説明

窒化物半導体素子

【課題】ノーマリオフ特性を有する低オン抵抗で高耐圧の窒化物半導体素子を提供する。
【解決手段】基板上に設けられた第1導電型の窒化物半導体からなる第1半導体層5と、前記第1半導体層の上に設けられ、前記第1半導体層のシートキャリア濃度と同量のシートキャリア濃度を有する第2導電型の窒化物半導体からなる第2半導体層6と、を備える。前記第2半導体層の上には、前記第2半導体層よりも禁制帯幅が広い窒化物半導体からなる第3半導体層7が設けられる。前記第2半導体層に電気的に接続された第1主電極10と、前記第1主電極と離間して設けられ、前記第2半導体層に電気的に接続された第2主電極20と、をさらに備え、前記第1主電極と前記第2主電極との間において、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達する第1のトレンチの内部に絶縁膜33を介して設けられた制御電極30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源やインバータ等に用いられる電力制御用素子(パワー半導体素子)には、高耐圧、低抵抗特性が要求される。半導体素子の耐圧特性と出力特性には、素子の材料の物性により決定されるトレードオフ関係が存在する。これまでパワー半導体素子の材料にはシリコンが使用されてきた。長年にわたる技術開発により、パワー半導体素子の高耐圧、低抵抗特性は、シリコンの材料特性によって制限される限界まで到達しつつある。そこで、この限界を超えるために、炭化シリコン(SiC)や窒化物半導体などの、シリコンに代わる新しい材料を用いた素子の開発が行われている。
【0003】
例えば、窒化物半導体である窒化ガリウム(GaN)と、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)と、を積層したヘテロ接合を形成すると、その界面に2次元電子ガス(2DEG)が発生することが知られている。この2DEGは、シートキャリア濃度が1×1013cm−2、移動度が1000cm/Vs以上という特性を有している。これをチャネルとして利用する電界効果型トランジスタHFET(Hetero-structure Field Effect Transistor)は、高耐圧、低オン抵抗の特性を有し、窒化物半導体の特徴を最大限に引き出せるデバイスとして注目されている。
【0004】
しかしながら、2DEGを用いるHFETは、ゲート電圧を印加しない時にソースドレイン間に電流が流れるノーマリオン素子である。回路の安全性や消費電力の低減を考慮すれば、ノーマリオフ素子であることが好ましい。特に、電力制御に使用されるパワー半導体素子では、ノーマリオフ素子であることが安全上必須の要請であり、ノーマリオフ特性を有する窒化物半導体素子が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Kambayashi, Y.Satoh, Y.Niiyama, T.Kokawa, M.Iwami, T.Nomura, S.Kato et al. Proceedings of the 21st International Symposium on Power Semiconductor Devices & IC’2, June (2009) pp 21-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、ノーマリオフ特性を有する低オン抵抗で高耐圧の窒化物半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施態様の窒化物半導体素子は、基板上に設けられた第1導電型の窒化物半導体からなる第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられ、前記第1半導体層のシートキャリア濃度と同量のシートキャリア濃度を有する第2導電型の窒化物半導体からなる第2半導体層と、を備える。前記第2半導体層の上には、前記第2半導体層よりも禁制帯幅が広い窒化物半導体からなる第3半導体層が設けられる。前記第2半導体層に電気的に接続された第1主電極と、前記第1主電極と離間して設けられ、前記第2半導体層に電気的に接続された第2主電極と、をさらに備え、前記第1主電極と前記第2主電極との間において、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達する第1のトレンチの内部に絶縁膜を介して設けられた制御電極を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る窒化物半導体素子の断面を示す模式図である。
【図2】第1実施形態の変形例に係る窒化物半導体素子の断面を示す模式図である。
【図3】第2実施形態に係る窒化物半導体素子の断面を示す模式図である。
