説明

超電導薄膜材料およびその製造方法

【課題】高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立することが可能な超電導薄膜材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】超電導薄膜材料1は、金属配向基板10と、金属配向基板10上に形成された酸化物超電導膜30とを備え、酸化物超電導膜30は、物理蒸着法により形成された物理蒸着HoBCO層31と、物理蒸着HoBCO層31上に有機金属堆積法により形成された有機金属堆積HoBCO層32とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導薄膜材料およびその製造方法に関し、より特定的には、基板上に超電導膜が形成された超電導薄膜材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属基板上に、パルスレーザー蒸着(PLD;Pulsed Laser Deposition)法などの物理蒸着(PVD;Physical Vapor Deposition)法や、TFA−MOD(Trifluoroacetate−Metal Organic Deposition)法などの有機金属堆積(MOD;Metal Organic Deposition)法により超電導膜を形成した超電導テープ線材などの超電導薄膜材料の開発が進められている。たとえば、金属テープ上にPLD法などを用いて酸化物超電導層を形成する際、金属テープの搬送速度、および金属テープと酸化物作成用のターゲットとの距離を所定の値とすることにより、大きな臨界電流密度(J)を有する酸化物超電導線材を効率的に生産する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−38632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PVD法、特にPLD法を採用して超電導膜を形成した場合、当該超電導膜の組成は、ターゲットの組成に近く、高いJおよび高い臨界電流(I)を有する超電導薄膜材料が得られるという利点がある。しかし、PVD法を採用した場合、減圧下での成膜が必要となる。そのため、効率的な大量生産を実施することが困難で、製造コストが上昇する。また、PVD法を採用して超電導膜を形成する場合、膜厚が厚くなると当該膜の表面の平滑性が低下するという問題点もある。
【0004】
一方、MOD法を採用して超電導膜を形成した場合、生産設備の簡略化が比較的容易である。そのため、PVD法を採用する場合に比べて、装置コストの低減が比較的容易であり、安価な超電導薄膜材料を生産可能であるという利点がある。また、MOD法により形成された超電導膜は、表面平滑性に優れているという利点も有している。しかし、たとえばTFA−MOD法においては、成膜過程で超電導膜内からフッ素が離脱しつつ、超電導膜の結晶が成長するため、超電導膜の結晶の成長速度が遅く、生産効率の向上は必ずしも容易ではない。また、前述のフッ素の離脱を均一に進行させる必要があるため、たとえば幅の広い超電導薄膜材料を製造することは困難であり、生産効率の向上が阻害される。さらに、TFA−MOD法においては、そのプロセス中に、取扱に注意を要するフッ化水素が生成するため、フッ化水素の処理コストが必要となり、超電導薄膜材料の生産コスト上昇の原因となる。
【0005】
これに対し、フッ素系の有機金属塩溶液を使用しない無フッ素系MOD法を採用することで、上述のTFA−MOD法の問題点を解消することができる。しかし、無フッ素系MOD法においては、基板や基板上に形成された中間層からの超電導膜の核成長が容易ではないという問題点を有している。
【0006】
以上のように、従来、超電導薄膜材料において、高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立することが可能な超電導薄膜材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従った超電導薄膜材料は、基板と、基板上に形成された超電導膜とを備えている。そして、超電導膜は、物理蒸着法により形成された物理蒸着層と、物理蒸着層上に有機金属堆積法により形成された有機金属堆積層とを含んでいる。
【0009】
高いJおよび高いI等の優れた特性を超電導薄膜材料に付与するためには、超電導膜において高い表面平滑性および配向性を確保しつつ、十分な膜厚の超電導膜を形成することが重要である。本発明者は、これを低コストで実現可能な超電導薄膜材料およびその製造方法について詳細に検討を行なった。その結果、まず、物理蒸着法(PVD法)によりターゲットの組成に近く、配向性の高い超電導膜としての物理蒸着膜を形成し、その上に有機金属堆積法(MOD法)により超電導膜としての有機金属堆積層を形成することにより、配向性が高く、かつ表面平滑性の高い超電導膜を低コストで形成できることを見出した。この製造方法よれば、高いJおよび高いI等の優れた特性を有し、かつ低コストな超電導薄膜材料を製造することができる。すなわち、前述のようにPVD法のみで超電導膜を形成した場合、超電導膜が厚くなると表面平滑性が低下する傾向にあるが、超電導膜全体をPVD法により形成するのではなく、表面平滑性に優れたMOD法と組み合わせることにより、超電導膜の表面平滑性が向上する。また、物理蒸着層を種膜として有機金属堆積層を形成すれば、有機金属堆積層の核成長が容易となる。このように、本発明の超電導薄膜材料によれば、PVD法およびMOD法のそれぞれの欠点を補完しつつ、両者の利点を生かすことにより、高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立し得る超電導薄膜材料を提供することが可能となる。
【0010】
ここで、配向性とは結晶粒の結晶方位が揃っている程度をいう。また、表面平滑性とは膜の表面の平坦性をいう。
【0011】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、基板と超電導膜との間に、さらに中間層を備えている。基板と超電導膜との間に中間層を介在させることにより、超電導膜の配向性の向上が可能である。また、基板と超電導膜との間の原子の拡散および反応を抑制することができる。その結果、超電導薄膜材料の特性を向上させるとともに基板の選択の幅を広げることができる。
