説明

窒化物半導体高電子移動度トランジスタ

【課題】ソース抵抗やドレイン電流の劣化を伴わない、埋め込みゲート型エンハンスモードのHEMTを提供する。
【解決手段】GaN−HEMTは、GaNチャネル層22と、GaNチャネル層22上にヘテロ接合されたAlGaNバリア層24と、AlGaNバリア層24の上面のゲート領域に形成された所定の深さのリセス部26と、リセス部26に対して選択的に再成長されてリセス部26の内壁面に被着されたi−GaN選択再成長層27と、i−GaN選択再成長層27を介してリセス部26を埋め込むゲート電極40と、ゲート電極の両側に所定距離隔てて形成されたソース電極41及びドレイン電極42とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、以下「FET」という。)の1つである高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor、以下「HEMT」という。)のうち、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物半導体を用いたGaN系HEMT(以下「GaN−HEMT」という。)等の窒化物半導体HEMTにおいて、例えば、ゲート電圧がゼロの時にドレイン電圧を印加しても、ソース電極・ドレイン電極間に電流が流れないエンハンスメントモード(ノーマリオフ型)の窒化物半導体HEMTに関するものである。
【背景技術】
【0002】
FETのうち、例えば、窒化ガリウムアルミニュウム(AlGaN)とGaNがヘテロ接合されたGaN−HEMTは、ノーマリオフ化が難しかった。通常のGaN−HEMTの断面構造を図2に示す。
【0003】
図2(a)、(b)は、従来のGaN−HEMTの通常の模式的な断面構造を示す図であり、同図(a)は全体の断面図、及び、同図(b)は同図(a)中のH部分の拡大断面図である。
【0004】
このGaN−HEMTは、絶縁性の素子分離領域1により分離された電子走行層であるGaNチャネル層2上に形成された素子である。GaNチャネル層2上には、ヘテロ界面3を介して、電子供給層であるAlGaNバリア層4がヘテロ接合されている。AlGaNバリア層4は、例えば、AlGaN(X=0.25)により形成され、厚さが250Å(=25nm)程度である。AlGaNバリア層4上には、窒化シリコン(SiN)誘電体膜5が形成され、このSiN誘電体膜5のゲート形成領域に、幅Lgの開口部5aが形成されている。
【0005】
開口部5a内に露出したAlGaNバリア層4上には、ショットキー接合面6を介して、ニッケル(Ni)/金(Au)合金のゲート電極7がショットキー接合されている。ゲート電極7の両側には、所定間隔隔ててソース電極8とドレイン電極9が形成され、これらのソース電極8及びドレイン電極9が、AlGaNバリア層4に対してオーミック接触している。このようなゲート電極7、ソース電極8、及びドレイン電極9により、GaN−HEMTが構成されている。
【0006】
GaN−HEMTでは、ゲート電極7に所定電圧を印加すると、このゲート電極7下部に生じる電界により、ヘテロ界面3に高濃度の2次元電子ガス(以下「2DEG」という。)10が制御され、ソース電極8及びドレイン電極9間に所定の電流が流れるようになっている。ショットキー順方向電流電圧特性のゲート電流立ち上がり電圧Vfは、1.3V程度である。
【0007】
図3は、図2(b)中のI1−I2線断面で見たときのコンダクションバンド(伝導帯)を示す模式図であり、横軸は深さ(Depth)(μm)、及び、縦軸は電位(Potential)(V)である。
【0008】
通常のGaN−HEMTでは、AlGaNバリア層4とGaNチャネル層2とのヘテロ界面3に形成される2DEG10が、高濃度(約1.0E13cm−2程度)であるため、ゲート電極7とAlGaNバリア層4とのショットキー接合の空乏層だけでは、ノーマリオフ状態でピンチオフ(pinch-off、ドレイン電流がカットオフ)しないので、ノーマリオフ化が難しい。
【0009】
しかし、様々な電気機器に用いられている交流/直流(AC/DC)変換電源のスイッチング電源回路や、電気自動車等に用いられるモータドライブ用インバータ電源回路は、電源オフになったときに大電流が流れることがないようにという安全の観点から、電源オフ時に電流の流れないノーマリオフ化の要望が極めて強い。
【0010】