【図4】第3実施形態に係る窒化物半導体素子の断面を示す模式図である。
【図5】第3実施形態の変形例に係る窒化物半導体素子の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、図面中の同一部分には同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について適宜説明する。なお、第1導電型をp形、第2導電型をn形として説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る窒化物半導体素子100の断面を模式的に示している。
窒化物半導体素子100は、基板2の上に設けられた第1半導体層であるp形GaN層5と、p形GaN層5の上に設けられた第2半導体層であるn形GaN層6と、n形GaN層6の上に設けられた第3半導体層であるn形AlGaN層7と、を備えている。
【0011】
第1半導体層であるp形GaN層5のシートキャリア濃度と、第2半導体層であるn形GaN層6のシートキャリア濃度とは、ほぼ同量である。
ここで、シートキャリア濃度が同量とは、厳密に等しいことを意味するのではなく、例えば、p形GaN層5とn形GaN層6とが空乏化した時、p形GaN層5のマイナスチャージとn形GaN層6のプラスチャージとが相殺して、擬似的に低濃度層と見なせる状態をいう。
【0012】
第3半導体層は、第2半導体層よりも禁制帯幅が広い。例えば、第2半導体層がGaN層である場合には、第3半導体層としてAlGaN層、InAlN層などを用いることができる。
【0013】
さらに、第3半導体層であるn形AlGaN層7の上には、第1の主電極であるソース電極10および第2の主電極であるドレイン電極20が、相互に離間して設けられている。ソース電極10およびドレイン電極20は、n形GaN層6に電気的に接続されている。
【0014】
ソース電極10とドレイン電極20との間には、n形AlGaN層7およびn形GaN層6を貫通してp形GaN層5に達する第1のトレンチが設けられている。
第1のトレンチは、図1中に示すトレンチ31であり、トレンチ31の内部には、制御電極であるゲート電極30がゲート絶縁膜33を介して設けられている。
【0015】
本実施形態に係る窒化物半導体素子100は、例えば、ソース電極10を接地してドレイン電極20にプラス電圧を印加した状態で、ゲート電極30にゲート電圧を印加して、ドレイン電極20とソース電極10との間を流れるドレイン電流を制御する。
【0016】
図1に示すように、ドレイン電流が流れるチャネル層であるn形GaN層6は、ドレイン電極20とソース電極10との間に設けられたトレンチ31により分断されている。さらに、ソース電極10を接地してドレイン電極20にプラス電圧を印加した場合、p形GaN層5とn形GaN層6との間のpn接合は、ゲートドレイン間において逆バイアスとなり電流を流さない。
【0017】
したがって、ゲート電極30にプラスのゲート電圧を印加し、p形GaN層5とゲート絶縁膜33との界面に反転チャネルを形成することにより、ドレイン電極20からソース電極10へドレイン電流を流すことができる。すなわち、本実施形態に係る窒化物半導体素子100では、ノーマリオフの動作が実現される。
【0018】
窒化物半導体を材料とするHFETのノーマリオフ化については、いくつかの手法が知られている。例えば、ゲート電極下のバリア層をエッチングして薄膜化した、所謂リセス構造を形成する方法である。しかしながら、この方法を用いてノーマリオフ化したHFETの閾値電圧は0Vを大きく上回ることはなく、ノーマリオフ素子であっても実用的な素子とは言えない。特に、電力制御用に用いられるトランジスタには、回路の安全性を高めるためのマージンが必要であり、+3V以上の閾値電圧が要求される。
【0019】
そこで、AlGaN/GaN系のヘテロ構造を用いるHFETにおいて、ゲート電極下のAlGaN層をエッチングにより完全に除去し、AlGaN/GaN界面の2次元電子ガス(2DEG)を分断したデバイス構造が検討されてきた。これらのデバイス構造は、ゲートドレイン間およびソースゲート間のAlGaN/GaN界面に存在する2DEGを活かしつつ、ゲート絶縁膜とGaN層との界面のチャネルによりドレイン電流を制御するため、ハイブリッド構造などと呼ばれている。
【0020】
このハイブリッド構造の利点の一つは、リセス構造に比べて閾値電圧を高くすることが出来ることである。また、AlGaN層の膜厚で閾値電圧を調整するリセス構造に比べて、閾値電圧のばらつきが小さいという利点もある。しかし、ゲート電圧によってn形GaNとゲート絶縁膜との間のチャネルを制御する構成を採る限り、閾値電圧を+3V以上とすることが難しいという問題がある。
【0021】
