説明

立方晶炭化珪素膜の製造方法

【課題】横方向結晶成長における横方向成長速度が縦方向成長速度と同等の成長速度を維持することにより、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができ、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜を形成させることのできる立方晶炭化珪素膜の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板2の表面2aに立方晶炭化珪素層11を形成する工程と、立方晶炭化珪素層11を選択除去し、結晶成長領域の結晶方位面が{100}面となる所望のパターンの立方晶炭化珪素シード層11aを形成する工程と、この立方晶炭化珪素シード層11a上に立方晶炭化珪素を成長させる工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶炭化珪素膜の製造方法に関し、特に、ワイドバンドギャップ半導体として期待される炭化珪素(SiC)半導体に好適に用いられ、立方晶炭化珪素薄膜をシリコン基板上に成長させる立方晶炭化珪素膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンは、大口径、高品質かつ安価であることから、多くの材料の単結晶を成長させる基板として利用されてきた。
これらの材料の中でも、バンドギャップが2.2eV(300K)と高いワイドバンドギャップ半導体材料である立方晶炭化珪素(3C−SiC)は、次世代における低損失のパワーデバイス用半導体材料として期待されており、特に、安価なシリコン基板上に単結晶成長(ヘテロエピタキシー)させることができる点からも、非常に有用と考えられている。
【0003】
ところで、立方晶炭化珪素の格子定数は、4.359オングストロームと、立方晶シリコンの格子定数(5.4307オングストローム)と比べて20%程度も小さい。それ故に、単結晶成長させた立方晶炭化珪素中に格子不整合に起因する多くのボイドやミスフィット転移が生じ易く、高品位の立方晶炭化珪素を成長させることが困難であった。
そこで、シリコン基板と立方晶炭化珪素との格子定数差(格子ミスマッチ)を緩和させる方法として、SOI(Silicon On Insulator)構造を利用する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この方法は、所定の厚みの表面シリコン層(Si層)と酸化珪素からなる埋め込み絶縁物(I層)を有するSOI基板を加熱炉内に設置し、この加熱炉内に水素ガスと炭化水素系ガスとの混合ガスを供給しつつ、加熱炉内の雰囲気温度を上昇させて、SOI基板に形成された表面シリコン層を単結晶炭化珪素膜に変性させる方法である。この方法では、表面シリコン層を全て炭化させることで得られた単結晶炭化珪素膜は、単結晶シリコン基板と物理的に分離して軟化し易い埋め込み絶縁物(I層)と接触することとなるので、格子不整合に起因する応力が緩和されるとともに、結晶欠陥が抑制された単結晶炭化珪素膜を形成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−224248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のSOI構造を利用する方法では、表面シリコン層を全て炭化させるためには、その膜厚を10nm程度以下に薄膜化する必要があるが、このような膜厚の表面シリコン層を埋め込み絶縁層上に形成することが難しく、したがって、このような均一性に優れたSOI構造の基板を作製することは容易ではないという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、均一性に優れ、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜を形成させることのできる立方晶炭化珪素膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の立方晶炭化珪素膜の製造方法を採用した。
すなわち、本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法は、シリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面に立方晶炭化珪素膜を形成する立方晶炭化珪素膜の製造方法であって、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面に第1の立方晶炭化珪素層を形成する工程と、前記第1の立方晶炭化珪素層を選択除去し、表面、第1の側面及び前記第1の側面に交差する第2の側面の結晶方位面が{100}面となるパターンの第2の立方晶炭化珪素層を形成する工程と、前記第2の立方晶炭化珪素層上に立方晶炭化珪素を成長させる工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
これにより、結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素層上に立方晶炭化珪素を成長させることとなり、横方向結晶成長(ELO)における横方向成長速度を縦方向成長速度と同等の成長速度に維持することができる。したがって、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができ、その結果、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜を形成することができる。
