説明

搬送装置

【課題】搬送装置の走行系のエンコーダの誤差が累積して、連続稼働時間が制限されることを防止する。
【解決手段】スタッカークレーンのサーボモータの回転数をエンコーダで検出して、カウンタで加算する。カウンタのメンテナンスが必要な定格より小さないき値を定めておき、カウンタ値がいき値に近づくと、事前にスタッカークレーンを原点へ復帰させ、カウンタをリセットする。
【効果】カウンタ値が定格を越えないので、スタッカークレーンの連続稼動時間を長くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スタッカークレーンや天井走行車、有軌道台車などのレール走行する搬送装置に関し、特に走行制御系のエンコーダ出力のカウンタ値の補正に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッカークレーンなどの搬送装置では、サーボモータの軸や走行車輪の軸などに設けたエンコーダの出力パルスを、カウンタで加算して走行距離を求め、加減速制御している。また走行車輪には滑りがあることが知られており、停止制御にはドッグとドッグセンサとの組み合わせや、レーザ距離計などを用いている(特許文献1)。
【0003】
ところでカウンタの値には定格範囲があり、これを越えるとメンテナンスが必要になる。カウンタ値が定格を超えて異常になるのは走行車輪の滑りなどによる誤差が定格の特に正側に累積したもので、異常になるまで加減速制御及び停止制御に影響が出ないため、このような異常は今までは余り注目されていない。しかしながらカウンタ値が異常になると、メンテナンスが必要になり、搬送装置の連続稼動時間が制限される。
【特許文献1】特開2004−287555
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の基本的課題は、搬送装置の走行系のエンコーダの誤差が累積して、連続稼動時間が制限されることを防止することにある。
請求項2の発明での追加の課題は、エンコーダ出力を積算するカウンタを、容易にかつ正確に補正することにある。
請求項3の発明での追加の課題は、原点付近にドッグなどを設けなくても、正確にカウンタ値を補正できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、走行モータと、エンコーダの出力値により走行距離を求めて走行モータの加減速制御をするためのカウンタとを備え、メンテナンスが必要な定格が前記カウンタの出力に定められている搬送装置において、前記定格よりも小さないき値とカウンタの出力とを比較し、カウンタ出力がいき値を超過していることを検出するための検出手段と、カウンタ出力がいき値を超過している際に、カウンタ出力の理想値が判明している所定位置で、前記カウンタ出力を補正するための補正手段、とを設けたことを特徴とする。エンコーダは、例えば走行モータの回転軸の回転数や走行車輪などの車輪の回転数などを読み込むものとし、カウンタの出力は例えば原点側から反原点側への移動で加算され、反原点側から原点側への移動で減算される。カウンタ出力の初期値は、例えば原点で0,反原点で最大となる。
【0006】
所定位置は、現在の停止位置や反原点などでも良いが、好ましくは、前記補正手段では、カウンタ出力がいき値を超過している際に、搬送装置を走行原点へ走行させて、カウンタ出力を補正する。
【0007】
特に好ましくは、走行原点からの絶対距離を求めるための、レーザ距離計などの距離計を設けて、カウンタ出力がいき値を超過している際に、該距離計により走行原点へ走行させるようにする。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、カウンタ出力が定格に達する前に、いき値と比較して検出し、カウンタ出力のあるべき値が判明している所定の位置で、カウンタ出力を補正する。この結果、カウンタ出力の異常でメンテナンスが必要になることが無く、搬送装置の連続稼動時間を長くできる。
【0009】
カウンタ出力の補正を走行原点で行うと、カウンタの出力を単に0クリヤすれば良く、補正が容易かつ確実である。なお走行原点を、以下では単に”原点”ということがある。
【0010】
また走行原点からの絶対距離を求めるための距離計を用いて走行原点へ走行すると、ドッグなどを走行原点に設けなくても補正ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図4に、スタッカークレーン2を例に実施例を示す。スタッカークレーン2にはマスト4を設けて昇降台6を昇降させ、走行モータ8により走行する。スタッカークレーン2の台車にはレーザ距離計10を設け、後述の原点16からの絶対距離を求め、停止制御とカウンタ出力の補正とに用いる。レーザ距離計10は、エンコーダなどの内界センサではなく外界センサであり、走行原点16などの所定の位置からの絶対距離を求めるセンサである。これに対して、ドッグセンサなどはドッグなどに対する相対位置を求める相対距離センサである。
