止した構成を備えている。パッケージ外底面には、内部端子104と導通した実装端子106が配置されている。また、水晶振動素子110は、水晶基板111の表裏両面に夫々励振電極112と、各励振電極112から基板端縁に延びるリード電極113と、を形成した構成を備えている。
【0003】
この水晶振動子101は、水晶振動素子(水晶基板)の下面適所に凸部120を形成することにより、キャビティ内底面と水晶振動素子下面との間に挟まれた導電性接着剤105の前部の量を多くしている。即ち、この水晶振動子101は、導電性接着剤105を介して内部端子104と接続する際に、導電性接着剤の先端側厚さがその中間部、或いは/及び、後方部の厚さよりも厚くなるように構成されている。
【0004】
この従来例では、水晶振動素子110のリード電極113に対応する位置に凸部120を設けたので、内部端子104の上面と水晶振動素子(リード電極)の下面とを導電性接着剤105により接続した場合に、凸部120よりも前方に位置する接着剤の厚さ、量が増大することとなり、落下時の衝撃によって水晶振動素子に対して、接着剤による保持部を中心として上下方向(厚さ方向)へモーメントが発生したとしても、その応力を十分に吸収緩和することが可能となる。従って、接着剤の弾性変形による応力が残留することがなくなり、接着剤による水晶振動素子の保持部に変形が発生することがない。即ち、接着剤側での応力集中により水晶振動素子と接着剤との接着部に微小な剥離や応力緩和が発生することがなくなり、接着剤による水晶振動素子端部の保持状態が変わることに起因した、特性劣化(周波数変動、等価抵抗値の変化)が発生する虞がなくなる。
【0005】
しかし、この従来例においては、水晶振動素子側に形成した凸部120の下面が全面的に平坦面であるため、同様に平坦な上面を有する内部端子104との間で導電性接着剤105を加圧することにより該接着剤を押し潰して、水晶振動素子110の中心部にある振動領域側にはみ出させて共振周波数を変動させる虞がある。
【0006】
また、特許文献2には、水晶片の端部に位置するリード電極上に導電性接着剤から成る突起を形成することにより、パッケージ側の引出電極との接触面における導電性接着剤の広がりを防止し、支持損失を抑制した表面実装型水晶振動子が開示されている。この突起は、円弧状の突起であるため、常に最適な形状、寸法の突起が最適の位置に形成される場合には、導電性接着剤が押し潰されることにより周辺に広がるという事態を回避することも不可能ではない。しかし、実際には水晶片の端部片面上にディスペンサ等によって導電性接着剤を滴下することにより突起を形成するため、形成される突起の位置、形状、寸法にバラツキが発生し易く、突起が水晶片の振動領域側に変位している場合においては、突起によって接着用の導電性接着剤が振動領域側に押し出されて振動領域に付着する虞がある。
【0007】
また、特許文献3には、図12に示したようにセラミックから成る平板状の底板130の上面の周縁に沿って形成したメタライズ膜131上に環状のシールリング132を導電性接着手段より立設固定すると共に、底板上に設けた内部端子104に対して導電性接着剤105により水晶振動素子110の一端部下面を片持ち支持したタイプが開示されている。
【0008】
しかし、この従来例においてはパッケージの小型化が進行する程、シールリング132と内部端子104との間の距離を近接せざるを得なくなるため、図11に示した水晶振動素子のように凸部から導電性接着剤への加圧によって接着剤が四方へはみ出し易いタイプにあっては勿論、水晶振動素子や内部端子側に凸部が存在しない従来タイプにおいても、接着剤が僅かでもシールリング側へはみ出すことによってシールリングと内部端子との短絡が発生する虞がある。シールリングと内部端子とが短絡すると浮遊容量が変化する等、電気的特性が変動する原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−222006号公報
【特許文献2】特開2004−363936号公報
【特許文献3】特開2002−26680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の水晶振動子(圧電振動子)のように水晶振動素子の端部に設けた凸部とパッケージ側に設けた内部端子との間を導電性接着剤により接着する際には、下面が平坦な凸部と上面が平坦な内部端子との間で加圧される導電性接着剤の逃げ場が凸部の外周方向に極限されるため、接着剤の一部がはみ出して、水晶振動素子の振動領域や直近位置にある導体に付着し、水晶振動子の共振周波数を変動させる虞があった。
