説明

撮像装置、表示撮像装置および電子機器

【課題】製造工程を複雑化させることなく、光検出素子および駆動素子において高い特性を示すことが可能な撮像装置、表示撮像装置および電子機器を提供する。
【解決手段】光検出素子3におけるI層32I(チャネル領域,半導体層)と、TFT素子2におけるI層22I(チャネル領域,半導体層)とにおいて、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっている。I層22I,32Iにおける平均トラップ順位密度がそれぞれ、2.0×1017(cm-3)以下となっている。2種類の半導体層(I層22I,32I)を、同一の工程で簡易に形成することができる。また、光検出素子3およびTFT素子2における特性をそれぞれ、高い値で両立させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出素子および駆動素子を有する撮像装置および表示撮像装置、ならびにそのような表示撮像装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置において、表示画像の明るさやコントラストを検出して制御するため、フォトダイオードなどからなる光検出素子(受光素子)が広く用いられている。このフォトダイオードは、上記したような表示装置において、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)などからなる駆動素子および表示素子と共に搭載されるようになっている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、そのようなフォトダイオードの一種として、平面形状からなるPIN型のフォトダイオードが知られている。このPIN型のフォトダイオードは、基板面上に形成された多結晶シリコン(ポリシリコン)からなるp型半導体領域およびn型半導体領域と、その間の基板面上に形成された多結晶シリコンからなるi型半導体(中間半導体)領域とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−93154号公報
【特許文献2】特開2009−177127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように光検出素子および駆動素子が同一基板上に形成された表示装置等の撮像装置では、例えば光学式のタッチパネル等の用途の場合、光検出素子および駆動素子の特性においてそれぞれ高い値で両立させることが求められる。ところが、従来の撮像装置では、TFT(駆動素子)のオフ時における漏れ電流を抑制するため、フォトダイオード(光検出素子)における半導体層(チャネル層)の膜厚を薄くする必要があった。このため、従来の撮像装置では、外部から光検出素子へ入射した光の多くが半導体層(光電変換層)を透過してしまい、十分な光検出感度が得られない(検出光量が低い)という問題があった。
【0006】
そこで、上記特許文献1では、基板の下地層上に、駆動素子を構成する第1の活性層(チャネル層)を形成すると共に、この1の活性層と同じ下地層上に、光検出素子を構成する第2の活性層を、第1の活性層よりも光吸収率が高くなるように形成している。具体的には、例えば光検出素子における第2の活性層の厚みが、駆動素子における第1の活性層の厚みよりも大きくなるようにする。
【0007】
しかしながら、上記のように第2の活性層を第1の活性層よりも厚く形成した場合、駆動素子と光検出素子との間でそれらの活性層(半導体層)を同一の工程で形成することができなくなるため、製造工程が複雑化してしまうことになる。
【0008】
一方、上記特許文献2では、上記したPIN型のフォトダイオード(光検出素子)において、中間半導体領域に注入される不純物を例えば低濃度のp型に設定すると共に、所定の制御電極に正電位からなる電圧を印加するようにしている。これにより、中間半導体領域における空乏層内で発生した電子−正孔対が即座に分離され、光電流が発生し易くなる。よって、中間半導体領域のチャネル長(L長)を増加させても光電流が飽和しなくなり、光検出感度を十分に向上させることが可能となる。
【0009】
ところがこの手法では、光検出素子の中間半導体領域(チャネル領域)に対して、駆動素子のチャネル領域よりも高濃度の不純物を添加する必要がある。すなわち、光検出素子と駆動素子との間で、それらのチャネル層(半導体層)の不純物濃度(キャリア濃度)を異ならせる必要があるため、新たな工程を追加する必要が生じ、やはり製造工程が複雑化してしまうことになる。
【0010】
このようにして従来の手法では、同一基板上に光検出素子および駆動素子を形成する場合において、製造工程を複雑化させることなく双方の素子において高い特性を示すようにすることが困難であったため、改善するための手法の提案が望まれる。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、製造工程を複雑化させることなく、光検出素子および駆動素子において高い特性を示すことが可能な撮像装置、表示撮像装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の撮像装置は、基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第1の半導体層を有する複数の光検出素子と、上記基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第2の半導体層を有する複数の駆動素子とを備えたものである。第1および第2の半導体層はそれぞれ、結晶化された半導体層からなり、第1および第2の半導体層では、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっている。また、第1および第2の半導体層ではそれぞれ、FE(Field Effect)法により求められたトラップ順位密度における、真性フェルミ順位Ei±0.2eVの範囲での平均値である平均トラップ順位密度が、2.0×1017(cm-3)以下である。
【0013】
本発明の表示撮像装置は、基板面上に配設された複数の表示素子と、上記複数の光検出素子と、上記複数の駆動素子とを備えたものである。
【0014】
本発明の電子機器は、上記本発明の表示撮像装置を備えたものである。
【0015】
