説明

窒化物材料の加工方法、半導体機能素子の製造方法、半導体発光素子の製造方法、半導体発光素子アレイ、半導体発光素子およびレーザ加工装置

【課題】レーザ照射による加工を窒化物材料に施す際に生じる可能性のある種々の問題を解決することによって、高歩留りと高スループットを両立させる。
【解決手段】半導体発光素子は、バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板21上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、薄膜結晶層に接して電極部を形成する電極部形成工程と、分離位置10aでレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、変性部が形成された窒化物基板21、薄膜結晶層および電極部を含む加工対象物を分離位置10aで分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、を経て製造される。変性部形成工程では、波長λ(nm)が1240/λ<Egsであり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、スクライブ痕40aが窒化物基板21の内部にのみ形成されるように照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光による窒化物材料の加工方法および加工装置に関し、特に、半導体発光素子など各種素子の製造に適した方法、装置およびそれらを利用して製造された物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子(以下、単に発光素子ともいう)、特にInAlGaN系材料を基礎にした発光素子は、バックライト用途、照明用途等への応用が急速に進み、各方面で精力的に研究されている。
【0003】
この種の発光素子の中でも、窒化物基板、例えばGaN基板上に形成されたInAlGaN系発光素子は、通常のサファイア基板上に形成されたInAlGaN系発光素子よりも、格子整合性に優れ、かつ貫通転位密度等も低減できることから、より高効率で高出力な発光素子を実現できるものと期待されている。
【0004】
一方、発光素子の量産においては、1つの基板上に多数の発光素子を形成し、所定の位置で基板を複数に分割することで個別の発光素子に分離することが行われている。発光素子を効率良く量産するためには、この素子分離工程における歩留まりの向上およびスループットの向上は重要であり、各種の素子分離方法が提案されている。
【0005】
例えば、通常のサファイア基板上のInAlGaN系発光素子は、サファイア基板の厚みが100μm程度に薄膜化されて、ダイヤモンドの先端を有する罫書き棒で基板部分にキズを入れ(ダイヤモンドスクライブ工程)、その後、このキズに沿って荷重をかけて個別の素子に分割する工程(ブレーキング工程)を経て製造されることが広く行われている。
【0006】
さらに、355nm程度の波長のレーザ光をサファイア基板表面に集光して照射することでいわゆるレーザアブレーションに起因する変性部を基板表面に形成して、レーザ光によってスクライブを行い(レーザスクライブ工程)、レーザ光の照射部分に沿って荷重をかけて個別の素子に分割する工程(ブレーキング工程)を経て発光素子を製造することも知られている。
【0007】
特に、レーザスクライブによってスクライブ工程を実施すると、ダイヤモンドスクライブによって実施する場合よりも素子のチッピングが抑制されるので、素子化歩留まりを向上させることが可能である。また、レーザスクライブは、ダイヤモンドスクライブと比べて工程のスピードも速いことからスループットの向上も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−109015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、レーザスクライブは、素子が形成された基板にスクライブラインを形成する方法として非常に好ましい。よって、窒化物基板上に形成した複数のInAlGaN系発光素子をレーザスクライブによって適切に個別の素子に分離することができれば、高効率で高出力な発光素子を比較的安価に製造することが可能となる。しかし、通常のレーザスクライブ法を窒化物基板上に形成された半導体発光素子に適応すると各種の問題が発生する。
【0010】
本発明者の検討によれば、複数の発光素子を形成したサファイア基板のスクライブ工程で通常使用される355nmのレーザ光を、例えばGaN基板、GaN基板上の半導体機能素子、さらにはGaN基板上の発光素子の素子分離部に照射して、加工用のキズ、すなわちスクライブラインを形成すると、GaN基板はサファイア基板に比べて極端に大きなダメージを受けてしまう。この結果、GaN基板上の発光素子においては極端な出力低下が引き起こされてしまう。
【0011】
これは、サファイア基板は355nmの波長のレーザ光に対しては透明であるため、レーザ照射による変性部の形成は限定的かつ適切な範囲であるが、GaN基板においては、そのバンドギャップが約3.4eVであり、約365nmよりも短波長の光を吸収してしまうためであると考えられる。
【0012】
さらに、サファイア基板においては、その表面に焦点を合わせてレーザを照射した場合に、たとえAlとOが乖離したとしても、Alが容易に空気中で酸化するために、変性部の形成は限定的かつ適切な範囲となる。しかし、例えばGaN基板においてGaとNが乖離すると、通常の環境ではGaとNの再結合は起こらない。このため、適性量を大幅に超えるGaドロップレットの発生や、また、大気等に暴露された環境下で高エネルギーレーザの照射を受けるために、基板表面には、その後の洗浄等でも容易には除去できない成分も生成されてしまう。これらは黒褐色等の着色物であることが多く、加工対象が発光素子の場合には、光出力低下の一因になる。
【0013】
一方、広い意味でのレーザ加工では、対象となる加工物の表面ではなく、内部に光学的な焦点を合わせて加工をする方法も知られている。しかし、例えば355nmのレーザ光の焦点をGaN基板内部に合わせると、実は、まったく加工をすることができない。すなわち、前述のように355nmの光はGaN基板に吸収されるために、焦点が合わずに空間的なエネルギー密度が加工閾値以下となる基板表面では加工が起こらない。一方、計算上は焦点が合う結晶内部にあっては、GaN基板による吸収のために光強度が低下し、ここでも加工が起きない結果となる。逆にいえば、焦点が合ってない表面で加工閾値以上の光としないと、内部での加工を引き起こすこともできないという矛盾が発生してしまう。これでは基板表面に変性部が形成されるため、前述の問題が発生してしまう。
【0014】
本発明者らの検討によれば、発光素子が形成されたGaN基板にレーザスクライブを行う際のさらなる問題点は次のとおりである。通常のレーザ光をたとえばGaN基板に照射したとき、基板表面に形成されるレーザ痕は、レーザ光の照射方向から見て楕円形状となり、その楕円の長手方向、短手方向は、GaN基板の結晶軸との相互関係で決まってしまう事態となる。このため、格子状にスクライブラインを形成した場合、スクライブラインの延びる方向によってレーザ痕の形状が異なり、安定的にブレーキングできないなどの問題が発生する。
【0015】
この理由は、レーザ光と、異方性を伴った大きな自発分極を有する窒化物材料特有の相互作用に起因して発生していると考えられる。
【0016】
一般には、レーザ加工で使用されるパルスレーザとして、半導体レーザ励起の固体レーザやチタンサファイアレーザ等がある。これらのレーザは直線偏光しており、その偏光消光比Rは100以上であるのが普通である。これは後述する楕円率Eが0.1以下であることに相当する。一方、窒化物材料は、構成材料である窒素側に極端に電子が偏っていることが知られており、Siなどの単体の半導体と異なり、GaNにおいても、AlN、InNにおいても、非常に大きな誘電率の異方性を有している。このため、窒化物基板へのレーザ光照射時のような、固体と光の相互作用が引き起こされる際に、加工の痕跡にも極端な異方性が誘起されるものと考えられる。このようなレーザ光の偏光方向と結晶軸との相対的な位置関係や、材料に依存して加工痕跡が変化してしまうことは窒化物材料の加工、あるいは半導体機能素子、半導体発光素子の加工方法としては不都合である。
【0017】
さらには、本発明者らの一人によって見出されたように、窒化物基板上に形成されたInAlGaN系半導体発光素子においては、基板と薄膜結晶層の間の屈折率差が、たとえばサファイア基板上に形成されたInAlGaN系半導体発光素子に比較して小さいことから、窒化物基板の厚みを通常の100μm程度の厚みではなく、この数倍(たとえば400μmや800μm)と極端に厚膜化し、素子の平面形状と基板厚みやアスペクト比を適切に制御することで、発光素子からの光取り出し効率を格段に向上させることが可能である。しかし、このような厚膜の窒化物基板、例えばGaN基板上に発光素子を形成した場合は、発光素子のチッピングを抑制し、高歩留まりと高スループットを両立させた素子分離工程を実現することは容易でない。
【0018】
本発明は、レーザ照射による加工を窒化物材料に施すと生じ得る種々の問題を解決することによって、高歩留りと高スループットを両立させ、特に、半導体発光素子に適用した場合に、高効率で高出力な発光素子を比較的安価に製造し得る窒化物材料のレーザ加工技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明は以下の事項に関する。
【0020】
[1] 主たる構成要素部分のバンドギャップがEgs(eV)である窒化物材料の予定された分離位置にレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、
前記変性部が形成された窒化物材料を前記分離位置で複数に分離する分離工程と、
を含む窒化物材料の加工方法であって、
前記変性部形成工程は、
波長λ(nm)が
1240/λ<Egs
であり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、前記変性部が前記窒化物材料の内部にのみ形成されるように、前記分離位置に照射することを含む、窒化物材料の加工方法。
【0021】
[2] バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板に半導体機能部を形成する機能部形成工程と、
前記窒化物基板を含む加工対象物の予定された分離位置にレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、
前記半導体機能部および前記変性部が形成された前記加工対象物を前記分離位置で分離して複数の半導体機能素子とする素子分離工程と、
を含む半導体機能素子の製造方法であって、
前記変性部形成工程は、
波長λ(nm)が
1240/λ<Egs
であり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、前記変性部が前記窒化物基板の内部にのみ形成されるように、前記分離位置に照射することを含む、半導体機能素子の製造方法。
【0022】
[3] バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、
前記薄膜結晶層に接して、または前記薄膜結晶層と前記窒化物基板に接して電極部を形成する電極部形成工程と、
予定された分離位置にレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、
前記変性部が形成された窒化物基板、前記薄膜結晶層および前記電極部を含む加工対象物を前記分離位置で分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、
を含む半導体発光素子の製造方法であって、
前記変性部形成工程は、
波長λ(nm)が
1240/λ<Egs
であり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、前記変性部が前記窒化物基板の内部にのみ形成されるように、前記分離位置に照射することを含む、半導体発光素子の製造方法。
【0023】
[4] 前記変性部形成工程は、波長が266nm、355nm、488nm、514nm、532nm、1064nmまたは10.6μmのいずれかのレーザ光を照射することを含む、上記[3]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0024】
[5] 前記変性部形成工程は、前記レーザ光の波長λ(nm)での前記窒化物基板の屈折率をn、レーザ光照射時の前記窒化物基板の物理的厚みをtsi(μm)、レーザ光照射時に前記窒化物基板の内部において最も集光される部分の、前記加工対象物の上部表面からの物理的距離をL(μm)としたとき、次の式、
100/n ≦ L≦(tsi―100)/n
を満たすように前記レーザ光を集光すること
を含む上記[3]または[4]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0025】
[6] 前記変性部形成工程は、
レーザ光の大気中における1回の照射あたりの空間的最大エネルギー密度φmax(mJ/cm)が、
200 ≦ φmax ≦ 5000
となるように時間的強度変調をかけて、またはパルス動作をさせてレーザ光を照射すること
を含む上記[3]から[5]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0026】
[7] 前記変性部形成工程は、パルス幅が0.05nsec以上100nsec以下となるようにレーザ光を照射することを含む上記[3]から[6]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0027】
[8] 前記変性部形成工程は、変調周期またはパルス周期が60kHz以上300kHz以下となるようにレーザ光を照射することを含む上記[3]から[7]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0028】
[9] 前記変性部形成工程は、前記加工対象物の表面で最も集光するようにレーザ光を照射することによって形成されるレーザ痕の直径をass(μm)、レーザ光の照射時の変調1周期におけるレーザ光の照射中心位置の移動量をP(μm)としたとき、
0.1×ass≦P≦1.25×ass
となるように、前記加工対象物とレーザ光とを相対的に移動させることを含む上記[3]から[8]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0029】
[10] 前記変性部形成工程は、前記加工対象物の平坦な表面部分からレーザ光を照射することを含む上記[3]から[9]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0030】
[11] 前記変性部形成工程は、レーザ光照射時に前記窒化物基板の内部において最も集光される部分の前記加工対象物の上部表面からの物理的距離L(μm)を変えて、レーザ光の照射を複数回行うことを含む請求項[3]から[10]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0031】
[12] 前記変性部形成工程は、前記物理的距離Lが大きいレーザ照射を前記物理的距離Lが小さいレーザ照射よりも先に行うことを含む上記[11]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0032】
[13] 前記変性部形成工程を前記素子分離工程よりも前に行う、上記[3]から[12]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0033】
[14] 前記変性部形成工程を、前記薄膜結晶層形成工程と前記電極部形成工程との間、前記電極部形成工程中、または前記電極部形成工程と前記素子分離工程との間に行う、上記[13]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0034】
[15] 前記変性部形成工程を互いに異なる工程で複数回行う、上記[13]または[14]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0035】
[16] 前記変性部形成工程は、前記加工対象物の表面が鏡面である側からレーザ光を照射することを含む上記[3]から[15]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0036】
[17] 前記窒化物基板は、AlN基板、GaN基板またはInN基板である、上記[3]から[16]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0037】
[18] 前記窒化物基板は、c面基板、a面基板、m面基板、またはこれら基板面からの傾斜が5度以内である面を有する基板である、上記[3]から[17]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0038】
[19] レーザ光照射前の前記窒化物基板の物理的厚みtsi(μm)は、
200≦ tsi ≦ 5000
である、上記[3]から[18]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0039】
[20] 前記変性部形成工程は、レーザ光の照射前に、前記加工対象物を粘着性シート上に搭載し、前記加工対象物が前記粘着性シート上に搭載された状態でレーザ光を照射することを含む上記[3]から[19]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0040】
[21] 前記素子分離工程は、前記加工対象物の厚み方向において前記変性部が形成された位置が近い方の表面側から前記加工対象物に曲げ応力を作用させることを含む上記[3]から[20]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0041】
[22] 前記素子分離工程の後に、分離によって現れた前記半導体発光素子の側壁面を洗浄する側壁洗浄工程をさらに有する上記[3]から[21]のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【0042】
[23] 前記側壁洗浄工程は、酸性の溶液で前記半導体発光素子の側壁面を洗浄することを含む上記[22]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0043】
[24] 前記酸性の溶液はHClを含む、上記[23]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0044】
[25] 前記側壁洗浄工程は、アルカリ性の溶液で前記半導体発光素子の側壁面を洗浄することを含む上記[22]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0045】
[26] 前記アルカリ性の溶液は、KOHまたはCa(OH)を含む、上記[25]に記載の半導体発光素子の製造方法。
【0046】
[27] バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、
前記薄膜結晶層に接して電極部を形成する電極部形成工程と、
予定された素子分離位置にレーザ光を照射することによって前記窒化物基板に変性部を形成する変性部形成工程と、
前記変性部が形成された窒化物基板、前記薄膜結晶層、および前記電極部を含む加工対象物を前記素子分離位置で分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、
前記素子分離工程で分離することによって露出した前記半導体発光素子の側壁を洗浄する側壁洗浄工程と、
を有し、
前記変性部形成工程は、
前記素子分離位置に照射するレーザ光の波長λ(nm)を
1240/λ< Egs
とし、
かつ、前記窒化物基板の内部にのみ前記変性部が形成されるようにレーザ光を照射することを含む半導体発光素子の製造方法。
【0047】
