説明

真空成膜装置及び成膜方法

【課題】複数の原料ガスを交互に供給することにより基板上に成膜する反応室の下流側に設けられるバルブや真空ポンプ等の劣化を抑制することができる真空成膜装置を提供する。
【解決手段】基板が載置される反応室と、第1の原料ガスをその原料供給源22から前記反応室へ供給する第1の原料ガス供給手段と、前記第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスをその原料供給源42から前記反応室に供給する第2の原料ガス供給手段と、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとが交互に前記反応室に供給されるように前記第1の原料ガス及び前記第2の原料ガスの流れを制御する原料ガス制御手段と、前記反応室から排出される原料ガスが供給されるトラップ61と、前記第2の原料ガスをその原料供給源42から前記反応室を経由せずに前記トラップ61に供給する手段とを有する真空成膜装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子などの製造に適した真空成膜装置に関し、特に反応室に原料ガスを間欠的に供給して薄膜を形成する真空成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料ガスを間欠的に供給して基板上に成膜する手法の一例として、ALD法(Atomic Layer Deposition:原子層蒸着法)がある。これは、例えば反応室内に2種類の原料ガスを交互に供給し、表面反応により、反応室内に載置された基板上に成膜を行うものである(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
このようなALD法を行う真空成膜装置では、反応室の下流側に、反応室の圧力を調整するためのバルブや反応室を排気する真空ポンプを設けるが、反応室から排出された未反応の原料ガスがバルブや真空ポンプ内で反応してバルブや真空ポンプを劣化させてしまうという問題がある。例えば、酸化アルミニウム(Al)を成膜する場合、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)を用いるが、このTMAは反応性が高いため、バルブや真空ポンプ内で反応してしまい、生成した固形物が真空ポンプや圧力調整用バルブの故障や汚染の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−6801号公報
【特許文献2】特開2006−222265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、複数の原料ガスを交互に供給することにより基板上に成膜する反応室の下流側に設けられるバルブや真空ポンプ等の劣化を抑制することができる真空成膜装置及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の真空成膜装置は、基板が載置される反応室と、第1の原料ガスをその原料供給源から前記反応室へ供給する第1の原料ガス供給手段と、前記第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスをその原料供給源から前記反応室に供給する第2の原料ガス供給手段と、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとが交互に前記反応室に供給されるように前記第1の原料ガス及び前記第2の原料ガスの流れを制御する原料ガス制御手段と、前記反応室から排出される原料ガスが供給されるトラップと、前記第2の原料ガスをその原料供給源から前記反応室を経由せずに前記トラップに供給する手段とを有することを特徴とする。
【0007】
前記第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスで、前記第2の原料ガスがHOガスであってもよい。
【0008】
また、前記トラップの下流側に、前記反応室の圧力を調整する圧力調整用バルブを有することが好ましい。
【0009】
さらに、前記第1の原料ガス供給手段は、前記第1の原料ガスを一時的に溜めるバッファタンクを有することが好ましい。
【0010】
また、本発明の成膜方法は、反応室に基板を載置し、第1の原料ガスと第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスとを交互に前記反応室に供給して第1の原料ガスと第2の原料ガスとを反応させることにより前記基板上に成膜すると共に、前記反応室から排出される成膜に寄与しなかった前記第1の原料ガスを、前記反応室の下流側に設けられたトラップ内で、前記反応室を経由せずに前記トラップに供給された前記第2の原料ガスと、反応させることを特徴とする。
【0011】
