説明

樹脂組成物及び樹脂組成物を使用して作製した半導体装置

【課題】低温硬化性と保存性を両立しつつ、高接着性かつ低応力性を有する半導体用ダイアタッチペースト又は放熱部材接着用材料、及び特に耐リフロー性等の信頼性に優れた半導体装置を提供することである。
【解決手段】ラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)、重合開始剤(B)、銀粉(C)及びスルフィド結合を有する化合物(D)を含むことを特徴とする樹脂組成物及び該樹脂組成物を使用して作製したことを特徴とする半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂組成物を使用して作製した半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高速化は著しく、多層配線部における配線抵抗と配線間の寄生容量に起因する信号伝搬速度の低下による伝送遅延が問題となってきている。こうした問題は、半導体デバイスの高集積化に伴う配線幅及び配線間隔の微細化につれて配線抵抗が上昇しかつ寄生容量が増大するので、益々顕著となる傾向にある。そこで、配線抵抗及び寄生容量の増大に基づく信号遅延を防止するために、従来のアルミニウム配線に代わり銅配線の導入が行われると共に、層間絶縁膜に比誘電率が二酸化シリコン膜の3.9より小さい低誘電率の絶縁膜の適用が行われている。特に設計基準が65nmから45nmへと構成素子の微細化が進む中で層間絶縁膜の比誘電率は2.0程度あるいはそれ以下の値が強く求められ、このために層間絶縁膜として膜内部の空孔率を高めることで比誘電率を小さくした多孔質絶縁膜が必要になってきている。
このような多孔質絶縁膜は、その構造上一般的に機械的強度か弱いという問題がある。すなわち従来の絶縁膜を使用した半導体素子に比較して外部からのストレスに対して敏感で、これまで問題とされなかったストレスでも絶縁膜の破壊に至る場合がある。
そこで発生するストレスを少なくするために、封止材料、ダイアタッチ材料といった半導体構成材料に対して低応力性のものが要求されると共に、半導体生産プロセスの見直しも行われている。
半導体素子をリードフレーム、有機基板といった支持体に接着するダイアタッチプロセスにおいてはダイアタッチ後に半導体素子と支持体の熱膨張率の異なりに基づく反りが発生するが、過度の反りは層間絶縁膜のダメージの原因となるため、反りの小さいダイアタッチ材料が求められると共に低温で硬化することが可能な硬化性に優れる材料が求められている。(例えば、特許文献1参照。)
一般に低温での硬化性をよくすると室温での粘度上昇も短時間でおこり、またワイヤボンド時、半田リフロー時などの高温プロセス下での接着力が低下するといった傾向があった。
【特許文献1】特開2002−305212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、十分な低応力性、低温硬化性を有しながら高温での接着性及び保存性に優れる樹脂組成物並びに該樹脂組成物を半導体用ダイアタッチペースト又は放熱部材接着用材料として使用することで信頼性に優れた半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような目的は、下記[1]〜[8]に記載の本発明により達成される。
[1]ラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)、重合開始剤(B)、銀粉(C)及びスルフィド結合を有する化合物(D)を含むことを特徴とする樹脂組成物。
[2]前記化合物(A)のラジカル重合可能な官能基がビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アリル基、及びマレイミド基から選ばれる少なくとも1つである[1]項に記載の樹脂組成物。
[3]前記化合物(A)のラジカル重合可能な官能基が(メタ)アクリロイル基である[1]又は[2]項に記載の樹脂組成物。
[4]前記化合物(A)の分子量が500〜10000である[1]〜[3]項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[5]前記重合開始剤(B)が有機過酸化物である[1]〜[4]項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[6]前記化合物(D)がジスルフィド結合、トリスルフィド結合、及びテトラスルフィド結合から選ばれる少なくとも1つの結合を有する化合物である[1]〜[5]項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[7]前記化合物(D)がアルコキシシラン基を有する化合物である[6]項に記載の樹脂組成物。
[8][1]〜[7]項のいずれか1項に記載の樹脂組成物を半導体用ダイアタッチペースト又は放熱部材接着用材料として用いて作製したことを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂組成物は、良好な低温硬化性と良好な保存性とを有しかつ高接着性で応力緩和特性にも優れるため、ダイアタッチペースト又は放熱部材接着用材料として使用した場合、半導体素子のダメージが少なくまた得られた半導体装置は耐リフロー性に優れており、その結果高信頼性の半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、ラジカル重合可能な官能基を有する化合物、重合開始剤、銀粉及びスルフィド結合を有する化合物を含むことを特徴とする半導体素子又は放熱部材を支持体に接着する樹脂組成物で、特に低温硬化性と保存性に優れ、高接着性かつ弾性率が低く応力緩和特性に優れる樹脂組成物を提供するものである。ここで、支持体とは、半導体素子を接着する場合は、リードフレーム、有機基板などであり、放熱部材を接着する場合は、半導体素子、リードフレーム、有機基板、半導体製品などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0007】
