説明

移動ロボット

【課題】 移動に伴う障害物検出位置のズレの影響を低減して障害物の誤検知を防止可能にする。
【解決手段】 移動ロボット1は、所定の環境に対応する環境地図73を記憶する記憶部15と、自己の位置に対応した環境地図上の位置を認識する自己位置検出部9と、上記環境内を走査して被測定物の相対位置を検出する障害物検知部11と、検出された被測定物の相対位置に対応する環境地図上の位置に投票値を加算する投票部91と、検出された被測定物の相対位置に基づいて投票部91による投票値に重み付けする投票値算出部97と、加算された投票値の累積が所定のしきい値以上となったときに環境地図上の該当位置に物体が存在すると判定する物体判定部93と、を備え、投票値算出部97は、検出された被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする反比例等の減少関数に従った重み付けにより投票値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動ロボットに関し、特に、移動ロボットにおける物体検出能力の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、障害物を検知しながら所定の経路を移動する移動ロボットが供されてきている。この移動ロボットとしては、ロボットの進行方向や周囲に、レーザ光線や可視光線、超音波、赤外線などの各種探査信号を照射して対象物からの反射回帰信号を検知信号として受信する障害物検知センサを設け、このセンサの入力により経路近傍の障害物を検知するものが知られるところである。
【0003】
このような移動ロボットに関して、特許文献1には、特に、既設物を予め設定した既設物マップを用いて既設物を除外した検知領域をリアルタイムで設定することにより、既設物を障害物として検知することを防止し、レーザ光線の走査により既設物以外の障害物を検知すると緊急停止する無人搬送車が記載されている。
【特許文献1】特開平9−6433号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来文献の無人搬送車は、障害物検知センサとしてレーザ測距センサを備え、物体表面で反射した反射レーザ光線を受光して、その距離と方向から物体の相対的な位置を算出する構成となっている。
【0005】
しかしながら、経路を移動する無人搬送車は、路面の状況などにより、走行に伴いがたつきやブレなどが生じて、瞬間的にまたは僅かに、向きがズレることがある。このような瞬間的な、又は微小なずれは、無人搬送車自身で検知することが困難である。しかも、障害物を検知するために無人搬送車の周囲を放射状に走査する障害物検知センサでは、無人搬送車の向きがわずかにズレただけでも無人搬送車自身が認識している自己の向き(姿勢)と実際の向き(姿勢)との角度が大きくズレてしまい、センサの測定値が大きく変わってしまう。
【0006】
したがって、従来文献の無人搬送車は、走行に伴い瞬間的又は僅かに向きがズレた場合に、実際の障害物の位置と異なる相対位置に物体を検出してしまい、誤検出となるおそれがある。特に、検出した物体の相対位置が無人搬送車から遠方になるほど、また、検出した物体の相対位置がセンサ正面からずれるほど、搬送車の向きのズレによる影響が大きくなり、誤検出のおそれが大きくなる。
【0007】
また、従来文献の無人搬送車は、既設物を除外した検知領域を設定して検知領域内に存在する障害物を検知するものであるため、既設物に発生した異常、例えば既設物の消失や破損を検知することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、移動に伴う障害物検出位置のズレの影響を低減して障害物の誤検知を防止するとともに、既設物に発生した異常をも検知できる移動ロボットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、所定の環境内を走行手段により移動するロボットに関するものであり、この移動ロボットは、前記所定の環境に対応する環境地図を記憶する記憶部と、自己の位置に対応した前記環境地図上の位置を認識する位置認識部と、前記環境内を走査して被測定物の相対位置を検出する検出部と、前記検出部にて被測定物が検出された相対位置に対応する前記環境地図上の位置に投票値を加算する投票部と、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に基づいて前記投票部による投票値に重み付けする投票値算出部と、前記加算された投票値の累積が所定のしきい値以上となったときに前記環境地図上の該当位置に物体が存在すると判定する前記物体判定部と、を備え、前記投票値算出部は、前記検出部にて検出された被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を算出する。環境地図上の位置等は地図を複数に区切った領域(グリッド)で表現されてよい。
【0010】
上記構成によれば、被測定物の相対位置が検出されると、検出された相対位置に対応する環境地図上の位置に投票値が加算されて、投票値がしきい値以上になった位置に物体が存在すると判定される。そして特に、被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けを投票値につけているので、これにより、ロボットの移動に伴い検出位置にズレが生じる場合であっても、角度ズレの影響が大きくなる遠方の測定点に対する重みを低くすることにより、検出位置のズレの影響を低減して誤検知を防止できる。
【0011】
前記投票値算出部は、前記検出部にて検出された被測定物との距離に反比例する重み付けにより投票値を算出してよく、これにより、遠方の測定点ほど投票値を小さくする適当な重み付けができる。
【0012】
また、前記投票値算出部は、更に、前記検出部が検出した隣り合う被測定物の相対位置間の距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を計算してよい。より詳細には、前記投票値算出部は、前記検出部が一定の時間間隔で走査を行ったときに前後して測定される被測定物の相対位置間の距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を計算してよい。これにより、ロボットの移動に伴い検出位置にズレが生じる場合であっても、角度ズレの影響が大きくなるような隣と離れた測定点に対する重みを低くすることにより、検出位置のズレの影響を低減して誤検知を防止できる。
【0013】
また、前記投票値算出部は、隣り合う被測定物の相対位置間の距離に反比例する重み付けにより投票値を算出してよく、これにより、隣との間隔が離れた測定点ほど投票値を小さくする適当な重み付けができる。
【0014】
また、本発明において、前記記憶部は、前記所定の環境内における既設物体の位置情報を有する既設物情報を記憶してよく、また、前記既設物情報に対応した前記環境地図上の位置と異なる位置に物体が存在すると前記物体判定部にて判定される場合に異常が有ると判定する異常判定部が備えられてよい。これにより、既設の物体を障害物として検知することを防止して、異常な物体のみを検出することができる。
