説明

新規な有機半導体材料とそれを用いた電子デバイス

【課題】塗工や印刷あるいは蒸着等の簡便なプロセスで、二次元的に結晶成長することにより連続膜が成膜できる、特性の優れた有機半導体材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表わされることを特徴とする有機半導体材料。


(一般式(I)中、RからR10はそれぞれ独立に、水素、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルコキシ基又は置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアリール基を表わし、RからR10は互いに結合して環を形成してよく、Xは炭素又は窒素を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な有機半導体材料に関するものであり、得られる有機半導体材料は有機エレクトロニクス材料としてきわめて有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機薄膜トランジスタの研究開発が盛んである。
有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で薄膜形成できる可能性があり、従来の無機半導体材料を利用した薄膜トランジスタと比し、製造プロセス温度を低温化できるという利点がある。
これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化や低コスト化できるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待できる。
【0003】
これまでに、有機半導体材料として、ポリ(3−アルキルチオフェン)(非特許文献1のAppl.Phys.Lett.,69(26),4108(1996)参照)や、ジアルキルフルオレンとビチオフェンとの共重合体(非特許文献2のScience,290,2123(2000)参照)等が提案されている。
これらの有機半導体材料は、低いながらも溶解性を有するため、真空蒸着工程を経ず、塗布や印刷で薄膜化が可能である。
しかしながら、これらの高分子材料は、精製方法に制約を受け、高純度の材料を得るのに非常に手間がかかったり、分子量や分子量分布が存在するために品質の安定性に欠けるということが問題になっている。
【0004】
一方、低分子の有機半導体材料としてペンタセン等のアセン系材料が報告されている(例えば、特許文献1の特開平5−55568号公報参照)。
このペンタセンを有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、比較的高移動度であることが報告されているが、これらアセン系材料は汎用溶媒に対しきわめて溶解性が低く、それを有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層として薄膜化する際には、真空蒸着工程を経る必要がある。ゆえに、前述したような塗布や印刷などの湿式プロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
【0005】
また、これまで溶解性を有する低分子有機半導体材料も幾つか報告されているものの、湿式プロセスにより作製された膜はアモルファスであったり、また各材料由来の晶癖のために連続膜を得ることが困難であり、素子毎の特性が大きくばらついたり、良好な特性が得られない等の問題がある。
例えばWO2010/000670号明細書およびAdvanced Materials,2009,21,213−216.に記載されているジチエノベンゾジチオフェン誘導体のように、結晶内で分子がπスタックした構造を有する場合、結晶形は針状となりやすく、連続した薄膜状態に製膜できなかったり、単一の結晶中でも電荷輸送特性の異方性が大きくなったり、素子毎の特性のばらつきが大きくなってしまい、実用には適さない。特に結晶の形状を含めた結晶構造は分子構造から予測することは困難であり、現在も更なる材料開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題を解決するため、塗工や印刷あるいは蒸着等の簡便なプロセスで、二次元的に結晶成長することより連続膜が成膜できる、特性の優れた有機半導体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定部位への特定の修飾基の導入により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の(1)〜(9)からなる。
(1)「下記一般式(I)で表わされることを特徴とする有機半導体材料。
【0008】
【化1】

