説明

接着剤組成物およびそれを用いた接着剤シート

【課題】長期高温耐性に優れた接着剤組成物およびそれを用いた接着剤シートを提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む接着剤組成物であって、示差走査熱量測定による硬化反応率70〜100%の範囲に硬化させた時に、熱硬化性樹脂を主成分とする島A(17)、熱可塑性樹脂を主成分とする島B(19)および海C(18)を含む海島構造を有し、かつ島Aと島Bが接触していることを特徴とする接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物および接着剤シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・高密度化が急速に進んでいる。電子機器に用いられる接着剤組成物は、最終的に接着剤としてパッケージ内に残留することが多いため、接着性、耐熱性、絶縁性等の諸特性を満たすことが要求されている。
【0003】
最近、特にパワーデバイス分野において、半導体チップとして従来用いられていたシリコン(Si)ウエハに代わり、SiC(炭化ケイ素)を用いた検討が進められている。SiCは電気特性に優れているので、単位面積にかけられる電圧はSiよりも高くなり、それに伴い、単位面積にかかる温度も高くなる。従って、接着剤にも200℃を超える高い耐熱性が求められ、さらにその温度で長時間(最大で1000時間程度)耐えることのできる長期高温耐性が要求されている。
【0004】
これまでに、パッケージ高信頼性を有する接着部材として、高接着性と高樹脂流動性を特性とする2種類の接着剤層を有する接着部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、耐熱性、接着性等に優れる接着剤組成物として、エポキシ樹脂、高分子量成分およびイミダゾール化合物を含有し、硬化後にエポキシ樹脂と高分子量成分が相分離して海島構造を形成する接着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これら公知の接着剤組成物では、上述のような長時間にわたる高温耐性は不十分であった。
【特許文献1】特開2003−96426号公報
【特許文献2】特開2005−154687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、長期高温耐性に優れた接着剤組成物およびそれを用いた接着剤シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む接着剤組成物であって、示差走査熱量測定による硬化反応率70〜100%の範囲に硬化させた時に、熱硬化性樹脂を主成分とする島A、熱可塑性樹脂を主成分とする島Bおよび海Cを含む海島構造を有し、かつ島Aと島Bが接触していることを特徴とする接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着剤組成物は、長期間にわたる高温条件下でも優れた耐熱性を有する。このため、本発明の接着剤組成物を用いた電子部品の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の接着剤組成物は、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含み、示差走査熱量測定による硬化反応率70〜100%の範囲に硬化させた時に、熱硬化性樹脂を主成分とする島A、熱可塑性樹脂を主成分とする島B、および海Cを含む海島構造を有し、かつ島Aと島Bが接触していることを特徴とする。硬化後に海/島相分離構造を形成し、熱硬化性樹脂を主成分とする島Aに熱可塑性樹脂を主成分とする島Bが接触することにより、高温条件下で島Aの界面に発生する歪みを島Bとの接触により緩和することができる。さらに、熱硬化性樹脂成分の凝集を抑制することができ、長期高温耐性、特にサーマルサイクル性を飛躍的に向上させることができるものと考えられる。なお、ここでいう主成分とは、対象とする島または海を構成する成分に対して50重量%以上を占める成分のことをいう。
【0010】
以下、本発明における接着剤組成物の硬化後の海島構造の観察方法について説明する。
【0011】
まず、接着剤組成物を、示差走査熱量測定による硬化反応率70〜100%の範囲に硬化させる。硬化反応率は、接着剤組成物の加熱温度、加熱時間を適宜調整することによって、70〜100%の範囲にすることができる。
【0012】
示差走査熱量測定による硬化反応率は、硬化前の試料の発熱量Q1(mJ/mg)と硬化後の試料の発熱量Q2(mJ/mg)を測定し、反応率(%)=((Q1−Q2)/Q1)×100により求めることができる。発熱量は、装置セイコーインスツルメンツ(現SIIナノテクノロジー(株))製DSC6200、温度25℃〜350℃、昇温速度10℃/分、試料量約10mg、Al製オープンパン使用、窒素ガスフロー40℃/分にて測定できる。
【0013】
次に、硬化させた接着剤組成物を、ルテニウム酸染色法により高分子成分を染色する。横幅100μm以上900μm以下、縦幅100μm以下の超薄切片のサンプルを切り出し、透過型電子顕微鏡(例えば、日立製H−7100FA型)によって、加速電圧100kV、倍率1万〜4万倍で観察する。得られた観測画面から任意で選んだ5μm平方部分の相分離構造を観察する。
【0014】
図4に、透過型電子顕微鏡写真の例を示す。シリコーン樹脂を主成分とする海C18の中に、熱硬化性樹脂を主成分とする島A17および熱可塑性樹脂を主成分とする島B19が存在し、島Aと島Bが接触している。
【0015】
本発明において、島Aは熱硬化性樹脂を主成分とし、島Bは熱可塑性樹脂を主成分とする。海Cは島A、島Bと相分離構造を形成するものであれば特に限定されない。海島構造を有することで、接着剤組成物のクラック防止効果や熱による接着剤組成物の変形防止効果が期待できる。さらに、熱硬化性樹脂を主成分とする島Aと熱可塑性樹脂を主成分とする島Bを有し、島Aの少なくとも一部に島Bが接触することにより、熱可塑性樹脂の応力緩和作用によって、島Aの界面にかかる歪みを島Bが緩和することができるため、急激な温度変化にも接着剤組成物の破壊を抑制し、サーマルサイクル性や接着性などの長期高温耐性を向上させることができる。また、熱硬化性樹脂成分の凝集を抑制し、分散性を向上させることができるため、サーマルサイクル性を飛躍的に向上させることができる。
【0016】
