説明

磁気抵抗素子の製造方法及び製造装置

【課題】エッチングに用いられるハロゲン系成分による素子の腐食を防止することが可能な磁気抵抗素子の製造装置及び製造方法を提供すること
【解決手段】本発明の磁気抵抗素子10の製造方法は、基板上に強磁性材料からなる第1の強磁性層13を形成する。酸化マグネシウムからなる絶縁層14は、第1の強磁性層13上に形成される。Fe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層15は、絶縁層14上に形成される。ハロゲン系元素を含むプラズマによるエッチングは、基板11上に第1の強磁性層13、絶縁層14及び第2の強磁性層15が積層された積層体に対して施される。積層体は、HOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁場により電気抵抗が変化する「磁気抵抗効果」を利用した磁気抵抗素子は、MRAM(magnetoresistive random access memory)、磁気ヘッドあるいは磁気センサ等に利用される。磁気抵抗素子は、強磁性層や絶縁層、電極層等が積層された構造を有しており、一般的には、基板上にこれらの材料が順次成膜された積層体をエッチング等によってパターニングすることにより製造される。
【0003】
ここで、積層体のエッチングにはハロゲン系元素(F、Cl、Br、I)のプラズマが用いられることが多いが、これらのハロゲン系元素はエッチング後に除去されることが必要である。エッチング後にハロゲン系元素成分が残留している場合、大気中の酸素、水分等と反応して素子を腐食(アフターコロージョン)させてしまうからである。したがって、通常、大気開放前に素子に付着しているハロゲン系元素成分を除去するプロセスが実行される。例えば、特許文献1には、エッチング後にHプラズマ等によりハロゲン系の活性種を除去する工程を有する磁気記録媒体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−130181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、磁性層と非磁性層とが積層方向に垂直な方向に並ぶ磁気記録媒体に関するものであり、磁性層と非磁性層とが積層方向に並ぶ磁気抵抗素子に対して適用することはできない。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、エッチングに用いられるハロゲン系成分による素子の腐食を防止することが可能な磁気抵抗素子の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る磁気抵抗素子の製造方法は、基板上に強磁性材料からなる第1の強磁性層を形成する。
酸化マグネシウムからなる絶縁層は、上記第1の強磁性層上に形成される。
Fe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層は、上記絶縁層上に形成される。
ハロゲン系元素を含むプラズマによるエッチングは、上記基板上に上記第1の強磁性層、上記絶縁層及び上記第2の強磁性層が積層された積層体に対して施される。
上記積層体は、HOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露される。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の別の形態に係る磁気抵抗素子の製造方法は、基板上に、強磁性材料からなる第1の強磁性層、酸化マグネシウムからなる絶縁層並びにFe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層が積層された積層体に対して、ハロゲン系元素を含むプラズマによりエッチングを施す。
上記積層体は、HOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露される。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る磁気抵抗素子の製造装置は、エッチング室と、プラズマ処理室とを具備する。
上記エッチング室は、処理対象物にハロゲン系元素を含むプラズマを照射するエッチング室と、
上記プラズマ処理室は、上記処理対象物にHOを含むプラズマであるHOプラズマを照射する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る磁気抵抗素子の概略構成を示す模式図である。
【図2】上記磁気抵抗素子の各層の構成材料の例を示す模式図である。
【図3】上記磁気抵抗素子となる積層体の概略構成を示す模式図である。
【図4】上記積層体のパターニング装置の概略構成を示す模式図である。
【図5】上記パターニング装置の第1エッチング室及び第2エッチング室の概略構成を示す模式図である。
【図6】上記パターニング装置のプラズマ処理室の概略構成を示す模式図である。
【図7】上記積層体のパターニング方法を示すフローチャートである。
【図8】上記積層体のレジストマスク形成工程後の状態を示す模式図である。
【図9】上記積層体の第1エッチング工程後の状態を示す模式図である。
【図10】上記積層体のアッシング工程後の状態を示す模式図である。
【図11】上記積層体の第2エッチング工程後の状態を示す模式図である。
【図12】第2の実施形態に係る磁気抵抗素子の概略構成を示す模式図である。
【図13】上記磁気抵抗素子の各層の構成材料の例を示す模式図である。
【図14】上記磁気抵抗素子となる積層体の概略構成を示す模式図である。
【図15】上記積層体のレジストマスク形成工程後の状態を示す模式図である。
【図16】上記積層体の第1エッチング工程後の状態を示す模式図である。
【図17】上記積層体のアッシング工程後の状態を示す模式図である。
【図18】上記積層体の第2エッチング工程後の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の製造方法は、基板上に強磁性材料からなる第1の強磁性層を形成する。
