説明

車両の制御装置

【課題】エンジンの自動停止、自動再始動を行う車両において、登坂路での停車時における車両のずり下がりを好適に防止することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1の自動停止、自動再始動を行う電子制御ユニット11は、エンジン1の停止中の登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定する。そして電子制御ユニット11は、ずり下がりが発生すると予測されたときには、車両のずり下がりが発生する停車時迄にエンジン1の再始動が完了するように同エンジン1の再始動を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの自動停止、自動再始動を行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、信号待ちのような停車中にエンジンを自動停止するとともに、運転者の発進操作に応じてエンジンを自動再始動することで、燃料消費の節約や排気エミッションの向上を図るエンジン自動停止再始動装置が実用されている。そして近年には、停車以前の車両の減速中からエンジンを停止させる装置も提案されている。
【0003】
そして従来、特許文献1に記載のように、ブレーキ踏み量が第1閾値X以上であることを条件にエンジンを自動停止し、ブレーキ踏み量が第2閾値Y以下であることを条件にエンジンを自動再始動するとともに、それら第1及び第2閾値を車速に応じて可変とする車両の制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−35175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トルクコンバーター付き自動変速機を搭載するAT車では、エンジンのアイドル時にも、クリープ現象による車両前方向への推力が発生している。なお、クリープ現象とは、AT車において、シフトレバーが走行位置にあるときにアクセルペダルを踏み込まなくても車両がゆっくりと前進する現象であり、この現象は、エンジンのアイドル時にもトルクコンバーターが若干の動力を駆動輪側に伝達するために発生する。
【0006】
登坂路での停車中も、エンジンが運転されていれば、クリープ現象によるトルク(クリープトルク)が作用しているため、比較的小さいブレーキ踏み量で車両のずり下がりを防止することができる。しかしながら、このときのエンジンが自動停止されていれば、クリープトルクが作用しないため、ブレーキ踏み量が小さいと、重力に抗し切れずに車両が坂路をずり下がることがある。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、エンジンの自動停止、自動再始動を行う車両において、登坂路での停車時における車両のずり下がりを好適に防止することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、エンジン(1)の自動停止、自動再始動を行う車両の制御装置(11)としての請求項1に記載の発明は、エンジン(1)が停止された状態での登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定し(S100,S200)、ずり下がりが発生すると判定されたときには、車両のずり下がり距離が許容距離(La)を超える迄にエンジン(1)の再始動が完了するように同エンジン(1)の再始動を開始する(S103,S204)ようにしている。
【0009】
上記構成では、エンジン停止中の登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かが判定されるようになる。そして、ずり下がりが発生すると予測されたときには、車両のずり下がり距離が許容距離を超える迄に完了するようにエンジンの再始動が開始されるようになる。そのため、ブレーキペダルの踏み量が小さく、そのままでは停車後に路面勾配による車両のずり下がりが発生するようなときには、ずり下がり距離が許容距離内にあるうちにエンジンが再始動されるようになる。エンジンが再始動されれば、クリープ現象によるトルクが作用するため、比較的小さいブレーキ踏み量でも、路面勾配に抗して車両を停止させることができる。そのため、上記構成では、登坂路での停車時における車両のずり下がりを好適に防止することができる。
【0010】
なお、ずり下がりが発生するか否かの判定は、請求項2によるように、ブレーキペダル(5)の踏力に応じてブレーキ圧を発生するマスターシリンダー(7)の発生液圧であるマスターシリンダー圧(PMC)の検出結果と車体加速度(G)の検出結果とに基づき行うことができる。またずり下がりが発生するか否かの判定は、請求項3によるように、車両に作用する重力の車両後方向の成分(Fg)が、車両の制動力(Fpmc)を上回るときに車両のずり下がりが発生するとして行うことができる。更にずり下がりが発生するか否かの判定は、請求項4によるように、重力により発生する車両後方向の加速度(Ag)が車両の制動加速度(Apmc)を上回るときに車両のずり下がりが発生するとして行うことも可能である。
