説明

真空装置用部品

【課題】半導体等の製品基板の成膜やプラズマ処理装置内に用いる真空装置の部品において、膜状物質の付着性が高く、しかも異常成長による粒子の脱落のない、長時間の連続使用が可能な優れた部品を提供する。
【解決手段】半導体等の成膜装置及びプラズマ処理装置に用いる真空装置用部品において、表面がセラミック及び又は金属溶射膜で被覆され、該溶射膜の表面にJISB0601:2001及びJISB0633:2001で規定する輪郭曲線要素の平均長さRsmが20〜70μmの範囲、算術平均粗さRaが8〜15μmの範囲で、算術平均うねりWaが8μm以下である表面粗さを有する溶射膜を具備するものは、膜状物質の付着性が高く、しかも異常粒成長による粒子の脱落がないため、長時間の連続使用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の製造における成膜装置、プラズマ処理装置(プラズマエッチング装置)に用いる真空装置用部品に係わるものである。本発明の真空装置用部品は、成膜、プラズマ処理の際に装置内の部品に付着する膜状物質の剥離による発塵を防止するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体等の製品基板の成膜、プラズマ処理装置では、その装置内部に用いられる部品上に膜状物質が付着する。このような状態で成膜、プラズマ処理を連続で行うと、付着した膜状物質が厚くなり、それらがやがて剥離して装置内の発塵となり、装置内及び製品基板を汚染することが知られている。
【0003】
従来から、膜状付着物の剥離による発塵を低減する方法としては、部品の表面にブラスト処理を施して表面を梨地状にして膜状物質の付着性を大きくする方法が知られている。また、ブラスト処理よりも剥離防止効果が大きい方法としては、部品の表面にAl、Ti、Mo、Wなどを溶射する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。さらに溶射膜の表面粗さを200μmとできるだけ粗くすることで膜状物質の剥離防止効果を高めることや(例えば、特許文献2参照)、JISB0601−1994で規定する局部山頂の平均間隔Sが50〜150μmの範囲、最大谷深さRvおよび最大山高さRpがそれぞれ20〜70μmの範囲である表面粗さを有する溶射膜とすることにより膜状物質の剥離を大幅に抑制すると共に、溶射膜の剥離を安定かつ有効に防止することも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
さらに、これらの技術を応用してスパッタリングターゲット上の非エロージョン部およびバッキングプレートに付着した膜状物質の剥離による発塵を防止することが示されている。例えばターゲットのスパッタ面の非エロージョン部およびバッキングプレートのスパッタ面側に溶射膜を形成することで膜状物質の発塵を防止することが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−120515号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭61−56277号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−247957号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平09−176842号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空装置に用いられる部品においては、膜状物質の付着性を更に向上させて、成膜又はプラズマ処理をより長時間連続的に実施可能とする技術を、市場から常に要求されてきた。特に、TiN、TaN、WN等の窒化膜の成膜においては、デザインルールが進むごとに細かい溝にスパッタ膜を形成するため、イオン化率を高める工夫がされてきた。このような工夫により窒化膜の応力も大きくなっており、膜状物質がより剥離しやすくなってきている。また、成膜時間の増加と共に、シールド表面に堆積する膜厚も増加するが、溶射膜上に成長した窒化膜の異常成長粒子が生成し、その異常成長粒子が脱落してパーティクル発生の原因となるため、シールド寿命の低下の原因となることがわかってきた。
【0007】
