説明

有機結晶構造物、有機トランジスタ、及び有機結晶構造物の製造方法

【課題】結晶の結晶片又はその集合体における被形成体に対する付着力が高い、有機結晶構造物を提供すること。
【解決手段】基板12に直接接触して設けられた有機化合物の単結晶の結晶14と、結晶14が設けられた基板12の面18と同一面20に直接接触し、かつ、前記結晶14における周囲の少なくとも一部に直接接触して設けられた、有機化合物の非晶質の薄膜16と、を有する、有機結晶構造物10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機結晶構造物、有機トランジスタ、及び有機結晶構造物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁膜および複数の電極を有する基板と、該基板とは別々に作製された有機半導体単結晶とからなり、該絶縁膜と有機半導体単結晶とが、静電引力または機械的な力で接着されていることを特徴とする電界効果デバイスが記載されている。
【0003】
特許文献2には、ゲート電極と、ゲート絶縁体層を介して前記ゲート電極に隣接する第1の有機半導体層と、前記第1の有機半導体層に隣接する第2の有機半導体層とを有し、前記第2の有機半導体層は、前記第1の有機半導体層より結晶性が高いことを特徴とする半導体装置が記載されている。
【0004】
特許文献3には、インクジェット法により基板上に材料を蒸着するための溶媒において、相対的に高い沸点を有し、かつ蒸着される材料に関して相対的に低い溶解度を示す第1の溶媒成分、及び相対的に低い沸点を有し、かつ蒸着される材料に関して高い溶解度を示す第2の溶媒成分からなる溶媒系に、基板上に蒸着される材料を溶解することを特徴とする蒸着用材料混合溶媒の配合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−268705号公報
【特許文献2】特開2006−303459号公報
【特許文献3】特表2004−532096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、被形成体と有機化合物の単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体との両方に直接接触した非晶質の膜を有さない場合に比較して、単結晶の結晶片又はその集合体における被形成体に対する付着力が高い、有機結晶構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
有機結晶構造物の被形成体に直接接触して形成された有機化合物の単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体と、
前記結晶片又は前記結晶片の集合体が形成された前記被形成体の面と同一面に直接接触し、かつ、前記結晶片又は前記結晶片の集合体における周囲の少なくとも一部に直接接触して設けられた、前記有機化合物の非晶質の膜と、
を有する、有機結晶構造物である。
【0008】
請求項2に係る発明は、
前記有機化合物が有機半導体材料である請求項1に記載の有機結晶構造物を有する、有機トランジスタである。
【0009】
請求項3に係る発明は、
有機化合物と、前記有機化合物に対する良溶媒である第1の溶媒と、前記有機化合物に対する貧溶媒であり前記第1の溶媒よりも沸点が高い第2の溶媒と、を含み、かつ、有機化合物溶液全体に対する前記第2の溶媒の割合が3質量%以上5質量%以下である有機化合物溶液を準備する溶液準備工程と、
前記有機化合物溶液を有機結晶構造物の被形成体に付着させる付着工程と、
前記被形成体に付着した前記有機化合物溶液を乾燥させる乾燥工程と、
を有する、有機結晶構造物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、被形成体と有機化合物の単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体との両方に直接接触した非晶質の膜を有さない場合に比較して、単結晶の結晶片又はその集合体における被形成体に対する付着力が高い、有機結晶構造物が提供される。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、被形成体と有機化合物の単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体との両方に直接接触した非晶質の膜を有さない場合に比較して、単結晶の結晶片又はその集合体における被形成体に対する付着力が高い有機トランジスタが提供される。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、有機化合物溶液に第2の溶媒を含まない場合に比較して、単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体における被有機結晶形成体に対する付着力が高い有機結晶構造物が得られる、有機結晶構造物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の有機結晶構造物の一例を模式的に示す上面図である。
【図2】図1の2−2端面図である。
【図3】本実施形態の有機結晶構造物が形成される過程を示した模式図である。
【図4】本実施形態の有機トランジスタの層構成の一例を示した概略構成図である。
【図5】他の実施形態の有機トランジスタの層構成の一例を示した概略構成図である。
【図6】他の実施形態の有機トランジスタの層構成の一例を示した概略構成図である。
【図7】実施例1で作製した有機結晶構造物を顕微鏡で観察して得られた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態について詳細に説明する。なお本明細書で推測する作用や機能によって本発明が制限されることはない。
【0015】
[有機結晶構造物]