【0011】
なお、車両のずり下がり距離を「0」に抑えたい場合には、請求項5によるように、許容距離(La)を「0」とするとともに、停車迄の予測時間(T1)が、記エンジン(1)の再始動必要時間に達した時点でエンジン(1)の再始動を開始するようにすると良い。また、停車後の車両のずり下がり距離を所定の許容距離内に抑えたい場合には、請求項6によるように、停車迄の予測時間(T1)と、停車から車両のずり下がり距離が許容距離(La)となる迄の時間(T2)との和が、エンジン(1)の再始動必要時間に達した時点でエンジン(1)の再始動を開始するようにすると良い。
【0012】
ところで、エンジンが運転されていてクリープトルクが作用しているときにも、路面勾配が大きければ、一定のずり下がりが発生する。このときのずり下がりは、路面勾配が急な程、大きい。したがって、運転者の感覚からすると、路面勾配が急な程、許容される車両のずり下がり距離は大きくなる。そこで請求項7では、路面勾配(θ)が急な程、上記許容距離(La)に大きい値を設定するので、車両の挙動を運転者の感覚に合致させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジンの自動停止、自動再始動を行う車両において、登坂路での停車時における車両のずり下がりを好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態についてその制御装置の適用される車両の構成を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の制御態様の一例を示すタイムチャート。
【図3】登坂路に停車中の車両に作用する力の関係を示す図。
【図4】第1実施形態に採用される再始動判定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2実施形態の制御態様の一例を示すタイムチャート。
【図6】同実施形態に採用される再始動判定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】本発明の第3実施形態における路面勾配と許容距離との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明の車両の制御装置を具体化した第1の実施の形態を、図1〜図4を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態は、トルクコンバーター付き自動変速機を搭載するAT車に本発明を適用したものとなっている。
【0016】
図1は、本実施の形態の車両の制御装置が適用される車両の構成を示している。同図に示すように、この車両では、エンジン1の発生する動力は、トルク増幅作用を持つ流体継手であるトルクコンバーター2を有した自動変速機3を介して駆動輪4へと伝達されるようになっている。
【0017】
また、この車両には、エンジン1の吸気負圧を利用してブレーキペダル5の踏力を倍力して伝えるブレーキブースター6、ブレーキブースター6により倍力されたブレーキペダル5の踏力に応じてブレーキ液圧(マスターシリンダー圧PMC)を発生させるマスターシリンダー7を備えている。また、この車両には、マスターシリンダー7の発生するブレーキ液圧に応じて動作して、駆動輪4及び非駆動輪9にそれぞれ設けられたディスクブレーキ装置10に制動力を付与するブレーキアクチュエーター8が設けられてもいる。
【0018】
こうした車両のエンジン1及びブレーキアクチュエーター8は、電子制御ユニット11により制御されている。電子制御ユニット11には、車輪速VS0を検出する車輪速センサー12、車体の前後方向に作用する加速度(車体加速度G)を検出するGセンサー13、マスターシリンダー7の発生液圧であるマスターシリンダー圧PMCを検出するPMCセンサー14を始め、車両の運転状況を検出する各種センサーの検出信号が入力されている。なお、Gセンサー13の検出値は、車両重心が後方に移動する場合には、正の値となり、車両重心が前方に移動するときには、負の値となる。
【0019】
そして電子制御ユニット11は、それらセンサーの検出結果から把握される車両の運転状況に応じてエンジン制御を実行する。また電子制御ユニット11は、ブレーキアクチュエーター8の制御ソレノイドを操作することで、ABS(Antilock Brake System )やブレーキアシスト、ESC(Electronic Stability Control)といったブレーキ制御を実行する。
【0020】