酸化マグネシウムからなる絶縁層は、上記第1の強磁性層上に形成される。
Fe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層は、上記絶縁層上に形成される。
ハロゲン系元素を含むプラズマによるエッチングは、上記基板上に上記第1の強磁性層、上記絶縁層及び上記第2の強磁性層が積層された積層体に対して施される。
上記積層体は、HOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露される。
【0012】
ハロゲン系元素(F、Cl、Br、I)を含むプラズマによりエッチングされた積層体には、エッチングの終了後においてもハロゲン系元素が残留している。この状態の積層体を大気に曝すとハロゲン系元素の残留成分が大気と反応してハロゲン化Co(CoCl、CoCl等)、ハロゲン化Fe(FeCl、FeCl等)等が生成し、積層体の各層が腐食(アフターコロージョン)する。本実施形態では、エッチング後に積層体をHOプラズマに曝露させることにより、ハロゲン系元素の残留成分を除去し、上記腐食を防止することが可能である。
【0013】
上記積層体をHOプラズマに曝露させる工程では、上記積層体を200℃以上に加熱してもよい。
【0014】
積層体をHOプラズマに曝露させると同時に加熱することにより、ハロゲン系元素の残留成分によるハロゲン化水素(HCl、HBr等)の生成が促進される。ハロゲン化水素は揮発性を有するため、積層体を加熱することにより残留成分の除去を高速化させることが可能となる。
【0015】
上記HOプラズマは、HOに加えH、He、O、N、Ar、Ne及びXeの何れか一種以上を含むプラズマであってもよい。
【0016】
OにHを加えることによってハロゲン化水素の生成を促進させ、残留成分の除去を高速化させることが可能であり、HOにNを加えることによってHOラジカルの寿命を延ばすことが可能となる。また、レジストのアッシングとハロゲン系元素の残留成分の除去を同時に実行する場合において、HOに不活性ガス(Ar、Ne、Xe)を加えることによってアッシング速度や残留成分除去の速度を制御することが可能となる。また、この場合において、HOにアッシングガスであるOを加えることによって、アッシング速度を高速化させることが可能である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の製造方法は、基板上に、強磁性材料からなる第1の強磁性層、酸化マグネシウムからなる絶縁層並びにFe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層が積層された積層体に対して、ハロゲン系元素を含むプラズマによりエッチングを施す。
上記積層体は、HOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露される。
【0018】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の製造装置は、エッチング室と、プラズマ処理室とを具備する。
上記エッチング室は、処理対象物にハロゲン系元素を含むプラズマを照射するエッチング室と、
上記プラズマ処理室は、上記処理対象物にHOを含むプラズマであるHOプラズマを照射する。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗素子について説明する。
【0021】
[磁気抵抗素子の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の概略構成を示す断面図である。同図に示すように、磁気抵抗素子10は基板11上に、下部電極層12、ピン層(磁化固定層)13、絶縁層14、フリー層15、上部電極層16が順に積層された構成を有している。なお、図1に示す各層の厚さは実際の厚さに比例するものではない。磁気抵抗素子10は、絶縁層14をトンネル接合層(障壁層)とするトンネル磁気抵抗効果素子(TMR(tunnel magneto-resistance)素子)を構成し、例えば、STT−MRAM、磁気ヘッド、磁気センサ等の各種磁気デバイスとして用いられる。
【0022】
基板11は、シリコン基板等の半導体基板で構成されるが、これに限られず、セラミック基板やガラス基板であってもよい。下部電極層12は、磁気抵抗素子10の下部電極として構成された金属等の導体層である。ピン層13は、磁化方向が固定された強磁性材料層で構成されている。絶縁層14は、ピン層13とフリー層15との間を接合し、酸化マグネシウム(MgO)で構成される。フリー層15は、磁化方向が変化可能な強磁性材料層で構成されている。上部電極層16は、磁気抵抗素子10の上部電極として構成された金属等の導体層である。
【0023】
磁気抵抗素子10の各層のうち、ピン層13、絶縁層14、フリー層15及び上部電極層16はパターニングされており下部電極層12が部分的に表出している。このようなパターニングは、隣接する磁気抵抗素子(図示せず)との絶縁のためであり、パターニングの形態は図示するものに限られない。
【0024】
磁気抵抗素子10は、ピン層13の磁化方向とフリー層15の磁化方向との相違による抵抗値の変化を利用して、情報の記録あるいは読み出しを可能とする。例えば、各層の磁化方向が相互に同一方向(平行)の場合の抵抗値は最も小さく、各層の磁化方向が相互に逆方向(反平行)の場合の抵抗値は最も大きい。そこで、前者の磁化態様を「0」、後者の磁化態様を「1」と各データを規定することによって、当該素子によるデジタル情報の記録あるいは読み出しが可能となる。情報の記録(書き込み)及び読み出しは、STT−MRAMの場合、下部電極層12及び上部電極層16を通じてのフリー層15に対する電流の供給制御によって行われる。
【0025】
磁気抵抗素子10の各層は、各種材料の単層又は積層によって構成されている。図2は、磁気抵抗素子10の各層の構成材料の一例を示す図である。
【0026】
下部電極層12は、Ta(タンタル)層21、Ru(ルテニウム)層22及びTa層23がこの順で積層された構造とすることができる。下部電極層12はこの他にも、各種電極材料からなるものとすることができる。
