説明

車両の制御装置

【課題】内蔵型のシフト・バイ・ワイヤ方式の車両においてもシフトレバーの操作時に駆動力の抑制を実行することができ、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができるとともに、車両の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】CPUは、シフトレンジの切り替えを検出し(ステップS11でYES)、油温Toが油温To1以下であって水温Twが水温Tw1以下である場合に(ステップS12およびS13でYES)、スロットル制限を開始する(ステップS14)。CPUは、元レンジ圧の立ち下がりを検出した時刻から待機時間Tfが経過した場合に(ステップS16でYES)、θthr−θthpがθ1以下であれば(ステップS17でYES)スロットル制限を終了し(ステップS18)、θthr−θthpがθ1より大きければ復帰速度をVrに制限する(ステップS19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機を搭載した車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に搭載される自動変速機にあっては、内燃機関の出力側に設けられたトルクコンバータと、駆動輪側に設けられた歯車式の有段の変速機構や、ベルト式やトラクション式等の無段の変速機構とから構成される。
【0003】
この有段の変速機構を搭載した自動変速機にあっては、例えばクラッチやブレーキによって構成された複数の摩擦係合要素を有しており、例えばアクセル開度および車速をパラメータとした変速マップに基づいて各摩擦係合要素の作動状態を切り替えることによって、自動的に動力伝達経路を切り替えて変速ギヤ段を切り替えるようになっている。一方、ベルト式の無段の変速機構を搭載した自動変速機にあっては、例えばアクセル開度および車速をパラメータとした変速マップに基づいてベルトが巻き掛けられたプーリの径を自動的に変化させて、連続的に変速比を変化させるようになっている。
【0004】
有段の変速機構を搭載した自動変速機にあっては、各摩擦係合要素を作動させる作動油を供給するために、シフトレンジに応じてマニュアルバルブの作動位置が選択的に切り替えられるようになっている。このマニュアルバルブの作動位置は、シフトレバーの操作位置に応じて機械的に連結した連結部材を介して切り替えられるようになっているものの他、さらに近年では、ディテント機構を介して電動機等によって切り替えられるといった所謂シフト・バイ・ワイヤ方式(以下、SBW方式という)が主流になっている。
【0005】
このような、SBW方式を採用した車両においては、ECU(Electronic-Control-Unit)によって電動機等を制御してマニュアルバルブの作動位置を切り替えるようになっている。これに加えて、ECUによってマニュアルバルブの下流側に設けられたソレノイドバルブ等を制御することにより、各摩擦係合要素の作動状態を切り替えて、変速機構における動力伝達経路を切り替えるようになっている。
【0006】
また、SBW方式を採用した車両においては、油圧制御装置を構成するマニュアルバルブ等に動作不良が発生しても、シフトレバーが油圧制御装置等と機械的に連結されていないため、シフトレバーは所望の操作位置に切り替えられる。したがって、前後進の切り替えができなくなっても、運転者はマニュアルバルブ等の動作不良を把握することができない。
【0007】
例えば、シフトレンジがDレンジである場合に前後進の切り替えができなくなる異常が発生すると、Rレンジに対応する後進位置にシフトレバーが操作されたとしても、変速機構における動力伝達経路はDレンジに対応する動力伝達経路のままとなるので、入力されたシフトレバーの操作位置に対応する進行方向とは逆方向の駆動力が発生してしまう。このように、前後進の切り替えができなくなる異常が発生すると、入力操作と異なる車両の挙動が生じ得ることとなる。
【0008】
そこで、SBW方式を採用した車両においては、目標シフトレンジと実シフトレンジとが異なる場合に、駆動力を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記特許文献1に開示された車両の制御装置は、シフトレバーの操作位置に基づいて特定される目標シフトレンジと、位置検出センサによって検出されたディテント機構の作動位置に基づいて特定される実シフトレンジと、が異なる場合に、実シフトレンジと目標シフトレンジとが一致するまで運転者のアクセル操作にかかわらず、アクセルの操作量に応じた制御信号を出力せずにスロットルバルブの開度を制限することにより、駆動力を抑制するようになっている。このように、特許文献1に記載の車両の制御装置は、マニュアルバルブが目標シフトレンジに対応する作動位置まで作動したことによってシフトレンジの切り替えが完了したと判定して、駆動力の抑制を終了するようになっている。
【0009】
上記特許文献1における変速機のように、ECUによって電動機等を制御してディテント機構を介してマニュアルバルブの作動状態を切り替えるといった所謂外付け型のシフト・バイ・ワイヤ方式の他に、油圧制御装置にマニュアルバルブを備えておらず、この機能を油圧制御装置の内部に備えた所謂内蔵型のシフト・バイ・ワイヤ方式も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−184985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述したような内蔵型のシフト・バイ・ワイヤ方式を採用した車両の制御装置にあっては、ディテント機構を備えていないため、実シフトレンジを検出することができず、駆動力の抑制を適用することができないという問題があった。
【0012】
また、このような駆動力の抑制を適用するために、各摩擦係合要素の作動油圧の検出結果と予め定められたシフトレンジに対応した各摩擦係合要素の作動油圧とに基づいて、実シフトレンジを検出することも考えられる。この場合、運転者が要求した目標シフトレンジと実シフトレンジとが一致するまで駆動力の抑制が継続されるので、駆動力の抑制の終了後における実際のスロットルバルブの開度が運転者のアクセルの操作量に応じた開度に復帰するまでに時間がかかり、運転者に車両の挙動に対して違和感を覚えさせるといった問題があった。
【0013】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、内蔵型のシフト・バイ・ワイヤ方式の車両においてもシフトレバーの操作時に駆動力の抑制を実行することができるので、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができるとともに、車両の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)駆動力を発生させる動力源と、前進用係合装置および後進用係合装置を含む複数の係合装置の作動状態に応じて前記動力源の駆動力の方向を切り替えて伝達する動力伝達機構と、シフトレンジの切り替え要求を検出する切り替え要求検出手段と、前記切り替え要求検出手段により検出されたシフトレンジの切り替え要求に基づいて前記係合装置の作動状態を切り替える伝達機構制御手段と、を備えた車両の制御装置において、前記動力源の駆動力を制御する駆動力制御手段と、前記動力伝達機構の係合装置の作動状態が係合状態であるか解放状態であるかを検出する作動状態検出手段と、前記切り替え要求検出手段により前記シフトレンジの切り替え要求が検出された場合に、前記切り替え要求に基づいて、前記係合装置のうち作動状態を切り替える少なくとも解放側係合装置と係合側係合装置とを特定する作動装置特定手段と、を備え、前記伝達機構制御手段は、前記作動装置特定手段により特定された前記解放側係合装置の作動状態を解放状態に切り替えるとともに、前記係合側係合装置の作動状態を係合状態に切り替え、前記駆動力制御手段は、前記切り替え要求検出手段により前記シフトレンジの切り替え要求が検出された場合に、前記動力源の駆動力の抑制を開始し、前記解放側係合装置の作動状態が解放状態であると前記作動状態検出手段によって検出されてから、前記係合側係合装置の作動状態が係合状態となるまでの間に前記動力源の駆動力の抑制を終了することを特徴とした構成を有している。
【0015】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、駆動力制御手段が、切り替え要求検出手段によりシフトレンジの切り替え要求が検出された場合に、動力源の駆動力の抑制を開始し、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると作動状態検出手段によって検出されてから、係合側係合装置の作動状態が係合状態となるまでの間に動力源の駆動力の抑制を終了するので、シフトレバーの操作時に動力源の駆動力の抑制を実行することができ、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができる。さらに、係合側係合装置の作動状態が係合状態となるまでの間に動力源の駆動力の抑制を終了するので、シフトレンジの切り替え完了後は、駆動力制御手段によりアクセルの操作量に応じた駆動力が得られ、車両の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる。
【0016】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記駆動力制御手段は、前記解放側係合装置の作動状態が解放状態であると前記作動状態検出手段によって検出されたときに、前記動力源の駆動力の抑制を終了することを特徴とした構成を有している。
【0017】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、駆動力制御手段が、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると作動状態検出手段によって検出された場合に、動力源の駆動力の抑制を終了するので、係合側係合装置の作動状態が係合状態となるのを待たずに、動力源の駆動力の抑制を終了することができ、実シフトレンジと目標シフトレンジが一致してシフトレンジの切り替えが完了した場合に駆動力の抑制を終了する従来の車両の制御装置と比較して、動力源の駆動力の抑制の終了を早めることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記伝達機構制御手段は、前記係合装置の作動状態を作動油の油圧を調圧することにより切り替え、前記作動状態検出手段は、前記係合装置に供給される作動油の油圧を検出することにより、前記係合装置の作動状態を検出することを特徴とした構成を有している。
【0019】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、作動状態検出手段が、係合装置に供給される作動油の油圧を検出することにより、係合装置の作動状態を検出するので、温度変化といった外的要因によって実際の係合装置の解放タイミングに差異ができる場合であっても、油圧検出によって実際の係合装置の解放タイミングを検出することができ、動力源の駆動力の抑制の終了を正確に行うことができる。
【0020】
さらに、本発明に係る車両の制御装置は、上記(3)に記載の車両の制御装置において、(4)前記解放側係合装置は複数存在し、前記作動状態検出手段は、前記複数の解放側係合装置に供給される作動油の全ての油圧が前記解放状態に対応する解放圧以下となった場合に前記解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出することを特徴とした構成を有している。