そして、前記第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスで、前記第2の原料ガスがHOガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば2種類の原料ガスを交互に供給することにより基板上に成膜する場合に、反応室の下流側に設けられるバルブや真空ポンプ等への原料ガスの流入によるバルブや真空ポンプ等の故障や汚染を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】真空成膜装置の構成例を示す図である。
【図2】反応室へ供給されるガスシーケンスを示す図である。
【図3】トラップの概略の構成を示す断面図である。
【図4】真空成膜装置本体の一構成例を模式的に示す断面図であり、成膜操作中の状態を示す。
【図5】真空成膜装置本体の一構成例を模式的に示す断面図であり、処理対象物(基板)を搬入・搬出する際の状態を示す。
【図6】内チャンバー内に設ける防着板の構成を模式的に示す構成図であり、(a)はその断面図であり、(b)はその平面図であり、(c)は別の下部防着板の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
図1に、本発明の真空成膜装置の構成例を示す。図1に示すように、真空成膜装置1は、反応室を具備する真空成膜装置本体100を有し、この反応室には基板11が載置される支持台が設けられている。そして、この反応室の底面には、第1の原料ガスを供給する配管21及び第2の原料ガスを供給する配管41が接続されている。
【0015】
配管21は、第1の原料ガスの原料液体が溜められた第1の原料ガスの原料容器(原料供給源)22と反応室とを繋ぐ配管であり、その途中に、上流側から順に、バルブ23、バルブ24、第1の原料ガスを一時的に溜めるバッファタンク25及びバルブ26が設けられており、さらに、バルブ26と反応室との間には、必要に応じて逆流防止弁(図示無し)が設けられている。また、バッファタンク25の上流側には、バッファタンク25への第1の原料ガスの供給量をモニターするための真空計が設けられている。なお、この第1の原料ガスを供給する配管21、バッファタンク25、バルブ23、24及び26並びに真空計で、第1の原料ガス供給手段を構成する。
【0016】
そして、バルブ26と反応室との間に、不活性ガス源27から不活性ガスを反応室に供給する配管31が接続されている。配管31は、不活性ガス源27と接続点との間に、上流側から順に、バルブ32、不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラー33及びバルブ34が設けられている。
【0017】
また、配管41は、第2の原料ガスの原料液体が溜められた原料容器(原料供給源)42と反応室を繋ぐ配管であり、その途中に、上流側から順に、バルブ43、バルブ44、第2の原料ガスの流量を調整するマスフローコントローラー45及びバルブ46が設けられている。なお、この第2の原料ガスを供給する配管41、マスフローコントローラー45、バルブ43、44及び46、並びに後述するバルブ63で、第2の原料ガス供給手段を構成する。
【0018】
そして、バルブ46と反応室との間に、不活性ガス源27から不活性ガスを反応室に供給する配管51が接続されている。配管51は、不活性ガス源27と接続点との間に、上流側から順に、バルブ52、不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラー53及びバルブ54が設けられている。なお、図1においては、同一の不活性ガス源27から配管31及び配管51を介して不活性ガスを反応室に供給する構成としたが、勿論異なる不活性ガス源からそれぞれ反応室に供給する構成としてもよい。
【0019】
また、マスフローコントローラー45とバルブ46との間に、配管41から分岐し、詳しくは後述するトラップ61に第2の原料ガスの一部を供給する配管62が接続されている。また、配管62の途中には、バルブ63が設けられている。なお、この配管62及び41、マスフローコントローラー45、バルブ43、44、46及び63で、第2の原料ガスを反応室を経由せずにトラップ61に供給する手段を構成する。
【0020】
また、反応室の底面には、成膜に寄与しない第1の原料ガスや第2の原料ガス、すなわち、吸着や反応しない第1の原料ガスや第2の原料ガス(以下「未反応原料ガス」とも記載する。)を排出するための配管64が設けられ、反応室側から順に、バルブ65、トラップ61、反応室の圧力を調整する圧力調整用バルブ66、及び、反応室を排気するドライポンプ67が設けられている。
【0021】
なお、原料容器22及び42、反応室、反応室へ原料ガスを供給する配管21及び41、反応室から原料ガスを排出する配管64、及び、トラップ61には、第1の原料ガスや第2の原料ガスが液化しないようにヒーター等の温度制御機構(図示無し)が設けられている。場合によっては、温度を調整するために冷却機構を設けてもよい。