本実施形態の有機結晶構造物は、有機結晶構造物が形成された被形成体に直接接触して設けられた有機化合物の単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体と、前記結晶片又は前記結晶片の集合体が設けられた前記被形成体の面と同一面に直接接触し、かつ、前記結晶片又は前記結晶片の集合体における周囲の少なくとも一部に直接接触して設けられた、前記有機化合物の非晶質の膜と、を有する。
【0016】
本実施形態の有機結晶構造物は、上記構成であるため、非晶質の膜を有さない場合に比較して、単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体(以下、「単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体」を総合して単に「結晶」と称する場合がある)における被形成体に対する付着力が高い。その理由は定かではないが、結晶を構成する有機化合物と同じ材料の非晶質の膜が、被形成体と結晶との両方に直接接触していることによって、結晶における被形成体に対する付着が強化されているものと考えられる。
【0017】
また本実施形態の有機結晶構造物は、前記有機化合物として有機半導体材料を用いたうえで、後述する有機トランジスタに適用されてもよい。有機半導体材料を用いた本実施形態の有機結晶構造物を適用した有機トランジスタでは、上記の通り、有機半導体材料の非晶質の膜を有さない有機トランジスタに比べ、有機半導体材料の単結晶の結晶片又はその集合体が被形成体に付着する力が強い。よって、結晶が被形成体から剥離しにくいため、例えば有機半導体材料の結晶が直接接触する被形成体の面が電極層である場合には、結晶の剥離に起因する有機トランジスタの劣化が抑制されると考えられる。
【0018】
以下、本実施形態における有機結晶構造物について、図面を用いて具体的に説明する。図1は、本実施形態における有機結晶構造物の一例を模式的に示す上面図であり、図2は図1の2−2端面図である。
図1及び図2に示す有機結晶構造物10は、例えば、有機結晶構造物10が形成される被形成体の一例である基板12の表面に、有機化合物の単結晶の結晶片又は結晶片の集合体である結晶14と、有機化合物の非晶質の膜16(以下、「薄膜16」と称する)と、が設けられている。
【0019】
結晶14は、基板12の表面に直接接触して形成されている。そして薄膜16は、基板12の表面のうち、結晶14が接触する接触部18となる面と同じ側の面に直接接触して形成され、かつ、結晶14の周囲を取り囲むように形成されている。具体的には、薄膜16は、結晶14と基板12との接触部18の周囲を取り囲むように、結晶14の下端の周囲と直接接触して形成されている。つまり、基板12の表面のうち薄膜16が接触する接触部20と前記接触部18とが連続して構成されている。
【0020】
なお、基板12の表面が凹凸を有する場合や、表面にうねりがある場合等においては、接触部18となる面(すなわち結晶14が直接接触して形成された面)及び接触部20となる面(すなわち薄膜16が直接接触して形成された面)は、凹凸やうねりに沿った基板12の表面を意味する。また、結晶14が形成された面と薄膜16が形成された面とが同一面であるとは、結晶14が形成された面と薄膜16が形成された面とが連続してつながっていることを意味する。
【0021】
結晶14は、上記の通り、有機化合物の単結晶の結晶片又は結晶片の集合体(すなわち、複数の単結晶の結晶片を含んだ集合体)である。ここで単結晶とは、結晶片全体にわたって結晶軸の方向が変わらないものを言う。また結晶片が単結晶であるかを確認する方法としては、具体的には、偏光顕微鏡を用いて直交偏光子法(クロスニコル法)により得られた結晶片の消光角が、結晶片全体にわたって同一であることで確認する方法が挙げられる。
【0022】
結晶片の形状は、図1及び図2で示す直方体に限定されず、有機化合物の種類や単結晶の形成過程における条件等によって様々な形状を採り得る。具体的には、例えば、立方体、多角柱、多角錐、八面体等が挙げられる。
結晶片の大きさとしては、例えば0.5μm以上10000μm以下のものが挙げられ、1μm以上500μm以下のものであってもよく、1μm以上100μm以下のものであってもよい。上記結晶14の大きさとは、偏光顕微鏡を用いて直交偏光子法(クロスニコル法)により得られた結晶片の消光角が結晶片全体にわたって同一な領域の最大の長さを言う。
【0023】
集合体に含まれる結晶片の個数としては、例えば2個以上100個以下の範囲が挙げられる。また集合体においては、例えば複数の結晶片のうち、少なくとも1個の結晶片の大きさが上記範囲であるものが挙げられる。
【0024】
薄膜16は、結晶14を構成する有機化合物と同じ有機化合物で構成された非晶質の薄膜である。ここで非晶質とは、結晶性を有さないものを言い、薄膜16が非晶質であるかどうかは、以下のようにして確認される。具体的には、光学/走査型電子顕微鏡観察で不定形の微結晶の集合体、あるいは一様な薄膜として観察されるものであり、さらには、偏光顕微鏡を用いて直交偏光子法(クロスニコル法)により得られた像が消光角を有しないことで確認することができる。
【0025】
薄膜16の形状は、図1及び図2においては、平面形状で円形であるが、これに限定されず、楕円形、多角形、多角形の角が丸くなった形状等であってもよく、その他の歪な形状であっても良い。
薄膜16の大きさとしては、例えば、直上からの光学/走査型電子顕微鏡観察で結晶片もしくは集合体を取り囲むに必要な大きさが挙げられ、例えば結晶片もしくは集合体の外縁部よりも0.1μm以上大きいことが挙げられる。大きさの上限については特に限界はないが、集積回路を作製する場合など、その集積度に悪影響を与えない大きさに留めることが望ましいことから、結晶片もしくは集合体の大きさの300%以下が挙げられ、より好ましくは200%以下が挙げられる。なお、大きさとは、薄膜16の形状が円形であるときにその直径を、薄膜16の形状が円形以外である場合においては、薄膜16の面積を円に換算したときの直径を意味する。
【0026】
