説明

故障診断装置

【課題】 故障が発生したPWBAを特定することが可能な故障診断技術を提供する。
【解決手段】 本発明は、各々が複数の電子部品を有する複数のプリント配線基板を有する被診断装置との間でデータの送受信を行う被診断装置接続手段と、被診断装置が有する少なくとも一つのプリント配線基板の少なくとも一つの電子部品に対しテストデータを入力させるテストデータ入力手段と、前記テストデータに対して出力された出力データを取得する出力データ取得手段と、前記出力データを、あらかじめ決められた故障診断モデルに変数として入力することにより、前記複数のプリント配線基板の各々について、そのプリント配線基板が故障している確率を算出する故障確率算出手段と、前記故障確率算出手段により算出された確率が高い順にプリント配線基板を故障箇所候補として特定する故障箇所特定手段とを有する故障診断装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器における故障診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、複写機、複合機などの電子機器は、近年、性能および機能の向上に伴い、多くのアナログ電子回路あるいはデジタル電子回路を有している。これらの電子回路は、機能ごとにプリント配線基板(Printed Wiring Board Assembly、以下「PWBA」という)の形で電子機器に格納されている。PWBAは、一連の機能を実現するため、ケーブルを介して接続されている。
【0003】
電子回路は、一定の確率で故障するものである。故障の発生確率をゼロにすることは困難であるので、電子機器において故障を予測あるいは故障の発生箇所を速やかに特定し、適切な対応を取ることが要求されている。しかし、電子機器の構成が複雑化するにつれ、故障が発生した箇所を特定することはますます困難になっている。
【0004】
複写機、プリンタ等において故障箇所を特定する技術としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1は、画像検査装置と管理装置との間で必要に応じて検査プログラムを画像出力へ送り、検査したデータを管理装置で分析して故障箇所の特定を行う技術が開示されている。特許文献1においては、管理装置における故障診断の際に、例えばベイジアンネットワークによる故障診断モデルを用いて故障箇所の推定を行っている。
【特許文献1】特開2005−20713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1によれば、故障診断のための情報を得るためには、動作状態を検知するセンサが必要である。特許文献1は、センサからのデータを解析することにより故障診断を可能とする技術を開示している。しかし、装置を構成しているPWBA自体の故障は、センサデータのような指標がないため、故障箇所を特定することができないという問題があった。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、電子機器において、故障が発生したPWBAを特定することが可能な故障診断技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、各々が複数の電子部品を有する複数のプリント配線基板を有する被診断装置との間で、データの送受信を行う被診断装置接続手段と、前記被診断装置接続手段を介して接続された被診断装置が有する複数のプリント配線基板のうち少なくとも一つのプリント配線基板の少なくとも一つの電子部品に対しテストデータを入力させるテストデータ入力手段と、前記テストデータ入力手段により入力されたテストデータに対して出力された出力データを取得する出力データ取得手段と、前記出力データ取得手段により得られた出力データを、あらかじめ決められた故障診断モデルに変数として入力することにより、前記複数のプリント配線基板の各々について、そのプリント配線基板が故障している確率を算出する故障確率算出手段と、前記故障確率算出手段により算出された確率が高い順にプリント配線基板を故障箇所候補として特定する故障箇所特定手段とを有する故障診断装置を提供する。
【0008】
好ましい態様において、この故障診断装置は、複数のテストプログラムを記憶したテストプログラム記憶手段と、あらかじめ決められたアルゴリズムに従って、前記テストプログラム記憶手段に記憶された複数のテストプログラムのうち少なくとも1のテストプログラムを選択するテストプログラム選択手段と、前記テストプログラム選択手段により選択されたテストプログラムを実行することによりテストデータを生成するテストデータ生成手段とを有し、前記テストデータ入力手段が、前記テストデータ生成手段により生成されたテストデータを入力させてもよい。
【0009】
別の好ましい態様において、前記被診断装置が、故障状態を示すエラーコードを出力するエラーコード出力手段を有し、前記テストプログラム記憶手段が、エラーコードと、そのエラーコードに対応するテストプログラムとを記憶し、前記テストプログラム選択手段が、前記テストプログラム記憶手段に記憶されたテストプログラムのうち、前記被診断装置から出力されたエラーコードに対応するテストプログラムを選択してもよい。
