説明

摩擦係合装置の支持構造および変速機

【課題】スナップリングと溝との掛かり代が全周に渡って十分に得られる摩擦係合装置の支持構造および変速機を提供する。
【解決手段】摩擦係合装置であるブレーキ11の支持構造は、スナップリング31と、摩擦プレート13および14と、バックプレート21とを備える。スナップリング31は、所定の軸を中心に環状に延びる溝41に配置される。バックプレート21は、摩擦プレート13,14およびスナップリング31にそれぞれ対向する端面23および端面24を含む。バックプレート21は、摩擦プレート13および14とスナップリング31との間に配置される。端面23および端面24の少なくともいずれか一方は、傾斜部26を有する。所定の軸方向における傾斜部26と摩擦プレート13および14との間の距離L1は、溝41からスナップリング31が抜ける所定の軸を中心とする半径方向に沿って増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、摩擦係合装置の支持構造および変速機に関し、より特定的には、摩擦プレートの軸方向の移動を制限するスナップリングを備えた摩擦係合装置の支持構造、およびその摩擦係合装置の支持構造を備える変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦係合装置の支持構造に関して、たとえば、特開2003−301861号公報には、作動中に止め輪が外れることを防止し、かつ止め輪の取り付けを容易にすることを目的とした多板クラッチが開示されている(特許文献1)。特許文献1の開示によると、クラッチケースの内部には、セパレータ、フリクションプレートおよびバッキングプレートの各プレートが、軸方向に移動可能に配設されている。クラッチケースには溝が形成されている。溝には、上記プレートの軸方向の移動を制限する止め輪が嵌装されている。
【特許文献1】特開2003−301861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献1では、油圧が作用された摩擦プレートの移動を制限するためスナップリングが用いられている。しかしながら、スナップリングは、完全なリング形状ではなくリング形状の一部が分断されたC型形状を有するため、その分断された合口部分で剛性が低下する。このため、合口の近傍において、スナップリングと、スナップリングが嵌装される溝の底面との間に隙間が生じる。一方、摩擦プレートに作用させる油圧が繰り返しスナップリングに加わると、スナップリングが溝の外側に向けて移動することがある。この場合、特に合口の近傍において、スナップリングと溝との掛かり代が十分に得られないおそれが生じる。
【0004】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、スナップリングと溝との掛かり代が全周に渡って十分に得られる摩擦係合装置の支持構造および変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った摩擦係合装置の支持構造は、スナップリングと、摩擦プレートと、プレート部材とを備える。スナップリングは、所定の軸を中心に環状に延びる溝に配置される。摩擦プレートは、スナップリングにより軸方向の位置が規制される。摩擦プレートは、軸方向に沿ってスナップリングに向かって押圧された時に摩擦により係合する。プレート部材は、摩擦プレートおよびスナップリングにそれぞれ対向する第1端面および第2端面を含む。プレート部材は、摩擦プレートとスナップリングとの間に配置される。第1端面および第2端面の少なくともいずれか一方は、傾斜部を有する。軸方向における傾斜部と摩擦プレートとの間の距離は、溝からスナップリングが抜ける軸を中心とする半径方向に沿って増大する。
【0006】
このように構成された摩擦係合装置の支持構造によれば、摩擦プレートを軸方向に沿って押圧する負荷時、摩擦プレートを押圧する力が、プレート部材およびスナップリングに伝わる。この際、第1端面および第2端面の少なくともいずれか一方が傾斜部を有することにより、傾斜部を通じてスナップリングに作用する力の、溝からスナップリングが抜ける半径方向とは反対方向の分力を増大させることができる。これにより、溝から抜けようとするスナップリングの移動を抑えることができる。結果、軸回りの全周に渡って、スナップリングと溝との掛かり代を十分に確保することができる。
【0007】