また、導電性接着剤によって水晶基板面に突起を形成し、この突起を利用してパッケージ側の引出電極との間を導電性接着剤により接続固定する場合には、突起の位置、形状、寸法精度を安定させることが困難であるため、接着用の導電性接着剤が周辺にはみ出して上記と同様な不具合をもたらすという問題が起きる。
また、上面が平坦なセラミック製底板の上面に搭載した金属製シールリングの内側に形成されるキャビティ内に配置された内部端子(素子搭載用パッド)上に、導電性接着剤を用いて水晶振動素子を片持ち状態で支持した場合に、内部端子と水晶振動素子との間で加圧された導電性接着剤の一部が外周へはみ出すことによってシールリングと内部端子とを短絡させることにより圧電デバイスの電気的特性が変動する虞があった。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、パッケージ側に設けた素子搭載用パッド上に導電性接着剤を介して圧電振動素子の一端寄りの下面を接着して片持ち支持構造とした場合に、接着時の加圧力によって導電性接着剤が圧電振動素子の振動領域側にはみ出してその共振周波数を変動させたり、はみ出した導電性接着剤が素子搭載用パッドとその近傍に位置する金属部材とを短絡させることを防止しつつ、落下時の衝撃等を導電性接着剤により充分に吸収緩和して耐衝撃性を高めることができる圧電基板、圧電振動素子、表面実装型圧電振動子、圧電基板の製造方法、及び表面実装型圧電発振器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る圧電基板は、振動領域と、該振動領域と連設一体化された被接続領域と、を備えた圧電基板であって、前記被接続領域の一面には、凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部を形成したことを特徴とする。
振動領域から離間した基板端縁(被接続領域)の面に導電性接着剤の一部を受け入れるための接着剤収容部を形成したので、パッケージ側の素子搭載用パッドと圧電振動素子との間で導電性接着剤が加圧された時に、従来構造であれば加圧によって外周方向にはみ出す筈の余剰接着剤が接着剤収容部内に充填された状態となる。このため、はみ出した接着剤が圧電振動素子の振動領域に付着して共振周波数を変動させたり、或いは近傍に位置する導体に付着して素子搭載用パッドとの間を短絡させる不具合がなくなる。また、接着剤の使用量を減らす必要がないため、パッケージによる圧電振動素子の支持強度を高めることができる。即ち、接着剤量が増大することにより、落下時の衝撃によって圧電振動素子に対して、接着剤による保持部を中心として上下方向(厚さ方向)へモーメントが発生したとしても、その応力を十分に吸収緩和することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る圧電振動素子は、圧電基板と、該圧電基板上に形成した励振電極と、該励振電極から圧電基板の一端縁に延びるリード電極と、を備えた圧電振動素子であって、前記リード電極の端部を含む前記圧電基板の一端縁に沿った面に、凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部を形成したことを特徴とする。
接着剤収容部を構成する凹部の形状、個数、配置等は種々選定可能である。貫通穴を形成することにより減圧下でない雰囲気中で素子搭載用パッド上に圧電振動素子を接着する際にも接着剤収容部内に気泡などが残ることがなくなる。このため、安定した接続強度を維持することができる。
【0014】
また、本発明に係る圧電振動素子では、前記接着剤収容部は、前記リード電極の端部を含む前記圧電基板の一端縁に形成した厚肉部の接着剤との接着面に形成されていることを特徴とする。
圧電基板の被接続領域を予め振動領域よりも厚肉に構成しておき、この厚肉部の一面に接着剤収容部を形成する。
【0015】
また、本発明に係る圧電振動素子は、前記接着剤収容部は、厚肉の環状部によって包囲されていることを特徴とする。
凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部の外周を環状部(環状凸部)により包囲することにより、接着剤が外周方向へ流出することを防止し易くなる。
【0016】
また、本発明に係る圧電振動素子では、前記接着剤収容部は、前記リード電極の端部を含む前記圧電基板の一端縁に沿った面に形成した接着剤堰き止め用の凸部と隣接して形成された非凸面であることを特徴とする。
接着剤収容部は必ずしも環状部によって包囲された凹部等でなくてもよい。例えば、素子搭載用パッド上に塗布された接着剤が圧電振動素子の振動領域側に流出することを阻止する凸部を形成することにより、反対側に形成される被凸面を接着剤収容部としてもよい。