【0015】
また、本発明において、前記異常判定部は、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に対応する前記環境地図上の位置と、前記位置認識部にて認識された前記環境地図上の自己の位置とを結ぶ直線上に、前記既設物情報に対応する前記環境地図上の位置が存在するときに異常が有ると判定してよい。これにより、存在するはずの既設の物体が検出できなかったことを判定でき、既設の物体に生じた消失や破損などの異常を検出することができる。
【0016】
また、本発明では、前記直線上における前記既設物情報に対応する位置の検索範囲は、前記自己の位置から、前記相対位置より所定距離だけ手前までに設定されてよく、これにより、誤検出を防止することができる。
【0017】
また、本発明において、前記異常判定部は、前記既設物情報に対応する位置が前記直線上の検索範囲の終点まで続いている場合には異常が無いと判定してよく、これにより、誤検出を防止することができる。
【0018】
また、本発明では、前記既設物情報を生成するモードにて、前記物体判定部により存在すると判定された物体を既設物体として、該既設物体の既設物情報を前記記憶部に登録する既設物登録部が設けられてよく、そして、前記物体判定部の判定のしきい値が、既設物体を検出する場合と比べて、異常判定部による異常判定のために物体を検出する場合に大きく設定されてよい。これにより、異常検出のための物体検出機能を、既設物情報を取得するために活用することができ、既設物情報を容易に入手して記憶部に格納できる。しかも、既設物情報を取得するときのしきい値よりも異常検出の際のしきい値を大きく設定することで、異常検出の感度を適当に調整し、誤検出を低減することができる。
【0019】
また、本発明では、前記記憶部は、該環境地図を複数の領域に区分し各領域ごとの投票値を記憶する投票テーブルを記憶し、前記投票部は、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に対応する前記領域に投票値を加算して前記投票テーブルに記憶し、前記物体判定部は、前記投票テーブルの投票値が所定のしきい値以上となったときに該当領域に物体が存在すると判定し、更に、前記投票値が付与された領域で、且つ、前記環境地図上で互いに隣接する領域を結合領域として抽出する結合領域抽出部が備えられ、前記物体判定部は、前記結合領域抽出部が抽出した結合領域を構成する各領域に付与された投票値の総和に基づき結合領域に物体が存在するか否かを判定してよい。これにより、一つの領域の投票値がしきい以上となる前に隣の領域に移動してしまうような移動物体の存在を検出することが可能となる。前記結合領域抽出部は、例えば、前記隣接する領域を囲む外接矩形を前記結合領域として抽出してよい。
【0020】
また、本発明において、前記物体判定部は、前記投票値がしきい値以上の位置の数が所定範囲内に所定個数以下で有る場合、該当領域については物体が存在しないと判定する。これにより、投票値がしきい値以上であっても孤立した位置については物体が存在しないと判定することができ、物体の誤検出を防止することができる。
【0021】
また、本発明の別の態様は物体検出装置であり、この装置は、所定の環境に対応する環境地図を記憶する記憶部と、所定の走査範囲を走査して被測定物の相対位置を検出する検出部と、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に対応する前記環境地図上の位置に投票値を加算する投票部と、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に基づいて前記投票部による投票値に重み付けする投票値算出部と、前記加算された投票値の累積が所定のしきい値以上となったときに前記環境地図上の該当位置に物体が存在すると判定する前記物体判定部と、を備え、前記投票値算出部は、前記検出部にて検出された被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を算出する。この態様でも、上述した本発明の作用効果が得られる。物体検出装置は移動ロボットに搭載されてもよく、これにより上述の本発明の移動ロボットが構成される。ただし、本態様はそのような構成に限定されない。物体検出装置は任意の移動物体に搭載されてもよく、さらにまた、壁面等の適当な場所に固定されてもよい。物体検出装置は障害物検出装置でもよい。上述の各種の具体的構成も本態様に適用されてよい。
【0022】
その他、本発明は上述の移動ロボットおよび障害物検出装置に限定されない。本発明は、方法、プログラムまたはシステムの態様で表現および特定されてもよい。例えば、本発明の別の態様は、上記の構成の動作を行う物体検出方法または異常判定方法である。また、本発明の別の態様は移動ロボットの制御方法である。また、本発明の別の態様は、そのような方法をコンピュータに実行させるプログラムである。また、本発明の別の態様は、移動ロボットと監視センタとが通信で接続されたシステムである。
【発明の効果】
【0023】
上述のように、本発明によれば、移動等に伴う障害物検出位置のズレの影響を低減して障害物の誤検知を防止することができ、また、既設物に発生した異常をも検知することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。本実施の形態の移動ロボットは、監視区域となる所定の環境内の所定経路を巡回して、監視区域内に出現した物体や消失した物体を検知して異常を検出するものである。移動ロボットは、異常を検知すると遠隔の監視センタに異常信号を送出する。監視センタでは、異常信号を受信すると、移動ロボットに搭載された撮像手段による画像の確認や、移動ロボットを遠隔操作して異常対処を行う。
【0025】
移動ロボットの構成を図1に示す。移動ロボット1は、移動手段3、移動制御部5、ガイド検出部7、自己位置検出部9、障害物検知部11、障害物判定部13、記憶部15、通信部17、撮像ユニット19、これら各部を制御する制御部21、および、各部に電力を供給する電源部23より構成されている。以下に各部を説明する。
【0026】
移動手段3は、右輪31、左輪33と左右輪を独立に駆動するモータ35、37で構成されている。移動ロボット1は図2(b)に示されるように4つの車輪を有しており、それらのうちの2つの車輪が駆動輪であり、図1の右輪31、左輪33に相当する。これら駆動輪が回転して、移動ロボット1が走行する。そして、左右輪の回転速度により直進走行速度および旋回走行速度が制御され、旋回方向も制御される。左右輪の回転速度は、移動制御部5により独立して制御される。なお、上記のように左右輪を独立に制御する代わりに、舵角を制御して旋回速度を制御する方式が採用されてもよい。また、車輪駆動でなく、左右のクローラを独立に制御する方式が採用されてもよい。
【0027】
ガイド検出部7は、移動経路上のガイド手段を検出する。ガイド手段は図2(a)に示されている。図示のように、予め設定された移動ロボットが巡回する移動経路には、経路の全長にわたってガイド手段としての白線テープ101が固定的に設けられている。また、経路中の所定の地点には、白線テープ101とともに、地点指示手段としての指示マーカ103が固定的に設けられている。指示マーカ103は1組の白色で四角形のマークであり、移動経路上に設定された区間の境界に設けられている。本実施の形態では例えば直線からカーブに移る地点およびその逆の地点が区間の境界に設定され、指示マーカ103が設けられている。