そこで、例えば、非特許文献1に開示されたHFETのように、p形GaN層とゲート絶縁膜との間の反転チャネルを用いるデバイス構造が検討されている。これらのHFETでは閾値電圧の向上が確認されており、その将来性が期待されているが、一方で、p形GaN層に起因する特性劣化も懸念されている。
【0022】
一つは、p形GaN層を高抵抗のバッファー層上に設けることによるゲートドレイン間の耐圧低下である。さらに、p形GaN層からチャネル層(n形GaN層)へのMg拡散、および、p形GaN層とn形GaN層との間に形成されるpn接合のビルトインポテンシャルによる2DEGの減少、すなわち、AlGaN/GaN界面の高抵抗化が懸念される。また、結晶品質が劣るp形GaN層に起因するチャネル層(n形GaN層)の高抵抗化も懸念される。
【0023】
これに対し、本実施形態に係る窒化物半導体素子100は、p形GaN層5のシートキャリア濃度と、n形GaN層6のシートキャリア濃度とを、ほぼ同量としてチャージバランスを確保し、ゲートドレイン間の耐圧を向上させる構成を有する。これにより、p形GaN層5が加えられたとしても、高耐圧を維持することができる。
【0024】
さらに、チャネル層(n形GaN層)のn形不純物の濃度を上げるとともに膜厚を厚くすることにより、Mg拡散およびpn接合のビルトインポテンシャル影響を緩和する。これにより、低オン抵抗と高耐圧を維持しつつ、閾値電圧を向上させた窒化物半導体素子を実現することができる。
【0025】
以下、第1実施形態に係る窒化物半導体素子100の詳細について説明する。
図1に示す窒化物半導体素子100では、サファイア基板である基板2の上に、窒化物半導体層からなるバッファー層3、アンドープGaN層4、p形GaN層5、n形GaN層6、およびアンドープAlGaN層7を、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて順に積層することができる。
基板2として、サファイア基板以外にSiC基板、Si基板、GaN基板等を用いることができる。
【0026】
アンドープGaN層4は、キャリア濃度が低い高抵抗層であり、n形またはp形のいずれの導電型でも良い。アンドープGaN層4の厚さは、約2μmとすることができる。
アンドープとは、意識的にn形不純物またはp形不純物をドープしないことを意味する。MOCVD法を用いて成長するGaNの場合、アンドープであってもn形の導電性を示すが、電子濃度が低く高抵抗となる。また、GaN層に代えて、互いに組成の異なるアンドープの窒化物半導体を積層した多層構造を用いることもできる。
【0027】
第1半導体層であるp形GaN層5の厚さは、約0.5μmとし、p形不純物であるMgをドープすることができる。
第2半導体層であるn形GaN層6の厚さも、約0.5μmとし、n形不純物としてSiをドープすることができる。
p形GaN層5およびn形GaN層6のシートキャリア濃度を、ほぼ等しくする。例えば、厚さが同じであれば、p形GaN層5のホール濃度と、n形GaN層6の電子濃度とを、それぞれ約1×1016cm−3とすることができる。
【0028】
第3半導体層であるアンドープAlGaN層7の厚さは、約30nmであり、Al組成を約25%とすることができる。アンドープAlGaN層7も、アンドープGaN層4と同じようにn形の導電性を有する。
【0029】
アンドープAlGaN層7の上には、Al/Tiの層構造を有するソース電極10およびドレイン電極20が、相互に離間して設けられている。Al/Tiの層構造は、Ti層がアンドープAlGaN層7に接触するように形成される。
【0030】
ソース電極10とドレイン電極20との間には、トレンチ31が設けられる。トレンチ31は、例えば、塩素系のエッチングガスを用いるRIE(Reactive Ion Etching)法により、AlGaN層およびGaN層をエッチングすることにより形成することができる。
【0031】
トレンチ31の深さは、約0.75μmとして、アンドープAlGaN層7およびn形GaN層6を貫通してp形GaN層5に達するように設けることができる。また、ソース電極10からドレイン電極20へ向かう方向のゲート長に相当するトレンチ31の幅は、約1μmとすることができる。
【0032】
トレンチ31の内面には、側壁および底面を覆うゲート絶縁膜33が設けられ、さらに、トレンチ31の内部を埋め込んだp形ポリシリコンからなるゲート電極30が設けられている。
ゲート絶縁膜33とアンドープAlGaN層7の表面に設けられる表面保護膜32とは、同時に形成することができ、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法により形成される厚さ約30nmのシリコン窒化膜(SiN膜)を用いることができる。
【0033】
次に、窒化物半導体素子100の動作について説明する。
