説明

有機EL表示装置用シリコン膜検査方法及び有機EL表示装置用シリコン膜検査装置

【課題】シリコン膜を精度良く検査するシリコン膜検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、シリコン膜の形成された領域を第1膜厚の第1領域と前記第1膜厚と異なる第2膜厚の第2領域とに仮想的に分割する分割工程と、互いに異なる波長の第1波長と第2波長とを含む照射光を前記シリコン膜に照射する照射工程と、前記照射光が照射された前記第1領域からの前記第1波長の第1反射光を用いて第1反射率の測定を行う第1測定工程と、前記第1反射率から前記シリコン膜の第1結晶化率を導出する第1導出工程と、前記照射光が照射された前記第2領域からの前記第2波長の第2反射光を用いて第2反射率の測定を行う第2測定工程と、前記第2反射率から前記シリコン膜の第2結晶化率を導出する第2導出工程と、を含む有機EL表示装置用シリコン膜検査方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)表示装置に用いられるTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)基板のシリコン膜の検査方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリックス方式の液晶表示装置や、有機EL表示装置において、ポリシリコンTFT基板が用いられている。ポリシリコンは、基板上に形成されたアモルファスシリコンからなるシリコン膜に、エキシマレーザを照射してアニールすることにより、形成されていることが多い。
【0003】
エキシマレーザはガスレーザであるが故に、パルスごとの出力強度にばらつきがある。このため、出力強度のばらつきに起因して、アモルファスシリコンからポリシリコンに適切に状態変化しない場合がある。
【0004】
そこで、液晶表示装置用の検査技術として、エキシマレーザ照射後のシリコン膜に対して、アモルファスシリコンがポリシリコンに、適切に状態変化しているか否かを検査する技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
図7を用いて、従来の技術に係る液晶表示装置用のシリコン膜検査装置100について説明する。従来のシリコン膜検査装置100は、筐体101の内部に、アニール後のシリコン膜が形成された基板である被検物102が載置されるステージ103と、筐体101の天窓104を介して被検物102に測定光を投光する投光部105と、特定の波長の光を透過させる光学フィルタ106と、被検物102からの反射光を受光する受光部107と、受光した反射光から反射率を求め、その反射率を評価することで、被検物102のシリコン膜が適切にポリシリコンに状態変化しているか否かを判定する判定装置108と、を備えている。
【0006】
シリコン膜の結晶状態(シリコン膜中におけるポリシリコンとアモルファスシリコンとの存在割合)と反射率との関係は、分光エリプソメータを用いることにより予め求めておくことが可能である。このため、従来のシリコン膜検査装置100では、特定の波長の光を照射した際の被検物102からの反射率と、予め準備したシリコン膜の結晶状態と反射率との関係から、被検物102の結晶状態を求める。このように、結晶状態を検査することで、ポリシリコンが適切に得られているか否かを検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−359194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アモルファスシリコンの電子移動度は1(cm2/Vs)程度であるのに対し、ポリシリコンの電子移動度は100(cm2/Vs)以上と、両者の間に100倍以上の電子移動度の差が存在する。
【0009】
つまり、結晶状態がばらついている(ポリシリコンとアモルファスシリコンの存在割合が領域によって異なる)シリコン膜では、領域によって100倍以上の電子移動度の差が発生してしまう。
【0010】
それでもなお、液晶表示装置であれば、液晶分子の移動速度に比べて、電子移動度は十分に速いため、シリコン膜の結晶状態がばらつくことで、電子移動度がばらついても、大きな課題にならなかった。
【0011】
しかしながら、有機EL表示装置の場合、電子移動度のばらつきが直接、表示装置の点灯速度のばらつき、すなわち表示ムラの発生に繋がる。このため、有機EL表示装置には結晶状態のばらつきが小さいシリコン膜を用いる必要がある。