【0017】
また、本発明に係る表面実装型圧電振動子は、上面に圧電振動素子の各励振電極と電気的に接続するための2つの素子搭載用パッドを備えると共に、底部に実装端子を備えたパッケージと、何れかの前記実装端子と前記素子搭載用パッドとの間に所定の配線を施すための接続導体と、前記素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって各リード電極の端部を電気的機械的に接続されることにより前記パッケージ上に片持ち支持される上記圧電振動素子と、を備えたことを特徴とする。
上記構成を備えた圧電振動素子を使用することにより種々のタイプの圧電振動子を構築することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る表面実装型圧電振動子は、少なくとも上面側キャビティを有すると共に、底部に実装端子を備えたパッケージと、何れかの前記実装端子と前記素子搭載用パッドとの間に所定の配線を施すための接続導体と、前記素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって各リード電極の端部を電気的機械的に接続されることにより前記パッケージ上に片持ち支持される圧電振動素子と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る表面実装型圧電振動子は、上面に圧電振動素子の各励振電極と電気的に接続するための2つの素子搭載用パッドを備えると共に、底部に実装端子を備えたパッケージと、前記パッケージの上面の周縁に沿って立設された環状のシールリングと、何れかの前記実装端子と前記素子搭載用パッドとの間に所定の配線を施すための接続導体と、前記素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって各リード電極の端部を電気的機械的に接続されることにより前記パッケージ上に片持ち支持される上記圧電振動素子と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る圧電基板の製造方法は、請求項1に記載の圧電基板をフォトリソグラフィ技術により製造する方法であって、圧電原板を用意する工程と、前記圧電原板の前記被接続領域となる領域の前記接着剤収容部となる領域を除いた部分にフォトレジストによりマスクを施す工程と、前記圧電原板の振動領域と、フォトレジストによりマスクされていない被接続領域の一面を一括してエッチングする工程と、を順次実施することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る圧電基板の製造方法は、前記圧電原板はATカット水晶板から成り、ATカット水晶板の異方性を利用してエッチングすることにより前記被接続領域の一面に深い接着剤収容部を形成したことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る表面実装型圧電発振器は、上記圧電振動子と、発振回路部品と、を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)乃至(f)は本発明の一実施形態に係る圧電デバイスの一例としての水晶振動子の外観斜視図、縦断面図、金属蓋を除去した状態の平面図、要部縦断面図、(d)のA−A断面図、及び水晶振動素子単独の底面図である。
【図2】(a)及び(b)は厚肉の被接続領域の接着面(内部端子との対向面)に形成する凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部20の構成を示す底面図及びB−B断面図である。
【図3】(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る接着剤収容部の構成を示す底面図及びC−C断面図である。
【図4】(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る接着剤収容部の構成を示す底面図、及びD−D断面図である。
【図5】(a)(b)及び(c)は本発明に係る接着剤収容部を備えた水晶基板をフォトリソグラフィ技術により製造する工程を示す図である。
【図6】(a)乃至(e)は本発明に係る接着剤収容部を備えた水晶基板をフォトリソグラフィ技術により製造する他の工程を示す図である。
【図7】本発明に係る水晶振動素子をシームリングを使用したタイプのパッケージに適用した構成例を示す縦断面図である。
【図8】(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る水晶振動子の構成を示す縦断面図、及び要部平面図(蓋部材を取り外した状態の平面図)である。
