説明

熱硬化性組成物及び光半導体封止材

【課題】優れた透明性、耐光性、耐熱性を有するシリコーン骨格の側鎖にエポキシ単位を有する有機基を導入した変性ポリシロキサンを含有する光半導体封止用として好適な熱硬化性組成物の提供。
【解決手段】(A)ポリスチレン換算分子量が20,000以上1,000,000以下である成分を0.2%以上10%以下含有し、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する変性ポリシロキサン 100質量部、(B)硬化剤 0.1〜150質量部、(C)触媒 0〜5質量部を含有してなる熱硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物及びそれを用いた光半導体封止材に関するものである。さらに詳しくは、透明性、耐光性、耐熱性の高い強靭な硬化物が得られ、光半導体封止用として好適な熱硬化性組成物、該熱硬化性組成物を用いた光半導体封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
発光波長が250nm〜550nmの青色発光或いは紫外線発光の発光ダイオード(以下「LED」と称す)に関しては、近年、GaN、GaAlN、InGaN及びInAlGaN等のGaN系化合物半導体を利用した高輝度の製品が得られるようになり、赤色、緑色発光LEDと組み合わせることで高画質なフルカラー画像が形成可能となった。また、青色発光LEDや紫外線発光LEDと蛍光体の組み合わせにより、白色発光のLEDも得られ、液晶ディスプレイのバックライトや一般照明用として実用化されてきている。
【0003】
従来、赤色、緑色発光LEDの発光素子用封止剤としては、接着性が高く力学的な耐久性が優れている、酸無水物系硬化剤を含有するエポキシ樹脂が広く用いられている。しかし、前記エポキシ樹脂系封止剤は青色から紫外の低波長領域の光に対する光線透過率が低い、また、光劣化による着色が生じやすく低波長領域の光に対する耐光性が低い、等の問題点を有していた。
これらの課題を解決するために、脂環式炭化水素系エポキシ樹脂を用いたいくつかの提案がなされているが(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)、未だその耐光性レベルは十分とはいえなかった。
【0004】
一方、低波長領域の光に対する耐光性が高いシロキサン骨格を有し、側鎖にエポキシ単位を有する有機基を導入した変性ポリシロキサン組成物を用いる方法(特許文献4、特許文献5、特許文献6等)が開示されている。これらの公報によれば、シロキサン骨格の側鎖にエポキシ単位を有する有機基を導入した変性ポリシロキサンと硬化剤とを含有する組成物を熱硬化して得られる硬化物は、耐光性を有すると共に、耐熱性に優れ、使用時において軟化することがない旨が開示されている。
【0005】
特に、シロキサン骨格の側鎖にエポキシ単位を有する有機基を導入した変性ポリシロキサンと硬化剤とを含有する組成物は、上述した白色LED、液晶ディスプレイのバックライト、一般照明等の外気にさらされる用途、或いは、長時間連続して用いられる用途向けの発光素子に対する接着性が改善される旨が記載されている。しかしながら、該組成物を熱硬化する際、ガラス転移温度を上げるためにエポキシ導入量を増やすと着色が生じる場合があり、透明性、耐光性、耐熱性に問題が生じる場合があった。しかし、該公報には、硬化物の着色を抑制しながらガラス転移温度を上げる方法に関する記載や示唆は一切なされていない。
また、一般にシロキサン骨格の側鎖にベンゼン環を導入する事により耐熱性を向上させられる事が知られているが、ベンゼン環は紫外波長領域に吸収を有するため耐光性に悪影響を与える事が懸念される。
【0006】
【特許文献1】特開平11−274571号公報
【特許文献2】特開2000−196151号公報
【特許文献3】特開2002−226551号公報
【特許文献4】特開2004−155865号公報
【特許文献5】特開2004−289102号公報
【特許文献6】特開2005−343998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた透明性、耐光性、耐熱性を有するシリコーン骨格の側鎖にエポキシ単位を有する有機基を導入した変性ポリシロキサンを含有する光半導体封止用として好適な熱硬化性組成物を提供することを目的とする。更に詳しくは、該熱硬化性組成物の硬化物の着色を抑制しながらガラス転移温度を上げる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、重量平均分子量が20,000以上1,000,000以下の成分を0.2%以上10%以下含有し、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する変性ポリシロキサンを用いる事によって、上記課題を解決できる事を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下に記載の変性ポリシロキサンを含有する熱硬化性組成物、該熱硬化性組成物を用いた光半導体封止材を提供するものである。
【0009】
[1] (A)ポリスチレン換算分子量が20,000以上1,000,000以下である成分を0.2%以上10%以下含有し、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する変性ポリシロキサン 100質量部
(B)硬化剤 0.1〜150質量部
(C)触媒 0〜5質量部
を含有してなる熱硬化性組成物。