(一般式(I)中、RからR10はそれぞれ独立に、水素、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルコキシ基又は置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアリール基を表わし、RからR10は互いに結合して環を形成してよく、Xは炭素又は窒素を表わす)」、
(2)「前記一般式(I)において、R及びRが置換若しくは無置換のアリール基であることを特徴とする前記第(1)項に記載の有機半導体材料」、
(3)「前記第(1)項又は第(2)項に記載の有機半導体材料を含む電荷輸送性部材」、(4)「前記第(3)項に記載の電荷輸送性部材を含むことを特徴とする有機電子デバイス」、
(5)「前記第(4)項に記載の有機電子デバイスが、有機半導体層を具備する薄膜トランジスタであることを特徴とする、有機薄膜トランジスタ」、
(6)「有機半導体層を介して互いに分離した対の第1の電極と第2の電極と、電圧を印加することにより、前記第1の電極と前記第2の電極との間の有機半導体層内を流れる電流をコントロールする機能を具備する第3の電極を具備していることを特徴とする前記第(5)項に記載の有機薄膜トランジスタ」、
(7)「前記第3の電極と、前記有機半導体層との間に、絶縁膜が設けられていることを特徴とする前記第(6)項に記載の有機薄膜トランジスタ」、
(8)「前記第(5)項乃至第(7)項のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタにより表示画素が駆動されることを特徴とするディスプレイ装置」、
(9)「前記表示画素は、液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子の中から選ばれたものであることを特徴とする前記第(8)項に記載のディスプレイ装置」。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述の問題を解決するため、塗工や印刷等の簡便なプロセスで二次元的に結晶成長することにより連続膜が成膜でき、特性の優れた有機半導体材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機電子デバイスの一例としての有機薄膜トランジスタの概略構造図である。
【図2】本発明の実施例1で合成した化合物(実1)の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1で合成した化合物(実1)のマススペクトルを示す。
【図4】本発明の実施例2で合成した化合物(実2)の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2で合成した化合物(実2)のマススペクトルを示す。
【図6】本発明の実施例4で作製した有機薄膜トランジスタのVds=−100Vの際の伝達特性を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例4で作製した有機薄膜トランジスタをSEMで分析した結果である。
【図8】本発明の実施例5で合成した化合物(実4)のマススペクトルを示す。
【図9】本発明の実施例6で合成した化合物(実5)のマススペクトルを示す。
【図10】本発明の実施例8で合成した化合物(実6)のマススペクトルを示す。
【図11】本発明の実施例9で合成した化合物(実7)のマススペクトルを示す。
【図12】本発明の実施例10で合成した化合物(実8)のマススペクトルを示す。
【図13】実施例11で作製したトランジスタのVds=−100Vの際の伝達特性である。
【図14】実施例11で作製したトランジスタのSEM像である。
【図15】本発明の実施例12で合成した化合物(実9)のマススペクトルを示す。
【図16】本発明の実施例13で合成した化合物(実10)のマススペクトルを示す。
【図17】本発明の実施例14で合成した化合物(実11)のマススペクトルを示す。
【図18】本発明の実施例15で合成した化合物(実12)のマススペクトルを示す。
【図19】本発明の実施例16で合成した化合物(実13)のマススペクトルを示す。
【図20】本発明の実施例17で合成した化合物(実14)のマススペクトルを示す。
【図21】本発明の実施例18で合成した化合物(実15)のマススペクトルを示す。
【図22】比較例2で作製したトランジスタのSEM像である。
【図23】比較例3で作製したトランジスタのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の有機半導体材料の構造について説明する。
本発明の有機半導体材料の構造は、下記一般式(I)で示される。
【0012】
【化2】

(一般式(I)中、RからR10はそれぞれ独立に、水素、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルコキシ基又は置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアリール基を表わし、RからR10は互いに結合して環を形成してよく、Xは炭素又は窒素を表わす)。
【0013】
からR10として示される置換もしくは無置換のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、9−ヘプタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を一例として挙げることができ、これらはさらに互いに結合して環を形成しても良い。中でもR、R、R、Rがバルキーになった場合、分子形状の捩れが誘発されるため、R、R、R、Rは低級のアルキル基あるいは水素が好ましく、より好ましくは水素が好ましい。同様の理由からジチエノベンゾジチオフェン両端の二重結合の立体配置はトランスが好ましい。また、アルコキシ基、アルキルチオ基としては上記アルキル基の結合位に酸素原子または硫黄原子を挿入してアルコキシ基、アルキルチオ基としたものが一例として挙げられる。
【0014】
これらの材料において溶解性を向上させることは、有機EL素子や有機トランジスタ素子等を始めとする、デバイス製造の際の湿式成膜プロセスの適用を可能とする。
例えば塗工溶媒の選択肢の拡大、溶液調製時の温度範囲の拡大、溶媒の乾燥時の温度及び圧力範囲の拡大となり、これらプロセッシビリティーの高さにより、結果的に高純度で均一性の高い高品質な薄膜が得られる可能性が高くなる。
【0015】
からR10として示される置換もしくは無置換のアリール基としては、具体的には、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、ピレン、フルオレン、9,9−ジメチルフルオレン、アズレン、アントラセン、トリフェニレン、クリセン、9−ベンジリデンフルオレン、5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン、[2,2]−パラシクロファン、トリフェニルアミン、チオフェン、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェン、チエノチオフェン、ベンゾチオフェン、ジチエニルベンゼン、フラン、ベンゾフラン、カルバゾール、ベンゾジチアゾール、ピリジン、キノリン等が一例として挙げられる。これらはさらに上記の置換もしくは無置換のアルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、またはフッ素、塩素、ヨウ素および臭素のハロゲン基を置換基として有していてもよい。
特にR及びRに上記アリール基を導入することにより、ジチエノベンゾジチオフェン部位の両端に位置するビニレン−アリール部位が、結晶内で隣接分子とCH-π相互作用することにより、結晶が2次元的に成長しやすくなり、結晶性の連続膜が得られやすくなることがわかった。加えてアリール基を導入した場合、分子の共役系が拡大し、材料のイオン化ポテンシャルが浅くなり、ホール輸送特性を向上させることが可能となる。さらに上記アリール基が二重結合を会してジチエノベンゾジチオフェン部位に結合していることにより、上記アリール基に電子吸引性置換基を導入することにより、電子輸送特性を向上させることが可能となる。
加えて、上記のような分子修飾を行うことにより、材料の耐熱温度が飛躍的に向上する。
【0016】
次に、本発明の有機半導体材料の製造法について説明する。
本発明の有機半導体材料を合成する方法は特に限定されず、公知の種々の方法により合成することが可能である。本発明の有機半導体材料はジチエノベンゾジチオフェン骨格を構築した後、両端の二重結合部位を導入してもよいし、二重結合部位を導入した後、ジチエノベンゾジチオフェン骨格を構築してもよい。
【0017】
ジチエノベンゾジチオフェン骨格を構築した後、両端の二重結合部位を導入する場合、例えばカルボニル化合物とホスホネートを用いたWittig-Horner反応、カルボニル化合物とホスホニウム塩を用いたWittig反応、ビニル置換体とハロゲン化物を用いたHeck反応、ビニルボロン酸誘導体とハロゲン化物を用いた鈴木−宮浦カップリング反応などを用いることができる。
特に、Wittig-Horner反応及びWittig反応は、反応操作の簡便さのために有効である。一例として、Wittig-Horner反応を用いた本発明の有機半導体材料の製造方法について説明する。
【0018】
本発明の有機半導体材料は、下の反応式に示すように、ホスホン酸エステル化合物及びカルボニル化合物が存在する溶液を、塩基と混合させることによって得られる。
【0019】
【化3】