【図9】図8の変形実施形態の要部平面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る水晶振動子に対して発振回路部品を組み付けることによって表面実装型の水晶発振器とした構成例を示す縦断面図である。
【図11】(a)(b)及び(c)は特許文献1に開示された従来の表面実装型の水晶振動子等の縦断面図、要部平面図、及び要部縦断面図である。
【図12】特許文献3に開示された従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)乃至(f)は本発明の一実施形態に係る圧電デバイスの一例としての水晶振動子の外観斜視図、縦断面図、金属蓋を除去した状態の平面図、要部縦断面図、(d)のA−A断面図、及び水晶振動素子単独の底面図である。
この水晶振動子(圧電振動子)1は、セラミック等の絶縁材料から成るパッケージ(絶縁容器)2の上面に形成されたキャビティ3の内底面に配置した内部端子(素子搭載用パッド)4上に導電性接着剤5を用いて水晶振動素子(圧電振動素子)10の一端部(被接続領域11b)を片持ち状態で支持し、キャビティ3の外枠上面に金属蓋(蓋部材)15を固定することによりキャビティ3を気密封止した構成を備えている。パッケージ外底面には、内部端子4等と導通した実装端子6、及び接地された実装端子6が配置されている。パッケージ2内には、実装端子6の何れかと内部端子4との間に所定の配線を施すための接続導体7、或いは何れかの実装端子6と接地部との間を接続する接続導体7が形成されている。
【0025】
また、水晶振動素子10は、水晶基板(圧電基板)11の表裏両面に夫々励振電極12と、各励振電極12から基板の一端縁に延びるリード電極13と、を形成した構成を備えている。リード電極13の端部には導電性接着剤5を介して内部端子4と接続されるパッド13aが配置されている。
水晶振動素子10を構成する水晶基板11は、励振電極12が形成される振動領域11aと、振動領域11aと連設一体化された厚肉の被接続領域(厚肉部)11bと、を備えている。この例では、被接続領域11bは水晶振動素子側の2つのパッド13aと対応した位置に夫々一対一で対応するように合計2個設けられている。被接続領域11bの下面には、エッチングにより凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部20が形成されている。即ち、接着剤収容部20が形成された被接続領域11bの下面、及び接着剤収容部20の内壁には、リード電極13の端部に位置するパッド13aを構成する金属膜が形成されている。
【0026】
上記の如き構成を備えた水晶基板11を使用した水晶振動素子10は、水晶基板11の表裏両面に夫々形成した励振電極12から基板の一端縁に向けて夫々引き出されたリード電極13の端部に位置するパッド13aを、厚肉の被接続領域11bの下面に形成すると共に、被接続領域11bの下面には接着剤収容部20を形成した構成を備えている。パッド13aを構成する金属膜は接着剤収容部20の内壁にまで延在していても差し支えない。
なお、例えば、図1(f)中に示すように被接続領域11bの一辺の寸法を0.2mm、他辺の寸法を0.3mmとした場合に、振動領域11aの厚みは60μm、被接続領域11bの厚みは100μmとする一方、凹部としての接着剤収容部の深さは60μmか、それよりも深くすることにより、より多くの接着剤を収容できるように構成する。
【0027】
接着剤収容部20内に収容できる導電性接着剤量を多くすることにより、接着剤による支持安定性を高めて耐衝撃性を高めると共に、接着剤の外周へのはみ出し量を低減して振動領域への付着による共振周波数の変動という不具合や、近接配置された導体との短絡による水晶振動子の電気的特性の低下という不具合を防止できる。
接着剤収容部20を凹部とした場合には導電性接着剤5が凹部の内奥部にまで入り込むことができずに凹部内奥部に空間(気泡)が形成される虞があるが、接着剤収容部20の天井面に貫通穴を形成したり、側壁に貫通穴を形成することにより(つまり、接着剤収容部20を貫通穴とすることにより)、接着剤を凹部の内奥部にまで浸透させることができる。なお、減圧下で導電性接着剤による接着を実施する場合には凹部の内奥部にまで接着剤を浸透させることができる。接着剤収容部20の側壁に貫通穴を形成する場合には、貫通穴を振動領域側や近接配置された導体側とは異なった位置に設けることにより、貫通穴から流出した接着剤が問題を惹起することがないように配慮する。
【0028】
