説明

複合センサモジュールおよびセンサデバイス

【課題】 低消費電力でコンクリート構造物の状態を正確に検出する。
【解決手段】 鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を検出する複合センサモジュールであって、前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサ(10)と、前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサ(20)と、前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量を補正して補正データを出力するデータ処理部(101)と、データ処理部(101)から出力された補正データを読取装置に対して無線送信する無線通信部(102)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木または建築におけるコンクリート構造物の施工または耐久性に関わる各種状態量を精度よく検出することができるとともに、状態の経時変化を予測することも可能な複合センサモジュールおよびセンサデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、橋梁、橋脚およびビルディング等の土木・建築コンクリート構造物は、建造中においては仕様通りに建設(施工)が進められたとしても、供用開始後においては、構造物の耐久性を低下させる外部からの影響因子(繰り返し荷重、飛来塩分の浸透、炭酸ガスの浸透など)によって、構造物の内部や表面にひび割れが発生したり、構造物内部の鋼材などが腐食したりすることによって、構造物の耐久性が低下する。このように、コンクリート構造物の耐久性が大幅に低下した場合、重大事故の発生に繋がる可能性があるため、構造物の損傷度が著しく大きくなる前に、早急に補修あるいは補強する必要がある。このため、迅速かつ的確に構造物の状態変化および構造物の耐久性に悪影響を与える因子の有無またはその含有量などを迅速かつ的確に把握する必要がある。
【0003】
コンクリート構造物の状態変化を検知する方法として、各変状を検出するのに適したセンサをそれぞれ利用する方法が提案されている。例えば、ひび割発生の有無を確認する手法については、特許文献1(特開2005−043220号公報)において、コンクリートのひび割れに追従して伸びる材料の上に、導電性のある複数の金属板を、検出するコンクリートのひび割れの幅に応じてそれぞれ互いにオーバーラップさせて配置し、この金属板のオーバーラップの長さ以上にコンクリートのひび割れに追従して伸びる材料が伸びると、金属板のオーバーラップ幅のひび割れが増加したことを検知する技術が提案されている。
【0004】
また、例えば、グラウト材の充填を確認する手法については、特許文献2(特許第2995459号公報)において、1本の電極と1対の熱電対からなるセンサを利用して、電気抵抗と温度を測定することによりセメント混練物の充填状況を確認する技術が提案されている。また、グラウト材の注入口と逆側に設置されている空気排出口からのグラウト材の排出を直接確認する方法や、シース管内の空隙率から推定される空隙量と実際に注入されるグラウト材の量の対比から充填率を推定する方法、さらには点検用の孔を設け充填を目視確認する方法等がある。そのうち、非破壊検査による方法としては、弾性波を入射させるとともに反射波を受信して検出する方法、X線透過法によってグラウト材の未充填部を検出する方法、超音波を入力して反射波を検出する方法、中性子線の吸収を検出する方法等がある(たとえば、特許文献3として特開平10−54140号公報、特許文献4として特開2001−241187号公報)。
【0005】
また、例えば、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食確率または腐食度を、自然電位を測定して診断する手法については、特許文献5(特許第3096240号公報)において、実測した自然電位に対し、コンクリート構造物のかぶり部分のコンクリートの含水率による補正、コンクリートの塩分の有無による補正、コンクリートの炭酸化深さによる補正を行ない、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食確率または腐食度を高精度で診断する技術が提案されている。また、コンクリート中に伝送ケーブルを通して鉄筋の電位を測定し、かぶり部分のコンクリートの影響を除く手法も知られている(たとえば、特許文献6として特許第2511234号公報参照)。その中では、検査用線材を予め埋設し線材の抵抗、電流を測定することによりPC鋼材の腐食状況を検出する手法も知られている(たとえば、特許文献7として特開平8−94557号公報および特許文献8として特許第3205291号公報参照)。
【0006】
また、近年では、構造物にセンサを埋め込み、外部読み取り装置から電磁波を利用してセンサに電源を供給し、センサが取得した構造物の状態変化に関する情報を取得する方法(特許文献9として特開2001−201373号公報、特許文献10として特許第3416845号公報参照)が提案されており、予測することもなされている。
【0007】
また、複数のセンサを備える複合センサとしては、特許文献11(特開2001−221696号公報)において、導電性基板上に絶縁性膜を形成し、絶縁性膜上に温度センサ材料および歪センサ材料を成膜して構成される感温感歪複合センサが提案されている。この感温感歪複合センサは、補償回路なしに高感度・高安定な温度および歪の同時検出を可能としている。
【0008】
また、特許文献12(特開2002−148084号公報)において、流量センサと圧力センサと温度センサとを一体的に設けた複合センサを利用して、気体や液体の流量、圧力、および温度を測定する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2005−043220
【特許文献2】特許2995459号公報
【特許文献3】特開平10−54140号公報
【特許文献4】特開2001−241187号公報
【特許文献5】特許第3096240号公報
【特許文献6】特許第2511234号公報
【特許文献7】特開平8−94557号公報
【特許文献8】特許第3205291号公報
【特許文献9】特開2001−201373号公報
【特許文献10】特許第3416845号公報
【特許文献11】特開2001−221696号公報