また好ましくは、第1端面は、傾斜部を有する。摩擦プレートは、軸方向に沿った力が除荷されると摩擦による係合を解除する。摩擦による係合を解除した状態で、摩擦プレートと傾斜部とが接触する。このように構成された摩擦係合装置の支持構造によれば、摩擦プレートへの負荷時、摩擦プレートを押圧する力をより確実に傾斜部を通じてスナップリングに作用させることができる。
【0008】
また好ましくは、摩擦係合装置の支持構造は、ピストン部材と、弾性部材とをさらに備える。ピストン部材は、摩擦プレートに対してプレート部材の反対側に配置される。ピストン部材は、プレート部材に近づく方向に移動することにより摩擦プレートを押圧する。弾性部材は、ピストン部材およびプレート部材にそれぞれ接続された一方端および他方端を含む。弾性部材は、ピストン部材をプレート部材から離れる方向に付勢する。このように構成された摩擦係合装置の支持構造によれば、弾性部材の弾性力によって摩擦プレートの係合を解除する摩擦係合装置において、上述のいずれかに記載の効果を得ることができる。
【0009】
この発明に従った変速機は、上述のいずれかに記載の摩擦係合装置の支持構造を備える。このように構成された変速機によれば、摩擦係合装置の作動を確実にすることで、変速機の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、この発明に従えば、スナップリングと溝との掛かり代が全周に渡って十分に得られる摩擦係合装置の支持構造および変速機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、車両に搭載された自動変速機を示す断面図である。図中には、自動変速機の一部分が示されている。図1を参照して、自動変速機10は、複数のプラネタリギヤとしての、UD(アンダードライブ)プラネタリギヤ61およびラビニオ式プラネタリギヤ64を備える。自動変速機10は、UDプラネタリギヤ61およびラビニオ式プラネタリギヤ64の組み合わせにより、内燃機関から入力された回転を、減速または加速して出力したり、逆回転にして出力する。UDプラネタリギヤ61は、ケース体12に収容されている。
【0013】
図2は、この発明の実施の形態1におけるブレーキの支持構造を示す断面図である。図中には、図1中の2点鎖線IIで囲まれた範囲が示されている。
【0014】
図1および図2を参照して、自動変速機10は、摩擦係合装置としてのブレーキ11を備える。ブレーキ11は、UDプラネタリギヤ61を構成するプラネタリキャリヤ62の回転と、ラビニオ式プラネタリギヤ64を構成するサンギヤ65の回転とをロックする。ブレーキ11は、ケース体12に収容された、摩擦プレート13および14と、バックプレート21と、スナップリング31とを備える。摩擦プレート13および摩擦プレート14は、複数ずつ設けられている。
【0015】
ケース体12は、仮想軸である中心軸201を中心に延在する内周面12cを含む。中心軸201は、UDプラネタリギヤ61およびラビニオ式プラネタリギヤ64の回転中心である。
【0016】
摩擦プレート13は、ケース体12に固定されている。摩擦プレート14は、プラネタリギヤ側に固定されている。摩擦プレート13および摩擦プレート14は、中心軸201の軸方向に移動可能で、かつ中心軸201を中心とする周方向に回転できないように、それぞれケース体12およびプラネタリギヤ側に固定されている。摩擦プレート13および14は、内周面12cの内側で環状に延びるリング形状を有する。摩擦プレート13と摩擦プレート14とは、中心軸201の軸方向に交互に並んで配置されている。
【0017】
ブレーキ11は、ブレーキピストン15をさらに備える。ブレーキピストン15は、中心軸201の軸方向において摩擦プレート13および14と隣り合って配置されている。ケース体12内には、油圧室16が形成されている。油圧室16は、中心軸201の軸方向においてブレーキピストン15と隣り合って形成されている。摩擦プレート13および14と油圧室16との間に、ブレーキピストン15が配置されている。
【0018】
油圧室16への油圧供給を行なう油圧負荷時、ブレーキピストン15は、中心軸201の軸方向にストロークし、摩擦プレート13および14を押圧する。押圧された摩擦プレート13と摩擦プレート14とは、摩擦により互いに圧着する。これにより、摩擦プレート13と摩擦プレート14とが係合し、プラネタリキャリヤ62およびサンギヤ65の回転がロックされる。
