説明

超音波振動子ユニット及び超音波プローブ

【課題】振動膜及び基板の間に介在する介在部材、該振動膜及び該基板の間の固定部分、該振動膜及び該基板の全体にて応力発生が抑制できると共に、犠牲層を形成する工程及び孔をあける工程を省くことができ、ガスエッチングに起因する振動膜の損傷のおそれがなく、高い再現性及び信頼性、かつ簡略化された工程にて製造することが可能な超音波振動子ユニット及び超音波プローブを提供する。
【解決手段】基板の一面側に設けられた基板側電極と、該基板側電極と一面が対向するように配置された振動膜と、該振動膜の他面に設けられた膜側電極とを備える超音波振動子を、基板上に複数設けた超音波振動子ユニットにおいて、基板側電極の一部が該基板の一面に露出するように、該基板側電極を該基板に埋設し、静電引力及び化学結合によって、該振動膜及び該基板の間に、金属性の介在部材を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子ユニット及び、該超音波振動子を用いた超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は従来のCMUT(Capacitive Micromachined
Ultrasonic Transducer)型超音波振動子の構成の一例を示す断面図である。従来のCMUT型超音波振動子は、超音波を送受する振動膜100と、基板104の一面に設けられ、基板104と対向するように振動膜100を支持する振動膜支持部101とを備えている。さらに、振動膜100に形成された膜側電極102と、基板104に形成された基板側電極103とが対向配置されている。
【0003】
このような構成のCMUT型超音波振動子は、受信した超音波(音圧)によって振動膜100及び膜側電極102が振動し、この際に起きる膜側電極102及び基板側電極103の間の静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得し、又は膜側電極102及び基板側電極103の間にDC及びAC電圧を印加することによって振動膜100を振動させ、超音波を送信するものであり、広帯域、高感度等の優れた周波数応答特性を有している。
【0004】
例えば、非特許文献1には、このような従来のCMUT型超音波振動子及びその製造方法が開示されている。非特許文献1のCMUT型超音波振動子においては、シリコン基板の上に、後述するウェットエッチングの際、基板を保護するための窒化物層を形成し、該窒化物層の上に多結晶シリコンからなるいわゆる犠牲層を蒸着する。その後、該犠牲層の上に窒化物からなる振動膜及び振動膜支持部を共に蒸着し、該振動膜に上記犠牲層を除去するための孔をあけて、ウェットエッチングにて上記犠牲層を除去する。次いで、上記孔を埋めて、上記振動膜の上に膜側電極を蒸着した後、その上に保護層を形成することにより製造される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「CapacitiveMicromachined Ultrasonic Transducers:Theory and Technology」、JOURNAL OF AEROSPACE ENGINEERING、USA、April、VOL.16、NO.2、p.76−84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の超音波振動子は、膜側電極及び基板側電極の間に空間を設けるために、いわゆる犠牲層を形成させる工程と、ウェットエッチング又はガスエッチングによって上記犠牲層を除去する工程との2つの工程を必要とするという問題がある。更に、上記ウェットエッチングは、時間がかかる処理である上に、エッチングのためには上記膜側電極及び上記振動膜を共に貫通する孔を設ける工程が必要である。更に、レジストパターンをマスクにして被エッチング物をエッチングするときの、該レジストの膜厚のエッチング速度に対する被エッチング物のエッチング速度の比率であるエッチング選択比が高くない場合は、保護膜が別途必要となる等、製造工程が複雑になる。また、このような問題は、ガスエッチングにおいても、同様である。以上のようなことから、大量生産の際に要求される、再現性及び信頼性が低下し、大量生産には不適切であるという問題もある。