説明

無段変速機のベルトスリップ検出装置

【課題】変速比などが設計範囲内にあるときでも、ベルトのスリップを精度良く検出するようにした無段変速機のベルトスリップ検出装置を提供する。
【解決手段】ドライブプーリとドリブンプーリの間に掛け回されるベルトを備えたCVT(無段変速機)において、検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいてCVTのレシオ(変速比)を所定時間ごとに算出し(S10)、変速比の移動平均値を算出し(S12)、移動平均値と所定時間ごとに算出されるレシオとの差を算出し(S14)、算出された差を第1の所定値と比較し、差が第1の所定値より大きいとき、ベルトがスリップしていると判定する(S16からS20)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は無段変速機のベルトスリップ検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式の無段変速機は金属製のベルトをドライブプーリとドリブンプーリで側方から挟んでトルクを伝達するため、ベルトがスリップしないようにプーリに適正な側圧(クランプ力)を与える必要がある。そのようなベルト式の無段変速機においてベルトのスリップを検出することが特許文献1記載の技術において提案されている。
【特許文献1】特開昭62−2059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1記載の技術においては、ドライブプーリとドリブンプーリの回転数から変速比とその変化速度を算出し、算出された変速比あるいは変速速度が設計範囲を超えるとき、ベルトがスリップしたと判定するように構成していることから、変速比などが設計範囲内にあるときのベルトのスリップを検出できない不都合があった。
【0004】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、変速比などが設計範囲内にあるときでも、ベルトのスリップを精度良く検出するようにした無段変速機のベルトスリップ検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1にあっては、ドライブプーリとドリブンプーリとその間に掛け回されるベルトとを備えた無段変速機において、前記ドライブプーリの回転数を検出するドライブプーリ回転数検出手段と、前記ドリブンプーリの回転数を検出するドリブンプーリ回転数検出手段と、前記検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて前記変速機の変速比を所定時間ごとに算出する変速比算出手段と、前記所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出する移動平均値算出手段と、前記移動平均値と前記所定時間ごとに算出される変速比との差を算出する差算出手段と、前記算出された差を第1の所定値と比較し、前記算出された差が前記第1の所定値より大きいとき、前記ベルトがスリップしていると判定するベルトスリップ判定手段とを備える如く構成した。
【0006】
請求項2にあっては、ドライブプーリとドリブンプーリとその間に掛け回されるベルトとを備えた無段変速機において、前記ドライブプーリの回転数を検出するドライブプーリ回転数検出手段と、前記ドリブンプーリの回転数を検出するドリブンプーリ回転数検出手段と、前記検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて前記変速機の変速比を所定時間ごとに算出する変速比算出手段と、前記所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出する移動平均値算出手段と、前記検出されたドリブンプーリの回転数に前記算出された変速比の移動平均値を乗じてドライブプーリ軸上の前記ベルトの回転数を算出すると共に、前記算出されたドライブプーリ軸上のベルトの回転数と前記検出されたドライブプーリの回転数との差を算出する差算出手段と、前記算出された差を第2の所定値と比較し、前記算出された差が前記第2の所定値より大きいとき、前記ベルトがスリップしていると判定するベルトスリップ判定手段とを備える如く構成した。
【0007】
請求項3に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置にあっては、前記ドライブプーリの入力トルクを算出する入力トルク算出手段と、前記算出された差と入力トルクとから前記ベルトの仕事率を算出する仕事率算出手段と、前記算出されたベルトの仕事率を積算して前記ベルトの発熱量を算出するベルト発熱量算出手段と、前記算出されたベルトの発熱量を第3の所定値と比較し、前記積算されたベルトの発熱量が前記第3の所定値より大きいとき、前記ベルトの負荷を低減するベルト負荷低減動作を実行するベルト負荷低減動作実行手段とを備える如く構成した。
【発明の効果】
【0008】