【0022】
そして、このような真空成膜装置1では、バルブ23、24、26、32、34、43、44、46、52、54、63、65が第1の原料ガス及び第2の原料ガスの流れを制御する原料ガス制御手段であり、本実施形態では、制御装置(図示無し)を用いて自動的に開閉するよう制御されている。なお、バッファタンク25の上流側及び下流側に設けられたバルブ24及び26、第2の原料ガスのマスフローコントローラー45の下流側に設けられたバルブ46及び63は、開閉の頻度が高いため、高耐久性バルブを用いることが好ましい。
【0023】
また、原料容器22及び42、反応室、トラップ61、圧力調整用バルブ66及びドライポンプ67は配管で接続されているため、第1の原料ガス及び第2の原料ガスは大気に触れない状態が維持される構造となっている。
【0024】
このように、本発明においては、反応室の下流側にトラップ61を設け、このトラップ61に、第2の原料ガスの一部が反応室を経由せず供給される構造の真空成膜装置1とすることにより、第1の原料ガスが反応室の下流側の圧力調整用バルブ66やドライポンプ67等に流れ込むことを抑制できるので、この圧力調整用バルブ66やドライポンプ67等の劣化を抑制することができる。
【0025】
このような真空成膜装置1を用いて、第1の原料ガスと第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスとで基板上に成膜する方法の一例を以下に示す。ここで、本実施形態では、反応室は常に排気し続ける、すなわち、ドライポンプ67を稼働することにより反応室は常に真空排気されている。また、窒素等の不活性ガスは、常に供給されるようにしている、すなわち、バルブ32、34、52、54は常に開放されている。そして、第1の原料ガスが配管中で気体の状態を保つようにするために、配管21の温度は原料供給源である原料容器22の温度以上になるようにヒーター等の加熱手段で調整されている。また、第2の原料ガスが配管中で気体の状態を保つようにするために、配管41の温度は原料供給源である原料容器42の温度以上になるようにヒーター等の加熱手段で調整されている。さらに、反応室においても、第1の原料ガスや第2の原料ガスが気体の状態を保つようにするために、原料容器22及び42以上の温度となるようにヒーター等の加熱手段で調整されている。
【0026】
まず、トリメチルアルミニウム(TMA)等の第1の原料ガスを原料容器22からバッファタンク25に導入する。具体的には、バルブ23及び24を開けバルブ26を閉じることにより、ヒーター等の加熱手段により加熱され第1の原料ガスの原料液体が気化した第1の原料ガスを、バッファタンク25に充填する。
【0027】
次いで、反応室にバッファタンク25内の第1の原料ガスを供給して、反応室内に載置された基板11の表面に第1の原料ガスを吸着させる。具体的には、バルブ24及び65を閉めバルブ26を開けることにより、バッファタンク25に充填された第1の原料ガスを反応室に供給する。
【0028】
この第1の原料ガスをバッファタンク25に導入している時、第1の原料ガスをバッファタンク25から反応室に供給している時、及び後述する第1の原料ガスを反応室から排出する時は、HOガス等の第2の原料ガスは、原料容器42から反応室に供給せずトラップ61に供給するようにする。すなわち、バルブ43、44、63を開けバルブ46を閉じることにより、ヒーター等の加熱手段により加熱され第2の原料ガスの原料液体が気化した第2の原料ガスを、トラップ61に供給する。なお、第2の原料ガスの流量は、マスフローコントローラー45により調整する。
【0029】
上記したように基板11の表面に第1の原料ガスを吸着させた後、バルブ26を閉じバルブ65を開けて、基板11に吸着しなかった第1の原料ガスを反応室から排出する。この時、配管31を経由して不活性ガスが不活性ガス源27から反応室に供給されているので、不活性ガスにより第1の原料ガスが押し出され、第1の原料ガスを反応室からすみやかに排出することができる。そして排出された第1の原料ガスは、トラップ61に導入される。ここで、第1の原料ガスがトラップ61に導入される時、すなわち、第1の原料ガスが反応室から排出されている時は、第2の原料ガスがトラップ61に供給されているので、トラップ61内で第1の原料ガスと第2の原料ガスとが接触等して反応する。例えば、第1の原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガスを用い、第2の原料ガスとしてHOガス(水蒸気)を用いた場合は、酸化アルミニウムの固形物を生じ、トラップ61内に残留する。したがって、トリメチルアルミニウム等の第1の原料ガスがさらに下流側の圧力調整用バルブ66やドライポンプ67に流れ込むことが抑制されて、第1の原料ガスが下流側の圧力調整用バルブ66やドライポンプ67に流れ込むことにより生じる圧力調整用バルブ66やドライポンプ67の故障や汚染等の劣化が抑制できる。