上記カルボニル化合物は、公知の種々の反応により合成することが可能である。
例として下記Vilsmeier反応;
【0020】
【化4】

アリールリチウム化合物と、DMF、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、各種酸塩化物、各種酸無水物等をはじめとするホルミル化或いはアシル化試薬との下記反応;
【0021】
【化5】

下記Gatterman反応;
【0022】
【化6】

及び、下記ヒドロキシ化合物の各種酸化反応;
【0023】
【化7】

等を一例として挙げることができ、これら反応を用いて所望のカルボニル化合物を合成することができる。
【0024】
また、上記ホスホン酸エステル化合物についても、公知の種々の反応により合成することが可能であるが、下記Michaelis-Arbuzov反応が特に容易である。
【0025】
【化8】

【0026】
上記反応に使用する塩基はホスホネートカルボアニオンが形成されるものであれば特に限定されず、金属アルコシド、金属ヒドリド、有機リチウム化合物等が挙げられ、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムナフチリド、リチウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド等を挙げることができる。
反応に用いる塩基の量は、通常ホスホン酸エステル化合物に対して当量使用するだけでよいが、さらに過剰量用いても支障ない。
【0027】
また、二重結合部位を導入した後、ジチエノベンゾジチオフェン骨格を構築する場合には、以下のような方法で合成することができる。
【0028】
【化9】

