説明

有機半導体デバイスの製造方法および薄膜トランジスタの製造方法

【課題】有機半導体層の上で導電層を迅速かつ容易にパターニングすると共に安定な性能を得ることが可能な薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】有機半導体層4の上に、開口部5A,5Bを有する絶縁性保護層5を形成したのち、その絶縁性保護層5(開口部5A,5Bを含む)を覆うように、電極層6を形成する。こののち、絶縁性保護層5の形成領域(開口部5A,5Bを除く)における電極層6にレーザLを照射し、その電極層6をレーザアブレーションにより選択的に除去してソース電極およびドレイン電極を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層の上で導電層をパターニングする有機半導体デバイスの製造方法およびそれを用いた薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様なデバイス分野において、有機半導体材料が用いられている。このように有機半導体材料を用いたデバイスとしては、太陽電池または有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイなどが挙げられる。
【0003】
一方、最近のデバイスでは、これまで用いてきた無機半導体材料を有機半導体材料に変更する検討もなされている。このようなデバイスとしては、チャネル層として有機半導体層を用いた薄膜トランジスタ(TFT)が挙げられ、有機TFTと呼ばれている。有機TFTでは、チャネル層を塗布形成できるため、低コスト化を図ることができる。また、蒸着法などよりも低い温度でチャネル層を形成できるため、低耐熱性かつフレキシブルなプラスチックフィルムなどに有機TFTを実装できる。
【0004】
有機TFTは、有機半導体層と共に、それに接続されたソース電極およびドレイン電極などを備えている。有機半導体層とソース電極およびドレイン電極との位置関係については2種類の型があり、中でも、ソース電極およびドレイン電極が有機半導体層の上に重なるように配置されたトップコンタクト型が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−085200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トップコンタクト型の有機TFTの製造工程では、ソース電極およびドレイン電極を形成するために、有機半導体層の上に電極層を形成したのち、その電極層を選択的にエッチング(パターニング)している。
【0007】
しかしながら、電極層だけでなく有機半導体層までエッチングされやすいため、その有機半導体層が薄くなると共にダメージを受ける可能性がある。しかも、エッチング工程に長時間を要すると共に、エッチング範囲を制御するためにフォトリソグラフィ法などを併用しなければならない。
【0008】
このような問題は、有機TFTの製造工程に限らず、太陽電池または有機ELディスプレイなどの有機半導体デバイスの製造工程において共通して生じ得る。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、有機半導体層の上で導電層を迅速かつ容易にパターニングすると共に安定な性能を得ることが可能な有機半導体デバイスの製造方法および薄膜トランジスタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の有機半導体デバイスの製造方法は、有機半導体層の上に開口部を有する絶縁性保護層を形成する工程と、絶縁層保護層(開口部を含む)を覆うように導電層を形成する工程と、絶縁性保護層の形成領域(開口部を除く)における導電層をレーザアブレーションにより除去する工程とを含むようにしたものである。また、本発明の第1の薄膜トランジスタの製造方法は、導電層として電極層を形成すると共に、その導電層をレーザアブレーションにより除去してソース電極およびドレイン電極を形成するようにしたものである。
【0011】
本発明の第2の有機半導体デバイスの製造方法は、有機半導体層の上に電圧印加時の抵抗が有機半導体層の電圧印加時の抵抗よりも高い導電性保護層を形成する工程と、導電性保護層の上に導電層を形成する工程と、導電層をレーザアブレーションにより選択的に除去する工程とを含むようにしたものである。また、本発明の第2の薄膜トランジスタの製造方法は、導電層として電極層を形成すると共に、その導電層をレーザアブレーションにより除去してソース電極およびドレイン電極を形成するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機半導体デバイスの製造方法または薄膜トランジスタの製造方法によれば、レーザの照射領域において有機半導体層と導電層との間に絶縁性保護層または導電性保護層が介在しているため、導電層のパターニング時においてレーザが有機半導体層まで到達しにくくなる。しかも、導電層をパターニングするためにレーザアブレーションを用いているため、エッチング法を用いた場合よりも短時間で導電層がパターニングされると共に、パターニング範囲を制御するためにフォトリソグラフィ法などを併用する必要がない。よって、有機半導体層の上で導電層を迅速かつ容易にパターニングすると共に安定な性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態における薄膜トランジスタの製造方法を説明するための断面図である。
