説明

距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機

【課題】 長い距離を高い精度でしかも短時間に測定することが可能な距離計および距離測定方法を提供する。
【解決手段】
第1の光源1から出射されて基準面4に照射される基準光Sと第2の光源2から出射されて測定面6に照射される測定光Sと干渉光Sを基準光検出器3により検出して得られる干渉信号と、上記基準面4により反射された基準光S’と上記測定面5により反射された測定光S’との干渉光Sを測定光検出器6により検出して得られる干渉信号を信号処理部7に供給して、上記信号処理部7により、上記干渉光Sを検出した干渉信号と上記干渉光Sを検出した干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準面に照射した基準光の該基準面による反射光と測定面に照射した測定光の該測定面による反射光との干渉光を検出して、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求める距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、精密なポイントの距離計測が可能なアクティブ式距離計測方法として、レーザ光を利用する光学原理による距離計測が知られている。レーザ光を用いて対象物体までの距離を測定するレーザ距離計ではレーザ光の発射時刻と、測定対象に当たり反射してきたレーザ光を受光素子にて検出した時刻との差に基づいて、測定対象物までの距離が算出される(たとえば特許文献1参照)。また、例えば、半導体レーザの駆動電流に三角波等の変調をかけ、対象物での反射光を半導体レーザ素子の中に埋め込まれたフォトダイオードを使用して受光し、フォトダイオード出力電流に現れた鋸歯状波の主波数から距離情報を得ている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−343234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的なレーザ距離計は、レーザに強度変調を与えて測定対象に向けて出射し、反射してきた光の遅延時間を計測することによって距離計測を行う。通常、レーザに与える電気的な変調信号と光検出器の出力信号の位相比較を行って、レーザに与えた変調信号を基準に遅延時間を計測する。例えば1μmの距離分解能を得るためには、光が往復で2μmの距離を進む時間に等しい時間分解能(約7フェムト秒)が必要であるが、これを電気回路で実現するためには周波数帯域を数百GHzから数THzに上げる必要があるため現在の技術では不可能である。
【0005】
また、レーザ干渉を応用する変位計を用いると、ある基準面からの変位量をナノメートルオーダーの分解能または精度で計測することが可能である。レーザ光の波長は数百ナノメートルから数マイクロメートルの範囲にあるので電気信号の波長よりもはるかに短い。例えば、レーザから発生した干渉性の強い光をビームスプリッタで分けてから参照面と測定面に照射して再び重ね合わせてから光検出器に入力すると、参照面までの距離と測定面までの距離に応じた干渉信号が得られる。干渉信号は、測定面が光の半波長分移動したときに1周期変化するため、光の波長より高い分解能で変位量を得ることが可能である。ただし、変位計を絶対距離測定に応用するためには、原点からの変位量の積算が必要である。
【0006】
光は波長が短いため数メートルの距離を変位計で測るためには光の波長の数千倍の変位を積算しなければならない。したがって、一度光線が遮断されるとその場で絶対距離測定を再開することが難しく、原点復帰が必要である。したがって、変位計はある基準点からの変化量を高い分解能で計測する応用には向いているが、手元から測定面までの距離を高精度に測定したい場合には向いていない。
【0007】
従来の絶対距離計では、長い距離を高精度で測れる実用的な絶対距離計を実現することが難しく、高い分解能を得るためにはレーザ変位計のように原点復帰が必要なため絶対距離測定に適さない方法しか手段がなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、長距離測定を高精度で、しかも短時間に行うことの可能な距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る距離計は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射する第1及び第2の光源と、上記第1の光源から出射された基準光と上記第2の光源からの出射された測定光との干渉光を検出する基準光検出器と、上記第1の光源から出射された基準光が照射される基準面と、上記第2の光源から出射された測定光が照射される測定面と、上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との干渉光を検出する測定光検出器と、上記基準光検出器により検出された干渉信号と上記測定光検出器により検出された干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求める信号処理部とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る距離計において、上記第1及び第2の光源は、例えば、モード周波数間隔が異なる2台の光周波数コム発生器とすることができる。
【0012】
また、本発明に係る距離計において、上記信号処理部は、例えば、上記基準光検出器により検出された干渉信号を周波数解析して多数の光周波数コムの位相情報を一括して取得するとともに、上記測定光検出器により検出された干渉信号を周波数解析して多数の光周波数コムの位相情報を一括して取得し、それぞれの位相特性の周波数に対する変化率を求め、その傾きの差から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を算出する。
【0013】
また、本発明に係る距離計では、例えば、上記第1及び第2の光源として、それぞれ周期的に強度又は位相が変調されかつキャリア周波数が安定化された2台の光源を使用し、上記信号処理部は、上記基準光検出器と上記測定光検出器による干渉信号の時間差による絶対距離とキャリア周波数成分の位相変位を算出する。
【0014】
また、本発明に係る距離計では、上記第1及び第2の光源は、例えば、相対位相の同期が高い周波数帯域まで行われ短期的な相対位相変動の少ない2台の対になった発振器により駆動されて、上記互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射する。
【0015】
また、本発明に係る距離計において、上記信号処理部は、例えば、モード周波数差が同じでない複数の値での距離計測結果に基づいて、測定距離の校正処理を行う。
【0016】
さらに、本発明に係る距離計において、上記信号処理部は、例えば、変調周波数が同じでない複数の値での距離計測結果に基づいて、マイクロ波の波長以上の距離で絶対距離測定値を算出する。
【0017】
本発明に係る距離測定方法は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を基準面と測定面に照射し、上記基準面と測定面に照射する基準光と測定光との第1の干渉光を検出するとともに、上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との第2の干渉光を検出し、上記第1の干渉光を検出した干渉信号と上記第2の干渉光を検出した干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明に係る光学的三次元形状測定機は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射する第1及び第2の光源と、上記第1の光源から出射された基準光と上記第2の光源からの出射された測定光との干渉光を検出する基準光検出器と、上記第1の光源から出射された基準光が照射される基準面と、上記基準面により反射された基準光と上記対象物体により反射された測定光との干渉光を検出する測定光検出器と、上記基準光検出器により検出された干渉信号と上記測定光検出器により検出された干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記対象物体までの距離の差を求める信号処理部とを備える距離計と、上記距離計から出射される測定光で対象物体を走査し、上記対象物体により反射された上記測定光を上記距離計に戻す光学スキャン装置と、上記光学スキャン装置を制御してレーザービームを走査すると同時に上記距離計が計測する絶対距離情報を取得して、ビーム照射位置とその場所まで絶対距離を複数の点について蓄積することにより非接触で物体の三次元形状を測定する信号処理装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、長い距離を高い精度でしかも短時間に測定することが可能なレーザ距離計およびレーサ距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0021】