【0010】
さらに別の好ましい態様において、前記被診断装置が、当該被診断装置が設置されている場所の環境情報、当該被診断装置が設置されたときからの経過時間を示す経過時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板が最後に交換されたときからの経過時間を示す交換時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板を交換した時間を示す交換履歴情報、当該被診断装置のプリント配線基板が製造されたときを特定する基板製造情報、当該被診断装置のプリント配線基板の電子部品が製造されたときを特定する部品製造情報、当該被診断装置の動作履歴を示す動作履歴情報のうち少なくともいずれか一つを記憶する情報記憶手段を有し、前記テストプログラム選択手段が、あらかじめ決められたテストプログラム選択モデルに従ってテストプログラムを選択し、前記テストプログラム決定手段が、前記情報記憶手段に記憶された環境情報、経過時間情報、交換時間情報、交換履歴情報、基板製造情報、部品製造情報、動作履歴情報のうち少なくとも一つを変数として前記あらかじめ決められたテストプログラム決定モデルに入力してもよい。
【0011】
さらに別の好ましい態様において、前記被診断装置が、当該被診断装置が設置されている場所の環境情報、当該被診断装置が設置されたときからの経過時間を示す経過時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板が最後に交換されたときからの経過時間を示す交換時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板を交換した時間を示す交換履歴情報、当該被診断装置のプリント配線基板が製造されたときを特定する基板製造情報、当該被診断装置のプリント配線基板の電子部品が製造されたときを特定する部品製造情報、当該被診断装置の動作履歴を示す動作履歴情報のうち少なくともいずれか一つを記憶する情報記憶手段を有し、前記故障確率算出手段が、前記出力データ取得手段により得られた出力データに加え、さらに、前記情報記憶手段に記憶された環境情報、経過時間情報、交換時間情報、交換履歴情報、基板製造情報、部品製造情報、動作履歴情報のうち少なくとも一つを変数として前記あらかじめ決められた故障モデルに入力してもよい。
【0012】
さらに別の好ましい態様において、前記被診断装置が、故障状態を示すエラーコードを出力するエラーコード出力手段を有し、前記故障診断装置が、複数のテストプログラムを記憶した記憶手段を有するサーバ装置と接続するサーバ接続手段と、エラーコードと、そのエラーコードに対応するテストプログラムの識別子を記憶したテストプログラム識別子記憶手段と、前記テストプログラム記憶手段に記憶されたテストプログラムの識別子のうち、前記被診断装置から出力されたエラーコードに対応するテストプログラムの識別子を選択するテストプログラム識別子選択手段と、前記選択手段により選択されたテストプログラムの識別子により特定されるテストプログラムのダウンロードを要求するダウンロード要求を、前記サーバ接続手段を介して接続されたサーバ装置に送信するダウンロード要求送信手段と、前記ダウンロード要求送信手段により送信されたダウンロード要求に応じて、前記サーバ装置から送信されたテストプログラムを受信するテストプログラム受信手段と、前記テストプログラム受信手段が受信したテストプログラムを実行することによりテストデータを生成するテストデータ生成手段とを有し、前記テストデータ入力手段が、前記テストデータ生成手段により生成されたテストデータを入力させてもよい。
【0013】
さらに別の好ましい態様において、前記被診断装置と前記故障診断装置とは同一の装置であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
<1.概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る故障診断システム1000の構成を示す図である。故障診断システム1000は、故障診断の対象となる複合機100と、故障診断に必要なデータ等を管理する管理サーバ200と、故障診断を行う故障診断装置300とを有する。複合機100、管理サーバ200、および故障診断装置300は、ネットワーク400を介して接続されている。ネットワーク400は、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等、どのようなものでもよい。
【0015】