【0029】
上記のようにして得られた有機半導体材料は、反応に使用した触媒、無機塩、未反応原料、副生成物等の不純物を除去して使用される。
精製操作は再結晶、各種クロマトグラフィー法、昇華精製、再沈澱、抽出、ソックスレー抽出、限外濾過、透析等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。
不純物の混入は半導体特性に悪影響を及ぼすため、可能な限り高純度にすることが望ましい。溶解性に優れた材料では、これら精製方法の制約が少なくなり、結果的に半導体特性にも好影響を与える。
【0030】
上記製造方法により得られた本発明の半導体材料は、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、ジクロロベンゼン及びキシレン等の溶剤に溶解する場合、支持体上に塗布することによって薄膜を形成することができる。
成膜方法の一例を挙げると、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、ディスペンス法等が挙げられ、公知の湿式成膜方法により薄膜を作製することが可能である。
また、キャスト法などによっては平板状結晶や厚膜状態の形態をとることも可能である。作製するデバイスに応じて、上記の中から適した製膜方法あるいは溶媒から、適切な組み合わせが選択される。
また当然のことながら、真空蒸着法などのドライプロセスによっても成膜は可能である。
これらの薄膜、厚膜、或いは結晶は、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の機能素子の電荷輸送性部材として機能し、本半導体材料を用いて多様な電子デバイスを作製することが可能である。
【0031】
次に、本発明有機電子デバイスの一例としての有機薄膜トランジスタについて、図1に概略構造図を示して説明する。
有機薄膜トランジスタを構成する有機半導体層(1)は、本発明の一般式(I)で示される化合物を主成分としている。
有機薄膜トランジスタは、有機半導体層(1)を介して分離形成された第1の電極(ソース電極)(2)、第2の電極(ドレイン電極)(3)を有しており、これらと対向する第3の電極(ゲート電極)(4)を有している。なお、ゲート電極(4)と有機半導体層(1)との間には、絶縁膜(5)が設けられていてもよい。
有機薄膜トランジスタは、ゲート電極(4)への電圧印加により、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の間の有機半導体層(1)内を流れる電流がコントロールされるようになされている。
【0032】
本発明の有機薄膜トランジスタは、所定の支持体上に形成される。
支持体としては、従来公知の基板材料が適用でき、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等が挙げられる。なお導電性基板を用いることによりゲート電極(4)を兼用することができる。
また、ゲート電極(4)と導電性基板とが積層された構成としてもよいが、本発明の有機薄膜トランジスタをデバイスに応用する場合、フレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の実用面の特性を良好なものとするために、支持体としては、プラスチックシートを用いることが好ましい。
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等のフィルムが挙げられる。
【0033】
次に、図1の有機薄膜トランジスタにおける、上記有機半導体層以外の構成要素について説明する。
有機半導体層(1)は、第1の電極(ソース電極)、第2の電極(ドレイン電極)、及び必要に応じて絶縁膜(5)に接して形成されている。
絶縁膜(5)について説明する。
有機薄膜トランジスタを構成する絶縁膜は、種々の絶縁膜材料を用いて形成されている。
例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物も用いることができる。
更には、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。これらのうち、特に材料は限定されないが、導電率が低いものが好ましい。
絶縁膜(5)の形成方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0034】
次に、有機半導体層(1)と絶縁膜(5)との界面修飾について説明する。
有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜(5)と有機半導体層(1)との接着性を向上させ、かつ駆動電圧の低減、リーク電流の低減等を図ることを目的として、有機半導体層(1)と絶縁膜(5)との間には、所定の有機薄膜を設けるようにしてもよい。
この有機薄膜は有機半導体層に対し化学的影響を与えなければ特に限定されるものではないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
有機分子膜としては、例えばオクタデシルトリクロロシランやヘキサメチルジシラザン等を始めとしたカップリング剤が挙げられる。
高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。
また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していてもよい。
【0035】
次に、有機薄膜トランジスタを構成する電極について説明する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、有機半導体層を介して互いに分離した対の第1の電極(ソース電極)と第2の電極(ドレイン電極)と、電圧を印加することにより、前記第1の電極と前記第2の電極との間の有機半導体層内を流れる電流をコントロールする機能を具備する第3の電極(ゲート電極)を具備している。
有機薄膜トランジスタはスイッチング素子であるため、第3の電極(ゲート電極)による電圧の印加状態により、第1の電極(ソース電極)と第2の電極(ドレイン電極)間に流れる電流量が大きく変調できることが重要である。これはトランジスタの駆動状態で大きな電流が流れ、非駆動状態では、電流が流れないことを意味する。
ゲート電極、ソース電極としては、導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が適用できる。
ソース電極、及びドレイン電極は、半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものとすることが望ましい。
【0036】
上記電極の形成方法としては、例えば、上記電極形成用材料を原料として、蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を適用することによって、電極形状とする方法が挙げられる。
また、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法も適用できる。
また、導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成してもよい。
さらには、導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も適用できる。
【0037】
本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けてもよい。
また、本発明の有機トランジスタは、大気中でも安定に駆動するものであるが、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0038】
上述した本発明の有機薄膜トランジスタは、液晶、エレクトロルミネッセンス、エレクトロクロミック、電気泳動等の、従来公知の各種表示画像素子を駆動するための素子として好適に利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。
本発明のディスプレイ装置は、例えば、液晶表示装置では液晶表示素子、EL表示装置では有機若しくは無機のエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動表示装置では電気泳動表示素子などの表示素子を1表示画素として、該表示素子をX方向及びY方向にマトリックス状に複数配列して構成される。
前記表示素子は、該表示素子に対して電圧の印加又は電流の供給を行なうためのスイッチング素子として、本発明の有機薄膜トランジスタを備えている。本発明のディスプレイ装置としては、前記スイッチング素子が前記表示素子の数、即ち表示画素数に対応して複数備えられる。
前記表示素子は、前記スイッチング素子の他に、例えば、基板、透明電極等の電極、偏光板、カラーフィルタなどの構成部材を備えるが、これらの構成部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、従来から公知のものを使用することができる。
【0039】
前記ディスプレイ装置が、所定の画像を形成する場合には、例えば、マトリックス状に配置されたスイッチング素子の中から任意に選択された前記スイッチング素子が、対応する前記表示素子に電圧の印加又は電流を供給するときのみスイッチがON又はOFFとなり、その他の時間はOFF又はONとなるように構成することにより、高速、高コントラストで、前記ディスプレイ装置の表示を行なうことができる。
なお、前記ディスプレイ装置における画像の表示動作としては、従来から公知の表示動作により画像等が表示される。
例えば、前記液晶表示素子の場合には、液晶に対して電圧を印加することにより、該液晶の分子配列を制御して画像等の表示が行なわれる。
また、前記有機若しくは無機のエレクトロルミネッセンス表示素子の場合には、有機若しくは無機膜で形成された発光ダイオードに電流を供給して該有機若しくは無機膜を発光させることにより画像等の表示が行なわれる。
また、前記電気泳動表示素子の場合には、例えば、異なる極性に帯電された白及び黒色の着色粒子に電圧を印加して、電極間で前記粒子を所定方向に電気的に泳動させて画像等の表示が行なわれる。
【0040】
前記ディスプレイ装置は、前記スイッチング素子を塗工、印刷等の簡易なプロセスにより作製可能であり、プラスチック基板、紙等の高温処理に耐えない基板を用いることができるとともに、大面積のディスプレイであっても、省エネルギー、低コストで前記スイッチング素子を作製可能となる。
また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。なお、IRはPerkin Elmer Spectrum GX FT−IR system、NMRはJEOL JNM−ECX500、質量スペクトルはWaters LCT premier XE ASAPプローブ、融点はSII SSC/5200 DSC120、熱分解温度はSII SSC5200 TG/DTA 220、イオン化ポテンシャルは理研計器製AC2で測定した。
【実施例1】
【0042】
<化合物(実1)の合成>
【0043】
【化10】