【0012】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、超電導膜は、基板の両方の主面上に形成されている。超電導膜は、膜厚が大きくなるにしたがって、表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制が困難になるため、成膜条件の厳密な制御が必要となる。これに対し、基板の両方の主面上に超電導膜を形成することにより、超電導薄膜材料全体で所望のIを確保するために必要な、各主面上の超電導膜の膜厚を薄くすることができる。その結果、各主面上の超電導膜における表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制が容易になるとともに、両方の主面上の超電導膜により十分なIを確保することが可能となる。
【0013】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、超電導膜においては、物理蒸着層と、有機金属堆積層との組み合わせからなる構造が複数積層されている。前述のように、PVD法により形成された物理蒸着層は、膜厚が厚くなるに従って表面平滑性を確保することが困難となる。また、MODにより形成された有機金属堆積層は、膜厚が厚くなるに従ってボイドなどの内部欠陥の抑制が困難になる。これに対して、まず物理蒸着層を形成した後、物理蒸着層上に有機金属堆積層を形成することにより表面平滑性を向上させることができる。さらに、有機金属堆積層の膜厚をボイドなどの内部欠陥の抑制が容易な程度にとどめ、表面平滑性の向上した超電導膜上に再度物理蒸着層を形成し、当該物理蒸着層上に、さらに有機金属堆積層を形成することで、超電導膜の膜厚を厚くできるとともに、再度超電導膜の表面平滑性が向上する。このように、物理蒸着層と有機金属堆積層との組み合わせからなる構造が複数積層されることにより、表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制を容易にしつつ、十分な膜厚の超電導膜を形成し、所望のI、Jなどの超電導特性が確保可能な超電導薄膜材料を提供することができる。
【0014】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、有機金属堆積層の厚みは1μm以下である。MOD法により形成された有機金属堆積層は、膜厚が厚くなるに従ってボイドなどの内部欠陥が発生しやすくなる。有機金属堆積層が1μm以下であれば、比較的容易にボイドなどの内部欠陥の発生を抑制することができる。
【0015】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、物理蒸着層の厚みは2μm以下である。PVD法により形成された物理蒸着層は、膜厚が厚くなるに従って表面平滑性を確保することが困難となる。物理蒸着層が2μm以下であれば、比較的容易に良好な表面平滑性を確保することができる。
【0016】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、上述の物理蒸着法は、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法および電子ビーム法からなる群から選択されるいずれかの蒸着法である。
【0017】
物理蒸着(PVD)法の中でも、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法および電子ビーム法は配向性の高い超電導膜の形成に適しており、本発明の物理蒸着膜の形成に好適である。
【0018】
上記超電導薄膜材料において好ましくは、有機金属堆積法は、フッ素を含む有機金属塩溶液を使用しない無フッ素系有機金属堆積法である。無フッ素系有機金属堆積法は、有機金属堆積(MOD)法の代表的堆積法であるTFA−MOD法とは異なり、成膜過程で超電導膜内からフッ素が離脱しつつ、超電導膜の結晶が成長する堆積法ではないため、超電導膜の結晶の成長速度が速く、生産効率の向上が可能である。また、前述のフッ素の離脱を均一に進行させる必要もないため、たとえば幅の広い超電導薄膜材料を製造することも容易となり、生産効率の向上にも寄与することができる。さらに、成膜プロセス中に、取扱に注意を要するフッ化水素が生成することもないため、フッ化水素の処理コストが不要である。また、中性の溶液を用いて当該プロセスを実施することが可能であるため、本発明の超電導薄膜材料に適用した場合、先に形成された物理蒸着層に損傷を与えることなく有機金属堆積層を形成することができる。その結果、製造コストを抑制しつつ、本発明の超電導薄膜材料の特性を一層向上させることができる。
【0019】
ここで、無フッ素系有機金属堆積法とは、フッ素を含む有機金属塩溶液を使用しない有機金属堆積法をいう。また、当該有機金属堆積法に使用する溶液としては、たとえば金属アセチルアセトナト系の溶液(Ho:Ba:Cu=1:2:3)、ナフテン酸系の溶液等が挙げられる。
【0020】
本発明に従った超電導薄膜材料の製造方法は、基板を準備する基板準備工程と、基板上に超電導膜を形成する超電導膜形成工程とを備えている。そして、超電導膜形成工程は、物理蒸着法により物理蒸着層を形成する物理蒸着工程と、物理蒸着層上に有機金属堆積法により有機金属堆積層を形成する有機金属堆積工程とを含んでいる。
【0021】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法によれば、上述のように、PVD法およびMOD法のそれぞれの欠点を補完しつつ、両者の利点を生かすことにより、高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立することが可能な超電導薄膜材料を製造することができる。
【0022】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、基板準備工程よりも後であって超電導膜形成工程よりも前に、基板と超電導膜との間に中間層を形成する中間層形成工程をさらに備えている。
【0023】
これにより、基板と超電導膜との間に中間層を介在させることで、超電導膜の配向性の向上が可能であり、また、基板と超電導膜との間の原子の拡散および反応を抑制することができる。
