車両のトルク制御装置
【課題】エンジンシステム以外の他システムから、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジンの発生トルクが不連続とならないようにトルク制御を行う。
【解決手段】エンジンシステム以外の他システム(例えば、自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジンの発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のトルク制御(例えば吸入空気量調整や点火時期調整)を用いて要求トルクを実現する。このような制御により、トルクダウンの際のトルク不連続性を避けることができる。これによって、例えば、パワーONアップシフト中にトルクダウンを実施する際に、エンジンの発生トルクの連続性を確保することができ、ショックを抑制することができる。
【解決手段】エンジンシステム以外の他システム(例えば、自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジンの発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のトルク制御(例えば吸入空気量調整や点火時期調整)を用いて要求トルクを実現する。このような制御により、トルクダウンの際のトルク不連続性を避けることができる。これによって、例えば、パワーONアップシフト中にトルクダウンを実施する際に、エンジンの発生トルクの連続性を確保することができ、ショックを抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(内燃機関)等の駆動力源が搭載された車両のトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう)では、吸気通路を介して燃焼室内に吸入される吸入空気と、インジェクタ(燃料噴射弁)から噴射される燃料とを混合して混合気を形成し、その混合気を燃焼室内で燃焼させることで駆動力を得ている。このようなエンジンにおいては、吸気通路に設けたスロットルバルブを駆動するアクチュエータ(スロットルモータ)を設け、運転者のアクセルペダルの操作とは独立してスロットル開度を制御可能とした電子スロットルシステム(以下、電子スロットルともいう)が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、車両に搭載されるエンジンにおいては、例えば、上記した電子スロットル等による吸入空気量調整、燃焼室内の混合気に対して点火動作を行う点火プラグの点火時期を調整する点火時期調整、エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットなどによって出力トルクを制御している。
【0004】
なお、エンジンの出力トルク制御に関する技術として、下記の特許文献2に記載のものがある。この特許文献2に記載の技術では、エンジントルクを低減する制御として、点火時期遅角と燃料噴射カットとを用い、低減すべきトルクが小さい場合は点火時期遅角を行い、低減すべきトルクが大きい場合は燃料噴射カットを行っている。
【0005】
一方、エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルク及び回転速度を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチ及びブレーキ等の摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いてギヤ段を設定する有段式自動変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−065368号公報
【特許文献2】特開2002−349332号公報
【特許文献3】特開2002−213289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両に搭載されたエンジンのトルク制御においては、電子スロットル等による吸入空気量調整、点火時期調整、燃料噴射カット等に振り分けて制御を行っているが、他システム(例えば、自動変速機システム、VSC(Vehicle Stability Control:車両安定性制御)システム))の要求トルクを実現する際に、応答性と大きなトルクダウン(失火限界を超えるようなトルクダウン要求)とが必要である場合、吸入空気量調整や点火時期調整ではトルク要求を実現できないため、燃料噴射カットを実施している。その際、他システム、特に、自動変速機システムにとっては、トルクダウン要求中に燃料噴射カットが突然実施されてしまうと、エンジンの発生トルクが連続的でなくなるため制御が破綻してしまう。例えば、自動変速機の変速制御において、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中にトルクダウンを実施する際に、燃料噴射カット状態になると、自動変速機への入力トルクがなくなってしまい、油圧(摩擦係合要素の油圧)と入力トルクとのバランスが取れなくなってしまうので、大きなショックが発生する場合がある。
【0008】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、駆動力源の制御システム以外の他システムから、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、駆動力源の発生トルクが不連続とならないようにトルク制御を行うことが可能な車両のトルク制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、駆動力源と、前記駆動力源にトルク要求を行うシステムとが搭載された車両のトルク制御装置を前提としており、このような車両のトルク制御装置において、前記システムからのトルク要求があったときに、そのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記駆動力源の発生トルクが不連続となるトルク制御を実行せずに、トルク連続性を確保できるトルク制御のみで前記システムからの要求トルクを実現することを技術的特徴としている。
【0010】
本発明の具体的な構成として、駆動力源がエンジンであって、そのエンジンの吸入空気量調整、エンジンの点火時期調整、エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットを利用して前記システムからのトルク要求を実現するように構成されており、前記システムからのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記燃料噴射カットは実行せずに、吸入空気量調整及び点火時期調整のいずれか一方または双方を用いて前記エンジンを制御して前記要求トルクを実現するという構成を挙げることができる。
【0011】
また、駆動力源から駆動輪への動力伝達経路に自動変速機が設けられた車両において、パワーONアップシフトの際に、前記自動変速機のシステムからのトルクダウン要求が連続性を確保する要求である場合は、トルク連続性を確保できるトルク制御のみで前記駆動力源のトルクダウンを実行する。具体的には、パワーONアップシフト時のトルクダウン要求がトルクの連続性を確保する要求である場合、エンジンの発生トルクが不連続となる燃料噴射カットは実行せずに、吸入空気量調整及び点火時期調整のいずれか一方または双方を用いてエンジンのトルクダウンを実行するという構成を挙げることができる。
【0012】
本発明によれば、駆動力源の制御システム(エンジンシステム)以外の他システム(例えば自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジンの発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のトルク制御(例えば吸入空気量調整や点火時期調整)を用いて要求トルクを実現するので、トルクダウンの際のトルク不連続性を避けることができる。これによって、例えば、パワーONアップシフト中にトルクダウンを実施する際に、エンジンの発生トルクの連続性を確保することができ、ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用する車両の概略構成を示す図である。
【図2】図1の車両に搭載されるエンジン、トルクコンバータ、自動変速機、及び、制御系の概略構成を示す図である。
【図3】図2に示す自動変速機の係合要素の係合・解放を示す係合表である。
【図4】図2に示す自動変速機の油圧制御回路の一部を示す回路構成図である。
【図5】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図6】変速制御に用いる変速マップを示す図である。
【図7】トルク要求時の制御の一例を示すフローチャートである。
【図8】パワーONアップシフト時の制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態に用いる自動変速機の概略構成図である。
【図10】図9に示す自動変速機の係合要素の係合・解放を示す係合表である。
【図11】本発明の別の実施形態に用いる自動変速機の概略構成図である。
【図12】図11に示す自動変速機の係合要素の係合・解放を示す係合表である。
【図13】パワーONアップシフト時の従来制御の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は本発明を適用する車両の概略構成図である。図2は車両に搭載されるエンジン、トルクコンバータ、自動変速機、及び、制御系の概略構成を示す図である。
【0016】
この例の車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、走行用動力源であるエンジン(内燃機関)1、トルクコンバータ2、自動変速機3、油圧制御回路4、デファレンシャル装置5、及び、ECU100などが搭載されている。
【0017】
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から自動変速機3等を介してデファレンシャル装置5に伝達され、左右の駆動輪6,6へ分配される。
【0018】
これらエンジン1、トルクコンバータ2、自動変速機3、油圧制御回路4、及び、ECU100の各部について以下に説明する。
【0019】
−エンジン−
エンジン1は、例えば4気筒ガソリンエンジンであって、出力軸であるクランクシャフト11がトルクコンバータ2の入力軸に接続される。クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数)はエンジン回転数センサ201によって検出される。
【0020】
エンジン1に吸入される吸入空気量は、電子制御式のスロットルバルブ(電子スロットル)12によって調整される。スロットルバルブ12は、運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ202によって検出される。
【0021】
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU100(エンジンECU101)によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ201によって検出されるエンジン回転数、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ202を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0022】
また、エンジン1には、燃焼室内の混合気(燃料+吸入空気)に対して点火動作を行う点火プラグ15が各気筒毎に配置されている。点火プラグ15の点火タイミング(点火時期調整)はイグナイタ及びECU100(エンジンECU101)によって制御される。
【0023】
さらに、エンジン1には、燃料噴射用のインジェクタ14が吸気通路10に配置されている。インジェクタ14には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路10に燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室に導入される。エンジン1の燃焼室に導入された混合気(燃料+空気)は点火プラグ15にて点火されて燃焼・爆発する。この混合気の燃焼室内での燃焼・爆発によりピストンが往復運動してクランクシャフト11が回転する。
【0024】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、図2に示すように、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。
【0025】
トルクコンバータ2には、入力側と出力側とを直結状態にするロックアップクラッチ25が設けられており、このロックアップクラッチ25を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ25を所定のスリップ状態(半係合)で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。トルクコンバータ2と自動変速機3とは回転軸によって接続される。
【0026】
−自動変速機−
自動変速機3は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に適用される横置き型自動変速機であって、図2に示すように、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置301を主体として構成される第1変速部31と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置302及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置303を主体として構成される第2変速部32とを同軸線上に有し、入力軸33の回転を変速して出力軸34に伝達し、出力歯車35から出力する遊星歯車式多段変速機である。出力歯車35は、車両に搭載されるデファレンシャル装置5のデフドリブンギヤ5a(図1参照)に噛み合っている。なお、自動変速機3は中心線に対して略対称的に構成されているので、図2に示すスケルトン図では中心線の上半分の構成のみを示している。
【0027】
第1変速部31を構成している第1遊星歯車装置301は、サンギヤS1、キャリヤCA1、及び、リングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸33に連結される。さらに、サンギヤS1は、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介してハウジング36に固定されることにより、キャリヤCA1を中間出力部材として入力軸33に対して減速回転される。
【0028】
第2変速部32を構成している第2遊星歯車装置302及び第3遊星歯車装置303では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第3遊星歯車装置303のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成されており、第2遊星歯車装置302のリングギヤR2及び第3遊星歯車装置303のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成されている。さらに、第2遊星歯車装置302のキャリヤCA2及び第3遊星歯車装置303のキャリヤCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成されている。また、第2遊星歯車装置302のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。
