説明

車両の動力システムの制御方法

【課題】安価な構成で、車両の走行環境や運転状態を判断して車両の動力システムを制御する方法を提供する。
【解決手段】車両の動力システムの制御方法として、車両のドライバーの運転スタイルを表す車両のアクセルペダルやブレーキペダルの踏み込み回数を判定する工程と、アクセルペダルやブレーキペダルの踏み込み回数履歴(加速、減速履歴)を判定する工程と、加速、減速履歴に基づいて、動力システムを制御する工程を有する。また、加速、減速履歴を判定する工程はドライバーの動力要求を判定する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力システムの制御方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
過密地域を運転する際、車両の停止と発進が頻繁に繰り返されることがある。非過密地域を運転する際は、一定の車速で走行することが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ナビゲーション・システム及び距離センサーが、車両が過密地域で運転されているかどうかを判断するために使用され得る。例えば、ナビゲーション・システムは、車両が運転されている地域を表すことができ、そして、距離センサーはその地域内の他の車両との近接性を示すことができる。しかしながら、ナビゲーション・システムや距離センサーは、車両にコストや質量を加える場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態は、車両の動力システムの制御方法の形態をとる。その方法は、車両の加速及び減速履歴を判定する工程と、車両の加速及び減速履歴に基づいて動力システムを制御する工程とを有する。
【0005】
本発明の別の実施形態は、アクセルペダルとブレーキペダルの少なくとも一方から入力を受ける工程と、その入力に基づいてドライバーの運転スタイルを判定する工程と、ドライバーの運転スタイルに基づいて動力システムを制御する工程とを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施形態は、例えば、ペダル位置、ペダル位置の変化速度、車速、走行距離、減速及び/又は加速間の時間などに、車両に対するドライバーの入力を解釈することによって、車両の走行環境や運転状態を判断することができる。
【0007】
走行環境及び運転状態の情報は、エンジンの停止・始動態様及びパワートレインの作動ポイントの判定を修正することにより燃料経済性を改善するのに使用され得る。例えば、もし車両がエンジンが停止されるような状態、例えば、電動モードで動作しているならば、エンジンの始動、エンジンの停止、パワートレインの運転モード、バッテリ電力要求判定が、より良い燃料経済性を提供すべく最適化され得る。
【0008】
図1が、非線形の多入力単一出力(Multiple Input Single Output: MISO)のシングルトン−マンダミ(Singleton Mamdami)・ファジー制御器8のブロック図である。図1のファジー制御器8は、例えばドライバーの動力要求、ドライバーのブレーキ力要求、車速等の数個の車両パラメータに基づいて、走行環境/運転状態を判定するのに使用され得る。ドライバーの動力要求は、例えば、アクセルペダルの位置に基づき得る。ドライバーのブレーキ力要求は、例えば、ブレーキペダル位置に基づき得る。車速は、例えば、出力シャフトの速度に基づき得る。代替実施形態において、例えば、ルックアップ関数、適応制御、ニューラル・ネットワークなどの他のアルゴリズムが使用される場合もある。
【0009】
ファジー制御器8及び他のファジー制御器の出力は、下記の非ファジー化(defuzzier)式(1)を用いてクリスプ値(crisp value)に転換され得る。
【0010】
【数1】