本発明に用いるラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)のラジカル重合可能な官能基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アリル基、マレイミド基などが挙げられ、これらの官能基は反応性に優れ低温硬化、短時間硬化に好適に使用される。なかでも好ましいのは(メタ)アクリロイル基である。1分子中の官能基の数としては硬化性の観点より2つ以上が好ましく、より好ましくは2つの場合である。また化合物(A)の分子量としては500〜10000が好ましい。より好ましくは500〜7000である。これより低いと硬化時の体積収縮が大きくなりすぎ、これより高いと粘度が高くなりすぎるためである。
【0008】
このような化合物(A)としては、以下のものが例示されるがこれらに限定されるわけではない。ポリオールとラジカル重合可能な官能基及びカルボキシ基を有する化合物又はその誘導体との反応により得られる化合物やラジカル重合可能な官能基及び水酸基を有する化合物とポリイソシアネートとポリオールとを反応することで得られる化合物やラジカル重合可能な官能基及び水酸基を有する化合物とポリカルボン酸化合物とを反応することで得られる化合物などである。
【0009】
ポリオールとしては、ポリアルキレンオキサイドポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られるポリオール、水酸基を有する(メタ)アクリレートと水酸基を有しない(メタ)アクリレートとの共重合により得られるポリオールなどが挙げられ、ポリオールとしてジオールを用いたものも好ましい。
【0010】
ラジカル重合可能な官能基及びカルボキシ基を有する化合物又はその誘導体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミドアミノ酸、マレイミドアミノ酸エステル、ジアリルエステル化合物などが挙げられる。
【0011】
ラジカル重合可能な官能基及び水酸基を有する化合物としては、アリルアルコール、水酸基を有するビニルエーテル、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、水酸基を有する(メタ)アクリル酸アミドなどが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートのように2官能で芳香族環を含まないものも好適に用いられる。
【0012】
ポリカルボン酸化合物としては、(メタ)アクリル酸とカルボキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステルとの共重合により得られるポリカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、過剰のジカルボン酸とポリオール又はポリアミンとの反応で得られるポリカルボン酸などが挙げられる。ポリカルボン酸はカルボキシ基であってもハロゲン化物、酸無水物、エステル化物等、水酸基と反応可能な誘導体となっていてもかまわない。
中でも耐加水分解性に優れるポリカーボネートポリオールや水酸基を有する(メタ)アクリレートと水酸基を有しない(メタ)アクリレートとの共重合により得られるポリオールとラジカル重合可能な官能基及びカルボキシ基を有する化合物又はその誘導体との反応により得られる化合物は好適に用いられ、芳香族環を含まないものも特に好ましく用いられる。
【0013】
本発明で用いる重合開始剤(B)は、不飽和結合を反応させるものであれば、その種類については特に限定されるものではない。
本発明の樹脂組成物は、通常蛍光灯等の照明下で使用されるので光重合開始剤が含まれていると使用中の反応により粘度上昇が観察されるため実質的に光重合開始剤を含有することは好ましくない。実質的にとは、粘度上昇が観察されない程度で光重合開始剤が微量に存在してもよく、好ましくは、含有しないことである。
【0014】
本発明に用いる重合開始剤(B)は、有機過酸化物が好ましく、有機過酸化物とは、分子内に−O−O−結合を有し、加熱することにより遊離ラジカルを発生しうるものである。例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類等が挙げられる。望ましいものとしては、急速加熱試験(試料1gを電熱板の上にのせ、4℃/分で昇温した時の分解開始温度)における分解温度が40〜140℃となるものが好ましい。分解温度が40℃未満だと、樹脂組成物の常温における保存性が悪くなり、140℃を越えると硬化時間が極端に長くなるため好ましくない。具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、P−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、桂皮酸パーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、α、α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチ−ルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられるが、これらは単独又は硬化性を制御するため2種類以上を混合して用いることもできる。特に限定されるわけではないが樹脂組成物中0.001重量%以上、2重量%以下含有されるのが好ましい。
【0015】