窒化物半導体素子100では、ソースゲート間およびゲートドレイン間において、AlGaN/GaN界面に2DEGが生じ、この2DEGを介してドレイン電流が流れることにより低いオン抵抗が得られる。
さらに、窒化物半導体素子100では、チャネル層であるn形GaN層6にn形不純物がドープされ低抵抗化されている。これにより、トランジスタがオン状態のとき、AlGaN/GaN界面の2DEGに加えてn形GaN層6もキャリアの導通に寄与するため、アンドープGaNを用いる場合と比較して、さらにオン抵抗を低減することが可能である。
【0034】
また、n形GaN層6の不純物濃度を高くすることにより、p形GaN層5とn形GaN層6との間のビルトインポテンシャルの影響を抑制することができる。これにより、AlGaN/GaN界面の2DEGの電子濃度の低下を防止することができ、結果として低オン抵抗化が可能となる。
【0035】
さらに、n形GaN層6を厚膜化して、p形GaN層5の成長後に生じるMg拡散、所謂メモリ効果によりAlGaN/GaN界面の近傍に含まれるMgの量を抑制する。これにより、2DEGの電子濃度が低下を防止して、低オン抵抗を維持することができる。
【0036】
一方、ゲート電極30が埋め込まれたトレンチ31の側壁において、n形GaN層6とゲート絶縁膜33が接する部分は、AlGaN/GaN界面の2DEGと、p形GaN層5とゲート絶縁膜33との界面に形成される反転層と、をつなぐチャネルとして機能する。このため、n形GaN層6を厚膜化することは、ゲート電極30の実質的なゲート長を長くする問題を伴う。
【0037】
例えば、前述したように、トレンチ31のゲート長方向の幅は、約1μmである。一方、n形GaN層6の厚さは約0.5μmであり、トレンチ31の側壁においてn形GaN層6とゲート絶縁膜33との界面に形成されるチャネルの長さは、ソース側およびドレイン側の両方を合わせて1μmである。すなわち、ゲート絶縁膜33を介して、ゲート電極30と、p形GaN層5およびn形GaN層6と、の間に形成されるチャネルの長さである実質的なゲート長において、n形GaN層6の厚さの寄与を無視することはできない。
【0038】
したがって、GaN層6を厚くすることにより、ゲート電極30の実質的なゲート長が長くなりチャネル抵抗が増加する。これに対し、本実施形態に示すように、n形GaN層6にn形不純物であるSiをドープすれば、チャネル抵抗を下げてオン抵抗を低減することができる。言い換えれば、オン抵抗を増大させることなく、n形GaN層6の膜厚を厚くすることが可能であり、Mg拡散によるAlGaN/GaN界面の2DEGの電子濃度の低下を防ぐことができる。
【0039】
一方、本実施形態では、n形GaN層6のシートキャリア濃度は、p形GaN層5のシートキャリア濃度と同程度になるように設けられる。これにより、トランジスタがオフ状態である時、n形GaN層6のイオン化したドナーと、p形GaN層5のイオン化したアクセプタと、が相殺して擬似的な低キャリア濃度領域が形成され、ゲートドレイン間における横方向の電界分布が均一となる。これにより、p形GaN層5を設けたことによるゲートドレイン間の耐圧低下を抑制することができる。
【0040】
さらに、閾値電圧を制御するために、p形GaN層5のキャリア濃度を任意に変えることが可能となる。すなわち、n形GaN層6のシートキャリア濃度をp形GaN層5のシートキャリア濃度と同じになるように変えれば、ゲートドレイン間の耐圧を低下させることなく、p形GaN層5の不純物濃度を変えて閾値電圧を制御することが可能である。つまり、p形GaN層5およびn形GaN層6のシートキャリア濃度をバランスさせることにより、素子の耐圧を低下させることなく閾値設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、p形GaN層5のシートキャリア濃度と、n形GaN層6のシートキャリア濃度と、の間のバランスの程度に応じて、ゲートドレイン間の空乏層内の電界分布が変化し、ゲートドレイン耐圧も変わる。したがって、p形GaN層5とn形GaN層6との間のシートキャリア濃度の同一の程度は、素子の用途に応じて要求されるゲートドレイン耐圧を確保できる程度であれば良い。例えば、電力制御用であれば、p形GaN層5と、n形GaN層6との間のシートキャリア濃度差を、10%以内とすることが望ましい。
【0042】
本実施形態では、第1半導体層をp形GaN層6として例示したが、第1半導体層は、異なる組成の窒化物半導体を積層した構造を含むことができる。また、以下に説明する実施形態でも例示されるように、第2半導体層および第3半導体層も、異なる組成の窒化物半導体を積層した構造を含むことができる。
【0043】
図2は、第1の実施形態の変形例に係る窒化物半導体素子150の断面を示す模式図である。