【0021】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、作動状態検出手段が、複数の解放側係合装置に供給される作動油の全ての油圧が解放状態に対応する解放圧以下となった場合に解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出するので、いずれかの解放側係合装置が動作不良を起こし係合状態となっている場合には、動力源の駆動力の抑制を継続することができ、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができる。
【0022】
さらに、本発明に係る車両の制御装置は、上記(3)または(4)に記載の車両の制御装置において、(5)前記複数の係合装置に供給される作動油の温度を検出する油温検出手段と、前記動力源を冷却するための冷却水の温度を検出する水温検出手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記油温検出手段によって検出された作動油の温度および前記水温検出手段によって検出された冷却水の温度のうち、いずれかが所定温度以下である場合に、前記動力源の駆動力の抑制を実行することを特徴とした構成を有している。
【0023】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、駆動力制御手段が、作動油の温度および冷却水の温度のうち、いずれかが所定温度以下である場合に、動力源の駆動力の抑制を実行する。この結果、作動油の温度が低く、または冷却水の温度から推定される作動油の温度が低く、油圧の応答性が悪いと予測され、作動油の温度が高い場合よりも、解放側係合装置の係合状態への移行が緩やかであるような場合に、動力源の駆動力の抑制を実行する。すなわち、解放側係合装置の作動状態が係合状態から解放状態に切り替わるために必要な時間が長く、入力操作と異なる車両の挙動が発生する確率が高い場合に、動力源の駆動力の抑制を実行し、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができる。
【0024】
さらに、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)から(5)に記載の車両の制御装置において、(6)前記動力源に要求される駆動力要求量を検出する要求量検出手段と、前記要求量検出手段によって検出された駆動力要求量に応じて前記駆動力制御手段に指示された駆動力指示量を検出する指示量検出手段と、前記要求量検出手段によって検出された駆動力要求量と前記指示量検出手段によって検出された駆動力指示量との差分を算出する算出手段と、を備え、前記駆動力制御手段は、前記動力源の駆動力の抑制の終了後において、前記算出手段によって算出された差分が所定値より大きい場合には、前記差分が前記所定値以下になるまで、前記駆動力要求量に対する前記駆動力指示量の復帰速度を制限することを特徴とした構成を有している。
【0025】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、駆動力制御手段が、動力源の駆動力の抑制の終了後において、算出手段によって算出された差分が所定値より大きい場合には、差分が所定値以下になるまで、駆動力要求量に対する駆動力指示量の復帰速度を制限するので、動力源の駆動力が急激に増大しないよう上記復帰速度を制限することにより、動力源の駆動力の抑制の終了後に動力源の駆動力が急激に増大して車両が急発進してしまうことを防止し、車両の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる。
【0026】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)から(6)に記載の車両の制御装置において、(7)前記切り替え要求検出手段は、複数の操作位置のうちいずれかの操作位置に操作される操作部材の操作位置を検出し、入力されたシフトレンジを特定する入力レンジ検出手段と、前記入力レンジ検出手段によって検出されたシフトレンジを記憶するシフトレンジ記憶手段と、前記入力レンジ検出手段に特定されたシフトレンジが、前記シフトレンジ記憶手段によって既に記憶されたシフトレンジと異なる場合に、前記シフトレンジの切り替え要求と判定するレンジ切り替え判定手段と、を備えたことを特徴とした構成を有している。
【0027】
この構成により、本発明に係る車両の制御装置は、入力されたシフトレンジを特定し、このシフトレンジが、既に記憶されたシフトレンジと異なる場合に、シフトレンジの切り替え要求と判定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、内蔵型のシフト・バイ・ワイヤ方式の車両においてもシフトレバーの操作時に駆動力の抑制を実行することができ、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができるとともに、車両の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を備えた車両の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における変速線図を表すマップである。
【図3】本発明の実施の形態における自動変速機の構成を示す骨子図である。
【図4】本発明の実施の形態における係合装置の作動状態を表す作動表である。
【図5】本発明の実施の形態における油圧制御装置の概略構成を示す回路図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるソレノイドバルブの作動状態を表す作動表である。
【図7】本発明の実施の形態における駆動力制御の実行時におけるタイミングチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における駆動力制御を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る車両10の概略構成について説明する。
図1に示すように、車両10は、駆動力を発生させるエンジン11と、エンジン11から出力された回転を自動的に変速する自動変速機12と、自動変速機12から出力された回転を路面に伝達する伝達機構14と、油圧によって自動変速機12を制御する油圧制御装置60と、電子制御装置を構成するECU100と、検出した信号をECU100に出力する各種センサ70〜76を備えている。
ここで、車両10は、後述するように、油圧制御装置60の内部にマニュアルバルブを独立して備えず、外付け型のSBW方式の車両においてマニュアルバルブが担っていたシフトレンジの切り替えを、ECU100とリニアソレノイドバルブとによって行う所謂内蔵型のSBW方式を採用した車両である。
【0031】
エンジン11は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関により構成されており、シリンダによって形成される燃焼室を有している。エンジン11は、スロットルアクチュエータ5によって駆動されるスロットルバルブ6を介して燃焼室内に導入された空気とインジェクタ2から噴射された燃料との混合気を燃焼させるようになっている。この燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、後述する出力軸としてのクランクシャフトが回転させられ、この回転が駆動力として自動変速機12に伝達されるようになっている。
したがって、本実施の形態に係るエンジン11は、本発明に係る動力源を構成している。
【0032】
また、図示は省略するが、スロットルバルブ6の近傍にはバイパス流路が形成されており、そのバイパス流路にはISCV(Idle-Speed-Control-Valve)と呼ばれる流量調節弁が設けられている。これにより、アイドリング時にスロットルバルブ6が全閉となっている場合であっても、このバイパス流路を通ってエンジン11に導入される空気の量をISCVによって調節することにより、エンジン回転数が一定に維持されることとなる。
【0033】
自動変速機12は、流体式伝動装置を構成するトルクコンバータ15と、有段式の変速機を構成する変速機構20とを有している。
【0034】
トルクコンバータ15は、エンジン11から動力を後述するクランクシャフトを介して入力するとともに、入力した動力をトルクを増大して後述する変速機構20に伝達するようになっている。なお、トルクコンバータ15の構成については、後述する。
【0035】
変速機構20は、エンジン11の駆動力を伝達する遊星歯車を有する歯車変速機構と、係合状態と解放状態との間で作動状態を切り替える後述する複数の係合装置と、を有し、複数の係合装置の作動状態に応じて歯車変速機構の動力伝達経路を切り替えるようになっている。また、変速機構20は、動力伝達経路が切り替えられることにより、トルクコンバータ15から入力軸21に入力される回転を所定の変速比γで減速あるいは増速して出力軸56に出力するようになっている。
【0036】
変速機構20の出力軸56から出力される動力は、プロペラシャフト58、ディファレンシャル機構55およびドライブシャフト57L、57Rを介して、駆動輪59L、59Rに伝達される。変速機構20の構成については、後述する。
【0037】
伝達機構14は、変速機構20の後述する出力軸56に連結されたプロペラシャフト58と、プロペラシャフト58から伝達された駆動力を分配するディファレンシャル機構55と、ディファレンシャル機構55と連結されたドライブシャフト57L、57Rと、ドライブシャフト57L、57Rから伝達された駆動力を路面に伝達する駆動輪59L、59Rとを備えている。ディファレンシャル機構55は、車両10がカーブや凹凸路を走行する場合に、駆動輪59Lと駆動輪59Rとの回転差を許容するようになっている。
【0038】
油圧制御装置60は、エンジン11の回転によって駆動されるオイルポンプから排出された作動油の油路を形成する油圧制御回路や、後述する複数の係合装置に供給される作動油の油圧を調圧するためのリニアソレノイドバルブSL1〜SL6を有している。なお、油圧制御装置60の構成については、後述する。
【0039】
ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central-Processing Unit)101と、揮発性メモリとしてのRAM(Random-Access-Memory)102と、電気的に記憶メモリの消去や書き換えが可能な不揮発性メモリとしてのEEPROM(Electrically-Erasable-Programmable-Read-Only-Memory)103と、各種センサの検出信号を入力する入力ポート104と、CPU101によって出力された信号を油圧制御装置60やエンジン11に出力する出力ポート105と、を有しており、これらは双方向性バス106を介して互いに接続されている。
【0040】
CPU101は、RAM102の一次記憶機能を利用しつつ、予めEEPROM103に記憶されたプログラムに従って、図示しないADC(Analog-Digital-Converter)を介して入力ポート104から入力された各種検出信号の処理を実行することにより、エンジン11の出力調節、および変速機構20における変速を行うようになっている。出力ポート105から出力された電気信号は、ADCを介してエンジン11、およびリニアソレノイドバルブSL1〜SL6に入力されるようになっている。
【0041】
また、EEPROM103は、車速およびスロットル開度と変速機構20の変速段とを対応させた後述する変速線図をマップ化して記憶している。したがって、ECU100のCPU101は、後述する車速センサおよびスロットルセンサの検出信号とEEPROM103に記憶された変速線図とに基づいて変速機構20の変速段を設定し、設定した変速段を変速機構20に成立させるように油圧制御装置60を制御する。具体的には、ECU100のCPU101は、設定した変速段に応じた電気信号をソレノイド電流としてリニアソレノイドバルブSL1〜SL6に出力して、変速機構20における変速を行うようになっている。