図2は、複合機100の構成を示す図である。画像読み取り部101は、CCD(Charge Coupled Device)センサ(図示略)により原稿画像を光学的に読み取り、データ化する。スキャナIF部102は、生成された画像データを、複合機100の他の構成要素に送信するためのインターフェースである。表示部103は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)により構成される。表示部103は、表示制御部104の制御下で複合機100の動作状態や動作モードを表示する。画像形成部105は、読み取った画像データや、通信IF部109を介して受信した画像データに従って、用紙(記録材)上に画像を形成する。プリンタIF部106は、画像形成部と他の構成要素とのインターフェースである。指示入力部107は、複合機100に指示入力を行うためのユーザインターフェースである。指示入力部107は、LCD上に設置されたタッチパネルやテンキー等で構成される。記録・読み取り制御部108は、画像データの記録・読み取り制御を行う。記録・読み取り制御部108は、例えばHDD(Hard Disk Drive)により構成される。通信IF部109は、ネットワーク400を介して接続された他の機器との間でデータの送受信を行うインターフェースである。CPU(Central Processing Unit)110は、複合機100の各構成要素を制御する。ROM(Read Only Memory)111は、複合機100を動作させるプログラム等を記憶したメモリである。RAM(Random Access Memory)112は、複合機100の動作時におけるワークエリアとして機能するメモリである。NVRAM(Nonvolatile RAM)113は、複合機100の各種状態を記憶するメモリである。以上の各構成要素は、バス190を介して相互に接続されている。
【0016】
図3は、複合機100の回路基板構成を例示する図である。複合機100は、複数のプリント配線基板(Printed Wiring Board Assembly、以下「PWBA」という)を有する。各PWBAは、それぞれ複数の電子部品を有する。PWBA1は、CPU11と、メモリ12と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)13と、ASIC14と、メモリ15と、メモリ16とを有する。PWBA1は、さらに、PWBA2、PWBA3、PWBA4、PWBA5と接続するためのコネクタ17−2、コネクタ17−3、コネクタ17−4、コネクタ17−5を有する。PWBA2は、CPU21と、メモリ22と、ASIC23と、コネクタ27とを有する。PWBA3は、ASIC31と、メモリ32と、コネクタ37とを有する。PWBA4は、CPU41と、メモリ42と、ASIC43と、コネクタ47とを有する。PWBA5の詳細は図示を省略したが、例えばHDD等の周辺機器を有する。
【0017】
図4は、管理サーバ200のハードウェア構成を示す図である。CPU210は、管理サーバ200の各構成要素を制御する制御部である。RAM230は、CPU210がプログラムを実行する際のワークエリアとして機能する。ROM220は、管理サーバ200の動作に必要なプログラム等を記憶している。I/F240は、複合機100等の他の機器との間でデータや制御信号の送受信を行うためのインターフェースである。HDD250は、各種データやプログラムを記憶する記憶装置である。HDD250は、本実施形態に関して特に、故障診断を行うためのテストプログラムを複数記憶している(詳細は後述)。キーボード260およびディスプレイ270は、ユーザが管理サーバ200に対して操作入力を行うためのユーザインターフェースである。以上の各構成要素は、バス290により相互に接続されている。
【0018】
図5は、故障診断装置300の機能構成を示す図である。故障診断装置300は、管理サーバ200と同様のハードウェア構成を有している。すなわち故障診断装置300は、CPU321と、RAM323と、ROM322と、I/F324と、HDD325と、キーボード326と、ディスプレイ327とを有する。故障診断装置300は、CPU321が、HDD325に記憶された故障診断プログラムを実行することにより、以下で説明する機能構成要素を具備する。エラーコード受信部303は、複合機100から故障に応じて出力されたエラーコードを受信する。複合機100は、エラーコードと共に、複合機100の各種状態を示す状態変数を故障診断装置300に出力する。状態変数受信部304は、複合機100から出力された状態変数を受信する。テストプログラム決定部305は、エラーコード受信部303が受信したエラーコードおよび状態変数受信部304が受信した状態変数に基づいて、使用するテストプログラムを決定する。テストプログラム決定部305は、使用が決定したテストプログラムのダウンロード要求を、管理サーバ200に送信する。管理サーバ200は、ダウンロード要求に応じたテストプログラムを故障診断装置300に送信する。テストプログラム受信部306は、管理サーバ200から送信されたテストプログラムを受信する。テストプログラム実行部307は、ダウンロードしたテストプログラムを実行する。テストプログラムを実行すると、テストプログラム実行部307は、複合機100のPWBAのうち、対象となるPWBAの対象となる電子部品に、テストデータを処理させる。テスト結果受信部308は、複合機100からテスト結果を受信する。BN(ベイジアンネットワーク)計算処理部309は、受信したテスト結果および複合機100の状態変数に基づいて、故障確率を計算する。故障候補表示部310は、計算結果に基づいて故障箇所の候補を表示する。
【0019】
<2.第1実施形態>