【0029】
第2遊星歯車装置302及び第3遊星歯車装置303は、キャリヤCA2及びCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2及びR3が共通の部材にて構成されている。さらに、第2遊星歯車装置302のピニオンギヤが第3遊星歯車装置303の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0030】
第1回転要素RM1(サンギヤS3)は、中間出力部材である第1遊星歯車装置301のキャリヤCA1に一体的に連結されており、第1ブレーキB1によってハウジング36に選択的に連結されて回転停止される。第2回転要素RM2(リングギヤR2及びR3)は、第2クラッチC2を介して入力軸33に選択的に連結される一方、ワンウェイクラッチF1及び第2ブレーキB2を介してハウジング36に選択的に連結されて回転停止される。
【0031】
第3回転要素RM3(キャリヤCA2及びCA3)は出力軸34に一体的に連結されている。第4回転要素RM4(サンギヤS2)は、第1クラッチC1を介して入力軸33に選択的に連結される。
【0032】
なお。第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3は、いずれも油圧シリンダによって摩擦係合する多板式の油圧式摩擦係合装置である。
【0033】
以上の自動変速機3では、摩擦係合要素である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、及び、ワンウェイクラッチF1などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段が設定される。
【0034】
自動変速機3には、運転者により操作されるシフトレバーが設けられており、そのシフトレバーを操作することにより、例えばPレンジ(パーキングレンジ)、Rレンジ(後進走行レンジ)、N(ニュートラルレンジ)、Dレンジ(前進走行レンジ)等に切り替えることができる。
【0035】
図3は、自動変速機3の各ギヤ段を成立させるためのクラッチ及びブレーキの係合作動を説明する係合表であり、「○」は係合を、「×」は解放をそれぞれ表している。
【0036】
この図3に示すように、自動変速機3において、第1クラッチC1を係合することによって第1ギヤ段(1st)が成立する。第1速ギヤ段(1st)から第2速ギヤ段(2nd)への変速(1st→2nd)は、第1ブレーキB1を係合することによって達成される。
【0037】
第2速ギヤ段(2nd)から第3速ギヤ段(3rd)への変速(2nd→3rd)は、第1ブレーキB1を解放するとともに、第3ブレーキB3を係合することによって達成される。第3速ギヤ段(3rd)から第4速ギヤ段(4th)への変速(3rd→4th)は、第3ブレーキB3を解放するとともに、第2クラッチC2を係合することによって達成される。
【0038】
第4速ギヤ段(4th)から第5速ギヤ段(5th)への変速(4th→5th)は、第1クラッチC1を解放するとともに、第3ブレーキB3を係合することによって達成される。第5速ギヤ段(5th)から第6速ギヤ段(6th)への変速(5th→6th)は、第3ブレーキB3を解放するとともに、第1ブレーキB1を係合することによって達成される。
【0039】
そして、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を共に係合することによって後退ギヤ段(Rev)が成立する。
【0040】
なお、自動変速機3の各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置301、第2遊星歯車装置302、及び、第3遊星歯車装置303の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρUD、ρS、ρDによって適宜定められる。
【0041】
以上の自動変速機3の入力軸33の回転数(タービン回転数)は入力軸回転数センサ203によって検出される。また、自動変速機3の出力軸34の回転数は出力軸回転数センサ204によって検出される。これら入力軸回転数センサ203及び出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)に基づいて、自動変速機3の現在ギヤ段を判定することができる。
【0042】
−油圧制御回路−
次に、自動変速機3の油圧制御回路4の一部について図4を参照して説明する。なお、油圧制御回路4には、図示はしないが、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ25の係合、半係合または解放を制御する油圧回路も組み込まれている。
【0043】
この例の油圧制御回路4は、オイルポンプ401、プライマリレギュレータバルブ403、セカンダリレギュレータバルブ404、モジュレータバルブ405、マニュアルシフトバルブ410、リニアソレノイドバルブ(SLT)406、リニアソレノイドバルブ(SLU)407、オンオフソレノイドバルブ(SL)408、リニアソレノイドバルブ(SL1)411、リニアソレノイドバルブ(SL2)412、リニアソレノイドバルブ(SL3)413、リニアソレノイドバルブ(SL4)414、及び、B2コントロールバルブ415などを備えている。
【0044】
オイルポンプ401はエンジン1のクランクシャフト11(図2参照)に連結されており、クランクシャフト11が回転することにより、オイルポンプ401が駆動してオイルパン402内に貯えられた作動油(ATF)を吸い込んで油圧を発生する。オイルポンプ401で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ403により調整され、ライン圧PLが生成される。
【0045】
プライマリレギュレータバルブ403は、リニアソレノイドバルブ(SLT)406によって調整されたスロットル圧PSLTをパイロット圧として作動する。ライン圧PLは第1ライン圧油路421を通じてマニュアルシフトバルブ410に供給される。また、ライン圧PLは、リニアソレノイドバルブ(SL4)414によって調整されて、第3ブレーキB3の油圧サーボに供給される。
【0046】
セカンダリレギュレータバルブ404は、リニアソレノイドバルブ(SLT)406によって調整されたスロットル圧PSLTをパイロット圧として作動する。セカンダリレギュレータバルブ404は、プライマリレギュレータバルブ403から流出(排出)した余分な作動油が流入する第2ライン圧油路422内の油圧を調整する。セカンダリレギュレータバルブ404によってセカンダリ圧が生成される。
【0047】
図4の油圧制御回路4において、マニュアルシフトバルブ410のスプール410aがDポジションにある場合、第1ライン圧油路421とDレンジ圧油路424とが連通し、Dレンジ圧油路424に油圧が供給される。マニュアルシフトバルブ410のスプール410aがRポジションにある場合、第1ライン圧油路421とRレンジ圧油路425とが連通し、Rレンジ圧油路425に油圧が供給される。マニュアルシフトバルブ410のスプール410aがNポジションにある場合、Dレンジ圧油路424及びRレンジ圧油路425とドレンポート410bとが連通し、Dレンジ圧油路424のDレンジ圧及びRレンジ圧油路425のRレンジ圧がドレンポート410bから排出される。
【0048】
Dレンジ圧油路424に供給された油圧は、最終的には、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の各油圧サーボに供給される。Rレンジ圧油路425に供給された油圧は、最終的には、第2ブレーキB2の油圧サーボに供給される。
【0049】
モジュレータバルブ405は、ライン圧を一定の圧力に調整する。モジュレータバルブ405によって調整された油圧(ソレノイドモジュレータ圧)PMは、リニアソレノイドバルブ(SLT)406、リニアソレノイドバルブ(SLU)407及びオンオフソレノイドバルブ(SL)408に供給される。
【0050】
リニアソレノイドバルブ(SL1)411は、マニュアルシフトバルブ410から出力されたDレンジ圧PDを元圧として第1クラッチC1の係合状態を制御するための第1油圧PC1を発生し、その第1油圧PC1を第1クラッチC1の油圧サーボに供給する。
【0051】
リニアソレノイドバルブ(SL2)412は、Dレンジ圧PDを元圧として第2クラッチC2の係合状態を制御するための第2油圧PC2を発生し、その第2油圧PC2を第2クラッチC2の油圧サーボに供給する。
【0052】
リニアソレノイドバルブ(SL3)413は、Dレンジ圧PDを元圧として第1ブレーキB1の係合状態を制御するための第3油圧PB1を発生し、その第3油圧PB1を第1ブレーキB1の油圧サーボに供給する。
【0053】
リニアソレノイドバルブ(SL4)414は、ライン圧PLを元圧として第3ブレーキB3の係合状態を制御するための第4油圧PB3を発生し、その第4油圧PB3を第3ブレーキB3の油圧サーボに供給する。
【0054】
リニアソレノイドバルブ(SLT)406は、スロットル開度センサ101にて検出されたスロットル開度に基づいてECU100(ECT_ECU102)からの制御信号に応じてソレノイドモジュレータ圧PMを調整し、スロットル圧PSLTを生成する。スロットル圧PSLTは、SLT油路423を介して、プライマリレギュレータバルブ403に供給される。スロットル圧PSLTは、プライマリレギュレータバルブ403のパイロット圧として利用される。
【0055】
以上のリニアソレノイドバルブ(SLT)406、リニアソレノイドバルブ(SLU)407、オンオフソレノイドバルブ(SL)408、リニアソレノイドバルブ(SL1)411、リニアソレノイドバルブ(SL2)412、リニアソレノイドバルブ(SL3)413、及び、リニアソレノイドバルブ(SL4)414は、ECU100(ECT_ECU102)から送信される制御信号により制御される。
【0056】
B2コントロールバルブ415には、Dレンジ圧油路424及びRレンジ圧油路425が接続されている。B2コントロールバルブ415は、Dレンジ圧油路424またはRレンジ圧油路425のいずれか一方の油路からの油圧を第2ブレーキB2に選択的に供給する。B2コントロールバルブ415は、リニアソレノイドバルブ(SLU)407及びオンオフソレノイドバルブ(SL)408から供給された油圧PSLU,PSLとスプリング415aの付勢力とにより制御される。
【0057】
B2コントロールバルブ415は、オンオフソレノイドバルブ(SL)408がOFFで、リニアソレノイド(SLU)407がONの場合、図4において左側の状態となる。この場合、第2ブレーキB2の油圧サーボには、リニアソレノイドバルブ(SLU)407から供給された油圧をパイロット圧として、Dレンジ圧PDを調整した油圧が供給される。一方、オンオフソレノイドバルブ(SL)408がONで、リニアソレノイドバルブ(SLU)407がOFFの場合、B2コントロールバルブ415は、図4において右側の状態となる。この場合、第2ブレーキB2の油圧サーボにはRレンジ圧PRが供給される。
【0058】
−ECU−
以上のパワートレーンを制御するECU100は、図5に示すように、エンジン1を制御するエンジンECU101と、トルクコンバータ2及び自動変速機3を制御するECT_ECU(Electronic Controlled automatic Transmission_ECU)102と、走行安定化制御を実行するVSC_ECU103とを含む。これらエンジンECU101と、ECT_ECU102と、VSC_ECU103とは、相互に信号通信を行っており、各種センサの出力信号や要求信号などの受け渡しを行う。
【0059】
エンジンECU101、ECT_ECU102、及び、VSC_ECU103は、それぞれ、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMなどを備えている。
【0060】
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0061】
エンジンECU101には、図5に示すように、エンジン回転数センサ201、及び、スロットル開度センサ202などのエンジン1の運転状態を検出する各種センサが接続されており、その各センサの信号が入力される。エンジンECU101は、スロットルバルブ12のスロットルモータ13、インジェクタ14、及び、点火プラグ(イグナイタ)15などのエンジン1の各部を制御する。
【0062】
なお、この例において、エンジンECU101にてエンジン1を制御するシステムを「エンジンシステム」という場合もある。
【0063】
ECT_ECU102には、図5に示すように、入力軸回転数センサ203、出力軸回転数センサ204、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ205、自動変速機3のシフト位置を検出するシフトポジションセンサ206、及び、車両の速度を検出する車速センサ207などの各種センサ類が接続されており、その各センサの信号が入力される。
【0064】
ECT_ECU102は、トルクコンバータ2(油圧制御回路4)にロックアップクラッチ制御信号を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいて、油圧制御回路4のロックアップコントロールバルブなどが制御されてトルクコンバータ2のロックアップクラッチ25が係合、半係合または解放される。
【0065】
また、ECT_ECU102は、自動変速機3の油圧制御回路4にソレノイド制御信号(油圧指令信号)を出力する。このソレノイド制御信号に基づいて油圧制御回路4のリニアソレノイドバルブやオンオフソレノイドバルブなどが制御され、所定の変速ギヤ段(1速〜6速)を構成するように、自動変速機3の第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、及び、ワンウェイクラッチF1などが所定の状態に係合または解放される。
【0066】
なお、この例において、ECT_ECU102にて自動変速機3(ロックアップクラッチ25も含む)を制御するシステムを「自動変速機システム」という場合もある。
【0067】
VSC_ECU103には、図5に示すように、車両の各車輪の速度(車輪速度)を検出する車輪速センサ211、及び、ブレーキマスターシリンダの内圧を検出するブレーキシリンダ内圧センサ212などの各種のセンサ類が接続されており、その各センサの信号が入力される。VSC_ECU103は、TRC(Traction Control)装置213やABS(Antilock Brake System)機能を有するブレーキ装置214を制御して、車両の駆動力や制動力を調整することによって車両走行時の横滑りなどを回避して車両の走行安定性を維持する。
【0068】
なお、この例において、VSC_ECU103にてTRC装置213やブレーキ装置214等を制御するシステムを「VSCシステム」という場合もある。
【0069】
そして、エンジンECU101は、下記の[エンジントルク制御]及び[トルク要求時の制御]を実行する。
【0070】
ECT_ECU102は、下記の[変速制御]を実行するとともに、その変速制御を実行する際にトルク要求(例えば、トルクダウン要求)をエンジンECU101に送信する。また、VSC_ECU103においても、車両安定性制御を実行する際にトルク要求をエンジンECU101に送信する。
【0071】