【0010】
本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法は、前記パターンの形状は、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面から見て、正方形または長方形であることを特徴とする。
この立方晶炭化珪素膜の製造方法では、パターンの形状を、シリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面から見て、正方形または長方形としたことにより、前記立方晶炭化珪素層上の結晶成長領域の結晶方位面は全て{100}面となる。これにより、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができる。
【0011】
本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法は、前記パターンの第2の立方晶炭化珪素層を形成する工程の後に、前記パターンの第2の立方晶炭化珪素層をマスクとして、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を選択除去し、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面に複数の凹部を形成する工程と、前記複数の凹部の表面を含む前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面を熱酸化することによって、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜の上に酸化珪素を含む絶縁膜を形成する工程とを有し、前記第2の立方晶炭化珪素層上に立方晶炭化珪素を成長させる工程を、前記絶縁膜の上に結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素膜を成膜し、前記絶縁膜と前記立方晶炭化珪素膜とに囲まれた空孔を形成する工程としたことを特徴とする。
【0012】
この立方晶炭化珪素膜の製造方法では、前記パターンの立方晶炭化珪素層をマスクとして、シリコン基板または単結晶シリコン膜を選択除去し、シリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面に複数の凹部を形成し、次いで、複数の凹部の表面を含むシリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面を熱酸化することにより、シリコン基板または単結晶シリコン膜の上に酸化珪素を含む絶縁膜を形成する。
そして、絶縁膜の上端部に立方晶炭化珪素を成長させ、絶縁膜の上に結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素膜を成膜するとともに、絶縁膜と立方晶炭化珪素膜とに囲まれた空孔を形成する。
これにより、シリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面、及び複数の凹部の内面に形成される絶縁膜の応力緩和効果が高まる。したがって、絶縁膜におけるシリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面との格子不整合に起因する応力の影響を低減することができ、結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素膜を等方的に成長させることができる。
【0013】
本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法は、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を選択除去する工程は、四フッ化炭素または六フッ化硫黄を主成分とするガスを用いて前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を選択除去する工程であることを特徴とする。
この立方晶炭化珪素膜の製造方法では、四フッ化炭素または六フッ化硫黄を主成分とするガスを用いてシリコン基板または単結晶シリコン膜を選択除去する。
これにより、シリコン基板または単結晶シリコン膜におけるパターニング精度が向上し、その結果、シリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面の複数の凹部の加工精度も向上する。
【0014】
本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法は、前記第1の立方晶炭化珪素層を形成する工程は、モノメチルシランを含むガスを用いて前記第1の立方晶炭化珪素層を形成する工程であることを特徴とする。
この単結晶炭化珪素膜の製造方法では、立方晶炭化珪素層をモノメチルシランを含むガスを用いて形成したことにより、得られた立方晶炭化珪素層の膜質が均質化され、欠陥等も少ない。これにより、欠陥等が少なく、均質化された立方晶炭化珪素層を形成することができる。
【0015】