本発明の撮像装置、表示撮像装置および電子機器では、光検出素子における第1の半導体層と駆動素子における第2の半導体層とにおいて、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっていることにより、これら2種類の半導体層が同一の工程で簡易に形成可能となる。すなわち、これら2種類の半導体層の厚みや不純物濃度を互いに異ならせる必要がなくなる。また、第1および第2の半導体層において、上記平均トラップ順位密度がそれぞれ2.0×1017(cm-3)以下であることにより、光検出素子における特性(例えば、検出光量)と、駆動素子における特性(例えば、トランジスタのオン・オフ電流比)とがそれぞれ、高い値で両立するようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撮像装置、表示撮像装置および電子機器によれば、光検出素子における第1の半導体層と駆動素子における第2の半導体層とにおいて、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっていると共に、第1および第2の半導体層において上記平均トラップ順位密度がそれぞれ2.0×1017(cm-3)以下となっているようにしたので、これら2種類の半導体層を同一の工程で簡易に形成することができると共に、光検出素子および駆動素子における特性をそれぞれ高い値で両立させることができる。よって、製造工程を複雑化させることなく、光検出素子および駆動素子において高い特性を示すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撮像装置の概略構成例を表す断面図である。
【図2】図1に示した撮像装置における画素構成例を表す回路図である。
【図3】トラップ順位密度について説明するための模式図である。
【図4】トラップ順位密度について説明するための特性図である。
【図5】実施の形態に係る撮像装置の製造方法の一例を工程順に表す流れ図である。
【図6】図5に示した製造方法を工程順に表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】図7に続く工程を表す断面図である。
【図9】比較例2に係る撮像装置の製造方法を工程順に表す流れ図である。
【図10】図9に示した製造方法の一部を工程順に表す断面図である。
【図11】比較例および実施例に係る平均トラップ順位密度を表す特性図である。
【図12】実施例に係る平均トラップ順位密度と光検出素子およびTFT素子の特性との関係を表す特性図である。
【図13】実施例に係る平均トラップ順位密度とTFT素子の特性との関係を表す特性図である。
【図14】実施例および比較例に係る光検出素子におけるL長と可視光に対する光検出特性との関係を表す特性図である。
【図15】実施例および比較例に係る光検出素子におけるL長と赤外光に対する光検出特性との関係を表す特性図である。
【図16】図1に示した撮像装置の適用例に係る表示撮像装置の概略構成を表す断面図である。
【図17】図1に示した撮像装置の他の適用例に係る表示撮像装置の概略構成を表す断面図である。
【図18】表示撮像装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図19】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図20】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図21】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図22】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(光検出素子および駆動素子の半導体層(チャネル層)における平均トラップ順位密度が所定の範囲内に設定された撮像装置の例)
2.適用例(表示撮像装置および電子機器への適用例)
【0019】
<実施の形態>
[撮像装置1の断面構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る撮像装置(撮像装置1)の断面構成例を表すものである。撮像装置1は、複数の撮像画素(後述する画素10)を有している。この撮像装置1では、基板11上に、ゲート絶縁膜12、層間絶縁膜13および平坦化膜14がこの順に積層されていると共に、この基板11上(基板面上)に、複数のTFT素子2(駆動素子)および複数の光検出素子(受光素子)3が設けられている。
【0020】
基板11は、例えば、ガラス、プラスチック、石英、酸化アルミニウムなどの透明(光透過性)材料を用いて構成されている。
【0021】
ゲート絶縁膜12は、基板11および後述するゲート電極21,31と、後述するN+層22N+、LDD(Lightly Doped Drain)層22L、P+層32P+、N+層32N+およびI層32Iとの間に設けられている。層間絶縁膜13は、ゲート絶縁膜12、N+層22N+、LDD層22L、P+層32P+、N+層32N+およびI層32Iの上に設けられている。平坦化膜14は、層間絶縁膜13、後述するソース電極23S、ドレイン電極23D、アノード電極33Aおよびカソード電極33Cの上に設けられている。これらのゲート絶縁膜12、層間絶縁膜13および平坦化膜14はそれぞれ、例えば、酸窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)などの絶縁性材料や、有機系樹脂膜により構成されている。これらは単独層を積層してもよいし、複数の材料を用いて混合層としてもよい。
【0022】
(TFT素子2)
TFT素子2は、後述する光検出素子3を駆動(光検出駆動,受光駆動)するための素子であり、ここでは一例として、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)型のTFTからなる。このTFT素子2は、ゲート電極21、前述のゲート絶縁膜12、一対のN+層22N+、一対のLDD層22L、I層22I(第2半導体層)、ソース電極23Sおよびドレイン電極23Dにより構成されている。
【0023】
ゲート電極21は、ゲート絶縁膜12を介してI層22Iと対向する領域に設けられており、例えばモリブデン(Mo)などの導電性材料により構成されている。
【0024】
一対のN+層22N+はそれぞれ、n型不純物(例えば、リン(P)など)が高濃度に注入されたn型半導体により構成されており、一方がソース電極23Sと電気的に接続され、他方がドレイン電極23Dと電気的に接続されている。このn型半導体は、結晶化された半導体(結晶質半導体)により構成されており、これによりキャリア(電子)の移動度を高くすることが可能となっている。この結晶質半導体としては、例えば、多結晶シリコン(ポリシリコン、p−Si)や微結晶シリコン(μ−Si)などが挙げられる。多結晶シリコンによりなるN+層22+は、例えば後述するように、非晶質シリコン(アモルファスシリコン,a−Si)をCVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより製膜し、エキシマレーザなどのレーザ光を照射して溶融固化する(アニール処理を行う)ことにより形成することができる。
【0025】