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてされたものであり、その目的とするところは、絶縁性の基板の一面側に設けられた基板側電極と、前記基板側電極と一面が対向するように配置された振動膜と、前記振動膜の他面に設けられた膜側電極とを備える超音波振動子を、前記基板上に複数設けた超音波振動子ユニットであって、高い再現性及び信頼性を有し、かつ簡略化された工程にて製造できる超音波振動子ユニット、並びに該超音波振動子ユニットを備えた超音波プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波振動子ユニットは、絶縁性の基板の一面側に設けられた基板側電極と、上記基板側電極と一面が対向するように配置された振動膜と、上記振動膜の他面に設けられた膜側電極とを備える超音波振動子を、上記基板上に複数設けた超音波振動子ユニットにおいて、上記基板側電極は上記基板の一面に埋設され、上記基板側電極の一部は上記基板の一面に露出され、上記振動膜及び上記基板の間に介在され、上記基板に静電引力及び化学結合によって固定されている金属性の介在部材を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、上記振動膜及び基板の間に介在される介在部材を、例えば、陽極接合法によって、上記基板に固定する。従って、上記介在部材は上記基板に静電引力及び化学結合によって固定されるので、接合力が高い上に、上記介在部材及び上記基板の接合部、ひいては振動膜及び基板の全体においての応力発生が抑制される。なお、上記基板側電極を上記基板の一面に埋設し、上記基板の厚み方向における薄型化を図る。
【0010】
本発明に係る超音波振動子ユニットは、隣り合う上記超音波振動子の上記基板側電極同士を接続する接続電極を備え、上記接続電極は一部が上記基板の一面に露出するように、上記基板の一面に埋設されており、上記介在部材は上記基板側電極を囲むように設けられ、上記介在部材の上記接続電極と接触すべき部分に切欠部を形成してあることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、上記介在部材は、上記接続電極と接触すべき部分に上記切欠部を形成して、上記介在部材の一部が上記基板の上記一面に露出している上記接続電極と接続することによってトラブルが発生することを未然に防止する。
【0012】
本発明に係る超音波振動子ユニットは、上記振動膜に、上記切欠部と整合する位置に貫通孔が形成され、上記振動膜の上記他面側に、蒸着された蒸着物からなる保護膜が形成され、上記切欠部の内側には、上記貫通孔を介して蒸着された蒸着物からなる内在膜が形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、上記介在部材に切欠部を形成しているので、上記介在部材を挟んで隣り合う超音波振動子同士が連通する状態となる。しかしながら、上記切欠部に蒸着物が蒸着されて内在膜が形成されるので、隣り合う超音波振動子の同士は隔離され、隣り合う超音波振動子による音響的影響を未然に防止する。
【0014】
本発明に係る超音波振動子ユニットは、上記介在部材は、陽極接合法によって上記基板に固定されていることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、上記振動膜及び基板の間に介在される介在部材を、例えば400℃にて、陽極接合法を用いて上記基板に固定する。従って、上記介在部材は上記基板に静電引力及び化学結合によって固定され、800〜1000℃の高温での接合の場合に比べて接合部での応力の発生が抑制される。なお、圧力のみを用いて接合させる方法に比べ、低温でも高い接合力を有し、接合部のみでなく、振動膜及び基板全体での応力発生が低減する。
【0016】
本発明に係る超音波プローブは、本発明の超音波振動子ユニットを備え、上記超音波振動子ユニットを介して超音波の送受をすることを特徴とする。
【0017】
本発明の超音波プローブにあっては、本発明の超音波振動子ユニットに設けられた複数の超音波振動子の上記基板側電極と膜側電極との間に電圧を印加することにより上記振動膜を振動させて超音波を外部に送信し、外部から反射されてくる超音波による上記基板の振動に伴う、基板側電極と膜側電極との間のキャパシタンス変化に係る電気信号を取得し、いわゆる超音波像に係るデータを得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記基板側電極の一部が上記基板の一面に露出するように、上記基板側電極を上記基板に埋設し、静電引力及び化学結合によって、上記振動膜及び基板の間に、金属性の介在部材を固定するので、高温での接合の場合に比べて、上記介在部材及び上記基板の間の固定部分、ひいては振動膜及び基板の全体にて応力発生が抑制できる。更に、上記応力発生によるいわゆる変換効率又は感度の低下が生じることを防止できる。また、犠牲層を形成する工程及び孔をあける工程を省くことができる上に、ガスエッチングに起因する振動膜の損傷の虞がなく、高い再現性及び信頼性、かつ簡略化された工程にて超音波振動子ユニット及び超音波プローブを製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来のCMUT型超音波振動子の構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る超音波振動子ユニットの模式的部分断面図(a)、及び超音波振動子ユニットを備える超音波プローブ(b)の一例を示す例示図である。