【0012】
液晶表示装置用の従来のシリコン膜検査装置100では、同一の被検物102に対して同一の波長の光を用いてシリコン膜の結晶状態を検査している。このように、同一のシリコン膜に対して同一の波長の光を照射した場合、シリコン膜の反射率が一定であっても、シリコン膜の結晶状態が一定でない場合が生じていた。結晶状態が一定でないシリコン膜では、上述のように、有機EL表示装置に用いては、表示ムラの原因となる。従って、従来のように、同一のシリコン膜に同一の波長の光を用いて行う結晶状態の検査では、有機EL表示装置用の、シリコン膜を精度良く検査することができなかった。
【0013】
本発明は、係る課題を解決するもので、シリコン膜を精度良く検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機EL表示装置用シリコン膜検査方法は、シリコン膜の形成された領域を第1膜厚の第1領域と前記第1膜厚と異なる第2膜厚の第2領域とに仮想的に分割する分割工程と、互いに異なる波長の第1波長と第2波長とを含む照射光を前記シリコン膜に照射する照射工程と、前記照射光が照射された前記第1領域からの前記第1波長の第1反射光を用いて第1反射率の測定を行う第1測定工程と、前記第1反射率から前記シリコン膜の第1結晶化率を導出する第1導出工程と、前記照射光が照射された前記第2領域からの前記第2波長の第2反射光を用いて第2反射率の測定を行う第2測定工程と、前記第2反射率から前記シリコン膜の第2結晶化率を導出する第2導出工程と、前記第1結晶化率と前記第2結晶化率とに基づいて前記シリコン膜の検査を行う検査工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の有機EL表示装置用シリコン膜検査装置は、シリコン膜が形成された基板を載置する載置部と、前記シリコン膜に照射光を照射する光源と、前記照射光が照射された前記シリコン膜からの反射光を受光する受光部と、前記反射光から前記シリコン膜の反射率を測定する測定部と、前記反射率から前記シリコン膜の結晶化率を導出する導出部と、前記結晶化率から前記シリコン膜の検査を行う検査部と、前記光源から照射された前記照射光が前記反射光となって前記受光部に受光されるまでの光路上に配置された波長切替部と、前記シリコン膜の形成された領域を第1膜厚の第1領域と前記第1膜厚と異なる第2膜厚の第2領域とに仮想的に分割する分割部と、を備え、前記波長切替部は、前記第1領域と前記第2領域とで、異なる波長の前記照射光又は前記反射光を選択して透過させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、結晶状態のばらつきが小さいシリコン膜も検査することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1に係るシリコン膜検査装置の模式図
【図2】膜厚が38nmの場合のシリコン膜の結晶化率と反射率との関係のグラフを示した図
【図3】膜厚が38nmのシリコン膜に波長442nmの光を照射した場合の反射率と結晶化率との関係のグラフを示した図
【図4】被検物の膜厚分布とこの膜厚分布に対応した領域を走査する様子を示した模式図
【図5】膜厚の異なるシリコン膜に波長442nmの光を照射した場合の結晶化率と反射率との関係のグラフを示した図
【図6】実施の形態1に係るシリコン膜検査装置の動作を示すフローチャート
【図7】従来のシリコン膜検査装置の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明において、同じ構成には同じ符号を付して、適宜説明を省略する。
【0019】
また、本発明では、シリコン膜の結晶状態を評価する指標として、結晶化率を用いる。結晶化率とは、シリコン膜中におけるポリシリコンの存在割合(体積割合)を指すものである。
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1に係るシリコン膜検査装置1の構成の模式図を図1に示す。シリコン膜検査装置1は、シリコン膜2aの形成された面が鉛直方向(図1中のZ軸方向)上向きになるように被検物2が載置されるステージ3と、被検物2に特定の波長の光(照射光)を照射すると共に、被検物2からの反射光を検出する光学ユニット4と、検出した反射光から反射率を測定し、測定した反射率に基づいて被検物2の結晶化率を導出する制御装置5とを備えている。
【0021】
以下に、シリコン膜検査装置1の構成について説明する。
【0022】
