説明

車両の制御装置

【課題】シールリングの漏れ特性を考慮し、エンジンの燃費とアイドルストップ復帰時のベルト滑りを抑制すること。
【解決手段】エンジンとベルト式無段変速機とを搭載したアイドルストップ車であって、プライマリプーリ及びセカンダリプーリのピストン室の摺動部に設けられた樹脂系シールリングと、エンジンの自動停止からの経過時間を検出する時間検出手段と、無段変速機の作動油の温度を検出する油温検出手段と、エンジンの自動停止からの経過時間が所定時間Tに達した時、強制的にエンジンを再始動させる再始動手段とを備える。油温が低い時より高い時の時間Tが長く設定されているため、アイドルストップ中のプーリのピストン室へのエア混入を防止でき、アイドルストップ復帰時のベルト滑りの防止と、燃料消費,排出ガスの低減とを両立できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置、特にベルト式無段変速機を搭載したアイドルストップ車における制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の条件が成立したとき、エンジンを自動停止させ、停車中の無駄な燃料消費や排出ガスの発生を抑えるアイドルストップ制御を実施する車両が知られている。このようなアイドルストップ制御におけるエンジン停止条件としては、車両停止やブレーキONなどがあり、エンジンの再始動条件としては、ブレーキOFFやアクセルペダルの踏み込みなどがある。
【0003】
上述のようなアイドルストップ制御を実施するエンジンと、ベルト式無段変速機とを搭載した車両が知られている。一般に、無段変速機にはベルトを架け渡したプライマリプーリとセカンダリプーリとが設けられ、これらプーリの油圧を制御することによって、変速制御やベルト挟圧力制御を行っている。
【0004】
プーリの油圧源として、エンジンによって駆動されるオイルポンプのみを備えたアイドルストップ車の場合、アイドルストップ状態ではオイルポンプも停止しているので、プーリへ油圧が供給されない。そのため、次にエンジンが再始動すると、オイルポンプが作動して無段変速機の動力伝達が再開されるまでに一定の時間を要し、発進にもたつきを生じるという問題がある。
【0005】
アイドルストップによるエンジン停止時間が長くなると、時間経過に伴ってプーリの摺動部からピストン室内の油が漏れ出し、ピストン室内にエアが混入することがある。エアが混入すると、エンジンの再始動時にピストン室に作動油を充満させる時間が必要になる。一般にプライマリプーリの作動油は流量制御されるが、車両停止時での閉じ込み制御に移行する時の急変速を防止するため、プライマリプーリの供給油路に流量を絞るための小径なオリフィスを設けることがある。そのため、プライマリプーリのピストン室にエアが混入すると、セカンダリプーリに比べて昇圧に大きな遅れが生じ、過渡的に伝達トルクが低下するためにベルト滑りが発生する。
【0006】
図9はアイドルストップ復帰(エンジン再始動)時における従来の制御方法を示す。時刻t10でアイドルストップ復帰要求がなされると、時刻t11でエンジン回転数が上昇し始める。時刻t11からやや遅れた時刻t12で、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの油圧が上昇し始め、ベルト伝達トルクも上昇する。しかし、プライマリプーリのピストン室にエアが混入すると、ピストン室に作動油を充満させる時間が必要になるため、破線で示すように時刻t12からプライマリプーリ油圧が直ぐに上昇せず、遅れが生じる。その結果、ベルト伝達トルクが破線で示すように低下してしまい、ベルト滑りが発生する。
【0007】
特許文献1には、発進時のもたつきを抑制するため、無段変速機の作動油の排出経路に設けた制限手段と、アイドルストップ中に制限手段を操作して無段変速機の作動油の排出を制限する制御手段とを設けたものが開示されている。制限手段が作動油の排出を制限している場合であっても、摺動部分などからの作動油の漏れがあり、この漏れによる油圧低下が発生するため、特許文献1では、作動油の漏れによる油圧低下を考慮して、所定時間経過後に自動的にエンジンを再始動させている。
【0008】
しかし、作動油の油圧低下は種々の要因によって変動するため、エンジンを再始動させる時間を一律には決定できない。例えば、無段変速機のプーリの摺動部にはシールリングと呼ばれるシール材(一般にはPTFE材のような樹脂系材料)が設けられている。このシールリングは温度依存性を有するため、温度によって油漏れ量も変化する。特許文献1のように、油圧低下を防止するために作動油の排出を制限しても、ピストン室の摺動部から油が漏れ、エアが混入してしまえば、作動油の排出を制限する意味がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−41315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、シールリングの漏れ特性を考慮し、エンジンの燃費とアイドルストップ復帰時のベルト滑りを抑制できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、エンジンとベルト式無段変速機とを搭載した車両であって、前記エンジンにより駆動されるオイルポンプと、前記無段変速機のプライマリプーリ及びセカンダリプーリの油圧を、前記オイルポンプを油圧源とする油圧に基づいて制御するプーリ油圧制御手段と、所定の条件が成立したときに前記エンジンを自動停止させるアイドルストップ制御手段とを備えた車両において、前記プライマリプーリ及びセカンダリプーリのピストン室の摺動部に設けられた樹脂系シールリングと、前記エンジンの自動停止からの経過時間を検出する時間検出手段と、前記無段変速機の作動油の温度を検出する油温検出手段と、前記エンジンの自動停止からの経過時間が所定時間Tに達した時、強制的にエンジンを再始動させる再始動手段とを備え、前記油温が低い時に比べて高い時の前記時間Tが長く設定されていることを特徴とする車両の制御装置を提供する。
