説明

有機デバイスおよびその製造方法

【課題】可撓性のある樹脂基板上に領域選択的に形成された、密着性およびデバイス特性に優れる有機デバイスおよび、その作製方法を提供する。
【解決手段】デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、有機分子を化学結合させて形成した機能性有機分子層と、前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて、更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層とを備えた有機デバイスであって、前記領域において、有機分子層の積層回数を異ならせた領域が含まれていることを特徴とする有機デバイスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性の基板上に形成された有機分子層の積層膜からなる有機デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)や太陽電池等に代表される電子デバイスの分野において、これまでのシリコン系材料に代わり、有機材料を用いた電子デバイスについて関心が高まっている。
【0003】
特にLCD等に代表される電子ディスプレイ分野では、有機TFTを用いた液晶ディスプレイや有機EL素子を用いたディスプレイの開発が積極的に行われている。また、印刷法等を用いて、大面積且つ安価に製造できる可能性のある有機材料を用いた有機太陽電池の開発も盛んに行われている。
【0004】
さらに、これら有機材料を用いた電子デバイスでは、デバイスの形成に必要なプロセス温度が低いことから、従来のシリコン系デバイスでは使用が困難であった耐熱性の低い樹脂基板を使用することが可能となり、薄型・軽量・耐衝撃性に優れ、可撓性のあるフレキシブルデバイスへの応用が期待されている。例えば特許文献1にはフレキシブルな樹脂基板上への有機トランジスタの作製について開示されている。
【0005】
有機材料をデバイスに用いるための薄膜の形成手法としては、低分子系の材料では真空蒸着法や蒸着重合法のような成膜方法が用いられ、高分子材料の場合にはスピンコート法やインクジェット法等の塗布法が使用・検討されてきた (特許文献2および3を参照) 。
【0006】
しかしながら、従来の有機薄膜の形成において、基板と有機薄膜の間、および積層される有機分子膜間では、有機薄膜を構成する有機分子材料が物理吸着により積層されていることから、形成された有機薄膜の密着性が弱いと言う問題が有った。すなわち、前記の可撓性基板上に蒸着法による低分子有機薄膜や、スピン塗布法により高分子有機薄膜を形成した場合、可撓性基板の曲げ伸ばし等によって各材料層に生じる応力が前記の密着力を上回ることにより、有機薄膜の剥離やデバイス構造の破壊が生じるといった問題点が有った。
【0007】
この様な課題に対しては、例えば、基板変形時の応力を緩和する材料層の追加や、特定の材料との密着性が良好な、いわゆる密着層を追加することによって、可撓性基板と有機薄膜との密着性との改善が図られてきた(特許文献4および5を参照)。
【0008】
しかしながら、これらの手法で改善されるのは基板と接する有機薄膜の密着性のみであり、有機薄膜同士の密着性については改善されないことや、応力緩和や密着性改善のために、特定の膜厚、材質の薄膜層を追加して形成しなければならない等の問題があった。
【0009】
また、従来の蒸着法や塗布法により作製される有機薄膜では、得られる有機薄膜が、いわゆるアモルファス状態の秩序性の低い膜となるという問題があった。例えば特許文献6によれば、分子間のホッピング伝導を用いるような有機半導体等のキャリア伝導においては、秩序性を改善することによって素子特性が改善することが開示されている。
【0010】
この方法では、秩序性を有する自己組織化膜を有機半導体膜に接して設けることにより、有機半導体膜の秩序性の改善を目的としている。しかしながら、形成される有機半導体膜と、自己組織化膜や基板、電極との間は物理吸着により積層されている状況は変わらないことから、やはり密着性に関する問題は解決されていない。
【0011】
さらに、有機薄膜は従来の無機薄膜に比較して機械的強度が弱く、熱、薬品等に対する耐性も低いことから、任意の形状に有機薄膜を加工することは困難であった。
【0012】
【特許文献1】:特開2004−311962
【特許文献2】:特表2006−269599
【特許文献3】:特開2006−303199
【特許文献4】:特開2004−207596
【特許文献5】:特開2004−200365
【特許文献6】:特開2005−769560
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、従来の有機デバイスの可撓性基板上への形成において、基板と有機薄膜の間、および積層される有機分子膜間では、有機薄膜を構成する有機分子材料が物理吸着により積層されていることから、形成された有機薄膜の密着性の改善を課題とする。
【0014】
さらに、本発明は、樹脂基板等の可撓性を有する基板上に、密着性および素子特性に優れた有機薄膜を任意の形状で形成した有機デバイスおよびその作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
しかるに、本発明によれば、デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、
有機分子を化学結合させて形成した機能性有機分子層と、
前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて、更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層と、
を備えた有機デバイスであって、前記領域において、有機分子層の積層回数を異ならせた領域が含まれていることを特徴とする有機デバイスが提供される。
【0016】
前記機能性有機分子層は一つの有機分子からなる層であっても良いし、複数の有機分子が化学結合によって連結されることにより機能が発現する場合には、この積層された分子層を一つの機能性有機分子層と見なしても良い。
【0017】
さらに、前記機能性有機分子層は同一の有機分子が化学結合によって複数連結することにより一つの機能を構成しても良いし、異なる有機分子が化学結合によって複数連結されることによって一つの機能を構成しても良い。
【0018】
また、前記機能性有機分子層は有機分子の自己組織化膜によって形成されていても良い。
【0019】
前記化学結合は、共有結合または配位結合であることが望ましい、共有結合の例としては、アミド結合、シロキサン結合、ウレタン結合、イミン結合等を挙げることができる。
【0020】
さらに、本発明の有機デバイスが形成される基板は可撓性の基板であることを特徴としている。
【0021】
また、本発明によれば、デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面を、有機分子と反応し得る材料で被覆する工程と、
前記材料と、前記有機分子とを反応させて、前記領域の表面に化学結合した機能性有機分子層を形成する工程と、
前記機能性有機分子層表面の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程と
を含むことにより、前記領域上において有機分子層の積層回数を異ならせることを特徴とする有機デバイスの製造方法が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、有機分子と反応し得る官能基を導入する工程と、
前記官能基と、前記有機分子とを反応させて、前記領域の表面に化学結合した機能性有機分子層を形成する工程と、
前記機能性有機分子層表面の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程と
を含むことにより、前記領域上において有機分子層の積層回数を異ならせることを特徴とする有機デバイスの製造方法も提供される。
【0023】
本発明の有機デバイスの製造方法において、前記機能性有機分子層の積層数を任意の領域で異ならせる工程は、前記機能性有機分子層上に任意の表面形状を有する材料層を形成することによって行われる。
【0024】
また、本発明の有機デバイスの製造方法において、前記機能性有機分子層の積層回数を任意の領域で異ならせる工程は、前記機能性有機分子層上に任意の表面形状を有する材料層を形成する工程と、該任意の表面形状を有する材料層を取り除く工程とを含んでいても良い。
【0025】
さらに、本発明の有機デバイスの製造方法において、前記任意の表面形状を有する材料層は、前記機能性有機分子層が化学結合によって連結可能な材料表面、もしくは前記機能性有機分子層が化学結合により連結できない材料表面を有していても良い。
【0026】