ステージ3は、被検物2を載置するための載置部であり、被検物2を、図1中に示した互いに直交するX、Y、Z軸方向に駆動する三軸駆動型のサーボモータなどの駆動機構を備えたものである。このステージ3により、被検物2に照射される光学ユニット4からの光の位置を変化させる。なお、エンコーダ検出器(図示しない)によりステージ3の移動量は制御装置5に出力される。
【0023】
光学ユニット4は、光源6と、波長切替機構7と、ハーフミラー8と、受光部9と、を備えたものである。ここで、光学ユニット4の構成について説明する。
【0024】
光源6は、照射波長帯域にシリコン膜の検査に適した400〜700nmの波長を含むハロゲンランプである。なお、光源6には、キセノンランプ、白色LED、極短パルスレーザなどを用いても良い。
【0025】
波長切替機構7は、互いに異なる複数の狭い波長帯の光を選択的にそれぞれ透過させる複数の光学フィルタを備えたものである。波長切替機構7は、光源6とハーフミラー8との間であって、光源6から出射する光の光軸上に位置するように配置されている。この波長切替機構7を図示しない回転機構で回転させることで、光源6から照射される光の光軸上に位置する光学フィルタの種類を変化させ、被検物2に照射する光の波長を変化させる。
【0026】
ハーフミラー8は、波長切替機構7の光学フィルタを透過した光の一部を反射させることで、被検物2に光を照射させる機能を備える光学部材である。また、ハーフミラー8は、光を照射された被検物2からの反射光の一部を透過させ、受光部9に入射させる機能も備えている。
【0027】
受光部9は、ハーフミラー8を介して被検物2から反射した光(反射光)を受光する撮像装置である。受光部9は複数の受光素子であるCCD(Charge Coupled Device)が図1に示したY軸方向と平行にライン状に配列されたラインセンサを備える。これにより、各CCDで受光した光のY軸方向における強度分布を取得する。また、受光部9は、受光した光の強度情報を制御装置5に入力する。
【0028】
制御装置5は、シリコン膜の膜厚、波長、結晶化率、反射率、これらの関係を示した基準データを予め記憶している記憶部と、膜厚の分布毎に1種類の波長で測定可能な領域を仮想的に分割する分割部と、受光部9で取得した強度分布に基づいて反射率を測定する測定部と、測定した反射率と予め記憶している基準データとから被検物2の結晶化率を導出する導出部と、導出した結晶化率に基づいて被検物2の検査を行う検査部と、を備えたものである。さらに、制御装置5は、波長切替機構7の回転を制御することで、被検物2の膜厚に応じて検査に用いる光の波長を選択する。制御装置5により、波長切替機構7を制御することで被検物2の膜厚に対応した波長の光を照射し、光を照射した被検物2の反射率を測定し、測定した反射率と予め記憶部に記憶してある基準データとから被検物2の結晶化率を導出する。この場合、反射率が既知のミラー10に光を照射した場合の受光強度を予め測定しておき、その値が記憶部に記憶されている。これにより被検物2からの受光強度と、ミラー10からの受光強度とを比較することで、被検物2の反射率を測定することができる。さらに、制御装置5は、ステージ3の駆動機構の駆動量を制御するものであり、被検物2の膜厚に応じて、予め設定した波長の光がそれぞれ照射されるように、光学ユニット4と被検物2との相対的な位置関係を変化させる。なお、記憶部には被検物2の膜厚分布が予め記憶されている。
【0029】
次に、被検物2の検査に用いる光の波長について説明する。
【0030】
図2に、シリコン膜の膜厚が38nmの場合における、波長と反射率と結晶化率との関係のグラフを示す。ここでは、代表的な結晶化率の値として0(アモルファスシリコン、図2中ではa−Siと記載している)、25、40、78、88、98%のシリコン膜における反射率と波長との関係を示す。なお、これらの関係は分光エリプソメータを用いて求めた。
【0031】
結晶化率を高精度に測定するためには、結晶化率毎の反射率の差が大きい波長を用いることが好ましい。図2では510nmの波長が最も結晶化率毎の反射率の差が大きくなっている。一方で、シリコン膜の表面は、結晶化率が大きくなると、表面粗さが増すためザラツキによる光の散乱効果が大きくなる。これにより、結晶化率が大きくなると、散乱効果の影響により図2に示した反射率の値よりも小さく検出される。つまり、結晶化率が大きくなるほど反射率が高くなる波長(510nm)では、結晶化率に起因する反射率の増加と表面ザラツキによる散乱効果による反射率の減少とが相殺し合い、結晶化率の判断が困難になる。従って、測定に用いる波長は、結晶化率が大きくなるほど反射率が小さくなる波長を選択することが望ましい。これらのことから、本実施の形態1で結晶化率の測定に用いる波長は442nmを選択することが好ましい。