【0028】
ガイド検出部7は、白線検出カメラ41と画像処理部43とから成る。白線検出カメラ41は、路面を撮影可能に移動ロボット1の底面に設置されている。画像処理部43は、移動ロボット1のコンピュータにより実現され、エッジ抽出やハフ変換などの処理により、白線検出カメラ41の撮影画像から、移動ロボット1の経路を誘導すべき白線テープ101、及び指示マーカ103を検出して制御部21に出力する。
【0029】
なお、ガイド検出部7は、上記の構成に限定されない。ガイド検出部7は、磁気センサ、電磁誘導センサなどで構成されてもよい。この場合、ガイド検出部7は、移動経路に設置されたガイド手段としての磁気ガイドまたは電磁誘導ガイドを検出するように構成されてよい。ガイド手段及びガイド検出部は、設置する環境により選択できるようすることが好ましい。
【0030】
移動制御部5は、駆動モータ35、37を制御するための手段である。移動制御部5は、ガイド検出部7による白線テープ101の検知出力に応じて、例えば周知のPID制御などにより、白線テープ101に沿って移動するよう駆動モータ35、37を制御する。また、移動制御部5は、自己位置検出部9による走行区間の検出に応じて、予め設定された経路情報に基づき移動速度を制御する。移動速度は予め区間毎に設定され、経路情報の一部として記憶されている。
【0031】
自己位置検出部9は、レゾルバ51、53と位置算出部55とからなり、位置認識部として機能する。レゾルバ51、53はそれぞれモータ35、37に設置されており、モータ35、37のモータ回転軸の絶対位置をそれぞれ検出する。レゾルバ51、53は回転量検出部の一形態である。位置算出部55は、移動ロボット1のコンピュータにより実現され、レゾルバ出力から得られるモータ回転軸の回転量から左右輪31、33それぞれの回転量を算出し、後述の環境地図上の現在のロボットの位置(Xr,Yr)と姿勢(θr)を算出する。この処理では、車輪回転量から走行距離と角度変化が求められ、これらの情報から各時点の位置と姿勢が捕捉されてよく、そして、角度変化は、車輪回転量の差と駆動輪間距離(トレッド)から算出される。このような位置検出は、デッドレコニング(自律航法)として一般に知られる手法である。
【0032】
また、位置算出部55は、ガイド検出部7による指示マーカ103の検知出力に応じて、指示マーカ103の検知回数を計数し、検知回数から経路情報に基づき現在の走行区間を検出し、移動経路の始点や終点の認識、自己位置の補正などを行う。
【0033】
障害物検知部11は、移動ロボット1の前方の物体を検出する手段であり、本発明の検出部に相当する。障害物検知部11は、移動ロボット1の前方に向けて設置されたレーザセンサ61から成り、レーザ発振器より照射されるレーザ光が光路上にある物体にて反射した際の反射光を受光する。障害物検知部11は、走査鏡とこの走査鏡を回転駆動する手段とによりレーザ発振器より発射されるレーザ光の照射方向を制御して、移動ロボット1の前方を含む所定の範囲を、例えば30msecの周期で空間走査している。
【0034】
そして、障害物検知部11は、レーザ光の照射から反射光検出までの時間より算出される障害物検知部11とレーザ光を反射した物体(測定点)との距離と、回転駆動される走査鏡の角度とにより、レーザ光を反射した物体、即ちレーザ光を反射した測定点の相対位置を算出する。相対位置は、移動ロボット1を基準とした測定点の位置である。
【0035】
なお、障害物検知部11は、レーザセンサ以外のセンサで構成されてもよい。例えば、障害物検知部11は赤外線タイプのセンサで構成されてもよく、ミリ波レーダタイプのセンサで構成されてもよい。
【0036】
記憶部15は、移動ロボット1での各種の処理に使用される情報を記憶している。記憶部15が記憶する情報には、移動経路の情報を示した経路情報71と、監視区域を二次元座標系で示した環境地図73と、既設物など正常時に計測された物体の位置を示す既設物情報75と、障害物検知部11の計測結果を投票する投票テーブル77と、位置算出部により算出された移動ロボットの位置と姿勢とを含む現在位置情報79とが含まれる。
【0037】
経路情報71としては、移動経路中の各区間(ある指示マーカから次の指示マーカまでの区間)番号に対応して、各区間の走行速度、予め測量した区間距離、区間の始点終点間の方位角の差(角度差)が記憶されている。
【0038】
環境地図73は、監視区域の地図情報であり、所定距離ごとにグリッドで仕切られており、各グリッドに識別番号が与えられている。本実施の形態では5cm×5cmのグリッドで環境地図を仕切る例を説明する。例えば5cm×5cm毎に仕切る場合は、500m四方の監視区域の環境地図は、1億個のグリッドに仕切られることとなる。
【0039】
既設物情報75は、既設物などの物体の位置をグリッド毎に示す情報である。本実施の形態では、既設物情報75は、環境地図73上に展開されて環境地図73のグリッドの属性として認識される情報で、環境地図73の一部になっている。すなわち、環境地図73の各グリッドが、そこに既設物が存在するか否かの属性情報を持っており、この属性情報が既設物情報として用いられる。
【0040】
図3は、環境地図73を示す模式図である。図3では、移動ロボット1の周辺部のみが示されている。図においてハッチングして示すグリッドは、既設物情報にて物体の位置が示されているグリッド、すなわち、既設物グリッドである。
【0041】
既設物情報75は、正常時に移動ロボット1が行う計測を通して、移動ロボット1自身により生成される。すなわち、移動ロボット1が既設物情報75の登録のために移動経路を走行し、この走行で検出された物体の位置が、既設物情報75として記憶部15に記憶される。
【0042】
投票テーブル77は、障害物検知部11の計測結果が各グリッド毎に投票されるテーブルである。投票テーブル77の各グリッドは、環境地図73の各グリッドと対応している。各グリッドの投票値は、障害物検知部11により該当グリッド内の測定点が求められた回数に対応している。
【0043】
通信部17は、遠隔の監視センタと信号を送受信する無線通信手段である。通信部17は、障害物判定部13が異常を検知した場合、遠隔の監視センタに無線等で異常信号を出力する。また、通信部17は、撮像ユニット19が撮像した画像を遠隔の監視センタに送信し、監視センタから受信した制御コマンドを制御部21に入力する。
【0044】
撮像ユニット19は、移動ロボット1に搭載されてロボットの周囲を撮像する撮像手段である。撮像ユニット19は、例えば、図2(b)に示されるように、ロボット上部の六角柱型のハウジングに収納されている。ハウジングの中には、6つの撮像部が6方向に向けて収納されており、これにより、水平方向の全視野がカバーされる。撮像ユニット19にて撮像された画像は、記憶部15にバッファされて、通信部17から監視センタに送信される。
【0045】