[2] (A)成分のエポキシ当量が250以上500以下である上記[1]記載の熱硬化性組成物。
[3] (A)成分の粘度が50,000mPa・s以下である上記[1]又は[2]記載の熱硬化性組成物。
[4] (A)成分が、1分子中に少なくとも2個のエポキシシクロヘキシル基を有する変性ポリシロキサン(A’)を含む上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
[5] (B)成分が、酸無水物を含むことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
[6] (C)成分が、アミン化合物、有機ホスフィン化合物、アルミニウムキレート化合物から選択される1種以上の化合物を含むことを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
[7] 更に、
(D)1分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物を30質量部以下配合することを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
[8] 更に、
(E)有機樹脂を50質量部以下配合することを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
[9] 上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物からなる光半導体封止材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた透明性、耐光性、耐熱性を有する硬化物を得ることができる。さらには硬化物の着色を抑制しながらガラス転移温度を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の(A)成分である変性ポリシロキサンは、エポキシ単位を有する有機基を1分子中に2個以上有することが必要である。変性ポリシロキサン1分子中のエポキシ単位を有する有機基が2個未満である場合には、硬化物を得ることができない。変性ポリシロキサンとしては、硬化物の耐熱性が向上する点において、エポキシ単位を有する有機基を1分子中に3個以上含有することがより好ましい。
【0012】
本発明の変性ポリシロキサンの構造は、直鎖状、環状、分岐状、ラダー状の何れでもよい。該変性ポリシロキサンの構造(以下、本願明細書においては、平均組成式を示す。)を具体的に例示すると、次の一般式(1)で示される構造であり、これら変性ポリシロキサンは1種又は2種以上の混合物であってもよい。
【0013】
(RSiO1/2)(RSiO2/2)(RSiO3/2)(SiO4/2) ・・・(1)
[上記R〜Rは、複数の同様の構造単位においても各々独立に選択することが可能であり、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、無置換又は置換された炭素数が1以上25以下の鎖状、環状及び分岐状からなる群から選ばれる1種以上の構造からなるアルキル単位と酸素原子数が0以上5以下とからなるエポキシ単位を含有しない有機基、エポキシ単位を必須構成単位として含有する炭素数が3以上25以下、且つ酸素原子数が1以上5以下からなる無置換又は置換された、鎖状、分岐状、環状からなる群から選ばれる1種以上の構造からなる1価の有機基を表す。また、M、D、T、Qは、各々該当する構造単位の数を表す0以上の整数である。上記のRa〜Rf、並びに、M、D、T、Qは、変性ポリシロキサンがエポキシ単位を有する有機基を1分子中に2個以上有し、本発明における変性ポリシロキサン中の分子量20,000以上1,000,000以下である成分を0.2%以上10%以下含有する範囲から適宜選択される。]
【0014】
ここで、上記の有機基は、前記の炭素数及び酸素原子数の範囲内であれば、有機基として鎖状及び/又は分岐状のアルキル基、鎖状及び/又は分岐状のアルケニル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコシキル基、アシル基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基、アミノ基を含有していてもよく、更に、上記の有機基の構造中にアミド基、アミノキシ基、メルカプト基、酸無水物基、カルボニル基、糖類、オキサゾリン基、イソシアネート基等を含有していてもよい。また、各構造単位はこれらの有機基を介して結合していてもよい。結合している場合には、有機基は結合数に応じた価数を有する。
【0015】
本発明に使用される変性ポリシロキサンとしては、耐光性が良好となるという点で、上記Ra〜Rfの総数に対するアリール単位、アラルキル単位、或いは、アルケニル単位を含有するRa〜Rfの合計数は30%以下であることが好ましく、10%以下であることが更に好ましく、5%以下であることがより好ましく、全く含まないことが特に好ましい。
本発明の変性ポリシロキサンのエポキシ当量[1当量のエポキシ単位を有する変性ポリシロキサンの質量(g)]は、通常、90以上2,250以下の範囲である。硬化後に得られる硬化物において十分な架橋密度が得られ、耐光性や耐熱性等の特性が向上する点で、エポキシ当量としては、2,000以下の範囲が好ましく、1,000以下の範囲が更に好ましく、500以下の範囲が特に好ましい。一方、硬化組成物の保存安定性を高める点において、エポキシ当量は100以上の範囲が好ましく、190以上の範囲が更に好ましく、250以上の範囲が特に好ましい。