【0032】
波長442nmの光を、膜厚が38nmのシリコン膜に対して照射した場合の反射率と結晶化率との関係を図3に示す。図3は、結晶化率が既知のシリコン膜からの反射率を測定し、グラフにプロットしたものである。図3のプロットから、反射率と結晶化率との関係を示す近似曲線を求めることができる。この近似曲線に基づいて、実際に測定した反射率からシリコン膜の結晶化率を導出する。
【0033】
ここで、図1に示した実施の形態1に係るシリコン膜検査装置1の動作を説明する前に、被検物2に対して1種類の波長の光を用いて結晶化率を測定する場合について説明する。
【0034】
被検物2の膜厚の分布を示した模式図を図4に示す。まず、図4のように、膜厚の分布にばらつきが発生する原因について説明する。ポリシリコンは、ガラス基板上にアモルファスシリコンの膜をCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法等により成膜した後に、アニールして形成される。このとき、CVDチャンバ内において、プラズマ密度が不均一な状態でシリコン膜が成膜される場合がある。図4のように、被検物2の中心部で薄く、周辺部で厚くなったのは、シリコン膜の成膜時に、CVDチャンバの中心部でプラズマ密度が疎となり、周辺部で密となっていたからである。つまり、成膜方法に起因して、膜厚のばらつきが発生するのである。
【0035】
なお、実際にはシリコン膜内で連続的に膜厚が変化しているが、図4では、被検物2を均等な面積の領域に仮想的に分割(6インチサイズを25分割)した際の、各領域における中心部の膜厚を示す。また、以下の説明では、これら仮想的に分割した領域をブロックと記載し、各ブロック内における膜厚分布は、等しいものとして説明を行う。
【0036】
図4に示した被検物2には、膜厚が36nm、38nm、40nm、42nmのブロックが含まれている。従来の方法では、膜厚にばらつきを有するシリコン膜に対しても、同一の波長の光を照射している。そこで、膜厚が36nm、38nm、40nm、42nmの4条件のシリコン膜に対して、同一の光を照射した場合について説明する。ここでは、膜厚が38nmの場合に検査に最適な波長442nmの光を照射した場合の、結晶化率と反射率との関係を図5に示す。また、図5にはそれぞれのプロットから、各膜厚における反射率と結晶化率との関係を示す近似曲線を示している。
【0037】
ここで、図5に示した反射率が24%のプロットA、B、Cに着目して説明する。実際の検査に際して、シリコン膜の結晶化率は測定した反射率から導出される。このため、膜厚を考慮に入れなければ、A、B、Cのプロットの反射率は全て等しい値として測定され、これらは全て結晶化率が等しいと判定されてしまう。
【0038】
しかし、Aのプロットが示す結晶化率は22%、Bのプロットが示す結晶化率は64%、Cのプロットが示す結晶化率は82%と、これらは全て異なる結晶化率である。ちなみに、結晶化率が24%のシリコンの電子移動度は1〜3(cm2/Vs)、結晶化率が64%の結晶化率は5〜7(cm2/Vs)、結晶化率82%の結晶化率は100(cm2/Vs)である。このため、これらが1つのシリコン膜中に混在するTFTを有機EL表示装置に用いては、表示ムラの発生を引き起こしてしまう。
【0039】
このように、シリコン膜の結晶状態と反射率との関係は膜厚に依存して変化することが理解できる。これは、シリコン膜の上面で反射する光と下面で反射する光とが干渉するためであると考えられる。
【0040】
そこで、シリコン膜の膜厚を考慮に入れて、これらの結晶化率を測定する。A、B、Cのプロットの膜厚は、それぞれ38nm、42n、42nmである。このため、Aのプロットは予め膜厚を測定ことより判定可能である。すなわち、膜厚38nmのシリコン膜に波長442nmの光を照射した場合の反射率が24%であると判るため、Aのプロットの結晶化率は24%であると判定可能である。一方、BとCのプロットは、膜厚が同じであるため、区別がつかない。つまり、膜厚が42nmのシリコン膜に対して、波長442nmの光を照射した場合の反射率が24%であれば、結晶化率が64%又は82%となる。前述の通り、結晶化率が64%と82%とでは電子移動度に大きな違いがあり、これらの結晶化率が混在するシリコン膜を有するTFTは、有機EL表示装置には適さない。従って、膜厚42nmのシリコン膜の結晶化率の測定に波長442nmの光を用いるのは適当でない。