一対のLDD層22Lはそれぞれ、n型不純物(例えば、Pなど)が低濃度に注入されたn型半導体により構成されており、一対のN+層22+とI層22Iとの間に設けられている。このLDD層22Lもまた、N+層22N+と同様に、結晶化された半導体(結晶質半導体)により構成されている。
【0026】
I層22Iは、Vth(閾値)調整用の不純物のみが注入されているi型半導体により構成されており、チャネル領域が形成されるようになっている。I層22Iもまた、N+層22N+と同様に、結晶化された半導体(結晶質半導体)により構成されている。このI層22Iの厚みおよび不純物濃度はそれぞれ、後述する光検出素子3におけるI層32Iの厚みおよび不純物濃度と互いに略等しくなっている。すなわち、I層22IおよびI層32Iでは、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっている。具体的には、これらの層の厚みは例えば30〜60nm程度であり、不純物注入量は3×1011〜8×1011(atm/cm2)程度である。なお、換言すると詳細は後述するが、これらのI層22IおよびI層32Iは互いに同一の工程により形成されるようになっている。
【0027】
ソース電極23Sおよびドレイン電極23Dは、それぞれ、例えばアルミニウム(Al)や、チタン(Ti)/Al/Ti、Mo/Al/Moなど積層あるいは単層の導電性材料により構成されている。
【0028】
(光検出素子3)
光検出素子3は、光検出部(受光部)としてのI層32I(第1半導体層)へ入射する光を検出する素子であり、ここでは一例として、PIN型のフォトダイオードからなる。この光検出素子3は、ゲート電極31、前述のゲート絶縁膜12、P+層32P+、N+層32N+、I層32I、アノード電極33Aおよびカソード電極33Cにより構成されている。
【0029】
ゲート電極31は、ゲート絶縁膜12を介してI層32Iと対向する領域に設けられており、前述したゲート電極21と同様に、例えばMoなどの導電性材料により構成されている。
【0030】
P+層32P+は、p型不純物(例えば、ホウ素(B)など)が高濃度に注入されたp型半導体により構成されており、アノード電極33Aと電気的に接続されている。このp型半導体は、結晶化された半導体(結晶質半導体)により構成されており、これによりキャリア(ホール,正孔)の移動度を高くすることが可能となっている。
【0031】
N+層32N+は、前述したN+層22Nと同様に、n型不純物(例えば、Pなど)が高濃度に注入されたn型半導体により構成されており、カソード電極33Cと電気的に接続されている。このn型半導体は、結晶化された半導体(結晶質半導体)により構成されており、これによりキャリア(電子)の移動度を高くすることが可能となっている。
【0032】
I層32Iは、前述したI層22Iと同様に、Vth調整用の不純物のみが注入されているi型半導体により構成されており、チャネル領域が形成されるようになっている。I層32Iもまた、N+層32N+と同様に、結晶化された半導体(結晶質半導体)により構成されている。このI層32Iの厚みおよび不純物濃度はそれぞれ、前述したように、TFT素子2におけるI層22Iの厚みおよび不純物濃度と互いに略等しくなっている。I層32Iにおけるチャネル領域のチャネル長L1(L長;図1参照)は、詳細は後述するが、4.0μm以上であることが好ましく、また上限としては例えば40μmである。
【0033】
アノード電極33Aおよびカソード電極33Cはそれぞれ、前述したソース電極23Sおよびドレイン電極23Dと同様に、例えばAlや、Ti/Al/Ti、Mo/Al/Moなど積層あるいは単層の導電性材料により構成されている
【0034】
[画素10の回路構成]
次に、図2を参照して、撮像装置1における画素10の回路構成について説明する。図2は、この画素10の回路構成例を表したものである。各画素10内には、上記した光検出素子3と、上記したTFT素子2としての3つのTFT素子2A,2B,2Cと、容量素子C1とが設けられている。また、各画素10には、電源線VDDと、光検出素子3から得られる受光信号が出力される信号線Lsigと、所定のリセット動作を行うためのリセット線Lresetと、受光信号を読み出す(出力する)動作を行うためのリード線Lreadとが接続されている。
【0035】
光検出素子3のゲートおよびカソードは電源線VDDに接続され、アノードは、TFT素子2Aのドレイン、容量素子C1の一端およびTFT素子2Bのゲートに接続されている。TFT素子2Aのゲートはリセット線Lresetに接続され、ソースはグランド(接地)に接続されている。容量素子C1の他端もまた、グランドに接続されている。TFT素子2Bのソースは電源線VDDに接続され、ドレインはTFT素子2Cのドレインに接続されている。TFT素子2Cのゲートはリード線Lreadに接続され、ソースは信号線Lsigに接続されている。
【0036】
このような回路構成により各画素10では、以下のようにして光検出動作がなされる。すなわち、まず、リセット線Lresetへ入力されるリセット信号に応じてTFT素子2Aがオン状態となることにより、容量素子C1の一端側がグランド電位(接地電位)へと初期化(リセット)される。その後、光検出素子3へ光が入射すると、この光検出素子3において光電流が発生し、この光電流の大きさに応じた電荷が容量素子C1へ蓄積される。そして、リード線Lreadへ入力されるリード信号に応じてTFT素子2Bがオン状態となると、光検出信号(受光信号)が出力される(読み出される)。具体的には、ソースフォロワ回路を構成するTFT素子2Bによって増幅された信号(容量素子C1に蓄積された電荷に対応する信号を増幅してなる信号)が、TFT素子2Cを介して信号線Lsigへと出力される。
【0037】
[トラップ順位密度について]
次に、図3および図4を参照して、撮像装置1の特徴的部分の1つである、TFT素子2のI層22Iおよび光検出素子3のI層32I(チャネル領域)におけるトラップ順位密度について説明する。このトラップ順位密度とは、以下のようなパラメータである。
【0038】
すなわち、まず、半導体内部の欠陥は、結晶格子の規則正しい周期性を破壊し、ドナー不純物やアクセプター不純物と同様に、禁則ギャップにエネルギー準位(トラップ準位)を導入するようになっている。これらのエネルギー準位は、伝導体と価電子帯との間でキャリア(電子および正孔)の遷移に踏み台としての役割を果たす。このときのキャリアの遷移確率は、ステップの大きさによる。したがって、トラップ準位はこのような遷移をより容易にし、キャリア寿命にドラスティックな影響を与える。そして、ある特定のトラップ準位がどの程度存在するのかを定義したのが、トラップ準位蜜度である。このように、トラップ準位密度は、チャネル領域内におけるキャリア寿命に関連するパラメータである。詳細は後述するが、キャリア寿命はトラップ準位密度に反比例し、光電流はキャリア寿命に比例するようになっている。