【図2】図1に続く工程を説明するための断面図である。
【図3】図2に続く工程を説明するための断面図である。
【図4】比較例の薄膜トランジスタの製造方法を説明するための断面図である。
【図5】図4に続く工程を説明するための断面図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態における薄膜トランジスタの製造方法を説明するための断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図である。
【図9】図8に続く工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、以下の通りである。

1.第1実施形態:有機半導体デバイス(薄膜トランジスタ)の製造方法
2.第2実施形態:有機半導体デバイス(薄膜トランジスタ)の他の製造方法
【0015】
<1.第1実施形態:有機半導体デバイス(薄膜トランジスタ)の製造方法>
[薄膜トランジスタの製造方法]
図1〜図3は、本実施形態における薄膜トランジスタの製造方法を説明するためのものであり、いずれも薄膜トランジスタの断面構成を表している。この薄膜トランジスタの製造方法は、本発明の有機半導体デバイスの製造方法が適用される一例である。
【0016】
ここで説明する薄膜トランジスタは、チャネル層として有機半導体層4を備えた有機TFTである。この有機TFTは、例えば、ソース電極7およびドレイン電極8が有機半導体層4の上に配置されていると共にゲート電極2が有機半導体層4の下に配置されているトップコンタクト・ボトムゲート型である。
【0017】
有機TFTを製造する場合には、最初に、図1に示したように、基体1の一面にゲート電極2をパターン形成する。この場合には、例えば、基体1の表面を覆うように金属材料層(図示せず)を形成したのち、その金属材料層をパターニングする。
【0018】
基体1は、例えば、ガラス、プラスチック材料または金属材料などの基板でもよいし、プラスチック材料または金属材料などのフィルムでもよい。プラスチック材料は、例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチルエーテルケトン(PEEK)などである。金属材料は、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)またはステンレスなどである。
【0019】
ゲート電極2(金属材料層)の形成材料は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、アルミニウム、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル、それらの化合物、またはそれらの合金などである。金属材料層の形成方法は、例えば、スパッタリング法、蒸着法または化学気相成長(CVD)法などの気相成長法である。金属材料層のパターニング方法は、例えば、エッチング法などであり、そのエッチング法は、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法などのドライエッチング法でもよいし、ウェットエッチング法でもよい。なお、金属材料層をパターニングする場合には、フォトリソグラフィ法または紫外線描画法などを併用してもよい。この場合には、例えば、金属材料層の表面にフォトレジストを塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィ法などを用いてフォトレジスト膜をパターニングしたのち、そのフォトレジスト膜をマスクとして金属材料層をエッチングする。ただし、フォトレジスト膜に代えて金属膜などをマスクとして用いてもよい。
【0020】
続いて、ゲート電極2およびその周辺の基体1を覆うようにゲート絶縁層3を形成する。
【0021】
ゲート絶縁層3の形成材料は、例えば、無機絶縁性材料または有機絶縁性高分子材料などである。無機絶縁性材料は、例えば、酸化ケイ素(SiO2 )または窒化ケイ素(Si3 4 )などである。有機絶縁性高分子材料は、例えば、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミドまたはフッ素樹脂などである。ゲート絶縁層3の形成方法は、例えば、ゲート電極1(金属材料層)の形成方法と同様である。
【0022】
続いて、ゲート絶縁層3の表面を覆うように有機半導体層4を形成する。
【0023】