【0041】
発明者らは、様々な実験を行った結果、膜厚が42nmのシリコン膜には460nmの光を用いて結晶化率を測定することが好ましいことを導き出した。同時に、波長460nmの光は膜厚が38nmのシリコン膜の検査には適さないことも導き出した。
【0042】
なお、図4に示したように、6インチサイズのシリコン膜を25分割した際に、各ブロックの中心を測定した膜厚に対応する波長の光が、各ブロックに対応する波長の光となることも、実験の結果導き出した。つまり、各ブロックの中心膜厚に対応した波長の光を用いることで、各ブロックにおけるシリコン膜の結晶化率を高精度に求めることが可能である。
【0043】
更に、発明者らは、シリコン膜の膜厚の分布が−2〜2nmの範囲内においては1種類の波長を用いることが可能であるが、それ以上に膜厚が変化した場合は測定に用いる波長を変える必要があることを、実験を重ねた結果、見出した。
【0044】
ちなみに、図4に示した被検物2の膜厚の設計値は40.8nmであり、被検物2全体の平均膜厚は40.8nmであった。このように、設計値と平均膜厚とが等しい場合であっても、シリコン膜の膜厚がばらつくことがある。膜厚にばらつきのある被検物2の平均膜厚や設計値のみに対応させて、検査に用いる光の波長を選択していては、膜厚のばらつきが原因となって、精度良くシリコン膜の検査を行うことができない。これらのことから、従来のように、同一のシリコン膜に対して1種類の波長を用いて測定すれば、同一面内でシリコン膜の膜厚が変化するシリコン膜の結晶化率を精度良く検査することが出来ないことが理解できる。
【0045】
次に、本実施の形態1に係る図1に示したシリコン膜検査装置1を用いて、被検物2の膜厚分布に沿って異なる波長の光を照射して結晶化率を測定する手順を、図4を用いて説明する。被検物2の最薄部の膜厚は36nm、最厚部の膜厚は44nmである。上述の通り、膜厚の変化量が−2〜2nmの範囲内、すなわち4nmの変化量の範囲内であれば1種類の波長を用いてシリコン膜の結晶化率を測定可能である。被検物2の膜厚の変化量の最大値は8nmであるため、2種類の波長を用いることで、被検物2の結晶化率を測定可能である。このように、シリコン膜の最薄部と最厚部との差に基づいて、波長を選択すれば、検査に用いる波長の種類を最小限に抑えることが可能である。
【0046】
ここでは膜厚38nmにおいて最適な波長442nmの光と、膜厚42nmにおいて最適な波長460nmの光と、を用いることで、被検物2の膜厚分布に対応可能である。従って、制御装置5にて、被検物2の領域を波長442nm(第1波長)の光(第1照射光、第1反射光)を用いて反射率(第1反射率)、結晶化率(第1結晶化率)を検査する領域(第1領域)と、波長460nm(第2波長)の光(第2照射項、第2反射光)を用いて反射率(第2反射率)、結晶化率(第2結晶化率)を検査する領域(第2領域)とに仮想的に分割する。より具体的に述べると、波長442nmの光を被検物2の36nm〜40nmの膜厚(第1膜厚)分布領域に対して用い、波長460nmの光を被検物2の40nm〜44nmの膜厚(第2膜厚)分布領域に対して用いる。図4では、波長442nmの光を用いて検査する領域(第2領域)について斜線を付して表した。
【0047】
ここで、図1に示したシリコン膜検査装置1は、ラスタスキャン方式で測定するように、ステージ3によって光学ユニット4と被検物2との相対位置関係を変化させる。この場合、図4に示したX軸方向を主走査方向とすると、一度の主走査で、撮像可能な領域(以下、エリアとする)は副走査方向(図4に示したY軸方向)に2ブロック、主走査方向に5ブロックとなる。
【0048】
図4の被検物2中の最初に主走査(以下、主走査1とし、2〜4回目の主走査をそれぞれ主走査2〜4とする)されるエリアa1内に含まれるブロックには、38nm〜44nmの膜厚のばらつきがある。このとき、エリアa1の左列には40nm〜44nmの膜厚のブロックのみが位置するため、主走査1で検査に用いる光に40nm〜44nmの膜厚に対応する波長460nmとする。同時に、エリアa1の右列に含まれるブロックのうち、膜厚が38nmのブロック以外については主走査1にて検査を行う。次に、主走査2を行うエリアa2内に含まれるブロックには、36nm〜42nmの膜厚ばらつきがあるが、エリアa2の左列では膜厚が38nm以外のブロックについての検査を終えている。このため、エリアa2で検査すべきブロックの膜厚のばらつきは、36〜40nmである。