GaN−HEMTにおけるノーマリオフ化を実現できる技術として、従来、ゲートリセス技術及びp型ゲート技術が知られている。例えば、ゲートリセス技術に関しては、下記の非特許文献1に記載され、p型ゲート技術に関しては、下記の特許文献1、及び非特許文献2に記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開2005−244072号公報
【非特許文献1】信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE、ED99−287(2000−1)電子情報通信学会p.47−52
【非特許文献2】応用電子物性分科会誌、12巻[1](2006)p.20−25
【0012】
図4は、非特許文献1等に記載された従来のゲートリセス構造を持つGaN−HEMTのゲート領域の模式的な断面構造を示す図である。更に、図5は、図4中のI11−I12線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図であり、横軸は深さ(Depth)(μm)、及び、縦軸は電位(Potential)(V)である。
【0013】
このGaN−HEMTでは、例えば、塩素(Cl)や三塩化ホウ素(BCl)を用いたドライエッチングにより、AlGaNバッファ層4がエッチングされてゲートのリセス部4aが形成されている。ゲート電極7の下部は、下方向に延設されてリセス部4a内に挿入されている。リセス部4aの底面とヘテロ界面3との厚さDは、10nm程度である。このようなリセス部4aにより、閾値電圧Vthを調整し、エンハンスメントモードの動作が可能になる。
【0014】
図6(a)、(b)は、特許文献1、及び非特許文献2等に記載された従来のp型GaNゲート構造を持つGaN−HEMTのゲート領域の模式的な断面構造を示す図であり、同図(a)はp−GaN層形成工程を示す断面図、及び、同図(b)はゲート領域の全体の断面図である。
【0015】
エピタキシャル成長により、GaNチャネル層2上にn型AlGaNバリア層4が形成される。このAlGaNバリア層4は、例えば、AlGaN(x=0.07)により形成され、厚さが15nm程度である。更に、エピタキシャル成長により、AlGaNバリア層4上にp−GaN層11が形成され、この上に、Ni/Au合金のゲート電極7が選択的に形成された後、ゲート領域以外のp−GaN層11がドライエッチングで除去される。
【0016】
ゲート電極7下にp−GaN層11を設ければ、このp−GaN層11の拡散電位効果により、エンハンスメントモードの動作が可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来のゲートリセス構造を持つGaN−HEMTや、p型GaNゲート構造を持つGaN−HEMTでは、以下の(A)、(B)のような課題があった。
【0018】
(A) 従来のゲートリセス構造を持つGaN−HEMTの課題
従来のリセスゲート技術では、次の(1)、(2)のような問題がある。
【0019】
(1) 図4のゲートリセス構造では、リセス部4aにより閾値電圧Vthを調整してエンハンスメントモードにしている。しかし、AlGaNバリア層4をドライエッチングしてリセス部4aを形成する際に、このリセス部4aの底面とヘテロ界面3との間のAlGaNバリア層4の厚さDを制御することが困難なため、リセス部4aによる閾値電圧Vthの制御が難しい。
【0020】
(2) リセス部4aを形成することにより、AlGaNバリア層4の厚さDが薄くなるため、ゲート電極7及び2DEG10間の電界が増大する。そのため、図5に示すように、三角ポテンシャルが低下する鏡像効果により、ショットキー順方向電流電圧特性のゲート電流立ち上がり電圧Vfが0.7V程度まで低下する。電圧Vfが低下すると、ゲート電極7に印加できる電圧が制限され、最大ドレイン電流Idsmaxが低下する。つまり、リセス構造に作製したショットキーゲート電極7では、ゲート電流立ち上がり電圧Vfが低く、ゲートバイアス範囲が狭いので、最大ドレイン電流Idsmaxが小さくなる。
【0021】
このような問題(1)、(2)をより具体的に説明すると、図4に示すように、リセス部4aを形成するために、ClやBClを用いたドライエッチングによってAlGaNバリア層4がエッチングされる。この時、エンハンスメントモードにするためには、AlGaNバリア層4の厚さDを10nm以下にせねばならず、その制御性、特に面内均一性が問題となる。又、エッチング時のダメージ損傷は避けがたく、ドレイン電流を劣化させ、更にAlGaNバリア層4の厚さDが薄いことにより、半導体表面に形成されたショットキーゲート電極7の電圧Vfが低下するという問題が生じる。ゲート電圧Vgを正に印加した時にVg>Vfとなると、ゲート電流が流れ始めるため、Vg=Vfとなるドレイン電流が最大ドレイン電流Idsmaxとされる。従って、半導体表面に形成されたゲート電極7の電圧Vfが低下すると、最大ドレイン電流Idsmaxも低下するという問題が生じる。電圧Vfの定義としては、一般的にゲート電流1mA/mmとなるゲート電圧Vgである。