【0027】
ピン層13は、PtMn(白金マンガン)層24、CoFeB(コバルト鉄ホウ素)層25、Ru層26及びCoFeB層27がこの順で積層された構造とすることができる。ピン層13はこの他にも、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Mn(マンガン)等のひとつあるいは複数種の金属からからなるものや、CoFeやCoFeB等の合金からなる層上にCoB/Pt等の垂直磁化人工格子、L10規則合金(FePt、CoPt)、L11規則合金(CoPt)、相分離系合金(CoCrPt、CoCrPt−SiO)、ホイスラー合金(CoMnSi)、アモルファス希土類(TbFeCo)等の材料が更に積層されたものとすることができる。また、これらの材料にSi(シリコン)、B(ホウ素)、P(リン)等の半金属元素が含まれてもよい。
【0028】
絶縁層14は、単層のMgO(酸化マンガン)層28からなるものとすることができる。
【0029】
フリー層15は、単層のCoFe(コバルト鉄)層29からなるものとすることができる。フリー層15はこの他にも、Fe及びCoの少なくとも一方を含有する材料からなるものとすることができる。また、フリー層15は、CoFeやCoFeB等の合金からなる層上に、CoB/Pt等の垂直磁化人工格子、L10規則合金(FePt、CoPt)、L11規則合金(CoPt)、相分離系合金(CoCrPt、CoCrPt−SiO)、ホイスラー合金(CoMnSi)、アモルファス希土類(TbFeCo)等の材料が更に積層されたものとすることができる。
【0030】
上部電極層16は、単層のTa層30からなるものとすることができる。上部電極層16はこの他にも、各種電極材料からなるものとすることができる。
【0031】
磁気抵抗素子10は以上のように構成されている。
【0032】
[積層体の構成]
磁気抵抗素子10は、基板11上に上記各層が成膜された「積層体」をパターニングすることにより作成することが可能である。図3は磁気抵抗素子10となる積層体40を示す模式図である。
【0033】
同図に示すように、積層体40は、基板11上に、Ta層41、Ru層42、Ta層43、PtMn層44、CoFeB層45、Ru層46、CoFeB層47、MgO層48、CoFe層49及びTa層50がこの順に積層されて構成されている。積層体40の各層は、上記磁気抵抗素子10の各層に対応するものであり、各層の材料に応じてその材料は変更され得る。
【0034】
[積層体の作製方法]
積層体40は、基板11上に、Ta層41、Ru層42、Ta層43、PtMn層44、CoFeB層45、Ru層46、CoFeB層47、MgO層48、CoFe層49及びTa層50を順に成膜することによって製造することができる。各層は、スパッタリング法、真空蒸着法等の各種成膜方法によって成膜することが可能である。各層の厚みは例えば、MgO層48が2nm、CoFe層49が5nm、Ta層50が10nmとすることができる。積層体40はこのようにして作製される。なお、積層体40の作製方法はここに示すものに限らない。
【0035】
このようにして作製された積層体40は、PtMn層44、CoFeB層45、Ru層46、CoFeB層47、MgO層48、CoFe層49及びTa層50がパターニングされることにより磁気抵抗素子10となる。
【0036】
[積層体のパターニング装置]
積層体40のパターニングに用いるパターニング装置について説明する。図4は、積層体40のパターニング装置100の概略構成を示す模式図である。同図に示すように、パターニング装置100はマルチチャンバ型装置であり、L/UL(ロード/アンロード)室101、搬送室102、プレヒート室103、第1エッチング室104、第2エッチング室105、アッシング室106、プラズマ処理室107を有する。
【0037】
パターニング装置100は、L/UL(ロード/アンロード)室101、プレヒート室103、第1エッチング室104、第2エッチング室105、アッシング室106、プラズマ処理室107がそれぞれ搬送室102に接続された構成となっている。なお、パターニング装置100の構成はここに示すものに限られない。
【0038】
L/UL室101は、2重の開閉扉を有し、パターニング装置100内への積層体40の搬入及び搬出を行うための室である。搬送室102は、図示しない搬送ロボットが設置され、L/UL室101から搬入された積層体40を各室に移動させるための室である。
【0039】
プレヒート室103は、積層体40を加熱するための室であり、室内には図示しないヒーターが設けられている。第1エッチング室104及び第2エッチング室105は、積層体40にエッチングを施すための室である。図5は第1エッチング室104及び第1エッチング室104と同様の構成を有する第2エッチング室105の構成を示す模式図である。
【0040】
同図に示すように第1エッチング室104(第2エッチング室105も同様、以下略)には、チャンバ201が設けられている。チャンバ201には、チャンバ201内を真空排気するための真空排気系202が接続されている。真空排気系202は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプとその配管によって構成されている。チャンバ201の内部には、積層体40を支持するステージ203が設置されている。ステージ203の上面には、載置された積層体40を保持する静電チャックが具備されており、チャック後にステージ203と積層体40の間にHe(ヘリウム)ガスを導入する。このHeガスを熱媒体として、ステージ203の温度を積層体40に伝導させることができると同時に、積層体40全面の均熱を図る機構となっている。
【0041】
また、エッチング室104には、ステージ203の内部において熱媒体を温度管理しながら循環させるチラー循環ユニット204が設けられている。チラー循環ユニット204は、ステージ203を所定温度に保持することが可能である。熱媒体としては市販の熱媒体(液体)を用いることができ、チラー循環ユニット204によって、ステージ203に熱媒体が供給される。