以上のように構成されたトルクコンバーター2付きの自動変速機3を搭載する車両では、エンジン1のアイドル時には、クリープ現象が発生する。クリープ現象とは、AT車において、シフトレバーが走行位置にあるときにアクセルペダルを踏み込まなくても車両がゆっくりと前進する現象であり、この現象は、エンジンのアイドル時にもトルクコンバーターが若干の動力を駆動輪側に伝達するために発生する。
【0021】
一方、この車両では、燃費性能やエミッション性能を向上させるべく、車両走行中に所定の停止条件の成立に応じてエンジン1を停止し、その後、所定の始動条件の成立に応じてエンジン1を再始動させる、いわゆるエコラン制御が実施されている。そのため、この車両では、停車中やアクセルオフによる減速中などには、エンジン1が自動的に停止されるようになっている。
【0022】
さて、こうした車両では、登坂路において停車する際に、エンジン1が運転されていれば、クリープ現象によるトルク、すなわちクリープトルクが作用するため、そのクリープトルクを利用して車両のずり下りに抗することができる。一方、登坂路での停車時にエンジン1が停止されていれば、クリープトルクは作用しないため、ブレーキペダル5を強く踏み込まなければ、車両が坂路をずり下ってしまうようになる。
【0023】
そこで本実施の形態では、エンジン1の停止中の登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定するようにしている。そして、ずり下がりが発生すると判定されたときには、車両のずり下がり距離が「0」のうちに完了するようにエンジン1の再始動を開始するようにしている。こうした本実施の形態では、ブレーキペダル5の踏み量が小さく、そのままでは停車後に路面勾配による車両のずり下がりが発生するようなときには、ずり下がりが発生しないうちにエンジン1が再始動されるようになる。エンジン1が再始動されれば、クリープトルクが作用するため、比較的小さいブレーキ踏み量でも、路面勾配に抗して車両を停止させることができる。そのため、本実施の形態の車両の制御装置では、登坂路での停車時における車両のずり下がりが好適に防止されるようになる。
【0024】
図2は、こうした本実施の形態の制御態様の一模式的に例を示している。同図には、登坂路での車両の停車前後のブレーキ踏み量、マスターシリンダー圧PMC、Gセンサーで出力される車体加速度G、エンジン回転速度、車輪速VS0及び車輪加速度DVS0の推移を示している。同図の例では、時刻t2に車輪速VS0が「0」となり、車両が停車している。
【0025】
本実施の形態では、これに先立つ車両の減速中に、マスターシリンダー圧PMCや車体加速度G等の検出結果から停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定するようにしている。そしてずり下がりが発生すると判定されたときには、ずり下りの回避が停車時に間に合うように、停車に先立つ時刻t1より、エンジン1の再始動を開始するようにしている。
【0026】
エンジン停止での走行状態から、ずり下がり発生が予測されてエンジンが再始動された状態を経て車両が停止に至るまでの詳細を図2で説明する。時刻t0の時点では、車両走行中に所定の停止条件が満たされてエンジン1が停止し、運転車がブレーキを踏みつつ走行している状態である。すなわち、ブレーキ踏み量は正の値でエンジン回転速度が「0」、車輪速VS0が一定の割合α(負の値)で減少し、その割合αは車輪加速度に等しい。
【0027】
なお、ここでは、停車に先立つ車両の減速中に、車輪速VS0を車輪加速度DVS0で除算することで求められる車両の停車迄の予測時間T1を求めるようにしている。そしてその求められた予測時間T1がエンジン1の再始動の開始からその終了までに必要な時間TENGに達した時点t1で、エンジン1の再始動を開始するようにしている。
【0028】
詳細には、車両の停止迄の予測時間T1は、車輪速が減少していくに従い、減少していく。そして予め車両毎に定められた時間TENGまで小さくなると、エンジン1の再始動が開始される。このように、でんきるだけ車輪速が小さくなるまでエンジン1の再始動をしないようにすることにより、エコノミーランニング制御の燃費削減効果を維持させつつ、ずり下がりの防止ができる。
【0029】
時刻t1の時点は、運転者がブレーキを踏みつつ走行していてエンジン1の再始動が開始される。それに伴い車輪加速度が割合αから次第に増加し始め、時刻t1以降、車輪速減少の勾配が小さくなる。すなわち、時刻t1以降、時刻t2までの間は、ブレーキ踏み量は正の値であり、エンジン回転速度は次第に増加するものである。車輪加速度は、割合αから次第に「0」に向ってエンジン1の始動に応じて曲線的に増加するものであり、車輪速の時間微分値が車輪加速度であるが、図2の時刻t1以降、時刻t2までの車輪速VS0のラインは、割合αより勾配の小さい、簡略化した直線で示してある。車体加速度Gは、車輪加速度と同様のカーブを示す。
【0030】