以下、故障診断システム1000の詳細な動作を説明する。
図6は、本発明の第1実施形態に係る故障診断処理を示すフローチャートである。複合機100からエラーコードを受信すると、故障診断装置300のCPU321は、複合機100の再起動を要求する再起動要求を生成する。CPU321は、生成した再起動要求をエラーコードの送信元である複合機100に送信する。再起動要求を受信すると、複合機100は再起動プログラムを実行して自分自身を再起動させる(ステップS301)。
【0020】
複合機100が再起動すると、故障診断装置300のCPU321は、エラーコードが再発生するか判断する(ステップS302)。すなわち、CPU321は、複合機100から同一のエラーコードが送信されるか判断する。エラーコードが再発生しない場合(ステップS302:NO)、故障診断は必要ないので、CPU321は処理を終了する。エラーコードが再発生した場合(ステップS302:YES)、CPU321は、処理をテストモードに移行する(ステップS303)。次に、CPU321は、エラーコードに応じて実行するテストプログラムを決定する(ステップS304)。なお、複合機100の再起動は、ユーザの操作により実行してもよい。
【0021】
図7は、エラーメッセージを例示する図である。故障が発生すると、複合機100の表示部103は、図7に示されるように、エラーコードと、ユーザに再起動を促すメッセージとを表示する。ユーザはメッセージに従って複合機100を再起動し、再び同一のエラーコードが発生した場合、診断ボタンを押す。診断ボタンが押されると、複合機100は診断要求を生成し、故障診断装置300に出力する。複合機100から診断要求を受信すると、故障診断装置300のCPU321は、処理をテストモードに移行する(ステップS303)。
【0022】
図8は、本実施形態に係るテストプログラム決定処理の詳細を示すフローチャートである。CPU321は、HDD325に記憶されているテストプログラム情報を呼び出す(ステップS401)。テストプログラム情報とは、エラーコードと、テスト対照となるPWBAと、テスト対象となる電子部品と、テストプログラムを特定する識別子とを対応付ける情報である。次に、CPU321は、発生したエラーコードを取得する(ステップS402)。複合機100から送信されたエラーコードは、RAM323あるいはHDD325に記憶されている。次に、CPU321は、呼び出したテストプログラム情報から、発生したエラーコードに対応するテストプログラムを特定する(ステップS403)。
【0023】
図9は、本実施形態における故障箇所候補を例示する図である。図10は、本実施形態に係るテストプログラム情報であるテストプログラムテーブルTB1を例示する図である。ここでは、複合機100においてエラーコード「111−011」が発生した場合を例にとり説明する。図10から、エラーコード111−011に対応するPWBAは、PWBA1およびPWBA2である。CPU321は、PWBA1に対して使用するテストプログラムとして、メモリテスト12、メモリテスト15、メモリテスト16、ASICテスト13、ASICテスト14、CPUテスト11を特定する。また、CPU321は、PWBA2に対して使用するテストプログラムとして、メモリテスト22、ASICテスト23、CPUテスト21を特定する。説明の便宜上、テストプログラムの参照番号として、テスト対象となる電子部品と同一の番号を用いている。CPUテストは、例えば、レジスタ部に対するリード/ライトテストである。ASICテストは、例えば、レジスタ部に対するリード/ライトテストに加え、機能ブロックのテストがある。エラーコードが310−254である場合も同様にしてテストプログラムが決定される。
【0024】
再び図6を参照して説明する。使用するテストプログラムを決定すると、CPU321は、決定されたプログラムが複合機100の記録・読み取り制御部108に記憶されているか判断する(ステップS305)。本実施形態において、複合機100はテストプログラムを記憶していない(ステップS305:NO)。したがって、CPU321は、処理をステップS306に移行する。以前にダウンロードしたテストプログラムが消去されず残っている等、決定されたプログラムが複合機100の記録・読み取り制御部108に記憶されている場合(ステップS305:YES)、CPU321は、処理をステップS307に移行する。
【0025】
ステップS306において、CPU321は、故障診断に使用するテストプログラムのダウンロードを行う。
図11は、テストプログラムのダウンロードを説明する図である。管理サーバ200は、複数のテストプログラムをHDD250に記憶している。故障診断装置300のCPU321は、使用することが決定されたテストプログラムのダウンロード要求を生成し、管理サーバ200に送信する。ダウンロード要求を受信すると、管理サーバ200のCPU210は、ダウンロード要求に従って、決定されたテストプログラムを故障診断装置300に送信する。
【0026】
再び図6を参照して説明する。CPU321は、ダウンロードしたテストプログラム、または、既に記憶されていたテストプログラムを組み合わせる(ステップS307)。CPU321は、各テストプログラムを実行する(ステップS308)。すなわち、故障診断装置300は、各テストプログラムのテスト対象である電子部品に対し特定のテストデータを出力し、処理させる。