そこで、本発明は、半導体等の製品基板の成膜やプラズマ処理装置内に用いる真空装置の部品において、膜状物質の付着性が高く、しかも異常成長による粒子の脱落のない、長時間の連続使用が可能な優れた部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述のような現状に鑑み、鋭意検討を行った結果、基材上に金属溶射膜を形成した真空装置用部品であって、該溶射膜の表面にJISB0601:2001及びJISB0633:2001で規定する輪郭曲線要素の平均長さRSmが20〜70μmの範囲、算術平均粗さRaが8〜15μmの範囲で、算術平均うねりWaが8μm以下である表面粗さを有する溶射膜を具備することを特徴とする真空装置用部品においては、堆積する膜状物質の付着性が従来よりも更に優れることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、基材上に金属溶射膜を形成した真空装置用部品であって、該溶射膜の表面にJISB0601:2001及びJISB0633:2001で規定する輪郭曲線要素の平均長さRSmが20〜70μmの範囲にあり、算術平均粗さRaが8〜15μmの範囲で、算術平均うねりWaが8μm以下である表面粗さを有する溶射膜を具備する真空装置用部品に関するものである。
【0011】
輪郭曲線要素の平均長さRsmとは、測定される断面曲線から、カットオフ値λcの高域フィルタによって長波長成分を遮断して得られた輪郭曲線(粗さ曲線)を求め、粗さ曲線の平均線に対して基準長さ(L)を抜き取り、基準長さ上の隣り合う山と谷の長さ(Xsi)の平均値のことである。図1にRsmの概念図を示す。Rsmの測定を行う場合には、例えば、記録波形または目視によってRsmの値を推定し、推定値とJISB0633で決められる基準長さ及び評価長さの測定条件によって予備測定を行った後、測定条件の正しいことを確認した上で本測定を行うことができる。Rsmが13μmより大きく40μm以下の場合、粗さ曲線の基準長さを0.08mmとし、粗さ曲線の評価長さを0.4mmとした。また、Rsmが40μmより大きく130μmより小さい場合、粗さ曲線の基準長さを0.25mmとし、粗さ曲線の評価長さを1.25mmとした。粗さ曲線の基準長さとカットオフ値λcは同じ値とした。
【0012】
次に算術平均粗さRaの測定方法について説明する。Raとは、前記したような方法で粗さ曲線を求め、その曲線の基準長さにおける高さの絶対値の平均値のことである。図2にRaの概念図を示す。Raの測定を行う場合には、前記したRsmの測定の場合と同様に、例えば、記録波形または目視によってRaの値を推定し、推定値とJISB0633で決められる基準長さ及び評価長さの測定条件によって予備測定を行った後、測定条件の正しいことを確認した上で本測定を行うことができる。Raが2μmより大きく10μm以下の場合、粗さ曲線の基準長さを2.5mmとし、粗さ曲線の評価長さを12.5mmとした。また、Raが10μmより大きく80μmより小さい場合、粗さ曲線の基準長さを8mmとし、粗さ曲線の評価長さを40mmとした。カットオフ値は、基準長さと同じ値とした。
【0013】
次に、算術平均うねりWaの測定方法について説明する。Waとは、測定される断面曲線から、カットオフ値λcおよび、λcより大きいλfの高域フィルタを順次かけることによって輪郭曲線(うねり曲線)を求め、その曲線の基準長さにおける高さの絶対値の平均値のことである。図2にWaの概念図を示す。本発明では、うねり曲線の基準長さを8mmとし、うねり曲線の評価長さを40mmとする。またカットオフ値λcを0.8mmとし、λfを8mmとする。
【0014】
なお、前記のRsm、Ra、およびWaは、JIS0601:2001およびJIS0633:2001に基づき、例えば、株式会社小坂研究所製の表面粗さ測定器、商品名「サーフコーダー2300」等を使用して測定することができる。
【0015】
Rsmは、20μmから70μmの範囲とする。Rsmが20μmより小さい場合には、基材上に存在する突起状粒子が小さすぎて、付着膜があまり大きく成長しないうちに剥離してしまう場合があり、すなわち、付着膜の溶射膜への保持性が低下するため好ましくない。Rsmが70μmより大きい場合には、基材上に存在する突起状粒子が大きすぎて、さらに突起状粒子の数が少なくなってしまうため、付着膜の粒子が異常に大きく成長した構造をとり、長時間の使用により、粒子が粗大化して脱落しやすくなる。これらの観点から、Rsmはある大きさの範囲内であることが好ましく、好ましくは20〜60μm、より好ましくは25〜50μm、更に好ましくは25〜45μmである。
【0016】