[28] 1つの窒化物基板上に、薄膜結晶層および電極部を有する複数の半導体発光素子分の半導体機能部が形成された半導体発光素子アレイであって、
各半導体発光素子の境界において、前記窒化物基板の内部に、前記窒化物基板の厚み方向を貫かず、かつ、前記窒化物基板の厚み方向と略直交する方向に並んだ複数のスクライブ痕を有していることを特徴とする半導体発光素子アレイ。
【0048】
[29] 複数の前記スクライブ痕が不連続に存在している上記[28]に記載の半導体発光素子アレイ。
【0049】
[30] 各スクライブ痕の中に複数のくぼみ部が存在している上記[28]または[29]に記載の半導体発光素子アレイ。
【0050】
[31] 前記窒化物基板の厚み方向と略直交する方向に並んだ複数のスクライブ痕が、帯状の少なくとも1つのスクライブ痕帯を形成している上記[28]から[30]のいずれかに記載の半導体発光素子アレイ。
【0051】
[32] 複数の前記スクライブ痕帯が、前記窒化物基板の厚み方向に並んでいる上記[31]に記載の半導体発光素子アレイ。
【0052】
[33] 前記窒化物基板はAlN基板、GaN基板またはInN基板である上記[28ら[32]のいずれかに記載の半導体発光素子アレイ。
【0053】
[34] 前記窒化物基板は、c面、a面、m面のいずれかを主面として有するか、または、これらの面からの傾斜が5度以内の面を主面とする基板である上記[28]から[33]のいずれかに記載の半導体発光素子アレイ。
【0054】
[35] 上記[28]から[34]のいずれかに記載の半導体発光素子アレイを、各半導体発光素子の境界で分離することによって得られた半導体発光素子であって、
前記窒化物基板の、分離によって現れた側壁に複数の前記スクライブ痕を有することを特徴とする半導体発光素子。
【0055】
[36] 前記窒化物基板の物理的厚みtsc(μm)が
100≦ tsc ≦ 3000
である上記[35]に記載の半導体発光素子。
【0056】
[37] 窒化物材料の加工用のレーザ加工装置であって、
TEM00モードで発振し、直線偏光のレーザ光を出射するレーザ光源と、
加工対象物である窒化物材料を搭載可能な可動ステージと、
前記レーザ光を、前記可動ステージ上に搭載された前記窒化物材料の内部で合焦するように集光する集光レンズと、
前記可動ステージ上に搭載された前記窒化物材料に照射されるレーザ光をランダム偏光または円偏光に変換する偏光制御部品と、
を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【0057】
[38] 前記偏光制御部品は、1以上の偏光解消板であり、前記レーザ光の偏光をランダム偏光に変換する上記[37]に記載のレーザ加工装置。
【0058】
[39] 前記偏光制御部品は、1/4波長板であり、前記レーザ光の偏光を円偏光に変換する上記[37]に記載のレーザ加工装置。
【0059】
[40] 前記レーザ光源から出射されるレーザ光のM因子が1以上1.5以下である上記[37]から[39]のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【0060】
[41] 前記レーザ光源から出射するレーザ光の波長は、266nm、355nm、488nm、514nm、532nm、1064nm、または10.6μmである上記[37]から[40]のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【0061】
[42] 前記レーザ光源は、0.5nsec以上100nsec以下のパルス幅でパルス駆動可能である上記[37]から[41]のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【0062】
[43] 前記レーザ光源は、60kHz以上300kHz以下の変調周期またはパルス周期で強度変調可能である上記 「37」から[42]のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、ランダム偏光または円偏光のレーザ光を照射することにより、窒化物系の加工対象物が有する誘電率の異方性の影響を受けにくくなる。その結果、加工対象物の面方位および加工位置などによらずに、安定して変性部を形成することができ、予定された分離位置で加工対象物を分離する際も安定したプロセスが実施できるようになる。また、変性部は加工対象物の内部にのみ形成されるので、変性部の形成に際して大気成分との反応は発生せず、分離後に容易に除去できない成分は生じない。よって、加工対象物の分離後に、分離によって現れた側壁を洗浄することにより、変性部は容易に除去可能である。
【0064】
本発明は、窒化物基板を用いた半導体発光素子を製造する場合に特に優れた効果を発揮する。このような半導体発光素子においては、窒化物基板の側壁も光の放射面として利用する場合があるが、素子分離によって窒化物基板の側壁に現れた変性部は洗浄により容易に除去できるので、全放射束を向上させた半導体発光素子とすることができるできる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態によるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2a】本発明において好ましく加工される窒化物材料の断面構成の一例を示す模式図である。
【図2b】本発明において好ましく加工される窒化物材料の断面構成の他の例を示す模式図である。
【図2c】本発明において好ましく加工される窒化物材料の断面構成のさらに他の例を示す模式図である。
【図3】本発明に従って窒化物基板の内部に変性部が形成されたフリップチップ型の半導体発光素子の、分離前の断面図である。
【図4】図3に示す半導体発光素子の分離位置での断面図である。
【図5】本発明に従って窒化物基板の内部に変性部が形成された上下導通型の半導体発光素子の、分離前の断面図である。
【図6】窒化物基板の内部における、レーザ光の基板表面からの焦点位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
【0067】
[窒化物材料のレーザ加工]
図1を参照すると、直線偏光のレーザ光7を出射するレーザ光源2、レーザ光源2から出射した直線偏光のレーザ光7をランダム偏光または円偏光に変換する偏光制御部品3、集光レンズ4および可動ステージ5を有する、本発明の一実施形態による、窒化物材料の加工用のレーザ加工装置1が示される。
【0068】
可動ステージ5は、加工対象物である窒化物材料10を支持し、かつ、窒化物材料10を支持する支持面と平行な面内方向に移動可能に構成される。また、可動ステージ5は、場合によっては、窒化物材料10の支持面と垂直な方向にも加工対象物を移動できるように構成されることが、加工対象物に対するレーザ光7の焦点位置を調整する観点から好ましい。さらに、可動ステージ5は、加工対象物をレーザ光7の入射方向に垂直な面に対して傾斜させる機構を有し、レーザ光7を加工対象物に対して斜めに入射させ得るようにすることも好ましい。
【0069】
レーザ光源2は、一般のパルスレーザ装置などでよいが、パルスレーザそのものは直線偏光しているものが好ましい。また、窒化物材料10そのものには、ランダム偏光または円偏光化され、かつ、集光されたレーザ光7を照射できるようにするために、レーザ光源2は、横モードが安定なTEM00モードで発振していることが必要である。また、可動ステージ5により窒化物材料10を移動させることで、加工対象物の異なる位置に対する自動的なパルスレーザ照射が可能である。
【0070】
レーザ光源2から出射されるレーザ光7の波長λ(nm)は、窒化物材料10の主たる構成要素部分のバンドギャップをEgs(eV)としたとき、以下の式1
1240/λ<Egs …(式1)
を満たす波長が選択される。
【0071】
本発明において、窒化物材料とは、ある材料にレーザ光を照射したとき、その材料の中でレーザ光の光路中の大半が窒化物であるものをいう。具体的には、窒化物材料は、レーザ光の光路中の70%以上が窒化物であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは100%である。
【0072】
例えば、詳しくは後述するように、InAlGaN系薄膜結晶層がGaN基板上に形成されて半導体発光素子を構成している場合においては、SiOやITOなどの酸化物などがレーザ光の光路中に存在することがあり得るが、このような場合であっても光路中の大半がGaN、InGaN、AlGaN等から構成される場合は、そのような半導体発光素子は、本発明における窒化物材料である。また、窒化物材料は、半導体発光素子を含む半導体機能素子を作成する際に必要となり得る窒化物基板や薄膜結晶層を含み得る。また、窒化物材料は、上記の好ましい範囲を超えない範囲で、金属および/または酸化物等によって形成された電極や絶縁層等も含み得る。
【0073】
集光レンズ4は、レーザ光源2から出射したレーザ光7を、可動ステージ5上に支持された窒化物材料10の内部で合焦するように集光する。
【0074】
偏光制御部品3は、レーザ光源2と集光レンズ4との間に配置されており、レーザ光源2から出射されて、可動ステージ5上に支持された窒化物材料10に照射されるレーザ光7を直線偏光からランダム偏光または円偏光に変換する。直線偏光しているレーザ光源2からのレーザ光7をランダム偏光に変換する場合、偏光制御部品3としては、例えば1以上の偏光解消板を用いることができる。一方、直線偏光しているレーザ光源2からのレーザ光7を円偏光に変換する場合は、偏光制御部品3としては、1/4波長板を用いることができる。
【0075】
レーザ光源2と偏光制御部品3との間には、例えば2つの反射ミラー6a、6bが配置されている。これら反射ミラー6a、6bは、レーザ光源2から出射したレーザ光7を反射して偏光制御部品3へ導くためのものであり、必要に応じて適宜位置に適宜数だけ配置される。ただし、反射ミラーによる反射時のレーザ光7の光学特性変化を抑制するために、可能な範囲で少ない数の反射ミラーで光学系を構成することが好ましい。レーザ加工装置1を構成するレーザ光源2、偏光制御部品3、集光レンズ4および可動ステージ5の配置によっては、反射ミラーが不要な場合もある。
【0076】
次に、上述したレーザ加工装置1による窒化物材料10の加工方法の一例を説明する。レーザ光源2から出射した直線偏光のレーザ光7は、反射ミラー6a、6bで反射して偏光制御部品3へ導かれる。偏光制御部品3へ導かれたレーザ光7は、偏光制御部品3によって、直線偏光からランダム偏光または円偏光に変換され、その後、集光レンズ4で集光されて窒化物材料10に照射される。レーザ光7の照射によって、窒化物材料10には、レーザ光7が照射された部分に変性部が形成される。
【0077】
本発明において、変性部とは、レーザ光の照射によって、加工対象となる材料の光学加工閾値を超えた空間的なエネルギー密度が実現された部分において、非照射部分と比較して、機械的(脆性など)、光学的(屈折率など)、化学的(組成や結合状態など)な変化などが引き起こされた部分をいう。例えば、屈折率が変化した場合は、顕微鏡観察などによって、レーザ光の照射の痕跡が分かる。また、化学的な変化では、加工の対象となる窒化物材料が例えばGaNである場合、GaNがGaとNに乖離してGaのドロップレットが生じるなどといった変化が引き起こされる。
【0078】
このように、レーザ光7の照射によって窒化物材料10には変性部が形成されるが、本発明においては、レーザ光7の波長λは窒化物材料の主たる構成要素部分のバンドギャップEgsとの間で上記の式1の関係を満たす波長とされる。
【0079】
波長λ(nm)のレーザ光7の光子のエネルギーE(eV)は、プランク定数をh(J・s)、光速をc(m/s)としたとき、
E=hc/(e×(λ×10―9))≒1240/λ(eV) …(式2)
で与えられる。よって、照射するレーザ光7の波長λを、窒化物材料10の主たる構成要素部分のバンドギャップEgsとの間で式1の関係を満たすような波長とすることで、レーザ光7は窒化物材料10に対して透明となる。
【0080】
しかし、レーザ光7は、集光レンズ4によって、窒化物材料10の内部にて合焦するように集光される。そのため、焦点付近ではレーザ光7の空間的なエネルギー密度が窒化物材料10の光学加工閾値を超えるようになり、結果的に、窒化物材料10の内部にのみ、レーザ光7の照射に伴う変性部が形成される。
【0081】
変性部は、レーザ照射の痕跡を伴うことが多い。例えば、可動ステージ5を移動させながらレーザ光7を照射すれば、窒化物材料10には、可動ステージ5の移動方向に沿って痕跡が形成される。可動ステージ5の移動に加えてさらにレーザ光源2をパルス駆動すれば、多数の不連続な痕跡が、可動ステージ5の移動方向に並んで形成され得る。このように、方向性を持って形成された痕跡は、スクライブラインとも呼ばれる。
【0082】
痕跡は種々の形態で現れるが、本発明では、痕跡を「レーザ痕」と「スクライブ痕」の2種類に区別する。レーザ痕は、窒化物材料10を割る(ブレーキング)ことなく、レーザ光7の照射方向から視認し得る、窒化物材料10が光学的あるいは化学的に変化することによって形成された痕跡をいう。スクライブ痕は、レーザ照射方向に略垂直な方向から確認できるものであって、窒化物材料の内部に形成された痕跡であり、通常は窒化物材料の外部から視認することはできない。しかし、変性部が形成された部分で窒化物材料10をブレーキングすることによって、スクライブ痕は窒化物材料10の断面に現れる。スクライブ痕は、第一義的には、レーザ光7の非照射部との間で形状に変化が生じている部分をいうが、もちろん、光学的あるいは化学的な変化が生じていてもよい。場合によっては、スクライブ痕は、窒化物材料10をブレーキングしなくとも、窒化物材料10の端面側、すなわちレーザ光7の照射方向に対して垂直な方向側から視認できることもある。
【0083】
レーザ光源2をパルス駆動し、かつ、可動ステージ5を移動させながら、窒化物材料10の変性部を形成した場合、レーザ痕およびスクライブ痕は、多数のレーザ痕およびスクライブ痕が可動ステージ5の移動方向に沿って並んだレーザ痕帯およびスクライブ痕帯となって形成される。
【0084】
以上のようにして形成された変性部を利用して、窒化物材料10を、変性部が形成された部分で複数に分割することができる。特に、変性部をレーザ痕帯あるいはスクライブ痕帯のようにライン状に形成した場合は、このライン状に形成された変性部に沿って窒化物材料10を分割することができる。そのため、変性部は、分割が予定された位置に形成される。窒化物材料10の分割は、荷重を加えることによって行うことができる。窒化物材料10の分割を意図する場合、変性部は予定された分離位置に形成される。
【0085】
ところで、変性部を一方向のみに形成する場合は特に大きな問題は生じないが、変性部を複数の方向に形成する、例えばレーザ光7の照射方向から見て格子状に変性部を形成するような場合、窒化物材料10への変性部の形成に際して問題が生じることがある。
【0086】
窒化物材料7は、異方性を伴った大きな自発分極を有しており、レーザ光7の照射によって形成される変性部は、照射されるレーザ光との相互作用に起因して発生すると考えられる方向依存性を有している。そのことにより、ある方向に沿って形成したレーザ痕あるいはスクライブ痕の形状と、別の方向に沿って形成したレーザ痕あるいはスクライブ痕の形状とが異なることとなり、窒化物材料7の異方性の程度によっては、レーザ痕あるいはスクライブ痕に沿った安定したブレーキングができなくなってしまうことがある。
【0087】
そこで本発明では、レーザ光源2から窒化物材料10に至るレーザ光7の光路中に偏光制御部品3を配置し、その偏光制御部品3によって、レーザ光源2から出射するレーザ光7の偏光を直線偏光からランダム偏光または円偏光に変換し、変換されたレーザ光7が窒化物材料10に照射されるようにしている。
【0088】
レーザ光のようにコヒーレントな光の偏光は、光の空間的な進行方向に対して描かれる電場ベクトルの軌跡によって幾つかに分類される。この電場ベクトルの軌跡を観察すると、一般的には、ある一定時刻における空間的な軌跡は楕円となる。偏光は、楕円の長軸の長さと短軸の長さとの比で示される楕円率(ここでは「短軸の長さ/長軸の長さ」で定義する)によって、直線偏光(理想的には楕円率が0である)、円偏光(理想的には楕円率が1である)、およびその中間の楕円偏光に分類することができる。
【0089】
本発明では、窒化物材料10にレーザ光7を照射した際に、レーザ痕がどのような形状で形成されるかという観点から、円偏光、直線偏光および楕円偏光を以下のとおり定義する。
(a)円偏光:楕円率が0.85以上、1.0以下(楕円率の下限は、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.95以上、最も好ましくは0.97以上)である偏光。
(b)直線偏光:楕円率が0以上、0.1以下である偏光。
(c)楕円偏光:楕円率が0.1よりも大きく、0.85未満である偏光。
【0090】
上記の円偏光、直線偏光および楕円偏光の楕円率は、以下の検討に基づいて定義された。窒化物材料として、特に誘電率の異方性が大きなGaN材料を用意し、これらの異なる面方位を有する表面に、種々の楕円率を有するレーザ光を照射した際のレーザ痕を確認した。確認の結果、楕円率が0.85から1.0のレーザ光は、方位によらずに略円形のレーザ痕であった。またその円形の程度は、楕円率が0.90以上である場合はより良好であり、0.95以上である場合はさらに良好であり、0.97以上である場合は最も良好であった。
【0091】
一方、レーザ光の楕円率が0.1以下であった場合は、レーザ痕の形状の方位依存性が大きく、ある方向に形成されたレーザ痕と他の方向に形成されたレーザ痕は全く形状が異なっており、その後の窒化物材料の分離等に不都合な形状となってしまった。さらに、加工痕跡が確認される加工しきい値もまったく異なっており、レーザ加工そのものを同一条件で行った場合には、まったく安定しなかった。
【0092】
楕円率が0.1よりも大きく、0.85未満のレーザ光は、限定的な面方位であればレーザ痕の形状変化は許容範囲にあるものの、必ずしも好ましい状態ではなかった。
【0093】
以上のとおり、楕円率が0.85以上であるレーザ光を窒化物材料に照射することによって、窒化物材料に形成された変性部は、窒化物材料の、誘電率の異方性の影響を受けにくくなる。その結果、窒化物材料の面方位および加工位置などによらずに、類似した変性部を安定的に形成できるようになり、予定された位置で窒化物材料を分離する際も安定的なプロセスが実施できるようになる。そして、楕円率が0.85以上のレーザ光が、上記のように本発明で定義される、円偏光のレーザ光である。
【0094】
上述した円偏光、楕円偏光および直線偏光の分類は、ある一定時刻における空間的に変化する電場ベクトルの軌跡による分類である。
【0095】
一方、ある一定の場所における時間的な偏光方向の変化を追えば、例えば円偏光はその偏光方向が変化するのに対して、直線偏光においては偏光方向が変化しないことが分かる。換言すると、直線偏光しているレーザ光であっても、楕円偏光しているレーザ光であっても、レーザ光の進行方向に垂直な方向に対して、比較的短い時間でレーザ光の方位角(長軸方向と、光の伝播方向に対して垂直な方向に定めたx軸とのなす角度)をランダム化すれば、ある一定時間内における平均量としては無偏光化したレーザ光が得られることになる。このように、空間的な一定位置において、ある時間内の平均をとったときに、意図的に時間平均として偏光が打ち消されている光を、本発明では、ランダム偏光と定義する。
【0096】
さらに、ランダム偏光は次のようにも定義できる。すなわち、一定時刻における微小空間内の各場所で、位相ずれ量を変化させた結果、レーザ光のビーム断面内では偏光状態がランダム化した光であっても実効的な偏光は解消されているので、このような空間平均的に無偏光化されたレーザ光も、本発明においてはランダム偏光という。よって、本発明においては、窒化物材料に照射するレーザ光の偏光がランダム偏光であっても、円偏光の場合と類似の効果が得られる。
【0097】
