窒化物半導体結晶の製造方法、窒化物半導体エピタキシヤルウエハ、および窒化物半導体自立基板
【課題】窒化物半導体結晶のクラック発生を抑制でき、窒化物半導体結晶の歩留の向上が図れる窒化物半導体結晶の製造方法、及び窒化物半導体エピタキシヤルウエハおよび窒化物半導体自立基板を提供する。
【解決手段】
種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記窒化物半導体結晶の成長中に、前記種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加えながら、前記窒化物半導体結晶を成長させる。
【解決手段】
種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記窒化物半導体結晶の成長中に、前記種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加えながら、前記窒化物半導体結晶を成長させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体結晶の製造方法、窒化物半導体エピタキシヤルウエハ、および窒化物半導体自立基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系材料の成長は、有機金属気相成長法(MOVPE法)やハイドライド気相成長法(HVPE法)などの気相成長法が主に用いられる。これらの成長においては、サファイア基板、SiC基板、あるいは窒化物半導体基板などの種結晶基板をホルダ、トレーなどに設置し、種結晶基板へ原料ガスを供給して窒化物半導体を成長する。具体的には、有機金属気相成長法であれば、トリメチルガリウム(TMG)やトリメチルアルミニュウム(TMA)などの有機金属ガスとアンモニアを供給することで、窒化物半導体を種結晶基板上に成長する。また、ハイドライド気相成長法であれば、ホルダ、トレーなどに設置された種結晶基板に、塩化ガリウム(GaCl)ガスや塩化アルミニュウム(AlCl、AlCl3)などのIII族原料ガスとアンモニアを供給することで、窒化物半導体を種結晶基板上に成長する。
種結晶基板としては、サファイア、SiC、Si等からなる異種基板や、GaNやAlN等からなる窒化物半導体自立基板などが用いられる。これらの種結晶基板上に、通常はGa面などのIII族極性のC面が表面となるように結晶成長が行われ、この面がデバイス形成に用いられる。
【0003】
窒化物半導体の結晶成長の際に問題となる点に、窒化物半導体の成長層が厚くなると、成長層にクラックが生じやすくなる点が挙げられる。
これは、特に異種基板上の薄膜成長であれば、種結晶基板とその上に成長する窒化物半導体層の熱膨張係数が大きく異なる場合に問題となる。例えば、サファイア基板上のGaN層の成長に際しては、GaN層の厚さが5〜6μmを超えた場合に、クラックが発生し易くなる。SiC基板上やSi基板上の成長では、複雑な応力緩和層などを組み込まない限り、更に薄い2〜3μm程度のGaN層でもクラックが生じてしまう。このようにGaN層の成長可能な厚さに制限があることで、応用可能なデバイスの種類が制限されたり、デバイス特性の向上が妨げられたりと、様々な不都合が生じる。
【0004】
異種基板上の薄膜成長におけるクラックの発生メカニズムは、通常以下の様に説明される。成長温度(〜1000℃)で異種基板上にGaN層を成長しても、成長中には大きな応力は発生しない。しかし、成長後に、異種基板上にGaN層を形成した窒化物半導体エピタキシヤルウエハの温度を室温に戻した際に、熱膨張率差による応力が発生し、バイメタル効果により窒化物半導体エピタキシヤルウエハが反る。サファイア基板上のGaN層では厚さが5〜6μmを超えると、応力が臨界値を超え、GaN層にクラックが導入される。ここでは、5〜6μmをサファイア基板上のGaN層厚の臨界値(臨界膜厚)としたが、実際にはこの臨界値は、使用する成長装置や成長条件などで異なり、どの程度の成長厚でクラックが生じるかに関しては、現状では明確な予測は難しい状況にある。
【0005】
上述の数μm厚程度の薄膜成長の際に生じるクラックと同様に、数100μm〜数mm厚の窒化物半導体自立基板の成長においてもクラックの発生は大きな問題となっている。
窒化物半導体自立基板の製造は、上記の薄膜の場合と同様に異種基板を種結晶として用いる場合と、窒化物半導体自立基板を種結晶として用いる場合の2通りがある。
【0006】
異種基板上への自立基板製造においては、例えば特許文献3に記載のボイド形成剥離法(VAS法)を用いた場合には、異種基板とその上に成長する窒化物半導体層との間の応力をボイド層により緩和することができる。このため、上記の薄膜成長の場合の様な異種基板と窒化物半導体層の間の応力によるクラックの発生は抑制され、100μm程度の膜厚の窒化物半導体層をクラック無しで成長可能となる。しかしながら、この場合にも、成長開始時の状況は薄膜成長の場合と同様であり、成長の最初期から外周端部においてC面から傾いた面での成長は生じ、これが応力発生の原因となり、窒化物半導体層の厚さが100μmを超えると、成長中や冷却時にクラックが発生し易くなる。一般的な半導体ウエハの厚さは、ハンドリングの容易性の観点から、400μm〜1mm程度が求められるため、窒化物半導体自立基板の成長においても、この程度の非常に厚い窒化物半導体層を成長する必要がある。このため、外周端部の応力の存在によるクラックの発生は、窒化物半導体自立基板の製造における歩留を極端に低下させる深刻な問題となっている。
【0007】
なお、特許文献1には、リアクターの内壁あるいは下地基板を載置するサセプタの近傍に付着する窒化物半導体多結晶を除去するために、成長後にリアクター内にエッチングガスを導入することにより、冷却中における窒化物半導体基板のクラック発生やリアクターの内壁の損傷を抑制する方法が記載されている。特許文献1の方法では、窒化物半導体層を厚く成長した場合に、成長中のクラック発生を低減できず、窒化物半導体結晶の歩留を高くできないとともに、サセプタの近傍の不要な窒化物半導体多結晶が多くなるため取得できる窒化物半導体基板の面積が小さくなってしまう。また、特許文献2には、GaNの成長中にエッチングガスとしてHCl(塩化水素ガス)をリアクター内に供給し、リアクターの内壁に付着するGaNを減少させる方法が記載されている。更に、特許文献4には、サファイア基板上にGaN層を成長させた積層体の反りを低減するために、サファイア基板に窒化処理及び塩化水素ガスによるエッチング処理を施すことにより、サファイア基板の表面に窒化アルミニウムの凹凸構造を形成し、この窒化アルミニウムの凹凸構造を有するサファイア基板上にGaNを成長する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−320811号公報
【特許文献2】米国特許第6632725号明細書
【特許文献3】特開2004−039810号公報
【特許文献4】特開2007−106667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように異種基板上のGaN薄膜の臨界膜厚の予測が難しい原因の一つとして、端面の効果が挙げられる。
通常、デバイス作製に用いられるのはGa極性のC面であり、図1に示すように、異種基板である種結晶基板1上に窒化物半導体を形成したエピタキシヤルウエハの表面は、ほぼその全面がGa極性のC面f1で成長する窒化物半導体結晶2aで覆われている。しかしながら、エピタキシヤルウエハの外周端部では内周部(C面成長の平坦部)とは状況が異なり、C面f1から傾いた面f2を表面とした窒化物半導体結晶2bが成長する。図1では、GaN結晶である窒化物半導体結晶2が、異種基板(例えばサファイア基板)である種結晶基板1から成長を開始し、時間が進むにつれて点線の様に結晶成長が進む様子を模式的に示している。すなわち、種結晶基板1の主面(例えばC面)上に成長するC面成長の窒化物半導体結晶2aの面(成長面)f1は、f1-1,f1-2,f1-3と順次成長し、また、C面f1から傾いた面f2で成長する外周端部の窒化物半導体結晶2bの面(成長面)f2は、同様にして、f2-1,f2-2,f2-3と順次成長する。
結晶の面が異なると、表面のダングリング・ボンドの密度や表面再構成の仕方が異なるため、不純物の取込効率が大きく異なるのが一般的である。このため、窒化物半導体エピタキシヤルウエハの成長において、ウエハの内周部の窒化物半導体結晶2aと外周端部の窒化物半導体結晶2bとでドーピングされる不純物濃度が大きく異なる状況が生じる。不純物濃度の違いは、結晶の弾性的、塑性的性質や、熱的性質、格子定数などに影響を及ぼすため、不純物濃度の違う結晶が隣接すると、それらの結晶間に応力が発生する。すなわち、外周部にC面とは異なる成長面を持つウエハにおいては、外周端部にC面成長の結晶2aとは異なる不純物濃度の結晶2bの領域が発生し、外周端部に大きな応力を内包することになり、クラック発生の原因となる。この外周端部の不純物濃度の異なる領域の大きさや、外周端部の不純物濃度の値が、装置構成や成長条件により変化するため、異種基板上のGaN薄膜の臨界膜厚の予測が困難となるのである。
【0010】
また、窒化物半導体自立基板自体を種結晶基板として用いた場合にも、窒化物半導体結晶の外周端部にC面以外の面の結晶成長が生じ、これが応力発生の原因となりクラックが生じる。すなわち、図2に示す様に、トレー3の載置面4上に、窒化物半導体自立基板の種結晶基板1を設置して、この種結晶基板1上に窒化物半導体結晶2の成長を行うと、種結晶基板1の主面(例えばC面)上に成長するC面成長の窒化物半導体結晶2aの外周端部に、C面f1から傾いた面f2で成長する応力発生の原因となる窒化物半導体結晶2bが成長する。
また、窒化物半導体自立基板を種結晶基板として用いた場合には、このような外周端部の応力以外にも、そもそも種結晶である自立基板自体が応力を内包して歪んでいる場合や、種結晶である自立基板の窒化物半導体とその上に成長する窒化物半導体層の成長条件が異なるなどの原因により、窒化物半導体自立基板(種結晶基板)とその上に成長する窒化物半導体層(成長層)との間に応力が生じる場合が多く、これらが成長中や冷却時のクラック発生の原因となることが多々ある。
【0011】
上述したように、異種基板である種結晶基板上の窒化物半導体の薄膜成長、あるいは窒化物半導体自立基板である種結晶基板上の窒化物半導体結晶の成長のいずれの場合にも、種結晶基板の主面上などに目的とする窒化物半導体結晶を意図的に成長を行う際に、意図的に成長を行った窒化物半導体結晶以外の窒化物半導体結晶が、例えば窒化物半導体結晶の外周端部や種結晶基板である窒化物半導体自立基板として存在し、これらが応力発生の原因となり、窒化物半導体結晶のクラックの発生原因となっている。
【0012】
本発明の目的は、窒化物半導体結晶のクラック発生を抑制でき、窒化物半導体結晶の歩留の向上が図れる窒化物半導体結晶の製造方法、及びこの方法により実現される窒化物半導体エピタキシヤルウエハおよび窒化物半導体自立基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記窒化物半導体結晶の成長中に、前記種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加えながら、前記窒化物半導体結晶を成長させる窒化物半導体結晶の製造方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、
前記種結晶基板の外側を取り囲む側壁を有する容器内に前記種結晶基板を設置し、前記容器の内面のうち成長開始時に前記種結晶基板と接触しない前記内面の部分付近の環境を、前記窒化物半導体結晶の成長中にエッチング作用を加える環境とすることで、結晶成長の全期間を通じて前記窒化物半導体結晶が前記容器の内面の部分に接触することなく且つ前記容器内部の断面形状に相似するような断面形状で前記窒化物半導体結晶が成長する窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記側壁の側面を含む窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第2又は第3の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記種結晶基板を設置する側の面を含む窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第2〜第4の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の前記環境が、前記側壁の側面からの距離とともに前記エッチング作用が弱まる環境にある窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0017】
本発明の第6の態様は、第2〜第5の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶の成長を、成長とエッチングが共存する環境で行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の成長原料を希釈することで、前記エッチング作用を強めるようにした窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0018】
本発明の第7の態様は、第6の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記成長原料の希釈が、窒素、アルゴンまたはヘリウムを含む不活性ガスを供給することで行われる窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0019】
本発明の第8の態様は、第2〜第5の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近に、エッチング作用を持つガスあるいは液体を供給することで、前記エッチング作用を加えるようにした窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0020】
本発明の第9の態様は、第8の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記エッチング作用を持つガスが、水素、塩素、塩化水素の少なくともいずれか一つを含む窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第2〜第5の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶の成長を、触媒の作用によりエッチング種を発生する物質を供給しつつ行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の少なくとも一部を前記触媒の作用を有する触媒物質とすることで、前記エッチング作用が発現される窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0022】
本発明の第11の態様は、第10の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記触媒の作用によりエッチング種を発生する物質が、水素ガスである窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0023】
本発明の第12の態様は、第10又は第11の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記触媒の作用を有する触媒物質が、金属または金属の窒化物である窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0024】
本発明の第13の態様は、第12の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記金属が、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかである窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0025】
本発明の第14の態様は、第2〜第13の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器のエッチング作用が生じる内面と前記窒化物半導体結晶との距離が、結晶成長開始から終了までの期間、1〜10mmの範囲にある窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0026】
本発明の第15の態様は、第2〜第14の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記側壁の側面と前記種結晶基板が載置される前記容器の載置面とのなす角度が90度より大きく135度以下の範囲にあって、前記容器内部の断面がその開口部側に向けて拡大した形状であり、前記窒化物半導体結晶が窒素面を成長面としてその径を拡大しつつ成長する窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0027】
本発明の第16の態様は、板状の種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長した窒化物半導体エピタキシヤルウエハであって、前記窒化物半導体結晶は、前記種結晶基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶と、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の外周端部に、前記主面から傾いた面方向に成長し、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶とを有していないか、有していた場合でも、高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体エピタキシヤルウエハである。
【0028】
本発明の第17の態様は、第16の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記種結晶基板がサファイア基板であり、前記窒化物半導体結晶がGaN層である窒化物半導体エピタキシャルウエハであって、前記窒化物半導体エピタキシャルウエハの曲率半径をR(m)、前記GaN層の厚さをt(μm)、前記サファイア基板の厚さをY(μm)、係数をAとした場合に、次の式(1)、(2)
R=A/t ……式(1)
A>0.00249×Y1.58483 ……式(2)
を満足する窒化物半導体エピタキシャルウエハである。
【0029】
本発明の第18の態様は、板状の窒化物半導体自立基板であり、その外周端部に、前記窒化物半導体自立基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶を有していないか、有していた場合でも、前記外周端部の高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体自立基板である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、種結晶基板上に成長する窒化物半導体結晶のクラック発生を抑制でき、歩留の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来法により異種基板である種結晶基板上に成長した窒化物半導体層の外周端部の近傍の断面模式図である。
【図2】従来法により窒化物半導体自立基板である種結晶基板上に成長した窒化物半導体層の外周端部の近傍の断面模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示すものであって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示す断面図である。
【図7】比較例1において使用した従来のHVPE装置の概略図である。
【図8】本発明の実施例1および比較例1において、サファイア基板上に形成したGaN層の特性を示すもので、(a)はGaN層の厚さと歩留との関係、(b)はGaN層の厚さと(0002)回折半値幅との関係、(c)はGaN層の厚さと(10−12)回折半値幅との関係を示すグラフである。
【図9】比較例1において種結晶基板上に形成したGaN結晶の断面を蛍光顕微鏡で観察した像を示す図である。
【図10】実施例1において使用した本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を実施するHVPE装置の概略図である。
【図11】実施例1と比較例1の方法を用いて、様々な厚さのサファイア基板上に様々な厚さのGaN層を成長したときに得られたエピタキシャルウエハの曲率半径Rを測定した結果を示すもので、(a)は直径50mm、厚さ350μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、(b)は直径100mm、厚さ900μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、(c)は直径150mm、厚さ1500μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合の結果を示すグラフである。
【図12】実施例1において図10のHVPE装置を用いて異種基板である種結晶基板上に成長したGaN層の外周端部近傍の断面の模式図である。
【図13】実施例10及び比較例2において用いたVAS法によるGaN自立基板の製造方法を示す工程図である。
【図14】本発明の実施例10および比較例2における、異種基板上に成長したGaN結晶の厚さと歩留の関係を示すグラフである。
【図15】本発明の実施例11および比較例3における、GaN基板上に成長したGaN成長層の厚さと歩留の関係を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例11におけるGaN自立基板を種結晶として成長したGaN結晶の外周端部の近傍の断面模式図である。
【図17】本発明の実施例12におけるGaN基板上に成長したGaN成長層の厚さと歩留の関係を示すグラフである。
【図18】本発明の変形例9における、水平フロー方式の成長装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(知見)
本発明者は、窒化物半導体の成長時にクラックが生じ易いと言う欠点を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、上述したように、異種基板あるいは窒化物半導体自立基板からなる種結晶基板上へ成長を行う際に、成長を行おうと意図している成長面上(例えば種結晶基板の主面上)へ成長される結晶とは異なる性質の結晶が、例えば意図して成長させている窒化物半導体結晶の外周端部に、あるいは種結晶基板自体として存在し、これらの結晶が意図している成長面上の窒化物半導体結晶との間に応力を生じ、これが成長中にクラックが生じる原因となることを見出した。
この知見に基づき、本発明者は、窒化物半導体結晶の意図している成長面以外の面に成長している部分(特に外周端部)、または種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加え、応力を発生する外周端部の成長を抑制し、または応力の原因となる種結晶基板としての窒化物半導体自立基板を成長中に徐々にエッチングすることで、窒化物半導体結晶の成長時のクラックを抑制する本発明の窒化物半導体結晶の製造方法に想到した。
【0033】
以下に、本発明の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法、窒化物半導体エピタキシヤルウエハ、および窒化物半導体自立基板を説明する。
【0034】
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法は、例えば図3に示すように、種結晶基板1の外側を取り囲む側壁5aを有する、るつぼ状乃至浅いカップ状の容器5内の底壁5b上に種結晶基板1を設置し、種結晶基板1の成長面上(種結晶基板1の主面上)へと原料ガスGを供給して、種結晶基板1上に窒化物半導体結晶2を成長する。容器5の内面のうち成長開始時に種結晶基板1と接触していなかった内面の部分(図3では側壁5aの側面6及び底壁5bの底面7のうち側面6付近の部分)付近の環境・雰囲気を、成長中の窒化物半導体結晶2にエッチング作用を加える環境・雰囲気とする。これにより、結晶成長の全期間を通じて窒化物半導体結晶2が容器5の内面の部分に接触することなく且つ容器5内部の断面形状(図3では円形)に相似するような断面形状で窒化物半導体結晶2が成長する。
【0035】
上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面は、容器の側壁の側面を含むのが好ましい。また、窒化物半導体自立基板である種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する場合には、上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面には、容器の側壁の側面に加えて、窒化物半導体自立基板を設置する側の面を含むのが好ましい。
【0036】
上記の窒化物半導体と接触しない容器の内面の部分付近のエッチング環境・エッチング雰囲気は、容器の内面からの距離とともにエッチング作用が弱まるのが好ましい。エッチング作用が内面からの距離とともに弱まらない場合には、成長期間中に成長する窒化物半導体結晶の多くがエッチングされてしまうおそれがある。