算術平均粗さRaは8〜15μmの範囲とする。Raが8μmより小さい場合には、表面が平坦すぎて、溶射膜への付着効果が低減するため好ましくない。Raが15μmより大きい場合には、堆積粒子のサイズが不揃いになりやすく、分布が生じるようになり、その結果、特に異常に大きく成長した粒子が剥離するようになるため好ましくない。これらの観点から、Raはある大きさの範囲内であることが好ましく、好ましくは10〜13μmである。
【0017】
算術平均うねりWaは8μm以下とする。Waが8μmを超える場合には、大きな突起が所々存在するために、異常成長した粒子の数が増えるため保持性が低下する。以上のような理由により、好ましくは6μm以下である。
【0018】
本発明において、溶射膜の膜厚は特に限定されないが、50〜1000μmであることが好ましい。50μm未満では、溶射膜が基材の凹凸をカバー仕切れない場合があり、また1000μmを超えると、溶射膜自体に応力が発生して剥がれやすくなる場合がある。こうした理由により、膜厚として100〜400μmであることがさらに好ましい。
【0019】
溶射膜表面の構造としては、溶射膜表面に堆積する膜状物質の均一な成長を促進させ、異常粒成長を発生させないようにするために球状化した突起構造からなっていることが好ましい。この場合、本発明で規定する粗さのパラメータを低減化させるために、基材上に形成した溶射膜の基材に近い部分(下層部)が緻密な層からなり、その上に空孔が多く存在する疎らな層(上層部)が形成されていることが好ましい。そして、上層部の表面部の構造は前述の通りである。
【0020】
本発明における溶射膜は、真空装置用部品の中でもシールド、スパッタリングターゲット等のようなプラズマ処理装置の、少なくとも膜状物質が付着する可能性がある部分に対して、その部分を、例えば上記膜厚をもって、被覆するように形成すればよい。
【0021】
本発明における基材としては、ガラス、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属、アルミナ、ジルコニア、ムライト等のセラミック等、いかなる物でも用いることができる。溶射膜と基材は同じ材質であっても良いが、それぞれ異なる材質でも良い。溶射された粉末が基材上によく溶融して、溶射膜が均一に生成しやすくなるように、基材の上に下地層を施してもよい。下地の種類、材質、膜厚については特に限定されないが、例えば、基材と同じ材質の材料をプラズマ溶射法により溶射条件もしくは溶射粉末を変えて成膜したり、Ni−Cr合金層をスパッタリングや電解めっき等の方法により成膜してもよい。
【0022】
溶射膜を構成する金属材料としては、Al、Ti、Cu、Mo、W等、いかなる材料でも良い。また、前記の純金属粉末の他に、合金粉末を使用してもよい。合金粉末としては、AlとMo、CuとW等、その他の合金粉末を特に制限なく使用することができる。
【0023】
さらに、本発明の真空装置用部品の製造方法につき説明する。
【0024】
原料粉末としては、平均粒径として20〜60μmであることが好ましく、より好ましくは35〜55μm、更に好ましくは25〜45μmである。粉末の粒度分布としては、90wt%以上が20μmから70μmの範囲に入っていることが好ましく、95wt%以上が30μmから60μmの範囲に入っていることがさらに好ましい。こうした平均粒径及び粒度分布を持つ溶射粉末は、フィーダー内を均一の速度で流れるようになるため、フレーム中にも粉末が均一に流れやすく、均一な組織を持つ溶射膜を得られることができるようになる。その結果、堆積粒子のサイズも均一になり、付着膜の保持性が向上する。
【0025】
なお、粉末の粒度分布測定は、COULTER社製のレーザー式粒度分布測定装置「COULTER LS」等を用いて測定することができる。
【0026】
溶射の方式としては特に限定されず、フレーム溶射、アーク溶射、爆発溶射、プラズマ溶射などから選択することができるが、プラズマ溶射又は高速のフレーム溶射を用いることが好ましい。プラズマ溶射を選択する場合、通常はアルゴンガス雰囲気中で溶射が行われるが、アルゴンに水素やヘリウムを添加してもよい。水素を添加することでプラズマ炎の温度を高くすることが出来、特に先端部分のプラズマ温度の低下を抑制することが出来るため、均一な溶射膜を得ることが可能となる。ヘリウムを添加した場合は、プラズマフレームの速度を高くすることができる。そのため金属粉末の周囲のみをわずかに溶融させ、基材に到達したときに生じる塑性変形を利用して、粉末の形状に近いような溶射膜を効率よく得ることができる。例えば、アルミニウム等の低融点粉末を用いる場合には、できるだけ高速で、しかもフレームの温度を低くして成膜することにより、前記したような溶射膜が容易に得られるようになる。溶射膜の密着性が良好で、しかも粉末形状に限りなく近いような溶射膜を隙間なく形成させるためには、溶射粉末の形状は球形であることが好ましく、例えばガスアトマイズ粉を使用することができる。