本発明で用いる銀粉(C)は、特に限定されるものではないが、ノズルを使用して樹脂組成物を吐出するディスペンス時のノズル詰まりを防ぐために平均粒径は30μm以下が好ましく、半導体装置の信頼性を維持するためにナトリウム、塩素といったイオン性の不純物が少ないことが好ましい。通常電子材料用として市販されている銀粉であれば、還元粉、アトマイズ粉等が入手可能で、好ましい粒径としては平均粒径が1μm以上、30μm以下である。下限値以下では樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、上限値以上では上述のようにディスペンス時にノズル詰まりの原因となりうるからであり、電子材料用以外の銀粉ではイオン性不純物の量が多い場合があるので注意が必要である。形状はフレーク状、球状等特に限定されないが、好ましくはフレーク状のものを使用し、通常樹脂組成物中70重量%以上、95重量%以下含まれる。銀粉の割合が下限値より少ない場合には導電性が悪化し、上限値より多い場合には樹脂組成物の粘度が高くなりすぎるためである。
【0016】
本発明で用いるスルフィド結合を有する化合物(D)は、スルフィド結合を有するものであれば、その種類については特に限定されるものではない。
化合物(D)を使用する第1の理由は良好な接着特性を得るためである。硫黄を含有する化合物が金属との密着を向上させることはよく知られているが、なかでもスルフィド結合を有する化合物(D)をラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)、重合開始剤(B)、銀粉(C)と同時に使用することで良好な接着性を有する樹脂組成物を得ることが可能となる。特にスルフィド結合とアルコキシシラン基を有する化合物を用いた場合に接着性向上効果が著しい。硫黄とアルコキシシラン基を有する化合物として3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが一般的だが、ラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)と同時に用いた場合には反応が室温でも進行する。特に化合物(A)として(メタ)アクリロイル基を有する化合物を用いた場合には、室温でも10分以下で流動しなくなる場合もある。そこで本発明では活性水素基を有しない化合物(D)を使用する。このような化合物としてはビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリブトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジメトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジブトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジメトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジブトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。グリシジル基を有するシランカップリング剤との併用も好ましい。
【0017】
化合物(D)を使用する第2の理由は硬化反応時に銀粉と反応することで樹脂組成物と支持体との接着力向上のみならず樹脂組成物自体の凝集力を向上させる点である。図1、2に化合物(D)の一例としてA−1289(日本ユニカー(株)製、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)単独のDSC曲線、及びA−1289と銀粉を重量比1対1で混合したサンプルのDSC曲線を示す。測定条件はサンプル重量約30mg、昇温は室温から10℃/分で行った。図1には明確なピークは見られないが、図2では60℃付近から発熱が観察され始め、ピーク温度が約100℃、反応の終了は約130℃と非常にブロードな発熱ピークが観察される。この発熱ピークは銀粉とA−1289が同時に存在する時に始めて観察されることから銀粉とA−1289の反応と考えられる。
このように化合物(D)は銀粉表面と反応すること、しかも60℃付近から非常に緩やかに反応し始めることが確認できた。この点が非常に重要であり、室温以下で保存している間には化合物(D)は銀粉表面と反応せず硬化反応中に反応し始めるため、化合物(D)は硬化反応時に支持体表面及び銀粉表面の両方に作用することが可能であることを示している。この結果、支持体との接着力向上と同時に銀粉−樹脂間の結合が強固になるため樹脂硬化物の凝集力を向上させることが可能となる。
【0018】
化合物(D)を使用する第3の理由は、良好な保存性である。重合開始剤(B)として有機過酸化物を使用した場合、保存中でも分解は進行しており特に分解温度の低い重合開始剤の場合には分解により発生したラジカルが化合物(A)の反応を引き起こし粘度上昇が顕著になる。通常ハイドロキノン等の禁止剤を添加することで粘度上昇を抑えるが、禁止剤を多量に配合すると硬化性の悪化が著しくなる場合、硬化物特性に悪影響を及ぼす場合がある。ここでスルフィド結合は発生したラジカルをトラップすることが可能なので禁止剤として働き粘度上昇を抑制することが可能であると共に、硬化開始温度の上昇は見られるが汎用の禁止剤ほどの悪影響はない。なかでも硬化物特性への悪化は見られないので好適に使用することが可能である。
このようにラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)、重合開始剤(B)、銀粉(C)及びスルフィド結合を有する化合物(D)を用いることで、低温硬化性に優れながらも保存性がよく、良好な密着性、低応力性を示す樹脂組成物を得ることが可能となった。
【0019】
