説明

路面摩擦係数推定装置

【課題】いかなる車両の運動状態においても、重み付け等の複雑な処理を加えることなく、路面摩擦係数を連続的に自然な値で精度良く推定する。
【解決手段】実際に生じている推定ラック推力Fr_star、推定車輪制駆動力Fx_star、推定横力Fy_starを算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより基準ラック推力Fr_model、基準車輪制駆動力Fx_model、基準横力Fy_modelを算出し、推定ラック推力Fr_starと基準ラック推力Fr_modelとの偏差と推定車輪制駆動力Fx_starと基準車輪制駆動力Fx_modelとの偏差と推定横力Fy_starと基準横力Fy_modelとの偏差が最小となるように路面摩擦係数μの値を最適化計算により求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な車両の運動状態においても適切に路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においてはトラクション制御、制動力制御、トルク配分制御等について様々な制御技術が提案され、実用化されている。これらの技術では、必要な制御量の演算、或いは、補正に路面摩擦係数を用いるものも多く、その制御を確実に実行するためには、正確な路面摩擦係数を推定する必要がある。このような路面摩擦係数の推定を行うものとして、例えば、特許第3393654号公報(以下、特許文献1)には、車体に作用する横加速度に基づいて第1路面摩擦係数を推定し、車体に作用する前後加速度に基づいて第2路面摩擦係数を推定し、第1路面摩擦係数と第2路面摩擦係数とを比較して高い方の路面摩擦係数を路面摩擦係数として選択する車両のスリップ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3393654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示される路面摩擦係数推定方法では、第1路面摩擦係数と第2路面摩擦係数とを比較して高い方の路面摩擦係数を採用するようになっているため、車両の運動状態によっては、路面摩擦係数の値が断続的に変動し、自然で滑らかな制御を行い難いという問題がある。また、上述の特許文献1に開示される路面摩擦係数推定方法では、横方向運動情報から算出する第1路面摩擦係数はタイヤの縦ひずみを考慮しておらず、前後方向運動情報から算出する第1路面摩擦係数はタイヤの横ひずみを考慮していないため、タイヤの縦ひずみ、横ひずみの両ひずみを必要とする旋回駆動時、旋回制動時では、路面摩擦係数の推定精度が悪くなるという問題がある。更に、上述の特許文献1に開示される路面摩擦係数推定方法では、最終的に路面摩擦係数を決定する際に、車体速度、前後加速度、横加速度等による条件で、重み付けする必要があり、処理が複雑になるという問題もある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、いかなる車両の運動状態においても、たとえ旋回制駆動時等であっても、重み付け等の複雑な処理を加えることなく、路面摩擦係数を連続的に自然な値で精度良く推定できる路面摩擦係数推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、実際に生じているラック推力を推定ラック推力として算出する推定ラック推力算出手段と、少なくともタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータと路面摩擦係数とをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出するラック推力を基準ラック推力として算出する基準ラック推力算出手段と、実際に生じている車輪の制駆動力を推定車輪制駆動力として算出する推定車輪制駆動力算出手段と、少なくともタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータと路面摩擦係数とをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する車輪の制駆動力を基準車輪制駆動力として算出する基準車輪制駆動力算出手段と、実際に生じている横力を推定横力として算出する推定横力算出手段と、少なくともタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータと路面摩擦係数とをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する横力を基準横力として算出する基準横力算出手段と、上記推定ラック推力と上記基準ラック推力との偏差と上記推定車輪制駆動力と上記基準車輪制駆動力との偏差と上記推定横力と上記基準横力との偏差が最小となるように上記路面摩擦係数の値を最適化計算により求める路面摩擦指数推定手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による路面摩擦係数推定装置によれば、いかなる車両の運動状態においても、たとえ旋回制駆動時等であっても、重み付け等の複雑な処理を加えることなく、路面摩擦係数を連続的に自然な値で精度良く推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態による、路面摩擦係数推定装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の一形態による、路面摩擦係数推定プログラムのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の一形態による、図2から続くフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態による、λの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