ここで、この例において、ECT_ECU102は、パワーONアップシフトを実行する場合(パワーOFFダウンシフトを実行する場合も含む)、エンジンECU101に、トルク要求とともにトルク連続性を確保する要求を送信する。一方、ECT_ECU102は、燃料噴射カット(発生トルクが不連続な制御)に至ってもよいトルクダウン要求(例えば、自動変速機3のハード保護目的等のためのトルクダウン要求)を行う場合には、トルク連続性を確保する要求はエンジンECU101に送信しない。
【0072】
また、VSC_ECU103においても、同様に、車両安定性制御を実行する際に、エンジンECU101にトルク連続性を確保する要求を送信する一方、燃料噴射カット(発生トルクが不連続な制御)に至ってもよいトルクダウン要求を行う場合には、トルク連続性を確保する要求はエンジンECU101に送信しない。
【0073】
なお、自動変速機3のハード保護目的のためのダウンシフト要求とは、例えば、シフトレバーがN(ニュートラルレンジ)からDレンジ(前進走行レンジ)またはRレンジ(後進走行レンジ)へ操作されるガレージシフト時に、自動変速機3やデファレンシャル装置5などに過大なイナーシャトルクが作用することを防止するためのダウンシフト要求であり、また、例えば、自動変速機3の第2クラッチC2のリニアソレノイドバルブ(SL2)412が故障した際に、エンジン1の発生トルクによって第2クラッチC2などが過回転することを防止するためのダウンシフト要求である。
【0074】
以上のECU100により実行されるプログラムによって、本発明の車両のトルク制御装置が実現される。
【0075】
−エンジントルク制御−
この例において、エンジンECU101は、電子スロットルによる吸入空気量調整、点火時期調整(点火時期遅角)、エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットなどの制御(これらの制御を、以下、エンジン制御アクチュエータともいう)に振り分けて、エンジン1のトルクダウン制御を実行する。
【0076】
燃料噴射カット(フューエルカット)は、燃費を向上させるためにエンジン1への燃料供給を停止する制御であって、例えば、車両減速時(アクセルオフ)で、かつ、エンジン回転数がフューエルカット開始回転数以上であるときにエンジン1への燃料噴射を停止(インジェクタ14からの燃料噴射を停止)し、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数(フューエルカット停止のための燃料噴射復帰判定回転数)よりも低下したときにエンジンへの燃料噴射を再開する制御である。
【0077】
なお、フューエルカット復帰回転数は、耐エンスト(エンジンストール)性を確保することが可能であり、エンジン1の安定した回転を維持することが可能な回転数に設定されている。また、フューエルカット開始回転数は、フューエルカット復帰回転数よりも所定量だけ高い回転数に設定されている。
【0078】
−変速制御−
まず、この例の変速制御に用いる変速マップについて図6を参照して説明する。
【0079】
図6に示す変速マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、適正なギヤ段(最適な燃費となるギヤ段)を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、例えばECT_ECU102のROM内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(ギヤ段の切り替えライン)によって区画されている。
【0080】
なお、図6に示す変速マップにおいて、アップシフト線(変速線)を実線で示し、ダウンシフト線(変速線)を破線で示している。また、アップシフト及びダウンシフトの各切り替え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0081】
次に、変速制御の基本動作について説明する。
【0082】
まず、ECT_ECU102は、車速センサ207の出力信号から車速Vを算出するとともに、アクセル開度センサ205の出力信号からアクセル開度Accを算出し、それら車速V及びアクセル開度Accに基づいて図6の変速マップを参照して目標ギヤ段を算出する。さらに、入力軸回転数センサ203及び出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)を求めて現在ギヤ段を判定し、その現在ギヤ段と目標ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
【0083】
その判定結果により、変速の必要がない場合(現在ギヤ段と目標ギヤ段とが同じで、ギア段が適切に設定されている場合)には、現在ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機3の油圧制御回路4に出力する。
【0084】
一方、現在ギヤ段と目標ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機3のギヤ段が「4速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Paから点Pbに変化した場合、アップシフト変速線[4→5]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギヤ段が「5速」となり、その5速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機3の油圧制御回路4に出力して、4速のギヤ段から5速のギヤ段への変速(4→5アップシフト変速)を行う。なお、車速Vは、出力回転数センサ204の出力信号から算出するようにしてもよい。
【0085】
−トルク要求時の制御−
まず、車両に搭載されたエンジンのトルク制御では、電子スロットル等による吸入空気量調整、点火時期調整、燃料噴射カットなどに振り分けて制御を行っている。エンジンシステムにおいて、自動変速機システムやVSCシステムなどの他システムからの要求トルクを実現する際に、応答性と大きなトルクダウン(失火限界を超えるようなトルクダウン要求)とが必要である場合、従来制御では、吸入空気量調整や点火時期調整では実現できないため、燃料噴射カットを実施しようとしている。その際、他システム、特に自動変速機システムにとっては、トルクダウン要求中に突然に燃料噴射カットが実施されてしまうと、エンジンの発生トルクが連続的でなくなるため制御が破綻してしまう。
【0086】
例えば、自動変速機の変速制御において、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中にトルクダウンを実施する際に燃料噴射カット状態になると、自動変速機への入力トルクがなくなり、油圧(摩擦係合要素の油圧)と入力トルクとのバランスが取れなくなってしまうので、大きなショックが発生する場合がある。
【0087】
具体的に説明すると、図13に示すように、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中に、発生トルクが不連続となる燃料噴射カットにてエンジンのトルクダウン(破線)が実行されてしまうと、パワーONアップシフト時のダウントルク要求(実線)に対して実エンジントルク(破線)のダウン量が過多(過トルクダウン)となり、自動変速機の入力トルク(伝達トルク)が小さくなってしまう。このようになると、入力トルクに対し摩擦係合要素の係合圧が過多となってしまい、摩擦係合要素が急に係合されてしまうので、図13に示すようなショック(アウトプットトルクの変化)が発生する。
【0088】
このような点を考慮し、この例の制御では、エンジンシステム以外の他システム(自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジン1の発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のトルク制御(吸入空気量調整や点火時期調整)を用いて要求トルクを実現する点に特徴がある。
【0089】
その具体的な制御の一例について図7のフローチャートを参照して説明する。図7の制御ルーチンはECU100において所定周期(例えば数msec〜数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
【0090】
まず、ステップST101において、他システム(自動変速機システムまたはVSCシステム)からトルク要求があるか否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合(トルク要求がない場合)はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定である場合(トルク要求がある場合)はステップST102に進む。
【0091】
ステップST102では、他システムからのトルク要求が、トルク連続性を確保する要求であるか否かを判定する。ステップST102の判定結果が肯定判定である場合、例えば自動変速機システム(ECT_ECU102)からのトルク要求が、パワーONアップシフトの際のトルクダウン要求であり、トルク連続性の確保が要求されている場合はステップST103に進む。
【0092】
ステップST103においては、エンジン発生トルクが不連続となる燃料噴射カット以外のエンジン制御アクチュエータで要求トルクを実現する。つまり、燃料噴射カットは実行せずに、吸入吸気量調整及び点火時期調整(点火時期遅角)のいずれか一方または双方のエンジン制御アクチュエータを用いてエンジン1のトルク制御を行って、自動変速機システム(ECT_ECU102)から要求されたダウントルク要求を実現する。
【0093】
なお、以上のステップST101〜ST103において、他システムからのトルク要求が、VSC_ECU103からのトルクダウン要求であり、そのトルクダウン要求がトルク連続性を確保する要求である場合、燃料噴射カットは実行せずに、吸入吸気量調整及び点火時期調整(点火時期遅角)のいずれか一方または双方のエンジン制御アクチュエータを用いてエンジン1のトルク制御を行って、VSCシステム(VSC_ECU103)から要求されたダウントルク要求を実現する。
【0094】
一方、ステップST102の判定結果が否定判定である場合、つまり、他システム(自動変速機システムやVSCシステム)からのダウントルク要求に連続性確保の要求がない場合、燃料噴射カットに至ってもよいので、吸入吸気量調整、点火時期調整(点火時期遅角)、及び、燃料噴射カットを含む全てのエンジン制御アクチュエータを利用対象とし、それらのうちの1つのエンジン制御アクチュエータまたは複数(2つ以上)のエンジン制御アクチュエータを用いて、他システムからのトルク要求を実現すべくエンジン1のトルク制御を行う(ステップST104)。なお、この場合、例えば、自動変速機システム(ECT_ECU102)からのトルク要求が、上記した「自動変速機のハード保護目的」のためのトルクダウン要求である場合、燃料噴射カットにてエンジン1のトルクダウンを実行する。
【0095】
次に、以上の図7の制御について、パワーONアップシフト時のトルクダウンの場合を例にとって図8を参照して説明する。
【0096】
まず、自動変速機システム(ECT_ECU102)は、例えば図6の変速マップに基づく変速要求(例えば4→5アップシフト変速要求)が発生すると、その変速要求に応じて、自動変速機3の解放側係合要素(クラッチ・ブレーキ)の指示圧(図示せず)を速やかに0まで低下させる一方、係合側係合要素(クラッチ・ブレーキ)の係合指示圧を、図8に示すような変化パターンで変化させる。このような油圧制御により、パワーONアップシフトのイナーシャ相が開始される。
【0097】
ここで、パワーONアップシフトを行う際には、自動変速機システム(ECT_ECU102)は、エンジンシステム(エンジンECU101)に、トルク連続性を確保するトルクダウンを要求するので、エンジンシステム(エンジンECU101)は、エンジン1の発生トルクが不連続となる燃料噴射カットは実行せずに、それ以外のエンジン制御アクチュエータ、つまり、吸入空気量調整や点火時期調整(点火時期遅角)のみでエンジン1の制御を行ってダウントルク要求を実現する。こうした制御により、図8に示すように、実エンジントルク(破線)を、トルク連続性を確保できるトルク量の範囲内に制限することが可能になる。これによって、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中において、図13に示すような過トルクダウンをなくすことができ、パワーONアップシフト時のショックを抑制することができる。
【0098】
<実施形態2>
次に、本発明の他の実施形態について図9及び図10を参照して説明する。
【0099】
この例は、上記した<第1実施形態>に対し、自動変速機の構成が異なり、その他の構成、例えばエンジン1、トルクコンバータ2及びECUなどの構成については、上記した<第1実施形態>と基本的に同じである。なお、図9に示すスケルトン図では、トルクコンバータ2及び自動変速機603の上半分の構成のみを示している。
【0100】
この例の自動変速機603は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に搭載される変速機(前進6段、後進1段)であって、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置631、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置632、及び、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置633を備えた遊星歯車式変速機である。自動変速機603の出力軸634から出力される動力は、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ及びドライブシャフト等を介して駆動輪に伝達される。
【0101】
自動変速機603の第1遊星歯車装置631のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸630に選択的に連結される。また、サンギヤS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジング603aに選択的に連結され、逆方向(入力軸630の回転と反対方向)の回転が阻止される。第1遊星歯車装置631のキャリヤCA1は、ブレーキB1を介してハウジング603aに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。第1遊星歯車装置631のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置632のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジング603aに選択的に連結される。
【0102】
第2遊星歯車装置632のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置633のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸630に選択的に連結される。また、サンギヤS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸630に選択的に連結され、その入力軸630に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。
【0103】