【0042】
また、ECU100は、油圧制御装置60のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6のソレノイド電流を調節することにより、複数の係合装置に供給される作動油の油圧を調圧して、複数の係合装置の作動状態を係合状態と解放状態との間で切り替えるようになっている。これにより、変速機構20は、複数の係合装置の作動状態の組み合わせに応じて、エンジン11から出力された駆動力の伝達経路を切り替えて、所望の変速段を成立させ、変速段に応じた所定の変速比γで変速を行うようになっている。
【0043】
さらに、EEPROM103は、後述する係合装置の作動表(図4参照)と、ソレノイドバルブの作動表(図6参照)と、係合圧PC1e、PC4eおよび解放圧PC1r、PC4rと、油温To1と、水温Tw1と、冷却水の水温Twから油温Toを推定するための油温推定マップと、待機時間Tfと、駆動力差判定値θ1と、復帰速度Vrと、保持時間Tkを記憶している。
【0044】
車両10は、さらに、エンジン11の出力軸回転数を検出するためのエンジン回転数センサ70と、エンジン11の吸入空気量を検出するための吸入空気量センサ71と、吸入空気量を調節するスロットルバルブ6の開度を検出するためのスロットルセンサ72と、車両10の車速Vを検出するための車速センサ73と、ブレーキセンサ74と、トルクコンバータ15のタービン回転数、すなわち変速機構20の入力軸回転数を検出するためのタービン回転数センサ75と、シフトレバー8の操作位置を検出するためのシフトセンサ76と、後述する油圧センサと、を備えている。
【0045】
エンジン回転数センサ70は、後述するクランクシャフトに設けられた図示しないタイミングロータの所定の回転角ごとに、出力信号としてのパルスを発生し、検出信号としてECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号に基づいて、エンジン回転数NEを算出する。
【0046】
吸入空気量センサ71は、エンジン11への吸気流路に設けられたホットワイヤ式のエアフローメータにより構成されており、吸入空気量Qinの変化に伴う熱線の抵抗値を表す検出信号をECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号が表す抵抗値の変化に基づいて吸入空気量Qinを算出するようになっている。
【0047】
スロットルセンサ72は、スロットルバルブ6のスロットル開度θthに応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されており、この出力電圧を表す検出信号をECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号に基づいてスロットル開度θthを算出するようになっている。
ここで、エンジン11が発生する駆動力はスロットル開度θthに応じて増大し、スロットル開度θthは、アクセルペダル81の操作量Qaccに応じてECU100によって指示された駆動力要求量を表すものである。
したがって、本実施の形態に係るスロットルセンサ72は、後述するアクセルセンサ80によって検出されたアクセルペダル81の操作量Qaccに応じてECU100に指示されたスロットル開度θthを検出するようになっているため、本発明に係る指示量検出手段を構成している。
【0048】
車速センサ73は、変速機構20の出力軸56に設けられた図示しないタイミングロータの所定の回転角ごとに、出力信号としてのパルスを発生し、検出信号としてECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号に基づいて、車速Vを算出するようになっている。
【0049】
ブレーキセンサ74は、車両10に備えられた図示しないブレーキペダルの踏込量Qbkに応じた出力電圧を生成し、検出信号としてECU100に出力するようになっている。なお、ブレーキセンサ74は、図示しないブレーキペダルが所定の踏込量で踏み込まれたとき、OFF状態からON状態に切り替わる踏力スイッチ信号をECU100に出力するようにしてもよい。
【0050】
タービン回転数センサ75は、後述する変速機構20の入力軸に設けられた図示しないタイミングロータの所定の回転角ごとに、出力信号としてのパルスを発生し、検出信号としてECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号に基づいて、タービン回転数NTを算出するようになっている。
【0051】
シフトセンサ76は、複数のセンサから構成され、各センサが、操作部材としてのシフトレバー8の各操作位置に対応して、シフト操作装置7にそれぞれ設けられている。シフトセンサ76は、シフトレバー8が操作された際、各センサによってシフトレバー8を検出し、その検出信号をECU100に出力するようになっている。
【0052】
ここで、シフトレバー8は、所謂モーメンタリ式のシフトレバーである。一般に、モーメンタリ式のシフトレバーは、中立位置(図1に示すシフトレバー8の位置)を有しており、一旦、中立位置を除くいずれかの操作位置に操作されても、中立位置に自動復帰するようになっている。
また、シフトレバー8は、初期位置である中立位置、後進走行のための後進走行位置(R)、変速機構20における動力伝達経路を遮断する動力遮断位置(N)、自動変速モードを実現するための前進走行位置(D)、およびエンジンブレーキを発生させる制動位置(B)のうち、いずれかの操作位置に操作されるようになっている。
【0053】
また、シフトレバー8が中立位置にある場合は、パーキングスイッチ(以下、Pスイッチという)9を押下することができるようになっており、Pスイッチ9が押下されることにより、シフトセンサ76は、駐車指示に対応する検出信号をECU100に出力するようになっている。
【0054】
また、シフトレバー8が後進走行位置(R)、動力遮断位置(N)、前進走行位置(D)、および制動位置(B)のいずれかに操作されたとき、並びにPスイッチ9が押下されたときにシフトセンサ76が出力する検出信号に基づいて、ECU100はそれぞれ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ、BレンジおよびPレンジを設定して、設定したシフトレンジを、切り替え前のシフトレンジと置き換えてRAM102に記憶する。
【0055】
油温センサ77は、複数の係合装置としてのクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2に供給される作動油の油温Toに応じた出力電圧を生成し、検出信号としてECU100に出力するようになっている。具体的には、油温センサ77は、昇温の安定した後述するオイルポンプの吐出部において油路内の温度を直接測定しているので、油温をより正確に測定することができるようになっている。
したがって、本実施の形態に係る油温センサ77は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2に供給される作動油の油温Toを検出するようになっているため、本発明に係る油温検出手段を構成している。
【0056】
冷却水温センサ78は、温度変化に応じて電気抵抗が変化するサーミスタにより構成されており、エンジン11を冷却するための冷却水の水温Twに応じた出力電圧を生成し、検出信号としてECU100に出力するようになっている。
したがって、本実施の形態に係る冷却水温センサ78は、エンジン11を冷却するための冷却水の水温Twを検出するようになっているため、本発明に係る水温検出手段を構成している。
【0057】
アクセルセンサ80は、アクセルペダル81の操作量Qaccを、ホール素子を用いて検出し、アクセルペダル81の操作量Qaccを表す検出信号をECU100に出力するようになっている。ここで、エンジン11が発生する駆動力はスロットル開度θthに応じて増大し、スロットル開度θthはアクセルペダル81の操作量Qaccに応じてECU100によって調節されるため、エンジン11に要求される駆動力要求量は、アクセルペダル81の操作量Qaccに対応することとなる。
したがって、本実施の形態に係るアクセルセンサ80は、エンジン11に要求される駆動力要求量を検出するようになっているため、本発明に係る要求量検出手段を構成している。
【0058】
次に、図2を参照して、本実施の形態における変速線図について説明する。
変速線図は、車速Vおよびスロットル開度θthに基づいて自動変速を行う場合に、変速段を設定するための対応表であり、EEPROM103にマップ化されて記憶されている。
【0059】
例えば、スロットル開度θthまたは車速Vが変化し、図2に実線で示すアップシフト線を低速段側から高速段側へ越えた場合には、ECU100は、変速段を一段アップさせて設定し、設定した変速段を、変速前の変速段と置き換えてRAM102に記憶する。
一方、スロットル開度θthまたは車速Vが変化し、図2に破線で示すダウンシフト線を高速段側から低速段側へ越えた場合には、ECU100は、変速段を一段ダウンさせて設定し、上記同様RAM102に記憶する。
なお、図2の変速線図には、変速機構20において変速が行われる1st(1速)から8th(8速)のうち、1st(1速)から6th(6速)までを例示している。
【0060】
次に、図3を参照して、本実施の形態に係る自動変速機12の構成について説明する。なお、自動変速機12は、変速機構20の入力軸21に対して略対称的に構成されているので、図3においては、自動変速機12の下半分の図示を省略する。
【0061】
まず、図3に示すように、トルクコンバータ15は、クランクシャフト13と連結される入力部材としてのポンプインペラ(以下、インペラという)16と、変速機構20の入力軸21と連結される出力部材としてのタービンランナ(以下、タービンという)17と、ワンウェイクラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ18と、を有している。
【0062】
ここで、トルクコンバータ15の内部には作動流体としてのオイルが充てんされている。インペラ16はクランクシャフト13の回転エネルギーをオイルの流れのエネルギーに変換し、タービン17がこのオイルの流れを受け止めることでオイルの流れのエネルギーをタービン17の回転エネルギーとして取り出し、動力を伝達させている。また、タービン17を回転させたオイルは、まだ相当のエネルギーを有しており、ステータ18により整流され、再びインペラ16に導かれることによって、インペラ16の回転力を増大させる。このようにして、トルクコンバータ15におけるトルクの増大がなされている。
【0063】
また、トルクコンバータ15は、オイルを介して動力を伝達する性質上、オイルの滑りが生じるため伝達効率が低いことが知られている。そのため、トルクコンバータ15は、直結クラッチであるロックアップクラッチ19を有している。ロックアップクラッチ19は、油圧制御によって、インペラ16と一体回転する図示しないコンバータカバーに押し当てられて係合状態となると、インペラ16とタービン17とを機械的に直結するようになっている。そのため、ロックアップクラッチ19は、エンジン11から変速機構20への動力の伝達効率を向上させることができる。
【0064】
変速機構20は、入力軸21と、遊星歯車機構により構成される第1セット23と、遊星歯車機構により構成される第2セット24と、油圧式摩擦係合装置としてのC1クラッチ44、C2クラッチ46、C3クラッチ48、C4クラッチ50、B1ブレーキ52およびB2ブレーキ54と、一方向クラッチとしてのF1ワンウェイクラッチ53と、出力軸56とを有している。