図1において、符号1は路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置を示し、4輪の車輪速(左前輪車輪速Vfl、右前輪車輪速Vfr、左後輪車輪速Vrl、右後輪車輪速Vrr)を検出する4輪車輪速センサ11、前輪舵角δfを検出する舵角センサ12、横加速度(dy/dt)を検出する横加速度センサ13、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ14、操舵トルクThを検出する操舵トルクセンサ15、ブレーキ液圧PBを検出するブレーキ液圧センサ16の各センサが接続されて、これらセンサ11、12、13、14、15、16から4輪の車輪速Vfl、Vfr、Vrl、Vrr、前輪舵角δf、横加速度(dy/dt)、ヨーレートγ、操舵トルクTh、ブレーキ液圧PBがそれぞれ入力される。また、路面摩擦係数推定装置1には、エンジン制御装置17、トランスミッション制御装置18、電動パワーステアリング制御装置19が接続されて、エンジン出力トルクTeg、エンジン回転数Ne、主変速ギヤ比i、タービン回転数Nt、前後駆動力配分比rd、電動パワーステアリングモータの電流値iqがそれぞれ入力される。更に、路面摩擦係数推定装置1には、ブレーキスイッチ20が接続されており、ブレーキのON−OFF信号が入力される。
【0011】
路面摩擦係数推定装置1は、上述の各入力信号に基づき、後述する路面摩擦係数推定プログラムに従って、実際に生じているラック推力を推定ラック推力Fr_starとして算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出するラック推力を基準ラック推力Fr_modelとして算出し、実際に生じている車輪の制駆動力を推定車輪制駆動力Fx_starとして算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する車輪の制駆動力を基準車輪制駆動力Fx_modelとして算出し、実際に生じている横力を推定横力Fy_starとして算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する横力を基準横力Fy_modelとして算出し、推定ラック推力Fr_starと基準ラック推力Fr_modelとの偏差と推定車輪制駆動力Fx_starと基準車輪制駆動力Fx_modelとの偏差と推定横力Fy_starと基準横力Fy_modelとの偏差が最小となるように路面摩擦係数μの値を最適化計算により求めるように構成されている。
【0012】
すなわち、路面摩擦係数推定装置1は、図1に示すように、車体速度算出部1a、車体加減速度算出部1b、トランスミッション出力トルク算出部1c、運転状態判定部1d、接地荷重算出部1e、前輪すべり角算出部1f、前輪スリップ率算出部1g、推定車輪制駆動力算出部1h、推定ラック推力算出部1i、推定横力算出部1j、基準車輪制駆動力算出部1k、基準ラック推力算出部1l、基準横力算出部1m、路面摩擦係数算出部1nから主要に構成されている。
【0013】
車体速度算出部1aは、4輪車輪速センサ11から4輪の車輪速(左前輪車輪速Vfl、右前輪車輪速Vfr、左後輪車輪速Vrl、右後輪車輪速Vrr)が入力される。そして、例えば、以下の(1)式により、車体速度Vを算出し、車体加減速度算出部1b、前輪すべり角算出部1fに出力する。
V=((Vfl+Vfr+Vrl+Vrr)−Vw_max)/3 …(1)
ここで、Vw_maxは最大速の車輪速を示し、一輪浮きによる誤判定を避けるために、Vw_maxの車輪速以外の3輪の平均値より車体速度Vを算出するようになっている。
【0014】
車体加減速度算出部1bは、車体速度算出部1aから車体速度Vが入力される。そして、例えば、車体速度Vを微分することにより車体加減速度、すなわち、(dV/dt)を算出して、接地荷重算出部1e、推定車輪制駆動力算出部1hに出力する。
【0015】
トランスミッション出力トルク算出部1cは、エンジン制御装置17からエンジン出力トルクTeg、エンジン回転数Neが入力され、トランスミッション制御装置18から主変速ギヤ比i、タービン回転数Ntが入力される。そして、例えば、以下の(2)式により、トランスミッション出力トルクTM_trqを算出し、前輪スリップ率算出部1gに出力する。
TM_trq=Teg・t・i …(2)
ここで、tはトルクコンバータのトルク比で、例えば、予め設定されているトルクコンバータの回転速度比e(Nt/Ne)と、トルクコンバータのトルク比tとのマップを参照することにより求められる。
【0016】
運転状態判定部1dは、ブレーキスイッチ20からブレーキのON−OFF信号が入力される。そして、車両が制動状態(ブレーキスイッチ20がON)か、それ以外の走行状態(慣性走行を含む駆動状態;ブレーキスイッチ20がOFF)かを判定して、判定結果を前輪スリップ率算出部1g、推定車輪制駆動力算出部1hに出力する。
【0017】
接地荷重算出部1eは、横加速度センサ13から横加速度(dy/dt)が入力され、車体加減速度算出部1bから車体加減速度(dV/dt)が入力される。そして、例えば、以下の(3)式により、前後荷重移動量ΔWxを算出し、(4)式により、左右荷重移動量ΔWyを算出して、(5)〜(8)式により、左前輪接地荷重Fz_fl、右前輪接地荷重Fz_fr、左後輪接地荷重Fz_rl、右後輪接地荷重Fz_rrを算出して、基準車輪制駆動力算出部1k、基準ラック推力算出部1l、基準横力算出部1m、路面摩擦係数算出部1nに出力する。
ΔWx=(1/2)・(h/(lf+lf))・m・(dV/dt) …(3)
ここで、hは重心高、lfは前軸−重心間距離、mは車両質量である。
ΔWy=(1/2)・(h/d)・m・(dy/dt) …(4)
ここで、dはトレッドである。
Fz_fl=(1/2)・(lr/(lf+lr))・m・g−ΔWx−ΔWy…(5)
Fz_fr=(1/2)・(lr/(lf+lr))・m・g−ΔWx+ΔWy…(6)
Fz_rl=(1/2)・(lf/(lf+lr))・m・g+ΔWx−ΔWy…(7)
Fz_rr=(1/2)・(lf/(lf+lr))・m・g+ΔWx+ΔWy…(8)
ここで、lrは後軸−重心間距離、gは重力加速度である。
【0018】
前輪すべり角算出部1fは、舵角センサ12から前輪舵角δfが入力され、車体速度算出部1aから車体速度Vが入力される。そして、例えば、以下の(9)式により、前輪すべり角βfを算出する。
βf=β+(lf/V)・γ−δf …(9)
ここで、βは車体すべり角、γはヨーレートであり、以下の(10)、(11)式により算出される。
β=((1−(m/(2・(lf+lr)))・(lf/(lr・Kr))
・V)/(1+A・V))・(lr/(lf+lr))・δf…(10)
γ=(1/(1+A・V))・(V/(lf+lr))・δf…(11)
ここで、Aは車両のスタビリティファクタであり、以下の(12)式により算出される。
A=−(m/(2・(lf+lr)))
・(lf・Kf−lr・Kr)/(Kf・Kr) …(12)
ここで、Kfは前輪の等価コーナリングパワー、Krは後輪の等価コーナリングパワーである。