【0012】
本発明は、プーリの油圧源としてエンジンによって駆動されるオイルポンプのみを備えたアイドルストップ車を対象とし、電動ポンプのような格別な油圧源を有していないため、アイドルストップ状態ではプーリへ油圧を供給できない。そのため、エンジン停止状態となると、時間経過に伴ってプーリのピストン室内から摺動部を介して油が漏れ出し、ピストン室内にエアが混入することがある。エアが混入すると、エンジンの再始動時にピストン室に作動油を充満させる時間が必要になり、次にエンジンが再始動した時にベルトに滑りが発生し、速やかに発進できない。
【0013】
本発明では、アイドルストップ(エンジン自動停止)からの経過時間を計測し、その経過時間が所定時間Tに達した時、強制的にエンジンを再始動させると共に、時間Tを油温が高い時ほど長く設定している。一般に、油温が高いほど油の粘性が低下するので、摺動部からの油漏れも増大し、時間Tを短く設定するのがよいと考えられる。しかし、プーリの摺動部に設けられるシールリングは樹脂系シール材であり、このシール材は温度上昇により膨張する性質があり、しかもシール面との密着性が上がるため、温度上昇によって漏れ量が減少する。本発明ではこの点に着目し、エンジン停止から再始動までの時間TをCVT油温が高いほど長く設定している。シールリングそのものの温度は検出できないので、CVT油温で代用している。時間Tは、プーリのピストン室からの油漏れ量を温度ごとに予め計測しておき、油漏れ量が基準量に達する時間に基づいて決定する。アイドルストップ時間がT以内であればプーリのピストン室へのエア混入を防止でき、アイドルストップ復帰時の昇圧特性に問題を生じなくすることができる。このように、アイドルストップ時間を適切に制御することで、ベルト滑りの防止と、燃料消費,排出ガスの低減とを両立できる。
【0014】
一般にCVTを搭載したアイドルストップ車の場合、CVTの油温が下限温度(例えば20℃)以下であれば、アイドルストップそのものを禁止している。そのため、本発明により設定される時間Tは、油温がアイドルストップ禁止温度より高い範囲で設定される。また、上限温度(例えば80℃)以上では、設定時間Tは一定とすればよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの摺動部に樹脂系シールリングを用い、エンジンの自動停止からの経過時間が所定時間Tに達した時、強制的にエンジンを再始動させると共に、時間Tを油温が高い時ほど長く設定したので、プーリのピストン室にエアが混入するのを抑制でき、エンジンを再始動した時、ベルト滑りを発生させずに素早く発進できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車両の全体システムを示す図である。
【図2】無段変速機の構造を示すスケルトン図である。
【図3】プライマリプーリ及びセカンダリプーリの詳細断面図である。
【図4】種々のシールリングの合口部を示す斜視図である。
【図5】プライマリプーリ及びセカンダリプーリを制御するための油圧回路の概略図である。
【図6】アイドルストップ時における本発明の制御の一例のタイムチャート図である。
【図7】ピストン室からの油漏れ量とアイドルストップ時間との関係を示す図である。
【図8】本発明に係る制御方法の一例のフローチャート図である。
【図9】従来のアイドルストップ復帰時におけるタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、実施例を参照しながら説明する。
【0018】
図1は本発明にかかる無段変速機を搭載した車両システムの一例を示す。エンジン1の出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速機構4、油圧制御装置5及びエンジン1により駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0019】
エンジン1及び無段変速機2は電子制御装置(ECU)100によって制御される。電子制御装置100には各種センサ101〜107から信号が入力されている。これらセンサ101〜107は、エンジン回転数、車速(又はセカンダリプーリ回転数)、スロットル開度(又はアクセル開度)、シフト位置、プライマリプーリ回転数(又はタービン回転数)、ブレーキ信号、CVT油温を検出するセンサである。そのほか、アイドル信号、スタート信号、エンジン水温、吸入空気量、エアコン信号、イグニッション信号などを検出してもよい。なお、図1では説明を簡単にするため、単一の電子制御装置100によってエンジン1と無段変速機2の両方を制御する例を示したが、実際にはエンジン1と無段変速機2は個別の電子制御装置によって制御され、両電子制御装置は通信用バスによって相互に連携している。