本発明に係るレーザ距離計10は、例えば図1に示すように、基準光Sを出射する第1の光源1と、測定光Sを出射する第2の光源2と、上記基準光Sと上記測定光Sとの干渉光Sを検出する基準光検出器3と、上記基準光Sが照射される基準面4と、上記測定光が照射される測定面5と、上記基準面4により反射された基準光S’と上記測定面5により反射された測定光S’との干渉光Sを検出する測定光検出器6と、上記基準光検出器3により上記干渉光Sを検出して得られる干渉信号と上記測定光検出器6により上記干渉光Sを検出して得られる干渉信号が供給される信号処理部7を備える。
【0022】
上記第1及び第2の光源1,2は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光Sと測定光Sを出射するものであって、それぞれ周期的に強度又は位相を変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光S1と測定光S2を出射するための光変調器を備える2台の光源、光周波数コムモード間隔が異なる2台の光周波数コム発生器、或いは、光パルス繰り返し周波数が異なる2台のパルス光源からなる。
【0023】
上記第1及び第2の光源1,2から出射された基準光Sと測定光Sは、半透鏡又は偏光ビームスプリッタからなる光混合素子11により混合されて重ね合わされ、半透鏡からなる光分離素子12により、上記基準光検出器3に向かう光と測定対象に向かう光に分離される。
【0024】
ここでは、上記第1及び第2の光源1,2から出射された基準光Sと測定光Sは、互いに偏光面が直交してものとし、半透鏡からなる光混合素子11により混合され、その混合光が光分離素子12により反射されて偏光子13を介して上記基準光検出器3に入射されるとともに、上記光分離素子12を通過した混合光が偏光ビームスプリッタ14により偏光に応じて基準光S1と測定光Sに分離されて、上記基準光Sが基準面4に入射され、また、上記測定光Sが測定面5に入射されるようになっている。
【0025】
なお、ここでは、上記第1及び第2の光源1,2から出射された基準光Sと測定光Sは、互いに偏光面が直交したものとしたが、上記光混合素子11として偏光ビームスプリッタを用いて、基準光Sと測定光Sの互いに偏光面が直交する成分を混合するようにしてもよい。
【0026】
さらに、上記基準面4により反射された基準光S’と、上記測定面5により反射された測定光S’は、上記偏光ビームスプリッタ14により混合され、その混合光が上記光分離素子12により反射されて偏光子15を介して上記測定光検出器6に入射されるようになっている。
【0027】
そして、上記基準光検出器3は、上記偏光子13を介して入射される上記基準光Sと測定光Sとの混合光を受光することより、上記第1及び第2の光源1,2から出射された基準光Sと測定光Sの干渉光Sを検出するようになっている。
【0028】
また、上記測定光検出器6は、上記偏光子15を介して入射される上記基準光S’と上記測定光S’の混合光を受光することにより、上記基準面4により反射された基準光S’と上記測定面5により反射された測定光S’の干渉光Sを検出するようになっている。
【0029】
このレーザ距離計10では、図1中に太線で示す上記光混合素子11から偏光ビームスプリッタ14までの光路では、基準光Sと測定光Sが干渉しないように偏光を直交させてあり、上記偏光ビームスプリッタ14により上記基準光Sと測定光Sを偏光応じて分離して上記基準面4と上記測定面5に入射させる。そして、上記基準面4と上記測定面5で反射された上記基準光S’と測定光S’を上記偏光ビームスプリッタ14により混合し、その混合光を上記光分離素子12により反射して上記測定光検出器6に入射させ、上記基準面4により反射された基準光S’と上記測定面5により反射された測定光S’の干渉光Sを上記測定光検出器6により検出する。
【0030】
ここで、上記光混合素子11から偏光ビームスプリッタ14までの光路中に設けられた光分離素子12を介して基準光検出器3に導かれる混合光に含まれる基準光Sと測定光Sは偏光が直交しているため、そのまま上記基準検出器3に入射しても干渉信号が得られないので、偏光子13を挿入し、上記基準光Sと測定光Sの偏光に対して斜めになるように上記偏光子13の向きを調整しておくことにより、上記偏光子13の透過成分として上記基準光Sと測定光Sの成分が混合された干渉光Sが基準検出器3に入射されるようにして、上記基準検出器3により干渉信号を得るようにしている。同様に、上記光分離素子12を介して測定光検出器6に導かれる混合光に含まれる基準光S’と測定光S’は偏光が直交しているため、そのまま上記測定検出器6に入射しても干渉信号が得られないので、偏光子15を挿入し、上記基準光S’と測定光S’の偏光に対して斜めになるように上記偏光子15の向きを調整しておくことにより、上記偏光子15の透過成分として上記基準光S’と測定光S’の成分が混合された干渉光Sが測定光検出器6に入射されるようにして、上記測定検出器6により干渉信号を得るようにしている。なお、偏光子に替えて半波長板と偏光ビームスプリッタを用いてもよい。
【0031】
上記基準光検出器3によって得られる干渉信号は、キャリア周波数が上記第1及び第2の光源1,2から出射された基準光Sと測定光Sのキャリア光周波数の差であり、上記基準光Sと測定光Sの光パルス繰り返し周波数の差の周波数で同じ干渉波形が繰り返される。
【0032】
このレーザ距離計10において、上記基準光検出器3の役割は、遅延時間計測の基準を生成することである。上記第1及び第2の光源1,2から出射された基準光Sと測定光Sは、繰り返し周波数が等しくないので、光源が動作を開始した時にタイミングがずれていても、少しずつタイミングがずれていき、必ずどこかで基準光Sの光パルスと測定光Sの光パルスが重なる瞬間が現れる。また、その重なる瞬間は基準光Sと測定光Sの繰り返し周波数の差の繰り返し周波数で周期的に現れる。この光パルスと光パルスの重なる瞬間が、遅延時間計測の基準となる。
【0033】
また、測定光検出器6によって得られる干渉信号は、上記基準光検出器3によって得られる干渉信号と同じくキャリア周波数が基準光S’と測定光S’のキャリア光周波数の差であり、上記基準光S1と測定光S2の光パルス繰り返し周波数の差と同じ繰り返し周波数を持つ。しかし、上記測定光検出器6に入力される光パルスは、基準反射鏡4までの距離Lと測定反射鏡5までの距離Lの距離差の絶対値(L−L)の分だけ、光パルスのタイミングが遅れるため、光パルスと光パルスの重なる瞬間が上記基準光検出器3によって得られる干渉信号と比較して遅れる。この遅れ時間が上記距離差の絶対値(L−L)の2倍の距離を光パルスが伝搬することによる遅延時間であり、真空中の光速Cをかけて屈折率nで割ることにより距離が得られる。
【0034】
このように、周期の異なる2台のパルス光源の干渉によって距離計測を行う場合、時間基準を与える干渉信号の基準光検出器3が不可欠であり、基準光検出器3と測定光検出器6により得られる各干渉信号の時間差を比較することによって初めて距離測定が可能となる。
【0035】
そこで、レーザ距離計10において、上記信号処理部7は、上記基準光検出器3により上記干渉光Sを検出して得られる干渉信号と上記測定光検出器6により上記干渉光Sを検出して得られる干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離Lと上記測定面までの距離Lの距離差の絶対値(L−L)を求める処理を行う。
【0036】
すなわち、このレーザ距離計10では、第1及び第2の光源1,2から出射されるそれぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光Sと測定光Sを基準面4と測定面5に照射し、上記基準面4と測定面5に照射する基準光Sと測定光Sとの干渉光Sを基準光検出器3により検出するとともに、上記基準面4により反射された基準光S’と上記測定面5により反射された測定光S’との干渉光Sを測定光検出器6により検出し、上記信号処理部7により、上記基準光検出器3により干渉光Sを検出した干渉信号と上記測定光検出器6により干渉光S4を検出した干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求める。
【0037】
ここで、このレーザ距離計10における距離測定の原理について説明する。
【0038】
距離測定の原理は、光パルスの時間遅延から距離を求める距離計に準ずる。すなわち、距離(L−L)を往復する際の時間遅延ΔT=2×n×(L−L)/cを計測して、光路の群屈折率n、真空中の光速cから(L−L)を計算する。
【0039】
包絡線波形f(t)、キャリア周波数ω=2πfの光パルスは、次のように表わすことができる。
【0040】
【数1】