薄膜16の厚さとしては、例えば、0.001μm以上100μm以下の範囲が挙げられ、0.01μm以上1μm以下の範囲であってもよい。
図1及び図2の有機結晶構造物10では、薄膜16の厚さが一定であるが、これに限られない。例えば、結晶14から離れた側(薄膜16の周囲)から結晶14に近づくにつれて薄膜16の厚さが厚くなる形態であってもよいし、結晶14と薄膜16との接触部やその他の箇所が部分的に厚くなる形態であってもよい。
また結晶14が複数の結晶片の集合体である場合、1つの結晶片と他の結晶片との間に薄膜16が形成されていてもよい。
【0027】
図1及び図2の有機結晶構造物10では、薄膜16が結晶14の周囲を完全に取り囲んだ形態であるが、結晶14の少なくとも一部に薄膜16が接触していればこれに限られず、例えば、接触部18の周囲の一部に薄膜16が存在していなくてもよい。ただし、結晶14の基板12に対する付着力の観点からは、接触部18の周囲を薄膜16が完全に取り囲む形態のほうがよい。
【0028】
結晶14及び薄膜16を構成する有機化合物としては、結晶構造を形成する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、後述する有機半導体材料のほか、蛍光/燐光性材料、非線形光学材料等が挙げられる。
【0029】
有機半導体材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、フタロシアニン、ペリレン、ヒドラゾン、トリフェニルメタン、ジフェニルメタン、スチルベン、アリールビニル、ピラゾリン、トリフェニルアミン、トリアリールアミン、オリゴチオフェン、フタロシアニン、又はこれらの誘導体等が挙げられる。有機半導体材料として、さらに具体的には、例えば、下記式(1)から(6)に示す化合物、すなわち、下記式(1)に示す化合物、下記式(2)に示す化合物、下記式(3)に示す化合物、下記式(4)に示す化合物、若しくは下記式(5)に示す化合物、又はこれらの混合物が挙げられる。前記混合物としては、下記式(2)に示す化合物と下記式(3)に示す化合物との混合物、又は下記式(5)に示す化合物と下記式(6)に示す化合物との混合物が特に挙げられる。
【0030】
下記式(2)に示す化合物と下記式(3)に示す化合物との混合物の混合比としては、例えば1:1000から1000:1の範囲が挙げられ、具体的には例えば1:1混合物が挙げられる。
また下記式(5)に示す化合物と下記式(6)に示す化合物との混合物の混合比としては、例えば1:1000からから1000:1の範囲が挙げられ、具体的には例えば1:1混合物が挙げられる。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
基板12は特に限定されず、例えば、シリコン基板、ガラス基板、樹脂基板(具体的にはポリイミド基板等)等が挙げられる。
本実施形態においては、基板12をそのまま被形成体として用いているが、これに限られず、被形成体として、上記基板上に例えば電極等の薄膜等を設けたものを用いてもよい。
【0036】
[有機結晶構造物の製造方法]
上記本実施形態の有機結晶構造物の製造方法は特に限定されないが、例えば、有機化合物と前記有機化合物に対する良溶媒である第1の溶媒と前記有機化合物に対する貧溶媒であり前記第1の溶媒よりも沸点が高い第2の溶媒とを含み、かつ、有機化合物溶液全体に対する前記第2の溶媒の割合が3質量%以上5質量%以下である有機化合物溶液を準備する溶液準備工程と、前記有機化合物溶液を被形成体に付着させる付着工程と、前記被形成体に付着した前記有機化合物溶液を乾燥させる乾燥工程と、を有する製造方法が挙げられる。
【0037】
上記有機結晶構造物の製造方法においては、準備工程において有機化合物溶液が準備された後、付着工程において、基板12の表面に有機化合物溶液の液滴22が付着した状態となる(図3A参照)。
【0038】
その後、乾燥工程において、液滴22の表面に含まれる溶媒のうち、相対的に沸点の低い第1の溶媒が先に蒸発し、液滴22の表面における第2の溶媒の割合が高くなる。そのため、液滴22の表面に溶解していた有機化合物は、相対的に溶解度が高い液滴22の内部に(矢印方向に)移動する。
そして、第1の溶媒が蒸発することで液滴22が小さくなるに従って、液滴22の表面と基板12との接触部において、液滴22に溶解していた有機化合物が析出する。そして、液滴22が付着した基板12の表面には、有機化合物の非晶質の薄膜16が形成される(図3B参照)。
【0039】
一方、液滴22中における有機化合物の濃度がゆるやかに上昇することで、有機化合物の単結晶が形成される。そして、液滴22中の溶媒が蒸発した結果、基板12上に結晶14及び薄膜16が形成され、本実施形態の有機結晶構造物が得られる(図3C参照)。
【0040】
以上のように、上記有機結晶構造物の製造方法を用いることで、例えば第2の溶媒を含まない有機化合物溶液を用いた場合に比べて、結晶の被形成体に対する付着力が高い有機結晶構造物が得られる。そして、上記有機結晶構造物の製造方法は、被形成体に有機化合物溶液の液滴を付着させて乾燥させることによって本実施形態の有機結晶構造物が得られるため、例えば気相成長法を用いる場合等に比べて、容易に有機化合物の単結晶が得られる。また、上記有機結晶構造物の製造方法では、被形成体に有機化合物溶液の液滴を付着させる位置を制御することにより、別途形成させた単結晶を被形成体に乗せる場合に比べて、被形成体のどの位置に結晶を形成させるかを制御することが容易となるとともに、被形成体の表面形状が限定されず、例えば表面に設けられた薄膜等による段差を有する場合でも、容易に単結晶が形成される。
【0041】
以下、上記有機結晶構造物の製造方法の各工程について詳細に説明する。
<溶液準備工程>
溶液準備工程では、有機化合物と前記有機化合物に対する良溶媒である第1の溶媒と前記有機化合物に対する貧溶媒であり前記第1の溶媒よりも沸点が高い第2の溶媒とを含み、かつ、有機化合物溶液全体に対する前記第2の溶媒の割合が3質量%以上5質量%以下である有機化合物溶液を準備する。