本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法は、前記正方形または長方形の一辺は、前記シリコン基板のオリエンテーションフラットに対して45°傾斜してなることを特徴とする。
この立方晶炭化珪素膜の製造方法では、正方形または長方形の一辺を、シリコン基板のオリエンテーションフラットに対して45°傾斜してなることとしたので、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法により得られた立方晶炭化珪素膜付き基材を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法を示す過程図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法に用いられるパターンを示す平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法を示す過程図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法に用いられるパターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の立方晶炭化珪素膜の製造方法を実施するための形態について説明する。
本実施形態においては、発明の内容の説明を容易にするために、構造上の各部分の形状等については、適宜、実際の形状と異ならせてある。
【0018】
本実施形態の説明にあたり、まず、前提となる技術について説明する。
本発明者は、シリコン基板の表面に形成された所望のパターンの炭化珪素層をマスクとしてシリコン基板を選択除去することにより、このシリコン基板の表面に複数の凹部を形成し、次いで、これらの凹部を含むシリコン基板の表面を熱酸化することにより、シリコン基板の上に酸化珪素を含む絶縁膜を形成し、次いで、この絶縁膜の上端部に立方晶炭化珪素を成長させ、この絶縁膜の上に立方晶炭化珪素膜を成膜するとともに、この絶縁膜と立方晶炭化珪素膜とに囲まれた空孔を形成する方法を検討している。
【0019】
この方法は、シリコン基板から独立したSOI構造をプロセス的に構築する方法であり、横方向結晶成長(ELO:Epitaxial Lateral Overgrowth)させることで、シリコン基板と立方晶炭化珪素との格子定数差(格子ミスマッチ)を緩和させることができる。
しかしながら、この方法においては、横方向結晶成長の際に、結晶の成長速度が成長する面方位に依存することがわかった。
例えば、横方向へ成長する面の方位が{110}面の場合、面方位が{111}面のファセットが形成され、成長速度が著しく低下してしまうこととなる。
この場合、結晶成長が縦方向のみに速く成長し、横方向へは殆ど成長しないことから、横方向同士の成長端が会合して膜となるのに非常に時間がかかることとなり、したがって、広いパターンでの低欠陥領域を得ることが困難になるという問題点がある。
【0020】
この低欠陥領域を得るためには、かなり厚みのある膜を堆積しなければならず、薄厚の立方晶炭化珪素膜を得ることが難しいという問題点がある。
そこで、本発明の実施形態では、横方向結晶成長における横方向成長速度が縦方向成長速度と同等の成長速度を維持することにより、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができ、その結果、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜を形成させることのできる立方晶炭化珪素膜の製造方法について説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法により得られた立方晶炭化珪素膜付き基材1を示す断面図である。
この立方晶炭化珪素膜付き基材1は、シリコン基板2の表面に複数の凹部3が互いに隣接して形成され、これら凹部3の全面に酸化珪素を主成分とする絶縁膜4が形成され、この絶縁膜4に形成された凹部5の側壁部分の上面は平坦面6とされている。
この凹部3の形状は、ライン状、島状等、必要に応じて適宜選択される。
そして、この平坦面6上には、結晶方位面が{100}面の厚みのある立方晶炭化珪素(3C−SiC)膜7が接合され、この立方晶炭化珪素膜7の下側の凹部5は空孔とされている。
【0022】
この立方晶炭化珪素膜付き基材1では、複数の凹部3の全面に酸化珪素を主成分とする絶縁膜4を形成したことにより、この絶縁膜4上に形成された立方晶炭化珪素膜7は、絶縁膜4のみで支えられることとなり、シリコン基板2の表面に絶縁膜4を介して立方晶炭化珪素膜7が形成されたSOI構造となる。
このSOI構造では、絶縁膜4がシリコン基板2と立方晶炭化珪素膜7との間の格子不整合を緩和する緩衝層となるので、立方晶炭化珪素膜7におけるシリコン基板2からの格子定数の影響が小さくなる。
【0023】
この絶縁膜4の厚みは、SOI構造を十分確保することができる厚みであればよく、特に制限はしないが、SOI構造における電気的特性等を考慮すると、概ね300nm程度が好ましい。
また、この絶縁膜4の凹部5の側壁部分である平坦面6の幅は、SOI構造を十分確保することができる程度の機械的強度を有すればよく、この絶縁膜4とシリコン基板2及び立方晶炭化珪素膜7との間の機械的強度を考慮すると、概ね500nm程度が好ましい。
【0024】