この光パルスを基準パルスとすると、基準パルスのフーリエ変換は、包絡線パルスf(t)のフーリエ変換F(ω)を用いて、次の(1)式で表わされる。
【0041】
【数2】

フーリエ変換の演算をFFT[ ]で表した。そして、基準パルスが、測定距離の伝搬による遅延の影響を受けたとすると、遅延パルスの波形とそのフーリエ変換は、次の(2)式の形で表わされる。
【0042】
【数3】

ここで、時間ΔTは遅延時間である。絶対距離を測るためには時間軸の包絡線の時間波形f(t−ΔT)からΔTを求めるか、(2)式の右辺のB項で示される周波数軸の位相特性e−jBを求めればよい。ωは角周波数でありfを周波数としてω=2πfの関係がある。(2)式の左辺のjA項は、キャリア成分の位相シフトを表す。この項は、光の半波長の距離で2πラジアン変化する感度の高い成分であり、変位測定に用いられる。
【0043】
距離測定の分解能を1μmより高めるためには、包絡線の時間波形f(t−ΔT)又は周波数軸の位相特性e−jBから遅延時間ΔTを求めるための時間分解能をフェムト秒のオーダーに高めなければならない。電気回路の周波数帯域の上限が数十GHzであることを考えると困難である。そこで、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光Sと測定光Sを発生する2つの光源を用意して干渉させ、電気的に処理が可能な周波数に落として遅延時間ΔTを計測するのがレーザ距離計10による距離測定の方法である。
【0044】
測定距離(L−L)に比例する基準光パルスPと測定光パルスPの時間ΔTの測定を、互いに変調周期の異なる干渉性のある2台のパルス光源の干渉によって行う場合の模式図を図2の(A),(B)に示す。
【0045】
図2の(A)は基準光検出器3が受光する光パルス列を表す。S,Sは、それぞれ基準光パルスと測定光パルスの包絡線の時間波形である。繰り返し周波数は基準光パルスSがf+Δf、測定光パルスSがfであると仮定する。繰り返し周期はSがT’=1/(f+Δf)、SがT=1/fである。重なったパルスを基準に計測した時刻をそれぞれの繰り返し周期で規格化した値をNとすると、SとSのパルスはそれぞれのNが整数の時刻にN番目のパルスが検出器に到着することになる。SとSのN番目のパルスの到着時刻を比較すると、パルス列の周期の違い(T−T’)のN倍の時間だけ基準光パルスSが先に到着する。パルス到着時間のずれはNに比例して大きくなり、あるN番目のパルスでは、(T−T’)N=Tとなり、N番目の基準光パルスSがN−1番目の測定光パルスSに追い付いて同じ時刻に到着する。
【0046】
、Sのタイミングが一致するまでのパルスの個数Nは、次の(3)式により求められる。
【0047】
【数4】