【0024】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、物理蒸着工程では、基板の両方の主面上に物理蒸着層が形成され、有機金属堆積工程では、基板の両方の主面上における物理蒸着層上に有機金属堆積層が形成される。
【0025】
これにより、各主面上の超電導膜の膜厚を薄くすることで表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制が容易になるとともに、両方の主面上の超電導膜により十分なIを確保することが可能となる。
【0026】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、物理蒸着工程と有機金属堆積工程とは、交互に複数回実施される。
【0027】
これにより、物理蒸着層と有機金属堆積層との組み合わせからなる構造が複数積層されることによって、表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制を容易にしつつ、十分な膜厚の超電導膜を形成することが可能となる。その結果、所望のI、Jなどの超電導特性が確保可能な超電導薄膜材料を容易に製造することができる。
【0028】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、有機金属堆積工程では、厚み1μm以下の有機金属堆積層が形成される。これにより、比較的容易に有機金属堆積層におけるボイドなどの内部欠陥の発生を抑制することができる。
【0029】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、物理蒸着工程では、厚み2μm以下の物理蒸着層が形成される。これにより、比較的容易に良好な物理蒸着層の表面平滑性を確保することができる。
【0030】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、上述の物理蒸着法は、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法および電子ビーム法からなる群から選択されるいずれかの蒸着法である。
【0031】
物理蒸着(PVD)法の中でも、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法および電子ビーム法は配向性の高い超電導膜の形成に適しており、本発明の超電導薄膜材料の製造方法における物理蒸着膜の形成に好適である。
【0032】
本発明の超電導薄膜材料の製造方法において好ましくは、上述の有機金属堆積法は、フッ素を含む有機金属塩溶液を使用しない無フッ素系有機金属堆積法である。
【0033】
これにより、有機金属堆積(MOD)法の代表的堆積法であるTFA−MOD法と異なり、超電導膜の結晶の成長速度が速く、生産効率の向上が可能である。また、前述のフッ素の離脱を均一に進行させる必要もないため、生産効率の向上に寄与することができる。さらに、成膜プロセス中に、取扱に注意を要するフッ化水素が生成することもないため、フッ化水素の処理コストが不要である。また、中性の溶液を用いて当該プロセスを実施することが可能であるため、本発明の超電導薄膜材料に適用した場合、先に形成された物理蒸着膜に損傷を与えることなく有機金属堆積層を形成することができる。その結果、製造コストを抑制しつつ、本発明の超電導薄膜材料の特性を一層向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
以上の説明から明らかなように、本発明の超電導薄膜材料およびその製造方法によれば、高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立することが可能な超電導薄膜材料およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0036】
(実施の形態1)
図1は本発明の一実施の形態である実施の形態1の超電導薄膜材料の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、実施の形態1の超電導薄膜材料の構成について説明する。
【0037】
図1を参照して、実施の形態1の超電導薄膜材料1は、基板としての金属配向基板10と、金属配向基板10上に形成された中間層20と、中間層20上に形成された超電導膜としての酸化物超電導膜30と、酸化物超電導膜30を保護するために酸化物超電導膜30上に形成された安定化層としてのAg(銀)安定化層40とを備えている。酸化物超電導膜30の材質としては、たとえばHoBCO(ホルミウム系高温超電導材料;HoBaCu)などのレア・アース系酸化物超電導材料を選択することができる。そして、酸化物超電導膜30は、物理蒸着法により形成された物理蒸着層としての物理蒸着HoBCO層31と、物理蒸着HoBCO層31上に有機金属堆積法により形成された有機金属堆積層としての有機金属堆積HoBCO層32とを含んでいる。
【0038】
また、金属配向基板10としては、たとえばNi(ニッケル)配向基板、Ni合金系の配向基板などを選択することができる。さらに、中間層20は、たとえばCeO(セリア)およびYSZ(イットリア安定化ジルコニア)の少なくとも一方を含んだ層とすることができ、具体的には第1のCeO層21と、第1のCeO層21上に形成されたYSZ層22と、YSZ層22上に形成された第2のCeO層23とを含んだ層とすることができる。また、安定化層は上述のAg安定化層40に限られず、たとえばAg安定化層40に代えてCu(銅)からなるCu安定化層を用いてもよい。
【0039】
次に、実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法について説明する。図2は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法における製造工程の概略を示す図である。また、図3は、図2の製造工程のうち、有機金属堆積工程の詳細を示す図である。また、図4〜図6は、実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。図1〜図6を参照して、実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法を説明する。
【0040】
