説明

異方導電性フィルム

【課題】異方導電性フィルムを介して電極間を接続する際に、リペア性の低下を抑制しつつ、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応できる、耐熱性の高い異方導電性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁性の熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分とし、分子量30000以上のフェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂およびガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂を含有する電極接続用接着剤30中に導電性粒子6が分散された異方導電性フィルム2とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、回路等を設けた配線板や電子部品等を接着し、かつ電気的に接続するための異方導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高機能化の流れの中で、構成部品(例えば、液晶製品における電子部品)内の接続端子の微小化が進んでいる。このため、エレクトロニクス実装分野においては、そのような端子間の接続を容易に行える種々の電極接続用接着剤として、フィルム状の接着剤である異方導電性フィルムが広く使用されている。例えば、金メッキされた銅電極からなる金属電極が形成されたフレキシブルプリント配線板(FPC)と、ITO電極からなる配線電極が形成されたガラス基板、ガラスエポキシ基材等のリジッドな基材上に金メッキされた銅電極からなる配線電極が形成されたリジッド基板(PCB)の接合や、ICチップ等の電子部品とリジッド基板の接合、フレキシブル基板とプリント配線板の接合、およびフレキシブル基板同士の接合に使用されている。
【0003】
この異方導電性フィルムは、例えば、エポキシ樹脂等の絶縁性の熱硬化性樹脂に導電性粒子を分散させた接着剤であり、接続対象の間に挟まれ、加熱、加圧されて、接続対象を接着する。即ち、加熱、加圧により接着剤中の樹脂が流動し、例えば、フレキシブルプリント配線板の表面に形成された銅電極と、配線基板の表面に形成されたITO電極の隙間を封止すると同時に、導電性粒子の一部が対峙する銅電極とITO電極の間に噛み込まれて電気的接続が達成される。
【0004】
また、この異方導電性フィルムにおいては、当該異方導電性フィルムの厚み方向に相対峙する、接続された電極間の抵抗(接続抵抗、または導通抵抗)を低くするという導通性能と、異方導電性フィルムの面方向に隣り合う電極間の抵抗(絶縁抵抗)を高くするという絶縁性能が必要とされている。そして、一般に、このような性能を有する異方導電性フィルムとして、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とし、金、銀、亜鉛、錫、半田、インジウム、パラジウム等の導電性粒子とマイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有するものが開示されている。
【0005】
また、この電極接続用接着剤を作製する際には、一般に、まず、主成分であるエポキシ樹脂等の絶縁性の熱硬化性樹脂を、所定の溶媒中に溶解した溶液に、導電性粒子を添加して、接着剤用の複合材料を作製する。次いで、当該複合材料を攪拌して、導電性粒子を均一に分散させた後、離形処理したフィルム上に、当該複合材料を塗布し、乾燥、固化させることにより、作製される。
【0006】
ここで、一度接続した電極間の破損または損傷を生じることなく剥離して、接着剤を溶剤等で除去した後、再度、接着剤を用いて、電極間を接続すること(以下、「リペア」という。)を容易に行うとの観点から、接着剤の作製の際に、熱可塑性樹脂であるポリビニルブチラール樹脂を添加することが一般的に知られている。このポリビニルブチラール樹脂は、室温では固化しているが、ガラス転移温度以上(例えば、60℃)に加熱することにより軟化して加工し易くなる。その結果、フレキシブルプリント配線板と配線基板等の接合体が位置ずれによる不良部品であっても、ポリビニルブチラール樹脂を含有する電極接続用接着剤をガラス転移温度以上に加熱することで、この接合体の配線板等を損傷なく剥離でき、剥離されたフレキシブルプリント配線板や配線基板等は再び電子機器の構成部品として使用することができる。
【0007】
しかし、上記のガラス転移温度以上の環境になるとポリビニルブチラール樹脂は軟化するため、電極接続用接着剤における不純物イオンの移動度が高くなる。このため、電極接続用接着剤の絶縁性が低下し、このような状態でフレキシブルプリント配線板と配線基板等の接合体の電極間に電流を流し続けると、金属原子の移動による絶縁不良(即ち、エレクトロマイグレーション)が発生し易くなる問題がある。従って、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が多いと絶縁性が低下し、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が少ないとリペア性が低下し、接着剤の絶縁性とリペア性の向上を両立させることが困難になるという問題があった。
【0008】
また、フレキシブルプリント配線板と配線基板等を接着するための加熱を行う際に、ガラス転移温度以上において電極接続用接着剤のポリビニルブチラール樹脂は軟化してゴム状になる。このため、ポリビニルブチラール樹脂がゴム状態において、フレキシブルプリント配線板と配線基板等を接着するための加圧を解放すれば、電極接続用接着剤に内在する弾性により接続不良が発生する。従って、加熱された電極接続用接着剤をガラス転移温度以下に冷却して、ポリビニルブチラール樹脂が、ガラス状態になった後に、加圧を解放する必要があるため、ガラス転移温度が低ければ加圧を解放するまでの実装時間が長くなる問題があった。
【0009】
そこで、熱硬化性樹脂を主成分とし、潜在性硬化剤、ポリビニルブチラール樹脂、及び導電性粒子を含有する電極接続用接着剤であって、熱硬化性樹脂は、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した熱硬化性樹脂の硬化物のガラス転移温度が、90℃以上である電極接続用接着剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電極接続用接着剤によれば、絶縁性とリペア性を両立することができるとともに、例えば、配線基板にフレキシブルプリント配線板を実装する際に、実装時間を短縮することができると記載されている。かかる電極接続用接着剤を用いれば、絶縁性とリペア性を両立させた異方導電性フィルムを得ることができると考えられる。
【特許文献1】特開平5−117419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の電極接続用接着剤を用いた異方導電性フィルムであれば、フレキシブルプリント配線板やリジッド基板においてファインピッチで形成された電極(最小ピッチが200μm以下の電極)間を確実に接続しかつ隣り合う電極間の絶縁抵抗を維持することができる。しかし、近年は更にファインピッチ化が進み、フレキシブルプリント配線板やリジッド基板において最小ピッチが150μm以下の電極であることが求められている。最小ピッチが150μm以下の電極においては、最小ピッチが200μm以下の場合に比して、面方向に隣り合う電極間の間隔が小さくなるため、高い絶縁性能が要求される。従って、熱硬化性樹脂の硬化物のガラス転移温度が90℃以上である特許文献1に記載の電極接続用接着剤を用いた異方導電性フィルム異方導電性フィルムであっても、面方向に隣り合う電極間の絶縁信頼性を維持することが困難となる。