【0020】
電子制御装置100は、所定の条件が成立したときにエンジン1を停止(アイドルストップ)し、所定の条件が不成立となったときにエンジンを再始動するアイドルストップ機能を有する。アイドルストップを許可する条件としては、例えば車速が一定値未満、スロットル開度が全閉、かつ車両減速度が所定値未満であるときや、車両停止状態でかつブレーキON(ブレーキペダルの踏み込み)などである。但し、CVT油温が低いとき、エンジン水温が低いとき、電気負荷が大きいとき、アクセルペダルが踏まれているとき等では、アイドルストップを許可しない。一方、アイドルストップの解除(エンジン再始動)条件としては、例えばブレーキOFF、アクセルペダル踏み込み、車速信号の入力などがある。
【0021】
電子制御装置100は、エンジン制御のほかに、無段変速機2の制御も実施している。すなわち、車速とスロットル開度とに応じて、予め設定された変速マップに従って目標プライマリ回転数を決定し、油圧制御装置5に内蔵されたソレノイドバルブ5a〜5cを制御することによって、無段変速機2のプライマリ回転数を目標値へと制御する。また、油圧制御装置5は後述する無段変速機2に内蔵された直結クラッチ86及び逆転ブレーキ85への供給油圧を制御する機能も有する。この実施例では、油圧制御装置5が3個のソレノイドバルブ5a〜5cを有する例を示したが、この他にトルクコンバータ3に内蔵されたロックアップクラッチ3aの制御用やライン圧制御用などの別のソレノイドバルブを設けてもよい。なお、油圧制御装置5の油圧源は、前述のエンジン1によって駆動されるオイルポンプ6のみであり、電動ポンプなどの格別なオイルポンプは備えていない。
【0022】
図2は無段変速機2の概略構造の一例を示す。無段変速機2は、トルクコンバータ3と無段変速機構4とを備える。トルクコンバータ3のタービン軸7は前後進切替装置8を介してプライマリ軸10に連結されている。前後進切替装置8は、タービン軸7の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達するものである。無段変速機構4は、さらにプライマリプーリ11、セカンダリプーリ21、両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15、セカンダリ軸20、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などを備えている。タービン軸7とプライマリ軸10とは同一軸線上に配置され、セカンダリ軸20とドライブシャフト32とがタービン軸7に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機2は全体として3軸構成とされている。ここで用いられるVベルト15は、例えば一対の無端状張力帯とこれら張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトである。
【0023】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキ85と直結クラッチ86とで構成されている。逆転ブレーキ85と直結クラッチ86は、それぞれ湿式多板式のブレーキ及びクラッチである。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸7に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。遊星歯車機構80はシングルピニオン方式であり、逆転ブレーキ85はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチ86はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチ86を解放して逆転ブレーキ85を締結すると、タービン軸7の回転が逆転され、かつ減速されてプライマリ軸10へ伝えられる。そして、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と同方向に回転するため、前進走行状態となる。逆に、逆転ブレーキ85を解放して直結クラッチ86を締結すると、キャリア84とサンギヤ81とが一体に回転するので、タービン軸7とプライマリ軸10とが直結される。そして、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と逆方向に回転するため、後進走行状態となる。
【0024】
図3は無段変速機構の具体的構造を示す。プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間にピストン室13が形成されている。このピストン室13への作動油を流量制御することにより、変速制御が実施される。
【0025】