従って、主走査2で検査に用いる光を、36nm〜40nmの膜厚に対応する波長442nmとする。次に、主走査3を行うエリアa3内に含まれるブロックには38nm〜44nmの膜厚のばらつきが存在する。そこで、まず主走査3で36nm〜40nmの膜厚に対応する波長442nmの光を検査に用いる。次に、再度エリアa3について主走査4を行う。主走査3にて36nm〜40nmの膜厚のブロックを検査したため、主走査4では40nm〜44nmの膜厚のブロックについて検査を行う。以上のようにして、被検物2の膜厚に対応させて検査に用いる光の波長を変化させることで、被検物2を高精度に検査することが可能である。なお、膜厚が40nmの領域に関しては、波長442nm及び460nmの光の何れを用いても良い。そのため、走査方向に応じて、被検物2に光を照射する回数が少なくなるように、用いる波長を選択すればよい。また、膜厚が40nmのブロックについて442、460nmの波長の光の両方で検査してもよい。
【0049】
なお、説明を省略したが、図1に示した波長切替機構7によって照射する光の波長を変更している。また、ここではブロックを25分割した例を示したが、領域間の膜厚の差が4nm以下であれば、2分割であってもよい。
【0050】
次に、図1に示したシリコン膜検査装置1の動作について、図6に示したフローチャートを用いて説明する。
【0051】
ステップS1では、ステージ3上に載置された被検物2に対して、制御装置5が、膜厚の分布に基づいて、1種類の波長の光で測定可能な領域を仮想的に分割する。このとき、被検物2の膜厚分布は、予め記憶部に記憶されているものを用いる。
【0052】
ステップS2では、ステップS1で仮想的に分割した領域毎に異なる波長の光を被検物2に照射する。
【0053】
ステップS3では、ステップS2で光が照射された被検物2のステップS1で仮想的に分割した領域からそれぞれ反射した光を受光部9にて受光する。
【0054】
ステップS4では、制御装置5によって、ステップS3で受光した光からステップS1で仮想的に分割した領域毎に反射率を測定する。
【0055】
ステップS5では、測定した反射率に基づいてステップS1で仮想的に分割した領域毎のシリコン膜の結晶化率を導出する。このとき、領域毎に測定に用いた波長にそれぞれ対応する結晶化率と反射率との関係を示すデータは、予め制御装置5の記憶部に記憶されている。この予め記憶されているデータに基づいて制御装置5は、各領域の結晶化率を導出する。
【0056】
ステップS6では、ステップS1で仮想的に分割した各領域について導出した結晶化率と、予め設定したしきい値とを比較する。この場合、しきい値未満の結晶化率を示す領域が一つでも存在した場合は、その被検物2を不良と判定する。全ての領域でしきい値以上の結晶化率を示した場合は、その被検物2を良品と判定する。
【0057】
ステップS7では、ステップS6にて不良品と判定された被検物2が、選別機構(図示しない)により、ステージ3から除去され、不良品回収箱(図示しない)に搬送される。
【0058】
ステップS8では、ステップS6にて良品と判定された被検物2が、選別機構により、良品回収箱(図示しない)に搬送される。
【0059】
以上のように、図1のシリコン膜検査装置1によって被検物2の検査を行うことができる。
【0060】
なお、図1では波長切替機構7を光源6の直前に配置したが、波長切替機構7の配置位置は、光源6から出射した光が受光部9に入射するまでの間の光軸上であれば良い。また、波長切替機構7として、光源6から出射される光の波長がコントロール可能な照明装置や受光する光の波長を絞ることの出来る受光部9を用いても良い。
【0061】
なお、検査に3種類(第3波長)以上の波長の光(第3照射光、第3反射光)を、3領域(第3領域)以上の領域に用いて結晶化率(第3結晶化率)の検査を行っても良い。例えば、図4に示した被検物2に対して、36nm、38nm、40nm、42nm、44nmの膜厚が異なるブロックそれぞれに対応した波長の光を用いても良い。この場合、結晶化率の測定に用いる波長をより高感度に膜厚に対応させるため、より高精度に結晶化率の測定が可能である。但し、測定に用いる光の種類が増えるため、検査時間の延長を招く。よって、検査時間を短縮したい場合は、1つのシリコン膜の検査に用いる波長の数は最小限に抑えることが好ましい。また、領域間の膜厚の差は、4nmである場合が、最も検査に用いる波長の数を抑えることが可能であるため、好適である。
【0062】