【0019】
また、前輪すべり角算出部1fは、新たな前輪すべり角を算出すると、過去に算出したサンプリング時間の異なる複数の前輪すべり角により、ベクトル量である前輪すべり角βfを新たに設定して、基準車輪制駆動力算出部1k、基準ラック推力算出部1l、基準横力算出部1m、路面摩擦係数算出部1nに出力する。本実施の形態では、前輪すべり角βfの例として、新しくサンプリングされた順に、βf[0]、βf[1]、・・・、βf[m]、・・・、βf[18]、βf[19]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。
【0020】
前輪スリップ率算出部1gは、ブレーキ液圧センサ16からブレーキ液圧PBが入力され、トランスミッション制御装置18から前後駆動力配分比rdが入力され、トランスミッション出力トルク算出部1cからトランスミッション出力トルクTM_trqが入力され、運転状態判定部1dから車両が制動状態(ブレーキスイッチ20がON)か、それ以外の走行状態(慣性走行を含む駆動状態;ブレーキスイッチ20がOFF)かの判定結果が入力される。そして、車両が制動状態の場合は、例えば、以下の(14)式により前輪(一輪)のスリップ率Sfを算出し、慣性走行を含む駆動状態の場合は、例えば、以下の(15)式により前輪(一輪)のスリップ率Sfを算出する。
Sf=(rB/2)・KB・PB …(14)
ここで、rBは制動力配分比、KBは制動力係数である。
【0021】
Sf=(rd/2)・TM_trq・η・if/r …(15)
ここで、ηは駆動系伝達効率、ifはファイナルギヤ比、rは動荷重半径である。
【0022】
また、前輪スリップ率算出部1gは、新たな前輪(一輪)のスリップ率を算出すると、過去に算出したサンプリング時間の異なる複数の前輪(一輪)のスリップ率により、ベクトル量である前輪スリップ率Sfを新たに設定して、基準車輪制駆動力算出部1k、基準ラック推力算出部1l、基準横力算出部1m、路面摩擦係数算出部1nに出力する。本実施の形態では、前輪スリップ率Sfの例として、新しくサンプリングされた順に、Sf[0]、Sf[1]、・・・、Sf[m]、・・・、Sf[18]、Sf[19]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。
【0023】
推定車輪制駆動力算出部1hは、トランスミッション制御装置18から前後駆動力配分比rdが入力され、車体加減速度算出部1bから車体加減速度(dV/dt)が入力され、運転状態判定部1dから車両が制動状態(ブレーキスイッチ20がON)か、それ以外の走行状態(慣性走行を含む駆動状態;ブレーキスイッチ20がOFF)かの判定結果が入力される。そして、車両が制動状態の場合は、例えば、以下の(17)式により、実際に生じている車輪(前1輪)の制駆動力を推定車輪制駆動力Fx_starとして算出する。また、慣性走行を含む駆動状態の場合は、例えば、以下の(18)式により、実際に生じている車輪(前1輪)の制駆動力を推定車輪制駆動力Fx_starとして算出する。
【0024】
すなわち、車両が制動状態の場合、各輪の前後力(左前輪前後力Fx_fl、右前輪前後力Fx_fr、左後輪前後力Fx_rl、右後輪前後力Fx_rr)の関係は、
Fx_fl=Fx_fr=(1/2)・rB・m・(dV/dt)
Fx_rl=Fx_rr=(1/2)・rB・m・(dV/dt)
であるとして、
Fx_star=(Fx_fl+Fx_fr)/2=(1/2)・rB・m・(dV/dt)…(17)
また、慣性走行を含む駆動状態の場合、
Fx_star=(1/2)・rd・m・(dV/dt) …(18)
また、推定車輪制駆動力算出部1hは、新たな推定車輪制駆動力を算出すると、過去に算出したサンプリング時間の異なる複数の推定車輪制駆動力により、ベクトル量である推定車輪制駆動力Fx_starを新たに設定して、路面摩擦係数算出部1nに出力する。本実施の形態では、推定車輪制駆動力Fx_starの例として、新しくサンプリングされた順に、Fx_star[0]、Fx_star[1]、・・・、Fx_star[m]、・・・、Fx_star[18]、Fx_star[19]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。このように、推定車輪制駆動力算出部1hは、推定車輪制駆動力算出手段として設けられている。
【0025】
推定ラック推力算出部1iは、操舵トルクセンサ15から操舵トルクThが入力され、電動パワーステアリング制御装置19から電動パワーステアリングモータの電流値iqが入力される。そして、例えば、以下の(20)式により、実際に生じているラック推力を推定ラック推力Fr_starとして算出する。
Fr_star=ζ1・(2・π/hs)・Tp) …(20)
ここで、ζ1はラック&ピニオンの効率で、hsは比ストロークである。また、Tpはピニオンギヤトルクであり、例えば、以下の(21)式により算出される。
Tp=Th+ζ2・nw・Tm …(21)
ここで、ζ2はウォームギヤ効率で、nwはウォームギヤ比である。また、Tmは電動パワーステアリングモータトルクであり、例えば、以下の(22)式により算出される。
Tm=sign(Th)・km・(1/31/2)・iq …(22)
ここで、sign(Th)は、操舵トルクThの符号であり、kmはモータトルク定数である。
【0026】
また、推定ラック推力算出部1iは、新たな推定ラック推力を算出すると、過去に算出したサンプリング時間の異なる複数の推定ラック推力により、ベクトル量である推定ラック推力Fr_starを新たに設定して、路面摩擦係数算出部1nに出力する。本実施の形態では、推定ラック推力Fr_starの例として、新しくサンプリングされた順に、Fr_star[0]、Fr_star[1]、・・・、Fr_star[m]、・・・、Fr_star[18]、Fr_star[19]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。このように、推定ラック推力算出部1iは、推定ラック推力算出手段として設けられている。
【0027】
推定横力算出部1jは、横加速度センサ13から横加速度(dy/dt)が入力され、ヨーレートセンサ14からヨーレートγが入力される。そして、例えば、以下の(24)式により、実際に生じている横力(前輪側のみ)を推定横力Fy_starとして算出する。 Fy_star=(1/2)・(m・(dy/dt)+I・(dγ/dt))
/(lf+lr) …(24)