また、エッチング作用が内面からの距離と共に減衰する場合においても、内面から離れた位置でもエッチング作用が強すぎると、窒化物半導体結晶の主面上に成長する成長層が失われてしまう。また、エッチング作用が弱すぎると、窒化物半導体結晶の成長層に意図しない面(例えば端面)での成長が生じ、成長中の窒化物半導体結晶に応力が発生し、窒化物半導体結晶にクラックが生じてしまう。これらのことから、エッチング作用の強さ、及び容器の内面からの距離によるエッチング作用の弱まり(減衰)の度合いは、過大な応力が発生しないように、あるいは応力が除去されるように適切に選択する必要がある。
【0037】
このエッチング作用が、例えば図3に示すような、るつぼ状の容器5の側面6付近に存在すると、種結晶基板1上に成長する窒化物半導体結晶2の外周端部(端面)8の成長が抑制される。つまり意図して成長する面(例えばC面)9の結晶とは不純物濃度の異なる外周端部8の結晶の成長が抑制され、外周端部8の結晶に起因する応力によってクラックが発生することを抑制できる。この状況では、容器の内面の断面形状(図3では円形)を概ね相似した断面形状の窒化物半導体結晶が成長し、かつ、容器の内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった内面の部分に、成長の全期間を通じて接触せずに成長するという状況が実現される。種結晶基板1の外周部が開放されておらず、容器5の側壁5aが種結晶基板1の外側を取り囲むように設けられているので、種結晶基板1の外周部に、外周端部8の窒化物半導体結晶を選択的にエッチングすることが可能なエッチング環境・エッチング雰囲気を形成・維持することができる。
この場合、上記のエッチング作用の下で、外周端部の結晶が成長する成長速度は0であるのが好ましい。この状況は、エッチング作用と成長がバランスしている状態である。つまり、外周端部がエッチング作用を加える環境・雰囲気であるので、外周端部の成長を抑制できる。ただし外周端部の成長面の法線方向の成長速度としては、意図した成長面(例えば、種結晶基板の主面(例えばC面)の法線方向に成長する成長面)の法線方向の成長速度の10分の1未満であれば、クラック防止の効果が得られる。10分の1以上の場合には、過大な応力が発生しクラック発生確率が増大する。
【0038】
また、外周端部にエッチングを生じさせる場合には、そのエッチング面の法線方向のエッチング速度は、意図した成長面の成長速度以下であるのが好ましい。外周端部のエッチング速度が意図した成長面の成長速度より大きくても、クラック防止の効果は得られるが、最終的に得られる結晶の大きさが極端に小さくなるからである。
【0039】
また、種結晶基板である窒化物半導体自立基板上に窒化物半導体を成長する場合に、このエッチング作用が窒化物半導体自立基板を設置する側の面に存在すると、成長中に種結晶基板の裏面が徐々にエッチングされるため、種結晶基板の表面側に新たな窒化物半導体の成長層を厚く成長した段階で種結晶基板による応力が除去・低減され、成長中のクラックの発生を抑制することができる。
この場合には、種結晶基板の裏面のエッチング速度は、意図した成長面上の成長速度の100分の1以上の場合に良好な結果が得られる。また、種結晶基板の裏面のエッチング速度が速い場合には、成長後に窒化物半導体の全体の厚さが初期の窒化物半導体自立基板よりも小さくなる場合も想定される。このような事態を避けるため、種結晶基板の裏面のエッチング速度としては、意図した成長面上の成長速度の半分以下であるのが好ましい。
【0040】
また、成長中の応力バランスを維持するためには、上記のエッチング作用は成長する結晶中のある点、線あるいは面に対して対称を保って加えるのが好ましい。結晶基板、例えば円盤状の種結晶基板でその一面が意図した成長面である場合には、断面が円形の容器を用い、結晶外周の端面に均等にエッチング作用を加えるのが好ましい。また、四角形、六角形など多角形の板状の種結晶基板で、その一面が主たる成長面である場合にも、種結晶基板の断面形状と同様の断面形状の容器を用い、種結晶基板上の窒化物半導体結晶の外周の端面に均等にエッチング作用を加えるのが好ましい。更に、本発明の種結晶基板は板状のものに限らず、各種の種結晶が含まれる。例えば、円柱状、あるいは多角錐状などの種結晶基板で、その円周面あるいは多角形の面が主たる成長面である場合には、主たる成長面に対する側面に均等にエッチング作用を加えるのが好ましい。
【0041】
また、種結晶基板の裏面にエッチング作用を加える場合には、その全面に均等にエッチング作用を加えるか、面内の点、あるいは線に対して対称にエッチング作用を加えるのが好ましい。ただし、容器の内面に対向する種結晶基板の裏面にエッチング作用を加えるためには、種結晶基板の裏面を容器の内面から一定距離を離す必要があり、例えば種結晶基板よりも小さいブロックを介して種結晶基板を容器に設置するという工夫が必要となる。この場合、ブロックは十分小さい複数個のものを使用し、ブロックと接して隠れる面の面積は種結晶基板の裏面全体の面積の10分の1以下であるのが好ましい。この割合が高すぎると、種結晶基板のエッチングによる応力緩和の効果が十分に得られなくなるためである。
具体的には、例えば、図6に示すように、種結晶基板1を側壁10aを有する容器10の底壁10b上に複数のブロック17を介して設置し、種結晶基板1の裏面にエッチング作用を加えるためのガスgを導入する。図6では、容器10の底壁10bの中央部にはガスgを供給する供給管18が接続されており、供給管18から導入されたガスgが、容器10の底壁10bと種結晶基板1との間を流れ、種結晶基板1の裏面16がガスgによりエッチングされる。更に、裏面16に沿って流れたガスgが、容器10の側壁10aと種結晶基板1の外周部との間から放出され、種結晶基板1上に成長する窒化物半導体結晶2のうち、主に外周端部8の窒化物半導体結晶2をエッチングする。
【0042】
上記のエッチング作用は、定常的に加えるのが好ましいが、断続的に加えても良い。例えば、本発明の目的を達成するためには、エッチング作用を持つガスを、ウエハの外周部に定常的に流すのが好ましい方法の一つであるが、この場合ウエハの外周部全体にガスの放出口を設置する必要がある。一方、ウエハの外周の一部にのみエッチング作用を持つガスの放出口を設け、あるいは、ウエハ外周部へ一方向からエッチング作用を持つガスを吹きつけ、ウエハを回転することで、ウエハ外周部全体あるいはウエハ裏面全体を断続的にエッチングすることもできる。エッチング作用が十分であれば、この方法には、装置構成が簡便になるというメリットがある。
【0043】
上記のエッチング作用を発現させる方法は幾つかあるが、一つの好ましい方法としては、窒化物半導体の成長を、成長とエッチングとが共存する環境で行い、上記のエッチング作用を加える面の近傍の成長原料を希釈することで、上記のエッチング作用を強めるようにする方法がある。成長とエッチングが共存する環境としては、例えば、MOVPE成長やHVPE成長などの気相成長において、成長雰囲気に水素、塩素、塩化水素などを添加した場合が対応する。この場合、成長原料の希釈は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを供給することで行うのが好ましい。例えば、図3において、原料ガスG中に成長原料(III族原料およびV族原料)に加えて水素、塩素、塩化水素などのエッチング作用を持つガスを添加し、容器5の側面6近傍に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを供給して、原料ガスG中の成長原料を希釈する。
適切なエッチング作用を得るためのこれらの希釈ガス(不活性ガス)の添加量の望ましい値は、成長条件により異なるが、III族原料の供給量の10分の1から10倍の範囲で、上述した成長速度およびエッチング速度を実現するように設定するのが好ましい。
また、Naフラックス法や安熱合成法などの閉鎖系で行われる溶液を用いた成長に対しても本発明は適用可能である。これらの場合には、意図的に成長する面の近傍の溶液よりも原料の溶解度の少ない溶液を、エッチング作用を加える面の近傍に強制的に導入することでエッチング作用が発現する。
【0044】
上記のエッチング作用は、エッチング作用を加える面の近傍へ、エッチング作用を持つガスあるいは液体(溶液)を供給することで発現させても良い。
上記のエッチング作用を持つガスとしては、水素、塩素、塩化水素の少なくともいずれか一つを含むのが好ましい。適切なエッチング作用を得るために、これらのエッチング性ガスの添加量の望ましい値は、成長条件により異なるが、III族原料の供給量の10分の1から10倍の範囲で、上述した成長速度およびエッチング速度を実現するように設定するのが好ましい。
Naフラックス法や安熱合成法においては、上記と同様に、意図的に成長する面の近傍の溶液よりも成長原料の溶解度の少ない溶液がエッチング作用を有する液体(溶液)となる。
【0045】
図4に、エッチング作用を加える面の近傍にエッチング作用を持つガスを供給する上記方法の一実施形態を示す。この実施形態における容器は、側壁10aを有するカップ状の容器10と、種結晶基板1を載置するトレー3とから主に構成されている。トレー3の載置面(設置面)4と側壁10aの側面とにより、浅いカップ形状の容器の内面を構成し、この容器の内面の底面外周からエッチング作用を持つガスgが、この容器内の外周部に導入されるようにした。
容器10の底壁10bの中央部にはエッチング作用を持つガスgを供給する供給管11が接続され、供給管11を挿通させてトレー3を支持する支持軸13が設けられている。支持軸13上のトレー3は、容器10の底壁10bと所定の間隙を隔てて配置されている。供給管11から容器10の底壁10bの中央部に供給されたガスgは、トレー3と底壁10bとの間を支持軸13を中心に放射状に流れ、トレー3の外周面と側壁10aの内周面との間に形成された環状のガス放出口(ガス吹出口)19から流出する。一方、トレー3の載置面4上に設置された種結晶基板1の成長面上(種結晶基板の主面上)には、成長原料を含む原料ガスGが供給され、種結晶基板1上に窒化物半導体結晶2が成長する。この窒化物半導体結晶2の外周端部8は、ガス放出口19から放出されるエッチング作用を持つガスgにより、所定のエッチングを受ける。
【0046】
また、窒化物半導体結晶の成長を、触媒の作用によりエッチング種を発生する物質を供給しつつ行い、上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面の少なくとも一部を触媒物質とすることで、エッチング作用を発現させても良い。本方法は、局所的なガス・液体の導入を伴わないため、前述の2種類の方法よりも簡便な装置にて実施できるというメリットがある。
上記の触媒の作用によりエッチング種を発生する物質としては水素ガスが好ましく、触媒物質としては金属または金属の窒化物であるのが好ましい。
水素ガスは、高温状態の金属または金属窒化物からなる触媒物質と接触して、強いエッチング作用を持つ原子状水素が生成され、生成された原子状水素が拡散して窒化物半導体結晶に到達してエッチングするものと推測される。原子状水素は不安定であって短時間で反応して消滅してしまう。従って、原子状水素によるエッチング作用は、容器の内面から離れるにつれて急速に減衰し、容器の内面から一定の距離の内側にある窒化物半導体結晶のみがエッチングされる。すなわち、容器の内面付近は、容器の内面からの距離とともにエッチング作用が弱まる雰囲気となり、窒化物半導体結晶のエッチングが過度で窒化物半導体結晶の多くがエッチングされてしまったり、エッチングが不十分で窒化物半導体結晶にクラックが生じてしまったりすることなく、適切なエッチングを行うことができる。
【0047】
また、上記触媒物質である金属としては、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)が好ましい。例えば、上記の金属の無垢材からなる容器の内面を、窒化物半導体成長前に窒化物半導体結晶の成長装置内で窒化し、その後に結晶成長を行うのは、本発明の好ましい実施形態の一つである。なお、窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面に、上記金属または金属窒化物の膜を形成するようにしても良い。
本方法は、例えば、図3において、原料ガスGの水素ガスを添加し、容器5の側面6が上記金属または金属窒化物で形成されていればよい。また、例えば、図4、図6において、ガスgに水素ガスを含ませ、図4または図6の容器10の側壁10aの内面、あるいは容器10の底壁10bが上記金属または金属窒化物で形成されていればよい。
【0048】
上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の側壁と窒化物半導体結晶との距離は、成長開始から成長終了までの期間、1〜10mmの範囲であるのが好ましい。この距離が1mmより近いと、若干の成長条件の変動によって窒化物半導体結晶が容器の内面に接触し、容器と窒化物半導体結晶とが固着し、固着することで応力が生じて窒化物半導体結晶にクラックが発生する。逆に、この距離が10mmより遠いと、エッチング作用の減衰の急峻性が失われ、外周端部のみの成長をエッチングにより選択的に阻害することができなくなる。容器の内面と窒化物半導体結晶との距離は、例えば、図3(b)に示す距離dである。
【0049】
上記の窒化物半導体結晶の製造方法により実現される、板状の種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長した窒化物半導体エピタキシヤルウエハにあっては、前記窒化物半導体結晶が、前記種結晶基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶と、前記主面方向に成長した窒化物半導体結晶の外周端部に、前記主面から傾いた面方向に成長し、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶とを有していないか、有していた場合でも、高い不純物濃度の窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に、成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体エピタキシヤルウエハが得られる。
このため、成長中、冷却中の窒化物半導体結晶のクラック発生が劇的に抑制され、高い歩留が実現可能である。ここでいう高い不純物濃度とは、意図した面上の結晶である主面方向に成長した窒化物半導体結晶はその不純物濃度にある程度の面内分布を有するが、その分布の不純物濃度の最大値を遥かに超えるほど(例えば2倍以上)の高い不純物濃度であるという意味であり、意図した主面上の結晶の不純物濃度分布の範囲内あるいは主面上の結晶の不純物濃度の最大値を僅かに超える程度の不純物濃度値を意味するものではない。
【0050】
窒化物半導体エピタキシヤルウエハの外周端部に高い不純物濃度の窒化物半導体結晶が成長した場合でも、その成長厚が主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満であれば、成長中、冷却中のクラックの発生が抑制されるが、さらに窒化物半導体エピタキシャルウェハの反りも低減することが可能となる。
上記の窒化物半導体エピタキシヤルウエハにおいて、特にサファイア基板上のGaN層を成長したエピタキシヤルウエハにおいては、従来のエピタキシヤルウエハよりも反りの小さいエピタキシヤルウエハが実現できる。通常、サファイア基板上にGaN層を成長した場合には、GaN層の表面を上に向けた場合に、上側に凸状にエピタキシヤルウエハが反る。従来の製造方法により作製した窒化物半導体エピタキシヤルウエハの外周端部には高い不純物濃度の窒化物半導体結晶が、主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1以上成長しており、窒化物半導体エピタキシャルウェハの曲率半径が小さく、反り量が大きくなった。一方、本発明の実施形態に係る製造方法により作製した窒化物半導体エピタキシャルウェハは、曲率半径が大きく、反り量が低減されていた。
図11に、本発明の成長方法と従来の製造方法を用いて、様々な厚さYのサファイア基板上に様々な厚さtのGaN層を成長したときに得られたエピタキシャルウエハの曲率半径Rを測定した結果を示す。図11(a)は直径50mm、厚さ350μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、図11 (b)は直径100mm、厚さ900μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、図11(c)は直径150mm、厚さ1500μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合のデータである。
この窒化物半導体エピタキシヤルウエハの主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚と、窒化物半導体エピタキシャルウェハの反りの関係性について検討したところ、以下の式(1)のような関係であることがわかった。エピタキシヤルウエハの曲率半径をR(m)、GaN層の厚さをt(μm)、係数をAとすると、
R=A/t ……式(1)
と記述できる。
これらの結果から、本発明の製造方法により作製したエピタキシャルウェハと、従来の製造方法により作製したエピタキシャルウェハを比較したところ、サファイア基板厚さY(μm)と係数Aが下記式のような相関をもつことが明らかとなった。
従来法で成長したサファイア上のGaN層の場合、サファイア基板の厚さをY(μm)とした場合に、前記係数Aは、
A≦0.00249×Y1.58483 ……式(3)
となるが、本発明の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法を用いることで、
A>0.00249×Y1.58483 ……式(2)
となり、より曲率半径を大きくすることが可能であることが明らかとなった。
曲率半径が大きく、すなわち反り量の小さいエピタキシヤルウエハは、上記のGaN層上に発光ダイオードやトランジスタ構造を形成し、これにフォトリソグラフィープロセスなどを施す場合に有利である。フォトリソグラフィープロセスにおいて、エピタキシヤルウエハが大きく反っていると、エピタキシヤルウエハに転写する素子パターンの分解能が劣化し、微細な素子を形成することが不可能となり、またフォトリソグラフィー工程の歩留が低下するなどの悪影響があるためである。
【0051】
また、上記の窒化物半導体結晶の製造方法により実現される、窒化物半導体自立基板においても、その外周端部に、窒化物半導体自立基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶を有していないか、有していた場合でも、外周端部の高い不純物濃度の窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体自立基板が得られる。
このため、成長中、冷却中の窒化物半導体結晶のクラック発生が劇的に抑制され、高い歩留が実現可能である。ここでの高い不純物濃度の意味も、上記窒化物半導体エピタキシヤルウエハの場合と同様である。
【0052】
以上では、意図的に成長する面がGa極性のC面のGaN結晶について説明したが、原理的には、本発明はAlN、InN、BNおよび、これらの混晶のIII族極性のC面や、それ以外の全ての面を意図した成長面とする場合に適用可能である。例えば、III族極性のC面から0.1〜2度の範囲で、A軸、M軸あるいはその中間の方向に傾いた面、或いはN極性のC面、A面、M面、R面、その他の半極性面、またはそれらN極性面や半極性面の微傾斜面などを意図した成長面とすることができる。
【0053】
また、本発明はN極性のC面を表面とする形態で窒化物半導体結晶を成長する場合にも適用可能である。この場合、種結晶基板としてはN極性面を表面(意図して成長する面)として配置し、その上に結晶成長を行うことになる。この場合、窒化物半導体結晶の端面は図2とは逆の傾きを持ち、成長に従いN極性のC面が拡大する。このためN面成長による窒化物半導体結晶の成長は、より大口径の窒化物半導体基板(窒化物半導体自立基板)を実現するためには非常に有効な手法である。
しかしながら、従来のHVPE装置を用いた場合には、N極性面成長においても、III族極性面上の成長と同様に端面での成長による応力が発生し、高い歩留を得るのは困難であった。
【0054】
ところが、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を用いることにより、N面成長においても高い歩留で窒化物半導体自立基板の成長が可能である。
具体的には、図5に示すように、容器12の側壁12aの側面14と種結晶基板1が載置される容器12の底壁12bの載置面15とのなす角度θが90度より大きく135度以下の範囲にあって、容器12内部の断面をその開口部側に向けて拡大した形状とし、窒化物半導体結晶2が窒素面を成長面としてその径を拡大しつつ成長させるのがよい。
特にN面成長においては、設置面と容器の側面とのなす角度が90度(設置面に対して垂直な側面)より大きく135度以下の範囲で上方に開くように側壁を設置することで、窒化物半導体結晶の端部にエッチング作用を施しつつ、かつ、種結晶基板よりN面の面積を拡大した窒化物半導体結晶を形成することが可能となる。この配置の場合、窒化物半導体結晶の端部に出易い結晶面のほとんどが135度以下の角度を持つため、側壁のなす角度が135度より大きい場合には、窒化物半導体結晶の成長とともに、側壁と窒化物半導体結晶の外周端部との距離が増加し、成長が進行すると、エッチング作用が弱まって外周端部の窒化物半導体結晶の成長が大きくなり、外周端部の応力によりクラックが発生し易くなり、従来法と同様の結果しか得られない。
この角度θが135度以下の場合には、側壁12aと窒化物半導体結晶2の外周端部との距離は、外周端部への成長とエッチングが釣り合う距離に一定に保たれやすいため、外周端部の成長速度は低い値に保たれ、クラックの発生が抑制される。特に、側壁12aの開く角度θが120度以下の場合には、これより小さな角度を成す安定な窒化物半導体の結晶面が少ないため、外周端部での成長速度がほぼ0に抑えられ、更に高い成長歩留を得ることができる。
【0055】
上述したように、上記実施形態の窒化物半導体結晶の製造方法を、窒化物半導体結晶の成長に適用することで、異種基板上の薄膜成長においては、従来よりも厚い窒化物半導体層をクラック無く成長することが可能となり、従来法よりも大幅な歩留向上が可能となる。また、窒化物半導体自立基板の製造に上記実施形態の窒化物半導体結晶の製造方法を適用することで、やはり窒化物半導体結晶のクラックによる不良を大幅に低減することが可能となる。更に、上記実施形態の窒化物半導体エピタキシヤルウエハや窒化物半導体自立基板は、残留歪が少ないため、発光ダイオードやレーザーダイオードの製作、高電子移動度トランジスタやヘテロテロバイポーラトランジスタの製作に適している。
【0056】
なお、上記実施形態で用いた図3〜図6のそれぞれ容器等の構成を適宜組み合わせて窒化物半導体結晶の成長を実施するようにしても良い。例えば、図5に示す容器12の底壁12bに、図4に示すようなエッチング作用を持つガスを供給する供給管を設けると共に、供給管を挿通させた支持軸上にトレーを設け、このトレー上に図5に示す種結晶基板1を設置して、図5に示すような成長方向に拡大した窒化物半導体結晶2を結晶成長させるようにしても良い。
【実施例】
【0057】
本発明を以下の実施例(変形例を含む)によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1及び比較例1]
(比較例1)
比較例1においては、図7に示す従来と同様な構成の縦型配置のHVPE装置を用いて、サファイア基板である種結晶基板1上に、低温成長GaNバッファ層を介して2〜20μmのGaN層を成長した。HVPE装置は、上部の原料部32と下部の成長部33とに分かれており、結晶成長を行うリアクター(成長炉)20の原料部32の外周部には原料部ピーク30が、リアクター20の成長部33の外周部には成長部ピーク31がそれぞれ設けられている。原料部ピーク30によってリアクター20内の原料部32は約800℃に、また成長部ピークによってリアクター20内の成長部33は500〜1200℃に加熱される。
原料部32から成長部33に向けて、ガスを供給するV族ライン(V族ガス供給配管)23、III族ライン(III族ガス供給配管)25、エッチング/ドープライン(エッチングガス/ドープガス供給配管)24の3系統のガス供給ラインが設置されている。V族ライン23からは、窒素源であるNH3(アンモニアガス)とともにキャリアガスとして水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスが供給される。III族ライン25からは、HClとともにキャリアガスとして水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスが供給される。III族ライン25の途中には金属ガリウム27を貯留するGa融液タンク26が設置されており、ここでHClガスと金属ガリウムが反応しGaClガスが生成され、GaClガスが成長部33へと送り出される。エッチング/ドープライン24からは、未成長時およびアンドープGaN層成長時には水素と窒素の混合ガスが、n型GaN層成長時にはSi源であるジクロロシラン(SiH2Cl2、水素希釈により濃度100ppm)とHClガスと水素ガス及び窒素ガスが導入される。また、エッチング/ドープライン24からは、成長後にリアクター20内に付着したGaNを除去するために行う1100℃程度の温度でのベーキング時には、塩化水素ガスと水素、窒素が導入される。