なお、ここでは、被検物2の膜厚が既知の場合において説明したが、以下に説明するような場合、被検物2の膜厚が未知の場合でも、被検物2の結晶化率を高精度に測定することが可能である。
【0063】
図1のシリコン膜検査装置1に被検物2の膜厚を測定する膜厚測定部(図示しない)を更に設け、膜厚測定部によって測定した膜厚をステージ3による移動位置と対応させ、被検物2のシリコン膜の膜厚の面内分布を導くための計算部を有するように制御装置5を構成しても良い。この場合、被検物2上の限られたポイントで膜厚を測定し、他の部分では補間して膜厚を決めてもよい。被検物2の膜厚を実測する必要があっても、すべての測定点で膜厚を測定するのではないので、高速にシリコン膜厚を測定することが可能である。この場合、図6に示したフローチャートのステップS1の前に、ステップS0として、被検物2の膜厚を測定し、測定した膜厚のデータを制御装置5の記憶部に記憶する工程を含むこととなる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、有機EL表示装置のように、液晶表示装置以上にシリコンの結晶化率の精度が求められる製品に用いられるシリコン膜の検査に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 シリコン膜検査装置
2 被検物
3 ステージ
4 光学ユニット
5 制御装置
6 光源
7 波長切替機構
9 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン膜の形成された領域を第1膜厚の第1領域と前記第1膜厚と異なる第2膜厚の第2領域とに仮想的に分割する分割工程と、
互いに異なる波長の第1波長と第2波長とを含む照射光を前記シリコン膜に照射する照射工程と、
前記照射光が照射された前記第1領域からの前記第1波長の第1反射光を用いて第1反射率の測定を行う第1測定工程と、
前記第1反射率から前記シリコン膜の第1結晶化率を導出する第1導出工程と、
前記照射光が照射された前記第2領域からの前記第2波長の第2反射光を用いて第2反射率の測定を行う第2測定工程と、
前記第2反射率から前記シリコン膜の第2結晶化率を導出する第2導出工程と、
前記第1結晶化率と前記第2結晶化率とに基づいて前記シリコン膜の検査を行う検査工程と、
を含むことを特徴とする有機EL表示装置用シリコン膜検査方法。
【請求項2】
前記第1測定工程は、前記第1反射光のみを受光して前記第1反射率の測定を行い、
前記第2測定工程は、前記第2反射光のみを受光して前記第2反射率の測定を行う
ことを特徴とする請求項1の有機EL表示装置用シリコン膜検査方法。
【請求項3】
前記照射工程は、前記第1領域に前記第1波長の第1照射光のみを照射すると共に前記第2領域に前記第2波長の第2照射光のみを照射する
ことを特徴とする請求項1又は2の有機EL表示装置用シリコン膜検査方法。
【請求項4】
前記第1膜厚と前記第2膜厚との差は、4nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項の有機EL表示装置用シリコン膜検査方法。
【請求項5】
シリコン膜が形成された基板を載置する載置部と、
前記シリコン膜に照射光を照射する光源と、
前記照射光が照射された前記シリコン膜からの反射光を受光する受光部と、
前記反射光から前記シリコン膜の反射率を測定する測定部と、
前記反射率から前記シリコン膜の結晶化率を導出する導出部と、
前記結晶化率から前記シリコン膜の検査を行う検査部と、
前記光源から照射された前記照射光が前記反射光となって前記受光部に受光されるまでの光路上に配置された波長切替部と、
前記シリコン膜の形成された領域を第1膜厚の第1領域と前記第1膜厚と異なる第2膜厚の第2領域とに仮想的に分割する分割部と、を備え、
前記波長切替部は、前記第1領域と前記第2領域とで、異なる波長の前記照射光又は前記反射光を選択して透過させることを特徴とする有機EL表示装置用シリコン膜検査装置。
【請求項6】
前記第1膜厚と前記第2膜厚との差は、4nm以下であることを特徴とする請求項5の有機EL表示装置用シリコン膜検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−160590(P2012−160590A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19471(P2011−19471)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】