【0042】
第1の溶媒は、用いる有機化合物に対する良溶媒である。ここで、有機化合物に対する良溶媒とは、有機化合物の溶解度が高い溶媒のことであり、具体的には、25℃において、有機溶媒1質量部に対して0.01質量部(1質量%)以上の有機化合物が溶解可能である溶媒をいう。
また第2の溶媒は、用いる有機化合物に対する貧溶媒である。ここで、有機化合物に対する貧溶媒とは、有機化合物の溶解度が低い溶媒のことであり、具体的には、25℃において、有機溶媒1質量部に対して0.01質量部(1質量%)未満の有機化合物が溶解可能である溶媒をいう。
上記有機化合物の溶解度の値は、良溶媒にあっては溶媒1gに有機化合物1mgずつを、貧溶媒にあっては100gに1mgずつを加え、25℃に調整して撹拌を行って、有機化合物が溶解したか(すなわち、目視で確認されなくなったか)どうかを観察し、溶け残り(目視で確認される有機化合物)が生じる前までに加えた有機化合物の量である、
【0043】
第1の溶媒に対する有機化合物の25℃における溶解度(すなわち、有機溶媒1質量部に溶解する有機化合物の量)としては、例えば1質量%以上30質量%以下が挙げられる。大型の結晶片を得るには1質量%以上であることが特に望ましい。
また第2の溶媒に対する有機化合物の25℃における溶解度としては、第一の溶媒よりも低く、かつ1質量%未満であることが必要であるが、濃度が低すぎる場合には非晶質膜が不連続となることから0.1質量%以上であることが望ましい。
第1の溶媒に対する有機化合物の25℃における溶解度は、例えば第2の溶媒に対する25℃における有機化合物の溶解度の2倍以上であってもよく、10倍以上あってもよい。
【0044】
第1の溶媒の沸点としては、好ましくは50℃以上250℃以下であるが、室温で短時間に良好な結晶片を得るためには100℃以上180度以下が特に好適である。
第2の溶媒の沸点は、第1の溶媒の沸点よりも高く、具体的には、第一の溶媒よりも5℃以上高いことが望ましく、20℃以上高いことが特に望ましい。ただし、室温で短時間に非晶質膜を得るには、その沸点が280℃以下であることが特に好ましい。
【0045】
有機化合物溶液全体に対する第2の溶媒の割合は、上記の通り、0.1質量%以上50質量%であるが、少な過ぎる場合には上記段落0038に記載の現象が起こり難くなり、多すぎる場合には溶液中の有機化合物量が不足して結晶片が得難くなるため、3質量%以上5質量%以下とすることが特に好ましい。
また有機化合物溶液全体に対する有機化合物の割合は0.1質量%以上50質量%であるが、少なすぎる場合には単結晶片が得られず非晶質膜だけとなることがあり、多すぎる場合には結晶核が多量に発生して結晶片1個の大きさが小さくなるため、5質量%以上20質量%以下であることが特に望ましい。
【0046】
調整する有機化合物溶液の濃度は、形成させる結晶の大きさや、第1の溶媒と第2の溶媒との混合溶媒に対する有機化合物の溶解度等に応じて選択される。ただし、例えば有機化合物の飽和溶液を用いた場合のように、刺激によって多数の結晶核が形成されて単結晶が形成されにくくなることを抑制する観点から、混合溶媒に対する有機化合物の溶解度よりも低い濃度が好ましく、飽和溶液の濃度の0.8倍以下の濃度にすることがより好ましい。
【0047】
有機化合物として例えば上記有機半導体材料を用いた場合、第1の溶媒としては、例えば芳香族系の溶媒が挙げられ、具体的には、例えば、トルエン、キシレン等のアルキル置換芳香族化合物、アニソール、フェネトール等のアルコキシ置換芳香族化合物、又はこれらの誘導体等が挙げられる。第1の溶媒としては、上記芳香族化合物に限られず、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環式エーテル、クロロホルム等のハロゲン溶媒等を用いてもよい。
【0048】
また、有機化合物として上記有機半導体材料を用いた場合、第2の溶媒としては、例えば脂肪族系の溶媒が挙げられ、具体的には、例えば、デカン、ドデカン、テトラデカン等の炭素数10以上14以下の直鎖アルカン等が挙げられる。
【0049】
有機化合物溶液は、用いる被形成体の表面に対して適度な濡れ性を有していることが好ましい。すなわち、後述する乾燥工程において、被形成体上に有機化合物溶液の液滴が容易に移動したりすることを抑制する観点からは濡れ性が高い方が好ましく、有機化合物溶液の液滴が形状を維持し、被形成体上を広がり過ぎないという観点からは濡れ性が低い方が好ましい。具体的には、後述する付着工程において有機化合物溶液の液滴を被形成体に付着させたときの、被形成体に対する液滴の接触角が、10°以上110°以下の範囲であることがよく、60°以上100°以下が特に好ましい。
上記接触角の測定は、例えば、接触角測定装置(協和界面科学社製、型番:DM−701)により行う。
【0050】
以上のように、有機化合物溶液に含まれる第1の溶媒と第2の溶媒との組み合わせは、有機化合物の溶解度、沸点、被形成体に対する濡れ性(上記接触角)等を考慮して選択される。例えば被形成体としてシリコン基板又はガラス基板を用い、有機化合物として上記有機半導体材料(特に上記式(1)から(6)に示す化合物)を用いた場合、上記観点で好ましい第1の溶媒と第2の溶媒との組み合わせ、例えば、エトキシベンゼン(沸点:170℃)とドデカン(沸点:216℃)との組み合わせ、メトキシベンゼン(沸点154℃)とデカン(沸点174℃)との組み合わせ、トルエン(沸点:111℃)とノナン(沸点:151℃)との組み合わせが挙げられる。
【0051】
<付着工程>
付着工程においては、前記有機化合物溶液を被形成体に付着させる。有機化合物溶液を被形成体に付着させる方法については特に限定されないが、例えば、マイクロシリンジを用いて有機化合物溶液の液滴を被形成体に付着させる方法や、インクジェット法によって有機化合物溶液の液滴を被形成体に付着させる方法等が挙げられる。
【0052】