とSの干渉信号は、互いのパルスが重なり合うタイミングで発生する。したがって、干渉信号の周期Tは、次の(4)式で表され、2つのパルス列の繰り返し周波数差Δfの逆数に等しい。
【0048】
【数5】

また、S,Sはそれぞれ一定の繰り返し周波数を持つパルス列であるから、干渉信号も一定の周期Tで同じ波形を繰り返す。繰り返し周波数差Δfが大きすぎると光パルスが重なり合う時間が短くなるため干渉信号がとりにくくなる。それを避けるためΔf<<fのように繰り返し周波数差を設定する。
【0049】
また、図2の(B)は、測定光検出器6が受光するパルス列を表す。図2の(A)に示すパルスと比較して、測定光パルスSが光路長(L−L)を往復したことによる時間ΔTだけ遅れて到着している。この場合、SとSのパルスが重なる番号N’は、N’に比例して大きくなる周期のずれとΔTの和が測定光パルスの周期Tに一致した瞬間であり、次の(5)式で表わすことができる。
【0050】
【数6】

したがって、N’は、次の(6)式で与えられる。
【0051】
【数7】

ただし、δ=ΔTfである。ΔTが0から測定光パルスの繰り返し周期Tまで変化する間にδは0〜1まで直線的に変化する。
【0052】
測定光検出器の受光パルスS,Sが重なる時間を基準光検出器が受光するパルスが重なるN=0の時刻を基準に計測するとその時刻は次の(7)式で示されるN’T’で与えられる。
【0053】
【数8】