図2を参照して、まず、基板準備工程が実施される。具体的には、配向性ニッケル合金からなるテープ状基板などの金属配向基板10が準備される。次に、図2に示すように、金属配向基板10上に中間層20を形成する中間層形成工程が実施される。具体的には、図2および図4を参照して、金属配向基板10上に第1のCeO層21、YSZ層22および第2のCeO層23を順次形成するように、第1のCeO層形成工程、YSZ層形成工程および第2のCeO層形成工程が順次実施される。この第1のCeO層形成工程、YSZ層形成工程および第2のCeO層形成工程は、たとえばPLD法などの物理蒸着法により実施することができるが、MOD法により実施してもよい。
【0041】
次に、図2に示すように、中間層20上に酸化物超電導膜30を形成する超電導膜形成工程が実施される。具体的には、図2および図5に示すように、まず中間層20上に物理蒸着法により物理蒸着HoBCO層31を形成する物理蒸着工程が実施される。この物理蒸着工程は、パルスレーザー蒸着(PLD)法、スパッタ法および電子ビーム法からなる群から選択されるいずれかの蒸着法を用いることが好ましい。特に、PLD法を採用することにより、酸化物超電導膜30を構成する物理蒸着HoBCO層31の組成をターゲットの組成に近くすることができ、かつ高い配向性を確保可能であるため、超電導薄膜材料1のJおよびIの向上に寄与することができる。
【0042】
さらに、図2および図6に示すように、物理蒸着HoBCO層31上に有機金属堆積法により有機金属堆積HoBCO層32を形成する有機金属堆積工程が実施される。この有機金属堆積工程では、まず、図3に示すように、無フッ素系のHo(ホルミウム)、Ba(バリウム)およびCu(銅)の有機金属塩溶液、たとえば金属アセチルアセトナト系の溶液(Ho:Ba:Cu=1:2:3)、あるいはナフテン酸系の溶液などの溶液を物理蒸着HoBCO層31の表面に塗布する無フッ素系溶液塗布工程が実施される。この無フッ素系溶液塗布工程における有機金属塩溶液の塗布方法としてはディップ法、ダイコート法などを選択することができる。
【0043】
次に、図3に示すように、塗布された有機金属塩溶液から溶媒成分等が除去される仮焼成工程が実施される。具体的には、400℃以上600℃以下の温度域、たとえば500℃の空気中で有機金属塩溶液が塗布された金属配向基板10が加熱されることにより、塗布された有機金属塩溶液が熱分解される。このとき、CO(二酸化炭素)、HO(水)が離脱することにより塗布された有機金属塩溶液から溶媒成分等が除去される。さらに、図3に示すように、上述の仮焼成工程が実施された後、本焼成工程が実施される。具体的には、600℃以上800℃以下の温度域、たとえば750℃のAr(アルゴン)およびO(酸素)の混合雰囲気中で有機金属塩溶液が塗布された金属配向基板10が加熱されることにより、所望の有機金属堆積層である有機金属堆積HoBCO層32が形成される。
【0044】
ここで、図5および図6を参照して、前述のように物理蒸着により形成された物理蒸着HoBCO層31においては、膜厚が厚くなるにしたがって、物理蒸着HoBCO層31の表面である物理蒸着HoBCO層表面31Aの表面平滑性が低下する傾向にある。これに対し、以上のようにして表面平滑性に優れた有機金属堆積HoBCO層32が物理蒸着HoBCO層31上に形成されることにより、表面平滑性の高い有機金属堆積HoBCO層32の表面である有機金属堆積HoBCO層表面32Aが酸化物超電導膜30の表面である超電導膜表面30Aとなる。その結果、表面平滑性に優れた酸化物超電導膜30が形成され、超電導薄膜材料1のI、Jなどが向上する。また、ターゲットの組成に近く、配向性の高い物理蒸着HoBCO層31を種膜として有機金属堆積工程を実施することにより、有機金属堆積HoBCO層32の核成長が容易となる。
【0045】
さらに、図2に示すように、安定化層としてのAg安定化層40が形成されるAg安定化層形成工程が実施される。Ag安定化層40の形成は、たとえば蒸着法により実施することができる。以上の工程が実施されることにより、実施の形態1の超電導薄膜材料1が製造される。
【0046】
本実施の形態1の超電導薄膜材料1およびその製造方法によれば、PLD法および無フッ素系MOD法のそれぞれの欠点を補完しつつ、両者の利点を生かすことにより、高いJおよび高いI等の優れた特性と、低コスト化の実現とを両立することが可能な超電導薄膜材料1を提供することができる。
【0047】
また、本実施の形態1において、有機金属堆積HoBCO層32の厚みは1μm以下であることが好ましい。MOD法により形成された有機金属堆積HoBCO層32は、膜厚が厚くなるに従ってボイドなどの内部欠陥が発生しやすくなる。有機金属堆積HoBCO層32が1μm以下であれば、比較的容易にボイドなどの内部欠陥の発生を抑制することができる。
【0048】
また、本実施の形態1において、物理蒸着HoBCO層31の厚みは2μm以下であることが好ましい。PLD法により形成される物理蒸着HoBCO層31は、膜厚が厚くなるに従って表面平滑性を確保することが困難となる。物理蒸着HoBCO層31が2μm以下であれば、比較的容易に良好な表面平滑性を確保することができる。
【0049】
(実施の形態2)
図7は、本発明の一実施の形態である実施の形態2における超電導薄膜材料の構成を示す概略断面図である。図7を参照して実施の形態2の超電導薄膜材料の構成を説明する。
【0050】
図7を参照して、実施の形態2の超電導薄膜材料1と、上述した実施の形態1の超電導薄膜材料1とは基本的に同様の構成を有している。しかし、実施の形態2の超電導薄膜材料1では、中間層20、酸化物超電導膜30およびAg安定化層40が金属配向基板10の両方の主面上に形成されている点で実施の形態1の超電導薄膜材料1とは異なっている。酸化物超電導膜30は、膜厚が大きくなるにしたがって、表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制が困難になるため、成膜条件の厳密な制御が必要となる。これに対し、本実施の形態2においては、金属配向基板10の両方の主面10A上に酸化物超電導膜30を形成することにより、所望のIを確保するために必要な各主面10A上の酸化物超電導膜30の膜厚を薄くすることができる。その結果、各主面10A上の酸化物超電導膜30における表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制が容易となり、かつ両方の主面10A上の酸化物超電導膜30により十分なIを確保することが可能となっている。