障害物判定部13は、投票部91、物体判定部93および異常判定部95を備え、投票部91が投票値算出部97を備えている。障害物判定部13は、障害物検知部11の出力に基づき異常の有無を判定する。異常が判定されると、通信部17より異常信号が出力され、また、移動制御部5が、移動の停止や減速、障害物の回避や追跡などの予め定められた処理を行う。
【0046】
投票部91は、障害物検知部11が測定点を計測すると、移動ロボット1の位置と姿勢に基づき、計測された測定点の相対位置に対応するグリッドを環境地図73より判定して、投票テーブル77の該当グリッドに投票値を加算する。
【0047】
物体判定部93は、投票テーブルにおけるグリッド毎の投票値に基づいて、各グリッドの物体の有無を判定する。そして、物体判定部93は、投票値が所定のしきい値以上になったグリッドに物体が存在すると判定する。物体判定部93は、異常を判定する時に機能する他、異常判定に先立って移動ロボット1が経路を走行して既設物を検出および既設物情報75を登録する際にも機能する。
【0048】
異常判定部95は、物体判定部93と共に機能して異常を判定する。このとき、異常判定部95は、既設物以外の侵入物の有無を判定することができ、侵入物異常判定部として機能する。さらに、異常判定部95は、移動ロボット1の位置と姿勢と、本来計測されるべき既設物情報75とに基づき、異常の有無を判定することができる。このとき、異常判定部95は、既設物の消失を判定することができ、消失異常判定部として機能する。
【0049】
投票値算出部97は、検出された被測定物の測定点に基づいて、より詳細には移動ロボット1と測定点の相対位置関係に基づいて、投票部91による投票値に重み付けする手段である。投票値算出部97にて重みを付けた投票値が算出されて、その投票値が投票部91により加算される。
【0050】
投票値算出部97は、重み付け処理として、レーザセンサ61から測定点までの距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重みを付ける処理を行う。図13(a)に示されるように、減少関数は具体的には反比例である。すなわち、レーザセンサ61から測定点までの距離に反比例するように投票値が計算される。
【0051】
この重みの意味は以下のようなものである。自己位置検出部11の精度が十分で無い場合、ロボットの姿勢θrのわずかなブレにより、測定点の位置がズレてしまうおそれがある。この現象の影響は、測定点が移動ロボット1から離れた位置になるほど大きい(図4参照)。そこで、測定点までの距離に反比例した重みをつけることで、移動ロボット1の姿勢θrのブレによる測定点のズレの影響を少なくすることができる。
【0052】
本実施の形態では、投票値算出部97は、上記の距離に応じた重み付けに加えて、下記の重み付けをも行った投票値を算出する。すなわち、投票値算出部97は、隣り合う測定点間の距離が大きくなるほど重み付けを小さくする減少関数に従った重みを付ける処理を行う。図13(b)に示されるように、ここでも減少関数は具体的には反比例である。この場合、現在の測定点と、一つ前に検出された測定点との距離が求められる。そして、これら測定点間の距離に反比例するように投票値が計算される。これにより、レーザセンサ61が一定の時間間隔で走査を行ったときに前後して得られた測定点間の距離に反比例した投票値が得られる。
【0053】
こちらの重みの意味は以下の通りである。測定点自体の距離が遠くとも、レーザセンサ61に正対する測定点は、移動ロボット1の姿勢θrのブレの影響を受けづらい。他方、正対しない測定点、即ちレーザセンサ61の正対方向からの角度の大きい測定点ほど、移動ロボット1の姿勢θrのブレの影響を大きく受ける(図5参照)。距離が同じであれば、レーザセンサの正面に近いほど、測定点間の距離が短くなり、かつ、姿勢ブレの影響が小さい。そこで、上記のようにして、測定点間の距離に応じた重み付けを付けることで、姿勢ブレによる測定点のズレの影響を低減することができる。
【0054】
本実施の形態では、上述した2つの重付けの両方が行われる。例えば、投票値の基準値(例えば1)が設定されている。そして、図13(a)の投票値が得られるような、距離と重み付け係数のテーブル(またはマップ)が記憶部15に記憶されている。また、図13(b)の投票値が得られるような、測定点間距離と重み付け係数のテーブル(またはマップ)が記憶部15に記憶されている。レーザセンサ61から測定点まで距離に対応する重み付け係数が前者のテーブルから読み出され、さらに、(前回と今回の)測定点間距離に対応する重み付け係数が後者のテーブルから読み出される。そして、基準値に2つの重み付け係数がかけられて、投票値が算出される。この投票値が投票部91により投票テーブルに投票される。
【0055】
なお、ここでは2つの重み付けの両方が行われたが、本発明の範囲で片方の重み付けが行われてもよい。
【0056】
図1の説明に戻り、制御部21は、上述した移動ロボット1の各部構成を制御する手段であり、CPU等を備えたコンピュータで構成されている。図1の各部構成でコンピュータ処理可能なものも、同コンピュータで実現されてよい。例えば、ガイド検出部7の画像処理部43、および、自己位置検出部9の位置算出部55が上記のコンピュータで実現され、障害物検知部11の一部および障害物判定部13の機能も同コンピュータで実現されてよい。また、移動制御部5についても同様であり、例えば、モータ制御に関する上位指令値が算出されて、モータ駆動回路に伝えられてよい。さらに、記憶部15は、上記コンピュータのメモリおよび外部記憶装置等で実現されてよい。
【0057】
次に、本実施の形態に係る移動ロボット1の動作を説明する。以下では、既設物情報の生成動作と、巡回動作を説明する。巡回動作は、移動ロボット1が移動経路を走行して異常を調べる動作である。既設物情報は巡回に先立って生成され、巡回時に使用される。既設物情報は定期的に生成されてもよく、不定期に生成されてもよい。既設物情報は、移動ロボット1の設置の際に生成されてもよい。既設物情報は、適当なタイミングで、例えば、毎日の巡回開始前に生成されてもよい。
【0058】
図9は、既設物情報の生成処理を示すフローチャートである。移動ロボット1は、図示しない操作部からの入力や、監視センタからのコマンドを受信することにより、既設物情報の登録モードに設定される。このモードが設定されると、移動ロボット1は、ガイド検出部7からの信号を入力とし、移動制御部5により移動手段3を制御し、ガイド手段である白線テープ101(図2(a))に沿って移動を開始する。白線テープ101が画像から検出され、そして、白線テープ101が常に画像の所定位置で所定角度を向くように、移動制御部5が両モータ35、37の回転を独立して制御する。例えば、白線テープ101が画像の中央で上下方向を向くように移動制御部5が動作する。また、指示マーカ103に基づき、記憶部15の経路情報71を参照して現在の移動区間と走行速度が求められ、走行速度に応じてモータ回転が制御される。
【0059】
移動ロボット1は、移動を開始すると障害物検知部11を作動させて前方を空間走査する。障害物検知部11は、反射光を検出すると、測定点の距離計測データS(Φm)を出力する。ここで、Φmは、レーザ光の照射方向を示す角度であり、例えば、−90°< Φm < 90°の範囲を障害検知部11が走査するものとし、移動ロボットの正面を0°とする。障害物検知部11は所定の短い時間間隔で計測データを出力する。
