説明

窒化物半導体素子形成用ウエハ、窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法、窒化物半導体素子、および窒化物半導体素子の製造方法

【課題】製造工程の煩雑化を伴うことなく製造中におけるウエハの割れを防止すること。
【解決手段】窒化物半導体素子形成用ウエハは、基板の上に、下地層、第1導電型窒化物半導体層、活性層、および第2導電型窒化物半導体層が順に積層されて構成されている。基板は、窒化物半導体素子材料とは異なる材料からなる。また、下地層および/または第1導電型窒化物半導体層の膜厚は、基板の中央側と基板の周縁側とで異なっており、基板の周縁側からその基板の中央側へ向かうにつれて大きくても良いし、基板の周縁側からその基板の中央側へ向かうにつれて小さくても良い。窒化物半導体素子は、窒化物半導体素子形成用ウエハを用いて作製されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子を形成するためのウエハ(以下では単に「ウエハ」と記すことがある。)、ウエハの製造方法、ウエハを用いて作製された窒化物半導体素子、および窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物半導体素子を発光素子として用いた青色発光素子と蛍光体とを利用した白色発光装置が、大型液晶テレビのバックライトや照明用の光源等に用いられるようになりつつある。このような大型液晶テレビや照明等の製品には、一度に大量の白色発光装置を使用する。そのため、これらの製品に用いられる青色発光素子には、安価で大量生産できることが求められている。
【0003】
窒化物半導体素子は、一般に、基板の上面上に窒化物半導体層を積層してウエハを作製し、このウエハを任意のチップサイズに分割することにより形成されている。従来、基板には、基板の製造の困難性などの理由から、1〜2インチ程度のサイズのものが利用されていた。しかし、最近の技術革新により、3インチ以上のサイズの基板を定量的に供給できるようになってきている。4インチ以上の大口径の基板を用いてウエハを作製すれば、一度に大量の窒化物半導体素子を作製することができ、よって、窒化物半導体素子の製造コストの低下を図ることができる。そこで、4インチ以上の大口径の基板を用いてウエハを作製することが強く求められている。
【0004】
ところで、材料コストなどの理由から、基板には、窒化物半導体材料とは異なる材料(例えばサファイアやSiCなど)からなる基板を用いることが多い。そのため、基板材料の格子定数は窒化物半導体層材料の格子定数とは異なり、基板材料の熱膨張係数は窒化物半導体層材料の熱膨張係数とは異なる。よって、このような基板の上に窒化物半導体層を結晶成長させると、ウエハ全体に内部応力が発生する。この内部応力の発生に起因して、ウエハが反る、またはウエハ自体が割れるという不具合が発生する。この不具合は、基板のサイズが大きくなればなるほど顕著になり、窒化物半導体素子の歩留まり低下の要因の一つとなっている。つまり、4インチ以上の大口径の基板を用いてウエハを作製すれば、作製途中にウエハの反り、または/およびウエハの割れを招くおそれが高くなる。したがって、上記不具合の発生を抑制する方法が検討されている。
【0005】
例えば特許文献1には、基板として、窒化物半導体材料であるGaNまたはAlNを基板の裏面にあらかじめ堆積させたサファイア基板を用いることが記載されている。具体的には、まず、サファイア基板の裏面上に、GaN層またはAlN層を堆積させる。次に、サファイア基板の表面上に、MOVPE(有機金属気相成長法)により、2μm程度のGaNを堆積させた後、Al組成が10%〜30%であり厚さが30nm程度のAlGaN層を成長させる。これにより、サファイア基板の反り量を5μm程度に低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−116785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、基板材料の格子定数と窒化物半導体層材料の格子定数との大小関係に応じて、または基板材料の熱膨張係数と窒化物半導体層材料の熱膨張係数との大小関係に応じて、基板の裏面上に形成する膜の材料を決定する。また、基板表面への窒化物半導体層の積層工程に先立って、基板裏面への積層工程を要する。そのため、ウエハの製造工程が煩雑になる。これらのことから、特許文献1に記載の方法は実用的ではない。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、製造工程が煩雑になることなく、また、割れを伴うことなくウエハを製造することができ、よって、ウエハおよび窒化物半導体素子の製造歩留まりを大幅に改善可能なウエハ、ウエハの製造方法、窒化物半導体素子および窒化物半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の窒化物半導体素子形成用ウエハは、基板と、基板の上に設けられた下地層と、下地層の上に設けられた第1導電型窒化物半導体層と、第1導電型窒化物半導体層の上に設けられた活性層と、活性層の上に設けられた第2導電型窒化物半導体層とを備えている。基板は、窒化物半導体材料とは異なる材料からなる。下地層および/または第1導電型窒化物半導体層の膜厚は、基板の中央側と基板の周縁側とで異なる。
【0010】
下地層および/または第1導電型窒化物半導体層の膜厚は、それぞれ、基板の周縁側からその基板の中央側へ向かうにつれて厚くても良いし、基板の周縁側からその基板の中央側へ向かうにつれて薄くても良い。
【0011】
下地層が基板の中央側と基板の周縁側とで異なるとき、下地層の平均膜厚は9μm以下であることが好ましい。このとき、下地層の膜厚の最大値とその膜厚の最小値との差は0.8μm以下であることが好ましい。
【0012】
基板の口径は、4インチ以上であることが好ましい。
本発明は、本発明の窒化物半導体素子形成用ウエハを用いて製造された窒化物半導体素子にも関する。
【0013】
本発明は、窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法にも関する。この製造方法は、基板の上に下地層を形成する工程と、下地層の上に第1導電型窒化物半導体層を形成する工程と、第1導電型窒化物半導体層の上に活性層を形成する工程と、活性層の上に第2導電型窒化物半導体層を形成する工程とを備えている。基板としては、窒化物半導体材料とは異なる材料からなる基板を用い、膜厚が基板の中央側とその基板の周縁側とで異なるように下地層および/または第1導電型窒化物半導体層を形成する。
【0014】
膜厚が基板の周縁側からその基板の中央側へ向かうにつれて厚くなるように下地層および/または第1導電型窒化物半導体層を形成しても良い。
【0015】
下地層を形成する工程では、原料ガスとキャリアガスとを用いて下地層を形成することが好ましく、キャリアガスの流量または原料ガスの濃度を膜厚が基板の中央側とその基板の周縁側とで異なるように下地層を形成すれば良い。
【0016】
下地層を形成する工程では、膜厚が基板の中央側とその基板の周縁側とで異なるように下地層を形成することが好ましく、下地層の平均膜厚を9μm以下とすることが好ましい。このとき、下地層の膜厚の最大値とその膜厚の最小値との差を0.8μm以下とすることが好ましい。