単一の島Aに複数の島Bが接触していることが好ましく、島Aの界面にかかる歪みを島Bが充分に緩和し、サーマルサイクル性および接着性の長期高温耐性をさらに向上させることができる。また、島Aと島Bとの接触部分が多い場合、島Aの界面にかかる歪みを島Bが充分に緩和し、サーマルサイクル性および接着性の長期高温耐性をさらに向上させることができる。したがって、島Aの外周長さの10%以上が島Bと接触していることが好ましい。なお、単一の島Aに接触する島Bの数は、前記条件で透過型電子顕微鏡により得られる観測画面から任意で選んだ10個の島Aを観察し、それぞれの島Aに接触している島Bの数の平均値とする。また、島Bの外周長さのうち島Bと接触している部分の長さの割合は、前記条件で透過型電子顕微鏡により得られる観測画面から、任意で選んだ10個の島Aの外周長さと、外周のうち島Bと接触している部分の長さを測定して外周長さに対する接触部分の割合を求め、その平均値とする。
【0017】
また、接着剤組成物に無機質充填剤を含有する場合、上述した相分離構造において無機質充填剤が島Aに局在することが好ましい。例えば図4を例にとると、無機質充填剤20が、熱硬化性樹脂を主成分とする島A17に局在していることが観察できる。島Aに無機質充填剤が局在化することで熱可塑性樹脂の応力緩和性を保持できるため、耐リフロー性を損なうことなく、初期接着力、接着耐久性およびサーマルサイクル性をより向上させることができる。ここで、無機質充填剤が島Aに局在するとは、無機質充填剤の半数以上が島Aに存在することを示す。
【0018】
各相を構成する成分を特定するためには、モデル実験が有効である。例えば、特定したい成分を除いた接着剤組成物と、含んだ接着剤組成物との構造を比較することにより、特定したい成分がどの相を構成しているかを求めることができる。
【0019】
次に、本発明の接着剤組成物の組成について説明する。本発明の接着剤組成物は、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む。熱硬化性樹脂は、接着剤組成物のサーマルサイクル性および接着性の長期高温耐性、高温における絶縁性、耐薬品性、機械強度等のバランスを実現する機能を有する。硬化後に島Aを形成する熱硬化性樹脂を少なくとも1種含有すればよく、その種類は特に限定されない。また、熱可塑性樹脂は、可撓性、熱応力の緩和、低吸水性による絶縁性の向上等の機能を有する。硬化後に島Bを形成する熱可塑性樹脂を少なくとも1種含有すればよく、その種類は特に限定されない。
【0020】
前述の相分離構造を得るためには、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂が非相溶性であることが好ましい。さらに、熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂と反応する官能基を含有していることが好ましい。ここで、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂が非相溶であるか否かは、次にようにして判断する。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を重量比1/1で溶剤に溶解し、基材に塗布する。溶剤を乾燥して塗膜を形成後、170℃で2時間加熱処理した塗膜のヘイズを測定し、ヘイズが10%以上の場合、非相溶とする。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、シアン酸エステル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂は絶縁性に優れるので好適である。特に、接着性組成物の硬化後の架橋密度を高め、耐リフロー性、接着性および高温条件下における絶縁信頼性が向上することから、エポキシ樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂が島Aの主成分であることが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂は1分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限されない。例えば、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、レゾルシノール、ジヒドロキシナフタレン、ジシクロペンタジエンジフェノール、ジシクロペンタジエンジキシレノール等のジグリシジルエーテル、エポキシ化フェノールノボラック、エポキシ化クレゾールノボラック、エポキシ化トリスフェニロールメタン、エポキシ化テトラフェニロールエタン、エポキシ化メタキシレンジアミン、シクロヘキサンエポキサイド等の脂環式エポキシ等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。その中でも、接着剤組成物の架橋密度を高めるために、1分子内に3個以上のエポキシ基を有するものが好ましく用いられる。多官能エポキシ樹脂を用いて架橋密度を高くすることにより、耐熱性、耐リフロー性、膜強度、耐溶剤性に優れた接着剤組成物を得ることができる。
【0023】
多官能エポキシ樹脂としては、オルソクレゾールノボラック型:具体的にはJER(ジャパンエポキシレジン(株))製E180H65、住友化学(株)製ESCN195、日本化薬(株)製EOCN1020、EOCN102S、103S、104S等、DPPノボラック型:具体的にはJER製E157S65等、トリスヒドロキシフェニルメタン型:具体的には日本化薬(株)製EPPN501H、JER製E1032等、テトラフェニロールエタン型:具体的にはJER製E1031S等、ジシクロペンタジエンフェノール型:具体的にはDIC(大日本インキ化学工業(株))製HP7200等、その他ナフタレン構造を有する多官能エポキシ樹脂、新日鐵化学(株)製ESN、特殊骨格を持つJER製YL6241等が挙げられる。
【0024】
さらに、難燃性付与のために、ハロゲン化エポキシ樹脂、特に臭素化エポキシ樹脂を用いることが有効である。接着剤組成物の耐熱性と難燃性の両立の観点から、臭素化エポキシ樹脂と非臭素化エポキシ樹脂を含有することが有効である。臭素化エポキシ樹脂の例としては、テトラブロモビスフェノールAとビスフェノールAの共重合型エポキシ樹脂、あるいは“BREN”−S(日本化薬(株)製)等の臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの臭素化エポキシ樹脂は、臭素含有量およびエポキシ当量を考慮して2種以上用いてもよい。また、最近では環境影響の観点から、ハロゲンを含まないタイプのエポキシ樹脂、具体的にはリン含有エポキシ樹脂、窒素含有エポキシ樹脂も多く用いられている。難燃性付与のために、これらのエポキシ樹脂を用いてもよい。
【0025】
フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。特にレゾール型フェノール樹脂が好ましい。レゾール型フェノール樹脂はメチロール基を有し自己硬化反応するため、耐熱性、絶縁信頼性がより向上する。フェノール樹脂の具体例としては、フェノール、クレゾール、p−t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、p−フェニルフェノール等のアルキル置換フェノール、テルペン、ジシクロペンタジエン等の環状アルキル変性フェノール、ニトロ基、ハロゲン基、シアノ基、アミノ基等のヘテロ原子を含む官能基を有するもの、ナフタレン、アントラセン等の骨格を有するもの、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、レゾルシノール、ピロガロール等の多官能性フェノールや、2種以上の異なる構造を有するフェノール化合物の共縮合体等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、アルキル置換基を有するフェノール化合物と架橋反応点を有するフェノール化合物を共縮合したものが特に好ましい。架橋反応点をもつレゾール樹脂はオルト位およびパラ位に反応点を有するため、三次元的なネットワークを形成し、絶縁信頼性をより向上させることができる。一方、アルキル置換基を有するレゾール樹脂は、線状に高分子量化することができるため可撓性を有し、初期接着力をより向上することができる。架橋反応点を有するレゾール樹脂としては、例えば、フェノールレゾール、ビスフェノールAレゾール、m−クレゾールレゾール、p−フェニルフェノール等を挙げることができる。
【0026】
本発明において、熱硬化性樹脂の含有量は、溶剤を除く接着剤組成物中4重量%以上であると、高温条件下での弾性率を適切に保つことができる。したがって、例えば半導体集積回路接続用基板に用いた場合、半導体を実装した機器の使用中に半導体集積回路接続用基板の変形を抑制することができ、また、加工工程における取り扱い性に優れるため好ましい。より好ましくは20重量%以上である。一方、熱硬化性樹脂の含有量が、溶剤を除く接着剤組成物中80重量%以下であると、弾性率および線膨張係数を適切に保つことができるため好ましい。より好ましくは50重量%以下である。
【0027】
本発明の接着剤組成物にエポキシ樹脂およびフェノール樹脂の硬化剤および硬化促進剤を含有することは何等制限されない。例えば、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’,3,3’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4,4’−トリアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯体等の三フッ化ホウ素のアミン錯体、2−アルキル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−アルキルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、無水フタル酸、無水トリメリット酸等の有機酸、ジシアンジアミド、トリフェニルフォスフィン等を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。含有量は溶剤を除く接着剤組成物中0.1〜50重量%であると好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂(ABS)、シリコーン樹脂、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン−エチレン樹脂(SEBS)、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン等が例示される。これらは微粒子状であってもよい。特に、アクリル樹脂は、接着剤組成物の可撓性を向上させ、配線基板層等の素材との初期接着力、熱応力の緩和効果に優れるため特に好ましく、アクリル樹脂が島Bの主成分であることが好ましい。
【0029】
また、これらの熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂との反応が可能な官能基を有していてもよい。具体的には、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、ビニル基、シラノール基等である。これらの官能基により熱硬化性樹脂との結合が強固になり、接着性の長期高温耐性が向上するので好ましい。官能基含有量は、0.07eq/kg以上0.7eq/kg以下が好ましく、より好ましくは0.07eq/kg以上0.45eq/kg以下、さらに好ましくは、0.07eq/kg以上0.14eq/kg以下である。また、長時間加熱後の可撓性の観点から、重量平均分子量(Mw)は好ましくは30万以上、より好ましくは50万以上、より好ましくは100万以上、さらに好ましくは120万以上でありガラス転移温度(Tg)は好ましくは20℃以下、より好ましくは0℃以下、より好ましくは−20℃である。この範囲にすることにより、長時間加熱後の可撓性に優れる組成物を得ることができる。熱可塑性樹脂を2種以上用いる場合、その内の少なくとも1種がこの範囲を満たしていればよい。本発明における重量平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定し、ポリスチレン換算で算出したものをいう。Tgは示差走査熱量測定により算出する。
【0030】
また、本発明の接着剤組成物は、シリコーン樹脂を含有することが好ましい。シリコーン樹脂は、前述のエポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂と相分離し、海Cを形成する成分となる。
【0031】