【0027】
本発明により得られた真空装置用部品は、溶射膜を形成した後に、更に超純水等を使用した超音波洗浄を行い、乾燥すれば良い。
【0028】
本発明は、真空装置用部品として、上記した表面粗さからなる溶射膜が形成されたスパッタリングターゲットを提案するものでもある。こうすることにより、スパッタされた粒子がターゲット上或いはバッキングプレート上に飛来した時、パーティクル発生の原因となるスパッタ粒子を効率よく溶射膜表面上に付着させることができる。溶射膜が形成される材料としては、特に限定されないが、スパッタリング装置内の汚染を防止するため、ターゲット材料と同じ材料を使用することが好ましい。
【0029】
スパッタリングターゲットにおいて、本発明の溶射膜が形成されている部分としては、ターゲット表面のスパッタされない部分(非エロージョン部)が好ましい。このとき、パーティクル発生の原因となるスパッタ粒子の発生量に応じて、非エロージョン部の全面もしくは一部に本発明の溶射膜を施すことができる。このような粒子がターゲットだけでなく、バッキングプレート上にも発生する場合には、当該バッキングプレート表面にも本発明の溶射膜を形成してもよい。バッキングプレートに溶射膜を形成させる場合、溶射膜が形成される材料としては特に限定されないが、例えば無酸素銅の材質のバッキングプレートに、銅、アルミニウム、チタンなどの粉末を使用することができる。さらに、ターゲット或いはバッキングプレートの側面部分にもこのような粒子が発生している場合には、発生量に応じて側面部分にも本発明の溶射膜を施してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の真空装置用部品は、従来部品に比べて膜状物質の付着性に優れるため、成膜装置やプラズマ処理装置に使用した際に、膜状物質の剥離に起因する発塵による製品汚染がなく、なおかつ長時間の連続使用が可能である。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
なお、以下の例において、粉末の粒度分布は、COULTER社製のレーザー式粒度分布測定装置、商品名「COULTER LS」等を用いて測定した。
【0033】
実施例1
ステンレス製のボウル形状のシールド内面をホワイトアルミナのグリットWA#60を用いて、圧力0.5MPaでブラスト後、シールドの内面に、ArとHの流量比を95:5、ガス流量を25L/min、プラズマガンとシールド内面との距離を100mm、投入電力を24kWとしてプラズマ溶射によりアルミニウム溶射膜を形成した。プラズマ溶射には、アルミニウム回転楕円形状粉末(純度:99.7%)を用いた。アルミニウム粉末の粒度分布を測定したところ、平均粒径は46μmであり、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合は93%であった。溶射後、超純水で超音波洗浄し、クリーンオーブンで乾燥し、シールドを完成した。
【0034】
表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは48μmであり、Raは12μmであり、Waは7.5μmであった。
【0035】
上述した方法により製造したボウル形状のシールドをTaN成膜用のスパッタリング装置に取り付けて使用した。使用開始から220時間を経過した後において装置内部を確認したところ、シールド表面に最大で約0.8mmΦの比較的大きな粒子の存在が認められたが脱落はしていなかった。
【0036】
実施例2
ステンレス製のボウル形状のシールド内面をホワイトアルミナのグリットWA#60を用いて、圧力0.5MPaでブラスト後、シールド内面に、ArとHeの流量比を70:30、ガス流量を100L/min、プラズマガンとシールド内面との距離を120mm、投入電力を34kWとしてプラズマ溶射によりアルミニウム溶射膜を形成した。プラズマ溶射には、アルミニウム球状粉末(純度:99.9%)を用いた。アルミニウム粉末の粒度分布を測定したところ、平均粒径は42μmであり、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合は95%であった。溶射後、超純水で超音波洗浄し、クリーンオーブンで乾燥し、シールドを完成した。
