水晶振動片、ジャイロセンサー、電子機器、水晶振動片の製造方法
【課題】水晶のエッチング異方性に起因する振動特性の劣化が抑制された水晶振動片、その水晶振動片を用いたジャイロセンサー、それらを備えた電子機器、および水晶振動片の製造方法を提供する。
【解決手段】基部21、および基部21から延伸する振動腕22を備え、振動腕22の第1の面1aに開口部を有する有底の溝2が形成され、溝2は、第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝2が形成される前の振動腕22の重心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向にずれた位置に配置されて設けられた水晶振動片としての振動素子20の製造方法であって、水晶ウェハー第1の面1aに塗布されたフォトレジスト膜に、同一のフォトマスクを用いて基部21および振動腕22の外形形状と溝2の開口部形状とを露光する工程を含んでいる。
【解決手段】基部21、および基部21から延伸する振動腕22を備え、振動腕22の第1の面1aに開口部を有する有底の溝2が形成され、溝2は、第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝2が形成される前の振動腕22の重心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向にずれた位置に配置されて設けられた水晶振動片としての振動素子20の製造方法であって、水晶ウェハー第1の面1aに塗布されたフォトレジスト膜に、同一のフォトマスクを用いて基部21および振動腕22の外形形状と溝2の開口部形状とを露光する工程を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動片、ジャイロセンサー、それらを用いた電子機器、および、水晶振動片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、時計や家電製品、各種情報通信機器やOA機器等の民生・産業用電子機器には、それらの電子回路のクロック源として、水晶振動子などの圧電振動子や、水晶振動片などの圧電振動片とICチップとを同一パッケージ内に封止した発振器やリアルタイムクロックモジュール等の圧電デバイスが広く使用されている。また、船舶、航空機、自動車等の姿勢制御や航行制御、あるいはデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の手振れ検出・補正制御等における回転角速度センサーとして、圧電振動片をセンサー素子(振動素子)として利用した圧電デバイスとしてのジャイロセンサーが広く利用され、3次元立体マウス等の回転方向センサーにも応用されている。このようなジャイロセンサーは、例えば特許文献1または特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
これらの圧電デバイスは、それを搭載する電子機器の小型化・薄型化に伴い、より一層の小型化・薄型化が要求されている。また、クリスタルインピーダンス値(以下、CI値と記す)を低減して高品質で安定性に優れた圧電デバイスが要求されている。CI値を低減するために、例えば、特許文献3に記載された溝つきの振動部(振動腕)を有する音叉型の圧電振動片が紹介されている。特許文献3に記載の圧電振動片は、例えば水晶からなる基部、および基部から延伸された一対の振動部を有し、各振動部に、振動部の延伸方向に延びる溝がそれぞれ形成されている。各振動部に設けられた溝によって振動部の剛性が小さくなって振動が促進されるとともに、溝の側面および底面に励振電極を設けることによって電界効率を向上させることによりCI値の抑制が図れる構造となっている。
【0004】
音叉型の水晶振動片を振動素子として利用する場合には、一対の振動部(振動腕)のうちの一方に励振用電極(駆動電極)を設けて駆動部として利用し、他方の振動部に検出用電極を設けて検出部として利用する。このような構成の振動素子の励振用電極に励振信号を印加して振動部の延伸方向と垂直な面内方向に励振振動させているときに、振動部の延伸方向を軸とした軸周りの回転運動が加わると、その回転運動が、励振振動方向と直交する方向(面外方向)のコリオリの力を発生させ、基部を介して他方の振動部に面外方向の振動を発生させる。この他方の振動部(検出部)の面外振動を検出用電極により電気信号に変換して検知することにより、振動素子に加わった回転角速度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−55479号公報
【特許文献2】特開平10−170272号公報
【特許文献3】特開2004−200917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような音叉型の水晶振動片の外形は、水晶ウェハーをフォトリソグラフィーを利用してウェットエッチングすることにより形成するのが通例である。ここで、水晶のような圧電単結晶材料はエッチング異方性を有するため、ウェットエッチングした振動腕や溝の断面形状がその結晶配向によってエッチング方向に沿った中心線に対して非対称になることが多く、この傾向は圧電単結晶材料のなかでも水晶において特に顕著であることが知られている。このように振動部が非対称な断面形状となることにより、上記した振動部の面内振動や面外振動が所望の方向になされず、振動特性が劣化したり、振動片をジャイロ素子として用いた場合に回転角速度がゼロの状態にも関わらず振動部が検出方向(面外方向)に振動してしまったりして、振動素子の回転角速度の検出精度を劣化させるという問題があった。
また、フォトリソグラフィーを利用して溝を形成する際の露光の位置精度を確保するためには極めて高精度なアライナー(露光装置)が必要となり、製造コストが増大する虞があるうえに、特に水晶振動片が小型化されるほどにフォトマスクの位置合わせが困難となって位置精度が低下し、振動部の所望の位置に溝を形成することが非常に困難になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例にかかる水晶振動片の製造方法は、基部と、前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とを連結する一対の側面を有した振動部と、を備えた水晶振動片の製造方法であって、水晶基板の前記第1の面にフォトレジスト膜を形成する工程と、同一のフォトマスクを用いて、前記フォトレジスト膜に前記基部および前記振動部の外形形状と、前記振動部の形成領域内に溝の開口部の形状と、を露光する工程と、前記露光する工程の後で前記フォトレジスト膜を現像する工程と、前記現像する工程でパターニングされた前記フォトレジスト膜をマスクにしてウェットエッチング法により前記外形形状および前記溝をエッチングする工程と、を含み、前記溝の前記開口部は、平面視で前記側面の一方の側にずれて形成されることを特徴とする。
また、振動部の外形形成と溝形成とを同時にエッチング処理することで、溝を深く形成することができ、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。更に相乗的な効果として、深溝の内部に励振電極を形成すれば溝の内壁と振動腕の外壁との距離が近くなるので、励振電界効率が向上し、これにより振動特性を改善できる。
【0009】
この製造方法によれば、水晶振動片の振動部と溝とを同一のフォトマスクを用いて同時に露光するので、高性能な設備の増設や製造工程の増大をさせることなく、振動部の外形と、それに対する溝とを所望の位置関係に位置精度よく形成することができる。
したがって、水晶材料のエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化が抑えられた、小型で、安定した振動特性を備えた水晶振動片を製造することができる。
【0010】
〔適用例2〕上記適用例にかかる水晶振動片の製造方法において、前記溝は、前記第1の面において前記開口部の中心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線が、前記溝が形成される前の前記振動部の重心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線に対してずれていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、溝の位置を中心からずらして振動部の重心の位置を溝形成前からずらすことにより、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。
【0012】
〔適用例3〕上記適用例にかかる水晶振動片の製造方法において、前記エッチングする工程の後で、前記第2の面からエッチングする工程を有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、水晶のエッチング異方性によりエッチング深さの深い位置で顕著に発生するエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を裏面エッチングすることによって取り除くことができるので、振動部の断面形状の非対称さが改善されて振動特性のより安定した水晶振動片を提供することができる。
【0014】
〔適用例4〕上記適用例にかかる水晶振動片の製造方法において、前記エッチングする工程は、前記第1の面および前記第2の面の両側から同時にエッチングすることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、水晶ウェハーの第1の面および第2の面の両面から同時にエッチングをおこなうので、水晶のエッチング異方性に起因してエッチング深さの深い位置で顕著に発生するエッチング残りが起こり難くなり、振動部の断面形状の対称性が良好となって振動特性を安定化させることができる。
【0016】
〔適用例5〕本適用例にかかる水晶振動片は、基部と、前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とに連結する一対の側面を有した振動部と、を備え、前記振動部の前記第1の面には溝が設けられ、前記溝は、開口部が平面視で前記側面の一方の側にずれており、且つ、前記溝の深さが、前記振動部の前記第1の面から前記第2の面までの厚みの半分よりも深いことを特徴とする。
【0017】
この適用例の水晶振動片の、溝が振動部の厚みの半分よりも深い形状は、上記適用例の水晶振動片の製造方法に起因する。即ち、振動部の外形と溝を同時に露光してから、水晶ウェハーの厚み方向に貫通させる振動部の外形と溝とを同時にエッチングするために、溝が振動部の肉厚の深い位置まで達するものである。この製造方法により製造された水晶振動片は、高性能な設備の増設や製造工程の増大をさせることなく、振動部の外形と、それに対する溝とを所望の位置関係に位置精度よく形成することができる。
したがって、水晶材料のエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化が抑えられ、安定した振動特性を備えた水晶振動片を提供することができる。
また、溝を深く形成することにより、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。更に相乗的な効果として、深溝の内部に励振電極を形成すれば溝の内壁と振動腕の外壁との距離が近くなるので、励振電界効率が向上し、これにより振動特性を改善できる。
【0018】
〔適用例6〕上記適用例にかかる水晶振動片において、前記振動部は少なくとも電極を有し、前記電極の少なくとも一部は、前記溝の内壁に設けられていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、各振動部に設けられた溝によって振動部の剛性が小さくなって振動が促進される効果とともに、溝の側面および底面に励振電極を設けることによって電界効率が向上する効果が相乗的にはたらくことによりCI値をより低減することができる。
【0020】
〔適用例7〕本適用例にかかるジャイロセンサーは、上記適用例のいずれかに記載の水晶振動片を備えていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、水晶ウェハーのエッチング異方性によって断面形状が非対称となることによって発生し得る駆動振動と検出振動との機械結合が抑制された水晶振動片としての振動素子を備えているので、回転角速度の検出精度が高いジャイロセンサーを提供することができる。
【0022】
〔適用例8〕本適用例にかかる電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の水晶振動片を備えていることを特徴とする。
【0023】
上記構成の電子機器は、上記適用例の水晶振動片、即ち、振動部に該振動部の外形と同時に露光およびエッチングして形成された溝を有する水晶振動片を備えているので、高性能で安定した特性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】水晶振動片としての振動素子の一実施形態の概略構成を示す模式図であり、(a)は、溝の開口部を有する振動部の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図。
【図2】振動素子の製造方法を示すフローチャート。
【図3】(a)〜(c)は、振動素子の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図4】(a)〜(d)は、振動素子の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図5】振動素子の製造方法の変形例1を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例1における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図7】振動素子の製造方法の変形例2を示すフローチャート。
【図8】(a)〜(c)は、振動素子の製造方法の変形例2における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図9】(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例2における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図10】水晶振動片としての振動ジャイロ素子(変形例3)を説明する模式図であり、(a)は、平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図。
【図11】水晶振動片の変形例(変形例4)としてのH型の振動ジャイロ素子を模式的に示す平面図。
【図12】水晶振動片の変形例(変形例4)としての三脚タイプの振動ジャイロ素子を模式的に示す平面図。
【図13】本発明の水晶振動片の一例としての上記変形例3の振動ジャイロ素子を備えたジャイロセンサーを示す模式図であり、(a)は、振動素子の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、正断面図。
【図14】上記実施形態および変形例の水晶振動片としての振動素子や振動ジャイロ素子、または、ジャイロセンサーを搭載した電子機器の例を示す模式図であり、(a)は、デジタルビデオカメラの斜視図、(b)は、携帯電話機の斜視図、(c)は、情報携帯端末(PDA)の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
【0026】
(第1の実施形態)
〔振動素子〕
図1は、水晶振動片としての音叉型の振動素子の一実施形態の概略構成を示す模式図であり、(a)は、溝の開口部を有する振動部の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【0027】
図1に示すように、振動素子20は、水晶を基材(主要部分を構成する材料)として形成されている。水晶は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸および光学軸と呼ばれるZ軸を有している。
そして、振動素子20は、水晶結晶軸において直交するX軸およびY軸で規定される平面に沿って切り出されて平板状に加工され、平面と直交するZ軸方向に所定の厚みを有している。なお、所定の厚みは、発振周波数(共振周波数)、外形サイズ、加工性などにより適宜設定される。
【0028】
また、振動素子20を成す平板は、水晶からの切り出し角度の誤差を、X軸、Y軸およびZ軸の各々につき多少の範囲で許容できる。例えば、X軸を中心に0度から2度の範囲で回転して切り出したものを使用することができる。Y軸およびZ軸についても同様である。
振動素子20の外形は、フォトリソグラフィー技術を用いてウェットエッチングすることにより形成されている。なお、振動素子20は、1枚の水晶ウェハーから複数個取り出すことが可能である。
【0029】
図1(a)に示すように、本実施形態の振動素子20は、基部21と、基部21の一端(本実施形態ではY軸側の端部)からY軸に沿って互いに並行させて延伸する一対の振動部としての振動腕22,23と、を備えた所謂音叉型の水晶振動片となっている。
各振動腕22,23には、溝2,3が夫々設けられている。
【0030】
一対の振動腕22,23のうち、一方の振動腕22の溝2は、振動腕22の第1の面1aに開口部を有する。溝2は、振動腕22の第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝2が形成される前の振動腕22の重心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向(本実施形態では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝2の開口部は、前記の線P1で振動腕22を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