リアクター20内の成長部33には3〜100rpm程度の回転数で回転するトレー3が水平に設置され、そのガス供給ライン23〜25の出口と対向したトレー3の設置面(載置面)4上に種結晶基板1が設置される。トレー3は鉛直方向に配設された回転軸(支持軸)13上に設けられており、回転軸13の回転によりトレー3が回転する。原料ガスは種結晶基板1上へのGaN成長に使用された後、リアクター20の最下流部から外部に排気される。リアクター20内での成長は、比較例1では全て常圧(1気圧)にて実施した。
各ラインの配管23、24、25、Ga融液タンク26、トレー3の回転軸13は高純度石英製であり、トレー3はSiCコートのカーボン製である。サファイア基板としては、表面がC面からM軸方向に0.3°傾斜した表面を持ち、厚さが900μm、直径が100mmのものを用いた。
【0059】
HVPE成長としては、以下のように実施した。サファイア基板1をトレー3上にセットした後、純窒素を流しリアクター20内の大気を追い出す。次に、3slmの水素ガスと7slmの窒素ガスとの混合ガス中にて、成長部33の基板温度を1100℃として、10分間保持した。その後、基板温度を550℃として、低温成長GaNバッファ層を1200nm/時の成長速度で20nm成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン25からHClを1sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン23からアンモニアを1slmと水素を2slm、エッチング/ドープライン24から水素を3slmそれぞれ供給した。
低温成長GaNバッファ層の成長後、基板温度を1050℃に上昇し、2〜20mmのアンドープGaN層を120μm/時の成長速度で成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン25からHClを100sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン23からアンモニアを2slmと水素を1slm、エッチング/ドープライン24から水素を3slmとした。
成長後にアンモニア2slmと窒素8slmを流しつつ、基板温度を室温付近まで冷却した。その後、数十分間窒素パージを行い、リアクター20内を窒素雰囲気としてから、基板を取り出した。
【0060】
上記のようにして、2〜20μmの範囲でGaN層の厚さを異にする複数のエピタキシャルウエハを作製した。各GaN層厚さのエピタキシヤルウエハについて20枚ずつ作製した際の、歩留、GaN層のX線回折(XRD)測定による(0002)回折の半値幅の平均値および(10−12)回折の半値幅の平均値を図8に丸印○で示す。ここで歩留としては、GaN層に長さ5mm以上のクラックが1本でも生じたものを不良と考えて算出した。
図8(a)、(b)、(c)に示すように、GaN層の厚さが4μmまでは歩留がほぼ100%であり、GaN層の厚さが増加とともにXRD半値幅は減少した。しかしながら、GaN層の厚さを5μm以上にすると、クラックが発生しはじめ、歩留が減少する(図8(a))。また、クラックの発生に伴い、GaN層の結晶性が劣化し、XRD半値幅が増大している(図8(b)、(c))。
【0061】
上記の従来のHVPE装置で成長したGaN層の断面を蛍光顕微鏡(紫外光を当て、可視光領域の光を観察する)で観察したところ、図9に示すような色の違うGaN結晶の領域が見られた。図9の下部には、図9の上部の蛍光顕微鏡による観察像における結晶領域の輪郭線の図を示す。なお、図9に示す蛍光顕微鏡による観察像は、GaN自立基板上にGaN結晶を厚く成長させた場合の観察像を示しているが、GaN結晶2 aの主表面(C面)から300μmの位置での、C面から傾いた面上に成長した外周端部のGaN結晶2bの厚さが44μmであり、GaN結晶2bの厚さがGaN結晶2aの厚さの10分の1以上であり、GaN結晶の外周端部に大きな応力が発生し、クラックの発生が見られた。
GaNのバンドギャップに対応する発光そのものは紫外領域なので蛍光顕微鏡では観察できないが、不純物濃度が異なると欠陥準位の濃度が変化するため色の違いとなって観察される。つまり、図1、図2を用いて説明したように、図9において色の異なる2つの領域は不純物濃度の違いを反映したものであり、各々別の結晶面上に成長したために不純物の取り込み効率の違いにより不純物濃度の違いが生じているのである。
具体的には、図中、淡い灰色の部分がC面f1で成長したGaN結晶2aで、黒に近い濃い灰色の部分がC面f1から傾いた面f2で成長したGaN結晶2bの領域である。これらの各領域の不純物濃度をマイクロラマン測定により調べたところ、C面f1で成長したGaN結晶2aでは0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3程度のn型であったのが、C面f1から傾いた面f2で成長したGaN結晶2bでは同じn型ではあるものの、GaN結晶2aの2倍以上の1×1019/cm3〜5×1019/cm3という極めて高い不純物濃度となっていた。成長時にはドーピングガスを流さなかったが、成長装置の構成部材などから放出された不純物が成長中に結晶に取り込まれたものと考えられる。これらの各領域についてSIMS測定を行った結果、これらのn型伝導性はSiおよび酸素の取り込みによるものであることが判明した。このことより、外周部のC面から傾いた面f2上に成長した結晶2bは、C面f1上の結晶2aよりも不純物の取り込み効率が高く、極めて高い不純物濃度となっているため、平坦部に成長した結晶2aとの間に応力が発生し、これが膜厚を増やすほどクラックが発生し歩留が低下する原因となっていると推測される。
【0062】
(実施例1)
比較例1におけるGaN結晶の外周端部に成長する高不純物濃度のGaN結晶2bの成長を抑制するために、上記図7のHVPE装置における種結晶基板1を支持し回転するトレー3及び回転軸(支持軸)13を含む構造部分を、図4と同様な構造に改造し、実施例1の方法を実施する図10のHVPE装置とした。すなわち、図10に示すHVPE装置では、種結晶基板1の設置面(載置面)4の外周部全体にパージガスgを導入できる構造とした。図10のHVPE装置では、回転軸13及びパージガスgを供給する供給管11を一体的に回転させている。
トレー3の外周面と側壁10aの内周面との間に形成される環状のパージガスgのガス放出口19の上方には、設置面4から3mmの高さまで側壁10aを設けた。トレー3の設置面4と側壁10aの側面とにより、るつぼ形状ないし浅いカップ形状の容器の内面を構成した。側壁10aの側面と種結晶基板1の外周端面との距離は5mmとした。
この実施例1のHVPE装置を用いて、上記比較例1と同様の条件でサファイアの種結晶基板1上にGaN層の成長を行った。低温成長GaNバッファ層と1050℃でのアンドープGaN層の成長時の各ラインの流量は上記比較例1と同じとした。ただし、種結晶基板1周囲のパージガスgとして3slmの窒素を導入した点が、上記比較例1と異なる。
【0063】
このようにして成長した様々な厚さのGaN層を有するエピタキシヤルウエハを、各GaN層厚さについて20枚ずつ作製したときの、歩留、X線回折(XRD)測定による(0002)回折の半値幅の平均値および(10−12)回折の半値幅の平均値を図8のバツ印×で示す。従来方法を適用した図7のHVPE装置を用いた比較例1では、GaN層厚が5μmを超えると歩留が急激に低下したが、実施例1の図10のHVPE装置によるGaN層成長では、GaN層の厚さが8μmまでは、ほぼ100%の歩留であった。実施例1では、GaN層の厚さが8μmを超えると徐々に歩留は低下したが、その低下の度合いは比較例1よりもずっと緩やかであり、20μmの厚さにおいてもなお15%の歩留が得られた。また、比較例1では歩留が低下するGaN層の厚さが5〜6μmにおいて、最小のXRD半値幅として(0002)回折では120秒、(10−12)回折では350秒が得られた。これを超える厚さにおいてXRD半値幅が増加した。これに対して、実施例1のHVPE装置によるGaN層では、15μmの厚まで半値幅が減少し続け、最小の半値幅として(0002)回折では60秒、(10−12)回折では150秒が得られた。
すなわち、実施例1の図1 0に示すHVPE装置を用いることにより、従来よりも厚いGaN層を歩留良く成長でき、このようにして成長した厚いGaN層においては、従来よりも改善した結晶性を得られるということが示された。
【0064】
実施例1のHVPE装置によるGaN層の断面を、蛍光顕微鏡により観察した結果を図12に模式的に示す。比較例1の図9の場合と同様に、C面f1上のGaN結晶2aとC面f1から傾いた面f2上のGaN結晶2bとで色の違いは見られることもあったが、その場合でもC面から傾いた面f2の法線方向d2に成長したGaN結晶2bの厚さは非常に薄く、最大でもC面f1の法線方向d1で成長したGaN結晶2aの10分の1未満の厚さであった。すなわち、種結晶基板1の外周に窒素パージを行った結果、種結晶基板1の外周部付近の成長原料が希釈されると共に、水素ガスやHClガスによるエッチング作用が強まり、GaN結晶2の外周端部にあるC面から傾いた面上のGaN結晶2bの成長速度が、C面上のGaN結晶2aの成長速度の10分の1未満となっているということである。実施例1のGaN結晶2に対するマイクロラマン測定の結果、結晶2a、結晶2bのそれぞれの不純物濃度は、比較例1と同様な不純物濃度であった。
以上の結果より、実施例1の図10のHVPE装置を用いたことにより、GaN結晶2の外周部のC面から傾いた面上への高不純物濃度の結晶2bの成長が抑制され、クラックが抑制されたと考えられる。また、この結果、クラックを防止しつつ厚くGaN層2を成長できるようになったため、従来以上の結晶性の改善が達成されたのである。
【0065】
更に、実施例1の方法を用いると、サファイアの異種基板上にGaN層を成長し、成長後にエピタキシヤルウエハを室温にまで冷やした際のエピタキシヤルウエハの曲率半径を、比較例1よりも大きくできることが判明した。
サファイア基板上にGaN層を成長した場合には、GaN表面を上に向けた場合に、上側に凸伏にエピタキシヤルウエハが反る。例えば、比較例1により直径2インチで350μm厚のサファイア基板上にGaN層を8μm成長した場合には、その反り量(GaN表面の中心と端部の高低差)はおよそ120μmであり、その際のウエハの曲率半径は2.6m程度である。これを、実施例1の方法を用いると、同一のサファイア基板上にGaN層を8μm成長した場合、反り量は50μmと小さくなり、曲率半径は6mと大きくなる。
【0066】
様々ひな厚さのサファイア基板上に様々な厚さのGaN層を成長し、比較検討したところ、サファイア基板上のGaN層の曲率半径R(m)は、GaN層の厚さをt(μm)とすると、係数Aを用いて、
R=A/t ……式(1)
と記述できることが明らかとなった。
【0067】
つまり、本発明の製造方法により作製されたエピタキシャルウェハは、前述した式(2)を満たし、曲率半径が大きく、反り量の小さいエピタキシヤルウエハとなる。上記のGaN層の上に発光ダイオードやトランジスタ構造を形成し、これにフォトリソグラフィープロセスなどを施す場合に有利である。フォトグラフィープロセスにおいて、エピタキシヤルウエハが大きく反っていると、エピタキシヤルウエハに転写する素子パターンの分解能が劣化し、微細な素子を形成することが不可能となり、フォトリソグラフィー工程の歩留が低下するなどの悪影響がある。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の方法において、サファイアの種結晶基板1外周部へのパージガスgである上記窒素ガスの流量を、2.0slmから10slmの範囲で種々に変更して、実施例1と同様の実験を行った。
【0069】
パージ窒素ガスの流量が2slm以上の場合には、エピタキシヤルウエハの歩留、GaNの結晶性、エピタキシヤルウエハの曲率半径ともに実施例1の結果とほぼ同等の結果が得られた。また、パージ窒素ガス流量が2〜5slmの間では、C面から傾いた面の成長速度はC面上の成長速度の10分の1未満から0の範囲であった。このため、従来例のような外周部での応力の発生が抑制され、クラックの発生が抑制されたのである。
また、パージ窒素流量が6slm以上でも、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。しかしこの場合には、断面の蛍光顕微鏡の観察においてもC面から傾いた面上での成長は全く見られなかった。この場合には、サファイア基板上の成長領域の広さが、パージ窒素ガス流量5slmの場合よりも縮小しており、GaN成長層の端面では成長ではなくエッチグが生じていると判断された。エッチング速度は、C面上の成長速度と同等の成長速度から10分の1の成長速度までの範囲であった。
このエッチング速度は、更に速くても歩留と結晶性の観点からは問題が無い。しかしながら、エッチング速度が速すぎると、最終的に得られる結晶の大きさが極端に小さくなるので、実用的にはエッチング速度は意図した成長面(C面)上の成長速度以下であるのが望ましいと考える。
【0070】
ここで、パージ窒素ガス流量を増やした場合に、まずC面から傾いた面上の成長速度が減少し、更にはエッチングが生じることの意味を考える。本実施例でのGaNの成長においては、成長雰囲気に水素を含む。 GaNは高温では水素によりエッチングされることが知られており、GaNが成長するということは、成長速度がエッチング速度を上回った結果と考えられる。すなわち、本実施例の状況においては、GaNの成長を成長とエッチングが共存する環境で行っており、エピタキシヤルウエハ外周部を窒素でパージし原料ガスを希釈することで、GaN結晶の外周部でのエッチング作用が強められ、成長速度の減少やエッチングが観察されることになる。
上記のエッチングが、エピタキシヤルウエハ外周端部のGaN結晶にのみ作用することから、本実施例のパージ窒素ガスの流量の範囲では、エッチング作用はるつぼ状の容器の側壁内面から距離が離れると急速に弱まるものと考えられる。
(参考例)
実施例2の製造方法において、パージ窒素ガスの流量を1slm以下とした場合、エピタキシヤルウエハの歩留、GaNの結晶性、エピタキシヤルウエハの曲率半径ともに比較例1とほぼ同様の結果となった。
これは、パージガスgの流量が少なかったために、エピタキシャルウェハのC面から傾いた面の法線方向の成長速度がC面上の成長速度の1/5以上となっており、C面から傾いた面の法線方向に成長した不純物濃度の高い結晶部分がC面上の結晶の成長厚の1/10以上となったため、従来例と同様に外周部に応力が発生したのが原因と考えられる。よって、パージガスgは1slmよりも多いほうがよく、2slm以上が好適であることが分かる。
【0071】
(実施例3)
実施例3では、実施例2と同様の実験を、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガスをアルゴン、ヘリウムに変えて行ったところ、実施例2とほぼ同様の結果が得られた。この結果から、パージガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム以外の不活性ガスを用いて、本発明の効果が得られるものと考えられる。
【0072】
(実施例4)
実施例4では、実施例2と同様の実験を、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガスを水素、塩素、塩化水素といったGaNをエッチングするガスを用いた。その結果、パージガス流量の範囲は実施例2とは異なるが、C面から傾いた面上での成長速度をC面上の成長速度の10分の1未満となるように適切にパージガス流量を調整することで、実施例2と同様の結果が得られた。
また、実施例4の方法は、原料ガスとして供給するガスに含む水素の量を、実施例1〜3の場合よりも減らせるという利点がある。このため、実施例1〜3よりも意図した成長面におけるエッチング作用が減り、原料効率が向上するという利点がある。
【0073】
(実施例5)
実施例5では、図7に示すHVPE装置のトレー3上に、高さ3mmの円筒状の金属製のリングを追加して設置し、リングの内周面とトレー3の設置面4とによって、るつぼ形状の容器の内面を構成した。上記リングの材質としてはTi(チタン)とし、成長前にHVPE装置内でアンモニア2slm、水素8slm中で2時間窒化処理を施し、リングの表面を窒化チタンに変えて結晶成長を行った。
このリングを追加したHVPE装置で、比較例1と同様の実験を行ったところ、実施例1の場合と同様の歩留向上、結晶性改善、曲率半径増大の効果が得られた。また、この場合には、C面から傾いた面に対するエッチングが生じており、そのエッチング速度はC面上の成長速度の3分の1程度であった。
【0074】
実施例5では、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガス供給がなかったが、パージガス供給と同等の効果が得られたのは、容器の側壁を構成するリングの金属窒化物が触媒となり、原料ガス中に含まれる水素が分解され強いエッチング作用を持つ原子状水素を発生したためと考えられる。
同様の側壁として、例えば石英やカーボンのリングで構成した場合には、クラックは抑制されなかった。また、金属窒化物のリングを用いた場合でも、原料ガス中の水素の総流量を1slm以下とした時には、C面から傾いた面上の成長速度が速くなり、クラックが生じた。以上の結果から、金属窒化物の存在と、ある程度の水素の量が必要であることが示され、金属窒化物の触媒効果による原子状水素の発生によるエッチング作用の発現という考えが裏付けられる。
また、原料ガス中の水素流量を2〜7slmの範囲で変えた場合には、実施例2のパージガス流量を変えた場合と同様に、C面から傾いた面上での成長速度(エッチング速度)が変化したが、成長速度としてはC面上の成長速度の10分の1未満であり、エッチング速度としてはC面上の成長速度以下であり、この範囲においては、実施例1と同様の歩留向上と結晶性の改善効果が見られた。
【0075】
(実施例6)
実施例6では、実施例5と同様の実験を、容器側壁を構成するリングの金属材料をZr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかとして行った。その結果、実施例5と同様の結果が得られた。
【0076】
(実施例7)
実施例7では、実施例1〜6と同様の実験を、GaN層の最上部の2〜3μmの成長時にエッチング/ドープライン24よりジクロロシラン(SiH2Cl2)を導入し、0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3の不純物濃度のn−GaN層を成長した。成長条件により異なるバックグラウンドの不純物濃度(アンドープでの不純物濃度)と、ジクロロシランによるドープとを併用した成長である。この場合にも、実施例1〜6と同様の結果を得た。
【0077】
(実施例8)
実施例8では、実施例1〜7同様の実験を、成長温度、ガス流量、成長速度、成長圧力を様々に変えて行った。得られる歩留やXRD半値幅は上記実施例とは若干異なるものの、GaN結晶外周部のC面から傾いた面の成長速度がC面の成長速度の10分の1未満で有る場合に、歩留向上と結晶性の改善が見られるという実施例1〜7と同様の結果が得られた。
また、これまでの実験全体を通じて、GaN成長層のGa極性のC面と、外周に発生するC面から傾いた面とのなす角度は、GaN結晶のM軸方向を向いた端部ではM面が形成され90度となりやすく、それ以外の端部では図12に示すように、C面とC面から傾いた面のなす角度が110度〜135度程度である傾斜した面が生じた。
【0078】
(実施例9)
実施例9では、実施例1〜8と同様の実験を、GaN結晶と側壁の距離を0.5〜20mmの範囲で変化させて行った。上記の距離が1mmよりも小さい場合には、成長中に、エピタキシヤルウエハのGaN結晶端面が容器側壁と接触する場合が生じた。この場合、エピタキシヤルウエハ端面のGaN結晶と側壁が固着したのが原因で、成長中に応力が発生し、クラックが発生しやすくなった。また、上記の距離が10mmよりも大きい場合には、エピタキシヤルウエハ端部のみに局所的にエッチング作用を加えることが難しくなり、クラックを生じさせないような条件を選択すると、GaN層が成長する領域の縮小が顕著に見られた。
以上より、GaN結晶と側壁との距離としては1〜10mmが適切と判断した。
【0079】
以上の実施例から、歩留良く厚くて結晶性の高い(XRD半値幅の狭い)GaN層を成長するためには、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁とGaN結晶外周との距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、るつぼ形状の容器の内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器の内面のうち成長開始時にGaNと接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、上記実施例により実現されるGaN層の特徴としては、意図的に成長をおこなった面上(実施例では主にGa極性のC面)の結晶の外周部にある不純物濃度の高い結晶部分の成長厚が、意図的に成長をおこなった面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。また、上記実施例によるGaNエピタキシヤルウエハは、従来法よりも大きな曲率半径を持つ点も、デバイス応用上は重要な利点である。
【0080】
[実施例10及び比較例2]
実施例10及び比較例2では、上記特許文献3に記載のボイド形成剥離法(VAS法)によるGaN自立基板の製作を行った。
【0081】
(比較例2)
図13にVAS法の概要を示す。まず種結晶基板としてボイド基板40を準備した(図13(a))。ボイド基板40は、サファイア基板41上に有機金属気相成長法(MOVPE法)などで厚さ300nm程度のGaN薄膜を成長し、その表面にTi膜を蒸着し、水素、アンモニア中で熱処理することで得られる。上記熱処理により、Ti膜を網目構造のTiN層43に変換するとともに、GaN薄膜に多数のボイド44が形成されたボイド含有GaN層43としたものである。
次に、ボイド基板40上に、HVPE法により厚くGaN層45を成長し(図13(b))、その後、ボイド部分よりサファイア基板41を剥離して、GaN自立基板となるGaN結晶(GaN単結晶)46を得た(図13(c))。
サファイア基板41としては、C面からA軸あるいはM軸方向、またはその間の方向に0.05〜2°の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが300〜1500μm、直径が35〜200mmのものを用いた。上記のボイド基板製作時のTiの厚さは5〜100nmとした。
【0082】
HVPE成長の条件としては、例えば、基板温度800〜1200℃、圧力10kPa〜120kPaで、30〜1000μm/時の成長速度とし、上記ボイド基板40上に、35〜200mm径で50μm〜10mm厚のGaN単結晶を製作した。成長装置としては、図7に示すHVPE装置を用いた。各ラインの流量は以下の範囲とした。III族ライン25からHClを25〜1000ccm、水素を2slmに加え、窒素をIII族ライン25の総流量が3slmとなる流量とした。V族ライン23からアンモニアを1〜2slmと水素を1slmに加えて、窒素をV族ライン23の総流量が3slmとなる流量とした。また、エッチング/ドープライン24からは水素を3slm流した。
【0083】
ボイド基板上に形成されるGaN単結晶の転位密度は、ボイド基板製作時のTiの厚さで決定される。Ti膜が薄いほど、ボイド基板のMOVPE成長したボイド含有GaN層43中の転位がその上に形成される厚いGaN単結晶45に伝播されやすいため、高転位密度となる。Ti膜厚が5〜100nmの範囲で得られるGaN単結晶の転位密度は、1×104/cm2〜1×108/cm2の範囲である。
また、得られたGaN結晶は、成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面であった。このGaN結晶中の電子濃度としては、アンドープ成長あるいは成長中に添加するジクロロシランの流量を調整して、1×1015/cm3〜5×1018/cm3の範囲とした。
【0084】
これらの各種条件の組み合わせにより、50μm〜10mm厚のGaN結晶(GaN層)を成長した場合の歩留(同条件で20枚成長した際の不良ではない割合、5mm以上の長さのクラックが生じると不良と定義した)の成長厚依存性を図14の丸印○に示す。歩留は、キャリア濃度や転位密度にはほとんど依存せず、GaN結晶の厚さのみに強く依存した。GaN結晶の厚さが100μm以下の場合、100%近い歩留が得られたが、GaN結晶の厚さが100μmを超えると歩留は急激に減少し、800μmを超える厚さのGaN自立基板(GaN結晶)の歩留は10%未満であった。
【0085】
これらのGaN自立基板(GaN結晶)の断面を蛍光顕微鏡で観測したところ、図9に示す様に比較例1と同様な異なる色の領域がGaN自立基板の端部に観測され、側面に垂直な方向の成長速度は主面に垂直な成長速度の1/10以上であった。これらの各部分のGaN結晶をマイクロラマン法で調査したころ、自立基板(GaN結晶)端部の傾いた面上に成長したGaN結晶と、Ga極性のC面上に成長したGaN結晶では不純物濃度が異なり、C面上のGaN結晶では0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3程度のn型であったのが、C面から傾いた面で成長したGaN結晶では同じn型ではあるものの、その2倍以上の1×1019/cm3〜5×1019/c m3という極めて高い不純物濃度となっていた。
【0086】
(実施例10)