【0051】
次に、実施の形態2の超電導薄膜材料の製造方法について説明する。図8および図9は、実施の形態2の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。図7〜図9を参照して、実施の形態2の超電導薄膜材料の製造方法を説明する。
【0052】
実施の形態2の超電導薄膜材料の製造方法と、図1〜図6に基づいて説明した実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法とは基本的に同様の構成を有している。しかし、図2を参照して、実施の形態2では、中間層形成工程、超電導膜形成工程およびAg安定化層形成工程において、それぞれ中間層20、酸化物超電導膜30、Ag安定化層40が金属配向基板10の両方の主面10A上に形成される点で実施の形態1とは異なっている。具体的には、中間層形成工程において、図8に示すように、金属配向基板10の両方の主面10A上に第1のCeO層21、YSZ層22および第2のCeO層23からなる中間層20が形成される。次に、超電導膜形成工程において、図9に示すように、両方の中間層20上にそれぞれ酸化物超電導膜30が形成される。さらに、Ag安定化層形成工程において、両方の酸化物超電導膜30上にそれぞれAg安定化層40が形成されて、図7に示す実施の形態2の超電導薄膜材料1が完成する。
【0053】
なお、中間層形成工程、超電導膜形成工程およびAg安定化層形成工程においては、金属配向基板10の両方の主面10A上における中間層20、酸化物超電導膜30、Ag安定化層40は一方側ずつ形成されてもよいし、両方同時に形成されてもよい。物理蒸着法により物理蒸着HoBCO層31を両方の主面10A上に同時に形成する場合、たとえば金属配向基板10の両側からレーザ蒸着法により形成することができる。また、無フッ素系有機金属堆積法により有機金属堆積HoBCO層32を両方の物理蒸着HoBCO層31上に同時に形成する場合、たとえばディップ法により、物理蒸着HoBCO層31が形成された金属配向基板10を有機金属塩溶液中に浸漬して形成することができる。
【0054】
(実施の形態3)
図10は、本発明の一実施の形態である実施の形態3における超電導薄膜材料の構成を示す概略断面図である。図10を参照して実施の形態3の超電導薄膜材料の構成を説明する。
【0055】
図10を参照して、実施の形態3の超電導薄膜材料1と、上述した実施の形態1の超電導薄膜材料1とは基本的に同様の構成を有している。しかし、実施の形態3の超電導薄膜材料1では、酸化物超電導膜30において、物理蒸着HoBCO層31と、有機金属堆積HoBCO層32との組み合わせからなる構造が複数積層されている点で、実施の形態1の超電導薄膜材料1とは異なっている。具体的には、物理蒸着HoBCO層31上に有機金属堆積HoBCO層32が形成された積層構造30Bが複数積み重ねられて酸化物超電導膜30が構成されている。図10では、積層構造30Bが2段に積み重ねられた場合を示しているが、酸化物超電導膜30が所望の膜厚となるように、積層構造30Bは3段以上積み重ねられてもよい。
【0056】
前述のように、PVD法により形成された物理蒸着HoBCO層31は、膜厚が厚くなるに従って表面平滑性を確保することが困難となる。また、MOD法により形成された有機金属堆積HoBCO層32は、膜厚が厚くなるに従ってボイドなどの内部欠陥の抑制が困難になる。これに対して、まず物理蒸着HoBCO層31を形成した後、物理蒸着HoBCO層31上に有機金属堆積HoBCO層32を形成することにより表面平滑性を向上させることができる。さらに、有機金属堆積HoBCO層32の膜厚をボイドなどの内部欠陥の抑制が容易な程度にとどめ、表面平滑性の向上した超電導膜上に再度物理蒸着HoBCO層31を形成し、当該物理蒸着HoBCO層31上に、さらに有機金属堆積HoBCO層32を形成することで、再度酸化物超電導膜30の表面平滑性が向上する。このように、物理蒸着HoBCO層31と有機金属堆積HoBCO層32との組み合わせからなる構造が複数積層されることにより、表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制を容易にしつつ、十分な膜厚の酸化物超電導膜30が形成できる。その結果、所望のI、Jなどの超電導特性が確保可能な超電導薄膜材料1を容易に得ることができる。
【0057】
次に、実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法について説明する。図11は本発明の一実施の形態である実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法における製造工程の概略を示す図である。また、図12〜図14は、実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。図11〜図14を参照して、実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法を説明する。
【0058】
実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法と、図1〜図6に基づいて説明した実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法とは基本的に同様の構成を有している。しかし、図11を参照して、実施の形態3では、超電導膜形成工程において、物理蒸着工程と有機金属堆積工程とが交互に複数回実施される点で実施の形態1とは異なっている。具体的には、超電導膜形成工程において、図12に示すように、金属配向基板10上に第1のCeO層21、YSZ層22および第2のCeO層23からなる中間層20が形成される。次に、図13に示すように、中間層20上に、物理蒸着HoBCO層31上に有機金属堆積HoBCO層32が形成された積層構造30Bが形成される。物理蒸着HoBCO層31および有機金属堆積HoBCO層32の形成方法は、実施の形態1と同様である。さらに、図14に示すように、積層構造30B上にさらに積層構造30Bが形成される。この積層構造30Bは、酸化物超電導膜30が所望の膜厚となるまで繰り返して形成される。そして、酸化物超電導膜30上にAg安定化層40が形成されて、図10に示す実施の形態3の超電導薄膜材料1が完成する。