ここで、Iはヨーイング慣性モーメントであり、(dγ/dt)はヨー角加速度である。
【0028】
また、推定横力算出部1jは、新たな推定横力を算出すると、過去に算出したサンプリング時間の異なる複数の推定横力により、ベクトル量である推定横力Fy_starを新たに設定して、路面摩擦係数算出部1nに出力する。本実施の形態では、推定横力Fy_starの例として、新しくサンプリングされた順に、Fy_star[0]、Fy_star[1]、・・・、Fy_star[m]、・・・、Fy_star[18]、Fy_star[19]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。このように、推定横力算出部1jは、推定横力算出手段として設けられている。
【0029】
基準車輪制駆動力算出部1kは、接地荷重算出部1eから各輪の接地荷重Fz_fl、Fz_fr、Fz_rl、Fz_rrが入力され、前輪すべり角算出部1fから前輪すべり角βfが入力され、前輪スリップ率算出部1gから前輪スリップ率Sfが入力される。そして、路面摩擦係数算出部1nからの指令に基づいて、例えば、以下の(26)式に示すような、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより、車輪(前一輪)の制駆動力を基準車輪制駆動力Fx_modelとして算出し、路面摩擦係数算出部1nに出力する。
Fx_model=−Ks・Sf・ξs−6・μ・Fz_f・cosθ・((1/6)
−(1/2)・ξs+(1/3)・ξs) …(26)
ここで、Ksはドライビングスティフネスであり、Fz_fは前輪の接地荷重であり、以下の(27)式で算出される。
Fz_f=(Fz_fl+Fz_fr)/2 …(27)
また、ξsは、以下の(28)式で算出される。
【0030】
ξs=1−(Ks/(3・μ・Fz_f))・λ …(28)
更に、λは、以下の(29)式で算出され、前輪すべり角βf、前輪スリップ率Sfを用いて図で示すと図4に示すようにθを用いて(30)式で表される。
【0031】
λ=(Sf+(Kf/Ks)・(1+Sf)・tanβf)1/2 …(29)
cosθ=Sf/λ …(30)
【0032】
尚、本実施の形態では、基準車輪制駆動力Fx_modelも、用いる前輪すべり角βf、前輪スリップ率Sfに対応して20個のデータが設定され、用いられた路面摩擦係数が前回の値μ[n-1]である場合は、新しく算出された順に、Fx_model[0][n-1]、Fx_model[1][n-1]、・・・、Fx_model[m][n-1]、・・・、Fx_model[18][n-1]、Fx_model[19][n-1]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。このように、基準車輪制駆動力算出部1kは、基準車輪制駆動力算出手段として設けられている。
【0033】
基準ラック推力算出部1lは、接地荷重算出部1eから各輪の接地荷重Fz_fl、Fz_fr、Fz_rl、Fz_rrが入力され、前輪すべり角算出部1fから前輪すべり角βfが入力され、前輪スリップ率算出部1gから前輪スリップ率Sfが入力される。そして、路面摩擦係数算出部1nからの指令に基づいて、例えば、以下の(32)式に示すような、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより、車輪(前一輪)のラック推力を基準ラック推力Fr_modelとして算出し、路面摩擦係数算出部1nに出力する。
Fr_model=(1/ln)・(SAT+εc・Fy) …(32)
ここで、lnはニューマチックトレール、εcはキャスタトレールである。
【0034】
SATは、例えば、以下の(33)式により、算出される。
【0035】
SAT=(lt/2)・Kf・(1+Sf)・tanβf・ξs・(1−(4/3)・ξs)−(3/2)・lt・μ・Fz_f・sinθ・ξs・(1−ξs)+(2/3)・lt・Ks・(1+Sf)・Sf・tanβf・ξs+((3・lt・(μ・Fz_f)・sinθ・cosθ)/(5・Ks))・(1−10・ξs+15・ξs−6・ξs
…(33)
ここで、ltはタイヤ接地長さである。sinθは以下の(34)式で算出される。
【0036】
sinθ=(Kf・tanβf・(1+Sf))/(Ks・λ) …(34)
【0037】
また、Fyは、例えば、以下の(35)式により、算出される。
Fy=−Kf・(1+Sf)・tanβf・ξs−6・μ・Fz_f・sinθ・((1/6)
−(1/2)・ξs+(1/3)・ξs) …(35)
【0038】
尚、本実施の形態では、基準ラック推力Fr_modelも、用いる前輪すべり角βf、前輪スリップ率Sfに対応して20個のデータが設定され、用いられた路面摩擦係数が前回の値μ[n-1]である場合は、新しく算出された順に、Fr_model[0][n-1]、Fr_model[1][n-1]、・・・、Fr_model[m][n-1]、・・・、Fr_model[18][n-1]、Fr_model[19][n-1]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。このように、基準ラック推力算出部1lは、基準ラック推力算出手段として設けられている。
【0039】
基準横力算出部1mは、接地荷重算出部1eから各輪の接地荷重Fz_fl、Fz_fr、Fz_rl、Fz_rrが入力され、前輪すべり角算出部1fから前輪すべり角βfが入力され、前輪スリップ率算出部1gから前輪スリップ率Sfが入力される。そして、路面摩擦係数算出部1nからの指令に基づいて、例えば、以下の(37)式に示すような、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより、車輪(前一輪)の横力を基準横力Fy_modelとして算出し、路面摩擦係数算出部1nに出力する。
Fy_model=−Kf・(1+Sf)・tanβf・ξs−6・μ・Fz_f・sinθ
・((1/6)−(1/2)・ξs+(1/3)・ξs) …(37)
【0040】
尚、本実施の形態では、基準横力Fy_modelも、用いる前輪すべり角βf、前輪スリップ率Sfに対応して20個のデータが設定され、用いられた路面摩擦係数が前回の値μ[n-1]である場合は、新しく算出された順に、Fy_model[0][n-1]、Fy_model[1][n-1]、・・・、Fy_model[m][n-1]、・・・、Fy_model[18][n-1]、Fy_model[19][n-1]の合計20個の成分から構成されているもので説明する。すなわち、