【0065】
入力軸21は、タービン17に接続されており、インペラ16を介してクランクシャフト13の回転を変速機構20に入力するようになっている。
【0066】
第1セット23は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であり、S1サンギヤ25と、R1リングギヤ26と、複数個のインナーピニオンギヤ27と、複数個のアウターピニオンギヤ28と、CA1キャリヤ29と、を有している。
【0067】
S1サンギヤ25は、自動変速機12のケース4に回転不可能に固定されている。R1リングギヤ26は、C3クラッチ48を介して第1中間ドラム30に一体回転可能または相対回転可能に支持されるとともに、C1クラッチ44を介して後述する第2中間ドラム31に一体回転可能または相対回転可能に支持されている。
【0068】
複数個のインナーピニオンギヤ27および複数個のアウターピニオンギヤ28は、S1サンギヤ25とR1リングギヤ26とが対向することにより形成される環状空間に、それぞれ介装されている。
【0069】
各インナーピニオンギヤ27は、S1サンギヤ25と、それぞれのアウターピニオンギヤ28と、に噛合している。また、それぞれのアウターピニオンギヤ28は、それぞれのインナーピニオンギヤ27と、R1リングギヤ26と、に噛合している。また、各インナーピニオンギヤ27および各アウターピニオンギヤ28は、CA1キャリヤ29の支持軸部によって自転可能および公転可能に支持されている。これにより、各インナーピニオンギヤ27および各アウターピニオンギヤ28は、CA1キャリヤ29の支持軸を回転軸として自転することができるとともに、入力軸21を回転軸として公転することができるようになっている。
【0070】
CA1キャリヤ29は、中心軸部が入力軸21に一体的に連結され、各インナーピニオンギヤ27と、各アウターピニオンギヤ28とを支持する支持軸部がC4クラッチ50を介して第1中間ドラム30に一体回転可能または相対回転可能に支持されている。
【0071】
第1中間ドラム30は、R1リングギヤ26の外径側に回転可能に配置されており、C3クラッチ48を介してR1リングギヤ26を一体回転可能または相対回転可能に支持し、C4クラッチ50を介してCA1キャリヤ29を一体回転可能または相対回転可能に支持している。また、第1中間ドラム30は、B1ブレーキ52を介してケース4に回転不可能または相対回転可能に支持されている。
【0072】
第2中間ドラム31は、第1中間ドラム30の内周側に設けられており、C1クラッチ44を介してR1リングギヤ26を一体回転可能または相対回転可能に支持している。
【0073】
第2セット24は、ラビニヨ型の遊星歯車装置であり、S2サンギヤ34と、S2サンギヤ34よりも小径のS3サンギヤ35と、R2リングギヤ36と、複数個のロングピニオンギヤ37と、複数個のショートピニオンギヤ38と、CA2キャリヤ39と、F1ワンウェイクラッチ53と、を備えている。
【0074】
S2サンギヤ34は、第1中間ドラム30に連結され、C3クラッチ48を介してR1リングギヤ26に一体回転可能または相対回転可能に連結されるとともに、C4クラッチ50を介してCA1キャリヤ29に一体回転可能または相対回転可能に連結されている。また、S2サンギヤ34は、入力軸21を回転軸として回転可能となっている。
【0075】
S3サンギヤ35は、第2中間ドラム31に連結され、C1クラッチ44を介してR1リングギヤ26に一体回転可能または相対回転可能に連結されるとともに、入力軸21を回転軸として回転可能となっている。
【0076】
R2リングギヤ36は、出力軸56に連結されるとともに、入力軸21を回転軸として回転可能になっている。
【0077】
それぞれのロングピニオンギヤ37は、S2サンギヤ34と、それぞれのショートピニオンギヤ38と、R2リングギヤ36と、に噛合している。また、それぞれのショートピニオンギヤ38は、S3サンギヤ35と、それぞれのロングピニオンギヤ37と、に噛合している。
【0078】
各ロングピニオンギヤ37および各ショートピニオンギヤ38は、S2サンギヤ34およびS3サンギヤ35がR2リングギヤ36と対向することによって形成される環状空間にそれぞれ介装されるとともに、CA2キャリヤ39によって自転可能および公転可能に支持されている。これにより、各ロングピニオンギヤ37および各ショートピニオンギヤ38は、CA2キャリヤ39の支持軸部を回転軸として自転することができるとともに、入力軸21を回転軸として公転することができるようになっている。
【0079】
CA2キャリヤ39は、中心軸部がC2クラッチ46を介して入力軸21に一体回転可能または相対回転可能に支持されるとともに、各ロングピニオンギヤ37および各ショートピニオンギヤ38を支持する支持軸部が、B2ブレーキ54を介してケース4に回転不可能または相対回転可能に支持されている。
【0080】
C1クラッチ44は、S3サンギヤ35がR1リングギヤ26に対して一体回転可能となる係合状態、および、S3サンギヤ35がR1リングギヤ26に対して相対回転可能となる解放状態のうち、いずれかの作動状態をとることができるようになっている。
【0081】
C2クラッチ46は、CA2キャリヤ39が入力軸21に対して一体回転可能となる係合状態、および、CA2キャリヤ39が入力軸21に対して相対回転可能となる解放状態のうち、いずれかの作動状態をとることができるようになっている。
【0082】
C3クラッチ48は、R1リングギヤ26が第1中間ドラム30に対して一体回転可能となる係合状態、および、R1リングギヤ26が第1中間ドラム30に対して相対回転可能となる解放状態のうち、いずれかの作動状態をとることができるようになっている。
【0083】
C4クラッチ50は、CA1キャリヤ29が第1中間ドラム30に対して一体回転可能となる係合状態、およびCA1キャリヤ29が第1中間ドラム30に対して相対回転可能となる解放状態をとることができるようになっている。
【0084】
B1ブレーキ52は、第1中間ドラム30がケース4に対して相対回転不可能となる係合状態、および、第1中間ドラム30がケース4に対して相対回転可能となる解放状態のうち、いずれかの作動状態をとることができるようになっている。
【0085】
B2ブレーキ54は、CA2キャリヤ39がケース4に対して相対回転不可能となる係合状態、および、CA2キャリヤ39がケース4に対して相対回転可能となる解放状態のうち、いずれかの作動状態をとることができるようになっている。
【0086】
F1ワンウェイクラッチ53は、CA2キャリヤ39の一方向のみの回転を許容するようになっている。
【0087】
出力軸56は、プロペラシャフト58に連結されており、変速機構20において変速されたエンジン11の駆動力を、プロペラシャフト58に伝達するようになっている。
【0088】
このような構成により、各シフトレンジに応じた動力伝達経路の形成が可能となっており、さらにDレンジの場合には、後述するように1st(1速)から8th(8速)のうちいずれかの変速段に応じた動力伝達経路の形成が可能となっている。
【0089】
次に、図4を参照して、本発明の実施の形態に係る係合装置の作動状態を説明する。
図4において、「○」は係合状態を表している。「×」は解放状態を表している。「◎」はエンジンブレーキ時にのみ係合状態となることを表している。また、「△」は駆動時にのみ係合状態となることを表している。
【0090】
ECU100は、RAM102に記憶したシフトレンジまたは変速段に対応する係合装置の作動状態の組み合わせに応じて、油圧制御装置60(図1参照)に設けられたリニアソレノイドバルブSL1〜SL6および図示しないトランスミッションソレノイドの励磁、非励磁を切り替える。これにより、変速機構20は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替え、シフトレンジおよび変速段に応じた動力伝達経路を選択的に形成するようになっている。
【0091】
また、ECU100は、例えば変速機構20にDレンジに応じた動力伝達経路を形成させる場合に、車速およびスロットル開度とEEPROM103に記憶された変速線図(図2参照)とに基づいて、1st(1速)から8th(8速)のうちのいずれかの変速段に応じた動力伝達経路を変速機構20において形成させるように、油圧制御装置60を制御して、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替えるようになっている。
【0092】
また、ECU100は、Dレンジ以外のシフトレンジに応じた動力伝達経路を変速機構20に形成させる場合も同様に、油圧制御装置60を制御して、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替えるようになっている。
【0093】
このように、本実施の形態に係る変速機構20は、前進時に係合状態となる前進用係合装置としてのC1クラッチ44、および、後進時に係合状態となる後進用係合装置としてのC4クラッチ50、B2ブレーキ54を含む複数の係合装置の作動状態に応じて、エンジン11の駆動力の方向を切り替えて伝達するようになっているので、本発明に係る動力伝達機構を構成している。
【0094】
次に、図5および図6を参照して、本実施の形態に係る油圧制御装置60の概略構成を説明する。なお、図6に示すソレノイドバルブの作動表において、「○」は通電状態を表し、「×」は非通電状態を表す。また、「N/C(Normally-Close)」は、非通電状態において遮断状態であることを意味する。
【0095】
図5に示すように、油圧制御装置60は、エンジン11のクランクシャフト13(図3参照)と直接的または間接的に連結されたトロコイド式のオイルポンプ61と、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2に供給する作動油の油圧としてのライン圧PLを調圧するSL1リニアソレノイドバルブ111からSL6リニアソレノイドバルブ116と、各リニアソレノイドバルブ111〜116から供給された油圧PC1〜PC4およびPB1、PB2によってそれぞれ作動し、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替える油圧アクチュエータ151〜156と、を備えている。
【0096】
オイルポンプ61は、クランクシャフト13の回転と連動して作動油を出力するようになっている。オイルポンプ61から出力された作動油の油圧は、図示しないレギュレータバルブによってライン圧PLに調圧され、各リニアソレノイドバルブ111〜116に入力される。
【0097】
各リニアソレノイドバルブ111〜116は、C1クラッチ44、C2クラッチ46、C3クラッチ48、C4クラッチ50、B1ブレーキ52、B2ブレーキ54にそれぞれ対応するよう配設されている。また、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、それぞれ、入力ポート121〜126と、出力ポート131〜136と、ドレンポート141〜146と、を有している。
【0098】
各リニアソレノイドバルブ111〜116は、ECU100によって、それぞれ独立にソレノイド電流が調節されることにより、その作動状態を連続的に変化させるようになっている。これにより、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、入力ポート121〜126から入力されたライン圧PLをECU100からの電流値に応じて調圧して、出力ポート131〜136からそれぞれ出力するようになっている。