【0059】
なお、実施の形態3において、各有機金属堆積HoBCO層32の厚みは1μm以下であることが好ましい。各有機金属堆積HoBCO層32が1μm以下であれば、比較的容易にボイドなどの内部欠陥の発生を抑制することができる。また、実施の形態3において、各物理蒸着HoBCO層31の厚みは2μm以下であることが好ましい。各物理蒸着HoBCO層31が2μm以下であれば、比較的容易に良好な表面平滑性を確保することができる。
【0060】
上述した、本発明の実施の形態1〜3における超電導薄膜材料1は、たとえばテープ状線材であるが、シート状であってもよいし、中空または中実の円筒形状であってもよい。
【実施例1】
【0061】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の超電導薄膜材料を実際に作製し、その特性を評価する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0062】
まず、試験の対象となる試料の作製方法について説明する。試料は図2に示す製造方法により作製した。具体的には、厚み100μm、幅10mmのNi合金系配向金属テープ上に三層構造の中間層(CeO層/YSZ層/CeO層;厚みはそれぞれ0.3μm、1.0μm、0.1μm)を形成し、中間層上にPLD法により膜厚1.0μmの物理蒸着HoBCO層を形成した。さらに、物理蒸着HoBCO層上に無フッ素系MOD法により膜厚0.2μm〜3.0μmの有機金属堆積HoBCO層をエピタキシャル成長させた。そして、有機金属堆積HoBCO層上に膜厚10μmのAg安定化層を形成し、幅10mm、長さ1mの線材を作製した。この線材から幅10mm、長さ10cmの短尺試料を採取し、有機金属堆積HoBCO層の膜厚(MOD膜厚)とIとの関係を調査する試験を行なった。また、有機金属堆積HoBCO層の極点図を、X線回折を利用して作成し、面内配向性を調査する試験を行なった。さらに、Ag安定化層を形成する前の有機金属堆積HoBCO層の表面を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)を用いて観察した。
【0063】
次に、試験結果について説明する。図15は、実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD膜厚とIとの関係を示す図である。図15において、横軸は物理蒸着HoBCO層上に形成された有機金属堆積HoBCO層の膜厚(MOD膜厚)を示しており、縦軸は臨界電流(I)を示している。なお、本実施例1では有機金属堆積HoBCO層(MOD層)をダイコート法により形成した場合と、ディップ法により形成した場合とについて実験を行なった。ここで、ディップ法とは、MOD法において、Ni合金系配向金属テープを有機金属塩溶液中に浸漬することにより、Ni合金系配向金属テープ上に有機金属塩溶液を付着させる方法である。また、ダイコート法とは、MOD法において、Ni合金系配向金属テープ上に溶液タンクから供給した有機金属塩溶液を塗工することにより、Ni合金系配向金属テープ上に有機金属塩溶液を付着させる方法である。図15では、ダイコート法の場合の結果を中抜きの菱形、ディップ法の場合の結果を中実の正方形で示している。図15を参照して、本実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD膜厚とIとの関係を説明する。
【0064】
図15を参照して、MOD膜厚が1μm程度までであれば、MOD層の形成方法にかかわらずIは35〜80A/cm幅程度となっている。したがって、MOD膜厚が1μm程度までの範囲であれば、良好な特性を有するMOD層を形成可能であることが分かる。
【0065】
図16は、実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層の(103)極点図である。また、図17は、実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層の表面のAFM写真である。図16および図17を参照して、実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層の結晶成長について説明する。
【0066】
図16を参照して、MOD層の(103)面に対応するピークの半値幅は6.5〜6.9度となっている。このことから、実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層は、良好な面内配向性を有していることが分かる。さらに、図17を参照して、実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層の表面の結晶粒径は0.5〜1μmとなっている。以上より、本発明の超電導薄膜材料におけるMOD層においては、良質な結晶成長が実現されていることが分かる。
【0067】
さらに、上述の製造方法と同様の製造方法において、有機金属堆積工程における有機金属塩溶液の塗布および焼成を連続的に実施可能な連続塗布焼成装置を用い、連続リール巻き取り方式で本発明の超電導薄膜材料を巻き取ることにより、長尺線材の試作を実施した。その結果、上述と同様の特性を有する長尺線材を作製することができた。このことから、本発明の超電導薄膜材料によれば、上述のように優れた超電導特性、たとえば高いJ、高いIを有する長尺の超電導線材を提供することができることが分かった。
【実施例2】
【0068】
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明の超電導薄膜材料を実際に作製し、MOD層の形成状態とIとの関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
【0069】
まず、幅3cm、厚さ100μmの配向性Ni合金テープ上にPLD法により実施例1と同様の中間層を形成し、当該中間層上にPLD法により厚さ1.5μmのHoBCO層(物理蒸着HoBCO層)を形成した。さらに、当該物理蒸着HoBCO層上に無フッ素系MOD法により厚さ0.3〜3.0μmのHoBCO層(有機金属堆積HoBCO層)を形成した。そして、当該有機金属堆積HoBCO層上に厚さ10μmのAg安定化層を形成することにより、本発明の超電導薄膜材料を作製した。