一方、実施例10では、実施例5と同様に図7のトレー3上に触媒となる金属窒化物のリングを設置したHVPE装置、あるいは図10に示すHVPE装置を用い、実施例1〜9などと同様に、種結晶基板であるボイド基板40外周に、希釈ガス、エッチングガスあるいは水素ガスを導入する本発明の方法により、実施例1〜9と同様に、C面から傾いた面のGaN結晶の成長速度を、C面のGaN結晶の成長速度の10分の1未満とした場合には、図14のバツ印×に示す様に歩留は劇的に向上した。GaN層の厚さが1500μmまでは、ほぼ100%の歩留が得られ、最も厚い10mmの場合にも10%の歩留を維持していた。
【0087】
ただし、上記の結果はGaN層4 5の表面が容器側壁の高さよりも低い位置にある場合に限った話であり、GaN層45の成長表面が側壁の高さよりも高くなった場合には、歩留が急激に低下した。これは、GaN層45の表面が側壁よりも高くなると、GaN結晶の外周部でのエッチング作用が弱まり、外周部での成長が生じるために応力が発生したためである。また、GaN結晶45と側壁との距離が1mmよりも小さい場合にも、側壁とGaN結晶が固着しクラックが発生し、歩留が悪化した。GaN結晶45と側壁の距離が10mmよりも広い場合には、歩留低下は生じないものの、エッチング作用を端面のみに局在させることが困難となり、GaN結晶の成長領域が大幅に縮小してしまった。
また、実施例8でも述べたように、GaN成長層のGa極性のC面と、外周に発生するC面から傾いた面とのなす角度は、GaN結晶のM軸方向を向いた端部ではM面が形成され90度となりやすく、それ以外の端部では図12に示すように、C面とC面から傾いた面のなす角度が110度〜135度程度である傾斜した面が生じやすかった。しかし、成長条件を適切に選ぶことで、外周全体でこの角度を90度とすることも可能である。
【0088】
実施例10及び比較例2から、歩留良く厚いGaN自立基板を得るためには、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁と基板外周の距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、るつぼの内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、本実施例により実現されるGaN自立基板の特徴としては、GaN自立基板の外周部にC面上の結晶より高い不純物濃度の結晶部分の成長厚が、C面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。
【0089】
[実施例11及び比較例3]
一般的に、VAS法を含む各種の手法により異種基板上に実現されるGaN自立基板は、成長中のGaN結晶には厚さ方向に、例えば108/cm2から105/cm2までという大幅な転位密度の低減が生じる。この転位密度の低減に伴いGaN結晶中には残留歪が導入されるため、このような異種基板上に成長したGaN自立基板には多くの場合、歪が残留した状態となっている。典型的には、C面を表面とするGaN自立基板の場合、成長直後にはC面が2〜4mの曲率半径を持つことになる。
この歪の存在が、実施例10の図8などに示すように、本発明の方法を用いた場合においてさえも、GaN成長厚が1500μmを超えるとクラックの発生により歩留が低下する原因となっている。
このような残留歪は、VAS法などにより得られるGaN自立基板の裏面を研磨して除去することで大幅に低減できる。例えば、1500μm厚のGaN自立基板を成長後に裏面を1000μm除去すると、成長直後に2〜4mであったC面の曲率半径は10m以上にまで増大する。このような裏面を研磨したGaN自立基板を種結晶とすると、残留応力が極めて小さくなるため、異種基板上の成長では不可能なほど厚いGaN層を成長できると期待できる。
【0090】
(比較例3)
比較例3では、実施例1 0において本発明の方法で、VAS法により成長した1500μm厚のGaN自立基板の裏面(N極性のC面)を1000μm研磨し、更に表面側(Ga極性のC面)を100μm研磨し平坦度を高めた400μm厚のGaN自立基板を種結晶として用いた。そして、このGaN自立基板のGa極性側の表面にHVPE法によりGaN層を成長した。
種結晶となるGaN基板としては、表面がGa極性のC面からA軸あるいはM軸方向、あるいはその中間の方向に0.05〜2゜の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが400mm、直径が35〜200mmのものを用いた。典型的な転位密度としては1×106/cm2であった。
【0091】
HVPE成長の条件としては、例えば、基板温度800〜1200℃、圧力10kPa〜120kPaで、30〜1000μm/時の成長速度とし、50μm〜100mm厚のGaN単結晶を製作した。成長装置としては、図7に示すHVPE装置を用いた。各ラインの流量は以下の範囲とした。III族ライン25からHClを25〜1000ccm、水素を2slmに加え、窒素をIII族ライン25の総流量が3slmとなる流量とした。V族ライン23からアンモニアを1〜2slmと水素を1slmに加えて、窒素をV族ライン23の総流量が3slmとなる流量とした。また、エッチング/ドープライン24からは水素を3slm流した。
また、ここで用いたGaN単結晶(種結晶)は、VAS法による成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面であった。GaN結晶中の電子濃度としては、アンドープ成長あるいは成長中に添加するジクロロシランの流量を調整して、1×1015/cm3〜5×1018/cm3のものを準備した。
【0092】
これらの各種条件の組み合わせにより、50μm〜100mm厚のGaN結晶(GaN層)を成長した場合の歩留(5mm以上の長さのクラックが生じると不良)の成長厚依存性を図15の丸印○に示す。この場合にも、歩留は、キャリア濃度や転位密度にはほとんど依存せず、GaN結晶の厚さのみに強く依存した。VAS法によるGaN結晶(種結晶基板)上に新たに成長したGaN結晶の厚さが500μm以下の場合、100%近い歩留が得られたが、GaN結晶の成長層の厚さが1mmを超えると歩留は急激に減少し、10mmを超える厚さのGaN自立基板(GaN結晶)の歩留は10%未満であった。
【0093】
これらのGaN自立基板の断面を蛍光顕微鏡で観測したところ、図2に模式的に示す様に、図9と同様な異なる色の領域が端部に観測され、それぞれの面に垂直な方向の成長速度はほぼ同等であった。これらの各部分をマイクロラマン法で調査したころ、ウエハ端部の傾いた面上に成長した結晶と、Ga極性のC面上に成長した結晶では不純物濃度が異なり、C面上の結晶では0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3程度のn型であったのが、C面から傾いた面で成長した結晶では同じn型ではあるものの、その2倍以上の1×1019/cm3〜5×1019/cm3という極めて高い不純物濃度となっていた。
【0094】
(実施例11)
一方、実施例11では、実施例5と同様に図7のトレー3上に触媒となる金属窒化物のリングを設置したHVPE装置、あるいは図10に示すHVPE装置を用い、実施例1〜9などと同様に、種結晶基板であるGaN基板の外周に、希釈ガス、エッチングガスあるいは水素ガスを導入する本発明の方法によりGaN結晶の成長を行った。C面から傾いた面の成長速度を実施例1〜9と同様に意図した成長面の成長速度の10分の1未満とした場合には、図15のバツ印×に示す様に歩留は劇的に向上した。VAS法によるGaN結晶(種結晶基板)上に新たに成長したGaN結晶の厚さが5mmまでほぼ100%の歩留が維持され、このGaN結晶の成長層の厚さが100mmの場合でもなお50%の歩留が維持された。
【0095】
図16に、実施例11を用いGaN自立基板を種結晶として成長したGaN自立基板の外周端部の断面を蛍光顕微鏡で観察した結果を模式的に示す。端面の高不純物濃度の結晶2bは存在するものの、その量は少なく、結晶2bの成長速度は最大でもC面上の結晶2aの成長速度の10分の1未満と見積もられた。また、GaN結晶2の成長厚が薄い場合には、結晶成長に伴い端部にC面から傾いた結晶面f2が生じるため、C面f1の面積が徐々に縮小していた。しかしながら、C面f1が縮小し続けることはなく、GaN結晶2をある程度(最大でも2mm程度)厚く成長し、端面と側壁の距離がある値となった後は、端面がC面に対して90度の垂直な面f3を成したまま、C面の形状と面積を一定に保ちつつ成長が進行した。これは、端面と容器側壁の内面との距離が広がることにより、側壁側からのエッチング作用が弱まり、端面での成長とエッチングが釣り合ったために生じる現象である。
【0096】
ただし、上記の結果はC面で成長するGaN結晶2aの表面が容器の側壁の高さよりも低い位置にある場合に限った話であり、GaN結晶2aの成長表面が側壁の高さよりも高くなった場合には、歩留が急激に低下した。これは、GaN結晶2a表面が側壁よりも高くなると、GaN結晶2の外周部でのエッチング作用が弱まり、外周部での結晶成長が生じるために応力が発生したためである。また、GaN結晶と側壁との距離が1mmよりも小さい場合にも、側壁とGaN結晶が固着しクラックが発生し、歩留が悪化した。GaN結晶と側壁の距離が10mmよりも広い場合には、歩留低下は生じないものの、エッチング作用を端面のみに局在させることが困難となり、GaN結晶の成長領域が大幅に縮小してしまった。
【0097】
実施例11及び比較例3から、歩留良く厚いGaN自立基板を得るためには、種結晶として窒化物半導体自立基板を用いた場合においても、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁とGaN結晶外周との距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、容器の内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、本実施例により実現されるGaN自立基板の特徴としては、GaN自立基板の外周部にC面上の結晶より高い不純物濃度の結晶部分の成長厚が、C面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。
【0098】
(実施例12)
実施例11において、GaN成長厚が5mmを超える場合に歩留が低下したのは、種結晶基板として用いたGaN自立基板に僅かながら歪が残留しているためである。そこで、実施例12では、成長中にGaN結晶の外周端面ばかりではなく、歪の残留する種結晶基板のGaN自立基板の裏面にもエッチング作用を加えることで、更なる歩留の向上を試みた。
【0099】
実施例12で用いた方法としては、実施例11と同様の方法において、種結晶基板の裏面に高さ1〜2mmの石英製、カーボン製、あるいは、金属窒化物のブロック(上記実施形態の図6に示すようなブロック17)を設置し、種結晶基板を設置面(例えば容器の底面)より浮かし、種結晶基板の裏面にもエッチング作用が生じるようにした。例えば、設置面の中心にもパージガスの出口を設け、そこから水素、塩素、塩化水素などのエッチング性のガスを導入する方法や、設置面を金属窒化物とし、原料ガスに水素を添加するなどの方法を用いた。
【0100】
これらの方法による種結晶基板の裏面のエッチング速度は、温度や、成長雰囲気、成長圧力、パージガス流量などにより変化したが、エッチング速度がGa極性のC面の成長速度の100分の1以上の場合に、実施例11よりも高い歩留を得ることができた。歩留は裏面のエッチング速度が高まると上昇したが、裏面のエッチング速度がGa極性のC面の成長速度の20分の1以上では一定となった。
図17に裏面のエッチング速度がGa極性のC面の成長速度の20分の1の場合の、歩留とGaN成長層の厚さの関係を示す。 GaN成長の厚さが100mmの場合でもなお90%の高い歩留を維持している。
【0101】
(実施例13)
実施例13では、実施例11、12と同様の実験を、Ga極性のC面ではなく、N極性のC面を成長面としてGaNを成長させてGaN自立基板を作製した。
この場合、従来のHVPE装置を用いた場合には、GaN結晶の端面は図16とは逆の傾きを持ち、成長に従いC面が拡大する。このためN面成長によるGaN自立基板の成長は、より大口径のGaN基板を実現するためには非常に有効な手法である。
しかしながら、従来のHVPE装置を用いた場合には、N面成長においても、Ga面成長と同様に、端面での成長結晶による応力が発生し、高い歩留を得るのは困難であった。
【0102】
しかし、本発明の方法を用いることにより、N面成長においても実施例11、12と同様に高い歩留でGaN自立基板の作製が可能であることが確認された。更に、この場合、N面の拡大傾向とエッチング作用が釣り合うことで、円筒状の容器形状を踏襲したN面の面積が一定のままGaN結晶が成長した、円柱状の自立基板を得ることができた。このような自立基板は、これをスライスすることにより一定の径のウエハを効率良く生産できるため、工業的に非常に有用な形態である。
【0103】
また、特にN面成長においては、例えば、図5に示す上記実施形態のように、容器12の側壁12aの側面と種結晶基板1が載置される容器12の底壁12bの載置面15とのなす角度θが90度より大きく135度以下の範囲とし、側壁12aの側面が開口部に向けて開くようにすることで、GaN結晶2の端部にエッチング作用を施しつつ、かつ、種結晶基板1よりN面の面積を拡大することが可能となる。
容器の側面と容器の載置面とのなす角度θが135度より大きい場合には、GaN結晶端部に出易い結晶面が135度以下の角度を持つため、GaN層の成長とともに、容器側面とGaN結晶の外周端部の距離が増加し、GaN結晶の外周端部にGaN成長が生じ、このGaN成長によりクラックが発生し易くなり、従来法と同等の結果しか得られない。
この角度θが135度以下の場合には、容器側面とGaN結晶外周端部の距離は、GaN結晶端部への成長とエッチングが釣り合う距離に一定に保たれやすいため、GaN結晶の外周端部の成長速度はほぼ0に保たれ、クラックの発生が抑制される。特に、角度θが120度以下の場合には、これより小さな角度を成す安定なGaNの結晶面が少ないため、より高い成長歩留を得ることができ、図14や図17に示す上記実施例の結果とほぼ同じ結果が得られる。
【0104】
次に、本発明の変形例を以下に述べる。
(変形例1)
変形例1では、実施例1〜9と同様の実験を、サファイア基板の径を50〜200mm、サファイア基板の表面(主表面)をGa極性のC面から0.1〜2度の範囲でA軸、M軸あるいはその中間の方向に傾いた面や、A面、M面、R面やその他の半極性面や、それらの面の微傾斜面などとした場合にも行ったが、実施例1〜9とほぼ同様の結果が得られた。
【0105】
(変形例2)
変形例2では、変形例1と同様の実験を、サファイア基板を、SiC基板、Si基板に変更して行ったが、変形例1と同様の効果が確認された。
【0106】
(変形例3)
変形例3では、実施例1〜9と同様の実験を、バッファ層を低温成長GaNバッファ層から、低温成長AlNバッファ層、高温成長AlNバッファ層に変えて行った。各バッファ層の厚さは10nm〜2μmの間であった。いずれの場合においても、実施例1〜9と同様の結果が得られた。
【0107】
(変形例4)
変形例4では、実施例1〜9と同様の実験を、種結晶基板の上面に凹凸加工を施した種結晶基板を用いて行った。凹凸加工の形状としては、凸部の高さが0.1〜2μm、間隔が1〜10μm、形状が椀形、円錐型、三角錐形〜六角錐形の多角錐形、およびこれらの頂上に平坦部を有する形状などを用いた。また凸部の配置としては、三角格子状あるいは四角格子状の格子の目の位置に配置し、格子の辺がA軸あるいはM軸を向くものを用いた。これらの凹凸加工を施した種結晶基板を用いた窒化物半導体層を下地として、発光素子を形成すると、平坦な種結晶基板上を用いた場合の発光素子よりも光取出し効率が向上するという利点がある。
変形例4のいずれの場合においても、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を適用した場合、実施例1〜9と同様の効果が得られた。
【0108】
(変形例5)
変形例5では、実施例10〜1 3と同様の実験をA面、M面、R面やその他の半極性面や、それらの微傾斜面などとした場合にも行ったが、実施例10〜13とほぼ同様の結果が得られた。
【0109】
(変形例6)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法の原理は、成長方法としては、HVPE法に限らず、MOVPE法、安熱合成法、Naフラックス法に変えた場合においても適用可能である。
【0110】
(変形例7)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法は、GaN以外の窒化物半導体材料、例えば、AlN、InN、BNや、GaNを合むこれらの材料の混晶に対しても適用可能である。
【0111】
(変形例8)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法の原理は、窒化物半導体以外の半導体や、半導体以外の結晶性の材料に関しても適用可能である。
【0112】
(変形例9)
本発明の方法は、図7、図10に示すような縦型配置の結晶成長装置(HVPE装置、MOVPE装置)ばかりではなく、図18に示す水平フロー配置のMOVPE装置、HVPE装置にも適用可能である。すなわち、図18に示すように、矩形筒体状のリアクター(成長炉)50を水平の配置し、リアクター50の底壁の開口部に、側壁51aを有する容器51を設け、容器51内にはトレー3を容器51の底壁51bから隔てて設置する。底壁51bにはエッチング作用を持つガスgを供給する供給管53が接続されており、供給管53を貫通させて回転軸52が設けられている。トレー3は回転軸52上に回転自在に支持され、リアクター50の外周部にはピーク(図示せず)が設けられている。原料ガスGは、リアクター50内を一端から他端へと水平に流れ、トレー3上に設置された種結晶基板1上で結晶が成長する。一方、供給管52から容器51内に供給されたガスgは、トレー3との底壁10bとの間を、トレー3に沿って放射状に流れ、トレー3の外周面と側壁10aの内周面との隙間から流出する。
また、本発明の方法は、例えば、サセプタ上の同一円周上に沿って複数の種結晶基板を配置し、サセプタ上の複数の種結晶基板を自公転させ、サセプタの中心部からサセプタに沿って放射状に各種結晶基板に原料ガスを流す結晶成長装置、すなわち中心吹出し自公転型の多数枚チャージ型の結晶成長装置にも適用可能である。
更には、図7、図10、図18のような成長面が上を向くフェースアップ型の配置ばかりではなく、成長面が下側を向くフェースダウン型の配置や、成長面が鉛直方向や斜め傾斜した方向を向く結晶成長装置に対しても、種結晶基板の保持方法を工夫することで適用可能である。ただし、種結晶基板の裏面をエッチングする場合には、種結晶基板を全てエッチングしてしまうと、成長開始時の位置から結晶がずれたり、落下したりするので、裏面のエッチング量をある程度の量に抑える必要がある。
【符号の説明】
【0113】
1 種結晶基板(異種基板または窒化物半導体自立基板)
2 窒化物半導体結晶(GaN結晶)
2a C面で成長する窒化物半導体結晶
2b C面から傾いた面で成長する窒化物半導体結晶
3 トレー
4 載置面(設置面)
5、10、12 容器
5a、10a、12a 側壁
5b、10b、12b 底壁
6、14 側面
7、15 底面
8 窒化物半導体結晶の外周端部
9 意図して成長する面(C面)
11、18 パージガスの供給管
17 ブロック
f1 C面
f2 C面から傾いた面
G 原料ガス
g パージガス(エッチング作用を持つガス)
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体結晶の製造方法、窒化物半導体エピタキシヤルウエハ、および窒化物半導体自立基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系材料の成長は、有機金属気相成長法(MOVPE法)やハイドライド気相成長法(HVPE法)などの気相成長法が主に用いられる。これらの成長においては、サファイア基板、SiC基板、あるいは窒化物半導体基板などの種結晶基板をホルダ、トレーなどに設置し、種結晶基板へ原料ガスを供給して窒化物半導体を成長する。具体的には、有機金属気相成長法であれば、トリメチルガリウム(TMG)やトリメチルアルミニュウム(TMA)などの有機金属ガスとアンモニアを供給することで、窒化物半導体を種結晶基板上に成長する。また、ハイドライド気相成長法であれば、ホルダ、トレーなどに設置された種結晶基板に、塩化ガリウム(GaCl)ガスや塩化アルミニュウム(AlCl、AlCl3)などのIII族原料ガスとアンモニアを供給することで、窒化物半導体を種結晶基板上に成長する。
種結晶基板としては、サファイア、SiC、Si等からなる異種基板や、GaNやAlN等からなる窒化物半導体自立基板などが用いられる。これらの種結晶基板上に、通常はGa面などのIII族極性のC面が表面となるように結晶成長が行われ、この面がデバイス形成に用いられる。
【0003】
窒化物半導体の結晶成長の際に問題となる点に、窒化物半導体の成長層が厚くなると、成長層にクラックが生じやすくなる点が挙げられる。
これは、特に異種基板上の薄膜成長であれば、種結晶基板とその上に成長する窒化物半導体層の熱膨張係数が大きく異なる場合に問題となる。例えば、サファイア基板上のGaN層の成長に際しては、GaN層の厚さが5〜6μmを超えた場合に、クラックが発生し易くなる。SiC基板上やSi基板上の成長では、複雑な応力緩和層などを組み込まない限り、更に薄い2〜3μm程度のGaN層でもクラックが生じてしまう。このようにGaN層の成長可能な厚さに制限があることで、応用可能なデバイスの種類が制限されたり、デバイス特性の向上が妨げられたりと、様々な不都合が生じる。
【0004】
異種基板上の薄膜成長におけるクラックの発生メカニズムは、通常以下の様に説明される。成長温度(〜1000℃)で異種基板上にGaN層を成長しても、成長中には大きな応力は発生しない。しかし、成長後に、異種基板上にGaN層を形成した窒化物半導体エピタキシヤルウエハの温度を室温に戻した際に、熱膨張率差による応力が発生し、バイメタル効果により窒化物半導体エピタキシヤルウエハが反る。サファイア基板上のGaN層では厚さが5〜6μmを超えると、応力が臨界値を超え、GaN層にクラックが導入される。ここでは、5〜6μmをサファイア基板上のGaN層厚の臨界値(臨界膜厚)としたが、実際にはこの臨界値は、使用する成長装置や成長条件などで異なり、どの程度の成長厚でクラックが生じるかに関しては、現状では明確な予測は難しい状況にある。
【0005】
上述の数μm厚程度の薄膜成長の際に生じるクラックと同様に、数100μm〜数mm厚の窒化物半導体自立基板の成長においてもクラックの発生は大きな問題となっている。
窒化物半導体自立基板の製造は、上記の薄膜の場合と同様に異種基板を種結晶として用いる場合と、窒化物半導体自立基板を種結晶として用いる場合の2通りがある。
【0006】
異種基板上への自立基板製造においては、例えば特許文献3に記載のボイド形成剥離法(VAS法)を用いた場合には、異種基板とその上に成長する窒化物半導体層との間の応力をボイド層により緩和することができる。このため、上記の薄膜成長の場合の様な異種基板と窒化物半導体層の間の応力によるクラックの発生は抑制され、100μm程度の膜厚の窒化物半導体層をクラック無しで成長可能となる。しかしながら、この場合にも、成長開始時の状況は薄膜成長の場合と同様であり、成長の最初期から外周端部においてC面から傾いた面での成長は生じ、これが応力発生の原因となり、窒化物半導体層の厚さが100μmを超えると、成長中や冷却時にクラックが発生し易くなる。一般的な半導体ウエハの厚さは、ハンドリングの容易性の観点から、400μm〜1mm程度が求められるため、窒化物半導体自立基板の成長においても、この程度の非常に厚い窒化物半導体層を成長する必要がある。このため、外周端部の応力の存在によるクラックの発生は、窒化物半導体自立基板の製造における歩留を極端に低下させる深刻な問題となっている。
【0007】
なお、特許文献1には、リアクターの内壁あるいは下地基板を載置するサセプタの近傍に付着する窒化物半導体多結晶を除去するために、成長後にリアクター内にエッチングガスを導入することにより、冷却中における窒化物半導体基板のクラック発生やリアクターの内壁の損傷を抑制する方法が記載されている。特許文献1の方法では、窒化物半導体層を厚く成長した場合に、成長中のクラック発生を低減できず、窒化物半導体結晶の歩留を高くできないとともに、サセプタの近傍の不要な窒化物半導体多結晶が多くなるため取得できる窒化物半導体基板の面積が小さくなってしまう。また、特許文献2には、GaNの成長中にエッチングガスとしてHCl(塩化水素ガス)をリアクター内に供給し、リアクターの内壁に付着するGaNを減少させる方法が記載されている。更に、特許文献4には、サファイア基板上にGaN層を成長させた積層体の反りを低減するために、サファイア基板に窒化処理及び塩化水素ガスによるエッチング処理を施すことにより、サファイア基板の表面に窒化アルミニウムの凹凸構造を形成し、この窒化アルミニウムの凹凸構造を有するサファイア基板上にGaNを成長する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−320811号公報
【特許文献2】米国特許第6632725号明細書
【特許文献3】特開2004−039810号公報
【特許文献4】特開2007−106667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように異種基板上のGaN薄膜の臨界膜厚の予測が難しい原因の一つとして、端面の効果が挙げられる。