【0017】
口径が4インチ以上の基板を用いて窒化物半導体素子形成用ウエハを製造することが好ましい。
【0018】
本発明は、本発明の窒化物半導体素子形成用ウエハを用いて窒化物半導体素子の製造方法にも関する。この製造方法は、第2導電型窒化物半導体層および活性層のそれぞれの一部分を除去して第1導電型窒化物半導体層の一部分を露出させる工程と、第1導電型窒化物半導体層の露出した表面の上に第1導電側の外部接続用電極を形成するとともに第2導電型窒化物半導体層の上に第2導電側の外部接続用電極を形成する工程と、下地層、第1導電型窒化物半導体層、活性層、および第2導電型窒化物半導体層が形成された基板を個片化する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、製造工程の煩雑化を招くことなく、またウエハの割れを伴うことなく、ウエハおよび窒化物半導体素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係るウエハの概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における下地層の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における下地層の他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る窒化物半導体素子の概略断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態における光学装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、図面を参照しながら、窒化物半導体素子として窒化物半導体からなる発光ダイオード素子(以下では単に「発光ダイオード素子」と記す)を例に挙げて、本発明の実施の形態を説明する。実施の形態1では、発光ダイオード素子を形成するためのウエハの構造およびその製造方法を説明する。実施の形態2では、発光ダイオード素子の構造、発光ダイオード素子の製造方法、発光ダイオード素子を備えた発光装置の構造、および発光装置の製造方法を説明する。
【0022】
なお、以下では、特許請求の範囲における「第1導電型」および「第2導電型」をそれぞれ「n型」および「p型」としているが、特許請求の範囲における「第1導電型」および「第2導電型」をそれぞれ「p型」および「n型」としても良い。
【0023】
また、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。また、本発明が以下に示す実施の形態に限定されないことは言うまでもない。
【0024】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係るウエハ20の概略断面図である。図2は本実施の形態における下地層3の一例を示す断面図であり、図3は本実施の形態における下地層3の他の一例を示す断面図である。本実施の形態では、図2および図3に示すように、下地層3の膜厚が基板1の中央側と基板1の周縁側とで異なる。
【0025】
(ウエハ20の構造)
本実施の形態に係るウエハ20は、基板1と、基板1の上面に接するように設けられ、アルミニウムを含有する窒化物半導体材料からなる中間層2と、中間層2の上面に接するように設けられ、窒化物半導体材料からなる下地層3と、下地層3の上面に接するように設けられ、n型窒化物半導体材料からなるn型コンタクト層4と、n型コンタクト層4の上面に接するように設けられ、n型窒化物半導体材料からなるn型クラッド層5と、n型クラッド層5の上面に接するように設けられ、窒化物半導体材料からなる活性層6と、活性層6の上面に接するように設けられ、p型窒化物半導体材料からなるp型クラッド層7と、p型クラッド層7の上面に接するように設けられ、p型窒化物半導体材料からなるp型コンタクト層8とを備えている。
【0026】
(基板1の構成)
基板1は、窒化物半導体材料とは異なる材料からなる。たとえば、基板1としては、a面、c面、m面またはr面などの露出面を有するサファイア(Al)単結晶、スピネル(MgAl)単結晶、ZnO単結晶、LiAlO単結晶、LiGaO単結晶、MgO単結晶、Si単結晶、SiC単結晶、GaAs単結晶、AlN単結晶、GaN単結晶またはZrBなどのホウ化物単結晶などからなる基板を用いることができる。
【0027】
基板1の成長面の面方位は特に限定されるものではない。基板1はジャスト基板やオフ角を付与した基板などを適宜用いることができる。なかでも、基板1の成長面の面方位はサファイア基板のc面であることが好ましい。これにより、結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなる中間層2を形成することができ、よって、結晶性に優れた中間層2を形成することができる。それだけでなく、基板1の成長面の口径が100mm(4インチ)、125mm(5インチ)、150mm(6インチ)と大きくなるほど、中間層2を構成する結晶粒の粒径の均一性を向上させるという効果が顕著に現れる。
【0028】
(中間層2の構成)
中間層2としては、たとえばAlx0Gay0N(0≦x0≦1、0≦y0≦1、x0+y0≠0)の式で表わされる窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層を用いることができる。なかでも、中間層2はAlN層であることが好ましい。これにより、基板1の成長面の法線方向に伸長するように中間層2が形成されるので、結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなる中間層2が得られる。
【0029】
中間層2の厚さは5nm以上100nm以下とすることが好ましい。中間層2の厚さが5nm未満である場合には、中間層2がバッファ層としての機能を十分に発揮しないおそれがある。また、中間層2の厚さが100nmを超える場合には、バッファ層としての機能が向上することなく中間層2の形成時間が長くなるおそれがある。また、バッファ層としての機能を面内において均一に発揮させるという観点からは、中間層2の厚さを10nm以上50nm以下とすることがより好ましい。
【0030】
(下地層3の構成)
下地層3としては、たとえばAlx1Gay1Inz1N(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦z1≦1、x1+y1+z1≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層を用いることができる。なかでも、下地層3は、III族元素としてGaを含むものであることが好ましい。これにより、転位などの結晶欠陥が中間層2に存在する場合であっても、中間層2中の転位を引き継がないようにして下地層3を形成することができる。詳細には、中間層2と下地層3との界面付近で転位をループさせる(または転位ループを発生させる)ことができれば、中間層2中の転位を引き継がないようにして下地層3を形成することができる。そして、下地層3がGaを含むIII族窒化物半導体材料からなる場合には、中間層2と下地層3との界面付近で転位がループされやすい。したがって、Gaを含むIII族窒化物半導体材料からなる下地層3を用いることによって、中間層2と下地層3との界面付近で転位をループさせて閉じ込めて、転位が中間層2から下地層3に引き継がれるのを抑えることができる。特に下地層3がAlx1Gay1N(0≦x1≦1、0≦y1≦1)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる場合、さらには下地層3がGaNからなる場合には、中間層2と下地層3との界面付近で転位をループさせて閉じ込めることができるため、転位密度が小さく結晶性に優れた下地層3が得られる。