【図3】本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子の構成を模式的に示す要部断面図である。
【図4】本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子の振動膜を除外した場合における平面図である。
【図5】本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子において、図4の実線の丸円の位置に対応する部分を拡大した拡大図である。
【図6】本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子において、保護膜を蒸着する前の一部の縦断面図である。
【図7】本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子において、保護膜を蒸着した後の一部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明に係る超音波振動子ユニット及び超音波プローブを具体的に説明する。図2は本発明に係る超音波振動子ユニットの模式的部分断面図(a)、及び上記超音波振動子ユニットを備える超音波プローブの一例を示す例示図(b)である。本発明に係る超音波振動子ユニットは基板3の上に複数の超音波振動子10がパターン状に設けられており(図2(a)参照)、本発明に係る超音波プローブ(図2(b)参照)は上記超音波振動子ユニットを備え、例えば、上記超音波振動子ユニットによって受信された超音波に係る電気信号を外部装置に送信する。
【0021】
図3は本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子10の構成を模式的に示す要部断面図であり、図4は本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子10の振動膜1を除外した場合における平面図である。
【0022】
本発明に係る超音波振動子ユニットの超音波振動子10は、基板3と、基板3に対向するように基板3の上側に配置され、超音波を送受する振動膜1と、基板3及び振動膜1の間に介在し、振動膜1を振動可能に支持する筒状の介在部材2を備えている。従って、基板3及び振動膜1の間には空間部7が形成されている。また、振動膜1の上面には振動膜1と共に振動する膜側電極4が形成されており、振動膜1の下面と対向する基板3の上面には基板側電極5が埋設されている。なお、振動膜1の上面及び膜側電極4の上面には保護膜8が蒸着されている。
このような構成を有する超音波振動子10が、基板3の上記上面に複数設けられ、本発明に係る超音波振動子ユニットとして作用している。
【0023】
基板3は、例えば、パイレックス(Pyrex)ガラス(登録商標)、石英、テンバックス(登録商標)、Foturanガラス(登録商標)等からなり、500μm以上の厚みを有する。また、上述したように、基板3の上記上面には基板側電極5が埋設されている。
【0024】
基板側電極5は介在部材2の径方向の面積より小さく、六角形の板状であり、面積は504〜623μm2
である。基板側電極5の厚みは0.1〜1.0μmであり、例えば、Ni、Cr、Al、Pt等の材料からなる。また、基板側電極5は、その上面が基板3の上記上面に露出されており、基板3の上記上面と面一をなすように埋設されている。なお、基板側電極5の上面側に保護層を設けても良い。
【0025】
なお、各超音波振動子10の基板側電極5は、隣り合う超音波振動子10の基板側電極5と複数の接続電極51,51,…,51によってお互いに接続されている。接続電極51は短冊形状の板材であり、基板側電極5と同じ材料からなる。また、接続電極51は、基板側電極5と同様に、その上面が基板3の上記上面に露出するように、埋設されており、基板側電極5の縁から、基板側電極5の面方向に沿って延設されている。なお、接続電極51は基板側電極5と同じ材料に限るものでなく、蒸着による形成が可能であって、導電性を有する材料であれば良い。
【0026】
一方、膜側電極4は金属薄膜からなり、振動膜1の上記上面の中央部に蒸着によって形成されている。膜側電極4は振動膜1より小さい円板状であり、膜側電極4の下面は振動膜1の上記上面と接しており、膜側電極4の上面の周縁部には径方向に延出するリードパッド(図示せず)が設けられている。なお、膜側電極4は円板状に限るものでなく、板状をなしていれば良い。
【0027】
介在部材2は例えば、一辺の寸法が22μmで、対向辺間の距離は38μmである六角形の筒状であり、軸長方向における一端の周縁は基板3の上記上面と接し、他端の周縁は振動膜1の上記下面と接するように設けられている。また、介在部材2は基板側電極5を取り囲むように立設されている。介在部材2は六角形の筒状に限るものでなく、円形の筒状であっても良い。