さらに、本発明の有機デバイスの製造方法において、前記機能性有機分子層を形成する工程は気相中、もしくは液相中での自己組織化反応を含んでいても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、有機デバイスを構成する機能性有機分子層は、基板表面もしくは基板表面に設けられた材料表面と機能性有機分子層、および機能性有機分子層同士が、強固な化学結合、例えば共有結合や配位結合によって、連結して形成されていることから、基板−分子間、および分子−分子間の結合力が強く、有機分子層の密着性や有機薄膜自身の機械的強度が向上することにより、可撓性樹脂基板のような変形可能な基板上に有機デバイスを形成した場合にも、変形等に起因する応力発生によって、有機デバイスの剥離等の問題が生じ難い、密着性に優れた、強固なフレキシブルデバイスを実現することが可能となる。
【0028】
また、機能性有機分子層が持つ機能性は、電気絶縁性、導電性、半導体性、発光性、光電変換等のいずれか、もしくは組合せであっても良く、例えば有機トランジスタに代表されるような有機デバイスの場合には、ゲート絶縁膜部分には絶縁性分子からなる機能性有機分子層が形成され、半導体層部分にはπ共役系分子からなる半導体性を示すような機能性有機分子層が形成され、お互いが化学結合によりに強固な結合されたデバイスを形成することができる。
【0029】
また、各機能性有機分子層は、有機分子から形成された自己組織化単分子膜が化学結合により、複数積層されて形成されていても良い。例えば、有機分子がπ共役を有する有機分子の場合には、有機分子の自己組織化によって秩序性を有するπ共役分子の単分子層が形成され、層内の分子の配向性が向上することによって、電子もしくは正孔の伝導キャリアが分子間を伝わる、いわゆるホッピング伝導特性の向上が期待される。さらに、それぞれのπ共役系分子を持つ有機分子層を、それぞれ共有結合によって連結して形成することにより、積層方向へのπ共役系が伸展した機能性有機膜を形成することが可能となり、結果として前記伝導キャリアの輸送効率が向上し、例えば有機トランジスタの移動度が向上すると言ったメリットがある。
【0030】
さらに、該機能性有機分子層の積層数を任意の形状を有する領域で異ならせることによって、従来の薬品やプラズマエッチング法等の加工法を用いずに、前記機能性を有する領域を形成することが可能となる。例えば、電気絶縁性の機能性有機分子層上に、導電性の機能性有機分子層を任意の形状で積層することによって電気配線層として機能する領域を形成することができる。また、半導体性もしくは導電性を有する機能性有機分子層の一部分に電気絶縁性を有する機能性有機分子層を積層することによって、積層部分は電気絶縁性となり、非被覆領域は下部の導電性もしくは半導体性を有する機能性有機分子層が露出することになり、この領域を電気的接続領域として用いることが可能となる。
【0031】
また、任意の形状を有する領域に機能性有機分子層を積層した後、さらに該機能性有機分子が積層された領域以外の領域に対して、異なる機能性を有する有機分子層を積層することも可能で有り、例えば、導電性を有する機能性有機分子層を用いて任意の形状に積層された電気配線となる領域を形成した後に、前記導電性機能性有機分子層が形成されている以外の領域に、電気絶縁性を有する機能性有機分子層を形成することによって、前記導電性有機分子層からなる電気配線領域の間に電気絶縁性の領域を設けることによって、電気絶縁性を向上させると言った構造を作製することも可能となる。
【0032】
さらに、本発明の分子層の積層工程は液相または気相中において機能性を有する有機分子が基板表面の官能基もしくは、基板上に形成された機能性有機分子層表面の官能基と反応して、化学結合により連結されることによって、自発的に組織化されて分子の配向方向が整列化された、所謂、自己組織化膜として形成される工程を含んでいる。このことによって、均一で且つ機能性有機分子層の配向性が向上することにより、特に電子や正孔(ホール)のキャリア輸送機能や有機EL等に利用される発光機能が向上するメリットがある。
【0033】
また、自己組織化による有機分子層の積層によって、化学結合による分子層の積層を1層ずつ制御することが可能で有り、積層回数の制御によって分子層の厚みであるナノメートル程度の精度で制御することが可能である。
【0034】
さらに、前記機能性有機分子層は化学結合によって有機分子が連結されており、化学結合を形成する官能基を同じ組合せで用いることにより、機能性を有する分子に寄らずに、同様な手法を用いて、前記有機分子を同一の手法で積層することが可能となり、複数の有機分子材料から構成される機能性有機分子層を同一の手法によって形成することよって、工程を簡略化できるメリットが有る。
【0035】
本発明の分子層積層型有機デバイスの製造方法では、デバイスを構成する有機分子層は基板もしくは基板表面上に設けられた基板以外の材料(例えば電極材料)表面の任意の形状を有する領域に導入された官能基と化学結合によって連結されて積層されている。すなわち、機能性有機分子と化学結合可能な材料からなる領域を任意の形状で形成することによって、この上に化学結合して積層される有機分子層の形状を任意の形状で作製することが可能となり、従来のように、有機分子層を積層後に薬品やプラズマエッチング等の手法を用いて加工を行う必要が無いことから、プロセスの簡略化、低コスト化が可能となる。
【0036】
また、本発明の有機デバイスの製造方法では、前記機能性有機分子層の積層回数を任意の領域で異ならせるために任意の表面形状を有する材料層を機能性有機分子層上に形成している。このことによって、作製した材料層上もしくは材料層が積層されていない領域上に機能性有機分子層を積層することによって、任意の形状を有する領域を作製することが可能となる。また、積層される前記材料層および機能性有機分子層を構成する材料は、化学結合する表面と有機分子の組合せから、様々に選択可能であることから、例えば下層にある基板や機能性有機分子層に対して化学結合できない有機分子であっても、積層する材料層を選択することによって使用可能になると言った、材料の選択性が広がるメリットも有る。
【0037】
さらに、前記材料層を形成して、材料層以外の領域に機能性有機分子層を形成した後に、前記材料層を除去することによって、除去後の領域に対して、さらに別の機能性有機分子層の積層を行い、同じ面内に異なる機能を有する領域を形成することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
第1図は本発明の有機デバイスの基本的な構造を模式的に描いた図である。本発明の有機デバイスは、基板1の表面、もしくは基板表面に設けられた材料層10、11または12;表面の任意の領域に選択的に積層された複数の機能性有機分子2、3、4、5、8、9、13または15からなる機能性有機分子層および、これら機能性有機分子層に対して電気的に接続された電極6とから構成される。
【0039】
機能性有機分子層は基板1表面、または材料層10、11もしくは12の表面と化学結合により連結されており、さらに複数の前記機能性有機分子が積層して前記機能性有機分子層を形成している場合には、積層される前記機能性有機分子同士は化学結合により連結されている。また、この様にして形成された前記機能性有機分子層同士が化学結合により連結されて積層していても良い。
第1図中に示した機能性有機分子を囲む括弧に添えたm、n、j等の記号は、括弧内に積層されている機能性有機分子の積層数を示している。
【0040】
本発明に用いられる可撓性基板に適した材料としては、例えば透明性のある基板としてはポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)等が挙げられる。また透明性を必要としない場合には,ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の材料も用いることが出来る。
【0041】
機能性有機分子層と基板または材料層の表面間、および各機能性有機分子層の間を結合する前記化学結合としては、共有結合、配位結合、イオン結合等があり、特に共有結合や配位結合から選択されることが望ましく、これによって強固に連結された積層膜を得ることが可能となる。
【0042】
共有結合の例としてはアミド結合、ウレタン結合、イミド結合およびシロキサン結合に代表されるシランカップリング等が挙げられる。
【0043】
本発明による有機デバイスを構成する機能性有機分子の構造模式図および例を第2図に示す。
本発明の機能性有機分子は種々の機能性を有する有機分子Zの両端に化学結合を形成するための官能基X、Yを持った構造となっている。
【0044】
機能層を構成する有機分子Zが発現する機能としては、基板または電極材料に対する密着性や電気的絶縁性、導電性、半導体性、正孔(ホール)輸送性、発光性、電子輸送性、光電荷(キャリア)発生機能等が挙げられる。