【0016】
本発明の変性ポリシロキサンが含有するエポキシ基はどのような構造を有していても良いが、耐熱性を向上させる上でエポキシシクロヘキシル基であることが好ましい。
本発明の変性ポリシロキサンの粘度は、流動性等に起因する取り扱い性や加工性を向上させる上で、25℃において、好ましくは、50,000mPa・s以下、更に好ましくは40,000mPa・s以下、より好ましくは30,000mPa・s以下の範囲である。変性ポリシロキサンの粘度の下限値は、特に限定されないが実質的には100mPa・s以上である。
【0017】
本発明に使用されるエポキシ基を有する変性ポリシロキサンは従来公知の方法、例えば、(a−1)Si−H基を含有するオルガノポリシロキサンを基質としてヒドロシリル化反応によってエポキシ単位を有する有機基を導入する方法、(a−2)オルガノハロシランやオルガノアルコキシシラン等の縮合反応性基を含有するオルガノシロキサンを基質として、必要に応じて加水分解した後、縮合反応に供することよって、エポキシ単位を有する有機基を導入する方法、更に(a−3)エポキシ単位を有する有機基を含有する環状オルガノシロキサンを必要に応じて分子内にSi−H基を含有、又は含有しない鎖状のシロキサン類共存下で、開環重合する方法等で合成する方法、(a−4)前記(a−1)、(a−2)、(a−3)記載の方法によって得られる変性ポリシロキサン類を再平衡化反応によって合成する等の方法により製造することが可能である。これらの内、(a−1)又は(a−2)の方法、或いは、(a−1)及び/又は(a−2)の方法によって得られる変性ポリシロキサン類を、必要に応じて(a−3)の方法で再平衡化反応に供して前記とは異なる構造を有する変性ポリシロキサンを製造する方法は、簡便な操作で耐光性に優れる変性ポリシロキサンを製造することが可能であるため好ましい方法である。
【0018】
ここで、本発明における特定の分子量成分の含有量について説明する。本発明における分子量20,000以上1,000,000以下の成分の含有量は、単分散ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られる溶出曲線において、変性ポリシロキサンの溶出開始点と溶出終了点を結んで得られる該溶出ピーク面積(ピーク面積1)に対する、該溶出ピーク面積の内の標準物質から算出される分子量20,000以上1,000,000以下に相当するピークの面積(ピーク面積2)の比率を百分率で表した数値[すなわち、(ピーク面積2)/(ピーク面積1)×100(%)で表される数値]のことをさす。
【0019】
本発明の変性ポリシロキサン中に含有される分子量20,000以上1,000,000以下の成分の含有量は、0.2%以上10%以下の範囲であることが好ましい。0.2%未満ではガラス転移温度を向上させる効果が十分ではなく、10%を超える場合には粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となる。
本発明における特定の分子量成分を導入する方法としては、既に記載した(a−1)から(a−4)の方法によって特定の分子量成分を合成し混合する方法、(a−1)の方法においてヒドロシリル化反応終了後にSi−H基を残留させ、次に残留したSi−H基とエポキシ基を反応させる方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の(B)成分である硬化剤は、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、ダイマー酸変性エチレンジアミン、N−エチルアミノピペラジン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミン類、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェノルスルホン、4,4’ −ジアミノジフェノルメタン、4,4’−ジアミノジフェノルエーテル等の芳香族アミン類、メルカプトプロピオン酸エステル、エポキシ樹脂の末端メルカプト化合物等のメルカプタン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4−(1−(4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラック等のフェノール樹脂類、前記フェノール樹脂類の芳香環を水素化したポリオール類、ポリアゼライン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物等の脂環式酸無水物類、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の芳香族酸無水物類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類およびその塩類、上記脂肪族アミン類、芳香族アミン類、及び/またはイミダゾール類とエポキシ樹脂との反応により得られるアミンアダクト類、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジン類、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、ジシアンジアミド等が挙げられる。
【0021】
これらの内、硬化物の透明性が高いことから酸無水物類が好ましく、更に加えて硬化物の耐光性が高まることから、脂環式酸無水物類が更に好ましく、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物がより好ましく用いられる。