シリコーン樹脂としては、シリコーンレジンがある。シリコーンレジンとは、シリコーンオイルが2官能性シロキサンであるのに対して、3官能性または4官能性のシロキサン単位を主成分とする3次元網目構造を有するシリコーンである。シリコーンレジンは、特に限定されず、1)2官能性シロキサン単位と3官能性シロキサン単位を組み合わせたもの、2)3官能性シロキサン単位のみからなるものなどがある。これらは微粒子状であってもよい。サーマルサイクル性、可撓性をより向上させる観点から、少なくとも3官能性シロキサン単位と2官能性シロキサン単位を有することが好ましく、2官能性シロキサン単位/3官能性シロキサン単位(モル比)が1を超えることがより好ましい。本発明において、シリコーン樹脂は、フェニル基、アルキル基、オキセタニル基、ビニル基、水酸基、アルコキシ基等を有する有機基を有することが好ましい。その中でも、耐熱性、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂との相溶性の観点から、フェニル基、メチル基、プロピル基を有するものが好ましい。シリコーン中の各3官能性シロキサン単位において、有機基は単一であっても、2種以上であってもよいが、耐熱性、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂との相溶性、高い架橋密度を両立させる点で、フェニル基を有することがより好ましい。フェニル基を含有する場合、他の熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、フェニル基含有量は有機基の5mol%以上が好まく、より好ましくは10mol%以上である。
【0032】
本発明において、熱可塑性樹脂の含有量は、溶剤を除く接着剤組成物中5重量%以上が好ましく、8重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、80重量%以下が好ましく、70重量%がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましい。この範囲であれば、可撓性、サーマルサイクル性および接着性の長期高温耐性を高く維持できるので好ましい。また、熱可塑性樹脂のうち、シリコーン樹脂の含有量は、サーマルサイクル性および接着性の長期高温耐性をより向上させる観点から、溶剤を除く接着剤組成物中2重量%以上が好ましく、4重量%以上がより好ましい。また、被着体との接着力、形状維持の観点から、60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。
【0033】
本発明の接着剤組成物は、さらに無機質充填剤を含有することが好ましい。無機質充填剤を含有することにより、耐リフロー性、打ち抜き性等の加工性、熱伝導性、難燃性を一層向上させることができる。無機質充填剤は接着剤の特性を損なうものでなければ特に限定されない。具体例としては、シリカ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化チタン、窒化硼素、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムやカルシウム−アルミネート水和物等の金属水酸化物、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化鉄等の金属酸化物、炭酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホウ酸マブネシウム、ケイ酸カルシウム等の金属塩、金、銀、銅、鉄、ニッケル、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の導電性充填剤、ガラス等の充填剤が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でも、シリカ、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムが好ましく用いられる。ここで、シリカは非晶、結晶のいずれであってもよく、それぞれのもつ特性に応じて適宜使いわけることを限定するものではない。これらの無機質充填剤に耐熱性、接着性等の向上を目的としてシランカップリング剤等を用いて表面処理を施してもよい。シランカップリング剤は後述のものを用いることができる。
【0034】
無機質充填剤の形状は特に限定されず、破砕系、球状、鱗片状等が用いられるが、破砕系が好ましい。ここでいう破砕とは、球状でない(丸みをおびていない)形状のものを言う。無機質充填剤の粒径は特に限定されないが、分散性および塗工性、耐リフロー、サーマルサイクル性等の信頼性の点で、平均粒径3μm以下、最大粒径10μm以下のものが好ましく用いられる。また、流動性、分散性の点から、平均粒径の異なる無機質充填剤を併用してもよい。なお、粒径の測定は、堀場LA500レーザー回折式粒度分布計で測定することができる。ここでいう平均粒径とは、球相当体積を基準とした粒度分布を測定し、累積分布をパーセント(%)で表した時の50%に相当する粒子径(メジアン径)で定義される。粒度分布は、体積基準で粒子径表示が56分割片対数表示(0.1〜200μm)するものとする。また、最大粒径は平均粒径で定義した粒度分布において、累積分布をパーセント(%)で表した時の100%に相当する粒子径で定義される。また、測定試料は、イオン交換水中に、白濁する程度に粒子を入れ、10分間超音波分散を行うものとする。また、屈折率1.1、光透過度を基準値(約70%程度、装置内で既に設定されている)に合わせて測定を行う。
【0035】
無機質充填剤の含有量は溶剤を除く接着剤組成物中2〜60重量%が好ましく、5〜50重量%がより好ましい。
【0036】
本発明において、接着剤層にシランカップリング剤を含有することにより、銅をはじめとした種々の金属やガラスエポキシ基板等のリジッド基板等との接着力の向上をはかることができる。シランカップリング剤としては下式(1)で表されるものが挙げられる。
【0037】
【化1】

【0038】
Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基およびそれらの少なくとも一つの官能基で置換された炭素数1〜6のアルキル基から選ばれる。RはCH、C、CHOCの中から選ばれ、その中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0039】
以上の成分以外に、接着剤の特性を損なわない範囲で酸化防止剤、イオン捕捉剤等の有機、無機成分を含有することは何ら制限されるものではない。
【0040】
酸化防止剤としては、酸化防止の機能を付与するものであれば特に限定されず、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤が挙げられる。例えばNBRゴムなど二重結合を含む樹脂の場合、高温で長時間放置すると二重結合部分の架橋が徐々に進行し、接着剤層が脆くなる傾向があるが、酸化防止剤を使用することにより、これらの反応を抑えることができる点で有効である。
【0041】
