説明

窒化物半導体レーザ素子

【課題】窒化物半導体のクラックの発生を抑制し、かつ端面において保護膜の剥がれが生じず、良好な特性及び高寿命を実現する窒化物半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【解決手段】第1主面と該第1主面に対向する第2主面とを有する導電性基板と、該導電性基板の第1主面上に、第1窒化物半導体層、活性層及び第2窒化物半導体層が順に積層された窒化物半導体層と、前記導電性基板の第2主面上に形成された電極と、前記窒化物半導体層の共振器面に接触する保護膜と、を有する窒化物半導体レーザ素子であって、前記電極の共振器面側の縁部が、前記共振器面よりレーザ素子の内側に位置しており、前記保護膜が、前記共振器面から前記導電性基板の第2主面に接触するように形成されており、かつ、前記共振器面に接触する保護膜と前記導電性基板の第2主面に接触する保護膜との結晶構造が異なる窒化物半導体レーザ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体レーザ素子に関し、より詳細には、窒化物半導体層に形成された共振器面に保護膜を有する窒化物半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体レーザ素子では、RIE(反応性イオンエッチング)又はへき開によって形成された共振器面はバンドギャップエネルギーが小さくなるため、出射光の吸収が共振器端面で起こり、この吸収により共振器端面に熱が発生し、高出力半導体レーザを実現するには寿命特性等に問題があった。このため、例えば、Siの酸化膜や窒化膜を、共振器端面の保護膜として形成する高出力半導体レーザの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、従来から、窒化物半導体レーザ素子では、共振器面に形成する保護膜の厚みを出射される光密度に応じて変化させる方法(例えば、特許文献2)、共振器内部にストライプ構造を採用し、ストライプごとに保護膜の厚みを変動させる方法(例えば、特許文献3)等により、種々の性能を確保する試みがなされている。
【特許文献1】特開2006−228892号公報
【特許文献2】特開平9−283843号公報
【特許文献3】特開2002−329926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように窒化物半導体レーザ素子において、共振器面での光吸収を抑制するなど種々の要求に応じた保護膜に関する研究が行われている。半導体レーザの高出力化を実現するためには、特に、保護膜の剥がれを抑制し、保護膜を強固に窒化物半導体層に密着させながら保護膜及び窒化物半導体層にクラックが発生することを抑制することが必要である。しかしながら、このような窒化物半導体レーザ素子は、実用化されていない。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、保護膜の剥がれやクラックの発生等を抑制した信頼性の高い窒化物半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の窒化物半導体レーザ素子は、第1主面と該第1主面に対向する第2主面とを有する導電性基板と、該導電性基板の第1主面上に、第1窒化物半導体層、活性層及び第2窒化物半導体層が順に積層された窒化物半導体層と、前記導電性基板の第2主面上に形成された電極と、前記窒化物半導体層の共振器面に接触する保護膜と、を有する窒化物半導体レーザ素子であって、前記電極の共振器面側の縁部が、前記共振器面よりレーザ素子の内側に位置しており、前記保護膜が、前記共振器面から前記導電性基板の第2主面に接触するように形成されており、かつ、前記共振器面に接触する保護膜と前記導電性基板の第2主面に接触する保護膜との結晶構造が異なることを特徴とする。
【0005】
このような窒化物半導体レーザ素子では、前記保護膜が、前記共振器面から前記導電性基板の第2主面及び前記電極表面に接触するように形成されており、かつ、前記共振器面に接触する保護膜と前記電極表面に接触する保護膜との結晶構造が異なることが好ましい。
また、前記導電性基板の第2主面に接触する保護膜と前記電極表面に接触する保護膜との結晶構造が異なることが好ましい。
前記電極の側面側の縁部が、レーザ素子の内側に位置していることが好ましい。
また、前記導電性基板は、窒化物基板であることが好ましく、導電性基板の第2主面は、N面(000−1)であることがより好ましい。
また、前記共振器面に接触する保護膜は、半値幅が2°以下であることが好ましく、保護膜は、六方晶系の結晶構造を有する材料で形成されてなるか、窒化物膜で形成されてなるか、共振器面と接触する側において、共振器面と同軸配向の結晶構造を有するか、電極表面においてアモルファス構造であることが好ましく、接触面積が500μm以上で基板の第2主面と接触するか、接触面積が500μm以上で電極と接触することが好ましい。
また、前記共振器面が、M面(1−100)、A面(11−20)、C面(0001)及びR面(1−102)からなる群から選ばれる面であるか、前記共振器面がM面(1−100)であり、かつ、共振器面に接触する保護膜は、共振器面と同軸配向であるM軸配向の結晶構造を有していることが好ましい。
さらに、前記共振器面に接触する保護膜上に、第2保護膜がさらに積層されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、共振器面において、保護膜を窒化物半導体層に接触させ、かつ前記保護膜を共振器面から基板の第2主面に接触するように形成することにより、保護膜が、共振器面以外の領域において接触面積を増加させることができる。そのため、保護膜の共振器面への密着性を向上させることができる。また、前記保護膜を、共振器面から基板の第2主面及び電極表面に接触するように形成することにより、保護膜の共振器面への密着性をより向上させることができ、保護膜の剥がれを確実に防止することができる。
また、共振器面や基板の第2主面、又は電極表面における保護膜の結晶構造を異なるものとすることにより、保護膜が接触する部材やその物性に対して保護膜の結晶構造を適宜合わせて、最適な密着性を確保することができる。
さらに、保護膜に伝えられた熱を、保護膜の表面積を増加させることによって、より効率的に放出することができる。また、保護膜に配向性を有するものを採用することで、CODレベルのみならず放熱効果をも向上することができる。
その結果、安定な動作を確保することができ、信頼性が高く、CODレベルを向上させた高出力の窒化物半導体レーザ素子を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の窒化物半導体レーザ素子は、例えば、典型的には図1に示すように、主として、導電性基板10の第1主面上に、第1窒化物半導体層11、活性層12及び第2窒化物半導体層13が順に積層された窒化物半導体層が形成されており、この窒化物半導体層の対向する端面に共振器面(図2(a)中、20参照)が設けられて、共振器が形成されている。また、第2窒化物半導体層13の表面にはリッジ14が形成されている。少なくとも一方の共振器面20の全面に、共振器面20に接触する保護膜(図2(a)中、25a参照)が形成されている。また、埋込膜15、p電極16、第3保護膜17、pパッド電極18等が適宜形成されており、導電性基板10の第1主面に対向する第2主面にn電極19が形成されている。