また、SOI構造以外の部分は、空孔となる凹部5を有する絶縁膜4が主要となるSON(Silicon On Nothing)構造となるので、絶縁膜4があまり軟化しなかった場合においても、絶縁膜4の応力緩和効果が高まり、絶縁膜4におけるシリコン基板2の表面との格子不整合に起因する応力の影響が低減される。これにより、絶縁膜4上に形成される立方晶炭化珪素膜7の結晶欠陥が抑制され、よって、結晶欠陥が抑制された立方晶炭化珪素膜7を有する立方晶炭化珪素膜付き基材1を提供することが可能になる。
【0025】
さらに、このSON構造の部分は、立方晶炭化珪素が平坦面6上から凹部5上に向かうように、横方向に結晶成長したELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)状態となるが、このELO状態では、結晶成長方向が横方向及び縦方向の等方向となるので、結晶の成長速度が成長する面方位に依存する虞がなくなり、したがって、広いパターンでの低欠陥領域を得ることができる。
その結果、シリコン基板2の表面に、広いパターンでの低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜7を形成することが可能となり、大面積の立方晶炭化珪素膜付き基材1が実現可能となる。
【0026】
次に、この立方晶炭化珪素膜付き基材1を製造する方法について、図2〜図4に基づき説明する。
まず、図2(a)に示すように、エピタキシャル成長用のCVD(Chemical Vapor Depodition)装置のチャンバー内に洗浄したシリコン基板2を導入し、次いで、このチャンバー内を真空ポンプを用いて十分真空に引いた後、シリコン基板2を例えば600℃にまで加熱する。次いで、このシリコン基板2の表面温度を600℃に保持した状態で、このシリコン基板2上にモノメチルシランガスを3.0sccmの流速にて導入し、この流速を保った状態でシリコン基板2を加熱して、その表面温度を、例えば1050℃まで上昇させ、1050℃にて180分間維持する。これにより、シリコン基板2の表面2a全面に、結晶方位面が{100}面であり、厚みが300nmの立方晶炭化珪素(3C−SiC)シード層(立方晶炭化珪素層)11が形成される。
【0027】
次いで、図2(b)に示すように、この立方晶炭化珪素シード層11上にレジスト12を塗布し、フォトリソグラフィ法によりレジスト12を所望のパターン、例えば、図3に示すように、一辺が1μmの正方形パターン13を格子点状にパターニングする。
これらの正方形パターン13の各辺は、シリコン基板2のオリエンテーションフラット(O/F)2bに対して所定の角度θ傾斜している。シリコン基板2のオリエンテーションフラット(O/F)2bにおける結晶方位面は{110}面であるから、これを考慮して、正方形パターン13の各辺をオリエンテーションフラット(O/F)2bに対して45°傾斜させている。
【0028】
次いで、このレジスト12aをマスクとして、立方晶炭化珪素シード層11にNFガスを用いたドライエッチングを施す。これにより、立方晶炭化珪素シード層11は所望のパターン、例えば、図3に示す正方形パターン13と同一形状かつ格子点状にパターニングされ結晶成長する全ての面が{100}面の立方晶炭化珪素シード層11aとなり、この立方晶炭化珪素シード層11aの開口部15ではシリコン基板2の表面2aの一部が露出することとなる。
【0029】
次いで、図2(c)に示すように、パターニングされたレジスト12a及び立方晶炭化珪素シード層11aをマスクとして、シリコン基板2の表面2aが露出した部分に四フッ化炭素(CF)または六フッ化硫黄(SF)を主成分とするガスを用いたドライエッチングを施し、この表面2aが露出した部分を等方的にエッチングする。これにより、シリコン基板2の表面2aが露出した部分に断面半円形状の凹部16が形成されるとともに、マスクとなったレジスト12a及び立方晶炭化珪素シード層11aの下部に残存するシリコンの幅Wを、例えば、600nmとする。
【0030】
次いで、図4(a)に示すように、レジスト12aを除去した後、熱酸化炉に導入し、例えば1050℃の水蒸気を用いた水蒸気熱酸化法により、立方晶炭化珪素シード層11aの表面、下部のシリコン基板2の表面2a及び露出部分である凹部13の内面を酸化する。そして、立方晶炭化珪素シード層11aの表面に絶縁膜21を、立方晶炭化珪素シード層11a下部のシリコン基板2の表面2a及び凹部16の内面に絶縁膜22を、それぞれ形成する。
【0031】
この水蒸気熱酸化法では、立方晶炭化珪素シード層11aの表面が酸化し難く、かつシリコン基板2の表面2a及び凹部16の内面が酸化し易いことから、立方晶炭化珪素シード層11aの表面の絶縁膜21の厚みは、立方晶炭化珪素シード層11a下部のシリコン基板2の表面2a及び凹部16の内面に形成される絶縁膜22の厚みと比べて薄いものとなる。
厚みの具体的な数値の一例を挙げると、立方晶炭化珪素シード層11aに形成された絶縁膜21の厚みは概ね50nm、シリコン基板2の表面2a及び凹部16の内面に形成された絶縁膜22の厚みは概ね600nmである。
ここでは、隣接する凹部16の表面から成長する絶縁膜22が立方晶炭化珪素シード層11aの下部で結合することにより、この絶縁膜22が複数の凹部16上を覆うこととなり、また、この絶縁膜22上に立方晶炭化珪素シード層11aが載る形になる。
【0032】
