説明

紡糸口金検査装置

【課題】紡糸口金に穿設された複数個の吐出孔を同時に検査して孔内に残留する異物の有無を一孔ごとに検出するのではなく、多数の吐出孔に対して一度に孔内異物が検出でき、そのような検査が可能な高精度な検査装置であっても、工場内の振動などによって検査精度に影響を及ぼさないようにする必要があり、これによって、多大な時間を要することなく短時間かつ確実に孔内異物を検査できる装置を提供する。
【解決手段】スキャンカメラを用いて、紡糸口金を走査することにより、高解像度の複数の画像データ群を取得し、これら画像データ群を合成して作成した合成画像データから紡糸口金に穿設された多数の吐出孔群のそれぞれに対して孔内異物の存在の有無を画像処理を用いて一度に検出し、さらに振動により吐出孔画像に異常が起こらないようにする為、振動計を用いた振動検知と、撮影した画像に異常があった場合に面積値判別によって振動の有無を検知する、振動検知機能付き紡糸口金の孔内異物の検査装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維を紡出するための紡糸口金に穿設されたポリマーの吐出孔中の異物の残留を自動的に検査するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の製造は、紡糸液を紡糸口金に穿設された吐出孔から紡出することによって行なわれる。しかしながら、紡糸口金に穿設された吐出孔が汚れていたり、不純物が孔内に付着したりすると、紡糸液の良好な吐出が妨げられ、単糸切れの原因となるばかりでなく、紡糸そのものができなくなるという障害が発生する。このため、紡糸技術の生命線である吐出孔の異常を検査して、異常があればドリルやエアー等を用いて一孔毎に吐出孔内を掃除していた。
【0003】
しかしながら、口金に穿設する吐出孔の個数がその形状にもよるが、通常、数十個から数千個と多い上に、その孔径も1mm以下と小さいので拡大レンズを用いて吐出孔を拡大し、肉眼によって一孔一孔丹念に汚れを検査する必要がある。そして、孔内に汚れや異物が見つかると、針状治具やエアー等を用いて汚れや異物の除去をしていた。
【0004】
言うまでもなく、このような口金検査は、検査と孔掃除に莫大な人手と時間を要し、また視覚検査であため長時間の検査は目が疲れるので困難である。それ故に、孔の掃除がおろそかになる傾向があり、また、孔検査と孔掃除にヒューマン・エラーが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、口金検査を人手に頼ることなく、自動検査装置によって行おうとする試みが特許文献1などに提案されている。この従来技術では、口金を一旦洗浄液で洗浄した後に孔内に残留した異物を検出するために、各孔ごとに口金下から光を照射し、吐出孔を通過してくる光の面積値を求め、孔内異物の有無を判定しようとするものである。つまり、異物が孔内に残留していれば、残留した異物によって投光された光が遮られるために、検出する透過光の面積値が小さくなる原理を利用したものである。
【0006】
しかしながら、前述の通り、紡糸口金に穿設された吐出孔群は数十個から数千個と非常に多いため、コンピュータを用いた自動検査を行うにしても、一孔ごとの検査では、多大な時間を要するために、短時間で検査することができる技術が求められている。なお、コンピュータを用いた自動検査を行う場合、このような検査装置は工場内に置かれる場合が多く、工場内の機器や作業者の机上作業などに由来する振動影響の影響などを受けて自動検査が正確に行われない。
【0007】
何故ならば、前述のように紡糸口金に穿設する吐出孔の孔径は、1mm以下と小さいので、孔内の残留異物を検査するためには、拡大レンズを用いて吐出孔を貫通してくる光の拡大が必要となるからである。言うまでもなく、微小な振動が紡糸口金の検査装置に伝わると、紡糸口金も振動するので、図2に例示したように、吐出孔を通過する検査光が大きくブレてしまい、その結果として、拡大レンズによる孔内異物の検査が正常に行なわれなくなる。
【0008】
【特許文献1】特開平7−243831号公報