【0011】
一方、熱硬化性樹脂の硬化物のガラス転移温度を単純に高くした電極接続用接着剤を用いた異方導電性フィルムは上述のリペアの容易性(以下、「リペア性」という。)が低下し問題となる。
【0012】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、異方導電性フィルムを介して電極間を接続する際に、リペア性の低下を抑制しつつ、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応できる、耐熱性の高い異方導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る異方導電性フィルムは、熱硬化性樹脂を主成分とし、分子量30000以上のフェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ポリビニルブチラール樹脂、及び導電性粒子を含有する異方導電性フィルムである。また、前記ポリビニルブチラール樹脂として、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂とガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂とを含有する。
【0014】
同構成によれば、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂を異方導電性フィルムが含有するため過熱によりポリビニルブチラール樹脂を軟化させることが容易となり、リペア性を良好に維持できる。一方、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂を異方導電性フィルムが含有するため、異方導電性フィルムの耐熱性が向上し、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応することが可能となる。
【0015】
本発明に係る異方導電性フィルムは、前記ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0016】
同構成によれば、100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上であるため、10質量%未満の場合に比して、異方導電性フィルムの耐熱性が一層向上し、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応することが可能となる。また、100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して90質量%以下であるため、90質量%を超える場合に比して、過熱によりポリビニルブチラール樹脂を軟化させることが一層容易となり、リペア性を良好に維持できる。
【0017】
本発明に係る異方導電性フィルムは、前記ポリビニルブチラール樹脂の総含有量が、全異方導電性フィルム総量に対して5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
同構成によれば、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量が、全異方導電性フィルム総量に対して5質量%以上であるため、リペア性の確保が一層容易であり、全異方導電性フィルム総量に対して35質量%以下であるため、絶縁性を得ることが容易となる。
【0018】
本発明に係る異方導電性フィルムは、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が20000以上150000以下であるとともに、前記ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が10000以上60000以下であることが好ましい。
【0019】
ポリビニルブチラール樹脂の分子量が20000以上150000以下であるため、ポリビニルブチラール樹脂のガラス転移温度を100℃以上とすることが容易である。また、ポリビニルブチラール樹脂の分子量が10000以上60000以下であるため、ポリビニルブチラール樹脂のガラス転移温度を90℃以下とすることが容易である。従って、同構成によれば、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂とガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂とを含有する異方導電性フィルムを容易に得ることが可能となる。
【0020】
本発明に係る異方導電性フィルムは、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した該異方導電性フィルムの硬化物のガラス転移温度が100℃以上であることが好ましい。
同構成によれば、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した該異方導電性フィルムの硬化物のガラス転移温度が100℃以上であるため、電極接続用接着剤における不純物イオンの移動を効果的に抑制し、絶縁性が向上する。その結果、100℃未満の状態でフレキシブルプリント配線板と配線基板の接合体の電極間に電流を流し続けた場合でも、金属原子の移動による絶縁不良の発生を効果的に抑制することができる。従って、ポリビニルブチラールの添加による絶縁不良という不都合を生じることなく、絶縁性とリペア性を両立させた、電極接続用接着剤を提供することができる。また、加熱加圧処理によって異方導電性フィルムを介して、フレキシブルプリント配線板の金属電極と配線基板の配線電極を接続する際に、加熱された電極接続用接着剤をガラス転移温度以下に冷却するまでの時間が短縮できるため、加圧を解放するまでの実装時間を短縮することができる。
【0021】
本発明に係る異方導電性フィルムは、該異方導電性フィルムを電極間に挟み込んだ後硬化させることにより前記電極同士を接着し、再び前記電極同士を剥離した場合における剥離面に残留した該異方導電性フィルムの残留物が、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤により剥離面から除去可能であることが好ましい。
【0022】
同構成によれば、剥離面に残留した該異方導電性フィルムの残留物が、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤により剥離面から除去可能であるため、リペア性が一層良好となる。
【0023】
本発明に係る異方導電性フィルムは、導電性粒子のアスペクト比が5以上であることが好ましい。
同構成によれば、異方導電性フィルムを使用する場合に、導電性粒子間の接触確率が高くなる。その結果、導電性粒子の配合量を増やすことなく、対峙する電極同士を電気的に接続することが可能になる。
【0024】
本発明に係る異方導電性フィルムは、前記導電性粒子の長径方向を、該異方導電性フィルムの厚み方向に配向させることが好ましい。