【0045】
上記の有機分子Zが、機能性として導電性または半導体性の機能を有する場合の有機分子Zとしては、例えば第2図に示すような、スチルベン(式(1))、ベンゼン(式(2))、ビフェニル(式(3))、ビスピリジルエチレン(式(5))、ピリジン(式(6))、ビピリジン(式(7))等の6員環またはチオフェン(式(4))、オキサジアゾール(式(8))もしくはトリアゾール等の5員環の化合物等のπ共役分子が挙げられる。
この場合、ベンゼン、ピリジンの場合には1,4位、スチルベン、ビフェニル、ビスピリジルエチレン、ビピリジンの場合には4,4’位、チオフェン、オキサジアゾール、トリアゾールの場合は2,5位に官能基XとYが位置していることが好ましい。
【0046】
また、上記の有機分子Zが、機能性として発光性を有する場合の有機分子Zとしては、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)式(9)、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム(BeBq)式(10)、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム(Eu(DBM)3(phen))、ジロルイルビニルビフェニル(DTVBi)等が挙げられる。
【0047】
上記の有機分子Zが有する官能基XおよびYとしては、シラノール基、リン酸基、リン酸エステル、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、チオール基およびニトリル基等が挙げられ、官能基XおよびYはそれぞれ互いに独立して同一または異なって、上記の官能基からなる群から選択される。
【0048】
例えば、第1図の領域Aにおいて、基板1表面と化学結合により連結される機能性有機分子2の持つ官能基をXと考えた場合、官能基Xは基板1表面を構成する材料またはそこに導入される官能基と化学結合可能な官能基が選択される。
【0049】
本発明に用いられる上記の官能基Xと化学結合可能な材料の例を以下の表に示す。
【表1】

【0050】
上記のように、例えばシラノール基に対しては表面にヒドロキシ基(OH基)有するような酸化物材料としてSiO2、SnO2、GeO2、ZrO2、TiO2、Al23等の酸化物系絶縁材料やITO(Indium Tin Oxide)のような酸化物導電材料などが挙げられ、チオール基に対してはAu、Ag、Ptのような貴金属材料やCu、Hg、Fe、GaAs、InP(インジウムリン)等が挙げられる。
【0051】
一方、領域Aの材料層11としては、前記機能性有機分子2の有する官能基Xと化学結合を形成しない材料を選択して、任意の形状で形成することにより、第1図の領域Aに示すように、材料層11で形状が規定された任意の形状を有する基板1表面にのみ選択的に機能性有機分子2からなる機能性有機分子層7が形成される。
【0052】
本発明に用いられる上記の官能基Xと化学結合を形成しない材料としては、上記の表に示したそれぞれの官能基に対して化学結合を形成可能な材料以外の材料を選択することが出来る。例えば官能基Xとしてチオール基を選択するのであれば、第1図に示した基板表面の領域AをAu等のチオール基が化学結合可能な材料で被覆した後に、前述の材料層11をSiO2のような材料を用いて形成すれば、チオール基はSiO2と化学結合を形成しないことから、材料層11上にはチオール基を有する機能性有機分子層7は形成されることは無い。
【0053】
同様に、官能基Xとしてシラノール基を選択するのであれば、これと化学結合を形成しない材料としてAu、Agのような金属材料や、フォトレジストやポリイミドの様な有機膜を前述の材料層11として形成すれば、官能基Xであるシラノール基と化学結合可能なヒドロキシ基が材料層11の表面には存在しないことから、領域Aの材料層11上には官能基Xを有した機能性有機分子層7は形成されないことになる。これらの官能基と化学結合の形成が可/不可な材料の組合せは一例で有り、上記の表に示した以外の組み合わせであっても同様な効果が得られる組合せを適宜選択することが出来る。
【0054】
第2図に示す本発明の機能性有機分子の持つ他方の官能基Yは、前記官能基Xに対して自己反応により化学結合を形成すること無く、この機能性有機分子に対して積層される次の機能性有機分子が持つ官能基と化学結合可能な組合せから選択することが可能となる。
たとえば第1図の領域Aを例にとって説明すれば、次に積層される機能性有機分子3が持つ官能基がカルボキシ基であるとした場合には、これとアミド結合により化学結合を形成可能な官能基としてアミノ基を官能基Yとして用いることができる。
【0055】
また、第2図に示す官能基Xと官能基Yは前記のように異なっていても良いし、同じ官能基で有っても良い。この場合には、例えば第1層目の機能性有機分子が、アミノ基−機能性有機分子−アミノ基のような構成を持ち、この上に目の共有結合によって結合されて積層される第2層目の機能性有機分子が、カルボキシ基−機能性有機分子−カルボキシ基のような構成をとっても良い。
【0056】
さらに、官能基X、Yは積層される有機分子層ごとに異なっていても良い。例えば、第1層目の有機分子層ではヒドロキシ基が導入された基板表面に対してシランカップリングにより共有結合を形成する官能基Xとしてトリクロロシリル基を用い、官能基Yにアミノ基を用いた場合、第2層目の有機分子層では官能基X、Yとしてカルボキシ基を用いることにより、第1層目の有機分子層表面にあるアミノ基との間にアミド結合による共有結合が形成される。
【0057】
また、積層された第2層表面は官能基Yであるところのカルボキシ基が現れることとなる。同様に、第3層目の有機分子層として、官能基X、Yとしてアミノ基を選択すれば、第2層目の有機分子層表面にあるカルボキシ基とアミド結合を形成して、連結されるとともに、第3の有機分子層表面は第1層目と同様にアミノ基が現れることになる。この様にして、官能基X、Yとしてアミノ基とカルボキシ基を交互に選択することによって、アミド結合により強固に連結して積層された機能性有機分子層が形成される。
【0058】
また、自己反応を防ぐ目的でX−有機分子−Y*の様に官能基Xと自己反応しないように保護された官能基Y*を用いて、官能基Xが他の官能基と反応した後に、保護された官能基Y*の保護基を脱保護することによって、改めて官能基Yとして機能させるような方法をとっても良い。
【0059】
次に、第1図における本発明の有機デバイスの構造について説明する。
第1図に示した各領域の構造は説明を簡略化するために同一の基板上に示してあるが、各領域毎に全て個別の有機デバイスを示している。
まず、第1図の領域Aに示した構造では、前述のように基板1表面に対して化学結合可能な官能基を有する機能性有機分子2を用いて、機能性有機分子層7が形成されている。
機能性有機分子層7が形成されている以外の基板1表面には、機能性有機分子2と化学結合を形成することが出来ない材料からなる材料層11が任意の形状で形成されており、この材料層11の領域に対しては機能性有機分子層7が形成されないことから、材料層11によって被覆されずに露出している基板1の表面領域が必要な形状となるように、材料層11を形成することによって、領域選択的に機能性有機分子層7が形成される。
【0060】
次に、機能性有機分子2と化学結合が可能な官能基を有する機能性有機分子3を用いて、機能性有機分子層7に化学結合した分子層を形成し、これをm回積層することによって機能性有機分子層14を形成する。続いて、機能性有機分子層14上に任意の形状を有する電極6を形成した後、さらに機能性有機分子3を積層することで、電極6が形成されていない領域に対して機能性有機分子3がさらに化学結合によって積層されることにより、機能性有機分子3の積層回数が異なる領域を形成される。
【0061】
さらに、この機能性有機分子3に対して化学結合可能な機能性有機分子4を積層し、最後に電極6を形成することによって、領域Aに示すような本発明の有機デバイスの構造が作製される。領域Aにおいては材料層11および電極6として機能性有機分子と化学結合できない材料を選択して用いることによって、機能性有機分子の積層回数を異ならせた領域を作製している。
【0062】
本発明で用いられる電極用の材料としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide:ITO)等が挙げられる。
【0063】
領域Bに示した構造では、機能性有機分子8として基板1表面に対して化学結合を形成せず、且つ前記の材料層11に対して化学結合を形成可能な官能基を選択することによって、材料層11上にのみ機能性有機分子8から成る層が選択的に形成されている。機能性有機分子3からなる機能性有機分子層は領域A と同様に電極6を用いることによって積層回数を異ならせた領域が作製されている。
【0064】