請求項1にあっては、検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて変速比を所定時間ごとに算出し、その所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出し、移動平均値と所定時間ごとに算出される変速比との差を算出すると共に、算出された差を第1の所定値と比較し、算出された差が第1の所定値より大きいとき、ベルトがスリップしていると判定する如く構成したので、変速比などが設計範囲内にあるときでも、ベルトのスリップを精度良く検出することができる。
【0009】
即ち、発明者達は知見を重ねた結果、後で図5に示す如く、ベルトスリップが生じたとき、変速比と移動平均値の差が大きくなることを見出してこの発明をなしたものであり、第1の所定値として適宜な値を選択して算出された差をそれと比較することで、変速比などが設計範囲内にあるときでも、ベルトのスリップを精度良く検出することができる。
【0010】
請求項2にあっては、同様に変速比を所定時間ごとに算出すると共に、その移動平均値を算出し、検出されたドリブンプーリの回転数に算出された変速比の移動平均値を乗じてドライブプーリ軸上のベルトの回転数を算出すると共に検出されたドライブプーリの回転数との差を算出し、算出された差が第2の所定値より大きいとき、ベルトがスリップしていると判定する如く構成したので、同様に、変速比などが設計範囲内にあるときでも、ベルトのスリップを精度良く検出することができる。
【0011】
即ち、発明者達は知見を重ねた結果、後で図7に示す如く、ベルトスリップが生じたとき、ドライブプーリの回転数とドライブプーリ軸上のベルトの回転数の差が大きくなることを見出してこの発明をなしたものであり、第2の所定値として適宜な値を選択して算出された差をそれと比較することで、変速比などが設計範囲内にあるときでも、ベルトのスリップを精度良く検出することができる。
【0012】
請求項3に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置にあっては、ドライブプーリの入力トルクと算出された差とからベルトの仕事率を算出し、それを積算してベルトの発熱量を算出し、算出されたベルトの発熱量を第3の所定値と比較し、算出されたベルトの発熱量が第3の所定値より大きいとき、ベルトの負荷を低減する如く構成したので、請求項2で述べた効果に加え、ベルトの損傷を一層確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に即してこの発明に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、この発明の第1実施例に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置を全体的に示す概略図である。
【0015】
図1において、符号10は内燃機関(以下「エンジン」という)を示す。エンジン10は、車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)12に搭載される。
【0016】
エンジン10において、吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両12の運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータ(図示せず)からなるDBW(Drive By Wire)機構14に接続されて駆動される。
【0017】
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)16から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト(図示せず)を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0018】
エンジン10のクランクシャフトはドライブプレート20に固定される。ドライブプレート20はフライホイールマスも兼ねるトルクコンバータ22のポンプ・インペラ22aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ22bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。符号22cはロックアップクラッチを示す。
【0019】
トルクコンバータ22の下流には、前後進切換機構24を介して無段変速機(Continuous Variable Transmission。以下「CVT」という)26が接続される。
【0020】
CVT26は、メインシャフトMS上に配置されるドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCS上に配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cからなる。
【0021】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMS上に配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2とからなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0022】