【0027】
図12は、テスト結果を例示する図である。エラーコード111−011に対応するテストプログラムが実行された結果、本実施形態では、メモリテスト12:OK、メモリテスト15:OK、メモリテスト16:OK、ASICテスト13:NG、ASICテスト14:NG、CPUテスト11:OK、メモリテスト22:NG、ASICテスト23:NG、CPUテスト21:NGという結果が得られた。複合機100は、テスト結果を故障診断装置300に送信する。再び図6に戻って、CPU321は、各テストプログラムのテスト結果を取得する(ステップS309)。次に、CPU321は、あらかじめ決められた故障診断モデルに、テスト結果を変数として入力することにより故障診断処理を行う(ステップS310)。
【0028】
本実施形態において、故障診断システム1000は、故障診断モデルとして、ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)を利用した推論エンジンを採用した。ベイジアンネットワークを用いた故障診断は、母集団内の良好な個体の統計的な情報を用いて探索点を生成する確率モデル遺伝的アルゴリズムを利用するものである。ベイジアンネットワークを用いた故障診断は、ノード(変数)間の依存関係を確率的に捉え、グラフ構造(ベイジアンネットワークあるいは因果ネットワークと呼ばれる)を用いて、分布の推定を行う最適化アプローチである。
【0029】
図13は、本実施形態に係る故障診断モデルの概要を説明する図である。ベイジアンネットワークは、コンポーネントが故障を引き起こしているか否かを示す状態を有するコンポーネント状態ノード(図13中の四角で囲まれたノード)と、コンポーネント状態ノードに接続され、コンポーネントの状態と因果関係にある複数の情報ノード(図13中の楕円で囲まれたノード)とを構成要素として有する。本実施形態において、コンポーネント状態ノードとして、PWBAの状態を示すノードが、情報ノードとしてテストプログラムの結果を示すノードが用いられている。
【0030】
図14は、本実施形態に係る故障診断モデルを例示する図である。CPU321は、この故障診断モデルに従って故障確率を算出する。CPU321は、算出した故障確率に従って故障箇所の候補を抽出する。
【0031】
図15は、各ノードの因果関係の強さを示す確率表を例示する図である。故障診断装置300は、各ノードに対応する確率表を、あらかじめHDD325に記憶している。図15は、各テストプログラムの結果情報に対するPWBA2の正常と故障の確率を示している。CPUテスト21:OK、ASICテスト23:OK、メモリテスト22:OKの場合は、PWBA2の正常確率は95%で故障確率は5%である。CPUテスト21:OK、ASICテスト23:OK、メモリテスト22:NGの場合は、PWBA2の正常確率は40%で故障確率は60%である。CPUテスト21:OK、ASICテスト23:NG、メモリテスト22:OKの場合は、PWBA2の正常確率は20%で故障確率は80%である。CPUテスト21:OK、ASICテスト23:NG、メモリテスト22:NGの場合は、PWBA2の正常確率は15%で故障確率は85%である。CPUテスト21:NG、ASICテスト23:OK、メモリテスト22:OKの場合と、CPUテスト21:NG、ASICテスト23:OK、メモリテスト22:NGの場合と、CPUテスト21:NG、ASICテスト23:NG、メモリテスト22:OKの場合は、PWBA2の正常確率は5%で故障確率は95%である。CPUテスト21:NG、ASICテスト23:NG、メモリテスト22:NGの場合は、PWBA2の正常確率は1%で故障確率は99%である。また、他のPWBAについても同様に確率表があらかじめ記憶されている。CPU321は、テスト結果(図12)を確率変数として、ベイジアンネットワークを用いた故障診断モデルに入力することにより、故障原因の候補となるノードの故障確率を算出する。CPU321は、例えば故障確率が高い順にノードを故障原因候補と特定し、故障原因をユーザに通知するメッセージや図形をディスプレイ327に表示させる。
【0032】
以上で説明したように、本実施形態によれば、故障診断装置300は、PWBAの各電子部品におけるテスト結果を変数として故障診断モデルに入力することにより、故障箇所を特定することができる。また、故障診断装置300は、テストプログラムテーブルTB1を有しており、画像形成装置の内部情報などの各種情報を管理サーバ200に送信する必要が無い。そのため、ネットワーク400の負荷を軽減することができる。さらに、管理サーバ200の負荷も軽減することができるため、結果として故障診断に要する時間を短縮することができる。
【0033】