通常、デバイス作製に用いられるのはGa極性のC面であり、図1に示すように、異種基板である種結晶基板1上に窒化物半導体を形成したエピタキシヤルウエハの表面は、ほぼその全面がGa極性のC面f1で成長する窒化物半導体結晶2aで覆われている。しかしながら、エピタキシヤルウエハの外周端部では内周部(C面成長の平坦部)とは状況が異なり、C面f1から傾いた面f2を表面とした窒化物半導体結晶2bが成長する。図1では、GaN結晶である窒化物半導体結晶2が、異種基板(例えばサファイア基板)である種結晶基板1から成長を開始し、時間が進むにつれて点線の様に結晶成長が進む様子を模式的に示している。すなわち、種結晶基板1の主面(例えばC面)上に成長するC面成長の窒化物半導体結晶2aの面(成長面)f1は、f1-1,f1-2,f1-3と順次成長し、また、C面f1から傾いた面f2で成長する外周端部の窒化物半導体結晶2bの面(成長面)f2は、同様にして、f2-1,f2-2,f2-3と順次成長する。
結晶の面が異なると、表面のダングリング・ボンドの密度や表面再構成の仕方が異なるため、不純物の取込効率が大きく異なるのが一般的である。このため、窒化物半導体エピタキシヤルウエハの成長において、ウエハの内周部の窒化物半導体結晶2aと外周端部の窒化物半導体結晶2bとでドーピングされる不純物濃度が大きく異なる状況が生じる。不純物濃度の違いは、結晶の弾性的、塑性的性質や、熱的性質、格子定数などに影響を及ぼすため、不純物濃度の違う結晶が隣接すると、それらの結晶間に応力が発生する。すなわち、外周部にC面とは異なる成長面を持つウエハにおいては、外周端部にC面成長の結晶2aとは異なる不純物濃度の結晶2bの領域が発生し、外周端部に大きな応力を内包することになり、クラック発生の原因となる。この外周端部の不純物濃度の異なる領域の大きさや、外周端部の不純物濃度の値が、装置構成や成長条件により変化するため、異種基板上のGaN薄膜の臨界膜厚の予測が困難となるのである。
【0010】
また、窒化物半導体自立基板自体を種結晶基板として用いた場合にも、窒化物半導体結晶の外周端部にC面以外の面の結晶成長が生じ、これが応力発生の原因となりクラックが生じる。すなわち、図2に示す様に、トレー3の載置面4上に、窒化物半導体自立基板の種結晶基板1を設置して、この種結晶基板1上に窒化物半導体結晶2の成長を行うと、種結晶基板1の主面(例えばC面)上に成長するC面成長の窒化物半導体結晶2aの外周端部に、C面f1から傾いた面f2で成長する応力発生の原因となる窒化物半導体結晶2bが成長する。
また、窒化物半導体自立基板を種結晶基板として用いた場合には、このような外周端部の応力以外にも、そもそも種結晶である自立基板自体が応力を内包して歪んでいる場合や、種結晶である自立基板の窒化物半導体とその上に成長する窒化物半導体層の成長条件が異なるなどの原因により、窒化物半導体自立基板(種結晶基板)とその上に成長する窒化物半導体層(成長層)との間に応力が生じる場合が多く、これらが成長中や冷却時のクラック発生の原因となることが多々ある。
【0011】
上述したように、異種基板である種結晶基板上の窒化物半導体の薄膜成長、あるいは窒化物半導体自立基板である種結晶基板上の窒化物半導体結晶の成長のいずれの場合にも、種結晶基板の主面上などに目的とする窒化物半導体結晶を意図的に成長を行う際に、意図的に成長を行った窒化物半導体結晶以外の窒化物半導体結晶が、例えば窒化物半導体結晶の外周端部や種結晶基板である窒化物半導体自立基板として存在し、これらが応力発生の原因となり、窒化物半導体結晶のクラックの発生原因となっている。
【0012】
本発明の目的は、窒化物半導体結晶のクラック発生を抑制でき、窒化物半導体結晶の歩留の向上が図れる窒化物半導体結晶の製造方法、及びこの方法により実現される窒化物半導体エピタキシヤルウエハおよび窒化物半導体自立基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記窒化物半導体結晶の成長中に、前記種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加えながら、前記窒化物半導体結晶を成長させる窒化物半導体結晶の製造方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、
前記種結晶基板の外側を取り囲む側壁を有する容器内に前記種結晶基板を設置し、前記容器の内面のうち成長開始時に前記種結晶基板と接触しない前記内面の部分付近の環境を、前記窒化物半導体結晶の成長中にエッチング作用を加える環境とすることで、結晶成長の全期間を通じて前記窒化物半導体結晶が前記容器の内面の部分に接触することなく且つ前記容器内部の断面形状に相似するような断面形状で前記窒化物半導体結晶が成長する窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記側壁の側面を含む窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第2又は第3の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記種結晶基板を設置する側の面を含む窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第2〜第4の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の前記環境が、前記側壁の側面からの距離とともに前記エッチング作用が弱まる環境にある窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0017】
本発明の第6の態様は、第2〜第5の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶の成長を、成長とエッチングが共存する環境で行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の成長原料を希釈することで、前記エッチング作用を強めるようにした窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0018】
本発明の第7の態様は、第6の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記成長原料の希釈が、窒素、アルゴンまたはヘリウムを含む不活性ガスを供給することで行われる窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0019】
本発明の第8の態様は、第2〜第5の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近に、エッチング作用を持つガスあるいは液体を供給することで、前記エッチング作用を加えるようにした窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0020】
本発明の第9の態様は、第8の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記エッチング作用を持つガスが、水素、塩素、塩化水素の少なくともいずれか一つを含む窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第2〜第5の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶の成長を、触媒の作用によりエッチング種を発生する物質を供給しつつ行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の少なくとも一部を前記触媒の作用を有する触媒物質とすることで、前記エッチング作用が発現される窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0022】
本発明の第11の態様は、第10の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記触媒の作用によりエッチング種を発生する物質が、水素ガスである窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0023】
本発明の第12の態様は、第10又は第11の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記触媒の作用を有する触媒物質が、金属または金属の窒化物である窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0024】
本発明の第13の態様は、第12の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記金属が、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかである窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0025】
本発明の第14の態様は、第2〜第13の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器のエッチング作用が生じる内面と前記窒化物半導体結晶との距離が、結晶成長開始から終了までの期間、1〜10mmの範囲にある窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0026】
本発明の第15の態様は、第2〜第14の態様のいずれかの窒化物半導体結晶の製造方法において、前記側壁の側面と前記種結晶基板が載置される前記容器の載置面とのなす角度が90度より大きく135度以下の範囲にあって、前記容器内部の断面がその開口部側に向けて拡大した形状であり、前記窒化物半導体結晶が窒素面を成長面としてその径を拡大しつつ成長する窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0027】
本発明の第16の態様は、板状の種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長した窒化物半導体エピタキシヤルウエハであって、前記窒化物半導体結晶は、前記種結晶基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶と、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の外周端部に、前記主面から傾いた面方向に成長し、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶とを有していないか、有していた場合でも、高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体エピタキシヤルウエハである。
【0028】
本発明の第17の態様は、第16の態様の窒化物半導体結晶の製造方法において、前記種結晶基板がサファイア基板であり、前記窒化物半導体結晶がGaN層である窒化物半導体エピタキシャルウエハであって、前記窒化物半導体エピタキシャルウエハの曲率半径をR(m)、前記GaN層の厚さをt(μm)、前記サファイア基板の厚さをY(μm)、係数をAとした場合に、次の式(1)、(2)
R=A/t ……式(1)
A>0.00249×Y1.58483 ……式(2)
を満足する窒化物半導体エピタキシャルウエハである。
【0029】
本発明の第18の態様は、板状の窒化物半導体自立基板であり、その外周端部に、前記窒化物半導体自立基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶を有していないか、有していた場合でも、前記外周端部の高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体自立基板である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、種結晶基板上に成長する窒化物半導体結晶のクラック発生を抑制でき、歩留の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来法により異種基板である種結晶基板上に成長した窒化物半導体層の外周端部の近傍の断面模式図である。
【図2】従来法により窒化物半導体自立基板である種結晶基板上に成長した窒化物半導体層の外周端部の近傍の断面模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示すものであって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の要部構成を示す断面図である。
【図7】比較例1において使用した従来のHVPE装置の概略図である。
【図8】本発明の実施例1および比較例1において、サファイア基板上に形成したGaN層の特性を示すもので、(a)はGaN層の厚さと歩留との関係、(b)はGaN層の厚さと(0002)回折半値幅との関係、(c)はGaN層の厚さと(10−12)回折半値幅との関係を示すグラフである。
【図9】比較例1において種結晶基板上に形成したGaN結晶の断面を蛍光顕微鏡で観察した像を示す図である。
【図10】実施例1において使用した本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を実施するHVPE装置の概略図である。
【図11】実施例1と比較例1の方法を用いて、様々な厚さのサファイア基板上に様々な厚さのGaN層を成長したときに得られたエピタキシャルウエハの曲率半径Rを測定した結果を示すもので、(a)は直径50mm、厚さ350μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、(b)は直径100mm、厚さ900μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、(c)は直径150mm、厚さ1500μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合の結果を示すグラフである。
【図12】実施例1において図10のHVPE装置を用いて異種基板である種結晶基板上に成長したGaN層の外周端部近傍の断面の模式図である。
【図13】実施例10及び比較例2において用いたVAS法によるGaN自立基板の製造方法を示す工程図である。
【図14】本発明の実施例10および比較例2における、異種基板上に成長したGaN結晶の厚さと歩留の関係を示すグラフである。
【図15】本発明の実施例11および比較例3における、GaN基板上に成長したGaN成長層の厚さと歩留の関係を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例11におけるGaN自立基板を種結晶として成長したGaN結晶の外周端部の近傍の断面模式図である。
【図17】本発明の実施例12におけるGaN基板上に成長したGaN成長層の厚さと歩留の関係を示すグラフである。
【図18】本発明の変形例9における、水平フロー方式の成長装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(知見)
本発明者は、窒化物半導体の成長時にクラックが生じ易いと言う欠点を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、上述したように、異種基板あるいは窒化物半導体自立基板からなる種結晶基板上へ成長を行う際に、成長を行おうと意図している成長面上(例えば種結晶基板の主面上)へ成長される結晶とは異なる性質の結晶が、例えば意図して成長させている窒化物半導体結晶の外周端部に、あるいは種結晶基板自体として存在し、これらの結晶が意図している成長面上の窒化物半導体結晶との間に応力を生じ、これが成長中にクラックが生じる原因となることを見出した。
この知見に基づき、本発明者は、窒化物半導体結晶の意図している成長面以外の面に成長している部分(特に外周端部)、または種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加え、応力を発生する外周端部の成長を抑制し、または応力の原因となる種結晶基板としての窒化物半導体自立基板を成長中に徐々にエッチングすることで、窒化物半導体結晶の成長時のクラックを抑制する本発明の窒化物半導体結晶の製造方法に想到した。
【0033】
以下に、本発明の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法、窒化物半導体エピタキシヤルウエハ、および窒化物半導体自立基板を説明する。
【0034】
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法は、例えば図3に示すように、種結晶基板1の外側を取り囲む側壁5aを有する、るつぼ状乃至浅いカップ状の容器5内の底壁5b上に種結晶基板1を設置し、種結晶基板1の成長面上(種結晶基板1の主面上)へと原料ガスGを供給して、種結晶基板1上に窒化物半導体結晶2を成長する。容器5の内面のうち成長開始時に種結晶基板1と接触していなかった内面の部分(図3では側壁5aの側面6及び底壁5bの底面7のうち側面6付近の部分)付近の環境・雰囲気を、成長中の窒化物半導体結晶2にエッチング作用を加える環境・雰囲気とする。これにより、結晶成長の全期間を通じて窒化物半導体結晶2が容器5の内面の部分に接触することなく且つ容器5内部の断面形状(図3では円形)に相似するような断面形状で窒化物半導体結晶2が成長する。
【0035】
上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面は、容器の側壁の側面を含むのが好ましい。また、窒化物半導体自立基板である種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する場合には、上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面には、容器の側壁の側面に加えて、窒化物半導体自立基板を設置する側の面を含むのが好ましい。
【0036】
上記の窒化物半導体と接触しない容器の内面の部分付近のエッチング環境・エッチング雰囲気は、容器の内面からの距離とともにエッチング作用が弱まるのが好ましい。エッチング作用が内面からの距離とともに弱まらない場合には、成長期間中に成長する窒化物半導体結晶の多くがエッチングされてしまうおそれがある。
また、エッチング作用が内面からの距離と共に減衰する場合においても、内面から離れた位置でもエッチング作用が強すぎると、窒化物半導体結晶の主面上に成長する成長層が失われてしまう。また、エッチング作用が弱すぎると、窒化物半導体結晶の成長層に意図しない面(例えば端面)での成長が生じ、成長中の窒化物半導体結晶に応力が発生し、窒化物半導体結晶にクラックが生じてしまう。これらのことから、エッチング作用の強さ、及び容器の内面からの距離によるエッチング作用の弱まり(減衰)の度合いは、過大な応力が発生しないように、あるいは応力が除去されるように適切に選択する必要がある。
【0037】
このエッチング作用が、例えば図3に示すような、るつぼ状の容器5の側面6付近に存在すると、種結晶基板1上に成長する窒化物半導体結晶2の外周端部(端面)8の成長が抑制される。つまり意図して成長する面(例えばC面)9の結晶とは不純物濃度の異なる外周端部8の結晶の成長が抑制され、外周端部8の結晶に起因する応力によってクラックが発生することを抑制できる。この状況では、容器の内面の断面形状(図3では円形)を概ね相似した断面形状の窒化物半導体結晶が成長し、かつ、容器の内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった内面の部分に、成長の全期間を通じて接触せずに成長するという状況が実現される。種結晶基板1の外周部が開放されておらず、容器5の側壁5aが種結晶基板1の外側を取り囲むように設けられているので、種結晶基板1の外周部に、外周端部8の窒化物半導体結晶を選択的にエッチングすることが可能なエッチング環境・エッチング雰囲気を形成・維持することができる。
この場合、上記のエッチング作用の下で、外周端部の結晶が成長する成長速度は0であるのが好ましい。この状況は、エッチング作用と成長がバランスしている状態である。つまり、外周端部がエッチング作用を加える環境・雰囲気であるので、外周端部の成長を抑制できる。ただし外周端部の成長面の法線方向の成長速度としては、意図した成長面(例えば、種結晶基板の主面(例えばC面)の法線方向に成長する成長面)の法線方向の成長速度の10分の1未満であれば、クラック防止の効果が得られる。10分の1以上の場合には、過大な応力が発生しクラック発生確率が増大する。
【0038】
また、外周端部にエッチングを生じさせる場合には、そのエッチング面の法線方向のエッチング速度は、意図した成長面の成長速度以下であるのが好ましい。外周端部のエッチング速度が意図した成長面の成長速度より大きくても、クラック防止の効果は得られるが、最終的に得られる結晶の大きさが極端に小さくなるからである。
【0039】
また、種結晶基板である窒化物半導体自立基板上に窒化物半導体を成長する場合に、このエッチング作用が窒化物半導体自立基板を設置する側の面に存在すると、成長中に種結晶基板の裏面が徐々にエッチングされるため、種結晶基板の表面側に新たな窒化物半導体の成長層を厚く成長した段階で種結晶基板による応力が除去・低減され、成長中のクラックの発生を抑制することができる。
この場合には、種結晶基板の裏面のエッチング速度は、意図した成長面上の成長速度の100分の1以上の場合に良好な結果が得られる。また、種結晶基板の裏面のエッチング速度が速い場合には、成長後に窒化物半導体の全体の厚さが初期の窒化物半導体自立基板よりも小さくなる場合も想定される。このような事態を避けるため、種結晶基板の裏面のエッチング速度としては、意図した成長面上の成長速度の半分以下であるのが好ましい。
【0040】
また、成長中の応力バランスを維持するためには、上記のエッチング作用は成長する結晶中のある点、線あるいは面に対して対称を保って加えるのが好ましい。結晶基板、例えば円盤状の種結晶基板でその一面が意図した成長面である場合には、断面が円形の容器を用い、結晶外周の端面に均等にエッチング作用を加えるのが好ましい。また、四角形、六角形など多角形の板状の種結晶基板で、その一面が主たる成長面である場合にも、種結晶基板の断面形状と同様の断面形状の容器を用い、種結晶基板上の窒化物半導体結晶の外周の端面に均等にエッチング作用を加えるのが好ましい。更に、本発明の種結晶基板は板状のものに限らず、各種の種結晶が含まれる。例えば、円柱状、あるいは多角錐状などの種結晶基板で、その円周面あるいは多角形の面が主たる成長面である場合には、主たる成長面に対する側面に均等にエッチング作用を加えるのが好ましい。
【0041】
また、種結晶基板の裏面にエッチング作用を加える場合には、その全面に均等にエッチング作用を加えるか、面内の点、あるいは線に対して対称にエッチング作用を加えるのが好ましい。ただし、容器の内面に対向する種結晶基板の裏面にエッチング作用を加えるためには、種結晶基板の裏面を容器の内面から一定距離を離す必要があり、例えば種結晶基板よりも小さいブロックを介して種結晶基板を容器に設置するという工夫が必要となる。この場合、ブロックは十分小さい複数個のものを使用し、ブロックと接して隠れる面の面積は種結晶基板の裏面全体の面積の10分の1以下であるのが好ましい。この割合が高すぎると、種結晶基板のエッチングによる応力緩和の効果が十分に得られなくなるためである。
具体的には、例えば、図6に示すように、種結晶基板1を側壁10aを有する容器10の底壁10b上に複数のブロック17を介して設置し、種結晶基板1の裏面にエッチング作用を加えるためのガスgを導入する。図6では、容器10の底壁10bの中央部にはガスgを供給する供給管18が接続されており、供給管18から導入されたガスgが、容器10の底壁10bと種結晶基板1との間を流れ、種結晶基板1の裏面16がガスgによりエッチングされる。更に、裏面16に沿って流れたガスgが、容器10の側壁10aと種結晶基板1の外周部との間から放出され、種結晶基板1上に成長する窒化物半導体結晶2のうち、主に外周端部8の窒化物半導体結晶2をエッチングする。
【0042】
上記のエッチング作用は、定常的に加えるのが好ましいが、断続的に加えても良い。例えば、本発明の目的を達成するためには、エッチング作用を持つガスを、ウエハの外周部に定常的に流すのが好ましい方法の一つであるが、この場合ウエハの外周部全体にガスの放出口を設置する必要がある。一方、ウエハの外周の一部にのみエッチング作用を持つガスの放出口を設け、あるいは、ウエハ外周部へ一方向からエッチング作用を持つガスを吹きつけ、ウエハを回転することで、ウエハ外周部全体あるいはウエハ裏面全体を断続的にエッチングすることもできる。エッチング作用が十分であれば、この方法には、装置構成が簡便になるというメリットがある。
【0043】
上記のエッチング作用を発現させる方法は幾つかあるが、一つの好ましい方法としては、窒化物半導体の成長を、成長とエッチングとが共存する環境で行い、上記のエッチング作用を加える面の近傍の成長原料を希釈することで、上記のエッチング作用を強めるようにする方法がある。成長とエッチングが共存する環境としては、例えば、MOVPE成長やHVPE成長などの気相成長において、成長雰囲気に水素、塩素、塩化水素などを添加した場合が対応する。この場合、成長原料の希釈は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを供給することで行うのが好ましい。例えば、図3において、原料ガスG中に成長原料(III族原料およびV族原料)に加えて水素、塩素、塩化水素などのエッチング作用を持つガスを添加し、容器5の側面6近傍に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを供給して、原料ガスG中の成長原料を希釈する。