【0022】
(B) 従来のp型GaNゲート構造を持つGaN−HEMTの課題
従来のp型ゲート技術では、以下の(1)、(2)のような問題がある。
【0023】
(1) 図6(a)に示すように、ゲート領域外における最上層エピタキシャル成長層であるp−GaN層11をエッチングによって除去する場合、エッチングダメージによってGaN−HEMT特性の劣化が起こる。実際に作製されたGaN−HEMTのドレイン電流は、非常に低い。
【0024】
即ち、図6(b)に示すp型GaNゲート構造のGaN−HEMTでは、p−GaN層11がある領域で、p−n接合空乏によってチャネルの電子が枯渇しているため、図6(a)に示すように、ゲート領域にのみp−GaN層11を残す必要がある。そのため、ゲート領域以外の最上層のp−GaN層11をエッチングで除去しなければならず、ゲート領域以外でのドライエッチングが必須となる。ソース電極8及びゲート電極7間や、ドレイン電極9及びゲート電極7間は、そのドライエッチングのダメージ損傷によって抵抗が高くなり、ソース抵抗の増大やドレイン抵抗の増大を招き、GaN−HEMT特性を劣化させる。
【0025】
(2) 特許文献1では、ゲートリセス後にゲート領域部へp−GaN層を選択再成長する提案がされている(特許文献1の図13〜図15)。しかしながら、これらはリセス深さ、p層濃度、p層厚等の数値の記述が全くないため、実現性に乏しい。更に、リセス部にゲート電極を埋め込む形状になっておらず、図示された構造ではソース抵抗が増大するため、GaN−HEMT特性として動作するかどうか不明である。
【0026】
そこで、上述の問題点を解決するため、本発明は、十分に大きな電圧Vfを有し、ソース抵抗やドレイン電流の劣化を伴わない、埋め込みゲート型エンハンスモードのGaN−HEMT等の窒化物半導体HEMTを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の窒化物半導体HEMTでは、窒化物半導体のチャネル層と、前記チャネル層上にヘテロ接合された窒化物半導体のバリア層と、前記バリア層の上面のゲート領域に形成された所定の深さのリセス部と、前記リセス部に対して選択的に再成長されて前記リセス部の内壁面に被着され、最上層に薄膜GaN層を有する選択再成長層と、前記薄膜GaN層上に形成されて前記リセス部を埋め込むゲート電極と、前記ゲート電極の両側に所定距離隔てて形成され、前記バリア層に対して電気的に接続されたソース電極及びドレイン電極とを有している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、最上層に薄膜GaN層を有する選択再成長層をリセス部内に形成し、ゲート電極を選択再成長層を介してリセス部へ埋め込むようにしたので、ゲート電極・2DEG間のバリア層に印加される強電界が緩和する。これは空間的にゲート電極・2DEG間のAlGaNバリア層の厚さが大きくなるためである。電界緩和したことにより鏡像効果が緩和して、実質的にゲート電極下部とバリア層とのショットキー接合のゲート電流立ち上がり電圧Vfが向上する。従って、電圧Vfが向上したことによって、最大ドレイン電流を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
窒化物半導体HEMT(例えば、GaN−HEMT)は、GaN系半導体のチャネル層と、前記チャネル層上にヘテロ接合されたGaN系半導体のバリア層と、前記バリア層の上面のゲート領域に形成された所定の深さのリセス部と、前記リセス部に対して選択的に再成長されて前記リセス部の内壁面に被着され、最上層に薄膜GaN層(例えば、不純物の混入を極力なくしたアンドープGaN(以下「i−GaN」という。)の層)を有する選択再成長層と、前記薄膜GaN層上に形成されて前記リセス部を埋め込むゲート電極と、前記ゲート電極の両側に所定距離隔てて形成され、前記バリア層に対して電気的に接続されたソース電極及びドレイン電極とを有している。
【実施例1】
【0030】
(実施例1の構成)
図1(a)、(b)は、本発明の実施例1におけるGaN−HEMTの模式的な断面構造を示す図であり、同図(a)は全体の断面図、及び、同図(b)は同図(a)中のJ部分の拡大断面図である。
【0031】