上述の実施形態の故障診断モデルは、図14に示されるように、故障したPWBAを特定するため、PWBAノード(コンポーネント状態ノード)とテストプログラムの結果情報ノードと有していた。しかし、故障診断モデルを構成するノードはこれに限定されるものではない。更に故障診断の精度を向上させるため、テストプログラムの結果情報ノードに加えて、各部品の製造番号情報ノード(各部品のID情報ノード)、交換履歴情報ノード、温度や湿度等の環境情報ノード、動作履歴情報ノード、複合機100のプリント枚数等のカウンタ値情報ノードなどを故障診断モデルに加えてもよい。故障診断装置300は、必要な情報を複合機100から取得する。
【0034】
図16は、第1実施形態の変形例に係る故障診断モデルの概要を説明する図である。図17は、この変形例に係る故障診断モデルの具体例を示す図である。図18は、この変形例に係る確率表を例示する図である。このように、各電子部品におけるテスト結果に加えて、動作時間情報、製造番号情報、前回交換時からの経過時間等の情報を加えた診断モデルを構築することにより、より精度の高い故障診断を行うことが可能となる。
【0035】
<3.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明においては、第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態と共通する事項については説明を省略する。また、第1実施形態と共通する構成要素については、共通の参照符号を用いて説明する。第2実施形態は、図6のステップS304におけるテストプログラムの決定処理が、図8に示されるものとは異なっている。
【0036】
図19は、第2実施形態に係るテストプログラム決定処理の詳細を示すフローチャートである。本実施形態において、故障診断装置300のCPU321は、ベイジアンネットワークを用いたテストプログラム決定モデルに従って、使用するテストプログラムを決定する。CPU321は、まず、複合機100の記録・読み取り制御部108あるいはNVRAM113に記憶された各種情報を呼び出す(S1501)。各種情報とは、例えば、エラーコード情報、温度・湿度等の環境情報、画像形成装置を設置してからの経過時間、または、回路基板を交換してからの経過時間である経過時間情報、画像形成装置内の部品をいつ交換したかといった交換履歴情報、製造番号やある製造時における故障が発生しやすい故障部品情報である回路基板の製造時の情報、部品の製造時の情報、画像形成装置の動作・実行内容を表す動作履歴情報などである。故障診断装置300のCPU321は、各種情報の送信要求を複合機100に送信する。複合機100は、送信要求に従って要求された各種情報を故障診断装置300に送信する。CPU321は、受信した各種情報をテストプログラム決定モデルに入力する(S1502)。CPU321は、実行するテストプログラムを決定するための診断処理を行い(S1503)、テストプログラムを決定する。
【0037】
図20は、第2実施形態に係るテストプログラム決定モデルの概要を説明する図である。部品Xの交換情報ノード(交換の頻度についての情報など)、プリント枚数情報ノード、部品X製造番号情報ノード、画像形成装置の通電時間情報ノード、回路基板Yの故障割合情報ノード(故障した全ての回路基板に対する、回路基板Yの故障発生割合)、回路基板Yの製造番号情報ノードなどが、部品Xテストのノードに接続された入力ノードを構成している。
【0038】
図21は、第2実施形態に係るテストプログラム決定モデルの具体例を示す図である。本実施形態に係るテストプログラム決定モデルは、第1実施形態において説明した、故障診断モデルがベースになっている。本実施形態に係るテストプログラム決定モデルは、複合機100の各種情報ノードを複数有する。
【0039】
図22は、ASICテスト23のノードに対応する確率表を例示する図である。第1実施形態のエラーコードに対応して実行するテストプログラム情報がベースとなっているため、エラーコード111−111の場合は、ASICテスト23の必要確率は、基本的には高めに設定されているが、ASICテスト23の必要確率が、プリント枚数情報やASIC2の部番情報を反映したものになっている。エラーコードが310−254の場合は、ASICテスト23の必要確率が低めに設定されている。
【0040】
本実施形態によれば、テストプログラム決定モデルを導入し、エラーコードから決定するテストプログラム情報と最小限の複合機100内の各種状態情報に基づいてテストプログラムが決定される。したがって、複合機100の状態に応じて適切なテストプログラムを選択することができる。
【0041】
<4.他の実施形態>
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。上述の各実施形態においては、故障診断を行う装置(故障診断装置300)と故障診断の対象となる被診断装置(複合機100)とが別個の装置である態様について説明したが、複合機100が故障診断装置300の機能を有していてもよい。すなわち、複合機100は自己診断機能を有していてもよい。また、複合機100は、故障診断装置300の機能に加えて、管理サーバ200の機能(の一部)をさらに有する構成としてもよい。また、被診断装置は、複合機などの画像形成装置に限定されるものではない。各々複数の電子部品を有する複数のPWBAを有する電子機器であれば、どのようなものでもよい。
【0042】