【特許文献2】特開2006−267000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明の目的は、紡糸口金検査装置が外部からの振動の影響を受け、画像処理に供するために拡大レンズによって撮影した吐出孔の画像にブレが生じて孔内異物の検査を正常に行なうことができなくなる事態を回避すると共に、紡糸口金に穿設された吐出孔群内に残留する異物を一孔ごとに行うのではなく、多数の吐出孔群を対象にしてこれらの吐出孔群内の残留異物を同時に検査できる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに、前記課題を解決するための手段として、「多数の吐出孔が穿設された紡糸口金と、前記紡糸口金を挟んだ一方側に設けられた照明と、前記紡糸口金を挟んだ他方側に前記照明と対向して設けられたスキャンカメラと、前記スキャンカメラに付設され且つ前記照明から投光されて前記吐出孔を通過した検査光からなる画像を所定の倍率に拡大する拡大レンズと、前記スキャンカメラを走査して画像データを撮影する位置に正確に位置決め制御する位置決め駆動手段と、前記紡糸口金、前記照明、前記スキャンカメラ、及び前記位置決め駆動手段をその上に載置しながら支持する支持台と、前記スキャンカメラによって紡糸口金穿設された吐出孔の穿孔領域を少なくとも含む画像データ群を処理して前記多数の吐出孔に存在する孔内異物を一度に検出する画像処理装置と、前記支持台上に設けられた振動検出手段を備え、少なくとも前記画像データを撮影中に前記振動検出手段によって検出された振動加速度が予め設定された基準重力加速度値よりも大きい場合に前記画像処理装置による前記吐出孔内の孔内異物検出処理を中止して画像処理を最初から行なうことを特徴とする紡糸口金検査装置が提供される。
【0011】
このとき、前記画像処理装置が、前記吐出孔群の穿孔領域を複数領域に分割し、これら分割した紡糸口金の領域に対して少なくとも一回もしくは複数回にわたって前記ラインスキャンカメラを走査して移動させて所定の位置で各画像を撮影してこれら各画像を合成画像データとして得る処理手段を備ていることが、孔内異物の検査を効率的に行なうことができるために好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明した本発明によれば、口金に穿設された多数の吐出孔群を1孔毎に検査する必要がなく、画像データ処理によって、一度に多数の吐出孔群に対して孔内異物の有無を検査できるために、吐出孔の孔内異物検査が迅速かつ短時間で可能となる。また、当然のことながら、孔内異物の検査は検査員の肉眼に頼ることなく自動的に行うことができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に好適に使用できる孔内異物の検査装置について、先ず図1を参照しながら説明する。
本発明においては、口金Caの穿孔領域を複数領域に分割し、これら領域に対して少なくとも一回もしくは複数回にわたってラインスキャンカメラ3を走査して移動させて所定の位置で画像を撮影することによって、複数の吐出孔Hを対象として、これらの吐出孔H群を同時に検査するために必要となる合成画像データを得ることを一つの大きな特徴とするものである。以下、この点について先ず説明する。
【0014】
図1において、符号Caは紡糸口金であって、この紡糸口金Caには、図示したように多数の円形状の吐出孔群Hが穿設されており、本発明においては、これらの吐出孔群H内の残留異物を検査しようとするものである。この目的を達成するために、本発明に係る孔内異物の検査装置1では、この紡糸口金Ca(なお、単に「口金Ca」とも称する)に穿設された各吐出孔Hに対して、その下方から照明9を照射する。ただし、この照明9は、図1に例示したように、検査目標である吐出孔Hが穿設されている紡糸口金Caを間に挟んで、後述するラインスキャンカメラ3と上下方向に対向して設けられている。
【0015】
したがって、下方に設けた照明9から照射された光は、口金Caの各吐出孔Hを通過した通過光となり、この通過光が拡大レンズ4で光学的に拡大され、拡大された映像が上方に設けたラインスキャンカメラ3によって正面から撮影されることとなる。このようにして、口金Caをラインスキャンカメラ3と連動させながら移動させて、各吐出孔Hからの通過光を撮像して、得られた撮像データを画像処理すれば、吐出孔H内に残留する異物の有無を自動的に検査できる。
【0016】
ところが、微小孔径を有する吐出孔内の異物を検査するためには、吐出孔内領域と言う極めて狭い面積が対象となるが故に、各吐出孔Hを通過した通過光を拡大レンズ4で拡大した画像を使用しなければならないという宿命がある。したがって、微小な振動などによる外乱からの影響を極めて受けやすいと言え、正確な孔内異物の検査を行なうためには、これらの外乱を排除することが要求される。特に、人手を介さずに自動で検査を行なうとなると、これまでのように人による判断が介入する余地がなくなり、このことはより重要性を持つ。