このGaN−HEMTは、絶縁性の素子分離領域21により分離されたGaNチャネル層22上に形成された素子である。GaNチャネル層22上には、ヘテロ界面23を介して、AlGaNバリア層24がヘテロ接合されている。AlGaNバリア層24は、例えば、AlGaN(X=0.25)により形成され、厚さが25nm程度である。AlGaNバリア層24上には、SiN誘電体膜25が形成され、このSiN誘電体膜25及びAlGaNバリア層24におけるゲート形成領域の一部が、開口されて所定の深さのリセス部26が形成されている。リセス部26の底面とヘテロ界面23との間のAlGaNバリア層24の深さDは、10nm程度である。
【0032】
リセス部26内には、i−GaN層が選択再成長されて、厚さ10nm程度のi−GaN選択再成長層27が形成されている。リセス部26上には、Ni/Au合金等のゲート電極40が形成され、このゲート電極40の底面凸状の下部40aが、リセス部26のi−GaN選択再成長層27内に埋め込まれている。
【0033】
ゲート電極40の両側には、所定間隔隔ててソース電極41とドレイン電極42が形成され、これらのソース電極41及びドレイン電極42が、AlGaNバリア層24に対してオーミック接触している。このようなゲート電極40、ソース電極41、及びドレイン電極42により、埋め込みゲート型エンハンスモード(ノーマリオフ型)のGaN−HEMTが構成されている。
【0034】
このGaN−HEMTでは、例えば、ゲート電極40に印加するソース・ゲート間電圧がゼロの時に、ドレイン電極42に所定のドレイン電圧を印加しても、ゲート電極40下部に生じる空乏層により、ヘテロ界面23に生じる高濃度の2DEG50が遮断され、ソース電極41及びドレイン電極42間にドレイン電流が流れない。
【0035】
(実施例1の製造方法例)
先ず、GaNチャネル層22及びAlGaNバリア層24のヘテロ構造上にSiN誘電体膜25が形成された基板を用意する。ゲート開口パターニングしたレジストをマスクに、誘導結合方式の高密度プラズマエッチング(ICP−RIE)装置を用いて、SiN誘電体膜25をエッチングする。エッチングガスは、六フッ化硫黄(SF)ガスを用いる。更に、SiN誘電体膜25とAlGaNバリア層24を、連続的にリセスエッチングしてリセス部26を形成する。例えば、エッチング条件がエッチングガスBCl、雰囲気の圧力30mTorr、印加高周波(RF)パワー50Wだと、AlGaNバリア層24を形成するAl0.25Ga0.75Nは5nm/min以下のエッチングレートでゲートリセス可能である。エンハンスメントモードにするため、Al0.25Ga0.75N厚を100nm程度にし(15nmゲートリセスエッチングし)、レジスト除去を行う。
【0036】
次に、有機金属化学気相蒸着(MOCVD)装置を用い、SiN誘電体膜25をマスクに、i−GaN選択再成長層27を約10nm程度選択再成長する。この時、リセス部26の内壁面にもi−GaNが成長する。i−GaN選択成長のためのMOCVD条件は、例えば、成膜温度1070℃、雰囲気の圧力760Torr、原料となるガスはアンモニア(NH)ガスとトリメチルガリウム((CHGa)ガスとの流量比(V/III比)は2500である。i−GaNを選択再成長後、リセス部26にゲートメタル(Ni/Au)をリフトオフ法によって埋め込み、ゲート電極40を形成する。そして、ソース電極41及びドレイン電極42等を形成すれば、製造が終了する。
【0037】
(実施例1の効果)
図7は、図1(b)中のI31−I32線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図であり、横軸は深さ(Depth)(μm)、及び、縦軸は電位(Potential)(V)である。
【0038】
本実施例1によれば、リセス部26内に厚さ10nm程度のi−GaN選択再成長層27を形成したので、図7に示すように、ゲート電極40及び2DEG50間のAlGaNバリア層24に印加される強電界が緩和する。これは空間的にゲート電極40及び2DEG50間のAlGaNバリア層24の厚さD(=10nm程度)が厚くなるためである。電界緩和したことにより鏡像効果が緩和して、実質的にゲート電極下部40aとAlGaNバリア層24とのショットキー接合の電圧Vfが0.25V程度向上する。一方、選択再成長したi−GaN選択再成長層27が10nm以下であれば、ほとんどGaN−HEMTの閾値電圧Vthが変化しないため、エンハンスモードを維持できる。従って、電圧Vfが向上したことによって、最大ドレイン電流Idsmaxが300mA/mmから350mA/mmへと向上する。
【実施例2】
【0039】
(実施例2の構成・製造方法例)