【特許文献12】特開2002−148084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コンクリート構造物の状態を精度良く把握するためには、複数のセンサを用いることが望ましく、また、利便性を向上させるためには、無線通信技術を利用することが望ましい。
【0010】
しかしながら、無線通信技術を利用する上で、コンクリート構造物に複数のセンサを設置しようとすると、各センサに無線通信用のアンテナあるいはバッテリーなどを備える必要があり、部品数が多くなり製造コストは高くなってしまう。また、アンテナやバッテリーなどの部品が備わることにより、各センサデバイスのサイズが大型化し、多数のセンサを設置しようとした場合には、本当に設置したい場所にセンサを設置することができなくなる。また、一つのデバイスに複数のセンサを設けようとした場合には、複数のセンサを稼動させるのに十分な電力を供給できるバッテリーが必要となる。この場合、バッテリーは大型となり、前記同様の問題が発生する。
【0011】
また、小型のバッテリーを使用する場合、あるいは無線通信に用いる電磁波を電力源に利用した場合は、使用できる電力に制限があり、複数のセンサが常時稼動した状態にすることは非常に困難である。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アナログスイッチ、カウンタとアナログセレクタなど利用し、読取装置からの指示により複数のセンサを切替えることにより、消費電力を少なくすることができ、なおかつ、複数のセンサから得た複数の情報に基づいてあらゆる角度からコンクリート構造物の状態を精度良く把握することができる複合センサモジュールおよびセンサデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記の目的を達成するため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明に係る複合センサモジュールは、鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を検出する複合センサモジュールであって、前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサと、前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量を補正して補正後のデータを出力するデータ処理部と、前記データ処理部から出力された補正後のデータを読取装置に対して無線送信する無線通信部と、を備えることを特徴としている。ここでいう状態量とは、構造物の劣化現象を表すものであり、また物理量とは劣化現象に影響を及ぼす因子の化学的または物理的数量を表す。
【0014】
このように、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサとを併せ持つので、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果によって補正した結果を出力することが可能となる。これにより、コンクリート構造物の正確な状態を把握することができる。また、データ処理部から出力された補正後のデータを読取装置に対して無線送信するため、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。また、補正後のデータが読取装置へ送信されるため、読取装置との通信の効率化が図られる。その結果、低消費電力化に寄与することができる。
【0015】
(2)また、本発明に係る複合センサモジュールは、鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を検出する複合センサモジュールであって、前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサと、前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測して予測データを出力するデータ処理部と、前記データ処理部から出力された予測データを読取装置に対して無線送信する無線通信部と、を備えることを特徴としている。
【0016】
このように、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサとを併せ持つので、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果に基づいて第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測し、予測データを出力することが可能となる。これにより、コンクリート構造物の経時変化を正確に予想することができる。また、データ処理部から出力された予測データを読取装置に対して無線送信するため、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。
【0017】
(3)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記第1のセンサは、前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量として、前記コンクリート構造物に埋設される鋼材の腐食の程度、前記コンクリート構造物の施工における型枠などへのコンクリートの充填およびグラウト施工に用いられるシース管へのグラウトの充填状況、前記コンクリート構造物に生じたひずみまたはひび割れの程度、並びに前記コンクリート構造物の中性化の程度の少なくとも一つを検出する1種以上のセンサ、前記第2のセンサは、前記状態量に影響を与える因子の物理量として、前記コンクリート構造物の表面または内部の温度、湿度、含水率、塩分濃度、酸素濃度、pH、圧力または電気的特性の少なくとも一つを検出する1種以上のセンサであることを特徴としている。
【0018】
このように、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果によって補正した結果を出力することができるので、コンクリート構造物の正確な状態を把握することができる。また、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果と、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果に基づいて第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測し、予測データを出力することができるので、コンクリート構造物の経時変化を正確に予想することができる。