【0039】
ここで本実施の形態では、以下詳述するように、FE(Field Effect)法により求められたトラップ順位密度における、真性フェルミ順位Ei±0.2eVの範囲での平均値である平均トラップ順位密度を用いて、I層22IおよびI層32Iを規定している。これは、以下の理由によるものである。すなわち、まず、キャリア寿命は、不純物のドーズ量だけでなく、半導体膜に接する絶縁膜界面の状態や半導体材料やレーザ照射工程等に起因する結晶状態を含む膜質により変化する。そして、このキャリア寿命を的確に規定することができるパラメータが、平均トラップ準位密度であると考えられるためである。
【0040】
また、以下で詳述するが、このFE法では、トランプ順位密度が活性化エネルギーEaの関数により表わすことができることから、この活性化エネルギーEaを算出することによってトラップ順位密度を求めることが可能となっている。更に、通常、多結晶シリコンを用いた電子デバイスでは、トラップ順位密度として、多結晶シリコンの粒界に存在する粒界トラップ準位密度と、この多結晶シリコン層とゲート絶縁膜との界面に存在する界面トラップ準位とが存在する。FE法を用いた場合、このような粒界トラップ準位と界面トラップ準位との双方を考慮に入れた(合算した)トラップ準位を求めることが可能となっている。
【0041】
ここで、このような特徴を示すパラメータであるトラップ順位密度は、具体的には以下の(1)〜(6)式により求めることができる。すなわち、まず、I層22IおよびI層32I(チャネル領域)における活性化エネルギーEa、Poisson方程式、表面電界、表面ポテンシャル、膜中電荷はそれぞれ、以下の(1)〜(5)式により求めることができる。なお、活性化エネルギーEaは、温度特性(温度変化)に応じた電流変化を測定することにより求めることができる。そして、これらのパラメータを用いて、以下の(6)式によってトラップ順位密度N(Ea)を求めることができる。また、このトラップ順位密度N(Ea)を活性化エネルギーEaの関数として表わすと、以下の(7)式により表わすことができる。このようにして、温度特性(温度変化)に応じた電流変化を測定することによって活性化エネルギーEaを求めることにより、I層22IおよびI層32I(チャネル領域)におけるトラップ順位密度N(Ea)を求めることが可能となる。
【0042】
【数1】

【0043】
【数2】

【0044】
光検出素子3では、I層32においてこのトラップ順位密度が低い場合、光電流が増加する一方、トラップ順位密度が高い場合、逆に光電流が減少する。これは、以下の理由によるものである。すなわち、まず例えば図3に模式的に示したように、光検出素子3のI層32Iでは、強い電界は存在しないため、少数キャリア(図中に示した電子eおよびホール(正孔)h)は、拡散によって移動する。なお、図3中のI層32Iにおいて、「×」印は結晶の欠陥領域を示し、破線の部分は結晶の粒界を示している。このとき、連続の方程式は以下の(8)式により表わすことができ、また、境界条件は以下の(9)式および(10)式により表わすことができる。これらの式から、以下の(11)式を規定することができる。また、x=Lにおける拡散電流は、以下の(12)式により表わすことができる。
【0045】
【数3】

【0046】
また、キャリア寿命τnは、トラップ順位密度に反比例し、以下の(13)式により表わすことができる。また、上記した(12)式により、光電流は、キャリア寿命τに反比例する。したがって、トラップ準位密度が増加するとキャリア寿命が短くなり、結果的に光電流は小さくなる。また、例えば図4に示したように、光電流が飽和するときのチャネル長(L長)は、トラップ準位密度が低くなるのに従って(光電流が大きくなるのに従って,キャリア寿命τnが大きくなるのに従って)、短くなる。
【0047】
【数4】

【0048】
ここで、本実施の形態の撮像装置1では、詳細は後述するが、TFT素子2のI層22Iおよび光検出素子3のI層32I(チャネル領域)ではそれぞれ、上記した平均トラップ順位密度が、2.0×1017(cm-3)以下となっている。これにより、後述するように、光検出素子3における特性(例えば、検出光量)と、TFT素子2における特性(例えば、トランジスタのオン・オフ電流比)とがそれぞれ、高い値で両立するようになるからである。
【0049】
また、これらI層22およびI層32Iにおける平均トラップ順位密度はそれぞれ、1.2×1017(cm-3)以下となっていることが望ましい。更に、これらの層における平均トラップ順位密度はそれぞれ、5.6×1016(cm-3)以上となっていることが望ましい。
【0050】
[撮像装置1の製造方法]
次に、図5〜図8を参照して、撮像装置1の製造方法について説明する。図5は、この撮像装置1の製造方法の一例を工程順に流れ図で表わしたものであり、図6〜図8は、図5に示した製造方法を工程順に断面図で表わしたものである。なお、これらの図5〜図8および以下の説明では、主に撮像装置1における光検出素子3の部分の製造方法(形成方法)について述べる。また、ここでは一例として、結晶質半導体としてシリコン(Si)を用いた場合について説明する。
【0051】
まず、図6(A)に示したように、基板11上に、例えばスパッタ法を用いてゲート電極21,31をそれぞれ形成する(図5中の工程S11)。
【0052】
次いで、これらのゲート電極21,31上に、例えばCVD法を用いて、ゲート絶縁膜12およびa−Si(アモルファスシリコン)層32aをこの順に形成する(工程S12)。そののち、これらのゲート絶縁膜12およびa−Si層32aに対して、所定の脱水素アニール処理を施す(工程S13)。
【0053】
続いて、図6(B)に示したように、a−Si層32aに対して、例えばエキシマレーザを用いてレーザ光を照射してアニール処理を施す(レーザアニール処理を施す)ことにより再結晶化を行い、p−Si(ポリシリコン)層32pを形成する(工程S14)。
【0054】
次に、図6(C)に示したように、p−Si層32pの全面に対して、所定のイオンインプランテーション処理を施すことにより、閾値Vthの調整を行う(工程S15)。
【0055】
次いで、基板11の裏面側(ゲート電極21,31等の形成面とは反対側)から露光処理(裏面露光処理)を行う(工程S16)。これにより、例えば図7(A)に示したように、TFT素子2および光検出素子3におけるI層22I,32Iの形成領域にはそれぞれ、選択的にレジスト膜9が残存することになる。
【0056】
続いて、図7(B)に示したように、p−Si層32pに対して、一様に不純物ドープを行い、LDD層22Lを形成する(工程S17)。ただし、上記したように、I層22I,32Iの形成領域には選択的にレジスト膜9が残存していることから、これらの形成領域には不純物はドープ(注入)されないことになる。これにより、I層22I,32Iがそれぞれ形成される。