被形成体に付着させる有機化合物溶液の液滴の体積は、形成させる結晶の大きさや有機化合物の被形成体に対する濡れ性に応じて選択される。前記範囲の大きさを有する結晶が形成され、かつ、被形成体上における有機化合物溶液の液滴の形状が維持されるという観点から、上記液滴の体積としては、例えば、1pl以上100μl以下の範囲が挙げられ、作業の容易性からは10pl以上1μl以下であることが好ましい。
【0053】
<乾燥工程>
乾燥工程においては、被形成体に付着した有機化合物溶液の液滴を乾燥させる。
大きな単結晶を形成させる観点からは、有機化合物溶液の液滴から溶媒が蒸発する速さを遅くする方がよく、液滴の乾燥にかける時間としては、例えば、液滴1μlあたり0.01分以上が好ましく、より好ましくは0.1分以上である。
【0054】
乾燥条件は、用いる第1の溶媒及び第2の溶媒の沸点に応じて選択され、乾燥時間を短縮する場合は、例えば、被形成体を加熱して加熱温度を上昇させてもよいし、減圧してもよい。
第1の溶媒と第2の溶媒との組み合わせとしてエトキシベンゼンとドデカンとの組み合わせを用いる場合、例えば乾燥温度10℃以上40℃以下、湿度10%以上70%以下の条件で、大気圧下で乾燥を行う方法が挙げられる。湿度が低すぎる場合には基板や液滴が静電気を帯び、その影響で付着工程に不都合が生じる場合があり、高すぎる場合には結露による障害が発生することがある。
以上のように、溶液準備工程、付着工程、及び乾燥工程を経ることによって、本実施形態の有機結晶構造物が得られる。
【0055】
[有機トランジスタ]
上記の通り、上記実施形態に係る有機結晶構造物のうち、有機化合物として有機半導体材料を用いたものについては、有機トランジスタに適している。以下、有機化合物として有機半導体材料を用いた上記実施形態の有機結晶構造物を適用した有機トランジスタについて説明する。
本実施形態の有機トランジスタは、例えば、複数の電極と、有機化合物として有機半導体材料を用いた上記実施形態の有機結晶構造物と、を備え、有機結晶構造物中に含まれる有機半導体材料の単結晶の結晶片が有機半導体層として機能する。
以下、図を参照しつつ、より詳細に説明するが、これに限定されない。
【0056】
図4、図5、及び図6は、本実施形態の有機トランジスタの一例の構成を説明する断面図である。具体的には、図4、図5、及び図6は、電界効果型(Field Effect Transistor)の有機トランジスタについて示している。
【0057】
図4、図5、及び図6に示す電界効果型の有機トランジスタは、離間して設けられたソース電極2及びドレイン電極3と、ソース電極2及びドレイン電極3の双方に接する有機半導体層として機能する結晶14と、ソース電極2及びドレイン電極3の双方から離間したゲート電極5と、結晶14とゲート電極5とに挟まれて設けた絶縁層6と、を備える。
電界効果型の有機トランジスタは、現在広く用いられているトランジスタの一形態である。
【0058】
図4、図5、及び図6に示す電界効果型の有機トランジスタは、ゲート電極5に印加される電圧によってソース電極2からドレイン電極3に流れる電流を制御する。
【0059】
図4に示す有機トランジスタは、基板1上にゲート電極5を備え、ゲート電極5の上に更に絶縁層6を備える。絶縁層6上には、離間して形成したソース電極2とドレイン電極3とを備える。図4に示す有機トランジスタでは、上記のように、基板1にゲート電極5、絶縁層6、ソース電極2、及びドレイン電極3が設けられたものが、上記被形成体に相当する。
そして被形成体のうち、ソース電極2、ドレイン電極3、及び絶縁層6の露出した面に、有機半導体材料の単結晶である結晶片である結晶14と、有機半導体材料の非晶質の薄膜16と、が直接接触して設けられる。具体的には、結晶14がソース電極2及びドレイン電極3の露出した面すべてを覆うように設けられている。
【0060】
図4に示す有機トランジスタでは、ソース電極2及びドレイン電極3の露出した面すべてを結晶14が覆っているが、これに限定されず、ソース電極2及びドレイン電極3の少なくとも一方が、結晶14及び薄膜16の両方に覆われていてもよいし、露出していてもよい。
ただし有機トランジスタとして機能するためには、結晶14における1つの結晶片が、ソース電極2及びドレイン電極3の両方に直接接触して設けられることが望ましい。図5に示す有機トランジスタ及び図6に示す有機トランジスタについても同様である。
【0061】
図5に示す有機トランジスタは、基板1上にゲート電極5を備え、ゲート電極5の上に更に絶縁層6を備え、絶縁層6上にソース電極2を備える。そして図5に示す有機トランジスタでは、上記のように、基板1にゲート電極5、絶縁層6、及びソース電極2が設けられたものが、上記被形成体に相当する。
そして被形成体のうち、ソース電極2及び絶縁層6の露出した面に、結晶14と薄膜16とが直接接触して設けられる。具体的には、結晶14がソース電極2の露出した面すべてを覆うように設けられている。
そしてさらに、結晶14における絶縁層6とは反対側の面に、ドレイン電極3が設けられている。
【0062】
図5に示す有機トランジスタでは、ソース電極2の露出した面すべてを結晶14が覆い、ドレイン電極3が結晶14のみに設けられているが、これに限定されず、ソース電極2が結晶14及び薄膜16の両方に覆われていてもよいし、露出していてもよく、ドレイン電極3が結晶14及び薄膜16の両方に設けられてもよく、絶縁層6に接触して設けられていてもよい。
また、ソース電極2とドレイン電極3とが逆の構成であってもよい。
【0063】
図6に示す有機トランジスタは、基板1上にゲート電極5を備え、ゲート電極5の上に更に絶縁層6を備える。そして図6に示す有機トランジスタでは、上記のように、基板1にゲート電極5及び絶縁層6が設けられたものが、上記被形成体に相当する。
そして被形成体のうち、絶縁層6の露出した面に、結晶14と薄膜16とが直接接触して設けられる。
そしてさらに、結晶14における絶縁層6とは反対側の面に、ソース電極2及びドレイン電極3が離間して設けられている。
【0064】
図6に示す有機トランジスタでは、ソース電極2及びドレイン電極3が結晶14のみに設けられているが、これに限定されず、ソース電極2及びドレイン電極3の少なくとも一方が、結晶14及び薄膜16の両方に設けられてもよく、絶縁層6に接触して設けられていてもよい。