図1(e)に示すように、被接続領域11bを突起状(厚肉部)に構成し、非突起面を介して離間配置することにより、一方の被接続領域11bの接着面とパッケージ側の内部端子(素子搭載用パッド)4との間で加圧された導電性接着剤5がはみ出しを起こしたとしても他方の被接続領域11bまで到達することがなくなる。
【0029】
以上のように本実施形態に係る水晶振動素子10(水晶基板11)においては、振動領域11aよりも肉厚が厚い被接続領域11bの下面適所に凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部20を形成し、この接着剤収容部内に導電性接着剤5の一部を収容することにより、キャビティ内底面と水晶振動素子下面との間に挟まれた導電性接着剤5の使用量を多くしている。このため、落下時の衝撃によって水晶振動素子に対して、接着剤による保持部を中心として上下方向(厚さ方向)へモーメントが発生したとしても、その応力を十分に吸収緩和することが可能となる。従って、接着剤の弾性変形による応力が残留することがなくなり、接着剤による水晶振動素子の保持部に変形が発生することがない。即ち、接着剤側での応力集中により水晶振動素子と導電性接着剤との接着部に微小な剥離や応力緩和が発生することがなくなり、導電性接着剤による水晶振動素子端部の保持状態が変わることに起因した、特性劣化(周波数変動、等価抵抗値の変化)が発生する虞がなくなる。
【0030】
更に、図1に示した構成例では、被接続領域11bの凸面(下面)21と内部端子4との間で導電性接着剤5を加圧したとしてもさほど多くの導電性接着剤が外周方向へ漏出することがない。特に、複数個(4個)の矩形の凹部から成る接着剤収容部20を環状部22が包囲しているので、外周方向への漏出量を低減することができ、導電性接着剤が振動領域11aに付着したり、近傍に位置する他の導体との間で短絡を起こす虞がなくなる。
なお、上記実施形態では、接着剤収容部20を、4個の正方形の凹部、或いは貫通穴から構成したがこれは一例に過ぎず、どのような形状の凹部、或いは貫通穴であってもよいし、個数に制限はない。
【0031】
次に、図2乃至図4は夫々接着剤収容部の変形例を示している。
まず、図2(a)及び(b)は厚肉の被接続領域11bの接着面(内部端子との対向面)に形成する凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部20の構成を示す底面図及び断面図であり、この実施形態に係る接着剤収容部20は、幅の狭い長方形の凹部、或いは貫通穴を2本(或いは2本以上)平行に配置した構成を備えている。この実施形態の接着剤収容部によれば、図1の構成例の接着剤収容部よりも多い量の接着剤を収容することが可能となる。
【0032】
図3(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る接着剤収容部20の構成を示す底面図及び断面図である。この実施形態に係る接着剤収容部20は、円形の凹部、或いは貫通穴から成るものである。接着剤収容部の構成がシンプルなのでエッチングによる加工が容易化すると共に、より多くの接着剤を保持することが可能となる。
【0033】
図4(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る接着剤収容部20の構成を示す底面図、及び断面図である。この実施形態に係る接着剤収容部20は、水晶基板11としてATカット水晶板を使用することを前提としており、ATカット水晶板の異方性を利用して他の実施形態に係る接着剤収容部よりも深くエッチングすることが可能となる。
水晶基板の面積が小さくなるとエッチング対象箇所となる被接続領域11bの面積も狭くなる。そのような場合に、図4に示した如く水晶基板の異方性を利用して幅の狭い凹部でありながら深いために接着剤収容量の多い接着剤収容部を形成することができる。
【0034】
次に、図5(a)(b)及び(c)は本発明に係る接着剤収容部を備えた水晶基板をフォトリソグラフィ技術により製造する工程を示す図である。ここでは、図1に示した水晶基板を製造する場合を一例として説明する。
図5(a)では厚さがtである平板状の水晶原板30を用意し、(b)では水晶原板30片面上の被接続領域11bに相当する範囲に、凹部となる領域を除いた凸面21(環状部22を含む)となる部分に沿ってフォトレジスト膜31を塗布する。(c)ではこの状態でフォトレジスト膜31によりマスクされていない水晶基板面をエッチングすることにより振動領域11aとなる範囲と、凹部となる範囲を厚さt’となるまで加工する。
【0035】
この製造方法によって製造された水晶基板11においては、振動領域11aとなる範囲と、凹部となる範囲が同等の厚さt’となる。