第2遊星歯車装置632のキャリヤCA2は、第3遊星歯車装置633のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸630に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジング603aに選択的に連結される。また、キャリヤCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3によって、常に逆方向の回転が阻止される。そして、第3遊星歯車装置633のキャリヤCA3は出力軸634に一体的に連結されている。
【0104】
以上の自動変速機603のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の係合・解放状態を図10の作動表に示す。図10の作動表において「○」は「係合」を表し、「空欄」は「解放」を表している。また、「◎」は「エンジンブレーキ時の係合」を表し、「△」は「動力伝達に関係しない係合」を表している。
【0105】
図10に示すように、この例の自動変速機603において、前進ギヤ段の1速(1st)では、クラッチC1が係合され、ワンウェイクラッチF0,F3が作動する。前進ギヤ段の2速(2nd)では、クラッチC1及び第3ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1,F2が作動する。
【0106】
前進ギヤ段の3速(3rd)では、クラッチC1,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1が作動する。前進ギヤ段の4速(4th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0が作動する。
【0107】
前進ギヤ段の5速(5th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB1,B3が係合される。前進ギヤ段の6速(6th)では、クラッチC1,C2が係合されるとともに、ブレーキB1,B2,B3が係合される。また、後進ギヤ段(R)では、クラッチC3が係合されるとともに、ブレーキB4が係合され、ワンウェイクラッチF1が作動する。
【0108】
以上のように、この例の自動変速機603では、摩擦係合要素であるクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段(変速比)が設定される。これらクラッチC1〜C4及びブレーキB1〜B4の係合または解放は油圧制御回路及びECU等によって制御される。
【0109】
そして、この例においても、図7に示す制御と同様に、エンジンシステム以外の他システム(自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジン1の発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のエンジン制御アクチュエータ(吸入空気量調整や点火時期調整)を用いてエンジン1を制御することによって、要求トルクを実現するという制御を行う。このような制御により、例えば、自動変速機603のパワーONアップシフト時のショックを抑制することができる。
【0110】
<実施形態3>
次に、本発明の別の実施形態について図11及び図12を参照して説明する。
【0111】
この例は、上記した<第1実施形態>に対し、自動変速機の構成が異なり、その他の構成、例えばエンジン1、トルクコンバータ2及びECUなどの構成については、上記した<第1実施形態>と基本的に同じである。なお、図11に示すスケルトン図では、トルクコンバータ2及び自動変速機703の上半分の構成のみを示している。
【0112】
この例の自動変速機703は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に搭載される変速機(前進8段、後進1段)であって、フロントプラネタリ731、リアプラネタリ732、中間ドラム733、第1クラッチ(入力クラッチ)C1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び、ワンウェイクラッチF1などを備えている。
【0113】
フロントプラネタリ731は、ダブルピニオンタイプの歯車式遊星機構であって、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、複数個のインナーピニオンギヤP1と、複数個のアウターピニオンギヤP2と、第1キャリヤCA1とを備えている。
【0114】
第1サンギヤS1は、自動変速機703のハウジング703aに固定されて回転不可能とされ、第1リングギヤR1は、中間ドラム733に第3クラッチC3を介して一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されており、第1リングギヤR1の内径側に第1サンギヤS1が同心状に挿入されている。
【0115】
複数個のインナーピニオンギヤP1及び複数個のアウターピニオンギヤP2は、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1との対向環状空間の円周複数箇所に介装されており、複数個のインナーピニオンギヤP1は第1サンギヤS1に噛み合い、また、複数個のアウターピニオンギヤP2はインナーピニオンギヤP1及び第1リングギヤR1に噛み合っている。
【0116】
第1キャリヤCA1は、両ピニオンギヤP1,P2を回転可能に支持するもので、この第1キャリヤCA1の中心軸部が入力軸739に一体的に連結されており、この第1キャリヤCA1において両ピニオンギヤP1,P2を支持する各支持軸部が、第4クラッチC4を介して中間ドラム733に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。中間ドラム733は第1リングギヤR1の外径側に回転可能に配置されており、第1ブレーキB1を介して自動変速機703のハウジング703aに回転不可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0117】
リアプラネタリ732は、ラビニオタイプの歯車式遊星機構であって、大径の第2サンギヤS2と、小径の第3サンギヤS3と、第2リングギヤR2と、複数個のショートピニオンギヤP3と、複数個のロングピニオンギヤP4と、第2キャリヤCA2とを含む構成となっている。
【0118】
第2サンギヤS2は中間ドラム733に連結されている。第3サンギヤS3は、第1クラッチC1を介してフロントプラネタリ731の第1リングギヤR1に一体回転可能または相対回転可能に連結されている。第2リングギヤR2は出力軸740に一体に連結されている。
【0119】
複数個のショートピニオンギヤP3は、第3サンギヤS3に噛み合い、また、複数個のロングピニオンギヤP4は、第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2に噛み合っているとともに、ショートピニオンギヤP3を介して第3サンギヤS3に噛み合っている。
【0120】
第2キャリヤCA2は、両ピニオンギヤP3,P4を回転可能に支持するもので、この第2キャリヤCA2の中心軸部が第2クラッチC2を介して入力軸739に連結され、この第2キャリヤCA2において両ピニオンギヤP3,P4を支持する各支持軸部が、第2ブレーキB2及びワンウェイクラッチF1を介して自動変速機703のハウジング703aに支持されている。
【0121】
なお、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び、第2ブレーキB2は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置とされている。
【0122】
第1クラッチC1は、リアプラネタリ732の第3サンギヤS3をフロントプラネタリ731の第1リングギヤR1に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。第2クラッチC2は、リアプラネタリ732の第2キャリヤCA2を入力軸739に対して、一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0123】
第3クラッチC3は、フロントプラネタリ731の第1リングギヤR1を中間ドラム733に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。第4クラッチC4は、フロントプラネタリ731の第1キャリヤCA1を中間ドラム733に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0124】
第1ブレーキB1は、中間ドラム733を自動変速機703のハウジング703aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。第2ブレーキB2は、リアプラネタリ732の第2キャリヤCA2を自動変速機703のハウジング703aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0125】
また、ワンウェイクラッチF1は、リアプラネタリ732の第2キャリヤCA2の一方向のみの回転を許容するものである。
【0126】
ここで、自動変速機703における各変速段(第1速段〜第8速段、後進段)を成立させる条件について図12を参照して説明する。
【0127】
図12は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び、ワンウェイクラッチF1の係合状態または解放状態と各変速段との関係を示す係合表(作動表)である。この図12において、○印は「係合状態」、×印は「解放状態」、◎印は「エンジンブレーキ時に係合状態」、△印は「駆動時のみ係合状態」を示す。
【0128】
そして、図12に示すように、この例の自動変速機703において、第1クラッチC1を係合させると前進段の1速(1st)が成立し、この1速ではワンウェイクラッチF
1が係合する。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1を係合させると前進段の2速(2nd)が成立する。第1クラッチC1及び第3クラッチC3を係合させると前進段の3速(3rd)が成立する。第1クラッチC1及び第4クラッチC4を係合させると前進段の4速(4th)が成立する。
【0129】
また、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係合させると前進段の5速(5th)が成立する。第2クラッチC2及び第4クラッチC4を係合させると前進段の6速(6th)が成立する。第2クラッチC2及び第3クラッチC3を係合させると前進段の7速(7th)が成立する。第2クラッチC2及び第1ブレーキB1を係合すると前進段の8速(8th)が成立する。一方、第4クラッチC4及び第2ブレーキB2を係合させると後進段(R)が成立する。
【0130】
以上のように、この例の自動変速機703では、摩擦係合要素である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1,第2ブレーキB2、及び、ワンウェイクラッチF1などが、所定の状態に係合または解放されることによって変速段(ギヤ段)が設定される。第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び、第2ブレーキB2の係合・解放は油圧制御回路及びECU等によって制御される。
【0131】
そして、この例においても、図7に示す制御と同様に、エンジンシステム以外の他システム(自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジン1の発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のエンジン制御アクチュエータ(吸入空気量調整や点火時期調整)を用いてエンジン1を制御することによって、要求トルクを実現するという制御を行う。このような制御により、例えば、自動変速機703のパワーONアップシフト時のショックを抑制することができる。
【0132】
−他の実施形態−
以上の例では、エンジンシステム(駆動力源)にトルク要求を行う他システムを、自動変速機システム及びVSCシステムとしているが、本発明はこれに限れられることなく、エンジンシステムにトルクダウン等のトルク要求を行うシステムであれば、自動変速機システムやVSCシステム以外の他のシステムであってもよい。その自動変速機システムやVSCシステム以外のシステムについても、上記した<実施形態1>と同様なトルク要求時の制御を実行するようにすればよい。
【0133】
以上の例では、車速とアクセル開度とに基づいて適正なギヤ段を求めて変速制御を実行する例を示したが、本発明はこれに限られることなく、車速とスロットル開度とに基づいて適正なギヤ段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。また、車両の走行状態に関する他のパラメータに基づいてギヤ段の変速制御を行う自動変速機を搭載した車両のトルク制御にも本発明を適用することができる。
【0134】
以上の例では、4気筒ガソリンエンジンを搭載した車両のトルク制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、例えば筒6気筒ガソリンエンジンなど他の任意の気筒数の多気筒ガソリンエンジンを搭載した車両のトルク制御にも適用できる。さらに、ガソリンエンジンに限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両のトルク制御にも適用可能である。また、エンジンについては、ポート噴射型エンジンまたは筒内直噴型エンジンのいずれであってもよい。
【0135】
以上の例では、ガソリンエンジン等のエンジンを搭載した車両のトルク制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、駆動力源として電動モータが搭載された電動車両(EV)のトルク制御、あるいは、駆動力源としてエンジンと電動モータの両方が搭載されたハイブリッド車両(HV車)のトルク制御にも本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、エンジン(内燃機関)や電動モータなどの駆動力源が搭載された車両のトルク制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0137】
1 エンジン
12 スロットルバルブ
14 インジェクタ
15 点火プラグ
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
101 エンジンECU
102 ECT_ECU
103 VSC_ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(内燃機関)等の駆動力源が搭載された車両のトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう)では、吸気通路を介して燃焼室内に吸入される吸入空気と、インジェクタ(燃料噴射弁)から噴射される燃料とを混合して混合気を形成し、その混合気を燃焼室内で燃焼させることで駆動力を得ている。このようなエンジンにおいては、吸気通路に設けたスロットルバルブを駆動するアクチュエータ(スロットルモータ)を設け、運転者のアクセルペダルの操作とは独立してスロットル開度を制御可能とした電子スロットルシステム(以下、電子スロットルともいう)が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、車両に搭載されるエンジンにおいては、例えば、上記した電子スロットル等による吸入空気量調整、燃焼室内の混合気に対して点火動作を行う点火プラグの点火時期を調整する点火時期調整、エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットなどによって出力トルクを制御している。