【0008】
保護膜は、図2(a)の縦断面図及び図2(b)の裏面図に示すように、少なくとも共振器面20に接触して形成されており(図2(a)中、25a)、共振器面20から、導電性基板10の第2主面(図2(a)中、25b)に亘って連続的に形成されている(さらに、図8参照)。
また、この保護膜は、導電性基板10の第2主面からさらに連続的にn電極19の表面に亘って形成されていることが好ましい(図2(a)中、25c)。ただし、保護膜は、共振器面の必ずしも全面を被覆する必要はなく、少なくとも、共振器面の光導波路領域を被覆していればよい。
また、保護膜は、導電性基板10の第2主面に形成されたn電極19側のみならず、リッジ14上に形成されたp電極16側にも拡大するものであってもよい。この場合、リッジ14上に形成されたp電極16は共振器面20から離間していることで、保護膜がリッジの上面、p電極16の表面に亘って連続的に形成(図2(a)参照)されていてもよいし、p電極16の端面が共振器面と略面一であれば、リッジ14上面に接触することなくp電極16の表面に亘って形成されていてもよい(図9参照)。p電極16側にも拡大することにより、保護膜の密着性を向上させることができる。
【0009】
保護膜は、共振器面20に接触する保護膜25aと導電性基板10の第2主面に接触する保護膜25bとで、それぞれ結晶構造が異なっている。また、保護膜がn電極表面に亘って連続的に形成されている場合には、共振器面20に接触する保護膜25aと、n電極表面に接触する保護膜25cとの結晶構造が異なることが好ましく、さらに、導電性基板10の第2主面に接触する保護膜25bとn電極表面に接触する保護膜25cとの結晶構造も異なるっていることがより好ましい。
ここで、結晶構造がそれぞれ異なるとは、保護膜の結晶系、結晶状態、配向性のいずれかが異なるものであればよい。結晶系としては、例えば、立方晶系、正方晶系、斜方晶系、単斜晶系、菱面体晶系、六方晶系等である。結晶状態としては、例えば、単結晶、多結晶又はアモルファス等である。配向性とは、保護膜を構成する分子の並び方又は向きのことを意味し、例えば、M軸〈1−100〉、A軸〈11−20〉、C軸〈0001〉及びR軸〈1−102〉配向等が挙げられる。そのため、結晶状態が同じ単結晶であるが、配向性が異なるものであってもよい。なお、配向性とは成長面方向への軸配向性である。つまり、ここでの結晶構造は、保護膜の膜厚方向における結晶構造を意味し、例えば、共振器面20に接触する保護膜25aの場合には、膜厚方向aにおける結晶構造、つまり、共振器面に略直交する方向を指し、導電性基板10の第2主面に接触する保護膜25bの場合には、膜厚方向b、つまり、導電性基板の厚さ方向における結晶構造を指し、n電極表面に接触する保護膜25cの場合には、膜厚方向c、つまりn電極の厚さ方向における結晶構造を指す。
【0010】
保護膜は、例えば、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、B、Ti等の酸化物、窒化物(例えば、AlN、AlGaN、GaN、BN等)又はフッ化物等が挙げられる。また、窒化物半導体と格子定数が近い(例えば、窒化物半導体との格子定数の差が15%以下)ものであれば、結晶性の良好な保護膜を形成することができる。なかでも、六方晶系の結晶構造を有する材料による膜であることが好ましく、さらに、窒化物であることがより好ましい。別の観点では、レーザ素子の発振波長に対して吸収端のない材料により形成されることが好ましい。
【0011】
保護膜の膜厚、つまり、共振器面における膜厚(図2(b)中、A参照)は、特に限定されるものではなく、例えば、50Å〜1000Å、さらに、50〜500Åであることが好ましい。なお、共振器面における保護膜の膜厚は必ずしも均一でなくてもよく、局所的に、例えば、光導波路領域又はNFPに対応する領域において薄膜又は厚膜等であってもよいし、さらに、基板の第2主面上、電極表面において、徐々に又は段階的に膜厚が変化していてもよい。特に、成膜方法によっては、共振器面から、基板の第2主面上及び電極表面へ向かうに従って薄くなっていることが好ましい。これにより、保護膜の端部において応力を徐々に緩和することができる。
【0012】
通常、窒化物半導体層における共振器面20は、例えば、M軸〈1−100〉、A軸〈11−20〉、C軸〈0001〉及びR軸〈1−102〉配向が挙げられ、つまり、M面(1−100)、A面(11−20)、C面(0001)又はR面(1−102)からなる群から選ばれる面、特にM軸配向であることが好ましい。ここでの共振器面20とは、光導波路領域又はNFPに対応する領域を含む領域を意味するが、必ずしもこのような特定の領域のすべてを含む面でなくてもよく、光導波路領域又はNFPに対応する領域を含む端面(共振器面20)の大部分の領域であればよい。従って、共振器面の配向性は、大部分の領域における配向性又は共振器面において優位となっている配向性を意味する。
【0013】
保護膜は、このような配向を有する共振器面側において(図2(a)及び(b)中、25a参照)、M軸、A軸、C軸及びR軸配向と、この端面と同軸で配向された膜であることが好ましい。これにより、保護膜の膜質がより良好となり、半導体レーザ素子の駆動時においても、窒化物半導体層へのクラックを防止すべく、応力を緩和させることができ、確実にCODレベルを向上させることができる。なかでも、窒化物半導体レーザ素子の共振器面をM面とする場合には、保護膜を前記共振器面と同軸配向であるM軸配向をした窒化物膜とすることがより好ましい。これにより保護膜と共振器面との密着性が向上する。ここで、M軸配向であるとは、単結晶で、精密にM軸に配向した状態(単結晶)のみならず、多結晶の状態、多結晶が混在するが、M軸に配向する部位を均一に含む状態、均一に分布して含む状態であってもよい。このように、多結晶が混在する状態である場合には、共振器面との格子定数の差異が厳格に表れず、その差異を緩和することができる。
保護膜は、共振器面20上において、半値幅は2.0°以下であり、さらに1.0°以下であることが好ましい。半値幅は、X線回折分析によって決定される(002)面からのX線ロッキングカーブの半値幅(FWHM)を意味する。これにより、CODレベルを向上させることができる。
【0014】
また、基板の第2主面に接触する保護膜(図2(a)及び(b)中、25b参照)は、共振器面に接触する保護膜の結晶構造によって、M軸、A軸、C軸及びR軸配向と、共振器面と同軸で配向された膜以外の膜であることが好ましい。