有機半導体層4の形成材料は、例えば、以下の有機半導体材料などである。(1)ポリピロールおよびその誘導体、(2)ポリチオフェンおよびその誘導体、(3)ポリイソチアナフテンなどのイソチアナフテン類、(4)ポリチェニレンビニレンなどのチェニレンビニレン類、(5)ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(p−フェニレンビニレン)類、(6)ポリアニリンおよびその誘導体、(7)ポリアセチレン類、(8)ポリジアセチレン類、(9)ポリアズレン類、または(10)ポリピレン類である。(11)ポリカルバゾール類、(12)ポリセレノフェン類、(13)ポリフラン類、(14)ポリ(p−フェニレン)類、(15)ポリインドール類、(16)ポリピリダジン類、(17)ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、ピレン、ジベンゾピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレンまたはサーカムアントラセンなどのアセン類、(18)アセン類のうちの炭素の一部が窒素(N)、硫黄(S)または酸素(O)などの原子、あるいはカルボニル基などの官能基により置換された誘導体、例えば、トリフェノジオキサジン、トリフェノジチアジンまたはヘキサセン−6,15−キノンなど、(19)ポリビニルカルバゾール、ポリフエニレンスルフィドまたはポリビニレンスルフィドなどの高分子材料および多環縮合体、または(20)これらの高分子材料と同じ繰り返し単位を有するオリゴマー類である。(21)金属フタロシアニン類、(22)テトラチアフルバレンおよびその誘導体、(23)テトラチアペンタレンおよびその誘導体、(24)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ビス(4−トリフルオロメチルベンジル)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミドと共に、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロオクチル)、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロブチル)およびN,N’−ジオクチルナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド誘導体、(25)ナフタレン2,3,6,7テトラカルボン酸ジイミドなどのナフタレンテトラカルボン酸ジイミド類、(26)アントラセン2,3,6,7−テトラカルボン酸ジイミドなどのアントラセンテトラカルボン酸ジイミド類に代表される縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、(27)C60、C70、C76、C78またはC84などのフラーレン類、(28)単層ナノチューブ(SWNT)などのカーボンナノチューブ、(29)メロシアニン色素類またはヘミシアニン色素類などの色素である。
【0024】
有機半導体層4の形成方法は、例えば、(1)抵抗加熱蒸着法、スパッタリング、蒸着法またはCVD法などの気相成長法、(2)スピンコート法、エアドクタコータ法、ブレードコータ法、ロッドコータ法、ナイフコータ法、スクイズコータ法、リバースロールコータ法、トランスファーロールコータ法、グラビアコータ法、キスコータ法、キャストコータ法、スプレーコータ法、スリットオリフィスコータ法、カレンダーコータ法または浸漬法などの塗布法である。これらの形成方法は、有機半導体層4の形成材料に応じて適宜選択可能である。
【0025】
有機半導体層4の厚さは、後工程(レーザアブレーション:図2および図3)において用いられるレーザLの侵入深さ以上であることが好ましい。レーザLが意図せずに有機半導体層4まで到達したとしても、その有機半導体層4が厚さ方向の全ての範囲においてダメージを受けることが防止されるからである。
【0026】
続いて、有機半導体層4の上に、開口部5A,5Bを有する絶縁性保護層5をパターン形成する。この場合には、例えば、有機半導体層4の表面を覆うように絶縁層(図示せず)を形成したのち、その絶縁層をパターニングする。
【0027】
絶縁性保護層5は、後工程(レーザアブレーション)において有機半導体層4を保護するために、レーザLに対する障壁として機能するものである。また、開口部5A,5Bは、それぞれ後工程(図3)においてソース電極7およびドレイン電極8を形成するために設けられた接続用の空間である。
【0028】
この絶縁層保護層5(絶縁層)は、レーザLの照射により有機半導体層4がダメージを受けることを防止するために、いわゆるレーザ耐性を有している。このレーザ耐性とは、レーザLを遮断して有機半導体層4まで到達させず、または、有機半導体層4に到達するレーザLの光量を減少させることができる性質である。この場合には、絶縁性保護層5がレーザ耐性を発揮するためにレーザLを反射または吸収してもよいし、反射および吸収してもよい。中でも、絶縁性保護層5は、レーザLを吸収する性質を有しており、その絶縁性保護層5の吸収波長範囲は、レーザLの波長を含む範囲であることが好ましい。絶縁性保護層5がレーザLを吸収しやすくなるため、そのレーザLが有機半導体層4までほとんど到達しなくなるからである。なお、絶縁性保護層5は、レーザ耐性により有機半導体層4を保護できれば、自らはレーザLによりダメージを受けてもよい。絶縁性保護層5は完成後の有機TFTに残ることになるが、それ自身がレーザLによりダメージを受けているか否かは有機TFTの性能に何ら影響を及ぼさないからである。