【0013】
12,13は例えば一対のラックで、14,15はステーションで、走行原点16は例えばステーション14,15寄りに設け、これに対応して反射板17を設け、レーザ距離計10は反射板との距離を測定する。走行レール20の反対側には反原点18を設け、走行原点16と反原点18との間が、スタッカークレーン2の最大ストロークである。
【0014】
図2に、スタッカークレーンの台車22等を示す。24は走行車輪、25は従動車輪で、共に走行車輪としても良く、26〜28などの適宜の位置にエンコーダを取り付けて、走行距離を算出する。例えば位置26では、サーボモータである走行モータ8の軸の回転数を求め、位置27では走行車輪24の回転数を求め、位置28では従動車輪25の回転数を求める。何れの位置で走行距離を求めても、車輪24,25とレール20との滑りなどのために誤差が生じる。スタッカークレーンは様々なバランス等を考慮して設計されているが、各パーツの配置位置による走行方向前後の重量バランスや、走行車輪24が走行方向の前側か後側か等の要因により、原点側から反原点側に走行した時と、反原点側から原点側に走行した時とでは、滑り量が異なるという傾向がある。例えば、原点側と反原点側の間のカウンタ値を1500パルスとして往復したとする。原点側から反原点側に走行した場合のカウンタ値は1510パルス、反原点側から原点側に走行した場合では1505パルスというように、1往復するとエンコーダ出力のカウンタ値が誤差として原点側から反原点側に5パルス増加することとなる。そして走行を繰り返すことで、カウンタ値の誤差が累積され、カウンタが定格の2000パルスに達し、メンテナンスが必要になる。走行方向での滑り量の差があまり無くとも、誤差の累積により2000パルスを超えることもある。
【0015】
図3にスタッカークレーンの走行制御系を示すと、サーボ駆動部30は走行モータ8をサーボ制御し、走行距離をエンコーダ31で求めて、その出力パルスをカウンタ32で加算する。マップ33にはステーションなどの各停止位置の絶対座標と、これをカウンタ値に換算したものとが記憶されている。なお走行原点でのカウンタ値は、マップ33では0である。サーボ駆動部30はマップ33を参照して、現在地から目的地までのカウンタ値の差分を読み出し、これに基づいて走行モータ8の加減速制御を行う。レーザ距離計10は走行原点からの絶対距離を求め、スタッカークレーンの停止制御では、カウンタ32の出力よりもレーザ距離計10の出力を用いる。なおレーザ距離計に代えて、走行レールに沿って設けたドッグと、ドッグに対する位置を検出するためのドックセンサなどを用いても良い。
【0016】
カウンタ補正部34はカウンタ値が定格よりも小さないき値を超過しているかどうかを検査し、いき値を超過している場合、原点走行要求部35は走行目的地を原点に変更することをサーボ駆動部30に要求し、スタッカークレーンは走行原点へと走行する。なおカウンタ補正では、補正を行う場所として、反原点や、スタッカークレーンがドッグなどがある所定位置に停止している場合の現在の停止位置、などを用いることができる。リセット部36はスタッカークレーンが走行原点まで復帰すると、カウンタ32の値を0にリセット、即ち0クリヤする。これによってカウンタ32の補正が完了する。反原点で補正する場合、レーザ距離計10などを利用して反原点まで走行し、反原点に対応した値にカウンタ32を変更する。またドッグなどのある現在位置で停止している場合、その位置の絶対座標をマップ33などから求めて、カウンタ32を補正する。
【0017】
図4にカウンタ値の補正アルゴリムを示す。スタッカークレーンが搬送指令を受信すると、カウンタ値の補正の要否を判断する。カウンタ値を読み出し、カウンタ値はスタッカークレーンの絶対座標に対応する。次にカウンタ値が定格内かどうかを判別し、定格を越えている場合、作業者のマニュアル制御により原点へ復帰し、そこでメンテナンスを行う。当然のことながらメンテナンスを行うと、スタッカークレーンの連続稼動が妨げられ、サービスマンを外部から呼ぶ場合、自動倉庫の運用がかなりの時間停止する。カウンタ値の定格は、例えば正と負の2種類を設け、カウンタ値が正負の定格の範囲内にある場合に、定格内であるものとする。
【0018】