通常、共振器面がM軸配向する場合には、導電性基板の第1主面は、C軸配向となる。さらに、導電性基板を窒化物基板とする場合には、窒化物基板の第2主面は窒素(N)面となる。従って、このような配向を有する導電性基板の第2主面側において、保護膜は、C軸配向の膜であることが好ましい。特に、導電性基板が窒化物基板(例えばGaN基板)である場合、第2主面はGa元素が配列されたGa面又はN元素が配列されたN面のいずれかとなるが、GaN基板の第1主面上に積層する窒化物半導体層の成長、第2主面上に形成する電極との密着性等とを考慮して、GaN基板の第2主面はN元素が配列された面、つまりN(000−1)面であることが好ましい。
これにより、保護膜の基板に対する密着性を向上させることができ、保護膜が基板から剥がれることを防止することができるとともに、共振器面に接触している膜の密着性をも向上させることができる。
【0015】
保護膜25bは、例えば、共振器面からの距離(図2(b)中、B参照)が10μm程度以下の範囲、好ましくは5μm程度以下の範囲で、基板の第2主面と接触していることが好ましい。また、別の観点から、基板の第2主面と保護膜との接触面積が500μm程度以上、さらに600〜3000μm程度であることが好ましい。導電性基板の第2主面と接触する保護膜25bの接触面積は、(共振器面から電極までの距離B)×(基板の幅)で求められる面積だけではなく、それぞれ(基板側面から電極までの距離B)×(電極の共振器面側の端面から保護膜の端面までの距離C)で求められる両側面の面積を付加した面積になる。
なお、共振器面及び導電性基板の第2主面に形成される保護膜は、部分的に、アモルファスが含有されていてもよい。通常、共振器面に形成される保護膜と導電性基板の第2主面に形成される保護膜とでは、アモルファスの含有量は導電性基板の第2主面に形成される保護膜が多くなりやすい。
【0016】
電極に接触する保護膜(図2(a)及び(b)中、25c参照)は、アモルファスであることが好ましい。電極を構成する材料は、一般に金属であり、金属に対して結晶性の良好な保護膜を形成する場合には剥がれが生じやすいが、アモルファスとすることにより、保護膜の電極表面への密着性をも確保できる。
電極に接触する保護膜25cは、例えば、電極の共振器面側の端面からの距離(図2(b)中、C参照)が30μm程度以下、好ましくは25μm程度以下で、電極に接触していることが適している。あるいは、共振器面から40μm程度以下、好ましくは35μm程度以下の距離で電極に接触していることが適している。また、別の観点から、基板の第2主面と保護膜との接触面積が500μm程度以上、さらに600〜3000μm程度であることが好ましい。また、前記保護膜が基板の第2主面上に形成された電極19と接触する面積は、500μm程度以上、さらに1000〜7500μm程度であることが好ましい。
【0017】
保護膜は、当該分野で公知の方法によって形成することができる。例えば、蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、ECRプラズマスパッタ法、マグネトロンスパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、ディップ法又はこれらの方法の2種以上を組み合わせる方法、あるいはこれらの方法と、全体又は部分的な酸化処理(熱処理)又は露光処理とを組み合わせる方法等、種々の方法を利用することができる。なお、組み合わせの方法では、必ずしも同時又は連続的に成膜及び/又は処理しなくてもよく、成膜した後に、処理等を行ってもよいし、その逆でもよい。なかでも、ECRプラズマスパッタ法及びその後の熱処理の組み合わせが好ましい。
【0018】
特に、保護膜として、上述したように、共振器面と同軸配向の膜を得るためには、その成膜方法にもよるが、成膜前に、共振器面の表面を窒素プラズマで処理する、成膜速度を比較的遅いレートに調整する、成膜時の雰囲気を、例えば、窒素雰囲気に制御する、成膜圧力を比較的低く調整するなどのいずれか1つ又は2以上を組み合わせて成膜を制御することが好ましい。
【0019】
また、各方法での成膜時に窒素分圧、成膜圧力等の条件を変動させてもよい。
例えば、スパッタ法で成膜する際、ターゲットとして保護膜材料を用い、成膜レートを徐々に又は急激に増大させるか、RF電力を徐々に又は急激に増大(増大させる範囲が50〜500W程度)させるか、あるいはターゲットと基板との距離を徐々に又は急激に変化させる(変化させる範囲が元の距離の0.2〜3倍程度)方法、ターゲットとして保護膜材料を用いて成膜する際に圧力を徐々に又は急激に低下させる(低下させる圧力範囲が0.1〜2.0pa程度)方法等が挙げられる。
【0020】
具体的には、成膜速度を調整する際に、5Å/min〜100Å/minの範囲で成膜し、その後、当初の成膜速度以上の成膜速度で成膜することが好ましい。また、RF電力は、100W〜600W、マイクロ波電力は300〜600Wで成膜し、その後(例えば、成膜速度の変更時に)これ以上のRF電力で成膜することが好ましい。なお、この後、任意に熱処理又は露光処理を行ってもよい。
さらに、スパッタ法で成膜する際、基板の温度を徐々に又は急激に上昇または低下させる(変化させる温度範囲が50〜500℃程度)方法が挙げられる。その他には、ターゲットか窒化物半導体レーザ素子がパターン形成されたウェハーのどちらかを傾けて成膜するものであってもよい。
【0021】
なお、保護膜は、上述したように、共振器面において、特に、活性層(任意にその近傍領域)に接触する領域、光導波路領域又はSCH構造を採用した場合、活性層と、その上下に位置するガイド層の一部又は全部とを含む領域において、保護膜の最大膜厚よりも薄膜な領域が形成されていてもよい。また、この領域は、通常、リッジの下方の領域とその近傍領域、つまり、NFPに対応する領域を含み、全幅がリッジ幅の1.5倍程度以下の幅を有する領域であることが適している。光導波路領域の形状に対応した薄膜の領域を形成することで、より効率よく、CODレベルを高く保ったまま放熱性を向上させることができる。
薄膜の領域の膜厚は、最大膜厚よりも薄ければよく、最大膜厚に対して5%程度以上又は10Å程度以上薄く形成されていることが好ましい。あるいは、薄膜の領域の膜厚は、最大膜厚の40%以上であることが好ましい。他の領域よりも薄膜であっても、強度不足による劣化等を抑制し、安定した端面保護膜とすることができる。
【0022】
このように、保護膜の膜厚を変化させる場合、例えば、一旦、共振器面全面に所定の膜厚の保護膜を形成し、その後、公知のフォトリソグラフィ(例えば、レジスト塗布、プリベーク、露光、現像及びポストベーク等)及びエッチング工程(アルカリ現像液によるウェットエッチング、塩素系ガスを用いるドライエッチング等)を利用して、あるいは、局所的に露光又は熱処理などを付し、保護膜の膜厚方向において部分的に薄膜化してもよい。露光等により保護膜の膜厚を薄膜化させる場合には、保護膜の酸化を防ぐために、その上に後述する第2保護膜を形成してから加工することが好ましい。この際、素子を駆動させることにより、光導波路領域の保護膜に局所的にレーザ光を露光してもよいし、外部からの露光によって薄膜領域を形成してもよい。また、公知のフォトリソグラフィ及びエッチング工程を利用して、共振器面における他の領域にのみ所定膜厚の保護膜を形成し、続いて、共振器面全面に同じ材料の保護膜を積層して、薄膜の領域を形成してもよい。さらに、共振器端面に保護膜を形成する前に、得られる保護膜の膜質、膜厚等を局所的に変化させることができるように、局所的に前処理等を施してもよい。これらの方法は、任意に組み合わせてもよい。