適切なエッチング作用を得るためのこれらの希釈ガス(不活性ガス)の添加量の望ましい値は、成長条件により異なるが、III族原料の供給量の10分の1から10倍の範囲で、上述した成長速度およびエッチング速度を実現するように設定するのが好ましい。
また、Naフラックス法や安熱合成法などの閉鎖系で行われる溶液を用いた成長に対しても本発明は適用可能である。これらの場合には、意図的に成長する面の近傍の溶液よりも原料の溶解度の少ない溶液を、エッチング作用を加える面の近傍に強制的に導入することでエッチング作用が発現する。
【0044】
上記のエッチング作用は、エッチング作用を加える面の近傍へ、エッチング作用を持つガスあるいは液体(溶液)を供給することで発現させても良い。
上記のエッチング作用を持つガスとしては、水素、塩素、塩化水素の少なくともいずれか一つを含むのが好ましい。適切なエッチング作用を得るために、これらのエッチング性ガスの添加量の望ましい値は、成長条件により異なるが、III族原料の供給量の10分の1から10倍の範囲で、上述した成長速度およびエッチング速度を実現するように設定するのが好ましい。
Naフラックス法や安熱合成法においては、上記と同様に、意図的に成長する面の近傍の溶液よりも成長原料の溶解度の少ない溶液がエッチング作用を有する液体(溶液)となる。
【0045】
図4に、エッチング作用を加える面の近傍にエッチング作用を持つガスを供給する上記方法の一実施形態を示す。この実施形態における容器は、側壁10aを有するカップ状の容器10と、種結晶基板1を載置するトレー3とから主に構成されている。トレー3の載置面(設置面)4と側壁10aの側面とにより、浅いカップ形状の容器の内面を構成し、この容器の内面の底面外周からエッチング作用を持つガスgが、この容器内の外周部に導入されるようにした。
容器10の底壁10bの中央部にはエッチング作用を持つガスgを供給する供給管11が接続され、供給管11を挿通させてトレー3を支持する支持軸13が設けられている。支持軸13上のトレー3は、容器10の底壁10bと所定の間隙を隔てて配置されている。供給管11から容器10の底壁10bの中央部に供給されたガスgは、トレー3と底壁10bとの間を支持軸13を中心に放射状に流れ、トレー3の外周面と側壁10aの内周面との間に形成された環状のガス放出口(ガス吹出口)19から流出する。一方、トレー3の載置面4上に設置された種結晶基板1の成長面上(種結晶基板の主面上)には、成長原料を含む原料ガスGが供給され、種結晶基板1上に窒化物半導体結晶2が成長する。この窒化物半導体結晶2の外周端部8は、ガス放出口19から放出されるエッチング作用を持つガスgにより、所定のエッチングを受ける。
【0046】
また、窒化物半導体結晶の成長を、触媒の作用によりエッチング種を発生する物質を供給しつつ行い、上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面の少なくとも一部を触媒物質とすることで、エッチング作用を発現させても良い。本方法は、局所的なガス・液体の導入を伴わないため、前述の2種類の方法よりも簡便な装置にて実施できるというメリットがある。
上記の触媒の作用によりエッチング種を発生する物質としては水素ガスが好ましく、触媒物質としては金属または金属の窒化物であるのが好ましい。
水素ガスは、高温状態の金属または金属窒化物からなる触媒物質と接触して、強いエッチング作用を持つ原子状水素が生成され、生成された原子状水素が拡散して窒化物半導体結晶に到達してエッチングするものと推測される。原子状水素は不安定であって短時間で反応して消滅してしまう。従って、原子状水素によるエッチング作用は、容器の内面から離れるにつれて急速に減衰し、容器の内面から一定の距離の内側にある窒化物半導体結晶のみがエッチングされる。すなわち、容器の内面付近は、容器の内面からの距離とともにエッチング作用が弱まる雰囲気となり、窒化物半導体結晶のエッチングが過度で窒化物半導体結晶の多くがエッチングされてしまったり、エッチングが不十分で窒化物半導体結晶にクラックが生じてしまったりすることなく、適切なエッチングを行うことができる。
【0047】
また、上記触媒物質である金属としては、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)が好ましい。例えば、上記の金属の無垢材からなる容器の内面を、窒化物半導体成長前に窒化物半導体結晶の成長装置内で窒化し、その後に結晶成長を行うのは、本発明の好ましい実施形態の一つである。なお、窒化物半導体結晶と接触しない容器の内面に、上記金属または金属窒化物の膜を形成するようにしても良い。
本方法は、例えば、図3において、原料ガスGの水素ガスを添加し、容器5の側面6が上記金属または金属窒化物で形成されていればよい。また、例えば、図4、図6において、ガスgに水素ガスを含ませ、図4または図6の容器10の側壁10aの内面、あるいは容器10の底壁10bが上記金属または金属窒化物で形成されていればよい。
【0048】
上記の窒化物半導体結晶と接触しない容器の側壁と窒化物半導体結晶との距離は、成長開始から成長終了までの期間、1〜10mmの範囲であるのが好ましい。この距離が1mmより近いと、若干の成長条件の変動によって窒化物半導体結晶が容器の内面に接触し、容器と窒化物半導体結晶とが固着し、固着することで応力が生じて窒化物半導体結晶にクラックが発生する。逆に、この距離が10mmより遠いと、エッチング作用の減衰の急峻性が失われ、外周端部のみの成長をエッチングにより選択的に阻害することができなくなる。容器の内面と窒化物半導体結晶との距離は、例えば、図3(b)に示す距離dである。
【0049】
上記の窒化物半導体結晶の製造方法により実現される、板状の種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長した窒化物半導体エピタキシヤルウエハにあっては、前記窒化物半導体結晶が、前記種結晶基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶と、前記主面方向に成長した窒化物半導体結晶の外周端部に、前記主面から傾いた面方向に成長し、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶とを有していないか、有していた場合でも、高い不純物濃度の窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に、成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体エピタキシヤルウエハが得られる。
このため、成長中、冷却中の窒化物半導体結晶のクラック発生が劇的に抑制され、高い歩留が実現可能である。ここでいう高い不純物濃度とは、意図した面上の結晶である主面方向に成長した窒化物半導体結晶はその不純物濃度にある程度の面内分布を有するが、その分布の不純物濃度の最大値を遥かに超えるほど(例えば2倍以上)の高い不純物濃度であるという意味であり、意図した主面上の結晶の不純物濃度分布の範囲内あるいは主面上の結晶の不純物濃度の最大値を僅かに超える程度の不純物濃度値を意味するものではない。
【0050】
窒化物半導体エピタキシヤルウエハの外周端部に高い不純物濃度の窒化物半導体結晶が成長した場合でも、その成長厚が主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満であれば、成長中、冷却中のクラックの発生が抑制されるが、さらに窒化物半導体エピタキシャルウェハの反りも低減することが可能となる。
上記の窒化物半導体エピタキシヤルウエハにおいて、特にサファイア基板上のGaN層を成長したエピタキシヤルウエハにおいては、従来のエピタキシヤルウエハよりも反りの小さいエピタキシヤルウエハが実現できる。通常、サファイア基板上にGaN層を成長した場合には、GaN層の表面を上に向けた場合に、上側に凸状にエピタキシヤルウエハが反る。従来の製造方法により作製した窒化物半導体エピタキシヤルウエハの外周端部には高い不純物濃度の窒化物半導体結晶が、主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1以上成長しており、窒化物半導体エピタキシャルウェハの曲率半径が小さく、反り量が大きくなった。一方、本発明の実施形態に係る製造方法により作製した窒化物半導体エピタキシャルウェハは、曲率半径が大きく、反り量が低減されていた。
図11に、本発明の成長方法と従来の製造方法を用いて、様々な厚さYのサファイア基板上に様々な厚さtのGaN層を成長したときに得られたエピタキシャルウエハの曲率半径Rを測定した結果を示す。図11(a)は直径50mm、厚さ350μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、図11 (b)は直径100mm、厚さ900μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合、図11(c)は直径150mm、厚さ1500μmのサファイア基板上にGaN層を成長した場合のデータである。
この窒化物半導体エピタキシヤルウエハの主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚と、窒化物半導体エピタキシャルウェハの反りの関係性について検討したところ、以下の式(1)のような関係であることがわかった。エピタキシヤルウエハの曲率半径をR(m)、GaN層の厚さをt(μm)、係数をAとすると、
R=A/t ……式(1)
と記述できる。
これらの結果から、本発明の製造方法により作製したエピタキシャルウェハと、従来の製造方法により作製したエピタキシャルウェハを比較したところ、サファイア基板厚さY(μm)と係数Aが下記式のような相関をもつことが明らかとなった。
従来法で成長したサファイア上のGaN層の場合、サファイア基板の厚さをY(μm)とした場合に、前記係数Aは、
A≦0.00249×Y1.58483 ……式(3)
となるが、本発明の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法を用いることで、
A>0.00249×Y1.58483 ……式(2)
となり、より曲率半径を大きくすることが可能であることが明らかとなった。
曲率半径が大きく、すなわち反り量の小さいエピタキシヤルウエハは、上記のGaN層上に発光ダイオードやトランジスタ構造を形成し、これにフォトリソグラフィープロセスなどを施す場合に有利である。フォトリソグラフィープロセスにおいて、エピタキシヤルウエハが大きく反っていると、エピタキシヤルウエハに転写する素子パターンの分解能が劣化し、微細な素子を形成することが不可能となり、またフォトリソグラフィー工程の歩留が低下するなどの悪影響があるためである。
【0051】
また、上記の窒化物半導体結晶の製造方法により実現される、窒化物半導体自立基板においても、その外周端部に、窒化物半導体自立基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶を有していないか、有していた場合でも、外周端部の高い不純物濃度の窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に成長した窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満である窒化物半導体自立基板が得られる。
このため、成長中、冷却中の窒化物半導体結晶のクラック発生が劇的に抑制され、高い歩留が実現可能である。ここでの高い不純物濃度の意味も、上記窒化物半導体エピタキシヤルウエハの場合と同様である。
【0052】
以上では、意図的に成長する面がGa極性のC面のGaN結晶について説明したが、原理的には、本発明はAlN、InN、BNおよび、これらの混晶のIII族極性のC面や、それ以外の全ての面を意図した成長面とする場合に適用可能である。例えば、III族極性のC面から0.1〜2度の範囲で、A軸、M軸あるいはその中間の方向に傾いた面、或いはN極性のC面、A面、M面、R面、その他の半極性面、またはそれらN極性面や半極性面の微傾斜面などを意図した成長面とすることができる。
【0053】
また、本発明はN極性のC面を表面とする形態で窒化物半導体結晶を成長する場合にも適用可能である。この場合、種結晶基板としてはN極性面を表面(意図して成長する面)として配置し、その上に結晶成長を行うことになる。この場合、窒化物半導体結晶の端面は図2とは逆の傾きを持ち、成長に従いN極性のC面が拡大する。このためN面成長による窒化物半導体結晶の成長は、より大口径の窒化物半導体基板(窒化物半導体自立基板)を実現するためには非常に有効な手法である。
しかしながら、従来のHVPE装置を用いた場合には、N極性面成長においても、III族極性面上の成長と同様に端面での成長による応力が発生し、高い歩留を得るのは困難であった。
【0054】
ところが、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を用いることにより、N面成長においても高い歩留で窒化物半導体自立基板の成長が可能である。
具体的には、図5に示すように、容器12の側壁12aの側面14と種結晶基板1が載置される容器12の底壁12bの載置面15とのなす角度θが90度より大きく135度以下の範囲にあって、容器12内部の断面をその開口部側に向けて拡大した形状とし、窒化物半導体結晶2が窒素面を成長面としてその径を拡大しつつ成長させるのがよい。
特にN面成長においては、設置面と容器の側面とのなす角度が90度(設置面に対して垂直な側面)より大きく135度以下の範囲で上方に開くように側壁を設置することで、窒化物半導体結晶の端部にエッチング作用を施しつつ、かつ、種結晶基板よりN面の面積を拡大した窒化物半導体結晶を形成することが可能となる。この配置の場合、窒化物半導体結晶の端部に出易い結晶面のほとんどが135度以下の角度を持つため、側壁のなす角度が135度より大きい場合には、窒化物半導体結晶の成長とともに、側壁と窒化物半導体結晶の外周端部との距離が増加し、成長が進行すると、エッチング作用が弱まって外周端部の窒化物半導体結晶の成長が大きくなり、外周端部の応力によりクラックが発生し易くなり、従来法と同様の結果しか得られない。
この角度θが135度以下の場合には、側壁12aと窒化物半導体結晶2の外周端部との距離は、外周端部への成長とエッチングが釣り合う距離に一定に保たれやすいため、外周端部の成長速度は低い値に保たれ、クラックの発生が抑制される。特に、側壁12aの開く角度θが120度以下の場合には、これより小さな角度を成す安定な窒化物半導体の結晶面が少ないため、外周端部での成長速度がほぼ0に抑えられ、更に高い成長歩留を得ることができる。
【0055】
上述したように、上記実施形態の窒化物半導体結晶の製造方法を、窒化物半導体結晶の成長に適用することで、異種基板上の薄膜成長においては、従来よりも厚い窒化物半導体層をクラック無く成長することが可能となり、従来法よりも大幅な歩留向上が可能となる。また、窒化物半導体自立基板の製造に上記実施形態の窒化物半導体結晶の製造方法を適用することで、やはり窒化物半導体結晶のクラックによる不良を大幅に低減することが可能となる。更に、上記実施形態の窒化物半導体エピタキシヤルウエハや窒化物半導体自立基板は、残留歪が少ないため、発光ダイオードやレーザーダイオードの製作、高電子移動度トランジスタやヘテロテロバイポーラトランジスタの製作に適している。
【0056】
なお、上記実施形態で用いた図3〜図6のそれぞれ容器等の構成を適宜組み合わせて窒化物半導体結晶の成長を実施するようにしても良い。例えば、図5に示す容器12の底壁12bに、図4に示すようなエッチング作用を持つガスを供給する供給管を設けると共に、供給管を挿通させた支持軸上にトレーを設け、このトレー上に図5に示す種結晶基板1を設置して、図5に示すような成長方向に拡大した窒化物半導体結晶2を結晶成長させるようにしても良い。
【実施例】
【0057】
本発明を以下の実施例(変形例を含む)によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1及び比較例1]
(比較例1)
比較例1においては、図7に示す従来と同様な構成の縦型配置のHVPE装置を用いて、サファイア基板である種結晶基板1上に、低温成長GaNバッファ層を介して2〜20μmのGaN層を成長した。HVPE装置は、上部の原料部32と下部の成長部33とに分かれており、結晶成長を行うリアクター(成長炉)20の原料部32の外周部には原料部ピーク30が、リアクター20の成長部33の外周部には成長部ピーク31がそれぞれ設けられている。原料部ピーク30によってリアクター20内の原料部32は約800℃に、また成長部ピークによってリアクター20内の成長部33は500〜1200℃に加熱される。
原料部32から成長部33に向けて、ガスを供給するV族ライン(V族ガス供給配管)23、III族ライン(III族ガス供給配管)25、エッチング/ドープライン(エッチングガス/ドープガス供給配管)24の3系統のガス供給ラインが設置されている。V族ライン23からは、窒素源であるNH3(アンモニアガス)とともにキャリアガスとして水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスが供給される。III族ライン25からは、HClとともにキャリアガスとして水素ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスが供給される。III族ライン25の途中には金属ガリウム27を貯留するGa融液タンク26が設置されており、ここでHClガスと金属ガリウムが反応しGaClガスが生成され、GaClガスが成長部33へと送り出される。エッチング/ドープライン24からは、未成長時およびアンドープGaN層成長時には水素と窒素の混合ガスが、n型GaN層成長時にはSi源であるジクロロシラン(SiH2Cl2、水素希釈により濃度100ppm)とHClガスと水素ガス及び窒素ガスが導入される。また、エッチング/ドープライン24からは、成長後にリアクター20内に付着したGaNを除去するために行う1100℃程度の温度でのベーキング時には、塩化水素ガスと水素、窒素が導入される。
リアクター20内の成長部33には3〜100rpm程度の回転数で回転するトレー3が水平に設置され、そのガス供給ライン23〜25の出口と対向したトレー3の設置面(載置面)4上に種結晶基板1が設置される。トレー3は鉛直方向に配設された回転軸(支持軸)13上に設けられており、回転軸13の回転によりトレー3が回転する。原料ガスは種結晶基板1上へのGaN成長に使用された後、リアクター20の最下流部から外部に排気される。リアクター20内での成長は、比較例1では全て常圧(1気圧)にて実施した。
各ラインの配管23、24、25、Ga融液タンク26、トレー3の回転軸13は高純度石英製であり、トレー3はSiCコートのカーボン製である。サファイア基板としては、表面がC面からM軸方向に0.3°傾斜した表面を持ち、厚さが900μm、直径が100mmのものを用いた。
【0059】
HVPE成長としては、以下のように実施した。サファイア基板1をトレー3上にセットした後、純窒素を流しリアクター20内の大気を追い出す。次に、3slmの水素ガスと7slmの窒素ガスとの混合ガス中にて、成長部33の基板温度を1100℃として、10分間保持した。その後、基板温度を550℃として、低温成長GaNバッファ層を1200nm/時の成長速度で20nm成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン25からHClを1sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン23からアンモニアを1slmと水素を2slm、エッチング/ドープライン24から水素を3slmそれぞれ供給した。
低温成長GaNバッファ層の成長後、基板温度を1050℃に上昇し、2〜20mmのアンドープGaN層を120μm/時の成長速度で成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン25からHClを100sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン23からアンモニアを2slmと水素を1slm、エッチング/ドープライン24から水素を3slmとした。
成長後にアンモニア2slmと窒素8slmを流しつつ、基板温度を室温付近まで冷却した。その後、数十分間窒素パージを行い、リアクター20内を窒素雰囲気としてから、基板を取り出した。
【0060】
上記のようにして、2〜20μmの範囲でGaN層の厚さを異にする複数のエピタキシャルウエハを作製した。各GaN層厚さのエピタキシヤルウエハについて20枚ずつ作製した際の、歩留、GaN層のX線回折(XRD)測定による(0002)回折の半値幅の平均値および(10−12)回折の半値幅の平均値を図8に丸印○で示す。ここで歩留としては、GaN層に長さ5mm以上のクラックが1本でも生じたものを不良と考えて算出した。
図8(a)、(b)、(c)に示すように、GaN層の厚さが4μmまでは歩留がほぼ100%であり、GaN層の厚さが増加とともにXRD半値幅は減少した。しかしながら、GaN層の厚さを5μm以上にすると、クラックが発生しはじめ、歩留が減少する(図8(a))。また、クラックの発生に伴い、GaN層の結晶性が劣化し、XRD半値幅が増大している(図8(b)、(c))。
【0061】
上記の従来のHVPE装置で成長したGaN層の断面を蛍光顕微鏡(紫外光を当て、可視光領域の光を観察する)で観察したところ、図9に示すような色の違うGaN結晶の領域が見られた。図9の下部には、図9の上部の蛍光顕微鏡による観察像における結晶領域の輪郭線の図を示す。なお、図9に示す蛍光顕微鏡による観察像は、GaN自立基板上にGaN結晶を厚く成長させた場合の観察像を示しているが、GaN結晶2 aの主表面(C面)から300μmの位置での、C面から傾いた面上に成長した外周端部のGaN結晶2bの厚さが44μmであり、GaN結晶2bの厚さがGaN結晶2aの厚さの10分の1以上であり、GaN結晶の外周端部に大きな応力が発生し、クラックの発生が見られた。
GaNのバンドギャップに対応する発光そのものは紫外領域なので蛍光顕微鏡では観察できないが、不純物濃度が異なると欠陥準位の濃度が変化するため色の違いとなって観察される。つまり、図1、図2を用いて説明したように、図9において色の異なる2つの領域は不純物濃度の違いを反映したものであり、各々別の結晶面上に成長したために不純物の取り込み効率の違いにより不純物濃度の違いが生じているのである。
具体的には、図中、淡い灰色の部分がC面f1で成長したGaN結晶2aで、黒に近い濃い灰色の部分がC面f1から傾いた面f2で成長したGaN結晶2bの領域である。これらの各領域の不純物濃度をマイクロラマン測定により調べたところ、C面f1で成長したGaN結晶2aでは0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3程度のn型であったのが、C面f1から傾いた面f2で成長したGaN結晶2bでは同じn型ではあるものの、GaN結晶2aの2倍以上の1×1019/cm3〜5×1019/cm3という極めて高い不純物濃度となっていた。成長時にはドーピングガスを流さなかったが、成長装置の構成部材などから放出された不純物が成長中に結晶に取り込まれたものと考えられる。これらの各領域についてSIMS測定を行った結果、これらのn型伝導性はSiおよび酸素の取り込みによるものであることが判明した。このことより、外周部のC面から傾いた面f2上に成長した結晶2bは、C面f1上の結晶2aよりも不純物の取り込み効率が高く、極めて高い不純物濃度となっているため、平坦部に成長した結晶2aとの間に応力が発生し、これが膜厚を増やすほどクラックが発生し歩留が低下する原因となっていると推測される。
【0062】
(実施例1)
比較例1におけるGaN結晶の外周端部に成長する高不純物濃度のGaN結晶2bの成長を抑制するために、上記図7のHVPE装置における種結晶基板1を支持し回転するトレー3及び回転軸(支持軸)13を含む構造部分を、図4と同様な構造に改造し、実施例1の方法を実施する図10のHVPE装置とした。すなわち、図10に示すHVPE装置では、種結晶基板1の設置面(載置面)4の外周部全体にパージガスgを導入できる構造とした。図10のHVPE装置では、回転軸13及びパージガスgを供給する供給管11を一体的に回転させている。
トレー3の外周面と側壁10aの内周面との間に形成される環状のパージガスgのガス放出口19の上方には、設置面4から3mmの高さまで側壁10aを設けた。トレー3の設置面4と側壁10aの側面とにより、るつぼ形状ないし浅いカップ形状の容器の内面を構成した。側壁10aの側面と種結晶基板1の外周端面との距離は5mmとした。
この実施例1のHVPE装置を用いて、上記比較例1と同様の条件でサファイアの種結晶基板1上にGaN層の成長を行った。低温成長GaNバッファ層と1050℃でのアンドープGaN層の成長時の各ラインの流量は上記比較例1と同じとした。ただし、種結晶基板1周囲のパージガスgとして3slmの窒素を導入した点が、上記比較例1と異なる。
【0063】