【0019】
(4)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記データ処理部は、前記読取装置から前記無線通信部を介して入力された同期信号に基づいてカウントアップまたはカウントダウンし、カウント値を出力するカウンタ部と、前記第1のセンサおよび第2のセンサの各センサが接続され、前記カウント値の入力に基づいて稼動させる前記第1のセンサおよび第2のセンサのいずれかを選択するセレクト部と、を備えることを特徴としている。
【0020】
このように、カウンタ部のカウント値に基づいて稼動させるセンサを選択するので、データ処理部の回路構成を簡略化させることができ、低消費電力化を図ることができる。また、センサの数が多い場合であっても容易に対応することができる。
【0021】
(5)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記セレクト部は、前記カウンタ部における最上位桁の値が変化したときのカウント値に基づいて稼動させる前記センサを選択することを特徴としている。
【0022】
この構成により、簡単な処理でセンサの選択を行なうことができるので、低消費電力化を図ることができる。
【0023】
(6)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記セレクト部は、前記選択したセンサのみに対して電力を供給することを特徴としている。
【0024】
このように、選択したセンサのみに対して電力を供給するので、それ以外のセンサには電力は供給されない。その結果、複数のセンサが同時に常にONとなっていることが無いため、消費電力を低く抑えることが可能となる。
【0025】
(7)また、本発明に係るセンサデバイスは、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサおよび前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサからの検出データを入力し、前記鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を示すデータを出力するセンサデバイスであって、前記第1のセンサまたは第2のセンサを切り替える制御を行なう制御部と、前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量を補正して補正後のデータを出力する補正部と、を備えることを特徴としている。
【0026】
このように、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサとからデータを入力するので、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果によって補正した結果を出力することが可能となる。これにより、コンクリート構造物の正確な状態を把握することができる。また、補正された正しいデータが読取装置へ送信されるため、読取装置との通信の効率化が図られる。その結果、低消費電力化に寄与することができる。
【0027】
(8)また、本発明に係るセンサデバイスは、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサおよび前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサから検出データを入力し、前記鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を示すデータを出力するセンサデバイスであって、前記第1のセンサまたは第2のセンサを切り替える制御を行なう制御部と、前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測して予測データを出力する予測部と、を備えることを特徴としている。
【0028】
このように、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサとからデータを入力するので、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果に基づいて第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測し、予測データを出力することが可能となる。これにより、コンクリート構造物の経時変化を正確に予想することができる。更には、アナログスイッチ、カウンタとアナログセレクタなどを利用し、読取装置からの指示により複数のセンサを切り換えることにより、消費電力を少なくすることができ、なおかつ複数のセンサから得た状態量と物理量の情報に基づいてあらゆる角度からコンクリート構造物の状態を精度よく把握することができる。コンクリート構造物にセンサを設置する手間が省略化でき、コンクリート構造物への負荷も低減される。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る複合センサモジュールによれば、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果によって補正した結果を出力することができるので、コンクリート構造物の正確な状態を把握することができる。また、コンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量に関する検出結果を、それらに影響を与える因子の物理量の検出結果に基づいて第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測し、予測データを出力することができるので、コンクリート構造物の経時変化を正確に予想することができる。また、データ処理部から出力されたデータを読取装置に対して無線送信するため、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。その結果、伝送ケーブルを通じて構造物の耐久性を低下させる劣化因子(塩分、酸素、水、炭酸ガス、硫酸イオン、酸性物質など等)のコンクリートへの進入を引き起こすことなく、美観を損なわず簡易かつ低コストで、鉄筋の腐食を測定することが可能となる。また、補正されたデータが読取装置へ送信されるため、読取装置との通信の効率化が図られる。その結果、低消費電力化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る複合センサモジュールの概略構成を示すブロック図である。この複合センサモジュール100は、タグ本体100aと、第1のセンサ10および第2のセンサ20と、データ処理部101と、無線通信部102と、を備えており、読取装置との間でデータを無線で送受信することができる。