【0070】
作製された超電導薄膜材料に対してIの測定を実施するとともに、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)により、当該超電導薄膜材料の厚み方向における断面を観察した。
【0071】
図18〜図21は、作製された超電導薄膜材料の厚み方向における断面のSEM写真である。なお、図18〜図21には、測定されたIの値およびMOD膜厚が付記されている。図18〜図21を参照して、有機金属堆積HoBCO層の形成状態とIとの関係を説明する。
【0072】
図18に示すように、物理蒸着HoBCO層31上に形成された有機金属堆積HoBCO層32の厚みを0.3μmとした場合、有機金属堆積HoBCO層32は緻密であった。また、測定されたIは81A/cm幅であり(JCは2.5MA/cm)、優れた超電導特性が得られた。さらに、図19に示すように、有機金属堆積HoBCO層32の厚みを0.9μmとした場合、有機金属堆積HoBCO層32には、わずかなボイドおよび異相が観察されるが、測定されたIは74A/cm幅であり、優れた超電導特性が得られた。
【0073】
一方、図20に示すように、有機金属堆積HoBCO層32の厚みを1.8μmとした場合、有機金属堆積HoBCO層32にはボイドおよび異相が明確に観察される。また、測定されたIは39A/cm幅であり、有機金属堆積HoBCO層32の厚みが1μm以下である上述の図18および図19の場合に比べて、超電導特性が明確に低下している。さらに、図21に示すように、有機金属堆積HoBCO層32の厚みを3.0μmとした場合、有機金属堆積HoBCO層32には多くのボイドおよび異相が明確に観察される。そして、測定されたIは1A/cm幅となっており、超電導特性が著しく低下した。
【0074】
無フッ素系MOD法の最大のメリットは大面積膜化が容易なことである。上述のように、幅広配向Ni合金テープ上に中間層、超電導膜およびAg安定化層を形成し、かつMOD層の厚みを1μm以下とすることで、良好な超電導特性を有する大面積の超電導薄膜材料を作製できることが分かった。
【実施例3】
【0075】
以下、本発明の実施例3について説明する。物理蒸着層上に有機金属堆積層が形成された超電導膜を備えた本発明の実施例としての超電導薄膜材料と、物理蒸着層のみで形成された超電導膜を備えた比較例としての超電導薄膜材料とを作製し、超電導特性を比較する試験を行なった。
【0076】
まず、本発明の実施例として、実施例1の場合と同様に図2に示す製造方法により、実施例1と同様の超電導薄膜材料を作製した。ここで、物理蒸着HoBCO層の厚みは0.8μmとし、当該物理蒸着HoBCO層上に1μm以下の有機金属堆積HoBCO層を堆積することにより、超電導膜を形成した。一方、比較例として、実施例の超電導薄膜材料に対して超電導膜のみが異なる超電導薄膜材料を作製した。比較例では、前述のように超電導膜を物理蒸着HoBCO層のみで構成した。
【0077】
このようにして作製された超電導薄膜材料に対して、温度77K、磁場0Tの条件の下で、IおよびJを測定する試験を行なった。図22は、本発明の実施例および本発明の範囲外である比較例の超電導薄膜材料における、超電導膜の膜厚とIとの関係を示す図である。図22において、横軸は超電導膜の膜厚、縦軸はIを示している。また、四角形の点は実施例に関する測定値、円形の点は比較例に関する測定値を表している。図22を参照して、本発明の実施例および本発明の範囲外である比較例の超電導薄膜材料における、超電導膜の膜厚とIとの関係を説明する。
【0078】
図22を参照して、超電導膜を物理蒸着HoBCO層のみで構成した比較例の超電導薄膜材料では、膜厚が1μm程度までであれば膜厚の増加にほぼ比例してIが上昇している。しかし、膜厚が厚くなると膜厚の増加に対するIの上昇が小さくなる傾向にあり、膜厚が2μm以上では、Iの上昇が明確に小さくなっている。これは、前述のように、PLD法を用いて超電導膜を形成した場合、膜厚が厚くなるに従って、表面平滑性が悪化したためであると考えられる。これに対し、物理蒸着層上に有機金属堆積層が形成された超電導膜を備えた本発明の実施例の超電導薄膜材料では、膜厚が1μmを超えても膜厚の増加にほぼ比例してIが上昇している。そして、最大で、Iは196A/cm幅、Jは1.5MA/cmとなった。以上より、本発明の超電導薄膜材料によれば、超電導膜を物理蒸着層のみで形成した超電導薄膜材料に比べて、超電導膜の膜厚を厚くすることにより、効率よくIを向上させることが可能であることが分かる。
【0079】
なお、上述の比較例に関する試験結果より、本発明の超電導薄膜材料においても、物理蒸着層の表面平滑性の悪化を抑制するためには、物理蒸着層は2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましいと考えられる。
【実施例4】
【0080】
以下、本発明の実施例4について説明する。Ni合金基板の両方の主面上に超電導膜が形成された本発明の超電導薄膜材料を作製し、Iを調査する試験を行なった。
【0081】
まず、本発明の実施例として、実施例1の場合と同様に、図2に示す製造方法により超電導薄膜材料を作製した。ただし、超電導膜はNi合金基板の両方の主面上に形成された中間層上にそれぞれ物理蒸着HoBCO層を0.4μmの厚みで、有機金属堆積HoBCO層を0.4μmの厚みで形成した。そして、実施例3と同様の条件の下で当該超電導薄膜材料のIを測定した。
【0082】
その結果、本実施例の超電導薄膜材料において、Ni合金基板の一方の面側でIは82A/cm幅、他方の面側でIは109A/cm幅であった。したがって、両方の面を合わせると、本実施例の超電導薄膜材料のIは191A/cm幅であった。本実施例のようにNi合金基板の両方の主面上に超電導膜を形成することで、所望のIを確保するために必要な各主面上の超電導膜を薄くすることが可能となり、各主面上の超電導膜における表面平滑性の確保やボイドなどの内部欠陥の抑制が容易になる。そして、上記試験結果より、両方の主面上の超電導膜により十分なIを確保することが可能であることが分かる。
【実施例5】
【0083】
以下、本発明の実施例5について説明する。本発明の超電導薄膜材料を幅の広い線材の形状に作製する試作を行なった。具体的には、幅5cmのNi合金テープを基板として、実施例1と同様の方法で本発明の超電導薄膜材料を作製した。