となっている。このように、基準横力算出部1mは、基準横力算出手段として設けられている。
【0041】
路面摩擦係数算出部1nは、接地荷重算出部1eから各輪の接地荷重Fz_fl、Fz_fr、Fz_rl、Fz_rrが入力され、前輪すべり角算出部1fから前輪すべり角βfが入力され、前輪スリップ率算出部1gから前輪スリップ率Sfが入力され、推定車輪制駆動力算出部1hから推定車輪制駆動力Fx_starが入力され、推定ラック推力算出部1iから推定ラック推力Fr_starが入力され、推定横力算出部1jから推定横力Fy_starが入力される。そして、推定車輪制駆動力Fx_star、推定ラック推力Fr_star、推定横力Fy_starと同じタイミングで、基準車輪制駆動力Fx_model、基準ラック推力Fr_model、基準横力Fy_modelを、上述の基準車輪制駆動力算出部1k、基準ラック推力算出部1l、基準横力算出部1mにより、上述のタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出し、これらの偏差を最小とする路面摩擦係数μの値を最適化計算により求める。
【0042】
具体的には、以下の(39)式により、路面摩擦係数μが微小変化した時の、基準車輪制駆動力Fx_model、基準ラック推力Fr_model、基準横力Fy_modelの変化量を要素とするベクトルであるヤコビアンJmodel[n-1]を、路面摩擦係数の前回値μ[n-1]を使って算出する。尚、ヤコビアンJmodel[n-1]の添字[n-1]は、路面摩擦係数の前回値μ[n-1]を表すものであり、反復演算n−1=0の場合は、路面摩擦係数の前回値μ[n-1]が無いため、先のサンプリング時における路面摩擦係数μの算出結果を代入する。
【0043】