同構成によれば、隣り合う電極間の絶縁を維持して短絡を防止しつつ、多数の対峙する電極同士を一度に、かつ各々を独立して導電接続することが可能になるという効果が、より一層向上する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、リペア性の低下を抑制しつつ、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応できる、耐熱性の高い異方導電性フィルムを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る異方導電性フィルムにより、フレキシブルプリント配線板を実装したリジッド基板を示す断面図である。本実施形態の異方導電性フィルムを用いたフレキシブルプリント配線板等の配線板の実装方法としては、熱硬化性樹脂を主成分とする電極接続用接着剤と、電極接続用接着剤に含有された導電性粒子を有する異方導電性フィルムを介して、加熱加圧処理を行うことにより、熱硬化性樹脂を硬化させ、フレキシブルプリント配線板の金属電極をリジッド基板の配線電極に接続する。
【0027】
より具体的には、図1に示すように、ガラス基板やガラスエポキシ基板等の回路基板1上に、例えば、エポキシ樹脂等の絶縁性の熱硬化性樹脂を主成分とする電極接続用接着剤30と、当該電極接続用接着剤30に含有される導電性粒子6を有する異方導電性フィルム2を載置し、当該異方導電性フィルム2を所定の温度に加熱した状態で、リジッド基板1の方向へ所定の圧力で加圧し、異方導電性フィルム2を回路基板1上に仮接着する。次いで、フレキシブルプリント配線板3を下向きにした状態で、回路基板1の表面に形成された配線電極4と、フレキシブルプリント配線板3の表面に形成された金属電極5との位置合わせをしながら、フレキシブルプリント配線板3を異方導電性フィルム2上に載置することにより、回路基板1とフレキシブルプリント配線板3との間に異方導電性フィルム2を介在させる。次いで、異方導電性フィルム2が所定の温度になるように、適切な温度に加熱された圧着部材であるプレスヘッド(不図示)を、フレキシブルプリント配線板3の上方に設置し、当該プレスヘッドを回路基板1の方向に移動させて、異方導電性フィルム2を所定の温度に加熱した状態で、フレキシブルプリント配線板3を介して、当該異方導電性フィルム2を回路1の方向へ所定の圧力で加圧することにより、異方導電性フィルム2を加熱溶融させる。なお、上述のごとく、異方導電性フィルム2は、熱硬化性樹脂を主成分としているため、当該異方導電性フィルム2は、上述の温度にて加熱をすると、電極接続用接着剤30を構成する熱硬化性樹脂が流動して、一旦、軟化するが、当該加熱を継続することにより、硬化することになる。そして、予め設定した異方導電性フィルム2の硬化時間が経過すると、異方導電性フィルム2の硬化温度の維持状態、および加圧状態を開放し、冷却を開始することにより、異方導電性フィルム2を介して、配線電極4と金属電極5を接続し、フレキシブルプリント配線板3を回路基板1上に実装する。
【0028】
本発明の金属電極5としては、例えば、フレキシブルプリント配線板3の表面に、銅箔等の金属箔を積層し、当該金属箔を、常法により、露光、エッチング、メッキ処理することにより形成された、金メッキが施された銅電極が使用される。また、配線電極4としては、例えば、ガラスエポキシ基板上に形成された金メッキが施された銅電極や、ガラス基板上に形成されたITO電極が使用される。なお、本実施形態においては、図1に示す、配線電極4のピッチP、および金属電極5のPの各々が、ファインピッチ(最小のピッチが150μm以下)となるように構成されている。
【0029】
また、本実施形態においては、異方導電性フィルム2として、図1に示すように、絶縁性の熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分とし、分子量30000以上のフェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ポリビニルブチラール樹脂を含有する電極接続用接着剤30中に導電性粒子6、が分散されたものが使用できる。
【0030】
ここで、本実施形態においては、電極接続用接着剤30の熱硬化性樹脂は、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した熱硬化性樹脂の硬化物のガラス転移温度が100℃以上である点に特徴がある。このような異方導電性フィルム2を介して、フレキシブルプリント配線板3の金属電極5を回路基板1の配線電極4に接続するため、異方導電性フィルム2における不純物イオンの移動を効果的に抑制し、絶縁性が向上する。これは、異方導電性フィルム2に含まれるポリビニルブチラールのガラス転移温度が低い場合であっても、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有することにより、熱硬化性樹脂の硬化物のガラス転移温度が高くなるためであると考えられる。従って、ナフタレン型エポキシ樹脂とポリビニルブチラールを含有する異方導電性フィルム2を使用することにより、リペア性と絶縁性を両立することができる。なお、上述の「ガラス転移温度」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された異方導電性フィルム2の物性値のことをいう。
【0031】
なお、異方導電性フィルム2の硬化後のガラス転移温度を100℃以上としたのは、絶縁性を確認するための加速試験を行う際の温度条件として85℃の条件が設定されるため、当該加速試験を行う際に、85℃以下のガラス転移温度の場合は、上述の金属原子の移動による絶縁不良が生じ、異方導電性フィルム2の絶縁性が低下するという不都合が生じるためである。従って、ガラス転移温度は絶縁性が向上するのであれば100℃以上に限られない。また、ナフタレン型エポキシ樹脂を使用するのは、剛直な構造を有し容易にガラス転移温度を上昇することができるためである。
【0032】
本発明のナフタレン型エポキシ樹脂としては、ナフタレン環、及びエポキシ基を分子内に含んでいればよい。特に、エポキシ基が2つ以上含まれていることが望ましく、ナフタレンジオールとエピクロルヒドリンを反応させて生成されたものが望ましい。
【0033】
なお、ナフタレン型エポキシ樹脂以外で使用する熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、特に制限はないが、例えば、ビスフェノールA型、F型、S型、AD型、またはビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合型のエポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0034】
また、上述の熱硬化性樹脂とは別に、高分子量エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を電極接続用接着剤30は含有する。フェノキシ樹脂としては、ビスフェールA型骨格を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールF型骨格を有するフェノキシ樹脂、ビスフェノールA型骨格とビスフェノールF型骨格を共に有するフェノキシ樹脂等を使用することができる。また、膜形成性の観点よりフェノキシ樹脂は分子量30000以上であることが必要となる。また、ここでいう「平均分子量」とは、THF展開のゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)から求められたポリスチレン換算の重量平均分子量のことをいう。