これと同様に、他方の振動腕23の溝3も、振動腕23の第1の面1aに開口部を有し、振動腕23の第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿った仮想の線(不図示)が、溝3が形成される前の振動腕23の重心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿う仮想の線(不図示)に対して平行する方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝3の開口部は、溝3が形成される前の振動腕23の重心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿う仮想の線により振動腕23を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
以上、説明した溝2,3の開口部は、Z方向から平面視で見たときに、第1の面1aの両側にある側面の一方の側にずれて形成されているとも言える。
図1(b)に示すように、Z板の水晶基板において、振動腕22,23はともに−X側の側面はほぼ垂直になっているが、+X側の側面は−X側の側面と比べて斜面になっており、−Y側に行くほど傾斜角が緩やかになる形状となっている。ここで、溝2を形成しない状態を考えると、振動腕の断面は−Z側に行くほどX方向の幅が大きくなっているので、振動腕の−Z側は+Z側に比べて剛性が強い。従って、例えば振動腕22が−X方向に振動し、振動腕23が+X方向に振動した際に、振動腕22、23はX方向の振動成分に+Z方向の振動成分が加わり、斜め上方向に振動する。このように、所望の振動方向(X方向)以外の振動成分(Z方向)が加わると、振動特性が劣化したり、例えば、ジャイロセンサーとして構成した場合に、不要振動成分により物理量が加わっていないのに物理量が検出されてしまう誤検出が生じる可能性がある。
本願発明者は、水晶ウェハーのエッチング異方性に起因する振動腕の振動の劣化を抑制する手段として、振動部(振動腕22,23)に設ける溝の位置を調整することが有効であることを見出した。即ち、振動部の断面形状が非対称となったその程度に応じて、溝の開口部を有する振動部の第1の面において、溝の開口部の中心を通って且つ振動部の延伸方向に沿った仮想の線が、溝が形成される前の振動部の重心を通って且つ振動部の延伸方向に沿う仮想の線に対して平行するいずれかの方向に所定量ずれた位置に配置して溝を設けることにより、振動部の断面形状が非対称であることに起因する検出精度や温度特性の劣化を抑制し得ることを発明者は見出した。
溝2,3は、傾斜角が緩やかな側面(+X側)とは反対側の側面(−X側)に形成する。このような位置に溝2,3を形成することで、例えば振動腕22が−X方向に振動し、振動腕23が+X方向に振動した場合に、溝2,3により−Z方向にモーメントが働き、+Z方向の不要な振動成分を相殺することができる。
【0031】
また、各振動腕22,23において、溝2,3の深さは、各振動腕22,23の第1の面1a,1aから、反対側の第2の面1b,1bまでの厚みの半分よりも深くなっている。この、溝2,3が各振動腕22,23の厚みの半分よりも深い形状は、後述する振動素子20の製造方法に起因する。即ち、振動腕22,23の外形と各々の溝2,3とを同時に露光してから、水晶ウェハーの厚み方向に貫通させる振動腕22,23の外形と、溝2,3とを同時にエッチングするために、溝2,3の底面が各振動腕22,23の肉厚の深い位置まで達するものである。このように溝2,3を深く形成することで、振動腕22,23の所望の振動方向(例えば、X軸方向)以外の不要な振動成分(例えば、Z方向)を大幅に抑圧することができる。
【0032】
振動素子20の各振動腕22,23の第1の面1aには、励振用(駆動用)の電極と、検出用の電極が形成されている。本実施形態の振動素子20では、一方の振動腕22を励振する励振信号が印加される励振用電極12と、他方の振動腕23を励振する励振信号が印加される励振用電極13が設けられている。また、本実施形態では、各電極が各溝2,3の内壁まで広げて形成されている。具体的には、一方の振動腕22の第1の面1aに設けられた励振用電極12は溝2の内壁にも形成され、他方の振動腕23の第1の面1aに設けられた励振用電極13は溝3の内壁にも形成されている。振動腕22,23に設けられた溝2,3は、各振動腕22,23の剛性を小さくして振動を促進する効果を奏するとともに、溝2,3の内壁(側面および底面)に励振用電極12,13が設けられていることによって電界効率が向上され、これらの効果によってCI値の低減をより顕著に図ることが可能になっている。
【0033】
各振動腕22,23に設けられた励振用電極12,13は、基部21に設けられ外部基板との電気的接続に供する外部接続端子15,16に電気的に接続されている。本実施形態では、一方の振動腕22の第1の面1aに設けられた励振用電極12が、基部21の一部や他方の振動腕23の側面を経由して外部接続端子15に接続され、他方の振動腕23の第1の面1aに設けられた励振用電極13が、基部21の一部および一方の振動腕22の側面を経由して外部接続端子16に接続されている。
【0034】
〔振動素子の製造方法〕
次に、上記実施形態の水晶振動片としての振動素子20の製造方法について説明する。
図2は、振動素子の製造方法を示すフローチャートである。また、図3(a)〜(c)、および、図4(a)〜(d)は、振動素子の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。
通常、振動素子の製造方法では、水晶ウェハーに複数個の振動素子を平面視で並べて形成し、その後、ダイシングすることにより個片の振動素子を一括して複数個得る方法をとる。図3および図4は、水晶ウェハーにおいて一つの振動素子の振動腕が形成される一部分を示した正断面図となっている。
【0035】
本実施形態の振動素子20の製造方法では、まず、図3(a)に示すように、振動素子20を複数個形成することが可能な面積を有する水晶ウェハー1(図中ではその一部分のみを図示している)の第1の面1aおよび第2の面1bにスパッタや蒸着、あるいはめっきなどにより金属耐食膜120a,120bを形成する(図2のステップS1)。金属耐食膜120a,120bには、後述する水晶ウェハーをエッチングする工程で使用するエッチング液に対する耐食性を有するものが利用され、例えば、下地層にクロム(Cr)、上層に金(Au)の積層膜を用いることができる。
さらに、金属耐食膜120a,120b上に、スピンコート法などによりフォトレジスト膜131a,131bを形成する(図2のステップS2)。
【0036】
次に、図3(b)に示すように、第1の面1aのフォトレジスト膜131a側のみ、振動素子20の基部21や振動腕22,23の外形および溝(図1を参照)の陽画または陰画パターンが描かれたフォトマスク150を用いて露光する外形・溝パターン露光を行う。本実施形態では、振動素子20の陽画パターンが描かれた所謂ポジ型用のフォトマスク150を用いて、ポジ型のフォトレジスト膜131aを露光する例を示している。即ち、フォトマスク150には振動腕22の外形および溝2の露光パターン152と、振動腕23の外形および溝3の露光パターン153と、基部21の外形の露光パターン(不図示)が描かれていて、これらの露光パターンが図中下向き矢印で示す露光光を遮断し、それ以外の部分を透過した露光光がフォトレジスト膜131aに達して露光される(図2のステップS3)。
【0037】
次に、図3(c)に示すように、露光されたフォトレジスト膜131aを現像して現像パターン132,133を得る(図2のステップS4)。
次に、現像して得られた現像パターン132,133をマスクにして金属耐食膜120aのエッチングを行なって(図2のステップS5)から、フォトレジスト膜131aの現像パターン132,133およびフォトレジスト膜131bを剥離(図2のステップS6)して、図4(a)に示すように、第2の面1b側に金属耐食膜120bを露出させると共に、第1の面1a側に金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aを得る。
【0038】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aが形成された水晶ウェハー1をフッ酸を含むエッチング液に浸漬してウェットエッチングすることにより、金属耐食膜120bおよびエッチングマスク122a,123aに覆われていない部分の水晶を溶解して、振動素子20の外形形状(振動腕22,23および基部21)および溝2,3を形成する外形・溝エッチングを行う(図2のステップS7)。これにより、図4(b)に示すように、振動素子20の外形を成す振動腕22,23および基部21(不図示)と同時に、各振動腕22,23の第1の面1aに開口部を有する溝2,3が形成される。
なお、振動腕22,23の外形と夫々の溝2,3を水晶のエッチングにより同時に形成する過程で、水晶ウェハー1の溝2,3を形成する部分は、振動腕22,23や基部21の外形を形成する部分に比してエッチング液と接触する面積が小さいため、エッチング時間が長くなるほど外形部分に比してエッチング速度が遅くなるので、振動腕22,23などの外形が形成される前に溝2,3部分の水晶が貫通することはない。ただし、振動腕22,23などの外形と溝2,3とを同時にエッチングして形成することから、各溝2,3の深さは、振動腕22,23の第1の面1aから第2の面1bまでの厚みの半分よりも深く形成される。
【0039】
図4(b)に示すように、振動腕22,23の断面形状は、水晶が有するエッチング異方性により結晶の方向によってエッチング速度に差異が生じ、エッチング速度が遅くなる部位(図中右側面の下側)にエッチング残りが発生して左右非対称になっている。このように断面形状が非対称となると、振動腕22,23が本来望む方向の振動とは異なる振動をして漏れ振動を発生し、所望の振動特性が得られずに温度特性が劣化したり、駆動振動(励振振動)する方向がずれることによって、回転角速度がゼロの状態にも関わらず振動腕22,23が検出方向(面外方向)に振動してしまい回転角速度の検出精度を劣化させたりする不具合が発生する虞がある。このため、水晶ウェハーのエッチング速度が遅い結晶方向の部分のエッチング残りをなるべく少なくするように、若干過剰気味にエッチングを行うことが好ましい。
このような振動腕22,23の非対称な断面形状に起因する不具合を抑制するために、本実施形態の振動素子20では、各振動腕22,23に設ける溝2,3の位置が調整されている。即ち、上記したように、各振動腕腕22,23の溝2,3は、振動腕22,23の第1の面1aに開口部の中心を通って且つ振動腕22,23の延伸方向に沿った仮想の線(図1(a)のP2)が、各溝2,3が形成される前の振動腕22,23夫々の重心を通って且つ振動腕22,23の延伸方向に沿う仮想の線(P1)に対して平行する方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。ここで、「所定量ずれた位置」の所定量とは、水晶ウェハーの結晶軸を明確にしてウェットエッチングによる振動素子20の外形形成を行うことで予測することが可能な各振動腕22,23の断面形状に対して、漏れ振動を抑制可能な溝2,3の位置として予め設定することが可能な量(位置)のことを言う。
本実施形態では、振動腕22,23の外形と溝2,3とを、同一フォトマスク150により同時に露光して形成しているので、エッチング上がりの各振動腕22,23と溝2,3との位置を再現性よく調整して形成することが可能になっている。
【0040】
振動腕22,23などの外形および溝2,3のエッチングを行った後には、水晶ウェハーを混酸液などに浸漬することによって、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aを剥離し(図2のステップS8)、次に、図4(c)に示すように、メタライジングマスク136a,136b、およびメタライジングマスク137a,137bを形成する(図2のステップS9)。メタライジングマスク136a,136b,137a,137bは、例えば、フォトリソグラフィーによりフォトレジストをパターニングすることによって形成することができる。
【0041】
次に、メタライジングマスク136a,136b,137a,137bをマスクにして、スパッタリングや蒸着などの方法により、マスクから露出した水晶表面に電極膜を積層させて各種の電極を形成する(図2のステップS10)。図4(d)において、振動腕22の第1の面1aおよび溝2の内壁には励振用電極12が形成され、振動腕23の第1の面1aおよび溝3の内壁には励振用電極13が形成され、さらに各振動腕22,23の側面には、引き回し電極としての励振用電極13または励振用電極12が形成されている。
以上、述べた工程を経て、振動素子20の一連の製造工程は終了する。
なお、水晶ウェハー1に縦横並んで多数形成された振動素子20は、ダイシングなどの方法により個片化して提供することができる。
【0042】
上記実施形態によれば、振動素子20の振動部と溝とを同一のフォトマスク150を用いて同時に露光するので、位置精度の高いアライナーなどの高性能な設備の増設や、製造工程の増大をさせることなく、振動腕22,23の外形と、それに対する溝2,3とを所望の位置関係にて精度よく位置調整して形成することができる。したがって、水晶ウェハーのエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化を効果的に抑えることができ、安定した振動特性を備えた振動素子を低コストにて提供することができる。
また、水晶ウェハー1をエッチングして振動部の外形を形成した後で、振動部の断面形状が非対称となった程度に応じて溝の位置を調整する方法(外形形成と溝形成を別に行う方法)では、振動ジャイロ素子(水晶振動片)一個片ごとに振動部の形状や周波数特性などの測定をする必要があるなど、製造効率が著しく低くなるという課題があるが、本実施形態のように振動素子20の振動部と溝とを同一のフォトマスク150を用いて同時に露光し、同時にエッチングを行なえば、振動腕22,23の外形と、それに対する溝2,3とを所望の位置関係にて精度よく位置調整して形成することができるので、一個片毎の調整は不要となる。
また、上記実施形態の製造方法によれば、振動素子(水晶振動片)の小型化にも比較的容易に対応することができる。
【0043】
上記実施形態で説明した振動素子20、およびその製造方法は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0044】
以下、振動素子の製造方法の変形例について図面を参照して説明する。
(変形例1)
図5は、振動素子の製造方法の変形例1を示すフローチャートである。また、図6(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例1における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。なお、上記実施形態との共通部分については同一符号を付して説明を省略し、上記実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0045】
図5に示す本変形例の振動素子の製造方法において、ステップS11からステップS16のフォトレジスト剥離までのエッチングマスク形成は、上記実施形態における図2のステップS1〜S6と全く同じ構成により実施することができる。即ち、ステップS11の金属耐食膜形成からステップS16のフォトレジスト剥離までのプロセスを経て、図6(a)に示すように、水晶ウェハー1の第2の面1b側に金属耐食膜120bが形成され、第1の面1a側に金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aが形成される。
ただし、本変形例の振動素子の製造方法では、後述するように、振動素子の外形および溝を形成するエッチング工程の後で、水晶ウェハーの第2の面1b側全面をハーフエッチングする工程を有するので、製造する振動素子の厚みよりも前記ハーフエッチングする分だけ厚い厚みを有する水晶ウェハー1´を用いる。
【0046】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aが形成された水晶ウェハー1´をフッ酸を含むエッチング液に浸漬してエッチングを行い、図6(b)に示すように、振動腕22´,23´などの振動素子の外形と溝202,203とを同時に形成する(図5のステップS17)。ただし、振動素子の外形のうち、水晶ウェハー1´の第1の面1aから第2の面1bまでの厚みは、後工程でさらにエッチングされて薄くなる。
【0047】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aのうち、第2の面2bの金属耐食膜(裏面エッチングマスク)120bのみを剥離する(図5のステップS18)。ここで、必要があれば、第1の面1a側に露出する水晶面をエッチングマスク材で覆おう処理を施す。この第1の面1a側をエッチングマスク材で覆う工程を行う場合は、ステップS18で、金属耐食膜120bとともに金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aを同時に剥離してもよい。
【0048】
次に、図6(c)に示すように、振動腕22´,23´の第2の面1b全面を所定量エッチングする裏面エッチングを行い(図5のステップS19)、次に、エッチングマスク122a,123aを剥離する表面エッチングマスク剥離を行って(図5のステップS20)図6(d)に示すように、本変形例の製造方法による振動素子220の溝202,203を含む外形が完成する。