【0037】
表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは40μmであり、Raは13μmであり、Waは6.8μmであった。
【0038】
上述した方法により製造したボウル形状のシールドをTaN成膜用のスパッタリング装置に取り付けて使用した。使用開始から240時間を経過した後において装置内部を確認したところ、シールド表面に最大で約0.5mmΦの比較的大きな粒子の存在が認められたが脱落はしていなかった。
【0039】
比較例1
実施例1において、溶射粉末として平均粒径が68μm、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合が62%である粉末を使用すること以外は、さらに溶射条件としてArとHの流量比を92:8、ガス流量を28L/min、プラズマガンとシールド内面との距離を80mm、投入電力を30kWとしてプラズマ溶射によりアルミニウム溶射膜を形成すること以外は実施例1と同じ方法でシールドを完成した。
【0040】
表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは92μmであり、Raは18μmであり、Waは12μmであった。
【0041】
上述した方法により製造したリング状シールドをTaN成膜用のスパッタリング装置に取り付けて使用した。使用開始から120時間を経過した後において装置内部を確認したところ、約2mmΦサイズの異常粒子がシールド表面から脱落していることが認められた。
【0042】
実施例3
実施例1において、ArとHの流量比を90:10、ガス流量を30L/min、プラズマガンとシールド内面との距離を100mm、投入電力を28kWとすること以外は実施例1と同じ方法にしてプラズマ溶射により緻密なアルミニウム溶射膜を形成した。上記溶射膜の上に、実施例2において、ArとHeの流量比を80:20、ガス流量を120L/min、プラズマガンとシールド内面との距離を150mm、投入電力を30kW
とすること以外は実施例2と同じ方法にして、プラズマ溶射により空孔の多い疎らなアルミニウム溶射膜を形成し、シールドを完成した。表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは46μmであり、Raは14μmであり、Waは7.3μmであった。
【0043】
上述した方法により製造したボウル形状のシールドをTaN成膜用のスパッタリング装置に取り付けて使用した。使用開始から260時間を経過した後において装置内部を確認したところ、シールド表面に最大で約0.5mmΦの比較的大きな粒子の存在が認められたが脱落はしていなかった。
【0044】
実施例4
Tiスパッタリングターゲットの板材の非エロージョン部を、エロージョン部にかからないようにマスキングをしながら、ホワイトアルミナのグリットWA#60を用いて、圧力0.5MPaでブラスト後、純水で超音波洗浄し、オーブンで乾燥した。その後、Tiターゲットの非エロージョン部に、アルゴンと水素の流量比90:10とし、ガス流量を90L/min.、溶射距離を90mm、パワーを80kWで溶射し、非エロージョン部にTi溶射膜の施されたTiターゲット用板材を完成した。チタン粉末の粒度分布を測定したところ、平均粒径は40μmであり、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合は95%であった。溶射した部分の表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは39μmであり、Raは10μmであり、Waは6.2μmであった。
【0045】
実施例5
無酸素銅製バッキングプレートの表面及び側面部を、ターゲットがボンディングされる部分をマスキングした後、ホワイトアルミナのグリットWA#60を用いて、圧力0.5MPaでブラスト後、純水で超音波洗浄し、オーブンで乾燥した。その後、上記ブラスト部に、高速で成膜可能な高速フレーム溶射装置を用いて、溶射膜を形成した。燃料ガスとして圧力0.8MPaのプロパンガス、燃焼ガスとして圧力1.2MPaの酸素ガスを使用し、溶射距離を100mmとして、バッキングプレートの表面及び側面部にアルミニウム溶射膜を形成した。アルミニウム粉末の粒度分布を測定したところ、平均粒径は39μmであり、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合は98%(30〜60μmの範囲に入っている粒度の割合は96%)であった。溶射した部分の表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは38μmであり、Raは10μmであり、Waは5.8μmであった。実施例3の方法により溶射されたターゲットとバッキングプレートをボンディングして、Tiスパッタリングターゲットを完成させた。