イオン捕捉剤としては、無機質充填剤とは異なる無機イオン交換体が多く使われる。イオン捕捉剤を使用することにより、絶縁層用途で使用した場合、配線のマイグレーションを防ぐとともに、絶縁抵抗低下を抑制することができる。無機イオン交換体は、(i)イオン選択性が大きく、2種以上のイオンが共存する系より特定のイオンを分離することができる、(ii)耐熱性に優れる、(iii)有機溶剤、樹脂に対して安定である、(iv)耐酸化性に優れることから、イオン性不純物の捕捉に有効であり、絶縁抵抗の低下抑制、アルミ配線の腐食防止、イオンマイグレーションの発生防止などが期待できる。種類は非常に多く、1)アルミノケイ酸塩(天然ゼオライト、合成ゼオライト、カオリン等)、2)水酸化物または含水酸化物(含水酸化チタン、含水酸化ビスマス等)、3)酸性塩(リン酸ジルコニウム、リン酸チタン等)、4)塩基性塩、複合含水酸化物(ハイドロタルサイト類、タルク等)、5)ヘテロポリ酸類(モリブドリン酸アンモニウム等)、6)ヘキサシアノ鉄(III)塩等(ヘキサシアノ亜鉛等)、7)その他、等に分類できる。商品名としては、東亜合成(株)製のIXE−100、IXE−300、IXE−500、IXE−530、IXE−550、IXE−600、IXE−633、IXE−700、IXE−700F、IXE−800が挙げられる。陽イオン交換体、陰イオン交換体、両イオン交換体があるが、接着剤組成物中には陽、陰両方のイオン性不純物が存在することから、両イオン交換体が好ましい。
【0042】
本発明の接着剤組成物は、溶剤を含有してもよい。溶剤としては、特に限定されないがトルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン等の非プロトン系極性溶剤が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0043】
以下に本発明の接着剤組成物の製造方法について例を挙げて説明する。無機質充填剤を含有する場合には無機質充填剤をトルエン等の溶剤と混合した後、ボールミル処理して分散液を作製する。これに各熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、必要により硬化促進剤および溶剤を加え、例えば30℃で30分以上、好ましくは1〜8時間撹拌することにより、接着剤組成物の溶液が得られる。
【0044】
また、前述の海/島相分離構造を形成する接着剤組成物の好ましい製造方法を以下に例示する。<1>熱硬化性樹脂と、アクリル樹脂、必要により硬化促進剤を溶剤存在下で、例えば60〜100℃で1〜12時間撹拌する。この段階では、熱硬化性樹脂とアクリル樹脂の反応率が5〜50%になるように調整する。次いで<2>硬化剤、シリコーン樹脂、必要により硬化促進剤、その他成分および追加溶剤を加えて、例えば30℃で1〜8時間撹拌することにより、接着剤組成物の溶液を得る。なお、熱硬化性樹脂とアクリル樹脂の反応率は、反応前の試料の発熱量Q3(mJ/mg)と反応後の発熱量Q4(mJ/mg)を示差走査熱量測定により求め、反応率(%)=((Q3−Q4)/Q3)×100により求めることができる。ここで、反応前の試料は、<1>に用いた熱硬化性樹脂とアクリル樹脂を溶剤存在下で40℃以下にて撹拌し、樹脂が溶解した時点のものを用いる。反応後の試料は、前記<1>の段階の試料を指す。反応前後の溶液をそれぞれ50℃以下で減圧乾燥することにより析出した固形分を、示差走査熱量装置にて測定する。測定条件は前記記載の硬化反応率測定時と同様とする。
【0045】
また、接着剤組成物が無機質充填剤を含有する場合、無機質充填剤を島Aに局在化させるためには、次の製造方法が好ましい。<1>無機質充填剤を溶剤と混合した後、ボールミル処理して分散剤を作製する。<2>熱硬化性樹脂、必要により硬化促進剤を加え、溶剤存在下で、例えば60〜100℃で1〜12時間撹拌する。この段階では、熱硬化性樹脂の反応率が5〜30%になるように調整する。次いで<3>熱硬化性樹脂と非相溶のアクリル樹脂を加え、例えば60〜100℃で1〜12時間撹拌する。この段階では、熱硬化性樹脂とアクリル樹脂との反応率が5〜50%になるように調整する。次いで<4>硬化剤、シリコーン樹脂、必要により硬化促進剤、その他成分および追加溶剤を加えて、例えば30℃で1〜8時間撹拌することにより、接着剤組成物の溶液を得る。この方法において、<1>の段階の反応率、<2>の段階の反応率も、前記と同様に示差走査熱量測定にて算出する。なお、<2>の段階における反応率測定に用いる反応前の試料は、無機質充填剤と熱硬化性樹脂を溶剤存在下で40℃以下にて撹拌し、樹脂が溶解した時点のものを用いる。反応後の試料は、前記<2>の段階の試料を指す。また、<3>の段階における反応率測定に用いる反応前の試料は、<2>で得られた溶液にアクリル樹脂を添加して40℃以下にて撹拌し、アクリル樹脂が溶解した時点のものを用いる。反応後の試料は、前記<3>の段階の試料を指す。これらの反応前後の溶液をそれぞれ50℃以下で減圧乾燥することにより析出した固形分を、示差走査熱量装置にて測定する。測定条件は前記と同様である。
【0046】
本発明の接着剤シートは、本発明の接着剤組成物から形成される接着剤層と、少なくとも1層の剥離可能な保護フィルムを有する。例えば、保護フィルム/接着剤層の2層構成、保護フィルム/接着剤層/保護フィルムの3層構成がこれに該当する。接着剤層の厚みは、弾性率および線膨張係数との関係で適宜選択できるが、2〜500μmが好ましく、より好ましくは20〜200μmである。
【0047】
接着剤シートは加熱処理により硬化前、いわゆるBステージ状態での接着剤層の硬化度を調節してもよい。硬化度の調節は、接着剤シートを配線基板あるいはICに接着する際の接着剤のフロー過多を防止するとともに、加熱硬化時の水分による発泡を防止する効果がある。
【0048】
保護フィルムは、接着剤層の形態および機能を損なうことなく剥離できれば特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、シリコーンゴム等のプラスチックフィルム、これらにシリコーンあるいはフッ素化合物等の離型剤のコーティング処理を施したフィルムおよびこれらのフィルムをラミネートした紙、離型性のある樹脂を含浸あるいはコーティングした紙等が挙げられる。保護フィルムは着色されていてもよい。保護フィルムを剥離したかどうか目で見て確認することができるため、剥がし忘れを防ぐことができる。
【0049】
接着剤層の両面に保護フィルムを有する場合、それぞれの保護フィルムの接着剤層に対する剥離力をF、F(F>F)としたとき、F−Fは好ましくは5Nm−1以上、さらに好ましくは15Nm−1以上である。この範囲にすることで、保護フィルムを片側ずつ安定して剥離することができる。剥離力FおよびFはいずれも好ましくは1〜200Nm−1、さらに好ましくは3〜100Nm−1である。1Nm−1以上であれば、保護フィルムの脱落を防ぐことができ、200Nm−1以下であれば安定して剥離することができる。