領域Cに示した構造では、同様に材料層10と化学結合が形成可能で、且つ基板1表面とは化学結合を形成しない機能性有機分子5を用いて機能性有機分子層を形成した後に、機能性有機分子3および4を一対としてj回積層した機能性有機分子層が積層されていることを示している。機能性有機分子層はこの様に異なる機能性有機分子が組合わされて一つの機能性有機分子層として機能していても良い。ここでは機能性有機分子3および4からなる分子層を形成した後に、電極6を用いて任意の領域にのみ機能性有機分子13を積層した構造を形成している。
【0065】
領域Dでは、まず基板1上に形成した材料層11に対してのみ化学結合で連結可能な機能性有機分子8を用いて機能性有機分子層を形成した後、続いて基板1表面に対して化学結合により連結可能な機能性有機分子9を用いて、基板1表面の露出部分に選択的に機能性有機分子層を形成する。この場合には、材料層11は機能性有機分子8による分子層が既に形成されていることから、機能性有機分子9の持つ官能基が基板1表面および材料層11に双方に対して化学結合可能な官能基を選択した場合にも、機能性有機分子8との化学結合が形成されなければ図示したように選択的に分子層を形成することが可能である。続いて機能性有機分子9による分子層を化学結合によって積層した後に、例えば、マスク蒸着法等を用いて機能性有機分子8からなる領域上に材料層12を形成する。
【0066】
最後に、材料層12および機能性有機分子9に対して化学結合可能な官能基を有する機能性有機分子15を用いて昨日製有機分子層を形成することで領域Dに示した構造が形成される。領域Dの構造では、機能性有機分子8および9が混在した有機分子層が形成されており、異なる機能を有する機能性有機分子層を混在して形成することが可能となっている。さらに、材料層12に対して化学結合可能な官能基を持つ機能性有機分子15を用いることによって、材料層上にもさらに機能性有機分子層を積層することが可能となっている。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を用いて、本発明の有機デバイスおよびその製造方法について説明する。
実施例1
第3図を用いて本発明の有機デバイスとして有機発光素子の作製方法を模式的に示す。
第3図(a)において、まず可撓性樹脂基板20上に電極21として酸化インジウムスズ(ITO)から成る透明電極膜を膜厚100nmで形成した。本実施例では可撓性樹脂基板20として脂環式ポリイミド樹脂からなる基板を用いた。従来の芳香族系ポリイミド樹脂が可視光域である波長500nm付近までの吸収により、黄色に着色されているのに対して、脂環式ポリイミド樹脂の吸収端は300〜400nm程度と、可視光領域ではほぼ透明で有り、耐薬品性、耐熱性に優れていることから有機発光素子のような光透過性を必要とするデバイスの基板として好適に用いることが可能である。
【0068】
ITO膜を成膜後、フォトリソグラフィー手法によりITO膜上に形成されたフォトレジスト膜(図示せず)に有機発光素子の電極パターンを転写し、これを保護膜として塩化鉄系もしくは臭化水素等のエッチャントを用いたウエットエッチング法によって所定の形状にITO膜をエッチングして電極21のパターニングを行った。この時、有機発光素子のための電極パターンが比較的大きい(例えば、線幅およびパターン間隔が100μm以上)場合には、フォトリソグラフィー法を用いること無く、電極パターン形状の開口部を有するマスクを基板に重ねてITOからなる電極膜を成膜する、所謂マスク蒸着法によって電極21を形成しても良い。
【0069】
続いて、電極21表面の脱脂洗浄の為にアセトン/エタノール混合溶液中で超音波洗浄を行った後、過酸化水素水(H22) 中に浸漬することによって第3図(b)に示すように電極21表面に官能基22であるヒドロキシ基(−OH基)を導入する。この時、電極21以外の露出しているポリイミド基板20表面では、過酸化水素水によってヒドロキシ基は導入されることが無く、電極21の表面のみにヒドロキシ基が導入されることとなる。
【0070】
続いて、電極21上の官能基22であるヒドロキシ基と共有結合の1種であるシランカップリングによって連結された第1の機能性有機分子層を形成する為に、p-アミノフェニルトリメトキシシラン(以下p-APhS)を材料に用いた分子層の形成を気相法により行った。この材料は、ベンゼン環のパラ位にアミノ基とトリメトキシシリル基をそれぞれ有した構造となっている。
【0071】
本実施例では、密閉容器(図示せず)中にp-APhS 1mgと電極21が形成された基板20とを密封し、100℃のオーブン中で90分間容器を加熱する。これによって、p-APhSが加熱されて気化することにより、密閉容器内には気相中に気化したp-APhSが存在することになる。この気相中において、気体分子の持つトリメトキシシリル基が電極21上に導入された官能基22と反応することにより、シランカップリングを形成する。これによって、第3図(c)に示すように、p-APhSから成る機能性有機分子層23が電極21上にのみ、化学結合によって連結されて積層される。この時、露出されているポリイミド基板20表面には前記トリメトキシシリル基と反応する官能基22が存在しないことから、この領域には共有結合された前記分子層23が形成されることは無い。
【0072】
また、電極21上の官能基22がp-APhSの単分子層からなる機能性有機分子層23と共有結合して被覆されることにより、電極21表面にはp-APhSの持つもう一方の官能基24であるアミノ基が現れることとなる。これによって、トリメトキシシリル基が化学結合可能なヒドロキシ基が表面に存在しなることから、この場合の機能性有機分子層23はp-APhSの単分子層が形成された段階で積層が自動的に終了し、p-APhSからなる自己組織化単分子層が形成される。気相処理を終了後、基板20をアセトン等の有機溶媒中で超音波洗浄することにより、電極21表面とシランカップリングによって連結されていない余剰なp-APhSは基板表面から除去される。このようにして、気相中での反応により、電極21表面には、基板20表面に対して、ほぼ法線方向に配向した、p-APhSの自己組織化単分子層からなる機能性有機分子層23が電極21上にのみ選択的に形成される。
【0073】
紫外可視分光光度計を用いた吸光度測定結果より見積もられた電極21表面上へのp-APhSの単位面積辺りの吸着分子量は4.0×10-10mol/cm2であった。一方、p-APhS分子が六方最密充填で基板表面に吸着していると仮定した場合の単位面積辺りの吸着分子量は計算より、4.3×10-10mol/cm2となり、前述の測定結果とほぼ同等であることから、電極21表面はπ共役分子であるp-APhSの自己組織化単分子膜によって覆われていると考えられる。この時の機能性有機分子層23の膜厚は分光エリプソメトリー法による膜厚測定結果より、約0.8nmと見積もられた。基板表面に吸着したp-APhS分子の分子長はモデル計算により0.83nmと見積もられることから、電極21表面には、ほぼ垂直に配向したp-APhS分子からなる第1の機能性有機分子層23が電極21上にのみ選択的に形成されていることが確認された。
【0074】
このp-APhSからなる機能性有機分子層23はπ共役系を持つフェニル基(ベンゼン)を共有結合によって電極21と連結していることから、電極21と機能性有機分子層23との強固な密着力が得られると同時に、自己組織化によってベンゼン骨格が配向して形成されることによって、電極21と有機デバイスを構成する機能性有機分子層23との間のキャリア輸送を担うπ電子密度が向上し、電極−機能性有機分子層間のキャリア輸送効率が向上するメリットがある。
【0075】
次に、第3図(d)に示すよう機能性有機分子層23上に、ホール輸送性を持つ、p型の機能性有機分子層25を形成する。機能性有機分子層23の表面には前述のように官能基としてアミノ基が存在することから、これと共有結合の一つであるアミド結合を形成可能な官能基としてカルボキシ基を有する機能性有機分子を選択した。本実施例1では、ベンゼン環のパラ位にそれぞれ官能基26としてカルボキシ基を有するジカルボン酸の一つであるテレフタル酸をp型の機能性有機分子として選択して、以下の積層工程を行った。
【0076】
まず、テレフタル酸を濃度10mmol/Lの水酸化ナトリウム溶液中に5mmol/Lの濃度になるよう調製した後、アミド結合を開始させる縮合剤として塩酸N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(以下EDCと略す)とN-ヒドロキシスクシンイミド(以下NHS)をテレフタル酸に対して、それぞれ20当量および5当量をそれぞれ加えた。この溶液中に先程のp-APhSからなる機能性有機分子層23が形成された基板20を浸漬し、室温で3時間溶液を攪拌しながら、液相での反応処理を行った。
【0077】