また本実施の形態では、ずり下がり発生の可否判定を、マスターシリンダー圧PMCや車体加速度G等の検出結果に基づき行うようにしている。より具体的には、車体加速度Gの検出結果より把握される、重力により発生する車両後方向の加速度Agが、マスターシリンダー圧PMCの検出結果より把握される車両の制動加速度Apmcを上回るときに車両のずり下がりが発生すると判定するようにしている。
【0031】
なお、ここでの加速度Ag、制動加速度Apmcは、次のようなパラメーターとなっている。図3は、登坂路で停車中の車両に作用する力の関係を示している。ここで登坂路の傾斜角を「θ」とし、車両に作用する重力を「g」とすると、車両は重力gの作用により、「g・sinθ」の力Fgで後方に引かれることになる。この力Fgは、車両に作用する重力gの車両後方向の成分である。そして上記加速度Agは、この力Fgを車重Mで除算した(Fg/M)ものとなる。ちなみに、この加速度Agは、Gセンサー13の検出する車体加速度Gから、車輪速センサー12の検出結果から求められる車輪加速度を減算することで求めることができる。
【0032】
一方、ブレーキペダル5が踏まれていれば、車両には、上記のような車両後方に向う力Fgに抗するかたちで制動力Fpmcが発生する。上記制動加速度Apmcは、この制動力Fpmcを車重Mで除算したもの(Fpmc/M)であり、その値は、マスターシリンダー圧PMCや、車両が走行中には、演算による車体加速度から走行抵抗等による加速度を除く事で求めることができる。
【0033】
この制動加速度Apmcが上記加速度Ag以上であれば、車両は静止し、加速度AFg未満であれば、車両は坂路をずり下がることになる。したがって、制動加速度Apmcが上記加速度Ag未満であるか否かによって、車両のずり下がりが発生するか否かを判定することができる。
【0034】
時刻t2の時点は、エンジン1の再始動が完了し、それにより増加した車輪加速度の値が「0」に至り、それに伴い車輪速度も「0」に至る時点である。車体加速度Gは、時刻t2以後に、上述の「Ag=−Fg/M」値がGセンサー13より出力される。なお、この「Ag」は正の値であり、「Fg」は図3右方向を正の方向とし、Gセンサー出力値は、車体が前方に加速する際に出力される方向を正としている。
【0035】
図4は、こうした本実施の形態に採用される再始動判定ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、エンジン1が停止した状態での登坂走行中に、電子制御ユニット11により、一定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0036】
さて本ルーチンが開始されると、まずステップS100において、制動加速度Apmcと上記加速度Agとの対比により、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かの判定が行われる。ここで制動加速度Apmcが加速度Ag以上であり、停車後のずり下がりが発生しないと判定されたときには(S100:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0037】
一方、制動加速度Apmcが加速度Ag未満であり、停車後のずり下がりが発生すると判定されたときには(S100:YES)、続くステップS101において、車輪速度を車輪加速度で除算することで、車両停車迄の予測時間T1が演算される。そして続くステップS102で、演算された予測時間T1がエンジン1の再始動必要時間以下であるか否かが判定される。
【0038】
ここで予測時間T1がエンジン1の再始動必要時間を超えていれば(S102:NO)、未だエンジン1の再始動を開始する必要はないとして、そのまま今回の処理が終了される。一方、予測時間T1がエンジン1の再始動必要時間以下であれば(S102:YES)、ステップS103においてエンジン1の再始動が開始される。
【0039】
以上説明した本実施の形態の車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、エンジン1の自動停止、自動再始動を行う電子制御ユニット11は、エンジン1が停止された状態での登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定するようにしている。そして電子制御ユニット11は、ずり下がりが発生すると判定されたときには、車両のずり下がりが発生する停車時迄に完了するようにエンジン1の再始動を開始するようにしている。より具体的には、停車後の車両のずり下がりの発生が予測されるときには、停車迄の予測時間T1がエンジン1の再始動必要時間に達した時点でエンジン1の再始動を開始するようにしている。
【0040】
こうした本実施の形態では、ブレーキペダル5の踏み量が小さく、そのままでは停車後に路面勾配による車両のずり下がりが発生するようなときには、ずり下がりが発生しないうちにエンジン1が再始動されるようになる。エンジン1が再始動されれば、クリープトルクが作用するため、比較的小さいブレーキ踏み量でも、路面勾配に抗して車両を停止させることができる。そのため、本実施の形態では、登坂路での停車時における車両のずり下がりを好適に防止することができる。