【0011】
ここにおいて、Aは、全ての入力ファジー集合を含むベクトルである。μαjは、Jthルールの前件部(antecedent of the jth rule)からの組み合わされたメンバーシップ関数(combined membership value)であり、出力ファジー集合を現す。αは、1の値を持つ設計パラメータである。
【0012】
走行環境(交通状況)は、例えば、走行距離、経過時間及び2つの停止イベント間の最高車速に基づいて判定され得る。例えば、もし車両が300秒の間に20メートル走行し、時速2マイル(3.2キロメートル)の最高車速を達成した場合、ひどい渋滞と推定され得る。
【0013】
図2が、車両の一例としてのハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle:HEV)10の、ブロック図である。図2のHEV10は、ここで説明される制御ストラテジーを記述するために使用される車両の例である。例えば、電気自動車、燃料電池自動車、従来の自動車などの、他の形式の車両もこれらの制御ストラテジーを採用し得る。
【0014】
HEV10は、バッテリ12、モータ13、エンジン14、車輪16及びバッテリ制御モジュールやエンジン制御ユニットのような制御器18(単一の制御器でも複数の制御器から構成されてもよい)を含む。後述するように、制御器18は、バッテリ12及びエンジン14のいずれか、あるいは、両方が、図2の中の太線で示すように車輪16に動力を供給するように、バッテリ12及びエンジン14の動作を制御する。エンジン14はまた、モータ13に機械的動力を供給し得る。HEV10はまた、アクセルペダル20、ブレーキペダル22及び位置センサー24、26を含む。位置センサー24、26は、それぞれペダル20、22の位置を検知し、その情報を送る。速度センサー28は車輪16の速度を検知し、その情報を送る。制御器18はこの位置情報と速度情報を読み取り、そして、後述するように、バッテリ12及びエンジン14を制御するための制御ストラテジーへの入力として使用する。
【0015】
図2の制御器18は、バッテリ12、エンジン14、位置センサー24、26及び速度センサー28と、図2中に細い線で示すように、車両用コントローラ・エリア・ネットワークを介して通信する。代替実施形態において、制御器18は、バッテリ12、エンジン14、位置センサー24、26及び速度センサー28と、配線接続、無線接続、あるいは、それらの幾つかの組み合わせによって、通信する場合がある。
【0016】
図2の制御器18は、HEV10のドライバーの運転スタイルを判定し、そして、その情報に基づいてバッテリ12及びエンジン14を制御する。例えば、制御器18は、例えば1分間のような、所定の校正期間の間の、アクセルペダル20及び/又はブレーキペダル22の踏み込み回数を数える場合がある。例えば、もしブレーキペダル22が、例えば4回のような所定回数以上踏み込まれたならば、制御器18はドライバーが頻繁に加速及び減速を行う傾向を持つと判断し得る。さもなければ、制御器18は、ドライバーが安定した運転を行う傾向を持つと判断し得る。制御器18はまた、例えば、ある車速レンジに関してドライバーが頻繁に加速及び減速を行うかどうかを判断するために、ファジー技術を採用する場合がある。
【0017】
図3が、ドライバーの動力要求及び車速の測定値、即ち、前件部(antecedents)に基づいて、ドライバー状態、即ち、結果(consequent)を判定するための、そのようなファジー制御に使用されるルールベース・テーブルの例である。図3のテーブル例において、変数は以下のように規定される。
【0018】
p: 正方向の動力要求変化の履歴
n: 負方向の動力要求変化の履歴
Δtvl_u: 車速が低速側閾値を上回っている時間
Δtvl_l: 車速が低速側閾値を下回っている時間
Δtvm_u: 車速が中間閾値を上回っている時間
Δtvm_l: 車速が中間閾値を下回っている時間
Δtvh_u: 車速が高速側閾値を上回っている時間
Δtvh_l: 車速が高速側閾値を下回っている時間
【0019】
したがって、例えば、もし全ての前件部が”小さい”ならば、”初期状態”という結果が返される。例えば、もし幾つかの前件部が”小さい”で、他の前件が”大きい”ならば、異なる結果が返される。他の実施形態において、例えば、前件部が「小」、「中」、「大」というように、異なる数の前件部を持つ異なるルールが使用される場合がある。
【0020】
カウンターが、例えば図3を参照して記述されたΔtvl_uのような時間(期間)を判定するのに使用され得る。例えば、図4は、HEV10の速度の時間変化を表すグラフである。例えば1秒の各時間増分に関し、2進カウンターがHEV10の速度が、例えば時速20マイル(時速32キロメートル)の”低速側”閾値を上回っているか、あるいは、下回っているかを判定する場合がある。もしHEV10の速度が時速20マイル(時速32キロメートル)を上回っているならば、カウンターは「0」に戻る。もしHEV10の速度が時速20マイル(時速32キロメートル)を下回っているならば、カウンターは「1」に戻る。例えば40秒の校正期間の間、戻された「0」と「1」が合計され、時間Δtvl_uを判定する。例として、Δtvl_uが9秒になることがある。他のカウンターもまた、使用可能である。例えば、もしHEV10の速度が20マイル(時速32キロメートル)を上回っているならば、Δtvl_uに関するカウンター値は増やされない。例えば、もしHEV10の速度が20マイル(時速32キロメートル)を下回るならば、Δtvl_uに関するカウンター値は増やされる。
【0021】
各校正期間に関して、上述のように時間が評価されうる。例えば以下のようなテーブルに基づいて、所定の時間(例えば、Δtvl_u)が、”小”、”中”、”大”かが判定される。
【0022】
【表1】