【0044】
上記合成経路により、化合物(実1)の合成を行なった。
100mlフラスコに、非特許文献3のOrganic Letters,2007,9,22,4499.記載の方法により合成した化合物1を0.743g(1.071mmol)入れアルゴン置換した後、THF70mlを加え、−78℃に冷却した。
この溶液に、n−BuLiのヘキサン溶液(1.59M)1.41ml(2.249mmol)を加え、−78℃で1時間攪拌した後、DMF4mlを加え、さらに−78℃で1時間攪拌した。この溶液に希塩酸を加えた後、室温に戻した。
溶液に水を加えた後、析出した固体を濾取し、水、メタノールの順に洗浄した。
得られた黄色の固体を減圧下乾燥し、目的の化合物2を0.477g得た。収率89%。
1H NMR(500MHz,DMF−d7,TMS)δ/ppm:8.99(2H,s),10.24(2H,s)
IR(KBr)ν/cm−1:1660(νC=O)
【0045】
100mlフラスコに、化合物2を2.36g(4.74mmol)、DMF37ml、炭酸カリウム1.76g(12.70mmol)及び、チオグリコール酸エチル1.05ml(9.58mmol)を加え、室温で48時間撹拌した。
反応溶液を水に滴下し、析出した固体を濾取し、水、エタノールの順に洗浄した。
得られた黄白色の固体を減圧下乾燥し、目的の化合物3を2.01g得た。収率90%。
1H NMR(500MHz,CDCl,TMS)δ/ppm:1.44(6H,t,J=7.1Hz),4.43(4H,q,J=6.9Hz),8.04(2H,s),8.37(2H,s).
IR(KBr)ν/cm−1:1712(νC=O)
【0046】
100mlフラスコに、化合物3を1.62g(3.61mmol)を入れ、アルゴン置換してTHF40mlを加えた。
0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウム0.62g(16.3mmol)を少量づつ加えた後、室温で10時間攪拌した。
0℃に冷却し、エタノールおよび希塩酸を加え固体を濾取した。
得られた固体を希塩酸、水、酢酸エチルの順に洗浄した後、減圧下乾燥し、無色の固体として化合物4を0.75g得た。収率57%。
1H NMR(500MHz,CDCl,TMS)δ/ppm:1.44(6H,t,J=7.1Hz),4.43(4H,q,J=6.9Hz),8.04(2H,s),8.37(2H,s).
IR(KBr)ν/cm−1:3392(νO−H)
【0047】
25mlフラスコに、化合物4を50.0mg(0.138mmol)、アルミナに担持したPCC(1mmol/g)0.690g(0.690mmol)を入れ、アルゴン置換してジクロロメタン2mlを加えて室温で2日間撹拌した。
デカンテーションにより溶液を取り出し、溶媒を留去し、黄色の固体として化合物5を得た。
1H NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS)δ/ppm:8.54(2H,s),9.02(2H,s),10.08(2H,s).
【0048】
1000mlフラスコに、化合物5を0.750g(2.092mmol)及びジエチルベンジルホスホネート3.820g(16.74mmol)を入れ、アルゴン置換してDMF500mlを加えた。
この溶液にt−BuOK1.878g(16.74mmol)をゆっくりと加え、70℃で2時間撹拌した。
DMFを減圧留去した後、残渣を水、メタノール、ヘキサン、酢酸エチルの順に洗浄した。得られた黄色の固体を減圧下乾燥し、化合物(実1)を0.695g得た。融点362℃。熱分解温度416℃。図2に化合物(実1)の赤外吸収スペクトルを示す。図3に化合物(実1)のマススペクトルを示す。
気相成長法により化合物(実1)の単結晶を作製したところ、平板状結晶が得られた。
得られた結晶を用いて単結晶X線構造解析を行った結果、分子間のCH−π相互作用に基づくヘリンボーンパッキングであることがわかった。
【実施例2】
【0049】
<化合物(実2)の合成>
【0050】
【化11】