【0035】
また、異方導電性フィルム2が含有する潜在性硬化剤は、低温での貯蔵安定性に優れ、室温では殆ど硬化反応を起こさないが、熱や光等により、速やかに硬化反応を行う硬化剤である。この潜在性硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン系、第3級アミン、アルキル尿素系等のアミン系、ジシアンジアミド系、酸無水物系、フェノール系、および、これらの変性物が例示され、これらは単独または2種以上の混合物として使用できる。
【0036】
また、これらの潜在性硬化剤中でも、低温での貯蔵安定性、および速硬化性に優れているとの観点から、イミダゾール系潜在性硬化剤が好ましく使用される。イミダゾール系潜在性硬化剤としては、公知のイミダゾール系潜在性硬化剤を使用することができる。より具体的には、イミダゾール化合物のエポキシ樹脂との付加物が例示される。イミダゾール化合物としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾールが例示される。
【0037】
また、特に、これらの潜在性硬化剤を、ポリウレタン系、ポリエステル系等の高分子物質や、ニッケル、銅等の金属薄膜およびケイ酸カルシウム等の無機物で被覆してマイクロカプセル化したものは、長期保存性と速硬化性という矛盾した特性の両立を図ることができるため、好ましい。従って、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤が、特に好ましい。
【0038】
また、本発明のポリビニルブチラール樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを反応させたもの等を使用することができる。係るポリビニルブチラール樹脂としては、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂、及びガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂をともに含有することが必要となる。ここで、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂のみ含有するとリペア性が低下する。また、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂のみを含有すると耐熱性が低下し、通電時における電極による発熱により異方導電性フィルムの面方向に隣り合う電極間の抵抗(絶縁抵抗)が低下してしまい、絶縁性能が低下する。
【0039】
このとき、前記ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上であれば、10質量%未満の場合に比して、異方導電性フィルムの耐熱性が一層向上し、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応することが可能となる。また、100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して90質量%以下であるため、90質量%を超える場合に比して、過熱によりポリビニルブチラール樹脂を軟化させることが一層容易となり、リペア性を良好に維持できる。
【0040】
ガラス転移温度が100℃以上のポリビニルブチラール樹脂としては分子量が20000〜150000であるポリビニルブチラール樹脂が好ましい。係る分子量のポリビニルブチラール樹脂であれば、ガラス転移温度を100℃以上とすることが容易にできるためである。同様に90℃以下のポリビニルブチラール樹脂としては分子量が10000〜60000であるポリビニルブチラール樹脂が好ましい。係る分子量のポリビニルブチラール樹脂であれば、ガラス転移温度を90℃以下とすることが容易にできるためである。このようなポリビニルブチラールとしては、例えばポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを反応させたもの等を使用することができる。
【0041】
また、全異方導電性フィルムの全体に対するポリビニルブチラール樹脂の配合量は、5質量%以上35質量%以下であることが望ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂の配合量が5質量%より小さい場合は、上述の、リペア性が十分に発揮されない場合があり、35質量%より大きい場合は、絶縁性が十分に発揮されない場合があるためである。
【0042】
そして、本実施形態においては、異方導電性フィルム2として、例えば、上述のエポキシ樹脂を主成分とする電極接続用接着剤30中に、微細な金属粒子(例えば、球状の金属微粒子や金属でメッキされた球状の樹脂粒子からなる金属微粒子)が多数、直鎖状に繋がった形状、または針形状を有する、所謂アスペクト比が大きい形状を有する金属粉末により形成された導電性粒子6が分散されたものを使用することができる。なお、ここで言うアスペクト比とは、図2に示す、導電性粒子6の短径(導電性粒子6の断面の長さ)Rと長径(導電性粒子6の長さ)Lの比のことを言う。
【0043】
また、この異方導電性フィルム2において、導電性粒子6の長径Lの方向を、異方導電性フィルム2を形成する時点で、電極接続用接着剤30の厚み方向(または、異方導電性フィルム2の厚み方向)Xにかけた磁場の中を通過させることにより、当該厚み方向Xに配向させて用いる構成としている。このような配向にすることにより、電極接続用接着剤30の面方向(厚み方向Xに直交する方向であって、図1の矢印Yの方向。異方導電性フィルム2の面方向)においては、隣り合う電極間の絶縁を維持して短絡を防止しつつ、厚み方向Xにおいては、多数の配線電極4−金属電極5間を一度に、かつ各々を独立して導電接続することが可能になる。
【0044】
また、本実施形態においては、導電性粒子6のアスペクト比を5以上とする構成としている。このような導電性粒子6を使用することにより、異方導電性フィルム2を使用する場合に、導電性粒子6間の接触確率が高くなる。従って、導電性粒子6の配合量を増やすことなく、配線電極4と金属電極5を電気的に接続することが可能になる。
【0045】
また、本発明に使用される金属粉末は、その一部に強磁性体が含まれるものが良く、強磁性を有する金属単体、強磁性を有する2種類以上の合金、強磁性を有する金属と他の金属との合金、および強磁性を有する金属を含む複合体のいずれかであることが好ましい。これは、強磁性を有する金属を使用することにより、金属自体が有する磁性により、磁場を用いて導電性粒子6を配向させることが可能になるからである。例えば、ニッケル、鉄、コバルトおよびこれらを含む2種類以上の合金等を挙げることができる。
【0046】
なお、導電性粒子6のアスペクト比は、CCD顕微鏡観察等の方法により直接測定するが、断面が円でない導電性粒子6の場合は、断面の最大長さを短径としてアスペクト比を求める。また、導電性粒子6は、必ずしもまっすぐな形状を有している必要はなく、多少の曲がりや枝分かれがあっても、問題なく使用できる。この場合、導電性粒子6の最大長さを長径としてアスペクト比を求める。
【0047】
