説明

薄膜製造装置および薄膜製造方法

【課題】チャンバ内壁が高温に曝される場合においても、チャンバの外形を限定することなく、チャンバ内壁に付着する反応生成物を低減する。
【解決手段】チャンバ11内には、チャンバの内壁に所定の間隔を隔てて配置された多孔質状の防着板18を設け、開口部19を介してチャンバの11内壁からチャンバ11内に向かって防着ガスGfを噴出させながら、反応ガス導入管15を介してチャンバ11内に反応ガスGsを導入することにより、チャンバ11内の基板22の面上にa−Si系の薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜製造装置および薄膜製造方法に関し、特に、反応性生成物がチャンバ内に付着するのを抑制する方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜光電変換素子を生産性よく製造する方法として、長尺の高分子材料あるいはステンレス鋼などの金属からなる可撓性基板上に、a−Siを主材料とした光電変換層を含む各層を形成する方法がある。ここで、長尺の可撓性基板上に複数の層を成膜する方式として、各成膜室内を移動する可撓性基板上に成膜するロールツーロール方式と、成膜室内で停止させた可撓性基板上に成膜した後、成膜の終わった可撓性基板部分を成膜室外へ送り出すステッピングロール方式とがある。
【0003】
従来のこの種の成膜装置では、可撓性基板面を水平にして搬送が行われるが、装置の設置スペースを節減するために、可撓性基板面を鉛直にして搬送する方法が提案されている。さらに、一つの薄膜光電変換素子製造装置での成膜効率を上げるために、複数の可撓性基板を並行して搬送し、それぞれの可撓性基板面上に成膜することも知られている。
ここで、可撓性基板面上にa−Siを効率よく成膜する方法として、プラズマCVDを用いる方法がある。このプラズマCVDでは、チャンバ内を排気しながら、チャンバ内に反応ガスを導入し、電極間に高周波電圧を印加することにより、チャンバ内にプラズマを発生させ、チャンバ内の可撓性基板の面上にa−Si系の薄膜を形成することができる。
【0004】
また、特許文献1には、CVD反応炉の内部において、円錐状カバーの上端部から下端部に向かってO2ガスを流すことにより、CVD反応炉の内壁面における酸素濃度を均一化し、CVD反応炉の内壁面に酸化物微粒子のフレークが付着するのを阻止する方法が開示されている。
また、特許文献2には、反応炉の内壁面に隣接して多孔板を配設し、内壁面と多孔板とにより形成される間隙内にN2ガスに随伴されたH2O分子を供給し、多孔板の炉内側表面に薄い水膜を形成させることにより、反応ガスが壁面付近で反応するのを防止する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−158867号公報
【特許文献2】特開昭63−247369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマCVDでは、反応ガスが排気ポートを介して排気される時に冷やされ、チャンバ内壁に不所望な反応生成物が付着する。そして、チャンバ内壁に付着した反応生成物が剥離すると、チャンバの底に落下して反応生成物が堆積し、堆積した反応生成物が可撓性基板に付着するという問題があった。
一方、特許文献1に開示された方法では、反応炉の内壁面にO2ガスを隈なく行き渡らせるためには、反応炉に円錐状カバーを設ける必要があり、反応炉の形状が限定されるという問題があった。
一方、特許文献2に開示された方法では、反応炉の内壁面の温度が高温になったり、減圧下で処理をしようとすると、多孔板の炉内側表面に形成された薄い水膜が蒸発し、反応ガスが壁面付近で反応するのを防止することができなくなる、膜の中に水由来の不純物が混入するという問題があった。
【0006】
また、ロールツーロール方式やステッピングロール方式の薄膜製造装置では、長尺の基板を搬送するための搬送ロールが必要となる。特に、長尺の基板を、その幅方向が鉛直方向を向く姿勢で縦型搬送する場合は、長尺の基板のだれを防止するために搬送ロールを成膜室に近いところに配置することが望ましいが、搬送ロールを成膜室に近いところに配置すると反応生成物が搬送ロールに付着し、さらに長尺の基板に付着するという問題があった。
そこで、本発明の目的は、チャンバ内壁が高温に曝される、減圧下で処理をする場合においても、チャンバの外形を限定したり膜中の不純物を増加させることなく、チャンバ内壁に付着する反応生成物を低減することが可能な薄膜製造装置および薄膜製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の薄膜製造装置によれば、内部を外界と隔離するチャンバと、前記チャンバ内を排気する排気ポートと、前記チャンバ内に反応ガスを導入するガス導入管と、前記チャンバ内にプラズマを発生させる電極と、前記チャンバの内壁に所定の間隔を隔てて配設された多孔質状の防着板と、前記反応ガスが壁面上で反応するのを防止する防着ガスを前記チャンバの内壁と防着板との間に導入する防着ガス導入部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2記載の薄膜製造装置によれば、多孔質状の内壁を有する2重壁が設けられたチャンバと、前記チャンバ内を排気する排気ポートと、前記チャンバ内に反応ガスを導入するガス導入管と、前記チャンバ内にプラズマを発生させる電極と、前記反応ガスが壁面上で反応するのを防止する防着ガスを前記チャンバの2重壁の隙間に導入する防着ガス導入部とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3記載の薄膜製造装置によれば、前記チャンバの2重壁の隙間に、長尺の基板を搬送する搬送ロールを備えたことを特徴とする。