なお、t’>t1とすれば、凹部としての接着剤収容部の深さが図5(c)の場合よりも深くなるので、より多くの接着剤を収容することができる。また、t’<t1とすれば、被接続領域内の薄肉部が図5(c)の場合よりも厚くなるため、被接続領域の破損が生じにくくなる。
接着剤収容部20を貫通穴とする場合には、振動領域、及び凸面21及び環状部22をマスクした状態で、凹部の内底面が貫通するまでエッチングすればよい。もしくは被接続領域11bの下面側にもフォトレジスト膜31を塗布して、表裏両面から同時にエッチングを行えば、より短時間で貫通穴を形成することができる。
【0036】
次に、図6(a)乃至(e)は本発明に係る接着剤収容部を備えた水晶基板をフォトリソグラフィ技術により製造する他の工程を示す図である。ここでも、図1に示した水晶基板を製造する場合を一例として説明する。
図6(a)では厚さがtである平板状の水晶原板30を用意し、(b)では水晶原板30の片面上の被接続領域11bに相当する範囲に全面的にフォトレジスト膜31を塗布する。(c)ではマスクされていない振動領域11aの片面を所要の厚さt’’となるまでエッチングすることにより、振動領域11aだけを薄肉化した水晶原板30を形成する。(d)では水晶原板30の被接続領域11bに対して、凹部20となる領域を除いた凸面21(環状部22を含む)となる部分に沿ってフォトレジスト32を塗布する。(e)ではこの状態でフォトレジスト32によりマスクされていない被接続領域11bの基板面をエッチングすることにより振動領域11aが厚さt’となるまで加工する。
【0037】
この製造方法によって製造された水晶基板11においては、振動領域11aとなる範囲と、凹部となる範囲が異なった厚さとなる。従って、振動領域を所望の肉厚となるまで薄く加工することができる一方で、被接続領域11bに形成する凹部の深さを適切にコントロールすることにより被接続領域全体としての強度を高めることができる。
接着剤収容部20を貫通穴とする場合には、振動領域、及び凸面21及び環状部22をマスクした状態で、凹部の内底面が貫通するまでエッチングすればよい。もしくは被接続領域11bの下面側にもフォトレジスト膜32を塗布して、表裏両面から同時にエッチングを行えば、より短時間で貫通穴を形成することができる。
なお、図2乃至図4に示した他の実施形態に係る水晶基板11についても、図5或いは図6と同等の工程によって加工することができる。
上記工程によって製造された水晶基板11を用いて水晶振動素子10を製造する場合には、水晶基板11の両主面に励振電極12、リード電極13を形成する。
【0038】
次に、図7は本発明に係る水晶振動素子をシームリングを使用したタイプのパッケージに適用した構成例を示す縦断面図である。
この水晶振動子は、セラミックから成る平板状の底板40の上面の周縁に沿って形成したメタライズ膜41上に環状のシールリング42を導電性接着手段より立設固定すると共に、底板上に設けた内部端子43に対して導電性接着剤45により水晶振動素子10の一端部(被接続領域11b)下面を接着することにより片持ち支持したものである。この水晶振動子を構成するパッケージ2は、底板40と、メタライズ膜41と、シールリング42と、を備えている。
【0039】
水晶振動素子10として、図1、或いは図2乃至図4に示したタイプを使用することにより、接着剤使用量の増大による耐衝撃効果、及び導電性接着剤の外部への流出による不具合を解消できる。特に、この水晶振動子にあっては、内部端子43とシールリング42との間の距離が近接しているため、パッケージの小型化が進行するに連れて内部端子43とシールリング42との間の距離が更に接近するが、接着剤収容部20を備えた水晶振動素子(水晶基板)を利用して導電性接着剤の流出を防止することにより、内部端子とシールリングとの短絡による不具合(電気的特性の悪化)を解消することができる。
【0040】
次に、図8(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る水晶振動子の構成を示す縦断面図、及び要部平面図(蓋部材を取り外した状態の平面図)である。なお、上記各実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
この実施形態に係る水晶振動子は、水晶振動素子10(水晶基板11)の形状に特徴を有している。即ち、この実施形態に係る水晶振動素子10(水晶基板11)は、パッケージ2側に設けた内部端子(素子搭載用パッド)4上に水晶振動素子の被接続領域11bを接着する際に内部端子上に塗布された導電性接着剤5が水晶振動素子の振動領域11a側に流出することがないように接着剤堰き止め用の凸部50を形成することにより、凸部50の反対側に位置する非凸面51を接着剤収容部として利用した構成が特徴的である。