本変形例に係る窒化物半導体素子では、第2半導体層は、n形不純物がドープされた第4半導体層と、第3半導体層に接し第4半導体層よりもn形不純物の濃度が低い第5半導体層と、を含む点において、窒化物半導体素子100と相違する。
【0044】
具体的には、窒化物半導体素子150は、第4半導体層であるn形GaN層6aと、第5半導体層であるアンドープGaN層6bと、を有している。n形GaN層6aは、p形GaN層5の上に設けられ、n形不純物がドープされている。アンドープGaN層6bは、n形GaN層6aの上に、アンドープAlGaN層7に接して設けられている。
【0045】
図1に示す窒化物半導体素子100では、アンドープAlGaN層7とn形GaN層6との間の界面に2DEGが生じる。一方、本変形例に係る窒化物半導体素子150では、アンドープAlGaN層7とアンドープGaN層6bとの間の界面に2DEGが生じる。
【0046】
n形不純物がドープされているn形GaN層6とアンドープGaN層6aとの間では、例えば、伝導帯から見たフェルミ準位の深さが異なり、n形GaN層6のフェルミ準位は、アンドープGaN層6aのフェルミ準位よりも浅い。このため、AlGaN/GaN界面に形成されるポテンシャル井戸の深さは、n形GaN層6とアンドープAlGaN層7との界面よりも、アンドープGaN層6bとアンドープAlGaN層7との界面の方が深くなる。
【0047】
アンドープGaN層6bとアンドープAlGaN層7との間の界面に生じる2DEGの電子密度は、ポテンシャル井戸の深さに応じてn形GaN層6とアンドープAlGaN層7との間に生じる2DEGの電子密度よりも高くなる。このため、本変形例に係る窒化物半導体素子150では、窒化物半導体素子100よりもAlGaN/GaN界面に形成される2DEGの電子密度が高くなり、オン抵抗を低減することができる。
【0048】
上記の変形例では、第2半導体層は、n形GaN層6aおよびアンドープGaN層6bで構成されているが、互いに組成の異なる半導体層の積層構造とすることもできる。例えば、n形GaN層6aを、n形AlGaN層に置き換えても良い。
【0049】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る窒化物半導体素子200の断面を示す模式図である。
本実施形態に係る窒化物半導体素子では、第1主電極は、第3半導体層および第2半導体層を貫通して第1半導体層に達する第2のトレンチの内部に延在して設けられ、第2のトレンチの内面において、第1半導体層に接している。
さらに、第3半導体層は互いに組成の異なる複数の半導体層を含み、第2半導体層に接する半導体層は、第2半導体層よりも禁制帯幅が広い。
【0050】
以下、図3を参照して具体的に説明する。
本実施形態に係る窒化物半導体素子200では、基板2の上に、バッファー層3、アンドープAlGaN層41、p形AlGaN層42およびp形GaN層43、n形GaN層6が積層され、さらに、アンドープAlN層44、n形AlGaN層45およびn形GaN層46が順に積層されている。
【0051】
アンドープAlGaN層41は、n形の導電性を示す高抵抗層であり、厚さは約2μmとすることができる。
第1半導体層は、p形AlGaN層42およびp形GaN層43で構成されている。p形AlGaN層42は、厚さを約0.1μmとしp形不純物であるMgをドープすることができる。p形GaN層43は、厚さを約0.4μmとしMgをドープすることができる。
【0052】
第2半導体層であるn形GaN層6は、厚さを約1μmとしSiをドープすることができる。
例えば、p形AlGaN層42およびp形GaN層43のキャリア濃度を約1×1016cm−3とし、n形GaN層6のキャリア濃度を約5×1015cm−3とすることにより、第1半導体層のシートキャリア濃度と、第2半導体層のシートキャリア濃度と、をほぼ同じにすることができる。
【0053】
第3半導体層は、アンドープAlN層44と、Al組成25%のn形AlGaN層45と、n形GaN層46と、を順に積層した構造とすることができる。
アンドープAlN層44は、n形GaN層6の上に設けられ、n形GaN層6よりも禁制帯幅が広い。
アンドープAlN層44の厚さを約2nmとし、n形AlGaN層45の厚さを約30nm、n形GaN層46の厚さを約5nmとすることができる。
【0054】
n形AlGaN層45およびn形GaN層46には、n形不純物であるSiをドープすることができる。例えば、n形AlGaN層45のキャリア濃度を2×1017cm−3、n形GaN層46のキャリア濃度を2〜3×1017cm−3としても良い。
【0055】
ゲート電極30は、図1に示す窒化物半導体素子100と同じように、ソース電極11とドレイン電極20との間に設けられたトレンチ31の内部に埋め込まれている。トレンチ31は、n形GaN層46の表面からp形GaN層43に至る深さ、約1.2μmとすることができる。さらに、ソース電極11からドレイン電極20の向かうゲート長方向の幅を約1.5μmとすることができる。