一般に、パルスレーザの光は直線偏光であるが、例えば水晶等の光学軸を持った結晶を楔形にした偏光解消板等に直線偏光のレーザ光を入射させることで、実効的にランダム偏光のレーザ光を実現することが可能である。また、たとえ円偏光、あるいは楕円偏光等の入射であっても、2枚の偏光解消板をそれぞれの相対位置を45度ずらして配置することで、どのような偏光特性であってもランダム偏光とすることができるため非常に好ましい。このような偏光解消板は、その後のレーザ光の集光点が分離しないように、集光レンズの、レーザ光の入射側直前に配置することが好ましい。どのような偏光特性を有する光源であっても、ランダム偏光の光は実現が容易であるので、加工対象物である窒化物材料には、ランダム偏光のレーザ光を照射することが好ましい。
【0098】
一方、直線偏光のレーザ光は、1/4波長板を用いることで容易に円偏光に変換できる。このような波長板は、集光レンズのレーザ光の入射側の直前に配置することが好ましい。円偏光の光は、ランダム偏光の光よりも集光しやすいので、空間的に高いエネルギー密度が必要な場合には円偏光の光とすることが好ましい。
【0099】
また、本発明において、レーザ光源2は空間的なエネルギー密度が高いパルスビームを発生させられることが重要である。そのためには、レーザ光源2は、出射するレーザ光が十分に集光し得る特性を有していることが要求される。この観点から、レーザ光源2から出射されるレーザ光7のM因子は1以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以上1.4以下、さらに好ましくは1.0以上1.3以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下、最も好ましくは1.0以上1.1以下である。このようなレーザ光源2を搭載したレーザ加工装置1とすることで、十分な集光が実現され、容易に空間的なエネルギー密度が高いパルスビームを得られることとなり、好ましい。
【0100】
以上、本発明について、加工対象物を窒化物材料として説明してきた。本発明においてレーザ加工される窒化物材料は、単一の窒化物材料のみならず、前述したように、レーザ光が照射される光路の大半の構成材料が窒化物である種々の構造を含む。
【0101】
例えば、図2aに示す窒化物材料10は、半導体機能層11aを含んでいる窒化物基板11である。図2bに示す窒化物材料10は、窒化物基板11上に、半導体機能素子13が形成されている。図2cに示す窒化物材料10は、窒化物基板11上に、半導体機能素子の一部14が形成され、これら窒化物基板11および半導体機能素子の一部14の組み合わせで半導体機能素子13が構成される。図2aに示す、窒化物基板11に内在する半導体機能層11a、図2bに示す、窒化物基板11上の半導体機能素子、および図2cに示す、窒化物基板11上の半導体機能素子の一部14を、本発明では半導体機能部と総称する。
【0102】
図2a〜2cに示した何れの例にも共通しているのは、窒化物材料10を含む加工対象物(加工対象物は、窒化物基板だけでなく、窒化物基板上に何らかの構造が形成されている場合はその構造も含む)が、予定されている1以上の分離位置10aで分離され、これによって、分離したそれぞれが半導体機能素子となることである。前述した変性部は、この分離位置10aで窒化物基板11に形成される。加工対象物の分離は、変性部の形成後に、分離位置10aに荷重を加えることによってなされる場合もあるし、変性部を形成するだけでなされる場合もある。
【0103】
半導体機能素子としては、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)等の発光デバイス(半導体発光素子)、FET(Field Effect Transister)、SIT(Static Induction Transister)、IMPATT(IMPact Ionization Avalanche Transit-Time)ダイオード等の電子デバイスを含む。半導体機能素子は、これを実現する際に必要となる場合がある窒化物基板や薄膜結晶層を含み得る。さらには、半導体機能素子は、金属、酸化物等によって形成された電極、絶縁層等も含み得る。
【0104】
[半導体発光素子の製造]
以下、半導体機能素子の一例として、半導体発光素子(以下、単に発光素子ともいう)を製造する場合について詳細に説明する。
【0105】
本発明において、「薄膜結晶成長」とは、いわゆる、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、MBE(Molecular Beam Epitaxy)、プラズマアシストMBE、PLD(Pulsed Laser Deposition)、PED(Pulsed Electron Deposition)、PSD(Pulsed sputtering Deposition)、VPE(Vapor Phase Epitaxy)、LPE(Liquid Phase Epitaxy)法等の結晶成長装置内における薄膜層、アモルファス層、微結晶、多結晶、単結晶、あるいはそれらの積層構造の形成に加えて、その後の薄膜層の熱処理、プラズマ処理等によるキャリアの活性化処理等も含めて薄膜結晶成長と記載する。
【0106】
発光素子は、電極配置の違いにより、フリップチップマウント型および上下導通型に大別することができる。フリップチップマウント型の発光素子では、基板上に所定の半導体層を堆積し、基板と反対側に電流注入用のn側電極およびp側電極を形成し、基板側を主たる光取り出し方向とする。このため、発光素子から出る光が電極によって遮られず、また電極を光の反射面として利用可能であるため、光の取り出し効率が向上する。また、上下導通型の発光素子では、基板として導電性基板を用い、一方の電極が基板側に存在し、他方の電極が、基板上に形成された薄膜結晶層側に存在する。このような構造では、活性層への電流注入が縦方向(薄膜結晶層における各層の積層方向)からの注入となりやすいので、注入効率が向上し、高効率な発光素子を実現できる。
【0107】
[フリップチップ型の半導体発光素子]
まず、フリップチップ型の半導体発光素子について説明する。
【0108】
図3を参照すると、窒化物基板21と、窒化物基板21の片面に積層された薄膜結晶層と、第一導電型側電極28と、第二導電型側電極27とを有する、本発明によるフリップチップ型の半導体発光素子の一例が示される。薄膜結晶層は、バッファ層22、第一導電型クラッド層24を含む第一導電型半導体層、活性層構造25、および第二導電型クラッド層26を含む第二導電型半導体層が窒化物基板21側からこの順番に積層されて構成されている。発光素子は、その製造段階では、1つの窒化物基板21上に複数の発光素子分の薄膜結晶層および電極部を含む半導体機能部が例えば格子状に配列された発光素子アレイを形成し、各発光素子の境界に相当する、予定されている分離位置10aで分離(ブレーキング)することにより、個別の発光素子に分離される。図3は、分離前の発光素子アレイを示している。
【0109】
第二導電型側電極27は、第二導電型半導体層に電流を注入するためのものであり、第二導電型クラッド層26の表面の一部に配置されている。第二導電型クラッド層26と第二導電型側電極27の接触している部分が、第二導電型半導体層に電流を注入する第二電流注入領域35となっている。第一導電型側電極28は、第一導電型半導体層に電流を注入するためのものである。薄膜結晶層の一部が、その厚さ方向において第二導電型クラッド層26側から第一導電型クラッド層24の途中まで除去されており、除去された箇所に露出する第一導電型クラッド層24に接して、第一導電型側電極28が配置されている。第一導電型クラッド層24と第一導電型側電極28の接触している部分が、第一導電型半導体層に電流を注入する第一電流注入領域36となっている。
【0110】
図3に示す例の場合には、第二導電型側電極27および第一導電型側電極28が上記のように配置されることによって、両者は活性層構造25に対して第一導電型半導体層と同じ側に配置され、フリップチップ型の発光素子として構成されている。このようなフリップチップ型の発光素子は、例えば、サブマウント(不図示)上の金属層に、第一導電型側電極28および第2導電型側電極27を、金属ハンダを介して、あるいはAuで形成されたバンプ等を介して接続することで、サブマウント上に搭載することができる。
【0111】
第一導電型側電極28および前記第二導電型側電極27は、平面的な投影図形として見たときに互いに交差していない。これは、図3に示すように、第一導電型側電極28および第二導電型側電極27を基板面に対して投影したときに、影が重ならないことを意味する。
【0112】
図3に例示されるように、薄膜結晶層は、少なくとも第二導電型半導体層の第二導電型側電極27との接触部を除く部分が、絶縁膜30によって覆われていることが好ましい。図3に示す例では、バッファ層22の一部、第一導電型半導体層の第一電流注入領域36を除く部分、活性層構造25、および第二導電型半導体層の第二電流注入領域35を除く部分が、絶縁膜30によって覆われている。つまり、バッファ層22、第一導電型半導体層、活性層構造25および第二導電型半導体層を有する薄膜結晶層の側壁の少なくとも一部が絶縁膜30で覆われている。
【0113】
以下に、発光素子を構成する各部の構造についてさらに詳細に説明する。
【0114】
<窒化物基板>
窒化物基板21は、光学的に発光素子の発光波長に対しておおよそ透明な窒化物であることが好ましいが、材料等は特に限定されない。ここでおおよそ透明とは、発光波長に対する吸収が無いか、あるいは、吸収が存在しても、その窒化物基板21の吸収によって光出力が50%以上低減しないものである。
【0115】
窒化物基板21は、電気的には絶縁性であることが好ましい。これは、発光素子をフリップチップマウントした際に、たとえハンダ材などが窒化物基板21の周辺に付着しても、発光素子への電流注入には影響を与えないからである。一方、発光素子が後述する上下導通型の場合は、窒化物基板21は導電性を有することが好ましい(例えば図5)。窒化物基板21の具体的な材料としては、例えばInAlGaN系発光材料またはInAlBGaN系材料をその上に薄膜結晶成長させるためには、AlN、GaN、InNおよびこれらの組み合わせから選ばれることが望ましい。これらの中で特に好ましいのはAlNまたはGaNを用いることであり、最も好ましいのはGaNである。GaN基板は、種々の窒化物基板の中でも品質が最も優れているからである。また、GaN基板は、素子構成をフリップチップ型とする際には、そのドーピングレベルを抑制して絶縁性とし、一方で、上下導通型とする場合には、7×1017cm-3以上のドーピングを実現することで十分な導電性を確保できるので、本発明の発光素子用基板として非常に好ましい。
【0116】
窒化物基板21は、MOCVDやMBE等の結晶成長技術を利用して発光素子を製造するために、あらかじめ化学エッチングや熱処理等を施しておいてもよい。
【0117】
窒化物基板21には、個々に分離した後の発光素子の側壁の一部に相当する部分である発光素子の分離位置10aにおいて、レーザ光の照射による変性部が形成されている。変性部は、例えば図1に示すレーザ加工装置1を用いて、可動ステージ5を移動させながらレーザ光7を照射することによって窒化物基板21の内部に形成されるので、窒化物基板21をその厚さ方向に貫かず、かつ窒化物基板21の厚さ方向に略直交する方向に複数のスクライブ痕40aを有することとなる。
【0118】
複数のスクライブ痕40aは、例えば、発光素子アレイを分離位置10aで分離することによって形成される分離面に垂直な方向から見た図である図4に示すように、窒化物基板21の厚さ方向に直交する方向に不連続に並んで存在することが好ましい。不連続に並んだ複数のスクライブ痕40aは、窒化物基板21の厚さ方向に略直交する方向に延びる帯状のスクライブ痕帯40を形成することがより好ましい。
【0119】
スクライブ痕40aのこのような配列は、ブレーキングを容易にするために多数の短パルスレーザ照射を繰り返した痕跡である。さらに、場合によっては、スクライブ痕帯40が窒化物基板21の厚み方向に複数並んでいることも好ましい。このようなスクライブ痕帯40の窒化物基板21の厚み方向における配列も、発光素子のブレーキングを容易にするために重要であって、好ましい。
【0120】
1つのスクライブ痕40aを電子顕微鏡等で観察すると、1つのスクライブ痕40aの中に、複数のくぼみのようなものが見られる場合がある。これは、変性部が形成される際に、例えば窒化物基板21がGaN基板である場合、GaとNが乖離して適正な量のGaドロップレットが発生した際に、液滴特有の球形になろうとした痕跡と想定される。
【0121】
本発明で使用される窒化物基板21は、いわゆる面指数によって完全に確定されるジャスト基板だけではなく、薄膜結晶成長の際の結晶性を制御する観点から、いわゆるオフ基板(miss oriented substrate)であることもできる。オフ基板は、ステップフローモードでの良好な結晶成長を促進する効果を有するため、素子のモフォロジ改善にも効果があり、基板として広く使用される。
【0122】
本発明においては、スクライブ痕40aの形成に際しては、前述したようにランダム偏光または円偏光のレーザ光を使用するので、窒化物基板21の面方位がどのような面であってもその面内の方位に極端には依存することなく変性部を形成可能である。特にレーザ痕の形状を略円形とすることが可能である。よって、窒化物基板21の面方位はどのような面であってもよいが、特にその主面が、c面、a面、m面、またはこれら主面からの傾斜が5度以内である主面を有する窒化物基板21を用いることが好ましい。より好ましくは、主面がc面、m面またはこれら主面からの傾斜が3度以内である主面を有する窒化物基板21とすることである。c面またはm面から傾斜した主面を有する窒化物基板を用いる場合、その傾斜の角度は1.5度以内であることがより好ましく、さらに好ましくは1.0度以内、さらに好ましくは0.5度以内、さらに好ましくは0.2度以内、最も好ましくは0.1度以内の窒化物基板とすることである。
【0123】
完成した発光素子における窒化物基板21の物理的厚みtsc(μm)は、
100≦ tsc ≦ 3000(μm)
とすることが好ましい。窒化物基板21の物理的厚みtscの下限値は、より好ましくは200(μm)以上、さらに好ましくは300(μm)以上、さらに好ましくは400(μ)以上、さらに好ましくは500(μm)以上、さらに好ましくは600(μm)以上、さらに好ましくは650(μm)以上、さらに好ましくは700(μm)以上である。一方、窒化物基板21の物理的厚みtscの上限値は、より好ましくは2500(μm)以下、さらに好ましくは2000(μm)以下、さらに好ましくは1500(μm)以下、さらに好ましくは1000(μm以下、さらに好ましくは900(μm)以下、さらに好ましくは850(μm)、さらに好ましくは800(μm)以下である。
【0124】
最終的に完成した発光素子の窒化物基板21の厚みは、必ずしもレーザ照射時の厚みtsiと同一である必要はなく、レーザ照射時には意図しない割断等が発生しないように意図的に厚めの状況で工程を行い、その後に若干薄膜化をしてブレーキングを行うことも好ましい。また、適切に薄い厚みでレーザ照射を行い、この際に同時に素子分離をさせることで工程を簡略化させることも好ましい。なお、後者の場合には、後述する側壁洗浄工程において、変性部の除去が可能な場合において行うことがより好ましい。
【0125】
<バッファ層>
バッファ層22は、窒化物基板21上に薄膜結晶成長する上で、転移の抑制、基板結晶の不完全性の緩和、基板結晶と所望の薄膜結晶層との各種の相互不整合の軽減など、主に薄膜結晶成長のための目的のために形成される。
【0126】
バッファ層22は、薄膜結晶成長で成膜され、本発明で望ましい形態であるInAlGaN系材料、InAlBGaN系材料、InGaN系材料、AlGaN系材料、GaN系材料などを異種基板上に薄膜結晶成長する際には、必ずしも窒化物基板21との格子定数のマッチングが確保されないので、バッファ層22は特に重要である。たとえば、薄膜結晶層を有機金属気相成長法(MOVPE法)で成長する際には、600℃近傍の低温成長AlN層をバッファ層に用いたり、あるいは500℃近傍で形成した低温成長GaN層を用いたりすることも出来る。また、同種基板上に薄膜結晶成長する場合、例えばGaN基板上にGaN、AlGaN、InGaN、AlInGaNなどの材料を成長する場合であっても、バッファ層22は重要である。この場合はバッファ層22として、800℃から1000℃程度の高温で成長したAlN、GaN、AlGaN、InAlGaN、InAlBGaNなども使用可能である。これらの層は一般に薄く5〜40nm程度である。
【0127】
バッファ層22は必ずしも単一の層である必要はなく、低温で成長したGaNバッファ層22の上に、結晶性をより改善するために、ドーピングをほどこさない1000℃程度の温度で成長したGaN層を数μm程度有するようにしてもかまわない。実際には、このような厚膜バッファ層を有することが普通であって、その厚みは0.5〜7μm程度である。バッファ層22は、Si等でドーピングされていてもよいし、アンドープであっても構わない。また、バッファ層内にドーピング層とアンドープ層を積層して形成することも可能である。なお、本発明においてGaN基板を用いる場合には、バッファ層はアンドープ層を窒化物基板側に、また、その上にドーピングされた層を用いることが好ましい。
【0128】
<第一導電型半導体層および第一導電型クラッド層>
本発明の代表的形態では、図3に示すようにバッファ層22に接して、第一導電型クラッド層24が存在する。第一導電型クラッド層24は、後述する活性層構造25に対して、後述する第二導電型クラッド層26と共に機能して、キャリアを効率よく注入し、かつ、活性層構造からのオーバーフローも抑制し、量子井戸層における発光を高効率で実現するための機能を有している。また、あわせて活性層構造近傍への光の閉じ込めにも寄与し、量子井戸層における発光を高効率で実現するための機能を有している。第一導電型半導体層は、上記のクラッド機能を有する層に加えて、コンタクト層のように装置の機能向上のため、または製造上の理由により、第一導電型にドープされた層を含むものである。広義には、第一導電型半導体層の全体を第一導電型クラッド層24と考えてもよく、その場合にはコンタクト層等は、第一導電型クラッド層24の一部と見ることもできる。
【0129】
一般的に第一導電型クラッド層24は、後述する活性層構造25の平均的屈折率より小さな屈折率を有する材料で、かつ、後述する活性層構造25の平均的なバンドギャップよりも大きな材料で構成される事が望ましい。さらに、第一導電型クラッド層24は、活性層構造25内の特にバリア層との関係において、いわゆるタイプI型のバンドラインナップとなる材料で構成されるのが一般的である。このような指針の元で、第一導電型クラッド層24の材料としては、所望の発光波長を実現するために準備される窒化物基板21、バッファ層22、活性層構造25等に鑑みて、適宜選択することができる。
【0130】
例えば、窒化物基板21としてGaN基板を使用し、バッファ層22としてアンドープGaNとSiドープされたGaNの積層構造を使用する場合には、第一導電型クラッド層24としてGaN系材料、AlGaN系材料、AlGaInN系材料、InAlBGaN系材料、もしくはその多層構造を用いることができる。
【0131】
第一導電型クラッド層24のキャリア濃度としては、下限としては1×1017cm-3以上が好ましく、5×1017cm-3以上がより好ましく、1×1018cm-3以上が最も好ましい。上限としては5×1019cm-3以下が好ましく、1×1019cm-3以下がより好ましく、7×1018cm-3以下が最も好ましい。また、ここでは、第一導電型がn型の場合、ドーパントとしては、Siが最も望ましい。
【0132】
第一導電型クラッド層24の構造は、図3の一例では単一の層からなる第一導電型クラッド層24を示すが、第一導電型クラッド層24は、2層以上の層からなるものであってもよい。この場合には、たとえばGaN系材料とAlGaN系材料、InAlGaN系材料、InAlBGaN系材料を使用することも可能である。また第一導電型クラッド層24の全体を異種材料の積層構造として超格子構造とすることもできる。さらに、第一導電型クラッド層24内において、前述のキャリア濃度を変化させることも可能である。
【0133】
第一導電型クラッド層24の第一導電型側電極28と接触している部分においては、そのキャリア濃度を意図的に高くして、当該電極との接触抵抗を低減することも可能である。
【0134】