この異方導電性フィルムは、硬化後のガラス転移温度が100℃以上であることが好ましい。硬化後のガラス転移温度が100℃以上であるため、使用環境下で絶縁性能が高く維持される。
【0048】
ところで、異方導電性フィルムを用いて電極同士を接続した後のリペア時において最も時間がかかるのは、電極同士を剥離した後、剥離面に残留した異方導電性フィルムの残留物を除去する作業である。そのため、係る残留物を容易に除去できることが望ましい。本実施形態における異方導電性フィルムは、異方導電性フィルムを電極間に挟み込んだ後硬化させることにより電極同士を接着し、再び前記電極同士を剥離した場合における剥離面に残留した該異方導電性フィルムの残留物が、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤により剥離面から除去可能である。従って、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤を用いることにより、剥離面に残留した異方導電性フィルムの残留物を容易に除去することが可能なため、リペア性が一層良好となる。
【0049】
異方導電性フィルム2の作製方法としては、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、分子量30000以上のフェノキシ樹脂、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂およびガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂を所定の重量比の割合で配合した後、溶媒(例えば、2−エトキシエチルアセタート)に溶解して、分散させ、次いで、三本ロールによる混練を行い、所定の割合で導電性粒子6を添加した後、遠心攪拌ミキサーを用いて攪拌することにより導電性粒子6を均一に分散し、接着剤用の複合材料を作製する。そして、この複合材料を離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布した後、所定の磁束密度の磁場中、所定の乾燥温度(例えば、60℃)で乾燥、固化させることにより作製される。
【0050】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態においては、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂を異方導電性フィルム2が含有するため、加熱によりポリビニルブチラール樹脂を軟化させることが容易となり、リペア性を良好に維持できる。一方、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂を異方導電性フィルムが含有するため、異方導電性フィルム2の耐熱性が向上し、配線電極4および金属電極5のピッチPおよびピッチPが150μm以下である場合に対応することが可能となる。
【0051】
(2)本実施形態においては、100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上であるため、10質量%未満の場合に比して、異方導電性フィルム2の耐熱性が一層向上し、配線電極4および金属電極5のピッチPおよびピッチPが150μm以下である場合に対応することが可能となる。また、100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して90質量%以下であるため、90質量%を超える場合に比して、加熱によりポリビニルブチラール樹脂を軟化させることが一層容易となり、リペア性を良好に維持できる。
【0052】
(3)本実施形態においては、ポリビニルブチラール樹脂の分子量が20000以上150000以下であるため、ポリビニルブチラール樹脂のガラス転移温度を100℃以上とすることが容易である。また、ポリビニルブチラール樹脂の分子量が10000以上60000以下であるため、ポリビニルブチラール樹脂のガラス転移温度を90℃以下とすることが容易である。従って、同構成によれば、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂とガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂とを含有する異方導電性フィルムを容易に得ることが可能となる。
【0053】
(4)本実施形態においては、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した異方導電性フィルム2の硬化物のガラス転移温度が100℃以上であるため、電極接続用接着剤30における不純物イオンの移動を効果的に抑制し、絶縁性が向上する。その結果、100℃未満の状態でフレキシブルプリント配線板3とリジッド基板1の接合体の電極間に電流を流し続けた場合でも、金属原子の移動による絶縁不良の発生を効果的に抑制することができる。従って、ポリビニルブチラールの添加による絶縁不良という不都合を生じることなく、絶縁性とリペア性を両立させた、異方導電性フィルム2を提供することができる。また、加熱加圧処理によって異方導電性フィルム2を介して、フレキシブルプリント配線板3の金属電極5とリジッド基板1の配線電極4を接続する際に、加熱された異方導電性フィルム2をガラス転移温度以下に冷却するまでの時間が短縮できるため、加圧を解放するまでの実装時間を短縮することができる。
【0054】
(5)本実施形態においては、剥離面に残留した異方導電性フィルム2の残留物が、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤により剥離面から除去可能であるため、リペア性が一層良好となる。
【0055】
(6)本実施形態においては、導電性粒子6のアスペクト比が5以上であるため、異方導電性フィルム2を使用する場合に、導電性粒子間の接触確率が高くなる。その結果、導電性粒子6の配合量を増やすことなく、対峙する電極、即ち金属電極5と配線電極4とを電気的に接続することが可能になる。
【0056】
(7)本実施形態においては、導電性粒子6の長径方向を、異方導電性フィルム2の厚み方向xに配向させるため、隣り合う電極間、例えば金属電極5間の絶縁を維持して短絡を防止しつつ、多数の対峙する金属電極5と配線電極4とを一度に、かつ各々を独立して導電接続することが可能になるという効果が、より一層向上する。
【0057】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
・上記実施形態においては、異方導電性フィルム2を介して、フレキシブルプリント配線板3の金属電極5を回路基板1の配線電極4に接続する構成としたが、本発明の異方導電性フィルム2を、例えば、ICチップ等の電子部品の突起電極(または、バンプ)とフレキシブルプリント配線板3の金属電極5、或いは回路基板1の配線電極4との接続に使用する構成としても良い。
【0058】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【実施例1】
【0059】
(接着剤の作製)