そして、実施例3と同様の条件の下で当該超電導薄膜材料のJを測定した。
【0084】
その結果、当該超電導薄膜材料の5cm幅全域において1.4MA/cm±14%の均一なJ分布が得られていることが分かった。また、本実施例においては、有機金属堆積HoBCO層の形成は、ダイコート法を採用して実施した。すなわち、ダイコート法において、幅の広いダイを使用することにより、本発明の超電導薄膜材料の幅広化を達成可能であることが確認された。
【0085】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の超電導薄膜材料およびその製造方法は、基板上に超電導膜が形成された超電導薄膜材料およびその製造方法に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施の形態1の超電導薄膜材料の構成を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法における製造工程の概略を示す図である。
【図3】図2の製造工程のうち、有機金属堆積工程の詳細を示す図である。
【図4】実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図5】実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図6】実施の形態1の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図7】実施の形態2における超電導薄膜材料の構成を示す概略断面図である。
【図8】実施の形態2の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図9】実施の形態2の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図10】実施の形態3における超電導薄膜材料の構成を示す概略断面図である。
【図11】実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法における製造工程の概略を示す図である。
【図12】実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図13】実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図14】実施の形態3の超電導薄膜材料の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図15】実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD膜厚とIとの関係を示す図である。
【図16】実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層の(103)極点図である。
【図17】実施例1の超電導薄膜材料におけるMOD層の表面のAFM写真である。
【図18】作製された超電導薄膜材料の厚み方向における断面のSEM写真である。
【図19】作製された超電導薄膜材料の厚み方向における断面のSEM写真である。
【図20】作製された超電導薄膜材料の厚み方向における断面のSEM写真である。
【図21】作製された超電導薄膜材料の厚み方向における断面のSEM写真である。
【図22】本発明の実施例および本発明の範囲外である比較例の超電導薄膜材料における、超電導膜の膜厚とIとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 超電導薄膜材料、10 金属配向基板、10A 主面、20 中間層、21 第1のCeO層、22 YSZ層、23 第2のCeO層、30 酸化物超電導膜、30A 超電導膜表面、30B 積層構造、31 物理蒸着HoBCO層、31A 物理蒸着HoBCO層表面、32 有機金属堆積HoBCO層、32A 有機金属堆積HoBCO層表面、40 Ag安定化層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された超電導膜とを備え、
前記超電導膜は、
物理蒸着法により形成された物理蒸着層と、
前記物理蒸着層上に有機金属堆積法により形成された有機金属堆積層とを含んでいる、超電導薄膜材料。
【請求項2】
前記基板と前記超電導膜との間に、さらに中間層を備えた、請求項1に記載の超電導薄膜材料。
【請求項3】
前記超電導膜は、前記基板の両方の主面上に形成されている、請求項1または2に記載の超電導薄膜材料。
【請求項4】
前記超電導膜においては、前記物理蒸着層と、前記有機金属堆積層との組み合わせからなる構造が複数積層されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導薄膜材料。
【請求項5】
前記有機金属堆積層の厚みは1μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導薄膜材料。
【請求項6】
前記物理蒸着層の厚みは2μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導薄膜材料。
【請求項7】
前記有機金属堆積法は、フッ素を含む有機金属塩溶液を使用しない無フッ素系有機金属堆積法である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導薄膜材料。
【請求項8】
基板を準備する基板準備工程と、
前記基板上に超電導膜を形成する超電導膜形成工程とを備え、
前記超電導膜形成工程は、
物理蒸着法により物理蒸着層を形成する物理蒸着工程と、
前記物理蒸着層上に有機金属堆積法により有機金属堆積層を形成する有機金属堆積工程とを含んでいる、超電導薄膜材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図22】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−311234(P2007−311234A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140172(P2006−140172)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】