したがって、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2に供給されるライン圧PLをそれぞれ調圧することによって、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替えるようになっている。
【0099】
さらに、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、非通電状態でクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2への作動油の供給を遮断する遮断状態となり、一方、通電状態でクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2に作動油を供給する供給状態となるよう構成されている。
【0100】
また、各油圧アクチュエータ151〜156は、供給される作動油の油圧によってそれぞれ作動し、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を、油圧に応じて係合状態および解放状態の間で切り替えるようになっている。
【0101】
具体的には、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2を係合状態にする場合に、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、入力ポート121〜126と出力ポート131〜136とをそれぞれ連通させるとともに、出力ポート131〜136とドレンポート141〜146とのそれぞれの連通を遮断する供給状態となる。各油圧アクチュエータ151〜156は、各リニアソレノイドバルブ111〜116からそれぞれ供給された作動油の油圧PC1〜PC4およびPB1、PB2によって油圧シリンダの容積を増大させる。これにより、各油圧アクチュエータ151〜156は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を係合状態にする。
【0102】
一方、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2を解放状態にする場合には、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、ECU100にソレノイド電流を調節されることにより、入力ポート121〜126と出力ポート131〜136とのそれぞれの連通を遮断するとともに、出力ポート131〜136とドレンポート141〜146とをそれぞれ連通させる遮断状態となる。各リニアソレノイドバルブ111〜116は遮断状態となると、各油圧アクチュエータ151〜156の油圧シリンダ内の作動油を、ドレンポート141〜146から排出する。そのため、各油圧アクチュエータ151〜156のシリンダの容積が減少する。これにより、各油圧アクチュエータ151〜156は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2を解放状態にする。
【0103】
なお、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、ECU100にソレノイド電流を調節されることにより、供給状態および遮断状態の間で連続的に作動状態を変化させ、各油圧アクチュエータ151〜156に供給する作動油の油圧をそれぞれ調圧するようになっている。
【0104】
さらに、油圧制御装置60には、油圧センサ84、85が設けられている。
油圧センサ84および油圧センサ85は、油圧PC1および油圧PC4をそれぞれ検出し、油圧PC1および油圧PC4を表す検出信号をそれぞれECU100に出力するようになっている。ECU100は、この検出信号に基づいて、油圧PC1および油圧PC4を取得するようになっている。
【0105】
また、ECU100は、EEPROM103に記憶された作動状態判定値を参照することにより、油圧PC1および油圧PC4に基づいて、C1クラッチ44およびC4クラッチ50の各作動状態をそれぞれ判定することができるようになっている。そのため、ECU100は、EEPROM103にマップ化して記憶された係合装置の作動表(図4参照)を参照することにより、C1クラッチ44およびC4クラッチ50の各作動状態に基づいて、Dレンジ(1st)とRレンジとの間でのシフトレンジの切り替えを判定することができるようになっている。
【0106】
なお、油圧センサ84および油圧センサ85の代わりに、またはこれらとともに、油圧スイッチがC1クラッチ44およびC4クラッチ50にそれぞれ対応して設けられていてもよい。この場合、油圧スイッチは、油圧PC1および油圧PC4が、それぞれC1クラッチ44およびC4クラッチ50が係合状態を形成するための係合圧PC1eおよびPC4e以上となった場合に、ECU100に係合圧信号を出力する。一方、油圧スイッチは、油圧PC1および油圧PC4が、それぞれC1クラッチ44およびC4クラッチ50が解放状態を形成するための係合圧PC1rおよびPC4r以下となった場合に、ECU100に解放圧信号を出力する。
このとき、ECU100は、係合圧信号を出力した油圧スイッチに対応するクラッチの作動状態が係合状態であると検出し、解放圧信号を出力した油圧スイッチに対応するクラッチの作動状態が解放状態であると検出する。
【0107】
ここで、外付け型のSBW方式を採用した車両にあっては、シフトレンジに応じて係合装置の作動状態を切り替える場合には、シフトレバーの操作位置に基づいて設定されたシフトレンジに応じてマニュアルバルブの作動位置を切り替えるとともに、設定されたシフトレンジに応じてリニアソレノイドバルブの作動状態を切り替える。
これに対し、本実施の形態に係る内蔵型のSBW方式を採用した車両10は、外付け型のSBW方式の車両においてマニュアルバルブが担っていたシフトレンジの切り替えを、ECU100とリニアソレノイドバルブ111〜116とによって行う構成となっているので、シフトレバーの操作位置に基づいて設定されたシフトレンジに応じてリニアソレノイドバルブ111〜116の作動状態を個別に切り替えることによって、係合装置としてのクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替えることができるようになっている。
【0108】
なお、各リニアソレノイドバルブ111〜116は、ソレノイドバルブで構成されていてもよい。この場合、ソレノイドバルブの個数や仕様は、自動変速機12および油圧制御装置60の構成に応じて適宜選択される。
【0109】
次に、本実施の形態に係る車両の制御装置を構成するECU100の機能について説明する。
【0110】
ECU100は、シフトレンジの切り替え要求を検出するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係る切り替え要求検出手段を構成している。
【0111】
ECU100は、複数の操作位置のうちいずれかの操作位置に操作される操作部材としてのシフトレバー8の操作位置をシフトセンサ76によって検出し、入力されたシフトレンジを特定するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係る入力レンジ検出手段を構成している。
【0112】
なお、ECU100は、シフトセンサ76の検出信号が予め定められた保持時間Tkの間、継続して出力された場合に、入力されたシフトレンジを特定するようにしてもよい。保持時間Tkは、入力されたシフトレンジの特定を確実にするため、シフトレバー8の誤操作がなされた場合のような短時間ではなく、入力操作を確実ならしめる程度の時間となるよう、予め経験的、実験的に求められる時間である。これにより、シフトレバー8の誤操作により適切ではないシフトレンジが特定され、入力操作とは異なる車両の挙動が発生してしまうことが防止される。
【0113】
また、ECU100は、シフトセンサ76によって検出されたシフトレンジをRAM102に記憶するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係るシフトレンジ記憶手段を構成している。
【0114】
さらに、ECU100は、特定したシフトレンジが、RAM102に既に記憶していたシフトレンジと異なる場合に、シフトレンジの切り替え要求と判定するとともに、特定したシフトレンジを、RAM102に既に記憶していたシフトレンジと置き換えて記憶するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係るレンジ切り替え判定手段を構成している。
【0115】
ECU100は、シフトレンジの切り替え要求を検出した場合に、検出した切り替え要求に基づいて、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2のうち、作動状態を切り替える少なくとも解放側係合装置と係合側係合装置とを特定するようになっている。
本実施の形態においては、ECU100は、DレンジからRレンジへのシフトレンジの切り替え要求を検出した場合に、係合装置の作動表(図4参照)に基づいて、C1クラッチ44を解放側係合装置として、また、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54を係合側係合装置として特定する。
一方、ECU100は、RレンジからDレンジへのシフトレンジへの切り替え要求を検出した場合に、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54を解放側係合装置として、また、C1クラッチ44を係合側係合装置として特定する。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係る作動装置特定手段を構成している。
【0116】
ECU100は、検出したシフトレンジの切り替え要求に基づいて、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を切り替えるようになっている。
また、ECU100は、特定した解放側係合装置の作動状態を解放状態に切り替えるとともに、係合側係合装置の作動状態を係合状態に切り替えるようになっている。
さらに、ECU100は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を作動油の油圧を調圧することによって切り替えるようになっている。
【0117】
具体的には、ECU100は、DレンジからRレンジへのシフトレンジの切り替え要求を検出した場合に、SL1リニアソレノイドバルブ111のソレノイド電流を調節してSL1リニアソレノイドバルブ111の作動状態を遮断状態に切り替える。これにより、SL1リニアソレノイドバルブ111は、油圧アクチュエータ151に供給される作動油をドレンポート141から排出してC1クラッチ44の作動状態を解放状態に切り替える。さらに、ECU100は、SL4リニアソレノイドバルブ114およびSL6リニアソレノイドバルブ116のソレノイド電流を調節して、SL4リニアソレノイドバルブ114およびSL6リニアソレノイドバルブ116の各作動状態を供給状態に切り替える。これにより、SL4リニアソレノイドバルブ114およびSL6リニアソレノイドバルブ116は、油圧アクチュエータ154および油圧アクチュエータ156に作動油をそれぞれ供給して、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54の作動状態を係合状態に切り替えるようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100およびリニアソレノイドバルブ111〜116は、本発明に係る伝達機構制御手段を構成している。
【0118】
ECU100は、変速機構20のクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態が係合状態であるか解放状態であるかを検出するようになっている。