δが測定光パルスの1周期の間で0から1まで変化するとN’T’はT〜0まで直線的に変化する。遅延時間ΔTがあっても、0〜Tまでの間に必ず1か所SパルスがSパルスを追い越していく時刻が存在するため、0〜Tの間で必ず干渉信号が得られる。N=0の時刻で発生する基準光検出器の干渉信号と遅延時間ΔTのために遅れて発生する測定光検出器の干渉信号の時刻を比較することによって遅延時間ΔTが求められる。
【0054】
例えば、基準光パルスの繰り返し周波数を25GHz+100kHz、測定光パルスの繰り返し周波数を25GHzとすると、ΔTが0〜40psの範囲で変化すると、干渉信号の発生時刻は10μs〜0の間で変化する。40psの時間内で起こる変化を10μsの時間幅に引き伸ばして計測できる。1フェムト秒の時間差であっても250psとして観測できるため、直接フェムト秒の分解能で時間計測を行うよりもはるかに低い周波数帯域の電気回路で取り扱うことができる。
【0055】
測定光パルスに与えられる時間遅延の符号とビート信号の時間遅延の符号の関係は、SとSの繰り返し周波数とキャリア周波数の大小関係に依存する。
【0056】
図3の(A)は、光スペクトルの模式図である。Sは基準光のスペクトル、Sは測定光のスペクトルを表す。S、Sは光パルスの繰り返し周波数に一致したコム状のモードを持っており、モード間隔はそれぞれSがf+Δf、Sがfである。図3の(A)では、スペクトル中央のモードを中心にモード番号を付け、N=0のモード間の干渉信号の周波数をfと仮定している。SとSの干渉波形にはさまざまなモード間の差周波数が含まれるが、同じモード番号間の差周波数が最も低い周波数帯に現れるため、適当な周波数帯域の光検出器を使用すると高い差周波数成分は検出信号から除外される。この場合、同じモード番号の干渉波形だけがビート信号として光検出器から取り出される。
【0057】
また、図3の(B)は、ビート信号スペクトルの模式図である。周波数fを中心にΔf間隔のコム状の電気信号スペクトルが得られる。ビート信号の時間波形は各周波数成分を重ね合わせたものである。周波数軸の位相特性e−jBを求めるためには、基準光検出器の出力ビート信号のスペクトルから基準となる位相特性を求め、同時に測定光検出器の出力ビート信号スペクトルから求められる位相特性を求め、それらを比較する。光分離素子12までの光路差に依存するビート信号スペクトルの位相特性は共通なので、比較によって得られる位相特性の違いは測定距離(L−L)の伝搬によるものである。測定光スペクトルと基準光スペクトルの各モードの位相差情報が、ビート信号スペクトルの各モード番号の位相に反映される。ビート信号スペクトルのモード番号と位相の関係を測定光スペクトルのモード番号と位相差の関係に置き換えて光周波数と位相差の関係ωΔTを求め、その直線をωで微分して得られる係数からΔTを求める。
【0058】
光コム干渉による距離測定をビート信号の周波数解析により行うと、光スペクトルが持つ広い帯域をΔf/fに圧縮して電気的に解析できるため、光パルスの往復時間を計測する距離計でありながら高い分解能を得ることができる。
【0059】
計測に必要な時間は、干渉信号の1周期TであるΔfを100kHzとすると周期Tは10μsであり、短時間に距離を測定することができる。
【0060】
したがって、このような構成のレーザ距離計10では、第1及び第2の光源1,2から出射されるそれぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光Sと測定光Sを基準面4と測定面5に照射し、上記基準面4と測定面5に照射する基準光Sと測定光Sとの干渉光Sを基準光検出器3により検出するとともに、上記基準面4により反射された基準光S’と上記測定面5により反射された測定光S’との干渉光S4を測定光検出器6により検出し、上記信号処理部7により、上記基準光検出器3により干渉光Sを検出した干渉信号と上記測定光検出器6により干渉光Sを検出した干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることにより、長い距離を高い精度でしかも短時間に測定することができる。
【0061】
ここで、上記レーザ距離計10における第1及び第2の光源1,2としては、例えば、モード周波数間隔が異なる2台の光周波数コム発生器、あるいは、それぞれ周期的に強度又は位相が変調されかつキャリア周波数が安定化された2台の光源などを用いることができる。
【0062】
距離計としての性能は、基準光Sと測定光Sほぼ出射する上記第1及び第2の光源1,2の性能で決定される。距離測定の分解能は光スペクトル幅または光パルス幅に依存しており、光スペクトルの幅が広い、または光パルスの幅が狭いほど距離測定の分解能を高くすることができる。また、絶対距離測定の確度は光コムモードの周波数間隔または光パルスの繰り返し周波数の確度に依存している。マイクロ波の絶対周波数確度が高いほど絶対距離測定の確度を高めることができる。さらに測定値のばらつきはfやf+Δfの安定度に依存する。
【0063】
また、上記レーザ距離計10では、2台の光源1、2から出射される光の干渉を使って距離の測定を行うので、上記第1及び第2の光源1、2は、光コムモード間隔または光パルス繰り返し周波数または変調周期が異なりかつ干渉性の良いものでなければならない。
【0064】
独立に発振するパルスレーザは、通常レーザ発振の中心周波数や繰り返し周波数がばらばらであり、その変動に相関がない。したがって2台の独立したパルスレーザを使用して距離計測を行う場合、精度を高めるためには、発振波長や光位相、パルスの繰り返し周波数を相対的に固定することが重要である。
【0065】
外部変調された2台の光源または2台の光周波数コム発生器を使用すると距離計の要求を満たす光源を比較適容易に実現できる。特に、2台の発振器の同期をとった光周波数コム発生器は、互いに干渉性が良い、繰り返し周波数が安定、スペクトルの広がりが大きくパルス幅が短い、といった特徴を持つため、このレーザ距離計10に最適な光源である。
【0066】
なお、光周波数コム発生器20は、例えば、図4に示すように、一対の反射鏡21A,21Bで構成される光共振器21の内部に光位相変調器22を挿入してなるもので、単一周波数の連続波(周波数:ν)の光を入力し、光共振器21の自由スペクトル域(FSR)の整数倍に一致した周波数で光位相変調器22を駆動すると、光共振器21内の多重往復の周期と変調信号周期の同期がとれるため共振器のない光位相変調器と比べて極めて効率の良い変調が行われ、サイドバンドの本数は数百から数千本に達し、数テラヘルツのスペクトル広がりを持つ光周波数コムを出力として得ることができる。光周波数コム発生器20では、時間的にも短いパルスを発生することが可能で、時間幅1ピコ秒以下の光パルスを発生することができる。光周波数コム発生器20の出力は、中心周波数が入力周波数と等しく周波数間隔が変調周波数に等しいコム(櫛)状の光であり、図5に示すように、時間軸では、繰り返し周波数がfであるパルス列である。変調指数を上げてスペクトルの広がりを大きくするほど時間幅の短いパルスを得ることができる。
【0067】
ここで、上記レーザ距離計10における第1、第2の光源1,2として2台の光周波数コム発生器を使用する場合、例えば、図6に示すような構成の光源100とされる。
【0068】
すなわち、この光源100では、1台の単一周波数発振のレーザ光源101から出射されるレーザ光がビームスプリッタ102により分割されて2台の光周波数コム発生器(OFCG1、OFCG2)20A,20Bに入力されるようになっている。
【0069】
2台の光周波数コム発生器20A,20Bは、互いに異なる周波数f+Δfと周波数fで発振する発振器103A,103Bにより駆動される。それぞれの発振器103A,103Bは、共通の基準発振器104により位相同期されることにより、f+Δfとfの相対周波数が安定になる。光周波数コム発生器(OFCG1)20Aの前には、音響光学周波数シフタ(AOFS)のような周波数シフタ105を設けて、入力されたレーザ光にこの周波数シフタ105により周波数fの光周波数シフトを与えるようになっている。これにより、キャリア周波数間のビート周波数が直流信号ではなく周波数fの交流信号になる。その結果、キャリア周波数の高周波側サイドバンドのビート信号と低周波側サイドバンドのビート信号がビート信号のキャリア周波数間のビート周波数fを挟んで相対する周波数領域に発生するため位相比較に都合が良い。
【0070】
上記光源100を構成している2台の光周波数コム発生器(OFCG1、OFCG2)20A,20Bは、図7の(A),(B)に示すような周波数の光周波数コムを出力する。
【0071】
すなわち、光周波数コム発生器(OFCG2)20Bの出力は、図7の(A)に示すように、中心にfの周波数間隔でコム状のモードが並ぶ。光周波数コム発生器(OFCG1)20Aの出力は、図7の(B)に示すように、周波数ν+fを中心にf+Δfの周波数間隔でコム状のモードが並ぶ。
【0072】
このような構成の光源100を上記第1、第2の光源1,2として備えたレーザ距離計10において、基準光検出器3の入力前で重ね合わされたn次モードの電界の振幅e(t)は、次の(8)式で表される。
【0073】
【数9】

ここで、ERは、光周波数コム発生器(OFCG1)20Aから出射される基準光Sの電界を表し、ETは、光周波数コム発生器(OFCG2)20Bから出射される測定光Sの電界を表す。次数の異なるモード間の干渉信号は、変調周波数fとその周辺に現れる。したがって、光検出器の帯域をfやΔfに比べて十分広いがfより小さくとるか、フィルタを使用して高周波成分を取り除くと、同じ次数のモード間のビート周波数だけが残る。θはn次モードの位相差である。基準光n次モードの位相を基準にした測定光n次モードの相対位相を表している。
【0074】
また、光検出器の出力電流i(t)は、aを係数として、次の(9)式にて表すことができる。
【0075】
【数10】