【0031】
第1のセンサ10は、例えば、ひび割れ、ひずみ、コンクリート構造物の鉄筋や型枠などへのコンクリート充填やシース管へのグラウト充填状態、鋼材腐食、中性化、疲労などの状態量の少なくとも一つ以上を測定するセンサである。ここで、第1のセンサ10は、複数種類の状態量を検出するセンサが複数個ずつ設けられているものであっても良いし、単一種類の状態量のみを検出するセンサが複数設けられることにより構成されても良い。
【0032】
より具体的なものとしては、ひずみやひび割れを測定するセンサとしては、例えば、抵抗体に外力を加えると変形し、その電気抵抗が変化する原理を応用したストレイン(ひずみ)ゲージなどが挙げられる。ストレインゲージは、金属抵抗線ゲージのほか、箔抵抗ゲージや半導体伸縮に伴って電気抵抗の変化することを利用したひずみセンサ(歪ゲージ)やパイゲージ、光の干渉作用を利用した光ファイバーセンサなどが利用できる。
【0033】
また、コンクリート構造物におけるグラウト施工に用いられるシース管へのグラウトの充填状況を検出するためには、コンクリート構造物の鉄筋、型枠などへのコンクリート充填やシース管へのグラウト充填状態を測定するセンサが利用できる。例えば、一対の電極からなり電極間の電気抵抗、インピーダンス、電極間電位差、静電容量、インダクタンスなどの数値変化からコンクリートやグラウトなど流動体の充填状態を判定する原理のものである。
【0034】
また、鋼材の腐食を検出するためには、鋼材または鋼材の近傍に設けられる金属製の検出用部材を有し、前記検出用部材の腐食を、前記検出用部材の電気的特性を少ない電力消費量で測定することにより検出する腐食センサを利用することができる。
【0035】
また、中性化を測定するセンサとしては、例えば、水素イオンを測定するpHセンサ、イオン選択性電極と電界効果型トランジスタ(FET)を一体化した半導体センサや一対の電極からなり電極間の電気抵抗、インピーダンス、電極間電位差、静電容量、インダクタンスなどの数値変化からをコンクリートの中性化を検出するセンサなどが利用できる。
【0036】
次に、図1において、第2のセンサ20は、温度、湿度、圧力、酸素濃度、炭酸ガス濃度、塩分濃度、水分、含水率、pHなどの物理量の少なくとも一つ以上を測定するセンサである。第2のセンサ20は、複数種類の状態量を検出するセンサが複数個ずつ設けられているものであっても良いし、単一種類の状態量のみを検出するセンサが複数設けられることにより構成されても良い。
【0037】
より具体的なものとしては、温度を測定するセンサとしては、例えば、サーミスタ、金属の抵抗をはかって温度を求める測定温抵抗体、二種類の金属で回路をつくり、その二つの接合点を異なる温度に保つと熱起電力が生じ電流が流れる「ゼーベック効果」の原理を利用した熱電対などが利用できる。
【0038】
また、湿度や含水率などの水分を測定するセンサとしては、例えば、高分子膜の水分の吸収・放出に伴う誘電率変化から雰囲気の相対湿度を測定する高分子膜湿度センサ、乾湿材がセラミック焼結体で水蒸気の吸着しやすい多孔質セラミックなどを用いることができる。
【0039】
また、塩分濃度を測定するセンサとしては、例えば、pHを測定するセンサとして、一般的に知られている水素イオンを測定するpHセンサやイオン選択性電極と電界効果型トランジスタ(FET)を一体化した半導体センサなどが利用できる。
【0040】
また、二酸化炭素や酸素などのガス状物質の濃度を測定するセンサとしては、厚膜印刷技術を応用した厚膜ガスセンサの利用が好ましい。これは、1チップ上に複数のガスセンサを形成できるため、センサの小型化が可能であり、小型化することにより、ヒーターの消費電力を小さくすることができる。なお、酸素センサとしては、ガルバニ電池式、ポーラロ電池式などの利用もできる。ガルバニ電池式酸素センサは、貴金属(金など)のカソードと卑金属(鉛)のアノードで一対の電極を構成し、非多孔性フッ素樹脂の隔膜を通ってくる酸素はカソード電極(金)上で還元され、アノード電極上で酸化反応が起こり、酸素濃度に比例して電極間を流れる電流を電圧として検出する。
【0041】
また、圧力を測定するセンサとしては、半導体圧力センサ、静電容量型圧力センサ、共振型圧力センサ、電気抵抗型、ダイアフラム型などが利用できるが、例えば、加えられた圧力の量に比例して自発的に電圧信号を発生する酸化亜鉛(ZnO)圧電薄膜などが好ましい。圧電薄膜は、センシング用に電流を流す必要がなく、回路の簡素化とセンサ自身の発熱による寿命低下も改善できる。
【0042】
第1のセンサ10および第2のセンサ20は、ともに電力消費の少ないセンサで構成されることが望ましい。また、第1のセンサ10と第2のセンサ20との組合せとしては、例えば、歪と温度、歪と圧力、歪とpH、ひび割れ幅と温度、充填と温度、腐食と温度、腐食と湿度、酸素濃度、塩分濃度および含水率の少なくとも一つ以上、中性化と湿度、含水率、温度およびpHの少なくとも一つ以上、塩分濃度とpHなどを測定するセンサの組合せが挙げられる。第1のセンサ10における複数種類のセンサの組み合わせとしては、充填と腐食、腐食とひび割れ幅、充填とひび割れ幅、ひずみと中性化などが挙げられる。このような組合せ情報を検出するために、それぞれの情報検出に適したセンサを組み合わせることに、コンクリート構造物の耐久性に係る情報を正確に判定することが可能となる。
【0043】
次に、図1において、データ処理部101は、制御部30、メモリ40、および補正・予測部50を備えている。制御部30は、CPU、タイマ、スイッチなどから構成され、第1のセンサ10および第2のセンサ20の動作を制御し、検出したデータを出力する。メモリ40は、CPUが実行するプログラムや検出データを記憶する。補正・予測部50は、第1のセンサ10による検出結果を、第2のセンサ20による検出結果によって補正し、補正データを出力する。これにより、コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を、その状態量に影響を与える因子によって補正するので、コンクリート構造物の正確な状態を把握することができる。また、補正・予測部50は、第2のセンサ20による検出結果に基づいて、第1のセンサ10により検出されたコンクリート構造物の耐久性または施工性に係る状態量の経時変化を予測し、予測データを出力する。これにより、コンクリート構造物の経時変化を正確に予想することができる。なお、データ処理部101は、具体的には、第1のセンサ10および第2のセンサ20によって電気的特性を測定するために必要な各種回路、例えば、高出力電流回路、反転増幅回路、同相増幅回路、ボルテージフォロー回路、積分増幅回路、比較演算回路、ヒステリシス特性の比較演算回路、マルチバイブレーター回路、電流−電圧変換回路などを構成するように各種抵抗素子やコンデンサ、コイルなどにより構成されている。