【0031】
下地層3には、n型ドーパントが1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の範囲でドーピングされていてもよい。n型ドーパントとしては、たとえばシリコン、ゲルマニウムおよび錫などを用いることができ、なかでもシリコンおよび/またはゲルマニウムを用いることが好ましい。しかし、下地層3の良好な結晶性を維持するという観点からは、下地層3はアンドープであることが好ましい。
【0032】
下地層3は、基板1の材料と窒化物半導体材料(たとえば下地層3を構成する材料)とにおける格子定数および/または熱膨張係数の大小関係を考慮した上で、膜厚が基板1の中央側とその基板1の周縁側とで異なるように形成されている。これにより、格子定数の差および/または熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部分を下地層3の膜厚分布に起因するウエハ20の反りで打ち消すことができる。よって、製造中におけるウエハ20の反りを低減することができるので、製造中におけるウエハ20の割れを防止することができる。また、下地層3の膜厚分布を変更するだけで製造中におけるウエハ20の反りを低減できるので、窒化物半導体層などを基板1の下面へ積層する必要がない。以上より、製造工程の煩雑化を伴うことなく製造中におけるウエハ20の割れを防止できる。
【0033】
たとえば基板1の材料の熱膨張係数が窒化物半導体材料の熱膨張係数よりも大きい場合を考える。この場合、下地層3の形成後における降温時には、基板1の収縮量の方が下地層3の収縮量よりも大きい。これにより、製造途中のウエハは、熱膨張係数の差に起因して、図1における上側に凸となるように変形しようとする。
【0034】
しかし、図2に示すように下地層3を基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって厚く形成すると、上記降温時には、基板1の中央側における下地層3の収縮量は基板1の周縁側における下地層3の収縮量よりも大きくなる。よって、下地層3には、図2に示す矢印の方向に内部応力が発生する。これにより、製造途中のウエハは、下地層3の膜厚分布に起因して、図1における下側に凸となるように変形しようとする。
【0035】
以上をまとめると、製造途中のウエハは、上記降温時に、熱膨張係数の差に起因して図1における上側に凸に変形しようとする反面、下地層3の膜厚の差に起因して下側に凸に変形しようとする。よって、熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部を下地層3の膜厚分布に起因するウエハ20の反りで打ち消すことができる。したがって、ウエハ20の反りを軽減させることができるので、ウエハ20の割れを防止することができる。このことは、基板1の材料の格子定数が窒化物半導体材料の格子定数よりも小さい場合にも言える。また、下地層3を基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって段階的に厚く形成した場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0036】
なお、基板1の材料の熱膨張係数が窒化物半導体材料の熱膨張係数よりも大きい場合、または基板1の材料の格子定数が窒化物半導体材料の格子定数よりも小さい場合、下地層3だけでなく後述のn型コンタクト層4も基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって厚く形成しても良い。これにより、熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部は、下地層3の膜厚分布に起因するウエハ20の反りだけでなく、n型コンタクト層4の膜厚分布に起因するウエハ20の反りによっても打ち消されることとなる。よって、下地層3だけでなくn型コンタクト層4も基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって厚く形成すれば、ウエハ20の反りがさらに軽減されるので、ウエハ20の割れがさらに防止される。また、後述のn型コンタクト層4のみを基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって厚く形成しても、熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部がn型コンタクト層4の膜厚分布に起因するウエハ20の反りによって打ち消されるため、ウエハ20の反りが軽減され、よって、ウエハ20の割れが防止される。
【0037】
一方、基板1の材料の熱膨張係数が窒化物半導体材料の熱膨張係数よりも小さい場合には、製造途中のウエハは、下地層3の形成後における降温時に、熱膨張係数の差に起因して図1における下側に凸となるように変形しようとする。そのため、図3に示すように、膜厚が基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって薄くなるように下地層3を形成すれば良い。これにより、上記降温時、下地層3には、図3に示す矢印の方向に内部応力が発生する。よって、製造途中のウエハは、下地層3の膜厚分布に起因して、図1における上側に凸となるように変形しようとする。したがって、熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部を下地層3の膜厚分布に起因するウエハ20の反りで打ち消すことができる。よって、ウエハ20の反りを軽減させることができるので、ウエハ20の割れを防止することができる。このことは、基板1の材料の格子定数が窒化物半導体材料の格子定数よりも大きい場合にも言える。また、下地層3を基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって段階的に薄く形成した場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0038】