これらの硬化剤は1種又は2種以上の混合物として用いることが可能である。硬化剤の使用量は、変性ポリシロキサン100質量部に対して0.1質量部以上150質量部以下用いることが好ましく、1質量部以上100質量部以下用いることがより好ましい。
【0022】
本発明の(C)成分である触媒としては、(A)成分と(B)成分の反応を促進させるものであり、アミン化合物、有機ホスフィン化合物、アルミニウムキレート化合物等が挙げられる。
具体的には、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類およびその塩類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、トリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩類、アミノトリアゾ−ル類、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート等の錫系、オクチル酸亜鉛等の亜鉛系、アルミニウム、クロム、コバルト、ジルコニウム等のアセチルアセトナート等の金属触媒類等が挙げられる。また、市販品としてはサンアプロ社製U−CAT SA 102,U−CAT 18X,U−CAT 410、日本化学工業製ヒシコーリン PX−4ET,ヒシコーリン PX−4MPなどが挙げられる。これらの触媒は1種又は2種以上の混合物として用いることが可能である。
この触媒の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜5質量部であり、好ましくは0.01〜5質量部、特に好ましくは0.01〜1質量部である。0.01質量部未満であると、硬化性が悪くなる場合があり、5質量部を超えると硬化後の黄変や耐湿性が悪化する。
【0023】
本発明においては、さらに応力緩和性や接着性等を付与する目的で(D)1分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物を加えても良い。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの二価アルコール、グリセリン、エリトリトール、トリメチロールプロパンなどの三価以上のアルコール等が挙げられる。中でも、その効果が顕著に発現される点で、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンが好ましい。
【0024】
これら1分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜30質量部、好ましくは0〜15質量部である。30質量部を超えると硬化物のガラス転移温度を低下させるおそれがある。なお、その効果を有効に発現させる点からは、(A)成分100質量部に対し、1質量部以上、特に2質量部以上であることが好ましい。
【0025】
本発明においては、更に密着性、可撓性等を付与する目的で(E)有機樹脂を配合してもよい。有機樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。特に、他の成分と反応可能な基を有するものが好ましく、エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂としては液状のものが好ましく、具体的には、ビスA型エポキシ樹脂、ビスF型エポキシ樹脂、水添型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。
この有機樹脂の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜50質量部、好ましくは0〜25質量部である。50質量部を超えると硬化後の黄変や耐湿性が悪化するおそれがある。なお、有機樹脂を配合する場合、その効果を有効に発現させる点からは、(A)成分100質量部に対し、5質量部以上、特に10質量部以上であることが好ましい。
【0026】
本発明の熱硬化性組成物に好ましく用いられる無機フィラーは、透過性への悪影響を避けるため、使用するLEDの波長以下の平均粒子径を有するものであり、更に好ましくは、前記平均粒子径が100nm以下のものである。無機フィラーは、例えば機械的物性を改善するためや熱伝導性を向上させる場合がある。
本発明の熱硬化性組成物に好ましく用いられるシランカップリング剤は、芳香族基やハロゲン原子を有さない化合物である。
本発明の熱硬化性組成物は、上記成分以外に必要に応じて、消泡剤、着色剤、蛍光体、変性剤、変色防止剤、光拡散剤、離型剤、希釈剤等の従来公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0027】
本発明の熱硬化性組成物を用いて封止した光半導体の発光波長は、赤外から赤色、緑色、青色、紫色、紫外まで幅広く用いることができ、従来の封止材では耐光性が不足して劣化してしまう250nm〜550nmの波長の光まで実用的に用いることができる。これにより、長寿命で、エネルギー効率が高く、色再現性の高い白色発光ダイオード等の光半導体装置を得ることができる。本発明における発光波長とは、主発光ピーク波長のことをいう。
【0028】
本発明の熱硬化性組成物を用いて光半導体を製造する場合、発光素子を本発明の硬化性組成物のみで封止することもできるが、他の封止材を併用して封止することも可能である。他の封止材を併用する場合、本発明の熱硬化性組成物で封止した後、その周囲を他の封止材で封止する、或いは、他の封止材で封止した後、その周囲を本発明の熱硬化性組成物で封止することも可能である。他の封止材としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレア樹脂、イミド樹脂、ガラス等が挙げられる。