(9)式のθを与える時間遅延は、基準光検出器3の場合、ビームスプリッタ102Aで光を分離してから光分離素子11で重ね合わせられるまでの光路差や信号ケーブルの長さに依存する。この時間遅延は、基準光検出器3と測定光検出器6に共通であるため、測定光検出器6の出力のθから基準光検出器3の出力のθを差し引くことにより取り除かれる。光検出器からの出力電流の時間波形は、すべてのn次の電流を重ねた結果でありΣi(t)にて表すことができる。出力電流の波形は、キャリア周波数fの信号がΔfの周期で変調された波形であり、θは包絡線の時刻を決める。時間的には、基準光検出器3の出力のビート信号の発生時刻と測定光検出器6の出力のビート信号の発生時刻を比較することによってθの影響を取り除くことができる。測定光検出器6の出力のθをθ’とすると、基準光検出器3と測定光検出器6による検出として得られる各干渉信号の時間差は、周波数軸では(θ’−θ)のnに対する変化率である。したがって、(θ’−θ)を各モードに対して求めると距離(L−L)を求めることができる。
【0076】
ここで、基準光検出器3による検出として得られる干渉信号を波形観測して得られた波形例を図8に示す。f=25GHz、Δf=100kHz、f=40MHzの光コム発生器(OFCG1、OFCG2)20A、20Bを使用した場合である。周期Tが10μsecで40MHzのキャリアが強度変調された波形の干渉信号となっている。
【0077】
また、距離(L−L)を約−3mmから約+3mmまで約1mm刻みで変えた場合の干渉波形の変化を図9A〜図9Dの(A)〜(G)に示す。図9A〜図9Dにおいて、Ch1は基準光検出器3により検出出力として得られた干渉信号の波形例を示し、Ch2は測定光検出器6により検出出力として得られた干渉信号の波形例を示す。Δf=100kHzであるため、10μsecごとに同じ波形が繰り返されている。図9A〜図9Dの(A)〜(G)に示すように、距離(L−L)が変化すると、基準光検出器3による検出出力として得られたCh1の干渉信号に対する測定光検出器6による検出出力として得られたCh2の干渉信号のタイミングが変化するので、その時間差を測れば距離(L−L)を求めることができる。
【0078】
したがって、このレーザ距離計10に信号処理部7では、ピーク検出回路を用いて信号のピークの時間差を求めるか、信号を高速フーリエ変換して周波数と位相の関係を求めてもよい。信号の繰り返しが早いので短時間に距離測定を行うことができる。
【0079】
すなわち、基準光検出器3と測定光検出器6による検出として得られる各干渉信号は、図9A〜図9Dの(A)〜(G)に示すように、上記基準光Sと測定光Sのキャリア周波数の差で振動する信号がパルス状に変調された形になっている。パルスの包絡線の時間差が測定距離を表すので、時間的には、包絡線のピークを求め、ピークの時間差から距離を求めることができる。したがって、信号処理部7では、例えば、図10の(A)に示すように、ダイオードと低域透過フィルタからなる包絡線検波部71,72を使用するとキャリア成分の無い包絡線の信号に変換することができる。基準光検出器3による検出として得られる干渉信号と測定光検出器6による検出として得られる干渉信号に対して、それぞれ包絡線検波を行い、さらに、時間差測定部73において、ピーク検出回路を用いて包絡線がピークになる時間を検出し時間差を求めることにより遅延時間を求めることができ、距離計算部74において上記時間差から距離を計算することができる。
【0080】
また、上記信号処理部7では、光周波数コムの周波数的な安定性を利用して周波数軸での解析を行うとより高度な解析を行うようにすることもできる。基準光検出器3に入力される干渉光と測定光検出器6に入力される干渉光を同期させ、それぞれn次モードの相対位相θを一括して求め、周波数とθの関係を基準光検出器3による検出として得られる干渉信号と測定光検出器6による検出として得られる干渉信号で比較することにより遅延時間を求めることができる。
【0081】
すなわち、上記信号処理部7は、例えば、図10の(B)に示すように、上記基準光検出器4により検出された干渉信号をフーリエ変換部75により周波数解析して多数の光周波数コムの位相情報を一括して取得するとともに、上記測定光検出器6により検出された干渉信号をフーリエ変換部76により周波数解析して多数の光周波数コムの位相情報を一括して取得し、位相差測定部77によりそれぞれの位相特性の周波数に対する変化率を求め、距離計算部78において、その傾きの差から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を算出するものとすることができる。
【0082】
ここで、上記光周波数コム発生器(OFCG1)20Bにより発生される基準光Sのモードの角周波数をω、上記光周波数コム発生器(OFCG2)20Aにより発生される測定光Sのモードの角周波数をωとし、上記周波数シフタの角周波数をω、変調信号の角周波数差をΔωとすると、これらの周波数関係は、次の(10)式にて表わされる。
【0083】
【数11】

光分離素子12を介して、基準検出器3に向かう基準光S、測定光Sの各位相θ,θは時間tにおいてそれぞれ、次の(11)式で表される。
【0084】
【数12】

基準光検出器と測定光検出器に共通の時間に依存しない位相項は省略した。その時、上記光分離素子12を介して、測定光検出器6に向かう基準光S’、測定光S’の各位相θ’,θ’は、次の(12)式ように表すことができる。
【0085】
【数13】

ここで、Lは上記分離素子12から偏光ビームスプリッタ14に至るまでの媒質の長さである。また、N01、N02は、上記分離素子12から偏光ビームスプリッタ14に至るまでの媒質の角周波数ωと角周波数ωにおける屈折率である。
【0086】
測定光検出器6から出力される干渉信号の位相(θ’−θ’)と基準検出器3から出力される干渉信号の位相(θ−θ)の差Δθ=(θ’−θ’)−(θ−θ)は以下の(13)式で表わすことができる。
【0087】
【数14】