【0044】
また、無線通信部102は、無線通信回路を構成する復調部202、変調部203、および電流清流部204と、アンテナ205とから構成される。無線通信部102は、そのほかに、図示しない充電/電源部、メモリなどが含まれ、電源部は外部から供給される電磁波からの誘電電圧を一時的に蓄える蓄電機能を備えたものであってもよい。メモリは、全体の制御を行うオペレーティングシステムが格納されているROM、データの書き換えや構造物の状態を検知するプログラムが格納されている不揮発性メモリであるEEPROM、検知した情報を記録するRAMなどで構成される。メモリにはセンサ部のID番号を搭載してもよく、また、読取装置から構造物の埋め込み位置に関する情報をRAMに書き込み、これら情報をセンサで検知した情報と共に読み取り装置で読み取ってもよい。
【0045】
無線通信部102のアンテナ205は、金属類、カーボンファイバーやフェライトなどを用い、中空の巻き線、あるいは磁性体巻き線、あるいは基板上にプリント技術を利用して成形したものや、PETなどのフィルム間にこれら材料を挟み込んで使用してもよく、また、その形状はリング状、棒状、円盤状など適当な形に成型されたものを用いてもよい。
【0046】
有線方式によると、内部に埋設されたセンサから導電コードをコンクリートの外部まで伸ばすため、導電コードまたは導電コードとコンクリートの接触面が酸素、水または塩化物イオンのような鋼材の腐食因子の通り道になる可能性がある。特に長期間にわたりコンクリート構造物が使用されるとコンクリートの耐久性に大きな差が生じうる。100年を越えるような長期間におけるコンクリートの耐久性を考えた場合、積極的に採用されるべきものではない。また、内部状態を検知する検知部をコンクリート内部に置き、アンテナのみをコンクリート表面に設置した場合、検知部とアンテナは導電コードを使用する必要があるが、鋼材の腐食因子が導電コードを伝ってコンクリート内部へと侵入する可能性があり、コンクリートの耐久性を損ねるといった問題があった。本実施形態では、複合センサモジュールをコンクリート構造物に埋め込んで、読取装置と無線通信を行なうことによって、これらの問題を解決させた。コンクリート構造物に埋め込む複合センサモジュールの数や埋め込み方は特に限定されない。
【0047】
図2は、本実施形態に係る複合センサモジュールの第1のセンサ10、第2のセンサ20、および制御部30の概略構成を示すブロック図である。ここでは、第1のセンサ10として、センサ0とセンサ1の2種類の状態量を検出するセンサが設けられているものとする。また、第2のセンサ20として、センサ2とセンサ3の2種類の物理量を検出するセンサが設けられているものとする。セレクタ部31には、各センサが接続されている。セレクタ部31は、カウンタ部32から入力されるカウント値で指定されたセレクタ番号のみをONとし、そのセレクタ番号に対応するセンサのみを稼動させる。カウンタ部32は、同期信号(CLK)の入力に基づいて、カウントアップまたはカウントダウンを行ない、カウント値をセレクタ部31へ出力する。コンパレータ33は、検出電圧と閾値電圧とを比較する。スイッチ34は、電力供給部36からの電力をADC INへの供給する、またはしないを決定する。スイッチ35は、電力が必要なセンサに対して使用されるスイッチである。
【0048】
図3は、制御部30の動作を示すタイミングチャートである。まず、初期動作として、カウンタ部のカウント位置の確定を行なう。読取装置から、無線を介して同期信号を受信する。この同期信号は、General Purpose Output(以下、単に「GPO」と呼称する。)であるGPO(CLK)にGPOデータ、すなわち、「1、0」を交互に出力する。そして、General Purpose Input(以下、単に「GPI」と呼称する。)として、QC(GPI)データが、変化するまで何度か出力する。ここで、QC(GPI)データが変化するとは、1が0となるか、または0が1となることである。図3において、QC(GPI)が変化したところが、センサ0の位置となるので、ここから測定を開始する。次に、センサデータの測定を行なう。上記のように、カウント値が確定したら、何番目のセンサがONとなっているかを識別できるため、そのセンサを稼動させて状態量(物理量)の測定を行なう。なお、センサとしてサーミスタのように電力の印加を必要とするセンサの場合は、スイッチ35を同時にONとさせて測定する。この場合、測定のために稼動させるセンサのみに対して電力を供給するため、低消費電力化を図ることができる。なお、どのタイミングでスイッチ35をONとするかは、予め決めておく。そのセンサによる測定が終了したら、次のセンサを稼動させるために、GPOデータとして「1,0」を交互に出力し、カウント値を進める。ここで、カウント値を遅らせても良い。なお、測定中に通信エラーなどが検出された場合は、上記初期動作に戻り、再びカウント値の確定を行なう。
【0049】
なお、図2および図3の説明では、センサが4つ設けられた例を示したが、本発明は、これに限定されるわけではない。例えば、センサが2つしかない場合でも本発明を適用することが可能である。この場合、セレクタ部およびカウント部の代わりに、単にON/OFFスイッチを設け、このON/OFFスイッチに2つのセンサを接続させて、センサの切り替えを行なうことも可能である。センサの切り替え制御が正常に行なわれたことを確認するために、センサの切り替えを行なったら切り替え制御信号「GPO OUT」を読取装置に対して送信することが望ましい。
【0050】
複合センサモジュールを以上のように構成することによって、複数のセンサを有していても、データ処理部101および無線通信部102はそれぞれ一つのみで構成することができ、回路構成の簡略化を図ることが可能となる。
【0051】
なお、図示しない読取装置は、アンテナ、変調復調装置、メモリ、CPUと、電源を供給するための電源部とからなり、必要に応じてセンサ部からの情報を直接、あるいはデータ処理を行って外部出力端子を介して他の装置に出力させてもよい。