【0041】
(2)本実施の形態では、停車後のずり下がりが発生するか否かの判定を、ブレーキペダル5の踏力に応じてブレーキ圧を発生するマスターシリンダー7の発生液圧であるマスターシリンダー圧PMCの検出結果と車体加速度Gの検出結果に基づき行うようにしている。より詳しくは、重力により発生する車両後方向の加速度Agを車体加速度Gより求めるとともに、車両の制動加速度Apmcをマスターシリンダー圧PMCより求めるようにしている。そして加速度Agが制動加速度Apmc上回るときに車両のずり下がりが発生するとして、そうした判定を行うようにしている。そのため、車両のずり下がりの防止に係るエンジン1の再始動の要否を的確に判定することができる。
【0042】
(3)本実施の形態では、停車後のずり下がりが予測されるときには、停車迄の予測時間T1が、エンジン1の再始動必要時間に達した時点でエンジン1の再始動を開始するようにしている。そのため、停車後の車両のずり下がり距離を「0」に抑えることができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の車両の制御装置を具体化した第2の実施の形態を、図5及び図6を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施の形態にあって、上記実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0044】
上述のように、停車の車両のずり下がりの発生が予測されるときに、停車迄に完了するようにエンジン1の再始動を開始すれば、クリープトルクの欠如による車両のずり下がりを回避することができる。こうした登坂路での停車時の車両のずり下がりは、多少であれば許容しても良いという考えもある。そしてそうした考えに則る場合には、停車時迄にエンジン1の再始動が間に合わず、停車後の車両のずり下がりが発生したとしても、そのずり下がりの距離が許容距離La内にあるうちにエンジン1を再始動すれば良いことになる。
【0045】
そこで本実施の形態では、エンジン1の停止中の登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定し、ずり下がりが発生すると予測されたときには、車両のずり下がり距離が許容距離Laを超える迄に完了するようにエンジン1の再始動を開始するようにしている。
【0046】
より具体的には、本実施の形態では、エンジン1停止中の登坂走行時に、停車迄の予測時間T1と、停車から車両のずり下がり距離が許容距離Laとなる迄の時間T2とを求めるようにしている。そして予測時間T1と上記時間T2との和が、エンジン1の再始動完了までに必要な時間TENGに達した時点でエンジン1の再始動を開始するようにしている。そのため、本実施の形態では、図5に示すように、車両の停車時刻である時刻t4から上記時間T2が経過した後の時刻t5にエンジン1の再始動が完了するように、その時刻t5よりもエンジン1の再始動必要時間前の時刻t3にエンジン1の再始動が開始されるようになる。これにより、時刻t4から時刻t5までの間に、車輪速VS0が「0」未満になる。すなわち、ずり下がりが発生するが、適切に設定したずり下がり時間T2期間中のずり下がり距離を許容距離Laに抑えることができる。なお、上記時間T2は、下式(1)により求めることができる。
【0047】
【数1】

図6は、こうした本実施の形態に採用される再始動判定ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、エンジン停止による登坂路走行中に、電子制御ユニット11により、一定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0048】
さて本ルーチンが開始されると、まずステップS200において、制動加速度Apmcと上記加速度Agとの対比により、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かの判定が行われる。ここで制動加速度Apmcが加速度Ag以上であり、停車後のずり下がりが発生しないと判定されたときには(S200:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0049】
一方、制動加速度Apmcが加速度Ag未満であり、停車後のずり下がりが発生すると判定されたときには(S200:YES)、続くステップS201において、車輪速度を車輪加速度で除算することで、車両停車迄の予測時間T1が演算される。また続くステップS202において、停車からずり下がり距離が許容距離Laとなる迄の時間T2が演算される。
【0050】