ここで、Nは、上記分離素子12から偏光ビームスプリッタ14に至るまでの媒質の群屈折率である。
【0088】
この(13)式における第1項が測定対象の距離(L−L)に比例して変化する位相を表す。測定対象の距離が光の半波長変化すると2πラジアン変化する。第2項は、上記分離素子12から偏光ビームスプリッタ14に至るまでの長さL、群屈折率Nと偏光ビームスプリッタ14から基準反射鏡4に至るまでの固定された距離Lに依存する位相のオフセットである。第2項は、モード次数に依存したビート信号の半波長で2πラジアン変化するため、第1項に比べて位相の変化が緩慢である。
【0089】
計測したい距離L−Lは、位相のモード次数に対する変化率から求められる。
【0090】
Δθn+1−Δθは、次の(14)式で算出することができる。
【0091】
【数15】

ここで、ω=2πfは変調周波数を表す。上の(14)式から明らかなように、正しい距離を求めるためにはΔω=0の時の位相の変化率を求めることが必要である。異なる複数の周波数差Δωにおいて位相の変化率を求め位相特性の変化からΔω=0での値を求めることが可能である。例えばΔf=Δω/2π=100kHz、200kHzで位相の変化率を求め、外挿によりΔf=0の値をも求めることができる。または、周波数差がΔωと−Δωの場合の位相変化率を計測して、平均化を行ってもよい。
【0092】
レーザ距離計10は、周期的に発生する光パルスを用いているため、測定距離(L−L)を往復する際の時間遅延が光パルスの繰り返し周期を超えると同じ干渉信号が繰り返され、一組のマイクロ波周波数による距離測定だけではパルス数を判別することができない。パルス数の判別を行うためには異なる二組のマイクロ波ωで測定を行って(Δθn+1−Δθ)を比較する。ωとω+Δωの2周波数で同じ距離測定を行ったと仮定すると、周波数ωでの位相差(Δθn+1−Δθ)は次の(15)式で表わすことができる。
【0093】
【数16】