このようにして成長した様々な厚さのGaN層を有するエピタキシヤルウエハを、各GaN層厚さについて20枚ずつ作製したときの、歩留、X線回折(XRD)測定による(0002)回折の半値幅の平均値および(10−12)回折の半値幅の平均値を図8のバツ印×で示す。従来方法を適用した図7のHVPE装置を用いた比較例1では、GaN層厚が5μmを超えると歩留が急激に低下したが、実施例1の図10のHVPE装置によるGaN層成長では、GaN層の厚さが8μmまでは、ほぼ100%の歩留であった。実施例1では、GaN層の厚さが8μmを超えると徐々に歩留は低下したが、その低下の度合いは比較例1よりもずっと緩やかであり、20μmの厚さにおいてもなお15%の歩留が得られた。また、比較例1では歩留が低下するGaN層の厚さが5〜6μmにおいて、最小のXRD半値幅として(0002)回折では120秒、(10−12)回折では350秒が得られた。これを超える厚さにおいてXRD半値幅が増加した。これに対して、実施例1のHVPE装置によるGaN層では、15μmの厚まで半値幅が減少し続け、最小の半値幅として(0002)回折では60秒、(10−12)回折では150秒が得られた。
すなわち、実施例1の図1 0に示すHVPE装置を用いることにより、従来よりも厚いGaN層を歩留良く成長でき、このようにして成長した厚いGaN層においては、従来よりも改善した結晶性を得られるということが示された。
【0064】
実施例1のHVPE装置によるGaN層の断面を、蛍光顕微鏡により観察した結果を図12に模式的に示す。比較例1の図9の場合と同様に、C面f1上のGaN結晶2aとC面f1から傾いた面f2上のGaN結晶2bとで色の違いは見られることもあったが、その場合でもC面から傾いた面f2の法線方向d2に成長したGaN結晶2bの厚さは非常に薄く、最大でもC面f1の法線方向d1で成長したGaN結晶2aの10分の1未満の厚さであった。すなわち、種結晶基板1の外周に窒素パージを行った結果、種結晶基板1の外周部付近の成長原料が希釈されると共に、水素ガスやHClガスによるエッチング作用が強まり、GaN結晶2の外周端部にあるC面から傾いた面上のGaN結晶2bの成長速度が、C面上のGaN結晶2aの成長速度の10分の1未満となっているということである。実施例1のGaN結晶2に対するマイクロラマン測定の結果、結晶2a、結晶2bのそれぞれの不純物濃度は、比較例1と同様な不純物濃度であった。
以上の結果より、実施例1の図10のHVPE装置を用いたことにより、GaN結晶2の外周部のC面から傾いた面上への高不純物濃度の結晶2bの成長が抑制され、クラックが抑制されたと考えられる。また、この結果、クラックを防止しつつ厚くGaN層2を成長できるようになったため、従来以上の結晶性の改善が達成されたのである。
【0065】
更に、実施例1の方法を用いると、サファイアの異種基板上にGaN層を成長し、成長後にエピタキシヤルウエハを室温にまで冷やした際のエピタキシヤルウエハの曲率半径を、比較例1よりも大きくできることが判明した。
サファイア基板上にGaN層を成長した場合には、GaN表面を上に向けた場合に、上側に凸伏にエピタキシヤルウエハが反る。例えば、比較例1により直径2インチで350μm厚のサファイア基板上にGaN層を8μm成長した場合には、その反り量(GaN表面の中心と端部の高低差)はおよそ120μmであり、その際のウエハの曲率半径は2.6m程度である。これを、実施例1の方法を用いると、同一のサファイア基板上にGaN層を8μm成長した場合、反り量は50μmと小さくなり、曲率半径は6mと大きくなる。
【0066】
様々ひな厚さのサファイア基板上に様々な厚さのGaN層を成長し、比較検討したところ、サファイア基板上のGaN層の曲率半径R(m)は、GaN層の厚さをt(μm)とすると、係数Aを用いて、
R=A/t ……式(1)
と記述できることが明らかとなった。
【0067】
つまり、本発明の製造方法により作製されたエピタキシャルウェハは、前述した式(2)を満たし、曲率半径が大きく、反り量の小さいエピタキシヤルウエハとなる。上記のGaN層の上に発光ダイオードやトランジスタ構造を形成し、これにフォトリソグラフィープロセスなどを施す場合に有利である。フォトグラフィープロセスにおいて、エピタキシヤルウエハが大きく反っていると、エピタキシヤルウエハに転写する素子パターンの分解能が劣化し、微細な素子を形成することが不可能となり、フォトリソグラフィー工程の歩留が低下するなどの悪影響がある。
【0068】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の方法において、サファイアの種結晶基板1外周部へのパージガスgである上記窒素ガスの流量を、2.0slmから10slmの範囲で種々に変更して、実施例1と同様の実験を行った。
【0069】
パージ窒素ガスの流量が2slm以上の場合には、エピタキシヤルウエハの歩留、GaNの結晶性、エピタキシヤルウエハの曲率半径ともに実施例1の結果とほぼ同等の結果が得られた。また、パージ窒素ガス流量が2〜5slmの間では、C面から傾いた面の成長速度はC面上の成長速度の10分の1未満から0の範囲であった。このため、従来例のような外周部での応力の発生が抑制され、クラックの発生が抑制されたのである。
また、パージ窒素流量が6slm以上でも、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。しかしこの場合には、断面の蛍光顕微鏡の観察においてもC面から傾いた面上での成長は全く見られなかった。この場合には、サファイア基板上の成長領域の広さが、パージ窒素ガス流量5slmの場合よりも縮小しており、GaN成長層の端面では成長ではなくエッチグが生じていると判断された。エッチング速度は、C面上の成長速度と同等の成長速度から10分の1の成長速度までの範囲であった。
このエッチング速度は、更に速くても歩留と結晶性の観点からは問題が無い。しかしながら、エッチング速度が速すぎると、最終的に得られる結晶の大きさが極端に小さくなるので、実用的にはエッチング速度は意図した成長面(C面)上の成長速度以下であるのが望ましいと考える。
【0070】
ここで、パージ窒素ガス流量を増やした場合に、まずC面から傾いた面上の成長速度が減少し、更にはエッチングが生じることの意味を考える。本実施例でのGaNの成長においては、成長雰囲気に水素を含む。 GaNは高温では水素によりエッチングされることが知られており、GaNが成長するということは、成長速度がエッチング速度を上回った結果と考えられる。すなわち、本実施例の状況においては、GaNの成長を成長とエッチングが共存する環境で行っており、エピタキシヤルウエハ外周部を窒素でパージし原料ガスを希釈することで、GaN結晶の外周部でのエッチング作用が強められ、成長速度の減少やエッチングが観察されることになる。
上記のエッチングが、エピタキシヤルウエハ外周端部のGaN結晶にのみ作用することから、本実施例のパージ窒素ガスの流量の範囲では、エッチング作用はるつぼ状の容器の側壁内面から距離が離れると急速に弱まるものと考えられる。
(参考例)
実施例2の製造方法において、パージ窒素ガスの流量を1slm以下とした場合、エピタキシヤルウエハの歩留、GaNの結晶性、エピタキシヤルウエハの曲率半径ともに比較例1とほぼ同様の結果となった。
これは、パージガスgの流量が少なかったために、エピタキシャルウェハのC面から傾いた面の法線方向の成長速度がC面上の成長速度の1/5以上となっており、C面から傾いた面の法線方向に成長した不純物濃度の高い結晶部分がC面上の結晶の成長厚の1/10以上となったため、従来例と同様に外周部に応力が発生したのが原因と考えられる。よって、パージガスgは1slmよりも多いほうがよく、2slm以上が好適であることが分かる。
【0071】
(実施例3)
実施例3では、実施例2と同様の実験を、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガスをアルゴン、ヘリウムに変えて行ったところ、実施例2とほぼ同様の結果が得られた。この結果から、パージガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム以外の不活性ガスを用いて、本発明の効果が得られるものと考えられる。
【0072】
(実施例4)
実施例4では、実施例2と同様の実験を、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガスを水素、塩素、塩化水素といったGaNをエッチングするガスを用いた。その結果、パージガス流量の範囲は実施例2とは異なるが、C面から傾いた面上での成長速度をC面上の成長速度の10分の1未満となるように適切にパージガス流量を調整することで、実施例2と同様の結果が得られた。
また、実施例4の方法は、原料ガスとして供給するガスに含む水素の量を、実施例1〜3の場合よりも減らせるという利点がある。このため、実施例1〜3よりも意図した成長面におけるエッチング作用が減り、原料効率が向上するという利点がある。
【0073】
(実施例5)
実施例5では、図7に示すHVPE装置のトレー3上に、高さ3mmの円筒状の金属製のリングを追加して設置し、リングの内周面とトレー3の設置面4とによって、るつぼ形状の容器の内面を構成した。上記リングの材質としてはTi(チタン)とし、成長前にHVPE装置内でアンモニア2slm、水素8slm中で2時間窒化処理を施し、リングの表面を窒化チタンに変えて結晶成長を行った。
このリングを追加したHVPE装置で、比較例1と同様の実験を行ったところ、実施例1の場合と同様の歩留向上、結晶性改善、曲率半径増大の効果が得られた。また、この場合には、C面から傾いた面に対するエッチングが生じており、そのエッチング速度はC面上の成長速度の3分の1程度であった。
【0074】
実施例5では、エピタキシヤルウエハ外周部へのパージガス供給がなかったが、パージガス供給と同等の効果が得られたのは、容器の側壁を構成するリングの金属窒化物が触媒となり、原料ガス中に含まれる水素が分解され強いエッチング作用を持つ原子状水素を発生したためと考えられる。
同様の側壁として、例えば石英やカーボンのリングで構成した場合には、クラックは抑制されなかった。また、金属窒化物のリングを用いた場合でも、原料ガス中の水素の総流量を1slm以下とした時には、C面から傾いた面上の成長速度が速くなり、クラックが生じた。以上の結果から、金属窒化物の存在と、ある程度の水素の量が必要であることが示され、金属窒化物の触媒効果による原子状水素の発生によるエッチング作用の発現という考えが裏付けられる。
また、原料ガス中の水素流量を2〜7slmの範囲で変えた場合には、実施例2のパージガス流量を変えた場合と同様に、C面から傾いた面上での成長速度(エッチング速度)が変化したが、成長速度としてはC面上の成長速度の10分の1未満であり、エッチング速度としてはC面上の成長速度以下であり、この範囲においては、実施例1と同様の歩留向上と結晶性の改善効果が見られた。
【0075】
(実施例6)
実施例6では、実施例5と同様の実験を、容器側壁を構成するリングの金属材料をZr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかとして行った。その結果、実施例5と同様の結果が得られた。
【0076】
(実施例7)
実施例7では、実施例1〜6と同様の実験を、GaN層の最上部の2〜3μmの成長時にエッチング/ドープライン24よりジクロロシラン(SiH2Cl2)を導入し、0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3の不純物濃度のn−GaN層を成長した。成長条件により異なるバックグラウンドの不純物濃度(アンドープでの不純物濃度)と、ジクロロシランによるドープとを併用した成長である。この場合にも、実施例1〜6と同様の結果を得た。
【0077】
(実施例8)
実施例8では、実施例1〜7同様の実験を、成長温度、ガス流量、成長速度、成長圧力を様々に変えて行った。得られる歩留やXRD半値幅は上記実施例とは若干異なるものの、GaN結晶外周部のC面から傾いた面の成長速度がC面の成長速度の10分の1未満で有る場合に、歩留向上と結晶性の改善が見られるという実施例1〜7と同様の結果が得られた。
また、これまでの実験全体を通じて、GaN成長層のGa極性のC面と、外周に発生するC面から傾いた面とのなす角度は、GaN結晶のM軸方向を向いた端部ではM面が形成され90度となりやすく、それ以外の端部では図12に示すように、C面とC面から傾いた面のなす角度が110度〜135度程度である傾斜した面が生じた。
【0078】
(実施例9)
実施例9では、実施例1〜8と同様の実験を、GaN結晶と側壁の距離を0.5〜20mmの範囲で変化させて行った。上記の距離が1mmよりも小さい場合には、成長中に、エピタキシヤルウエハのGaN結晶端面が容器側壁と接触する場合が生じた。この場合、エピタキシヤルウエハ端面のGaN結晶と側壁が固着したのが原因で、成長中に応力が発生し、クラックが発生しやすくなった。また、上記の距離が10mmよりも大きい場合には、エピタキシヤルウエハ端部のみに局所的にエッチング作用を加えることが難しくなり、クラックを生じさせないような条件を選択すると、GaN層が成長する領域の縮小が顕著に見られた。
以上より、GaN結晶と側壁との距離としては1〜10mmが適切と判断した。
【0079】
以上の実施例から、歩留良く厚くて結晶性の高い(XRD半値幅の狭い)GaN層を成長するためには、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁とGaN結晶外周との距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、るつぼ形状の容器の内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器の内面のうち成長開始時にGaNと接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、上記実施例により実現されるGaN層の特徴としては、意図的に成長をおこなった面上(実施例では主にGa極性のC面)の結晶の外周部にある不純物濃度の高い結晶部分の成長厚が、意図的に成長をおこなった面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。また、上記実施例によるGaNエピタキシヤルウエハは、従来法よりも大きな曲率半径を持つ点も、デバイス応用上は重要な利点である。
【0080】
[実施例10及び比較例2]
実施例10及び比較例2では、上記特許文献3に記載のボイド形成剥離法(VAS法)によるGaN自立基板の製作を行った。
【0081】
(比較例2)
図13にVAS法の概要を示す。まず種結晶基板としてボイド基板40を準備した(図13(a))。ボイド基板40は、サファイア基板41上に有機金属気相成長法(MOVPE法)などで厚さ300nm程度のGaN薄膜を成長し、その表面にTi膜を蒸着し、水素、アンモニア中で熱処理することで得られる。上記熱処理により、Ti膜を網目構造のTiN層43に変換するとともに、GaN薄膜に多数のボイド44が形成されたボイド含有GaN層43としたものである。
次に、ボイド基板40上に、HVPE法により厚くGaN層45を成長し(図13(b))、その後、ボイド部分よりサファイア基板41を剥離して、GaN自立基板となるGaN結晶(GaN単結晶)46を得た(図13(c))。
サファイア基板41としては、C面からA軸あるいはM軸方向、またはその間の方向に0.05〜2°の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが300〜1500μm、直径が35〜200mmのものを用いた。上記のボイド基板製作時のTiの厚さは5〜100nmとした。
【0082】
HVPE成長の条件としては、例えば、基板温度800〜1200℃、圧力10kPa〜120kPaで、30〜1000μm/時の成長速度とし、上記ボイド基板40上に、35〜200mm径で50μm〜10mm厚のGaN単結晶を製作した。成長装置としては、図7に示すHVPE装置を用いた。各ラインの流量は以下の範囲とした。III族ライン25からHClを25〜1000ccm、水素を2slmに加え、窒素をIII族ライン25の総流量が3slmとなる流量とした。V族ライン23からアンモニアを1〜2slmと水素を1slmに加えて、窒素をV族ライン23の総流量が3slmとなる流量とした。また、エッチング/ドープライン24からは水素を3slm流した。
【0083】
ボイド基板上に形成されるGaN単結晶の転位密度は、ボイド基板製作時のTiの厚さで決定される。Ti膜が薄いほど、ボイド基板のMOVPE成長したボイド含有GaN層43中の転位がその上に形成される厚いGaN単結晶45に伝播されやすいため、高転位密度となる。Ti膜厚が5〜100nmの範囲で得られるGaN単結晶の転位密度は、1×104/cm2〜1×108/cm2の範囲である。
また、得られたGaN結晶は、成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面であった。このGaN結晶中の電子濃度としては、アンドープ成長あるいは成長中に添加するジクロロシランの流量を調整して、1×1015/cm3〜5×1018/cm3の範囲とした。
【0084】
これらの各種条件の組み合わせにより、50μm〜10mm厚のGaN結晶(GaN層)を成長した場合の歩留(同条件で20枚成長した際の不良ではない割合、5mm以上の長さのクラックが生じると不良と定義した)の成長厚依存性を図14の丸印○に示す。歩留は、キャリア濃度や転位密度にはほとんど依存せず、GaN結晶の厚さのみに強く依存した。GaN結晶の厚さが100μm以下の場合、100%近い歩留が得られたが、GaN結晶の厚さが100μmを超えると歩留は急激に減少し、800μmを超える厚さのGaN自立基板(GaN結晶)の歩留は10%未満であった。
【0085】
これらのGaN自立基板(GaN結晶)の断面を蛍光顕微鏡で観測したところ、図9に示す様に比較例1と同様な異なる色の領域がGaN自立基板の端部に観測され、側面に垂直な方向の成長速度は主面に垂直な成長速度の1/10以上であった。これらの各部分のGaN結晶をマイクロラマン法で調査したころ、自立基板(GaN結晶)端部の傾いた面上に成長したGaN結晶と、Ga極性のC面上に成長したGaN結晶では不純物濃度が異なり、C面上のGaN結晶では0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3程度のn型であったのが、C面から傾いた面で成長したGaN結晶では同じn型ではあるものの、その2倍以上の1×1019/cm3〜5×1019/c m3という極めて高い不純物濃度となっていた。
【0086】
(実施例10)
一方、実施例10では、実施例5と同様に図7のトレー3上に触媒となる金属窒化物のリングを設置したHVPE装置、あるいは図10に示すHVPE装置を用い、実施例1〜9などと同様に、種結晶基板であるボイド基板40外周に、希釈ガス、エッチングガスあるいは水素ガスを導入する本発明の方法により、実施例1〜9と同様に、C面から傾いた面のGaN結晶の成長速度を、C面のGaN結晶の成長速度の10分の1未満とした場合には、図14のバツ印×に示す様に歩留は劇的に向上した。GaN層の厚さが1500μmまでは、ほぼ100%の歩留が得られ、最も厚い10mmの場合にも10%の歩留を維持していた。
【0087】
ただし、上記の結果はGaN層4 5の表面が容器側壁の高さよりも低い位置にある場合に限った話であり、GaN層45の成長表面が側壁の高さよりも高くなった場合には、歩留が急激に低下した。これは、GaN層45の表面が側壁よりも高くなると、GaN結晶の外周部でのエッチング作用が弱まり、外周部での成長が生じるために応力が発生したためである。また、GaN結晶45と側壁との距離が1mmよりも小さい場合にも、側壁とGaN結晶が固着しクラックが発生し、歩留が悪化した。GaN結晶45と側壁の距離が10mmよりも広い場合には、歩留低下は生じないものの、エッチング作用を端面のみに局在させることが困難となり、GaN結晶の成長領域が大幅に縮小してしまった。
また、実施例8でも述べたように、GaN成長層のGa極性のC面と、外周に発生するC面から傾いた面とのなす角度は、GaN結晶のM軸方向を向いた端部ではM面が形成され90度となりやすく、それ以外の端部では図12に示すように、C面とC面から傾いた面のなす角度が110度〜135度程度である傾斜した面が生じやすかった。しかし、成長条件を適切に選ぶことで、外周全体でこの角度を90度とすることも可能である。
【0088】
実施例10及び比較例2から、歩留良く厚いGaN自立基板を得るためには、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁と基板外周の距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、るつぼの内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、本実施例により実現されるGaN自立基板の特徴としては、GaN自立基板の外周部にC面上の結晶より高い不純物濃度の結晶部分の成長厚が、C面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。
【0089】
[実施例11及び比較例3]
一般的に、VAS法を含む各種の手法により異種基板上に実現されるGaN自立基板は、成長中のGaN結晶には厚さ方向に、例えば108/cm2から105/cm2までという大幅な転位密度の低減が生じる。この転位密度の低減に伴いGaN結晶中には残留歪が導入されるため、このような異種基板上に成長したGaN自立基板には多くの場合、歪が残留した状態となっている。典型的には、C面を表面とするGaN自立基板の場合、成長直後にはC面が2〜4mの曲率半径を持つことになる。
この歪の存在が、実施例10の図8などに示すように、本発明の方法を用いた場合においてさえも、GaN成長厚が1500μmを超えるとクラックの発生により歩留が低下する原因となっている。
このような残留歪は、VAS法などにより得られるGaN自立基板の裏面を研磨して除去することで大幅に低減できる。例えば、1500μm厚のGaN自立基板を成長後に裏面を1000μm除去すると、成長直後に2〜4mであったC面の曲率半径は10m以上にまで増大する。このような裏面を研磨したGaN自立基板を種結晶とすると、残留応力が極めて小さくなるため、異種基板上の成長では不可能なほど厚いGaN層を成長できると期待できる。
【0090】
(比較例3)
比較例3では、実施例1 0において本発明の方法で、VAS法により成長した1500μm厚のGaN自立基板の裏面(N極性のC面)を1000μm研磨し、更に表面側(Ga極性のC面)を100μm研磨し平坦度を高めた400μm厚のGaN自立基板を種結晶として用いた。そして、このGaN自立基板のGa極性側の表面にHVPE法によりGaN層を成長した。
種結晶となるGaN基板としては、表面がGa極性のC面からA軸あるいはM軸方向、あるいはその中間の方向に0.05〜2゜の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが400mm、直径が35〜200mmのものを用いた。典型的な転位密度としては1×106/cm2であった。
【0091】
HVPE成長の条件としては、例えば、基板温度800〜1200℃、圧力10kPa〜120kPaで、30〜1000μm/時の成長速度とし、50μm〜100mm厚のGaN単結晶を製作した。成長装置としては、図7に示すHVPE装置を用いた。各ラインの流量は以下の範囲とした。III族ライン25からHClを25〜1000ccm、水素を2slmに加え、窒素をIII族ライン25の総流量が3slmとなる流量とした。V族ライン23からアンモニアを1〜2slmと水素を1slmに加えて、窒素をV族ライン23の総流量が3slmとなる流量とした。また、エッチング/ドープライン24からは水素を3slm流した。
また、ここで用いたGaN単結晶(種結晶)は、VAS法による成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面であった。GaN結晶中の電子濃度としては、アンドープ成長あるいは成長中に添加するジクロロシランの流量を調整して、1×1015/cm3〜5×1018/cm3のものを準備した。
【0092】
これらの各種条件の組み合わせにより、50μm〜100mm厚のGaN結晶(GaN層)を成長した場合の歩留(5mm以上の長さのクラックが生じると不良)の成長厚依存性を図15の丸印○に示す。この場合にも、歩留は、キャリア濃度や転位密度にはほとんど依存せず、GaN結晶の厚さのみに強く依存した。VAS法によるGaN結晶(種結晶基板)上に新たに成長したGaN結晶の厚さが500μm以下の場合、100%近い歩留が得られたが、GaN結晶の成長層の厚さが1mmを超えると歩留は急激に減少し、10mmを超える厚さのGaN自立基板(GaN結晶)の歩留は10%未満であった。
【0093】
これらのGaN自立基板の断面を蛍光顕微鏡で観測したところ、図2に模式的に示す様に、図9と同様な異なる色の領域が端部に観測され、それぞれの面に垂直な方向の成長速度はほぼ同等であった。これらの各部分をマイクロラマン法で調査したころ、ウエハ端部の傾いた面上に成長した結晶と、Ga極性のC面上に成長した結晶では不純物濃度が異なり、C面上の結晶では0.5×1018/cm3〜5×1018/cm3程度のn型であったのが、C面から傾いた面で成長した結晶では同じn型ではあるものの、その2倍以上の1×1019/cm3〜5×1019/cm3という極めて高い不純物濃度となっていた。
【0094】
(実施例11)
一方、実施例11では、実施例5と同様に図7のトレー3上に触媒となる金属窒化物のリングを設置したHVPE装置、あるいは図10に示すHVPE装置を用い、実施例1〜9などと同様に、種結晶基板であるGaN基板の外周に、希釈ガス、エッチングガスあるいは水素ガスを導入する本発明の方法によりGaN結晶の成長を行った。C面から傾いた面の成長速度を実施例1〜9と同様に意図した成長面の成長速度の10分の1未満とした場合には、図15のバツ印×に示す様に歩留は劇的に向上した。VAS法によるGaN結晶(種結晶基板)上に新たに成長したGaN結晶の厚さが5mmまでほぼ100%の歩留が維持され、このGaN結晶の成長層の厚さが100mmの場合でもなお50%の歩留が維持された。