図8は、本発明の実施例2におけるGaN−HEMTの模式的な拡大断面図であり、実施例1を示す図1(a)中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0040】
本実施例2のGaN−HEMTでは、実施例1のi−GaN選択再成長層27に代えて、リセス部26内に、不純物濃度が3.0E18cm−3、膜厚が10nm程度のp−GaN選択再成長層28が、ショットキー層として積層されている。このp−GaN選択再成長層28の上層には、i−GaN選択再成長層29を厚さ1nm程度成長させることが望ましい。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0041】
本実施例2のGaN−HEMTにおける製造方法は、例えば、実施例1とほぼ同様に、ゲートリセスによりリセス部26の形成、p−GaN選択再成長層28の形成、必要に応じてi−GaN選択再成長層29の形成、及び、ゲート電極40の形成を行う。p−GaN選択再成長層28を形成するp−GaN層は、例えば、添加する不純物(ドーパント)がマグネシューム(Mg)で、この不純物濃度が3E18cm-3、膜厚が10nm程度である。Mgドーパントを含むp−GaN選択再成長層28の表層酸化を防止するため、p−GaN選択再成長層28の上層に、厚さ1nm程度のi−GaN選択再成長層29を防止膜として成長させることが望ましい。
【0042】
(実施例2の効果)
図9は、図8中のI41−I42線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図であり、横軸は深さ(Depth)(μm)、及び、縦軸は電位(Potential)(V)である。
【0043】
本実施例2によれば、リセス部26内に、p−GaN層を選択再成長させてp−GaN選択再成長層28を形成しているので、ゲートショットキー部に擬似的なp−n接合(p−GaN/AlGaN)が形成され、空乏層が生じる。そのため、図9に示すように、ショットキーゲート電極側のコンダクションバンドのポテンシャルが持ち上げられ、結果的に、電圧Vfが更に0.5V程度向上する。この電圧Vfの向上によって、最大ドレイン電流Idsmaxが200mA/mmから500mA/mmまで向上する。
【0044】
又、p−GaN選択再成長層28の上層に、厚さ1nm程度のi−GaN選択再成長層29を形成した場合には、前記の効果が得られる他に、p−GaN選択再成長層28の表層酸化が防げる分、安定したエンハンスメントモードGaN−HEMT特性が得られる。
【実施例3】
【0045】
(実施例3の構成・製造方法例)
図10は、本発明の実施例3におけるGaN−HEMTの模式的な拡大断面図であり、実施例1を示す図1(a)、及び実施例2を示す図8中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0046】
本実施例3のGaN−HEMTでは、実施例1のi−GaN選択再成長層27や、実施例2のp−GaN選択再成長層28に代えて、リセス部26内に、不純物濃度が3.0E18cm−3、膜厚が10nm程度のp−AlGaN選択再成長層30が、ショットキー層として積層されている。このp−AlGaN選択再成長層30の上層には、i−GaN選択再成長層31を厚さ1nm程度成長させることが望ましい。その他の構成は、実施例1、2と同様である。
【0047】
本実施例3のGaN−HEMTにおける製造方法は、例えば、実施例1、2とほぼ同様に、ゲートリセスによりリセス部26の形成、p−AlGaN選択再成長層30の形成、及び、ゲート電極40の形成を行う。p−AlGaN選択再成長層30は、例えば、p−AlGaN(0≦x≦1)の選択再成長により形成される。選択再成長時に成長するp−AlGaN層厚は、組成比xによって異なるため、ここでは表面平坦性(例えば、平均二乗粗(rms)で3nm以下)が良い厚さまでとする。例えば、この時、Al0.25Ga0.75Nバリア層と同じ25%のAl組成であれば、20nm程度の選択再成長が可能である。
【0048】
本実施例3で採用したp−AlGaN選択再成長層は、例えば、ドーパントがMgで、この不純物濃度が3E18cm-3、膜厚が10nm程度である。p−AlGaN選択再成長層30の表層酸化を防止するために、p−AlGaN選択再成長層30の上層に、厚さ1nm程度のi−GaN選択再成長層31を防止膜として成長させることが望ましい。
【0049】
(実施例3の効果)
本実施例3によれば、次の(1)、(2)のような効果がある。
【0050】