次いで、図4(b)に示すように、フッ化水素(HF)5%水溶液を用いたウエットエッチングにより、立方晶炭化珪素シード層11aの表面の絶縁膜21を除去するとともに、立方晶炭化珪素シード層11a下部のシリコン基板2の表面2a及び凹部16の内面に形成された絶縁膜22の膜厚を調製する。
このウエットエッチングでは、立方晶炭化珪素シード層11aの表面の絶縁膜21の厚みが、立方晶炭化珪素シード層11a下部のシリコン基板2の表面2a及び凹部16の内面に形成された絶縁膜22の厚みより薄いので、絶縁膜22の厚みが所望の厚みにまでエッチングされる間に、絶縁膜21が立方晶炭化珪素シード層11aから完全に除去されることとなり、立方晶炭化珪素シード層11aの表面に絶縁膜21が残ることは無い。
【0033】
このようにして、ウエットエッチングにより所定の厚みに調製された絶縁膜22は絶縁膜4となり、この絶縁膜4の凹部5の側壁部分の上面である平坦面6の幅W’は、SOI構造を十分確保することができる程度の機械的強度を確保するために、概ね500nm程度に調製される。
【0034】
このようにして得られた立方晶炭化珪素シード層11a及び絶縁膜4を有するシリコン基板2を、再度、エピタキシャル成長用のCVD装置のチャンバー内に導入し、次いで、このチャンバー内を真空ポンプを用いて十分真空に引いた後、基板温度を、例えば1050℃にまで上昇させ、基板の表面温度を1050℃に保持した状態で、モノメチルシランガスを3.0sccmの流速にて導入する。そして、図4(c)に示すように、モノメチルシランガスの流速を保った状態で、結晶成長する全ての面が{100}の立方晶炭化珪素シード層11aを核として立方晶炭化珪素(3C−SiC)を所望の膜厚まで成長させ、立方晶炭化珪素膜7とする。
【0035】
この立方晶炭化珪素成長過程では、立方晶炭化珪素シード層11aの結晶方位面が{100}面であることから、立方晶炭化珪素は、立方晶炭化珪素シード層11aを核として横方向及び縦方向に等方的に成長することとなる。
これにより、結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素シード層11aに立方晶炭化珪素を成長させることとなり、横方向結晶成長(ELO)における横方向成長速度を縦方向成長速度と同等の成長速度に維持することができる。したがって、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができ、その結果、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜7をシリコン基板2の表面に形成することが可能となる。
以上により、空孔とされた凹部5を含むシリコン基板2上に立方晶炭化珪素膜7が接合された立方晶炭化珪素膜付き基材1を作製することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の立方晶炭化珪素膜付き基材1の製造方法によれば、シリコン基板2の表面2aに立方晶炭化珪素シード層11を形成し、この立方晶炭化珪素シード層11を、正方形パターン13を格子点状にパターニングしたレジスト12aをマスクとして、立方晶炭化珪素シード層11をドライエッチングにより格子点状にパターニングされた結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素シード層11aを形成する。そして、この立方晶炭化珪素シード層11a上に立方晶炭化珪素を成長させるので、横方向結晶成長(ELO)における横方向成長速度を縦方向成長速度と同等の成長速度に維持することができる。したがって、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができ、その結果、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜7を形成することができる。
【0037】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の第2の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法に用いられるパターンを示す平面図であり、本実施形態のパターンが第1の実施形態のパターンと異なる点は、第1の実施形態では、一辺が1μmの正方形パターン13を格子点状にパターニングしたのに対し、本実施形態では、縦1μm、横6μmの長方形パターン31を1μmの間隔で互いに平行にパターニングした点である。
これらの長方形パターン31の各辺は、シリコン基板2のオリエンテーションフラット(O/F)2bに対して所定の角度θ傾斜している。ここでは、45°傾斜している。
【0038】
本実施形態では、長方形パターン31をパターニングしたレジスト32をマスクとして、立方晶炭化珪素シード層11にNFガスを用いたドライエッチングを施すことにより、立方晶炭化珪素シード層11を長方形パターン31と同一形状かつ互いに平行にパターニングされた結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素シード層となる。
そして、長方形パターン31と同一形状かつ互いに平行にパターニングされた立方晶炭化珪素シード層を核として、立方晶炭化珪素を所望の膜厚まで成長させ、立方晶炭化珪素膜とする。
【0039】