【0019】
図3は、図2中のスナップリングを示す図である。図中には、図1中の中心軸201の軸線方向から見たスナップリングの形状が示されている。図中のII−II線上に沿ったブレーキの断面が図2に示されている。
【0020】
図2および図3を参照して、ケース体12には、溝41が形成されている。溝41は、内周面12cに形成されている。溝41は、中心軸201を中心に環状に延びる。溝41は、中心軸201を中心に真円状に延びる。溝41は、略矩形の断面形状を有する。溝41は、底面41dを含む。溝41には、スナップリング31が嵌め合わされている。スナップリング31は、中心軸201の軸線方向における摩擦プレート13および14の位置を規制する。スナップリング31は、ブレーキピストン15によって押圧された摩擦プレート13および14の移動を制限する。
【0021】
スナップリング31は、金属から形成されている。スナップリング31は、リング形状がその周方向の一部で分断されたC型形状を有する。スナップリング31は、一対の合口33pおよび33qを含む。合口33pと合口33qとは、中心軸201を中心とする周方向に間隙35を設けて対向する。スナップリング31の剛性は、間隙35が形成される位相で相対的に小さくなり、その反対側の位相で相対的に大きくなる。これにより、溝41に嵌め合わされたスナップリング31が溝41の底面41dを押圧する力(緊縛力)は、図3中の上半分の位相で相対的に小さくなり、図3中の下半分の位相で相対的に大きくなる。
【0022】
スナップリング31が備えるこのような特性により、スナップリング31を溝41に嵌め合わせると、スナップリング31の外周面31dと溝41の底面41dとは、合口33pおよび33qと、間隙35が形成される位相の反対側の位相とで密着する。一方、合口33pおよび33qに隣接して、外周面31dと底面41dとの間に隙間が形成される。
【0023】
図4は、図2中のバックプレートを示す斜視図である。図2および図4を参照して、バックプレート21は、金属から形成されている。バックプレート21は、スナップリング31と摩擦プレート13および14との間に配置されている。中心軸201の軸方向において、スナップリング31と、バックプレート21と、摩擦プレート13および14とが重なって配置されている。バックプレート21は、ケース体12に固定されている。
【0024】
バックプレート21は、中心軸201を中心に環状に延びるリング形状を有する。バックプレート21は、スプライン25を含む。内周面12cに形成された図示しないスプラインと、スプライン25とが係合することにより、バックプレート21は、中心軸201の軸方向に移動可能で、かつ中心軸201を中心とする周方向に回転しないように、ケース体12に固定されている。バックプレート21は、鍔部27を含む。鍔部27は、中心軸201を中心とする半径方向に延出する。本実施の形態では、複数の鍔部27が、中心軸201を中心に所定の角度ごとに設けられている。
【0025】
ブレーキ11は、リターンスプリング18をさらに備える。リターンスプリング18は、中心軸201の軸方向に延びる。リターンスプリング18は、ブレーキピストン15に接続される一方端18mと、バックプレート21に接続される他方端18nとを含む。他方端18nは、鍔部27に接続されている。複数の鍔部27に対応して、複数のリターンスプリング18が設けられている。中心軸201を中心とする半径方向において、リターンスプリング18と摩擦プレート13および14との間に、スナップリング31が配置されている。リターンスプリング18の弾性力により、ブレーキピストン15は、中心軸201の軸方向に沿ってバックプレート21から離れる方向に付勢される。リターンスプリング18の弾性力により、バックプレート21は、スナップリング31に対して押圧される。
【0026】
油圧室16への油圧供給を停止する油圧除荷時、リターンスプリング18の弾性力によって、ブレーキピストン15が、バックプレート21から離間する方向にストロークする。これにより、摩擦プレート13と摩擦プレート14との係合が解除され、プラネタリキャリヤ62およびサンギヤ65の回転が許容される。
【0027】
バックプレート21は、端面23および端面24を含む。端面23と端面24とは、中心軸201の軸方向において互いに反対方向を向く。端面23および24は、中心軸201を中心に環状に延在する。端面23は、摩擦プレート13および14と対向する。端面24は、スナップリング31と対向する。