次に、図5のステップS21に示すメタライジングマスク形成を行った後、そのメタライジングマスクをマスクにして電極膜を積層させて各種の電極を形成し(図5のステップS22)、一連の振動素子220の製造工程が終了する。
【0049】
上記変形例1の振動素子の製造方法によれば、裏面エッチング工程(図5のステップS19)により、水晶のエッチング異方性によりエッチング深さの深い位置、即ち、第2の面1b側に発生するエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を取り除くことができる。従って、振動腕22´,23´と溝202,203とを同時に露光してパターニングすることにより、溝202,203の位置を精度よく調整して水晶のエッチング異方性に起因する振動特性の劣化を軽減する効果とともに、振動腕22´,23´の断面形状が左右非対称となる度合いが小さくなることから、安定した振動特性が保持された検出感度の高い振動素子220を提供することができる。
【0050】
(変形例2)
続いて、振動素子の製造方法の変形例2について説明する。
図7は、振動素子の製造方法の変形例2を示すフローチャートである。また、図8(a)〜(c)、および図9(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例2における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。なお、上記実施形態および変形例1との共通部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
まず、図8(a)に示すように、本製造方法によって製造する振動素子の厚みよりも厚めの水晶ウェハー1´´の第1の面1aおよび第2の面1bに金属耐食膜120a,120bを形成する(図7のステップS31)。
次に、金属耐食膜120a,120b上に、フォトレジスト膜131a,131bを形成する(図7のステップS32)。
【0052】
次に、図8(b)に示すように、水晶ウェハー1´´の第1の面1a側および第2の面1b側の両面のフォトレジスト膜131a,131bに外形や溝のパターンを露光する両面露光を行う(図7のステップS33)。このとき、第1の面1a側の露光には、振動腕などの振動素子の外形および溝の露光パターン252a,253aが描かれた表面フォトマスク250Aを用い、また、第2の面1b側の露光には、振動腕などの振動素子の露光パターン252b,253bが描かれた裏面フォトマスク250Bを用いて露光を行う。
【0053】
次に、図8(c)に示すように、露光されたフォトレジスト膜131a,131bを現像して、第1の面1a側に現像パターン132a,133aを得るとともに、第2の面1b側に現像パターン132b,133bを得て(図7のステップS34)から、現像パターン132a,133aおよび現像パターン132b,133bをマスクにして金属耐食膜120aおよび金属耐食膜120bのエッチングを行なう(図7のステップS35)。
次に、フォトレジスト膜131a,131bの現像パターン132a,133a,132b,133bを剥離する(図7のステップS36)ことにより、図9(a)に示すように、第1の面1a側に金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aを得るとともに、第2の面1b側に金属耐食膜120bのエッチングマスク122b,123bを得る。
【0054】
次に、第1の面1a側に金属耐食膜120aによるエッチングマスク122a,123aが形成され、第2の面1b側に金属耐食膜120bによるエッチングマスク122b,123bが形成された水晶ウェハー1´´をフッ酸を含むエッチング液に浸漬して両面エッチングを行う。これにより、図9(b)に示すように、振動腕22´´,23´´などの振動素子の外形と、各振動腕22´´,23´´の溝302,303とを同時に形成する(図7のステップS37)。
両面エッチングにより形成された振動腕22´´,23´´の断面形状は、上記実施形態や変形例1のように第1の面1a側からのみの片面エッチングで形成される振動腕に比して、エッチング残りが発生しやすい結晶方向のエッチング残りが軽減される。
【0055】
次に、第1の面1a側のエッチングマスク122a,123aおよび第2の面1b側のエッチングマスク122b,123bのうち、少なくとも第2の面1b側のエッチングマスク122b,123bを剥離する(図7のステップS38)。
次に、図9(c)に示すように、振動腕22´´,23´´の第2の面1b全面を所定量エッチングする裏面エッチングを行い(図7のステップS39)、次に、第1の面1a側のエッチングマスク122a,123aを剥離する表面エッチングマスク剥離を行う(図7のステップS40)。これにより、図9(d)に示すように、変形例2の製造方法による振動素子320の溝302,303を含む外形が完成する。
次に、図7のステップS41に示すメタライジングマスク形成を行った後、そのメタライジングマスクをマスクにして電極膜を積層させて各種の電極を形成し(図7のステップS42)、一連の変形例2の振動素子320の製造工程が終了する。
【0056】
上記変形例2の振動素子の製造方法によれば、振動腕22´´,23´´などの振動素子320の外形と、各振動腕22´´,23´´の溝302,303とを同時に形成する際に、水晶ウェハー1´´の第1の面1aおよび第2の面1bの両面からエッチングを行っているので、水晶のエッチング異方性に起因するエッチング残りが軽減される。
しかも変形例2の製造方法では、上記の外形・溝パターン(両面)エッチング工程の後で、裏面エッチング(図7のステップS39)を行うことにより、第2の面1b側からエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を取り除いている。これにより、振動腕22´´,23´´の断面形状の左右非対称がさらに解消されるので、水晶のエッチング異方性に起因する振動特性の劣化をより軽減することができる。
【0057】
以上、図1〜9を用いて、水晶振動片の一実施形態としての音叉型の振動素子20について説明したが、音叉型振動素子に本発明を適用することで、所望の振動方向以外の不要振動モードとの結合が低減されるので、周波数温度特性が改善するという副次的な効果も奏する。例えば、所望の振動成分をX方向とし、不要振動の振動成分をZ方向としたときに、X方向振動の周波数温度特性にZ方向振動の周波数温度特性が混ざらなくなり、これにより周波数温度特性の改善が可能となる。また、不要振動を抑圧できることから、CI値(クリスタルインピーダンス値)を小さくでき、これによりQ値を大きく出来るという副次的な効果も奏する。
【0058】
(変形例3)
〔振動ジャイロ素子〕
次に、本発明の水晶振動片の変形例としての振動ジャイロ素子について図面を参照しながら説明する。
図10は、水晶振動片としての音叉型の振動ジャイロ素子を模式的に示すものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。なお、本変形例の振動ジャイロ素子の構成のうち、振動部としての振動腕122,123の断面形状、および振動腕122に設けられた溝102の形状は上記実施形態の振動素子20の振動腕22,23の形状と同じであるため、詳細な説明を省略する。
図10(a)に示すように、振動ジャイロ素子120は、上記第1の実施形態の振動素子20と同様に、基部121と、基部121の一端から互いに並行させて延伸する一対の振動腕122,123と、を備えた所謂音叉型の形状を呈している。
一対の振動腕122,123のうちの一方の振動腕122には、溝102が設けられている。
【0059】
溝102は、振動腕122の第1の面101aに開口部を有する。溝102は、振動腕122の第1の面101aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕122の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝102が形成される前の振動腕122の重心を通って且つ振動腕122の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向(本変形例では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝102の開口部は、前記の線P1で振動腕122を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
【0060】
一対の振動腕122,123のうち一方の振動腕には励振用(駆動用)の電極が設けられ、他方の振動腕には検出用の電極が形成されている。本変形例の振動ジャイロ素子120では、図10(b)に示すように、一方の振動腕122に励振用電極112が設けられ、他方の振動腕123に検出用電極113が設けられている。
励振用電極112に電気信号±Vが加えられることにより、振動腕122が励振されて第1の面101aの面内方向(±X方向)に機械的に振動させる。
また、検出用電極113は、振動腕123の機械的振動を電気検出済み信号に変換することができる。
【0061】
振動腕122に設けられた励振用電極112は、基部121に設けられた外部接続端子116に電気的に接続されている。また、振動腕123に設けられた検出用電極113は、基部121に設けられた外部接続端子115に電気的に接続されている。
【0062】
上記構成の音叉型の振動ジャイロ素子120は、音叉型ジャイロメーターの原理により、励振用電極112に励振用の電気信号(励振信号)±Vが印加されて振動腕122が±X方向に振動しているときに、振動ジャイロ素子120がY軸回りに回転すると、その回転運動が振動腕122の振動方向に直角のコリオリの力を発生させ、その結果として励振振動の平面に直角の平面内における少なくとも検出用の振動腕123の±Z方向の振動を発生させる。この機械的振動は、振動ジャイロ素子120の圧電水晶によって電気信号に変換され、この電気信号は検出用の振動腕123の表面に設けられた検出用電極113によって検出される。
【0063】
以上、述べたような構成の振動ジャイロ素子120によれば、一対の振動部としての振動腕122,123のうち一方の振動腕122を励振用の振動部として利用し、他方の振動腕123を検出用の振動部として利用しているので、振動腕122の励振用電極112と、振動腕123の検出用電極113とを分離して配置できる。これにより、励振用電極112や検出用電極113を含む振動ジャイロ素子120の電極配線が容易になり、励振用電極112と検出用電極113とが近接している場合に起こり得る電極配線間の容量結合を抑制することができる。したがって、回転角速度などの物理量を高精度に検出する振動ジャイロ素子120を提供することができる。
【0064】
なお、音叉型の振動ジャイロ素子の構成は、上記振動ジャイロ素子120のように、一対の振動腕122,123のうち一方を駆動用の振動腕122とし、他方を検出用の振動腕123としたが、これに限らない。一対の振動腕のそれぞれに駆動用電極および検出用電極を配設して、駆動用電極に励振信号を印加して両方の振動腕ともに駆動させるとともに、両方の振動腕を駆動(振動)させている状態の振動ジャイロ素子に回転角速度が印加されたときに発生するコリオリの力を検出用電極で検出することもできる。
この構成では、各振動腕に設ける電極の配置が、上記変形例3の振動ジャイロ素子120とは異なる配置とする。
詳述すると、各振動腕の基部側の両主面に、ある瞬間において極性が同じになるように励振電極を設ける。ここで、一方の振動腕と他方の振動腕とでは、ある瞬間において極性が逆になるように配置する。例えば、一方の振動腕の両主面に設けた励振電極のある瞬間の極性が+であるとき、他方の振動腕の両主面に設けた励振電極の極性が−になるようにする。
また、各振動腕の両主面と直交して対向する両側面には、各振動腕の両主面に設けた励振電極のある瞬間の極性とは逆の極性を呈する励振電極を設ける。例えば、前記振動腕の両主面の励振電極のある瞬間の極性に対して、一方の振動腕の両側面に設けた励振電極の極性が−となり、他方の振動腕の両側面に設けた励振電極が+となるようにする。
以上述べたような電極構成により、ある瞬間において、一方の振動腕には振動腕の中央から両側面側への方向に電界が生じ、他方の振動腕には振動腕の両側面側から中央への方向に電界が生じる。
【0065】
また、各振動腕の先端側の両主面には、各主面において各振動腕の延びる方向に沿って並行させて配置した一対の検出電極を設ける。ここで、各振動腕の各主面の一対の検出電極は、ある瞬間において極性が異なるように設ける。また、各振動腕の両主面にそれぞれ設けられた一対の検出電極のある瞬間の極性が、対向する検出電極のある瞬間の極性とは逆になるように配置する。例えば、振動腕の一方の主面に、ある瞬間において極性が+の第1の検出電極と極性が−の第2の検出電極とからなる一対の検出電極を設けた場合、他方の主面の設ける前記第1の検出電極と対向する第3の検出電極、および、前記第2の検出電極と対向する第4の検出電極のそれぞれの極性は、第3の検出電極が−、第4の検出電極が+となるように配置する。
【0066】
上記構成の振動ジャイロ素子において、各励振電極を介して電界を印加することにより、各振動腕が両主面に沿った方向(面内方向、図中Y方向)に屈曲振動を与える。この面内方向の屈曲振動を各振動腕が行なっている状態のとき、振動腕の延びる方向に沿った軸の周りに角速度ωが印加されると、コリオリ力により、上記面内方向と直交する面外方向に新たな屈曲振動が起こる。この新たな屈曲振動により発生する電圧を各振動腕の両主面に設けた検出電極で検出することにより、振動ジャイロ素子に印加された角速度ωの値を知ることができる。
以上、述べた構成の振動ジャイロ素子においても、上記実施形態の振動素子20、あるいは変形例3の振動ジャイロ素子120と同様な構成の溝2,3、あるいは溝102を設けることにより、振動部としての振動腕の断面形状が非対称であることに起因する不要な振動成分を相殺して、検出精度や温度特性の劣化を抑制することができる。
また、上記変形例3の振動ジャイロ素子120が、一対の振動腕122,123のうち一方の振動腕122だけで駆動させているのに対して、両方の振動腕ともに駆動させることにより、励振効率が向上してCI値を低減することができ、それに伴って消費電流の抑制を図ることができる。
【0067】
(変形例4)
上記実施形態および変形例3では、水晶振動片として、音叉型の振動素子20や振動ジャイロ素子120について説明したが、水晶振動片の形状はこれに限らない。次に、音叉型とは異なる形状の水晶振動片の例について説明する。
図11は、基部の一端、および、その一端の反対側の他端の各々から一対の振動部が延びた構成のH型の水晶振動片としての振動ジャイロ素子を説明する概略平面図である。また、図12は、基部の一端から三つの振動部が延びた構成の三脚タイプの水晶振動片としての振動ジャイロ素子を示す概略平面図である。
【0068】
まず、外形がH型の水晶振動片について説明する。
図11に示す水晶振動片としての振動ジャイロ素子420は、基部421の一端から互いに並行に延びる一対の振動部としての駆動用振動腕422,423と、それとは反対側に延びる一対の振動部としての検出用振動腕424,425とを有する。このうち一対の駆動用振動腕422,423の主面には、駆動用振動腕422,423の長手方向に溝402,403が形成されている。溝402,403は、各駆動用振動腕422,423の第1の面401aに開口部を有する。溝402は、駆動用振動腕422の第1の面401aにおいて開口部の中心を通って、且つ、駆動用振動腕422の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝402が形成される前の駆動用振動腕422の重心を通って且つ駆動用振動腕422の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して並行するいずれかの方向(本変形例では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝402の開口部は、前記の線P1で駆動用振動腕422を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。これと同様の位置関係にて、他方の駆動用振動腕423の溝403が形成されている。
駆動用振動腕422,423の両主面、および、一方の主面の溝402,403の側面と底面には駆動第1電極412,413が設けられ、駆動用振動腕422,423の側面には、ある瞬間において前記駆動第1電極と極性が異なる駆動第2電極(図示せず)が設けられて、振動ジャイロ素子420を振動させる駆動電極を構成している。
【0069】
前記駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、上記変形例3と同様に駆動用振動腕422,423の両主面と平行な方向に交互に電界が生じ、駆動用振動腕422,423が電界の方向と同じ方向に屈曲振動する。
この状態で、振動ジャイロ素子420が図中Y軸を中心に回転すると、その回転角速度ωに対して、その振動方向と直交する向きに働くコリオリ力により、駆動用振動腕422,423は図中Z軸方向に応力を受けてZ方向に振動する。この振動が検出用振動腕424,425をその共振振動数で振動させ、これを電気信号として検出用電極414,415により検出して、振動ジャイロ素子420に印加された回転角速度およびその回転方向等を求める。
振動ジャイロ素子420のようなH型の振動ジャイロ素子は、駆動用振動腕422,423で駆動するため励振効率が向上してCl値を抑えることができるとともに、駆動用振動腕422,423と検出用振動腕424,425とが基部421の反対側の端部からそれぞれ延出されているため、駆動電極と検出電極の分離がし易く、また、検出用の電極を大きくとれるので、検出感度を向上させることができる。