【0060】
障害物判定部13は、障害物検知部11からの入力を受けると(S1、Yes)、自己位置検出部9より環境地図上の移動ロボット1の位置(Xr,Yr)、姿勢θrを取得する(S3)。自己位置検出部9では、一般にデッドレコニングと呼ばれる手法によりレゾルバ51、53の検出値、車輪半径、車輪間距離などから移動ロボット1の位置、姿勢が計算される。
【0061】
次に、以下の式に基づき障害物検知部11による測定点の出力結果を環境地図上の座標に投影する。即ち、移動ロボット1との相対位置として得られた測定点の位置を、環境地図上の座標(Xs,Ys)に変換する(S5)。
Xs=Xr+S(Φm)cos(Φm+θr)
Ys=Yr+S(Φm)sin(Φm+θr)
【0062】
次に、測定点の環境地図上の座標から、測定点の存在位置に対応するグリッドを判定して、投票テーブルの該当グリッドに投票値を累積加算する(S7)。このとき、投票値算出部97が、移動ロボット1と検出された被測定物の測定点の位置関係に基づいて重みを付けた投票値を算出し、算出された投票値が投票部91により加算される。前述したように、移動ロボット1から測定点までの距離に反比例した重みが付けられる。さらに、隣り合う測定点の距離に反比例した重みが付けられる。なお、ここでは2つの重み付け処理が行われたが、いづれか一方の重み付け処理だけが行われてもよい。
【0063】
ステップS7に続いて、障害物判定部13は、移動経路全ての計測を終了したか判定する(S9)。即ち、ガイド検出部7にて経路終点の指示マーカ103が検出され、経路の終点が認識されたか否かを判定する。経路の終点に達していない場合には(S9、No)、ステップS1に戻り、上記の処理を繰り返す。
【0064】
経路の終点に達した場合には(S9、Yes)、投票テーブルを参照して、物体判定部93により、物体有無の判定処理がグリッド毎に行われる(S11)。この判定処理は、所定のしきい値以上の投票値を持つグリッドを既設物「有」に、しきい値以下のグリッドを既設物「無」に設定する。そして、グリッド毎の既設物有無の情報が、既設物情報として環境地図上に展開されて、記憶部15に保存される(S13)。ここでは、環境地図の各グリッドの属性情報として既設物の有無が登録され、この属性情報が既設物情報となり、したがって、既設物情報により既設物の位置が特定されることになる。上記の処理では、障害物判定部13が制御部21と共に既設物登録部として機能している。既設物情報が記憶部15に格納されると、投票テーブルがクリアされ、既設物情報の生成処理が終了する。
【0065】
以上に既設物情報を生成する処理を説明した。上記の処理では、投票テーブルを用いて測定点のグリッドに投票値が加算され、投票値がしきい値以上に達したグリッドに既設物があると判定されている。この処理は下記の知見に基づいている。測定点が何回も抽出される(レーザセンサのレーザ光が何度も当たる)グリッドは、対応する場所に物体が存在する確率が高く、それに応じてグリッドの累積の投票値(累積投票点)も大きくなる。しかし、外乱等によるレーザ光の反射で得られた測定点は何度も連続して同じグリッドで抽出されることは少なく、そのグリッドの投票値は比較的小さくなる。そして、移動によるブレで誤って得られた測定点の投票値も小さくなる。したがって、上記のような累積投票値に基づく判定により、物体の存在する確率の高いグリッドのみに既設物が存在すると判断することができる。
【0066】
また、上記の既設物情報の生成処理において、孤立した既設物グリッドを除去する処理を行うことで、外乱の影響をより少なくすることができる。既設物グリッドは、投票値がしきい値以上になった既設物「有」のグリッドであり、孤立した既設物グリッドとは、他の既設物グリッドと隣接していない既設物グリッドのことである。通常、物体は所定以上の大きさを有して測定されるものであり、この処理により単一のグリッドにのみ測定された草や木枝などの微小物や雪、雨などの環境雑音による影響を除去することができる。本実施の形態では、上記の物体判定処理にて、所定の範囲内に既設物グリッドの数が所定個数(1または複数)以下であるか否かを判定することによって孤立した既存物グリッドが求められ、孤立していると判定された該当既設物グリッドが既設物情報から削除される。
【0067】
次に、図10は、巡回による異常検出を行うときの処理を示すフローチャートである。図10の処理は、既設物情報が生成された後に実行される。
【0068】
移動ロボット1は、図示しない計時手段によって予め設定された巡回開始時刻の到来を検知したときや、操作部からの入力、又は監視センタからのコマンドを受信することにより巡回モードに設定され、ガイド検出部11からの信号を入力とし、移動制御部5により移動手段3を制御して、ガイド手段である白線テープ101に沿って移動を開始する。走行制御は、既設物を生成する時と同様でよい。
【0069】
障害物検知部11からの入力により、測定点を環境地図上に投影するまでの処理(S21、S23、S25)は、既設物情報生成手順の(S1、S3、S5)と同じであるため説明を省略する。次に、監視区域内に新たに出現した侵入物体などの検知判定を行う(S27)。侵入物判定処理の詳細は後述する。侵入物判定処理では、侵入物が有れば異常有りと判定される。侵入物があれば(S29、Yes)、移動ロボット1は走行を停止して(S35)、さらに通信部17より異常信号を監視センタへ出力する(S37)。
【0070】
ステップS29で侵入物が無ければ、監視区域内に存在していたものの消失(盗難や破壊)などの検知判定を行う(S31)。消失物判定処理の詳細も後述する。消失物判定処理では、消失物が有れば異常有りと判定される。消失物が有れば(S33、Yes)、侵入物が有るときと同様に、移動ロボット1は走行を停止して(S35)、さらに通信部17より異常信号を監視センタへ出力する(S37)。
【0071】
ステップS37で消失物が無ければ、経路全ての巡回が終了したか判定し(S39)、経路が終了した場合には投票テーブルをクリアして全ての処理を終了し待機モードへ移る。
【0072】
図11は、図10のステップS27における侵入物判定処理(出現物体の判定処理)の詳細を示すフローチャートである。図11の処理は、障害物判定部13の投票部91、物体判定部93および異常判定部95によって行われる。
【0073】
図11では、まず、既設物情報の生成時と同様、測定点の環境地図上の座標から対応する対象グリッドを判定して、投票テーブルにて該当グリッドに投票値を累積加算する(S51)。このとき、重み付けも既設物情報の生成時と同様に行われ、すなわち、重みを付けた投票値が算出されて、その投票値が加算される。前述したように、移動ロボット1から測定点までの距離に反比例した重みが付けられ、さらに、隣り合う測定点の距離に反比例した重みが付けられる。なお、ここでは2つの重み付け処理が行われたが、いづれか一方の重み付け処理だけが行われてもよい。
【0074】