ここで、(39)式中のJx_model[n-1]は、以下の(40)式である。
【0044】

そして、(40)式中の各要素は、それぞれ以下の各式で求められるものである。
【0045】
∂Fx_model/∂μ[0][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Ks・λ・Sf[0]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))
∂Fx_model/∂μ[1][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Ks・λ・Sf[1]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))

∂Fx_model/∂μ[m][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Ks・λ・Sf[m]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))

∂Fx_model/∂μ[18][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Ks・λ・Sf[18]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))
∂Fx_model/∂μ[19][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Ks・λ・Sf[19]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))
【0046】
また、(39)式中のJr_model[n-1] は、以下の(41)式である。
【0047】

そして、(41)式中の各要素は、それぞれ以下の各式で求められるものである。
【0048】
∂Fr_model/∂μ[0][n-1]=(−1/(135・Fz_f・μ[n-1]・ln))
・(Ks・λ・(1+Sf[0])・tanβf[0] ・(Ks・λ・lt
・(−5・Kf+8・Ks・Sf[0])−15・Fz_f・μ[n-1]・(6・Kf・εc+3・Kf・lt−8・Ks・Sf[0]・lt)+10・Ks・λ・Fz_f・μ[n-1]・(2・Kf・εc+3・Kf・lt−6・Ks・Sf[0]・lt))
∂Fr_model/∂μ[1][n-1]=(−1/(135・Fz_f・μ[n-1]・ln))
・(Ks・λ・(1+Sf[1])・tanβf[1] ・(Ks・λ・lt
・(−5・Kf+8・Ks・Sf[1])−15・Fz_f・μ[n-1]・(6・Kf・εc+3・Kf・lt−8・Ks・Sf[1]・lt)+10・Ks・λ・Fz_f・μ[n-1]・(2・Kf・εc+3・Kf・lt−6・Ks・Sf[1]・lt))

∂Fr_model/∂μ[m][n-1] =(−1/(135・Fz_f・μ[n-1]・ln))
・(Ks・λ・(1+Sf[m])・tanβf[m] ・(Ks・λ・lt
・(−5・Kf+8・Ks・Sf[m])−15・Fz_f・μ[n-1]・(6・Kf・εc+3・Kf・lt−8・Ks・Sf[m]・lt)+10・Ks・λ・Fz_f・μ[n-1]・(2・Kf・εc+3・Kf・lt−6・Ks・Sf[m]・lt))

∂Fr_model/∂μ[18][n-1]=(−1/(135・Fz_f・μ[n-1]・ln))
・(Ks・λ・(1+Sf[18])・tanβf[18] ・(Ks・λ・lt
・(−5・Kf+8・Ks・Sf[18])−15・Fz_f・μ[n-1]・(6・Kf・εc+3・Kf・lt−8・Ks・Sf[18]・lt)+10・Ks・λ・Fz_f・μ[n-1]・(2・Kf・εc+3・Kf・lt−6・Ks・Sf[18]・lt))
∂Fr_model/∂μ[19][n-1]=(−1/(135・Fz_f・μ[n-1]・ln))
・(Ks・λ・(1+Sf[19])・tanβf[19] ・(Ks・λ・lt
・(−5・Kf+8・Ks・Sf[19])−15・Fz_f・μ[n-1]・(6・Kf・εc+3・Kf・lt−8・Ks・Sf[19]・lt)+10・Ks・λ・Fz_f・μ[n-1]・(2・Kf・εc+3・Kf・lt−6・Ks・Sf[19]・lt))
【0049】
更に、(39)式中のJy_model[n-1] は、以下の(42)式である。
【0050】

そして、(42)式中の各要素は、それぞれ以下の各式で求められるものである。
【0051】
∂Fy_model/∂μ[0][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Kf・Ks・λ・(1+Sf[0])・tanβf[0]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))
∂Fy_model/∂μ[1][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Kf・Ks・λ・(1+Sf[1])・tanβf[1]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))

∂Fy_model/∂μ[m][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Kf・Ks・λ・(1+Sf[m])・tanβf[m]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))

∂Fy_model/∂μ[18][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Kf・Ks・λ・(1+Sf[18])・tanβf[18]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))
∂Fy_model/∂μ[19][n-1]=(1/(27・μ[n-1]・Fz_f))
・(Kf・Ks・λ・(1+Sf[19])・tanβf[19]・(−9・μ[n-1]・Fz_f+2・Ks・λ))
次に、路面摩擦係数算出部1nは、以下の(43)式により、路面摩擦係数の変化量δμを算出する。
δμ=(Jmodel[n-1]・Jmodel[n-1]+Wμ)−1・Jmodel[n-1]・(F_star−F_model [n-1]) …(43)
ここで、Wμは予め実験等により設定しておいた路面摩擦係数の変化量δμの重み関数であり、重みを大きくすることで路面摩擦係数の推定の安定性向上に繋がるが、収束時間が長くなる。Jmodel[n-1]は、上述の(39)式で示す通りであり、F_star、F_model [n-1]は、それぞれ以下の(44)式、(45)式で示す。
【0052】

そして、路面摩擦係数算出部1nは、以下の(46)式により、路面摩擦係数の今回の値μ[n]を算出する。
μ[n]=μ[n-1]+δμ …(46)
次いで、路面摩擦係数算出部1nは、(46)式で算出した路面摩擦係数の今回の値μ[n]を用いて、基準車輪制駆動力Fx_model、基準ラック推力Fr_model、基準横力Fy_modelを、以下の(47)式のように算出する。
【0053】