【0070】
次に、本変形例の2つ目のバリエーションとして、基部の一端から三つの振動部が延出された構成の三脚タイプの水晶振動片について説明する。
図12に示す水晶振動片としての振動ジャイロ素子520は、基部521と、基部521の一端から互いに並行させて延出された三つの振動腕522,523,524を有している。
【0071】
駆動用の振動腕522,523のそれぞれには、振動腕522,523の延伸方向に沿って細長く形成された溝502,503が設けられている。溝502,503は、振動腕522,523の第1の面501aに開口部を有し、各振動腕522,523の第1の面501aにおいて開口部の中心を通って且つ各振動腕522,523の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝502,503が形成される前の振動腕522,523の重心を通って且つ振動腕522,523の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向(本変形例では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。また、溝502,503の開口部は、前記の線P1で振動腕522,523を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
【0072】
三つの振動腕522,523,524のうち、振動腕524を間に挟んだ両側に設けられた振動腕522,523には励振用電極512,513が設けられ、これらの振動腕522,523が駆動用の振動腕(振動部)として利用される。
また、三つの振動腕522,523,524の真ん中に配置された振動腕524には検出用電極514が形成され、振動腕524は検出用の振動腕(振動部)として利用される。励振用電極512,513に電気信号±Vが加えられることにより、振動腕522,523が励振されて第1の面501aの面内方向(±X方向)に機械的に振動させ、また、検出用電極514は、振動腕524の機械的振動を電気検出済み信号に変換することができる。
【0073】
なお、三つの振動腕522,524,523の使い方はこれに限らず、二つの駆動用の振動腕と一つの検出用の振動腕となるように電極を形成すればよい。例えば、隣接する振動腕522および振動腕524を駆動用の振動腕とし、振動腕524に隣接する振動腕523を検出用の振動腕として利用できるように電極を形成すれば、駆動用の振動腕522,524が近接することによって駆動振動のQ値が大きくなることにより駆動振動のCl値が低減され、それに伴って消費電流の抑制を図ることができる。
【0074】
以上、述べた変形例4の二つの振動ジャイロ素子420,520の構成においても、駆動用振動腕422,423、あるいは駆動用振動腕522,523に、上記実施形態の振動素子20、あるいは変形例3の振動ジャイロ素子120の溝2,3、あるいは溝102と同様な構成の溝402,403あるいは溝502,503を設けることにより、振動部としての振動腕の断面形状が非対称であることに起因する不要な振動成分を相殺して、検出精度や温度特性の劣化を抑制し高感度で安定した検出精度を有する振動ジャイロ素子420,520を提供することができる。
【0075】
(第2の実施形態)
〔ジャイロセンサー〕
次に、本発明の水晶振動片を搭載したジャイロセンサーについて、図面を参照しながら説明する。
図13は、本発明の水晶振動片の一例として上記変形例3で説明した振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサーを示す模式図であり、(a)は、振動ジャイロ素子120の第1の面101a側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、正断面図である。
なお、図13(a)では、リッド(蓋体)を便宜上省略してある。また、上記実施形態との共通部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
図13に示すように、ジャイロセンサー100は、水晶振動片としての振動ジャイロ素子120と、振動ジャイロ素子120の駆動回路および検出回路を少なくとも有する半導体回路素子としてのICチップ40と、振動ジャイロ素子120およびICチップ40とを収容するパッケージ60とを備えている。
【0077】
パッケージ60は、平板状の第1層基板61と、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板62、第3層基板63、および第4層基板64とがこの順に積層されている。第2層基板62から第4層基板64まで上方にいくにしたがって開口部の大きさが大きくなっていることから、パッケージ60の内部には段差を有する凹部が形成されている。なお、パッケージ60を構成する第1層基板61〜第4層基板64には、セラミックグリーンシートを成形したものが広く利用され、例えば焼成した酸化アルミニウム質焼結体などが用いられている。
【0078】
パッケージ60の凹部の凹底面となる第1層基板61の上面にはICチップ40が図示しないダイアタッチ材により接着・固定されている。
ICチップ40には、能動面40a側にトランジスターやメモリー素子などの半導体素子を含んで構成される集積回路(図示せず)が形成されている。この集積回路には、振動ジャイロ素子120を駆動振動させるための駆動回路と、角速度が加わったときに振動ジャイロ素子120に生じる検出振動を検出する検出回路とが備えられている。また、ICチップ40の能動面40a側には、集積回路から引き出され集積回路と外部との電気的な接続を図る複数の電極パッド45が設けられている。
ICチップ40の各電極パッド45は、パッケージ60の凹部の第2層基板62により形成された段部に設けられた対応するIC接続端子65とボンディングワイヤー95を介して電気的に接続されている。なお、ICチップ40とパッケージ60との電気的な接続は、本実施形態のワイヤーボンディングを用いた方法に限らず、例えば、電極パッド45に半田などのバンプを設けてIC接続端子に直接接合するフェースダウン接合などの他の接合方法を用いることができる。
【0079】
パッケージ60の凹部の第3層基板63により形成された段部には振動ジャイロ素子120が接合されるマウント電極66が設けられている。
振動ジャイロ素子120は、基部121に設けられた外部接続端子115,116を、パッケージ60の対応するマウント電極66に位置合わせした状態で導電性接着材などの接合部材97を介してマウント電極66に接合されている。これにより、振動ジャイロ素子120は、パッケージ60の凹部において、ICチップ40の上方に隙間を介して片持ち支持される。
なお、パッケージ60に設けられるIC接続端子65やマウント電極66などの電極、端子、およびそれらを接続する配線は、例えば、タングステン(W)などのメタライズ層に、ニッケル(Ni)、金(Au)などの各被膜をメッキなどにより積層した金属被膜が用いられる。
【0080】
ジャイロセンサー100は、ICチップ40および振動ジャイロ素子120がパッケージ60の内部に上記のように配置され収納された状態で、リッド70がシームリングや低融点ガラスなどの接合部材69を介してパッケージ60の上面に接合される。リッド70には、コバールなどの金属、ガラス、セラミックなどが用いられている。
これにより、パッケージ60の内部は、気密に封止される。なお、パッケージ60の内部は、振動ジャイロ素子120の振動が阻害されないように、真空状態(真空度が高い状態)、または、不活性ガス雰囲気に保持されていることが好ましい。
【0081】
上記のように構成されたジャイロセンサー100は、上記実施形態に記載の振動ジャイロ素子120を備えているので、水晶ウェハーのエッチング異方性に起因する駆動振動と検出振動の機械結合が抑制され、安定した回転角速度の検出を行うことができる。このことから、ジャイロセンサー100は、撮像機器の手ぶれ補正や、GPS(Global Positioning System)衛星信号を用いた移動体ナビゲーションシステムにおける車両などの姿勢検出、姿勢制御などに好適に用いられる。
【0082】
なお、本実施形態では、振動ジャイロ素子120およびそれを制御するICチップ40を一組備えたジャイロセンサー100について説明したが、複数組の振動ジャイロ素子およびICチップを搭載することにより、例えば複数軸方向の回転角速度の検出が可能な高性能なジャイロセンサーを提供することができる。
【0083】
(第3の実施形態)
〔電子機器〕
上記実施形態および変形例に記載の水晶振動片としての振動素子や振動ジャイロ素子、および、それらを備えた第2の実施形態のジャイロセンサーを搭載した電子機器は、上記したようにコストの上昇を抑えながら振動特性の安定化が図られた振動素子や振動ジャイロ素子を備えているので、高性能化および低コスト化を図ることが可能である。
例えば、図14(a)は、デジタルビデオカメラへの適用例を示す。デジタルビデオカメラ240は、受像部241、操作部242、音声入力部243、および表示ユニット1001を備えている。このようなデジタルビデオカメラ240に、例えば、上記変形例3の振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、所謂手ぶれ補正機能を搭載することができる。
また、図14(b)は、電子機器としての携帯電話機、図14(c)は、情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)への適用例をそれぞれ示すものである。
まず、図14(b)に示す携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、並びに表示ユニットと1002を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、表示ユニット1002に表示される画面がスクロールされる。
また、図14(c)に示すPDA4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、並びに表示ユニット1003を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が表示ユニット1003に表示される。
このような携帯電話機3000やPDA4000に、上記変形例3の振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、様々な機能を付与することができる。例えば、図14(b)の携帯電話機3000に、図示しないカメラ機能を付与した場合に、携帯電話機3000に搭載された振動ジャイロ素子120やジャイロセンサー100により手振れ補正を行うことができる。また、図14(b)の携帯電話機3000や、図14(c)のPDA4000にGPS(Global Positioning System)として広く知られる汎地球測位システムを具備した場合に、上記実施形態の振動素子20を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、GPSにおいて、携帯電話機3000やPDA4000の位置や姿勢を認識させることができる。
【0084】
なお、図14に示す電子機器に限らず、本発明の振動素子20、振動ジャイロ素子120、および、振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサー100を適用可能な電子機器として、モバイルコンピューター、カーナビゲーション装置、電子手帳、電卓、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ゲーム機などが挙げられる。
【0085】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態およびその変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態および変形例では、振動素子20や振動ジャイロ素子120,420,520などのように、一対の振動部としての振動腕22,23や振動腕122,123を有する音叉型の水晶振動片や、三つの振動腕522,523,524を有する振動ジャイロ素子520、あるいは振動ジャイロ素子420のように四つの振動腕422,423,424,425を有する水晶振動片について説明したが、これらに限定されない。例えば、基部から一つの振動部(振動腕)が延伸されたビーム型の水晶振動片や、振動部が4つ以上の水晶振動片、あるいは、一つの基部に対して梁などを介して複数対の振動部が備えられた水晶振動片(例えば、所謂ダブルT型の水晶振動片)などであっても、本発明の振動部の外形と溝とを同時露光して形成する製造方法によれば、上述した実施形態および変形例に記載したものと同様な効果を得ることができる。
【0087】
また、上記実施形態および変形例では、各振動腕、例えば上記実施形態の振動素子20の振動腕22,23の第1の面1aの励振用電極12,13を、それぞれ溝2,3の内壁にも設ける構成とした。
これに限らず、内壁に電極がない場合でも、上記に記載した振動特性の劣化の抑制を図ることができる。
【0088】
以上、本発明をいくつかの実施形態を用いて説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【0089】
また、上記各実施形態および変形例では水晶振動片としてセンサー素子の一種である振動素子20を例に挙げたが、これに限定するものではなく、例えば、加速度に反応する加速度感知素子、圧力に反応する圧力感知素子、重さに反応する重量感知素子などでもよい。
また、本発明の水晶振動片は、上記実施形態および変形例で説明した振動素子20などのセンサー素子に限らず、例えば、発振器などに用いられる共振子であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1,1´,1´´…水晶ウェハー、1a,101a,201a,301a…第1の面、1b…第2の面、2,3,102,202,203,302,303…溝、12,13,112,212,213,312,313…励振用電極、113,214,215,314…検出用電極、15,16,115,116…外部接続端子、20,220,320…水晶振動片としての振動素子、21,121,421,521…基部、22,23,122,123,222,223,322,323,422〜425,522〜524…振動部としての振動腕、40…ICチップ、40a…能動面、45…電極パッド、60…パッケージ、61…第1層基板、62…第2層基板、63…第3層基板、64…第4層基板、65…IC接続端子、66…マウント電極、69,97…接合部材、70…リッド、95…ボンディングワイヤー、100…ジャイロセンサー、120,420,520…水晶振動片としての振動ジャイロ素子、120a,120b…金属耐食膜、122a,122b…エッチングマスク、131a,131b…フォトレジスト膜、132,133…現像パターン、136a,136b,137a…メタライジングマスク、150,250A,250B…フォトマスク、152,153,252a,252b,253a,253b…露光パターン、200…ジャイロセンサー、240…電子機器としてのデジタルビデオカメラ、241…受像部、242…操作部、243…音声入力部、1001…表示ユニット、1002…表示ユニット、1003…表示ユニット、3000…電子機器としての携帯電話機、3001…複数の操作ボタン、3002…スクロールボタン、4000…電子機器としてのPDA、4001…複数の操作ボタン、4002…電源スイッチ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動片、ジャイロセンサー、それらを用いた電子機器、および、水晶振動片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、時計や家電製品、各種情報通信機器やOA機器等の民生・産業用電子機器には、それらの電子回路のクロック源として、水晶振動子などの圧電振動子や、水晶振動片などの圧電振動片とICチップとを同一パッケージ内に封止した発振器やリアルタイムクロックモジュール等の圧電デバイスが広く使用されている。また、船舶、航空機、自動車等の姿勢制御や航行制御、あるいはデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の手振れ検出・補正制御等における回転角速度センサーとして、圧電振動片をセンサー素子(振動素子)として利用した圧電デバイスとしてのジャイロセンサーが広く利用され、3次元立体マウス等の回転方向センサーにも応用されている。このようなジャイロセンサーは、例えば特許文献1または特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
これらの圧電デバイスは、それを搭載する電子機器の小型化・薄型化に伴い、より一層の小型化・薄型化が要求されている。また、クリスタルインピーダンス値(以下、CI値と記す)を低減して高品質で安定性に優れた圧電デバイスが要求されている。CI値を低減するために、例えば、特許文献3に記載された溝つきの振動部(振動腕)を有する音叉型の圧電振動片が紹介されている。特許文献3に記載の圧電振動片は、例えば水晶からなる基部、および基部から延伸された一対の振動部を有し、各振動部に、振動部の延伸方向に延びる溝がそれぞれ形成されている。各振動部に設けられた溝によって振動部の剛性が小さくなって振動が促進されるとともに、溝の側面および底面に励振電極を設けることによって電界効率を向上させることによりCI値の抑制が図れる構造となっている。
【0004】