次に、既設物情報を参照して、投票値を加算された対象グリッドに既設物がある場合は投票テーブル上の対象グリッドの投票値を0にする(S53)。これにより、投票値から物体を検出するときに、既設物が検出されなくなる。したがって、このステップを設けることで、既設物グリッドと異なるグリッドに物体が存在すると物体判定部にて判定される場合に限って異常が有ると判定する処理が実現される。
【0075】
なお、ステップS53では、投票値を加算された対象グリッドを中心とした環境地図上の所定グリッド範囲(例えば3グリッド×3グリッド)に既設物がある場合は、対象グリッドの投票値を0にするようにしてもよい。これは、自己位置検出部の精度が十分に得られない場合に、姿勢のぶれによる誤警報を防止するためのものであり、測定点の近傍に既設物がある場合には正常と判断するためのものである。
【0076】
次に、投票値を加算された対象グリッドに対し、環境地図上で隣接するグリッドの中に既に投票値を有しているグリッドがあるか否かを判定し(S55)、隣接するグリッドがあれば、これらをラベリングする(S57)。即ち、互いに投票値を有して隣接関係にあるグリッドを一つの塊としてラベル付けする。そして、ラベル付けされた領域に属するグリッドの投票値の総和を計算し(S59)、ラベル領域の投票値の総和が所定のしきい値以上である場合は、物体が存在すると物体判定部93が判定し、侵入物が有り異常が有ると異常判定部95が判定する(S61)。ステップS53で既設物のあるグリッドの投票値を0にしているので、結果的に、既設物グリッドと異なるグリッドに物体が存在すると物体判定部93にて判定される場合に限って異常が有ると判定されることになる。
【0077】
また、ステップS55で、投票値を加算された対象グリッドに対し、投票値を有して隣接するグリッドがなければ、ステップS63に進み、対象グリッドの投票値に基づいて侵入物の有無が物体判定部93により判定される。対象グリッドの投票値がしきい値以上であるか否かが判定され、しきい値以上である場合は、侵入物有りと判定され、異常が有ると異常判定部95により判定される。ここでも、ステップS53で既設物のあるグリッドの投票値を0にしているので、ステップS61と同様、既設物グリッドと異なるグリッドに物体が存在すると物体判定部93にて判定される場合に限って異常が有ると判定されることになる。なお、ステップ63の処理を省略して、ステップS55において対象グリッドに対し投票値を有して隣接するグリッドがなければ(S55−No)、侵入物判定処理を終了するようにしてもよい。これにより、孤立したグリッドにのみ測定された雪や雨などの外乱による影響を除去できる。
【0078】
図6は、各グリッドとラベル、投票値の関係を示している。本実施の形態では、隣接するグリッドを囲む外接矩形が求められ、外接矩形に入るグリッドがラベリングされる。
【0079】
ラベリングを行うと、下記のように、静止物体だけでなく移動物体も高い確率で検出できる。すなわち、物体が停止している場合には、レーザセンサで走査する度に測定点が得られるので、投票値の高いグリッドの総和を計算することになる。一方、物体が移動する場合、物体が通過するグリッドに投票値が与えられることから、各グリッドの投票値は少なくなるものの、広範囲に広がったラベル領域の総和を計算することになるので、やはり総和は大きな値となる。このようにして、ラベリングを行うことで、簡易な手法で停止、移動する両方の侵入物体を検知できる利点がある。そして、侵入者が移動するような場合も異常検出を的確に行うことができる。上記のラベル領域が、本発明の結合領域に対応しており、そして、上記の障害物判定部13によるラベリング処理により結合領域抽出部の機能が実現されている。
【0080】
また、本実施の形態では、ラベリングの前処理として、下記のような膨張および収縮処理が行われてよい。この処理は、ステップS53で既設物があるグリッドの投票値を0にした後であって、ステップS55の前に行われる。
【0081】
図7は膨張および収縮処理を示している。図7(a)では、投票テーブルで投票値を有するグリッド(塗りつぶされているグリッドであり、ここでは投票グリッドという)が環境地図上に展開されている。「膨張・収縮」処理は、画像処理において一般的な手法である。図7(b)では膨張処理が行われており、本実施の形態の膨張処理では、投票グリッドを囲む8個のグリッド(8方向の隣のグリッドであり、斜線で示されている。ここでは膨張グリッドという)が加えられている。そして、図7(c)では収縮処理が行われており、収縮処理では、膨張グリッドにより作られる領域から、縁部にある膨張グリッドが削除されている。図7(d)では、収縮処理後の投票グリッドおよび膨張グリッドを対象としてラベリングが行われている。これにより、図示のように、非投票グリッド(投票値が付与されていないグリッド)を間に置いて投票グリッドが隣接している場合でも、それらの投票グリッドがラベリングによりまとめられる。したがって、膨張処理で設定された妥当な距離をおいて隣接している投票グリッドをラベリングでまとめることができる。このような処理により、自己位置検出部9の精度不足による測定点のブレを吸収することができる。 すなわち、測定点の誤差等により投票グリッドが直接接していなくても、図示のように隣接していれば(所定の近傍の範囲にあれば)、ラベリングでの抽出が可能になる。
【0082】
また、図11の処理では、侵入物の判定にしきい値が用いられ、このしきい値が投票テーブルの投票値と比較されている。このしきい値は、既設物情報を生成するときの既設物判定で用いられたしきい値より大きく設定されている。この設定は下記の理由による。既設物生成時と異常判定時のしきい値が同じであったとすると、両者の物体検出の感度が同じになる。この場合、既設物を侵入物と判定しまうことが頻発してしまう可能性がある。そこで、本実施の形態では、異常判定時のしきい値を大きく設定しており、これにより、異常検出の感度を適当に調整でき、誤検出を低減できる。
【0083】
以上に図10のステップ27における侵入物判定処理を説明した。次に、図10のステップS31における消失物判定処理を説明する。
【0084】
図12は、消失物判定の詳細な処理フローを示している。図12の処理は異常判定部95により行われる。まず、環境地図上で、移動ロボット1と障害物検知部11による測定点とを結ぶ測定ベクトルが生成される(S71)。本実施の形態では、移動ロボット1の障害物検知部11と測定点を結ぶベクトルが生成され、より詳細には、レーザセンサ61の位置座標と測定点とを結ぶベクトルが生成される。
【0085】
次に、障害物検知部11側の端部を始点として、環境地図上において測定ベクトルが通過するグリッドを抽出する(S73)。ステップS75以下では、抽出されたグリッドを始点から順次辿り、既設物情報で既設物「有」に設定されたグリッド(既設物グリッド)の有無を検索することになる。
【0086】
ステップS75では、N番目のグリッドが既設物グリッドであるか否かが判定される。既設物でなければ、N番目のグリッドが検索終点であるか否かが判定される(S77)。検索終点は、測定点(測定ベクトルの端部)よりも所定の距離だけ手前に設定されている。所定の距離はグリッドの数で設定されてもよい。ステップS77がNoであれば、N=N+1として(S79)、ステップS75に戻り、次のグリッドの判定を行う。ステップS77がYesであれば、既設物グリッドが検索されることなく検索の終点までたどり着いたことになる(図8(a)参照)。この場合、異常判定部95は、消失物なし、すなわち異常なしと判定して(S87)、消失物判定処理を終了する。