また、ECU100は、変速機構20のクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2に供給される作動油の油圧を検出することにより、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を検出するようになっている。
本実施の形態においては、ECU100は、EEPROM103に記憶された作動状態判定値を参照することにより、油圧センサ84および油圧センサ85によってそれぞれ検出された油圧PC1および油圧PC4に基づいて、C1クラッチ44およびC4クラッチ50の各作動状態を判定するようになっている。
【0119】
さらに、ECU100は、上述したRレンジからDレンジへのシフトレンジの切り替えの場合のように、解放側係合装置が複数存在する場合には、複数の解放側係合装置に供給される作動油の全ての油圧が、解放状態に対応する解放圧以下となった場合に、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係る作動状態検出手段を構成している。
なお、油圧センサの個数は限定されず、油圧制御装置の構成や制御内容に応じて、必要な個数だけ油圧制御装置に設けることが望ましい。
【0120】
ECU100は、アクセルセンサ80によって検出された駆動力要求量とスロットルセンサ72によって検出された駆動力指示量との差分を算出するようになっている。
具体的には、ECU100は、アクセルセンサ80によって検出されたアクセルペダル81の操作量Qaccに対応するスロットルバルブ6の要求開度θthrと、スロットルセンサ72によって検出されたスロットルバルブ6の開度θthに対応するスロットルバルブ6の実開度θthpと、の差分を算出するようになっている。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係る算出手段を構成している。
【0121】
ECU100は、エンジン11の駆動力を制御するようになっており、シフトレンジの切り替え要求を検出した場合に、エンジン11の駆動力の抑制を開始し、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出してから、係合側係合装置の作動状態が係合状態となるまでの間にエンジン11の駆動力の抑制を終了するようになっている。
具体的には、ECU100は、スロットルアクチュエータ5を制御してスロットル開度θthを略零に調節することにより、駆動力を抑制する。
なお、ECU100は、スロットル開度θthの調節に限らず、エンジン11における点火時期を遅角したり、インジェクタ2による燃料噴射時間を短縮したりすることによって、駆動力の抑制を実行するようにしてもよい。この場合は、燃費の向上や未燃炭化水素のような汚染物質の発生を低減するという副次的効果が期待できる。
【0122】
また、ECU100は、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出したときに、エンジン11の駆動力の抑制を終了するようになっている。なお、ECU100は、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出した時点から、EEPROM103に記憶された待機時間Tfが経過した後に駆動力の抑制を終了するようにしてもよい。これにより、解放側係合装置の解放状態の検出誤差が大きく、実際には解放側係合装置の作動状態が半係合状態であるにもかかわらず駆動力の抑制を終了させた後にエンジン11の駆動力が増大して、入力操作と異なる車両10の挙動が発生してしまうことを防止することができる。
【0123】
ここで、待機時間Tfとは、油圧センサ84、85の検出結果に基づいて解放側係合装置の作動状態が解放状態であると判定した場合であっても、油圧センサ84、85の検出誤差のため実際には判定時に半係合状態であった解放側係合装置の作動状態が解放状態となるまでの遅れ時間を考慮して、予め実験的、理論的に求められる値である。
【0124】
また、ECU100は、油温センサ77によって検出された作動油の油温Toおよび冷却水温センサ78によって検出された冷却水の水温Twのうち、いずれかが所定温度以下である場合に、エンジン11の駆動力の抑制を実行するようになっている。
具体的には、ECU100は、作動油の油温ToがEEPROM103に記憶された油温To1以下である場合、または冷却水の水温Twが水温Tw1以下である場合に、駆動力の抑制を実行する。このとき、ECU100は、水温Twに基づいて、EEPROM103に記憶された油温推定マップを参照することにより、油温Toを推定する。すなわち、水温Tw1に基づいて推定する油温Toは油温To1に相当する。そのため、ECU100は、水温Twを検出した場合であっても、実質的には水温Twから推定した油温Toに基づいて駆動力の抑制の要否を判断する。
【0125】
なお、ECU100は、油温Toおよび水温Twがそれぞれ油温To1および水温Tw1以下である場合に、駆動力の抑制を実行するようにしてもよい。これにより、油温Toが油温To1以下であることを確実に判定した上で駆動力の抑制を実行することができるので、駆動力の抑制を実行する精度を向上させることができる。
【0126】
さらに、ECU100は、エンジン11の駆動力の抑制の終了後において、算出した駆動力要求量と駆動力指示量との差分が駆動力差判定値θ1より大きい場合に、上記算出した差分が所定値以下になるまで、駆動力要求量に対する駆動力指示量の復帰速度を制限するようになっている。
具体的には、ECU100は、エンジン11の駆動力の抑制の終了後において、算出したスロットルバルブ6の要求開度θthrと実開度θthpとの差分が、駆動力差判定値θ1以下になるまで、要求開度θthrに対する実開度θthpの復帰速度を制限するようになっている。
【0127】
ここで、駆動力差判定値θ1とは、算出した上記差分が駆動力差判定値θ1以下であれば、スロットルバルブ6の実開度θthpをすぐに要求開度θthrに復帰させても、駆動力の急激な増大によって車両10の急発進やショックを生じないよう、予め実験的、理論的に求められる値であり、本発明に係る所定値に対応する。
なお、ECU100は、復帰速度の上限値として復帰速度Vrを設定してもよい。ここで、復帰速度Vrとは、復帰速度Vr以下の速度で実開度θthpを要求開度θthrに復帰させた場合に、車両10の急発進やショックが生じないよう、および、入力されたシフトレンジへの切り替え(以下、シフト切り替えという)が完了するときまでにはスロットルバルブ6の実開度θthpが要求開度θthrに復帰するよう、予め実験的、理論的に求められる値である。
【0128】
ECU100は、算出した上記差分が駆動力差判定値θ1以下である場合には、復帰速度を制限することなく、スロットルバルブ6の実開度θthpを要求開度θthrに復帰させる。この場合、ECU100は、スロットルバルブ6の実開度θthpを要求開度θthrに速やかに復帰させることができるため、シフト切り替えの完了後には、アクセルペダル81の操作量Qaccに応じたスロットル開度θthに調節できるので、所望の駆動力を得ることができる。
したがって、本実施の形態に係るECU100は、本発明に係る駆動力制御手段を構成している。
【0129】
次に、動作について説明する。
まず、図7を参照して、本発明の実施の形態に係る駆動力制御の実行時におけるタイミングチャートの一例について説明する。ここで、図7(b)において、前進圧PDは、油圧アクチュエータ151に供給される作動油の油圧PC1を表し、後進圧PRは、油圧アクチュエータ154に供給される作動油の油圧PC4を表す(図5参照)。図7においては、シフトレンジがDレンジ(1st)からRレンジに切り替えられる場合について説明するため、油圧PC1が係合圧PC1eであり油圧PC4が解放圧PC4rである場合には変速機構20においてDレンジ(1st)に応じた動力伝達経路が形成され、油圧PC1が解放圧PC1rであり油圧PC4が係合圧PC4eである場合にはRレンジに応じた動力伝達経路が形成されるものとする(図4参照)。
【0130】
ここで、アクセルセンサ80によって検出されたアクセルペダル81の操作量Qaccは、エンジン11に要求される駆動力要求量に対応し、エンジン11の駆動力はスロットル開度θthに対応している。そのため、(d)に示すように、駆動力要求量をアクセルペダル81の操作量Qaccに応じたスロットルバルブ6の要求開度θthrとして表している。また、ECU100がエンジン11に指示する駆動力指示量を、スロットルセンサ72によって検出されたスロットルバルブ6の実開度θthpとして表している。
【0131】
時刻t1においては、車両10はブレーキ操作によって停車した状態である。また、(b)に示すように、前進圧PDおよび後進圧PRはそれぞれ、係合圧PC1eおよび解放圧PC4rとなっているため、変速機構20においてDレンジ(1st)に応じた動力伝達経路が成立していることを表している(図4参照)。
【0132】
時刻t2から時刻t3にかけては、シフトレバー8の操作位置が、中立位置から後進走行位置に所定の保持時間Tkの間切り替えられる。このとき、シフトセンサ76が後進走行位置(R)に位置するシフトレバー8を検出し、検出信号をECU100に出力する。そして、時刻t3においてRレンジへのシフト入力操作が確定する。
【0133】
時刻t3においてRレンジへのシフト入力操作が確定すると、(c)に示すように、ECU100によって駆動力の抑制が開始される。具体的には、スロットルアクチュエータ5がECU100によって制御されることにより、アクセルペダル81の操作量Qaccにかかわらず、スロットル開度θthが略零に調節される。以下、スロットル開度θthの調節による駆動力の抑制を、スロットル制限という。
【0134】
時刻t4において、Dレンジに応じた動力伝達経路を解放するため、C1クラッチ44(図3参照)の作動状態の解放状態への切り替えが開始される。具体的には、SL1リニアソレノイドバルブ111のソレノイド電流がECU100によって調節されることにより、SL1リニアソレノイドバルブ111の作動状態が供給状態から遮断状態に移行させられる。したがって、(b)に示すように、時刻t4において、前進圧PDは低下し始める。
【0135】
時刻t5において、アクセルペダル81が踏み込まれることにより、アクセルセンサ80によって検出されたアクセルペダル81の操作量Qaccが増大し始める。(d)に示すように、時刻t5以降は、アクセルペダル81の操作量Qaccに応じてスロットルバルブ6の要求開度θthrが増大するが、スロットル制限を実行しているため、スロットルバルブ6の実開度θthpは増大しない。
【0136】
時刻t6において、Rレンジに応じた動力伝達経路を形成するため、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54(図3参照)の係合状態への切り替えが開始される。具体的には、SL4リニアソレノイドバルブ114およびSL6リニアソレノイドバルブ116(図5参照)のソレノイド電流がECU100によって調節されることにより、SL4リニアソレノイドバルブ114およびSL6リニアソレノイドバルブ116の作動状態が遮断状態から供給状態に移行させられる。したがって、(b)に示すように、時刻t6以降、後進圧PRは増大し始める。
【0137】
時刻t7において、(b)に示すように、前進圧PDである油圧PC1が、解放圧PC1rまで低下する。ECU100は、油圧センサ84によって検出された油圧PC1が、解放圧PC1rまで低下してから待機時間Tfが経過した時刻t8において、スロットル制限を終了する。
【0138】