【0041】
この実施形態に係る凸部50は、水晶基板11の下面から直交して突出した単一の板状体であり、水晶基板の幅方向全長に沿って延在している。この凸部50は、各リード電極13の端部に位置する各パッド13aを回避した位置(振動領域11a側)に形成されている。従って、図示のように導電性接着剤5を用いて内部端子(素子搭載用パッド)4上に水晶基板端縁を接着する際に、導電性接着剤5が凸部50よりもパッド13a側に溜まるように作業することにより、導電性接着剤5が凸部50を超えて振動領域側へ流動することを防止できる。
【0042】
なお、この例では凸部50を水晶基板の幅方向全長に亘って延在する一本の長尺の板部材としたが、各内部端子4と対応した位置に一個ずつ短尺の凸部50を分割して配置するようにしてもよい。このように凸部50を短尺に構成して各内部端子4と振動領域11aとの間の領域に極限して配置することにより、凸部50が振動領域11aに干渉してその共振周波数に影響を与えることが少なくなる。
【0043】
次に図9は図8の変形実施形態の要部平面図であり、この実施形態に係る凸部50は短尺の板部材であり、各内部端子4と対応した位置に一個ずつ配置されることにより、水晶基板11により押し潰されて各内部端子4上から振動領域11a方向へ流動しようとする導電性接着剤を堰き止めるように構成している。この実施形態に係る凸部50は、水晶基板11の幅方向と平行ではなく、図示のように凸部50の内側端部がパッド13a側へ接近するように傾斜している。このように構成することにより凸部50が振動領域11aに干渉してその共振周波数を変動させる虞が更に低減されることとなる。
なお、上記実施形態では凸部50の直線状に構成したが、屈曲、或いは湾曲した形状として導電性接着剤の保持力を高めるようにしてもよい。
【0044】
次に、図10は本発明の一実施形態(図1の実施形態)に係る水晶振動子に対して発振回路部品(IC部品)を組み付けることによって表面実装型の水晶発振器(圧電発振器)とした構成例を示す縦断面図である。なお、水晶振動子を構成する各構成要素のうち図1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明する。
この水晶発振器60は、断面がH型のパッケージ(絶縁容器)61の上部キャビティ62内に水晶振動素子10を搭載すると共に、下部キャビティ63内に発振回路、温度補償回路等を構成するIC部品(ベアチップ)64を収容した構成を備えている。
水晶発振器60は厚肉の被接続領域11bの下面に接着剤収容部20を備えており、内部端子(素子搭載用パッド)4に対して導電性接着剤5によって接着固定されている。上部キャビティ62は金属蓋(蓋部材)15により気密封止されている。
下部キャビティ63を形成する外枠の下面には実装端子65が配置されている。下部キャビティ63の天井面にはIC部品64をフリップチップ実装するためのIC搭載用パッド66が形成されている。
【0045】
このように本発明の水晶振動素子10(水晶基板11)を備えた水晶振動子1は、IC部品64を付加することにより表面実装型水晶発振器を構築することができる。
なお、上記構成例は一例に過ぎず、IC部品をパッケージに組み付ける際の組付け構造は種々変形可能である。例えば、水晶振動子のキャビティ内にIC部品を収容することも可能である。
圧電振動子の一例として水晶振動子を例示したが、本発明は水晶以外の圧電材料を用いた圧電デバイス一般に適用することができる。
また、本発明に係る接着剤収容部を備えた圧電振動素子(圧電基板)の構造は、図示説明した如き平板状(短冊状)のタイプのみならず、振動領域が二股に分岐した音叉型、或いは厚肉の圧電基板の中央部に凹陥部を設けたタイプ等々、あらゆるタイプの圧電振動素子に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…水晶振動子、2…パッケージ、3…キャビティ、4…内部端子、5…導電性接着剤、6…実装端子、7…接続導体、10…水晶振動素子、11…水晶基板、11a…振動領域、11b…被接続領域、12…励振電極、13…リード電極、13a…パッド、20…接着剤収容部、21…凸面、22…環状部、30…水晶原板、31…フォトレジスト膜、32…フォトレジスト、40…底板、41…メタライズ膜、42…シールリング、43…内部端子、45…導電性接着剤、50…凸部、51…非凸面、60…水晶発振器、62…上部キャビティ、63…下部キャビティ、64…IC部品、65…実装端子、66…IC搭載用パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動領域と、該振動領域と連設一体化された被接続領域と、を備えた圧電基板であって、