また、請求項4記載の薄膜製造装置によれば、前記防着ガスはH2ガスであり、前記反応ガスにはH2ガスが含まれていることを特徴とする。
また、請求項5記載の薄膜製造方法によれば、内部を外界と隔離するチャンバ内に基板を搬入する工程と、前記チャンバ内に反応ガスを導入しながら、前記チャンバ内にプラズマを発生させるとともに、前記チャンバの内壁から前記チャンバ内に向かって防着ガスを噴出させながら、前記基板の成膜面に成膜を行う工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、チャンバの内壁からチャンバ内に向かって防着ガスを噴出させながら、基板の成膜面に成膜を行うことが可能となり、チャンバ内壁が高温に曝される場合においても、チャンバの外形を限定することなく、チャンバ内壁に付着する反応生成物を低減することが可能となることから、基板面上に形成される薄膜の膜質に悪影響を及ぼすことなく、チャンバ内壁から剥離した反応生成物が基板に付着するのを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る薄膜製造装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る薄膜製造装置の概略構成を示す断面図である。
図1において、チャンバ11には、チャンバ11内にプラズマを発生させる高電圧電極13および基板22を載置するステージ17が対向配置され、高電圧電極13は高周波電圧を発生させる高周波電源16に接続されている。また、チャンバ11には、チャンバ11内を排気する排気ポート12が設けられるとともに、チャンバ11内に反応ガスGsを導入する反応ガス導入管15が設けられている。なお、高電圧電極13は、反応ガス導入管15を介して導入された反応ガスGsをチャンバ11内に噴出するシャワー電極を用いることができる。また、a−Si系の薄膜をプラズマCVDで形成する場合、反応ガスGsとしてSiH4とH2の混合ガスを主として使用することができる。
【0012】
また、チャンバ11内には、チャンバの内壁に所定の間隔を隔てて配置された多孔質状の防着板18が設けられ、防着板18には、チャンバの内壁からチャンバ11内に向かって防着ガスGfを噴出させる開口部19が散点状に形成されている。また、チャンバ11には、チャンバ11の内壁と防着板18との間に防着ガスGfを導入する防着ガス導入管14が設けられている。なお、防着ガスGfは反応ガスGsが壁面上で反応して反応生成物が生成されるのを防止するためのもので、例えば、H2ガスを用いることができる。また、防着板18の材料としては、例えば、ステンレスを用いることができる。また、開口部19は防着板18の一面全体に渡って均一に配置することができ、例えば、直径が1mmφの開口部19を10mm間隔で均等に並べることができる。そして、防着板18は、スペーサ20を介してチャンバ11の内壁と所定の間隔を隔てられながら、ねじ21にてチャンバ11に固定されている。
【0013】
そして、基板22の面上にa−Si系の薄膜を形成する場合、基板22をステージ17上に載置する。そして、排気ポート12を介してチャンバ11内を排気するとともに、防着ガス導入管14を介して防着ガスGfをチャンバ11の内壁と防着板18との間に導入し、開口部19を介してチャンバの11内壁からチャンバ11内に向かって防着ガスGfを噴出させながら、反応ガス導入管15を介してチャンバ11内に反応ガスGsを導入する。そして、高電圧電極13に高周波電圧を印加することにより、チャンバ11内にプラズマを発生させ、チャンバ11内の基板22の面上にa−Si系の薄膜を形成することができる。
【0014】
例えば、反応ガスGsとしてSiH4ガスの流量を200sccm、H2ガスの流量を2SLMとした場合、防着ガスGfとしてのH2ガスの流量を100sccmとすることができる。
これにより、チャンバ11の内壁からチャンバ11内に向かって防着ガスGfを噴出させながら、基板22の成膜面に成膜を行うことが可能となり、チャンバ11の内壁が高温に曝される場合においても、チャンバ11の外形を限定することなく、チャンバ11の内壁に付着する反応生成物を低減することが可能となることから、基板22の面上に形成される薄膜の膜質に悪影響を及ぼすことなく、チャンバ11の内壁から剥離した反応生成物が基板22に付着するのを防止することが可能となる。
また、反応ガスGsとしてSiH4とH2の混合ガスを用いた場合、防着ガスGfとしてのH2ガスを用いるとともに、防着ガスGfの希釈率を高くすることにより、防着ガスGfが反応ガスGs内に混入した場合においても、基板22の面上に成膜される膜質に悪影響が及ぶのを防止することができる。
【0015】
図2は、本発明の第2実施形態に係る薄膜製造装置の概略構成を示す断面図である。