ベルト26cは2束のリングとそのリングに保持される多数の、例えば400個程度のエレメント(後で図5に示す)から構成され、エレメントが順次押されることでドライブプーリ26aからドリブンプーリ26bにトルクが伝達される。
【0023】
前後進切換機構24は、メインシャフトMSに固定されるリングギヤ24aと、CVT26のドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定されるサンギヤ24bと、その間に配置されるピニオンギヤキャリア24cと、リングギヤ24aとサンギヤ24bを締結可能な前進(フォワード)クラッチ24dと、ピニオンギヤキャリア24cを変速機ケース(図示せず)に固定可能な後進(リバース)ブレーキクラッチ24eとからなる。
【0024】
カウンタシャフトCSにはセカンダリドライブギヤ30が固定され、セカンダリドライブギヤ30はセカンダリシャフトSSに固定されたセカンダリドリブンギヤ32と噛合する。セカンダリシャフトSSにはファイナルドライブギヤ34が固定され、ファイナルドライブギヤ34は、ディファレンシャル機構Dのファイナルドリブンギヤ36に噛合される。
【0025】
上記の構成により、カウンタシャフトCSの回転はギヤ30,32を介してセカンダリシャフトSSに伝えられ、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ34,36を介してディファレンシャルDに伝えられ、そこで振り分けられて左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。駆動輪Wの付近にはディスクブレーキ40が配置される。
【0026】
図2はCVT26などの油圧機構を模式的に示す油圧回路図である。
【0027】
図示の如く、油圧機構(符号42で示す)には油圧ポンプ42aが設けられる。油圧ポンプ42aはベーンポンプからなり、エンジン10によって駆動され、リザーバ42bに貯留された作動油を汲み上げてPH制御バルブ(PH REG VLV)42cに圧送する。
【0028】
PH制御バルブ42cの出力(PH圧(ライン圧))は、一方では油路42dから第1、第2のレギュレータバルブ(DR REG VLV, DN REG VLV)42e,42fを介してCVT26のドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室(DR)26a21とドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室(DN)26b21に接続されると共に、他方では油路42gを介してCRバルブ(CR VLV)42hに接続される。
【0029】
CRバルブ42hはPH圧を減圧してCR圧(制御圧)を生成し、油路42iから第1、第2、第3の(電磁)リニアソレノイドバルブ42j,42k,42l(LS-DR, LS-DN, LS-CPC)に供給する。第1、第2のリニアソレノイドバルブ42j,42kはそのソレノイドの励磁に応じて決定される出力圧を第1、第2のレギュレータバルブ42e,42fに作用させ、油路42dから送られるPH圧の作動油を可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室26a21,26b21に供給し、それに応じたプーリ側圧を発生させる。
【0030】
従って、図1に示す構成においては、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生させられてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。このように、プーリの側圧を調整することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
【0031】
CRバルブ42hの出力(CR圧)はCRシフトバルブ(CR SFT VLV)42nにも接続され、そこからマニュアルバルブ(MAN VLV)42oを介して前後進切換機構24の前進クラッチ24dのピストン室(FWD)24d1と後進ブレーキクラッチ24eのピストン室(RVS)24e1に接続される。
【0032】
前進クラッチ24dと後進ブレーキクラッチ24eの動作は、車両12の運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのレンジ(ポジション)を備えるセレクトレバー44を運転者が操作して選択することで決定される。即ち、運転者によってセレクトレバー44のいずれかのレンジが選択されたとき、その選択動作は油圧機構42のマニュアルバルブ42oに伝えられる。
【0033】
例えばD,S,Lレンジ、即ち、前進走行レンジが選択されると、それに応じてマニュアルバルブ42oのスプールが移動し、後進ブレーキクラッチ24eのピストン室24e1から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ24dのピストン室24d1に作動油が供給されて前進クラッチ24dが締結される。前進クラッチ24dが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(車両12が前進する方向に相当する方向)に駆動される。