【0017】
前述のように口金Caには多数の吐出孔Hが穿設されており、穿設された全ての吐出孔Hに対して孔内異物を検査する必要がある。しかしながら、ラインスキャンカメラ3とこれに対向して設けられた照明9だけの組み合わせだけでは、全吐出孔Hの孔内異物を検査することができない。何故ならば、拡大レンズ4を備えたラインスキャンカメラ3では、映像を撮影する範囲が限られてしまうために、限られた穿孔領域の映像しか撮影できないからである。なお、当然のことながら、拡大レンズ4の画像の拡大倍率は、吐出孔Hに付着する異物を識別できる値を取るべきである。
【0018】
そこで、本発明に係る孔内異物の検査装置1(なお、以下の説明においては、単に「検査装置1」と略称する場合もある)では、口金Caの全ての穿孔領域の撮影がカバーできるように、口金Caを移動させる機構を備えている。すなわち、本発明の検査装置1は、口金Caを載置する口金取付台10を備え、この口金取付台10の下方に配設された照明9から口金Caへ向かって検査光を照射するようにしている。
【0019】
また、前記口金取付台10には、互いに立体交差するX軸とY軸の二軸方向にそれぞれ独立して摺動できるスライド部材5、6が取付けられている。したがって、これらスライド部材5、6を駆動する2台のリニアサーボモータによって、口金Caを載置する口金取付台10は、X軸方向とY軸方向へそれぞれ摺動自在(スライド自在)に駆動される構成となっている。すなわち、X軸とY軸の二軸方向に互いにそれぞれ独立して摺動できるスライド部材5、6によって、口金Caはラインスキャンカメラ3の走査方向に沿って二次元的に移動できる構成となっている。
【0020】
なお、本発明の実施形態においては、ラインスキャンカメラを採用しているが、スキャンカメラをラインスキャンカメラとすることが必須というわけではなく、本発明の要旨を満足する限りにおいて、他の実施形態を採用できることは言うまでもない。ただし、この実施形態では、ラインスキャンカメラが有する多数の画素は直線方向(例えば、X軸方向)、つまり、一次元方向へ配設されており、この画素の配設方向と直行する方向(例えば、前記X軸方向に対してY軸方向)へ一定速度で口金Caを移動させ、所定周期で連続的に画像を撮影する。そして、撮影したこれら画像群を平面画像に合成することによって、画像処理をするための合成画像データを得る。
【0021】
ここで、前記スライド部材5、6の駆動制御は、これらを駆動する各サーボモータに対して接続されたサーボコントローラ9によって行なわれる。すなわち、このサーボコントローラ9によって各スライド部材5、6を駆動する各サーボモータに対して必要なスライド量に相当する数の駆動用パルスを与えて必要な量だけ各スライド部材5、6をスライドするように制御される。また、これによって、ラインスキャンカメラ3の走査周期に合わせて、口金Caが任意の制御速度で目標とする位置へ移動させる制御が行なわれる。
【0022】
なお、ラインスキャンカメラ3、スライド部材5と6、照明9、口金取付台10などは、図1に例示したように支持台2に載置固定されて取付けられている。したがって、振動が発生すれば支持台2を介してラインスキャンカメラ3、スライド部材5と6、照明9、及び口金取付台10などに伝播するため、本発明において、発生した振動を検出する振動検出手段11は、この支持台2に設けることが肝要である。
【0023】
このとき、支持台2に取付けられている照明9について更に付言すると、この照明9は、寿命が長く、熱を発生しにくく、しかも、ラインスキャンカメラ3の撮像範囲の全体を照射する必要があるという観点から、高輝度で広範囲を均一に照射する事が可能な発光ダイオード(LED:light emitting diode)を複数個用いたLEDフラット照明(面状LED照明)を使用することが好ましい。
【0024】
何故ならば、フラットLED照明9を使用することによって、例えば厚みが数cmほどにもなる紡糸口金Caに穿設された孔径が1mm以下の吐出孔H群であったとしても、面状に照射された領域に位置する全ての吐出孔H群に対して検査光が通過し易くなるからである。なお、このようなフラットLED照明9からの通過光を捉えるラインスキャンカメラ3として、本発明例では、単焦点の光学式拡大レンズ4を装着しており、しかも、ノイズ低減が期待できることから、極めて多くの画素(ピクセル:pixel)からなる所謂「メガピクセル」のラインスキャンカメラ3を用いた。