【0030】
次に、反応室にHOガス等の第2の原料ガスを原料容器42から供給して、基板11の表面に吸着した第1の原料ガスと反応させる。具体的には、バルブ43、44及び46を開けバルブ63及び65を閉じることにより、ヒーター等の加熱手段により加熱され第2の原料ガスの原料液体が気化した第2の原料ガスを、反応室に供給する。この第2の原料ガスの流量は、マスフローコントローラー45により調整する。なお、上記ではヒーター等の加熱手段により第1の原料ガスや第2の原料ガスを気化させる形態を例示したが、気化器を用いて各原料ガスを気化させてもよく、また、原料の必要量が少量である場合は減圧にすることのみでも気化することができる。
【0031】
このように基板11の表面において第1の原料ガスと第2の原料ガスとを反応させた後、バルブ46を閉じバルブ65を開けて、反応室から第2の原料ガスを排出する。この時、配管51を経由して不活性ガスが反応室に供給されているので、不活性ガスにより第2の原料ガスが押し出され、第2の原料ガスを反応室からすみやかに排出することができる。そして排出された第2の原料ガスは、トラップ61に導入される。
【0032】
ここで、基板11の表面に第1の原料ガスを吸着させた後に反応室から第1の原料ガスを排出している時、反応室に第2の原料ガスを供給している時、基板11の表面において第1の原料ガスと第2の原料ガスを反応させた後に反応室から第2の原料ガスを排出している時には、バルブ26は閉じたままでバルブ23及び24を開けることにより、ヒーター等の加熱手段により加熱され第1の原料ガスの原料液体が気化した第1の原料ガスを、原料容器22からバッファタンク25に導入しておく。バッファタンク25に第1の原料ガスを導入した後はバルブ24を閉めておくことにより、一定量の第1の原料ガスを反応室に供給する工程を行うことができる。
【0033】
このような反応室に第1の原料ガスを供給する工程、反応室から第1の原料ガスを排出する工程、反応室に第2の原料ガスを供給する工程、及び、反応室から第2の原料ガスを排出する工程を、順に行う操作(1サイクル)を所望の膜厚に応じて繰り返すことにより、基板11上に成膜することができる。
【0034】
上述した反応室へ供給されるガスのシーケンスを図2に示す。なお、第1の原料ガスとしてTMAを、また、第2の原料ガスとしてHOを、不活性ガスとしてNを例示している。また、ベースラインは供給されていない状態を示し、ベースラインから上に上がると供給された状態を示す。そして、図2において、窒素供給源から供給されTMAのキャリアガスであるNを「N(TMA)」と表記し、HOガスのキャリアガスであるNを「N(HO)」と表記する。また、バッファタンク25に導入される第1の原料ガスのシーケンス(「TMA(バッファタンク)」と表記する。)、及び、反応室へ供給されず原料容器42から直接トラップ61へ供給される第2の原料ガスのシーケンス(「HO(トラップ)」と表記する。)を図2に併せて示す。
【0035】
また、図2において、(1)がバッファタンク25から反応室に第1の原料ガスを供給する工程、(2)が反応室から第1の原料ガスを排出する工程、(3)が反応室に第2の原料ガスを供給する工程、(4)が反応室から第2の原料ガスを排出する工程である。
【0036】
図2に示すように、反応室に第1の原料ガスと第2の原料ガスが交互に供給される。したがって、反応室内に載置された基板11上で、第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により成膜される。また、第2の原料ガスが反応室に供給されている時以外は、第2の原料ガスはトラップ61に供給されている。したがって、反応室から排出される第1の原料ガスは、トラップ61内で第2の原料ガスと接触し反応する。
【0037】
なお、図2においては、(3)の反応室に第2の原料ガスを供給する工程及び(4)の反応室から第2の原料ガスを排出する工程で、第1の原料ガスをバッファタンク25に導入するものを例示したが、(2)〜(4)の工程の間に第1の原料ガスをバッファタンク25に導入するようにすればよい。
【0038】
そして、本発明においては、反応室から排出される第1の原料ガスを、反応室の下流側に設けられたトラップ61内で、反応室を経由せず導入された第2の原料ガスと反応させることにより、さらに下流側の圧力調整用バルブ66やドライポンプ67等に第1の原料ガス等が流れ込むことを抑制できるため、下流側の圧力調整用バルブ66やドライポンプ67等の劣化を抑制することができる。なお、このトラップ61内で生成した反応生成物は適宜回収すればよい。
【0039】