【0087】
ステップS75で既設物グリッドが検出された場合、N番目のグリッドが検索終点であるか否かが判定される(S81)。N番目のグリッドが検索終点であれば、ステップS87に進み、異常判定部95は、消失物なし、すなわち異常なしと判定して、消失物判定処理を終了する。
【0088】
ステップS81がNoであれば、N=N+1として(S83)、N番目のグリッドが既設物グリッドであるか否かが判定される(S85)。ステップS85がYesであれば、ステップS81に戻る。ステップS85がNoであれば、異常判定部95は、消失物有り、すなわち異常有りと判定して(S89)、消失物判定処理を終了する。
【0089】
上記の処理によれば、既設物グリッドが検出された場合には、更に、測定ベクトルに沿ってグリッドを検索しつづけ、既設物グリッドでないグリッドが探されている。そして、既設物グリッドが検出された後に、既設物グリッドで無いグリッドが検出された場合には(図8(b))、測定ベクトルが既設物を突き抜けており、このことは、既設物情報に存在するものがなくなったことを意味する。この場合、ステップS85がNoになり、消失物有りと判定される。
【0090】
他方、検索の終点まで既設物グリッドが続く場合には、ステップS81からステップS87に進み、消失物なしと判定している。この判定処理は、図8(c)を用いて以下に説明するように、誤検出を防ぐために行われている。
【0091】
本実施の形態では、既設物情報の生成にも移動ロボット1が活用されている。そのため、移動時のブレが既設物情報に含まれ、既設物が厚さを持つことがある(図8(c))。例えば、既設物である壁の表面は、実際には、2次元平面上では線である。しかし、移動時のブレがあるので、壁の表面が厚みを持つことがある。すなわち、検出データ上では、ある程度の幅を持った帯状部分のグリッドが既設物として登録されることになる。
【0092】
したがって、この場合、消失物判定は、上記の厚みをもった既設物情報を用いて行われる。そのため、図8(c)に示されるように、既設物の内部の点が、測定点として検出されることがある。この場合に測定ベクトル上に既設物グリッドがあるために既設物が消失したと判定すると、誤判定になる。そこで、本実施の形態では、上述のように、既設物グリッドが検索終点まで続くときは、ステップS81からステップS87に進み、消失物が無いと判定している。このようにして、既設物を計測した誤差を考慮して、誤判定を防いでいる。
【0093】
また、本実施の形態では、上述したように、検索の範囲が、レーザセンサの中心から、測定点より所定の距離だけ短い点(例えば15cm)までに設定されている。このことによっても、下記のように誤検出を防止できている。
【0094】
図8(d)では、測定点が既設物グリッドを突き抜けているが、本来計測されるべき既設物の近傍に存在する。この場合、実際には既設物が検出されたのに、移動によるブレ等による自己位置検出部11の精度不足の影響で、測定点が既設物グリッドを突き抜けた可能性がある。すなわち、既設物計測時および巡回時の誤差の影響で、既設物グリッドの位置と巡回での測定点とが異なった可能性がある。本実施の形態では、検索終点をレーザセンサの測定点より所定の距離だけ手前に設定したので、このような場合には正常と判定され、誤検出を防止することができる。
【0095】
以上に本発明の好適な実施の形態について説明した。本実施の形態によれば、被測定物の相対位置が検出されると、検出された相対位置に対応する環境地図上の位置(グリッド)に投票値が加算されて、投票値がしきい値以上になった位置に物体が存在すると判定される。ロボットの移動に伴い検出位置のズレが短期的に生じても、短期間では投票値がしきい値を超えるほど大きくならないので、ズレた位置に物体が存在すると判定されずにすむ。このようにして、投票処理を行うことで、ロボットの移動に伴う検出位置のズレの影響を低減して、誤検知を防止できる。
【0096】
そして更に、本実施の形態では特に、被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けを投票値に付けているので、これにより、ロボットの移動に伴い検出位置にズレが生じる場合であっても、角度ズレの影響が大きくなる遠方の測定点に対する重みを低くすることにより、検出位置のズレの影響を低減して誤検知を防止できる。
【0097】
また、本実施の形態では、上記減少関数として反比例する重み付けにより投票値を算出しており、遠方の測定点ほど投票値を小さくする適当な重み付けができる。
【0098】
また、本実施の形態では、隣り合う被測定物測定点の間の距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けを投票値に与えている。これにより、ロボットの移動に伴い検出位置にズレが生じる場合であっても、角度ズレの影響が大きくなるような隣と離れた測定点に対する重みを低くすることにより、検出位置のズレの影響を低減して誤検知を防止できる。また、上記減少関数として反比例する重み付けにより投票値を算出しており、隣との間隔が離れた測定点ほど投票値を小さくする適当な重み付けができる。
【0099】
また、本実施の形態によれば、既設物情報を利用して、既設物がない場所に物体が存在すると判定されたときに異常が有ると判定しており、したがって、既設物体を障害物として検知することを防止でき、侵入物等の異常な物体のみを検出することができる。
【0100】
また、本実施の形態によれば、上記の測定ベクトルを使った処理により、自己位置と測定点を結ぶ直線上に既設物のあるべき位置が存在するときに異常が有ると判定しており、これにより、存在するはずの既設の物体が検出できなかったことを判定でき、既設の物体に生じた異常を検出することができる。
【0101】
また、本実施の形態によれば、検出された相対位置の手前に設定された検索終点までを検索範囲としており、これにより誤検出を防止できる。
【0102】
また、本実施の形態によれば、既設物情報にて既設物のあるべき位置が直線に沿って検索終点まで続く場合には異常が無いと判定しており、これにより、誤検出を防止することができる。
【0103】
また、本実施の形態によれば、異常検出のための物体検出機能を、既設物情報を取得するために活用することができ、既設物情報を容易に入手して記憶部に格納できる。しかも、既設物情報を取得するときのしきい値よりも異常検出の際のしきい値を大きく設定することで、異常検出の感度を適当に調整し、誤検出を低減することができる。
【0104】
また、本実施の形態によれば、ラベリングが行われて、投票値が付与された領域で、且つ、前記環境地図上で互いに隣接する領域を結合領域として抽出されている。そして、結合領域を構成する各領域に付与された投票値の総和に基づき結合領域に物体が存在するか否かを判定している。これにより、一つの領域の投票値がしきい以上となる前に隣の領域に移動してしまうような移動物体の存在を検出することが可能となる。
【0105】
また、本実施の形態によれば、投票値がしきい値以上であっても孤立した位置については物体が存在しないと判定しており、物体の誤検出を防止することができる。