【0051】
上記合成経路により、化合物(実2)の合成を行なった。
100mlフラスコに、非特許文献4のAdvanced Materials,2009,21,213-216.記載の方法で合成した化合物6(200℃から昇華、融点305℃)を0.500g(1.653mmol)入れ、アルゴン置換した後THF30mlを加えた。
−20℃に冷却し、n−BuLiのヘキサン溶液(4.133mmol)を滴下し1時間撹拌した。
さらに−78℃に冷却し、DMF2.5mlを加えて30分撹拌した後、希塩酸を加えた後、室温に戻した。
析出した固体を濾取し、水、メタノール、酢酸エチルで洗浄した。
減圧下乾燥し、化合物7を0.392g得た。収率66%。
得られた化合物7と4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートを用い、実施例1と同様の方法で化合物(実2)を得た。熱分解温度394℃。図4に化合物(実2)の赤外吸収スペクトルを示す。図5に化合物(実2)のマススペクトルを示す。
【実施例3】
【0052】
<化合物(実3)の合成>
【0053】
【化12】

【0054】
上記合成経路により、化合物(実3)の合成を行なった。
100mlフラスコに、実施例1で合成した化合物5(化合物(実1)の直前のもの)を0.500g(1.395mmol)、n−オクチルアミンを0.541g(4.184mmol)、及びDMSO30mlを入れ室温で12時間撹拌した。水を加え、析出した黄色の固体を濾取し、エタノールで洗浄した。カラムクロマトグラフィーにより精製し、黄色の結晶として化合物(実3)を0.29g得た。
1H NMR(500MHz,CDCl,TMS)δ/ppm:0.88(6H,t,J=6.6Hz),1.2−1.4(20H,m),1.72(4H,quint,J=6.88Hz),3.63(4H,t,J=6.88Hz),7.49(2H,s),8.28(2H,s),8.43(2H,s).
【実施例4】
【0055】
<有機薄膜トランジスタの作製>
実施例1で合成した化合物(実1)を用いて、以下の手順で、図1−(D)の構造の電界効果型トランジスタを作製した。
膜厚300nmの熱酸化膜を有するNドープシリコン基板を濃硫酸に24時間浸漬し洗浄した。
洗浄済みのシリコン基板をシランカップリング剤(n−オクチルトリクロロシラン)のトルエン溶液(1mM)に浸漬させ、5分間超音波処理を行い、シリコン酸化膜表面に単分子膜を形成させた。
上記で作製した基板に対して、実施例1で得られた化合物(実1)(使用前に昇華精製を行った)を真空蒸着(背圧〜10−4Pa、蒸着レート0.1Å/s、基板温度150℃、半導体膜厚:〜50nm)することにより、有機半導体層を形成した。
この有機半導体層上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10−4Pa、蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm、チャネル幅2mm)。電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。この部分を用いて、ゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて大気下で評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
Ids=μCinW(Vg−Vth)/2L
(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
作製した薄膜トランジスタの特性を評価したところ、電界効果移動度1.0cm/Vs、閾値電圧−17V、オンオフ比3.2×10の非常に優れた特性を示した。
図6に作製したトランジスタのVds=−100Vの際の伝達特性を示した。
また、作製したトランジスタをSEMで分析した結果、化合物(実1)の薄膜は二次元の面内に密に成長した膜構造であった。図7にSEMの結果を示す。
【実施例5】
【0056】
<化合物(実4)の合成>
【0057】
【化13】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、4−ヘキシルオキシジエチルベンジルホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実4)を得た。収率60%。図8に化合物(実4)のマススペクトルを示す。
【実施例6】
【0058】
<化合物(実5)の合成>
【0059】
【化14】