この立方晶炭化珪素成長過程では、立方晶炭化珪素シード層の結晶方位面が{100}面であることから、立方晶炭化珪素は、長方形パターン31と同一形状かつ互いに平行にパターニングされた立方晶炭化珪素シード層を核として横方向及び縦方向に等方的に成長することとなる。
これにより、結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素シード層に立方晶炭化珪素を成長させることとなり、横方向結晶成長(ELO)における横方向成長速度を縦方向成長速度と同等の成長速度に維持することができる。したがって、等方的に立方晶炭化珪素を成長させることができ、その結果、より広い低欠陥領域を有する立方晶炭化珪素膜をシリコン基板の表面に形成することが可能となる。
【0040】
本実施形態の立方晶炭化珪素膜付き基材の製造方法においても、第1の実施形態の立方晶炭化珪素膜の製造方法と同様の作用・効果を奏することができる。
【0041】
なお、本発明の各実施形態では、正方形パターン13の各辺及び長方形パターン31の各辺を、シリコン基板2のオリエンテーションフラット2bに対して45°傾斜させたこととしたが、オリエンテーションフラット(O/F)2bが45°ずれたシリコン基板を用いれば、正方形パターン13の各辺及び長方形パターン31の各辺を、シリコン基板2のオリエンテーションフラット2bに対して傾斜させる必要がない。
また、立方晶炭化珪素膜7上に窒化ガリウム(GaN)単結晶膜をエピタキシャル成長させれば、非常に高品質の窒化ガリウム(GaN)単結晶膜を実現することができる。
さらに、この立方晶炭化珪素膜付き基材1は、次世代における低損失のパワーデバイス用半導体材料としても利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…立方晶炭化珪素膜付き基材、2…シリコン基板、2a…表面、2b…オリエンテーションフラット(O/F)、3…凹部、4…絶縁膜、5…凹部、6…平坦面、7…立方晶炭化珪素膜、11…立方晶炭化珪素シード層、13…正方形パターン、21、22…絶縁膜、32…長方形パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面または単結晶シリコン膜の表面に立方晶炭化珪素膜を形成する立方晶炭化珪素膜の製造方法であって、
前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面に第1の立方晶炭化珪素層を形成する工程と、
前記第1の立方晶炭化珪素層を選択除去し、表面、第1の側面及び前記第1の側面に交差する第2の側面の結晶方位面が{100}面となるパターンの第2の立方晶炭化珪素層を形成する工程と、
前記第2の立方晶炭化珪素層上に立方晶炭化珪素を成長させる工程と、
を有することを特徴とする立方晶炭化珪素膜の製造方法。
【請求項2】
前記パターンの形状は、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面の上から見て、正方形または長方形であることを特徴とする請求項1記載の立方晶炭化珪素膜の製造方法。
【請求項3】
前記パターンの第2の立方晶炭化珪素層を形成する工程の後に、
前記パターンの第2の立方晶炭化珪素層をマスクとして、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を選択除去し、前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面に複数の凹部を形成する工程と、
前記複数の凹部の表面を含む前記シリコン基板の表面または前記単結晶シリコン膜の表面を熱酸化することによって、前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜の上に酸化珪素を含む絶縁膜を形成する工程とを有し、
前記第2の立方晶炭化珪素層上に立方晶炭化珪素を成長させる工程を、前記絶縁膜の上に結晶方位面が{100}面の立方晶炭化珪素膜を成膜し、前記絶縁膜と前記立方晶炭化珪素膜とに囲まれた空孔を形成する工程としたことを特徴とする請求項1または2記載の立方晶炭化珪素膜の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を選択除去する工程は、四フッ化炭素または六フッ化硫黄を主成分とするガスを用いて前記シリコン基板または前記単結晶シリコン膜を選択除去する工程であることを特徴とする請求項3記載の立方晶炭化珪素膜の製造方法。
【請求項5】
前記第1の立方晶炭化珪素層を形成する工程は、モノメチルシランを含むガスを用いて前記第1の立方晶炭化珪素層を形成する工程であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の立方晶炭化珪素膜の製造方法。
【請求項6】
前記正方形または長方形の一辺は、前記シリコン基板のオリエンテーションフラットに対して45°傾斜してなることを特徴とする請求項2記載の立方晶炭化珪素膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−204602(P2012−204602A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67780(P2011−67780)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】