説明

窒化物半導体装置の製造方法

【課題】高抵抗バッファ層の結晶品質の劣化を避けることができる窒化物半導体装置の製造方法を得る。
【解決手段】SiC基板1上に、III族原料として有機金属原料を用い、V族原料としてヒドラジン誘導体の有機化合物を用いたMOCVD法により、炭素濃度が1018cm−3以上に制御された窒化物半導体からなるAlN高抵抗バッファ層2を形成する。AlN高抵抗バッファ層2上に、AlN高抵抗バッファ層2よりも低い抵抗値を持つGaN電子走行層3とAl0.2Ga0.8N電子供給層4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に窒化物半導体からなる高抵抗バッファ層を形成する窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(FET: Field Effect Transistor)ではバッファ層中のリーク電流の低減や耐圧向上のために、バッファ層を高抵抗化させる。窒化物半導体に不純物として炭素をドーピングすることで高抵抗化させる方法が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。MOCVD法において成長温度、成長圧力、V/III比等を下げることでIII族原料のメチル基やエチル基等から炭素をドーピングさせる方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−68498号公報
【特許文献2】特許第4429459号公報
【特許文献3】特開2007−251144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の炭素ドーピングの方法では成長温度、成長圧力、V/III比等を下げるため、最適な結晶成長条件から外れてしまう。これにより、窒素空孔が発生するなど、結晶品質の劣化が避けられず、リーク電流等を十分に低減させることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は高抵抗バッファ層の結晶品質の劣化を避けることができる窒化物半導体装置の製造方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る窒化物半導体装置の製造方法は、半導体基板上に、III族原料として有機金属原料を用い、V族原料としてヒドラジン誘導体の有機化合物を用いたMOCVD法により、炭素濃度が1018cm−3以上に制御された窒化物半導体からなる高抵抗バッファ層を形成する工程と、前記高抵抗バッファ層上に、前記高抵抗バッファ層よりも低い抵抗値を持つ窒化物半導体層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高抵抗バッファ層の結晶品質の劣化を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【図2】炭素濃度のNH/UDMHy供給モル比依存性を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態4に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態5に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る窒化物半導体装置の製造方法について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。SiC基板1上に層厚300nmのAlN高抵抗バッファ層2が設けられている。AlN高抵抗バッファ層2上に層厚1μmのGaN電子走行層3が設けられている。GaN電子走行層3の上に層厚25nmのAl0.2Ga0.8N電子供給層4が設けられている。Al0.2Ga0.8N電子供給層4上にゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7が設けられている。AlN高抵抗バッファ層2は、炭素濃度が1018cm−3以上で制御されており、GaN電子走行層3及びAl0.2Ga0.8N電子供給層4よりも高い抵抗値を持つ。
【0011】
続いて、本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法を説明する。結晶成長方法としてMOCVD法を用いる。III族原料として、有機金属化合物であるトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)を用いる。V族原料として、アンモニア(NH)ガス、ジメチルヒドラジン(UDMHy)を用いる。これらの原料ガスのキャリアガスとして、水素(H)ガス、窒素(N)ガスを用いる。
【0012】
まず、SiC基板1上に、TMAとUDMHyを用いてAlN高抵抗バッファ層2を形成する。次に、AlN高抵抗バッファ層2上に、TMGとNHを用いてGaN電子走行層3を形成する。次に、GaN電子走行層3上に、Al0.2Ga0.8N電子供給層4を形成する。次に、Al0.2Ga0.8N電子供給層4上にゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7を形成する。以上の工程により電界効果トランジスタが製造される。
【0013】
本実施の形態では、AlN高抵抗バッファ層2を形成する際に、V族原料としてUDMHyを用いる。これにより、成長温度、成長圧力、V/III比等を下げることなく、下記の化学式のようにTMAやUDMHyから遊離されたメチル基が容易に結晶中に取り込まれるため、高抵抗でかつ窒素空孔の無い結晶を得ることができる。従って、AlN高抵抗バッファ層2の結晶品質の劣化を避けることができる。また、AlN高抵抗バッファ層2の炭素濃度を二次イオン質量分析(SIMS: Secondary Ion Mass Spectroscopy)により測定したところ、1×1020cm−3であり、AlN高抵抗バッファ層2の比抵抗値をホール効果法により測定したところ、1×10Ωcm以上の高抵抗値を示した。この結果、電界効果トランジスタのリーク電流を十分に低減でき、十分な耐圧を確保できる。さらに、AlN高抵抗バッファ層2はSiC基板1よりも高い抵抗値を有するため、基板での損失を抑制することができ、高周波特性が良好な電界効果トランジスタを得ることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
なお、SiC基板1の代わりにSi基板、サファイア基板、GaN基板などを用いてもよい。
【0016】
実施の形態2.