【0042】
別の方法としては,ステージ203の加熱はチラー循環ユニット204からの熱媒体にはよらず、ステージ203に内蔵されたヒーター線による加熱機構とすることができる。チラーによる加熱の場合には最高加熱温度が200℃程度であるのに対し、ヒーター線による場合は450℃まで加熱することが可能となる。但し、各所にあるOリングなどが溶けるなどの不具合を防止するため、断熱板を介した上でチャンバ203の壁と接する側をこれまでとは逆にチラーにより冷却する必要がある。
【0043】
ステージ203の周囲にはプラズマ形成空間を区画する防着板205が設けられており、プラズマ形成空間には、エッチングガス(エッチング用のプラズマの元となるガス)を導入するためのガス導入系206が接続されている。ガス導入系206は、ガスボンベ等のガス源とその配管、配管上に設けられたマスフローコントローラによって構成されている。エッチングガスは第1エッチング室104ではCl/BCl混合ガス、第2エッチング室105ではAr/O/Cl混合ガスとすることができる。また、第1エッチング室104及び第2エッチング室105においてこれら以外のハロゲン系ガス(Cl、HBr、HI、CF等)をエッチングガスとしてもよい。
【0044】
さらに、エッチング室104には、プラズマの発生機構として、アンテナ207、高周波電源208及びマグネットユニット209が設けられている。アンテナ207は、プラズマ形成空間の上部を閉塞する蓋体210の上部に配置されており、高周波電源208に接続されることで、プラズマ形成空間に高周波誘導電場を形成する。マグネットユニット209は、蓋体210の上部に設置されており、プラズマ形成空間に固定磁場を形成する。ガス導入系206を介してプラズマ形成空間へ導入されたエッチングガスは、アンテナ207による誘導電場の作用とマグネットユニット209による固定磁場の作用とを受けてプラズマ化する。また、エッチング室104には、プラズマ中のイオンをステージ203側へ引き付けるバイアス電源211が設けられても良い。バイアス電源211は、高周波電源で構成することができる。
【0045】
アッシング室106は、積層体40に塗布されるレジストマスク(後述)を除去するための室である。アッシング室106には、プラズマアッシングのためのプラズマ発生機構(図示せず)が収容されている。プラズマ発生機構はICP(Inductively coupled plasma:誘導結合プラズマ)型、マイクロ波型等の種々のものがあるが、任意のものを用いることが可能である。
【0046】
プラズマ処理室107は、積層体40にプラズマ処理を施すための室である。図6は、プラズマ処理室107の概略構成を示す模式図である。同図に示すようにプラズマ処理室107は、チャンバ301、ヒーター302、真空排気系303、ガス導入系304、プラズマ源305及びプラズマ導入配管306を有する。ヒーター302には、ヒーター302上に載置された積層体40が示されている。
【0047】
ヒーター302はチャンバ301に収容されており、チャンバ301には真空排気系303が接続されている。チャンバ301の積層体40に対向する面には、プラズマ導入配管306が接続されており、プラズマ源305はプラズマ導入配管306を介してチャンバ301に接続されている。また、プラズマ導入配管306のプラズマ源305近傍には、ガス導入系304が接続されている。
【0048】
ヒーター302は積層体40を加熱し、ハロゲン系元素の気化(後述)を促進するためのものである。ヒーター302は積層体40を例えば200℃以上に加熱することが可能なものとすることができる。真空排気系303は、ドライポンプ等の真空ポンプとその配管によって構成されている。
【0049】
ガス導入系304は、ガスボンベ等のガス源とその配管、配管上に設けられたマスフローコントローラによって構成されている。本実施形態では、プラズマの元となるガスとしてHOガスをプラズマ導入配管306に供給するものとすることができる。なお、HOは、液体の状態で供給され、気化器によって水蒸気とされるものとすることができる。また、プラズマの元となるガスとして、HOにH、He、O、N、Ar、Ne及びXeの中から1種類以上を混合したガスを用いてもよい。
【0050】
OにHを加えることによってハロゲン化水素の生成を促進させ、残留成分の除去を高速化させることが可能であり、HOにNを加えることによってHOラジカルの寿命を延ばすことが可能となる。また、レジストのアッシングとハロゲン系元素の残留成分の除去を同時に実行する場合(後述)において、HOに不活性ガス(Ar、Ne、Xe)を加えることによってアッシング速度や残留成分除去の速度を制御することが可能となる。また、この場合において、HOにアッシングガスであるOを加えることによって、アッシング速度を高速化させることが可能である。
【0051】
プラズマ源305はマイクロ波プラズマ源、高周波プラズマ源又は低周波プラズマ源とすることができる。プラズマの発生方式はICP(Inductively coupled plasma:誘導結合プラズマ)やCCP(CapacitivelyCoupledPlasma:容量結合プラズマ)であってもよく、電極形状もコイル状、平行平板状とすることができる。また、高周波放電の場合、プラズマ源305と積層体40の間にアース電位のメッシュを挿入し、ラジカルのみを積層体40に照射する構造とすることも可能である。
【0052】
プラズマ処理室107では真空排気系303によってチャンバ301内が真空排気された状態で、ヒーター302によって積層体40が加熱される。積層体40が所定温度に到達した段階でプラズマ源305からマイクロ波プラズマ等が放射され、ガス導入系304から導入されたガスに照射される。生成したプラズマはプラズマ導入配管306を通じてチャンバ301に流入し、積層体40に照射される。なお、プラズマ処理室107はここに示す構成に限られず、積層体40を加熱した状態でHO等のプラズマを積層体40に照射することが可能な構成とすることができる。