処理終了後、基板20を超純水およびテトラヒロドフラン(THF)を用いて洗浄を行い、基板20上の機能性有機分子層23表面の官能基24であるアミノ基と共有結合を形成していない不要なテレフタル酸を除去する。この様にして、基板20表面の機能性有機分子層23上に共有結合により連結されたテレフタル酸からなる機能性有機分子層25が形成される。
【0078】
上記液相処理後の基板を用いて、先程と同様に紫外可視分光光度計による吸光度測定を行った結果、p-APhS分子層へのテレフタル酸の吸着分子量は4.1×10-10mol/cm2であり、先程得られたp-APhS分子層の単位面積あたりの吸着分子量とほぼ同じとなっている。
このことから、機能性有機分子層23表面の官能基24であるアミノ基と機能性有機分子層25であるテレフタル酸の官能基26であるカルボキシ基とがアミド結合を形成してテレフタル酸を連結することにより、機能性有機分子層25が機能性有機分子層23上に選択的に化学結合によって連結されて、積層していることを確認した。
【0079】
分光エリプソメータによる膜厚評価では、機能性有機分子層25の形成後に約0.74nmの膜厚増加が確認され、分子モデル計算より得られたテレフタル酸の分子長0.75nmと同等であった。
これらの結果から、テレフタル酸による機能性有機分子層25は、p-APhS分子層とアミド結合により連結され、基板面に対してほぼ垂直に配向した自己組織化単分子膜として分子層を形成している(第3図(d))。この時、p-APhSによる機能性有機分子層23が形成されていない基板20上では、先程と同様に共有結合を形成する官能基が存在しないことから、テレフタル酸分子層25は機能性有機分子層23上にのみ領域選択的に形成されることになる。
【0080】
続いて、第3図(e)に示すように、機能性有機分子層25に積層してp型の機能性有機分子層を形成するために、分子層25表面の官能基26であるカルボキシ基とアミド結合を形成可能なアミノ基を分子の両端に持つジアミン分子として1,4-フェニレンジアミン二塩酸塩を用いて機能性有機分子層27を形成する。
【0081】
まず、機能性有機分子層25が形成された基板20を塩酸N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド(以下EDC:4mmol)とN-ヒドロキシスクシンイミド(以下NHS:1mmol)を超純水に溶解させた縮合剤溶液に1時間浸漬することにより、機能性有機分子層25表面の官能基26であるカルボキシ基を活性エステル化する。続いて1,4-フェニレンジアミン二塩酸塩を超純水に10mmol/Lの濃度で溶解させ、この溶液中に、先程のカルボキシ基を活性エステル化した機能性有機分子層25が形成されている基板20を浸漬し、室温で3時間攪拌して積層処理を行った。
【0082】
処理終了後、先程と同様に、機能性有機分子層25表面と結合していない不要な1,4-フェニレンジアミン二塩酸塩を洗浄によって除去することにより、機能性有機分子層25上には表面の官能基26であるカルボキシ基とアミド結合によって連結された1,4-フェニレンジアミンからなる機能性有機分子層27が形成される。先程と同様に紫外可視分光光度計により見積もった1,4-フェニレンジアミン分子の吸着分子量は4.2×10-10[mol/cm2]であり、分光エリプソメータによる膜厚測定では、分子モデルより見積もった1,4-フェニレンジアミン分子の分子長0.71nmに対して0.68nmの膜厚増加が確認されたことから、高密度且つ高い配向性を持って1,4-フェニレンジアミンからなるp型の機能性有機分子層27が形成されていることを確認した。
【0083】
本実施例1のp型の機能性有機分子層はアミド結合によって結合して積層された2つの機能性有機分子層25および27からなるペアを一つの構成要素として考え、上記のようにジカルボン酸分子からなる機能性有機分子層25とジアミン分子からなる機能性有機分子層27とを各10回の積層工程を繰り返すことにより、第3図(f)に示すように、ホール輸送性の機能性有機分子層28を形成した。
【0084】
次に、第3図(g)に示すように、このホール輸送性のp型の機能性有機分子層28上に有機発光素子の発光層となる機能性有機分子層を積層して形成する。有機発光層には前述のように発光性分子であるAlq3分子やイリジウム錯体分子などが用いられるが、この様な発光分子が発光層中に高濃度で存在し、発光分子同士が近づきすぎると消光が生じ発光効率が低下することがある。このため有機発光層に含まれる発光分子の濃度を希釈する目的で、本実施例1では発光分子とp型の機能性有機分子およびn型の機能性有機分子によるランダム混合型の有機発光層を形成する。
【0085】
まず、分子骨格の両端にカルボキシ基を有するp型の機能性有機分子29、n型の機能性有機分子30として、テレフタル酸および2,5-ピリジンジカルボン酸を、発光性の機能性有機分子31として第2図(9)に示したアルミニウム錯体のジカルボン酸を準備した。これらを等量ずつ混合して溶解したカルボン酸混合溶液を準備し、これに縮合剤EDCおよびNHSを添加してホール輸送性の機能性有機分子層28が形成された基板を浸漬し、アミド結合によって各カルボン酸分子を基板表面に化学結合により積層する工程を行なった。
【0086】
この工程により、p型の機能性有機分子層28上にはp型の機能性有機分子29、n型の機能性有機分子30、発光性の機能性有機分子31がそれぞれランダムに積層されることとなる。
次に、第3図(h)に示すように、分子骨格の両端にアミノ基を有するp型、n型および発光性の機能性有機分子として、1,4-フェニレンジアミン、2,5-ジアミノピリジン二塩酸塩および第2図(9)に示したアルミニウム錯体のジアミン分子をそれぞれ用いて、同様にアミド結合による積層処理を行った。
【0087】
このことにより、p型の機能性有機分子層28上にはp型の機能性有機分子、n型の機能性有機分子および発光性の機能性有機分子が、それぞれランダムに積層数が異なった状態で形成された発光性の機能性有機分子層32が形成される。本実施例1における発光性の機能性有機分子層32は、アルミニウム錯体からなる有機発光分子を含み、且つ、p型およびn型の機能性有機分子層と混合されて、ランダムに積層数を異ならせることによって発光層中の濃度が希釈されることから、有機発光分子同士による消光の発生が少なく、発光効率の良い有機発光層を提供することができる。
【0088】
次に、第3図(i)に示すようにn型の機能性有機分子層を積層して形成するために、機能性有機分子層32表面の官能基であるアミノ基と共有結合可能なカルボキシ基を有するn型のジカルボン酸として、2,5-ピリジンジカルボキシリックアシッドを、また、このn型のジカルボン酸分子と化学結合によって積層可能なn型のジアミン分子として2,5-ジアミノピリジン二塩酸塩をそれぞれ選択し、先程と同様にアミド結合によって各機能性有機分子を連結しながら、機能性有機分子層32上に積層工程を行った。ジカルボン酸およびジアミンからなる分子層を1対として、10回の積層工程を行うことにより、n型の機能性有機分子からなる機能性有機分子層33を形成した。
【0089】
最後に、n型の機能性有機分子層33上に、アルミニウム(Al)からなる電極34をマスク蒸着法によって成膜し、本実施例1における有機発光素子を作製した。
【0090】
本実施例1の有機発光素子は、可撓性のポリイミド樹脂基板上に形成されたパターン状の電極21上部に化学結合で連結されて、アミド結合によって連結されたp型、発光性およびn型の機能性有機分子層28、32、33からなる有機発光素子が領域選択的に形成されており、機能性有機分子層のパターン形成工程を行う必要なく、任意の形状、領域に有機デバイスを形成することができる。また、可撓性基板を直径10cmの円柱外周に沿って変形させたところ、デバイスの剥離等の物理的破損は発生せず、有機発光素子の特性に変化は見られなかった。
【0091】
実施例2
本実施例2においては、有機デバイスの一つである有機トランジスタの作製について第4図を用いて説明する。
本実施例2では、有機トランジスタを構成するゲート絶縁膜部分に本発明の化学結合により連結された絶縁性の機能性有機分子層を適用した。
【0092】
まず、第4図(a)に示すように、可撓性基板40としてポリエーテルスルフォン(以降PESとする)からなる可撓性の絶縁性樹脂基板40上に、バッファ層41として、酸化ケイ素(SiO2)からなる絶縁膜を膜厚50〜100nm程度形成する。バッファ層41は可撓性基板40上に形成される金属電極等の密着性を向上させる効果や後述する表面への官能基導入に用いる他にも、デバイスの作製工程の中で、プロセス中に樹脂基板40から放出されるガスや、樹脂基板の裏面より、基板を透過して素子形成面へ放出される酸素や水分等を抑制するためのバリア膜としての機能も有している。
【0093】
次にバッファ層41上に金(Au)からなる金属膜を所望のパターン形状に開口したマスクを介して基板上に蒸着する、マスク蒸着法により、膜厚50nmで所望のパターン形状を有するゲート電極42を作製した。