音叉型の水晶振動片を振動素子として利用する場合には、一対の振動部(振動腕)のうちの一方に励振用電極(駆動電極)を設けて駆動部として利用し、他方の振動部に検出用電極を設けて検出部として利用する。このような構成の振動素子の励振用電極に励振信号を印加して振動部の延伸方向と垂直な面内方向に励振振動させているときに、振動部の延伸方向を軸とした軸周りの回転運動が加わると、その回転運動が、励振振動方向と直交する方向(面外方向)のコリオリの力を発生させ、基部を介して他方の振動部に面外方向の振動を発生させる。この他方の振動部(検出部)の面外振動を検出用電極により電気信号に変換して検知することにより、振動素子に加わった回転角速度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−55479号公報
【特許文献2】特開平10−170272号公報
【特許文献3】特開2004−200917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような音叉型の水晶振動片の外形は、水晶ウェハーをフォトリソグラフィーを利用してウェットエッチングすることにより形成するのが通例である。ここで、水晶のような圧電単結晶材料はエッチング異方性を有するため、ウェットエッチングした振動腕や溝の断面形状がその結晶配向によってエッチング方向に沿った中心線に対して非対称になることが多く、この傾向は圧電単結晶材料のなかでも水晶において特に顕著であることが知られている。このように振動部が非対称な断面形状となることにより、上記した振動部の面内振動や面外振動が所望の方向になされず、振動特性が劣化したり、振動片をジャイロ素子として用いた場合に回転角速度がゼロの状態にも関わらず振動部が検出方向(面外方向)に振動してしまったりして、振動素子の回転角速度の検出精度を劣化させるという問題があった。
また、フォトリソグラフィーを利用して溝を形成する際の露光の位置精度を確保するためには極めて高精度なアライナー(露光装置)が必要となり、製造コストが増大する虞があるうえに、特に水晶振動片が小型化されるほどにフォトマスクの位置合わせが困難となって位置精度が低下し、振動部の所望の位置に溝を形成することが非常に困難になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例にかかる水晶振動片の製造方法は、基部と、前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とを連結する一対の側面を有した振動部と、を備えた水晶振動片の製造方法であって、水晶基板の前記第1の面にフォトレジスト膜を形成する工程と、同一のフォトマスクを用いて、前記フォトレジスト膜に前記基部および前記振動部の外形形状と、前記振動部の形成領域内に溝の開口部の形状と、を露光する工程と、前記露光する工程の後で前記フォトレジスト膜を現像する工程と、前記現像する工程でパターニングされた前記フォトレジスト膜をマスクにしてウェットエッチング法により前記外形形状および前記溝をエッチングする工程と、を含み、前記溝の前記開口部は、平面視で前記側面の一方の側にずれて形成されることを特徴とする。
また、振動部の外形形成と溝形成とを同時にエッチング処理することで、溝を深く形成することができ、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。更に相乗的な効果として、深溝の内部に励振電極を形成すれば溝の内壁と振動腕の外壁との距離が近くなるので、励振電界効率が向上し、これにより振動特性を改善できる。
【0009】
この製造方法によれば、水晶振動片の振動部と溝とを同一のフォトマスクを用いて同時に露光するので、高性能な設備の増設や製造工程の増大をさせることなく、振動部の外形と、それに対する溝とを所望の位置関係に位置精度よく形成することができる。
したがって、水晶材料のエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化が抑えられた、小型で、安定した振動特性を備えた水晶振動片を製造することができる。
【0010】
〔適用例2〕上記適用例にかかる水晶振動片の製造方法において、前記溝は、前記第1の面において前記開口部の中心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線が、前記溝が形成される前の前記振動部の重心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線に対してずれていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、溝の位置を中心からずらして振動部の重心の位置を溝形成前からずらすことにより、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。
【0012】
〔適用例3〕上記適用例にかかる水晶振動片の製造方法において、前記エッチングする工程の後で、前記第2の面からエッチングする工程を有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、水晶のエッチング異方性によりエッチング深さの深い位置で顕著に発生するエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を裏面エッチングすることによって取り除くことができるので、振動部の断面形状の非対称さが改善されて振動特性のより安定した水晶振動片を提供することができる。
【0014】
〔適用例4〕上記適用例にかかる水晶振動片の製造方法において、前記エッチングする工程は、前記第1の面および前記第2の面の両側から同時にエッチングすることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、水晶ウェハーの第1の面および第2の面の両面から同時にエッチングをおこなうので、水晶のエッチング異方性に起因してエッチング深さの深い位置で顕著に発生するエッチング残りが起こり難くなり、振動部の断面形状の対称性が良好となって振動特性を安定化させることができる。
【0016】
〔適用例5〕本適用例にかかる水晶振動片は、基部と、前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とに連結する一対の側面を有した振動部と、を備え、前記振動部の前記第1の面には溝が設けられ、前記溝は、開口部が平面視で前記側面の一方の側にずれており、且つ、前記溝の深さが、前記振動部の前記第1の面から前記第2の面までの厚みの半分よりも深いことを特徴とする。
【0017】
この適用例の水晶振動片の、溝が振動部の厚みの半分よりも深い形状は、上記適用例の水晶振動片の製造方法に起因する。即ち、振動部の外形と溝を同時に露光してから、水晶ウェハーの厚み方向に貫通させる振動部の外形と溝とを同時にエッチングするために、溝が振動部の肉厚の深い位置まで達するものである。この製造方法により製造された水晶振動片は、高性能な設備の増設や製造工程の増大をさせることなく、振動部の外形と、それに対する溝とを所望の位置関係に位置精度よく形成することができる。
したがって、水晶材料のエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化が抑えられ、安定した振動特性を備えた水晶振動片を提供することができる。
また、溝を深く形成することにより、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。更に相乗的な効果として、深溝の内部に励振電極を形成すれば溝の内壁と振動腕の外壁との距離が近くなるので、励振電界効率が向上し、これにより振動特性を改善できる。
【0018】
〔適用例6〕上記適用例にかかる水晶振動片において、前記振動部は少なくとも電極を有し、前記電極の少なくとも一部は、前記溝の内壁に設けられていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、各振動部に設けられた溝によって振動部の剛性が小さくなって振動が促進される効果とともに、溝の側面および底面に励振電極を設けることによって電界効率が向上する効果が相乗的にはたらくことによりCI値をより低減することができる。
【0020】
〔適用例7〕本適用例にかかるジャイロセンサーは、上記適用例のいずれかに記載の水晶振動片を備えていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、水晶ウェハーのエッチング異方性によって断面形状が非対称となることによって発生し得る駆動振動と検出振動との機械結合が抑制された水晶振動片としての振動素子を備えているので、回転角速度の検出精度が高いジャイロセンサーを提供することができる。
【0022】
〔適用例8〕本適用例にかかる電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の水晶振動片を備えていることを特徴とする。
【0023】
上記構成の電子機器は、上記適用例の水晶振動片、即ち、振動部に該振動部の外形と同時に露光およびエッチングして形成された溝を有する水晶振動片を備えているので、高性能で安定した特性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】水晶振動片としての振動素子の一実施形態の概略構成を示す模式図であり、(a)は、溝の開口部を有する振動部の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図。
【図2】振動素子の製造方法を示すフローチャート。
【図3】(a)〜(c)は、振動素子の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図4】(a)〜(d)は、振動素子の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図5】振動素子の製造方法の変形例1を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例1における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図7】振動素子の製造方法の変形例2を示すフローチャート。
【図8】(a)〜(c)は、振動素子の製造方法の変形例2における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図9】(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例2における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図10】水晶振動片としての振動ジャイロ素子(変形例3)を説明する模式図であり、(a)は、平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図。
【図11】水晶振動片の変形例(変形例4)としてのH型の振動ジャイロ素子を模式的に示す平面図。
【図12】水晶振動片の変形例(変形例4)としての三脚タイプの振動ジャイロ素子を模式的に示す平面図。
【図13】本発明の水晶振動片の一例としての上記変形例3の振動ジャイロ素子を備えたジャイロセンサーを示す模式図であり、(a)は、振動素子の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、正断面図。
【図14】上記実施形態および変形例の水晶振動片としての振動素子や振動ジャイロ素子、または、ジャイロセンサーを搭載した電子機器の例を示す模式図であり、(a)は、デジタルビデオカメラの斜視図、(b)は、携帯電話機の斜視図、(c)は、情報携帯端末(PDA)の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
【0026】
(第1の実施形態)
〔振動素子〕
図1は、水晶振動片としての音叉型の振動素子の一実施形態の概略構成を示す模式図であり、(a)は、溝の開口部を有する振動部の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【0027】
図1に示すように、振動素子20は、水晶を基材(主要部分を構成する材料)として形成されている。水晶は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸および光学軸と呼ばれるZ軸を有している。
そして、振動素子20は、水晶結晶軸において直交するX軸およびY軸で規定される平面に沿って切り出されて平板状に加工され、平面と直交するZ軸方向に所定の厚みを有している。なお、所定の厚みは、発振周波数(共振周波数)、外形サイズ、加工性などにより適宜設定される。
【0028】
また、振動素子20を成す平板は、水晶からの切り出し角度の誤差を、X軸、Y軸およびZ軸の各々につき多少の範囲で許容できる。例えば、X軸を中心に0度から2度の範囲で回転して切り出したものを使用することができる。Y軸およびZ軸についても同様である。
振動素子20の外形は、フォトリソグラフィー技術を用いてウェットエッチングすることにより形成されている。なお、振動素子20は、1枚の水晶ウェハーから複数個取り出すことが可能である。
【0029】
図1(a)に示すように、本実施形態の振動素子20は、基部21と、基部21の一端(本実施形態ではY軸側の端部)からY軸に沿って互いに並行させて延伸する一対の振動部としての振動腕22,23と、を備えた所謂音叉型の水晶振動片となっている。
各振動腕22,23には、溝2,3が夫々設けられている。
【0030】
一対の振動腕22,23のうち、一方の振動腕22の溝2は、振動腕22の第1の面1aに開口部を有する。溝2は、振動腕22の第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝2が形成される前の振動腕22の重心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向(本実施形態では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝2の開口部は、前記の線P1で振動腕22を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
これと同様に、他方の振動腕23の溝3も、振動腕23の第1の面1aに開口部を有し、振動腕23の第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿った仮想の線(不図示)が、溝3が形成される前の振動腕23の重心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿う仮想の線(不図示)に対して平行する方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝3の開口部は、溝3が形成される前の振動腕23の重心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿う仮想の線により振動腕23を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
以上、説明した溝2,3の開口部は、Z方向から平面視で見たときに、第1の面1aの両側にある側面の一方の側にずれて形成されているとも言える。
図1(b)に示すように、Z板の水晶基板において、振動腕22,23はともに−X側の側面はほぼ垂直になっているが、+X側の側面は−X側の側面と比べて斜面になっており、−Y側に行くほど傾斜角が緩やかになる形状となっている。ここで、溝2を形成しない状態を考えると、振動腕の断面は−Z側に行くほどX方向の幅が大きくなっているので、振動腕の−Z側は+Z側に比べて剛性が強い。従って、例えば振動腕22が−X方向に振動し、振動腕23が+X方向に振動した際に、振動腕22、23はX方向の振動成分に+Z方向の振動成分が加わり、斜め上方向に振動する。このように、所望の振動方向(X方向)以外の振動成分(Z方向)が加わると、振動特性が劣化したり、例えば、ジャイロセンサーとして構成した場合に、不要振動成分により物理量が加わっていないのに物理量が検出されてしまう誤検出が生じる可能性がある。
本願発明者は、水晶ウェハーのエッチング異方性に起因する振動腕の振動の劣化を抑制する手段として、振動部(振動腕22,23)に設ける溝の位置を調整することが有効であることを見出した。即ち、振動部の断面形状が非対称となったその程度に応じて、溝の開口部を有する振動部の第1の面において、溝の開口部の中心を通って且つ振動部の延伸方向に沿った仮想の線が、溝が形成される前の振動部の重心を通って且つ振動部の延伸方向に沿う仮想の線に対して平行するいずれかの方向に所定量ずれた位置に配置して溝を設けることにより、振動部の断面形状が非対称であることに起因する検出精度や温度特性の劣化を抑制し得ることを発明者は見出した。
溝2,3は、傾斜角が緩やかな側面(+X側)とは反対側の側面(−X側)に形成する。このような位置に溝2,3を形成することで、例えば振動腕22が−X方向に振動し、振動腕23が+X方向に振動した場合に、溝2,3により−Z方向にモーメントが働き、+Z方向の不要な振動成分を相殺することができる。
【0031】
また、各振動腕22,23において、溝2,3の深さは、各振動腕22,23の第1の面1a,1aから、反対側の第2の面1b,1bまでの厚みの半分よりも深くなっている。この、溝2,3が各振動腕22,23の厚みの半分よりも深い形状は、後述する振動素子20の製造方法に起因する。即ち、振動腕22,23の外形と各々の溝2,3とを同時に露光してから、水晶ウェハーの厚み方向に貫通させる振動腕22,23の外形と、溝2,3とを同時にエッチングするために、溝2,3の底面が各振動腕22,23の肉厚の深い位置まで達するものである。このように溝2,3を深く形成することで、振動腕22,23の所望の振動方向(例えば、X軸方向)以外の不要な振動成分(例えば、Z方向)を大幅に抑圧することができる。