ここで、本発明のように、第2の原料ガスが反応室を経由せずに直接トラップに導入される構造とせず、単純に反応室の下流側にトラップを設けることも考えられる。しかし、反応室の下流側にトラップを設けた構造のみでは、反応室から排出された第1の原料ガス及び第2の原料ガスがトラップに交互に導入されるだけであり、第1の原料ガスと第2の原料ガスとはトラップ61内で常時接触することはなく、導入時間にタイムラグがあるため、本発明の目的を達成することが困難である。一方、本発明においては、反応室から排出された第1の原料ガスがトラップ61へ導入される時には、第2の反応ガスもトラップ61に導入されているので、第1の原料ガスをトラップ61内で効率よく反応させることができる。
【0040】
なお、トラップ61の形状等に限定はなく、反応室から供給される第1の原料ガスと、反応室を経由せず原料容器42から供給される第2の原料ガスとが接触して反応する構造とすればよい。トラップ61の一例を図3に示す。図3は、トラップ61の概略の構成を示す断面図である。図3に示すように、トラップ61は、円筒状の外筒部材71と、反応室から排出された第1の原料ガスや第2の原料ガスが導入される未反応原料ガス導入口72が設けられた蓋部材73と、底部材74とを有する。この円筒状の外筒部材71内側には、蓋部材73及び底部材74に接しないように設けられた円筒状の内筒部材75を有する。また、外筒部材71の上部側面には、第2の原料ガスが反応室を経由せずに原料容器42から直接導入される第2の原料ガス導入口76が設けられている。そして、第2の原料ガス導入口76から内筒部材75に向かって、第2の原料ガスが上下しながら円筒状の外筒部材71全体に拡散するように構成されたラビリンス(迷路形状)の第2の原料ガス導入路77が設けられている。また、外筒部材71には、内筒部材75を経由した第2の原料ガスが排出される原料ガス排出口78が設けられている。なお、トラップ61は、第1の原料ガスと第2の原料ガスとが反応して生成した反応生成物が原料ガス排出口78から排出されてしまうことを防ぐために、原料ガス排出口78の上流側にフィルターを有していてもよい。この原料ガス排出口78は圧力調整用バルブ66を介してドライポンプ67へ接続している。
【0041】
このようなトラップ61では、図3の矢印に示すように、反応室から排出された未反応の第1の原料ガスや第2の原料ガスが、交互に未反応原料ガス導入口72から導入され、外筒部材71内に設けられた内筒部材75内を通り、原料ガス排出口78から排出される。また、図3の矢印に示すように、第2の原料ガスが、反応室を経由せずに第2の原料ガス導入口76から導入され、第2の原料ガス導入路77を経由することにより拡散した後、外筒部材71内に設けられた内筒部材75内を通り、原料ガス排出口78から排出される。
【0042】
そして、未反応原料ガス導入口72から第1の原料ガスがトラップ61に導入されている時は、第2の原料ガス導入口76から第2の原料ガスが導入されているので、トラップ61の内筒部材75内で第1の原料ガスと第2の原料ガスが接触して反応する。また、未反応原料ガス導入口72から第2の原料ガスがトラップ61に導入されている時は、第2の原料ガス導入口76からは第2の原料ガスは導入されておらず、第2の原料ガスはそのまま原料ガス排出口78から排出される。
【0043】
また、本実施形態においては、第1の原料ガスは、反応室に供給される前に予めバッファタンク25に導入され、このバッファタンク25に導入された第1の原料ガスを反応室に供給する構造としているため、所望の量の第1の原料ガスを反応室に精度よく供給することができる。したがって、繰り返し反応室へ供給される第1の原料ガスの供給量を容易に一定にすることができる。特に、上述した図1では、不活性ガスの配管31が第1の原料ガスの配管21と接続されているのはバッファタンク25の下流側であり、バッファタンク25に不活性ガスが導入されない構成となっているため、第1の原料ガスの反応室への供給量をより正確に制御することができる。また、バッファタンク25は単なる容器であるため、故障も少ない。
【0044】
一方、反応室に供給される前に予めバッファタンク25に導入されこのバッファタンク25に導入された第1の原料ガスを反応室に供給する構造ではなく、単純にバルブのみで第1の原料ガスの供給量を制御する構造とした場合、バルブの開閉操作に要する時間が反応室への第1の原料ガスの供給量に影響を与えるため問題になる。また、バッファタンク25を用いずに、マスフローコントローラーで第1の原料ガスの供給量を制御する構造とした場合、故障が多いという問題や、流量の安定化のために原料ガスの一部を装置外へ排出する必要があり原料の利用効率が悪くなるという問題もある。しかしながら、本実施形態においては、バッファタンク25を用いて第1の原料ガスを反応室に供給する構造としているため、このようなバルブのみやマスフローコントローラーを用いた場合に生じる問題もない。
【0045】
ここで、第1の原料ガスの反応室への供給量(Q)は、バッファタンク25の容量V(cc)、第1の原料ガスの原料容器22の圧力P(T)(Tは第1の原料ガスの温度)、大気圧Patmに依存し、例えばQ=V×{P(T)/Patm}の関係が成り立つ。そのため、このバッファタンク25の容量や第1の原料ガスの原料容器22の圧力を調整することにより、所望の量の第1の原料ガスを反応室へ供給することができる。