代替実施形態において、”小さい”、”中程度”、”大きい”は、異なって規定され得る。
【0023】
pとPnは、ドライバーによる動力要求の変化に基づく。それらの差の絶対値(|Pp - Pn|)が、ドライバーが安定した運転を行う傾向を持つか、あるいは、ドライバーが頻繁に加速及び減速を行う傾向を持つかに関する指示値となり得る。例えば、もし|Pp - Pn|が”小”ならば、ドライバーは安定した運転を行っている。一方、もし|Pp - Pn|が”大”ならば、ドライバーは加速及び/又は減速を行っている。|Pp - Pn|が”小”か”大”かは、例えば以下のテーブルに基づいて判定され得る。
【0024】
【表2】

代替実施形態において、”小”及び”大”は、異なって規定され得る。
【0025】
図5が、制御器18によって実行される制御ブロック30の概略図である。図5の制御ブロック30は、入力としてアクセルペダル位置、ブレーキペダル位置及び車速を用いる。これらの入力を用いて、制御ブロック30は、例えば制御器メモリの中のルックアップ・テーブルを調べ、ドライバーのトルク要求を出力として与える。代替実施形態においては、制御ブロック30は、例えば上記の入力に基づいて、ドライバーのトルク要求を計算する場合がある。他の技術もまた、利用可能である。
【0026】
図6が、制御器18によって実行される制御ブロック32の概略図を示す。図6の制御ブロック32は、入力としてドライバーのトルク要求と車速を利用する。これらの入力を用いて、制御ブロック32は、例えば入力を積算して計算し、ドライバーによって要求される動力を算出する。代替実施形態において、制御ブロック32は、例えば、制御器メモリ内のルックアップ・テーブルを調べて、ドライバーによって要求される動力を判定する。別の技術もまた、利用可能で有る。
【0027】
図7が、制御器18によって実行される制御ブロック34の概略図を示す。図7の制御ブロック34は、入力としてドライバーの動力要求と、システムが利用可能な動力、例えば、バッテリ12及びエンジン14から引き出され得る最大動力とを利用する。これらの入力を用いて、制御ブロック34は、例えば入力を除算して計算し、正規化された動力要求を算出する。
【0028】
図8が、制御器18によって実行される制御ブロック36の概略図を示す。図8の制御ブロック36は、入力として正規化された動力要求を利用する。制御ブロック36は、例えばこの入力を微分して、動力の瞬間的な変化Piを算出する。
【0029】
制御ブロック30、32、34、36は、以下の式(2)、(3)の計算を実行することができる。例えばRは、ファジー集合のベクトルの実数を表し、毎秒、そのベクトル空間の中にPi値の組、P、P、Pなどを生じる。一例において、Piの正値が校正可能な大きさ(例えば20の値)を持つFIFO(first-in-first-out)バッファの中に格納される。同様に、Piの負値が校正可能な大きさ(例えば20の値)を持つFIFO(first-in-first-out)バッファの中に格納される。これらバッファに格納されたPi値は、Pp及びPnを生成するために、校正可能な所定の期間に亘って合計され得る。
【0030】
【数2】