【0053】
パターニング装置100は以上のように構成されている。なお、パターニング装置100において、アッシング室106とプラズマ処理室107は別の室としたが、これらをひとつの室とすることも可能である。
【0054】
[積層体のパターニング方法]
パターニング装置100を用いた、積層体40のパターニング方法について説明する。図7は積層体40のパターニング方法を示すフローチャートである。同図に示すように、積層体40は次の各工程を経由してパターニングされる。即ち、レジストマスク形成(St1)、第1エッチング(St2)、アッシング(St3)、第2エッチング(St4)、プラズマ処理(St5)である。また、図8乃至11は、各工程における積層体40の状態を示す模式図である。
【0055】
「レジストマスク形成(St1)」
図8に示すように、積層体40の表面、即ち、Ta層50上にレジストマスクRが形成される。レジストマスクRの形成は、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いてすることが可能である。レジストマスクRのパターン(形状)は、作製対象の磁気抵抗素子10のパターンに応じて適宜決定される。
【0056】
レジストマスクRが形成された積層体40は、L/UL室101を介してパターニング装置100に搬入される。積層体40は、搬送室102において搬送ロボットにより第1エッチング室104に搬入される。
【0057】
「第1エッチング(St2)」
積層体40は第1エッチング室104において、レジストマスクRをエッチングマスクとしてエッチングされる。具体的には、ガス導入系206(図5参照)からプラズマ形成空間にCl/BCl混合ガスが導入され、アンテナ207による誘導電場の作用とマグネットユニット209による固定磁場の作用と受けてプラズマ化される。Clガス及びBClガスのそれぞれの流量は、Cl:10〜40sccm、BCl:10〜40sccmとすることができる。また、積層体40の温度は室温、チャンバ201内の圧力は0.3〜3Pa、アンテナ電力は500〜1500W、バイアス電力は50〜150W、エッチング時間は15秒以下とすることができる。
【0058】
このような条件下でCl/BClプラズマが積層体40に照射され、Ta層50のうちレジストマスクRに覆われていない領域がエッチングされる。図9は、第1エッチング工程によりエッチングされた積層体40を示す模式図である。なお、CoFe層49は、Ta層50とのエッチング性の違いによりこのエッチング工程ではエッチングされない。その後、積層体40は搬送ロボットによりアッシング室106に搬入される。
【0059】
「アッシング(St3)」
積層体40はアッシング室106において、アッシングを施され、レジストマスクRが除去される。図10は、レジストマスクRが除去された積層体40を示す模式図である。アッシングは、レジストマスクRをH、O又はHO等のプラズマに曝露させるプラズマアッシングとすることができる。Oプラズマを利用する場合のアッシング条件は、O圧力10〜300Pa、印加電力1000〜3000W、バイアス電力0〜100W(RF)、加熱温度20〜300℃、アッシング時間30秒とすることができる。その後、積層体40は搬送ロボットによりプレヒート室103に搬入される。なお、このアッシング工程はこの時点では実施せず、後述するプラズマ処理工程(St5)と同時に実施することも可能である。
【0060】
「第2エッチング(St4)」
積層体40はプレヒート室103により所定温度まで加熱される。所定温度は150〜300℃とすることができる。その後、積層体40は搬送ロボットにより第2エッチング室105に搬入される。なお、積層体40は上記アッシング工程(St3)の直後に第2エッチング室105に搬入され、第2エッチング室105において所定温度まで加熱されるものとすることも可能である。
【0061】
積層体40は加熱後、第2エッチング室105において、Ta層50をエッチングマスクとしてエッチングされる。具体的には、ガス導入系206(図5参照)からプラズマ形成空間にAr/O/Cl混合ガスが導入され、アンテナ207による誘導電場の作用とマグネットユニット209による固定磁場の作用と受けてプラズマ化される。Arガス、Oガス及びClガスのそれぞれの流量は、Ar:5〜40sccm、O:10〜30sccm、Cl:5〜50sccmとすることができる。また、積層体40の温度は150〜300℃、チャンバ201内の圧力は0.3〜3Pa、アンテナ電力は500〜1500W、バイアス電力は300〜800W、エッチング時間は30〜200秒とすることができる。
【0062】
このような条件下でAr/O/Clプラズマが積層体40に照射される。ここで、Ar/O/ClプラズマはTaに対するエッチング性を有しない(又は小さい)ため、CoFe層49〜PtMn層44(CoFe層49とPtMn層44及びこれら2層の間に挟まれた各層を意味する、以下同様)のうち、上層にTa層50が存在しない領域がエッチングされる。図11は、第2エッチング工程においてエッチングされた積層体40を示す模式図である。
【0063】
ここで、本エッチング工程において積層体40に曝露されたAr/O/Clプラズマの
残留成分(以下、エッチング残留成分とする)が積層体40に付着している。しかし、積層体40は真空環境(又はプロセスガス雰囲気)に収容されているため、エッチング残留成分による積層体40の腐食は発生しない。仮に、この時点で積層体40を大気中に取り出したとすると、エッチング残留成分、特にCl成分がCoあるいはFeと反応し、CoCl、CoCl、FeCl、FeCl等が生成し、積層体40の各層が腐食される。これは、Clに限られず、ハロゲン系ガスのプラズマを本工程に用いた場合も同様である。本工程の後、積層体40はプラズマ処理室107に搬入される。
【0064】
「プラズマ処理(St5)」