(1) 図11は、図10中のI51−I52線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図であり、横軸は深さ(Depth)(μm)、及び、縦軸は電位(Potential)(V)である。
【0051】
本実施例3によれば、リセス部26内に、p−AlGaN層を選択再成長させてp−AlGaN選択再成長層30を形成しているので、実施例2のような擬似的p−n接合(p−GaN/AlGaN)の不連続界面がなくなる。そのため、図11に示すように、ショットキーゲート電極側のコンダクションバンドのポテンシャルが更に持ち上げられ、結果的に、電圧Vfが実施例2よりも更に0.3V程度向上する。この電圧Vfの向上によって、最大ドレイン電流Idsmaxが600mA/mmまで向上する。
【0052】
(2) p−AlGaN選択再成長層30の上層に、厚さ1nm程度のi−GaN選択再成長層31を形成した場合には、前記の効果が得られる他に、更に、次のような効果も期待できる。
【0053】
p−AlGaN選択再成長層30を成長させる際に、Al組成が高ければ高いほどAlの酸化力によって表面酸化が進む。表面酸化の進行したAlGaNショットキー特性は、ゲートリークを増大させる等、GaN−HEMT特性を劣化させる。そのため、選択再成長でも、ゲート電極と接触するエピタキシャル層の最上層をi−GaN選択再成長層31で被覆しておくことが、GaN−HEMT特性を劣化させないために望ましい。このようなi−GaN選択再成長層31を成長させれば、選択再成長工程後のゲートメタル蒸着時に、p−AlGaN選択再成長層30が表面に露出しないため、このp−AlGaN選択再成長層30の表面酸化によるゲートリーク電流の増大等といったGaN−HEMT特性の劣化を防止できる。
【実施例4】
【0054】
(実施例4の構成・製造方法例)
図12は、本発明の実施例4におけるGaN−HEMTの模式的な拡大断面図であり、実施例1、2、3をそれぞれ示す図1(a)、図8、図10中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0055】
本実施例4のGaN−HEMTでは、実施例1のi−GaN選択再成長層27、実施例2のp−GaN選択再成長層28やi−GaN選択再成長層29、あるいは、実施例3のp−AlGaN選択再成長層30やi−GaN選択再成長層31に代えて、リセス部26内に、膜厚が1nm程度のi−AlN選択再成長層32、p−AlGa1−xN(0≦x≦1)のp−AlGaN選択再成長層33、及び、必要に応じて膜厚が1nm程度のi−GaN選択再成長層34が、ショットキー層として積層されている。
【0056】
選択再成長時に成長するp−AlGaN選択再成長層33の厚さは、組成比xによって異なるため、ここでは表面平坦性(例えば、平均二乗粗(rms)で3nm以下)が良い厚さまでとする。下層にi−AlN選択再成長層32を挿入することにより、このAlNがバリア層として働き、p−AlGaN選択再成長層33を形成するためのエピタキシャル成長時のAlGaNバリア層24へのMgドーパントの拡散を抑制できる。
【0057】
又、p−AlGaN選択再成長層33の上層には、p−AlGaN選択再成長層33の酸化防止のために、i−GaN選択再成長層33を厚さ1nm程度成長させることが望ましい。その他の構成は、実施例1、2、3と同様である。
【0058】
本実施例4のGaN−HEMTにおける製造方法は、例えば、実施例1、2、3とほぼ同様に、ゲートリセスによりリセス部26の形成、i−AlN選択再成長層32の形成、p−AlGaN選択再成長層33の形成、必要に応じてi−GaN選択再成長層34の形成、及び、ゲート電極40の形成を行う。
【0059】
(実施例4の効果)
本実施例4によれば、次の(1)〜(3)のような効果がある。
【0060】
(1) リセス部26内にp−AlGaN層を選択再成長させてp−AlGaN選択再成長層33を形成しているので、実施例3の効果(1)と同様の効果がある。
【0061】
(2) AlGaNバリア層24とp−AlGaN選択再成長層33との間に、i−AlN選択再成長層32を挿入したので、p−AlGaN選択再成長時においてMgドーパントのAlGaNバリア層24への拡散を抑制でき、擬似的なp−n接合のプロファイルが改善するため、p−AlGaN選択再成長層33を実施例3よりも薄層化しても、同様の電圧Vfの向上効果が得られる。GaN−HEMT特性としては、2DEG50とゲート電極40との距離が近いほど相互コンダクタンス(gm)特性が向上するので、より高gm特性を持つエンハンスメントモードGaN−HEMTを実現できる。