なお、基板1の材料の熱膨張係数が窒化物半導体材料の熱膨張係数よりも小さい場合、または基板1の材料の格子定数が窒化物半導体材料の格子定数よりも大きい場合、下地層3だけでなく後述のn型コンタクト層4も基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって薄く形成しても良い。これにより、熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部は、下地層3の膜厚分布に起因するウエハ20の反りだけでなく、n型コンタクト層4の膜厚分布に起因するウエハ20の反りによっても打ち消されることとなる。よって、下地層3だけでなくn型コンタクト層4も基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって薄く形成すれば、ウエハ20の反りがさらに軽減されるので、ウエハ20の割れがさらに防止される。また、後述のn型コンタクト層4のみを基板1の周縁側から基板1の中央側へ向かって薄く形成しても、熱膨張係数の差に起因するウエハ20の反りの少なくとも一部がn型コンタクト層4の膜厚分布に起因するウエハ20の反りによって打ち消されるため、ウエハ20の反りが軽減され、よって、ウエハ20の割れが防止される。
【0039】
基板1の口径が大きいほど、熱膨張係数の差および/または格子定数の差に起因するウエハ20の反りは顕著である。よって、本実施の形態に係るウエハ20は、基板1の口径が大きい場合たとえば基板1の口径が4インチ以上である場合に有効である。
【0040】
下地層3の平均膜厚は、9μm以下であることが好ましく、6μm以上9μm以下であればさらに好ましい。なお、下地層3の平均膜厚は、干渉膜厚計を用いたマッピング測定などの方法にしたがって測定される。
【0041】
下地層3の膜厚の最大値と下地層3の膜厚の最小値との差(以下では「下地層3の膜厚差」と記す。)は、0.2μm以上0.8μm以下であることが好ましい。下地層3の膜厚差が0.2μm未満であれば、下地層3の膜厚差に起因するウエハの反りが小さすぎるため、熱膨張係数の差または格子定数の差に起因するウエハの反りを下地層3の膜厚差に起因するウエハの反りで打ち消すことが難しくなる。そのため、ウエハの反りを低減できないことがある。逆に、下地層3の膜厚差が0.9μmを超えると、下地層3の膜厚差に起因するウエハの反りが大きすぎるため、下地層3の膜厚差に起因するウエハの反りが熱膨張係数の差または格子定数の差に起因するウエハの反りを勝ることがある。そのため、ウエハの反りが却って増大することがある。
【0042】
下地層3の平均膜厚が9μm以下好ましくは4.5μm以上7.5μm以下である場合には、下地層3の膜厚差を0.3μm以上0.8μm以下とすればよい。下地層3の膜厚差が0.3μm未満であれば、上述のようにウエハの反りを低減できないことがある。逆に、下地層3の膜厚差が0.8μmを超えると、上述のようにウエハの反りが却って増大することがある。下地層3の膜厚差の上限は、0.8μm以下であることが好ましい。
【0043】
(n型コンタクト層4の構成)
n型コンタクト層4としては、たとえば、Alx2Gay2Inz2N(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦z2≦1、x2+y2+z2≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層にn型ドーパントをドーピングした層などを用いることができる。なかでも、n型コンタクト層4は、Alx2Ga1−x2N(0≦x2≦1、好ましくは0≦x2≦0.5、より好ましくは0≦x2≦0.1)の式で表わされるIII族窒化物半導体にn型ドーパント(たとえばシリコン)がドーピングされた窒化物半導体層であることが好ましい。
【0044】
また、n型コンタクト層4とn側電極11との良好なオーミック接触の維持、n型コンタクト層4におけるクラックの発生の抑制およびn型コンタクト層4の良好な結晶性の維持の観点から、n型コンタクト層4へのn型ドーパントのドーピング濃度は5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲内であることが好ましい。
【0045】
下地層3とn型コンタクト層4との厚さの合計は、これらの層の良好な結晶性を維持するという観点から、4μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上15μm以下であることがより好ましく、6μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。下地層3とn型コンタクト層4との厚さの合計が4μm未満である場合には、これらの層の結晶性が悪化したり、これらの層の表面にピット(pit)が生じるおそれがある。一方、下地層3とn型コンタクト層4との厚さの合計が15μmを超える場合には、ウエハの反りが大きくなって、発光ダイオード素子の収率低下を招くおそれがある。下地層3とn型コンタクト層4との厚さの合計が4μm以上15μm以下である場合、特にその合計が6μm以上15μm以下である場合には、これらの層の結晶性を良好なものとすることができるとともに、ウエハの反りが小さくなって発光ダイオード素子の収率低下を有効に防止することができる。なお、これらの層の厚さの合計のうちn型コンタクト層4の厚さの上限は特に限定されるものではない。
【0046】
(n型クラッド層5の構成)
n型クラッド層5としては、たとえば、Alx3Gay3Inz3N(0≦x3≦1、0≦y3≦1、0≦z3≦1、x3+y3+z3≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層にn型ドーパントをドーピングした層などを用いることができる。n型クラッド層5は、III族窒化物半導体材料からなる複数の窒化物半導体層をヘテロ接合した構造や超格子構造であってもよい。また、n型クラッド層5の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.005μm以上0.5μm以下であり、より好ましくは0.005μm以上0.1μm以下である。n型クラッド層5の良好な結晶性の維持および発光ダイオード素子の動作電圧の低減という観点から、n型クラッド層5へのn型ドーパントのドーピング濃度は、1×1017cm−3以上1×1020cm−3以下であることが好ましく、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下であることがより好ましい。
【0047】
(活性層6の構成)
活性層6は、単一量子井戸(SQW)構造を有していても良いし、多重量子井戸(MQW)構造を有していても良い。活性層6が単一量子井戸構造を有する場合には、活性層6の量子井戸層として、たとえばGa1−z4Inz4N(0<z4<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層を用いることができる。また、活性層6の厚みは特に限定されないが、発光ダイオード素子の発光出力を向上させるという観点からは、1nm以上10nm以下であることが好ましく、1nm以上6nm以下であることがより好ましい。
【0048】
活性層6が多重量子井戸構造を有する場合、たとえば、量子井戸層6aとしてGa1−z4Inz4N(0<z4<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層を用い、量子障壁層6bとして量子井戸層6aよりもバンドギャップの大きいAlx5Gay5Inz5N(0≦x5≦1、0≦y5≦1、0≦z5≦1、x5+y5+z5≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層を用いることもできる。なお、上記の量子井戸層6aおよび/または量子障壁層6bにはn型またはp型のドーパントがドーピングされていてもよい。