【0034】
他方、Rレンジ(後進走行レンジ)が選択されると、前進クラッチ24dのピストン室24d1から作動油が排出される一方、後進ブレーキクラッチ24eのピストン室24e1に作動油が供給されて締結される。その結果、ピニオンギヤキャリア24cが変速機ケースに固定され、サンギヤ24bはリングギヤ24aと逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(車両12が後進する方向に相当する方向)に駆動される。
【0035】
また、PあるいはNレンジが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ24dと後進ブレーキクラッチ24eが共に開放され、前後進切換機構24を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0036】
また、PH制御バルブ42cの出力は、油路42pを介してTCレギュレータバルブ(TC REG VLV)42qに送られ、TCレギュレータバルブ42qの出力はLCコントロールバルブ(LC CTL VLV)42rを介してLCシフトバルブ(LC SFT VLV)42sに接続される。LCシフトバルブ42sの出力は一方ではトルクコンバータ22のロックアップクラッチ22cのピストン室22c1に接続されると共に、他方ではその背面側の室22c2に接続される。
【0037】
CRシフトバルブ42nとLCシフトバルブ42sは第1、第2(電磁)オン・オフソレノイド(SOL-A, SOL-B)42u,42vに接続され、その励磁・非励磁によって前進クラッチ24dへの油路の切替えとロックアップクラッチ22cの締結(オン)・開放(オフ)が制御される。
【0038】
ロックアップクラッチ22cにあっては、LCシフトバルブ42sを介して作動油がピストン室22c1に供給される一方、背面側の室22c2から排出されると、ロックアップクラッチ22cが係合(締結。オン)され、背面側の室22c2に供給されると共に、ピストン室22c1から排出されると、解放(非締結。オフ)される。ロックアップクラッチ22cのスリップ量、即ち、係合と解放の間でスリップさせられるときの係合容量は、ピストン室22c1と背面側の室22c2に供給される作動油の量(油圧)によって決定される。
【0039】
先に述べた第3のリニアソレノイドバルブ42lは油路42wとLCコントロールバルブ42rを介してLCシフトバルブ42sに接続され、さらに油路42xを介してCRシフトバルブ42nに接続される。即ち、前進クラッチ24dと、ロックアップクラッチ22cの係合容量(滑り量)は、第3のリニアソレノイドバルブ42lのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
【0040】
図1の説明に戻ると、エンジン10のカムシャフト(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ50が設けられ、ピストンのTDC付近の位置と所定クランク角度位置ごとにパルス信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には吸気圧力センサ52が設けられ、吸気圧力(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0041】
DBW機構14のアクチュエータにはスロットル開度センサ54が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ56が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。
【0042】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ60が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ62が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)TAに応じた出力を生じる。
【0043】
上記したクランク角センサ50などの出力は、エンジンコントローラ64に送られる。エンジンコントローラ64はCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータと波形整形回路などを備える。エンジンコントローラ64は、クランク角センサ50の出力パルス間隔の時間を測定してエンジン回転数NEを検出すると共に、検出されたエンジン回転数NEとその他のセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構14の動作を制御すると共に、燃料噴射量を決定してインジェクタ16を駆動する。
【0044】
メインシャフトMSの付近の適宜位置にはNTセンサ(回転数センサ)66が設けられ、タービン・ランナ22bの回転数に相当する、メインシャフトMSの回転数を示すパルス信号を出力する。