【0032】
振動素子20の各振動腕22,23の第1の面1aには、励振用(駆動用)の電極と、検出用の電極が形成されている。本実施形態の振動素子20では、一方の振動腕22を励振する励振信号が印加される励振用電極12と、他方の振動腕23を励振する励振信号が印加される励振用電極13が設けられている。また、本実施形態では、各電極が各溝2,3の内壁まで広げて形成されている。具体的には、一方の振動腕22の第1の面1aに設けられた励振用電極12は溝2の内壁にも形成され、他方の振動腕23の第1の面1aに設けられた励振用電極13は溝3の内壁にも形成されている。振動腕22,23に設けられた溝2,3は、各振動腕22,23の剛性を小さくして振動を促進する効果を奏するとともに、溝2,3の内壁(側面および底面)に励振用電極12,13が設けられていることによって電界効率が向上され、これらの効果によってCI値の低減をより顕著に図ることが可能になっている。
【0033】
各振動腕22,23に設けられた励振用電極12,13は、基部21に設けられ外部基板との電気的接続に供する外部接続端子15,16に電気的に接続されている。本実施形態では、一方の振動腕22の第1の面1aに設けられた励振用電極12が、基部21の一部や他方の振動腕23の側面を経由して外部接続端子15に接続され、他方の振動腕23の第1の面1aに設けられた励振用電極13が、基部21の一部および一方の振動腕22の側面を経由して外部接続端子16に接続されている。
【0034】
〔振動素子の製造方法〕
次に、上記実施形態の水晶振動片としての振動素子20の製造方法について説明する。
図2は、振動素子の製造方法を示すフローチャートである。また、図3(a)〜(c)、および、図4(a)〜(d)は、振動素子の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。
通常、振動素子の製造方法では、水晶ウェハーに複数個の振動素子を平面視で並べて形成し、その後、ダイシングすることにより個片の振動素子を一括して複数個得る方法をとる。図3および図4は、水晶ウェハーにおいて一つの振動素子の振動腕が形成される一部分を示した正断面図となっている。
【0035】
本実施形態の振動素子20の製造方法では、まず、図3(a)に示すように、振動素子20を複数個形成することが可能な面積を有する水晶ウェハー1(図中ではその一部分のみを図示している)の第1の面1aおよび第2の面1bにスパッタや蒸着、あるいはめっきなどにより金属耐食膜120a,120bを形成する(図2のステップS1)。金属耐食膜120a,120bには、後述する水晶ウェハーをエッチングする工程で使用するエッチング液に対する耐食性を有するものが利用され、例えば、下地層にクロム(Cr)、上層に金(Au)の積層膜を用いることができる。
さらに、金属耐食膜120a,120b上に、スピンコート法などによりフォトレジスト膜131a,131bを形成する(図2のステップS2)。
【0036】
次に、図3(b)に示すように、第1の面1aのフォトレジスト膜131a側のみ、振動素子20の基部21や振動腕22,23の外形および溝(図1を参照)の陽画または陰画パターンが描かれたフォトマスク150を用いて露光する外形・溝パターン露光を行う。本実施形態では、振動素子20の陽画パターンが描かれた所謂ポジ型用のフォトマスク150を用いて、ポジ型のフォトレジスト膜131aを露光する例を示している。即ち、フォトマスク150には振動腕22の外形および溝2の露光パターン152と、振動腕23の外形および溝3の露光パターン153と、基部21の外形の露光パターン(不図示)が描かれていて、これらの露光パターンが図中下向き矢印で示す露光光を遮断し、それ以外の部分を透過した露光光がフォトレジスト膜131aに達して露光される(図2のステップS3)。
【0037】
次に、図3(c)に示すように、露光されたフォトレジスト膜131aを現像して現像パターン132,133を得る(図2のステップS4)。
次に、現像して得られた現像パターン132,133をマスクにして金属耐食膜120aのエッチングを行なって(図2のステップS5)から、フォトレジスト膜131aの現像パターン132,133およびフォトレジスト膜131bを剥離(図2のステップS6)して、図4(a)に示すように、第2の面1b側に金属耐食膜120bを露出させると共に、第1の面1a側に金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aを得る。
【0038】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aが形成された水晶ウェハー1をフッ酸を含むエッチング液に浸漬してウェットエッチングすることにより、金属耐食膜120bおよびエッチングマスク122a,123aに覆われていない部分の水晶を溶解して、振動素子20の外形形状(振動腕22,23および基部21)および溝2,3を形成する外形・溝エッチングを行う(図2のステップS7)。これにより、図4(b)に示すように、振動素子20の外形を成す振動腕22,23および基部21(不図示)と同時に、各振動腕22,23の第1の面1aに開口部を有する溝2,3が形成される。
なお、振動腕22,23の外形と夫々の溝2,3を水晶のエッチングにより同時に形成する過程で、水晶ウェハー1の溝2,3を形成する部分は、振動腕22,23や基部21の外形を形成する部分に比してエッチング液と接触する面積が小さいため、エッチング時間が長くなるほど外形部分に比してエッチング速度が遅くなるので、振動腕22,23などの外形が形成される前に溝2,3部分の水晶が貫通することはない。ただし、振動腕22,23などの外形と溝2,3とを同時にエッチングして形成することから、各溝2,3の深さは、振動腕22,23の第1の面1aから第2の面1bまでの厚みの半分よりも深く形成される。
【0039】
図4(b)に示すように、振動腕22,23の断面形状は、水晶が有するエッチング異方性により結晶の方向によってエッチング速度に差異が生じ、エッチング速度が遅くなる部位(図中右側面の下側)にエッチング残りが発生して左右非対称になっている。このように断面形状が非対称となると、振動腕22,23が本来望む方向の振動とは異なる振動をして漏れ振動を発生し、所望の振動特性が得られずに温度特性が劣化したり、駆動振動(励振振動)する方向がずれることによって、回転角速度がゼロの状態にも関わらず振動腕22,23が検出方向(面外方向)に振動してしまい回転角速度の検出精度を劣化させたりする不具合が発生する虞がある。このため、水晶ウェハーのエッチング速度が遅い結晶方向の部分のエッチング残りをなるべく少なくするように、若干過剰気味にエッチングを行うことが好ましい。
このような振動腕22,23の非対称な断面形状に起因する不具合を抑制するために、本実施形態の振動素子20では、各振動腕22,23に設ける溝2,3の位置が調整されている。即ち、上記したように、各振動腕腕22,23の溝2,3は、振動腕22,23の第1の面1aに開口部の中心を通って且つ振動腕22,23の延伸方向に沿った仮想の線(図1(a)のP2)が、各溝2,3が形成される前の振動腕22,23夫々の重心を通って且つ振動腕22,23の延伸方向に沿う仮想の線(P1)に対して平行する方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。ここで、「所定量ずれた位置」の所定量とは、水晶ウェハーの結晶軸を明確にしてウェットエッチングによる振動素子20の外形形成を行うことで予測することが可能な各振動腕22,23の断面形状に対して、漏れ振動を抑制可能な溝2,3の位置として予め設定することが可能な量(位置)のことを言う。
本実施形態では、振動腕22,23の外形と溝2,3とを、同一フォトマスク150により同時に露光して形成しているので、エッチング上がりの各振動腕22,23と溝2,3との位置を再現性よく調整して形成することが可能になっている。
【0040】
振動腕22,23などの外形および溝2,3のエッチングを行った後には、水晶ウェハーを混酸液などに浸漬することによって、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aを剥離し(図2のステップS8)、次に、図4(c)に示すように、メタライジングマスク136a,136b、およびメタライジングマスク137a,137bを形成する(図2のステップS9)。メタライジングマスク136a,136b,137a,137bは、例えば、フォトリソグラフィーによりフォトレジストをパターニングすることによって形成することができる。
【0041】
次に、メタライジングマスク136a,136b,137a,137bをマスクにして、スパッタリングや蒸着などの方法により、マスクから露出した水晶表面に電極膜を積層させて各種の電極を形成する(図2のステップS10)。図4(d)において、振動腕22の第1の面1aおよび溝2の内壁には励振用電極12が形成され、振動腕23の第1の面1aおよび溝3の内壁には励振用電極13が形成され、さらに各振動腕22,23の側面には、引き回し電極としての励振用電極13または励振用電極12が形成されている。
以上、述べた工程を経て、振動素子20の一連の製造工程は終了する。
なお、水晶ウェハー1に縦横並んで多数形成された振動素子20は、ダイシングなどの方法により個片化して提供することができる。
【0042】
上記実施形態によれば、振動素子20の振動部と溝とを同一のフォトマスク150を用いて同時に露光するので、位置精度の高いアライナーなどの高性能な設備の増設や、製造工程の増大をさせることなく、振動腕22,23の外形と、それに対する溝2,3とを所望の位置関係にて精度よく位置調整して形成することができる。したがって、水晶ウェハーのエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化を効果的に抑えることができ、安定した振動特性を備えた振動素子を低コストにて提供することができる。
また、水晶ウェハー1をエッチングして振動部の外形を形成した後で、振動部の断面形状が非対称となった程度に応じて溝の位置を調整する方法(外形形成と溝形成を別に行う方法)では、振動ジャイロ素子(水晶振動片)一個片ごとに振動部の形状や周波数特性などの測定をする必要があるなど、製造効率が著しく低くなるという課題があるが、本実施形態のように振動素子20の振動部と溝とを同一のフォトマスク150を用いて同時に露光し、同時にエッチングを行なえば、振動腕22,23の外形と、それに対する溝2,3とを所望の位置関係にて精度よく位置調整して形成することができるので、一個片毎の調整は不要となる。
また、上記実施形態の製造方法によれば、振動素子(水晶振動片)の小型化にも比較的容易に対応することができる。
【0043】
上記実施形態で説明した振動素子20、およびその製造方法は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0044】
以下、振動素子の製造方法の変形例について図面を参照して説明する。
(変形例1)
図5は、振動素子の製造方法の変形例1を示すフローチャートである。また、図6(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例1における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。なお、上記実施形態との共通部分については同一符号を付して説明を省略し、上記実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0045】
図5に示す本変形例の振動素子の製造方法において、ステップS11からステップS16のフォトレジスト剥離までのエッチングマスク形成は、上記実施形態における図2のステップS1〜S6と全く同じ構成により実施することができる。即ち、ステップS11の金属耐食膜形成からステップS16のフォトレジスト剥離までのプロセスを経て、図6(a)に示すように、水晶ウェハー1の第2の面1b側に金属耐食膜120bが形成され、第1の面1a側に金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aが形成される。
ただし、本変形例の振動素子の製造方法では、後述するように、振動素子の外形および溝を形成するエッチング工程の後で、水晶ウェハーの第2の面1b側全面をハーフエッチングする工程を有するので、製造する振動素子の厚みよりも前記ハーフエッチングする分だけ厚い厚みを有する水晶ウェハー1´を用いる。
【0046】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aが形成された水晶ウェハー1´をフッ酸を含むエッチング液に浸漬してエッチングを行い、図6(b)に示すように、振動腕22´,23´などの振動素子の外形と溝202,203とを同時に形成する(図5のステップS17)。ただし、振動素子の外形のうち、水晶ウェハー1´の第1の面1aから第2の面1bまでの厚みは、後工程でさらにエッチングされて薄くなる。
【0047】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aのうち、第2の面2bの金属耐食膜(裏面エッチングマスク)120bのみを剥離する(図5のステップS18)。ここで、必要があれば、第1の面1a側に露出する水晶面をエッチングマスク材で覆おう処理を施す。この第1の面1a側をエッチングマスク材で覆う工程を行う場合は、ステップS18で、金属耐食膜120bとともに金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aを同時に剥離してもよい。
【0048】
次に、図6(c)に示すように、振動腕22´,23´の第2の面1b全面を所定量エッチングする裏面エッチングを行い(図5のステップS19)、次に、エッチングマスク122a,123aを剥離する表面エッチングマスク剥離を行って(図5のステップS20)図6(d)に示すように、本変形例の製造方法による振動素子220の溝202,203を含む外形が完成する。
次に、図5のステップS21に示すメタライジングマスク形成を行った後、そのメタライジングマスクをマスクにして電極膜を積層させて各種の電極を形成し(図5のステップS22)、一連の振動素子220の製造工程が終了する。
【0049】
上記変形例1の振動素子の製造方法によれば、裏面エッチング工程(図5のステップS19)により、水晶のエッチング異方性によりエッチング深さの深い位置、即ち、第2の面1b側に発生するエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を取り除くことができる。従って、振動腕22´,23´と溝202,203とを同時に露光してパターニングすることにより、溝202,203の位置を精度よく調整して水晶のエッチング異方性に起因する振動特性の劣化を軽減する効果とともに、振動腕22´,23´の断面形状が左右非対称となる度合いが小さくなることから、安定した振動特性が保持された検出感度の高い振動素子220を提供することができる。
【0050】
(変形例2)
続いて、振動素子の製造方法の変形例2について説明する。
図7は、振動素子の製造方法の変形例2を示すフローチャートである。また、図8(a)〜(c)、および図9(a)〜(d)は、振動素子の製造方法の変形例2における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。なお、上記実施形態および変形例1との共通部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
まず、図8(a)に示すように、本製造方法によって製造する振動素子の厚みよりも厚めの水晶ウェハー1´´の第1の面1aおよび第2の面1bに金属耐食膜120a,120bを形成する(図7のステップS31)。
次に、金属耐食膜120a,120b上に、フォトレジスト膜131a,131bを形成する(図7のステップS32)。
【0052】
次に、図8(b)に示すように、水晶ウェハー1´´の第1の面1a側および第2の面1b側の両面のフォトレジスト膜131a,131bに外形や溝のパターンを露光する両面露光を行う(図7のステップS33)。このとき、第1の面1a側の露光には、振動腕などの振動素子の外形および溝の露光パターン252a,253aが描かれた表面フォトマスク250Aを用い、また、第2の面1b側の露光には、振動腕などの振動素子の露光パターン252b,253bが描かれた裏面フォトマスク250Bを用いて露光を行う。
【0053】
次に、図8(c)に示すように、露光されたフォトレジスト膜131a,131bを現像して、第1の面1a側に現像パターン132a,133aを得るとともに、第2の面1b側に現像パターン132b,133bを得て(図7のステップS34)から、現像パターン132a,133aおよび現像パターン132b,133bをマスクにして金属耐食膜120aおよび金属耐食膜120bのエッチングを行なう(図7のステップS35)。
次に、フォトレジスト膜131a,131bの現像パターン132a,133a,132b,133bを剥離する(図7のステップS36)ことにより、図9(a)に示すように、第1の面1a側に金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aを得るとともに、第2の面1b側に金属耐食膜120bのエッチングマスク122b,123bを得る。
【0054】
次に、第1の面1a側に金属耐食膜120aによるエッチングマスク122a,123aが形成され、第2の面1b側に金属耐食膜120bによるエッチングマスク122b,123bが形成された水晶ウェハー1´´をフッ酸を含むエッチング液に浸漬して両面エッチングを行う。これにより、図9(b)に示すように、振動腕22´´,23´´などの振動素子の外形と、各振動腕22´´,23´´の溝302,303とを同時に形成する(図7のステップS37)。