ゲート電極42を形成した後、基板表面の洗浄を兼ねてオゾン雰囲気中での紫外線照射(UV/O3処理)を行うことによって、基板40上のバッファ層41表面およびゲート電極42表面の有機物等の付着物が除去して清浄にすると同時に、ゲート電極42の領域以外の露出したバッファ層41表面には官能基43としてヒドロキシ基が導入される。
【0094】
続いて、第4図(b)に示すように、機能性有機分子45、55からなる機能性有機分子層44を形成する。まず、バッファ層41上に導入された官能基43にシランカップリングによる共有結合を形成可能なトリメトキシシリル基を有する機能性有機分子45として、p-アミノフェニルトリメトキシシラン(p-APhS)を用いた。実施例1と同様に気相成長法を用いてバッファ層41上にシランカップリングで連結された機能性有機分子45からなる分子層を形成する。
【0095】
次に、ゲート電極42に対して、電極材料である金とチオール結合を形成するチオール基を持った機能性有機分子55としてp-アミノチオフェノール(以降、p-APhSHと記載する)を用いて機能性有機分子層を形成した。本実施例では濃度5m[mol/L]に調整したp-APhSHエタノール溶液中に基板40を浸漬して攪拌しながら、室温で3時間の積層処理を行った。処理後、基板をエタノールおよび純水で洗浄することにより、余剰なp-APhSH分子を基板上から除去することによって、ゲート電極42上にのみチオール結合によって連結して積層された機能性有機分子層を形成した。
【0096】
これによって、機能性有機分子45および機能性有機分子55からなる機能性有機分子層がゲート電極42上の領域とバッファ層41上の領域とで混在している機能性有機分子層44が形成される。
この様に、本実施例2の方法によれば、異なる材質からなる表面を有する領域に対しても適切な官能基を有する機能性有機分子を選択することによって、機能性有機分子層を領域毎に混在して形成することが可能となる。
【0097】
本実施例2ではゲート電極42上およびバッファ層41上のどちらの領域に形成された機能性有機分子層も、表面には末端の官能基であるアミノ基が現れており、以降の積層工程において、同じアミノ基を有する表面として扱うことが可能となる。
逆に末端の官能基を異ならせた機能性有機分子を用いて同様に機能性有機分子層の形成を行った場合には、以降の化学結合による分子層の積層をどちらかの領域に対して選択的に行うことも可能となる。
【0098】
次に、第4図(c)に示すように、機能性有機分子層44表面のアミノ基とアミド結合可能な官能基としてカルボキシ基を有する絶縁性有機分子46として、グルタル酸(HOOC-(CH2)3-COOH)を用いて、実施例1と同様に縮合剤および添加剤としてEDCとNHSを用いた溶液中で、液相反応により機能性有機分子層44にアミド結合で連結された絶縁性の機能を有するアルキル鎖を含む機能性有機分子層47を形成する。形成された機能性有機分子層47の膜厚は分光エリプソメータでの評価より、約0.7nmであった。
【0099】
続いて、第4図(d)に示すように、機能性有機分子層47上に絶縁性を有する機能性有機分子層48を形成するために、アルキル鎖の両端にアミノ基を有するヘキサメチレンジアミン(H2N-(CH2)6-NH2)を用いて、第4図(d)に示すようにアミド結合により結合された機能性有機分子層48を形成した。この時の機能性有機分子層48の膜厚は分光エリプソメータによる評価より、約0.54nmであった。
【0100】
この様にして、グルタル酸とヘキサメチレンジアミンからなる絶縁性の機能性有機分子層をアミド結合によって相互に連結しながら積層することによって、本実施例2の有機トランジスタに用いられるゲート絶縁層が形成される。本実施例2では、第4図(e)に示すように、上記グルタル酸からなる機能性有機分子層47とヘキサメチレンジアミンからなる機能性有機分子層48を一対として、10回の積層処理を行い、約12nmの絶縁性を有する機能性有機分子層49を形成した。
【0101】
続いて、積層された機能性有機分子層49上の一部分にソース電極50およびドレイン電極51として、真空蒸着法により電極形成領域が開口したマスク(図示せず)を介して金(Au)を膜厚60nmで成膜して電極を形成する。次に、再びグルタル酸およびヘキサメチレンジアミンを用いて絶縁性の機能性有機分子層の形成を行うことにより、第4図(e)に示したチャネル領域52には機能性有機分子層48が更に積層されることとなる。
【0102】
一方、ソース電極50およびドレイン電極51が形成された領域では、電極材料であるAuに対してはグルタル酸およびヘキサメチレンジアミンが化学結合することが出来ないために、これ以上機能性有機分子層48が積層されることが無い。本実施例2ではチャネル領域52に対して、機能性有機分子層48の積層処理を5回行い、合計15回の積層処理を行った。このことにより、ゲート電極42上の機能性有機分子層の膜厚を制御することによって、チャネル領域52の絶縁性向上やゲート容量の制御を行うことが可能となる。
【0103】
最後に、チャネル領域52の表面にあるヘキサメチレンジアミン分子のアミノ基表面に対して、終端処理を行うためにカルボキシ基を有する安息香酸を用いた終端処理を行った。
アミノ基は電子供与基として働くことから、ゲート絶縁膜と半導体層の界面である積層膜49の最表面に存在するアミノ基は伝導キャリアの移動を妨げるトラップとして働き、結果としてトランジスタの移動度を劣化させる問題がある。このためキャリアの導電経路となるチャネル領域52表面に対して終端処理を行うことによってトランジスタの特性を向上することが可能となる。
【0104】
本実施例では終端処理のための機能性有機分子53として安息香酸を用いてアミド結合による終端処理を行い、積層された分子層の表面がフェニル基で終端されるように処理を行った。この様にゲート絶縁膜と半導体層の界面を形成する最表面をフェニル基で終端処理することにより、伝導キャリアの移動を妨げるトラップを減少させて移動度を向上させると共に、ペンタセンのような芳香族系の有機半導体を用いる場合には、ゲート絶縁膜表面を同じ芳香族であるフェニル基等で終端処理することにより、ペンタセン有機半導体の濡れ性が向上し、得られる有機半導体膜中のグレインサイズが増大して移動度が向上する効果も期待できる。
【0105】
以上の様にして第4図(e)に示すように、本実施例2における有機トランジスタのゲート絶縁層54およびソース電極50、ドレイン電極51が形成される。
次に、第4図(f)に示すように、作製したゲート絶縁層54上に、正孔を伝導キャリアとするp型の有機半導体膜56としてペンタセンを真空蒸着法により、膜厚50nmで形成した。
【0106】
この様にして本実施例2の電界効果型の有機トランジスタが作製される。本実施例2の有機トランジスタでは、可撓性基板上に化学結合を介して連結された絶縁性の機能性有機分子層からなるゲート絶縁層54を有しており、従来の塗布法や蒸着法等で作製されるゲート絶縁膜に比較して、屈曲時の基板表面およびゲート電極との密着性が高く、フレキシブルな用途に対しても、膜の剥離等による素子の劣化が起こり難い特長を有している。
【0107】
また、作製された絶縁性の機能性有機分子層が積層されたゲート絶縁膜は、絶縁性の各有機分子層がアミド結合により強固に連結されて、自己組織的に配向した秩序性の高い構造をとっており、絶縁性の高い構造となっている。
さらに本実施例2の有機トランジスタにおけるゲート絶縁層の形成方法では、有機トランジスタのチャネル領域となるゲート電極上のゲート絶縁層について積層回数を制御することにより、膜厚の制御による絶縁性向上やゲート容量の制御および有機半導体層と接するゲート絶縁層表面の末端基を制御することが可能となり、優れた特性を有する有機トランジスタを提供することが可能となる。
【0108】
本実施例2で作製した有機トランジスタの素子特性を評価したところ、素子サイズ L/W=100μm/10,000μm、ドレイン電圧−2Vの条件で、しきい値電圧Vth=−1.1V、正孔移動度1.1cm2/Vsの良好な特性を示した。
【0109】
実施例3
本実施例3では2層配線構造の上下を電気的に接続する構造の作製について第5図を用いて説明する。
まず第5図(a)に示すように、実施例2と同様にPESからなる可撓性基板60上に二酸化シリコンからなるバッファ層61が形成されている。更にこのバッファ層61上には電気的配線が形成される領域のバッファ層61表面以外を覆うように、フォトレジスト材料を塗布し、フォトリソグラフィー法によって露光・現像を行うことにより形成したフォトレジスト膜62が形成されている。本実施例2ではフォトレジスト材料として一般的なポジ型レジスト材料を用い、膜厚2μmのレジスト膜を形成した。以降、第5図(a)に示したような断面図を用いて説明を行う。
【0110】