【0028】
また、介在部材2は、基板側電極5の接続電極51と接触すべき部分に、介在部材2を軸長方向に切り欠いた切欠部21を複数個所に形成している。換言すれば、介在部材2は切欠部21を挟んで後述する端部22,22がお互いに対向するように構成されている(図5参照)。従って、金属性たる介在部材2と基板側電極5の接続電極51との電気的接続による誤動作を未然に防止することが出来る。
【0029】
なお、介在部材2は金属製の材料(例えば、Au、Cu、Al等)からなる。また、介在部材2は軸長方向における寸法(換言すれば、振動膜1の上記下面と基板3の上記上面との間隔)は0.05〜10μmであれば良く、好ましくは0.1〜3μmである。なお、介在部材2は、外径が700〜800μmであり、肉厚は8〜16μmである。また、介在部材2は、いわゆる陽極接合法によって基板3の上記上面に接合されている。
【0030】
陽極接合法とは、一般的には約400℃以下にてガラスと、シリコン又は金属とを密着接合する方法である。ガラスと、シリコン又は金属とを重ね合わせ、加熱及び電圧を加える方法であり、これにより、ガラス中の陽イオンを強制的にシリコン又は金属中に拡散させ、ガラス、シリコン、金属等の間に静電引力が生じると共に、化学結合が行われ、低温でも良好な接合が出来る方法である。
【0031】
このような陽極接合法を用いるので、本発明に係る超音波振動子ユニットの超音波振動子10においては、高温接合の際に発生しがちな変形による応力集中が介在部材2と基板3との接合部にて生じず、ひいてはその影響が介在部材2を介して振動膜1に及ぼすことを抑制でき、上記応力による変換効率又は感度の低下を防止できる上、更には製造上の構造再現性に優れている。
【0032】
本実施の形態においては、介在部材2の肉厚が8〜16μmである場合を例として挙げているが、これに限るものでなく3〜16μmであれば良い。
【0033】
振動膜1は介在部材2を覆うように設けられている。従って、介在部材2の内周面及び振動膜1の下面によって空間部7が形成されている。
【0034】
振動膜1の厚みは1.5μmであることが好ましいが、0.5〜3μmであれば良い。振動膜1はある程度の伝導性を有するシリコン単結晶からなる。従って、本発明に係る超音波振動子ユニット及び超音波プローブにおいては、電圧印加の際に振動膜に電荷がたまり、数〜数十MHzのAC電圧印加による振動膜の作動において、チャージ現象が生じることを防止することが出来る。
【0035】
また、振動膜1には介在部材2の切欠部21,21,…,21と整合する位置に、厚み方向に貫通する矩形の貫通孔11が複数形成されている(図4では、点線にて表示する)。図5は本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子10において、図4の実線の丸円の位置に対応する部分を拡大した拡大図である。図5においては、説明の便宜上、保護膜8を除外した状態を示している。
【0036】
上述したように、貫通孔11は、振動膜1をその厚み方向に貫通しているので、貫通孔11を介して、切欠部21の一部、介在部材2及び基板側電極5の接続電極51が露出されている。
【0037】
図6は本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子10において、保護膜8を蒸着する前の一部の縦断面図である。詳しくは、図6(a)は図5のA―B線による縦断面図であり、図6(b)は図5のC―D線による縦断面図であり、図6(c)は図5のE―F線による縦断面図である。
【0038】
また、図7は本発明に係る超音波振動子ユニットに設けられた超音波振動子10において、保護膜8を蒸着した後の一部の縦断面図である。詳しくは、図7(a)は図5のA―B線による縦断面図であり、図7(b)は図5のG―H線による縦断面図である。
【0039】
貫通孔11の長手方向の寸法は、切欠部21を挟んで対向する介在部材2の端部22,22間の間隔より長く、貫通孔11の短手方向の寸法は介在部材2の肉厚より短い。従って、上述したように、貫通孔11及び切欠部21を介して、切欠部21の近傍における、介在部材2の端部22,22及び基板側電極5の接続電極51の一部が露出されている。
【0040】
このような状態にて、例えば絶縁性の蒸着物が蒸着されることによって、保護膜8及び遮蔽膜81(内在膜)が形成される。すなわち、上記蒸着物は、振動膜1の上面及び膜側電極4の上面に蒸着され、保護膜8を形成すると共に、貫通孔11を介して切欠部21の内側及び近傍に蒸着されて、隣り合う超音波振動子10同士を遮る遮蔽膜81を形成する。
【0041】