実施の形態2では、AlN高抵抗バッファ層2を形成する際に、V族原料としてUDMHyとNHを用いる。それ以外の製造方法は実施の形態1と同様である。
【0017】
図2は、炭素濃度のNH/UDMHy供給モル比依存性を示す図である。この図から分かるように、UDMHyに対するNHの供給モル比を30以下とすることで、結晶品質に影響する成長温度や成長圧力を変えることなく、炭素濃度を1018cm−3以上で制御することができる。この結果、例えば100Ωcmから1×10Ωcmの範囲で所望の抵抗率を有するAlN高抵抗バッファ層2を得ることができるため、構造設計が容易になる。なお、結晶成長中にNH/UDMHy供給モル比を変化させることにより、膜厚方向に炭素濃度を変化させることもできる。
【0018】
実施の形態3.
図3は、本発明の実施の形態3に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。SiC基板1上に層厚300nmのAlN高抵抗バッファ層2が設けられている。AlN高抵抗バッファ層2上に層厚0.5μmのGaN高抵抗バッファ層8が設けられている。GaN高抵抗バッファ層8上に層厚0.5μmのGaN電子走行層3が設けられている。GaN電子走行層3の上に層厚25nmのAl0.2Ga0.8N電子供給層4が設けられている。Al0.2Ga0.8N電子供給層4上にゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7が設けられている。AlN高抵抗バッファ層2及びGaN高抵抗バッファ層8は、炭素濃度が1018cm−3以上で制御されており、GaN電子走行層3及びAl0.2Ga0.8N電子供給層4よりも高い抵抗値を持つ。
【0019】
続いて、本発明の実施の形態3に係る窒化物半導体装置の製造方法を説明する。まず、SiC基板1上に、実施の形態1と同様にTMAとUDMHyを用いてAlN高抵抗バッファ層2を形成する。次に、AlN高抵抗バッファ層2上に、TMGとUDMHyを用いてGaN高抵抗バッファ層8を形成する。
【0020】
次に、実施の形態1と同様に、GaN電子走行層3、Al0.2Ga0.8N電子供給層4、ゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7を形成する。以上の工程により電界効果トランジスタが製造される。
【0021】
本実施の形態では、GaN高抵抗バッファ層8を形成する際に、V族原料としてUDMHyを用いる。これにより、成長温度、成長圧力、V/III比等を下げることなく、下記の化学式のようにTMGやUDMHyから遊離されたメチル基が容易に結晶中に取り込まれるため、高抵抗でかつ窒素空孔の無い結晶を得ることができる。従って、GaN高抵抗バッファ層8の結晶品質の劣化を避けることができる。また、GaN高抵抗バッファ層8の炭素濃度を二次イオン質量分析(SIMS: Secondary Ion Mass Spectroscopy)により測定したところ、1×1020cm−3であり、GaN高抵抗バッファ層8の比抵抗値をホール効果法により測定したところ、1×10Ωcm以上の高抵抗値を示した。この結果、電界効果トランジスタのリーク電流を十分に低減でき、十分な耐圧を確保できる。
【0022】
【化2】

【0023】
さらに、AlN高抵抗バッファ層2及びGaN高抵抗バッファ層8が積層されているため、SiC基板1とAlN高抵抗バッファ層2との界面、及びAlN高抵抗バッファ層2とGaN高抵抗バッファ層8との界面でのリークパスを低減することもできる。また、AlN高抵抗バッファ層2やGaN高抵抗バッファ層8は、SiC基板1よりも高い抵抗値を有するため、基板での損失を抑制することができ、高周波特性が良好な電界効果トランジスタを得ることができる。
【0024】
なお、GaN高抵抗バッファ層8を形成する際に、V族原料としてUDMHyとNHを用いてもよい。UDMHyに対するNHの供給モル比を30以下とすることで、結晶品質に影響する成長温度や成長圧力を変えることなく、炭素濃度を1018cm−3以上で制御することができる。この結果、例えば100Ωcmから1×10Ωcmの範囲で所望の抵抗率を有するGaN高抵抗バッファ層8を得ることができるため、構造設計が容易になる。
【0025】
また、SiC基板1の代わりにSi基板、サファイア基板、GaN基板などを用いてもよい。AlN高抵抗バッファ層2を例に挙げたが、これに限らず、半導体基板の構成物質に応じて最適な層を選択することができる。
【0026】
また、GaN高抵抗バッファ層8の代わりに、GaNとAlNとInNとの混晶であるInx1Aly1Ga1−x1−y1N(0<=x1,0<=y1,x1+y1<1)層を用いてもよい。この層を形成する際に、III族原料としてTMA、TMG、TMIを用い、V族原料としてUDMHyのみ又はUDMHyとNHを用いる。
【0027】
実施の形態4.