前記被接続領域の一面には、凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部を形成したことを特徴とする圧電基板。
【請求項2】
圧電基板と、該圧電基板上に形成した励振電極と、該励振電極から圧電基板の一端縁に延びるリード電極と、を備えた圧電振動素子であって、
前記リード電極の端部を含む前記圧電基板の一端縁に沿った面に、凹部、或いは貫通穴から成る接着剤収容部を形成したことを特徴とする圧電振動素子。
【請求項3】
前記接着剤収容部は、前記リード電極の端部を含む前記圧電基板の一端縁に形成した厚肉部の接着剤との接着面に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の圧電振動素子。
【請求項4】
前記接着剤収容部は、厚肉の環状部によって包囲されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の圧電振動素子。
【請求項5】
前記接着剤収容部は、前記リード電極の端部を含む前記圧電基板の一端縁に沿った面に形成した接着剤堰き止め用の凸部と隣接した非凸面であることを特徴とする請求項2に記載の圧電振動素子。
【請求項6】
上面に圧電振動素子の各励振電極と電気的に接続するための2つの素子搭載用パッドを備えると共に、底部に実装端子を備えたパッケージと、
何れかの前記実装端子と前記素子搭載用パッドとの間に所定の配線を施すための接続導体と、
前記素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって各リード電極の端部を電気的機械的に接続されることにより前記パッケージ上に片持ち支持される請求項2乃至5の何れか一項に記載の圧電振動素子と、を備えたことを特徴とする表面実装型圧電振動子。
【請求項7】
少なくとも上面側キャビティを有すると共に、底部に実装端子を備えたパッケージと、 何れかの前記実装端子と前記素子搭載用パッドとの間に所定の配線を施すための接続導体と、
前記素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって各リード電極の端部を電気的機械的に接続されることにより前記パッケージ上に片持ち支持される請求項2乃至5の何れか一項に記載の圧電振動素子と、を備えたことを特徴とする表面実装型圧電振動子。
【請求項8】
上面に圧電振動素子の各励振電極と電気的に接続するための2つの素子搭載用パッドを備えると共に、底部に実装端子を備えたパッケージと、
前記パッケージの上面の周縁に沿って立設された環状のシールリングと、
何れかの前記実装端子と前記素子搭載用パッドとの間に所定の配線を施すための接続導体と、
前記素子搭載用パッド上に導電性接着剤によって各リード電極の端部を電気的機械的に接続されることにより前記パッケージ上に片持ち支持される請求項2乃至5の何れか一項に記載の圧電振動素子と、を備えたことを特徴とする表面実装型圧電振動子。
【請求項9】
請求項1に記載の圧電基板をフォトリソグラフィ技術により製造する方法であって、
圧電原板を用意する工程と、
前記圧電原板の前記被接続領域となる領域の前記接着剤収容部となる領域を除いた部分にフォトレジストによりマスクを施す工程と、
前記圧電原板の振動領域と、フォトレジストによりマスクされていない被接続領域の一面を一括してエッチングする工程と、を順次実施することを特徴とする圧電基板の製造方法。
【請求項10】
前記圧電原板はATカット水晶板から成り、ATカット水晶板の異方性を利用してエッチングすることにより前記被接続領域の一面に深い接着剤収容部を形成したことを特徴とする請求項9に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項11】
請求項6、7又は8に記載の表面実装型圧電振動子と、発振回路部品と、を備えたことを特徴とする表面実装型圧電発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−250478(P2011−250478A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191493(P2011−191493)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【分割の表示】特願2006−115424(P2006−115424)の分割
【原出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】