次に、第5図(b)に示すように、基板60に対して酸素プラズマによる表面処理を行い、バッファ層61の露出した表面に対して官能基63であるヒドロキシ基を導入した。この時、フォトレジスト膜62上には官能基は導入されない。
続いて、第5図(c)に示すように、官能基63に対して化学結合によって連結された導電性を有する機能性有機分子層を形成するために、π共役系分子であるパラアミノフェニルトリメトキシシラン(p-APhS)を用いて、実施例2と同様に気相成長法により、バッファ層61表面のヒドロキシ基とシランカップリングにより結合させた機能性有機分子層64を形成する。この時、フォトレジスト膜62上には官能基であるヒドロキシ基が導入されていないので、p-APhSによる分子層は形成されない。
【0111】
次に、第5図(d)に示すように、機能性有機分子層64上の一部分を覆うように、フォトレジスト材料を用いたインクジェット印刷によってフォトレジスト膜65を形成した。インクジェット法では通常のフォトリソグラフィー法のような精細なパターン形状を得ることは難しいが、簡便にパターン状のフォトレジスト膜を得ることができる。この様にしてフォトレジスト膜65を形成した後に、π共役を有するような芳香族系の機能性有機分子66、67としてテレフタルアルデヒドおよびスチルベンジアミンを用いて液相法により機能性有機分子層を形成した。本実施例3では、まず濃度1mMのテレフタルアルデヒドのエタノール溶液中に機能性有機分子層64が形成された基板60を浸漬し、ここへ無水塩化メチレン溶液を添加することでイミン結合を形成させながらテレフタルアルデヒド分子の積層処理を行った。
【0112】
イミン結合によって二つのπ共役分子を連結することにより、双方の分子のπ共役が重なることができるため、導電性分子の電気伝導に寄与するπ電子の動きを妨げることが無く、電気伝導を向上できる利点が有る。一方、フォトレジスト膜65が形成された機能性有機分子層64上の領域では、テレフタルアルデヒドと結合可能なアミノ基表面がフォトレジスト膜65によって覆われていることから、テレフタルアルデヒド分子が結合することが出来ず、分子層が形成されない。
【0113】
続いて、この基板を濃度1mMのスチルベンジアミンのエタノール溶液中に浸漬し、同様に無水塩化メチレン溶液を添加することによって、イミン結合を形成させながらスチルベンジアミン分子の積層処理を行った。液相処理後、分光エリプソメータにより測定された膜厚の増分は2.1nmで有り、テレフタルアルデヒドおよびスチルベンジアミンのそれぞれの分子長の合計とよく一致している。本実施例3では上記の液相処理工程を3回繰り返して形成した後、テレフタルアルデヒドとp-アミノフェニルチオール(p-APhSH)を用いて、同様にイミン結合による分子層を積層した。
【0114】
以上の工程により、フォトレジスト膜65が形成された領域以外の機能性有機分子層64表面には、分子層表面がチオール基となっている機能性有機分子層68が形成される。
次に第5図(e)に示すように、フォトレジスト膜62、65をアセトン等の有機溶媒によって除去した後、露出したバッファ層61表面に対して官能基であるヒドロキシ基(図示せず)を導入するために、第5図(a)でフォトレジスト膜62の加工に用いたパターンとポジ・ネガの反転したフォトマスクを用いて、機能性有機分子層64、68が形成された領域を遮光しながら紫外光を照射し、官能基を導入する。
【0115】
官能基を導入後、今度は絶縁性の機能性有機分子としてアミノプロピルトリメトキシシラン(APrS)を用いて、気相成長により基板表面の官能基と化学結合させながら分子層を形成する。 続いて、APrSからなる分子層表面のアミノ基および先程フォトレジスト膜65により被覆されていた領域にある機能性有機分子層64表面のアミノ基に対して絶縁性の機能性有機分子であるグルタル酸を用いて、アミド結合によりグルタル酸からなる分子層が積層される。本実施例3では、実施例1と同様に縮合剤と添加剤としてEDCお呼びNHSを添加することでアミド結合を形成させながらグルタル酸分子の積層を行った。更に同じく絶縁性のヘキサメチレンジアミン分子を用いて同様にアミド結合による積層を行う。
【0116】
本実施例3ではグルタル酸、ヘキサメチレンジアミンの順に積層処理を行った後、更にグルタル酸による積層処理を行い、最後に先程と同じAPhSHを用いて、チオール表面を有する絶縁性の機能性有機分子層69および80を形成した。
【0117】
最後に、第5図(f)に示すように機能性有機分子層68、69、80を覆うように金(Au)からなる配線81を蒸着法を用いて形成し、本実施例3における2層配線構造が形成される。
【0118】
本実施例3の2層配線構造では、下部の配線となる機能性有機分子層84に化学結合によって連結されて、上部のAu配線81に接続された導電性分子からなる機能性有機分子層68によって上下の配線が電気的に接続されていると同時に、それ以外の部分では同様に機能性有機分子層84に化学結合により連結された絶縁性有機分子からなる絶縁性の機能性有機分子層80と、基板60表面のバッファ層と化学結合により連結された絶縁性の機能性有機分子層69とによって絶縁性が保たれている構造となっている。
更に、機能性有機分子層68、69、80の各表面にはチオール基が存在することによって、これがAu配線81とチオール結合によって結合されることにより、フレキシブルな可撓性基板60上であっても機能性有機分子層と結合されていることによって密着性が改善された構造となっている。
【0119】
実施例4
本実施例4では本発明に係る有機太陽電池の作製について、第6図を用いて説明を行う。
まず、第6図(a)に示すように、本発明の実施例1で示した方法を用いて、可撓性樹脂基板70として脂環式ポリイミド樹脂からなる基板上に形成されたITOからなる電極71上に、p-アミノフェニルトリメトキシシラン(p-APhS)とテレフタル酸および1,4-フェニレンジアミン二塩酸塩を用いて、化学結合により連結されたp型の機能性有機分子層73を形成する。テレフタル酸および1,4-フェニレンジアミン二塩酸塩からなるp型の機能性分子層は実施例1と同様に各10回の積層を行って形成した。
【0120】
次に、第6図(b)に示すように、機能性有機分子層73上の一部分に材料層74を形成した後、機能性有機分子層73に対して、さらにテレフタル酸および1,4-フェニレンジアミン二塩酸塩からなる機能性分子層を化学結合で連結して各1層の積層を行い、機能性有機分子層73よりも積層回数が多い積層領域75を形成した。材料層74としては、積層領域75に積層されるテレフタル酸および1,4-フェニレンジアミンと化学結合を形成しない材料として、水溶性の樹脂であるポリビニルシンナメート(PVCi)を用いたスクリーン印刷により機能性有機分子層73上の所望の位置に印刷して形成した。
【0121】
PVCi樹脂からなる材料層74は、積層領域75の形成後、余剰な機能性有機分子等を洗い流すための純水洗浄を行うことにより、機能性有機分子層73上から除去される(図示せず)。これにより、材料層74に覆われていた機能性有機分子層73の表面には官能基であるアミノ基が再度露出することになる。
【0122】
次に、前記機能性有機分子層73および積層領域75に対して、第6図(c)に示すように、n型のジカルボン酸分子として2,5-ピリジンカルボキシリックアシッドを、n型のジアミン分子として2,5-ジアミノピリジン二塩酸塩をそれぞれ前記の実施例1に示した方法を用いて化学結合により連結して積層することにより、n型の機能性有機分子層を形成した。この時、前記のp型の機能性有機分子層である積層領域73の周囲にはn型の機能性有機分子からなる分子層が形成されることとなり、p型の機能性分子層とn型の機能性分子層が混合された光電変換層77が形成される。また、先程の積層領域75上には、各1層分のn型機能性有機分子層が化学結合により連結されて形成されることとなる。
【0123】
続けて、n型の機能性有機分子を用いた積層工程を行なうことにより、第6図(d)に示すようなn型の機能性有機分子層78を形成した。最後にn型の機能性有機分子層78上にアルミニウムからなる電極79をマスク蒸着法により形成することにより、本実施例4における有機太陽電池を作製した。
【0124】
本実施例4における有機太陽電池は、p型有機分子およびn型有機分子が混合された光電変換層77が形成されていることにより、通常のpn接合界面を有する有機太陽電池に比較して光電変換効率が向上する特長を有している。
従来のpn接合型の有機薄膜太陽電池では、同様にpn接合界面での光電変換効率を向上するためのp型およびn型材料が混合された領域を形成するために、例えばp型の有機薄膜を蒸着法により形成した後に、p型およびn型の有機分子を用いて同時に蒸着を行う共蒸着法により、p型、n型有機分子の混合層を形成し、さらにn型有機分子によりn型の有機薄膜を形成するという、3段階の成膜工程が必要であった。
【0125】