カウンタ値を再チェックし、前記の定格よりも絶対値の小さな2つのいき値と比較する。例えば正のいき値は正の側の定格値よりも小さく、負のいき値は負の定格よりも絶対値が小さい。カウンタ値がこの範囲内にあることを規定範囲内と呼ぶと、規定範囲内では補正が不要で、補正手続を終了して搬送指令を実行する。規定範囲を越えている場合、定格を越えていないのでカウンタを用いた走行制御が許され、自動モードで原点まで復帰する。ここで原点への停止にはレーザ距離計を用い、レーザ距離計の出力が走行原点を示す位置で停止して、カウンタをリセットし、カウンタ値をチェックする。カウンタ値が0にクリヤされていれば、カウンタの補正を終了する。
【0019】
実施例では、搬送指令を受信する毎にカウンタの補正の要否を判断したが、必ずしも毎回補正の要否を判断する必要はない。またカウンタの定格といき値との差は、スタッカークレーンの走行距離に換算して、好ましくは走行原点から反原点までのストロークよりも長くし、走行の途中でカウンタ値が定格を超過して走行を続行できなくなる事態を防止する。
【0020】
実施例ではスタッカークレーンを例にカウンタの補正を示したが、他にレール上を走行する有軌道台車やレールに沿って天井付近を走行する天井走行車などでも同様である。これらの場合、いずれも走行車輪のレールに対する滑りの問題があり、この誤差がカウンタ内で累積されると、サーボ走行モータの制御が不能になるという問題がある。
【0021】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) カウンタ値が定格を越える前に補正を行うので、スタッカークレーンの連続稼動時間を長くできる。
(2) 原点で補正を行うことにより、位置が充分に判明している位置で、かつ単にカウンタ値を0クリヤすることにより補正できる。
(3) 原点への復帰にレーザ距離計などの絶対距離センサを用いることにより、正確に原点まで復帰でき、かつ原点付近にドッグなどの設備を設ける必要がない。
(4) カウンタの定格といき値との差を、スタッカークレーンの1回の走行距離より長くすることにより、走行の途中でカウンタ値が定格をオーバーすることがない。
(5) 常時は、マップで定まる走行距離分の走行制御を行うため、カウンタ値の絶対値ではなく、その差分を利用している。このため、常時はカウンタ値が定格に近づいても、それ自体は制御上の妨げにならないため、カウンタ値の補正に着目しにくい。このような事情のため、カウンタ値が定格をオーバーする可能性があるが、これを防止できる。

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例のスタッカークレーンを用いた自動倉庫の平面図
【図2】実施例のスタッカークレーンの側面図
【図3】実施例のスタッカークレーンでの、走行制御系とその補正部とのブロック図
【図4】実施例でのカウンタ値の補正アルゴリズムを示すフローチャート
【符号の説明】
【0023】
2 スタッカークレーン
4 マスト
6 昇降台
8 走行モータ
10 レーザ距離計
12,13 ラック
14,15 ステーション
16 走行原点
17 反射板
18 反原点
20 走行レール
22 台車
24 走行車輪
25 従動車輪
26〜28 エンコーダの取り付け位置
30 サーボ駆動部
31 エンコーダ
32 カウンタ
33 マップ
34 カウンタ補正部
35 原点走行要求部
36 リセット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータと、エンコーダの出力値により走行距離を求めて走行モータの加減速制御をするためのカウンタとを備え、メンテナンスが必要な定格が前記カウンタの出力に定められている搬送装置において、
前記定格よりも小さないき値とカウンタの出力とを比較し、カウンタ出力がいき値を超過していることを検出するための検出手段と、
カウンタ出力がいき値を超過している際に、カウンタ出力の理想値が判明している所定位置で、前記カウンタ出力を補正するための補正手段、とを設けたことを特徴とする、搬送装置。
【請求項2】
前記補正手段では、カウンタ出力がいき値を超過している際に、搬送装置を走行原点へ走行させて、カウンタ出力を補正することを特徴とする、請求項1の搬送装置。
【請求項3】
走行原点からの絶対距離を求めるための距離計を設けて、カウンタ出力がいき値を超過している際に、該距離計により走行原点へ走行させるようにしたことを特徴とする、請求項2の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−290571(P2006−290571A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115217(P2005−115217)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】