また、上述の各実施形態においては、エラーコードに応じて選択されたテストプログラムのみを実行する態様について説明したが、テストプログラムの選択を行わない構成としてもよい。例えば、発生したエラーコードにかかわらず、すべてのPWBAのすべての電子部品についてテストプログラムを実行する構成としてもよい。あるいは、発生したエラーコードにかかわらず、あらかじめ決められた一部の電子部品についてテストプログラムを実行する構成としてもよい。あるいは、エラーコードが発生したときに、ユーザにテストプログラムの選択を促すメッセージを表示し、ユーザにテストプログラムを選択させる構成としてもよい。
【0043】
また、上述の各実施形態においては、故障診断モデルおよびテストプログラム決定モデルとして、ベイジアンネットワークによる確率モデルを用いた態様について説明したが、これ以外の確率モデルを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】故障診断システム1000の構成を示す図である。
【図2】複合機100の構成を示す図である。
【図3】複合機100の回路基板構成を例示する図である。
【図4】管理サーバ200のハードウェア構成を示す図である。
【図5】故障診断装置300の機能構成を示す図である。
【図6】第1実施形態に係る故障診断処理を示すフローチャートである。
【図7】エラーメッセージを例示する図である。
【図8】第1実施形態に係るテストプログラム決定処理の詳細を示す図である。
【図9】第1実施形態における故障箇所候補を例示する図である。
【図10】テストプログラムテーブルTB1を例示する図である。
【図11】テストプログラムのダウンロードを説明する図である。
【図12】テスト結果を例示する図である。
【図13】第1実施形態に係る故障診断モデルの概要を説明する図である。
【図14】第1実施形態に係る故障診断モデルを例示する図である。
【図15】各ノードの因果関係の強さを示す確率表を例示する図である。
【図16】第1実施形態の変形例に係る故障診断モデルの概要を説明する図である。
【図17】この変形例に係る故障診断モデルの具体例を示す図である。
【図18】この変形例に係る確率表を例示する図である。
【図19】第2実施形態に係るテストプログラム決定処理の詳細を示す図である。
【図20】第2実施形態に係るテストプログラム決定モデルの概要を示す図である。
【図21】第2実施形態に係るテストプログラム決定モデルを例示する図である。
【図22】第2実施形態に係る確率表を例示する図である。
【符号の説明】
【0045】
TB1…テストプログラムテーブル、1・2・3・4・5…PWBA、11…CPU、12…メモリ、13…ASIC、14…ASIC、15…メモリ、16…メモリ、17…コネクタ、21…CPU、22…メモリ、23…ASIC、27…コネクタ、31…ASIC、32…メモリ、37…コネクタ、41…CPU、42…メモリ、43…ASIC、47…コネクタ、100…複合機、101…画像読み取り部、102…スキャナIF部、103…表示部、104…表示制御部、105…画像形成部、106…プリンタIF部、107…指示入力部、108…記録・読み取り制御部、109…通信IF部、110…CPU、111…ROM、112…RAM、113…NVRAM、190…バス、200…管理サーバ、210…CPU、220…ROM、230…RAM、240…I/F、250…HDD、260…キーボード、270…ディスプレイ、290…バス、300…故障診断装置、303…エラーコード受信部、304…状態変数受信部、305…テストプログラム決定部、306…テストプログラム受信部、307…テストプログラム実行部、308…テスト結果受信部、309…BN計算処理部、310…故障候補表示部、321…CPU、322…ROM、323…RAM、324…I/F、325…HDD、326…キーボード、327…ディスプレイ、400…ネットワーク、1000…故障診断システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が複数の電子部品を有する複数のプリント配線基板を有する被診断装置との間で、データの送受信を行う被診断装置接続手段と、
前記被診断装置接続手段を介して接続された被診断装置が有する複数のプリント配線基板のうち少なくとも一つのプリント配線基板の少なくとも一つの電子部品に対しテストデータを入力させるテストデータ入力手段と、
前記テストデータ入力手段により入力されたテストデータに対して出力された出力データを取得する出力データ取得手段と、
前記出力データ取得手段により得られた出力データを、あらかじめ決められた故障診断モデルに変数として入力することにより、前記複数のプリント配線基板の各々について、そのプリント配線基板が故障している確率を算出する故障確率算出手段と、
前記故障確率算出手段により算出された確率が高い順にプリント配線基板を故障箇所候補として特定する故障箇所特定手段と
を有する故障診断装置。
【請求項2】
複数のテストプログラムを記憶したテストプログラム記憶手段と、
あらかじめ決められたアルゴリズムに従って、前記テストプログラム記憶手段に記憶された複数のテストプログラムのうち少なくとも一つのテストプログラムを選択するテストプログラム選択手段と、