【0004】
なお、エンジンの出力トルク制御に関する技術として、下記の特許文献2に記載のものがある。この特許文献2に記載の技術では、エンジントルクを低減する制御として、点火時期遅角と燃料噴射カットとを用い、低減すべきトルクが小さい場合は点火時期遅角を行い、低減すべきトルクが大きい場合は燃料噴射カットを行っている。
【0005】
一方、エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルク及び回転速度を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチ及びブレーキ等の摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いてギヤ段を設定する有段式自動変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−065368号公報
【特許文献2】特開2002−349332号公報
【特許文献3】特開2002−213289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両に搭載されたエンジンのトルク制御においては、電子スロットル等による吸入空気量調整、点火時期調整、燃料噴射カット等に振り分けて制御を行っているが、他システム(例えば、自動変速機システム、VSC(Vehicle Stability Control:車両安定性制御)システム))の要求トルクを実現する際に、応答性と大きなトルクダウン(失火限界を超えるようなトルクダウン要求)とが必要である場合、吸入空気量調整や点火時期調整ではトルク要求を実現できないため、燃料噴射カットを実施している。その際、他システム、特に、自動変速機システムにとっては、トルクダウン要求中に燃料噴射カットが突然実施されてしまうと、エンジンの発生トルクが連続的でなくなるため制御が破綻してしまう。例えば、自動変速機の変速制御において、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中にトルクダウンを実施する際に、燃料噴射カット状態になると、自動変速機への入力トルクがなくなってしまい、油圧(摩擦係合要素の油圧)と入力トルクとのバランスが取れなくなってしまうので、大きなショックが発生する場合がある。
【0008】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、駆動力源の制御システム以外の他システムから、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、駆動力源の発生トルクが不連続とならないようにトルク制御を行うことが可能な車両のトルク制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、駆動力源と、前記駆動力源にトルク要求を行うシステムとが搭載された車両のトルク制御装置を前提としており、このような車両のトルク制御装置において、前記システムからのトルク要求があったときに、そのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記駆動力源の発生トルクが不連続となるトルク制御を実行せずに、トルク連続性を確保できるトルク制御のみで前記システムからの要求トルクを実現することを技術的特徴としている。
【0010】
本発明の具体的な構成として、駆動力源がエンジンであって、そのエンジンの吸入空気量調整、エンジンの点火時期調整、エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットを利用して前記システムからのトルク要求を実現するように構成されており、前記システムからのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記燃料噴射カットは実行せずに、吸入空気量調整及び点火時期調整のいずれか一方または双方を用いて前記エンジンを制御して前記要求トルクを実現するという構成を挙げることができる。
【0011】
また、駆動力源から駆動輪への動力伝達経路に自動変速機が設けられた車両において、パワーONアップシフトの際に、前記自動変速機のシステムからのトルクダウン要求が連続性を確保する要求である場合は、トルク連続性を確保できるトルク制御のみで前記駆動力源のトルクダウンを実行する。具体的には、パワーONアップシフト時のトルクダウン要求がトルクの連続性を確保する要求である場合、エンジンの発生トルクが不連続となる燃料噴射カットは実行せずに、吸入空気量調整及び点火時期調整のいずれか一方または双方を用いてエンジンのトルクダウンを実行するという構成を挙げることができる。
【0012】
本発明によれば、駆動力源の制御システム(エンジンシステム)以外の他システム(例えば自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジンの発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のトルク制御(例えば吸入空気量調整や点火時期調整)を用いて要求トルクを実現するので、トルクダウンの際のトルク不連続性を避けることができる。これによって、例えば、パワーONアップシフト中にトルクダウンを実施する際に、エンジンの発生トルクの連続性を確保することができ、ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用する車両の概略構成を示す図である。
【図2】図1の車両に搭載されるエンジン、トルクコンバータ、自動変速機、及び、制御系の概略構成を示す図である。
【図3】図2に示す自動変速機の係合要素の係合・解放を示す係合表である。
【図4】図2に示す自動変速機の油圧制御回路の一部を示す回路構成図である。
【図5】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図6】変速制御に用いる変速マップを示す図である。
【図7】トルク要求時の制御の一例を示すフローチャートである。
【図8】パワーONアップシフト時の制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態に用いる自動変速機の概略構成図である。
【図10】図9に示す自動変速機の係合要素の係合・解放を示す係合表である。
【図11】本発明の別の実施形態に用いる自動変速機の概略構成図である。
【図12】図11に示す自動変速機の係合要素の係合・解放を示す係合表である。
【図13】パワーONアップシフト時の従来制御の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は本発明を適用する車両の概略構成図である。図2は車両に搭載されるエンジン、トルクコンバータ、自動変速機、及び、制御系の概略構成を示す図である。
【0016】
この例の車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、走行用動力源であるエンジン(内燃機関)1、トルクコンバータ2、自動変速機3、油圧制御回路4、デファレンシャル装置5、及び、ECU100などが搭載されている。
【0017】
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から自動変速機3等を介してデファレンシャル装置5に伝達され、左右の駆動輪6,6へ分配される。
【0018】
これらエンジン1、トルクコンバータ2、自動変速機3、油圧制御回路4、及び、ECU100の各部について以下に説明する。
【0019】
−エンジン−
エンジン1は、例えば4気筒ガソリンエンジンであって、出力軸であるクランクシャフト11がトルクコンバータ2の入力軸に接続される。クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数)はエンジン回転数センサ201によって検出される。
【0020】
エンジン1に吸入される吸入空気量は、電子制御式のスロットルバルブ(電子スロットル)12によって調整される。スロットルバルブ12は、運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ202によって検出される。
【0021】
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU100(エンジンECU101)によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ201によって検出されるエンジン回転数、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ202を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0022】
また、エンジン1には、燃焼室内の混合気(燃料+吸入空気)に対して点火動作を行う点火プラグ15が各気筒毎に配置されている。点火プラグ15の点火タイミング(点火時期調整)はイグナイタ及びECU100(エンジンECU101)によって制御される。
【0023】
さらに、エンジン1には、燃料噴射用のインジェクタ14が吸気通路10に配置されている。インジェクタ14には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路10に燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室に導入される。エンジン1の燃焼室に導入された混合気(燃料+空気)は点火プラグ15にて点火されて燃焼・爆発する。この混合気の燃焼室内での燃焼・爆発によりピストンが往復運動してクランクシャフト11が回転する。
【0024】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、図2に示すように、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。
【0025】
トルクコンバータ2には、入力側と出力側とを直結状態にするロックアップクラッチ25が設けられており、このロックアップクラッチ25を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ25を所定のスリップ状態(半係合)で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。トルクコンバータ2と自動変速機3とは回転軸によって接続される。
【0026】
−自動変速機−
自動変速機3は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に適用される横置き型自動変速機であって、図2に示すように、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置301を主体として構成される第1変速部31と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置302及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置303を主体として構成される第2変速部32とを同軸線上に有し、入力軸33の回転を変速して出力軸34に伝達し、出力歯車35から出力する遊星歯車式多段変速機である。出力歯車35は、車両に搭載されるデファレンシャル装置5のデフドリブンギヤ5a(図1参照)に噛み合っている。なお、自動変速機3は中心線に対して略対称的に構成されているので、図2に示すスケルトン図では中心線の上半分の構成のみを示している。
【0027】
第1変速部31を構成している第1遊星歯車装置301は、サンギヤS1、キャリヤCA1、及び、リングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸33に連結される。さらに、サンギヤS1は、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介してハウジング36に固定されることにより、キャリヤCA1を中間出力部材として入力軸33に対して減速回転される。
【0028】
第2変速部32を構成している第2遊星歯車装置302及び第3遊星歯車装置303では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第3遊星歯車装置303のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成されており、第2遊星歯車装置302のリングギヤR2及び第3遊星歯車装置303のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成されている。さらに、第2遊星歯車装置302のキャリヤCA2及び第3遊星歯車装置303のキャリヤCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成されている。また、第2遊星歯車装置302のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。
【0029】
第2遊星歯車装置302及び第3遊星歯車装置303は、キャリヤCA2及びCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2及びR3が共通の部材にて構成されている。さらに、第2遊星歯車装置302のピニオンギヤが第3遊星歯車装置303の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0030】
第1回転要素RM1(サンギヤS3)は、中間出力部材である第1遊星歯車装置301のキャリヤCA1に一体的に連結されており、第1ブレーキB1によってハウジング36に選択的に連結されて回転停止される。第2回転要素RM2(リングギヤR2及びR3)は、第2クラッチC2を介して入力軸33に選択的に連結される一方、ワンウェイクラッチF1及び第2ブレーキB2を介してハウジング36に選択的に連結されて回転停止される。
【0031】
第3回転要素RM3(キャリヤCA2及びCA3)は出力軸34に一体的に連結されている。第4回転要素RM4(サンギヤS2)は、第1クラッチC1を介して入力軸33に選択的に連結される。
【0032】
なお。第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3は、いずれも油圧シリンダによって摩擦係合する多板式の油圧式摩擦係合装置である。
【0033】
以上の自動変速機3では、摩擦係合要素である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、及び、ワンウェイクラッチF1などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段が設定される。
【0034】
自動変速機3には、運転者により操作されるシフトレバーが設けられており、そのシフトレバーを操作することにより、例えばPレンジ(パーキングレンジ)、Rレンジ(後進走行レンジ)、N(ニュートラルレンジ)、Dレンジ(前進走行レンジ)等に切り替えることができる。
【0035】
図3は、自動変速機3の各ギヤ段を成立させるためのクラッチ及びブレーキの係合作動を説明する係合表であり、「○」は係合を、「×」は解放をそれぞれ表している。
【0036】
この図3に示すように、自動変速機3において、第1クラッチC1を係合することによって第1ギヤ段(1st)が成立する。第1速ギヤ段(1st)から第2速ギヤ段(2nd)への変速(1st→2nd)は、第1ブレーキB1を係合することによって達成される。
【0037】