【0049】
(p型クラッド層7の構成)
p型クラッド層7としては、たとえばAlx6Gay6Inz6N(0≦x6≦1、0≦y6≦1、0≦z6≦1、x6+y6+z6≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層にp型ドーパントをドーピングした層などを用いることができる。なかでも、p型クラッド層7としては、Alx6Ga1−x6N(0<x6≦0.4、好ましくは0.1≦x6≦0.3)の式で表わされるIII族窒化物半導体材料からなる窒化物半導体層にp型ドーパントをドーピングした層を用いることが好ましい。p型ドーパントとしては、たとえばマグネシウムなどを用いることができる。
【0050】
p型クラッド層7のバンドギャップは、活性層6への光の閉じ込めという観点から、活性層6のバンドギャップよりも大きくすることが好ましい。また、p型クラッド層7の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上0.4μm以下であり、より好ましくは0.02μm以上0.1μm以下である。良好な結晶性のp型クラッド層7を得るという観点からは、p型クラッド層7へのp型ドーパントのドーピング濃度は、1×1018cm−3以上1×1021cm−3以下であることが好ましく、1×1019cm−3以上1×1020cm−3以下であることがより好ましい。
【0051】
(p型コンタクト層8の構成)
p型コンタクト層8としては、たとえばAlx7Gay7Inz7N(0≦x7≦1、0≦y7≦1、0≦z7≦1、x7+y7+z7≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる窒化物半導体層にp型ドーパントをドーピングした層などを用いることができる。なかでも、p型コンタクト層8の良好な結晶性の維持およびp型コンタクト層8とp側電極10との良好なオーミック接触を得るという観点からは、p型コンタクト層8はGaN層にp型ドーパントをドーピングした層であることが好ましい。
【0052】
p型コンタクト層8とp側電極10との良好なオーミック接触の維持、p型コンタクト層8におけるクラックの発生の抑制およびp型コンタクト層8の良好な結晶性の維持という観点からは、p型コンタクト層8へのp型ドーパントのドーピング濃度は、1×1018cm−3以上1×1021cm−3以下の範囲内であることが好ましく、5×1019cm−3以上5×1020cm−3以下の範囲内であることがより好ましい。また、p型コンタクト層8の厚さは特に限定されるものではない。発光ダイオード素子100の発光出力を向上させるという観点からは、p型コンタクト層8の厚さは、0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.2μm以下であることがより好ましい。
【0053】
(ウエハ20の製造方法)
以下では、ウエハ20の製造方法を示す。なお、基板1、中間層2、下地層3、n型コンタクト層4、n型クラッド層5、活性層6、p型クラッド層7およびp型コンタクト層8の各材料および各膜厚などは、上述の通りである。
【0054】
(中間層2の形成方法)
基板1の上面上に中間層2を形成する。ここで、中間層2は、基板1とターゲットとの間にDC−continuous方式により電圧を印加して行なわれるDCマグネトロンスパッタ法によって形成される。
【0055】
(下地層3の形成方法)
MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって、中間層2の上面上に下地層3を形成する。
【0056】
このとき、中間層2の上面を熱処理してから、その上面上に下地層3を積層しても良い。この熱処理によって、中間層2の表面の清浄化と下地層3の結晶性の向上との両方を図ることができる。この熱処理は、たとえばMOCVD法が用いられるMOCVD装置内で行なうことができる。熱処理時の雰囲気ガスとしては、たとえば水素ガスや窒素ガスなどを用いることができる。なお、この熱処理時における中間層2の分解を防ぐために、熱処理時の雰囲気ガスにアンモニアガスを混合してもよい。また、この熱処理は、たとえば900℃以上1250℃以下の温度で行なうことができ、たとえば1分間以上60分間以下の時間行なうことができる。
【0057】
また、下地層3の形成時における基板1の温度は800℃以上1250℃以下であることが好ましく、1000℃以上1250℃以下であることがより好ましい。その温度が800℃以上1250℃以下である場合、特にその温度が1000℃以上1250℃以下である場合には、結晶性に優れた下地層3を成長させることができる。
【0058】
さらには、膜厚が基板1の中央側と基板1の周縁側とで異なるように下地層3を形成する。具体的には、TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)またはNH(アンモニア)などの原料ガスの濃度を基板1の中央側と基板1の周縁側とで変えれば良い。具体的には、キャリアガスの流量を制御しても良いし、基板1上へ供給されるTMGの量を基板1の中央側と基板1の周縁側とで変えても良い。
【0059】
たとえば、多量のキャリアガスをMOCVD装置の反応炉内に供給しながら下地層3を形成すると、キャリアガスは勢い良く反応炉内に供給される。これにより、反応炉の排出口に近い側(基板1の周縁側)では、ガスがそれほど滞留することなく反応炉の外へ排出される。よって、図2に示す下地層3が形成される。たとえば、基板1の口径が4インチ以上である場合、キャリアガスの流量を200slmよりも多くすれば良く、250slm以上とすればさらに好ましい。
【0060】
また、基板1の周縁側に供給される原料ガスの量を基板1の中央側に供給される原料ガスの量より少なくしても、図2に示す下地層3を形成することができる。逆に、基板1の周縁側に供給される原料ガスの量を基板1の中央側に供給される原料ガスの量より多くすると、図3に示す下地層3を形成することができる。下地層3の膜厚は原料ガスの濃度に比例すると考えられるため、所望の膜厚差が得られるように原料ガスの濃度差を設定すれば良い。なお、MOCVD装置の反応炉内の圧力が低い方が、反応炉内における原料ガスおよびキャリアガスなどのスピードが速くなるので、下地層3の膜厚が均一になりやすい。この点も考慮に入れて下地層3の形成条件を決めればよい。
【0061】
(n型コンタクト層4、n型クラッド層5、活性層6、p型クラッド層7、p型コンタクト層8の形成方法)
MOCVD法によって、下地層3の上面上に、n型コンタクト層4、n型クラッド層5、活性層6、p型クラッド層7およびp型コンタクト層8をこの順に積層する。
【0062】
具体的には、MOCVD装置の反応炉の内部に、たとえばトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)およびトリメチルインジウム(TMI)からなる群から選択された少なくとも1つのIII族元素の有機金属原料ガスと、たとえばアンモニアなどの窒素原料ガスとを供給する。反応炉の内部においてこれらのガスを熱分解させて反応させる。これにより、III族窒化物半導体材料からなるn型コンタクト層4などを形成することができる。