【0046】
上述した真空成膜装置1を用いて、酸化アルミニウム(Al)を基板11上に成膜する条件例を以下に示す。なお、下記の条件においては、バッファタンク25の容量Vと基板11の表面積S(cm)は、V=(4×10−5〜4×10−4)×{Patm/P(T)}×2.5Sの関係がある。
第1の原料ガス:トリメチルアルミニウム(TMA)
第2の原料ガス:H
不活性ガス:N
流量:各1SLM
O流量:100sccm
TMAの原料容器の温度:20〜80℃
Oの原料容器の温度:20〜80℃
配管温度:20〜80℃
基板の表面積:8000cm
反応室(成膜エリア)の容量:770mm×960mm×10mmt
反応室の温度:90〜150℃
バッファタンク容量:14〜140cc
【0047】
例えば、上記条件で、図2の(1)の工程の時間を2秒、図2の(2)の工程の時間を20秒、図2の(3)の工程の時間を2秒、図2の(4)の工程の時間を20秒として、成膜することができる。
【0048】
また、反応室を具備する真空成膜装置本体100の構造も特に限定はなく、反応室内に載置された基板の表面で反応室に供給された原料ガスが反応できる構造であればよい。反応室を具備する真空成膜装置本体100の構造例を図4〜図6を参照して以下に詳述する。図4及び図5は真空成膜装置本体の側断面の概略を示す模式図であり、図6(a)及び(b)は反応室である内チャンバー内に設ける防着板の構成を模式的に示す断面図(図6(a))及び平面図(図6(b))である。図4は成膜操作中の真空成膜装置本体の状態を示し、図5は処理対象物(基板)を搬入・搬出する際の真空成膜装置本体の状態を示す。これらの図において、同じ構成要素は同じ参照番号を付けてある。
【0049】
図4及び図5において、真空成膜装置本体100は、その外壁で構成されている外チャンバー111と、その内部の下方部分に設置されている内チャンバー(反応室)112と、外チャンバー111の側壁にゲートバルブ113を介して設けられた処理対象物(基板11)の搬送室114とを備えている。真空成膜装置本体100は、外チャンバー111及び内チャンバー112のそれぞれの天板111a及び112aを開閉せしめるためのモーター等の駆動機構(図示せず)を備えている。
【0050】
内チャンバー112は、天板112aと底壁112bとから構成されており、天板112aと底壁112bとの間隔は、反応が起きる範囲内であればよく、できるだけ小さくすることが好ましい。真空成膜装置本体100を二重構造としたことにより内チャンバー112の容積を小さくし、その内表面積を小さくすることが可能となった。例えば、内チャンバーの底面と天板との間を2mm以上1cm以下の距離とすることができる。
【0051】
内チャンバー112の天板112aは昇降自在に構成されており、この天板112aが外チャンバー111内の、内チャンバー112の上方空間内に上昇して、搬送室114から基板11を内チャンバー112内に搬入及び搬出することができるように構成されている。内チャンバー112内に基板11を搬入して、支持部材116上に載置した後、天板112aを下降せしめて閉じた状態で、第1の原料ガス供給手段及び第2の原料ガス供給手段(図示せず)を介してガスノズル115から内チャンバー112内に各原料ガスを交互にパルス的に供給するように構成されている。このガスノズルの形状は特に制限はなく、各原料ガスが均一に基板11表面に供給されるようなものであればよい。
【0052】
図4に示す内チャンバー112の内部には、図6(a)及び(b)に示すように、天板112aのチャンバー内側に上部防着板117、下部防着板118及び119、及び側壁防着板120がボルト等で固定されて設けられている。これらの防着板は、原料ガスの反応により生成される薄膜が内チャンバー112の内壁やガスノズル115周辺に付着しないようにするために設けるものであり、真空成膜装置本体100のメンテナンスの際に、これらの防着板を取り替えることができる。外チャンバー111及び内チャンバー112のそれぞれの天板がモーター駆動により開閉される機構を駆動せしめて、各天板を開き、取り替えればよい。そして、上部防着板117は一枚のものであっても、分割されたものであってもよく、分割されたものの場合は、基板11の上部に設ける上部防着板117aとノズル周辺の上部に設ける上部防着板117bとに分割されたものであってもよい。防着板を分割するのは、ガスノズル115周辺の汚れ(膜付着)が特にひどく、厚い膜が形成され易いので、ガスノズル115周辺の防着板だけを交換できるようにするためである。下部防着板118はガスノズル115周辺であって、内チャンバー112の底壁112bの上に設けられ、下部防着板119は、内チャンバー112内に載置される基板11の裏面の少なくとも周縁部近傍に設けられている。原料ガスは基板11の裏面に回り込み、裏面周縁が汚れ易いことから、下部防着板119を設けるのである。この下部防着板118及び119も独立して交換できる構造とすることが好ましい。さらに、ガスノズル115自体も独立して交換できる構造とすることが好ましい。下部防着板118及び119は、その中央部分がくり抜かれた構造を有している。