介在部材2に切欠部21を形成することにより、隣り合う超音波振動子10(空間部7)同士が連通する状態となる。後述するように、上記蒸着物の蒸着の工程は真空の中で行われ、通常は空間部7内に空気は略存在しないが、その際の真空度によっては極微量空気が存在するおそれがある。このような極微量の空気が、超音波振動子10が動作する際、切欠部21を介して隣り合う超音波振動子10(空間部7)の間を移動する場合、各超音波振動子10での振動が他の超音波振動子10の振動に音響的及び機械的影響を及ぼして、電気的ノイズ発生の原因になり得る。
【0042】
しかしながら、本発明に係る超音波振動子ユニット及び超音波プローブにおいては、上記蒸着の工程にて貫通孔11を介して切欠部21の近傍に形成される遮蔽膜81により、上述のような問題を未然に防止できる。
【0043】
詳しくは、図7に示すように、蒸着物の蒸着により、切欠部21の近傍には遮蔽膜81が形成されている。遮蔽膜81は、横断面が貫通孔11に倣う矩形である凹みの形状を有している。なお、遮蔽膜81は、介在部材2の一方の端部22から他方の端部22に亘って気密に形成されている。従って、隣り合う超音波振動子10(空間部7)の間は完全に遮蔽され、超音波振動子10が動作する際、極微量の空気が切欠部21を介して隣り合う超音波振動子10(空間部7)の間を移動することが防止され、隣り合う超音波振動子10への機械的振動及び音波の伝達を防止する。
【0044】
一方、CMT(Capacitive Micromachined
Transducer)又はCMUTの作用をエネルギーの観点から解釈すると、電気的エネルギー(駆動電流)を機械的エネルギー(音圧又は振動膜の振動)に変換させる作用をなし、これは可逆的にも行われる。このような変換における効率を表す関数として電気機械結合係数が用いられる。斯かる変換効率又は電気機械結合係数は、固定キャパシタンスと、変換キャパシタンスとの比率によって表現でき、固定キャパシタンスに比べて変換キャパシタンスが大きいほど変換効率が大きいと言える。
【0045】
これを本発明の超音波振動子ユニットの超音波振動子に適用させると、固定キャパシタンスは、膜側電極及び基板側電極にて発生する基本キャパシタンスと、電極等の交差点及び構造に基づいて発生し、振動膜の振動とは関わりの無い寄生キャパシタンスとの和によって表すことが出来る。また、変換キャパシタンスはもっぱら振動膜の振動によって生じるキャパシタンスを意味する。従って、寄生キャパシタンスが大きいほど、変換効率又は電気機械結合係数は減少する。
【0046】
これに対し、本発明の超音波振動子ユニット及び超音波プローブにおいては、隣り合う超音波振動子10の基板側電極5同士の間の連結部分(接続電極51)に、貫通孔11を介して遮蔽膜81を蒸着するので、基板側電極5同士の間の連結部分にて発生する寄生キャパシタンスを最大限に抑え、感度を最大限に高めることが出来る。すなわち、切欠部21の付近にて振動膜1と接続電極51との間に発生しうる寄生キャパシタンスによる影響を抑制することが出来る。
【0047】
以上の説明においては、振動膜1の上に膜側電極4を更に設けた構成を例に挙げて説明したが、これに限るものでない。例えば、膜側電極4としての役割を兼ねるように導電性の優れた材料からなる振動膜1を備え、膜側電極4を省略した構成であっても良い。
【0048】
斯かる場合においても、切欠部21の付近における、振動膜1と接続電極51との間での寄生キャパシタンスの発生が遮蔽膜81によって抑制される効果を奏することは言うまでもない。
【0049】
本発明に係る超音波プローブにおいては、上記超音波振動子ユニットに設けられた複数の超音波振動子10の基板側電極5と膜側電極4との間に電圧を印加することにより超音波を外部に送信し、また、外部から反射してくる超音波による基板3(又は振動膜1)の振動に伴う基板側電極5と膜側電極4との間の静電容量の変化に係る電気信号を取得でき、上記電気信号に基づき、いわゆる超音波像を得ることが出来る。
【0050】
以下において、本発明に係る超音波振動子ユニット(超音波振動子)製造方法について説明する。
例えば、パイレックスガラスの基板3の上面にパターニングを行い、基板側電極5(接続電極51)を埋設するための凹部を形成した後、基板側電極5になるべき蒸着物(例えば、Ni、Cr、Al、Pt等)の蒸着を施す。その後、基板3の上記上面側に対してCMP(Chemical Mechanical
Polishing)を施す。CMPにより、基板3の上記上面から上記蒸着物は除去され、上記凹部にのみ蒸着物が残り、これによって基板側電極5(接続電極51)が形成される。
【0051】
このようにして形成された基板3の上記上面に、介在部材2になる、既にパターニングされた金属部材を固定させる。上記固定は上記陽極接合法によって行われる。次いで、SOI(Silicon On Insulator)ウェハの一面が基板3の上記上面と対向するように、該SOIウェハを介在部材2の上に、蒸着によって固定させる。