【0050】
本発明の接着剤組成物および接着剤シートは、(1)ヒートスプレッダー(放熱板)、スティフナー(補強板)、半導体素子や配線基板(インターポーザー)用半導体集積回路を実装する際に用いられる、テープオートメーテッドボンディング(TAB)方式のパターン加工テープやボールグリッドアレイ(BGA)パッケージ用インターポーザー等の半導体接続用基板、(2)リードフレーム固定テープやリードオンチップ(LOC)固定テープ、(3)半導体素子、光半導体等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板などの支持部材とを接着するダイボンディング材、(4)ヒートスプレッダー、スティフナーおよびシールド材等の接着剤、(5)電子デバイスの封止材、(6)光路結合用接着剤、光部品組み立て接着剤およびLED(Light Emitting Diode)用封止剤等の光学用接着剤、(7)ソルダーレジスト、異方導電性フィルム、銅張り積層板、カバーレイ、回路間の絶縁層等の各種の電子材料に好適に用いられる。被着体の形状および材料は特に限定されない。
【0051】
中でも、本発明の接着剤組成物および接着剤シートは、パワーデバイス用絶縁層または接着剤層として、特に好適に用いることができる。
【0052】
図1に、本発明の接着剤シートを使用したBGA方式の半導体装置の一態様の断面図を示す。シリコン等の半導体基板上に素子が形成された後、切り分けられた半導体集積回路(ベアチップ)1が、接着剤層2により、半導体集積回路接続用基板に接着されている。半導体集積回路接続用基板は、絶縁体層3の片面または両面に導体パターン4を有する。この導体パターン4は、ベアチップの電極パッドとパッケージの外部(プリンと基板、TABテープ等)を接続するために用いられる。また、半導体集積回路1と半導体集積回路接続用基板は、ボンディングワイヤー5により接続される。導体パターン4に半田ボール6が実装され、半導体集積回路1と半導体集積回路接続用基板のボンディングワイヤー5の接続部分が封止樹脂7により封止されている。
【0053】
本発明の接着剤シートは、特に面実装方式の電子部品に好適に用いられる。基板上に、第一の導電層と、半導体集積回路と、第一の導電層の少なくとも一部および半導体集積回路の少なくとも一部と接する接着剤層と、第一の導電層および半導体集積回路を接続する第二の導電層とを有する構造である。
【0054】
図2に、本発明の接着剤シートを使用した面実装方式の電子部品の一態様の断面図を示す。セラミックス基板9の両面に、第一の導電層8a、8bおよび8cが配置され、導電層8b上に半導体集積回路12が積層されている。半導体集積回路12上には、半導体集積回路12の一部と接する接着剤層10aおよび10bが積層されている。一方、第一の導電層8c上には、第一の導電層8cの一部と接する接着剤層10bおよび10cが積層されている。また、半導体集積回路12と第一の導電層8cは、第二の導電層11で接続されている。本構造の特徴は、ワイヤーボンディングとは異なり面接続されているため、長期高温下に曝されても接続信頼性が高い点にある。例えば、半導体集積回路12がSiC、GaN等であれば、200℃以上の長期信頼性が求められる。従来のワイヤーボンディングの場合、ワイヤー部分が熱機械応力のために亀裂が入ったり切断したりする場合があった。しかし、面実装方式の電子部品であれば、第二の導電層11が面接続されているため、高い接続信頼性が得られる。
【0055】
長期間にわたる高温条件下でも優れた耐熱性を示す本発明の接着剤組成物または接着剤シートを、このような面実装方式の電子部品に用いることにより、最大限の性能が引き出すことが可能になる。また、本発明の接着剤シートは接着剤層の流動性が高く、熱ラミネートにより凹凸に追従するため、面実装方式において良好なラミネート性が得られるのも特徴の一つである。
【0056】
次に本発明の接着剤組成物を用いた接着剤シートおよび電子部品の製造方法の例について説明する。
【0057】
(1)接着剤シート
(a)本発明の接着剤組成物を溶剤に溶解した塗料を、離型性を有するポリエステルフィルム上に塗布、乾燥し、接着剤層を形成する。乾燥条件は、100〜200℃、1〜5分が一般的である。
【0058】
(b)(a)で形成した接着剤層に上記よりさらに剥離強度の弱い離型性を有するポリエステルあるいはポリオレフィン系の保護フィルムをラミネートして本発明の接着剤シートを得る。さらに接着剤層厚みを増す場合は、上記(a)に記載の方法を繰り返すことにより、接着剤層を複数回積層すればよい。ラミネート後に、例えば30〜70℃で20〜200時間程度熱処理して硬化度を調節してもよい。
【0059】
(2)電子部品
(A)BGA方式の半導体装置
(a)TAB用接着剤付きテープに12〜35μmの電解銅箔を、130〜170℃、0.1〜0.5MPaの条件でラミネートする。続いてエアオーブン中で80〜170℃の順次加熱キュア処理を行い、銅箔付きTAB用テープを作製する。得られた銅箔付きTAB用テープの銅箔面に常法によりフォトレジスト膜形成、エッチング、レジスト剥離、電解ニッケルメッキ、電解金メッキ、ソルダーレジスト膜作製をそれぞれ行い、半導体集積回路接続用基板を作製する。
【0060】
導体パターンの形成は、サブトラクティブ法またはアディティブ法のいずれを用いてもよい。サブトラクティブ法では、絶縁体層に銅箔等の金属箔を絶縁性接着剤(本発明の接着剤組成物も用いることができる)により接着した積層体や、金属板に絶縁体層の前駆体を積層し、加熱処理などにより絶縁体層を形成した積層体を、薬液を用いてエッチング処理することによりパターン形成する。この方法に用いられる積層体としては、リジッド基板またはフレキシブルプリント基板用銅張り材料や、TABテープを挙げることができる。一方、アディティブ法では、絶縁体層に無電解メッキ、電解メッキ、スパッタリング等により直接導体パターンを形成する。いずれの場合も、形成された導体に腐食防止のため耐食性の高い金属がメッキされていてもよい。
【0061】
このようにして作製された半導体集積回路接続用基板は、必要によりビアホールを有してもよく、両面に形成された導体パターン間がメッキにより接続されていてもよい。
【0062】
(b)(a)で作製した半導体集積回路接続用基板に、(1)で得られた接着剤シートを加熱圧着し、さらに接着剤シートの反対面に半導体集積回路(IC)を加熱圧着する。接着剤シートは通常半硬化状態で積層され、積層後に30〜200℃の温度で適当な時間予備硬化を行って硬化度を調節してもよい。続いて、120〜180℃の加熱硬化を行う。加熱硬化は通常エアオーブン中で行う。
【0063】