【0056】
第1主電極であるソース電極11は、n形GaN層46の表面からアンドープAlGaN層41に達する第2のトレンチであるトレンチ12の内部に延在して設けられている。
図3中に示すように、ソース電極11は、2つのオーミック電極13および14により構成されている。これは、p形GaN層43、p形AlGaN層42およびn形GaN層6のそれぞれに対して低抵抗のオーミックコンタクトを形成するためである。
【0057】
トレンチ12の側壁および底面には、Ni/Agの積層構造を有するオーミック電極14が設けられている。オーミック電極14は、トレンチ12の側壁に露出したp形AlGaN層42およびp形GaN層43に接触している。
さらに、トレンチ12の周縁部には、Al/Tiの積層構造を有するオーミック電極13が設けられている。オーミック電極13は、Ti層がn形GaN層46に接するように設けられる。
【0058】
なお、窒化物半導体素子200では、トレンチ12は、n形GaN層46の表面からアンドープAlGaN層41に達するように設けられているが、p形AlGaN層42またはp形GaN層43に達する深さに設けられていても良い。
【0059】
一方、ドレイン電極20は、ゲート電極30を挟んでソース電極11と離間して設けられている。ドレイン電極20もまたAl/Tiの積層構造を有し、n形GaN層46にTi層を接して設けられている。
【0060】
本実施形態に係る窒化物半導体素子200では、第1実施形態に係る窒化物半導体素子と同様に、低オン抵抗および高耐圧を維持して閾値電圧の制御性を向上させることができる。
さらに、ソース電極11において、p形AlGaN42およびp形GaN層43に直接コンタクトするオーミック電極14が設けられていることにより、p形AlGaN層42およびp形GaN層43の電位を固定することができる。これにより、閾値電圧の変動などを抑えることができるので、スイッチング動作時の安定性を向上させることができる。
【0061】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態に係る窒化物半導体素子300の断面を示す模式図である。
本実施形態に係る窒化物半導体素子は、第1主電極の直下において、第3半導体層および第2半導体層を貫通して第1半導体層に達するp形半導体領域を備えている。
【0062】
以下、図4を参照して具体的に説明する。
本実施形態に係る窒化物半導体素子300では、基板2の上に、窒化物半導体層からなるバッファー層3、アンドープGaN層4、p形GaN層5、n形InGaN層51、アンドープAlGaN層7が順に積層されている。
【0063】
アンドープGaN層4は、厚さ約2μmの高抵抗層とすることができる。
第1半導体層であるp形GaN層5は、厚さを約0.5μmとし、p形不純物であるMgをドープしてキャリア濃度を約1×1016cm−3とすることができる。
【0064】
第2半導体層であるn形InGaN層51は、In組成を約1%、厚さを約0.5μmとすることができる。キャリア濃度は、n形不純物であるSiをドープしてp形GaN層5と同じ約1×1016cm−3とすることができる。
第3半導体層であるアンドープAlGaN層7は、Al組成を約25%とし、厚さを約30nmとすることができる。
【0065】
ゲート電極35は、ソース電極15とドレイン電極20との間に設けられたトレンチ31の内部に埋め込まれている。
トレンチ31は、アンドープAlGaN層7の表面からp形GaN層5に至る深さ、約0.75μmとすることができる。さらに、ソース電極11からドレイン電極20の向かうゲート長方向の幅を約1μmとすることができる。
ゲート電極35は、Au/Niの層構造を有し、ゲート絶縁膜33を介してトレンチ31の内部を埋めるように設けることができる。
【0066】
第1主電極であるソース電極15の直下には、p形半導体領域であるp形GaN領域19が設けられている。p形GaN領域19は、アンドープAlGaN層7の表面からアンドープGaN層4に達する深さに設けられている。
p形GaN領域19のキャリア濃度はp形GaN層5よりも高く、例えば、1×1017〜1×1019cm−3とすることができる。
【0067】
p形GaN領域19は、例えば、アンドープAlGaN層7の表面から、アンドープAlGaN層7、n形InGaN層51およびp形GaN層5を貫通してアンドープGaN層4に達するトレンチ18の内部をp形GaNで埋め込むことにより形成することができる。また、イオン注入を用いて形成しても良い。
なお、p形GaN領域19は、アンドープGaN層4に達しなくても、p形GaN層5達する深さであれば良い。
【0068】
ソース電極15は、p形GaN領域19およびアンドープAlGaN層7に接するように設けられる。