【0057】
次に、図7(C)に示したように、所定のパターンからなるレジスト膜9が残存するp−Si膜32pおよびI層22I,32I上に、不純物ドープ処理を行う。具体的には、P+層32P+層の形成領域に対して、選択的に不純物ドープを行う。これにより、図7(C)に示したように、P+層32P+が形成される(工程S18)。
【0058】
次いで、図8(A)に示したように、所定のパターンからなるレジスト膜9が残存するp−Si膜32p、I層22I,32IおよびP+層32P+上に、不純物ドープ処理を行う。具体的には、N+層22N+,32N+層の形成領域に対して、選択的に不純物ドープを行う。これにより、図8(B)に示したように、N+層22N+,32N+が形成される(工程S19)。
【0059】
続いて、このようにして形成されたP+層32P+、N+層22N+,32N+およびI層22I,32Iに対して、不純物の活性化アニール処理を施す(工程S20)。そののち、Si層(半導体層)の素子分離を行う(工程S21)と共に、例えばCVD法を用いて層間絶縁膜13を形成する(工程S22)。
【0060】
次に、図8(C)に示したように、層間絶縁膜13におけるソース電極23S、ドレイン電極23D、アノード電極33Aおよびカソード電極33Cの形成領域内に、これらの電極と電気的接続を得るコンタクトを形成するためのコンタクトホール130を形成する(工程S23)。
【0061】
次いで、例えばスパッタ法を用いて、上記したコンタクト、配線層および各電極をそれぞれ形成する(工程S24)。そののち、例えばCVD法を用いて、平坦化膜14を形成する(工程S25)。以上により、図1に示した撮像装置1が完成する。
【0062】
[撮像装置1の作用・効果]
この撮像装置1では、TFT素子2が光検出素子3に対する駆動素子として機能し、この光検出素子3における光検出動作(受光動作)に対する駆動を行う。このとき、光検出素子3では、光検出部(受光部)としてのI層32に対して光が照射される(光が入射する)と、その光量に応じてI層32において光電流が発生し、p+層32P+とn+層32N+との間に流れ、光検出動作がなされる。
【0063】
ところで、このように光検出素子およびその駆動素子が同一基板上に形成された撮像装置では、光検出素子および駆動素子の特性においてそれぞれ高い値で両立させることが求められる。ところが、従来の撮像装置では、TFT(駆動素子)のオフ時における漏れ電流を抑制するため、フォトダイオード(光検出素子)における半導体層(チャネル層)の膜厚を薄くする必要があった。このため、従来の撮像装置では、外部から光検出素子へ入射した光の多くが半導体層(光電変換層)を透過してしまい、十分な光検出感度が得られない(検出光量が低い)という問題があった。
【0064】
(比較例1)
そこで、比較例1(前述した特許文献1)に係る撮像装置では、基板の下地層上に、駆動素子を構成する第1の活性層(チャネル層)を形成すると共に、この1の活性層と同じ下地層上に、光検出素子を構成する第2の活性層を、第1の活性層よりも光吸収率が高くなるように形成している。具体的には、例えば光検出素子における第2の活性層の厚みが、駆動素子における第1の活性層の厚みよりも大きくなるようにしている。
【0065】
しかしながら、上記のように第2の活性層を第1の活性層よりも厚く形成した場合、駆動素子と光検出素子との間でそれらの活性層(半導体層)を同一の工程で形成することができなくなるため、製造工程が複雑化してしまうことになる。
【0066】
(比較例2)
一方、比較例2(前述した特許文献2)に係る撮像装置では、PIN型のフォトダイオード(光検出素子)において、中間半導体領域に注入される不純物を例えば低濃度のp型に設定すると共に、所定の制御電極に正電位からなる電圧を印加するようにしている。これにより、中間半導体領域における空乏層内で発生した電子−正孔対が即座に分離され、光電流が発生し易くなる。よって、中間半導体領域のチャネル長(L長)を増加させても光電流が飽和しなくなり、光検出感度を十分に向上させることが可能となる。
【0067】
ところが、この比較例2の手法では、光検出素子の中間半導体領域(チャネル領域)に対して、駆動素子のチャネル領域よりも高濃度の不純物を添加する必要がある。すなわち、光検出素子と駆動素子との間で、それらのチャネル層(半導体層)の不純物濃度を異ならせる必要があるため、新たな工程を追加する必要が生じ、やはり製造工程が複雑化してしまうことになる。
【0068】
図9は、この比較例2に係る撮像装置の製造方法を工程順に流れ図で表わしたものである。比較例2に係る撮像装置の製造方法は、図5に示した本実施の形態の撮像装置1の製造方法(工程S11〜S25)において、工程S16,S17の代わりにそれぞれ、以下説明する工程S106,S107を設けたものとなっている。
【0069】
すなわち、この比較例2の製造方法では、まず工程S106において、本実施の形態の工程S16に対応する裏面露光処理に加え、基板11の表面側(ゲート電極21,31等の形成面側)からも露光処理(表面露光処理)を行う。これにより、比較例2では図7((A)に示した本実施の形態とは異なり、光検出素子においてはレジスト膜9が除去される。具体的には、TFT素子におけるI層22Iの形成領域には選択的にレジスト膜9が残存する一方、例えば図10(A)に示したように、比較例2に係る光検出素子(後述する光検出素子103)における後述するP−層103P−の形成領域では、レジスト膜9が除去される。
【0070】
次いで、比較例2では、光検出素子103の形成領域において、図10(B)に示したようにa−Si層32pに対して一様に不純物ドープを行い、P−層103Pを形成する(工程S107)。このようにして、光検出素子103のチャネル領域に対して、TFT素子3のチャネル領域よりも高濃度の不純物が添加される。
【0071】
なお、その後は本実施の形態の工程S18〜S25と同様の工程を行うことにより、例えば図10(C)に示したように、光検出素子103を備えた比較例2に係る撮像装置が完成する。
【0072】
このように、比較例2に係る撮像装置103の製造方法では、光検出素子103とTFT素子2との間で、それらのチャネル層(I層22IおよびP−層103P−)の不純物濃度を異ならせる必要があるため、新たな工程(表面露光処理)を追加する必要が生じる。
【0073】
以上のように、比較例1,2の手法では、同一基板上に光検出素子および駆動素子を形成する場合において、製造工程を複雑化させることなく双方の素子において高い特性を示すようにすることが困難である。
【0074】
(本実施の形態の特徴的作用)
これに対して本実施の形態では、まず、光検出素子3におけるチャネル領域(I層32I)とTFT素子2におけるチャネル領域(I層22I)とにおいて、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっている。これにより、これら2種類の半導体層(I層,チャネル領域)が同一の工程で簡易に形成可能となる。すなわち、上記比較例2のように、これら2種類の半導体層の厚みや不純物濃度を互いに異ならせる必要がなくなる。