時刻t8においてスロットル制限を終了すると、ECU100は、スロットルバルブ6の実開度θthpを要求開度θthrに復帰させる。具体的には、ECU100は、スロットルアクチュエータ5を制御することにより、(d)に示すようにスロットルバルブ6の実開度θthpを増大させる。
この結果、時刻t9において、スロットルバルブ6の実開度θthpが要求開度θthrに復帰することとなる。
【0139】
時刻t10において、後進圧PRが係合圧PC4eに到達することにより、C4クラッチ50の作動状態が係合状態となるので、Rレンジへのシフト切り替えが完了する(図4参照)。このとき、既にスロットルバルブ6の実開度θthpが要求開度θthrと一致しているので、アクセルペダル81の操作量Qaccに応じた所望の駆動力が得られる。
【0140】
次に、図8を参照して、本発明の実施の形態における駆動力制御のプログラム処理について説明する。
なお、図8に示すフローチャートは、CPU101によって、RAM102を作業領域として実行される駆動力制御のプログラムの実行内容を表す。この駆動力制御のプログラムは、EEPROM103に記憶されている。また、この駆動力制御は、CPU101によって、予め定められた時間間隔で実行されるようになっている。
【0141】
図8においては、車両10がDレンジで前進走行している状態から停車し、後進走行に移行する場合における駆動力制御について説明する。このように、車両10の走行が前進走行から後進走行へ切り替わる場合は、一般的には車速Vは零または略零となっており、かつスロットル開度θthも極めて小さいことから、変速線図(図2参照)に示すように、ECU100は1st(1速)の変速段を設定している。
【0142】
図8に示すように、まず、CPU101は、シフトレンジの切り替えを検出したか否かを判定する(ステップS11)。具体的には、CPU101は、シフトセンサ76の検出信号に基づいて、前進走行位置から後進走行位置へのシフトレバー8の操作位置の切り替えを検出したか否かを判定する。
CPU101は、シフトレンジの切り替えを検出していないと判定した場合に(ステップS11でNO)、本処理を終了する。
【0143】
一方、CPU101は、シフトレンジの切り替えを検出したと判定した場合に(ステップS11でYES)、油温センサ77によって検出された作動油の油温Toが、油温To1以下であるか否かを判定する(ステップS12)。CPU101は、油温Toが、油温To1より高いと判定した場合に(ステップS12でNO)、本処理を終了する。
【0144】
一方、CPU101は、油温Toが油温To1以下であると判定した場合に(ステップS12でYES)、冷却水温センサ78によって検出された冷却水の水温Twが、水温Tw1以下であるか否かを判定する。CPU101は、水温Twが、水温Tw1より高いと判定した場合に(ステップS13でNO)、本処理を終了する。
【0145】
CPU101は、水温Twが水温Tw1以下であると判定した場合に(ステップS13でYES)、スロットル制限を開始する(ステップS14)。
【0146】
次に、CPU101は、元レンジ圧の立ち下がりを検出したか否かを判定する(ステップS15)。具体的には、CPU101は、前進圧PDである油圧PC1が、解放圧PC1rにまで低下した場合に、元レンジ圧の立ち下がりを検出したと判定する。
なお、RレンジからDレンジへのシフトレンジの切り替えの場合には、解放側係合装置はC4クラッチ50およびB2ブレーキ54となるが、このように複数の解放側係合装置が存在する場合には、CPU101は、全ての解放側係合装置に供給される作動油の油圧が解放圧以下となった場合に、元レンジ圧の立ち下がりを検出したと判定してもよい。
CPU101は、元レンジ圧の立ち下がりを検出していないと判定する限り(ステップS15でNO)、元レンジ圧の立ち下がりを検出したか否かの判定(ステップS15)を繰り返す。
【0147】
一方、CPU101は、元レンジ圧の立ち下がりを検出したと判定した場合に(ステップS15でYES)、元レンジ圧の立ち下がりを検出した時刻からEEPROM103に記憶された待機時間Tfが経過したか否かを判定する(ステップS16)。
CPU101は、待機時間Tfが経過していないと判定する限り(ステップS16でNO)、待機時間Tfが経過したか否かの判定(ステップS16)を繰り返す。
【0148】
CPU101は、元レンジ圧の立ち下がりを検出した時刻から待機時間Tfが経過したと判定した場合に(ステップS16でYES)、スロットルバルブ6の要求開度θthrと実開度θthpとの差(θthr−θthp)が、駆動力差判定値θ1以下であるか否かを判定する(ステップS17)。
【0149】
CPU101は、θthr−θthpが駆動力差判定値θ1以下であると判定した場合に(ステップS17でYES)、スロットル制限を終了する。この場合、CPU101は、アクセルペダル81の操作量Qaccに基づいて検出した要求開度θthrに応じてスロットルバルブ6の実開度θthpが増大するよう、スロットルアクチュエータ5を制御する。そのため、スロットル制限の終了後(ステップS18)は、スロットルバルブ6の実開度θthpは要求開度θthrに復帰することとなる。
【0150】
一方、CPU101は、θthr−θthpが駆動力差判定値θ1より大きいと判定した場合に(ステップS17でNO)、スロットルバルブ6の要求開度θthrに対する実開度θthpの復帰速度を、復帰速度Vrに制限する(ステップS19)。具体的には、CPU101は、スロットルアクチュエータ5を作動させ、EEPROM103に記憶された復帰速度Vrで実開度θthpを増大させる。
【0151】
CPU101は、再度、θthr−θthpが駆動力差判定値θ1以下であるか否かの判定(ステップS17)を行い、θthr−θthpが駆動力差判定値θ1より大きいと判定する限り(ステップS17でNO)、復帰速度を、復帰速度Vrに制限する(ステップS19)。
【0152】
CPU101は、復帰速度を、復帰速度Vrに制限している間(ステップS19)に、θthr−θthpが駆動力差判定値θ1以下であると判定した場合は(ステップS17でYES)、復帰速度の制限を終了するとともにスロットル制限を終了する(ステップS18)。これにより、スロットルバルブ6の実開度θthpは要求開度θthrに復帰することとなる。
【0153】
以上のように、本実施の形態に係る車両の制御装置は、例えば、DレンジからRレンジへのシフトレンジの切り替え要求を検出した場合に、エンジン11の駆動力の抑制を開始し、解放側係合装置としてのC1クラッチ44の作動状態が解放状態であると検出してから、係合側係合装置としてのC4クラッチ50およびB2ブレーキ54の作動状態が係合状態となるまでの間にエンジン11の駆動力の抑制を終了するので、シフトレバー8の操作時にエンジン11の駆動力の抑制を実行することができ、入力操作と異なる車両10の挙動を防止することができる。さらに、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54の作動状態が係合状態となるまでの間にエンジン11の駆動力の抑制を終了するので、シフト切り替え完了後は、アクセルペダル81の操作量Qaccに応じた駆動力が得られ、車両10の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる。
【0154】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、C1クラッチ44の作動状態が解放状態であると検出したときに、エンジン11の駆動力の抑制を終了するので、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54の作動状態が係合状態となるのを待たずに、エンジン11の駆動力の抑制を終了することができ、実シフトレンジと目標シフトレンジが一致してシフトレンジの切り替えが完了した場合に駆動力の抑制を終了する従来の車両の制御装置と比較して、エンジン11の駆動力の抑制の終了を早めることができ、車両10の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる。
【0155】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、C1クラッチ44およびC4クラッチ50に供給される作動油の油圧を検出することにより、C1クラッチ44およびC4クラッチ50の作動状態を検出するので、温度変化といった外的要因によって実際の係合装置の解放タイミングに差異ができる場合であっても、油圧検出によって実際の係合装置の解放タイミングを検出することができ、エンジン11の駆動力の抑制の終了を正確に行うことができる。
【0156】
また、RレンジからDレンジへのシフトレンジの切り替えの場合には、解放側係合装置がC4クラッチ50およびB2ブレーキ54のように複数存在する。本実施の形態に係る車両の制御装置は、このように解放側係合装置が複数存在する場合に、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54に供給される作動油の油圧が解放圧以下となった場合に解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出するので、C4クラッチ50およびB2ブレーキ54のうちいずれかの解放側係合装置が動作不良を起こし係合状態となっている場合には、エンジン11の駆動力の抑制を継続することができ、入力操作と異なる車両10の挙動を防止することもできる。
【0157】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、作動油の油温Toおよび冷却水の水温Twのうち、いずれかが所定温度以下である場合に、エンジン11の駆動力の抑制を実行する。この結果、作動油の油温Toが低く、または冷却水の水温Twから推定される作動油の油温Toが低く、油圧の応答性が悪いと予測され、作動油の油温Toが高い場合よりも、例えばDレンジからRレンジへのシフトレンジの切り替えにおける解放側係合装置としてのC1クラッチ44の係合状態への移行が緩やかであるような場合に、エンジン11の駆動力の抑制を実行する。すなわち、C1クラッチ44の作動状態が係合状態から解放状態に切り替わるために必要な時間が長く、入力操作と異なる車両10の挙動が発生する確率が高い場合に、エンジン11の駆動力の抑制を実行し、入力操作と異なる車両10の挙動を防止することができる。
【0158】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジン11の駆動力の抑制の終了後において、算出したスロットルバルブ6の要求開度θthr(駆動力要求量)と実開度θthp(駆動力指示量)との差分が、駆動力差判定値θ1より大きい場合には、上記差分が駆動力差判定値θ1以下になるまで、要求開度θthr(駆動力要求量)に対する実開度θthp(駆動力指示量)の復帰速度を制限するので、エンジン11の駆動力が急激に増大しないよう復帰速度を制限することにより、エンジン11の駆動力の抑制の終了後にエンジン11の駆動力が急激に増大して車両10が急発進してしまうことを防止し、車両10の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができる。
【0159】
さらに、本実施の形態に係る車両の制御装置は、シフトセンサ76によってシフトレバー8の操作位置を検出して入力されたシフトレンジを特定し、このシフトレンジが、既にRAM102に記憶されたシフトレンジと異なる場合に、シフトレンジの切り替え要求と判定することができる。
【0160】