両面エッチングにより形成された振動腕22´´,23´´の断面形状は、上記実施形態や変形例1のように第1の面1a側からのみの片面エッチングで形成される振動腕に比して、エッチング残りが発生しやすい結晶方向のエッチング残りが軽減される。
【0055】
次に、第1の面1a側のエッチングマスク122a,123aおよび第2の面1b側のエッチングマスク122b,123bのうち、少なくとも第2の面1b側のエッチングマスク122b,123bを剥離する(図7のステップS38)。
次に、図9(c)に示すように、振動腕22´´,23´´の第2の面1b全面を所定量エッチングする裏面エッチングを行い(図7のステップS39)、次に、第1の面1a側のエッチングマスク122a,123aを剥離する表面エッチングマスク剥離を行う(図7のステップS40)。これにより、図9(d)に示すように、変形例2の製造方法による振動素子320の溝302,303を含む外形が完成する。
次に、図7のステップS41に示すメタライジングマスク形成を行った後、そのメタライジングマスクをマスクにして電極膜を積層させて各種の電極を形成し(図7のステップS42)、一連の変形例2の振動素子320の製造工程が終了する。
【0056】
上記変形例2の振動素子の製造方法によれば、振動腕22´´,23´´などの振動素子320の外形と、各振動腕22´´,23´´の溝302,303とを同時に形成する際に、水晶ウェハー1´´の第1の面1aおよび第2の面1bの両面からエッチングを行っているので、水晶のエッチング異方性に起因するエッチング残りが軽減される。
しかも変形例2の製造方法では、上記の外形・溝パターン(両面)エッチング工程の後で、裏面エッチング(図7のステップS39)を行うことにより、第2の面1b側からエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を取り除いている。これにより、振動腕22´´,23´´の断面形状の左右非対称がさらに解消されるので、水晶のエッチング異方性に起因する振動特性の劣化をより軽減することができる。
【0057】
以上、図1〜9を用いて、水晶振動片の一実施形態としての音叉型の振動素子20について説明したが、音叉型振動素子に本発明を適用することで、所望の振動方向以外の不要振動モードとの結合が低減されるので、周波数温度特性が改善するという副次的な効果も奏する。例えば、所望の振動成分をX方向とし、不要振動の振動成分をZ方向としたときに、X方向振動の周波数温度特性にZ方向振動の周波数温度特性が混ざらなくなり、これにより周波数温度特性の改善が可能となる。また、不要振動を抑圧できることから、CI値(クリスタルインピーダンス値)を小さくでき、これによりQ値を大きく出来るという副次的な効果も奏する。
【0058】
(変形例3)
〔振動ジャイロ素子〕
次に、本発明の水晶振動片の変形例としての振動ジャイロ素子について図面を参照しながら説明する。
図10は、水晶振動片としての音叉型の振動ジャイロ素子を模式的に示すものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。なお、本変形例の振動ジャイロ素子の構成のうち、振動部としての振動腕122,123の断面形状、および振動腕122に設けられた溝102の形状は上記実施形態の振動素子20の振動腕22,23の形状と同じであるため、詳細な説明を省略する。
図10(a)に示すように、振動ジャイロ素子120は、上記第1の実施形態の振動素子20と同様に、基部121と、基部121の一端から互いに並行させて延伸する一対の振動腕122,123と、を備えた所謂音叉型の形状を呈している。
一対の振動腕122,123のうちの一方の振動腕122には、溝102が設けられている。
【0059】
溝102は、振動腕122の第1の面101aに開口部を有する。溝102は、振動腕122の第1の面101aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕122の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝102が形成される前の振動腕122の重心を通って且つ振動腕122の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向(本変形例では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝102の開口部は、前記の線P1で振動腕122を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
【0060】
一対の振動腕122,123のうち一方の振動腕には励振用(駆動用)の電極が設けられ、他方の振動腕には検出用の電極が形成されている。本変形例の振動ジャイロ素子120では、図10(b)に示すように、一方の振動腕122に励振用電極112が設けられ、他方の振動腕123に検出用電極113が設けられている。
励振用電極112に電気信号±Vが加えられることにより、振動腕122が励振されて第1の面101aの面内方向(±X方向)に機械的に振動させる。
また、検出用電極113は、振動腕123の機械的振動を電気検出済み信号に変換することができる。
【0061】
振動腕122に設けられた励振用電極112は、基部121に設けられた外部接続端子116に電気的に接続されている。また、振動腕123に設けられた検出用電極113は、基部121に設けられた外部接続端子115に電気的に接続されている。
【0062】
上記構成の音叉型の振動ジャイロ素子120は、音叉型ジャイロメーターの原理により、励振用電極112に励振用の電気信号(励振信号)±Vが印加されて振動腕122が±X方向に振動しているときに、振動ジャイロ素子120がY軸回りに回転すると、その回転運動が振動腕122の振動方向に直角のコリオリの力を発生させ、その結果として励振振動の平面に直角の平面内における少なくとも検出用の振動腕123の±Z方向の振動を発生させる。この機械的振動は、振動ジャイロ素子120の圧電水晶によって電気信号に変換され、この電気信号は検出用の振動腕123の表面に設けられた検出用電極113によって検出される。
【0063】
以上、述べたような構成の振動ジャイロ素子120によれば、一対の振動部としての振動腕122,123のうち一方の振動腕122を励振用の振動部として利用し、他方の振動腕123を検出用の振動部として利用しているので、振動腕122の励振用電極112と、振動腕123の検出用電極113とを分離して配置できる。これにより、励振用電極112や検出用電極113を含む振動ジャイロ素子120の電極配線が容易になり、励振用電極112と検出用電極113とが近接している場合に起こり得る電極配線間の容量結合を抑制することができる。したがって、回転角速度などの物理量を高精度に検出する振動ジャイロ素子120を提供することができる。
【0064】
なお、音叉型の振動ジャイロ素子の構成は、上記振動ジャイロ素子120のように、一対の振動腕122,123のうち一方を駆動用の振動腕122とし、他方を検出用の振動腕123としたが、これに限らない。一対の振動腕のそれぞれに駆動用電極および検出用電極を配設して、駆動用電極に励振信号を印加して両方の振動腕ともに駆動させるとともに、両方の振動腕を駆動(振動)させている状態の振動ジャイロ素子に回転角速度が印加されたときに発生するコリオリの力を検出用電極で検出することもできる。
この構成では、各振動腕に設ける電極の配置が、上記変形例3の振動ジャイロ素子120とは異なる配置とする。
詳述すると、各振動腕の基部側の両主面に、ある瞬間において極性が同じになるように励振電極を設ける。ここで、一方の振動腕と他方の振動腕とでは、ある瞬間において極性が逆になるように配置する。例えば、一方の振動腕の両主面に設けた励振電極のある瞬間の極性が+であるとき、他方の振動腕の両主面に設けた励振電極の極性が−になるようにする。
また、各振動腕の両主面と直交して対向する両側面には、各振動腕の両主面に設けた励振電極のある瞬間の極性とは逆の極性を呈する励振電極を設ける。例えば、前記振動腕の両主面の励振電極のある瞬間の極性に対して、一方の振動腕の両側面に設けた励振電極の極性が−となり、他方の振動腕の両側面に設けた励振電極が+となるようにする。
以上述べたような電極構成により、ある瞬間において、一方の振動腕には振動腕の中央から両側面側への方向に電界が生じ、他方の振動腕には振動腕の両側面側から中央への方向に電界が生じる。
【0065】
また、各振動腕の先端側の両主面には、各主面において各振動腕の延びる方向に沿って並行させて配置した一対の検出電極を設ける。ここで、各振動腕の各主面の一対の検出電極は、ある瞬間において極性が異なるように設ける。また、各振動腕の両主面にそれぞれ設けられた一対の検出電極のある瞬間の極性が、対向する検出電極のある瞬間の極性とは逆になるように配置する。例えば、振動腕の一方の主面に、ある瞬間において極性が+の第1の検出電極と極性が−の第2の検出電極とからなる一対の検出電極を設けた場合、他方の主面の設ける前記第1の検出電極と対向する第3の検出電極、および、前記第2の検出電極と対向する第4の検出電極のそれぞれの極性は、第3の検出電極が−、第4の検出電極が+となるように配置する。
【0066】
上記構成の振動ジャイロ素子において、各励振電極を介して電界を印加することにより、各振動腕が両主面に沿った方向(面内方向、図中Y方向)に屈曲振動を与える。この面内方向の屈曲振動を各振動腕が行なっている状態のとき、振動腕の延びる方向に沿った軸の周りに角速度ωが印加されると、コリオリ力により、上記面内方向と直交する面外方向に新たな屈曲振動が起こる。この新たな屈曲振動により発生する電圧を各振動腕の両主面に設けた検出電極で検出することにより、振動ジャイロ素子に印加された角速度ωの値を知ることができる。
以上、述べた構成の振動ジャイロ素子においても、上記実施形態の振動素子20、あるいは変形例3の振動ジャイロ素子120と同様な構成の溝2,3、あるいは溝102を設けることにより、振動部としての振動腕の断面形状が非対称であることに起因する不要な振動成分を相殺して、検出精度や温度特性の劣化を抑制することができる。
また、上記変形例3の振動ジャイロ素子120が、一対の振動腕122,123のうち一方の振動腕122だけで駆動させているのに対して、両方の振動腕ともに駆動させることにより、励振効率が向上してCI値を低減することができ、それに伴って消費電流の抑制を図ることができる。
【0067】
(変形例4)
上記実施形態および変形例3では、水晶振動片として、音叉型の振動素子20や振動ジャイロ素子120について説明したが、水晶振動片の形状はこれに限らない。次に、音叉型とは異なる形状の水晶振動片の例について説明する。
図11は、基部の一端、および、その一端の反対側の他端の各々から一対の振動部が延びた構成のH型の水晶振動片としての振動ジャイロ素子を説明する概略平面図である。また、図12は、基部の一端から三つの振動部が延びた構成の三脚タイプの水晶振動片としての振動ジャイロ素子を示す概略平面図である。
【0068】
まず、外形がH型の水晶振動片について説明する。
図11に示す水晶振動片としての振動ジャイロ素子420は、基部421の一端から互いに並行に延びる一対の振動部としての駆動用振動腕422,423と、それとは反対側に延びる一対の振動部としての検出用振動腕424,425とを有する。このうち一対の駆動用振動腕422,423の主面には、駆動用振動腕422,423の長手方向に溝402,403が形成されている。溝402,403は、各駆動用振動腕422,423の第1の面401aに開口部を有する。溝402は、駆動用振動腕422の第1の面401aにおいて開口部の中心を通って、且つ、駆動用振動腕422の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝402が形成される前の駆動用振動腕422の重心を通って且つ駆動用振動腕422の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して並行するいずれかの方向(本変形例では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝402の開口部は、前記の線P1で駆動用振動腕422を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。これと同様の位置関係にて、他方の駆動用振動腕423の溝403が形成されている。
駆動用振動腕422,423の両主面、および、一方の主面の溝402,403の側面と底面には駆動第1電極412,413が設けられ、駆動用振動腕422,423の側面には、ある瞬間において前記駆動第1電極と極性が異なる駆動第2電極(図示せず)が設けられて、振動ジャイロ素子420を振動させる駆動電極を構成している。
【0069】
前記駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、上記変形例3と同様に駆動用振動腕422,423の両主面と平行な方向に交互に電界が生じ、駆動用振動腕422,423が電界の方向と同じ方向に屈曲振動する。
この状態で、振動ジャイロ素子420が図中Y軸を中心に回転すると、その回転角速度ωに対して、その振動方向と直交する向きに働くコリオリ力により、駆動用振動腕422,423は図中Z軸方向に応力を受けてZ方向に振動する。この振動が検出用振動腕424,425をその共振振動数で振動させ、これを電気信号として検出用電極414,415により検出して、振動ジャイロ素子420に印加された回転角速度およびその回転方向等を求める。
振動ジャイロ素子420のようなH型の振動ジャイロ素子は、駆動用振動腕422,423で駆動するため励振効率が向上してCl値を抑えることができるとともに、駆動用振動腕422,423と検出用振動腕424,425とが基部421の反対側の端部からそれぞれ延出されているため、駆動電極と検出電極の分離がし易く、また、検出用の電極を大きくとれるので、検出感度を向上させることができる。
【0070】
次に、本変形例の2つ目のバリエーションとして、基部の一端から三つの振動部が延出された構成の三脚タイプの水晶振動片について説明する。
図12に示す水晶振動片としての振動ジャイロ素子520は、基部521と、基部521の一端から互いに並行させて延出された三つの振動腕522,523,524を有している。
【0071】
駆動用の振動腕522,523のそれぞれには、振動腕522,523の延伸方向に沿って細長く形成された溝502,503が設けられている。溝502,503は、振動腕522,523の第1の面501aに開口部を有し、各振動腕522,523の第1の面501aにおいて開口部の中心を通って且つ各振動腕522,523の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝502,503が形成される前の振動腕522,523の重心を通って且つ振動腕522,523の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して平行するいずれかの方向(本変形例では−X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。また、溝502,503の開口部は、前記の線P1で振動腕522,523を幅方向に分割したときに図中左側のエリアに形成されている。
【0072】
三つの振動腕522,523,524のうち、振動腕524を間に挟んだ両側に設けられた振動腕522,523には励振用電極512,513が設けられ、これらの振動腕522,523が駆動用の振動腕(振動部)として利用される。
また、三つの振動腕522,523,524の真ん中に配置された振動腕524には検出用電極514が形成され、振動腕524は検出用の振動腕(振動部)として利用される。励振用電極512,513に電気信号±Vが加えられることにより、振動腕522,523が励振されて第1の面501aの面内方向(±X方向)に機械的に振動させ、また、検出用電極514は、振動腕524の機械的振動を電気検出済み信号に変換することができる。
【0073】
なお、三つの振動腕522,524,523の使い方はこれに限らず、二つの駆動用の振動腕と一つの検出用の振動腕となるように電極を形成すればよい。例えば、隣接する振動腕522および振動腕524を駆動用の振動腕とし、振動腕524に隣接する振動腕523を検出用の振動腕として利用できるように電極を形成すれば、駆動用の振動腕522,524が近接することによって駆動振動のQ値が大きくなることにより駆動振動のCl値が低減され、それに伴って消費電流の抑制を図ることができる。
【0074】
以上、述べた変形例4の二つの振動ジャイロ素子420,520の構成においても、駆動用振動腕422,423、あるいは駆動用振動腕522,523に、上記実施形態の振動素子20、あるいは変形例3の振動ジャイロ素子120の溝2,3、あるいは溝102と同様な構成の溝402,403あるいは溝502,503を設けることにより、振動部としての振動腕の断面形状が非対称であることに起因する不要な振動成分を相殺して、検出精度や温度特性の劣化を抑制し高感度で安定した検出精度を有する振動ジャイロ素子420,520を提供することができる。
【0075】
(第2の実施形態)
〔ジャイロセンサー〕
次に、本発明の水晶振動片を搭載したジャイロセンサーについて、図面を参照しながら説明する。
図13は、本発明の水晶振動片の一例として上記変形例3で説明した振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサーを示す模式図であり、(a)は、振動ジャイロ素子120の第1の面101a側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、正断面図である。