尚、反復演算回数n=0の場合は、前サンプリング時間における結果を代入する。
【0054】
次に、以下の(48)式の評価関数L[n]を算出する。
L[n]=(F_star−F_model [n])(F_star−F_model [n])+Wμ・δμ
…(48)
そして、この評価関数の前回値L[n-1]と今回値L[n]とを比較して、予め設定した値ε未満に収束しているか否か判定し、収束している場合は、そこで収束演算を止め、演算された路面摩擦係数の今回の値μ[n]を路面摩擦係数μとして出力する。また、ε未満に収束していない場合は、再び、ヤコビアンJ[n-1]からの算出を繰り返す。このように、路面摩擦係数算出部1nは、路面摩擦係数推定手段としての機能を有している。
【0055】
次に、路面摩擦係数推定装置1で実行される路面摩擦係数推定プログラムを、図2、図3のフローチャートで説明する。
【0056】
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要なパラメータ、すなわち、4輪の車輪速Vfl、Vfr、Vrl、Vrr、前輪舵角δf、横加速度(dy/dt)、ヨーレートγ、操舵トルクTh、ブレーキ液圧PB、エンジン出力トルクTeg、エンジン回転数Ne、主変速ギヤ比i、タービン回転数Nt、前後駆動力配分比rd、電動パワーステアリングモータの電流値iq、ブレーキのON−OFF信号が読み込まれる。
【0057】
次に、S102に進み、トランスミッション出力トルク算出部1cで、上述の(2)式により、トランスミッション出力トルクTM_trqを算出する。
【0058】
次いで、S103に進み、車体速度算出部1aで、上述の(1)式により、車体速度Vを算出を算出し、車体加減速度算出部1bで車体加減速度(dV/dt)を算出する。
【0059】
次に、S104に進み、接地荷重算出部1eで、上述の(5)〜(8)式により、左前輪接地荷重Fz_fl、右前輪接地荷重Fz_fr、左後輪接地荷重Fz_rl、右後輪接地荷重Fz_rrを算出する。
【0060】
次いで、S105に進み、前輪すべり角算出部1fで、上述の(9)式により、前輪すべり角βfを算出し、上述の(13)式の前輪すべり角βfを出力する。
【0061】
次に、S106に進み、運転状態判定部1dで、車両が制動状態(ブレーキスイッチ20がON)か、それ以外の走行状態(慣性走行を含む駆動状態;ブレーキスイッチ20がOFF)かを判定する。
【0062】
この判定の結果、車両が制動状態(ブレーキスイッチ20がON)の場合は、S107に進んで、前輪スリップ率算出部1gで、上述の(14)式により、前輪(一輪)のスリップ率Sfを算出し、上述の(16)式の前輪(一輪)のスリップ率Sfを出力する。
【0063】
その後、S108に進んで、推定車輪制駆動力算出部1hで、上述の(17)式により、推定車輪制駆動力Fx_starを算出し、上述の(19)式の推定車輪制駆動力Fx_starを出力して、S111へと進む。
【0064】
一方、S106の判定の結果、車両が制動状態(ブレーキスイッチ20がON)以外の走行状態(慣性走行を含む駆動状態;ブレーキスイッチ20がOFF)の場合は、S109に進んで、前輪スリップ率算出部1gで、上述の(15)式により、前輪(一輪)のスリップ率Sfを算出し、上述の(16)式の前輪(一輪)のスリップ率Sfを出力する。
【0065】
その後、S110に進んで、推定車輪制駆動力算出部1hで、上述の(18)式により、推定車輪制駆動力Fx_starを算出し、上述の(19)式の推定車輪制駆動力Fx_starを出力して、S111へと進む。
【0066】
そして、S108、或いは、S110からS111へと進むと、推定ラック推力算出部1iで、上述の(20)式により、推定ラック推力Fr_starを算出し、上述の(23)式の推定ラック推力Fr_starを出力する。
【0067】
次に、S112に進み、推定横力算出部1jで、上述の(24)式により、推定横力Fy_starを算出し、上述の(25)式の推定横力Fy_starを出力する。
【0068】
次いで、S113に進んで、路面摩擦係数算出部1nで、上述の(39)式の、ヤコビアンJmodel[n-1]を算出する。
【0069】
次に、S114に進み、路面摩擦係数算出部1nで、上述の(43)式により、路面摩擦係数の変化量δμを算出する。
【0070】
次に、S115に進んで、路面摩擦係数算出部1nで、上述の(46)式により、路面摩擦係数の今回の値μ[n]を算出する。
【0071】
次いで、S116に進み、路面摩擦係数算出部1nは、基準車輪制駆動力算出部1kで、上述の算出した路面摩擦係数の今回の値μ[n]を用いて、上述の(26)式により、20個の成分からなる基準車輪制駆動力Fx_model [n]を算出する。
【0072】
次に、S117に進んで、路面摩擦係数算出部1nは、基準ラック推力算出部1lで、上述の算出した路面摩擦係数の今回の値μ[n]を用いて、上述の(32)式により、20個の成分からなる基準ラック推力Fr_model[n]を算出する。
【0073】
次いで、S118に進み、路面摩擦係数算出部1nは、基準横力算出部1mで、上述の算出した路面摩擦係数の今回の値μ[n]を用いて、上述の(37)式により、20個の成分からなる基準横力Fy_model[n]を算出する。
【0074】
次に、S119に進み、、路面摩擦係数算出部1nは、上述の(48)式に示す、評価関数の今回値L[n]を算出する。
【0075】
そして、S120に進み、評価関数の今回値L[n]と前回値L[n-1]との差(L[n]−L[n-1])が予め設定した値ε未満に収束しているか否か(L[n]−L[n-1]<εか否か)判定する。この判定の結果、ε未満に収束している場合(L[n]−L[n-1]<εの場合)は、S121に進んで、S115で得られた路面摩擦係数の今回の値μ[n]を路面摩擦係数の推定結果として出力してプログラムを抜ける。
【0076】