【0095】
図16に、実施例11を用いGaN自立基板を種結晶として成長したGaN自立基板の外周端部の断面を蛍光顕微鏡で観察した結果を模式的に示す。端面の高不純物濃度の結晶2bは存在するものの、その量は少なく、結晶2bの成長速度は最大でもC面上の結晶2aの成長速度の10分の1未満と見積もられた。また、GaN結晶2の成長厚が薄い場合には、結晶成長に伴い端部にC面から傾いた結晶面f2が生じるため、C面f1の面積が徐々に縮小していた。しかしながら、C面f1が縮小し続けることはなく、GaN結晶2をある程度(最大でも2mm程度)厚く成長し、端面と側壁の距離がある値となった後は、端面がC面に対して90度の垂直な面f3を成したまま、C面の形状と面積を一定に保ちつつ成長が進行した。これは、端面と容器側壁の内面との距離が広がることにより、側壁側からのエッチング作用が弱まり、端面での成長とエッチングが釣り合ったために生じる現象である。
【0096】
ただし、上記の結果はC面で成長するGaN結晶2aの表面が容器の側壁の高さよりも低い位置にある場合に限った話であり、GaN結晶2aの成長表面が側壁の高さよりも高くなった場合には、歩留が急激に低下した。これは、GaN結晶2a表面が側壁よりも高くなると、GaN結晶2の外周部でのエッチング作用が弱まり、外周部での結晶成長が生じるために応力が発生したためである。また、GaN結晶と側壁との距離が1mmよりも小さい場合にも、側壁とGaN結晶が固着しクラックが発生し、歩留が悪化した。GaN結晶と側壁の距離が10mmよりも広い場合には、歩留低下は生じないものの、エッチング作用を端面のみに局在させることが困難となり、GaN結晶の成長領域が大幅に縮小してしまった。
【0097】
実施例11及び比較例3から、歩留良く厚いGaN自立基板を得るためには、種結晶として窒化物半導体自立基板を用いた場合においても、側壁を持つるつぼ形状の容器内に種結晶基板を設置し、距離とともに弱まるエッチング作用を持つ側壁とGaN結晶外周との距離を1〜10mmの範囲に維持し、すなわち、容器の内面形状を概ね踏襲した形状のGaN結晶を、容器内面のうち成長開始時に種結晶基板と接触していなかった部分と、成長の全期間を通じて接触せずに成長することが重要であると結論付けられる。また、本実施例により実現されるGaN自立基板の特徴としては、GaN自立基板の外周部にC面上の結晶より高い不純物濃度の結晶部分の成長厚が、C面上の結晶の成長厚の10分の1以上の厚さで持たないという点が特筆される。
【0098】
(実施例12)
実施例11において、GaN成長厚が5mmを超える場合に歩留が低下したのは、種結晶基板として用いたGaN自立基板に僅かながら歪が残留しているためである。そこで、実施例12では、成長中にGaN結晶の外周端面ばかりではなく、歪の残留する種結晶基板のGaN自立基板の裏面にもエッチング作用を加えることで、更なる歩留の向上を試みた。
【0099】
実施例12で用いた方法としては、実施例11と同様の方法において、種結晶基板の裏面に高さ1〜2mmの石英製、カーボン製、あるいは、金属窒化物のブロック(上記実施形態の図6に示すようなブロック17)を設置し、種結晶基板を設置面(例えば容器の底面)より浮かし、種結晶基板の裏面にもエッチング作用が生じるようにした。例えば、設置面の中心にもパージガスの出口を設け、そこから水素、塩素、塩化水素などのエッチング性のガスを導入する方法や、設置面を金属窒化物とし、原料ガスに水素を添加するなどの方法を用いた。
【0100】
これらの方法による種結晶基板の裏面のエッチング速度は、温度や、成長雰囲気、成長圧力、パージガス流量などにより変化したが、エッチング速度がGa極性のC面の成長速度の100分の1以上の場合に、実施例11よりも高い歩留を得ることができた。歩留は裏面のエッチング速度が高まると上昇したが、裏面のエッチング速度がGa極性のC面の成長速度の20分の1以上では一定となった。
図17に裏面のエッチング速度がGa極性のC面の成長速度の20分の1の場合の、歩留とGaN成長層の厚さの関係を示す。 GaN成長の厚さが100mmの場合でもなお90%の高い歩留を維持している。
【0101】
(実施例13)
実施例13では、実施例11、12と同様の実験を、Ga極性のC面ではなく、N極性のC面を成長面としてGaNを成長させてGaN自立基板を作製した。
この場合、従来のHVPE装置を用いた場合には、GaN結晶の端面は図16とは逆の傾きを持ち、成長に従いC面が拡大する。このためN面成長によるGaN自立基板の成長は、より大口径のGaN基板を実現するためには非常に有効な手法である。
しかしながら、従来のHVPE装置を用いた場合には、N面成長においても、Ga面成長と同様に、端面での成長結晶による応力が発生し、高い歩留を得るのは困難であった。
【0102】
しかし、本発明の方法を用いることにより、N面成長においても実施例11、12と同様に高い歩留でGaN自立基板の作製が可能であることが確認された。更に、この場合、N面の拡大傾向とエッチング作用が釣り合うことで、円筒状の容器形状を踏襲したN面の面積が一定のままGaN結晶が成長した、円柱状の自立基板を得ることができた。このような自立基板は、これをスライスすることにより一定の径のウエハを効率良く生産できるため、工業的に非常に有用な形態である。
【0103】
また、特にN面成長においては、例えば、図5に示す上記実施形態のように、容器12の側壁12aの側面と種結晶基板1が載置される容器12の底壁12bの載置面15とのなす角度θが90度より大きく135度以下の範囲とし、側壁12aの側面が開口部に向けて開くようにすることで、GaN結晶2の端部にエッチング作用を施しつつ、かつ、種結晶基板1よりN面の面積を拡大することが可能となる。
容器の側面と容器の載置面とのなす角度θが135度より大きい場合には、GaN結晶端部に出易い結晶面が135度以下の角度を持つため、GaN層の成長とともに、容器側面とGaN結晶の外周端部の距離が増加し、GaN結晶の外周端部にGaN成長が生じ、このGaN成長によりクラックが発生し易くなり、従来法と同等の結果しか得られない。
この角度θが135度以下の場合には、容器側面とGaN結晶外周端部の距離は、GaN結晶端部への成長とエッチングが釣り合う距離に一定に保たれやすいため、GaN結晶の外周端部の成長速度はほぼ0に保たれ、クラックの発生が抑制される。特に、角度θが120度以下の場合には、これより小さな角度を成す安定なGaNの結晶面が少ないため、より高い成長歩留を得ることができ、図14や図17に示す上記実施例の結果とほぼ同じ結果が得られる。
【0104】
次に、本発明の変形例を以下に述べる。
(変形例1)
変形例1では、実施例1〜9と同様の実験を、サファイア基板の径を50〜200mm、サファイア基板の表面(主表面)をGa極性のC面から0.1〜2度の範囲でA軸、M軸あるいはその中間の方向に傾いた面や、A面、M面、R面やその他の半極性面や、それらの面の微傾斜面などとした場合にも行ったが、実施例1〜9とほぼ同様の結果が得られた。
【0105】
(変形例2)
変形例2では、変形例1と同様の実験を、サファイア基板を、SiC基板、Si基板に変更して行ったが、変形例1と同様の効果が確認された。
【0106】
(変形例3)
変形例3では、実施例1〜9と同様の実験を、バッファ層を低温成長GaNバッファ層から、低温成長AlNバッファ層、高温成長AlNバッファ層に変えて行った。各バッファ層の厚さは10nm〜2μmの間であった。いずれの場合においても、実施例1〜9と同様の結果が得られた。
【0107】
(変形例4)
変形例4では、実施例1〜9と同様の実験を、種結晶基板の上面に凹凸加工を施した種結晶基板を用いて行った。凹凸加工の形状としては、凸部の高さが0.1〜2μm、間隔が1〜10μm、形状が椀形、円錐型、三角錐形〜六角錐形の多角錐形、およびこれらの頂上に平坦部を有する形状などを用いた。また凸部の配置としては、三角格子状あるいは四角格子状の格子の目の位置に配置し、格子の辺がA軸あるいはM軸を向くものを用いた。これらの凹凸加工を施した種結晶基板を用いた窒化物半導体層を下地として、発光素子を形成すると、平坦な種結晶基板上を用いた場合の発光素子よりも光取出し効率が向上するという利点がある。
変形例4のいずれの場合においても、本発明の窒化物半導体結晶の製造方法を適用した場合、実施例1〜9と同様の効果が得られた。
【0108】
(変形例5)
変形例5では、実施例10〜1 3と同様の実験をA面、M面、R面やその他の半極性面や、それらの微傾斜面などとした場合にも行ったが、実施例10〜13とほぼ同様の結果が得られた。
【0109】
(変形例6)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法の原理は、成長方法としては、HVPE法に限らず、MOVPE法、安熱合成法、Naフラックス法に変えた場合においても適用可能である。
【0110】
(変形例7)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法は、GaN以外の窒化物半導体材料、例えば、AlN、InN、BNや、GaNを合むこれらの材料の混晶に対しても適用可能である。
【0111】
(変形例8)
本発明の窒化物半導体結晶の製造方法の原理は、窒化物半導体以外の半導体や、半導体以外の結晶性の材料に関しても適用可能である。
【0112】
(変形例9)
本発明の方法は、図7、図10に示すような縦型配置の結晶成長装置(HVPE装置、MOVPE装置)ばかりではなく、図18に示す水平フロー配置のMOVPE装置、HVPE装置にも適用可能である。すなわち、図18に示すように、矩形筒体状のリアクター(成長炉)50を水平の配置し、リアクター50の底壁の開口部に、側壁51aを有する容器51を設け、容器51内にはトレー3を容器51の底壁51bから隔てて設置する。底壁51bにはエッチング作用を持つガスgを供給する供給管53が接続されており、供給管53を貫通させて回転軸52が設けられている。トレー3は回転軸52上に回転自在に支持され、リアクター50の外周部にはピーク(図示せず)が設けられている。原料ガスGは、リアクター50内を一端から他端へと水平に流れ、トレー3上に設置された種結晶基板1上で結晶が成長する。一方、供給管52から容器51内に供給されたガスgは、トレー3との底壁10bとの間を、トレー3に沿って放射状に流れ、トレー3の外周面と側壁10aの内周面との隙間から流出する。
また、本発明の方法は、例えば、サセプタ上の同一円周上に沿って複数の種結晶基板を配置し、サセプタ上の複数の種結晶基板を自公転させ、サセプタの中心部からサセプタに沿って放射状に各種結晶基板に原料ガスを流す結晶成長装置、すなわち中心吹出し自公転型の多数枚チャージ型の結晶成長装置にも適用可能である。
更には、図7、図10、図18のような成長面が上を向くフェースアップ型の配置ばかりではなく、成長面が下側を向くフェースダウン型の配置や、成長面が鉛直方向や斜め傾斜した方向を向く結晶成長装置に対しても、種結晶基板の保持方法を工夫することで適用可能である。ただし、種結晶基板の裏面をエッチングする場合には、種結晶基板を全てエッチングしてしまうと、成長開始時の位置から結晶がずれたり、落下したりするので、裏面のエッチング量をある程度の量に抑える必要がある。
【符号の説明】
【0113】
1 種結晶基板(異種基板または窒化物半導体自立基板)
2 窒化物半導体結晶(GaN結晶)
2a C面で成長する窒化物半導体結晶
2b C面から傾いた面で成長する窒化物半導体結晶
3 トレー
4 載置面(設置面)
5、10、12 容器
5a、10a、12a 側壁
5b、10b、12b 底壁
6、14 側面
7、15 底面
8 窒化物半導体結晶の外周端部
9 意図して成長する面(C面)
11、18 パージガスの供給管
17 ブロック
f1 C面
f2 C面から傾いた面
G 原料ガス
g パージガス(エッチング作用を持つガス)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記窒化物半導体結晶の成長中に、前記種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加えながら、前記窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物半導体結晶の製造方法において、
前記種結晶基板の外側を取り囲む側壁を有する容器内に前記種結晶基板を設置し、
前記容器の内面のうち成長開始時に前記種結晶基板と接触しない前記内面の部分付近の環境を、前記窒化物半導体結晶の成長中にエッチング作用を加える環境とすることで、結晶成長の全期間を通じて前記窒化物半導体結晶が前記容器の内面の部分に接触することなく且つ前記容器内部の断面形状に相似するような断面形状で前記窒化物半導体結晶が成長することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記側壁の側面を含むことを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記種結晶基板を設置する側の面を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の前記環境が、前記側壁の側面からの距離とともに前記エッチング作用が弱まる環境にあることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物半導体結晶の成長を、成長とエッチングが共存する環境で行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の成長原料を希釈することで、前記エッチング作用を強めるようにしたことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記成長原料の希釈が、窒素、アルゴンまたはヘリウムを含む不活性ガスを供給することで行われることを特徴とする請求項6に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近に、エッチング作用を持つガスあるいは液体を供給することで、前記エッチング作用を加えるようにしたことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング作用を持つガスが、水素、塩素、塩化水素の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項8に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
前記窒化物半導体結晶の成長を、触媒の作用によりエッチング種を発生する物質を供給しつつ行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の少なくとも一部を前記触媒の作用を有する触媒物質とすることで、前記エッチング作用が発現されることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
前記触媒の作用によりエッチング種を発生する物質が、水素ガスであることを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
前記触媒の作用を有する触媒物質が、金属または金属の窒化物であることを特徴とする請求項10または11に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項13】
前記金属が、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかであることを特徴とする請求項12に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項14】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器のエッチング作用が生じる内面と前記窒化物半導体結晶との距離が、結晶成長開始から終了までの期間、1〜10mmの範囲にあることを特徴とする請求項2〜13のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項15】
前記側壁の側面と前記種結晶基板が載置される前記容器の載置面とのなす角度が90度より大きく135度以下の範囲にあって、前記容器内部の断面がその開口部側に向けて拡大した形状であり、
前記窒化物半導体結晶が窒素面を成長面としてその径を拡大しつつ成長することを特徴とする請求項2〜14のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項16】
板状の種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長した窒化物半導体エピタキシヤルウエハであって、
前記窒化物半導体結晶は、前記種結晶基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶と、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の外周端部に、前記主面から傾いた面方向に成長し、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶とを有していないか、有していた場合でも、
高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満であることを特徴とする窒化物半導体エピタキシヤルウエハ。
【請求項17】
前記種結晶基板がサファイア基板であり、前記窒化物半導体結晶がGaN層である窒化物半導体エピタキシャルウエハであって、
前記窒化物半導体エピタキシャルウエハの曲率半径をR(m)、前記GaN層の厚さをt(μm)、前記サファイア基板の厚さをY(μm)、係数をAとした場合に、次の式(1)、(2)
R=A/t …… 式(1)
A>0.00249×Y1.58483 …… 式(2)
を満足することを特徴とする請求項16に記載の窒化物半導体エピタキシャルウエハ。
【請求項18】
板状の窒化物半導体自立基板であり、その外周端部に、前記窒化物半導体自立基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶を有していないか、有していた場合でも、
前記外周端部の高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満であることを特徴とする窒化物半導体自立基板。
【請求項1】
種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長する窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記窒化物半導体結晶の成長中に、前記種結晶基板の外周端部にエッチング作用を加えながら、前記窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とする窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物半導体結晶の製造方法において、
前記種結晶基板の外側を取り囲む側壁を有する容器内に前記種結晶基板を設置し、
前記容器の内面のうち成長開始時に前記種結晶基板と接触しない前記内面の部分付近の環境を、前記窒化物半導体結晶の成長中にエッチング作用を加える環境とすることで、結晶成長の全期間を通じて前記窒化物半導体結晶が前記容器の内面の部分に接触することなく且つ前記容器内部の断面形状に相似するような断面形状で前記窒化物半導体結晶が成長することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記側壁の側面を含むことを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面が、前記種結晶基板を設置する側の面を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の前記環境が、前記側壁の側面からの距離とともに前記エッチング作用が弱まる環境にあることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物半導体結晶の成長を、成長とエッチングが共存する環境で行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近の成長原料を希釈することで、前記エッチング作用を強めるようにしたことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記成長原料の希釈が、窒素、アルゴンまたはヘリウムを含む不活性ガスを供給することで行われることを特徴とする請求項6に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の部分付近に、エッチング作用を持つガスあるいは液体を供給することで、前記エッチング作用を加えるようにしたことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング作用を持つガスが、水素、塩素、塩化水素の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項8に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
前記窒化物半導体結晶の成長を、触媒の作用によりエッチング種を発生する物質を供給しつつ行い、前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器の内面の少なくとも一部を前記触媒の作用を有する触媒物質とすることで、前記エッチング作用が発現されることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
前記触媒の作用によりエッチング種を発生する物質が、水素ガスであることを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
前記触媒の作用を有する触媒物質が、金属または金属の窒化物であることを特徴とする請求項10または11に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項13】
前記金属が、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、W、Mo、Niのいずれかであることを特徴とする請求項12に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項14】
前記窒化物半導体結晶と接触しない前記容器のエッチング作用が生じる内面と前記窒化物半導体結晶との距離が、結晶成長開始から終了までの期間、1〜10mmの範囲にあることを特徴とする請求項2〜13のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項15】
前記側壁の側面と前記種結晶基板が載置される前記容器の載置面とのなす角度が90度より大きく135度以下の範囲にあって、前記容器内部の断面がその開口部側に向けて拡大した形状であり、
前記窒化物半導体結晶が窒素面を成長面としてその径を拡大しつつ成長することを特徴とする請求項2〜14のいずれかに記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項16】
板状の種結晶基板上に窒化物半導体結晶を成長した窒化物半導体エピタキシヤルウエハであって、
前記窒化物半導体結晶は、前記種結晶基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶と、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の外周端部に、前記主面から傾いた面方向に成長し、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶とを有していないか、有していた場合でも、
高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満であることを特徴とする窒化物半導体エピタキシヤルウエハ。
【請求項17】
前記種結晶基板がサファイア基板であり、前記窒化物半導体結晶がGaN層である窒化物半導体エピタキシャルウエハであって、
前記窒化物半導体エピタキシャルウエハの曲率半径をR(m)、前記GaN層の厚さをt(μm)、前記サファイア基板の厚さをY(μm)、係数をAとした場合に、次の式(1)、(2)
R=A/t …… 式(1)
A>0.00249×Y1.58483 …… 式(2)
を満足することを特徴とする請求項16に記載の窒化物半導体エピタキシャルウエハ。
【請求項18】
板状の窒化物半導体自立基板であり、その外周端部に、前記窒化物半導体自立基板の主面方向に成長した窒化物半導体結晶よりも高い不純物濃度の窒化物半導体結晶を有していないか、有していた場合でも、
前記外周端部の高い不純物濃度の前記窒化物半導体結晶の成長厚が、前記主面方向に成長した前記窒化物半導体結晶の成長厚の10分の1未満であることを特徴とする窒化物半導体自立基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【公開番号】特開2013−75815(P2013−75815A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−197038(P2012−197038)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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