【0075】
また、本実施の形態の撮像装置1では、前述したように、TFT素子2のI層22Iおよび光検出素子3のI層32I(チャネル領域)においてそれぞれ、平均トラップ順位密度が2.0×1017(cm-3)以下となっている。これにより、以下の実施例を用いて詳述するように、光検出素子3における特性(例えば、検出光量)と、TFT素子2における特性(例えば、トランジスタのオン・オフ電流比)とがそれぞれ、高い値で両立するようになる。
【0076】
具体的には、まず、例えば図11(A)に示した比較例1では、例えば図11(B)に示した本実施の形態に係る実施例(実施例1〜3)と比べ、平均トラップ順位密度(FE法により求められたトラップ順位密度における真性フェルミ順位Ei±0.2eVの範囲での平均値)が高い値を示している。すなわち、図11(A)に示した比較例1では、平均トラップ順位密度が2.0×1018(cm-3)程度となっている。一方、図11(A)に示した実施例1〜3における平均トラップ順位密度は、実施例1において7.8×1016(cm-3)、実施例2において5.6×1016(cm-3)、実施例3において1.2×1017(cm-3)となっている。このように、実施例1〜3における平均トラップ順位密度はそれぞれ、上記した2.0×1017(cm-3)以下の値となっている。なお、図示はしていないが、後述する比較例2に係る平均トラップ順位密度も、3.5×1018(cm-3)となっており、実施例1〜3と比べて高い値となっている。
【0077】
ここで、これらの実施例1〜3および比較例1,2では、チャネル領域(半導体層)における不純物量(ドーズ量)、膜厚、チャネル長(L長)、エキシマレーザによるレーザアニール処理の際の照射条件(フルエンス条件)および平均トラップ準位密度はそれぞれ、以下のようになっている。なお、本実施の形態では、上記した不純物量は3×1011〜8×1011(atm/cm2)程度の範囲内、膜厚は30〜60(nm)程度の範囲内、チャネル長は4〜40(μm)程度の範囲内、フルエンス条件は510〜580(mJ)程度の範囲内であることが望ましい。
【0078】
実施例1: …… 不純物量:5×1011(atm/cm2)、膜厚:40(nm)、チャネル長:可変の値(後述)、フルエンス条件:550(mJ)、平均トラップ順位密度:7.8×1016(cm-3
実施例2: …… 不純物量:3×1011(atm/cm2)、膜厚:60(nm)、チャネル長:可変の値(後述)、フルエンス条件:580(mJ)、平均トラップ順位密度:5.6×1016(cm-3
実施例3: …… 不純物量:8×1011(atm/cm2)、膜厚:30(nm)、チャネル長:可変の値(後述)、フルエンス条件:510(mJ)、平均トラップ順位密度:1.2×1017(cm-3
比較例1: …… 不純物量:1×1012(atm/cm2)、膜厚:40(nm)、チャネル長:可変の値(後述)、フルエンス条件:510(mJ)、平均トラップ順位密度:2.0×1018(cm-3
比較例2: …… 不純物量:4×1012(atm/cm2)、膜厚:40(nm)、チャネル長:可変の値(後述)、フルエンス条件:510(mJ)、平均トラップ順位密度:3.5×1018(cm-3
【0079】
なお、比較例2の手法による膜厚方向での電子正孔分離が生じるためには、キャリア密度が3×1017(atm/cm2)程度以上であることが必要であると考えられ、不純物量としては上記したように、4×1012(atm/cm2)程度以上が必要となる。これに対して本実施の形態では、上記したように好ましくは、不純物量は3×1011〜8×1011(atm/cm2)程度の範囲内となっている。したがって、本実施の形態では上記比較例2と比べ、チャネル領域における不純物量がかなり低くなっている。
【0080】
ここで、図12は、実施例に係る平均トラップ順位密度と、光検出素子3およびTFT素子2の特性との関係を表したものである。具体的には、ここではTFT素子2の特性の一例として、トランジスタのオン・オフ電流比(Idson(オン動作時のソース・ドレイン間電流)/Idsoff(オフ動作時のソース・ドレイン間電流))を挙げ、光検出素子3の特性の一例として、検出光量(Iphoto(光電流)−Idark(暗電流))を挙げている。なお、ここでは一例として、TFT素子2における(チャネル幅W/チャネル長L)=20μm/4.25μm、光検出素子3における(チャネル幅W/チャネル長L)=100μm/10μm、検出光の波長=850nmとしている。
【0081】
この図12により、I層22I,I層32I(チャネル領域)における平均トラップ順位密度を2.0×1017(cm-3)以下とすることにより、光検出素子3における特性(検出光量;Iphoto−Idark)と、TFT素子2における特性(トランジスタのオン・オフ電流比;Idson/Idsoff)とがそれぞれ、高い値で両立することが分かる。具体的には、平均トラップ順位密度が2.0×1017(cm-3)以下である場合に、検出光量(Iphoto−Idark)が急激に増加していると共に、トランジスタのオン・オフ電流比(Idson/Idsoff)も、良好な駆動に必要な条件(高い値)を満たしている。また、図12により、これらI層22およびI層32Iにおける平均トラップ順位密度が、1.2×1017(cm-3)以下となっているのが望ましいことが分かる。平均トラップ順位密度をこの値以下とすることにより、トランジスタのオン・オフ電流比(Idson/Idsoff)が更に急激に増加しているからである。
【0082】
また、図13は、実施例に係る平均トラップ順位密度と、TFT素子2の特性(ソース・ドレイン間電流Ids)との関係を表したものである。
【0083】
ここで、本実施の形態では、例えば平均トラップ順位密度およびソース・ドレイン間電流Idsはそれぞれ、図13中の斜線で示した領域内の値となっていることが望ましい。具体的には、I層22およびI層32Iにおける平均トラップ順位密度は、上記した上限値に加え、更に5.6×1016(cm-3)以上となっていることが望ましい。この値以上であったほうが、エキシマレーザ等を用いたレーザアニール処理による半導体層の結晶化を実施し易いからである。また、ソース・ドレイン間電流Idsは、例えば210(μA)以上となっていることが望ましい。この値以上であれば、TFT素子2におけるオフ動作時のソース・ドレイン間電流Idsoffが小さくなり(例えば、1×10-10(A)以下となり)、良好な駆動動作が実現されるためである。
【0084】
また、本実施の形態の撮像装置1では、光検出素子3のI層32Iにおけるチャネル長(L長)L1は、以下説明する適切な範囲内の値となっていることが望ましい。