積層体40はプラズマ処理室107においてプラズマ処理を施され、上記エッチング残留成分が除去される。具体的には、ガス導入系304(図6参照)からプラズマ導入配管306にHOガスが導入され、プラズマ源305から放射されたマイクロ波等により当該ガスがプラズマ化される。HOガスの流量は500sccm、圧力は300Pa、マイクロ波放電電力は2000W、プラズマ処理時間は60secとすることができる。生成されたプラズマはプラズマ導入配管306を通じて積層体40に照射される。また、同時にヒーター302により積層体40が所定温度まで加熱される。積層体40の加熱温度は200℃とすることができる。
【0065】
これにより、積層体40に付着しているエッチング残留成分が化学反応を生じる。例えば、上述のようにCl成分が残留している場合にはHClが生成する。同様に、Br(臭素)成分が残留している場合にはHBr、I(ヨウ素)成分ではHI、F(フッ素)成分ではHF等がそれぞれ生成する。これらのハロゲン化水素は揮発性を有しており、プラズマ処理室107が減圧されているため、さらに積層体40がヒーター302により加熱されているために速やかに揮発する。
【0066】
以上のようにして積層体40のパターニングがなされ、積層体40から図2示す磁気抵抗素子10が製造される。上述のようにプラズマ処理工程によってエッチング残留成分が除去されているため、磁気抵抗素子10のエッチング残留成分による腐食(アフターコロージョン)の発生を防止することが可能である。
【0067】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗素子について説明する。
第2の実施形態では、第1の実施形態に対して、磁気抵抗素子の素子構造が異なり、エッチング種、エッチングの順序等が異なる。
【0068】
[磁気抵抗素子の構成]
図12は、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の概略構成を示す断面図である。同図に示すように、磁気抵抗素子410は基板411上に、下部電極層412、ピン層(磁化固定層)413、絶縁層414、フリー層415、上部電極層416が順に積層された構成を有している。なお、図12に示す各層の厚さは実際の厚さに比例するものではない。
【0069】
各層の機能は第1の実施形態に係る磁気抵抗素子10と同様であるので説明を省略する。
磁気抵抗素子410の各層のうち、フリー層415及び上部電極層416はパターニングされており絶縁層414が部分的に表出している。このようなパターニングは、隣接する磁気抵抗素子(図示せず)との絶縁のためであり、パターニングの形態は図示するものに限られない。
【0070】
磁気抵抗素子410の各層は、各種材料の単層又は積層によって構成されている。図13は、磁気抵抗素子410の各層の構成材料の一例を示す図である。
【0071】
下部電極層412は、Ta層421、Ru層422及びTa層423がこの順で積層された構造とすることができる。下部電極層412はこの他にも、各種電極材料からなるものとすることができる。
【0072】
ピン層413は、PtMn層424、CoFeB層425、Ru層426及びCoFeB層427がこの順で積層された構造とすることができる。ピン層413はこの他にも、Fe、Co、Ni、Ir、Pt、Mn等のひとつあるいは複数種の金属からからなるものや、CoFeやCoFeB等の合金からなる層上にCoB/Pt等の垂直磁化人工格子、L10規則合金(FePt、CoPt)、L11規則合金(CoPt)、相分離系合金(CoCrPt、CoCrPt−SiO)、ホイスラー合金(CoMnSi)、アモルファス希土類(TbFeCo)等の材料が更に積層されたものとすることができる。また、これらの材料にSi、B、P等の半金属元素が含まれてもよい。
【0073】
絶縁層414は、単層のMgO層428からなるものとすることができる。
【0074】
フリー層415は、単層のCoFe層429からなるものとすることができる。フリー層415はこの他にも、Fe及びCoの少なくとも一方を含有する材料からなるものとすることができる。また、フリー層415は、CoFeやCoFeB等の合金からなる層上に、CoB/Pt等の垂直磁化人工格子、L10規則合金(FePt、CoPt等)、L11規則合金(CoPt等)、相分離系合金(CoCrPt、CoCrPt−SiO等)、ホイスラー合金(CoMnSi等)、アモルファス希土類(TbFeCo等)等の材料が更に積層されたものとすることができる。
【0075】
上部電極層416は、単層のRu層430からなるものとすることができる。上部電極層416はこの他にも、Ta、Cr等の各種電極材料及びその積層膜や合金膜、あるいは導電性酸化物膜からなるものとすることができる。
【0076】
磁気抵抗素子410は以上のように構成されている。
【0077】
[積層体の構成]
磁気抵抗素子410は、基板411上に上記各層が成膜された「積層体」をパターニングすることにより作成することが可能である。図14は磁気抵抗素子410となる積層体440を示す模式図である。
【0078】
同図に示すように、積層体440は、基板411上に、Ta層441、Ru層442、Ta層443、PtMn層444、CoFeB層445、Ru層446、CoFeB層447、MgO層448、CoFe層449及びRu層450がこの順に積層されて構成されている。積層体440の各層は、上記磁気抵抗素子410の各層に対応するものであり、各層の材料に応じてその材料は変更され得る。
【0079】
[積層体の作製方法]
積層体440は、基板411上に、Ta層441、Ru層442、Ta層443、PtMn層444、CoFeB層445、Ru層446、CoFeB層447、MgO層448、CoFe層449及びTa層450を順に成膜することによって製造することができる。各層は、スパッタリング法、真空蒸着法等の各種成膜方法によって成膜することが可能である。各層の厚みは例えば、MgO層448が2nm、CoFe層449が5nm、Ta層450が10nmとすることができる。積層体440はこのようにして作製される。なお、積層体440の作製方法はここに示すものに限らない。
【0080】
このようにして作製された積層体440は、CoFe層449及びRu層450がパターニングされることにより磁気抵抗素子410となる。