なお、露光、熱処理、前処理等を行う場合には、共振器面の局所的な劣化、変質等を防止するために、特に活性層及びその近傍領域を構成する窒化物半導体層に悪影響を与えない温度、例えば、900℃程度以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明の窒化物半導体レーザ素子では、保護膜の上に、さらに膜質、材料又は組成の異なる第2保護膜26が積層されていることが好ましい。
第2保護膜は、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、B、Ti等の酸化物が挙げられ、なかでもSiO膜が好ましい。また、第2保護膜は、単層構造、積層構造のどちらを用いてもよい。例えば、Siの酸化物の単層、Alの酸化物の単層、Siの酸化物とAlの酸化物の積層構造等が挙げられる。このような膜が形成されていることにより、保護膜をより強固に共振器面に密着させることができる。第2保護膜は、アモルファスの膜によって形成することが好ましい。これにより、保護膜と窒化物半導体層との界面における応力をより緩和させながら、保護膜の密着性をより向上させることができる。
第2保護膜の膜厚は、特に限定されることなく、保護膜として機能し得る膜厚とすることが適しており、例えば、保護膜と第2保護膜との総膜厚が、2μm程度以下となるものが好ましい。
【0024】
また、保護膜及び第2保護膜はいずれも、レーザ光の取り出し面である共振器面の出射側のみならず、反射側に形成していてもよく、両者において、材料、膜厚等を異ならせてもよい。反射側の第2保護膜としては、Siの酸化物とZrの酸化物との積層構造、Alの酸化物とZrの酸化物との積層構造、Siの酸化物とTiの酸化物との積層構造、Alの酸化物とSiの酸化物とZrの酸化物との積層構造、Siの酸化物とTaの酸化物とAlの酸化物の積層構造等が挙げられる。所望の反射率に合わせて適宜その積層周期等を調整することができる。
【0025】
また、上述した保護膜と第2保護膜との間に、任意に第2膜を形成してもよい。第2膜は、保護膜(以下、第1膜と称する場合がある)と同一材料で異軸配向、異なる材料で同軸配向、異なる材料で異軸配向、同一材料で同軸配向のいずれの結晶構造を有するものでもよい。なかでも、保護膜をAlN、第2膜をGaNとするような異なる材料であり、同軸配向の結晶構造とするものが好ましい。これにより結晶性のよい保護膜とし、保護膜同士の剥がれを抑制することができる。また、第2膜の膜厚は上述した保護膜(第1膜)と同程度であることが好ましい。第2膜は、上述した保護膜と同様に形成することができる。
【0026】
通常、半導体レーザ素子では、保護膜の膜厚を厚くすると、保護膜と窒化物半導体層との格子定数差から保護膜にクラックが発生しやすい。そこで、保護膜の膜厚をクラックが入らないような膜厚にとどめるとともに、共振器面から、基板の第2主面及び電極表面に亘って、レーザ素子を挟み込むように形成するとともに、各表面における結晶性を異ならせることにより、保護膜の共振器面への密着性をより確保しながら、CODレベルをより向上させることができる。
【0027】
なお、保護膜(第1膜、第2膜)及び第2保護膜は、共振器面から第2窒化物半導体層表面(p電極16側)にかけて連続して形成されていてもよい。窒化物半導体層表面に形成された第1及び/又は第2保護膜は、p電極、埋込膜及びp側パッド電極と、離間していてもよいし、接していてもよいし、被覆していてもよい。特に、第1及び/又は第2保護膜が埋込膜及びp電極を被覆することが好ましい。これにより、埋込膜やp電極の剥がれをより防止することができる。
第2窒化物半導体層表面に形成された保護膜の膜厚は、共振器面に形成された第1保護膜及び第2保護膜の膜厚よりも薄いものが好ましい。これにより、保護膜におけるクラックの発生を防止することができる。
【0028】
第2窒化物半導体層表面に形成された保護膜は、窒化物半導体層の結晶面と同軸配向であることが好ましく、特にC軸配向であることが好ましい。これにより半導体層表面と保護膜との密着性を良好なものとすることができる。
第1保護膜及び/又は第2保護膜が共振器面から半導体層表面にかけて形成される場合、その角部において、共振器面及び半導体層表面と異なる結晶面を有するように形成することが好ましい。これにより、保護膜の剥がれが起こりやすい角部において、局所的に応力がかかるのを抑制し、共振器面と保護膜の間の応力が緩和されることで保護膜の剥がれを防止することができる。
【0029】
本発明の窒化物半導体レーザ素子を形成するために用いる基板は、導電性基板であることが好ましい。基板としては、例えば、第1主面及び/又は第2主面に0°以上10°以下のオフ角を有する窒化物半導体基板であることが好ましい。その膜厚は、例えば、50μm以上、10mm以下が挙げられる。なお、例えば、特開2006−24703号公報に例示されている種々の基板等の公知の基板、市販の基板等を用いてもよい。
窒化物半導体基板は、MOCVD法、HVPE法、MBE法等の気相成長法、超臨界流体中で結晶育成させる水熱合成法、高圧法、フラックス法、溶融法等により形成することができる。
【0030】
窒化物半導体層としては、一般式InxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)のものを用いることができる。また、これに加えて、III族元素としてBが一部に置換されたものを用いてもよいし、V族元素としてNの一部をP、Asで置換されたものを用いてもよい。n側半導体層は、n型不純物として、Si、Ge、Sn、S、O、Ti、Zr、CdなどのIV族元素又はVI族元素等のいずれか1つ以上を含有していてもよい。また、p側半導体層は、p型不純物として、Mg、Zn、Be、Mn、Ca、Sr等を含有していてもよい。不純物は、例えば、5×1016/cm3〜1×1021/cm3程度の濃度範囲で含有されていることが好ましい。第1窒化物半導体層をn側半導体層とすれば、第2窒化物半導体層はp側半導体層となる。また、第1窒化物半導体層をp側半導体層とすれば、第2窒化物半導体層はn側半導体層となる。
【0031】
活性層は、多重量子井戸構造又は単一量子井戸構造のいずれでもよい。
窒化物半導体層は、n側半導体層とp側半導体層に光の光導波路を構成する光ガイド層を有することで、活性層を挟んだ分離光閉じ込め型構造であるSCH(Separate Confinement Heterostructure)構造とすることが好ましい。但し、本発明は、これらの構造に限定されるものではない。