導電性粒子として、長径Lの分布が1μmから8μm、短径Rの分布が0.1μmから0.4μmである直鎖状ニッケル微粒子を用いた。また、エポキシ樹脂としては、(1)ナフタレン型エポキシ樹脂〔大日本インキ化学工業(株)製、商品名エピクロン4032D〕および(2)ビスフェノールA型の固形エポキシ樹脂〔ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名エピコート1004〕を使用した。また、フェノキシ樹脂としては、(3)フェノキシ樹脂〔ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名エピコート1256〕を使用した。潜在性硬化剤としては、(4)マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤〔旭化成エポキシ(株)製、商品名ノバキュアHX3941〕を使用した。ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(5)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−1〕を使用し、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂としては、(7)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックBM−1〕を使用した。これら(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)50/(4)80/(5)10/(7)10の割合で配合した。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(5)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(5)+(7)に対して50質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(5)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して11.1質量%となっている。
【0060】
これらのエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂およびガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂を2−エトキシエチルアセタートに溶解して、分散させた後、三本ロールによる混練を行い、固形分が50質量%である溶液を作製した。この溶液に、固形分の総量(Ni粉末+樹脂)に占める割合で表される金属充填率が、0.1体積%となるように上記Ni粉末を添加した後、遠心攪拌ミキサーを用いて攪拌することによりNi粉末を均一に分散し、接着剤用の複合材料を作製した。次いで、この複合材料を離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布した後、Ni粉末の長径の方向がエポキシ樹脂を主成分とする電極接続用接着剤の厚み方向に配向されるように、磁束密度100mTの磁場中、60℃で30分間、乾燥、固化させて、膜中の直鎖状粒子が磁場方向に配向した、厚さ35μmの異方導電性フィルムを作成した。
【0061】
(ガラス転移温度測定)
動的粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社、EXSTAR6000 DMS)を使用して、昇温速度10℃/分、周波数1Hz、加重5gの条件の下、動的粘弾性測定法(DMA法)により、作成した異方導電性フィルムの硬化物のガラス転移温度を測定した。なお、硬化物のサンプルとして、幅2mm、長さ10mmのものを使用した。以上の結果を表1に示す。
【0062】
(リペア性評価)
まず、幅75μm、高さ18μmの金メッキが施された銅電極が75μm間隔で100個配列された(即ち、銅電極が150μmのピッチで配列された)フレキシブルプリント配線板と、幅75μm、高さ18μmの金メッキが施された銅電極が75μm間隔で100個配列された(即ち、銅電極が150μmのピッチで配列された)リジッド基板(ガラスクロスエポキシ基板)とを用意した。次いで、このフレキシブルプリント配線板とガラスエポキシ基板の間に作製した異方導電性フィルムを挟み、200℃に加熱しながら、4MPaの圧力で15秒間加圧して接着させ、フレキシブルプリント配線板とガラスエポキシ基板の接合体を得た。次いで、当該接合体を200℃に加熱した状態で、ガラスエポキシ基板からフレキシブルプリント配線板を剥離し、剥離面であるガラスエポキシ基板の銅電極上に残留した該異方導電性フィルムの残留物を、メチルエチルケトンとエタノールの混合溶媒(混合比率は70/30)を浸漬させた綿棒で拭き取り除去した。係る、ガラスエポキシ基板の銅電極上に残留した該異方導電性フィルムの残留物の除去にかかった時間を測定し、リペア時間として評価した。このとき、10分以上処理しても異方導電性フィルムの残留物の除去が終了しない場合は、リペア性不十分としてリペア性評価試験を打ち切った。そして、この評価を10回繰り返し、リペア時間の平均値を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0063】
(耐熱性評価)
また、耐熱性評価として、まず、上記の接合体(ガラスエポキシ基板からフレキシブルプリント配線板を剥離する前のもの)を用意し、温度を85℃、湿度を85%に設定した恒温恒湿槽中で、10箇所の隣り合う電極間に15Vの直流電圧を印加し続け、流れた電流から絶縁抵抗値を経時的に測定する。絶縁抵抗が1MΩ以下となった時点において絶縁性が破壊されたと判断し、電圧印加開始から絶縁性破壊までの時間を測定し、その結果を耐熱性評価とする。係る評価において、500時間を超えても絶縁性が破壊されなかった場合は耐熱性が良好なものとして判断し、絶縁性評価を打ち切った。以上の結果を表1に示す。
【実施例2】
【0064】
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(6)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−3〕を使用したこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)50/(4)80/(6)10/(7)10の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(6)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(5)+(7)に対して50質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(5)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して11.1質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【実施例3】
【0065】
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(6)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−3〕を使用したこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)60/(4)80/(6)5/(7)5の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(6)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(5)+(7)に対して50質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(5)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して5.6質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【実施例4】