【0029】
絶縁性保護層5の厚さは、レーザLの侵入深さ以上であることが好ましい。レーザLが絶縁性保護層5を通過しにくくなるからである。
【0030】
絶縁性保護層5の形成材料は、上記したレーザ耐性を発揮できる材料であれば特に限定されないが、中でも、高分子材料であることが好ましく、特に、有機半導体層4の形成材料の分子量よりも大きな分子量を有する材料であることがより好ましい。低分子材料はレーザLにより分解等されやすいが、高分子材料は分解等されにくいからである。高分子材料は、例えば、フッ素樹脂、ポリパラキシリレンまたはポリチオフェンなどである。なお、高分子材料とは、例えば、分子量が10000〜数十万である材料であると共に、低分子材料とは、例えば、分子量が1000未満である材料である。
【0031】
絶縁性保護層5の形成方法は、例えば、その形成材料が溶媒に溶解された溶液を用いる塗布法または印刷法などでもよいことを除き、ゲート電極1(金属材料層)の形成方法と同様である。また、絶縁層のパターニング方法は、例えば、金属材料層のパターニング方法と同様である。
【0032】
中でも、絶縁性保護層5の形成方法は、有機半導体層4にダメージを及ぼしにくい方法であることが好ましい。
【0033】
具体的には、例えば、有機半導体層4の形成材料としてペンタセン、絶縁性保護層5の形成材料としてフッ素樹脂をそれぞれ用いる場合には、フッ素系の溶媒にフッ素樹脂が溶解された溶液を用いる塗布法などが好ましい。フッ素系の溶媒は、例えば、炭素骨格における少なくとも一部の水素がフッ素により置換されたアルコールまたはケトンなどである。この場合には、有機半導体層4によりダメージを及ぼしにくくするために、有機半導体層4に対して直交系の溶媒を用いることが好ましい。この直交系の溶媒とは、絶縁性保護層5(フッ素樹脂)を十分に溶解できるのに対して有機半導体層4(ペンタセン)をほとんど溶解しないような性質を有する溶媒である。「十分に溶解できる」とは、塗布法などを用いることができる程度まで溶媒中に分散可能であることを意味すると共に、「ほとんど溶解しない」とは、電気導電性などが極端に低下する程度まで溶媒により溶解されないことを意味する。
【0034】
また、例えば、有機半導体層4の形成材料としてペンタセン、絶縁性保護層5の形成材料としてポリパラキシリレンをそれぞれ用いる場合には、CVD法などの気相成長法が好ましい。
【0035】
続いて、絶縁性保護層5(開口部5A,5Bを含む)を覆うように、導電層である電極層6を形成する。この電極層6は、ソース電極7およびドレイン電極8を形成するための準備層である。
【0036】
電極層6の形成材料は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、錫(Sn)、マンガン(Mn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ルビジウム(Rb)、それらの化合物、またはそれらの合金などである。この他、ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)またはテトラチアフルバレン−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)などの有機高分子材料でもよい。
【0037】
電極層6の形成方法は、例えば、(1)抵抗加熱蒸着法、スパッタリング法、蒸着法またはCVD法などの気相成長法、(2)金属ナノ粒子溶液、有機金属溶液、金属錯体溶液または導電性高分子溶液などのインクを用いたスピンコート法、エアドクタコータ法、ブレードコータ法、ロッドコータ法、ナイフコータ法、スクイズコータ法、リバースロールコータ法、トランスファーロールコータ法、グラビアコータ法、キスコータ法、キャストコータ法、スプレーコータ法、スリットオリフィスコータ法、カレンダーコータ法または浸漬法などの塗布法である。これらの形成方法は、電極層6の形成材料に応じて適宜選択可能である。中でも、有機半導体層4にダメージを及ぼしにくい方法であることが好ましい。
【0038】
最後に、図2に示したように、絶縁性保護層5の形成領域(開口部5A,5Bを除く)における電極層6にレーザLを照射して、その領域における電極層6をレーザアブレーションにより除去する。
【0039】
レーザLの種類は、特に限定されないが、例えば、赤外線(IR)レーザ、グリーンレーザまたは紫外線(UV)レーザなどである。この他、レーザLの波長および強度などの条件は、任意に設定可能であるが、その波長は、電極層6のパターニング精度以下(例えば5μm以下)であることが好ましい。