図4中に示すように、ソース電極15は、2つのオーミック電極16および17により構成することができる。オーミック電極17は、p形GaN領域19の上に設けられ、例えば、Ni層をp形GaN領域19に接触させたNi/Agの積層構造を含むことができる。一方、オーミック電極16は、トレンチ18の周縁部に設けられ、アンドープAlGaN層7にTi層を接触させたTi/Alの積層構造を含むことができる。
【0069】
本実施形態に係る窒化物半導体素子300は、第2半導体層であるn形InGaN層51にn形不純物をドープすることにより、低オン抵抗および高耐圧を維持して閾値電圧の制御性を向上させることができる。
【0070】
さらに、ソース電極15の直下に設けられたp形GaN領域19を介してp形GaN層5とソース電極15とが接続されることにより、p形GaN層5の電位を固定することができる。これにより、トランジスタのスイッチング動作時の安定性を向上させることができる。
【0071】
前述したように、p形GaN領域19のキャリア濃度は、p形GaN層5のキャリア濃度よりも高くする。これにより、p形GaN領域19の抵抗を下げることができ、さらに、p形GaN領域19とオーミック電極17との間のコンタクト抵抗を小さくすることができる。したがって、ソース電極15とp形GaN層5との間の電位差を小さくして、p形GaN層5の電位を安定させることができる。
【0072】
図5は、第3の実施形態の変形例に係る窒化物半導体素子350の断面を示す模式図である。
本変形例に係る窒化物半導体素子は、第2主電極の直下において、第3半導体層および第2半導体層を貫通して第1半導体層に達するn形半導体領域を備えている。
【0073】
以下、図5を参照して具体的に説明する。
窒化物半導体素子350では、Si基板61の上に、複数層の窒化物半導体層からなる積層バッファー層62、アンドープGaN層4、p形GaN層5、n形GaN層6、アンドープAlGaN層7が順に積層されている。
Si基板61に変えて、例えば、サファイア基板、SiC基板、GaN基板等を使用することもできる。
【0074】
アンドープGaN層4は、厚さ約2μmの高抵抗層である。
第1半導体層であるp形GaN層5は、厚さを約0.5μmとし、p形不純物であるMgをドープしてキャリア濃度を1×1016cm−3とすることができる。
第2半導体層であるn形GaN層は、厚さを0.5μmとし、n形不純物であるSiをドープして、p形GaN層5と同じキャリア濃度1×1016cm−3とすることができる。
第3半導体層であるアンドープAlGaN層7は、Al組成を約25%とし、厚さを30nmとすることができる。
【0075】
窒化物半導体素子300と同じように、ゲート電極35は、ソース電極15とドレイン電極20との間に設けられたトレンチ31の内部に埋め込まれている。
さらに、ソース電極15の直下には、アンドープAlGaN層7の表面からアンドープGaN層4に達するp形GaN領域19が設けられている。また、ソース電極15は、p形GaN領域19にコンタクトするオーミック電極17と、アンドープAlGaN層7にコンタクトするオーミック電極16と、により構成されている。
【0076】
一方、本変例では、第2主電極であるドレイン電極21の直下にも、アンドープAlGaN層7の表面からアンドープGaN層4に達するn形GaN領域23が設けられている。
ドレイン電極21は、n形GaN領域23に接するTi層を含むTi/Alの積層構造を有している。
【0077】
n形GaN領域23は、例えば、アンドープAlGaN層7の表面から、アンドープAlGaN層7、n形InGaN層51およびp形GaN層5を貫通してアンドープGaN層4に達するトレンチ22の内部を、n形GaNで埋め込むことにより形成することができる。また、イオン注入を用いて形成しても良い。
【0078】
なお、n形GaN領域23は、アンドープGaN層4に達していなくても、p形GaN層5達する深さであれば良い。また、図5中に示すドレイン電極21は、n形GaN領域23に接して設けられているが、トレンチ22の周縁部のアンドープAlGaN層7およびn形GaN領域23の両方に接するように形成しても良い。
【0079】
本変形例に係る窒化物半導体素子350では、n形GaN層6にn形不純物をドープすることにより、低オン抵抗および高耐圧を維持して、閾値電圧の制御性を向上させることができる。また、p形GaN領域19を介してソース電極15とp形GaN層5とが接続されることによりp形GaN層5の電位が固定され、トランジスタのスイッチング動作を安定させることができる。
【0080】
さらに、ドレイン電極21の直下に設けられたn形GaN領域23と、p形GaN層5と、の間に形成されるpn接合によりゲートドレイン間の耐圧を確保することができる。すなわち、ゲートドレイン間のp形GaN層5およびn形GaN層6における電位分布がほぼ一様となり、p形GaN層5のシートキャリア濃度と、n形GaN層6のシートキャリア濃度と、を等しくしたことによる耐圧向上の効果をより大きくすることができる。