【0045】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)70が設けられてドライブプーリ26aの回転数を示す信号を出力する。
【0046】
セカンダリシャフトSSのセカンダリギヤ32の付近にはVELセンサ(回転数センサ)72が設けられ、セカンダリドリブンギヤ32の回転数を通じてCVT26の出力回転数、即ち、ドリブンプーリ26bの回転数あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したセレクトレバー44の付近にはセレクトレバーセンサ74が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
【0047】
また、油圧機構42において、リザーバ42bには油温センサ76が配置されて作動油の温度(油温)に応じた出力を生じると共に、ドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に接続される油路には油圧センサ78が配置されてピストン室26b21に供給される作動油の圧力(油圧)に応じた出力を生じる。
【0048】
上記したNTセンサ66などの出力は、シフトコントローラ80に送られる。シフトコントローラ80もエンジンコントローラ64と同様にCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータと波形整形回路などを備えると共に、エンジンコントローラ64と通信自在に構成される。シフトコントローラ80は不揮発性メモリ80aを備える。
【0049】
シフトコントローラ80において、NTセンサ66とNDRセンサ70の出力は波形整形回路に入力され、CPUはその出力から回転数を検出する。VELセンサ72の出力は、波形整形回路に入力された後、方向検出回路に入力される。CPUは波形整形回路の出力をカウントしてCVT26の出力(ドリブンプーリ26bの)回転数(と車速)を検出すると共に、方向検出回路の出力からCVT26の回転方向を検出する。
【0050】
シフトコントローラ80はそれら検出値に基づき、CVT26の供給油圧を決定して油圧機構42の電磁ソレノイドバルブ42jなどを励磁・非励磁してCVT26の動作を制御すると共に、トルクコンバータ22のロックアップクラッチ22cと前進クラッチ24dと後進ブレーキクラッチ24eの締結・開放を制御する。
【0051】
さらに、シフトコントローラ80は、CVT26のベルト26cのスリップを検出する。
【0052】
図3はシフトコントローラ80のその動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはシフトコントローラ80によって所定時間、例えば10msecごとに実行される。
【0053】
以下説明すると、S10においてCVT26のレシオ(変速比)を算出する。
【0054】
これは、NDRセンサ70とVELセンサ72の出力から検出されたドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bの回転数に基づき、より具体的にはドライブプーリ26aの回転数をドリブンプーリ26bの回転数で除算して得た商をレシオとすることで行う。図3フロー・チャートは10msecごとに実行されることから、S10では変速比が所定時間(10msec)ごとに算出される。
【0055】
次いでS12に進み、レシオの移動平均値を算出し、S14に進み、算出されたレシオの移動平均値とレシオの1つとの差を算出し、S16に進み、算出された差が第1の所定値より大きいか否か判断する。
【0056】
S16で肯定されたときはS18に進み、所定時間が経過、即ち、S16で肯定される状態が所定時間継続したか否か判断し、肯定されるときはS20に進み、ベルト26cがスリップしたと判定する。一方、S16あるいはS18で否定されるときはS22に進み、ベルト26cはスリップしていないと判定する。
【0057】
図4は図3フロー・チャートの処理を説明する説明図、図5は図3フロー・チャートの処理におけるレシオとその移動平均値を示すタイム・チャートである。
【0058】
図4に示す如く、32周期前(制御周期(10msec)が32回前)に算出されたレシオから0周期前(現在)までに算出された33個のレシオをRAMのバッファに順次格納しておき、33個のレシオの移動平均値を算出、即ち、33個のレシオを合計して33で除算して平均値を算出する。
【0059】
次いでレシオの1つ、例えば中間の16周期前のレシオと33個のレシオの移動平均値との差を算出し、算出された差が第1の所定値より大きいとき、ベルト26cがスリップしたと判定する。
【0060】
即ち、発明者達は知見を重ねた結果、図5に示す如く、ベルトスリップが生じたとき、変速比と移動平均値の差が大きくなることを見出してこの発明をなしたものである。従って、第1の所定値として適宜な値を選択して算出された差をそれと比較することで、レシオが設計範囲内にあるときでも、ベルト26cのスリップを精度良く検出することができる。
【0061】