本実施例4示した有機太陽電池の作製法によれば、化学結合により連結された機能性有機分子の積層回数を材料層によって制御することにより、容易にp型およびn型の機能性有機分子が混合した光電変換層を形成することが可能となる。
【0126】
実施例5
本実施例5では前述の実施例3に示した2層配線構造の作製において、別の方法による作製工程を第7図を用いて説明する。
第7図(a)に示した図は本発明の実施例3において可撓性基板60上に機能性有機分子層68が形成された状態を示している。実施例3と異なっているのは、機能性有機分子層64上に形成されて、機能性有機分子層68の形成を妨げていた材料層が金(Au)からなる配線90となっていることである。
配線90は機能性有機分子層64表面に形成されることにより、機能性有機分子層64との電気的接続を形成して配線として機能する他に、機能性有機分子層64表面の一部を覆うことによって、機能性有機分子層68の形成を妨げる役割も持っている。
【0127】
次に、第7図(b)に示すように、実施例3と同様にしてフォトレジスト膜62を除去したバッファ層61表面にアミノプロピルトリメトキシシラン(APrS)からなる分子層を形成した後に、先程のAuからなる配線90上に化学結合により連結された機能性有機分子層を形成するために、分子の一方の端部にAuと化学結合可能なチオール基を有し、他方に官能基であるアミノ基を有するアミノプロピルチオール(APrSH)を用いて液相処理により配線90上に分子層を形成した。これによって配線90上にはAPrSHの持つ官能基であるアミノ基が導入され、この官能基に対して機能性有機分子層を積層することが可能となる。
続いてAPrSおよびAPrSH分子からなる分子層の表面にある官能基であるアミノ基に対して、ジカルボン酸であるグルタル酸とジアミン分子であるヘキサメチレンジアミンを用いて実施例3と同様にアミド結合により分子層の積層を行い、最後にAPhSHを用いてチオール表面を有する絶縁性の機能性有機分子層69および91を形成した。
最後に、第7図(c)に示すように機能性有機分子層68、69、91を覆うようにAuからなる配線92を蒸着法を用いて形成することにより、本実施例5における2層配線構造が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に基づく有機デバイス構造の一例を示した模式図。
【図2】本発明に基づく機能性有機分子の模式図。
【図3】本発明に基づく実施例1の有機発光素子の製造工程を示す概略工程図。
【図4】本発明に基づく実施例2の有機トランジスタの製造工程を示す概略工程図。
【図5】本発明に基づく実施例3の2層配線構造の作製工程を示す概略工程図。
【図6】本発明に基づく実施例4の有機太陽電池の製造工程を示す概略工程図。
【図7】本発明に基づく実施例5の2層配線構造の作製工程を示す概略工程図。
【符号の説明】
【0129】
1、20、40、60、70 基板
2、3、4、5、8、9、13、15、29、30、31、45、46、53、55、66、67 機能性有機分子
10、11、12、74 材料層
6、21、34、71、79 電極
7、14、23、25、27、28、32、33、44、47、48、49、64、68、69、73、78、80、91 機能性有機分子層
22、24、26、43、63 官能基
41、61 バッファ層
42 ゲート電極
50 ソース電極
51 ドレイン電極
52 チャネル領域
54 ゲート絶縁層
56 有機半導体層
62、65 フォトレジスト膜
75 積層領域
77 光電変換層
81、90、92 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、
有機分子を化学結合させて形成した機能性有機分子層と、
前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて、更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層と
を備えた有機デバイスであって、前記領域において、有機分子層の積層回数を異ならせた領域が含まれていることを特徴とする有機デバイス。
【請求項2】
前記デバイスが有機トランジスタ、有機光電変換デバイスまたは有機ELデバイスである請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項3】
前記機能性有機分子層が、前記有機分子が化学結合して積層した単一の有機分子層によって一つの機能を有する請求項1または2に記載の有機デバイス。
【請求項4】
前記有機分子層が、同種の有機分子どうしが化学結合して積層し、形成されることにより、一つの機能を有する請求項1または2に記載の有機デバイス。
【請求項5】
前記有機分子層が、異種の有機分子どうしが化学結合して積層し、形成されることにより、一つの機能を有する請求項1または2に記載の有機デバイス。
【請求項6】
前記有機分子層が、該有機分子層を成す有機分子の自己組織化によって形成されている請求項1〜5のいずれか一つに記載の有機デバイス。
【請求項7】
デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面を、有機分子と反応し得る材料で被覆する工程と、
前記材料と、前記有機分子とを反応させて、前記領域の表面に化学結合した機能性有機分子層を形成する工程と、
前記機能性有機分子層表面の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程と
を含むことにより、前記領域上において有機分子層の積層回数を異ならせることを特徴とする有機デバイスの製造方法。
【請求項8】
デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、有機分子と反応し得る官能基を導入する工程と、
前記官能基と、前記有機分子とを反応させて、前記領域の表面に化学結合した機能性有機分子層を形成する工程と、
前記機能性有機分子層表面の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程と
を含むことにより、前記領域上において有機分子層の積層回数を異ならせることを特徴とする有機デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程が、前記領域の表面に化学結合した有機分子層上に前記積層される有機分子が結合できない材料層を部分的に形成する工程を含む請求項7または8に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程が、前記材料層を部分的に形成した後、該材料層を備えない有機分子層の表面に、更に有機分子を化学結合させて機能性有機分子層を積層する工程を含む請求項7〜9のいずれか一つに記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に有機分子層を積層する工程が、さらに部分的に形成された前記材料層を除去する工程を含む請求項7〜10のいずれか一つに記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記材料層が、絶縁性材料、導電性材料から選択される材料により形成されている請求項9に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記機能性有機分子層上の一部に、前記有機分子と同種または異種の有機分子とを化学結合させて更に積層した少なくとも一つ以上の機能性有機分子層を形成する工程が、前記領域の表面に結合した有機分子層上に有機分子層が結合し得る材料層を部分的に形成し、該材料表面と有機分子とを結合させて更に有機分子を積層する工程を含む請求項第7〜12のいずれか一つに記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、有機分子と反応し得る官能基を導入する工程が、該有機分子を含有する液相中での自己組織化反応を含む請求項8〜13のいずれか一つに記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記デバイスが形成される可撓性基板表面領域と該基板表面に設けられた前記基板以外の材料からなる所定の領域との両領域か、またはいずれかの領域の表面に、有機分子と反応し得る官能基を導入する工程が、該有機分子を含有する気相中での自己組織化反応を含む請求項第8〜13のいずれか一つに記載の有機デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−158691(P2009−158691A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334344(P2007−334344)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】