【0046】
このTiスパッタリングターゲットをTiN成膜用のスパッタリング装置に取り付けて使用した。使用開始から280時間を経過した後において装置内部を確認したところ、シールド表面に最大で約0.5mmΦ以上の比較的大きな粒子の存在は認められず、脱落もしていなかった。
【0047】
比較例2
実施例4において、チタン溶射粉末として平均粒径が78μm、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合は50%である粉末を使用すること以外は、さらに溶射条件としてアルゴンと水素の流量比95:5、ガス流量を45L/min.溶射距離を130mm、パワーを40kWとすること以外は実施例4と同じ条件にて、非エロージョン部にTi溶射膜の施されたTiターゲット用板材を完成した。さらにアルミニウム溶射粉末として平均粒径が64μm、20μmから70μmの範囲に入っている粒度の割合が75%である粉末を使用すること以外は、実施例5と同じ方法にて、バッキングプレートに溶射膜を形成してスパッタリングターゲットを完成させた。
【0048】
ターゲット板材の表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは86μmであり、Raは20μmであり、Waは14μmであった。バッキングプレートのブラスト部の表面粗さをJISB0601:2001及びJISB0633:2001に基づいて測定したところ、Rsmは78μmであり、Raは16mであり、Waは9.8μmであった。
【0049】
このTiスパッタリングターゲットをTiN成膜用のスパッタリング装置に取り付けて使用した。使用開始から140時間を経過した後において装置内部を確認したところ、膜状物質の剥離による粒子の存在が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)の概念を示す図である。
【図2】算術平均粗さ(Ra)及び算術平均うねり(Wa)の概念を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に金属溶射膜を形成した真空装置用部品であって、該溶射膜の表面にJISB0601:2001及びJISB0633:2001で規定する輪郭曲線要素の平均長さRSmが20〜70μmの範囲、算術平均粗さRaが8〜15μmの範囲で、算術平均うねりWaが8μm以下である表面粗さを有する溶射膜を具備することを特徴とする真空装置用部品。
【請求項2】
溶射膜が、基材に近い溶射膜下層部が緻密な層からなり、下層部の上方に設けられた上層部が空孔の多い疎らな層であり、溶射膜の表面が球状化した突起構造から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空装置用部品。
【請求項3】
真空装置用部品が、真空容器内に膜が付着することを防止するシールドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空装置用部品。
【請求項4】
真空装置用部品がスパッタリングターゲットであり、該スパッタリングターゲット本体の非エロージョン領域及び/又は該スパッタリングターゲットを保持するバッキングプレートに溶射膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空装置用部品。
【請求項5】
平均粒径が20〜60μmであり、粉末重量の90wt%以上が20〜70μmの粒径をもつ粉末を溶射原料粉末として用いることを特徴とする請求項1記載の真空装置用部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−303158(P2006−303158A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122209(P2005−122209)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】