【0052】
読取装置は、コンクリート構造物に設置された複合センサモジュールに対して、適宜無線信号を送信し、第1のセンサによりコンクリート構造物の状態量を検出する。次に、第2のセンサに切り替えて、第2のセンサにより上記状態量に影響を与える物理量を検出する。そして、第1のセンサにより検出した状態量を、第2のセンサにより検出した物理量によって補正し、または状態量の経時変化を予測する。そして、補正後のデータまたは予測データを出力する。
【実施例1】
【0053】
実施例1は、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する第1のセンサとして、ひずみゲージを採用すると共に、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する第2のセンサとして温度センサを採用し、ひずみゲージによる検出結果を温度センサによる検出結果に基づいて補正する場合について説明する。
【0054】
図4は、実施例1に係る複合センサモジュールの概略構成を示す図である。第1のセンサ10として、コンクリートのひび割れを検出するひずみゲージを採用し、また、第2のセンサ20として、温度センサ20aを採用した。すなわち、コンクリートに生じたひずみの大きさは、温度によって影響を受けるため、データ処理部101において、検出したひずみの大きさを、検出した温度によって補正するのである。また、検出した温度によって、コンクリートに生じたひずみの経時変化を予測しても良い。補正または予測したデータは、無線通信部102によって読取装置に対して無線送信される。
【0055】
図5は、実施例1に係る複合センサモジュールの具体例を示す図である。第1のセンサ10としてのひずみゲージ10aは、金属により円弧状に形成された基部Kの上端に設けられており、リード線10bを介してタグ本体100aに接続されている。また、ひずみゲージ10aは、コンクリートCに対して固定金具10cによって固定されている。図中、向かって右側の固定金具10cには、第2のセンサ20としての温度センサが固定されている。ここで、コンクリートCに、ひび割れLが生じたものとする。
【0056】
ひずみゲージの抵抗値は、ひずみ量に比例して変化するだけでなく、周囲温度の変化によっても変化する。一般的に、ひずみゲージを構造物に貼り付けた場合、外からひずみゲージに力が加えられなくても、環境温度の変化によりゲージの受感部材料の線膨張係数に応じたひずみが生じ、ひずみゲージの抵抗が変化する。また、それと同時にゲージの受感部材料の抵抗温度係数により、抵抗変化を生じる。これについては、熱出力(温度による見掛けひずみ)とも言われている。たとえば、試験体が温度変化により自由膨張したとすると、次の式で温度による見掛けひずみが算出できる。
εT=(α/K)ΔT+(βs−βg)ΔT
ここで、上記式中の各項は以下の意味を有するものとする。
【0057】
α:ゲージ受感部の抵抗温度係数
βs:試験体の線膨張係数
βg:ゲージ受感部の線膨張係数
ΔT:温度変化
K:ゲージ率
εT:熱出力
上記式より算出された見かけのひずみ量を、検出されたひずみ量から差し引くことにより、温度補正後の正確なひずみ量を得ることが可能となる。このような温度補正を行うことにより、従来の自己温度補償ゲージでは対応できない温度範囲についても精度良くデータを温度により補正し、検出することが可能となる。なお、この説明は、ひずみ測定における補正方法であるが、ひび割れについても同様に適用することが可能である。
【0058】
なお、実施例1では、温度が高くなるとひずみゲージおよび下地の材料それぞれの線膨張係数に応じた影響が含まれるので、この影響を補正できるものとして、第1のセンサとしてひずみゲージを採用し、第2のセンサとして温度センサを採用した。しかし、本発明は、これに限定されるわけではない。すなわち、第2のセンサとして、温度センサの変わりに、湿度(含水率)センサを用いることも可能である。これは、下地が乾燥するとひび割れは縮まることから、湿度を測定することによりこの影響を補正できるためである。
【0059】
また、第2のセンサとして、塩分濃度センサを用いることも可能である。コンクリート中に塩化物イオンが存在すると、フリーデル氏塩と呼ばれる膨張性化合物が生成される。塩化物イオンの増大に伴い、ひび割れ幅も大きくなっていると、ひび割れ発生の原因の一つとしてフリーデル氏塩の生成が影響していることが分かるためである。
【0060】
また、第2のセンサとして、酸素濃度センサを用いることも可能である。コンクリート中の酸素の酸素濃度が増大すると、ひび割れ幅も大きくなっていると考えられえることから、両者を測定することにより、ひび割れ幅およびひび割れ進展を精度良く把握できるためである。
【0061】
また、第2のセンサとして、pHセンサを用いることも可能である。これは、アルカリ骨材反応によるひび割れかが分かるためである。
【0062】
また、第2のセンサとして、圧力センサを用いることも可能である。これは、構造物にどのような応力がかかっているか分かるためである。
【実施例2】
【0063】
実施例2では、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する第1のセンサとして鋼材の腐食センサを採用すると共に、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する第2のセンサとして塩化物イオンセンサを採用し、腐食センサによって検出された鋼材の腐食の度合い(経時変化)を塩化物イオンセンサによる検出結果に基づいて予測する場合について説明する。
【0064】
鋼材の腐食は、鋼材位置における塩化物イオン濃度や酸素の供給量を予測できれば、腐食程度を表わす境界面の通過についても予測することが可能になる。ただし、塩化物イオンの拡散の予測には、コンクリートの品質や構造物の置かれている環境条件の影響を適切に考慮する必要がある。鋼材の腐食は、かぶりコンクリート位置における塩化物イオン濃度が、腐食発生限界濃度(1.2kg/m)に達すると開始すると言われている。かぶりコンクリート中の塩化物イオン濃度の浸透深さ(拡散速度)を求めれば鋼材の腐食開始時期を予測することができる。
【0065】
塩化物イオン拡散係数は、Clの浸透を拡散現象とみなし、Clのコンクリートへの見かけの拡散係数Daを求めることで、Fickの第2法則の解析解を用いる。
【0066】
【数1】