なお、上述した本発明に係る実施の形態においては、本発明に係る車両の制御装置を内蔵型のSBW方式の車両に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、各油圧アクチュエータへの作動油の供給状態を切り替えるためのマニュアルバルブと、マニュアルバルブを作動させるディテント機構と、シフトセンサに電気的に接続されたECUと、ECUによって作動させられる電動アクチュエータと、を有し、シフトレバーの操作位置に応じてECUによって電動アクチュエータおよびディテント機構を作動させることによりマニュアルバルブの作動状態を切り替えるとともに係合装置の作動状態を切り替えて動力伝達経路の切り替えを行う、所謂外付け型のSBW方式の車両にも適用することもできる。
【0161】
ここで、ディテント機構の作動状態に基づいて実シフトレンジを判定し、目標シフトレンジと実シフトレンジとが一致するまで駆動力の抑制を継続するようにした従来の車両の制御装置を、外付け型のSBW方式の車両に適用した場合には、以下のような問題が発生する。
【0162】
すなわち、外付け型のSBW方式の車両に従来の車両の制御装置を適用した場合においては、ディテント機構の作動状態に基づいてシフトレンジの切り替えを判定すると、油温が低く作動油の粘度が高いために油圧の応答性が悪い場合には、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態が完全に切り替わっていないにもかかわらずディテント機構の作動状態に基づいて実シフトレンジを判定してしまい、駆動力の抑制を終了する。その結果、油圧の応答性が悪いことによって解放側係合装置の作動状態が完全に解放状態とはなっておらず、半係合状態となっていても、シフトレンジの切り替えが完了したと判定して駆動力の抑制を終了してしまう。このため、シフトレンジの切り替え中にアクセルペダル81が踏み込まれた場合には、入力操作とは異なる車両の挙動が発生してしまう。
【0163】
これに対し、本発明に係る車両の制御装置を外付け型のSBW方式の車両に適用した場合には、駆動力制御手段は、解放側係合装置の作動状態が解放状態であると作動状態検出手段によって検出されたときに駆動力の抑制を終了するため、上述のように油圧の応答性が悪い場合においても、解放側係合装置の作動状態が完全に解放状態となってから駆動力の抑制を終了することができる。その結果、解放側係合装置の作動状態が解放状態となるまでは駆動力を抑制することができるので、シフトレンジの切り替え中にアクセルペダル81が踏み込まれたとしても、入力操作とは異なる車両の挙動を防止することができる。
【0164】
また、上述した本発明に係る実施の形態においては、ECU100は、駆動力要求量と駆動力指示量との差分を算出するものとして説明したが、これに限られず、駆動力指示量の代わりに、エンジン11において実際に発生された駆動力発生量を用いてもよい。この場合には、車両10はクランクシャフト13にかかるトルクを検出するトルクセンサを備える。これにより、車両10を走行させる駆動力をより正確に検出することができるので、本発明に係る駆動力の抑制の精度をさらに向上させることができる。
【0165】
また、上述した本発明に係る実施の形態においては、シフトレバー8はモーメンタリ式のシフトレバーにより構成されるものとして説明したが、この他、従来のように、切り替えられた操作位置を維持する通常のシフトレバーにより構成されていてもよい。
【0166】
また、上述した本発明に係る実施の形態においては、1つのECUを有するものとして説明したが、これに限らず、複数のECUによって構成されるものであってもよい。例えば、エンジン11の出力を調節するE−ECU、変速機構20における変速を行うT−ECUによって、本実施の形態のECU100が構成されるものであってもよい。この場合、各ECUは、必要な情報を相互に入出力する。
【0167】
また、上述した本発明に係る実施の形態においては、動力源としてガソリンを燃料とするエンジン11を用いた車両10の場合について説明したが、これに限らず、モーターを動力源とする電気自動車、水素を燃料とするエンジンを動力源とする水素自動車、あるいは、エンジンとモーターの双方を用いるハイブリッド車両においても、本発明を適用することができる。
【0168】
さらに、上述した本発明に係る実施の形態における変速機構20のような有段式の変速機構を備えた車両に限らず、動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に、車両の前後進を切り替えるための前進用係合装置および後進用係合装置を有する前後進切り替え装置と、プライマリプーリおよびセカンダリプーリ並びに該両プーリに巻き掛けられたベルトを有する無段変速機と、を備えた車両にも、本発明を適用することができる。
この場合には、例えばDレンジからRレンジへのシフトレンジの切り替えの際、駆動力制御手段は、切り替え要求検出手段によりシフトレンジの切り替え要求が検出された場合に動力源の駆動力の抑制を開始し、解放側係合装置としての前進用係合装置の作動状態が解放状態であると作動状態検出手段によって検出されてから、係合側係合装置としての後進用係合装置の作動状態が係合状態となるまでの間に、動力源の駆動力の抑制を終了する。
【0169】
具体的には、駆動力制御手段は、切り替え要求検出手段によりシフトレンジの切り替え要求が検出された場合に、動力源の駆動力の抑制を開始し、解放側摩擦係合装置としての前進用係合装置の作動状態が解放状態であると作動状態検出手段によって検出されたときに、動力源の駆動力の抑制を終了する。
これにより、本発明を、無段変速機を備えた車両に適用した場合においても、上述した効果が得られる。
【0170】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、内蔵型のシフト・バイ・ワイヤ方式の車両においてもシフトレバーの操作時に駆動力の抑制を実行することができ、入力操作と異なる車両の挙動を防止することができるとともに、車両の挙動に対して違和感を覚えさせることを防止することができるという効果を有し、自動変速機を搭載した車両の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0171】
6 スロットルバルブ
8 シフトレバー
10 車両
11 エンジン(動力源)
12 自動変速機
20 変速機構(動力伝達機構)
23 第1セット
24 第2セット
44 C1クラッチ
46 C2クラッチ
48 C3クラッチ
50 C4クラッチ
52 B1ブレーキ
54 B2ブレーキ
60 油圧制御装置
70 エンジン回転数センサ
71 吸入空気量センサ
72 スロットルセンサ(指示量検出手段)
73 車速センサ
74 ブレーキセンサ
75 タービン回転数センサ
76 シフトセンサ(操作位置検出手段)
77 油温センサ(油温検出手段)
78 冷却水温センサ(水温検出手段)
80 アクセルセンサ(要求量検出手段)
81 アクセルペダル
84、85 油圧センサ
100 ECU(切り替え要求検出手段、伝達機構制御手段、駆動力制御手段、作動状態検出手段、作動装置特定手段、算出手段、入力レンジ検出手段、シフトレンジ記憶手段、レンジ切り替え判定手段)
111〜116 SL1〜SL6リニアソレノイドバルブ(伝達機構制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生させる動力源と、前進用係合装置および後進用係合装置を含む複数の係合装置の作動状態に応じて前記動力源の駆動力の方向を切り替えて伝達する動力伝達機構と、シフトレンジの切り替え要求を検出する切り替え要求検出手段と、前記切り替え要求検出手段により検出されたシフトレンジの切り替え要求に基づいて前記係合装置の作動状態を切り替える伝達機構制御手段と、を備えた車両の制御装置において、
前記動力源の駆動力を制御する駆動力制御手段と、
前記動力伝達機構の係合装置の作動状態が係合状態であるか解放状態であるかを検出する作動状態検出手段と、
前記切り替え要求検出手段により前記シフトレンジの切り替え要求が検出された場合に、前記切り替え要求に基づいて、前記係合装置のうち作動状態を切り替える少なくとも解放側係合装置と係合側係合装置とを特定する作動装置特定手段と、を備え、
前記伝達機構制御手段は、前記作動装置特定手段により特定された前記解放側係合装置の作動状態を解放状態に切り替えるとともに、前記係合側係合装置の作動状態を係合状態に切り替え、
前記駆動力制御手段は、前記切り替え要求検出手段により前記シフトレンジの切り替え要求が検出された場合に、前記動力源の駆動力の抑制を開始し、前記解放側係合装置の作動状態が解放状態であると前記作動状態検出手段によって検出されてから、前記係合側係合装置の作動状態が係合状態となるまでの間に前記動力源の駆動力の抑制を終了することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記駆動力制御手段は、前記解放側係合装置の作動状態が解放状態であると前記作動状態検出手段によって検出されたときに、前記動力源の駆動力の抑制を終了することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記伝達機構制御手段は、前記係合装置の作動状態を作動油の油圧を調圧することにより切り替え、
前記作動状態検出手段は、前記係合装置に供給される作動油の油圧を検出することにより、前記係合装置の作動状態を検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記解放側係合装置は複数存在し、
前記作動状態検出手段は、前記複数の解放側係合装置に供給される作動油の全ての油圧が前記解放状態に対応する解放圧以下となった場合に前記解放側係合装置の作動状態が解放状態であると検出することを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記複数の係合装置に供給される作動油の温度を検出する油温検出手段と、
前記動力源を冷却するための冷却水の温度を検出する水温検出手段と、を備え、
前記駆動力制御手段は、前記油温検出手段によって検出された作動油の温度および前記水温検出手段によって検出された冷却水の温度のうち、いずれかが所定温度以下である場合に、前記動力源の駆動力の抑制を実行することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記動力源に要求される駆動力要求量を検出する要求量検出手段と、
前記要求量検出手段によって検出された駆動力要求量に応じて前記駆動力制御手段に指示された駆動力指示量を検出する指示量検出手段と、
前記要求量検出手段によって検出された駆動力要求量と前記指示量検出手段によって検出された駆動力指示量との差分を算出する算出手段と、を備え、
前記駆動力制御手段は、前記動力源の駆動力の抑制の終了後において、前記算出手段によって算出された差分が所定値より大きい場合には、前記差分が前記所定値以下になるまで、前記駆動力要求量に対する前記駆動力指示量の復帰速度を制限することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記切り替え要求検出手段は、複数の操作位置のうちいずれかの操作位置に操作される操作部材の操作位置を検出し、入力されたシフトレンジを特定する入力レンジ検出手段と、前記入力レンジ検出手段によって検出されたシフトレンジを記憶するシフトレンジ記憶手段と、前記入力レンジ検出手段に特定されたシフトレンジが、前記シフトレンジ記憶手段によって既に記憶されたシフトレンジと異なる場合に、前記シフトレンジの切り替え要求と判定するレンジ切り替え判定手段と、を備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−242677(P2010−242677A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94244(P2009−94244)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】