【0063】
また、n型ドーパントであるシリコンをドーピングする場合には、MOCVD装置の反応炉の内部に、たとえばシラン(SiH)をドーピングガスとして上記の原料ガスに加えて供給することにより、シリコンをドーピングすることが可能である。
【0064】
また、p型ドーパントであるマグネシウムをドーピングする場合には、MOCVD装置の反応炉の内部に、たとえばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CPMg)をドーピングガスとして上記の原料ガスに加えて供給することにより、マグネシウムをドーピングすることが可能である。
【0065】
ここで、活性層6を形成するときには、基板1の温度は700℃以上900℃以下であることが好ましく、750℃以上850℃以下であることがより好ましい。詳細には、活性層6が単一量子井戸(SQW)構造からなり、その量子井戸層がたとえばGa1−z4Inz4N(0<z4<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる窒化物半導体層からなる場合には、活性層6からの出力波長が所望の発光波長となるように、活性層6のIn組成や厚さが制御される。しかしながら、活性層6の形成時における基板1の温度が低いと、活性層6の結晶性が悪化するおそれがある。活性層6の形成時における基板1の温度が高いと、InNの昇華が顕著になって固相中へのInの取り込まれ効率が低減して活性層6におけるIn組成が変動するおそれがある。よって、活性層6を形成するときには、基板1の温度を700℃以上900℃以下とすることが好ましい。
【0066】
<実施の形態2>
実施の形態2に係る発光ダイオード素子は、上記実施の形態1に係るウエハを用いて作製される。また、本実施の形態における光学装置は、本実施の形態に係る発光ダイオード素子を備えている。
【0067】
図4は、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100の概略断面図である。図5は本実施の形態における発光装置200の概略断面図である。
【0068】
(発光ダイオード素子100の構成)
発光ダイオード素子100は、n型コンタクト層4の一部分が露出するように上記実施の形態1に係るウエハ20(図1参照)がエッチングされたものであり、さらに、p型コンタクト層8の上面に接するように設けられた透光性電極層9と、透光性電極層9の上面に接するように設けられたp側電極10と、n型コンタクト層4の露出表面に接するように設けられたn側電極11とを備えている。
【0069】
透光性電極層9は、たとえば金、パラジウム、ニッケルまたはITO(Indium Tin Oxide)からなる。
【0070】
p側電極10およびn側電極11は、発光ダイオード素子100に駆動電力を供給するための電極である。p側電極10は、たとえばチタン層、アルミニウム層および金層がこの順序で積層されて構成されている。n側電極11は、たとえばニッケル層、アルミニウム層、チタン層および金層がこの順序で積層されて構成されている。
【0071】
(発光ダイオード素子100の製造方法)
以下では、発光ダイオード素子100の製造方法を示す。なお、透光性電極層9、p側電極10およびn側電極11の各材料などは上述の通りである。
【0072】
まず、上記実施の形態1におけるウエハ20のp型コンタクト層8の上面上に透光性電極層9を形成してから、透光性電極層9の上面上にp側電極10を形成する。その後、n型コンタクト層4、n型クラッド層5、活性層6、p型クラッド層7およびp型コンタクト層8の一部分をエッチングにより除去することによって、n型コンタクト層4の表面の一部を露出させる。
【0073】
次に、n型コンタクト層4の露出した表面上にn側電極11を形成する。その後、ウエハ20を個片化する。これにより、発光ダイオード素子100が製造される。
【0074】
このように、発光ダイオード素子100は、上記実施の形態1に係るウエハ20を用いて製造される。よって、ウエハ20の割れを招くことなく発光ダイオード素子100を製造することができる。また、発光ダイオード素子100の製造工程の煩雑化を伴うことなく、発光ダイオード素子100を製造することができる。これらのことから、発光ダイオード素子100の製造歩留まりの低下を防止できる。
【0075】
なお、透光性電極層9を形成する前に、n型コンタクト層4などの一部分をエッチングにより除去しても良い。
【0076】
また、n型コンタクト層4などの一部分をエッチングする具体的な方法は、特に限定されず、後述の実施例で示すようにドライエッチングであっても良いし、ウエットエッチングであっても良い。
【0077】
また、ウエハ20の個片化は、n側電極11の形成後に限定されず、たとえば透光性電極層9の形成前に行なっても良い。
【0078】
(発光装置200の構成)
本実施の形態における発光装置200は、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100と、発光ダイオード素子100が設けられた第1のリードフレーム12と、発光ダイオード素子100を封止する樹脂13と、発光ダイオード素子100が電気的に接続される第2のリードフレーム14と、発光ダイオード素子100のp側電極10と第1のリードフレーム12とを電気的に接続する第1のワイヤ45と、発光ダイオード素子100のn側電極11と第2のリードフレーム14とを電気的に接続する第2のワイヤ44とを備えている。
【0079】
第1のリードフレーム12および第2のリードフレーム14は、導電性を有する材料からなれば良く、たとえば銅合金などの金属材料からなる。樹脂13は、発光ダイオード素子100が発する光を透過可能な材料からなれば良く、たとえばエポキシ樹脂からなる。第1のワイヤ45および第2のワイヤ44は、導電性細線であれば良く、たとえば金属細線である。
【0080】
(発光装置200の製造方法)
以下では、発光装置200の製造方法を示す。なお、第1のリードフレーム12、樹脂13、第2のリードフレーム14、第1のワイヤ45および第2のワイヤ44の各材料などは上述の通りである。
【0081】
まず、第1のリードフレーム12の上面上に本実施の形態に係る発光ダイオード素子100を設ける。次に、第1のワイヤ45を用いて発光ダイオード素子100のp側電極10と第1のリードフレーム12とを電気的に接続し、第2のワイヤ44を用いて発光ダイオード素子100のn側電極11と第2のリードフレーム14とを電気的に接続する。続いて、樹脂13で発光ダイオード素子100を封止する。これにより、砲弾型の発光装置200が製造される。
【0082】
このように、発光装置200は、本実施の形態に係る発光ダイオード素子100を備えている。よって、発光装置200の製造歩留まりの低下を防止できる。
【実施例】
【0083】
以下では、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1および比較例では、ウエハを作製し、作製したウエハの反りの有無を確認した。実施例2では、実施例1で作製したウエハのうち反りが確認されなかったウエハを用いて発光ダイオード素子を作製した。