【0106】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明した。しかし、本発明は上述の実施の形態に限定されず、当業者が本発明の範囲内で上述の実施の形態を変形可能なことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、移動しながら周囲の物体を検出する移動ロボットとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態に係る移動ロボットの機能ブロック図である。
【図2】移動ロボットが使用される環境および移動ロボットの外観を示す図である。
【図3】記憶部に記憶されている環境地図および既設物情報を示す図である。
【図4】測定点のズレに対する測定距離の影響を示す図である。
【図5】測定点のズレに対する測定方位の影響を示す図である。
【図6】ラベリング処理を示す図である。
【図7】膨張および収縮処理を伴うラベリング処理を示す図である。
【図8】消失物判定処理を示す図である。
【図9】既設物情報の生成処理を示すフローチャートである。
【図10】巡回時の処理を示すフローチャートである。
【図11】侵入物判定処理を示すフローチャートである。
【図12】消失物判定処理を示すフローチャートである。
【図13】投票値の重み付け処理を示す図である。
【符号の説明】
【0109】
1 移動ロボット
3 移動手段
5 移動制御部
7 ガイド検出部
9 自己位置検出部
11 障害物検知部
13 障害物判定部
15 記憶部
17 通信部
19 撮像ユニット
21 制御部
31 右輪
33 左輪
35,37 モータ
41 白線検出カメラ
43 画像処理部
51,53 レゾルバ
55 位置算出部
61 レーザセンサ
71 経路情報
73 環境地図
75 既設物情報
77 投票テーブル
79 現在位置情報
91 投票部
93 物体判定部
95 異常判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の環境内を走行手段により移動するロボットであって、
前記所定の環境に対応する環境地図を記憶する記憶部と、
自己の位置に対応した前記環境地図上の位置を認識する位置認識部と、
前記環境内を走査して被測定物の相対位置を検出する検出部と、
前記検出部にて被測定物が検出された相対位置に対応する前記環境地図上の位置に投票値を加算する投票部と、
前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に基づいて前記投票部による投票値に重み付けする投票値算出部と、
前記加算された投票値の累積が所定のしきい値以上となったときに前記環境地図上の該当位置に物体が存在すると判定する前記物体判定部と、を備え、
前記投票値算出部は、前記検出部にて検出された被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を算出することを特徴とした移動ロボット。
【請求項2】
前記投票値算出部は、前記検出部にて検出された被測定物との距離に反比例する重み付けにより投票値を算出することを特徴とした請求項1に記載の移動ロボット。
【請求項3】
前記投票値算出部は、更に、前記検出部が検出した隣り合う被測定物の相対位置間の距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を計算することを特徴とした請求項1または2に記載の移動ロボット。
【請求項4】
前記投票値算出部は、隣り合う被測定物の相対位置間の距離に反比例する重み付けにより投票値を算出することを特徴とした請求項3に記載の移動ロボット。
【請求項5】
更に、前記記憶部は、前記所定の環境内における既設物体の位置情報を有する既設物情報を記憶し、
前記既設物情報に対応した前記環境地図上の位置と異なる位置に物体が存在すると前記物体判定部にて判定される場合に異常が有ると判定する異常判定部を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の移動ロボット。
【請求項6】
前記異常判定部は、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に対応する前記環境地図上の位置と、前記位置認識部にて認識された前記環境地図上の自己の位置とを結ぶ直線上に、前記既設物情報に対応する前記環境地図上の位置が存在するときに異常が有ると判定することを特徴とする請求項5に記載の移動ロボット。
【請求項7】
前記直線上における前記既設物情報に対応する位置の検索範囲は、前記自己の位置から、前記相対位置より所定距離だけ手前までに設定されることを特徴とする請求項6に記載の移動ロボット。
【請求項8】
前記記憶部は、該環境地図を複数の領域に区分し各領域ごとの投票値を記憶する投票テーブルを記憶し、
前記投票部は、前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に対応する前記領域に投票値を加算して前記投票テーブルに記憶し、
前記物体判定部は、前記投票テーブルの投票値が所定のしきい値以上となったときに該当領域に物体が存在すると判定し、
更に、前記投票値が付与された領域で、且つ、前記環境地図上で互いに隣接する領域を結合領域として抽出する結合領域抽出部を備え、
前記物体判定部は、前記結合領域抽出部が抽出した結合領域を構成する各領域に付与された投票値の総和に基づき結合領域に物体が存在するか否かを判定することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の移動ロボット。
【請求項9】
前記物体判定部は、前記投票値がしきい値以上の位置の数が所定範囲内に所定個数以下で有る場合、該当領域については物体が存在しないと判定することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の移動ロボット。
【請求項10】
所定の環境に対応する環境地図を記憶する記憶部と、
所定の走査範囲を走査して被測定物の相対位置を検出する検出部と、
前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に対応する前記環境地図上の位置に投票値を加算する投票部と、
前記検出部にて検出された被測定物の相対位置に基づいて前記投票部による投票値に重み付けする投票値算出部と、
前記加算された投票値の累積が所定のしきい値以上となったときに前記環境地図上の該当位置に物体が存在すると判定する前記物体判定部と、を備え、
前記投票値算出部は、前記検出部にて検出された被測定物との距離が大きくなるほど重みを小さくする減少関数に従った重み付けにより投票値を算出することを特徴とした物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−252348(P2006−252348A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70101(P2005−70101)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】