第一導電型クラッド層24の一部はエッチングされており、かつ、第一導電型クラッド層24の露出した側壁、エッチングされた部分などは、後述する第一導電型側電極28との接触を実現する第一電流注入領域36を除いて、すべて絶縁膜30で覆われている構造が望ましい。
【0135】
第一導電型クラッド層24に加えて、第一導電型半導体層として、必要によりさらに異なる層が存在してもよい。例えば、電極との接続部にキャリアの注入を容易にするためのコンタクト層が含まれていてもよい。また、各層を、組成または形成条件等の異なる複数の層に分けて構成してもよい。
【0136】
<活性層構造>
第一導電型クラッド層24の上には、活性層構造25が形成されている。活性層構造25とは、前述の第一導電型クラッド層24と、後述する第二導電型クラッド層26から注入される、電子と正孔(あるいは正孔と電子)が再結合して発光する層である量子井戸層を含み、かつ、量子井戸層に隣接して配置される、あるいは、量子井戸層とクラッド層間に配置されるバリア層をも含む構造を指す。ここで、発光素子の高出力化、高効率化を実現するためには、活性層構造中の量子井戸層の層数をW、バリア層の層数をBとすると、B=W+1を満たすことが望ましい。すなわち、クラッド層24、26と活性層構造25の全体の層の関係は、「第一導電型クラッド層、活性層構造、第二導電型クラッド層」と形成され、活性層構造25は、「バリア層、量子井戸層、バリア層」、あるいは、「バリア層、量子井戸層、バリア層、量子井戸層、バリア層」のように形成されることが、高出力化のために望ましい。
【0137】
ここで、量子井戸層においては量子サイズ効果を発現させて、発光効率を高めるために、その層厚はド・ブロイ波長と同程度にうすい層である。このため、高出力化を実現するためには、単層の量子井戸層のみではなく、複数の量子井戸層を設けてこれを分離して活性層構造とすることが望ましい。この際に各量子井戸層間の結合を制御しつつ分離する層がバリア層である。また、バリア層は、クラッド層と量子井戸層の分離のためにも存在することが望ましい。たとえば、クラッド層がAlGaNからなり、量子井戸層がInGaNからなる場合には、この間にGaNからなるバリア層が存在する形態が望ましい。これは結晶成長の最適温度が異なる場合の変更も容易にできるので、薄膜結晶成長の観点からも望ましい。また、クラッド層が、最もバンドギャップの広いInAlGaNからなり、量子井戸層が最もバンドギャップの狭いInAlGaNからなる場合は、バリア層にその中間のバンドギャップを有するInAlGaNを用いることも可能である。さらに、一般にクラッド層と量子井戸層との間のバンドギャップの差は、バリア層と量子井戸層の間のバンドギャップの差よりも大きく、量子井戸層へのキャリアの注入効率を考えても、量子井戸層はクラッド層に直接隣接しないことが望ましい。
【0138】
量子井戸層は意図的なドーピングは実施しないほうが望ましい。一方、バリア層には、ドーピングを施して、系全体の抵抗を下げるなどのことを実施するのが望ましい。特に、バリア層にはn型のドーパント、特にSiをドーピングするのが望ましい。これは、p型のドーパントであるMgはデバイス内では拡散しやすく、高出力動作時においては、Mgの拡散を抑制することが重要となる。このために、Siは有効であって、バリア層にはSiがドーピングされていることが望ましい。但し量子井戸層とバリア層との界面においては、ド−ピングを実施しないほうが望ましい。
【0139】
<第二導電型半導体層および第二導電型クラッド層>
第二導電型クラッド層26は、前述の活性層構造25に対して、前述の第一導電型クラッド層24と共に、キャリアを効率よく注入し、かつ、活性層構造25からのオーバーフローも抑制し、量子井戸層における発光を高効率で実現するための機能を有している。また、あわせて活性層構造近傍への光の閉じ込めにも寄与し、量子井戸層における発光を高効率で実現するための機能を有している。第二導電型半導体層は、上記のクラッド機能を有する層に加えて、コンタクト層のように装置の機能向上のため、または製造上の理由により、第二導電型にドープされた層を含むものである。広義には、第二導電型半導体層の全体を第二導電型クラッド層26と考えてもよく、その場合にはコンタクト層等は、第二導電型クラッド層26の一部と見ることもできる。
【0140】
一般的に第二導電型クラッド層26は、前述の活性層構造25の平均的屈折率より小さな屈折率を有する材料で、かつ、前述の活性層構造25の平均的なバンドギャップよりも大きな材料で構成される事が望ましい。さらに、第二導電型クラッド層26は、活性層構造25内の特にバリア層との関係において、いわゆるタイプI型のバンドラインナップとなる材料で構成されるのが一般的である。このような指針の元で、第二導電型クラッド層26の材料としては、所望の発光波長を実現するために準備される窒化物基板21、バッファ層22、活性層構造25等に鑑みて、適宜選択することができる。例えば、窒化物基板21としてGaN基板を使用し、バッファ層22としてアンドープGaNとSiドープされたGaNの積層構造を使用する場合には、第二導電型クラッド層26としてGaN系材料、AlGaN系材料、AlGaInN系材料、AlGaBInN系材料等を用いることができる。また、上記材料の積層構造であってもかまわない。また、第一導電型クラッド層24と第二導電型クラッド層26は同じ材料で構成することも可能である。
【0141】
第二導電型クラッド層のキャリア濃度としては、下限としては1×1017cm-3以上が好ましく、4×1017cm-3以上がより好ましく、5×1017cm-3以上がさらに好ましく7×1017cm-3以上が最も好ましい。上限としては7×1018cm-3以下が好ましく、3×1018cm-3以下がより好ましく、2×1018cm-3以下が最も好ましい。また、ここでは、第二導電型がp型の場合ドーパントとしては、Mgが最も望ましい。
【0142】
第二導電型クラッド層26の構造は、図3の一例では単一の層で形成された例を示しているが、第二導電型クラッド層26は、2層以上の層からなるものであってもよい。この場合には、たとえばGaN系材料とAlGaN系材料を使用することも可能である。また第二導電型クラッド層26の全体を異種材料の積層構造からなる超格子構造とすることもできる。さらに、第二導電型クラッド層26内において、前述のキャリア濃度を変化させることも可能である。
【0143】
一般に、GaN系材料においてはn型ドーパントがSiであって、かつ、p型ドーパントがMgである場合には、p型GaN、p型AlGaN、p型AlInGaNの結晶性は、n型GaN、n型AlGaN、n型AlInGaNにはそれぞれ及ばない。このため、素子作製においては、結晶性の劣るp型クラッド層を活性層構造25の結晶成長後に実施することが望ましく、この観点で、第一導電型がn型で、第二導電型がp型である場合が望ましい。
【0144】
また、結晶性の劣るp型クラッド層(これは、望ましい形態をとった場合の第二導電型クラッド層26に相当する)の厚みは、ある程度薄いほうが望ましい。但し、極端に薄い場合には、キャリアの注入効率が低下してしまうため、最適値が存在する。第二導電型側クラッド層26の厚みは、適宜選択可能であるが、0.05μmから0.3μmが望ましく、0.1μmから0.2μmが最も望ましい。
【0145】
第二導電型クラッド層26の第二導電型側電極27と接触している部分においては、そのキャリア濃度を意図的に高くして、当該電極との接触抵抗を低減することも可能である。
【0146】
絶縁膜30を形成する場合、第二導電型クラッド層26の露出した側壁は、後述する第二導電型側電極27との接触を実現した第二電流注入領域35を除いて、すべて絶縁膜30で覆われている構造であることが望ましい。
【0147】
さらに、第二導電型クラッド層26に加えて、第二導電型半導体層として、必要によりさらに異なる層が存在してもよい。例えば、電極と接する部分にキャリアの注入を容易にするためのコンタクト層が含まれていてもよい。また、各層を、組成または形成条件等の異なる複数の層に分けて構成してもよい。
【0148】
第二導電型半導体層の表面には、少なくともMgおよびHが含有されていてもよい。
【0149】
尚、本発明の要旨に反しない限り、薄膜結晶層として、必要により上述のカテゴリに入らない層を形成してもよい。
【0150】
<絶縁膜>
絶縁膜30は、本発明においては必要に応じて設けられる任意の構成であり、発光素子をフリップチップマウントした際に、マウント用のハンダや導電性ペースト材等が、「第二導電型側電極と第一導電型側電極の間」、「活性層構造などの薄膜結晶層の側壁」等に回りこんで、意図しない短絡が発生しないようにする機能を有する。
【0151】
絶縁膜30は、電気的に絶縁を確保できる材料であれば、材料は適宜選択することができる。例えば、単層の酸化物、窒化物、フッ化物等が好ましく、具体的には、SiO、AlO、TiO、TaO、HfO、ZrO、SiN、AlN、AlF、BaF、CaF、SrF、MgF等から選ばれることが好ましい。これらは長期にわたって安定に絶縁性を確保できる。また、絶縁膜30を絶縁物の多層膜とすることも可能である。絶縁膜30を多層膜とすることで、絶縁膜30の屈折率を適宜調整することができる。
【0152】
<第二導電型側電極>
第二導電型側電極27は、第二導電型の窒化物化合物半導体と良好なオーム性接触を実現し、かつ、フリップチップマウントした際には、ハンダ材もしくはAuバンプなどによるサブマウントなどとの良好な接着を実現するものである。また、上下導通型素子などにおいては、ハンダ材もしくはAuバンプなどによるサブマウントなどとの良好な接着のみならず、場合によっては、ワイヤーボンドされた場合の良好なボンダビリティを実現する目的でも機能するものである。これらの目的のためには、適宜材料選択が可能であり、第二導電型側電極27は単一の層であっても、複数の層からなる場合でもかまわない。一般には、電極に要請される複数の目的を達するために、複数の層構成をとるのが普通である。
【0153】
また、第二導電型がp型で第二導電型側クラッド層26の第二導電型側電極27側がGaN系材料である場合には、第二導電型側電極27を構成する材料として、Ni、Pt、Pd、Mo、Auのいずれか、またはそれらの2種以上の元素を含む材料が好ましい。この電極は、多層構造であってもよく、少なくとも1層は上記元素を含む材料で形成され、好ましくは各層が上記元素を含み構成成分(種類および/または比率)が異なる材料で構成される。電極構成材料は、好ましくは単体金属または合金である。
【0154】
特に好ましい形態では、第二導電型側電極27のp側クラッド層側の第一層目はPtであり、第二導電型側電極27のp側クラッド層側と反対側の表面はAuである。これは、Ptの仕事関数の絶対値が大きく、また、他の電極材料と比較すると高反射であって、p型材料にとって都合がよく、また、Auは、後述するプロセスダメージに対する耐性、マウントの都合などを考えると最表面の材料として好ましい。
【0155】
第二導電型側電極27は、第二導電型のキャリアを注入可能であれば、薄膜結晶層のどの層と接してもよく、例えば第二導電型側コンタクト層が設けられるときは、それに接するように形成される。
【0156】
<第一導電型側電極>
第一導電型側電極28は、第一導電型の窒化物化合物半導体と良好なオーム性接触を実現し、かつ、フリップチップマウントした際には、ハンダ材もしくはAuバンプなどによるサブマウントなどとの良好な接着を実現するものである。また、上下導通型素子などにおいては、ハンダ材もしくはAuバンプなどによるサブマウントなどとの良好な接着のみならず、場合によっては、ワイヤーボンドされた場合の良好なボンダビリティを実現する目的でも機能すべきものである。これらの目的のためには、適宜材料選択が可能である。第一導電型側電極28は単一の層であっても、複数の層からなる場合でもかまわない。一般には、電極に要請される複数の目的を達するために、複数の層構成をとるのが普通である。
【0157】
第一導電型がn型であるとすると、n側電極は、Ti、Al、Ag、Moのいずれか、またはそれらの2種以上の元素を含む材料が好ましい。この電極は、多層構造であってもよく、少なくとも1層は上記元素を含む材料で形成され、好ましくは各層が上記元素を含み構成成分(種類および/または比率)が異なる材料で構成される。電極構成材料は、好ましくは単体金属または合金である。これらは、これらの金属の仕事関数の絶対値が小さいためである。
【0158】
特に好ましい形態では、第一導電型側電極28のn側クラッド層側の第一層目はAlであり、第一導電型側電極27のn側クラッド層側と反対側の表面はAuである。これは、Alの仕事関数の絶対値が小さく、また、他の電極材料と比較すると高反射であって、n型材料にとって都合がよく、また、Auは、後述するプロセスダメージに対する耐性、マウントの都合などを考えると最表面の材料として好ましい。この際にAuとAlは電流注入を継続するとボイドをつくりやすいので、この反応を抑制するために適切な中間層を挿入しておくことが好ましい。中間層としては前述のMoが好ましい。
【0159】
本発明においては、第一導電型側電極28は第一電流注入領域36の大きさよりも大きな面積に形成されることが望ましい。これは、これは、発光素子をハンダなどでフリップチップマウントした際に、サブマウント40などとの十分な密着性を確保するに十分な面積を確保するために重要である。
【0160】
第一導電型側電極28は、第一導電型のキャリアを注入可能であれば、薄膜結晶層のどの層と接してもよく、例えば第一導電型側コンタクト層が設けられるときは、それに接するように形成される。
【0161】
上述したフリップチップ型の発光素子は、例えば以下のようにして製造ことができる。
【0162】
まず窒化物基板21を用意し、その表面にバッファ層22、第一導電型クラッド層24、活性層構造25および第二導電型クラッド層26を薄膜結晶成長により順次成膜する。これらの薄膜結晶層の形成には、MOCVD法が望ましく用いられる。しかし、MBE法、PLD法、PED法、PSD法、VPE法、LPE法なども全部の薄膜結晶層、あるいは一部の薄膜結晶層を形成するために用いることが可能である。これらの層構成は、素子の目的等に合わせて適宜変更が可能である。また、薄膜結晶層の形成後には、各種の処理を実施してもかまわない。なお、本明細書では、薄膜結晶層の成長後の熱処理等も含めて、「薄膜結晶成長」と記載している。
【0163】
薄膜結晶層成長の後、予定されている第二電流注入領域35上に、第二導電型側電極27を形成する。第二導電型側電極27の形成は、好ましい場合に用いられる絶縁膜30の形成よりも、また、好ましい場合には絶縁膜中に形成される第一電流注入領域36の形成よりも、さらには、第一導電型側電極28の形成よりも、早く実施されることが望ましい。これは、望ましい形態として第二導電型がp型である場合において、表面に露出しているp型クラッド層の表面に対して各種プロセスを経た後にp側電極を形成すると、GaN系材料では比較的活性化率の劣るp型クラッド層中の正孔濃度をプロセスダメージによって低下させてしまうからである。このため、本発明では薄膜結晶成長の後には第二導電型側電極27の形成が他のプロセス工程(たとえば後述する第一エッチング工程、第二エッチング工程、第二導電型側電極露出部分形成工程、第一電流注入領域形成工程や第一導電型側電極形成工程など)よりも先に実施されることが望ましい。
【0164】
本発明では、第二導電型側電極27が形成される層が、第二導電型コンタクト層である場合にも同様に、第二導電型半導体層に対してのプロセスダメージを低減することができる。
【0165】
第二導電型側電極27の形成には、スパッタ、真空蒸着、メッキ等種々の成膜技術を適応可能であり、所望の形状とするためには、フォトリソグラフィー技術を用いたリフトオフ法や、メタルマスク等を用いた場所選択的な蒸着等を適宜使用可能である。
【0166】
第二導電型側電極27を形成した後、第一導電型クラッド層24の一部を露出させる。この工程は、第二導電型クラッド層26、活性層構造25、さらには第一導電型クラッド層24の一部をエッチングにより除去することが好ましい(第一エッチング工程)。第一エッチング工程においては、後述する第一導電型側電極が第一導電型のキャリアを注入する半導体層を露出することが目的であるので、薄膜結晶層に他の層、たとえば、クラッド層が2層からなる場合や、あるいはコンタクト層がある場合には、その層を含んでエッチングしてもかまわない。
【0167】
第一エッチング工程では、エッチング精度があまり要求されないので、SiNxのような窒化物やSiOx等の酸化物、SiOxy等の酸窒化物をエッチングマスクとして、Cl2等を用いたプラズマエッチング法による公知のドライエッチングを使用することができる。
【0168】
次に、分離位置10aには、複数の発光素子分の半導体機能部を窒化物基板21上に形成したときに個々の発光素子に分離するための素子間分離溝29を、第二エッチング工程により形成することが好ましい。本例では、素子間分離溝29をバッファ層22の厚さ方向の途中まで形成する。ただし、素子間分離溝29を窒化物基板21に達するまで形成することもできる。この場合には、素子同士を分離するために、スクライブ、ブレーキング等の工程において、薄膜結晶層にダメージが入らない利点がある。さらに、窒化物基板21の一部までエッチングして素子間分離溝29を形成することも同様に好ましい。一方、このような素子間分離溝29を形成しないことも、プロセス簡略化の観点から好ましい。
【0169】
第二エッチング工程を実施する場合には、第一エッチング工程と比較して、さらに深くGaN系材料をエッチングすることが必要となる。一般に、第一エッチング工程によってエッチングされる層の総和は、0.5μm程度が普通であるが、第二エッチング工程においては、第一導電型クラッド層24のすべてと、バッファ層22をエッチングすることが必要なことから、3〜10μmとなることがある。
【0170】
一般に、金属マスク、SiNx等の窒化物マスク、SiOx等の酸化物マスク等は、Cl2系プラズマに対するエッチング耐性を示すGaN系材料に対する選択比は5程度であって、膜厚の厚いGaN系材料をエッチングする必要のある第二エッチング工程を実施するには、比較的厚めのSiNx膜が必要となってしまう。たとえば第二エッチング工程で10μmのGaN系材料をエッチングする最には、2μmを越えるSiNxマスクが必要となってしまう。しかし、この程度の厚みのSiNxマスクになると、ドライエッチング実施中にSiNxマスクもエッチングされてしまい、その縦方向の厚みのみではなく水平方向の形状も変ってしまい、所望のGaN系材料部分のみを選択的にエッチングすることができなくなってしまう。
【0171】
そこで、第二エッチング工程において素子間分離溝29を形成する際には、金属フッ化物層を含むマスクを用いたドライエッチングが好ましい。金属フッ化物層を構成する材料は、ドライエッチング耐性とウェットエッチング性のバランスを考慮すると、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、AlF3が好ましく、この中でもSrF2が最も好ましい。
【0172】
金属フッ化物膜は、第一、第二エッチング工程で行うドライエッチングに対しては十分な耐性があり、一方でパターニングのためのエッチング(好ましくはウェットエッチング)に対しては、容易にエッチング可能でかつパターニング形状、特に側壁部分の直線性の良いものが求められる。金属フッ化物層の成膜温度を150℃以上にすることで、下地との密着性に優れ、緻密な膜が形成され、同時にエッチングによってパターニングした後に、マスク側壁の直線性にも優れている。成膜温度は、好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上、最も好ましくは350℃以上である。特に350℃以上で成膜された金属フッ化物層は、あらゆる下地との密着性に優れ、かつ、緻密な膜となり、高いドライエッチング耐性を示しつつ、パターニング形状についても、側壁部分の直線性に非常に優れ、開口部の幅の制御性も確保されるようになり、エッチングマスクとして最も好ましい。
【0173】
このようなことに配慮してパターニングされたマスク(金属フッ化物層が表面層になるようにSiNx、SiO、SiOxなどと積層されていてよい)を用いて、ドライエッチングを行うことが好ましい。ドライエッチングのガス種としては、Cl2、BCl3、SiCl4、CCl4およびこれらの組み合わせから選ばれるものが望ましい。ドライエッチングの際に、SrF2マスクのGaN系材料に対する選択比は100を越えるため、厚膜GaN系材料のエッチングが容易に、かつ、高精度に行うことができる。さらに、ドライエッチングの方法としては、高密度プラズマを生成可能なICP型のドライエッチングが好ましい。