本発明では希釈剤を使用することが可能である。なかでも以下に示すような化合物は良好な接着性を得るために好適に使用される。2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,2−シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,3−シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1,2−シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、1,3−シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジエタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートといった水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物。水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とジカルボン酸を反応することでられたカルボキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物。ここで使用可能なジカルボン酸としては、例えばしゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びこれらの誘導体が挙げられ、なかでもこれらジカルボン酸を脱水した酸無水物は水酸基と容易に反応しハーフエステル化物を得ることができるので好適に用いられる。水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物はどちらか一方でも併用しても差し支えなく、それぞれ複数種を使用しても差し支えない。
【0020】
上記以外にも水酸基及びカルボキシ基を有しない(メタ)アクリレート化合物又はビニル基を有する化合物を使用することも可能である。例えば下記のような化合物である。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャルブチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、その他のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ターシャルブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジンクモノ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、1,2−ジ(メタ)アクリルアミドエチレングリコール、ジ(メタ)アクリロイロキシメチルトリシクロデカン、N−(メタ)アクリロイロキシエチルマレイミド、N−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N−(メタ)アクリロイロキシエチルフタルイミド、n−ビニル−2−ピロリドン、スチレン誘導体、α−メチルスチレン誘導体。
【0021】
本発明の樹脂組成物には、必要により、消泡剤、界面活性剤、各種重合禁止剤、酸化防止剤等の添加剤を用いることができる。
本発明の樹脂組成物は、例えば各成分を予備混合した後、3本ロールを用いて混練した後真空下脱泡することにより製造することができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物を用いて半導体装置を製作する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、市販のダイボンダーを用いて、リードフレームの所定の部位に樹脂組成物をディスペンス塗布した後、半導体素子をマウントし、加熱硬化する。その後、ワイヤーボンディングして、エポキシ樹脂を用いてトランスファー成形することによって半導体装置を製作する。又はフリップチップ接合後アンダーフィル材で封止したフリップチップBGAなどのチップ裏面に樹脂組成物をディスペンスしヒートスプレッダー、リッドといった放熱部品を搭載し加熱硬化するなどといった使用方法も可能である。
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。配合割合は重量部で示す。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
化合物(A)としてポリテトラメチレングリコールとイソホロンジイソシアネートと2−ヒドロキシメチルメタクリレートとの反応により得られたウレタンジメタクリレート化合物(分子量約1600、以下化合物A1)を、重合開始剤(B)としてジクミルパーオキサイド(日本油脂(株)製、パークミルD、急速加熱試験における分解温度:126℃、以下重合開始剤1)及びジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(日本油脂(株)製、パーロイルTCP、急速加熱試験における分解温度:82℃、以下重合開始剤2)を、銀粉(C)として平均粒径8μm、最大粒径30μmのフレーク状銀粉(以下銀粉)を、化合物(D)としてテトラスルフィド結合及びエトキシシラン基を有する化合物(日本ユニカー(株)製、A−1289、以下化合物D)を、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(日本化成(株)製、CHDMMA、以下化合物Y1)、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸(共栄社化学(株)製、ライトエステルHO−MS、以下化合物Y2)、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(共栄社化学(株)製、ライトエステル1、6HX、以下化合物Y3)、グリシジル基を有するカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBM−403E、以下化合物Z1)を表1のように配合し、3本ロールを用いて混練し、脱泡することで樹脂組成物を得た。配合割合は重量部である。得られた樹脂組成物を以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0024】
[実施例2〜5]
化合物(A)として以下の化合物を使用した。
ポリテトラメチレングリコールとマレイミド化酢酸の反応により得られたビスマレイミド化合物(分子量580、以下化合物A2)
シクロヘキサンジカルボン酸のジアリルエステルとポリプロピレングリコールとの反応により得られたジアリルエステル化合物(分子量1000、ただし原料として用いたシクロヘキサンジカルボン酸のジアリルエステルを約15%含む、以下化合物A3)