(c)半導体集積回路と半導体集積回路接続用基板を150〜250℃、100〜150kHz程度の条件でワイヤーボンディング接続した後、樹脂封止する。
【0064】
(d)最後にハンダボールをリフローにて搭載し、本発明の電子部品を得る。
【0065】
(B)面実装方式の電子部品
(a)セラミックス基板の片面あるいは両面に第一の導電層および半導体集積回路が配置された凹凸上に、(1)で得られた接着剤シートを積層し、120〜180℃で加熱圧着して一括封止する。接着剤シート積層後に、接着剤層の硬化度を調節してもよい。第一の導電層の形成はサブトラクティブ法またはアディティブ法のいずれを用いてもよい。
【0066】
(b)YAG、炭酸ガス、UVレーザー等により、半導体集積回路上の接着剤層の少なくとも一部および第一の導電層上の接着剤層の少なくとも一部を除去する。続いて、120〜180℃で数時間加熱し、接着剤層を加熱硬化させる。
【0067】
(c)表面全体に銅スパッタをかけた後に電解銅メッキを施し、電解銅メッキ表面のエッチング加工を行い、第二の導電層を形成して本発明の電子部品を得る。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例の説明に入る前に評価方法について述べる。
【0069】
(1)評価用パターンテープ作製:TAB用接着剤付きテープ(#7100、(タイプ31N0−00FS)、東レ(株)製)に厚さ18μmの電解銅箔を、140℃、0.1MPaの条件でラミネートした。続いてエアオーブンを用いて、80℃で3時間、100℃で5時間、150℃で5時間の順次加熱キュア処理を行い、銅箔付きTAB用テープを作製した。得られた銅箔付きTAB用テープの銅箔面に常法によりフォトレジスト膜を形成し、エッチング、レジスト剥離、電解ニッケルメッキ、電解金メッキをそれぞれ行い、評価用パターンテープサンプルを作製した。ニッケルメッキ厚は3μm、金メッキ厚は1μmとした。
【0070】
(2)耐リフロー性:(1)記載の方法で作製した評価用パターンテープの裏面に、130℃、0.1MPaの条件で、一方の保護フィルムを剥離した接着剤シート(接着剤層厚さ12μm、保護フィルム厚さ38μm)をラミネートした後、ICに見立てたシリコンウエハ13(ダミーウエハ、20mm角)を用い図3の構造の評価用サンプルを作製した。なお、シリコンウエハは、鏡面にポリイミドコーティング層14(東レ(株)製:SP341)で表面をコーティングし、350℃で1時間硬化させたものを使用した。なお、接着剤の硬化は150℃2時間で行った。この方法で作製した30mm角のサンプルを各水準20個準備し、30℃、70%RHの雰囲気下で192時間調湿した後、すみやかに最高温度265℃、15秒の赤外線リフロー炉2回を通過させ、膨れおよび剥がれを確認し、20個中の剥離した個数を調べた。
【0071】
(3)長期高温耐性:
A.サーマルサイクル性:上記(2)記載の方法で作製した30mm角の評価用半導体装置サンプルを各水準30個用意し、熱サイクル試験器(タバイエスペック(株)製、PL−3型)中で、−65℃〜150℃、最低および最高温度で各30分保持の条件で処理し、剥がれの発生を評価した。100サイクル周期でサンプルを取り出し、剥がれの発生を評価した。30個すべてのサンプルで剥がれが発生していない場合にクリアとした。
【0072】
B.接着性:電解銅箔(1/2オンス)をJPCA−BM02の銅はく面クリーニングの標準手順に従いクリーニングしたものの光沢面に、接着剤層が25μm厚の接着剤シートを130℃でラミネートし、150℃で2時間加熱した。これを180℃のエアオーブンに入れて加熱処理した。100時間周期で接着剤層の剥がれの有無を観察し、最長1500時間まで評価を行った。途中、接着剤層の剥がれが生じればN.G.とした。
【0073】
(4)絶縁信頼性:上記(1)記載の方法で作製した評価用パターンテープの導体幅50μm、導体間距離50μmのくし型形状評価用サンプルの導体パターン面に、接着剤組成物からなる厚さ50μmの接着剤層付きの、厚さ0.1mmの純銅板を、130℃、0.1MPaの条件でラミネートした後、エアオーブン中で150℃、2時間加熱処理を行った。得られたサンプルを用いて、85℃、85%RHの恒温恒湿槽内で100Vの電圧を連続的に印加した状態において、印加直後と400時間後の抵抗値を測定した。
【0074】
(5)相構造観察
硬化させた接着剤組成物を、ルテニウム酸染色法により高分子成分を染色した。横幅100μm以上900μm以下、縦幅100μm以下の超薄切片のサンプルを切り出し、透過型電子顕微鏡(例えば、日立製H−7100FA型)によって、加速電圧100kV、倍率1万〜4万倍で観察した。得られた観測画面から任意で選んだ5μm平方部分の相分離構造を観察した。
【0075】
実施例および比較例で用いた各材料の詳細を示す。
(熱可塑性樹脂)
XF−3677:トウペ(株)製、エチルアクリレートを主成分とする水酸基含有アクリルゴム、Tg=−30℃、Mw=130万
KR152:信越化学(株)製、メチルフェニルシリコーンレジン、2官能性シロキサン単位/3官能性シロキサン単位(モル比)1以上、フェニル基含有量10mol%以上
(エポキシ樹脂)
E1031S:ジャパンエポキシレジン(株)製、テトラフェニロールエタン型、エポキシ当量200、多官能エポキシタイプ
(フェノール樹脂)
CKM908:昭和高分子(株)製、ビスフェノールA型レゾール樹脂
CKM2400:昭和高分子(株)製、ノボラック樹脂
(無機質充填剤)
SO−01(表面処理品):(株)アドマテックス製、平均粒径0.3μm、球状シリカ
(硬化促進剤)
C11Z:2−ウンデシルイミダゾール 。
【0076】
実施例1
表1に記載の各無機質充填剤をトルエンと混合した後、ボールミル処理して分散液を作製した。この分散液に、表1記載の熱硬化性樹脂、硬化促進剤を固形分50重量%となるようにトルエンに加え、80℃で3時間撹拌した。さらに表1記載のアクリル樹脂を加えて固形分20重量%となるようにメチルエチルケトンを加え、80℃で5時間撹拌した。更に硬化剤、表1記載のシリコーン樹脂およびメチルエチルケトン/トルエン=2/1の混合溶剤を加えて30℃で撹拌、混合して接着剤溶液を作製した。この接着剤溶液をバーコータで、シリコーン離型剤付きの厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業(株)製“フィルムバイナ”(登録商標)GT)に接着剤層厚さ50μmとなるように塗布し、150℃で4分間乾燥し、保護フィルムを貼り合わせて、本発明の接着剤シートを作製した。150℃で2時間の条件で接着剤層を硬化させた。示差走査熱量測定による硬化反応率は100%であった。硬化後の接着剤層のTEM写真を図4に示す。図4において、海C18はシリコーン樹脂、島A17はエポキシ樹脂、島B19はアクリル樹脂を主成分として形成され、島A17と島B19が接触していた。無機質充填剤20は島A17に局在していた。この接着剤シートを用いて、前記方法で耐リフロー性、長期高温耐性および絶縁信頼性を評価した結果を表1に示す。