【0085】
ここで、図14は、実施例1〜3および比較例1,2に係る光検出素子におけるチャネル長(L長)と、可視光(一例として波長400nm)に対する光検出特性(検出光量;Iphoto−Idark)との関係を表したものである。
【0086】
この図14により、本実施の形態では、I層32Iにおけるチャネル長L1(L長)は、4.0μm以上であるのが望ましいことが分かる。これにより、例えば実施例1〜3のように、比較例1,2と比べて検出光量(Iphoto−Idark)が増加するからである。また、本実施の形態では、このチャネル長L1(L長)は、検出光量(Iphoto−Idark)が飽和している(安定化している)領域内の値(例えば、5〜8μm程度以上の値)となっていることが望ましい。これにより、例えば比較例2の手法(所定の制御電極に正電位からなる電圧を印加することにより、チャネル長(L長)を増加させても光電流が飽和しなくなって線形に増加するようにする手法)と比べ、安定した光検出を行うことができる。なお、この比較例2の手法では、チャネル長の増加に従って光電流(検出光量)が線形に増加するため、チャネル長のばらつきによって個々の光検出素子の特性が変動するおそれがある。
【0087】
また、図14により、この比較例2の手法を用いた光検出素子においても、実施例1〜3と比べて検出光量(Iphoto−Idark)が低くなっていることが分かる。これは、不純物量が増加するとそれに伴って結晶の欠陥密度も増加するため、光電流が増加する効果と共に低下する効果も出てくることになり、結果的に検出光量がそれほど高い値を示さないものと考えられる。
【0088】
また、図15は、実施例1〜3および比較例1,2に係る光検出素子におけるチャネル長(L長)と、赤外光(一例として波長850nm)に対する光検出特性(検出光量;Iphoto−Idark)との関係を表したものである。すなわち、ここでは、光検出素子3が赤外光に対して検出感度を有するものとなっている。
【0089】
この図15に示した特性を図14に示した特性と比較すると、図14に示した可視光の場合と比べて図15に示した赤外光の場合のほうが、検出光量(Iphoto−Idark)が増加する効果が大きいことが分かる。具体的には、図14に示した可視光の場合、例えば(実施例3の検出光量/比較例2の検出光量)=約4/3となっているのに対し、図15に示した赤外光の場合、例えば(実施例3の検出光量/比較例2の検出光量)=約2.0となっている。すなわち、赤外光に対しては可視光の2倍以上の受光感度が得られていることが分かる。
【0090】
以上のように本実施の形態では、光検出素子3におけるI層32I(チャネル領域,半導体層)とTFT素子2におけるI層22I(チャネル領域,半導体層)とにおいて、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっていると共に、これらI層22I,32Iにおいて平均トラップ順位密度がそれぞれ2.0×1017(cm-3)以下となっているようにしたので、これら2種類の半導体層(I層22I,32I)を同一の工程で簡易に形成することができると共に、光検出素子3およびTFT素子2における特性をそれぞれ高い値で両立させることができる。よって、製造工程を複雑化させることなく、光検出素子3およびTFT素子2において高い特性を示すことが可能となる。
【0091】
<適用例>
続いて、上記実施の形態に係る撮像装置1の適用例(表示撮像装置および電子機器への適用例)について説明する。
【0092】
[表示撮像装置]
図16は、撮像装置1の適用例に係る表示撮像装置としての液晶表示装置4の概略構成を断面図で表わしたものである。この液晶表示装置4は、基板11上に、ゲート絶縁膜12、層間絶縁膜13および平坦化膜14と、複数の光検出素子3と、複数のTFT素子2(例えば、図中のTFT素子2−1,2−2等)と、複数の液晶素子40(表示素子)とを備えている。この液晶素子40は、画素電極421、液晶層43および共通電極422からなる。液晶表示装置4はまた、基板11に対向する基板41(透明基板)上に、ブラックマトリクス層46、カラーフィルタ47およびオーバーコート層45を備えている。
【0093】
また、図17は、撮像装置1の他の適用例に係る表示撮像装置としての有機EL(Electro Luminescence)表示装置5の概略構成を断面図で表わしたものである。この有機EL表示装置5は、基板11上に、ゲート絶縁膜12、層間絶縁膜13、平坦化膜14および樹脂層54と、複数の光検出素子3と、複数のTFT素子2(例えば、図中のTFT素子2−1,2−2等)と、複数の有機EL素子50(表示素子)とを備えている。この有機EL素子50は、アノード電極521、有機材料層からなる発光層53、およびカソード電極522からなる。有機EL表示装置5はまた、基板11に対向する基板51(透明基板)上に、ブラックマトリクス層56、カラーフィルタ57およびオーバーコート層55を備えている。
【0094】
このような構成からなる表示撮像装置では、外部からの環境光や表示素子からの表示光を受光することが可能となる。したがって、表示データやバックライトの光量等を制御したり、タッチパネル機能や指紋入力機能、スキャナ機能などを有する多機能ディスプレイとして機能させることが可能となる。
【0095】
[電子機器]
次に、図18〜図22を参照して、上記した表示撮像装置の適用例について説明する。上記表示撮像装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなどのあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。言い換えると、上記表示撮像装置は、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。
【0096】
(適用例1)
図18は、上記表示撮像装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル611およびフィルターガラス612を含む映像表示画面部610を有しており、この映像表示画面部610は、上記表示撮像装置により構成されている。
【0097】
(適用例2)
図19は、上記表示撮像装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部621、表示部622、メニュースイッチ623およびシャッターボタン624を有しており、その表示部622は、上記表示撮像装置により構成されている。
【0098】
(適用例3)
図20は、上記表示撮像装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体631,文字等の入力操作のためのキーボード632および画像を表示する表示部633を有しており、その表示部633は、上記表示撮像装置により構成されている。