【0028】
端面23は、傾斜部26を含む。中心軸201の軸方向における傾斜部26と摩擦プレート13および14との間の距離L1は、図2中の矢印211に示す、溝41からスナップリング31が抜ける中心軸201を中心とする半径方向(以下、スナップリング31の浮き方向とも呼ぶ)に沿って増大する。内径嵌めのスナップリング31が用いられた本実施の形態では、スナップリング31の浮き方向は、中心軸201を中心する半径方向の外径側から内径側に向かう方向である。
【0029】
傾斜部26は、中心軸201を中心に環状に延在する。傾斜部26は、端面23の内周側に形成されている。傾斜部26は、中心軸201を中心とする半径方向に沿って平面状に延在する。距離L1は、スナップリング31の浮き方向に沿って一定の割合で増大する。端面24と、傾斜部26を除く端面23の部分とは、中心軸201に直交する平面内で延在する。油圧が負荷されていない状態で、摩擦プレート13および14は、傾斜部26と接触する。摩擦プレート13および14と、傾斜部26とは、線接触する。なお、油圧が負荷されていない状態で、摩擦プレート13および14の一部と、傾斜部26を除く端面23の部分とが、接触しても良い。
【0030】
図5は、比較のためのブレーキの支持構造を示す断面図である。続いて、図5中の比較のためのブレーキの支持構造において、スナップリング31と溝41との掛かり代が小さくなる現象のメカニズムについて説明を行なう。
【0031】
図5を参照して、比較のためのブレーキの支持構造では、ブレーキが、図2中のバックプレート21に替えてバックプレート121を備える。バックプレート121は、摩擦プレート13および14に対向する端面123と、スナップリング31に対向する端面124とを含む。端面123および124は、中心軸201に直交する平面内で延在する。端面123は、図2中の傾斜部26を含まない。油圧が負荷されていない状態で、摩擦プレート13および14と、端面123とは、面接触する。
【0032】
図6は、図5中の比較のためのブレーキの支持構造において、初期時、油圧負荷時および油圧除荷後のスナップリングの状態を示す断面図である。図7は、図6中の初期時、油圧負荷時および油圧除荷後のスナップリングの状態を重ねて示した断面図である。図中には、図3中の一対の合口33pおよび33qに隣接する位相の断面が示されている。
【0033】
図6および図7を参照して、バックプレート121に対向する外周面31dの部分を、角部Eと呼ぶことにする。
【0034】
油圧を負荷する前の初期時、スナップリング31と溝41との掛かり代がH1であるとする。油圧負荷時、油圧室16から摩擦プレート13および14に作用させた力が、バックプレート121およびスナップリング31に伝わる。このとき、摩擦プレート13および14から力を受けたバックプレート121の内周側が、スナップリング31に向けて倒れる。スナップリング31は、バックプレート121の表面上で角部Eを滑らしながら、バックプレート121とともに倒れる。これにより、角部Eの位置は見かけ上、スナップリング31の浮き方向に変位する。
【0035】
油圧除荷時、バックプレート121は、スナップリング31に向けて倒れた姿勢から元の姿勢に戻る。このとき、スナップリング31は、スナップリング31およびバックプレート21間の摩擦により角部Eをバックプレート121の表面上に固定させた状態で、バックプレート121とともに元の姿勢に戻る。この結果、スナップリング31は、油圧除荷を終えた時点で浮き方向に引き出されることとなる。油圧除荷後、スナップリング31と溝41との掛かり代は、H1よりも小さいH2となる。このようなメカニズムにより、油圧負荷および油圧除荷が繰り返し行なわれることによって、スナップリング31と溝41との掛かり代が徐々に小さくなる現象が生じる。
【0036】
図8は、図5中の比較のためのブレーキの支持構造において、油圧負荷時にスナップリングに作用する力を説明するための断面図である。図9は、図2中のブレーキの支持構造において、油圧負荷時にスナップリングに作用する力を説明するための断面図である。続いて、本実施の形態におけるブレーキの支持構造により奏される作用について、図5中の比較のためのブレーキの支持構造と比較しながら説明する。
【0037】