【0084】
<実施例1>
(ウエハの製造方法)
(AlNバッファ層の形成方法)
まず、基板として口径が4インチのサファイア基板を準備し、サファイア基板のc面がAlターゲットの表面に対向するようにサファイア基板をDCマグネトロンスパッタ装置のチャンバ内に配置した。次に、ヒータによりサファイア基板を500℃の温度に加熱した。続いて、DC−continuous方式により電圧を印加して行なわれるDCマグネトロンスパッタ法を用いた反応性スパッタにより、サファイア基板のc面上に窒化アルミニウム(AlN)の柱状結晶の集合体からなる厚さ25nmのAlNバッファ層を積層した。これにより、AlNバッファ層からなる中間層がサファイア基板のc面上に形成された。
【0085】
(アンドープGaN層の形成)
まず、AlNバッファ層が形成されたサファイア基板をMOCVD装置の反応炉の内部に設置した。ここで、上記サファイア基板を高周波誘導加熱式ヒータで加熱するため、当該サファイア基板をグラファイト製のサセプタ上に設置した。なお、上記サファイア基板を抵抗加熱式ヒータで加熱する場合には、当該サファイア基板をグラファイト製のサセプタ上に設置された石英製のトレイ上に設置すればよい。
【0086】
次に、反応炉の内部にアンモニアガスを供給しながらキャリアガスとして窒素ガスおよび水素ガスを反応炉の内部に供給した状態で、サファイア基板の温度を約15分間かけて1125℃まで上昇させた。ここで、反応炉の内部の圧力を40kPaとし、キャリアガスである水素ガスと窒素ガスの流量比(水素ガスの流量/窒素ガスの流量)を50/50とした。そして、サファイア基板の温度が1125℃で安定したことを確認した後、反応炉の内部へTMGガスの供給を開始した。これにより、厚さ5μmのアンドープGaN層からなる下地層がAlNバッファ層の表面上に積層された。なお、アンモニアガスは、III族元素に対するV族元素のモル比(V族元素のモル数/III族元素のモル数)が1500となるように、反応炉の内部に供給された。
【0087】
ここで、実施例1では、サファイア基板上を流れるキャリアガスの流量(キャリアガスの流量とは、水素ガスの流量と窒素ガスの流量との合計量である。)を600slmとしてアンドープGaN層を積層した。
【0088】
(Siドープn型GaNコンタクト層の形成)
窒素ガス、水素ガス、アンモニアガスおよびTMGガスの供給を継続した状態でサファイア基板の温度を1125℃とし、Siのドーピング濃度が1×1019cm−3となるようにシランガスを反応炉の内部に供給した。これにより、厚さ3μmのSiドープn型GaNコンタクト層からなるn型コンタクト層がMOCVD法によりアンドープGaN層の上面上に形成された。
【0089】
(Siドープn型In0.01Ga0.99N障壁層の形成)
窒素ガスの供給を継続する一方、TMGガス、アンモニアガス、水素ガスおよびシランガスの供給を停止した。その後に、サファイア基板の温度を800℃に低下させた。反応炉の内部の状態が安定したことを確認した後に、原料ガスとしてのTMGガス、TMIガスおよびアンモニアガスを反応炉の内部に供給し、さらにはSiのドーピング濃度が1×1018cm−3となるようにシランガスを反応炉の内部に供給した。これにより、厚さ8nmのSiドープn型In0.01Ga0.99N障壁層からなるn型クラッド層がSiドープn型GaNコンタクト層の上面上に形成された。
【0090】
(MQW活性層の形成)
シランガスの供給を停止する一方、TMGガス、TMIガス、アンモニアガスおよび窒素ガスの供給を継続した。これにより、In0.1Ga0.9Nからなる量子井戸層を3nmの厚さに積層した。
【0091】
以上のような量子障壁層(Siドープn型In0.01Ga0.99N障壁層)と量子井戸層との形成手順を繰り返すことによって、7層のn型GaNからなる量子障壁層と6層のIn0.1Ga0.9Nからなる量子井戸層とが1層ずつ交互に積層された多重量子井戸構造のMQW活性層をSiドープn型In0.01Ga0.99N障壁層の上面上に積層した。
【0092】
(Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nクラッド層の形成)
TMGガスおよびTMIガスの供給を停止してからアンモニアガスの供給を継続させた状態で、サファイア基板の温度を1100℃まで上昇させた。また、キャリアガスを窒素ガスから水素ガスに変更した。そして、2分間にわたって、TMGガス、TMAガスおよびCPMgガスを反応炉の内部に供給した。これにより、厚さ20nmのMgドープp型Al0.2Ga0.8Nクラッド層からなるp型クラッド層がMQW活性層の上面上に積層された。
【0093】
(Mgドープp型GaNコンタクト層の形成)
サファイア基板の温度を1100℃に保持してから、TMAガスの供給のみを停止した。その後、反応炉の内部へのTMGガスとCPMgガスとの供給量を変更することによって、厚さ0.2μmのMgドープp型GaNコンタクト層からなるp型コンタクト層がMgドープp型Al0.2Ga0.8Nクラッド層の上面上に積層した。これにより、実施例1におけるウエハが作製された。
【0094】
その後、直ちにヒータへの通電を停止するとともに、TMGガス、CPMgガスおよびアンモニアガスの供給を停止して、反応炉の内部に供給されるキャリアガスを水素ガスから窒素ガスに変更した。そして、サファイア基板の温度が300℃以下になったことを確認して、ウエハを反応炉から取り出した。
【0095】
<比較例>
比較例では、アンドープGaN層を形成するときのキャリアガスの流量を500slmとすること以外を除いては上記実施例1と同様の方法に従って、ウエハを作製した。
【0096】
(ウエハの割れの有無)
反応炉から取り出したウエハを視認したところ、比較例では8割以上のウエハが割れていたが、実施例1では3割前後のウエハが割れているに過ぎなかった。割れが発生したウエハでは、オリエンテーションフラットの中心からオリエンテーションフラットに対して垂直に割れていた。
【0097】
(考察)
比較例では、キャリアガスの流量が相対的に少ない(200slm)。そのため、サファイア基板の周縁側において原料ガスの滞留を防止することは難しいと考えられ、アンドープGaN層の膜厚差は0.1μmであった。よって、アンドープGaN層の膜厚分布に起因するウエハの反りが小さいため、格子定数の差または熱膨張係数の差に起因するウエハの反りをアンドープGaN層の膜厚分布に起因するウエハの反りで打ち消すことが難しい。したがって、ウエハが割れる確率が高かったと考えられる。
【0098】
一方、実施例1では、キャリアガスの流量が相対的に多い(300slm)。そのため、サファイア基板の周縁側における原料ガスの滞留が防止されると考えられ、図2に示すアンドープGaN層が形成された。アンドープGaN層の膜厚差は0.4μmであった。ここで、サファイアの熱膨張係数はアンドープGaNの熱膨張係数よりも大きい。よって、熱膨張係数の差または格子定数の差に起因するウエハの反りの少なくとも一部分をアンドープGaN層の膜厚分布に起因するウエハの反りで打ち消すことができる。したがって、ウエハが割れる確率が低かったと考えられる。
【0099】
<実施例2>
実施例2では、実施例1において反りや割れが確認されなかったウエハを用いて発光ダイオード素子を作製した。