そして続くステップS203で、演算された予測時間T1と時間T2との和(T1+T2)がエンジン1の再始動必要時間以下であるか否かが判定され、以下であれば(S203:YES)、ステップS204においてエンジン1の再始動が開始される。
【0051】
以上説明した本実施の形態の車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(4)本実施の形態では、エンジン1の自動停止、自動再始動を行う電子制御ユニット11は、エンジン1が停止された状態での登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定するようにしている。そして電子制御ユニット11は、ずり下がりが発生すると判定されたときには、車両のずり下がり距離が許容距離Laを超える迄に完了するようにエンジン1の再始動を開始するようにしている。より詳しくは、電子制御ユニット11は、停車後の車両のずり下がりが予測されるときには、停車迄の予測時間T1と、停車から車両のずり下がり距離が許容距離Laとなる迄の時間T2との和が、エンジン1の再始動必要時間に達した時点でエンジン1の再始動を開始するようにしている。
【0052】
こうした本実施の形態では、ブレーキペダル5の踏み量が小さく、そのままでは停車後に路面勾配による車両のずり下がりが発生するようなときには、ずり下がり距離が許容距離La内にあるうちにエンジン1が再始動されるようになる。エンジン1が再始動されれば、クリープ現象による推力が作用するため、比較的小さいブレーキ踏み量でも、路面勾配に抗して車両を停止させることができる。そのため、本実施の形態では、登坂路での停車時における車両のずり下がりを好適に防止することができる。
【0053】
(5)本実施の形態では、停車後のずり下がりが発生するか否かの判定を、ブレーキペダル5の踏力に応じてブレーキ圧を発生するマスターシリンダー7の発生液圧であるマスターシリンダー圧PMCの検出結果と車体加速度Gの検出結果に基づき行うようにしている。より詳しくは、重力により発生する車両後方向の加速度Agを車体加速度Gより求めるとともに、車両の制動加速度Apmcをマスターシリンダー圧PMCより求めるようにしている。そして加速度Agが制動加速度Apmcを上回るときに車両のずり下がりが発生するとして、そうした判定を行うようにしている。そのため、車両のずり下がりの防止に係るエンジン1の再始動の要否を的確に判定することができる。
【0054】
(6)本実施の形態では、停車迄の予測時間T1と、停車から車両のずり下がり距離が許容距離Laとなる迄の時間T2との和が、エンジン1の再始動必要時間に達した時点でエンジン1の再始動を開始するようにしている。そのため、停車後の車両のずり下がりを許容できる範囲内に留めることができる。
【0055】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の車両の制御装置を具体化した第3の実施の形態を、図7を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施の形態にあって、上記実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0056】
エンジン1が運転されていてクリープトルクが作用しているときにも、路面勾配θが大きければ、一定のずり下がりが発生する。このときのずり下がりは、路面勾配θが急な程、大きくなる。したがって、運転者の感覚を考慮して設定すると、路面勾配θが急な程、許容される車両のずり下がり距離は大きくなる。
【0057】
そこで本実施の形態では、路面勾配θが急な程、上記許容距離Laに大きい値を設定するようにしている。図7は、こうした許容距離Laの設定態様の一例を示している。同図の設定例では、路面勾配θが一定値に達するまでは、許容距離Laを「0」に設定するとともに、路面勾配θがその一定値を超えた後は、路面勾配θの増加に応じて許容距離Laを増大させるようにしている。
【0058】
以上説明した本実施の形態によれば、上記(4)〜(6)に記載の効果に加え、更に次の効果を奏することができる。
(7)本実施の形態では、路面勾配θが急な程、許容距離Laに大きい値を設定するようにしている。そのため、路面勾配が急な程、ずり下がりが大きくなるという運転者の感覚に、車両の挙動を合致させることができる。
【0059】
なお、上記各実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、重力により発生する車両後方向の加速度Agが車両の制動加速度Apmcを上回るときに車両のずり下がりが発生するとしてその可否判定を行うようにしていた。こうした判定は、車両に作用する重力の車両後方向の成分である力Fgが、車両の制動力Fpmcを上回るときに車両のずり下がりが発生するとしても行うことができる。
【0060】