図2において、チャンバ31には、チャンバ31内にプラズマを発生させる高電圧電極33および基板42を載置するステージ37が対向配置され、高電圧電極33は高周波電圧を発生させる高周波電源36に接続されている。また、チャンバ31には、チャンバ31内を排気する排気ポート32が設けられるとともに、チャンバ31内に反応ガスGsを導入する反応ガス導入管35が設けられている。
ここで、チャンバ31には、多孔質状の内壁38を有する2重壁にて構成され、内壁38には、チャンバ31内に向かって防着ガスGfを噴出させる開口部39が散点状に形成されている。また、チャンバ31には、チャンバ31の2重壁の隙間に防着ガスGfを導入する防着ガス導入管34が設けられている。
【0016】
そして、基板42の面上にa−Si系の薄膜を形成する場合、基板42をステージ37上に載置する。そして、排気ポート32を介してチャンバ31内を排気するとともに、防着ガス導入管34を介して防着ガスGfをチャンバ31の2重壁の隙間に導入し、開口部39を介してチャンバ31内に向かって防着ガスGfを噴出させながら、反応ガス導入管35を介してチャンバ31内に反応ガスGsを導入する。そして、高電圧電極33に高周波電圧を印加することにより、チャンバ31内にプラズマを発生させ、チャンバ31内の基板42の面上にa−Si系の薄膜を形成することができる。
【0017】
図3は、本発明の第3実施形態に係る薄膜製造装置の概略構成を示す断面図である。
図3において、チャンバ31には、長尺の基板43が、幅方向が鉛直方向を向く姿勢で通過するためのスリット44が2箇所に形成されており、内壁38の外側(2重壁の隙間)には、長尺の基板43を搬送するための搬送ロール45が設けられている。その他の構成は、図2と同様である。
【0018】
そして、長尺の基板43の面上にa−Si系の薄膜を形成する場合、長尺の基板43は、図3の上方から下方に向かって、搬送ロール45と接しつつ搬送され、図2の薄膜形成装置と同様に、チャンバ31内にプラズマを発生させる。これにより、チャンバ31内を搬送されている長尺の基板43の面上に、a−Si系の薄膜を形成することができる(ロールツーロール方式)。
このような構成により、搬送ロール45を成膜室の近くに配置しても、搬送ロール45への反応生成物の付着を低減することができる。
なお、本実施の形態は、ロールツーロール方式の薄膜製造装置に係るものであるが、本発明は、ステッピングロール方式にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る薄膜製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る薄膜製造装置の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0020】
11、31 チャンバ
12、32 排気ポート
13、33 高電圧電極
14、34 防着ガス導入管
15、35 反応ガス導入管
16、36 高周波電源
17、37 ステージ
18 防着板
19、39 開口部
20 スペーサ
21 ねじ
22、42、43 基板
38 内壁
44 スリット
45 搬送ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を外界と隔離するチャンバと、
前記チャンバ内を排気する排気ポートと、
前記チャンバ内に反応ガスを導入するガス導入管と、
前記チャンバ内にプラズマを発生させる電極と、
前記チャンバの内壁に所定の間隔を隔てて配設された多孔質状の防着板と、
前記反応ガスが壁面上で反応するのを防止する防着ガスを前記チャンバの内壁と防着板との間に導入する防着ガス導入部とを備えることを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項2】
多孔質状の内壁を有する2重壁にて構成されたチャンバと、
前記チャンバ内を排気する排気ポートと、
前記チャンバ内に反応ガスを導入するガス導入管と、
前記チャンバ内にプラズマを発生させる電極と、
前記反応ガスが壁面上で反応するのを防止する防着ガスを前記チャンバの2重壁の隙間に導入する防着ガス導入部とを備えることを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項3】
前記チャンバの2重壁の隙間に、長尺の基板を搬送する搬送ロールを備えたことを特徴とする請求項2記載の薄膜製造装置。
【請求項4】
前記防着ガスはH2ガスであり、前記反応ガスにはH2ガスが含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の薄膜製造装置。
【請求項5】
内部を外界と隔離するチャンバ内に基板を搬入する工程と、
前記チャンバ内に反応ガスを導入しながら、前記チャンバ内にプラズマを発生させるとともに、前記チャンバの内壁から前記チャンバ内に向かって防着ガスを噴出させながら、前記基板の成膜面に成膜を行う工程とを備えることを特徴とする薄膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−33000(P2009−33000A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196902(P2007−196902)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】