【0174】
このような第二エッチング工程により、レーザスクライブ、ブレーキング等の工程において、薄膜結晶層にダメージが入らないようにすることが可能であって、この観点から、素子間分離溝29が形成されることが好ましい。一方、前述したように、プロセス簡略化の観点からは、素子間分離溝29を形成しないことも好ましい。
【0175】
なお、第一エッチング工程と第二エッチング工程は、どちらの工程を先に実施しても、後に実施してもかまわない。
【0176】
第一エッチング工程のみを行う場合にはその後に、また、第一エッチング工程と第二エッチング工程のいずれも行う場合には、そのいずれもが終了した後に、絶縁膜30を形成することが好ましい。絶縁膜30の材料は適宜選択することができ、詳細は前述のとおりである。成膜方法は、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、イオンビームスパッタ法などの各種成膜方法を使用する事が可能である。
【0177】
次に、絶縁膜30を形成した場合には、その所定部分を除去し、第二導電型側電極27上の一部で絶縁膜30が除去された第二導電型側電極27の露出部分、第一導電型クラッド層24上で絶縁膜30が除去された第一電流注入領域36、素子間分離溝29内で絶縁膜が除去されたスクライブ領域を形成する。第二導電型側電極27上の絶縁膜30の除去は、第二導電型側電極27の周辺部分が絶縁膜によって覆われているように実施することが好ましい。すなわち第二導電型側電極露出部分の表面積は第二電流注入領域35の面積よりも小さいことが好ましい。
【0178】
絶縁膜30の所定部分の除去は、選択された材質によってドライエッチング、ウェットエッチング等のエッチング手法が選択可能である。
【0179】
第二導電型側電極27の露出部分、第一電流注入領域36、およびスクライブ領域の形成は、別々に行ってもよいが、通常は同時にエッチングで形成することが好ましい。
【0180】
次に、絶縁膜30を形成した場合には、当該絶縁膜30の部分的な除去によって形成された第一電流注入領域36上に第一導電型側電極28を形成する。また、絶縁膜30を形成しなかった場合には、第一エッチング工程で露出された第一導電型クラッド層24上に直接的に第一導電型側電極28を形成する。図3に示した本形態においては、第一導電型側電極28は第一電流注入領域36の大きさよりも大きな面積に形成され、かつ、第一導電型側電極28と第二導電型側電極27は、第一導電型側電極28および第二導電型側電極27を平面的な投影図形として見たときに、個々の第一導電型側電極28が、第二導電型側電極27と交差しない。これは、当該発光素子をハンダなどでフリップチップマウントした際に、サブマウントなどとの十分な密着性を確保するに十分な面積を確保しつつ、第二導電型側電極27と第一導電型側電極28との間のハンダ材等による意図しない短絡を防止するのに十分な間隔を確保するために重要である。
【0181】
電極材料としては、すでに説明したとおり、第一導電型がn型であるとすると、Ti、Al、AgおよびMoのいずれかから選択される材料、またはすべてを構成元素として含むことが望ましい。電極材料の成膜には、スパッタ、真空蒸着、メッキ等種々の成膜技術を適応可能であり、電極形状とするためには、フォトリソグラフィー技術を用いたリフトオフ法や、メタルマスク等を用いた場所選択的な蒸着等を適宜使用可能である。
【0182】
第一導電型側電極28は、図3に示した例では、第一導電型クラッド層24にその一部が接して形成されるが、第一導電型側コンタクト層が形成されるときはそれに接するように形成することができる。
【0183】
本形態の製造方法では、第一導電型側電極28が、積層構造形成の最終段階にて製造されることにより、プロセスダメージ低減の観点でも有利である。第一導電型がn型である場合には、n側電極は、好ましい形態では、Alが第一導電型クラッド層24に接して形成される。この場合に、もしn側電極が絶縁膜30の形成よりも前になされると、Al金属は絶縁膜30のエッチングプロセスを履歴することになる。絶縁膜30のエッチングには、前述のとおりフッ酸系のエッチャントを用いたウェットエッチング等が簡便であるが、Alはフッ酸を含めた各種エッチャントに対する耐性が低く、このようなプロセスを実効的に実施すると電極そのものにダメージが入ってしまう。また、ドライエッチングを実施してもAlは比較的反応性が高く酸化を含めたダメージが導入される可能性がある。従って、第一導電型側電極28の形成が、好ましく実施される絶縁膜30の形成後かつ絶縁膜30の予定されている不要部分の除去後に行われることは、n側電極に対するダメージの低減に効果がある。
【0184】
ここまでの工程では、説明のとおり薄膜結晶層の形成、第二導電型側電極27の形成、エッチング工程(第一エッチング工程および第二エッチング工程)、絶縁膜30の形成、絶縁膜30の除去(第二導電型側電極露出部分の形成、第一電流注入領域36の形成、スクライブ領域の形成)、第一導電型側電極28の形成は、この順に実施されることが望ましい。
【0185】
一方、工程簡略化の観点では、薄膜結晶層の形成、第二導電型側電極27の形成、エッチング工程(第一エッチング工程のみ実施)、絶縁膜30の形成、絶縁膜30の除去(第二導電型側電極露出部分の形成および第一電流注入領域36の形成)、および第一導電型側電極28の形成は、この順に工程を実施することも望ましい。
【0186】
次に、例えば図1に示したようなレーザ加工装置1を用い、予定された位置である分離位置10aにレーザ光7を照射し、窒化物基板21の内部に、多数のスクライブ痕40aを有する変性部を形成する(変性部形成工程またはスクライブ工程)。照射するレーザ光の波長、偏光および照射の仕方などについては前述したとおりなので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0187】
窒化物基板21に変性部を形成した後、分離位置10aにおいて個々の発光素子に分離される(素子分離工程またはブレーキング工程)。分離された個々の発光素子は、好ましくはハンダ材料等によってサブマウントに搭載される。
【0188】
[上下導通型の半導体発光素子]
次に、上下導通型の半導体発光素子について、図5を参照して説明する。
【0189】
図5に示すように、上下導通型の半導体発光素子は、窒化物基板21と、窒化物基板21の一方の面に積層された薄膜結晶層とを有する。薄膜結晶層は、バッファ層22、第一導電型クラッド層24を含む第一導電型半導体層、活性層構造25、第二導電型クラッド層26を含む第二導電型半導体層、およびコンタクト層23が窒化物基板21側からこの順番に積層されて構成されている。なお、図5は、複数の半導体発光素子が例えば格子状に配列された発光素子アレイを示している。
【0190】
コンタクト層23の表面の一部に、電流注入用の第二導電型側電極27が配置されており、コンタクト層23と第二導電型側電極27の接触している部分が、第二導電型半導体層に電流を注入する第二電流注入領域35となっている。また、窒化物基板21の薄膜結晶層と反対側の面、即ち裏面に第一導電型側電極28が配置されている。窒化物基板21は導電性を有しており、第一導電型半導体層へは、第一導電型側電極28から窒化物基板21を介して電流が注入される。
【0191】
第二導電型側電極27および第一導電型側電極28が上記のように配置されることによって、両者が窒化物基板21を挟んで反対側に配置された上下導通型の半導体発光素子が構成されている。
【0192】
図5に示した半導体発光素子は、上下から第一導電型側電極28および第二導電型側電極27をそれぞれ取り出すことができる。また、図5に示した半導体発光素子は、第一導電型側電極28を設けるために積層した半導体層の一部をエッチングなどにより除去する必要がなく、製造工程を簡便化することができるために好ましい。
【0193】
窒化物基板21の内部には、その予定された分離位置10aにおいて、レーザ照射によって形成されたスクライブ痕40aを有する変性部が形成されている。発光素子アレイは、変性部が形成された分離位置10aで分離され、これによって半導体発光素子が個々に分離される。スクライブ痕40aを有する窒化物基板内部の変性部をはじめ、半導体発光素子を構成する各層は、前述のフリップチップ型の半導体発光素子と同様に構成することができる。ただし、図5に示す例では、窒化物基板21の裏面に第一導電型側電極28を設けるため、窒化物基板21およびバッファ層22が、通常第一導電型である必要があり、例えば、第一導電型をn型とした場合は、窒化物基板21およびバッファ層22がn型ドーパントによりドープされていることが好ましい。半導体発光素子の製造においては、結晶性の劣るp型クラッド層を活性層構造25の結晶成長後に実施することが望ましく、この観点で、第一導電型がn型で、第二導電型がp型である場合が望ましい。
【0194】
なお、図5に示す例では絶縁膜が形成されていないが、必要に応じて絶縁膜を形成することができる。絶縁膜を形成する場合、特に好ましいのは、第二導電型半導体層の側壁を覆って絶縁膜を形成することである。絶縁膜を形成しない場合は、製造工程を簡略化することができる。
【0195】
上下導通型の半導体発光素子は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0196】
上下導通型の発光素子の製造方法の一例では、まず基板21を用意し、その表面にバッファ層22、第一導電型クラッド層24、活性層構造25、第二導電型クラッド層26およびコンタクト層23を薄膜結晶成長により順次成膜する。これらの薄膜結晶層の形成には、MOCVD法が望ましく用いられる。しかし、MBE法、PLD法、PED法、PSD法、VPE法、LPE法なども全部の薄膜結晶層、あるいは一部の薄膜結晶層を形成するために用いることが可能である。これらの層構成は、素子の目的等に合わせて適宜変更が可能である。また、薄膜結晶層の形成後には、各種の処理を実施してもかまわない。なお、以下の説明において、薄膜結晶層の成長後の熱処理等も含めて「薄膜結晶成長」と記載していることは、前述したとおりである。
【0197】
薄膜結晶層成長の後、予定されている第二電流注入領域35上に第二導電型側電極27を形成する。第二導電型側電極27の形成は、絶縁膜を形成する場合には、絶縁膜の形成よりも早く、また、第一導電型側電極28の形成よりも早く実施されることが望ましい。これは、望ましい形態として第二導電型がp型である場合において、表面に露出しているp型クラッド層の表面に対して各種プロセスを経た後にp側電極を形成すると、GaN系材料では比較的活性化率の劣るp型クラッド層中の正孔濃度をプロセスダメージによって低下させてしまうからである。このため、本形態では、薄膜結晶成長の後には第二導電型側電極27の形成が他のプロセス工程(たとえば第一導電型側電極形成工程など)よりも先に実施されることが望ましい。
【0198】
第二導電型側電極27の形成には、スパッタ、真空蒸着、メッキ等種々の成膜技術を適応可能であり、所望の形状とするためには、フォトリソグラフィー技術を用いたリフトオフ法や、メタルマスク等を用いた場所選択的な蒸着等を適宜使用可能である。
【0199】
第二導電型側電極27の形成後には、絶縁膜を形成することが好ましい。絶縁膜の材料は適宜選択することができ、詳細は前述のとおりである。成膜方法は、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、イオンビームスパッタ法などの各種成膜方法を使用することが可能である。
【0200】
次に、絶縁膜を形成した場合には、その所定部分を除去し、第二導電型側電極27上の一部で絶縁膜が除去された、第二導電型側電極27の露出部分を形成する。第二導電型側電極27上の絶縁膜の除去は、第二導電型側電極27の周辺部分が絶縁膜によって覆われているように実施することが好ましい。すなわち第二導電型側電極露出部分の表面積は第二電流注入領域35の面積よりも小さいことが好ましい。
【0201】
絶縁膜の所定部分の除去は、選択された材質によってドライエッチング、ウェットエッチング等のエッチング手法が選択可能である。
【0202】
次に、窒化物基板21の裏面側に、窒化物基板21に接するように第一導電型側電極28を形成する。
【0203】
電極材料としては、すでに説明したとおり、第一導電型がn型であるとすると、Ti、Al、AgおよびMoのいずれかから選択される材料、またはすべてを構成元素として含むことが望ましい。電極材料の成膜には、スパッタ、真空蒸着、メッキ等種々の成膜技術を適応可能であり、電極形状とするためには、フォトリソグラフィー技術を用いたリフトオフ法や、メタルマスク等を用いた場所選択的な蒸着等を適宜使用可能である。
【0204】
本形態の製造方法では、第一導電型側電極28が、半導体発光素子の積層構造形成の最終段階にて製造されることにより、プロセスダメージ低減の観点でも有利である。第一導電型がn型である場合には、窒化物基板21もn型であることが好ましいが、n側電極は、特に窒化物基板21に直接接する部分には、好ましい形態では、Alが用いられる。この場合に、もしn側電極が、好ましく設けられる絶縁膜の形成よりも前になされると、Al金属は絶縁膜のエッチングプロセスを履歴することになる。絶縁膜のエッチングには、前述のとおりフッ酸系のエッチャントを用いたウェットエッチング等が簡便であるが、Alはフッ酸を含めた各種エッチャントに対する耐性が低く、このようなプロセスを実効的に実施すると電極そのものにダメージが入ってしまう。また、ドライエッチングを実施してもAlは比較的反応性が高く酸化を含めたダメージが導入される可能性がある。従って、第一導電型側電極28の形成は、好ましく設けられる絶縁膜の形成後かつ絶縁膜の予定されている不要部分の除去後に行われることは、n側電極に対するダメージの低減に効果がある。
【0205】
その後、各半導体発光素子を1つ1つ分離するために、好ましく形成される素子間分離溝29の位置で、あるいは素子間分離溝29が形成されない場合には、予定された分離位置10aで、レーザ照射による、窒化物基板21内部への、スクライブ痕40aを含む変性部形成が実施される。照射するレーザ光の波長、偏光および照射の仕方などについては前述したとおりなので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0206】
変性部の形成後には、発光素子構造体は分離位置10aで個々の半導体発光素子に分離される。
【0207】
以上のようにして、半導体発光素子が完成する。完成した半導体発光素子は、例えば第二導電型側電極27が好ましくはハンダ材料あるいはAuバンプ等を介してサブマウントに搭載される。一方、第一導電型側電極28にはワイヤーボンド等が接続され、これによって、半導体発光素子への給電が可能となる。
【0208】
この製造方法では、説明のとおり薄膜結晶層の形成、第二導電型側電極27の形成、好ましく用いられる絶縁膜の形成、絶縁膜を形成した場合の絶縁膜の除去(第二導電型側電極露出部分の形成)、第一導電型側電極28の形成は、この順に実施されることが望ましい。
【0209】
上述した一連の工程において、好ましくは第二導電型側電極27の形成後に、第一導電型クラッド層24の一部を露出させる工程を追加することもできる。第一導電型クラッド層24の一部を露出させる好ましい方法として、薄膜結晶層を第二導電型クラッド層26側からエッチングによって除去する方法が挙げられる。第一導電型クラッド層24の一部を露出させる工程は、フリップチップ型の発光素子の製造方法において説明した「第一エッチング工程」に相当するので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0210】
[レーザ光の照射条件など]
以上、フリップチップ型の半導体発光素子および上下導通型の半導体発光素子について説明したが、いずれのタイプにおいても、窒化物基板21への変性部の形成を良好に行うためには、発光素子アレイの、予定された素子分離位置や後述するマーキング位置などへのレーザ光の照射条件が重要である。以下に、フリップチップ型および上下導通型に共通するレーザ光の好ましい照射条件等について詳しく説明する。
【0211】
照射するレーザ光7の波長λ(nm)は、窒化物基板21に対して透明となる波長、すなわち、窒化物基板21のバンドギャップEgs(eV)との間で前述の(式1)の関係を満たす波長であれば特に限定されず、例えば、266nm、355nm、488nm、514nm、532nm、1064nmまたは10.6μmのいずれかから選択することができる。
【0212】
例えば、窒化物基板21がGaN基板である場合は、レーザ光7の波長は、GaN基板のバンドギャップとの関係から、488nm、514nm、532nm、1064nm、10.6μmのいずれの波長から選択してもよく、パルスレーザの高出力化の観点からは、532nm、1064nmがより好ましい。また、これらの波長の中では、集光後のエネルギー密度を高く出来る観点から、さらには光学部品等の信頼性等を加味すると、532nmが最も好ましい。一方、窒化物基板21がInN基板である場合は、レーザ光7の波長は、ハンドギャップと波長の関係から10.6μmとすることが好ましい。
【0213】
これらの波長は、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Arレーザ、COレーザ等で実現可能である。これらは、レーザ光源2の信頼性等と安定的なレーザ照射、さらには、AlN,GaN,InN等の種々の窒化物材料に対して適宜選択をして、加工材料に対して透明なレーザ光7を照射できることから好ましく選択可能である。この中でも特に、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザを用いることが好ましく、さらにはNd:YVOレーザを用いることが最も好ましい。
【0214】
変性部は、窒化物基板21の内部にのみ形成されるようにする。よって、窒化物基板21のレーザ光が入射する側の表面およびその裏面である反対側の表面(以降、両面あわせて単に表面と表現することがある)にレーザ痕が形成されないようにする必要がある。本発明者は、種々の実験から、このようにするには以下のことが有効であることを見出した。すなわち、図6に示すように、レーザ光照射時の波長λ(nm)での窒化物基板21の屈折率をn、レーザ光照射時の窒化物基板21の物理的厚みをtsi(μm)、レーザ光照射時に窒化物基板21の内部において最も集光される部分の、加工対象物の上部表面からの物理距離をL(μm)とした際に、次の式、
100/n ≦ L≦(tsi―100)/n …(式3)
を満たすように、レーザ光照射時の窒化物基板21の物理的厚みtsiと、レーザ光7の集光度合いを調整すると、種々のレーザ照射条件でも窒化物基板21の表面にレーザ痕は形成されないことを見出した。なお、加工対象物上部表面とは、レーザ光7が照射される部分において、窒化物基板21上に何も形成されていない場合は窒化物基板21のレーザ光7が照射される側の表面であるが、窒化物基板21上に何らかの構造(例えば薄膜結晶層の一部または全部の構造)が形成されている場合は、その形成された構造を含めた、レーザ光7が照射される側の表面をいう。このレーザ光が最も集光される部分の加工対象物上部表面からの物理的距離L(μm)は、表面からの距離にゆとりを持つためには、好ましくは、
150/n ≦ L≦(tsi―150)/n …(式4)
であって、
より好ましくは、200/n ≦ L≦(tsi―200)/n …(式5)
であった。
【0215】
レーザ照射によって加工を好ましく行うためには、加工対象物とレーザ光の相互作用の結果として変性部が適切に形成されるように、適切な範囲の空間的なエネルギー密度を有するレーザ光を照射することが好ましい。
【0216】
そのためには、レーザ照射時に、大気中におけるレーザ光の1回照射あたりにおける空間的最大エネルギー密度φmax(mJ/cm)が
200 ≦ φmax ≦5000…(式6)
となるように時間に対して強度変調をかけて、あるいはパルス動作をさせてレーザ光を照射することが好ましい。より好ましくは、
300 ≦ φmax ≦1000 …(式7)
であり、さらに好ましくは、