2−(ブロモメチル)ナフタレン(シグマアルドリッチ社製)と、トリエチルフォスファイトとのMichaelis−Arbuzov反応により合成した上記ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、上記、化合物(実5)を得た。収率94%。
さらに1E−5Torrの減圧下で昇華精製を行った。橙色結晶。融点:386℃。熱分解温度:449℃。IR(KBr):945cm−1(−CH=CH− trans)。 イオン化ポテンシャル:5.3eV。図9に化合物(実5)のマススペクトルを示す。
【実施例7】
【0060】
化合物(実5)の蒸着時の基板温度を180℃、150℃、及び室温とした以外は実施例4と同様の方法により、化合物(実8)の有機薄膜トランジスタを作製した。作製した薄膜トランジスタの特性を評価したところ、蒸着時の基板温度180℃において電界効果移動度2.5E−2cm/Vs、150℃において0.05〜0.03cm/Vs、室温ににおいて2.3E−4cm/Vsの非常に優れた特性を示した。
【実施例8】
【0061】
<化合物(実6)の合成>
【0062】
【化15】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、4−(3,7−ジメチルオクチルオキシ)ジエチルベンジル ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実6)を得た。収率68%。図10に化合物(実6)のマススペクトルを示す。
【実施例9】
【0063】
<化合物(実7)の合成>
【0064】
【化16】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、4−ヘキシルジエチルベンジル ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実7)を得た。収率68%。図11に化合物(実7)のマススペクトルを示す。
【実施例10】
【0065】
<化合物(実8)の合成>
【0066】
【化17】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、4−メチルジエチルベンジル ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実7)を得た。収率92%。さらに1E−5 Torrの減圧下で昇華精製を行った。橙色結晶。融点:369℃。熱分解温度:423℃。イオン化ポテンシャル:5.2eV。図12に化合物(実8)のマススペクトルを示す。
【実施例11】
【0067】
化合物(実8)の蒸着時の基板温度を180℃、150℃、100℃及び室温とした以外は実施例4と同様の方法により、化合物(実8)の有機薄膜トランジスタを作製した。
作製した薄膜トランジスタの特性を評価したところ、蒸着時の基板温度180℃において電界効果移動度2.5〜1.7cm/Vs、150℃において2.3〜1.9cm/Vs、100℃において1.5〜1.4cm/Vs、室温において0.2〜0.3cm/Vsの非常に優れた特性を示した。
図13に蒸着時の基板温度180℃で作製したトランジスタの、Vds=−100Vの際の伝達特性を示した。
また、作製したトランジスタをSEMで分析した結果、化合物(実8)の薄膜は二次元の面内に密に成長した膜構造であった。図14にSEMの結果を示す。
【実施例12】
【0068】
<化合物(実9)の合成>
【0069】
【化18】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、4−トリフルオロメチル ジエチルベンジルホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実9)を得た。収率88%。さらに1E−5 Torrの減圧下で昇華精製を行った。黄色結晶。融点:370℃。熱分解温度:386℃。イオン化ポテンシャル:6.1eV。
図15に化合物(実9)のマススペクトルを示す。
【実施例13】
【0070】
<化合物(実10)の合成>
【0071】
【化19】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、4−フェニル ジエチルベンジルホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実10)を得た。収率95%。図16に化合物(実10)のマススペクトルを示す。
【実施例14】
【0072】
<化合物(実11)の合成>
【0073】
【化20】

2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジルブロミド(シグマアルドリッチ社製)と、トリエチルフォスファイトとのMichaelis−Arbuzov反応により合成した上記ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、上記、化合物(実11)を得た。収率74%。図17に化合物(実11)のマススペクトルを示す。
【実施例15】
【0074】
<化合物(実12)の合成>
【0075】
【化21】

4−フルオロベンジルクロリド(東京化成工業社製)と、トリエチルフォスファイトとのMichaelis−Arbuzov反応により合成した上記ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実12)を得た。収率67%。さらにo−ジクロロベンゼンから再結晶により精製し黄色結晶を得た。融点:350℃。図18に化合物(実12)のマススペクトルを示す。
【実施例16】
【0076】
<化合物(実13)の合成>
【0077】
【化22】