また、活性層は、保護膜よりバンドギャップエネルギーが小さいものであることが好ましい。本発明において、保護膜のバンドギャップエネルギーを活性層より大きいもので形成すことにより、端面のバンドギャップエネルギーを広げ、言い換えると、共振器面付近の不純物準位を広げ、ウィンドウ構造を形成することにより、CODレベルをより向上させることができる。
また、本発明では、特に発振波長が220nm〜500nmのものにおいて、保護膜の剥がれを防止し、CODレベルを向上させることができる。
【0032】
窒化物半導体層の成長方法は、特に限定されないが、MOVPE(有機金属気相成長法)、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)など、窒化物半導体の成長方法として知られている全ての方法を好適に用いることができる。特に、MOCVDは結晶性良く成長させることができるので好ましい。
【0033】
窒化物半導体層の第1窒化物半導体層をn側半導体層とする場合に、第2窒化物半導体層であるp側半導体層の表面には、リッジが形成されている。リッジは、光導波路領域として機能するものであり、その幅は1.0μm〜30.0μm程度である。さらに、レーザ光を単一光の光源として使用する場合には、1.0μm〜3.0μm程度が好ましい。その高さ(エッチングの深さ)は、例えば、0.1〜2μmが挙げられる。また、p側半導体層を構成する層の膜厚、材料等を調整することにより、光閉じ込めの程度を適宜調整することができる。リッジは、共振器方向の長さが200μm〜5000μm程度になるように設定することが好ましい。また、共振器方向においてすべて同じ幅でなくてもよいし、その側面が垂直であっても、テーパー状であってもよい。この場合のテーパー角は45°〜90°程度が適当である。
【0034】
通常、窒化物半導体層の表面及びリッジの側面にわたって、埋込膜が形成されている。つまり、埋込膜は、窒化物半導体層上であって、窒化物半導体層と、後述する電極とが直接接触して、電気的な接続をとる領域以外の領域に形成されている。なお、窒化物半導体層と電極との接続領域としては、特にその位置、大きさ、形状等は限定されず、窒化物半導体層の表面の一部、例えば、窒化物半導体層の表面に形成されるストライプ状のリッジ上面のほぼ全面が例示される。
【0035】
埋込膜は、一般に、窒化物半導体層よりも屈折率が小さな絶縁材料によって形成されている。屈折率は、エリプソメトリーを利用した分光エリプソメータ、具体的には、J.A.WOOLLAM社製のHS−190等を用いて測定することができる。例えば、埋込膜は、Zr、Si、V、Nb、Hf、Ta、Al、Ce、In、Sb、Zn等の酸化物、窒化物、酸化窒化物等の絶縁膜又は誘電体膜の単層又は積層構造が挙げられる。また、埋込膜は、単結晶であってもよいし、多結晶又はアモルファスであってもよい。このように、リッジの側面から、リッジの両側の窒化物半導体表面にわたって保護膜が形成されていることにより、窒化物半導体層、特にp側半導体層に対する屈折率差を確保して、活性層からの光の漏れを制御することができ、リッジ内に効率的に光閉じ込めができるとともに、リッジ基底部近傍における絶縁性をより確保することができ、リーク電流の発生を回避することができる。
【0036】
埋込膜は、当該分野で公知の方法によって形成することができる。例えば、蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、ECRプラズマスパッタ法、マグネトロンスパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、ディップ法又はこれらの方法の2種以上を組み合わせる方法、あるいはこれらの方法と酸化処理(熱処理)とを組み合わせる方法等、種々の方法を利用することができる。
【0037】
p電極は、窒化物半導体層及び埋込膜上に形成されることが好ましい。p電極が最上層の窒化物半導体層及び保護膜上に連続して形成されていることにより、保護膜の剥がれを防止することができる。特に、リッジ側面までp電極を形成することにより、リッジ側面に形成された埋込膜について有効に剥がれを防止することができる。
【0038】
p電極及びn電極は、例えば、パラジウム、白金、ニッケル、金、チタン、タングステン、銅、銀、亜鉛、錫、インジウム、アルミニウム、イリジウム、ロジウム、ITO等の金属又は合金の単層膜又は積層膜により形成することができる。p電極の膜厚は、用いる材料等により適宜調整することができ、例えば、500〜5000Å程度が適当である。電極は、少なくとも第1窒化物半導体層及び第2窒化物半導体層又は導電性基板上にそれぞれ形成していればよく、さらにこの電極上にパッド電極等、単数又は複数の導電層を形成してもよい。なお、導電性基板の第2主面における電極19は、通常、その端面(縁部、図2(b)中、X、Y)が、基板端面よりも、共振器面側及び側面側において、上述したように、図2(b)中、B及びBに相当する距離、内側に配置されている。
【0039】
また、埋込膜上には、第3保護膜17が形成されていることが好ましい。このような第3保護膜は、少なくとも窒化物半導体層表面において埋込膜上に配置していればよく、埋込膜を介して又は介さないで、窒化物半導体層の側面及び/又は基板の側面又は表面等をさらに被覆していることが好ましい。第3保護膜は、埋込膜で例示したものと同様の材料で形成することができる。これにより、絶縁性のみならず、露出した側面又は表面等を確実に保護することができる。
なお、窒化物半導体層の側面から、埋込膜15、p電極16及び第3保護膜17の上面には、pパッド電極18が形成されていることが好ましい。
【0040】
また、本発明の窒化物半導体レーザ素子は、例えば、サブマウント、ステム等の支持部材に実装し、支持部材にキャップ部材を接合することによって、窒化物半導体レーザ装置を構成する。通常、レーザ素子は、窒素雰囲気、大気雰囲気、希ガス元素又は酸素を含有するもの(含有割合が0〜20%)等中で、支持部材に実装され、キャップ部材で封止される。
【0041】
以下に、本発明の窒化物半導体レーザ素子の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
この実施例の窒化物半導体レーザ素子は、図1及び図3(a)及び(b)に示すように、C(0001)面を第1主面(成長面)とするGaNからなる基板10の第1主面であるGa面に、第1窒化物半導体層(例えば、n側)11、活性層12及び表面にリッジ14が形成された第2窒化物半導体層(例えば、p側)14をこの順に積層しており、主としてM面を共振器面とする共振器が形成されて構成されている。
【0042】
このような窒化物半導体レーザ素子は、図3(a)及び(b)に示すように、共振器面に保護膜25a〜25c及び第2保護膜26、さらに、埋込膜15、p電極16、n電極19、第3保護膜17、pパッド電極18等が形成されている。