そして周波数ω+Δωでの位相差(Δθn+1’−Δθ’)は次の(16)式で表わすことができる。
【0094】
【数17】

したがって、その差は、次のようにあらわすことができる。
【0095】
【数18】

2組の測定の周波数差を1MHzに設定すると(L−L)が約150mまでの範囲で絶対距離を求めることができる。
【0096】
以上のような構成のレーザ距離計10では、マイクロ波発振器の周波数安定度と同じ程度の測定精度で距離L−Lを測定することができる。長期的な安定度はマイクロ波発振器の位相同期回路に入力される基準発振器の周波数安定度で決定される。計測時間を短縮するためには短期的なfとf+Δfの相対位相の安定性が要求される。しかし、同じ基準発振器を用いても、低い周波数の基準信号の周波数をマイクロ波帯の駆動周波数までに上げる際に位相のジッタが累積される可能性があるため短期的には相対位相にジッタが含まれる可能性がある。その場合、短時間で計測した場合の測定精度が低下する。したがって計測時間を短縮するためには、位相同期ループの帯域を広くとった対の発振器が必要である。
【0097】
なお、ここまでの距離計は、マイクロ波発振器の周波数を基準に距離を計測しているため、光周波数の安定度には無関係である。マイクロ波の波長は長いためナノメートルより高い分解能で測定するためにはコムモードの帯域を数十テラヘルツから数百テラヘルツの帯域が必要であるが広げることは容易ではない。しかし、基準光S、測定光Sの光源として周波数安定化レーザを用いるとナノメートルのレベルで変化する光の位相から高い分解能で変位を求めることができる。コムモードの相対周波数によりマイクロ波の周波数安定度で光波長以下の精度で距離を求め、さらに高い精度は光の波長を基準に距離を決定することできる。通常、光の波長を基準に距離を求める変位計では、絶対距離を求めるために原点復帰が必要であるが、マイクロ波周波数を基準とする測定と光周波数を基準とする測定を併用すると原点復帰をすることなくナノメートルより高い精度で距離を測定することが可能である。
【0098】
すなわち、上記レーザ距離計10において、上記信号処理部7は、例えば、変調周波数が同じでない複数の値での距離計測結果に基づいて、マイクロ波の波長以上の距離で絶対距離測定値を算出するものとすることができる。
【0099】
また、上記レーザ距離計10において、上記信号処理部7は、例えば、モード周波数差が同じでない複数の値での距離計測結果に基づいて、測定距離の校正処理を行うようにすることもできる。
【0100】
なお、上記レーザ距離計10では、偏光ビームスプリッタ14により基準光S1と測定光S2を分離して基準面4と測定面5に照射するようにしたが、図11に示すレーザ距離計110のように、偏光ビームスプリッタ14に替えて、偏光に関係なく光を部分的に反射する半透鏡111と特定の偏光成分のみ透過させる偏光子112、113を使用することもできる。基準光Sだけが基準面4に向かうように偏光子112の向きを調整し、また、測定光Sだけが測定面6に向かうように偏光子113の向きを調整することにより、このレーザ距離計110は、上記レーザ距離計10と同様に動作する。
【0101】
また、本発明に係るレーザ距離計10を使用して、例えば、図12に示すような光学的三次元形状測定機200を構成することができる。
【0102】
この光学的三次元形状測定機200は、上記レーザ距離計10における測定光S2で対象物体を走査する光学スキャン装置220と、上記レーザ距離計10の基準光検出器3と測定光検出器6の各検出出力に基づいて、対象物体250の複数の点までの絶対距離を計測して立体像を得る信号処理装置230を備える。
【0103】
この光学的三次元形状測定機200では、レーザ距離計10からの測定光Sが光学スキャン装置220から対象物体250に向けて照射され、対象物体250からの反射光がレーザ距離計10に戻り、物体表面までの絶対距離が信号処理装置230により計測される。信号処理装置230は、光学スキャン装置220を制御してレーザービームを走査すると同時にレーザ距離計10が計測する絶対距離情報を取得して、ビーム照射位置とその場所まで絶対距離を複数の点について蓄積することにより非接触で物体の三次元形状を測定する。
【0104】
なお、光学スキャン装置220により光ビームを走査する代わりに対象物体250を移動させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に係るレーザ距離計の基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】測定距離に比例する基準光パルスと測定光パルスの時間の測定を、互いに変調周期の異なる干渉性のある2台のパルス光源の干渉によって行う場合の模式図である。
【図3】光スペクトル及びビート信号スペクトルの模式図である。
【図4】上記レーザ距離計における光源として使用される光周波数コム発生器の構造を模式的に示す断面図である。
【図5】上記光周波数コム発生器の出力を模式的に示す図である。
【図6】上記レーザ距離計において2台の光周波数コム発生器を用いた光源の構成を模式的に示すブロック図である。
【図7】上記光源を構成している2台の光周波数コム発生器の出力を模式的に示す図である。
【図8】上記レーザ距離計における測定距離が付近の干渉波形の例を示す図である。
【図9A】上記レーザ距離計における測定距離と検出される干渉信号との関係を模式的に示す図である。
【図9B】上記レーザ距離計における測定距離と検出される干渉信号との関係を模式的に示す図である。
【図9C】上記レーザ距離計における測定距離と検出される干渉信号との関係を模式的に示す図である。
【図9D】上記レーザ距離計における測定距離と検出される干渉信号との関係を模式的に示す図である。
【図10】上記レーザ距離計の信号処理部の構成例を示すブロック図である。
【図11】上記レーザ距離計の他の構成例を示すブロック図である。
【図12】本発明に係るレーザ距離計を用いた光学的三次元形状測定機の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0106】
1、2 レーザ光源、3 基準光検出器、4 基準面、5 測定面、6 測定光検出器、7 信号処理部、11,12 光分離素子、13,14 偏光子、15 偏光ビームスプリッタ、10,110 レーザ距離計、20,20A,20B 光周波数コム発生器、21 光共振器、21A,21B 反射鏡、22 光位相変調器、71,72 包絡線検波部、73 時間差測定部、74 距離計算部、75,76 フーリエ変換部、77 位相差測定部、78 距離計算部、100 光源、101 レーザ光源、102 ビームスプリッタ、103A,103B 発振器、104 基準発振器、105 周波数シフタ、111 半透鏡、112,113 偏光子、200 光学的三次元形状測定機、220 光学スキャン装置220、230 信号処理装置、250 対象物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射する第1及び第2の光源と、
上記第1の光源から出射された基準光と上記第2の光源からの出射された測定光との干渉光を検出する基準光検出器と、
上記第1の光源から出射された基準光が照射される基準面と、
上記第2の光源から出射された測定光が照射される測定面と、
上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との干渉光を検出する測定光検出器と、
上記基準光検出器により検出された干渉信号と上記測定光検出器により検出された干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求める信号処理部と
を備える距離計。
【請求項2】
上記第1及び第2の光源は、モード周波数間隔が異なる2台の光周波数コム発生器であることを特徴とする請求項1記載の距離計。
【請求項3】
上記信号処理部は、上記基準光検出器により検出された干渉信号を周波数解析して多数の光周波数コムの位相情報を一括して取得するとともに、上記測定光検出器により検出された干渉信号を周波数解析して多数の光周波数コムの位相情報を一括して取得し、それぞれの位相特性の周波数に対する変化率を求め、その傾きの差から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を算出することを特徴とする請求項2記載の距離計。
【請求項4】
上記第1及び第2の光源として、それぞれ周期的に強度又は位相が変調されかつキャリア周波数が安定化された2台の光源を使用し、
上記信号処理部は、上記基準光検出器と上記測定光検出器による干渉信号の時間差による絶対距離とキャリア周波数成分の位相による変位測定を行うことを特徴とする請求項1記載の距離計。
【請求項5】
上記第1及び第2の光源は、相対位相の同期が高い周波数帯域まで行われ短期的な相対位相変動の少ない2台の対になった発振器により駆動されて、上記互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射することを特徴とする請求項1記載の距離計。
【請求項6】
上記信号処理部は、モード周波数差が同じでない複数の値での距離計測結果に基づいて、測定距離の校正処理を行うことを特徴とする請求項1記載の距離計。
【請求項7】
上記信号処理部は、変調周波数が同じでない複数の値での距離計測結果に基づいて、マイクロ波の波長以上の距離で絶対距離測定値を算出することを特徴とする請求項1記載の距離計。
【請求項8】
それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を基準面と測定面に照射し、
上記基準面と測定面に照射する基準光と測定光との第1の干渉光を検出するとともに、上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との第2の干渉光を検出し、
上記第1の干渉光を検出した干渉信号と上記第2の干渉光を検出した干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求める
ことを特徴とする距離測定方法。
【請求項9】
それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光と測定光を出射する第1及び第2の光源と、上記第1の光源から出射された基準光と上記第2の光源からの出射された測定光との干渉光を検出する基準光検出器と、上記第1の光源から出射された基準光が照射される基準面と、上記基準面により反射された基準光と上記対象物体により反射された測定光との干渉光を検出する測定光検出器と、上記基準光検出器により検出された干渉信号と上記測定光検出器により検出された干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準面までの距離と上記対象物体までの距離の差を求める信号処理部とを備える距離計と、
上記距離計から出射される測定光で対象物体を走査し、上記対象物体により反射された上記測定光を上記距離計に戻す光学スキャン装置と、
上記光学スキャン装置を制御してレーザービームを走査すると同時に上記距離計が計測する絶対距離情報を取得して、ビーム照射位置とその場所まで絶対距離を複数の点について蓄積することにより非接触で物体の三次元形状を測定する信号処理装置と
を備えることを特徴とする光学的三次元形状測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−14549(P2010−14549A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174860(P2008−174860)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(503249810)株式会社 光コム (28)
【Fターム(参考)】