【0065】
図4、図5、及び図6に示す有機トランジスタ素子においては、ゲート電極5に印加される電圧によってソース電極2からドレイン電極3に流れる電流が制御される。
【0066】
各電極に用いられる材料としては、効率よく電荷注入するための材料であり、金属、金属酸化物、導電性高分子、炭素及びグラファイト等が使用される。
【0067】
電極に用いる金属としてはマグネシウム、アルミニウム、金、銀、銅、白金、クロム、タンタル、インジウム、パラジウム、リチウム、カルシウム及びこれらの合金が挙げられる。金属酸化物としては、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化スズインジウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛等の金属酸化膜があげられる。
【0068】
電極に用いる導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリピリジン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等があげられる。
【0069】
なお、本実施の形態において、導電性とは、体積抵抗率で10Ωcm以下の範囲を意味する。一方、絶縁性とは、体積抵抗率で1014Ωcm以上の範囲を意味する。
【0070】
また、体積抵抗率の測定は、JIS−K−6911(1995)に準じて、円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのURプローブ:円柱状電極の外径Φ16mm、リング状電極部の内径Φ30mm、外径Φ40mm)を用い、22℃/55%RH環境下、電圧100V印加し、印加後5sec後の電流値をアドバンテスト製、微小電流計R8340Aを用いることにより測定し、その電流値により、体積抵抗から、体積抵抗率を求める。
【0071】
なお、導電性を有する基板を用いた場合、例えば、高濃度にドープされたシリコン基板は、その基板をゲート電極として兼ねてもよい。
【0072】
電極の形成方法としては、上記原料を蒸着法やスパッタ等の方法によって薄膜を形成し、この薄膜を公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法によって成形する方法、アルミニウムなどを熱転写する方法、インクジェット等によりレジスト層を形成し、このレジスト層をエッチングする方法がある。また導電性高分子を溶媒に溶解し、この溶液をインクジット等によりパターニングしてもよい。
【0073】
ソース電極2及びドレイン電極3の膜厚としては、特に限定するものではないが、一般に数nm以上数百μm以下の範囲であることが好ましく、より好適には1nm以上100μm以下であり、さらに好適には10nm以上10μm以下である。
【0074】
ソース電極2からドレイン電極3までの距離(チャンネル長)は、一般には数百nm以上数mm以下の範囲が好ましく、さらに好適には1μm以上1mm以下である。
【0075】
絶縁層6としては、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム等の無機物、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリススチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニルデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂等の有機絶縁高分子等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0076】
無機物の絶縁層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギービーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセス、さらには、スプレー塗布法、スピン塗布法、ブレード塗布法、浸漬塗布法、キャスト法、ロール塗布法、バー塗布法、ダイ塗布法、エアーナイフ法、インクジェット法などの塗布方法のウェットプロセスが挙げられ、使用する材料及び素子の特性に応じて選択して採用される。
有機絶縁高分子を用いた絶縁層の形成方法は、上記ウェットプロセスを用いることが好ましい。
【0077】
絶縁層6の膜厚としては、特に限定するものではないが、一般に数nm以上数百μm以下の範囲であることが好ましく、より好適には、1nm以上100μm以下であり、さらに好適には10nm以上10μm以下である。
【0078】
また、絶縁層6の結晶14及び薄膜16と接する界面は、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン等のシラン化合物で処理されてもよく、有機絶縁層の場合は、ラビング処理されていてもよい。
【0079】
基板1としては、リン等を高濃度にドープしたシリコン単結晶やガラス、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリススチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニルデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂等のプラスチック基板等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0080】
特に、電子ペーパー又はデジタルペーパーや携帯電子機器に用いられる電子回路に本実施形態の有機トランジスタを用いる場合、基板1としては、可撓性がある基板を用いることが望ましい。特に曲げ弾性率が1000MPa以上である基板を用いることにより可撓性がある表示素子の駆動回路や電子回路が作製される。