ΔPiが正のとき
【0031】
【数3】

ΔPiが負のとき
【0032】
図2の制御器18は、上述のように判定された情報に基づいて、バッテリ12及びエンジン14に関する運転パラメータを調節し得る。例えば、もしドライバーが頻繁に停止を行う傾向を持ち、そして、低速で運転しているならば、制御器18はエンジン14が動いている間にバッテリ12を深く充電し、それにより、制御器18は、増大されたバッテリ充電を用いて、そのような停止・発進、低速度走行を行い、排出物を低減するようHEV10を動かすことができる。
【0033】
例えば、もし、安定した高速走行の走行環境・運転状態が検出されるならば(図3を参照)、制御器18は、最大のシステム効率/燃料経済性を実現すべく、バッテリ12を中程度の充電状態で動作させる。
【0034】
例えば、もし、加速減速が多い高速走行の走行環境・運転状態が検出されるならば、制御器18は、エンジン14を定常運転状態で運転しながら、バッテリ12を介してドライバー要求の変化を満たし得る。このエンジンの定常運転は、全体としての燃料経済性の改善をもたらす。
【0035】
例えば、もし、安定した低速走行の走行環境・運転状態が検出されるならば、制御器18はエンジン14を完全な電動モードで運転し得る。バッテリ12の充電状態が所定の目標値を下回るとき、エンジン14は始動され、バッテリ12を充電するために定常運転状態で運転されるであろう。そのような機構もまた、運転性を確保しながら、燃料経済性の改善をもたらし得る。
【0036】
例えば、もし加速減速の多い低速走行の走行環境・運転状態が検出されるならば、制御器18はエンジン14を完全な伝導モードで運転し、そして、この電気エネルギーをドライバーの停止・発進要求を満たすのに使用するであろう。バッテリ12の充電状態が所定の目標値を下回るとき、電気経路を通じて停止・発進のドライバー要求を満たす一方、エンジン14を始動して、バッテリ12を充電するために定常運転状態で運転させるであろう。そのような機構もまた、運転性を確保しながら、燃料経済性の改善をもたらし得る。
【0037】
図9が、本発明による車両の動力システムの制御ストラテジーの一例のフローチャートである。最初に、アクセルペダル及び/又はブレーキペダルからの検出値を入力する(ステップ100)。次に、入力に基づいてドライバーの運転スタイル及び/又は走行環境を判定する(ステップ102)。そして、運転スタイル及び/又は走行環境に基づいて動力システムを制御する(ステップ104)。
【0038】
以上のように本発明の実施形態を示し、説明してきたが、これらの実施形態が本発明の実施可能な形態の全てを示し表すことを意図するものではない。むしろ、この明細書で使用される用語は、限定というよりも、説明のための用語であって、本発明の技術思想及び範囲から逸脱することなく、種々の変更が行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に使用されるファジー制御器例のブロック図である。
【図2】本発明を適用可能なハイブリッド電気自動車のブロック図である。
【図3】図1のファジー制御器によって実行されるファジールールのテーブル例である。
【図4】車速の時間変化の例を示すグラフである。
【図5】図1のファジー制御器によって実行される制御ブロック図の概略図である。
【図6】図1のファジー制御器によって実行される制御ブロック図の概略図である。
【図7】図1のファジー制御器によって実行される制御ブロック図の概略図である。
【図8】図1のファジー制御器によって実行される制御ブロック図の概略図である。
【図9】本発明に従った、車両の動力システムの制御ストラテジーのフローチャート例である。
【符号の説明】
【0040】
8 ファジー制御器
10 HEV(ハイブリッド電気自動車)
12 バッテリ
13 モータ
14 エンジン
18 制御器
20 アクセルペダル
22 ブレーキペダル
28 速度センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力システムの制御方法において、
上記車両のドライバーの運転スタイルを表す上記車両の加速及び減速履歴を判定する工程と、
上記加速及び減速履歴に基づいて、上記動力システムを制御する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
上記車両の加速及び減速履歴を判定する工程が、上記ドライバーによる動力要求を判定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記車両がブレーキペダルを含み、
上記車両の加速及び減速履歴を判定する工程が、所定期間の間に上記ブレーキペダルが踏まれた回数を判定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記車両がアクセルペダルを含み、
上記車両の加速及び減速履歴を判定する工程が、所定期間の間に上記アクセルペダルが踏まれた回数を判定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
上記車両の速度を判定する工程と、
上記車両の速度が所定の閾値を上回っている時間を判定する工程とを更に有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
上記動力システムが、上記車両の速度が所定の閾値を上回っている時間に基づいて制御される、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記車両の速度を判定する工程と、
上記車両の速度が所定の閾値を下回っている時間を判定する工程とを更に有する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
上記動力システムが、上記車両の速度が所定の閾値を上回っている時間に基づいて制御される、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記ドライバーによる動力要求を判定する工程が、正の動力要求履歴と負の動力要求履歴とを判定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
上記ドライバーによる動力要求を判定する工程が、正の動力要求履歴と負の動力要求履歴との差を判定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記ドライバーによる動力要求を判定する工程が、正の動力要求履歴と負の動力要求履歴との差が、所定の閾値を上回っているか、あるいは、下回っているかを判定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−83840(P2009−83840A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222267(P2008−222267)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】