【0077】
実施例2
表1記載の樹脂組成比になるように熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤を用いた以外は実施例1と同様にして接着剤シートを作製し、表1記載の評価を行った。相構造は実施例1と同様である。評価結果を表1に示す。
【0078】
実施例3
表1記載の熱硬化性樹脂、アクリル樹脂および硬化促進剤を固形分20重量%となるようにメチルエチルケトン/トルエン=2/1(重量比)の混合溶剤に加え、80℃で8時間撹拌する。次いで表1記載の硬化剤、シリコーン樹脂およびメチルエチルケトン/トルエン=2/1(重量比)の混合溶剤を加えて固形分20重量%となるように調整する。以降、実施例1と同様に接着剤シートの作製および評価を行う。推定される相構造を図5に、評価結果を表1に示す。シリコーン樹脂を主成分とした海C18にエポキシ樹脂を主成分とした島A17およびアクリル樹脂を主成分とした島B19が存在しており、島A17と島B19が接触している。
【0079】
実施例4
表1記載の熱硬化性樹脂、硬化促進剤を固形分50重量%となるようにトルエンに加え、80℃で3時間撹拌する。さらに表1記載のアクリル樹脂を加え、固形分20重量%となるようにメチルエチルケトンを加え、80℃で5時間撹拌する。さらに硬化剤、シリコーン樹脂、無機質充填剤およびメチルエチルケトン/トルエン=2/1(重量比)の混合溶剤を加えて30℃で撹拌、混合する以外は、実施例1と同様にして接着剤シートを作製する。推定される相構造を図6に、評価結果を表1に示す。シリコーン樹脂を主成分とした海C18にエポキシ樹脂を主成分とした島A17、アクリル樹脂を主成分とした島B19および無機質充填剤20が分散している。
【0080】
比較例1
表2記載の樹脂組成比になるように熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤を固形分20重量%となるようにメチルエチルケトン/トルエン=2/1(重量比)の混合溶剤に加え、30℃で撹拌、混合して接着剤溶液を作製した。この接着剤溶液を用いて、実施例1と同様の方法で接着剤シートを作製した。推定される相構造を図7に、評価結果を表2に示す。シリコーン樹脂を主成分とした海C18にエポキシ樹脂を主成分とした島A17およびアクリル樹脂を主成分とした島B19が分散していた。
【0081】
比較例2〜4
接着剤組成を表2に記載のとおりにした以外は比較例1と同様にして接着剤シートを作製した。得られた接着剤シートを用いて硬化後の接着剤層を観察し、前記方法で耐リフロー性、長期高温耐性および絶縁信頼性を評価した。比較例2〜3において、無機質充填剤は島に局在していた。評価結果を表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
実施例および比較例から、本発明により得られる接着剤組成物はサーマルサイクル性および接着性の長期高温耐性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】BGA方式の半導体装置の一態様の断面図。
【図2】封止デバイスの一態様の断面図。
【図3】評価用サンプルの概略図。
【図4】実施例1の相分離構造を示すTEM写真。
【図5】実施例3の相分離構造を示すTEM写真。
【図6】実施例4の相分離構造を示すTEM写真。
【図7】比較例1の相分離構造を示すTEM写真。
【符号の説明】
【0086】
1、12 半導体集積回路
2、10a、10b、10c、15 接着剤層
3 絶縁体層
4 導体パターン
5 ボンディングワイヤー
6 半田ボール
7 封止樹脂
8a、8b、8c 第一の導電層
9 セラミックス基板
11 第二の導電層
13 シリコンウエハ
14 ポリイミドコーティング層
16 評価用パターンテープ
17 島A
18 海C
19 島B
20 無機質充填剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む接着剤組成物であって、示差走査熱量測定による硬化反応率70〜100%の範囲に硬化させた時に、熱硬化性樹脂を主成分とする島A、熱可塑性樹脂を主成分とする島B、および海Cを含む海島構造を有し、かつ島Aと島Bが接触していることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記海島構造において、島Aの主成分がエポキシ樹脂であり、島Bの主成分がアクリル樹脂であり、海Cの主成分がシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記海島構造において、単一の島Aに複数の島Bが接触していることを特徴とする請求項1または2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記海島構造において、任意の断面において島Aの外周長さの10%以上が島Bと接触していることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の接着剤組成物。
【請求項5】
さらに無機質充填剤を含有し、前記海島構造において無機質充填剤が島Aに局在していることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の接着剤組成物から形成される接着剤層と少なくとも1層の剥離可能な保護フィルムを有する接着剤シート。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか記載の接着剤組成物から形成される接着剤層を有する電子部品。
【請求項8】
基板上に、第一の導電層と、半導体集積回路と、第一の導電層の少なくとも一部および半導体集積回路の少なくとも一部と接する請求項1〜5いずれか記載の電子部品用接着剤組成物から形成される接着剤層と、第一の導電層および半導体集積回路を接続する第二の導電層とを有する請求項7記載の電子部品。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−91566(P2009−91566A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239192(P2008−239192)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】