【0025】
このようにして、図1に例示した本発明の検査装置1に係る実施形態例では、スライド部材5,6の上に設置された口金取付台10に戴置された口金Caをラインスキャンカメラ3の走査方向へラインスキャンカメラ3の撮影周期に合わせた速度で必要な距離だけ移動させることができる。そして、これによって、照明9から照射された検査光を口金Caに穿設された吐出孔H群を介してラインスキャンカメラ3で受光し合成画像データを得ることによって、口金Caの穿孔領域にある吐出孔Hの孔内異物の検査が可能となる。
【0026】
勿論、このようにして合成画像データを得るために撮影される検査光は、撮影範囲を個々の吐出孔Hに限定する訳ではなく、対象となる複数個の吐出孔Hを通過してきたものである。したがって、このようにして撮影された検査光を捉えた映像からなる合成画像データを一度に画像処理することによって、従来技術のように一孔毎の逐次画像処理による検査ではなく、一群の吐出孔に対して孔内異物の存在の有無を検査することを可能とするのである。
【0027】
以上に説明したように、本発明においては、口金Caの吐出孔群Hの穿孔領域を複数領域に分割し、これら領域に対して少なくとも一回もしくは複数回にわたってラインスキャンカメラ3を走査して移動させて所定の位置で画像を撮影することによって、複数の吐出孔Hを対象として、これらの吐出孔H群を同時に検査するために必要となる合成画像データを得ることを大きな特徴とするものである。
【0028】
したがって、このような画像処理が可能な合成画像データを得るという目標を達成するために、サーボコントローラ9で最適に制御される2台のサーボモータによってX軸とY軸とに沿ってそれぞれ移動自在とされたスライド部材5及び6を所定の位置に精度良く位置決め移動することが要求される。そのため、スライド部材5及び6の移動量(スライド量)は、口金Caの穿孔領域の設計寸法に基づいて、その必要となる移動量を予め算出しておいて、コンピュータ8にプログラムとして記憶させておくことが必要である。
【0029】
このようにすることによって、コンピュータ8に記憶された情報(スライド部材5と6の移動量など)に基づいて、サーボコントローラ9を介して各サーボモータを駆動してスライド部材5と6を正確に位置決め制御することができ、所定の位置で所定の枚数の画像データを得ることができる。
【0030】
このとき同時に、ラインスキャンカメラ3の走査周期に合わせてスライド部材5と6の適切なスライド速度をそれぞれ算出して前記コンピュータ8に記憶させておき、この記憶された情報(スライド速度など)に基づいてサーボコントローラ9によってスライド部材5と6の移動速度も制御する。したがって、これらのコンピュータ8、サーボコントローラ9、スライド部材5と6などは、スキャンカメラ3を走査して画像データを撮影する位置に正確に位置決め制御する「位置決め駆動手段」を構成している。
【0031】
すなわち、スライド部材5及び6を駆動するX軸及びY軸のサーボモータに入力するパルス数を前述のようにして算出してコンピュータ8に記憶させる。そして、このコンピュータ8に記憶された情報に基づいて、このパルス数を必要なタイミングで指令値として各サーボモータに入力し、ラインスキャンカメラ3の走査周期に合わせて口金Caを目標とする速度で目標とする位置へ移動させ、必要な画像データ群を得た上でこれらの画像データ群を合成して合成画像データを得ることができるのである。
【0032】
このようにして、検査目標とする多数個の円形状吐出孔Hを通過した検査光からなる画像データ群がラインスキャンカメラ3の走査によって得られると、これらの画像データ群を画像処理装置8に取り込む処理を実行し、合成画像作成処理を行って、合成画像データを得ることができる。そうすると、この合成画像データから口金Caに穿設された多数個の吐出孔Hの内壁面に付着した異物の存在判別を一度の画像処理によって行うことができるようになる。
【0033】
以上に説明したうに、本発明の画像処理装置は、前記吐出孔群Hの穿孔領域を複数領域に分割し、これら分割した口金Caの領域に対して少なくとも一回もしくは複数回にわたってラインスキャンカメラ3を走査して移動させて所定の位置で各画像を撮影してこれら各画像を合成画像データとして得る処理手段を備えている。