【0040】
中でも、レーザLの種類は、上記したようにレーザLの波長が絶縁性保護層5の吸収波長範囲に含まれるようにするために、その絶縁性保護層5の形成材料に応じて選択されることが好ましい。例えば、共有環を含む有機高分子材料を用いる場合には、その吸収波長ピークが一般的に250nm〜300nmであるため、YAGレーザの4倍波(波長=266nm)、Ar−Fレーザ(波長=193nm)またはKr−Fレーザ(波長=248nm)などを用いることが好ましい。
【0041】
なお、絶縁性保護層5の吸収波長範囲は、例えば、高分子材料の主鎖または側鎖にシアン化合物、スチリル化合物、ポルフィリン化合物またはアゾ化合物などを修飾(導入)することで調整可能である。この方法によれば、絶縁性保護層5の吸収波長範囲を制御可能であるため、レーザLとの最適な組み合わせを実現できる。例えば、YAGレーザの3倍波(波長=355nm)を用いたい場合には、アゾ化合物により修飾されたポリチオフェンを用いれば、その吸収波長範囲をレーザLの波長に対応させることができる。
【0042】
このレーザアブレーションにより電極層6がパターニングされるため、図3に示したように、互いに離間されると共にそれぞれ有機半導体層4に接続されたソース電極7およびドレイン電極8が形成される。これにより、有機TFTが完成する。
【0043】
[薄膜トランジスタの製造方法に関する作用および効果]
本実施形態の薄膜トランジスタの製造方法では、有機半導体層4の上に開口部5A,5Bを有する絶縁性保護層5および電極層6をこの順に形成したのち、その電極層6をレーザアブレーションにより選択的に除去している。よって、以下の理由により、有機半導体層4の上で電極層6を迅速かつ容易にパターニングすると共に安定な性能を得ることができる。
【0044】
図4〜図6は、比較例の薄膜トランジスタの製造方法を説明するためのものであり、それぞれ図1〜図3に対応している。この比較例では、図4に示したように、有機半導体層4の上に電極層6を形成したのち、図5および図6に示したように、電極層6をレーザアブレーションにより選択的に除去してソース電極7およびドレイン電極8を形成している。
【0045】
なお、図3および図6において網掛けを付した部分Dは、レーザアブレーションによりダメージを受けた有機半導体層4または絶縁性保護層5の一部を表している。
【0046】
比較例では、レーザLの照射領域において有機半導体層4と電極層6との間に何も介在していないため、その電極層6のパターニング時においてレーザLが有機半導体層4まで到達しやすくなる。この場合には、図6に示したように、有機半導体層4の一部(部分D)がレーザLによりダメージを受けるため、ソース電極7から有機半導体層4を経由してドレイン電極8に至る電流経路Cが途中で途切れてしまう。
【0047】
これに対して、本実施形態では、レーザLの照射領域において有機半導体層4と電極層6との間に絶縁性保護層5が介在しているため、電極層6のパターニング時においてレーザLが有機半導体層4まで到達しにくくなる。この場合には、図3に示したように、絶縁性保護層5の一部(部分D)はレーザLによりダメージを受けるが、有機半導体層4はレーザLによるダメージを受けないため、ソース電極7から有機半導体層4を経由してドレイン電極8に至る電流経路Cが確保される。
【0048】
しかも、電極層6をパターニングするためにレーザアブレーションを用いているため、エッチング法を用いた場合よりも短時間で電極層6がパターニングされると共に、パターニング範囲を制御するためにフォトリソグラフィ法などを併用する必要がない。
【0049】
これらのことから、本実施形態では、電極層6のパターニングが短時間で済むと共に簡単になるため、有機半導体層4の上で電極層6を迅速かつ容易にパターニングすることができる。また、電極層6をパターニングするためにレーザアブレーションを用いても電流経路Cが確保されるため、安定な性能を得ることもできる。
【0050】
特に、レーザアブレーションでは、パターニング可能な材料の種類が限定されない。よって、電極層6の形成材料として、エッチング法ではパターニングすることが困難である白金(Pt)または酸化アルミニウム(A2 3 )などを用いても、迅速かつ容易にパターニングすることができる。このため、電極層6の形成材料を選択できる範囲が広がることになる。
【0051】
<2.第2実施形態:有機半導体デバイス(薄膜トランジスタ)の他の製造方法>
[薄膜トランジスタの製造方法]
図7〜図9は、本実施形態における薄膜トランジスタの製造方法を説明するためのものであり、それぞれ図1〜図3に対応している。この薄膜トランジスタの製造方法は、本発明の有機デバイスの他の製造方法が適用される一例である。
【0052】
ここで説明する薄膜トランジスタは、例えば、第1実施形態と同様にトップコンタクト・ボトムゲート型の有機TFTである。以下では、第1実施形態で既に説明した構成要素および工程に関する詳細な説明を随時省略する。
【0053】