プライマリプーリ11の可動シーブ11bの外周部にはシールリング14が装着されており、このシールリング14がシリンダ12の内周面を摺動することにより、ピストン室13の油漏れが抑制されている。シールリング14は、断面四角形のPTFE材のような樹脂系シールリングであり、その合口部14aは図4の(a)〜(e)に示すような種々の形状を有する。特に、図4の(c)〜(e)のようなステップカットの場合、(a),(b)のようなバイアスカットに比べて、合口部からの油漏れ量が少なく、しかもその温度依存性も低いので、シールリング14の合口部形状としてはステップカットの方が望ましい。合口部がステップカットであっても、合口部以外の油漏れ量は温度依存性を有するので、本発明の制御方法を適用することで、アイドルストップ復帰時のベルト滑りを適正に抑制できる。なお、シールリング14の合口形状は公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0026】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間にピストン室23が形成されている。このピストン室23の油圧を圧力制御することにより、トルク伝達に必要な挟圧力が与えられる。ピストン室23には初期挟圧力を発生させるバイアススプリング24が配置されている。ピストン22の外周部には、プライマリプーリ11の可動シーブ11bと同様に、シールリング25が装着されており、このシールリング25が可動シーブ21bの内周面を摺動することにより、ピストン室23の油漏れが抑制されている。シールリング25の形状は、シールリング14と同様である。
【0027】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延び、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0028】
図5は、油圧制御装置5において、無段変速機2のプライマリプーリ11、セカンダリプーリ21を制御するための油圧回路の一例を示す。なお、図5には、マニュアルバルブやガレージシフトバルブなどの本発明の制御と直接関係のないバルブは省略してある。オイルポンプ6によって吐出された油圧は、レギュレータバルブ51によって所定のライン圧に調圧された後、変速制御バルブ52を介してプライマリプーリ11のピストン室13へ作動油が供給され、挟圧力制御バルブ53を介してセカンダリプーリ21のピストン室23へ作動油が供給される。変速制御バルブ52は流量制御バルブであり、挟圧力制御バルブ53は圧力制御バルブである。変速制御バルブ52及び挟圧力制御バルブ53にはそれぞれソレノイド52a,53aが装備されており、これらソレノイドを電子制御装置100により制御することで、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧が制御される。また、ライン圧はレシオチェックバルブ(圧力制御バルブ)54にも供給されており、このレシオチェックバルブ54は挟圧力制御バルブ53の出力圧を信号圧として受け、停車中の閉じ込み制御時に変速制御バルブ52に代わってプライマリプーリ11に油圧を供給する。レシオチェックバルブ54とプライマリプーリ11との間の油路には小さなオリフィス55が設けられている。このオリフィス55は、車両停止時での閉じ込み制御に移行する時の急変速を防止するためである。
【0029】
通常走行時の変速制御は変速制御バルブ52で行い、停車時(もしくは停車直前、直後の極低車速時)、最大変速比を保持する際にプライマリ側への油供給を変速制御バルブ52からレシオチェックバルブ54へ切り替える。最大変速時に油路を切り替える理由は、Low側変速ではプライマリ油圧を排出する(プライマリプーリの巻き掛け径が小径側)方向となり、プライマリ油圧が抜けてしまうのを防止するためである。レシオチェックバルブ54へ切り替えることで、プライマリ油圧を保持する。これを閉じ込み制御と呼ぶ。レシオチェックバルブ54の出力圧は挟圧力制御バルブ53、つまりセカンダリ油圧により調圧されるが、変速比を制御するものではないので、切替時に急変速を防止するために小径オリフィス55が設定されている。
【0030】
このようにレシオチェックバルブ54とプライマリプーリ11との間にオリフィス55が設けられているため、車両停止中のプライマリプーリ11への作動油の給排はセカンダリプーリ21に比べて時間がかかる。そのため、もしアイドルストップ中にプライマリプーリ11のピストン室13にエアが混入すると、次のエンジンの再始動時にピストン室13に作動油を充満させる時間が必要になり、ベルトに滑りが発生する。本発明では、このような問題を解決するために後述するような制御を実施する。
【0031】
次に、アイドルストップ中における本発明による制御方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、エンジン回転数、アイドルストップ状態、アイドルストップ停止時間カウンタ、アイドルストップ復帰要求フラグ、及びセカンダリ挟圧とプライマリ挟圧の各時間変化を示す。時刻t1でエンジンが停止し、アイドルストップを開始する。この時点からアイドルストップ停止時間カウンタが計時を開始する。停止時間カウンタがその時のCVT油温に応じた設定時間Tに到達すると(時刻t2)、CVTからアイドルストップの強制復帰要求がなされ、それによってアイドルストップ復帰し(時刻t3)、エンジンが再始動される。エンジンの再始動に伴ってオイルポンプが駆動されるので、プライマリプーリ及びセカンダリプーリに油圧が供給され、プーリ挟圧が上昇する。このとき、アイドルストップ停止時間を設定時間Tに制限しているので、プーリのピストン室にエアが混入することがなく、次のエンジン再始動時にピストン室に作動油を充満させる時間が短くて済み、ベルト滑りを抑制できる。