【0081】
本実施形態の有機トランジスタは、水分や酸素による有機トランジスタの劣化を防ぐために、さらに保護層を設けてもよい。具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al等の金属、MgO、SiO、TiO等の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる、保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、コーティング法が適用される。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
<被形成体の作製>
スライドガラス(26mm×72mm、厚さ0.8mm)上に、ゲート電極として膜厚0.1μmの銀ナノ粒子による銀膜をインクジェット法により形成した。次に絶縁層として膜厚0.5μmのポリイミド層をスピン塗布法によりスライドガラス全体に形成した。次にソース電極とドレイン電極として膜厚0.1μmの金ナノ粒子による金膜をインクジェット法により形成した。得られたものを被形成体として用いた。なお、得られた被形成体におけるチャネルの長さ(ソース電極とドレイン電極との距離)は100μmである。
【0084】
[実施例1]
<有機結晶構造物の作成>
有機化合物として、上記式(2)で示す化合物と上記式(3)で示す化合物との1:1混合物である有機半導体材料1を用い、第1の溶媒としてエトキシベンゼンを用い、第2の溶媒としてドデカンを用いた。
エトキシベンゼンに対する25℃における有機半導体材料1の溶解度を上記方法で測定した結果20質量%であり、ドデカンに対する25℃における有機半導体材料1の溶解度を上記方法で測定した結果0.6wt%であった。また上記の通り、エトキシベンゼンの沸点は170℃であり、ドデカンの沸点は216℃である。
【0085】
エトキシベンゼン(82質量部)にドデカン(3質量部)を加えた溶媒に上記有機半導体材料1(15質量部)を溶解し、有機化合物溶液1を調整した。なお、得られた有機化合物溶液における有機化合物溶液1の濃度は、飽和溶液の濃度の0.8倍以下である。
次に、得られた有機化合物溶液1を、マイクロシリンジで、上記被形成体のチャネル部分に滴下した。滴下された有機化合物溶液1の液滴の体積は、0.5μlであった。また、滴下された溶液の液滴における被形成体に対する接触角を上記装置により測定した結果、82°であった。
次に、被形成体に滴下された液滴を、温度25℃、湿度40%、1気圧の条件下で、加熱や減圧を行わず乾燥した。乾燥時間は液滴1μlあたり1分であった。
【0086】
以上の操作により、有機半導体材料1の結晶片の集合体と、その集合体を取り囲む有機半導体材料1の薄膜と、で構成される有機結晶構造物が得られた。得られた有機結晶構造物を顕微鏡で観察して得られた画像を図7に示す。
結晶片の集合体は、大きさが50μm以上100μm以下の薄板状の直方体の結晶片が、30個集まったものであり、上記方法により、これらの結晶片が単結晶であることが確認された。
また薄膜は、円形であり、直径が800μm、厚さが0.05μmであった。
【0087】
−有機トランジスタとしての電気特性評価−
被形成体に形成された有機結晶構造物について、有機トランジスタとしての電気特性を、半導体アナライザ(アジレント製4155A)により測定した。得られた易動度及びON/OFF比の値を表1に示す。
なお、上記易動度の値は、ソース電極とドレイン電極とを繋ぐ結晶片における、チャネル幅方向の長さからチャネル幅を求め、以下の式から求めた易動度(μ)の値である。
【0088】
【数1】

【0089】
ここで、上記式中、Iはドレイン電流、Wは上記チャネル幅、Cはチャネル領域の絶縁膜の静電容量、μは易動度、Lは上記チャネルの長さ、Vgはゲート電圧、Vtは立ち上がり電圧を示す。
また上記ON/OFF比は、ドレイン電圧をVとしたとき、V=−30Vにおいて、0V<Vg<−30Vの範囲を測定して得られた、Iの最大値と最小値との比である。
【0090】
<有機結晶構造物の評価>
上記方法で電気特性を評価した有機トランジスタを、高さ10cmから厚さ1mmのガラス板上に落下せしめることを10回繰り返してから顕微鏡観察したが、有機結晶構造物の剥離は認められなかった。また、電気特性にも顕著な変化は見られなかった。
【0091】
[実施例2]
<有機結晶構造物の作成>
エトキシベンゼンを80質量部、ドデカンを5質量部、とした以外は、実施例1と同様にして、有機結晶構造物を得た。
得られた有機結晶構造物は、実施例1と同様に、有機半導体材料1の結晶片の集合体と、その集合体を取り囲む有機半導体材料1の薄膜と、で構成される有機結晶構造物であった。
上記結晶片の集合体は、大きさが50μm以上100μm以下の薄板状の直方体の結晶片が、40個集まったものであり、これらの結晶片が単結晶であることが確認された。
また薄膜は、円形であり、直径が900μm、厚さが0.1μmであった。
【0092】
<有機結晶構造物の評価>
実施例1と同様にして、有機結晶構造物の被形成体への付着性評価を行った結果、有機結晶構造物は被形成体の表面に残存しており、有機結晶構造物の結晶及び薄膜が被形成体に強固に付着していることが確認された。
また実施例1と同様にして、有機トランジスタとしての電気特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
[実施例3]
<有機結晶構造物の作成>
エトキシベンゼンを84質量部、ドデカンを1質量部、とした以外は、実施例1と同様にして、有機結晶構造物を得た。
得られた有機結晶構造物には、実施例1と同様に、有機半導体材料1の結晶片の集合体と、その集合体を取り囲む有機半導体材料1の薄膜とで構成される有機結晶構造物であった。
上記結晶片の集合体は、大きさが5μm以上10μm以下の薄板状の直方体の結晶片が、15個集まったものであり、これらの結晶片が単結晶であることが確認された。
また薄膜は、円形であり、直径が1500μm、厚さが0.02μmであった。