また、n電極19は、GaN基板10の第2主面であるN面に形成されている。n電極19は、レーザ素子の平面形状とほぼ相似の平面形状で形成されている。n電極19の共振器面側における縁部(例えば、図2及び図3中(b)中、X参照)は、レーザ素子の端部(共振器面)から、光出射面側及び光反射面側において10μm程度内側に配置している。また、n電極19の側面側における縁部(例えば、図2及び図3中(b)中、Y参照)は、レーザ素子の端部(側面)から、15μm〜30μm程度内側に位置している。p電極16も、n電極19とほぼ同一の形状で、光出射面側及び光反射面側においてレーザ素子の端部から10μm程度内側に配置している。
【0043】
保護膜25aは、少なくとも光出射面側の共振器面において、その共振器面と同軸、つまり、M軸配向しており、この保護膜25aに連続的に、GaN基板10の第2主面、n電極19表面に亘って保護膜25b及び25cが形成されている。GaN基板10の第2主面に形成された保護膜25bは、主としてC軸配向しており、接触面積が1000μm以上で、基板10の裏面と接触している。また、n電極19表面に形成された保護膜25cは、主としてアモルファス構造であり、接触面積が2000μm以上で、n電極19と接触している。
保護膜25a〜25cはAlNからなり、共振器面上において、最大膜厚が100Å程度であり、基板10の第2主面からn電極19表面に亘って徐々に薄くなっており、保護膜25cの端部においては、膜厚が20Å程度である。
【0044】
なお、保護膜25aは、活性層12と、その上下の第1窒化物半導体層11及び第2窒化物半導体層14にわたる領域、かつリッジ14の下方及びその左右にわたる領域に、膜厚が50Å程度、窪みの深さが50Å程度、その幅が2.0μm程度、高さが700Å程度の薄膜の領域を有している。
【0045】
また、保護膜25a〜25c上に形成された第2保護膜26はSiOからなり、アモルファス構造を有し、最大膜厚が3000Å程度である。
なお、第2保護膜は、活性層に対向する側において、その上下の第1窒化物半導体層11及び第2窒化物半導体層14にわたる領域、かつリッジ14の下方及びその左右にわたる領域、つまり、保護膜25aの薄膜の領域に対応して突出している。また、活性層とは反対側の面に、活性層側の突出よりも若干大面積の突出が形成され、これらによって厚膜部が形成されている。厚膜部の膜厚は、例えば、3150Å程度、その幅が3.0μm程度、高さが4000Å程度である。
【0046】
この窒化物半導体レーザ素子は、以下のように製造することができる。
まず、GaN基板を準備する。このGaN基板10上に、1160℃でTMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)、アンモニア、シランガスを用い、Siを4×1018/cm3ドープしたAl0.03Ga0.97Nよりなる層を膜厚2μmで成長させる。なお、このn側クラッド層は超格子構造とすることもできる。
続いて、シランガスを止め、1000℃でアンドープGaNよりなるn側光ガイド層を0.175μmの膜厚で成長させる。このn側光ガイド層にn型不純物をドープしてもよい。
【0047】
次に、温度を900℃にして、SiドープIn0.02Ga0.98Nよりなる障壁層を140Åの膜厚で成長させ、続いて同一温度で、アンドープIn0.07Ga0.93Nよりなる井戸層を70Åの膜厚で成長させる。障壁層と井戸層とを2回交互に積層し、最後に障壁層で終わり、総膜厚560Åの多重量子井戸構造(MQW)の活性層を成長させる。
【0048】
温度を1000℃に上げ、TMG、TMA、アンモニア、Cp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、p側光ガイド層よりもバンドギャップエネルギーが大きい、Mgを1×1020/cm3ドープしたp型Al0.25Ga0.75Nよりなるp側キャップ層を100Åの膜厚で成長させる。なお、このp側キャップ層は省略可能である。
続いて、Cp2Mg、TMAを止め、1000℃で、バンドギャップエネルギーがp側キャップ層10よりも小さい、アンドープGaNよりなるp側光ガイド層を0.145μmの膜厚で成長させる。
【0049】
次に、1000℃でアンドープAl0.10Ga0.90Nよりなる層を25Åの膜厚で成長させ、続いてCp2Mg、TMAを止め、アンドープGaNよりなる層を25Åの膜厚で成長させ、総膜厚0.45μmの超格子層よりなるp側クラッド層を成長させる。
最後に、1000℃で、p側クラッド層の上に、Mgを1×1020/cmドープしたp型GaNよりなるp側コンタクト層を150Åの膜厚で成長させる。
【0050】
このようにして窒化物半導体を成長させたウェハを反応容器から取り出し、最上層のp側コンタクト層の表面にSiO2よりなるマスクを形成して、共振器面に平行な方向における幅が800μmのストライプ状の構造を形成する。この部分がレーザ素子の共振器本体となる。共振器長は、200μm〜5000μm程度の範囲であることが好ましい。
【0051】
次に、p側コンタクト層の表面にストライプ状のSiOよりなるマスクを形成して、RIE(反応性イオンエッチング)を用いてSiClガスによりエッチングし、ストライプ状の光導波路領域であるリッジを形成する。
このリッジの側面をZrOからなる埋込膜15で保護する。
次いで、p側コンタクト層及び埋込膜15の上の表面にNi(100Å)/Au(1000Å)/Pt(1000Å)よりなるp電極を形成する。p電極を形成した後、Si酸化膜(SiO2)からなる第3保護膜17をp電極の上及び埋込膜の上及び半導体層の側面に0.5μmの膜厚で、スパッタリングにより成膜する。p電極を形成した後、600℃でオーミックアニールを行う。
次に、p電極上に連続して、Ni(80Å)/Pd(2000Å)/Au(8000Å)よりなるpパッド電極18を形成する。
その後、GaN基板10の厚みが80μmになるように窒化物半導体層の成長面である第1主面と反対側の面である第2主面側から研磨を行う。
【0052】
研磨した第2主面に、Ti(150Å)/Pt(2000Å)/Au(3000Å)よりなるn電極19を形成する。
【0053】
n電極19とp電極16及びpパッド電極18とを形成したウェハ状のGaN基板10の第2主面側に凹部溝をけがきによって形成する。この凹部溝は、例えば、深さを略10μmとする。また、共振器面と平行方向に、側面から略50μm、垂直方向に略15μmの幅とする。次に、この凹部溝を劈開補助線としてGaN基板のn電極の形成面側からバー状に劈開し、劈開面(1−100面、六角柱状の結晶の側面に相当する面=M面)を共振器面とする。共振器長は800μmとし、その後、p電極に平行な方向で、バーをチップ幅200μmにチップ化することで半導体レーザ素子とする。なお、GaN基板10の第2主面側に凹部溝をけがきによって形成する工程は省略可能である。
【0054】