【0032】
図7はピストン室の摺動部からの油漏れ量と時間との関係を示す。図7に示すように、油漏れ量はCVT油温と時間のパラメータによって決まり、CVT油温が高い方が漏れ量の時間勾配は小さい。その理由は、プーリの摺動部に設けられるシールリング14,25が樹脂系シール材であり、このシール材は温度上昇により膨張する性質があるため、油温が上昇すると漏れ量が減少するからである。例えばCVT油温が40℃、60℃、80℃の場合に、漏れ量が基準漏れ量に到達する時間をそれぞれT1、T2、T3とし、これら時間を設定時間Tとして設定する。基準漏れ量とは、例えばプライマリプーリのピストン室からの油漏れ量が、アイドルストップ復帰時の昇圧特性に問題を生じない最大値(ピストン室にエアが混入しないと考えられる最大漏れ量)である。表1には、設定時間Tの具体例がCVT油温に応じて示されており、CVT油温が高い程、長く設定されている。
【0033】
【表1】

【0034】
表1では、CVT油温が40℃、60℃、80℃の3種類だけが設定されているが、それらの中間温度での時間Tは比例計算や補間計算などによって計算できる。なお、下限温度(例えば20℃)以下ではアイドルストップそのものを禁止するため、時間Tを設定する必要はない。また、上限温度(例えば80℃)以上では時間Tは一定である。
【0035】
図8は本発明に係るアイドルストップ中の制御方法の流れを示す。スタートすると、まずアイドルストップ作動(エンジン停止)を指令し(ステップS1)、アイドルストップを開始してからのエンジン停止時間をカウントする(ステップS2)。次に、エンジン停止時間をCVT油温に応じて設定された時間Tと比較する(ステップS3)。もし停止時間が設定時間Tより長いと判定された場合には、電子制御装置100はアイドルストップ復帰要求信号を出し(ステップS4)、アイドルストップ復帰(エンジン再始動)する(ステップS5)。一方、エンジン停止時間が設定時間T以下であると判定された場合には、アイドルストップを継続し(ステップS6)、他のシステムからの復帰要求があるかどうかを判定する(ステップS7)。他のシステムからの復帰要求としては、ブレーキOFF、アクセルペダルの踏み込み、CVT油温が低いとき、エンジン水温が低いとき、バッテリ容量が低いときなどがある。他のシステムからの復帰要求がある場合には、即座にアイドルストップ復帰し(ステップS5)、復帰要求がない場合にはステップS3に戻る。上記制御によって、プーリの摺動部から必要以上の油漏れを抑制することができ、ピストン室へのエア混入を防止できる。
【0036】
図5では、変速制御バルブ52、挟圧制御バルブ53自体がソレノイドバルブである例を示したが、これは一例に過ぎず、例えばコントロールバルブとソレノイドバルブとを組み合わせた構成でもよい。ソレノイドバルブはリニアソレノイドバルブ、デューティソレノイドバルブの何れでもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 エンジン出力軸
2 無段変速機
3 トルクコンバータ
4 変速機構
5 遊星歯車装置
6 オイルポンプ
8 前後進切替装置
11 プライマリプーリ
11b 可動シーブ
13 ピストン室
14 シールリング
15 ベルト
21 セカンダリプーリ
23 ピストン室
25 シールリング
52 変速制御バルブ(プーリ油圧制御手段)
53 挟圧制御バルブ(プーリ油圧制御手段)
54 レシオチェックバルブ
55 オリフィス
85 逆転ブレーキ
86 直結クラッチ
100 電子制御装置
101 エンジン回転数センサ
102 車速センサ
103 スロットル開度センサ
104 シフト位置センサ
105 プライマリプーリ回転数センサ
106 ブレーキセンサ
107 油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとベルト式無段変速機とを搭載した車両であって、
前記エンジンにより駆動されるオイルポンプと、
前記無段変速機のプライマリプーリ及びセカンダリプーリの油圧を、前記オイルポンプを油圧源とする油圧に基づいて制御するプーリ油圧制御手段と、
所定の条件が成立したときに前記エンジンを自動停止させるアイドルストップ制御手段とを備えた車両において、
前記プライマリプーリ及びセカンダリプーリのピストン室の摺動部に設けられた樹脂系シールリングと、
前記エンジンの自動停止からの経過時間を検出する時間検出手段と、
前記無段変速機の作動油の温度を検出する油温検出手段と、
前記エンジンの自動停止からの経過時間が所定時間Tに達した時、強制的にエンジンを再始動させる再始動手段とを備え、
前記油温が低い時に比べて高い時の前記時間Tが長く設定されていることを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−230132(P2010−230132A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80457(P2009−80457)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】