【0094】
<有機結晶構造物の評価>
実施例1と同様にして、有機結晶構造物の被形成体への付着性評価を行った結果、有機結晶構造物は被形成体の表面に残存しており、有機結晶構造物の結晶及び薄膜が被形成体に強固に付着していることが確認された。
また実施例1と同様にして、有機トランジスタとしての電気特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
[比較例1]
<有機結晶構造物の作成>
エトキシベンゼンを85質量部、ドデカンを0質量部、とした以外は、実施例1と同様にして、有機結晶構造物を得た。
得られた有機結晶構造物には、有機半導体材料1の結晶片の集合体が存在していたが、その集合体を取り囲む有機半導体材料1の薄膜は存在していなかった。
上記結晶片の集合体は、200個以上のの微結晶の集合体が直径1500μmの円形上に散布されたものであり、これらの結晶片が単結晶であることが確認された。
【0096】
<有機結晶構造物の評価>
実施例1と同様にして、有機結晶構造物の被形成体への付着性評価を行った結果、有機結晶構造物のうち、50%の結晶片が被形成体の表面から剥がれた。
また実施例1と同様にして、有機トランジスタとしての電気特性評価を行った。結果を表1に示す。また、10回の落下後には有機トランジスタとして動作しなかった。
【0097】
[比較例2]
<有機結晶構造物の作成及び評価>
エトキシベンゼンを75質量部、ドデカンを25質量部、とした以外は、実施例1と同様にして、有機結晶構造物を得た。
得られた有機結晶構造物は、直径500μmの範囲に形成された有機半導体材料1の塊と、その周囲に形成された直径800μmの有機半導体材料1の薄膜とで構成されており、上記塊は単結晶ではないことが確認された。
実施例1と同様にして、有機トランジスタとしての電気特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
[比較例3]
<有機結晶構造物の作成及び評価>
エトキシベンゼンを43質量部、ドデカンを42質量部、とした以外は、実施例1と同様にして、有機結晶構造物を得た。
得られた有機結晶構造物には、直径1500μmの有機半導体材料1の薄膜のみが存在し、有機半導体材料1の結晶片の集合体は存在していなかった。
実施例1と同様にして、有機トランジスタとしての電気特性評価を行った。結果を表1に示す。また、10回の落下後には有機トランジスタとして動作しなかった。
【0099】
[比較例4]
<有機結晶構造物の作成及び評価>
第1の溶媒としてトルエンを40質量部用い、第2の溶媒としてイソプロパノールを40質量部用いた以外は、実施例1と同様にして、有機結晶構造物を得た。
トルエンに対する25℃における有機半導体材料1の溶解度は7質量%であり、イソプロパノールに対する25℃における有機半導体材料1の溶解度は1質量%であった。またトルエンの沸点は110.6℃であり、イソプロパノールの沸点は82.4℃である。
【0100】
得られた有機結晶構造物は、有機半導体材料1の結晶片が円内に均一に散布された形態であり、それぞれの結晶片を取り囲む有機半導体材料1の薄膜は存在していなかった。
上記結晶片は、大きさが2μm以上10μm以下の結晶片が200個以上、直径1000μmの円形上に散布されたものであり、これらの結晶片が単結晶であることが確認された。
【0101】
<有機結晶構造物の評価>
実施例1と同様にして、有機結晶構造物の被形成体への付着性評価を行った結果、有機結晶構造物のうち、80%の結晶片が被形成体の表面から剥がれた。
また実施例1と同様にして、有機トランジスタとしての電気特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
以上の結果から、実施例では、比較例に比べ、有機結晶構造物中における結晶が被形成体に強固に付着していることがわかる。
また上記表1から、実施例(特に実施例1及び実施例2)の有機トランジスタは、比較例に比べて、電荷易動度が大きいことがわかり、この結果から、有機結晶構造物中における結晶が被形成体に直接接触して形成されていることもわかる。
【符号の説明】
【0104】
1 基板
2 ソース電極
3 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 絶縁層
10 有機結晶構造物
12 基板(被形成体)
14 結晶(単結晶の結晶片又は結晶片の集合体)
16 薄膜(膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機結晶構造物の被形成体に直接接触して形成された有機化合物の単結晶の結晶片又は前記結晶片の集合体と、
前記結晶片又は前記結晶片の集合体が形成された前記被形成体の面と同一面に直接接触し、かつ、前記結晶片又は前記結晶片の集合体における周囲の少なくとも一部に直接接触して設けられた、前記有機化合物の非晶質の膜と、
を有する、有機結晶構造物。
【請求項2】
前記有機化合物が有機半導体材料である請求項1に記載の有機結晶構造物を有する、有機トランジスタ。
【請求項3】
有機化合物と、前記有機化合物に対する良溶媒である第1の溶媒と、前記有機化合物に対する貧溶媒であり前記第1の溶媒よりも沸点が高い第2の溶媒と、を含み、かつ、有機化合物溶液全体に対する前記第2の溶媒の割合が3質量%以上5質量%以下である有機化合物溶液を準備する溶液準備工程と、
前記有機化合物溶液を有機結晶構造物の被形成体に付着させる付着工程と、
前記被形成体に付着した前記有機化合物溶液を乾燥させる乾燥工程と、
を有する、有機結晶構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−258824(P2011−258824A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133246(P2010−133246)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】