【0029】
本発明の熱硬化性組成物で発光素子を封止する方法としては、例えば、モールド型枠中に熱硬化性組成物を予め注入し、そこに発光素子が固定されたリードフレーム等を浸漬した後に硬化させる方法、発光素子を挿入した型枠中に熱硬化性組成物を注入し、硬化する方法等が挙げられる。この際、熱硬化性組成物を注入する方法としては、ディスペンサーによる注入、トランスファー成形、射出成形等が挙げられる。更にその他の封止方法としては、熱硬化性組成物を発光素子上へ滴下、孔版印刷、スクリーン印刷、或いは、マスクを介して塗布し硬化させる方法、低部に発光素子を配置したカップ等に熱硬化性組成物をディスペンサー等により注入し、硬化させる方法等が挙げられる。本発明の熱硬化性組成物は、発光素子をリード端子やパッケージに固定するダイボンド材、発光素子上のパッシベーション膜、パッケージ基板として用いることもできる。封止部分の形状は、例えば、砲弾型のレンズ形状、板状、薄膜状等が挙げられる。
【0030】
本発明の熱硬化性組成物を用いた光半導体は、従来公知の方法で性能の向上を図ることができる。性能の向上方法としては、例えば、発光素子背面に光の反射層或いは集光層を設ける方法、補色着色部を底部に形成する方法、主発光ピークより短波長の光を吸収する層を発光素子上に設ける方法、発光素子を封止した後更に硬質材料でモールディングする方法、発光ダイオードを貫通孔に挿入して固定する方法、発光素子をフリップチップ接続等によってリード部材等と接続して基板方向から光を取り出す方法等が挙げられる。
本発明の熱硬化性組成物を用いた光半導体は、例えば、液晶ディスプレイ等のバックライト、照明、各種センサー、プリンター、コピー機等の光源、車両用計器光源、信号灯、表示灯、表示装置、面状発光体の光源、ディスプレイ、装飾、各種ライト等として有用である。
【実施例】
【0031】
本発明について、以下具体的に説明する。
各種物性の評価は、以下に示す方法により実施する。
(1)分子量
東ソー製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置8020GPCシステムを用い、以下の条件により求める。
変性ポリシロキサンの5質量%クロロホルム溶液を調整し、その後、0.45μmのフィルターにて濾過したものを測定試料溶液とする。
カラム温度40℃にて、溶離液(クロロホルム)を流量1ml/分の条件下でカラム[カラム構成は、ガードカラムとして東ソー製TSKガードカラムH−Hを用い、東ソー製TSKgel G5000H、及び東ソー製TSKgel G3000H、東ソー製TSKgel G1000Hの各1本ずつを直列に配置]を通し、PolymerLaboratories社製の分子量7,500,000、2,560,000、841,700、320,000、148,000、59,500、28,500、10,850、2,930、580の分子量既知の単分散ポリポリスチレン標準物質、及びスチレンモノマー(分子量104)のRI検出による溶出時間から求めた検量線を予め作成する。測定試料溶液の溶出時間と検出強度から分子量を算出すると共に、前記溶出曲線における変性シリコーンに基づくピークの総面積と分子量20,000以上1,000,000以下の成分に基づくピークの面積の比率から分子量20,000以上1,000,000以下の成分の含有量を算出する。
【0032】
(2)反応進行の確認
反応の進行は重水素化クロロホルム溶媒に反応溶液を溶解した測定試料を用いて、核磁気共鳴装置(日本電子製α−400)にて400MHzの1H−NMRの測定を行い、得られたSi−Hのピーク(4.6ppm)の変化からSi−Hの転化率を確認する。
【0033】
(3)エポキシ当量
エポキシ当量とは1当量のエポキシ単位を有する変性シリコーンの質量(g)であり、JISK−7236に準拠して求める。
【0034】
(4)初期光線透過率
厚さ2mmの硬化物を用い、400nmの光線透過率を分光光度計(日本分光製JASCOV−550)により測定する。光線透過率が85%以上を○、70%以上85%未満を△、70%未満を×とする。
【0035】
(5)耐光性
光ファイバーを経由してUV照射装置(ウシオ電機製:SP−7)から50℃一定にした恒温乾燥機中の厚さ2mmの硬化物にUV光を照射できるようにセットする。
365nmバンドパスフィルターを用いて、330〜410nmの光を、4W/cmになるように照射する。照射開始後、100時間以上硬化物が着色しないものを○、60時間以上100時間未満で着色するものを△、60時間未満で着色するものを×とする。
【0036】
(6)ガラス転移温度
50mm×5mm×2mmの短冊状のサンプルを成形し、動的粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ製:EXSTER6000)を使用して、曲げモードで2℃/分の速度で昇温させて、Tanδのピーク温度を求めてガラス転移温度とする。
(7)耐熱性
(6)で測定したガラス転移温度が160℃以上のものを○、160℃未満のものを×とする。
【0037】
(8)熱衝撃性