【0081】
[積層体のパターニング装置]
積層体440のパターニングに用いるパターニング装置について説明する。積層体440のパターニングには、第1の実施形態のパターニング装置100(図4参照)と同様の構成を有するパターニング装置を用いることができる。以下、パターニング装置100と異なる構成についてのみ説明する。
【0082】
第1エッチング室104及び第2エッチング室105のガス導入系206から導入されるガスは、第1エッチング室104についてCl/Oガス、第2エッチング室105についてClガスとすることができる。また、第1エッチング室104及び第2エッチング室105においてこれら以外のハロゲン系ガス(Cl、HBr、HI、CF等)をエッチングガスとしてもよい。
【0083】
第2の実施形態に係るパターニング装置100は以上のように構成されている。
【0084】
[積層体のパターニング方法]
パターニング装置100を用いた、積層体440のパターニング方法について説明する。なお、積層体440のパターニング方法を示すフローチャートは、第1の実施形態に係るパーニング方法のフローチャート(図7)と同一であるので図示を省略する。
【0085】
図7に示すように、積層体440は次の各工程を経由してパターニングされる。即ち、レジストマスク形成(St1)、第1エッチング(St2)、アッシング(St3)、第2エッチング(St4)、プラズマ処理(St5)である。また、図15乃至図18は、各工程における積層体440の状態を示す模式図である。
【0086】
「レジストマスク形成(St1)」
図15に示すように、積層体440の表面、即ち、Ru層450上にレジストマスクRが形成される。レジストマスクRの形成は、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いてすることが可能である。レジストマスクRのパターン(形状)は、作製対象の磁気抵抗素子410のパターンに応じて適宜決定される。
【0087】
レジストマスクRが形成された積層体440は、L/UL室101を介してパターニング装置100に搬入される。積層体440は、搬送室102において搬送ロボットにより第1エッチング室104に搬入される。
【0088】
「第1エッチング(St2)」
積層体440は第1エッチング室104において、レジストマスクRをエッチングマスクとしてエッチングされる。具体的には、ガス導入系206(図5参照)からプラズマ形成空間にCl/O混合ガスが導入され、アンテナ207による誘導電場の作用とマグネットユニット209による固定磁場の作用と受けてプラズマ化される。Clガス及びOガスのそれぞれの流量は、Cl:10〜40sccm、O:5〜20sccmとすることができる。また、積層体440の温度は室温、チャンバ201内の圧力は0.3〜3Pa、アンテナ電力500〜1500W、バイアス電力50〜150W、エッチング時間30秒以下とすることができる。
【0089】
このような条件下でCl/Oプラズマが積層体440に照射され、Ru層450のうちレジストマスクRに覆われていない領域がエッチングされる。図16は、第1エッチング工程によりエッチングされた積層体440を示す模式図である。なお、CoFe層449は、Ta層450とのエッチング性の違いによりこのエッチング工程ではエッチングされない。その後、積層体440は搬送ロボットによりアッシング室106に搬入される。
【0090】
「アッシング(St3)」
積層体440はアッシング室106において、アッシングを施され、レジストマスクRが除去される。図17は、レジストマスクRが除去された積層体440を示す模式図である。アッシングは、レジストマスクRをH、O又はHO等のプラズマに曝露させるプラズマアッシングとすることができる。Oプラズマを利用する場合のアッシング条件は、O圧力10〜300Pa、印加電力1000〜3000W、バイアス電力0〜100W(RF)、加熱温度20〜300℃、アッシング時間30秒とすることができる。その後、積層体440は搬送ロボットによりプレヒート室103に搬入される。なお、このアッシング工程はこの時点では実施せず、後述するプラズマ処理工程(St5)と同時に実施することも可能である。
【0091】
「第2エッチング(St4)」
積層体440はプレヒート室103により所定温度まで加熱される。加熱は積層体440の温度が150〜350℃とすることができる。その後、積層体440は搬送ロボットにより第2エッチング室105に搬入される。なお、積層体440は上記アッシング工程(St3)の直後に第2エッチング室105に搬入され、第2エッチング室105において所定温度まで加熱されるものとすることも可能である。
【0092】
積層体440は加熱後、第2エッチング室105において、Ru層450をエッチングマスクとしてエッチングされる。具体的には、ガス導入系206(図5参照)からプラズマ形成空間にClガスが導入され、アンテナ207による誘導電場の作用とマグネットユニット209による固定磁場の作用と受けてプラズマ化される。Clガスの流量は20〜100sccmとすることができる。また、積層体440の温度は150〜350℃、チャンバ201内の圧力は0.5〜3Pa、アンテナ電力500〜3000W、バイアス電力0〜50W、エッチング時間60秒以下とすることができる。
【0093】
このような条件下でClプラズマが積層体440に照射される。ここで、ClプラズマはRu及びMgOに対するエッチング性を有しない(又は小さい)ため、CoFe層449の上層にRu層450が存在しない領域がエッチングされる。図18は、第2エッチング工程においてエッチングされた積層体440を示す模式図である。
【0094】
ここで、本エッチング工程において積層体440に曝露されたClプラズマの残留成分(以下、エッチング残留成分とする)が積層体440に付着している。しかし、積層体440は真空環境(又はプロセスガス雰囲気)に収容されているため、エッチング残留成分による積層体440の腐食は発生しない。仮に、この時点で積層体440を大気中に取り出したとすると、エッチング残留成分、特にCl成分がCoあるいはFeと反応し、CoCl、CoCl、FeCl、FeCl等が生成し、積層体440の各層が腐食される。これは、Clに限られず、ハロゲン系ガスのプラズマを本工程に用いた場合も同様である。本工程の後、積層体440はプラズマ処理室107に搬入される。