【0066】
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(6)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−3〕を使用したこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)30/(4)80/(6)20/(7)20の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(6)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(6)+(7)に対して50質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(6)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して22.2質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【実施例5】
【0067】
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(6)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−3〕を使用したこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)10/(2)5/(3)25/(4)80/(6)30/(7)30の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(6)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(6)+(7)に対して50質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(6)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して33.3質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【実施例6】
【0068】
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(6)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−3〕を使用したこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)50/(4)80/(6)18/(7)2の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(6)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(6)+(7)に対して90質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(6)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して11.1質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【実施例7】
【0069】
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂としては、(6)〔積水化学工業(株)製、商品名エスレックKS−3〕を使用したこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)50/(4)80/(6)4/(7)16の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。このとき、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂(6)の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量、即ち(6)+(7)に対して20質量%となっている。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(6)+(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して11.1質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂を使用しなかったこと、および(1)〜(7)を重量比で(1)20/(2)10/(3)50/(4)80/(7)20の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。また、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量、即ち(7)が、全異方導電性フィルム総量、即ち(1)〜(7)の総合計に対して11.1質量%となっている。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
ガラス転移温度がポリビニルブチラール樹脂を使用しなかったこと、および(1)〜(4)を重量比で(1)20/(2)10/(3)80/(4)80の割合で配合したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、異方導電性フィルムを作製し、フレキシブルプリント配線板とリジッド基板の接合体を得た。その後、上述の実施例1と同一条件により、ガラス転移温度測定、リペア性評価、および絶縁性評価を行った、以上の結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

表1に示すように、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂、即ち(5)または(6)と、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂(7)とを含有する実施例1〜実施例7においては、リペア性評価においても、絶縁性評価においても、基準値を満たしている。従って、硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂ポリビニルブチラール樹脂、及び導電性粒子を含有する異方導電性フィルムはリペア性低下を抑制しつつ、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応できる、耐熱性の高い異方導電性フィルムであるといえる。一方、ポリビニルブチラール樹脂を全く含まない比較例2は耐熱性が大きいものの、リペア性を維持できないことが判る。ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂(7)を含有するとともに、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂を含有しない比較例6は耐熱性が不十分であることが判る。