・上記実施の形態では、ブレーキペダル5の踏力に応じてブレーキ圧を発生するマスターシリンダー7の発生液圧であるマスターシリンダー圧PMCの検出結果と車体加速度Gの検出結果とに基づき停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定するようにしていた。同様の判定を、他の検出値に基づいて行うことも可能である。例えばマスターシリンダー圧PMCの検出値に代えてブレーキペダル5の踏み込み量の検出値を使うことでも、車両の制動力や制動加速度を確認することは可能である。この場合には、ブレーキペダル5の踏み込み量を検出するためのセンサーを車両に設けることになる。更に車体加速度Gによりエンジンが発生する加速度、ころがり抵抗による加速度、路面勾配加速度、空気抵抗等による加速度を除くことでも、ブレーキによる加速度を確認することができる。また車体のピッチを検出するセンサーを設け、そのセンサーから路面勾配θを把握して上記判定を行うようにすることも可能である。
【0061】
・上記実施の形態では、車輪速、車輪加速度を用いているが、車体速度及びその微分値(車体加速度)を用いるようにしても良い。車体速度は、車輪速センサーの値を用いて算出したものや、カーナビゲーションシステムで取得された値などを用いることが可能である。
【0062】
・上記実施の形態では、各輪にディスクブレーキ装置の設けられた車両に本発明の制御装置を適用した場合を説明したが、本発明は、車輪の一部若しくは全部にドラムブレーキ装置が設けられた車両にも同様に適用することができる。
【0063】
・上記実施の形態では、2つの駆動輪4と2つの非駆動輪9とを備える2輪駆動車に本発明の制御装置を適用した場合を説明したが、本発明は、4輪駆動車などの他の駆動方式の車両にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…エンジン、2…トルクコンバーター、3…自動変速機、4…駆動輪、5…ブレーキペダル、6…ブレーキブースター、7…マスターシリンダー、8…ブレーキアクチュエーター、9…非駆動輪、10…ディスクブレーキ装置、11…電子制御ユニット、12…車輪速センサー、13…Gセンサー、14…PMCセンサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)の自動停止、自動再始動を行う車両の制御装置(11)であって、
エンジン(1)が停止された状態での登坂走行時に、停車後の車両のずり下がりが発生するか否かを判定し(S100,S200)、ずり下がりが発生すると判定されたときには、車両のずり下がり距離が許容距離(La)を超える迄にエンジン(1)の再始動が完了するように同エンジン(1)の再始動を開始する(S103,S204)
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記判定は、ブレーキペダル(5)の踏力に応じてブレーキ圧を発生するマスターシリンダー(7)の発生液圧であるマスターシリンダー圧(PMC)の検出結果と車体加速度(G)の検出結果とに基づき行われる
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記判定は、車両に作用する重力の車両後方向の成分(Fg)が、車両の制動力(Fpmc)を上回るときに車両のずり下がりが発生するとして行われる
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記判定は、重力により発生する車両後方向の加速度(Ag)が車両の制動加速度(Apmc)を上回るときに車両のずり下がりが発生するとして行われる
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記許容距離(La)を「0」とするとともに、停車迄の予測時間(T1)が、前記エンジン(1)の再始動必要時間に達した時点で前記エンジン(1)の再始動を開始する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
停車迄の予測時間(T1)と、停車から車両のずり下がり距離が前記許容距離(La)となる迄の時間(T2)との和が、前記エンジン(1)の再始動必要時間に達した時点で前記エンジン(1)の再始動を開始する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
路面勾配(θ)が急な程、前記許容距離(La)に大きい値を設定する
ことを特徴とする請求項1〜4、及び6のいずれか1項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−7554(P2012−7554A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144984(P2010−144984)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】