500 ≦ φmax ≦700 …(式8)
である。
【0217】
本明細書においては、加工対象物が複数の材料から構成される等の場合があることを考慮して、レーザ光の空間的なエネルギー密度を空気中のエネルギー密度で置き換えて表現することとした。また、位置的には、ビームウエスト部分における空間的なエネルギー密度を空間的最大エネルギー密度とした。さらに、時間的には、レーザが変調度0%、あるいはパルス動作時のオン動作をしている際の、1照射あたりにおける空間的最大エネルギー密度φmax(mJ/cm)を変性部形成の指標とすることが、もっともふさわしいことを実験的に見出した。
【0218】
レーザ照射による変性部の形成が適切に行われるためには、レーザの駆動条件が適切な状況でレーザ光を照射することが好ましい。
【0219】
本発明では、照射されるレーザ光の波長は加工対象物に対して透明である。しかし、例えば窒化物基板21中の窒化物材料の乖離が始まり、ひとたびGa、Al,In等が変性部内に析出し始めると、これら金属がレーザ光を容易に吸収し、意図しない激しい加工がその周辺で発生してしまうことになる。特にこれらの反応は、局所的に集光されて高い空間的なネルギー密度となる部分では容易に引き起こされ、この部分は相当な高温になると考えられる。
【0220】
これらの意図しない過剰な変性部の形成を抑制するためには、照射するレーザは、時間的には強度変調されているか、あるいはパルス駆動されることが好ましい。特に、強度変調されている場合には、その最大変調度は100%であることが好ましく、また、パルス駆動されている場合には、オフの場合の出力が0になっていることが好ましい。さらに、熱的には局所的な温度上昇を極力抑制すべく、変調度が0%の部分の幅、あるいはパルス幅は、狭いことが好ましい。
【0221】
実験的にこれらの変調度が0%の部分の幅、あるいはパルス幅(これらをまとめて「パルス幅」と記載することがある)の最適値を求めたところ、0.05nsec以上100nsec以下範囲のパルス幅とする事が好ましいことが分かった。特にその下限は、0.1nsec以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは1nsec以上とすることであり、さらに好ましくは5nsec以上とすることであり、さらに好ましくは10nsec以上とすることであった。これらパルス幅の好ましい下限は、加工対象となる窒化物材料の割段や素子分離が容易にできるかどうかで判断した。すなわち、過度に短いパルス幅のレーザ照射では変性部を十分に形成できなかった。
【0222】
一方、パルス幅の上限は、50nsec以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは40nsec以下とすることであり、さらに好ましくは30nsec以下とすることであり、さらに好ましくは25nsec以下とすることであった。これらパルス幅の好ましい上限は、加工対象となる窒化物材料の変性部の形成が過度にならないかどうかで判断した。すなわち、過度に長いパルス幅のレーザ照射では過剰な変性部を生成して好ましくない結果となった。
【0223】
よって、本発明で用いるレーザ光源2は、パルス駆動可能であって、そのパルス幅が0.05nsec以上100nsec以下の範囲のパルスが生成可能であることが好ましく、レーザ光源2の駆動条件における好ましいパルス幅も、上記の実験より得られた範囲のパルスであることが好ましい。
【0224】
レーザ照射時の外部強度変調、内部強度変調、あるいはパルス動作等では、それらの周期(これらをまとめて「変調周期」と記載することもある)も重要な要素の一つである。この変調周期、あるいはパルス動作等の周期は、高周波(高速)になると加工対象物内の単位長さあたりに多くのレーザ痕、スクライブ痕を形成できるために、一般には変調周期は速い方(周波数が高い方)が好ましい。しかし、レーザ光源にとっては高速変調は技術的な困難さがあるために、変調周期の最適値も実験的に求めた。この結果、変調周期は、60kHz以上300kHz以下とすること好ましかった。
【0225】
特にその下限は、70kHz以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは80kHz以上とすることであり、さらに好ましくは90kHz以上とすることであり、さらに好ましくは100kHz以上とすることであり、さらに好ましくは110kHz以上とすることであった。パルス幅のこれら好ましい下限は、レーザスクライブ後のブレーキングの容易さで判断した。
【0226】
一方、当該変調周期の上限は、270kHz以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは240kHz以下とすることであり、さらに好ましくは210kHz以下とすることであり、さらに好ましくは180kHz以下とすることであり、さらに好ましくは150kHz以下とすることであった。これらは、レーザの安定動作の観点から選択した。
【0227】
以上のことから、本発明で用いるレーザ光源2は、外部強度変調、内部強度変調、あるいはパルス駆動のいずれかが可能であって、変調周期が60kHz以上300kHz以下の範囲のパルスが生成可能であることが好ましく、レーザ光源2の駆動条件における好ましい変調周期も、上記の実験より得られた範囲のパルスであることが好ましい。
【0228】
なお、前述の通り、変調度は加工対象物への熱的負荷を軽減する目的で100%とすることが好ましい。
【0229】
以上説明した変性部形成工程についてまとめると、変性部形成工程において好ましく用いることのできるレーザ照射の条件は、照射するレーザ光の波長が加工対象物に対して透明で、偏光がランダム偏光もしくは円偏光のいずれかであって、加工対象物の内部にのみ変性部が形成されるようにすることが必須である。これに加えて、より好ましいのは、空間的には適切な範囲で高エネルギー密度となるように集光したレーザ光を、時間的には適切な範囲で短パルス化し、これを適切な範囲で、高速変調周期で照射することであるといえる。
【0230】
一方、実際の加工においては、レーザの変調周期と同じように、単位時間にどの程度加工対象物を移動させてレーザ照射をするかが重要となる。本発明者は、この加工対象物の移動距離を、仮に、窒化物基板の表面で最も集光するようにレーザ光を照射することによって形成されるレーザ痕の直径をassとしたときに、その最適値を実験的に求めた。この結果、レーザ光の照射時の変調1周期におけるレーザ光の照射中心位置の移動量Pとすると、
0.1×ass≦P≦1.25×ass
となるように、窒化物基板とレーザ光とを相対的に移動させることが好ましかった。
【0231】
特に、移動量Pの下限は、(0.2×ass)以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは(0.4×ass)以上とすることであった。これらレーザ照射時の変調1周期におけるレーザ光の照射中心位置の移動量Pの好ましい下限は、変性部が過度にならないかとうか、および変性部形成工程の作業時間が過度に長くならないかどうかで判断した。
【0232】
一方、上記移動量Pのより好ましい上限は、(1.0×ass)以下とすることであり、さらに好ましくは(0.8×ass)以下とすることであった。これらは、レーザスクライブ後のブレーキングの容易性の観点から選択した。
【0233】
レーザスクライブに際しては、発光素子の凹凸等がない極力平坦な表面の部分にレーザ光を照射することが好ましい。このようにすると、例えばレーザ光の散乱等がおきにくく、レーザ加工に好都合である。
【0234】
レーザスクライブに際しては、発光素子の表面側から観察可能なレーザ痕の形成状況も重要であるが、発光素子の分離面においてスクライブ痕をどのように形成するかも重要である。レーザスクライブ後のブレーキングを容易にするためには、レーザ照射時に基板内部において最も集光される部分の、発光素子上部表面からの物理的距離L(μm)(図6参照)を変えて複数回の照射を行うことが好ましい。このようにすると、例えば図4に示すように複数のスクライブ痕帯40が形成されることになる。これにより、一般にその加工対象物の形状、材料特性等の理由から加工しにくい材料である場合においても、レーザスクライブとその後のブレーキング等を容易に行うことができるようになる。このため、本方法は非常に有効な手段となる。特に、このような方法は、厚膜GaN基板上の発光素子のレーザスクライブと、その後のブレーキング等に対して好適に利用可能である。
【0235】
このような、発光素子上部表面からの物理的距離Lを変化させて複数回の照射を行う際には、前回の照射で形成された変性部が、次回の照射の際の集光前光路に入らないことが好ましい。これは前回の照射で形成された変性部が、次回の照射の際の集光前光路に入ると、前者には過度なダメージが入り、後者の目的とした部分に変性部が形成できないなどの問題が発生する場合があるからである。よって、複数回の照射を行う際は、Lが大きな値を有する照射を先に行い、Lが小さな値を有する照射を後に行うこと、すなわち、Lが大きいレーザ照射をLが小さいレーザ照射よりも先に行うことが好ましい。
【0236】
以上、レーザ光の好ましい照射条件について述べたが、これらの照射条件はそれぞれ単独で実施してもよいし、2以上の照射条件を適宜組み合わせて実施してもよい。
【0237】
上述した半導体発光素子の製造方法は、以下の工程(1)〜(4)に大別することができ、上述した説明では、工程(1)〜(4)をその順番で実施している。
(1)バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に、複数の半導体発光素子分の、第一導電型半導体層、活性層構造および第二導電型半導体層を有する薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程。
(2)薄膜結晶層に接して、複数の半導体発光素子に対応した、複数の第一導電型側電極および複数の第二導電型側電極を形成する電極部形成工程。
(3)レーザ光の照射によって窒化物基板の内部に変性部を形成する変性部形成工程。
(4)予定された位置で半導体発光素子を個々に分離する素子分離工程。
【0238】
しかし、変性部形成工程(3)は、他のどの工程内、工程間、あるいは工程前後で行ってもよく、例えば、薄膜結晶層形成工程(1)よりも前、薄膜結晶層形成工程(1)と電極部形成工程(2)との間、電極部形成工程(2)中、電極形成工程(2)と素子分離工程(4)との間、または素子分離工程の後などで行うことができる。その中でも、薄膜結晶層形成工程(1)と電極部形成工程(2)との間、電極部形成工程(2)中、または電極部形成工程(2)と素子分離工程(4)との間に行うことが好ましく、より好ましいのは、電極部形成工程(2)中、または電極部形成工程(2)と素子分離工程(4)との間で行うことであり、最も好ましいのは、電極部形成工程(2)と素子分離工程(4)との間に行うことである。これは、変性部の形成は、後の工程で行うほど、工程中での意図しない基板の割れを抑制できるからである。なお、素子分離工程の後に行う変性部形成工程は、変性部を後述する「表面に凹凸のない位置確認用マーカー」として利用する場合等において有効である場合がある。
【0239】
変性部を形成する主たる目的は、素子分離工程を容易に行えるように、予定された分離位置での機械的強度を他の部分に比べて小さくすることである。しかし、変性部は、レーザ痕として、窒化物基板上面から視認可能な状態で、かつ、その内部のみに形成されているので、変性部を「表面に凹凸のない位置確認用マーカー」としても利用することができる。特に、レーザ痕は、加工対象物表面から視認できるために、マーカーとして利用しやすい。また、場合によっては加工対象物の側面から視認可能な場合があるスクライブ痕を、マーカーとして利用することも可能である。
【0240】
変性部を位置確認用マーカーとして利用する限りにおいては、変性部を形成する位置は、予定された素子分離位置である必要はなく、マーカーとして視認できる所望の位置とすることができる。ただし、変性部を、これまで説明してきたようにスクライブに利用するだけでなく、位置確認用マーカーとしても利用するのであれば、変性部は、少なくとも分離位置を含む位置に形成される。すなわち、位置確認用マーカーとして利用される変性部は、所望の位置に形成することができるが、この「所望の位置」は、変性部の利用目的に応じて、「予定された分離位置」と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0241】
このように、変性部を「表面に凹凸のない位置確認用マーカー」などとしても利用する場合は、変性部形成工程を、素子分離工程よりも前であって、かつ、互いに異なる工程で複数回行うことも好ましい。また、素子分離工程の後に行う変性部形成工程も、変性部を「表面に凹凸のない位置確認用マーカー」として利用する場合等において、例えば組立工程などで有効である場合があり、好ましい。
【0242】
例えば、第一回目の変性部形成工程を、意図的にブレーキング等には至らない程度であって、変性部がその周囲の部分との屈折率の差として顕微鏡等の光学的な手法で視認できる状況を作り出すために電極部形成工程の途中で行い、これを半導体発光素子作製時の位置確認用マーカーとして機能させ、さらに電極部形成工程の後に、第二回目の変性部形成工程を、ブレーキング等による素子分離に十分な程度に行うことは、非常に好ましい。
【0243】
また、変性部の形成を複数回行うことにより、窒化物基板の異方性と照射するレーザ光の偏光方向との関係によって生じる変性部の方向依存性は、例えば1回目と2回目で変性部の形成位置をずらす、あるいは1回目と2回目でレーザ光の偏光方向と窒化物基板の自発分極の向きとの関係を変えるなどしてある程度の補償をすることができるため、レーザ光の偏光方向は任意とすることができる。
【0244】
さらに、位置確認用マーカーとしても利用される変性部の形成を複数回行う場合の、変性部の形成位置について、例えば、1回目は、変性部を分離位置に形成し、2回目は、変性部を位置確認用マーカーとして利用するために分離位置とは別の位置に形成し、さらに3回目は、2回目で形成したマーカーを利用して、1回目とは異なる分離位置に形成する、というようなことが考えられる。
【0245】
よって、変性部を「表面に凹凸のない位置確認用マーカー」などとしても利用する場合、半導体発光素子の製造方法は、
バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、
前記薄膜結晶層に接して電極部を形成する電極部形成工程と、
所望の位置に対して、レーザ光の照射による前記窒化物基板への変性部の形成を行う少なくとも1回の変性部形成工程と、
前記薄膜結晶層および前記電極部が形成された窒化物基板を予定された分離位置で分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、
を有し、
前記変性部形成工程においては、
照射するレーザ光の波長λ(nm)を
1240/λ< Egs
とし、かつ、
前記窒化物基板の内部にのみ前記変性部が形成されるようにレーザ光を照射することを含み、
前記変性部形成工程で形成された変性部を、他の工程での位置確認用マーカーとして利用することを特徴とする。
【0246】
この方法によれば、
変性部形成工程を複数回にわたって実施することで、1回目の変性部形成工程を、アライメントが必要な工程前または工程中に実施すれば、変性部をアライメントマークとして利用し、例えば薄膜結晶層上の電極部などを高い位置精度で形成することができる。しかも、変性部は窒化物基板へのレーザ光の照射によって窒化物基板の内部にのみ形成されるので、表面に凹凸がなく、他の材料を含まず、形成が簡便であって、かつプロセス上の制約が少なく、アライメントマークとして非常に好ましい。
【0247】
窒化物基板上に薄膜結晶層を有する半導体発光素子の中には、窒化物基板の裏面(薄膜結晶層が形成された面と反対側の面)側を意図的に粗面化することによって光取り出し効率等を向上させたものがある。このような光学的な機能を有する半導体発光素子では、変性部の形成のためのレーザ光の照射において粗面化された面側から照射するのは、レーザ光の入射の際に大きな散乱を受けるため好ましくない。言い換えると、レーザ光の照射は、光取り出し効率の向上が見られないような粗面化されていない面、例えば、単なる凹凸面、湾曲面、あるいは鏡面側から行うことが好ましく、特に、鏡面側から行うことがより好ましい。
【0248】
窒化物基板の厚みについて、完成した発光素子における窒化物基板の厚みは前述したとおりであり、窒化物基板の厚みを従来よりも厚くすることで、基板の側壁からの光取り出し効率を高めることが可能である。しかし、厚膜の窒化物基板を用いて半導体発光素子の製造を行う場合、チッピングを抑制し、高歩留まりと高スループットを両立させることは、通常のダイヤモンドスクライブ法や従来のレーザスクライブ法では実現させるのが極めて困難であった。本発明では、窒化物基板の内部に変性部を形成するため、これらのことが容易に実現可能となる。
【0249】
その結果、本発明では従来よりも厚膜の窒化物基板を用いることが可能であり、この観点で、レーザ光照射前の窒化物基板の物理的厚みtsi(μm)は、
200≦ tsi ≦ 5000
とすることができる。レーザ光照射前の窒化物基板の物理的厚みtsiの下限値は、より好ましくは300(μm)以上、さらに好ましくは400(μm)以上、さらに好ましくは500(μm)以上、さらに好ましくは600(μm)以上、さらに好ましくは650(μm)以上、さらに好ましくは700(μm)以上である。一方、レーザ光照射前の窒化物基板の物理的厚みtsiの上限値は、より好ましくは4000(μm)以下、さらに好ましくは3000(μm)以下、さらに好ましくは2000(μm)以下、さらに好ましくは1000(μm)以下、さらに好ましくは900(μm)以下、さらに好ましくは850(μm)以下である。
【0250】
レーザ光照射前の窒化物基板の物理的厚みの上限は、レーザ照射後に当該厚みの基板をブレーキングするのに必要なレーザ照射の数回と工程のスループットを考慮して選択した。また、物理的厚みの下限は、十分な光取り出しを実現するのに必要な厚みを考慮して選択した。
【0251】
変性部形成工程では、どのような形態で変性部を形成しても構わないが、粘着性シート上に加工対象物を搭載し、その状態でレーザ光を照射して変性部を形成することが好ましい。これは変性部形成工程の自由度や、変性部形成工程、さらには、後述する側壁洗浄工程の利便性を考えてのことである。
【0252】
粘着性シート上に加工対象物を搭載した状態でレーザ光を照射することは、変性部形成工程において変性部の形成と同時に加工対象物が複数に分離する場合であっても、その後の工程で1つ1つの分離した素子などを扱う必要がなく、粘着性シート上に搭載されたすべての素子を同時に扱うことができるために好ましい。また、素子分離工程時には、伸縮性を有するシート上に加工対象物を搭載することで、素子分離後もすべての素子を同時に扱うことができるために好ましい。さらには、側壁洗浄工程においても、シート上の素子すべてを1回の取り扱いで洗浄可能であるために好ましい。
【0253】
ここで、本発明者らが行なった洗浄実験等の結果から、シートの基材としては、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系のいずれかの基材のシートを用いることが好ましく、特にポリオレフィン系のシート基材とすることが好ましい。これは特に、後述する側壁洗浄工程において、各種の洗浄液に対する耐性が高いからである。
【0254】
前述したように、変性部形成工程の後には素子分離工程が実施される。素子分離工程では、変性部形成工程によって加工対象物に変性部が形成された際に、それと同時に素子分離が行われてもよい。また、素子分離工程は、変性部形成工程でレーザ痕やスクライブ痕等が形成された分離位置で加工対象物をブレーキングすることで行われてもよい。前者は工程が単純となるために好ましく、また、後者は精度よく素子分離等の加工対象物の分離が可能であるために好ましい。
【0255】