【0073】
また、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂である(5)または(6)の含有量が、実施例7では20質量%、実施例1〜実施例5では50質量%、実施例6では90質量%である。従って、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上90質量%以下のガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂を含有する異方導電性フィルムはリペア性低下を抑制しつつ、耐熱性の高い異方導電性フィルムであることが判る。
【0074】
更に、実施例1〜実施例7において、異方導電性フィルム総量に対するポリビニルブチラール樹脂の総含有量が小さいほどガラス転移温度が高くなるとともに、リペア時間が長くなる。逆に異方導電性フィルム総量に対するポリビニルブチラール樹脂の総含有量が大きいほどガラス転移温度が低くなるとともに、リペア時間が短くなる。この結果により、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が増えれば、リペア性を向上させることができるが、ガラス転移温度が小さくなることより、耐熱性が下がることが推認される。実施例1〜実施例7より、ポリビニルブチラール樹脂の総含有量が、全異方導電性フィルム総量に対して5質量%以上35質量%以下であれば、リペア性および耐熱性を両立させるのに好ましいことが推認される。
【0075】
実施例1と実施例2を比較すると、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂であれば、分子量27000であっても分子量108000であっても同様の効果が得られている。従って、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が20000以上150000以下であれば、分子量にかかわりなく同様の効果が得られることが推認される。またガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が40000であることから、ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が10000以上60000以下であれば、同様の効果が得られることが推認される。
【0076】
また実施例1〜実施例7において、異方導電性フィルムの硬化物のガラス転移温度はいずれも100℃以上である。係る範囲において、耐熱性に問題は生じていない。最小ピッチが150μm以下であるファインピッチ化された電極を異方導電性フィルムで接続した場合には、通電時に90℃以上の温度となりうることを考慮すると、異方導電性フィルムの硬化物のガラス転移温度が100℃以上であることが好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、電極、回路等を設けた配線板や電子部品等を接着し、かつ電気的に接続するための異方導電性フィルムに係るものであるため、産業上広く利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態に係る異方導電性フィルムにより、フレキシブルプリント配線板を実装したリジッド基板を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る異方導電性フィルムにおいて使用される導電性粒子を説明するための図である。
【符号の説明】
【0079】
1…リジッド基板、2…異方導電性フィルム、3…フレキシブルプリント配線板、4…配線電極、5…金属電極、6…導電性粒子、30…電極接続用接着剤、L…導電性粒子の長径、R…導電性粒子の短径、T…樹脂層の厚み、X…異方導電性フィルムの厚み方向、Y…異方導電性フィルムの面方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を主成分とし、分子量30000以上のフェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ポリビニルブチラール樹脂、及び導電性粒子を含有する異方導電性フィルムにおいて、
前記ポリビニルブチラール樹脂として、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂とガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂とを含有することを特徴とする異方導電性フィルム。
【請求項2】
前記ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の含有量が、全ポリビニルブチラール樹脂総含有量に対して10質量%以上90質量%以下である請求項1に記載の異方導電性フィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルブチラール樹脂の総含有量が、全異方導電性フィルム総量に対して5質量%以上35質量%以下である請求項1または2に記載の異方導電性フィルム。
【請求項4】
前記ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が20000以上150000以下であるとともに、前記ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂の分子量が10000以上60000以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項5】
動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した該異方導電性フィルムの硬化物のガラス転移温度が100℃以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項6】
該異方導電性フィルムを電極間に挟み込んだ後硬化させることにより前記電極同士を接着し、再び前記電極同士を剥離した場合における剥離面に残留した該異方導電性フィルムの残留物が、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤により剥離面から除去可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項7】
前記導電性粒子のアスペクト比が5以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項8】
前記導電性粒子の長径方向を、該異方導電性フィルムの厚み方向に配向させた請求項1〜7のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−102859(P2010−102859A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271106(P2008−271106)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】