【0034】
本発明において、前述のようにして得られた合成画像から吐出孔内の残留異物を検出治する処理については、公知の方法によって行なうことができる。例えば、公知の明暗処理による吐出孔位置の確認の実施形態の一例について説明すると、先ず前記合成画像データを所定の明暗の階調を基準にして各画素を「明」と「暗」とに判別し、「明」と判別された全画素に例えば「1」を割り振り、「暗」と判別された全画素に対して例えば「0」を割り振ることによって二値化処理を行なうことによって実施できる。
【0035】
何故ならば、各吐出孔Hを通過した検査光を前述のように二値化処理し、各吐出孔Hが存在する領域において、「明」と判別された画素数と「暗」と判別された画素数を比較して、「暗」と判別された画素数が、吐出孔H内に異物が存在しない正常な状態で得られた場合と比較して多ければ、孔内異物が存在すると認識することができるからである。つまり、孔内異物が存在すれば、この孔内異物により光が吐出孔H内で遮られため、この画素は[暗]と判断されるからである。
【0036】
以上に説明した本発明に係る画像処理の方法と、従来技術のように個々の吐出孔Hに対してそれぞれ得られた個々の画像データに対応して吐出孔Hを一個ごとに検査して孔内異物を検出する方法に比較すると、本発明の検査装置1は、少ない合成画像データから多数の吐出孔Hの孔内異物を一度に検査することができるので、より短時間でかつ効率的に孔内異物の検出処理が行えるのである。
【0037】
ただし、孔内異物は、吐出孔Hの長さ方向(奥行き方向)に沿った何れの位置にも付着する。すなわち、ポリマーが吐出孔Hに流入する直後の位置に異物が付着することもあれば、ポリマーが吐出孔Hから流出する直前の位置に付着することもある。このような点を考慮すると、ラインスキャンカメラ3で撮影した画像データは、吐出孔Hの長さ方向(奥行き方向)に沿って焦点を合わせた複数箇所の画像データ群をそれぞれ合成画像データとしたものを用いることが好ましい。そのためには、ラインスキャンカメラ3の焦点距離を複数箇所で調整できる機能を付与することが望ましく、口金Caの全面に対するラインスキャンカメラ3の操作は、ラインスキャンカメラ3の焦点距離を変更する度に行うことが望ましい。
【0038】
また、本発明の検査装置はカメラ3や電動スライダー5,6などの組み合わせによるものであり、装置として振動による影響を受ける可能性がある。すなわち、振動の影響による吐出孔Hの画像に乱れが存在すれば、吐出孔Hを通過する検査光は、この振動によって左右にラインスキャンカメラ3もしくはスライダーが振動し、1pixelごとに撮影した画像を合成するラインスキャンカメラ3で撮影した場合には、図2のように吐出孔画像が左右に振れた画像が得られることになる。よって、この面積値を算出し、その値と予め実験などにより求めた基準面積値と照合し、基準面積値より大きい場合には振動による影響により検査に影響を及ぼすと考えられるため、「検知異常」という結果を作業者に伝えるようにする。
【0039】
したがって、その影響が画像処理にとって無視できない振動を生じた場合、図2のような撮影画像となり、孔内異物の検出に支障をきたす。したがって、振動検出手段(振動計)11より振動値を重力加速度単位でコンピュータ8に出力し、その振動加速度値が、予め実験などによって決められた基準重力加速度値よりも大きくなった場合に、振動によって撮影画像に異常が起こる。このため、検査処理を途中で中止して一旦検査処理をリセットし、再度最初から検査を開始する。
【0040】
さらに、本発明の検査装置は、吐出孔という孔径が0.1〜1.0mm程度の非常に微小な孔を対象としており、その吐出孔を画像処理に拡大する場合には振動の影響を受ける可能性があり、検査装置の振動検知の方法として、振動検出手段11より任意サンプリングタイムで出力信号を画像処理コンピュータ8に送信し、その信号の値が検査装置の検出システムに異常をきたす値を超えた場合に、検査プログラムを停止させ、再度一から検査プログラムを動作させることが望ましい。
【0041】
このとき、当然のことながら、画像処理を行なう検査装置内に処理に必要な全画像データが取り込まれた後であれば、画像処理に及ぼす悪影響は全くないと考えられるので、飽くまでも画像処理を中止するのは、画像データを撮影中に振動が生じた場合である。したがって、このような場合には、画像処理を中止して、これまでの画像処理手続を一度リセットして、再度最初から検査を開始する必要が生じるのである。