鉄筋コンクリート構造物中の鋼材近傍とコンクリートの表面付近に設置した塩化物イオンセンサから検出された塩化物イオン濃度を上記式に代入することにより鋼材の腐食開始時期を予測できる。鋼材近傍に設置した鋼材の腐食状態を検出する腐食センサから得られる情報と照らし合わせることにより、精度良く鋼材の腐食時期を予測することが可能となる。
【0067】
なお、実施例2では、鋼材近傍の塩化物イオン量に基づいて、腐食限界量にいつ頃到達するかの時期を予測できることから、第1のセンサとして腐食センサを採用し、第2のセンサとして塩化物イオン濃度センサを採用した。しかし、本発明は、これに限定されるわけではない。すなわち、第2のセンサとして、塩化物イオン濃度センサの変わりに、温度センサまたは湿度(含水率)センサを用いることも可能である。これは、温度または湿度が高くなると腐食反応は早くなるため、温度または湿度を測定することにより腐食速度を補正し、または腐食開始時期を精度良く予測することができる。
【0068】
また、第2のセンサとして、酸素濃度センサを用いることも可能である。これは、酸素濃度が高くなると鋼材腐食が進展するため、腐食進展の予測ができるためである。
【0069】
また、第2のセンサとして、pHセンサを用いることも可能である。これは、かぶりコンクリートのpHが低下すると、鋼材は腐食しやすくなるため鋼材腐食開始時期および鋼材の腐食開始後の腐食進展を予測できるためである。
【0070】
また、第2のセンサとして、一つまたは複数種類のセンサにより、温度、湿度、塩化物イオン濃度、酸素濃度のそれぞれを検出してもよい。これは、腐食に影響を及ぼす各因子を測定することにより、精度良く鋼材腐食開始時期および鋼材の腐食開始後の腐食進展を予測できるためである。
【実施例3】
【0071】
実施例3では、鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する第1のセンサとして中性化をみるpHセンサを採用すると共に、その状態量に影響を与える因子の物理量を検出する第2のセンサとして炭酸ガス濃度検知センサ、温度センサを採用し、pHセンサによって検出された中性化の腐食の度合い(経時変化)を炭酸ガス濃度検知センサによる検出結果に基づいて予測する場合について説明する。
【0072】
大気中の炭酸ガスによるコンクリート表面からの中性化の進行を、経過時間の関数として表したものを中性化速度式という。中性化が定常状態での炭酸ガスのコンクリート中への拡散によって生じると仮定すると、中性化深さCは経過時間tの平方根に比例するという式が導かれる。これは通常√t則と呼ばれ、最も一般的に用いられている。中性化深さの予測には、例えば以下の式を用いる。
Ct=A×√t
A=α×β×γ
ここで、上記式中の各項は以下の意味を有するものとする。
【0073】
Ct:中性化深さ(mm)
A:中性化速度係数
α:中性化深さのバラツキを考慮した安全係数(=1.15)
β:環境条件による係数
γ:コンクリートの品質による係数(=1.00)
t :時間
前記式のβについては、炭酸ガス濃度検知センサ、温度センサ、湿度検知センサなどから検出される炭酸ガス濃度、温度、湿度の情報を元に決定する。鉄筋コンクリート構造物中にpHセンサおよび炭酸ガス濃度検知センサを設置した場合、pHセンサで検出された情報を元に中性化深さを把握し、炭酸ガス濃度検知センサで検出された情報を元に、中性化深さの予測を行なうことが可能となる。
【0074】
また、第2のセンサとして、湿度(含水率)センサを用いることも可能である。これは、湿度が高くなると中性化が進みやすくなるため、湿度を測定することにより中性化速度の補正ができるためである。
【0075】
また、第2のセンサとして、酸素濃度センサを用いることも可能である。これは、定期的に測定することによりコンクリートの透気性が分かるためである。
【0076】
以上、実施例1から実施例3までを説明したが、本発明は、これら以外の組合せをも想定している。例えば、第1のセンサとして、プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト施工に用いられるシース管へのグラウトの充填状況を検出する充填センサを採用すると共に、第2のセンサとして、温度センサを採用することも可能である。一般的に、物質の電気抵抗は、温度が高いと低くなり、温度が低いと高くなる特性がある。このため、通常は、現場で事前に打設するコンクリートあるいはグラウトを用いてキャリブレーションが行なわれているが、温度を一緒に測定することにより、測定した温度データで充填状況に対応して検出される電気的特性値(電気抵抗、電圧、インピーダンス、静電容量など)を温度により補正を行なうことで、キャリブレーションの手間を省くことができるためである。
【0077】
また、第2のセンサとして、湿度(含水率)センサを用いることも可能である。一般的に、流動体の含水率が高い場合、電極間の流動体の電気抵抗は小さくなり、含水率が低い場合、電極間の流動体の電気抵抗は大きくなる特性がある。含水率を一緒に測定することにより、測定した含水率により補正を行なうことで検出された電気的特性値を補正できるのと併せて、流動体に配合した水量を推定することができるためである。
【0078】
また、第2のセンサとして、塩化物イオン濃度センサを用いることも可能である。流動体中に各種イオンが多量に含まれると、電気抵抗は小さくなる。このため、塩分量を一緒に測定することにより、温度、水分の影響以外に塩化物イオン量の影響についても補正することができ、さらには、流動体中に含まれる塩化物イオン量を推定することができ、塩化物イオン量が規制値未満となっているか性能照査できるためである。なお、コンクリート中の塩化物イオン濃度の規制値は、0.30kg/mである。
【0079】
また、第2のセンサとして、一つまたは複数種類のセンサにより、温度、湿度、塩化物イオン濃度のそれぞれを検出してもよい。これは、温度、含水率、塩化物イオン量が電気的特性に与える影響を補正できるためである。
【0080】
また、第2のセンサとして、酸素濃度センサを用いることも可能である。一般的に、コンクリートには、流動性向上や凍結融解作用に対する耐久性を高めるために1mあたり4.5±1%の空気を混入させているが、酸素濃度を一緒に測定することによりコンクリート(流動体)中の空気量を推定できるためである。
【0081】