有機TFTを製造する場合には、最初に、図7に示したように、基体1の一面にゲート電極2、ゲート絶縁層3および有機半導体層4をこの順に形成する。続いて、有機半導体層4の表面を覆うように導電性保護層9を形成したのち、その導電性保護層9の上に電極層6を形成する。
【0054】
導電性保護層9は、後工程(レーザアブレーション:図8および図9)において有機半導体層4を保護すると共に、その有機半導体層4とソース電極7およびドレイン電極8との間における補助的な電流経路として機能するものである。
【0055】
この導電性保護層9は、第1実施形態で説明したレーザ耐性と共に、高抵抗性を有している。この高抵抗性とは、電圧印加時(ゲート電極1に電圧が印加された際)の抵抗が有機半導体層4の電圧印加時の抵抗よりも高くなる性質である。これにより、完成後の有機TFTにおいて、電流は、有機半導体層4の上に導電性保護層9が存在していても、補助的な電流経路である高抵抗の導電性保護層9ではなく、主要な電流経路である低抵抗の有機半導体層4を優先的に流れることになる。
【0056】
導電性保護層9の形成材料は、上記したレーザ耐性および高抵抗性を発揮できる材料であれば特に限定されないが、中でも、有機半導体層4への電子注入効率が高い材料が好ましい。この場合には、例えば、有機半導体層4と導電性保護層9とのショットキーバリアが0.3eV以下になると共に、導電性保護層9の横方向(層の広がり方向に沿った方向)の導電性(電流値)が有機TFTの駆動電流(図9に示した電流経路Cを流れる電流値)よりも十分に小さくなること(例えば10-5倍以下)が好ましい。
【0057】
具体的には、導電性保護層9の形成材料は、例えば、半導体高分子材料または半導体低分子材料などである。半導体高分子材料は、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリピロールまたはそれらの誘導体などである。半導体低分子材料は、例えば、銅フタロシアニンなどである。なお、高分子材料および低分子材料の定義は、第1実施形態と同様である。中でも、第1実施形態の絶縁性保護層5と同様の理由により、導電性保護層9の形成材料としては、高分子材料(半導体高分子材料)が好ましいと共に、特に、有機半導体層4の形成材料の分子量よりも大きな分子量を有する材料がより好ましい。
【0058】
有機半導体層4の形成材料と導電性保護層9の形成材料との組み合わせとしては、例えば、以下の組み合わせが挙げられる。ペンタセンなどの低分子材料と、銅フタロシアニンなどの低分子材料との組み合わせである。また、ペンタセンなどの低分子材料と、ポリ−3−ヘキシルチオフェン誘導体またはポリピロール誘導体などの高分子材料との組み合わせである。
【0059】
導電性保護層9の形成方法は、例えば、第1実施形態で説明した絶縁層保護層5と同様であり、中でも、有機半導体層4にダメージを及ぼしにくい方法が好ましい。なお、導電性保護層9の厚さは、絶縁性保護層5と同様の理由により、レーザLの侵入深さ以上であることが好ましい。導電性保護層9の形成材料として低分子材料を用いる場合には、その導電性保護層9はレーザ耐性を補うために比較的厚いことが好ましい。
【0060】
最後に、図8に示したように、電極層6にレーザLを照射して、その電極層6をレーザアブレーションにより選択的に除去(パターニング)する。レーザLの種類は、第1実施形態で説明したように、その波長が導電性保護層9の吸収波長範囲に含まれるようにするために、その導電性保護層9の形成材料に応じて選択されることが好ましい。例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェンを用いる場合には、その吸収波長ピークが500nm〜550nmであるため、YAGレーザの2倍波(波長=532nm)などを用いることが好ましい。
【0061】
これにより、図9に示したように、ソース電極7およびドレイン電極8が形成されるため、有機TFTが完成する。
【0062】
[薄膜トランジスタの製造方法に関する作用および効果]
本実施形態の薄膜トランジスタの製造方法では、有機半導体層4の上に導電性保護層9および電極層6をこの順に形成したのち、その電極層6をレーザアブレーションにより選択的に除去している。
【0063】
この場合には、レーザLの照射領域において有機半導体層4と電極層6との間に導電性保護層9が介在しているため、第1実施形態の絶縁性保護層5と同様の理由により、電流経路Cが確保される。すなわち、図9に示したように、導電性保護層9の一部(部分D)はレーザLによりダメージを受けるが、有機半導体層4はレーザLによるダメージを受けない。
【0064】
また、導電性保護層9の電圧印加時の抵抗は有機半導体層4の電圧印加時の抵抗よりも高いため、有機TFTの駆動時において電流は導電性保護層9よりも有機半導体層4を優先的に流れやすくなる。このように電流が有機半導体層4を優先的に流れやすい傾向は、導電性保護層9の中にレーザLによりダメージを受けていない部分が残存していても、同様に得られる。このため、やはり電流経路Cが確保される。
【0065】