【0100】
ITO層からなる透光性電極層をMgドープp型GaNコンタクト層の上面上に形成した。その後、ITO層の上面上に、チタン層、アルミニウム層および金層をこの順序で積層した。これにより、ITO層の上面上にp側電極が形成された。
【0101】
p側電極を形成してから、積層体の一部をドライエッチングにより除去した。これにより、Siドープn型GaNコンタクト層の表面の一部を露出させた。
【0102】
Siドープn型GaNコンタクト層の露出した表面上に、ニッケル層、アルミニウム層、チタン層および金層をこの順序で積層した。これにより、Siドープn型GaNコンタクト層の露出面上にn側電極が形成された。
【0103】
そして、サファイア基板の裏面を研削および研磨してミラー状の面とした後に、サファイア基板を350μm角の正方形状のチップに分割した。これにより、本実施例に係る発光ダイオード素子を作製した。作製された発光ダイオード素子に外部電圧を印加したところ、何れの発光ダイオード素子も発光した。また、発光強度は、発光ダイオード素子として使用可能な強度以上であった。
【0104】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、III族窒化物半導体を用いた窒化物半導体発光ダイオード素子、窒化物半導体レーザ素子および窒化物半導体トランジスタ素子などの製造に好適に利用することができる可能性がある。
【符号の説明】
【0106】
1 基板、2 中間層、3 下地層、4 n型コンタクト層、5 n型クラッド層、6 活性層、7 p型クラッド層、8 p型コンタクト層、9 透光性電極層、10 p側電極、11 n側電極、20 ウエハ、100 窒化物半導体素子、200 発光装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体素子を形成するためのウエハであって、
基板と、
前記基板の上に設けられた下地層と、
前記下地層の上に設けられた第1導電型窒化物半導体層と、
前記第1導電型窒化物半導体層の上に設けられた活性層と、
前記活性層の上に設けられた第2導電型窒化物半導体層とを備え、
前記基板は、窒化物半導体材料とは異なる材料からなり、
前記下地層および/または前記第1導電型窒化物半導体層の膜厚は、前記基板の中央側と当該基板の周縁側とで異なる窒化物半導体素子形成用ウエハ。
【請求項2】
前記下地層および/または前記第1導電型窒化物半導体層の膜厚は、前記基板の周縁側から当該基板の中央側へ向かうにつれて厚くなる請求項1に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハ。
【請求項3】
前記下地層の膜厚は、前記基板の中央側と当該基板の周縁側とで異なり、
前記下地層の平均膜厚は、9μm以下である請求項1または2に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハ。
【請求項4】
前記下地層の膜厚の最大値と当該膜厚の最小値との差は、0.8μm以下である請求項3に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハ。
【請求項5】
前記基板の口径は、4インチ以上である請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物半導体素子形成用ウエハ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の窒化物半導体素子形成用ウエハを用いて製造された窒化物半導体素子。
【請求項7】
窒化物半導体素子を形成するためのウエハを製造する方法であって、
基板の上に、下地層を形成する工程と、
前記下地層の上に、第1導電型窒化物半導体層を形成する工程と、
前記第1導電型窒化物半導体層の上に、活性層を形成する工程と、
前記活性層の上に、第2導電型窒化物半導体層を形成する工程とを備え、
前記基板として、窒化物半導体材料とは異なる材料からなる基板を用い、
膜厚が前記基板の中央側と当該基板の周縁側とで異なるように前記下地層および/または前記第1導電型窒化物半導体層を形成する窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項8】
膜厚が前記基板の周縁側から当該基板の中央側へ向かうにつれて厚くなるように前記下地層および/または前記第1導電型窒化物半導体層を形成する請求項7に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項9】
前記下地層を形成する工程では、
原料ガスとキャリアガスとを用いて前記下地層を形成し、
前記キャリアガスの流量を制御して膜厚が前記基板の中央側と当該基板の周縁側とで異なるように当該下地層を形成する請求項7または8に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項10】
前記下地層を形成する工程では、
原料ガスとキャリアガスとを用いて前記下地層を形成し、
前記原料ガスの濃度を制御して膜厚が前記基板の中央側と当該基板の周縁側とで異なるように当該下地層を形成する請求項7または8に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項11】
前記下地層を形成する工程では、
膜厚が前記基板の中央側と当該基板の周縁側とで異なるように前記下地層を形成し、 前記下地層の平均膜厚を9μm以下とする請求項7〜10のいずれかに記載の窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項12】
前記下地層を形成する工程では、前記下地層の膜厚の最大値と当該膜厚の最小値との差を0.8μm以下とする請求項11に記載の窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項13】
前記基板として、口径が4インチ以上の基板を用いる請求項7〜12のいずれかに記載の窒化物半導体素子形成用ウエハの製造方法。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の方法によって作製された窒化物半導体素子形成用ウエハを用いて窒化物半導体素子を製造する方法であって、
前記第2導電型窒化物半導体層および前記活性層のそれぞれの一部分を除去して、前記第1導電型窒化物半導体層の一部分を露出させる工程と、
前記第1導電型窒化物半導体層の露出した表面の上に第1導電側の外部接続用電極を形成し、前記第2導電型窒化物半導体層の上に第2導電側の外部接続用電極を形成する工程と、
前記下地層、前記第1導電型窒化物半導体層、前記活性層、および前記第2導電型窒化物半導体層が形成された基板を個片化する工程とを備えている窒化物半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−227479(P2012−227479A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96215(P2011−96215)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】