1Lフラスコに、4−シアノ ジエチルベンジルホスホネート1.987g(7.811mmol)及び、乳鉢にて粉砕したジアルデヒド(化合物7)0.700g(1.953mmol)を入れ、アルゴン置換し、脱水DMF 500mLを加えた後、超音波照射して分散させた。この溶液にNaH(55% in liquid paraffin)0.340g(7.811mmol)を加えた後、60℃で1.5時間撹拌した。反応溶液を室温に戻した後、少量の酢酸を加えた。およそ400mLの溶媒を減圧留去した後、水を加えた。析出した固体を濾取し、メタノール、アセトン、ヘキサンで洗浄した後真空乾燥し、化合物(実13)を1.025g得た。収率94%。図19に化合物(実13)のマススペクトルを示す。
【実施例17】
【0078】
<化合物(実14)の合成>
【0079】
【化23】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、上記ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実14)を得た。収率92%。図20に化合物(実14)のマススペクトルを示す。
【実施例18】
【0080】
<化合物(実15)の合成>
【0081】
【化24】

4−デシルオキシジエチルベンジルホスホネートの代わりに、上記ホスホネートを用いた以外は実施例2と同様の方法により、化合物(実15)を得た。収率75%。図21に化合物(実15)のマススペクトルを示す。
【0082】
[比較例1]
出発原料として実施例2に記載の化合物6をTHFに溶解し、その溶液をシリコンウェーハー上にキャスト成膜した。
溶媒の乾燥と共に化合物6は針状晶として析出し、電荷輸送部材として使用可能な連続的な膜を得ることはできなかった。
また、THF溶液から化合物6の単結晶を作製しX線結晶構造解析を行ったところ、π−πスタックした構造であった。
【0083】
[比較例2]
化合物6を用いた以外は実施例5と同様の方法により有機薄膜トランジスタを作製した。特性を評価したが、トランジスタとして動作しなかった。
SEMで観察したところ、針状の結晶が成長し、比較例1同様、電荷輸送部材として使用可能な連続的な膜を得ることはできなかった。図22にSEMの結果を示す。
【0084】
[比較例3]
【0085】
【化25】

【0086】
非特許文献4のAdvanced Materials,2009,21,213−216.記載の方法を参考に、上記経路で化合物(比1)を合成した。無色針状晶。融点184℃。
THF溶液から作製した単結晶を用いてX線結晶構造解析を行ったところ、π−πスタックした構造であった。
厚さ300nmの熱酸化膜を有するシリコンウェーハに金電極がパターニングされた基板上に、化合物(比1)の0.5wt%メシチレン溶液をキャスト成膜することにより、図1−(C)に示される薄膜トランジスタを作製した。トランジスタの特性を評価したが、トランジスタとして動作しないものから、1E−5程度の移動度の素子しか得られなかった。
SEMで観察したところ、針状の結晶が成長し、比較例1同様、薄膜形状の電荷輸送部材としての使用に適した連続的な膜を得ることはできなかった。図23にSEMの結果を示す。
【符号の説明】
【0087】
1 有機半導体層
2 第1の電極(ソース電極)
3 第2の電極(ドレイン電極)
4 第3の電極(ゲート電極)
5 絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【非特許文献】
【0089】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,69(26),4108(1996).
【非特許文献2】Science,290,2123(2000).
【非特許文献3】Organic Letters, 2007, 9, 22, 4499
【非特許文献4】Advanced Materials,2009,21,213-216

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされることを特徴とする有機半導体材料。
【化1】

(一般式(I)中、RからR10はそれぞれ独立に、水素、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルコキシ基又は置換若しくは無置換のアルキルチオ基、置換若しくは無置換のアリール基を表わし、RからR10は互いに結合して環を形成してよく、Xは炭素又は窒素を表わす)。
【請求項2】
前記一般式(I)において、R及びRが置換若しくは無置換のアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機半導体材料を含む電荷輸送性部材。
【請求項4】
請求項3に記載の電荷輸送性部材を含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の有機電子デバイスが、有機半導体層を具備する薄膜トランジスタであることを特徴とする、有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
有機半導体層を介して互いに分離した対の第1の電極と第2の電極と、電圧を印加することにより、前記第1の電極と前記第2の電極との間の有機半導体層内を流れる電流をコントロールする機能を具備する第3の電極を具備していることを特徴とする請求項5に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記第3の電極と、前記有機半導体層との間に、絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタにより表示画素が駆動されることを特徴とするディスプレイ装置。
【請求項9】
前記表示画素は、液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子の中から選ばれたものであることを特徴とする請求項8に記載のディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−44686(P2011−44686A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119001(P2010−119001)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】