図3フロー・チャートの説明に戻ると、S18で差が第1の所定値より大きいと判断される状態が所定時間経過したか否か判断するのは、S16でたまたま肯定されるような一過性の事象を排除して検出精度を上げるためである。図3フロー・チャートは10msecごとに実行されることから、所定時間がそれを超える場合、所定時間の経過はカウンタを利用するなどして判断する。
【0062】
またS20に進み、ベルトスリップありと判定されるときはベルト26cの負荷を低減させるベルト負荷低減動作を行うと共に、警告灯(図示せず)を点灯させるかブザー(図示せず)を鳴動させるなどしてユーザに警告する。尚、S22に進むときは、通常の制御を実行する。
【0063】
ベルト負荷低減動作は具体的には、CVT26の入力トルクの規制、エンジン回転数NEの規制、レシオの規制、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bへの供給油圧の昇圧などである。レシオの規制は、最もハイあるいは最もローとなる位置を避けることで行う。
【0064】
第1実施例にあっては、上記の如く、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bとその間に掛け回されるベルト26cとを備えたCVT(無段変速機)26において、前記ドライブプーリ26aの回転数を検出するNDRセンサ(ドライブプーリ回転数検出手段)70と、前記ドリブンプーリ26bの回転数を検出するVELセンサ(ドリブンプーリ回転数検出手段)72と、前記検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて前記CVT26のレシオ(変速比)を所定時間(10msec)ごとに算出する変速比算出手段(シフトコントローラ80,S10)と、前記所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出する移動平均値算出手段(シフトコントローラ80,S12)と、前記移動平均値と前記所定時間ごとに算出されるレシオとの差を算出する差算出手段(シフトコントローラ80,S14)と、前記算出された差を第1の所定値と比較し、前記算出された差が前記第1の所定値より大きいとき、前記ベルト26cがスリップしていると判定するベルトスリップ判定手段(シフトコントローラ80,S16からS20)とを備える如く構成したので、レシオなどが設計範囲内にあるときでも、ベルト26cのスリップを精度良く検出することができる。
【0065】
また、ベルトスリップありと判定されるときは、ベルト26cの負荷を低減させるベルト負荷低減動作を行うと共に、ユーザに警告するように構成したので、ベルト26cの破損を効果的に防止することができる。
【実施例2】
【0066】
図6は、この発明の第2実施例に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置の動作を示す、図3と同様のフロー・チャートである。図6に示すプログラムもシフトコントローラ80によって所定時間、例えば10msecごとに実行される。
【0067】
以下説明すると、S100においてレシオ(変速比)を算出し、S102に進み、レシオの移動平均値を算出する。これらの算出のしかたは第1実施例と同様である。
【0068】
次いでS104に進み、検出されたドリブンプーリ26bの回転数に、算出されたレシオの移動平均値を乗じてドライブプーリ26aの軸上のベルト26cの回転数を算出すると共に、算出されたドライブプーリ26aの軸上のベルト26cの回転数と検出されたドライブプーリ26aの回転数との差を算出する。
【0069】
次いでS106に進み、算出された差を第2の所定値と比較し、算出された差が第2の所定値より大きいか否か判断し、肯定されるとき、S108に進み、第1実施例で述べたのと同様の理由から所定時間が経過、即ち、S106で肯定される状態が所定時間継続したか否か判断する。
【0070】
S108で肯定されるときはS110に進み、ベルト26cがスリップしたと判定する。一方、S106あるいはS108で否定されるときはS112に進み、ベルト16cはスリップしていないと判定する。
【0071】
図7は図6フロー・チャートの処理を説明する説明図である。
【0072】
即ち、発明者達は知見を重ねた結果、図7に示す如く、ベルトスリップが生じたとき、ドライブプーリ26aの回転数とドライブプーリ軸上のベルト26cの回転数の差が大きくなることを見出してこの発明をなしたものである。従って、第2の所定値として適宜な値を選択して算出された差をそれと比較することで、レシオが設計範囲内にあるときでも、ベルト26cのスリップを精度良く検出することができる。
【0073】
尚、図6フロー・チャートのS110においてベルトスリップありと判定されるときはベルト26cの負荷を低減させるベルト負荷低減動作を行うと共に、ユーザに警告する一方、S112に進むときは通常の制御を実行することは第1実施例と同様である。
【0074】
図8は、図6フロー・チャートと平行してシフトコントローラ80によって所定時間、例えば10msecごとに実行される動作を示すフロー・チャートである。
【0075】