【0095】
「プラズマ処理(St5)」
積層体440はプラズマ処理室107においてプラズマ処理を施され、上記エッチング残留成分が除去される。具体的には、ガス導入系304(図6参照)からプラズマ導入配管306にHOガスが導入され、プラズマ源305から放射されたマイクロ波等により当該ガスがプラズマ化される。HOガスの流量は500sccm、圧力は300Pa、マイクロ波放電電力は2000W、プラズマ処理時間は60secとすることができる。生成されたプラズマはプラズマ導入配管306を通じて積層体440に照射される。また、同時にヒーター302により積層体440が所定温度まで加熱される。積層体440の加熱温度は200℃とすることができる。
【0096】
これにより、積層体440に付着しているエッチング残留成分が化学反応を生じる。例えば、上述のようにCl成分が残留している場合にはHClが生成する。同様に、Br成分が残留している場合にはHBr、I成分ではHI、F成分ではHF等がそれぞれ生成する。これらのハロゲン化水素は揮発性を有しており、プラズマ処理室107が減圧されているため、さらに積層体440がヒーター302により加熱されているために速やかに揮発する。
【0097】
以上のようにして積層体440のパターニングがなされ、積層体440から図2示す磁気抵抗素子410が製造される。上述のようにプラズマ処理工程によってエッチング残留成分が除去されているため、磁気抵抗素子410のエッチング残留成分による腐食(アフターコロージョン)の発生を防止することが可能である。
【0098】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更することが可能である。
【0099】
上記各実施形態に示した製造方法により製造することが可能な磁気抵抗素子は、上述の構造を有するものに限られず、適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0100】
プラズマ処理工程の有無による影響を確認するため、以下の測定を実施した。上記第1の実施形態係る積層体と同様の積層体を作製し、上記第1の実施形態に係るパターニング方法に従って、エッチング及びプラズマ処理を実施した。作製された磁気抵抗素子に対してEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線マイクロ分析)による残留Cl成分の測定を行った。その結果、Clの特性X線のカウント数は100カウント程度であった。これはバックグラウンド程度であり、Cl成分は残留していないことが確認された。
【0101】
比較として、第1の実施形態に係るパターニング方法において、プラズマ処理を施すことなく作製した磁気抵抗素子に対してEPMAによる残留Cl成分の測定を行った。その結果、Clの特性X線のカウント数は3000カウントを超えており、Cl成分が残留していることが確認された。したがって、上記実施形態に係るプラズマ処理により、残留Cl成分が有効に除去されていることがわかった。
【符号の説明】
【0102】
10…磁気抵抗素子
40…積層体
13…ピン層(第1の強磁性層)
14…絶縁層
15…フリー層(第2の強磁性層)
100…パターニング装置
410…磁気抵抗素子
440…積層体
413…ピン層(第1の強磁性層)
414…絶縁層
415…フリー層(第2の強磁性層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に強磁性材料からなる第1の強磁性層を形成し、
前記第1の強磁性層上に、酸化マグネシウムからなる絶縁層を形成し、
前記絶縁層上に、Fe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層を形成し、
前記基板上に前記第1の強磁性層、前記絶縁層及び前記第2の強磁性層が積層された積層体に対して、ハロゲン系元素を含むプラズマによりエッチングを施し、
前記積層体をHOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露させる
磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気抵抗素子の製造方法であって、
前記積層体をHOプラズマに曝露させる工程では、前記積層体を200℃以上に加熱する
磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子の製造方法であって、
前記HOプラズマは、HOに加えH、He、O、N、Ar、Ne及びXeの何れか一種以上を含むプラズマである
磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項4】
基板上に、強磁性材料からなる第1の強磁性層、酸化マグネシウムからなる絶縁層並びにFe及びCoの少なくとも一方を含有する第2の強磁性層が積層された積層体に対して、ハロゲン系元素を含むプラズマによりエッチングを施し、
前記積層体をHOを含むプラズマであるHOプラズマに曝露させる
磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項5】
処理対象物にハロゲン系元素を含むプラズマを照射するエッチング室と、
前記処理対象物にHOを含むプラズマであるHOプラズマを照射するプラズマ処理室と
を具備する磁気抵抗素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−222093(P2012−222093A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85123(P2011−85123)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】