また、第2のセンサとして、圧力センサを用いることも可能である。シ−ス管内圧力が大きいとグラウトが分離したり、管が破裂したりするなどの事故に繋がる可能性がある。圧力を一緒に測定することにより、材料分離を防止でき、グラウトをしっかりと充填することができる。また、シース管の破裂などの事故防止となる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本実施形態に係る複合センサモジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係る複合センサモジュールの第1のセンサ、第2のセンサ、および制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】制御部の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】実施例1に係る複合センサモジュールの概略構成を示す図である。
【図5】実施例1に係る複合センサモジュールの具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
10 第1のセンサ
10a ひずみゲージ
10b リード線
10c 固定金具
20 第2のセンサ
20a 温度センサ
30 制御部
31 セレクタ部
32 カウンタ部
40 メモリ
50 補正・予測部
100 複合センサモジュール
100a タグ本体
101 データ処理部
102 無線通信部
202 復調部
203 変調部
204 電流整流部
205 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を検出する複合センサモジュールであって、
前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、
前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサと、
前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量を補正して補正後のデータを出力するデータ処理部と、
前記データ処理部から出力された補正後のデータを読取装置に対して無線送信する無線通信部と、を備えることを特徴とする複合センサモジュール。
【請求項2】
鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を検出する複合センサモジュールであって、
前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサと、
前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサと、
前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測して予測データを出力するデータ処理部と、
前記データ処理部から出力された予測データを読取装置に対して無線送信する無線通信部と、を備えることを特徴とする複合センサモジュール。
【請求項3】
前記第1のセンサは、前記鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量として、前記コンクリート構造物に埋設される鋼材の腐食の程度、前記コンクリート構造物の施工における型枠などへのコンクリートの充填およびグラウト施工に用いられるシース管へのグラウトの充填状況、前記コンクリート構造物に生じたひずみまたはひび割れの程度、並びに前記コンクリート構造物の中性化の程度の少なくとも一つを検出する1種以上のセンサであり、
前記第2のセンサは、前記状態量に影響を与える因子の物理量として、前記コンクリート構造物の表面または内部の温度、湿度、含水率、塩分濃度、酸素濃度、pH、圧力または電気的特性の少なくとも一つを検出するする1種以上のセンサであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合センサモジュール。
【請求項4】
前記データ処理部は、
前記読取装置から前記無線通信部を介して入力された同期信号に基づいてカウントアップまたはカウントダウンし、カウント値を出力するカウンタ部と、
前記各センサが接続され、前記カウント値の入力に基づいて稼動させる前記センサのいずれかを選択するセレクト部と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の複合センサモジュール。
【請求項5】
前記セレクト部は、前記カウンタ部における最上位桁の値が変化したときのカウント値に基づいて稼動させる前記センサのいずれかを選択することを特徴とする請求項4記載の複合センサモジュール。
【請求項6】
前記セレクト部は、前記選択したセンサのみに対して電力を供給することを特徴とする請求項4または請求項5記載の複合センサモジュール。
【請求項7】
鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサおよび前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサからの検出データを入力し、前記鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を示すデータを出力するセンサデバイスであって、
前記第1のセンサまたは第2のセンサを切り替える制御を行なう制御部と、
前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量を補正して補正後のデータを出力する補正部と、を備えることを特徴とするセンサデバイス。
【請求項8】
鉄筋コンクリート構造物の耐久性または施工性に関わる状態量を検出する1種以上の第1のセンサおよび前記状態量に影響を与える因子の物理量を検出する1種以上の第2のセンサから検出データを入力し、前記鉄筋コンクリート構造物の表面または内部の健全度を示すデータを出力するセンサデバイスであって、
前記第1のセンサまたは第2のセンサを切り替える制御を行なう制御部と、
前記第2のセンサによる検出結果に基づいて前記第1のセンサによって検出された状態量の経時変化を予測して予測データを出力する予測部と、を備えることを特徴とするセンサデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−349535(P2006−349535A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177061(P2005−177061)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(391006773)株式会社沖電気コミュニケーションシステムズ (16)
【Fターム(参考)】