第2速ギヤ段(2nd)から第3速ギヤ段(3rd)への変速(2nd→3rd)は、第1ブレーキB1を解放するとともに、第3ブレーキB3を係合することによって達成される。第3速ギヤ段(3rd)から第4速ギヤ段(4th)への変速(3rd→4th)は、第3ブレーキB3を解放するとともに、第2クラッチC2を係合することによって達成される。
【0038】
第4速ギヤ段(4th)から第5速ギヤ段(5th)への変速(4th→5th)は、第1クラッチC1を解放するとともに、第3ブレーキB3を係合することによって達成される。第5速ギヤ段(5th)から第6速ギヤ段(6th)への変速(5th→6th)は、第3ブレーキB3を解放するとともに、第1ブレーキB1を係合することによって達成される。
【0039】
そして、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を共に係合することによって後退ギヤ段(Rev)が成立する。
【0040】
なお、自動変速機3の各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置301、第2遊星歯車装置302、及び、第3遊星歯車装置303の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρUD、ρS、ρDによって適宜定められる。
【0041】
以上の自動変速機3の入力軸33の回転数(タービン回転数)は入力軸回転数センサ203によって検出される。また、自動変速機3の出力軸34の回転数は出力軸回転数センサ204によって検出される。これら入力軸回転数センサ203及び出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)に基づいて、自動変速機3の現在ギヤ段を判定することができる。
【0042】
−油圧制御回路−
次に、自動変速機3の油圧制御回路4の一部について図4を参照して説明する。なお、油圧制御回路4には、図示はしないが、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ25の係合、半係合または解放を制御する油圧回路も組み込まれている。
【0043】
この例の油圧制御回路4は、オイルポンプ401、プライマリレギュレータバルブ403、セカンダリレギュレータバルブ404、モジュレータバルブ405、マニュアルシフトバルブ410、リニアソレノイドバルブ(SLT)406、リニアソレノイドバルブ(SLU)407、オンオフソレノイドバルブ(SL)408、リニアソレノイドバルブ(SL1)411、リニアソレノイドバルブ(SL2)412、リニアソレノイドバルブ(SL3)413、リニアソレノイドバルブ(SL4)414、及び、B2コントロールバルブ415などを備えている。
【0044】
オイルポンプ401はエンジン1のクランクシャフト11(図2参照)に連結されており、クランクシャフト11が回転することにより、オイルポンプ401が駆動してオイルパン402内に貯えられた作動油(ATF)を吸い込んで油圧を発生する。オイルポンプ401で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ403により調整され、ライン圧PLが生成される。
【0045】
プライマリレギュレータバルブ403は、リニアソレノイドバルブ(SLT)406によって調整されたスロットル圧PSLTをパイロット圧として作動する。ライン圧PLは第1ライン圧油路421を通じてマニュアルシフトバルブ410に供給される。また、ライン圧PLは、リニアソレノイドバルブ(SL4)414によって調整されて、第3ブレーキB3の油圧サーボに供給される。
【0046】
セカンダリレギュレータバルブ404は、リニアソレノイドバルブ(SLT)406によって調整されたスロットル圧PSLTをパイロット圧として作動する。セカンダリレギュレータバルブ404は、プライマリレギュレータバルブ403から流出(排出)した余分な作動油が流入する第2ライン圧油路422内の油圧を調整する。セカンダリレギュレータバルブ404によってセカンダリ圧が生成される。
【0047】
図4の油圧制御回路4において、マニュアルシフトバルブ410のスプール410aがDポジションにある場合、第1ライン圧油路421とDレンジ圧油路424とが連通し、Dレンジ圧油路424に油圧が供給される。マニュアルシフトバルブ410のスプール410aがRポジションにある場合、第1ライン圧油路421とRレンジ圧油路425とが連通し、Rレンジ圧油路425に油圧が供給される。マニュアルシフトバルブ410のスプール410aがNポジションにある場合、Dレンジ圧油路424及びRレンジ圧油路425とドレンポート410bとが連通し、Dレンジ圧油路424のDレンジ圧及びRレンジ圧油路425のRレンジ圧がドレンポート410bから排出される。
【0048】
Dレンジ圧油路424に供給された油圧は、最終的には、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の各油圧サーボに供給される。Rレンジ圧油路425に供給された油圧は、最終的には、第2ブレーキB2の油圧サーボに供給される。
【0049】
モジュレータバルブ405は、ライン圧を一定の圧力に調整する。モジュレータバルブ405によって調整された油圧(ソレノイドモジュレータ圧)PMは、リニアソレノイドバルブ(SLT)406、リニアソレノイドバルブ(SLU)407及びオンオフソレノイドバルブ(SL)408に供給される。
【0050】
リニアソレノイドバルブ(SL1)411は、マニュアルシフトバルブ410から出力されたDレンジ圧PDを元圧として第1クラッチC1の係合状態を制御するための第1油圧PC1を発生し、その第1油圧PC1を第1クラッチC1の油圧サーボに供給する。
【0051】
リニアソレノイドバルブ(SL2)412は、Dレンジ圧PDを元圧として第2クラッチC2の係合状態を制御するための第2油圧PC2を発生し、その第2油圧PC2を第2クラッチC2の油圧サーボに供給する。
【0052】
リニアソレノイドバルブ(SL3)413は、Dレンジ圧PDを元圧として第1ブレーキB1の係合状態を制御するための第3油圧PB1を発生し、その第3油圧PB1を第1ブレーキB1の油圧サーボに供給する。
【0053】
リニアソレノイドバルブ(SL4)414は、ライン圧PLを元圧として第3ブレーキB3の係合状態を制御するための第4油圧PB3を発生し、その第4油圧PB3を第3ブレーキB3の油圧サーボに供給する。
【0054】
リニアソレノイドバルブ(SLT)406は、スロットル開度センサ101にて検出されたスロットル開度に基づいてECU100(ECT_ECU102)からの制御信号に応じてソレノイドモジュレータ圧PMを調整し、スロットル圧PSLTを生成する。スロットル圧PSLTは、SLT油路423を介して、プライマリレギュレータバルブ403に供給される。スロットル圧PSLTは、プライマリレギュレータバルブ403のパイロット圧として利用される。
【0055】
以上のリニアソレノイドバルブ(SLT)406、リニアソレノイドバルブ(SLU)407、オンオフソレノイドバルブ(SL)408、リニアソレノイドバルブ(SL1)411、リニアソレノイドバルブ(SL2)412、リニアソレノイドバルブ(SL3)413、及び、リニアソレノイドバルブ(SL4)414は、ECU100(ECT_ECU102)から送信される制御信号により制御される。
【0056】
B2コントロールバルブ415には、Dレンジ圧油路424及びRレンジ圧油路425が接続されている。B2コントロールバルブ415は、Dレンジ圧油路424またはRレンジ圧油路425のいずれか一方の油路からの油圧を第2ブレーキB2に選択的に供給する。B2コントロールバルブ415は、リニアソレノイドバルブ(SLU)407及びオンオフソレノイドバルブ(SL)408から供給された油圧PSLU,PSLとスプリング415aの付勢力とにより制御される。
【0057】
B2コントロールバルブ415は、オンオフソレノイドバルブ(SL)408がOFFで、リニアソレノイド(SLU)407がONの場合、図4において左側の状態となる。この場合、第2ブレーキB2の油圧サーボには、リニアソレノイドバルブ(SLU)407から供給された油圧をパイロット圧として、Dレンジ圧PDを調整した油圧が供給される。一方、オンオフソレノイドバルブ(SL)408がONで、リニアソレノイドバルブ(SLU)407がOFFの場合、B2コントロールバルブ415は、図4において右側の状態となる。この場合、第2ブレーキB2の油圧サーボにはRレンジ圧PRが供給される。
【0058】
−ECU−
以上のパワートレーンを制御するECU100は、図5に示すように、エンジン1を制御するエンジンECU101と、トルクコンバータ2及び自動変速機3を制御するECT_ECU(Electronic Controlled automatic Transmission_ECU)102と、走行安定化制御を実行するVSC_ECU103とを含む。これらエンジンECU101と、ECT_ECU102と、VSC_ECU103とは、相互に信号通信を行っており、各種センサの出力信号や要求信号などの受け渡しを行う。
【0059】
エンジンECU101、ECT_ECU102、及び、VSC_ECU103は、それぞれ、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMなどを備えている。
【0060】
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0061】
エンジンECU101には、図5に示すように、エンジン回転数センサ201、及び、スロットル開度センサ202などのエンジン1の運転状態を検出する各種センサが接続されており、その各センサの信号が入力される。エンジンECU101は、スロットルバルブ12のスロットルモータ13、インジェクタ14、及び、点火プラグ(イグナイタ)15などのエンジン1の各部を制御する。
【0062】
なお、この例において、エンジンECU101にてエンジン1を制御するシステムを「エンジンシステム」という場合もある。
【0063】
ECT_ECU102には、図5に示すように、入力軸回転数センサ203、出力軸回転数センサ204、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ205、自動変速機3のシフト位置を検出するシフトポジションセンサ206、及び、車両の速度を検出する車速センサ207などの各種センサ類が接続されており、その各センサの信号が入力される。
【0064】
ECT_ECU102は、トルクコンバータ2(油圧制御回路4)にロックアップクラッチ制御信号を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいて、油圧制御回路4のロックアップコントロールバルブなどが制御されてトルクコンバータ2のロックアップクラッチ25が係合、半係合または解放される。
【0065】
また、ECT_ECU102は、自動変速機3の油圧制御回路4にソレノイド制御信号(油圧指令信号)を出力する。このソレノイド制御信号に基づいて油圧制御回路4のリニアソレノイドバルブやオンオフソレノイドバルブなどが制御され、所定の変速ギヤ段(1速〜6速)を構成するように、自動変速機3の第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、及び、ワンウェイクラッチF1などが所定の状態に係合または解放される。
【0066】
なお、この例において、ECT_ECU102にて自動変速機3(ロックアップクラッチ25も含む)を制御するシステムを「自動変速機システム」という場合もある。
【0067】
VSC_ECU103には、図5に示すように、車両の各車輪の速度(車輪速度)を検出する車輪速センサ211、及び、ブレーキマスターシリンダの内圧を検出するブレーキシリンダ内圧センサ212などの各種のセンサ類が接続されており、その各センサの信号が入力される。VSC_ECU103は、TRC(Traction Control)装置213やABS(Antilock Brake System)機能を有するブレーキ装置214を制御して、車両の駆動力や制動力を調整することによって車両走行時の横滑りなどを回避して車両の走行安定性を維持する。
【0068】
なお、この例において、VSC_ECU103にてTRC装置213やブレーキ装置214等を制御するシステムを「VSCシステム」という場合もある。
【0069】
そして、エンジンECU101は、下記の[エンジントルク制御]及び[トルク要求時の制御]を実行する。
【0070】
ECT_ECU102は、下記の[変速制御]を実行するとともに、その変速制御を実行する際にトルク要求(例えば、トルクダウン要求)をエンジンECU101に送信する。また、VSC_ECU103においても、車両安定性制御を実行する際にトルク要求をエンジンECU101に送信する。
【0071】
ここで、この例において、ECT_ECU102は、パワーONアップシフトを実行する場合(パワーOFFダウンシフトを実行する場合も含む)、エンジンECU101に、トルク要求とともにトルク連続性を確保する要求を送信する。一方、ECT_ECU102は、燃料噴射カット(発生トルクが不連続な制御)に至ってもよいトルクダウン要求(例えば、自動変速機3のハード保護目的等のためのトルクダウン要求)を行う場合には、トルク連続性を確保する要求はエンジンECU101に送信しない。
【0072】
また、VSC_ECU103においても、同様に、車両安定性制御を実行する際に、エンジンECU101にトルク連続性を確保する要求を送信する一方、燃料噴射カット(発生トルクが不連続な制御)に至ってもよいトルクダウン要求を行う場合には、トルク連続性を確保する要求はエンジンECU101に送信しない。
【0073】
なお、自動変速機3のハード保護目的のためのダウンシフト要求とは、例えば、シフトレバーがN(ニュートラルレンジ)からDレンジ(前進走行レンジ)またはRレンジ(後進走行レンジ)へ操作されるガレージシフト時に、自動変速機3やデファレンシャル装置5などに過大なイナーシャトルクが作用することを防止するためのダウンシフト要求であり、また、例えば、自動変速機3の第2クラッチC2のリニアソレノイドバルブ(SL2)412が故障した際に、エンジン1の発生トルクによって第2クラッチC2などが過回転することを防止するためのダウンシフト要求である。
【0074】
以上のECU100により実行されるプログラムによって、本発明の車両のトルク制御装置が実現される。
【0075】
−エンジントルク制御−
この例において、エンジンECU101は、電子スロットルによる吸入空気量調整、点火時期調整(点火時期遅角)、エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットなどの制御(これらの制御を、以下、エンジン制御アクチュエータともいう)に振り分けて、エンジン1のトルクダウン制御を実行する。
【0076】
燃料噴射カット(フューエルカット)は、燃費を向上させるためにエンジン1への燃料供給を停止する制御であって、例えば、車両減速時(アクセルオフ)で、かつ、エンジン回転数がフューエルカット開始回転数以上であるときにエンジン1への燃料噴射を停止(インジェクタ14からの燃料噴射を停止)し、エンジン回転数がフューエルカット復帰回転数(フューエルカット停止のための燃料噴射復帰判定回転数)よりも低下したときにエンジンへの燃料噴射を再開する制御である。
【0077】
なお、フューエルカット復帰回転数は、耐エンスト(エンジンストール)性を確保することが可能であり、エンジン1の安定した回転を維持することが可能な回転数に設定されている。また、フューエルカット開始回転数は、フューエルカット復帰回転数よりも所定量だけ高い回転数に設定されている。
【0078】
−変速制御−
まず、この例の変速制御に用いる変速マップについて図6を参照して説明する。