【0042】
以上に説明したように、一つの合成画像データ中に含まれる多数の吐出孔Hに対して、孔内異物の残留検査が終了すると、次の合成画像データから孔内異物の残留検査を行うために、画像処理装置8が、次に必要となる画像データ(例えば、前述のように拡大レンズの焦点深度が異なる画像データ)の読み出しを行い、画像処理を実施する。そして、紡糸口金Caの全画像データの全吐出孔H内の孔内異物検査を終了する。
【0043】
なお、以上の説明において、孔内異物の検査を行うために、口金Caの穿孔領域の全面に渡って、スキャンカメラ3を走査して撮影した画像データ群を一つの合成画像データに合成するケースについて説明した。しかしながら、本発明においては、一つの合成画像データに限定する理由はなく、一つの合成画像データだけを用いるのではなく、この合成画像データを複数に分割した合成画像データを使用するようにしても良い。この場合、特に、一つの合成画像データのデータ量が膨大になる場合に、分割した合成画像データを使用することは極めて有効である。
【0044】
以上に述べたようにして、画像処理されて孔内異物の有無が検査された後のデータは、各吐出孔の位置情報をもとに、記憶装置に記憶しておき、検査後に検査の係りの作業者が目視で確認するようにすることもできる。その際、当然のことながら、目視確認を行いながら、作業者が拡大鏡などを使用しながら針状治具などを用いて孔内異物の除去作業を行い、異物を吐出孔からきれいに除去することもできる。また、本発明によると、合成繊維生産時に使用される紡糸口金に穿設された吐出孔内の異物残留検査を容易に行えることで、省力化につながり、または労務費削減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の紡糸口金検査装置の構成図である。
【図2】振動による画像データの影響の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1:孔内異物の検査装置
2:支持台
3:ラインスキャンカメラ
4:拡大レンズ
5,6:スライド部材
7:サーボコントローラ
8:コンピュータ
9:照明
10:口金取付台
11:振動検出手段
Ca:紡糸口金
H:吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の吐出孔が穿設された紡糸口金と、前記紡糸口金を挟んだ一方側に設けられた照明と、前記紡糸口金を挟んだ他方側に前記照明と対向して設けられたスキャンカメラと、前記スキャンカメラに付設され且つ前記照明から投光されて前記吐出孔を通過した検査光からなる画像を所定の倍率に拡大する拡大レンズと、前記スキャンカメラを走査して画像データを撮影する位置に正確に位置決め制御する位置決め駆動手段と、前記紡糸口金、前記照明、前記スキャンカメラ、及び前記位置決め駆動手段をその上に載置しながら支持する支持台と、前記スキャンカメラによって紡糸口金穿設された吐出孔の穿孔領域を少なくとも含む画像データ群を処理して前記多数の吐出孔に存在する孔内異物を一度に検出する画像処理装置と、前記支持台上に設けられた振動検出手段を備え、少なくとも前記画像データを撮影中に前記振動検出手段によって検出された振動加速度が予め設定された基準重力加速度値よりも大きい場合に前記画像処理装置による前記吐出孔内の孔内異物検出処理を中止して画像処理を最初から行なうことを特徴とする紡糸口金検査装置。
【請求項2】
前記画像処理装置が、前記吐出孔群の穿孔領域を複数領域に分割し、これら分割した紡糸口金の領域に対して少なくとも一回もしくは複数回にわたって前記ラインスキャンカメラを走査して移動させて所定の位置で各画像を撮影してこれら各画像を合成画像データとして得る処理手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の紡糸口金検査装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−133771(P2010−133771A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308514(P2008−308514)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】