続いて、共振器面を、窒素プラズマを用いて表面処理する。続いて、ECRスパッタ装置にて、Alターゲットを用い、Arの流量が30sccm、Nの流量が10sccm、マイクロ波電力500W、RF電力250Wの条件で、AlNからなる保護膜25を膜厚100Åで形成する。この際、スパッタ装置において、ターゲットに対向する共振器面の角度を20から80°程度に設定する。これにより、保護膜を所望の結晶構造とすることができる。また、このように形成することにより、保護膜が、窒化物半導体表面からp電極16上の表面の一部上及びGaN基板の第2主面からn電極19の表面の一部上に回りこみ、縦断面形状において、コの字状の保護膜を形成することができる。このとき、保護膜は、レーザ素子の端部(側面)から、連続して導電性基板の第2主面上及びn電極上を被覆している。具体的には、保護膜は、レーザ素子の端部(側面)から内側に連続して25μm延伸している。
【0055】
次いで、AlNの保護膜25の上に、出射側の共振器端面に、ECRスパッタ装置にて、Siターゲットを用い、酸素の流量が5sccm、マイクロ波電力500W、RF電力500Wの条件でSiOからなる第2保護膜26を2900Å成膜する。
また、反射側には、出射側と同様の成膜条件で、AlNを100Å成膜し、SiOを2900Å成膜し、その上に(SiO/ZrO)を(670Å/440Å)で6周期成膜してもよい。
その後、レーザ素子に電圧を印加し、雰囲気、動作時間、動作電圧、動作電流等を調整しながら形成されたAlNからなる保護膜のいわゆるコア領域に局所的にレーザ光を露光する。
【0056】
得られた半導体レーザ素子について、Tc=80℃、Po=Pulse320mW(Duty50%、30nsec Cycle)、発振波長406nmで連続発振した後の光出力を測定した。その結果を図4に示す。
比較のために、保護膜をアモルファス構造のみで形成した以外は、実質的に上述した半導体レーザ素子と同様の製造方法でレーザ素子を形成し、同様の条件で、連続発振後の光出力を測定し、評価した。その結果を図6の破線で示す。本発明の実施例に比較して、CODレベルが顕著に低下することが確認された。
【0057】
また、共振器面にのみアモルファスの保護膜を形成した場合、保護膜の剥がれが生じた。
これらに対して、本発明の実施例のレーザ素子では、共振器面から基板の裏面、電極表面に亘って連続的であり、各表面における結晶構造が異なる保護膜を形成することにより、共振器面を構成する窒化物半導体層の発光部分に対して、応力を生じさせることなく、窒化物半導体にクラックが生じず、共振器面との密着性が良好で、剥がれを防止し、ひいては、CODレベルを向上させることができる。
【0058】
なお、得られた窒化物半導体レーザ素子の保護膜を検証するために、n−GaN基板(M軸配向:M面)上に、上記と同様の材料及び実質的に同様の成膜方法で、AlNからなる保護膜を100Å成膜し、さらにその上にSiOからなる第2保護膜を1500Å積層し、これらの膜の軸配向性を、XRD装置(使用X線:CuKα線(λ=0.154nm)、モノクロメータ:Ge(220)、測定方法:ωスキャン、ステップ幅:0.01°、スキャンスピード:0.4秒/ステップ)を用いて測定した。
その結果、図5に示したように、強度の高いM軸配向性を示すAlNに由来するピークが現れ、18°付近のC軸配向性を有するAlNに由来するピークはほとんど見られず、M軸配向性を有することが確認された。
この膜の半値幅は、上述した方法による測定によれば、1.0°であった。
また、n−GaN基板(C軸配向:C面)上に、AlNからなる膜を100Å成膜し、この膜を、上記と同様に測定したところ、18°付近に強度の高いC軸配向性を示すAlNに由来するピークが現れ、M軸配向性を有するAlNに由来するピークはほとんど見られず、C軸配向性を有することが確認された。
さらに、金属表面に形成したAlNからなる膜について、上記と同様に測定したところ、特定の角度付近に配向性を示すピークはほとんど見られず、アモルファス構造であることが確認された。
【0059】
実施例2〜9
この実施例では、AlNからなる保護膜と、SiOからなる第2保護膜とを、膜厚を変更して形成する以外、実施例1と同様にレーザ素子を作製した。なお、Bは、出射面側及び光反射面側において略10μmである。また、Cは、30μm〜40μm程度である。
得られたレーザ素子は、表1に示す保護膜及び第2保護膜の組成及び膜厚のものであった。また、保護膜は、共振器面に接触する部位においてM軸配向、基板裏面に接触する部位においてC軸配向、電極上に接触する部位においてアモルファスであることを確認した。
【表1】

これらのレーザ素子において、実施例1と同様の評価を行った。その結果の一部を図6に示す。図6において、実線は実施例3、破線は実施例1で例示した比較例の結果を示す。
図6に示すように、実施例2ではCODレベルが良好であることが分かった。また、図示していないが、実施例2、4〜9についても、実施例1と同様にCODレベルが向上し、寿命特性が良好であることが分かる。
【0060】
実施例10
この実施例では、図7に示すように、保護膜として、AlNからなり、共振器面上において、最大膜厚が100Å程度であり、基板10の第2主面からn電極19表面に亘って徐々に薄くなっており、保護膜25cの端部においては、膜厚が20Å程度である保護膜25a〜25cの上に、さらに第2膜25’としてGaNからなる膜が形成されている以外、実質的に実施例1と同様の構成を有する。
なお、第2膜25’は、保護膜25a〜25cに対応する部位において、保護膜25a〜25cとそれぞれ同じ結晶構造、つまり、保護膜25aに対応する部位ではM軸配向、保護膜25bに対応する部位ではC軸配向、保護膜25cに対応する部位ではアモルファス構造をとっている。
この実施例のレーザ素子においても、実施例1と同様に、保護膜の密着性が向上し、CODレベル及び寿命特性が良好である。
【0061】
実施例11
この実施例では、図8に示すように、保護膜として、AlNからなり、共振器面上において、最大膜厚が100Å程度であり、基板10の第2主面に亘って徐々に薄くなっており、保護膜25bの端部では、膜厚が40Å程度である保護膜25a及び25bが形成されている以外、実質的に実施例1と同様の構成を有する。
つまり、この実施例では、保護膜がn電極19表面にまで及ばない形状を有しているが、保護膜25bと基板10の第2主面との接触面積が5000μm以上と広げた。なお、保護膜25bは、基板10の第2主面との適当な接触面積を確保している限り、その端部がn電極19に接触していてもよいし、n電極19から離間していてもよい。
この実施例のレーザ素子においても、実施例1と同様に、保護膜の密着性が向上し、CODレベル及び寿命特性が良好である。
【0062】
実施例12
この実施例では、図9に示すように、p電極16の端面が共振器面と面一に形成されており、従って、p電極16側の保護膜が、リッジ14の表面に接触していない以外、実質的に実施例1と同様の構成を有する。
この実施例のレーザ素子においても、実施例1と同様に、保護膜の密着性が向上し、CODレベル及び寿命特性が良好である。
【0063】
実施例13