以下説明すると、S200においてプーリ、即ち、ドライブプーリ26aの入力トルクを算出する。入力トルクは具体的には、エンジン10の出力トルクとトルクコンバータ22の伝達トルクと前進クラッチ24dが伝達するトルクを勘案して決定されるトルク、例えば3つの値の中で最大のトルクを選択することで算出する。
【0076】
エンジン10の出力トルクは、検出されたエンジン回転数NEと吸気圧力(負荷)PBAから適宜なマップを検索してトルクを算出し、それにトルクコンバータ22のトルク比(検出されたエンジン回転数NEとメインシャフトMSの回転数からマップ検索して算出)を乗じることで、算出される。
【0077】
トルクコンバータ22の伝達トルクは、同様に検出されたエンジン回転数NEとメインシャフトMSの回転数から適宜なマップを検索して算出される。また、前進クラッチ24dが伝達するトルクは、NTセンサ66から検出されるメインシャフトMSの回転数とNDRセンサ70から検出されるドライブプーリ26aの回転数(前進クラッチ24dの入力軸回転数)とから前進クラッチの締結状態を判定することで行う。
【0078】
次いでS202に進み、S200で算出された入力トルクと、図6フロー・チャートのS104で算出されたドライブプーリ26aの軸上のベルト26cの回転数と検出されたドライブプーリ26aの回転数との差とからベルト26cの仕事率を算出する。
【0079】
次いでS204に進み、算出されたベルト26cの仕事率を積算してベルト26cの発熱量を算出し、S206に進み、算出されたベルトの発熱量を第3の所定値と比較し、算出されたベルトの発熱量が第3の所定値より大きいか否か判断する。
【0080】
肯定されるときは208に進み、図6フロー・チャートと同様、ベルト26cの負荷を低減させるベルト負荷低減動作とユーザへの警告を行う一方、否定されるときはS210に進んで通常の制御を実行する。
【0081】
第2実施例にあっては、上記の如く、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bとその間に掛け回されるベルト26cとを備えたCVT(無段変速機)26において、前記ドライブプーリ26aの回転数を検出するNDRセンサ(ドライブプーリ回転数検出手段)70と、前記ドリブンプーリ26bの回転数を検出するVELセンサ(ドリブンプーリ回転数検出手段)72と、前記検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて前記CVT26のレシオ(変速比)を所定時間(10msec)ごとに算出する変速比算出手段(シフトコントローラ80,S100)と、前記所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出する移動平均値算出手段(シフトコントローラ80,S102)と、前記検出されたドリブンプーリ26bの回転数に前記算出されたレシオの移動平均値を乗じてドライブプーリ軸上の前記ベルト26cの回転数を算出すると共に、前記算出されたドライブプーリ軸上のベルト26cの回転数と前記検出されたドライブプーリ26aの回転数との差を算出する差算出手段(シフトコントローラ80,S104)と、前記算出された差を第2の所定値と比較し、前記算出された差が前記第2の所定値より大きいとき、前記ベルト26cがスリップしていると判定するベルトスリップ判定手段(シフトコントローラ80,S106からS110)とを備える如く構成したので、第1実施例と同様に、レシオが設計範囲内にあるときでも、ベルト26cのスリップを精度良く検出することができる。
【0082】
また、ベルトスリップありと判定されるときは、ベルト26cの負荷を低減させるベルト負荷低減動作を行うと共に、ユーザに警告するように構成したので、ベルト26cの破損を効果的に防止することができる。
【0083】
また、前記ドライブプーリ26aの入力トルクを算出する入力トルク算出手段(シフトコントローラ80,S200)と、前記算出された差と入力トルクとから前記ベルト26cの仕事率を算出する仕事率算出手段(シフトコントローラ80,S202)と、前記されたベルト26cの仕事率を積算してベルトの発熱量を算出するベルト発熱量算出手段(シフトコントローラ80,S204)と、前記算出されたベルトの発熱量を第3の所定値と比較し、前記算出されたベルトの発熱量が前記第3の所定値より大きいとき、前記ベルト26cの負荷を低減するベルト負荷低減動作を実行するベルト負荷低減動作実行手段(シフトコントローラ80,S206からS208)とを備える如く構成したので、ベルト26cの損傷を一層確実に防止することができる。
【0084】
尚、第1実施例において32周期前までの33個のレシオを対象として移動平均値を算出すると共に、16回前のレシオとの差を算出するようにしたが、移動平均値の対象の個数は例示であり、33個以上でも以下でも良く、例えば運転状態に応じて増減して21個程度にしても良い。
【0085】
また、レシオの1つと移動平均値との差の算出に際しては、33個の中間の周期前のレシオを選択したが、中間の周期の値に限定されるものではなく、その前後の周期の値であっても良い。
【0086】
また、第1、第2実施例において第1、第2の所定値を運転状態に応じて変更しても良い。所定時間についても同様である。
【0087】