前記テストプログラム選択手段により選択されたテストプログラムを実行することによりテストデータを生成するテストデータ生成手段と
を有し、
前記テストデータ入力手段が、前記テストデータ生成手段により生成されたテストデータを入力させる
ことを特徴とする請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項3】
前記被診断装置が、故障状態を示すエラーコードを出力するエラーコード出力手段を有し、
前記テストプログラム記憶手段が、エラーコードと、そのエラーコードに対応するテストプログラムとを記憶し、
前記テストプログラム選択手段が、前記テストプログラム記憶手段に記憶されたテストプログラムのうち、前記被診断装置から出力されたエラーコードに対応するテストプログラムを選択する
ことを特徴とする請求項2に記載の故障診断装置。
【請求項4】
前記被診断装置が、当該被診断装置が設置されている場所の環境情報、当該被診断装置が設置されたときからの経過時間を示す経過時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板が最後に交換されたときからの経過時間を示す交換時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板を交換した時間を示す交換履歴情報、当該被診断装置のプリント配線基板が製造されたときを特定する基板製造情報、当該被診断装置のプリント配線基板の電子部品が製造されたときを特定する部品製造情報、当該被診断装置の動作履歴を示す動作履歴情報のうち少なくともいずれか一つを記憶する情報記憶手段を有し、
前記テストプログラム選択手段が、あらかじめ決められたテストプログラム選択モデルに従ってテストプログラムを選択し、
前記テストプログラム決定手段が、前記情報記憶手段に記憶された環境情報、経過時間情報、交換時間情報、交換履歴情報、基板製造情報、部品製造情報、動作履歴情報のうち少なくとも一つを変数として前記あらかじめ決められたテストプログラム決定モデルに入力する
ことを特徴とする請求項2に記載の故障診断装置。
【請求項5】
前記被診断装置が、当該被診断装置が設置されている場所の環境情報、当該被診断装置が設置されたときからの経過時間を示す経過時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板が最後に交換されたときからの経過時間を示す交換時間情報、当該被診断装置のプリント配線基板を交換した時間を示す交換履歴情報、当該被診断装置のプリント配線基板が製造されたときを特定する基板製造情報、当該被診断装置のプリント配線基板の電子部品が製造されたときを特定する部品製造情報、当該被診断装置の動作履歴を示す動作履歴情報のうち少なくともいずれか一つを記憶する情報記憶手段を有し、
前記故障確率算出手段が、前記出力データ取得手段により得られた出力データに加え、さらに、前記情報記憶手段に記憶された環境情報、経過時間情報、交換時間情報、交換履歴情報、基板製造情報、部品製造情報、動作履歴情報のうち少なくとも一つを変数として前記あらかじめ決められた故障診断モデルに入力する
ことを特徴とする請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項6】
前記被診断装置が、故障状態を示すエラーコードを出力するエラーコード出力手段を有し、
前記故障診断装置が、
複数のテストプログラムを記憶した記憶手段を有するサーバ装置と接続するサーバ接続手段と、
エラーコードと、そのエラーコードに対応するテストプログラムの識別子を記憶したテストプログラム識別子記憶手段と、
前記テストプログラム記憶手段に記憶されたテストプログラムの識別子のうち、前記被診断装置から出力されたエラーコードに対応するテストプログラムの識別子を選択するテストプログラム識別子選択手段と、
前記選択手段により選択されたテストプログラムの識別子により特定されるテストプログラムのダウンロードを要求するダウンロード要求を、前記サーバ接続手段を介して接続されたサーバ装置に送信するダウンロード要求送信手段と、
前記ダウンロード要求送信手段により送信されたダウンロード要求に応じて、前記サーバ装置から送信されたテストプログラムを受信するテストプログラム受信手段と、
前記テストプログラム受信手段が受信したテストプログラムを実行することによりテストデータを生成するテストデータ生成手段と
を有し、
前記テストデータ入力手段が、前記テストデータ生成手段により生成されたテストデータを入力させる
ことを特徴とする請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項7】
前記被診断装置と同一の装置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−87112(P2007−87112A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275089(P2005−275089)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】