図8および図9を参照して、まず、比較のためのブレーキの支持構造では、油圧負荷時、摩擦プレート13および14に作用する力が、さらに端面123を通じてバックプレート121およびスナップリング31に作用する。この際、スナップリング31に向けて倒れるバックプレート121の傾きに合わせて、中心軸201の軸方向に対して外径側に傾きを持った力Pが、バックプレート121およびスナップリング31に作用する。このため、力Pの、スナップリング31の浮き方向と反対方向に沿った分力Prが生じる。
【0038】
これに対して、本実施の形態におけるブレーキの支持構造では、油圧負荷時、摩擦プレート13および14に作用する力が、さらに端面23の傾斜部26を通じてバックプレート21およびスナップリング31に作用する。この際、バックプレート21の傾きに傾斜部26の傾きが加わることにより、力Pの方向が、中心軸201の軸方向に対して外径側へさらに大きく傾く。この結果、力Pの、スナップリング31の浮き方向と反対方向に沿った分力Prの大きさが、比較のためのブレーキの支持構造と比べて増大する。これにより、油圧負荷時、一対の合口33pおよび33qの近傍で浮き方向に向かうスナップリング31の移動量を低減させることができる。
【0039】
図10は、図2中のブレーキの支持構造の変形例を示す断面図である。図10を参照して、本変形例では、傾斜部26が、中心軸201を中心とする半径方向に沿って湾曲面状に延在する。スナップリング31の浮き方向に沿って距離L1が変化する割合は、徐々に増加する。本変形例においても、油圧負荷時、浮き方向に向かうスナップリング31の移動量を低減させることができる。
【0040】
この発明の実施の形態1における摩擦係合装置としてのブレーキ11の支持構造は、スナップリング31と、摩擦プレート13および14と、プレート部材としてのバックプレート21とを備える。スナップリング31は、所定の軸としての中心軸201を中心に環状に延びる溝41に配置される。摩擦プレート13および14は、スナップリング31により中心軸201の軸方向の位置が規制される。摩擦プレート13および14は、中心軸201の軸方向に沿ってスナップリング31に向かって押圧された時に摩擦により係合する。バックプレート21は、摩擦プレート13,14およびスナップリング31にそれぞれ対向する第1端面としての端面23および第2端面としての端面24を含む。バックプレート21は、摩擦プレート13および14とスナップリング31との間に配置される。端面23および端面24の少なくともいずれか一方としての端面23は、傾斜部26を有する。中心軸201の軸方向における傾斜部26と摩擦プレート13および14との間の距離L1は、溝41からスナップリング31が抜ける中心軸201を中心とする半径方向に沿って増大する。
【0041】
このように構成された、この発明の実施の形態1におけるブレーキ11の支持構造によれば、中心軸201を中心とする全周に渡ってスナップリング31と溝41との掛かり代を十分に確保することができる。これにより、ブレーキ11によるプラネタリギヤの作動を確実にし、自動変速機10の信頼性を向上させることができる。
【0042】
なお、本実施の形態では、内径嵌めのスナップリング31を用いたブレーキ11について説明したが、外径嵌めのスナップリングを用いたブレーキにも本発明を適用することができる。この場合、スナップリングの浮き方向は、溝が周回する軸を中心する半径方向の内径側から外径側に向かう方向となる。また、ブレーキのみならず、自動変速機のクラッチに本発明を適用しても良い。また、無段変速機に本発明を適用しても良い。
【0043】
(実施の形態2)
図11は、この発明の実施の形態2におけるブレーキの支持構造を示す断面図である。図12は、図11中のブレーキの支持構造において、油圧負荷時にスナップリングに作用する力を説明するための断面図である。本実施の形態におけるブレーキの支持構造は、実施の形態1におけるブレーキの支持構造と比較して、基本的に同様の構造を備える。以下、重複する構造については説明を繰り返さない。
【0044】
図11および図12を参照して、本実施の形態では、端面24が傾斜部29を含む。中心軸201の軸方向における傾斜部29と摩擦プレート13および14との間の距離L2は、スナップリング31の浮き方向に沿って増大する。端面23と、傾斜部29を除く端面24の部分とが、中心軸201に直交する平面内で延在する。
【0045】
本実施の形態においても、傾斜部29を通じてスナップリング31に作用する力Pの、スナップリング31の浮き方向と反対方向に沿った分力Prの大きさを、図5中の比較のためのブレーキの支持構造と比べて増大させることができる。