また、第2実施例において差回転を第1実施例と同様にレシオの移動平均値を用いて算出したが、移動平均値に代え、1次遅れフィルタを用いて算出しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明の実施例に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示すCVT(変速機)などの油圧機構を模式的に示す油圧回路図である。
【図3】図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートの処理を説明する説明図である。
【図5】図3フロー・チャートの処理におけるレシオとその移動平均値を示すタイム・チャートである。
【図6】この発明の第2実施例に係る無段変速機のベルトスリップ検出装置の動作を示す、図3と同様のフロー・チャートである。
【図7】図3フロー・チャートの処理を説明する説明図である。
【図8】図6フロー・チャートと平行して実行される動作を示すフロー・チャートである。
【符号の説明】
【0089】
10 内燃機関(エンジン)、12 車両、22 トルクコンバータ、24 前後進切換機構、24a リングギヤ、24b サンギヤ、24c ピニオンギヤキャリア、24d 前進クラッチ、24e 後進ブレーキクラッチ、26 無段変速機(CVT)、26a ドライブプーリ、26b ドリブンプーリ、26c ベルト、26c1 エレメント、42 油圧機構、44 セレクトレバー、64 エンジンコントローラ、66 NTセンサ、70 NDRセンサ、72 VELセンサ、80 シフトコントローラ、MS メインシャフト、CS カウンタシャフト、SS セカンダリシャフト、D ディファレンシャル、W 駆動輪(タイヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブプーリとドリブンプーリとその間に掛け回されるベルトとを備えた無段変速機において、
a.前記ドライブプーリの回転数を検出するドライブプーリ回転数検出手段と、
b.前記ドリブンプーリの回転数を検出するドリブンプーリ回転数検出手段と、
c.前記検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて前記変速機の変速比を所定時間ごとに算出する変速比算出手段と、
d.前記所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出する移動平均値算出手段と、
e.前記移動平均値と前記所定時間ごとに算出される変速比との差を算出する差算出手段と、
f.前記算出された差を第1の所定値と比較し、前記算出された差が前記第1の所定値より大きいとき、前記ベルトがスリップしていると判定するベルトスリップ判定手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機のベルトスリップ検出装置。
【請求項2】
ドライブプーリとドリブンプーリとその間に掛け回されるベルトとを備えた無段変速機において、
a.前記ドライブプーリの回転数を検出するドライブプーリ回転数検出手段と、
b.前記ドリブンプーリの回転数を検出するドリブンプーリ回転数検出手段と、
c.前記検出されたドライブプーリとドリブンプーリの回転数に基づいて前記変速機の変速比を所定時間ごとに算出する変速比算出手段と、
d.前記所定時間ごとに算出される変速比の移動平均値を算出する移動平均値算出手段と、
e.前記検出されたドリブンプーリの回転数に前記算出された変速比の移動平均値を乗じてドライブプーリ軸上の前記ベルトの回転数を算出すると共に、前記算出されたドライブプーリ軸上のベルトの回転数と前記検出されたドライブプーリの回転数との差を算出する差算出手段と、
f.前記算出された差を第2の所定値と比較し、前記算出された差が前記第2の所定値より大きいとき、前記ベルトがスリップしていると判定するベルトスリップ判定手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機のベルトスリップ検出装置。
【請求項3】
g.前記ドライブプーリの入力トルクを算出する入力トルク算出手段と、
h.前記算出された差と入力トルクとから前記ベルトの仕事率を算出する仕事率算出手段と、
i.前記算出されたベルトの仕事率を積算して前記ベルトの発熱量を算出するベルト発熱量算出手段と、
j.前記算出されたベルトの発熱量を第3の所定値と比較し、前記算出されたベルトの発熱量が前記第3の所定値より大きいとき、前記ベルトの負荷を低減するベルト負荷低減動作を実行するベルト負荷低減動作実行手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の無段変速機のベルトスリップ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−78022(P2010−78022A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245660(P2008−245660)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】