なお、図13(a)では、リッド(蓋体)を便宜上省略してある。また、上記実施形態との共通部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
図13に示すように、ジャイロセンサー100は、水晶振動片としての振動ジャイロ素子120と、振動ジャイロ素子120の駆動回路および検出回路を少なくとも有する半導体回路素子としてのICチップ40と、振動ジャイロ素子120およびICチップ40とを収容するパッケージ60とを備えている。
【0077】
パッケージ60は、平板状の第1層基板61と、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板62、第3層基板63、および第4層基板64とがこの順に積層されている。第2層基板62から第4層基板64まで上方にいくにしたがって開口部の大きさが大きくなっていることから、パッケージ60の内部には段差を有する凹部が形成されている。なお、パッケージ60を構成する第1層基板61〜第4層基板64には、セラミックグリーンシートを成形したものが広く利用され、例えば焼成した酸化アルミニウム質焼結体などが用いられている。
【0078】
パッケージ60の凹部の凹底面となる第1層基板61の上面にはICチップ40が図示しないダイアタッチ材により接着・固定されている。
ICチップ40には、能動面40a側にトランジスターやメモリー素子などの半導体素子を含んで構成される集積回路(図示せず)が形成されている。この集積回路には、振動ジャイロ素子120を駆動振動させるための駆動回路と、角速度が加わったときに振動ジャイロ素子120に生じる検出振動を検出する検出回路とが備えられている。また、ICチップ40の能動面40a側には、集積回路から引き出され集積回路と外部との電気的な接続を図る複数の電極パッド45が設けられている。
ICチップ40の各電極パッド45は、パッケージ60の凹部の第2層基板62により形成された段部に設けられた対応するIC接続端子65とボンディングワイヤー95を介して電気的に接続されている。なお、ICチップ40とパッケージ60との電気的な接続は、本実施形態のワイヤーボンディングを用いた方法に限らず、例えば、電極パッド45に半田などのバンプを設けてIC接続端子に直接接合するフェースダウン接合などの他の接合方法を用いることができる。
【0079】
パッケージ60の凹部の第3層基板63により形成された段部には振動ジャイロ素子120が接合されるマウント電極66が設けられている。
振動ジャイロ素子120は、基部121に設けられた外部接続端子115,116を、パッケージ60の対応するマウント電極66に位置合わせした状態で導電性接着材などの接合部材97を介してマウント電極66に接合されている。これにより、振動ジャイロ素子120は、パッケージ60の凹部において、ICチップ40の上方に隙間を介して片持ち支持される。
なお、パッケージ60に設けられるIC接続端子65やマウント電極66などの電極、端子、およびそれらを接続する配線は、例えば、タングステン(W)などのメタライズ層に、ニッケル(Ni)、金(Au)などの各被膜をメッキなどにより積層した金属被膜が用いられる。
【0080】
ジャイロセンサー100は、ICチップ40および振動ジャイロ素子120がパッケージ60の内部に上記のように配置され収納された状態で、リッド70がシームリングや低融点ガラスなどの接合部材69を介してパッケージ60の上面に接合される。リッド70には、コバールなどの金属、ガラス、セラミックなどが用いられている。
これにより、パッケージ60の内部は、気密に封止される。なお、パッケージ60の内部は、振動ジャイロ素子120の振動が阻害されないように、真空状態(真空度が高い状態)、または、不活性ガス雰囲気に保持されていることが好ましい。
【0081】
上記のように構成されたジャイロセンサー100は、上記実施形態に記載の振動ジャイロ素子120を備えているので、水晶ウェハーのエッチング異方性に起因する駆動振動と検出振動の機械結合が抑制され、安定した回転角速度の検出を行うことができる。このことから、ジャイロセンサー100は、撮像機器の手ぶれ補正や、GPS(Global Positioning System)衛星信号を用いた移動体ナビゲーションシステムにおける車両などの姿勢検出、姿勢制御などに好適に用いられる。
【0082】
なお、本実施形態では、振動ジャイロ素子120およびそれを制御するICチップ40を一組備えたジャイロセンサー100について説明したが、複数組の振動ジャイロ素子およびICチップを搭載することにより、例えば複数軸方向の回転角速度の検出が可能な高性能なジャイロセンサーを提供することができる。
【0083】
(第3の実施形態)
〔電子機器〕
上記実施形態および変形例に記載の水晶振動片としての振動素子や振動ジャイロ素子、および、それらを備えた第2の実施形態のジャイロセンサーを搭載した電子機器は、上記したようにコストの上昇を抑えながら振動特性の安定化が図られた振動素子や振動ジャイロ素子を備えているので、高性能化および低コスト化を図ることが可能である。
例えば、図14(a)は、デジタルビデオカメラへの適用例を示す。デジタルビデオカメラ240は、受像部241、操作部242、音声入力部243、および表示ユニット1001を備えている。このようなデジタルビデオカメラ240に、例えば、上記変形例3の振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、所謂手ぶれ補正機能を搭載することができる。
また、図14(b)は、電子機器としての携帯電話機、図14(c)は、情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)への適用例をそれぞれ示すものである。
まず、図14(b)に示す携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、並びに表示ユニットと1002を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、表示ユニット1002に表示される画面がスクロールされる。
また、図14(c)に示すPDA4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、並びに表示ユニット1003を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が表示ユニット1003に表示される。
このような携帯電話機3000やPDA4000に、上記変形例3の振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、様々な機能を付与することができる。例えば、図14(b)の携帯電話機3000に、図示しないカメラ機能を付与した場合に、携帯電話機3000に搭載された振動ジャイロ素子120やジャイロセンサー100により手振れ補正を行うことができる。また、図14(b)の携帯電話機3000や、図14(c)のPDA4000にGPS(Global Positioning System)として広く知られる汎地球測位システムを具備した場合に、上記実施形態の振動素子20を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、GPSにおいて、携帯電話機3000やPDA4000の位置や姿勢を認識させることができる。
【0084】
なお、図14に示す電子機器に限らず、本発明の振動素子20、振動ジャイロ素子120、および、振動ジャイロ素子120を備えたジャイロセンサー100を適用可能な電子機器として、モバイルコンピューター、カーナビゲーション装置、電子手帳、電卓、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ゲーム機などが挙げられる。
【0085】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態およびその変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態および変形例では、振動素子20や振動ジャイロ素子120,420,520などのように、一対の振動部としての振動腕22,23や振動腕122,123を有する音叉型の水晶振動片や、三つの振動腕522,523,524を有する振動ジャイロ素子520、あるいは振動ジャイロ素子420のように四つの振動腕422,423,424,425を有する水晶振動片について説明したが、これらに限定されない。例えば、基部から一つの振動部(振動腕)が延伸されたビーム型の水晶振動片や、振動部が4つ以上の水晶振動片、あるいは、一つの基部に対して梁などを介して複数対の振動部が備えられた水晶振動片(例えば、所謂ダブルT型の水晶振動片)などであっても、本発明の振動部の外形と溝とを同時露光して形成する製造方法によれば、上述した実施形態および変形例に記載したものと同様な効果を得ることができる。
【0087】
また、上記実施形態および変形例では、各振動腕、例えば上記実施形態の振動素子20の振動腕22,23の第1の面1aの励振用電極12,13を、それぞれ溝2,3の内壁にも設ける構成とした。
これに限らず、内壁に電極がない場合でも、上記に記載した振動特性の劣化の抑制を図ることができる。
【0088】
以上、本発明をいくつかの実施形態を用いて説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【0089】
また、上記各実施形態および変形例では水晶振動片としてセンサー素子の一種である振動素子20を例に挙げたが、これに限定するものではなく、例えば、加速度に反応する加速度感知素子、圧力に反応する圧力感知素子、重さに反応する重量感知素子などでもよい。
また、本発明の水晶振動片は、上記実施形態および変形例で説明した振動素子20などのセンサー素子に限らず、例えば、発振器などに用いられる共振子であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1,1´,1´´…水晶ウェハー、1a,101a,201a,301a…第1の面、1b…第2の面、2,3,102,202,203,302,303…溝、12,13,112,212,213,312,313…励振用電極、113,214,215,314…検出用電極、15,16,115,116…外部接続端子、20,220,320…水晶振動片としての振動素子、21,121,421,521…基部、22,23,122,123,222,223,322,323,422〜425,522〜524…振動部としての振動腕、40…ICチップ、40a…能動面、45…電極パッド、60…パッケージ、61…第1層基板、62…第2層基板、63…第3層基板、64…第4層基板、65…IC接続端子、66…マウント電極、69,97…接合部材、70…リッド、95…ボンディングワイヤー、100…ジャイロセンサー、120,420,520…水晶振動片としての振動ジャイロ素子、120a,120b…金属耐食膜、122a,122b…エッチングマスク、131a,131b…フォトレジスト膜、132,133…現像パターン、136a,136b,137a…メタライジングマスク、150,250A,250B…フォトマスク、152,153,252a,252b,253a,253b…露光パターン、200…ジャイロセンサー、240…電子機器としてのデジタルビデオカメラ、241…受像部、242…操作部、243…音声入力部、1001…表示ユニット、1002…表示ユニット、1003…表示ユニット、3000…電子機器としての携帯電話機、3001…複数の操作ボタン、3002…スクロールボタン、4000…電子機器としてのPDA、4001…複数の操作ボタン、4002…電源スイッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とを連結する一対の側面を有した振動部と、を備えた水晶振動片の製造方法であって、
水晶基板の前記第1の面にフォトレジスト膜を形成する工程と、
同一のフォトマスクを用いて、前記フォトレジスト膜に前記基部および前記振動部の外形形状と、前記振動部の形成領域内に溝の開口部の形状と、を露光する工程と、
前記露光する工程の後で前記フォトレジスト膜を現像する工程と、
前記現像する工程でパターニングされた前記フォトレジスト膜をマスクにしてウェットエッチング法により前記外形形状および前記溝をエッチングする工程と、を含み、
前記溝の前記開口部は、平面視で前記側面の一方の側にずれて形成されることを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水晶振動片の製造方法において、
前記溝は、前記第1の面において前記開口部の中心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線が、前記溝が形成される前の前記振動部の重心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線に対してずれていることを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水晶振動片の製造方法において、
前記エッチングする工程の後で、前記第2の面からエッチングする工程を有することを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水晶振動片の製造方法において、
前記エッチングする工程は、前記第1の面および前記第2の面の両側から同時にエッチングすることを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項5】
基部と、
前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とに連結する一対の側面を有した振動部と、を備え、
前記振動部の前記第1の面には溝が設けられ、
前記溝は、開口部が平面視で前記側面の一方の側にずれており、且つ、前記溝の深さが、前記振動部の前記第1の面から前記第2の面までの厚みの半分よりも深いことを特徴とする水晶振動片。
【請求項6】
請求項5に記載の水晶振動片において、
前記振動部は少なくとも電極を有し、
前記電極の少なくとも一部は、前記溝の内壁に設けられていることを特徴とする水晶振動片。
【請求項7】
請求項5または6に記載の水晶振動片を備えたジャイロセンサー。
【請求項8】
請求項5または6に記載の水晶振動片を備えた電子機器。
【請求項1】
基部と、
前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とを連結する一対の側面を有した振動部と、を備えた水晶振動片の製造方法であって、
水晶基板の前記第1の面にフォトレジスト膜を形成する工程と、
同一のフォトマスクを用いて、前記フォトレジスト膜に前記基部および前記振動部の外形形状と、前記振動部の形成領域内に溝の開口部の形状と、を露光する工程と、
前記露光する工程の後で前記フォトレジスト膜を現像する工程と、
前記現像する工程でパターニングされた前記フォトレジスト膜をマスクにしてウェットエッチング法により前記外形形状および前記溝をエッチングする工程と、を含み、
前記溝の前記開口部は、平面視で前記側面の一方の側にずれて形成されることを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水晶振動片の製造方法において、
前記溝は、前記第1の面において前記開口部の中心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線が、前記溝が形成される前の前記振動部の重心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線に対してずれていることを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水晶振動片の製造方法において、
前記エッチングする工程の後で、前記第2の面からエッチングする工程を有することを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水晶振動片の製造方法において、
前記エッチングする工程は、前記第1の面および前記第2の面の両側から同時にエッチングすることを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項5】
基部と、
前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とに連結する一対の側面を有した振動部と、を備え、
前記振動部の前記第1の面には溝が設けられ、
前記溝は、開口部が平面視で前記側面の一方の側にずれており、且つ、前記溝の深さが、前記振動部の前記第1の面から前記第2の面までの厚みの半分よりも深いことを特徴とする水晶振動片。
【請求項6】
請求項5に記載の水晶振動片において、
前記振動部は少なくとも電極を有し、
前記電極の少なくとも一部は、前記溝の内壁に設けられていることを特徴とする水晶振動片。
【請求項7】
請求項5または6に記載の水晶振動片を備えたジャイロセンサー。
【請求項8】
請求項5または6に記載の水晶振動片を備えた電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−257141(P2012−257141A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129873(P2011−129873)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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