特に、素子分離工程においてブレーキングを行う場合には、ブレーキング用受台上に加工対象物を載せ、ブレーキングブレードによって加工対象物に曲げ応力を作用させる。ブレーキングブレード、ブレーキング用受台、および変性部の相対的な位置関係は、この曲げ応力が、変性部形成工程で形成された変性部に作用するようになっていれば任意の配置を取りうる。しかし、実験的に検証した結果によれば、加工対象物の厚み方向において変性部が形成された位置が近い方の表面側にブレーキングブレードを配置するとともに、それと反対の表面側にブレーキング用受台を配置し、ブレーキングブレードが配置された側から加工対象物に曲げ応力を作用させることが好ましい。なお、変性部が加工対象物の厚み方向中央部に形成されている場合には、加工対象物の厚み方向のいずれの側にブレーキングブレードを配置しても構わない。
【0256】
[分離後の洗浄]
素子分離工程の後には、半導体発光素子の素子分離によって現れた側壁面を洗浄する側壁洗浄工程を有することが好ましい。
【0257】
前述したとおり、例えばGaN基板の表面にレーザ痕を形成する際に発生する変性部は、各種酸でも、あるいは各種アルカリでも除去は困難である。一方、GaN基板の内部に変性部を形成した際には、加工対象物をこの変性部が形成された部分で複数に分離してレーザ痕およびスクライブ痕などを含む変性部を露出させて、この露出した変性部をHCl等で処理をすると、変性部が容易に除去可能である。
【0258】
このような変性部の除去が容易か否かの違いは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、GaN基板の表面にレーザ痕を形成した場合は、レーザ照射時にGaとNが乖離し、それと同時に、例えば周辺の大気成分との反応が発生し、容易に除去できない成分も生成してしまうためと考えられる。これらは黒褐色等の着色物であることが多く、加工対象物が発光素子の場合には、光出力低下の一因にもなる。一方、GaN基板の内部に変性部を形成した場合には、主にGaとNの乖離が進むこととなり、GaN基板内部に形成された変性部は塩酸等の酸で容易に除去可能であることを実験的に確認している。これらの結果から、GaN基板内部に変性部を形成した際に残留するものは適正量のGaドロップレット等が支配的であり、このために、GaN基板の内部に変性部を形成した場合は、容易にHClなどの酸で除去可能と考えられる。
【0259】
側壁洗浄工程における洗浄は、酸性の溶液で行うことが好ましく、HClを含む酸で行うことがよりこの好ましい。また、側壁洗浄工程における洗浄を、確かなものにするには、アルカリ性の溶液で洗浄を行うことも好ましい。この際には、KOHまたはCa(OH)を含むアルカリで行うことが好ましい。前者の酸性の溶液による洗浄は、Gaのドロップレット除去等に主眼があり、後者のアルカリ溶液による洗浄は、窒化物材料そのもののエッチングを行うことで、結果として異物除去をすることに主眼がある。
【0260】
加工対象物である窒化物基板の異方性と照射するレーザ光の偏向方向との関係で生じる変性部の方向依存性は、適正な範囲内で空間的エネルギー密度を高めに設定したレーザ光を照射することで加工しきい値のばらつきをある範囲で補償し、かつ、若干過剰となるエネルギー密度から生じる若干過剰な変性部は、素子分離時に露出する側壁を洗浄することによってその大半を除去可能である。よって、洗浄工程を有する場合には、レーザ光の偏向方向は任意としてもよい。よって、素子分離によって露出した側壁を洗浄する場合、半導体発光素子の製造方法は、
バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、
前記薄膜結晶層に接して電極部を形成する電極部形成工程と、
予定された素子分離位置で、レーザ光を照射することによって前記窒化物基板に変性部を形成する変性部形成工程と、
前記薄膜結晶層、前記電極部および前記変性部が形成された窒化物基板を前記素子分離位置で分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、
前記素子分離工程で分離することによって露出した前記半導体発光素子の側壁を洗浄する側壁洗浄工程と、
を有し、
前記変性部形成工程は、
前記素子分離位置に照射するレーザ光の波長λ(nm)を
1240/λ< Egs
とし、
かつ、前記窒化物基板の内部にのみ前記変性部が形成されるようにレーザ光を照射することを含む。
【実施例】
【0261】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に詳説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0262】
[実施例1]
窒化物材料用レーザ加工装置として、以下の構成の装置を準備した。レーザ光源として、NdドープのYVOを励起媒質とし、発振波長が1064nm、Mが1.5でTEM00モード発振する固体パルスレーザ装置を準備し、その光軸上に、偏光制御部品として、直線偏光をランダム偏光に変換すべく、水晶を内在する2枚の偏光解消板を互いにその相対位置を45度ずらして設置した。また、その直近に対物レンズを設置し、レーザ光の集光位置を可動ステージ近傍で加工対象物の厚み方向に調整できるようにした。
【0263】
次いで、加工対象となる窒化物材料として、バンドギャップが約3.4(eV)であり、表面は鏡面化され、裏面は粗面化されている厚み400μmの0度オフc−GaN基板(波長1064nmにおける屈折率は約2.29)を準備した。このGaN基板の裏面に、ポリオレフィン基材を内在する粘着シートを接着し、さらにこれを、GaN基板の表面側をレーザ照射側として、レーザ加工装置の可動ステージ上に設置した。
【0264】
次に、レーザ光の照射条件として、パルス幅を30nsec、変調周期を100kHz、大気中における1照射あたりの空間的な最大エネルギー密度を700mJ/cmと決定した。
【0265】
次に、実加工としてではなく、装置調整作業完了の確認として、GaN基板の不用部分に対して、その表面に合焦するようにしてレーザ光を照射し、それによってGaN基板の表面に形成されたレーザ痕を確認した。この際、GaN基板を回転させて種々の方向に照射しても、形成されたレーザ痕は略円形であった。
【0266】
次に、実加工を行うために、上記条件において、GaN基板の厚み方向の表面から略2/3の位置に当たる266μm近傍にレーザ光が合焦するように調整をし、可動ステージを動かしながら1回目のレーザ照射を行った。この際、GaN基板には、その表面にも裏面にも加工痕は形成されなかったが、顕微鏡で観察したところ、GaN基板の内部のレーザ光が合焦した位置の近傍で変性部が確認された。
【0267】
さらに、実加工を継続するために、先の照射部分と略同じ水平位置に対して以下のように集光高さの調整をして加工を行った。すなわち、GaN基板の厚み方向の表面から略1/3の位置に当たる133μm近傍にレーザ光が合焦するように調整をし、可動ステージを動かしながら2回目のレーザ照射を行った。その結果、1回目のレーザ照射と同様、GaN基板の表面および裏面に加工痕は形成されなかったが、顕微鏡で観察したところ、GaN基板の内部のレーザ光が合焦した位置の近傍で変性部が確認された。
【0268】
上記の2回にわたるレーザ照射を、GaN基板の面内方向での位置および向きを変えて、最終的にはGaN基板の表面側から見て格子状となるように繰り返し行なった。
【0269】
次に、通常のブレーキング装置を用いて、格子状の変性部に対して、ブレーキングブレードをGaN基板の表面側から押し付け、GaN基板を割断し、粘着シートを拡張することによって、所望の大きさで複数に分離した直方体状のGaNを得た。
【0270】
分離した複数のGaNの一部を粘着シートから剥がし、高倍率の顕微鏡で観察したところ、各直方体状のGaNの、分離によって現れた側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。この、多数のスクライブ痕が並んでいる方向は、レーザ照射時の可動ステージの移動方向に対応する。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を2列確認した。さらに、側壁の各所にGaドロップレットと思われる球状の異物を確認した。さらに、直方体状のGaNを電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみとGaドロップレットと思われる球状の異物が多数確認された。
【0271】
次いで、粘着シート上に残っている多数の直方体状のGaNを、体積比でHCl:水=1:3に調整した溶液中に浸し、超音波を掛けながら5分間洗浄を行った。
【0272】
GaNの洗浄後、全てのGaNを粘着シートから剥がし、剥がしたGaNを高倍率の顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。顕微鏡観察の結果、各直方体状のGaNの側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を2列確認した。ただし、側壁には、Gaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。さらに、直方体状のGaNを電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみが確認されたが、Gaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。また、GaN基板の表面側および裏面側から、得られた直方体状のGaNの外形形状を確認したところ、極端なチッピングや意図しない割れ方等をしている部分はなく、良好な加工が行われたことが確認された。
【0273】
[実施例2]
レーザ加工装置として、以下の構成の装置を準備した。レーザ光源としては、発振波長が532nmであり、かつMが1.3であること以外は実施例1と同様の固体パルスレーザ装置を準備した。また、レーザの光軸上には、偏光制御部品として、直線偏光を円偏光に変換すべく、1/4波長板を設置した。その他の構成は実施例1と同様とした。
【0274】
次いで、加工対象となる窒化物材料として、バンドギャップが約3.4(eV)であり、表面は鏡面化され、裏面は粗面化されている厚み330μmの1度オフm−GaN基板(波長532nmにおける屈折率は約2.39)を準備した。このGaN基板の裏面に、ポリ塩化ビニル基材を内在する粘着シートを接着し、さらにこれを、GaN基板の表面側をレーザ照射側として、レーザ加工装置の可動ステージ上に設置した。
【0275】
次に、レーザ光の照射条件として、パルス幅を15nsec、変調周期を30kHz、大気中における1照射あたりの空間的な最大エネルギー密度を100mJ/cmと決定した。
【0276】
次に、実加工としてではなく、装置調整作業完了の確認として、GaN基板の不用部分に対して、その表面に合焦するようにしてレーザ光を照射し、それによってGaN基板の表面に形成されたレーザ痕を確認した。この際、GaN基板を回転させて種々の方向に照射しても、形成されたレーザ痕は略円形であった。
【0277】
次に、実加工を行うために、上記条件において、GaN基板の厚み方向の表面から略2/3の位置に当たる220μm近傍にレーザ光が合焦するように調整をし、可動ステージを動かしながら1回目のレーザ照射を行った。この際、GaN基板には、その表面にも裏面にも加工痕は形成されなかったが、顕微鏡で観察したところ、GaN基板の内部のレーザ光が合焦した位置の近傍で変性部が確認された。
【0278】
さらに、実加工を継続するために、先の照射部分と略同じ水平位置に対して以下のように集光高さの調整をして加工を行った。すなわち、GaN基板の厚み方向の表面から略1/3の位置に当たる110μm近傍にレーザ光が合焦するように調整をし、可動ステージを動かしながら2回目のレーザ照射を行った。その結果、1回目のレーザ照射と同様、GaN基板の表面および裏面に加工痕は形成されなかったが、顕微鏡で観察したところ、GaN基板の内部のレーザ光が合焦した位置の近傍で変性部が確認された。
【0279】
上記の2回にわたるレーザ照射を、GaN基板の面内方向での位置および向きを変えて、最終的には格子状となるように繰り返し行なった。
【0280】
次に、実施例1と同様にしてGaN基板を割断し、所望の大きさで複数に分離した直方体状のGaNを得た。
【0281】
分離した複数のGaNの一部を粘着シートから剥がし、高倍率の顕微鏡で観察したところ、各直方体状のGaNの、分離によって現れた側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。この、多数のスクライブ痕が並んでいる方向は、レーザ照射時の可動ステージの移動方向に対応する。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を2列確認した。さらに、側壁の各所にGaドロップレットと思われる球状の異物を確認した。さらに、直方体状のGaNを電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみとGaドロップレットと思われる球状の異物が多数確認された。
【0282】
次いで、粘着シート上に残っている多数の直方体状のGaNを、体積比でHCl:水=1:2に調整した溶液中に浸し、超音波を掛けながら5分間洗浄を行った。
【0283】
GaNの洗浄後、全てのGaNを粘着シートから剥がし、剥がしたGaNを高倍率の顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。顕微鏡観察の結果、各直方体状のGaNの側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を2列確認した。ただし、側壁には、Gaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。さらに、直方体状のGaNを電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみが確認されたが、Gaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。また、GaN基板の表面側および裏面側から、得られた直方体状のGaNの外形形状を確認したところ、極端なチッピングや意図しない割れ方等をしている部分はなく、良好な加工が行われたことが確認された。
【0284】
[実施例3]
レーザ加工装置として、実施例2で用いたのと同様のものを準備した。
【0285】
次いで、バンドギャップが約3.4(eV)であり、表面は鏡面化され、裏面は粗面化されている厚み400μmの0度オフc−GaN基板(532nmにおける屈折率は約2.39)を準備した。GaN基板上に、薄膜結晶層形成工程として、MOCVD法によって、GaNバッファ層、n型GaNクラッド層、n型AlGa1−xNクラッド層、n型GaNクラッド層、活性層構造(GaNバリア層とInGa1−yN量子井戸層の積層構造を7周期形成し、最後にGaNバリア層を有する構造)、p型GaNクラッド層、p型AlGa1−zNクラッド層、p型GaNクラッド層からなる薄膜結晶層を形成した。
【0286】
さらに、電極部形成工程として、薄膜結晶層上の所定の位置にPt、Mo、Ti,Auからなるp側電極を形成し、ドライエッチングによって、所望の位置をn型GaNクラッド層までエッチングし、その後、ここまでの工程で得られた構造の露出している表面を、p−CVDで形成したSiNxで覆った。さらに続けて、p側電極に接しているSiNx層の一部と、n型GaNクラッド層に接しているSiNx層の一部を除去し、その後、n型GaNクラッド層とSiNx層の一部に接するようにAl、Mo、Ti,Auからなるn側電極を形成し、半導体発光素子の構造を内在させた。ここまでの工程で得られた、GaN基板上に薄膜結晶層等が形成された構造体を、以下の説明では発光素子構造体という。
【0287】
次いで、発光素子構造体の裏面をポリッシングし、GaN基板の厚みを200μmとした。さらに引き続いて、薄膜化したGaN基板の裏面に、ポリオレフィン基材を内在する粘着シートを接着し、これを、GaN基板の表面側をレーザ照射側としてレーザ加工装置の可動ステージ上に設置した。
【0288】
レーザ照射の条件として、パルス幅を50nsec、変調周期を120kHz、大気中における1照射あたりの空間的な最大エネルギー密度を500mJ/cmと決定した。
【0289】
次に、実加工としてではなく、装置調整作業完了の確認として、発光素子構造体の不用部分に対して、薄膜結晶層が形成された側の面である表面に合焦するようにしてレーザ光を照射し、それによって発光素子構造体の表面に形成されたレーザ痕を確認した。この際、発光素子構造体を回転させて種々の方向に照射しても、形成されたレーザ痕は略円形であった。
【0290】
次に、実加工を行うために、上記条件において、発光素子構造体におけるGaN基板の厚み方向の表面から略1/2の位置に当たる100μm近傍にレーザ光が合焦するように調整をし、可動ステージを動かしながらレーザ照射を行った。この際、発光素子構造体の表面にも裏面にも加工痕は形成されなかったが、顕微鏡で観察したところ、GaN基板の内部のレーザ光が合焦した位置の近傍で変性部が確認された。そこで、発光素子構造体の面内方向での位置および向きを変えて、最終的には格子状となるように、レーザ照射を繰り返し行なった。
【0291】
次に、通常のブレーキング装置を用いて、格子状の変性部に対して、ブレーキングブレードを発光素子構造体の表面側から押し付けて、発光素子構造体を割断し、粘着シートを拡張することによって、所望の大きさの分離した複数の半導体発光素子を得た。
【0292】
分離した複数の半導体発光素子の一部を粘着シートから剥がし、高倍率の顕微鏡で観察したところ、分離によって現れたGaN基板の側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を1列だけ確認した。さらに、側壁の各所にGaドロップレットと思われる球状の異物を確認した。さらに、GaN基板の側壁を電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみとGaドロップレットと思われる球状の異物が多数確認された。
【0293】
次いで、粘着シート上に残っている多数の半導体発光素子を、体積比でHCl:水=1:4に調整した溶液中に浸し、超音波を掛けながら10分間洗浄を行った。
【0294】
半導体発光素子の洗浄後、全ての半導体発光素子を粘着シートから剥がし、剥がした半導体発光素子のGaN基板部分の側壁を高倍率顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。顕微鏡観察の結果、各半導体発光素子の側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を1列だけ確認した。ただし、側壁には、Gaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。さらに、半導体発光素子のGaN基板の部分を電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみが確認されたがGaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。
【0295】
また、半導体発光素子の表面側および裏面側から半導体発光素子の外形形状を確認したところ、極端なチッピングや意図しない割れ方等をしている部分はなく、良好な加工が行われたことが確認された。
【0296】
さらに、比較のために、洗浄工程を行わなかった半導体発光素子と洗浄工程を行った半導体発光素子素子をパッケージ化し、それぞれの全放射束を比較した。この結果、洗浄工程を行った半導体発光素子の全放射束は、洗浄を行わなかった半導体発光素子の全放射束よりも7%ほど向上していた。
【0297】
[実施例4]
準備したc−GaN基板の厚みを800μmに変更して、このGaN基板上に薄膜結晶成長を行い、かつ、電極形成後のポリッシングは行なわず、レーザ照射の条件を、パルス幅を20nsec、変調周期を100kHz、大気中における1照射あたりの空間的な最大エネルギー密度を600mJ/cmと変更し、実加工を行うためのレーザ照射を、GaN基板の厚み方向の表面から略3/4の位置に当たる600μm、略2/4の位置に当たる400μm、および略1/4の位置に当たる200μm近傍にレーザ光が合焦するように調整をし、可動ステージを動かしながらこの順に3回のレーザ照射を行うように変更した以外は、実施例3と同様にして変性部の形成を行った。