【0079】
図6に示す変速マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、適正なギヤ段(最適な燃費となるギヤ段)を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、例えばECT_ECU102のROM内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(ギヤ段の切り替えライン)によって区画されている。
【0080】
なお、図6に示す変速マップにおいて、アップシフト線(変速線)を実線で示し、ダウンシフト線(変速線)を破線で示している。また、アップシフト及びダウンシフトの各切り替え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0081】
次に、変速制御の基本動作について説明する。
【0082】
まず、ECT_ECU102は、車速センサ207の出力信号から車速Vを算出するとともに、アクセル開度センサ205の出力信号からアクセル開度Accを算出し、それら車速V及びアクセル開度Accに基づいて図6の変速マップを参照して目標ギヤ段を算出する。さらに、入力軸回転数センサ203及び出力軸回転数センサ204の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)を求めて現在ギヤ段を判定し、その現在ギヤ段と目標ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
【0083】
その判定結果により、変速の必要がない場合(現在ギヤ段と目標ギヤ段とが同じで、ギア段が適切に設定されている場合)には、現在ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機3の油圧制御回路4に出力する。
【0084】
一方、現在ギヤ段と目標ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機3のギヤ段が「4速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Paから点Pbに変化した場合、アップシフト変速線[4→5]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギヤ段が「5速」となり、その5速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機3の油圧制御回路4に出力して、4速のギヤ段から5速のギヤ段への変速(4→5アップシフト変速)を行う。なお、車速Vは、出力回転数センサ204の出力信号から算出するようにしてもよい。
【0085】
−トルク要求時の制御−
まず、車両に搭載されたエンジンのトルク制御では、電子スロットル等による吸入空気量調整、点火時期調整、燃料噴射カットなどに振り分けて制御を行っている。エンジンシステムにおいて、自動変速機システムやVSCシステムなどの他システムからの要求トルクを実現する際に、応答性と大きなトルクダウン(失火限界を超えるようなトルクダウン要求)とが必要である場合、従来制御では、吸入空気量調整や点火時期調整では実現できないため、燃料噴射カットを実施しようとしている。その際、他システム、特に自動変速機システムにとっては、トルクダウン要求中に突然に燃料噴射カットが実施されてしまうと、エンジンの発生トルクが連続的でなくなるため制御が破綻してしまう。
【0086】
例えば、自動変速機の変速制御において、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中にトルクダウンを実施する際に燃料噴射カット状態になると、自動変速機への入力トルクがなくなり、油圧(摩擦係合要素の油圧)と入力トルクとのバランスが取れなくなってしまうので、大きなショックが発生する場合がある。
【0087】
具体的に説明すると、図13に示すように、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中に、発生トルクが不連続となる燃料噴射カットにてエンジンのトルクダウン(破線)が実行されてしまうと、パワーONアップシフト時のダウントルク要求(実線)に対して実エンジントルク(破線)のダウン量が過多(過トルクダウン)となり、自動変速機の入力トルク(伝達トルク)が小さくなってしまう。このようになると、入力トルクに対し摩擦係合要素の係合圧が過多となってしまい、摩擦係合要素が急に係合されてしまうので、図13に示すようなショック(アウトプットトルクの変化)が発生する。
【0088】
このような点を考慮し、この例の制御では、エンジンシステム以外の他システム(自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジン1の発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のトルク制御(吸入空気量調整や点火時期調整)を用いて要求トルクを実現する点に特徴がある。
【0089】
その具体的な制御の一例について図7のフローチャートを参照して説明する。図7の制御ルーチンはECU100において所定周期(例えば数msec〜数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
【0090】
まず、ステップST101において、他システム(自動変速機システムまたはVSCシステム)からトルク要求があるか否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合(トルク要求がない場合)はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定である場合(トルク要求がある場合)はステップST102に進む。
【0091】
ステップST102では、他システムからのトルク要求が、トルク連続性を確保する要求であるか否かを判定する。ステップST102の判定結果が肯定判定である場合、例えば自動変速機システム(ECT_ECU102)からのトルク要求が、パワーONアップシフトの際のトルクダウン要求であり、トルク連続性の確保が要求されている場合はステップST103に進む。
【0092】
ステップST103においては、エンジン発生トルクが不連続となる燃料噴射カット以外のエンジン制御アクチュエータで要求トルクを実現する。つまり、燃料噴射カットは実行せずに、吸入吸気量調整及び点火時期調整(点火時期遅角)のいずれか一方または双方のエンジン制御アクチュエータを用いてエンジン1のトルク制御を行って、自動変速機システム(ECT_ECU102)から要求されたダウントルク要求を実現する。
【0093】
なお、以上のステップST101〜ST103において、他システムからのトルク要求が、VSC_ECU103からのトルクダウン要求であり、そのトルクダウン要求がトルク連続性を確保する要求である場合、燃料噴射カットは実行せずに、吸入吸気量調整及び点火時期調整(点火時期遅角)のいずれか一方または双方のエンジン制御アクチュエータを用いてエンジン1のトルク制御を行って、VSCシステム(VSC_ECU103)から要求されたダウントルク要求を実現する。
【0094】
一方、ステップST102の判定結果が否定判定である場合、つまり、他システム(自動変速機システムやVSCシステム)からのダウントルク要求に連続性確保の要求がない場合、燃料噴射カットに至ってもよいので、吸入吸気量調整、点火時期調整(点火時期遅角)、及び、燃料噴射カットを含む全てのエンジン制御アクチュエータを利用対象とし、それらのうちの1つのエンジン制御アクチュエータまたは複数(2つ以上)のエンジン制御アクチュエータを用いて、他システムからのトルク要求を実現すべくエンジン1のトルク制御を行う(ステップST104)。なお、この場合、例えば、自動変速機システム(ECT_ECU102)からのトルク要求が、上記した「自動変速機のハード保護目的」のためのトルクダウン要求である場合、燃料噴射カットにてエンジン1のトルクダウンを実行する。
【0095】
次に、以上の図7の制御について、パワーONアップシフト時のトルクダウンの場合を例にとって図8を参照して説明する。
【0096】
まず、自動変速機システム(ECT_ECU102)は、例えば図6の変速マップに基づく変速要求(例えば4→5アップシフト変速要求)が発生すると、その変速要求に応じて、自動変速機3の解放側係合要素(クラッチ・ブレーキ)の指示圧(図示せず)を速やかに0まで低下させる一方、係合側係合要素(クラッチ・ブレーキ)の係合指示圧を、図8に示すような変化パターンで変化させる。このような油圧制御により、パワーONアップシフトのイナーシャ相が開始される。
【0097】
ここで、パワーONアップシフトを行う際には、自動変速機システム(ECT_ECU102)は、エンジンシステム(エンジンECU101)に、トルク連続性を確保するトルクダウンを要求するので、エンジンシステム(エンジンECU101)は、エンジン1の発生トルクが不連続となる燃料噴射カットは実行せずに、それ以外のエンジン制御アクチュエータ、つまり、吸入空気量調整や点火時期調整(点火時期遅角)のみでエンジン1の制御を行ってダウントルク要求を実現する。こうした制御により、図8に示すように、実エンジントルク(破線)を、トルク連続性を確保できるトルク量の範囲内に制限することが可能になる。これによって、パワーONアップシフト時のイナーシャ相中において、図13に示すような過トルクダウンをなくすことができ、パワーONアップシフト時のショックを抑制することができる。
【0098】
<実施形態2>
次に、本発明の他の実施形態について図9及び図10を参照して説明する。
【0099】
この例は、上記した<第1実施形態>に対し、自動変速機の構成が異なり、その他の構成、例えばエンジン1、トルクコンバータ2及びECUなどの構成については、上記した<第1実施形態>と基本的に同じである。なお、図9に示すスケルトン図では、トルクコンバータ2及び自動変速機603の上半分の構成のみを示している。
【0100】
この例の自動変速機603は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に搭載される変速機(前進6段、後進1段)であって、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置631、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置632、及び、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置633を備えた遊星歯車式変速機である。自動変速機603の出力軸634から出力される動力は、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ及びドライブシャフト等を介して駆動輪に伝達される。
【0101】
自動変速機603の第1遊星歯車装置631のサンギヤS1はクラッチC3を介して入力軸630に選択的に連結される。また、サンギヤS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジング603aに選択的に連結され、逆方向(入力軸630の回転と反対方向)の回転が阻止される。第1遊星歯車装置631のキャリヤCA1は、ブレーキB1を介してハウジング603aに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。第1遊星歯車装置631のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置632のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジング603aに選択的に連結される。
【0102】
第2遊星歯車装置632のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置633のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸630に選択的に連結される。また、サンギヤS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸630に選択的に連結され、その入力軸630に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。
【0103】
第2遊星歯車装置632のキャリヤCA2は、第3遊星歯車装置633のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸630に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジング603aに選択的に連結される。また、キャリヤCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3によって、常に逆方向の回転が阻止される。そして、第3遊星歯車装置633のキャリヤCA3は出力軸634に一体的に連結されている。
【0104】
以上の自動変速機603のクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3の係合・解放状態を図10の作動表に示す。図10の作動表において「○」は「係合」を表し、「空欄」は「解放」を表している。また、「◎」は「エンジンブレーキ時の係合」を表し、「△」は「動力伝達に関係しない係合」を表している。
【0105】
図10に示すように、この例の自動変速機603において、前進ギヤ段の1速(1st)では、クラッチC1が係合され、ワンウェイクラッチF0,F3が作動する。前進ギヤ段の2速(2nd)では、クラッチC1及び第3ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1,F2が作動する。
【0106】
前進ギヤ段の3速(3rd)では、クラッチC1,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0,F1が作動する。前進ギヤ段の4速(4th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB3が係合され、ワンウェイクラッチF0が作動する。
【0107】
前進ギヤ段の5速(5th)では、クラッチC1,C2,C3が係合されるとともに、ブレーキB1,B3が係合される。前進ギヤ段の6速(6th)では、クラッチC1,C2が係合されるとともに、ブレーキB1,B2,B3が係合される。また、後進ギヤ段(R)では、クラッチC3が係合されるとともに、ブレーキB4が係合され、ワンウェイクラッチF1が作動する。
【0108】
以上のように、この例の自動変速機603では、摩擦係合要素であるクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、及び、ワンウェイクラッチF0〜F3などが、所定の状態に係合または解放されることによってギヤ段(変速比)が設定される。これらクラッチC1〜C4及びブレーキB1〜B4の係合または解放は油圧制御回路及びECU等によって制御される。
【0109】
そして、この例においても、図7に示す制御と同様に、エンジンシステム以外の他システム(自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジン1の発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のエンジン制御アクチュエータ(吸入空気量調整や点火時期調整)を用いてエンジン1を制御することによって、要求トルクを実現するという制御を行う。このような制御により、例えば、自動変速機603のパワーONアップシフト時のショックを抑制することができる。