1,4−シクロヘキサンジメタノール/1,6−ヘキサンジオール(=3/1(重量比))と炭酸ジメチルの反応により得られたポリカーボネートジオールとメチルメタクリレートの反応により得られたポリカーボネートジメタクリレート化合物(分子量1000、以下化合物A4)
酸価108mgKOH/gで分子量4600のアクリルオリゴマーと2−ヒドロキシメタクリレート/ブチルアルコール(=1/2(モル比))との反応により得られたメタクリル化アクリルオリゴマー(分子量5000、以下化合物A5)
表1のように配合し、実施例1と同様に3本ロールを用いて混練し、脱泡することで樹脂組成物を得た。配合割合は重量部である。得られた樹脂組成物を以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1〜4]
表1に示す割合で配合し実施例1と同様に樹脂組成物を得た。
なお比較例3ではメルカプト基とアルコキシシラン基を有する化合物として3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−803P、以下化合物Z2)を用いた。
得られた樹脂組成物を以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0026】
評価方法
・粘度及び保存性:E型粘度計(3°コーン)を用い25℃、2.5rpmでの値を樹脂組成物作製後(初期)及び25℃48時間処理後に測定した。粘度が15〜25Pa・s、粘度の変化率が20%以下の場合を合格とした。粘度の単位はPa・sである。
・接着強度:表1に示す樹脂組成物を用いて6×6mmのシリコンチップをNi−Pd/Auめっきした銅フレームにマウントし、120℃オーブン中60分硬化した。硬化後及び吸湿処理(85℃、85%、72時間)後に自動接着力測定装置を用い260℃での熱時ダイシェア強度を測定した。260℃熱時ダイシェア強度が30N/チップ以上の場合を合格とした。接着強度の単位はN/チップである。
・弾性率:表1に示す樹脂組成物を用いて4×20×0.1mmのフィルム状の試験片を作製し(硬化条件120℃60分)、動的粘弾性測定機(DMA)にて引っ張りモードでの測定を行った。測定条件は以下の通りである。
測定温度:−100〜300℃
昇温速度:5℃/分
周波数:10Hz
荷重:100mN
25℃における貯蔵弾性率を弾性率とし5000MPa以下の場合を合格とした。弾性率の単位はMPaである。
・耐リフロー性:表1に示す樹脂組成物を用いて、下記のリードフレームとシリコンチップをオーブン中120℃60分間硬化し接着した。封止材料(スミコンEME−7026、住友ベークライト(株)製)を用い封止し、パッケージを作製した。このパッケージを30℃、相対湿度60%、168時間吸湿処理した後、IRリフロー処理(260℃、10秒、3回リフロー)を行った。処理後のパッケージを超音波探傷装置(透過型)により剥離の程度を測定した。ダイアタッチ部の剥離面積が10%未満の場合を合格とした。剥離面積の単位は%である。
パッケージ:QFP(14×20×2.0mm)
リードフレーム:Ni−Pd/Auめっきした銅フレーム
チップサイズ:6×6mm
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の樹脂組成物は、良好な低温硬化性及び保存性を有しかつ高接着性で応力緩和特性にも優れるため、ダイアタッチペースト又は放熱部材接着用材料として使用した場合、半導体素子のダメージが少なくまた得られた半導体装置は耐リフロー性に優れており、その結果高信頼性の半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に用いた化合物(D)の一例であるA−1289のDSC曲線である。
【0030】
【図2】本発明に用いた銀粉と化合物(D)の一例であるA−1289との混合物のDSC曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合可能な官能基を有する化合物(A)、重合開始剤(B)、銀粉(C)及びスルフィド結合を有する化合物(D)を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)のラジカル重合可能な官能基がビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アリル基、及びマレイミド基から選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記化合物(A)のラジカル重合可能な官能基が(メタ)アクリロイル基である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記化合物(A)の分子量が500〜10000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合開始剤(B)が有機過酸化物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記化合物(D)がジスルフィド結合、トリスルフィド結合、及びテトラスルフィド結合から選ばれる少なくとも1つの結合を有する化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記化合物(D)がアルコキシシラン基を有する化合物である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を半導体用ダイアタッチペースト又は放熱部材接着用材料として用いて作製したことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262243(P2007−262243A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89497(P2006−89497)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】