【0298】
この結果、半導体発光素子の表面にも裏面にも加工痕は形成されなかったが、顕微鏡で観察したところ、GaN基板の内部のレーザ光が合焦した位置の近傍で変性部が確認された。また、当該レーザ痕を観察したところ、略円形であった。
【0299】
次いで、実施例3と同様にしてブレーキングを行い所望の大きさの複数の半導体発光素子を得た。
【0300】
分離した複数の半導体発光素子の一部を粘着シートから剥がし、高倍率の顕微鏡で観察したところ、分離によって現れたGaN基板の側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕が確認された。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を1列だけ確認した。さらに、側壁の各所にGaドロップレットと思われる球状の異物を確認した。さらに、GaN基板の側壁を電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみとGaドロップレットと思われる球状の異物が多数確認された。
【0301】
次いで、粘着シート上に残っている多数の半導体発光素子を、体積比でHCl:水=1:3に調整した溶液中に浸し、超音波を掛けながら5分間洗浄を行った。
【0302】
半導体発光素子の洗浄後、全ての半導体発光素子を粘着シートから剥がし、剥がした半導体発光素子の表面を適切に保護した後に、半導体発光素子の裏面およびGaN基板の部分の側面を再度KOHを含むアルカリ溶液に浸し、洗浄を行った。
【0303】
2回目の洗浄後、半導体発光素子のGaN基板の部分の側壁を、高倍率の顕微鏡および電子顕微鏡で観察した。顕微鏡観察の結果、各半導体発光素子の側壁には、GaN基板の厚み方向を貫かず、かつ、GaN基板の厚み方向と略直交する方向に不連続に並んだ多数のスクライブ痕を確認した。また、並んだ多数のスクライブ痕は帯状のスクライブ痕帯を形成しており、このスクライブ痕帯を3列確認した。ただし、側壁には、Gaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。さらに、半導体発光素子のGaN基板の部分を電子顕微鏡観察したところ、1つのスクライブ痕の中には多数のくぼみが確認されたがGaドロップレットと思われる球状の異物等はほとんど確認されなかった。
【0304】
また、半導体発光素子の表面側および裏面側から半導体発光素子の外形形状を確認したところ、極端なチッピングや意図しない割れ方等をしている部分はなく、良好な加工が行われたことが確認された。
【0305】
さらに、比較のために、洗浄工程を行わなかった半導体発光素子と洗浄工程を行った半導体発光素子素子をパッケージ化し、それぞれの全放射束を比較した。この結果、洗浄工程を行った半導体発光素子の全放射束は、洗浄を行わなかった半導体発光素子の全放射束よりも13%ほど向上していた。
【0306】
[比較例1]
レーザ光の偏光を直線偏光とした以外は、実施例4と同様にして変性部の形成を行った。この際に、ある一方向の実加工を行ったところ、楕円状のレーザ痕が確認されてしまった。さらに、2回目のレーザ照射として、当該方向と直交する方向に対して同条件でレーザ照射をしたところ、予想以上に大きな楕円状のレーザ痕と、比較的濃い灰色をした過剰な変性部が確認されてしまった。なお、これらはGaN基板内にのみ形成され、GaN基板表面にはレーザ加工の痕跡は確認されなかった。
【0307】
次いで、実施例4と同様にしてブレーキングを行い、所望の大きさの複数の半導体発光素子を作製しようとしたところ、最初にレーザ照射を行った方向には、比較的容易に分割することができた。次に、2回目にレーザ照射を行った方向に対してブレーキングを行ったところ、シート上からも確認可能な程度に大きい欠けが、発光素子の電極部分に散見された。そこで、素子分離が終了した発光素子の幾つかをシート上から剥離し、その形状を確認した。その結果、最初にレーザ照射を行った方向にはチッピングが発生しており、かつ、側断面は凹凸の激しいものであったことが分かった。また、2回目にレーザ照射を行った方向には、電極部分の欠けだけでなく、光の出射方向にも大きな欠けが散見していた。結果として、素子分離工程での歩留りは低かった。
【0308】
さらに、比較のために、実施例4で作製した洗浄前の半導体発光素子と、低歩留りながら本比較例1で作製できた半導体発光素子を、それぞれパッケージ化し、全放射束特性を比較した。その結果、本比較例1で作製された半導体発光素子の全放射束は、実施例4で作製した洗浄前の半導体発光素子に対して約83%と低かった。
【0309】
[参考例1]
比較例1で低歩留りながら作製した複数の半導体発光素子の一部を粘着シート上に搭載したまま、体積比でHCl:水=1:3に調整した溶液中に浸し、超音波を掛けながら15分間洗浄を行った。
【0310】
半導体発光素子の洗浄後、全ての半導体発光素子を粘着シートから剥がし、剥がした半導体発光素子の表面を適切に保護した後に、半導体発光素子の裏面およびGaN基板の部分の側面を再度、KOHを含むアルカリ溶液に浸し、洗浄を行った。
【0311】
さらに、比較のために、比較例1で作製した洗浄を行っていない半導体発光素子と、本参考例1で洗浄工程を行った半導体発光素子をパッケージ化し、それぞれの全放射束を比較した。その結果、洗浄工程を行った半導体発光素子の全放射束は、洗浄を行わなかった半導体発光素子の全放射束よりも約11%向上していた。
【符号の説明】
【0312】
1 レーザ加工装置
2 レーザ光源
3 偏光制御部品
4 集光レンズ
5 可動ステージ
7 レーザ光
10 窒化物材料
10a 分離位置
11、21 窒化物基板
11a 半導体機能層
13 半導体機能素子
22 バッファ層
23 コンタクト層
24 第一導電型クラッド層
25 活性層構造
26 第二導電型クラッド層
27 第二導電型側電極
28 第一導電型側電極
29 素子間分離溝
35 第二電流注入領域
36 第一電流注入領域
40 スクライブ痕帯
40a スクライブ痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる構成要素部分のバンドギャップがEgs(eV)である窒化物材料の予定された分離位置にレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、
前記変性部が形成された窒化物材料を前記分離位置で複数に分離する分離工程と、
を含む窒化物材料の加工方法であって、
前記変性部形成工程は、
波長λ(nm)が
1240/λ<Egs
であり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、前記変性部が前記窒化物材料の内部にのみ形成されるように、前記分離位置に照射することを含む、窒化物材料の加工方法。
【請求項2】
バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板に半導体機能部を形成する機能部形成工程と、
前記窒化物基板を含む加工対象物の予定された分離位置にレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、
前記半導体機能部および前記変性部が形成された前記加工対象物を前記分離位置で分離して複数の半導体機能素子とする素子分離工程と、
を含む半導体機能素子の製造方法であって、
前記変性部形成工程は、
波長λ(nm)が
1240/λ<Egs
であり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、前記変性部が前記窒化物基板の内部にのみ形成されるように、前記分離位置に照射することを含む、半導体機能素子の製造方法。
【請求項3】
バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、
前記薄膜結晶層に接して、または前記薄膜結晶層と前記窒化物基板に接して電極部を形成する電極部形成工程と、
予定された分離位置にレーザ光を照射することによって変性部を形成する変性部形成工程と、
前記変性部が形成された窒化物基板、前記薄膜結晶層および前記電極部を含む加工対象物を前記分離位置で分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、
を含む半導体発光素子の製造方法であって、
前記変性部形成工程は、
波長λ(nm)が
1240/λ<Egs
であり、かつ、偏光がランダム偏光または円偏光であるレーザ光を、前記変性部が前記窒化物基板の内部にのみ形成されるように、前記分離位置に照射することを含む、半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記変性部形成工程は、波長が266nm、355nm、488nm、514nm、532nm、1064nmまたは10.6μmのいずれかのレーザ光を照射することを含む、請求項3に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記変性部形成工程は、前記レーザ光の波長λ(nm)での前記窒化物基板の屈折率をn、レーザ光照射時の前記窒化物基板の物理的厚みをtsi(μm)、レーザ光照射時に前記窒化物基板の内部において最も集光される部分の、前記加工対象物の上部表面からの物理的距離をL(μm)としたとき、次の式、
100/n ≦ L≦(tsi―100)/n
を満たすように前記レーザ光を集光すること
を含む請求項3または4に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記変性部形成工程は、
レーザ光の大気中における1回の照射あたりの空間的最大エネルギー密度φmax(mJ/cm)が、
200 ≦ φmax ≦ 5000
となるように時間的強度変調をかけて、またはパルス動作をさせてレーザ光を照射すること
を含む請求項3から5のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記変性部形成工程は、パルス幅が0.05nsec以上100nsec以下となるようにレーザ光を照射することを含む請求項3から6のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記変性部形成工程は、変調周期またはパルス周期が60kHz以上300kHz以下となるようにレーザ光を照射することを含む請求項3から7のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記変性部形成工程は、前記加工対象物の表面で最も集光するようにレーザ光を照射することによって形成されるレーザ痕の直径をass(μm)、レーザ光の照射時の変調1周期におけるレーザ光の照射中心位置の移動量をP(μm)としたとき、
0.1×ass≦P≦1.25×ass
となるように、前記加工対象物とレーザ光とを相対的に移動させることを含む請求項3から8のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記変性部形成工程は、前記加工対象物の平坦な表面部分からレーザ光を照射することを含む請求項3から9のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記変性部形成工程は、レーザ光照射時に前記窒化物基板の内部において最も集光される部分の前記加工対象物の上部表面からの物理的距離L(μm)を変えて、レーザ光の照射を複数回行うことを含む請求項3から10のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記変性部形成工程は、前記物理的距離Lが大きいレーザ照射を前記物理的距離Lが小さいレーザ照射よりも先に行うことを含む請求項11に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記変性部形成工程を前記素子分離工程よりも前に行う、請求項3から12のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記変性部形成工程を、前記薄膜結晶層形成工程と前記電極部形成工程との間、前記電極部形成工程中、または前記電極部形成工程と前記素子分離工程との間に行う、請求項13に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記変性部形成工程を互いに異なる工程で複数回行う、請求項13または14に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記変性部形成工程は、前記加工対象物の表面が鏡面である側からレーザ光を照射することを含む請求項3から15のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記窒化物基板は、AlN基板、GaN基板またはInN基板である、請求項3から16のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記窒化物基板は、c面基板、a面基板、m面基板、またはこれら基板面からの傾斜が5度以内である面を有する基板である、請求項3から17のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項19】
レーザ光照射前の前記窒化物基板の物理的厚みtsi(μm)は、
200≦ tsi ≦ 5000
である、請求項3から18のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記変性部形成工程は、レーザ光の照射前に、前記加工対象物を粘着性シート上に搭載し、前記加工対象物が前記粘着性シート上に搭載された状態でレーザ光を照射することを含む請求項3から19のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項21】
前記素子分離工程は、前記加工対象物の厚み方向において前記変性部が形成された位置が近い方の表面側から前記加工対象物に曲げ応力を作用させることを含む請求項3から20のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項22】
前記素子分離工程の後に、分離によって現れた前記半導体発光素子の側壁面を洗浄する側壁洗浄工程をさらに有する請求項3から21のいずれか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項23】
前記側壁洗浄工程は、酸性の溶液で前記半導体発光素子の側壁面を洗浄することを含む請求項22に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項24】
前記酸性の溶液はHClを含む、請求項23に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項25】
前記側壁洗浄工程は、アルカリ性の溶液で前記半導体発光素子の側壁面を洗浄することを含む請求項22に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項26】
前記アルカリ性の溶液は、KOHまたはCa(OH)を含む、請求項25に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項27】
バンドギャップがEgs(eV)である窒化物基板上に薄膜結晶層を形成する薄膜結晶層形成工程と、
前記薄膜結晶層に接して電極部を形成する電極部形成工程と、
予定された素子分離位置にレーザ光を照射することによって前記窒化物基板に変性部を形成する変性部形成工程と、
前記変性部が形成された窒化物基板、前記薄膜結晶層、および前記電極部を含む加工対象物を前記素子分離位置で分離して複数の半導体発光素子とする素子分離工程と、
前記素子分離工程で分離することによって露出した前記半導体発光素子の側壁を洗浄する側壁洗浄工程と、
を有し、
前記変性部形成工程は、
前記素子分離位置に照射するレーザ光の波長λ(nm)を
1240/λ< Egs
とし、
かつ、前記窒化物基板の内部にのみ前記変性部が形成されるようにレーザ光を照射することを含む半導体発光素子の製造方法。
【請求項28】
1つの窒化物基板上に、薄膜結晶層および電極部を有する複数の半導体発光素子分の半導体機能部が形成された半導体発光素子アレイであって、
各半導体発光素子の境界において、前記窒化物基板の内部に、前記窒化物基板の厚み方向を貫かず、かつ、前記窒化物基板の厚み方向と略直交する方向に並んだ複数のスクライブ痕を有していることを特徴とする半導体発光素子アレイ。
【請求項29】
複数の前記スクライブ痕が不連続に存在している請求項28に記載の半導体発光素子アレイ。
【請求項30】
各スクライブ痕の中に複数のくぼみ部が存在している請求項28または29に記載の半導体発光素子アレイ。
【請求項31】
前記窒化物基板の厚み方向と略直交する方向に並んだ複数のスクライブ痕が、帯状の少なくとも1つのスクライブ痕帯を形成している請求項28から30のいずれか1項に記載の半導体発光素子アレイ。
【請求項32】
複数の前記スクライブ痕帯が、前記窒化物基板の厚み方向に並んでいる請求項31に記載の半導体発光素子アレイ。
【請求項33】
前記窒化物基板はAlN基板、GaN基板またはInN基板である請求項28から32のいずれか1項に記載の半導体発光素子アレイ。
【請求項34】
前記窒化物基板は、c面、a面、m面のいずれかを主面として有するか、または、これらの面からの傾斜が5度以内の面を主面とする基板である請求項28から33のいずれか1項に記載の半導体発光素子アレイ。
【請求項35】
請求項28から34のいずれか1項に記載の半導体発光素子アレイを、各半導体発光素子の境界で分離することによって得られた半導体発光素子であって、
前記窒化物基板の、分離によって現れた側壁に複数の前記スクライブ痕を有することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項36】
前記窒化物基板の物理的厚みtsc(μm)が
100≦ tsc ≦ 3000
である請求項35に記載の半導体発光素子。
【請求項37】
窒化物材料の加工用のレーザ加工装置であって、
TEM00モードで発振し、直線偏光のレーザ光を出射するレーザ光源と、
加工対象物である窒化物材料を搭載可能な可動ステージと、
前記レーザ光を、前記可動ステージ上に搭載された前記窒化物材料の内部で合焦するように集光する集光レンズと、
前記可動ステージ上に搭載された前記窒化物材料に照射されるレーザ光をランダム偏光または円偏光に変換する偏光制御部品と、
を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項38】
前記偏光制御部品は、1以上の偏光解消板であり、前記レーザ光の偏光をランダム偏光に変換する請求項37に記載のレーザ加工装置。
【請求項39】
前記偏光制御部品は、1/4波長板であり、前記レーザ光の偏光を円偏光に変換する請求項37に記載のレーザ加工装置。
【請求項40】
前記レーザ光源から出射されるレーザ光のM因子が1以上1.5以下である請求項37から39のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項41】
前記レーザ光源から出射するレーザ光の波長は、266nm、355nm、488nm、514nm、532nm、1064nm、または10.6μmである請求項37から40のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項42】
前記レーザ光源は、0.5nsec以上100nsec以下のパルス幅でパルス駆動可能である請求項37から41のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項43】
前記レーザ光源は、60kHz以上300kHz以下の変調周期またはパルス周期で強度変調可能である請求項37から42のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−16726(P2012−16726A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155470(P2010−155470)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】