【0046】
このように構成された、この発明の実施の形態2におけるブレーキの支持構造によれば、実施の形態1に記載の効果と同様の効果を得ることができる。
【0047】
なお、実施の形態1および2におけるブレーキの支持構造を適宜、組み合わせて、新たなブレーキの支持構造を構成しても良い。たとえば、ブレーキの支持構造を、バックプレート21の端面23および端面24の双方に傾斜部を形成した構成としても良い。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】車両に搭載された自動変速機を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるブレーキの支持構造を示す断面図である。
【図3】図2中のスナップリングを示す図である。
【図4】図2中のバックプレートを示す斜視図である。
【図5】比較のためのブレーキの支持構造を示す断面図である。
【図6】図5中の比較のためのブレーキの支持構造において、初期時、油圧負荷時および油圧除荷後のスナップリングの状態を示す断面図である。
【図7】図6中の初期時、油圧負荷時および油圧除荷後のスナップリングの状態を重ねて示した断面図である。
【図8】図5中の比較のためのブレーキの支持構造において、油圧負荷時にスナップリングに作用する力を説明するための断面図である。
【図9】図2中のブレーキの支持構造において、油圧負荷時にスナップリングに作用する力を説明するための断面図である。
【図10】図2中のブレーキの支持構造の変形例を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態2におけるブレーキの支持構造を示す断面図である。
【図12】図11中のブレーキの支持構造において、油圧負荷時にスナップリングに作用する力を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 自動変速機、11 ブレーキ、13,14 摩擦プレート、15 ブレーキピストン、18 リターンスプリング、18m 一方端、18n 他方端、21 バックプレート、23,24 端面、26,29 傾斜部、31 スナップリング、41 溝、201 中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸を中心に環状に延びる溝に配置されるスナップリングと、
前記スナップリングにより前記軸方向の位置が規制され、前記軸方向に沿って前記スナップリングに向かって押圧された時に摩擦により係合する摩擦プレートと、
前記摩擦プレートおよび前記スナップリングにそれぞれ対向する第1端面および第2端面を含み、前記摩擦プレートと前記スナップリングとの間に配置されるプレート部材とを備え、
前記第1端面および前記第2端面の少なくともいずれか一方は、傾斜部を有し、
前記軸方向における前記傾斜部と前記摩擦プレートとの間の距離は、前記溝から前記スナップリングが抜ける前記軸を中心とする半径方向に沿って増大する、摩擦係合装置の支持構造。
【請求項2】
前記第1端面は、傾斜部を有し、
前記摩擦プレートは、前記軸方向に沿った力が除荷されると摩擦による係合を解除し、 摩擦による係合を解除した状態で、前記摩擦プレートと前記傾斜部とが接触する、請求項1に記載の摩擦係合装置の支持構造。
【請求項3】
前記摩擦プレートに対して前記プレート部材の反対側に配置され、前記プレート部材に近づく方向に移動することにより前記摩擦プレートを押圧するピストン部材と、
前記ピストン部材および前記プレート部材にそれぞれ接続された一方端および他方端を含み、前記ピストン部材を前記プレート部材から離れる方向に付勢する弾性部材とをさらに備える、請求項1または2に記載の摩擦係合装置の支持構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の摩擦係合装置の支持構造を備える、変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−64276(P2008−64276A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245408(P2006−245408)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】