【0052】
この後、上記SOIウェハの他面側に対して、TMAH、KOH、HF等を用いてウェットエッチングを施し、厚みが1.5μmのシリコン層だけを残して除去することにより、振動膜1を形成する。これにより、介在部材2が基板3及び振動膜1の間に介在するようになり、基板3に介在部材2は上記陽極接合法によって固定される。
【0053】
次いで、振動膜1の上面側に、膜側電極4となる蒸着物を蒸着して膜側電極4を形成した後、エッチングマスクを用いてエッチングを行い、貫通孔11を形成する。その上に絶縁性の蒸着物を真空中で蒸着して保護膜8を形成する。斯かる際、上述したように、上記蒸着物が貫通孔11を介して切欠部21の内側及び近傍に蒸着されるので、遮蔽膜81も共に形成される。
【0054】
以上のように、ウェットエッチング又はガスエッチングを用いる従来の製造工程に比べ、犠牲層の形成工程、孔をあける工程等を必要とせず、工程の数が少なくなる上、所要時間も短縮できるので、製造コストを削減きる。
【0055】
また、以下において、本発明に係る超音波ユニット(超音波振動子10)の作用について説明する。説明の便宜上、上述したように超音波振動子10に電圧を印加して被対象物に向けて超音波を送信し、上記被対象物から反射されてくる超音波を受信した場合を例として説明する。
【0056】
本発明に係る超音波振動子ユニットの超音波振動子10が、上記被対象物から反射された超音波を受信した場合、上記超音波(音圧)によって振動膜1が振動する。振動膜1が振動する際、振動膜1の上記上面に蒸着されている膜側電極4も共に振動するので、膜側電極4と基板3の基板側電極5との間隔が変動する。従って、膜側電極4と基板側電極5との間の静電容量が変化するようになる。斯かる膜側電極4と基板側電極5との間の静電容量変化に基づき、容量変化を電圧変化信号に変換させて電気信号を取得することができ、取得した電気信号に基づき、上記被対象物の超音波像を得ることができる。
【0057】
また、超音波の送信においては、膜側電極4と基板側電極5との間にDC及びAC電圧を印加することによって振動膜1が振動され、超音波が送信される。他の作用については超音波を受信した場合と同様であり、詳しい説明は省略する。
【符号の説明】
【0058】
1 振動膜
2 介在部材
3 基板
4 膜側電極
5 基板側電極
7 空間部
8 保護膜
10 超音波振動子
11 貫通孔
21 切欠部
22 端部
51 接続電極
81 遮蔽膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板の一面側に設けられた基板側電極と、前記基板側電極と一面が対向するように配置された振動膜と、前記振動膜の他面に設けられた膜側電極とを備える超音波振動子を、前記基板上に複数設けた超音波振動子ユニットにおいて、
前記基板側電極は前記基板の一面に埋設され、前記基板側電極の一部は前記基板の一面に露出され、
前記振動膜及び前記基板の間に介在され、前記基板に静電引力及び化学結合によって固定されている金属性の介在部材を備えることを特徴とする超音波振動子ユニット。
【請求項2】
隣り合う前記超音波振動子の前記基板側電極同士を接続する接続電極を備え、
前記接続電極は一部が前記基板の一面に露出するように、前記基板の一面に埋設されており、
前記介在部材は前記基板側電極を囲むように設けられ、前記介在部材の前記接続電極と接触すべき部分に切欠部を形成してあることを特徴とする請求項1に記載の超音波振動子ユニット。
【請求項3】
前記振動膜に、前記切欠部と整合する位置に貫通孔が形成され、
前記振動膜の前記他面側に、蒸着された蒸着物からなる保護膜が形成され、
前記切欠部の内側には、前記貫通孔を介して蒸着された蒸着物からなる内在膜が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の超音波振動子ユニット。
【請求項4】
前記介在部材は、陽極接合法によって前記基板に固定されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の超音波振動子ユニットを備え、
前記超音波振動子ユニットを用いて超音波の送受をすることを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−182140(P2011−182140A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43453(P2010−43453)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 経済産業省中小企業庁 戦略的基盤技術高度化支援事業「MEMS技術による新しい医療診断用超音波プローブデバイスの開発」に係る委託業務
【出願人】(510054647)株式会社Ingen MSL (6)
【Fターム(参考)】