【0099】
(適用例4)
図21は、上記表示撮像装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部641,この本体部641の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ642,撮影時のスタート/ストップスイッチ643および表示部644を有している。そして、その表示部644は、上記表示撮像装置により構成されている。
【0100】
(適用例5)
図22は、上記表示撮像装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記表示撮像装置により構成されている。
【0101】
<変形例>
以上、実施の形態および適用例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0102】
例えば、上記実施の形態等では、光検出素子3において検出する光として、可視光および赤外光を例に挙げて説明したが、本発明の撮像装置における光検出素子において、他の波長領域の光を検出するようにしてもよい。
【0103】
また、上記実施の形態では、主にシリコン薄膜を半導体層として用いた場合について説明したが、半導体層に用いる半導体材料としてはこれには限られない。すなわち、例えば、シリコンゲルマニウム(SiGe),ゲルマニウム(Ge),セレン(Se),有機半導体膜、酸化物半導体膜などの半導体を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0104】
1…撮像装置、10…画素、11…基板、12…ゲート絶縁膜、13…層間絶縁膜、130…コンタクトホール、14…平坦化膜、2,2A〜2C,2−1,2−2…TFT素子、21…ゲート電極、22N+…N+層、22I…I層、22L…LDD層、23S…ソース電極、23D…ドレイン電極、3…光検出素子、31…ゲート電極、32P+…P+層、32N+…N+層、32I…I層、32a…a−Si層、32p…p−Si層、33A…アノード電極、33C…カソード電極、4…液晶表示装置、40…液晶素子、5…有機EL表示装置、50…有機EL素子、L1…チャネル長(L長)、C1…容量素子、VDD…電源線、Lsig…信号線、Lreset…リセット線、Lread…リード線、Lin…入射光、h…ホール(正孔)、e…電子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第1の半導体層を有する複数の光検出素子と、
前記基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第2の半導体層を有する複数の駆動素子と
を備え、
前記第1および第2の半導体層はそれぞれ、結晶化された半導体層からなり、
前記第1および第2の半導体層では、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっており、
前記第1および第2の半導体層ではそれぞれ、FE(Field Effect)法により求められたトラップ順位密度における、真性フェルミ順位Ei±0.2eVの範囲での平均値である平均トラップ順位密度が、2.0×1017(cm-3)以下である
撮像装置。
【請求項2】
前記第1および第2の半導体層における前記平均トラップ順位密度がそれぞれ、1.2×1017(cm-3)以下である
請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記第1の半導体層における前記チャネル領域のチャネル長が、4.0μm以上である
請求項1または請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記第1および第2の半導体層における前記平均トラップ順位密度がそれぞれ、5.6×1016(cm-3)以上である
請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光検出素子は、赤外光に対して検出感度を有する
請求項1または請求項2に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記光検出素子が、PIN型のフォトダイオードからなると共に、前記駆動素子が、MOS型の薄膜トランジスタ(TFT)からなる
請求項1または請求項2に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記薄膜トランジスタは、前記フォトダイオードを駆動するためのものである
請求項6に記載の撮像装置。
【請求項8】
基板面上に配設された複数の表示素子と、
前記基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第1の半導体層を有する複数の光検出素子と、
前記基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第2の半導体層を有する複数の駆動素子と
を備え、
前記第1および第2の半導体層はそれぞれ、結晶化された半導体層からなり、
前記第1および第2の半導体層では、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっており、
前記第1および第2の半導体層ではそれぞれ、FE(Field Effect)法により求められたトラップ順位密度における、真性フェルミ順位Ei±0.2eVの範囲での平均値である平均トラップ順位密度が、2.0×1017(cm-3)以下である
表示撮像装置。
【請求項9】
表示撮像装置を備え、
前記表示撮像装置は、
基板面上に配設された複数の表示素子と、
前記基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第1の半導体層を有する複数の光検出素子と、
前記基板面上に配設され、チャネル領域が形成される第2の半導体層を有する複数の駆動素子と
を備え、
前記第1および第2の半導体層はそれぞれ、結晶化された半導体層からなり、
前記第1および第2の半導体層では、それらの厚みおよび不純物濃度がそれぞれ互いに略等しくなっており、
前記第1および第2の半導体層ではそれぞれ、FE(Field Effect)法により求められたトラップ順位密度における、真性フェルミ順位Ei±0.2eVの範囲での平均値である平均トラップ順位密度が、2.0×1017(cm-3)以下である
電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−19146(P2012−19146A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156893(P2010−156893)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】