しかも、第1実施形態と同様に、電極層6をパターニングするためにレーザアブレーションを用いているため、電極層6が短時間でパターニングされると共に、フォトリソグラフィ法などが不要である。
【0066】
よって、第1実施形態と同様に、有機半導体層4の上で電極層6を迅速かつ容易にパターニングすることができると共に、安定な性能を得ることもできる。
【0067】
以上、いくつかの実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は各実施形態で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の有機半導体デバイスの製造方法は、薄膜トランジスタの製造方法に限らず、他のデバイスの製造方法に適用されてもよい。このような他のデバイスとしては、例えば、太陽電池または有機ELディスプレイなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0068】
1…基体、2…ゲート電極、3…ゲート絶縁層、4…有機半導体層、5…絶縁性保護層、5A,5B…開口部、6…電極層、7…ソース電極、8…ドレイン電極、9…導電性保護層、C…電流経路、L…レーザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層の上に、ソース電極およびドレイン電極の接続用の開口部を有する絶縁性保護層を形成する工程と、
前記絶縁層保護層(前記開口部を含む)を覆うように、電極層を形成する工程と、
前記絶縁性保護層の形成領域(前記開口部を除く)における前記電極層をレーザアブレーションにより除去して、前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する工程と、
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記絶縁性保護層は高分子材料により形成されている、請求項1記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記高分子材料の分子量は前記有機半導体層の形成材料の分子量よりも大きい、請求項2記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記高分子材料の吸収波長範囲はレーザの波長を含む範囲である、請求項2記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記有機半導体層および前記絶縁性保護層のそれぞれの厚さはレーザの侵入深さ以上である、請求項1記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
有機半導体層の上に、電圧印加時の抵抗が前記有機半導体層の電圧印加時の抵抗よりも高い導電性保護層を形成する工程と、
前記導電性保護層の上に、電極層を形成する工程と、
前記電極層をレーザアブレーションにより選択的に除去して、ソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記導電性保護層は高分子材料により形成されている、請求項6記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記高分子材料の分子量は前記有機半導体層の形成材料の分子量よりも大きい、請求項7記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記高分子材料の吸収波長範囲はレーザの波長を含む範囲である、請求項7記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記有機半導体層および前記導電性保護層のそれぞれの厚さはレーザの侵入深さ以上である、請求項6記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
有機半導体層の上に、開口部を有する絶縁性保護層を形成する工程と、
前記絶縁層保護層(前記開口部を含む)を覆うように、導電層を形成する工程と、
前記絶縁性保護層の形成領域(前記開口部を除く)における前記導電層をレーザアブレーションにより除去する工程と、
を含む有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項12】
有機半導体層の上に、電圧印加時の抵抗が前記有機半導体層の電圧印加時の抵抗よりも高い導電性保護層を形成する工程と、
前記導電性保護層の上に、導電層を形成する工程と、
前記導電層をレーザアブレーションにより選択的に除去する工程と、
を含む有機半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−176126(P2011−176126A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39146(P2010−39146)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】