一方、ε未満に収束していない場合(L[n]−L[n-1]≧εの場合)は、S122に進んで、今回算出した値を前回の値として、すなわち、Fx_model [n-1]←Fx_model [n]、Fr_model[n-1]←Fr_model[n]、Fy_model[n-1]←Fy_model[n]、μ[n-1]←μ[n]、L[n-1]←L[n]として、再びS113からの演算を繰り返す。
【0077】
このように、本発明の実施の形態によれば、実際に生じているラック推力を推定ラック推力Fr_starとして算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出するラック推力を基準ラック推力Fr_modelとして算出し、実際に生じている車輪の制駆動力を推定車輪制駆動力Fx_starとして算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する車輪の制駆動力を基準車輪制駆動力Fx_modelとして算出し、実際に生じている横力を推定横力Fy_starとして算出し、タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータλと路面摩擦係数μとをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する横力を基準横力Fy_modelとして算出し、推定ラック推力Fr_starと基準ラック推力Fr_modelとの偏差と推定車輪制駆動力Fx_starと基準車輪制駆動力Fx_modelとの偏差と推定横力Fy_starと基準横力Fy_modelとの偏差が最小となるように路面摩擦係数μの値を最適化計算により求めるように構成されている。このように、旋回運動情報、前後方向運動情報、横方向運動情報を考慮したブラッシュモデル式を使用して路面摩擦係数を推定することにより、如何なる車両運動状態においても路面μ値を、重み付け等することなく連続的に求めることができる。また、ブラッシュモデルは、縦ひずみと横ひずみを考慮しているため、両ひずみを必要とする旋回駆動時、旋回制動時の路面摩擦係数であっても精度良く推定することができる。このように本発明の実施の形態によれば、いかなる車両の運動状態においても、たとえ旋回制駆動時等であっても、重み付け等の複雑な処理を加えることなく、路面摩擦係数を連続的に自然な値で精度良く推定することができる。
【0078】
尚、本実施の形態では、評価関数L[n]の収束判定を、ε未満になるまで行うようにしているが、収束演算の回数を予め設定しておくようにしても良い。また、演算回数の制限値を設けておいても良い。
【符号の説明】
【0079】
1 路面摩擦係数推定装置
1a 車体速度算出部
1b 車体加減速度算出部
1c トランスミッション出力トルク算出部
1d 運転状態判定部
1e 接地荷重算出部
1f 前輪すべり角算出部
1g 前輪スリップ率算出部
1h 推定車輪制駆動力算出部(推定車輪制駆動力算出手段)
1i 推定ラック推力算出部(推定ラック推力算出手段)
1j 推定横力算出部(推定横力算出手段)
1k 基準車輪制駆動力算出部(基準車輪制駆動力算出手段)
1l 基準ラック推力算出部(基準ラック推力算出手段)
1m 基準横力算出部(基準横力算出手段)
1n 路面摩擦係数算出部(路面摩擦係数推定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際に生じているラック推力を推定ラック推力として算出する推定ラック推力算出手段と、
少なくともタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータと路面摩擦係数とをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出するラック推力を基準ラック推力として算出する基準ラック推力算出手段と、
実際に生じている車輪の制駆動力を推定車輪制駆動力として算出する推定車輪制駆動力算出手段と、
少なくともタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータと路面摩擦係数とをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する車輪の制駆動力を基準車輪制駆動力として算出する基準車輪制駆動力算出手段と、
実際に生じている横力を推定横力として算出する推定横力算出手段と、
少なくともタイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータと路面摩擦係数とをパラメータとして含むタイヤのブラッシュモデルにより算出する横力を基準横力として算出する基準横力算出手段と、
上記推定ラック推力と上記基準ラック推力との偏差と上記推定車輪制駆動力と上記基準車輪制駆動力との偏差と上記推定横力と上記基準横力との偏差が最小となるように上記路面摩擦係数の値を最適化計算により求める路面摩擦係数推定手段と、
を備えたことを特徴とする路面摩擦係数推定装置。
【請求項2】
上記タイヤの縦ひずみと横ひずみを表現するパラメータは、少なくともタイヤの横すべり角とスリップ率とで算出するパラメータであることを特徴とする請求項1記載の路面摩擦係数推定装置。
【請求項3】
上記路面摩擦係数推定手段は、上記それぞれの偏差を二乗した値に、前回算出した路面摩擦係数に対する今回の路面摩擦係数の修正量を二乗した値と予め設定した重み関数を乗算した値を加算して評価関数を形成し、該評価関数を路面摩擦係数で偏微分した値が0となることを利用して上記路面摩擦係数の修正量を算出し、今回の路面摩擦係数を求めることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の路面摩擦係数推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−57036(P2011−57036A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207341(P2009−207341)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】