【0081】
以上、本発明に係る第1〜第3実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、出願時の技術水準に基づいて、当業者がなし得る設計変更や、材料の変更等、本発明と技術的思想を同じとする実施態様も本発明の技術的範囲に含有される。
【0082】
なお、本願明細書において、「窒化物半導体」とは、BInAlGa1−x−y−zN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y+z≦1)のIII−V族化合物半導体を含み、さらに、V族元素としては、N(窒素)に加えてリン(P)や砒素(As)などを含有する混晶も含むものとする。
【符号の説明】
【0083】
2・・・基板、 3・・・バッファー層、 4、6b・・・アンドープGaN層、 5、43・・・p形GaN層、 6、6a、46・・・n形GaN層、 7、41・・・アンドープAlGaN層、 10、11、15・・・ソース電極、 12、18、22、31 トレンチ、 13、14、16、17・・・オーミック電極、 19・・・p形GaN領域、 20、21・・・ドレイン電極、 23・・・n形GaN領域、 30、35・・・ゲート電極、 32・・・表面保護膜、 33・・・ゲート絶縁膜、 42・・・p形AlGaN層、 44・・・アンドープAlN層、 45・・・n形AlGaN層、 51・・・n形InGaN層、 61・・・Si基板、 62・・・積層バッファー層、 100、150、200、300、350・・・窒化物半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた第1導電型の窒化物半導体からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられ、前記第1半導体層のシートキャリア濃度と同量のシートキャリア濃度を有する第2導電型の窒化物半導体からなる第2半導体層と、
前記第2半導体層上に設けられ、前記第2半導体層よりも禁制帯幅が広い窒化物半導体からなる第3半導体層と、
前記第2半導体層に電気的に接続された第1主電極と、
前記第1主電極と離間して設けられ、前記第2半導体層に電気的に接続された第2主電極と、
前記第1主電極と前記第2主電極との間において、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達する第1のトレンチの内部に絶縁膜を介して設けられた制御電極と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記第3半導体層は、互いに組成の異なる複数の半導体層を含み、
前記複数の半導体層のうちの前記第2半導体層に接する半導体層は、前記第2半導体層よりも禁制帯幅が広いことを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記第2半導体層は、前記第2導電型の不純物がドープされた第4半導体層と、前記第3半導体層に接し、前記第4半導体層よりも前記第2導電型の不純物濃度が低い第5半導体層と、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記第1主電極は、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達する第2のトレンチの内部に延在し、前記第2のトレンチの内面において、前記第1半導体層に接していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記第1主電極の直下に設けられ、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達する前記第1導電型の半導体領域をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記第2主電極の直下に設けられ、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達する前記第2導電型の半導体領域をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の窒化物半導体素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−238654(P2011−238654A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106399(P2010−106399)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】