20mm×20mm×2mmの平板の中央に10mmφ深さ1mmのくぼみを施したポリフタルアミド(ソルベイ製アモデル4122)製樹脂片に5mm×5mm×0.2mmのシリコンチップを入れておき、熱硬化性組成物を注型し加熱硬化して試験片を作成する。得られた試験片を冷熱衝撃試験でー40℃×15分〜120℃×15分のサイクルを昇温及び降温に要する時間を2分間として繰り返し、クラック及び剥離の発生の有無を目視で観察する。4サイクル以内でクラックあるいは剥離が発生したものを×とし、変化が認められないものを○とする。
(9)粘度
回転式粘度計(東機産業製:TVE−22H型)を用いて25℃一定の温度で測定する。
【0038】
[合成例1]
還流冷却器、温度計及び撹拌装置を有する2Lの4口フラスコに、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン100質量部、ビニルジメチルジシロキサン46.5質量部、4−ビニルシクロヘキセンオキシド154.2質量部、ジオキサン1,200質量部を入れ、窒素雰囲気で、撹拌下70℃に加熱した。これにKarstedt触媒のジオキサン溶液(Pt−1,000ppm相当)2.4質量部を加え、撹拌を5時間継続した。5時間後のSi−Hの転化率は99.5%である事を確認した。その後、活性炭処理した後、揮発成分を留去してサンプル1(266質量部)を得た。
サンプル1のエポキシ価は270であり、重量平均分子量は1,560であり、ポリスチレン換算分子量が20,000以上の成分は存在しなかった。25℃における粘度は8,800mPa・sであった。
【0039】
[合成例2]
活性炭処理をしなかった他は合成例1と同様にしてサンプル2(282質量部)を得た。
サンプル2のエポキシ価は274であり、重量平均分子量は8,650であり、ポリスチレン換算分子量が20,000以上1,000,000以下の成分が3%存在した。25℃における粘度は13,600mPa・sであった。
【0040】
[合成例3]
サンプル2:50部をガラス製円筒状チューブに入れ、ガラスチューブオーブン(柴田科学製GTO−350)にセットし、圧力0.2kPaにて、100℃で8時間処理する事によりサンプル3:45部を得た。
サンプル3のエポキシ価は282であり、重量平均分子量は28,600であり、ポリスチレン換算分子量が20,000以上1,000,000以下の成分は10%存在した。25℃における粘度は28,600mPa・sであった。
【0041】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
表1に示す割合で熱硬化性組成物を作成した。これを型に注型し120℃×1時間、その後150℃×2時間、その後170℃×0.5時間で硬化させて、硬化物を得た。得られた硬化物の評価結果を表2に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表2から分かるように、本発明の本発明の熱硬化性組成物から得られた硬化物(実施例1〜3)はいずれも耐熱性、初期光線透過率、耐光性、熱衝撃性に優れたものであった。一方、比較例1の硬化物は耐熱性が低く、比較例2の硬化物は初期光線透過率、耐光性、熱衝撃性に問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱硬化性組成物は、優れた透明性、耐光性、耐熱性を有するので、光半導体封止材として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリスチレン換算分子量が20,000以上1,000,000以下である成分を0.2%以上10%以下含有し、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する変性ポリシロキサン 100質量部
(B)硬化剤 0.1〜150質量部
(C)触媒 0〜5質量部
を含有してなる熱硬化性組成物。
【請求項2】
(A)成分のエポキシ当量が250以上500以下であることを特徴とする請求項1記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
(A)成分の粘度が50,000mPa・s以下であることを特徴とする請求項2記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
(A)成分が、1分子中に少なくとも2個のエポキシシクロヘキシル基を有する変性ポリシロキサン(A’)を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
(B)成分が、酸無水物を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
(C)成分が、アミン化合物、有機ホスフィン化合物、アルミニウムキレート化合物から選択される1種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
更に、
(D)1分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物を30質量部以下配合したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
更に、
(E)有機樹脂を50質量部以下配合したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物からなる光半導体封止材。

【公開番号】特開2008−255295(P2008−255295A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101603(P2007−101603)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】