この実施例では、M面(1−100)を第1主面(成長面)とするGaNからなる基板10の第1主面であるGa面に、第1窒化物半導体層(例えば、n側)11、活性層12及び表面にリッジ14が形成された第2窒化物半導体層(例えば、p側)14をこの順に積層しており、主としてC面を共振器面とする共振器が形成されており、さらに、共振器面に形成された保護膜25aがC軸配向、保護膜25bがM軸配向、保護膜25cがアモルファスである以外、実質的に実施例1と同様の構成を有する。
この実施例のレーザ素子においても、実施例1と同様に、保護膜の密着性が向上し、CODレベル及び寿命特性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、レーザダイオード素子(LD)のみならず、発光ダイオード素子(LED)、スーパーフォトルミネセンスダイオード等の発光素子、太陽電池、光センサ等の受光素子、あるいはトランジスタ、パワーデバイス等の電子デバイスに用いられるような、保護膜と半導体層との密着性を確保する必要がある窒化物半導体素子に広く適用することができる。特に、光ディスク用途、光通信システム、印刷機、露光用途、測定、バイオ関連の励起用光源等における窒化物半導体レーザ素子に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の窒化物半導体レーザ素子の構造を説明するための要部の概略断面図である。
【図2】本発明の窒化物半導体レーザ素子の保護膜を説明するための縦断面図(a)及び裏面図(c)である。
【図3】本発明の別の窒化物半導体レーザ素子の保護膜を説明するための縦断面図(a)及び裏面図(c)である。
【図4】本発明の窒化物半導体レーザ素子のCODレベルを示すグラフである。
【図5】本発明の窒化物半導体レーザ素子の保護膜の配向性を検証するための配向強度を示すグラフである。
【図6】本発明の別の窒化物半導体レーザ素子のレーザ素子のCODレベルを示すグラフである。
【図7】本発明の窒化物半導体レーザ素子の保護膜の別の態様を説明するための縦断面図(a)及び裏面図(c)である。
【図8】本発明の窒化物半導体レーザ素子の保護膜のさらに別の態様を説明するための縦断面図である。
【図9】本発明の窒化物半導体レーザ素子の保護膜のさらに別の態様を説明するための縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10 基板
11 第1窒化物半導体層
12 活性層
13 第2窒化物半導体層
14 リッジ
15 埋込膜
16 p電極
17 第3保護膜
18 p側パッド電極
19 n電極
20 共振器面
25’ 第2膜
25a〜c 保護膜
26 第2保護膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と該第1主面に対向する第2主面とを有する導電性基板と、該導電性基板の第1主面上に、第1窒化物半導体層、活性層及び第2窒化物半導体層が順に積層された窒化物半導体層と、前記導電性基板の第2主面上に形成された電極と、前記窒化物半導体層の共振器面に接触する保護膜と、を有する窒化物半導体レーザ素子であって、
前記電極の共振器面側の縁部が、前記共振器面よりレーザ素子の内側に位置しており、
前記保護膜が、前記共振器面から前記導電性基板の第2主面に接触するように形成されており、かつ、前記共振器面に接触する保護膜と前記導電性基板の第2主面に接触する保護膜との結晶構造が異なることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記保護膜が、前記共振器面から前記導電性基板の第2主面及び前記電極表面に接触するように形成されており、かつ、前記共振器面に接触する保護膜と前記電極表面に接触する保護膜との結晶構造が異なる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記導電性基板の第2主面に接触する保護膜と前記電極表面に接触する保護膜との結晶構造が異なる請求項2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記電極の側面側の縁部が、レーザ素子の内側に位置している請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記導電性基板は、窒化物基板である請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記導電性基板の第2主面は、N面(000−1)である請求項4に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記共振器面に接触する保護膜は、半値幅が2°以下である請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記保護膜は、六方晶系の結晶構造を有する材料で形成されてなる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記保護膜は、窒化物膜で形成されてなる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記保護膜は、共振器面と接触する側において、共振器面と同軸配向の結晶構造を有する請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記共振器面が、M面(1−100)、A面(11−20)、C面(0001)及びR面(1−102)からなる群から選ばれる面である請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記共振器面がM面(1−100)であり、かつ、共振器面に接触する保護膜は、共振器面と同軸配向であるM軸配向の結晶構造を有している請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記保護膜は、電極表面においてアモルファス構造である請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項14】
前記共振器面に接触する保護膜上に、第2保護膜がさらに積層されてなる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項15】
前記保護膜は、接触面積が500μm以上で基板の第2主面と接触する請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項16】
前記保護膜は、接触面積が500μm以上で電極と接触する請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−227002(P2008−227002A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60594(P2007−60594)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】