図4は、本発明の実施の形態4に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。Si基板9上に層厚200nmのAlN高抵抗バッファ層2が設けられている。AlN高抵抗バッファ層2上に、混晶比の異なる複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cが設けられている。例えば、複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cは、それぞれ層厚300nmのAl0.5Ga0.5N層、層厚500nmのAl0.3Ga0.7N層、層厚500nmのAl0.2Ga0.8N層である。
【0028】
AlGaN高抵抗バッファ層10c上に層厚1.0μmのGaN電子走行層3が設けられている。GaN電子走行層3の上に層厚25nmのAl0.2Ga0.8N電子供給層4が設けられている。Al0.2Ga0.8N電子供給層4上にゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7が設けられている。
【0029】
AlN高抵抗バッファ層2及び複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cは、炭素濃度が1018cm−3以上で制御されており、GaN電子走行層3及びAl0.2Ga0.8N電子供給層4よりも高い抵抗値を持つ。
【0030】
続いて、本発明の実施の形態4に係る窒化物半導体装置の製造方法を説明する。まず、Si基板9上に、実施の形態1と同様にTMAとUDMHyを用いてAlN高抵抗バッファ層2を形成する。次に、AlN高抵抗バッファ層2上に、III族原料としてTMGとTMAを用い、V族原料としUDMHy単独又はUDMHy及びNHを用いて、混晶比の異なる複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cを形成する。
【0031】
次に、実施の形態1と同様に、GaN電子走行層3、Al0.2Ga0.8N電子供給層4、ゲート電極5、ソース電極6、及びドレイン電極7を形成する。以上の工程により電界効果トランジスタが製造される。
【0032】
Si基板9上にGaN電子走行層3やAl0.2Ga0.8N電子供給層4などの窒化物層を形成すると、Siと窒化物半導体との格子定数差及び熱膨張率差により、窒化物半導体層に非常に大きな歪が発生する。その歪の大きさによっては、窒化物半導体層にクラックが発生し、大きな反りが起こる場合がある。これに対して、本実施の形態では、混晶比の異なる複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cが歪を緩和するため、クラックが無く反りが軽減された良好な電界効果トランジスタを得ることができる。また、半導体基板としてSi基板9を用いることにより、安価で大口径化が可能であるが、Si基板9の抵抗率がサファイア基板やSiC基板よりも低いために高周波特性で不利である。しかし、AlN高抵抗バッファ層2やAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cは、Si基板9よりも高い抵抗値を有するため、Si基板9での損失を抑制することができ、高周波特性が良好な電界効果トランジスタを得ることができる。このことから、抵抗値の低い半導体基板上に電界効果トランジスタを作製する場合には、基板よりも抵抗率が高い、例えば1×10Ωcm以上の高抵抗バッファ層を用いることが好ましい。
【0033】
なお、混晶比の異なる複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cの代わりに、混晶比を連続的に変化させたAlGaN高抵抗バッファ層を用いてもよい。
【0034】
実施の形態5.
図5は、本発明の実施の形態5に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。実施の形態4の複数のAlGaN高抵抗バッファ層10a,10b,10cの代わりに、層厚5nmのAlN層と層厚15nmのGaN層を交互に40周期積層した高抵抗バッファ層11が設けられている。その他の構成は実施の形態4と同様である。
【0035】
AlN層は、III族原料としてTMAを用い、V族原料としてUDMHy単独又はUDMHy及びNHを用いて形成される。GaN層は、III族原料としてTMGを用い、V族原料としてUDMHy単独又はUDMHy及びNHを用いて形成される。その他の製造方法は実施形態4と同様である。
【0036】
多層膜からなる高抵抗バッファ層11が歪を緩和するため、クラックが無く反りが軽減された良好な電界効果トランジスタを得ることができる。なお、本実施の形態では、高抵抗バッファ層11は、AlN層とGaN層を交互に積層した周期構造であるが、混晶比の異なるInAlGaN層の周期構造を用いてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 SiC基板(半導体基板)
2 AlN高抵抗バッファ層(高抵抗バッファ層)
3 GaN電子走行層(窒化物半導体層)
4 Al0.2Ga0.8N電子供給層(窒化物半導体層)
8 GaN高抵抗バッファ層(高抵抗バッファ層)
9 Si基板(半導体基板)
10a,10b,10c AlGaN高抵抗バッファ層(高抵抗バッファ層)
11 高抵抗バッファ層(高抵抗バッファ層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、III族原料として有機金属原料を用い、V族原料としてヒドラジン誘導体の有機化合物を用いたMOCVD法により、炭素濃度が1018cm−3以上に制御された窒化物半導体からなる高抵抗バッファ層を形成する工程と、
前記高抵抗バッファ層上に、前記高抵抗バッファ層よりも低い抵抗値を持つ窒化物半導体層を形成する工程とを備えることを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記高抵抗バッファ層は、前記半導体基板よりも高い抵抗値を持つことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記高抵抗バッファ層を形成する際に、V族原料として前記ヒドラジン誘導体の有機化合物とアンモニアを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドラジン誘導体の有機化合物に対する前記アンモニアの供給モル比が30以下であることを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記高抵抗バッファ層は、積層されたAlN高抵抗バッファ層及びGaN高抵抗バッファ層を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記高抵抗バッファ層は、混晶比の異なる複数の層を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記高抵抗バッファ層は、異なる層を交互に積層した周期構造であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−4681(P2013−4681A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133490(P2011−133490)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】