【0062】
(3) p−AlGaN選択再成長層33の上層に、厚さ1nm程度のi−GaN選択再成長層34を形成した場合には、実施例3の効果(2)と同様の効果がある。
【0063】
(変形例)
本発明は、図示の実施例1〜4に限定されず、例えば、チャネル層(22)やバリア層(24)をGaN系半導体以外の窒化物半導体で形成したり、図示以外の寸法や材質で形成したり、あるいは、リセス部26の形状や構造を図示以外のものに変更する等、種々の変形や利用形態が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1におけるGaN−HEMTの模式的な断面構造を示す図である。
【図2】従来のGaN−HEMTの通常の模式的な断面構造を示す図である。
【図3】図2(b)中のI1−I2線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図である。
【図4】従来のゲートリセス構造を持つGaN−HEMTのゲート領域の模式的な断面構造を示す図である。
【図5】図4中のI11−I12線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図である。
【図6】従来のp型GaNゲート構造を持つGaN−HEMTのゲート領域の模式的な断面構造を示す図である。
【図7】図1(b)中のI31−I32線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図である。
【図8】本発明の実施例2におけるGaN−HEMTの模式的な拡大断面図である。
【図9】図8中のI41−I42線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図である。
【図10】本発明の実施例3におけるGaN−HEMTの模式的な拡大断面図である。
【図11】図10中のI51−I52線断面で見たときのコンダクションバンドを示す模式図である。
【図12】本発明の実施例4におけるGaN−HEMTの模式的な拡大断面図である。
【符号の説明】
【0065】
22 GaNチャネル層
23 2DEG
24 AlGaNバリア層
25 誘電体膜
26 リセス部
27,29,31,34 i−GaN選択再成長層
28 p−GaN選択再成長層
30,33 p−AlGaN選択再成長層
32 i−AlN選択再成長層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体のチャネル層と、
前記チャネル層上にヘテロ接合された窒化物半導体のバリア層と、
前記バリア層の上面のゲート領域に形成された所定の深さのリセス部と、
前記リセス部に対して選択的に再成長されて前記リセス部の内壁面に被着され、最上層に薄膜GaN層を有する選択再成長層と、
前記薄膜GaN層上に形成されて前記リセス部を埋め込むゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に所定距離隔てて形成され、前記バリア層に対して電気的に接続されたソース電極及びドレイン電極と、
を有することを特徴とする窒化物半導体高電子移動度トランジスタ。
【請求項2】
前記選択再成長層は、アンドープGaN層を有することを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体高電子移動度トランジスタ。
【請求項3】
前記選択再成長層は、p−AlGaN(0≦x≦1)層を有することを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体高電子移動度トランジスタ。
【請求項4】
前記選択再成長層は、膜厚Tが0nm<T≦1nmのアンドープAlN層とp−AlGaN(0≦x≦1)層を有することを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体高電子移動度トランジスタ。
【請求項5】
前記窒化物半導体は、GaN系半導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体高電子移動度トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−153330(P2008−153330A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337901(P2006−337901)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】