【0053】
また、図6(a)に示した下部防着板119の代わりに、防着板の構成を模式的に示す断面図である図6(c)に示す下部防着板121を設けても良い。図6(c)において、ガスノズル115、上部防着板117(117a、117b)、下部防着板118、側壁防着板120、及び基板11は、図6(a)との関係で説明したものと同じである。下部防着板121は、内チャンバー112内に載置される基板11の裏面全体(基板の寸法と同じであっても、基板の寸法より大きくても良い)に設けられ、その中央部分がくり抜かれていない構造を有している。この下部防着板121も独立して交換できる構造とすることが好ましい。
【0054】
上記基板11は、支持ステージとしての支持部材116上に載置され、成膜工程中には内チャンバー112の底壁112bに載置され、成膜工程が終わって基板11を搬送する際には、天板112aの上昇と共に支持部材116を上昇せしめ、基板11を搬送室114へ搬送できるように構成されている。支持部材116を昇降自在にするためには、公知の昇降機構を設ければよく、例えば、支持部材116の下面にリフトを設ければよい。
【0055】
また、真空成膜装置本体100には、図示していないが、内チャンバー112の天板112a及び/又は底壁112b内にヒーター等の加熱手段が埋め込まれて、基板11の温度を設定できるように構成されている。
【0056】
そして、内チャンバー112の底壁112bには、成膜に寄与しない第1の原料ガス及び第2の原料ガスを排出するための、また、真空成膜装置本体100内を排気するための上記ドライポンプ67に接続された配管64が設けられている。また、例えば、外チャンバー111だけを排気するために、真空成膜装置本体100からバルブを介してドライポンプ67へ接続してもよい。なお、内チャンバー112と外チャンバー111とを所望の圧力に真空排気できればよく、上記のように両チャンバーを一つの真空ポンプで排気しても、それぞれのチャンバーを独立の真空ポンプで排気してもよい。
【0057】
このような真空成膜装置本体100においては、まず、内チャンバー112内に設けられた昇降自在の支持部材116上に基板11を載置する。基板11の搬送時は、内チャンバー112のみを開閉し、ヒーター等の加熱手段はONのままである。内チャンバー112を開く前に内チャンバー112内をパージする。そして、第1の原料ガス(例えば、トリメチルアルミニウムガス)及び第2の原料ガス(例えば、HOガス)を、配管21及び41を経由してガスノズル115から反応室である内チャンバー112に、交互にパルス的に供給し、第1の原料ガスの供給と吸着と排出及び第2の原料ガスの供給と吸着した原料ガスとの反応と排出とを繰り返し実施することにより、基板11に成膜する。この成膜工程において、防着板及びガスノズル等に膜が付着して汚染するが、内チャンバー112の天板も外チャンバー111の天板も開閉自在に構成されているため、真空成膜装置本体100のメンテナンスの際に、上記外チャンバー111及び内チャンバー112の各天板を開放して、装置内のクリーニングや、防着板及びガスノズルの取り替え等が容易にできる。具体的には、メンテナンス時には、ヒーター等の加熱手段をOFFにし、その後内チャンバー112を開け、外チャンバー111内をパージし、その後外チャンバー111を開けることにより、装置内のクリーニングや、防着板及びガスノズルの取り替え等が容易にできる。なお、内チャンバー112内の成膜に寄与しなかった第1の原料ガス及び第2の原料ガスは、内チャンバー112の下流に設けられた上記トラップ61内に導入する。そして、この成膜に寄与しなかった第1の原料ガスは、上述したように、トラップ61内に導入された第2の原料ガスとを反応させて処理する。
【0058】
上述した例では、反応室を具備する真空成膜装置本体100として、内チャンバーと外チャンバーとの二重構造を有するものを例示したが、勿論この構造に限定されず、チャンバーが一重の構造でもよい。しかしながら、反応室は小さいほうが好ましいので、二重構造チャンバーとすることが好ましい。
【0059】
なお、第1の原料ガス及び第2の原料ガスは、互いに反応するガスであれば特に限定はない。例えば、上述した第1の原料ガスであるTMAと反応させる第2の原料ガスとして水以外にも、酸素やオゾン等の酸化剤が挙げられる。ここで、本発明は、第1の原料ガスが反応室の下流側に設けられる圧力調整用バルブやドライポンプ等に流れ込み反応して悪影響を与えることを防ぐことができるという効果を発揮するものであるので、第1の原料ガスが反応性の高いガスである場合に、特に顕著に本発明の効果を奏する。また、第2の原料ガスはトラップ61にも供給されること及び第1の原料ガスはバッファタンク25を用いることにより原料の利用効率が高いことから、第2の原料ガスは第1の原料ガスよりも低コストのものであることが好ましい。