【0110】
<実施形態3>
次に、本発明の別の実施形態について図11及び図12を参照して説明する。
【0111】
この例は、上記した<第1実施形態>に対し、自動変速機の構成が異なり、その他の構成、例えばエンジン1、トルクコンバータ2及びECUなどの構成については、上記した<第1実施形態>と基本的に同じである。なお、図11に示すスケルトン図では、トルクコンバータ2及び自動変速機703の上半分の構成のみを示している。
【0112】
この例の自動変速機703は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に搭載される変速機(前進8段、後進1段)であって、フロントプラネタリ731、リアプラネタリ732、中間ドラム733、第1クラッチ(入力クラッチ)C1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び、ワンウェイクラッチF1などを備えている。
【0113】
フロントプラネタリ731は、ダブルピニオンタイプの歯車式遊星機構であって、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、複数個のインナーピニオンギヤP1と、複数個のアウターピニオンギヤP2と、第1キャリヤCA1とを備えている。
【0114】
第1サンギヤS1は、自動変速機703のハウジング703aに固定されて回転不可能とされ、第1リングギヤR1は、中間ドラム733に第3クラッチC3を介して一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されており、第1リングギヤR1の内径側に第1サンギヤS1が同心状に挿入されている。
【0115】
複数個のインナーピニオンギヤP1及び複数個のアウターピニオンギヤP2は、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1との対向環状空間の円周複数箇所に介装されており、複数個のインナーピニオンギヤP1は第1サンギヤS1に噛み合い、また、複数個のアウターピニオンギヤP2はインナーピニオンギヤP1及び第1リングギヤR1に噛み合っている。
【0116】
第1キャリヤCA1は、両ピニオンギヤP1,P2を回転可能に支持するもので、この第1キャリヤCA1の中心軸部が入力軸739に一体的に連結されており、この第1キャリヤCA1において両ピニオンギヤP1,P2を支持する各支持軸部が、第4クラッチC4を介して中間ドラム733に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。中間ドラム733は第1リングギヤR1の外径側に回転可能に配置されており、第1ブレーキB1を介して自動変速機703のハウジング703aに回転不可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0117】
リアプラネタリ732は、ラビニオタイプの歯車式遊星機構であって、大径の第2サンギヤS2と、小径の第3サンギヤS3と、第2リングギヤR2と、複数個のショートピニオンギヤP3と、複数個のロングピニオンギヤP4と、第2キャリヤCA2とを含む構成となっている。
【0118】
第2サンギヤS2は中間ドラム733に連結されている。第3サンギヤS3は、第1クラッチC1を介してフロントプラネタリ731の第1リングギヤR1に一体回転可能または相対回転可能に連結されている。第2リングギヤR2は出力軸740に一体に連結されている。
【0119】
複数個のショートピニオンギヤP3は、第3サンギヤS3に噛み合い、また、複数個のロングピニオンギヤP4は、第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2に噛み合っているとともに、ショートピニオンギヤP3を介して第3サンギヤS3に噛み合っている。
【0120】
第2キャリヤCA2は、両ピニオンギヤP3,P4を回転可能に支持するもので、この第2キャリヤCA2の中心軸部が第2クラッチC2を介して入力軸739に連結され、この第2キャリヤCA2において両ピニオンギヤP3,P4を支持する各支持軸部が、第2ブレーキB2及びワンウェイクラッチF1を介して自動変速機703のハウジング703aに支持されている。
【0121】
なお、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び、第2ブレーキB2は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置とされている。
【0122】
第1クラッチC1は、リアプラネタリ732の第3サンギヤS3をフロントプラネタリ731の第1リングギヤR1に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。第2クラッチC2は、リアプラネタリ732の第2キャリヤCA2を入力軸739に対して、一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0123】
第3クラッチC3は、フロントプラネタリ731の第1リングギヤR1を中間ドラム733に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。第4クラッチC4は、フロントプラネタリ731の第1キャリヤCA1を中間ドラム733に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0124】
第1ブレーキB1は、中間ドラム733を自動変速機703のハウジング703aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。第2ブレーキB2は、リアプラネタリ732の第2キャリヤCA2を自動変速機703のハウジング703aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0125】
また、ワンウェイクラッチF1は、リアプラネタリ732の第2キャリヤCA2の一方向のみの回転を許容するものである。
【0126】
ここで、自動変速機703における各変速段(第1速段〜第8速段、後進段)を成立させる条件について図12を参照して説明する。
【0127】
図12は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び、ワンウェイクラッチF1の係合状態または解放状態と各変速段との関係を示す係合表(作動表)である。この図12において、○印は「係合状態」、×印は「解放状態」、◎印は「エンジンブレーキ時に係合状態」、△印は「駆動時のみ係合状態」を示す。
【0128】
そして、図12に示すように、この例の自動変速機703において、第1クラッチC1を係合させると前進段の1速(1st)が成立し、この1速ではワンウェイクラッチF
1が係合する。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1を係合させると前進段の2速(2nd)が成立する。第1クラッチC1及び第3クラッチC3を係合させると前進段の3速(3rd)が成立する。第1クラッチC1及び第4クラッチC4を係合させると前進段の4速(4th)が成立する。
【0129】
また、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係合させると前進段の5速(5th)が成立する。第2クラッチC2及び第4クラッチC4を係合させると前進段の6速(6th)が成立する。第2クラッチC2及び第3クラッチC3を係合させると前進段の7速(7th)が成立する。第2クラッチC2及び第1ブレーキB1を係合すると前進段の8速(8th)が成立する。一方、第4クラッチC4及び第2ブレーキB2を係合させると後進段(R)が成立する。
【0130】
以上のように、この例の自動変速機703では、摩擦係合要素である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1,第2ブレーキB2、及び、ワンウェイクラッチF1などが、所定の状態に係合または解放されることによって変速段(ギヤ段)が設定される。第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第4クラッチC4、第1ブレーキB1、及び、第2ブレーキB2の係合・解放は油圧制御回路及びECU等によって制御される。
【0131】
そして、この例においても、図7に示す制御と同様に、エンジンシステム以外の他システム(自動変速機システムやVSCシステム)から、トルク連続性を確保するトルク要求があった場合には、エンジン1の発生トルクが不連続となるトルク制御(燃料噴射カット)を実行せずに、それ以外のエンジン制御アクチュエータ(吸入空気量調整や点火時期調整)を用いてエンジン1を制御することによって、要求トルクを実現するという制御を行う。このような制御により、例えば、自動変速機703のパワーONアップシフト時のショックを抑制することができる。
【0132】
−他の実施形態−
以上の例では、エンジンシステム(駆動力源)にトルク要求を行う他システムを、自動変速機システム及びVSCシステムとしているが、本発明はこれに限れられることなく、エンジンシステムにトルクダウン等のトルク要求を行うシステムであれば、自動変速機システムやVSCシステム以外の他のシステムであってもよい。その自動変速機システムやVSCシステム以外のシステムについても、上記した<実施形態1>と同様なトルク要求時の制御を実行するようにすればよい。
【0133】
以上の例では、車速とアクセル開度とに基づいて適正なギヤ段を求めて変速制御を実行する例を示したが、本発明はこれに限られることなく、車速とスロットル開度とに基づいて適正なギヤ段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。また、車両の走行状態に関する他のパラメータに基づいてギヤ段の変速制御を行う自動変速機を搭載した車両のトルク制御にも本発明を適用することができる。
【0134】
以上の例では、4気筒ガソリンエンジンを搭載した車両のトルク制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、例えば筒6気筒ガソリンエンジンなど他の任意の気筒数の多気筒ガソリンエンジンを搭載した車両のトルク制御にも適用できる。さらに、ガソリンエンジンに限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両のトルク制御にも適用可能である。また、エンジンについては、ポート噴射型エンジンまたは筒内直噴型エンジンのいずれであってもよい。
【0135】
以上の例では、ガソリンエンジン等のエンジンを搭載した車両のトルク制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、駆動力源として電動モータが搭載された電動車両(EV)のトルク制御、あるいは、駆動力源としてエンジンと電動モータの両方が搭載されたハイブリッド車両(HV車)のトルク制御にも本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、エンジン(内燃機関)や電動モータなどの駆動力源が搭載された車両のトルク制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0137】
1 エンジン
12 スロットルバルブ
14 インジェクタ
15 点火プラグ
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
101 エンジンECU
102 ECT_ECU
103 VSC_ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と、前記駆動力源にトルク要求を行うシステムとが搭載された車両のトルク制御装置であって、
前記システムからのトルク要求があったときに、そのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記駆動力源の発生トルクが不連続となるトルク制御を実行せずに、トルク連続性を確保できるトルク制御のみで前記システムからの要求トルクを実現することを特徴とする車両のトルク制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のトルク制御装置において、
前記駆動力源がエンジンであって、前記エンジンの吸入空気量調整、前記エンジンの点火時期調整、前記エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットを利用して前記システムからのトルク要求を実現するように構成されており、
前記システムからのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記燃料噴射カットは実行せずに、前記吸入空気量調整及び点火時期調整のいずれか一方または双方を用いて前記エンジンを制御して前記要求トルクを実現することを特徴とする車両のトルク制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両のトルク制御装置において、
前記駆動力源から駆動輪への動力伝達経路に自動変速機が設けられており、パワーONアップシフトの際に、前記自動変速機のシステムからのトルクダウン要求が連続性を確保する要求である場合は、トルク連続性を確保できるトルク制御のみを用いて前記駆動力源のトルクダウンを実行することを特徴とする車両のトルク制御装置。
【請求項1】
駆動力源と、前記駆動力源にトルク要求を行うシステムとが搭載された車両のトルク制御装置であって、
前記システムからのトルク要求があったときに、そのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記駆動力源の発生トルクが不連続となるトルク制御を実行せずに、トルク連続性を確保できるトルク制御のみで前記システムからの要求トルクを実現することを特徴とする車両のトルク制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のトルク制御装置において、
前記駆動力源がエンジンであって、前記エンジンの吸入空気量調整、前記エンジンの点火時期調整、前記エンジンへの燃料供給を停止する燃料噴射カットを利用して前記システムからのトルク要求を実現するように構成されており、
前記システムからのトルク要求がトルクの連続性を確保する要求である場合は、前記燃料噴射カットは実行せずに、前記吸入空気量調整及び点火時期調整のいずれか一方または双方を用いて前記エンジンを制御して前記要求トルクを実現することを特徴とする車両のトルク制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両のトルク制御装置において、
前記駆動力源から駆動輪への動力伝達経路に自動変速機が設けられており、パワーONアップシフトの際に、前記自動変速機のシステムからのトルクダウン要求が連続性を確保する要求である場合は、トルク連続性を確保できるトルク制御のみを用いて前記駆動力源のトルクダウンを実行することを特徴とする車両のトルク制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−281267(P2010−281267A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135480(P2009−135480)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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