【0060】
また、上述した例では、第1の原料ガスや第2の原料ガスは、原料が液体であるものを例示したが、各原料ガスの原料は、固体でもよい。この場合は、気化器等を設けて原料ガスを生成すればよい。
【0061】
そして、上述した例では、窒素等の不活性ガスが常に反応室に供給されるようにしたが、不活性ガスを用いない構成としてもよい。しかしながら、配管や反応室に一方の原料ガスが残留していると、他方の原料ガス等と反応し、反応室への原料ガスの供給量が変動したり、配管や反応室の汚染等の原因となるため、不活性ガスを常に流すことが好ましい。
【0062】
さらに、上述した例においては、第1の原料ガスの供給手段をバッファタンク25有する構造としたが、バッファタンク25を用いなくてもよく、例えばバルブやマスフローコントローラーを用いてもよい。しかしながら、上述したように反応室への安定した供給量、原料の利用効率や故障等を考慮すると、バッファタンク25を用いる構造が好ましい。
【符号の説明】
【0063】
1 真空成膜装置、 11 基板
21、31、41、51、62、64 配管
22、42 原料容器、 25 バッファタンク
23、24、26、32、34、43、44、46、52、54、63、65 バルブ
27 不活性ガス源、 33、45、53 マスフローコントローラー
61 トラップ、 66 圧力調整用バルブ
67 ドライポンプ、 71 外筒部材
72 未反応原料ガス導入口、 73 蓋部材
74 底部材、 75 内筒部材
76 第2の原料ガス導入口、 77 第2の原料ガス導入路
78 原料ガス排出口
100 真空成膜装置本体、 111 外チャンバー
111a 天板、 112 内チャンバー(反応室)
112a 天板、 112b 底壁
113 ゲートバルブ、 114 搬送室
115 ガスノズル、 116 支持部材
117、117a、117b 上部防着板
118、119、121 下部防着板
120 側壁防着板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載置される反応室と、
第1の原料ガスをその原料供給源から前記反応室へ供給する第1の原料ガス供給手段と、
前記第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスをその原料供給源から前記反応室に供給する第2の原料ガス供給手段と、
前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとが交互に前記反応室に供給されるように前記第1の原料ガス及び前記第2の原料ガスの流れを制御する原料ガス制御手段と、
前記反応室から排出される原料ガスが供給されるトラップと、
前記第2の原料ガスをその原料供給源から前記反応室を経由せずに前記トラップに供給する手段と、
を有することを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
前記第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスで、前記第2の原料ガスがHOガスであることを特徴とする請求項1に記載の真空成膜装置。
【請求項3】
前記トラップの下流側に、前記反応室の圧力を調整する圧力調整用バルブを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の真空成膜装置。
【請求項4】
前記第1の原料ガス供給手段は、前記第1の原料ガスを一時的に溜めるバッファタンクを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の真空成膜装置。
【請求項5】
反応室に基板を載置し、第1の原料ガスと第1の原料ガスと反応する第2の原料ガスとを交互に前記反応室に供給して第1の原料ガスと第2の原料ガスとを反応させることにより前記基板上に成膜すると共に、
前記反応室から排出される成膜に寄与しなかった前記第1の原料ガスを、前記反応室の下流側に設けられたトラップ内で、前記反応室を経由せずに前記トラップに供給された前記第2の原料ガスと、反応させることを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
前記第1の原料ガスがトリメチルアルミニウムガスで、前記第2の原料ガスがHOガスであることを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−126976(P2012−126976A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281024(P2010−281024)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】